説明

trkBアンタゴニストを投与することにより肥満を治療する方法

本発明は、trkBアンタゴニストを末梢投与することにより肥満を治療する方法に関する。本発明は、trkBアンタゴニストを含む組成物およびキットにもまた関する。
【図1】


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肥満の治療および/または予防におけるtrkBアンタゴニストの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
肥満は、慢性疾患であり、現代社会における主要な健康上の問題である。米国では成人の約30%が肥満であり、成人の約65%が過体重である。肥満は、社会的不名誉に関連するだけでなく、寿命の短縮にも、高血圧、2型糖尿病、血漿インスリン濃度上昇、インスリン抵抗性、異脂肪血症、高脂血症、子宮内膜癌、乳癌、前立腺癌、および結腸癌、変形性関節症、閉塞性睡眠時無呼吸症などの呼吸器合併症、胆石症、胆石、動脈硬化症、心疾患、心調律異常、および心不整脈を含めた非常に多くの健康上の問題にも関連する。Kopelman,P.G.、Nature 404、635〜643(2000)。
【0003】
肥満のための現行の治療法には、標準的な食事療法および運動、超低カロリー食、行動療法、食欲抑制剤、発熱薬、食物吸収阻害剤を含む薬物療法、顎間固定(jaw wiring)、ウェストコード(waist cord)およびバルーンなどの機械装置、ならびに外科手術が含まれる。JungおよびChong、Clinical Endocrinology、35:11〜20(1991);Bray、Am.J.Clin.Nutr.、55:538S〜544S(1992)。タンパク質保持性修正絶食法(protein−sparing modified fasting)は、青年における体重低減に有効であると報告されている。Leeら、Clin.Pediatr.、31:234〜236(1992年4月)。しかし、現行の治療法は、多くの肥満患者にあまり有効ではない。最も重症の肥満患者については、外科的介入が必要なことがある。上に論じるように我々の社会における肥満の高い有病率およびそれに関連する深刻な結果を考えると、肥満のヒトの体重を低減するのに潜在的に有用な任意の治療薬は、それらのヒトの健康に顕著な有益効果を有しうる。肥満対象の全身体重を顕著な有害副作用なしにその対象の理想的な体重に低減し、その肥満対象が低減した体重レベルを維持するのを助ける薬物に対する必要性がある。
【0004】
ニューロトロフィンは、小型ホモ二量体タンパク質のファミリーであり、このタンパク質は、神経系の発生および維持に重要な役割を果たす。ニューロトロフィンファミリーのメンバーには、神経成長因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン3(NT−3)、ニューロトロフィン4/5(NT−4/5)、ニューロトロフィン6(NT−6)、およびニューロトロフィン7(NT−7)が含まれる。ニューロトロフィンは、他のポリペプチド性成長因子に類似して、細胞表面受容体と相互作用することによりその標的細胞に影響する。現在分かっていることによると、2種類の膜貫通糖タンパク質が、ニューロトロフィンに対する受容体として作用する。ニューロトロフィン応答性神経細胞は、2×10−9MのKでNGF、BDNF、NT−3、およびNT−4/5と結合する、p75NTRまたはp75としても公知である共通の低分子量(65〜80kDa)低親和性受容体(LNGFR)と、trkファミリーの受容体型チロシンキナーゼのメンバーである、高分子量(130〜150kDa)高親和性(10−11M範囲のK)受容体とをもつ。Trk受容体ファミリーの同定されたメンバーは、trkA、trkB、およびtrkCである。
【0005】
BDNFおよびNT−4/5は、両方共に類似の親和性でtrkBおよびp75NTR受容体に結合する。しかし、NT−4/5突然変異マウスおよびBDNF突然変異マウスは、極めて対照的な表現型を示す。NT−4/5−/−マウスは生存可能で、繁殖性であり、軽度の感覚欠損を有するだけであるが、BDNF−/−マウスは、重症の神経細胞欠損および行動症状を有して、出生初期に死亡する。Fanら、Nat.Neurosci.3(4):350〜7、2000;Liuら、Nature 375:238〜241、1995;Conoverら、Nature 375:235〜238、1995;Ernforsら、Nature 368:147〜150、1994;Jonesら、Cell 76:989〜999、1994。いくつかの刊行物は、NT−4/5およびBDNFが、in vivoで別個の生物学的活性を有すると報告し、この別個の活性が、NT−4/5およびBDNFによるtrkB受容体およびその下流のシグナル伝達経路の差次的活性化に部分的に起因するおそれがあると示唆している。Fanら、Nat.Neurosci.3(4):350〜7、2000;Minichielloら、Neuron.21:335〜45、1998;Wirthら、Development.130(23):5827〜38、2003;Lopezら、発表番号38.6、2003年要旨集、Society for Neuroscience。
【0006】
BDNFおよびNT−4/5は、C57db/dbマウスなどのII型糖尿病モデル動物において血中グルコースおよび血中脂質の制御活性ならびに抗肥満活性を有することが示された。米国特許第6,391,312号;Itakuraら、Metabolism 49:129〜33(2000);米国特許出願公開第2005/0209148号;PCT WO2005/082401。BDNFは、高脂肪食を給餌されたマウスにおいて抗肥満活性およびレプチン抵抗性の回復活性を有することもまた示された。米国特許出願公開第2003/0036512号。Kernieらは、BDNF遺伝子の発現が低減したヘテロ接合性BDNFノックアウトマウスにおいて、BDNFまたはNT−4/5が摂食行動および肥満を一時的に後退させることができたと報告した。Kernieら、EMBO J.19(6):1290〜300、2000。ヒトtrkBに対するY722C置換というde novoミスセンス突然変異が、受容体のリン酸化およびMAPキナーゼへのシグナル伝達の障害を招くこと、ならびにこの突然変異が過食性肥満という独特なヒト症状を招くと思われることが報告された。Yeoら、Nat.Neurosci.7:1187〜1189(2004)。
【0007】
肥満を有する人々および神経性食欲不振を有する患者におけるBDNFの循環レベルが研究された。Monteleoneら、Psychosomatic Medicine 66:744〜748、2004;Nakazatoら、Biol.Psychiatry 54:485〜490、2003。マウスにおけるBDNF産生障害は摂食増加、エネルギー消費の低減、および体重増加と関連したという研究成果に基づく推測とは反対に、循環BDNFは、神経性食欲不振の患者では有意に低減し、非肥満健常対照に比べて肥満対象で有意に増加する。神経性食欲不振では、BDNF低減は、摂食を促進することにより、負のバランスを導く患者の行動変更を相殺しようとし、肥満では、BDNFのレベル増加は、エネルギー消費を刺激し、食物摂取を減少させることにより、正のエネルギー不均衡状態に対抗する適応メカニズムとなりうると仮定されている。Monteleoneら、Psychosomatic Medicine 66:744〜748、2004。
【0008】
本明細書に引用するすべての特許、特許出願、および刊行物は、その全体が参照により本明細書に組み込まれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、trkBアンタゴニストの末梢投与により体重および/または摂食を減少させる方法を提供する。これらの方法は、肥満または過食(食べ過ぎ)障害(例えば大食症およびプラーダーヴィリ症候群)を治療または予防するために用いることができる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一態様では、本発明は、個体における体重を制御する(減少させることを含める)方法を提供し、その方法は、その個体に有効量のtrkBアンタゴニストを末梢投与することを含む。
【0011】
別の態様では、本発明は、個体における摂食を制御する(減少させることを含める)方法を提供し、その方法は、その個体に有効量のtrkBアンタゴニストを末梢投与することを含む。
【0012】
いくつかの実施形態では、その個体は肥満である。いくつかの実施形態では、その個体は、肥満のリスクがあるか、または過体重である。いくつかの実施形態では、その個体は、プラーダーヴィリ症候群などの先天性疾患に関連する食べ過ぎおよび肥満を患っている。いくつかの実施形態では、その個体は、神経性大食症などの摂食障害に関連して、肥満不在の気晴らし食いを患っている。
【0013】
別の態様では、本発明は、個体における肥満を治療する(肥満を管理することを含める)方法を提供し、その方法は、その個体に有効量のtrkBアンタゴニストを末梢投与することを含む。肥満の治療には、個体を治療することが含まれ、その個体の体重は、治療後に低減し、もはや肥満ではない。
【0014】
別の態様では、本発明は、個体における肥満の発生および進行を遅延させる方法を提供し、その方法は、その個体に有効量のtrkBアンタゴニストを末梢投与することを含む。いくつかの実施形態では、肥満の発症が遅延する。他の実施形態では、肥満の進行(例えば肥満関連合併症の発生、BMIの増加)が遅延する。いくつかの実施形態では、個体における肥満の発生が予防される。いくつかの実施形態では、個体における肥満に関連する合併症の発生が予防される。いくつかの実施形態では、個体は肥満のリスクがあるか、または過体重である。
【0015】
いくつかの実施形態では、その個体はヒトである。
【0016】
本発明は、肥満または過体重状態を、そのような治療を必要とする哺乳動物において治療する方法を提供し、その方法は、その哺乳動物に治療有効量のtrkBアンタゴニストまたはその薬学的に許容できる塩を末梢投与することを含む。好ましい実施形態では、そのtrkBアンタゴニストは、抗BDNF抗体、抗trkBアンタゴニスト抗体、またはtrkB−Fc融合タンパク質であり、その哺乳動物はヒトである。
【0017】
本発明は、体重増加を阻害、摂食を低減、またはカロリー摂取を低減する、そのような治療を必要とする哺乳動物における方法もまた提供し、その方法は、その哺乳動物に治療有効量のtrkBアンタゴニストまたはその薬学的に許容できる塩を末梢投与することを含む。好ましい実施形態では、そのtrkBアンタゴニストは抗BDNF抗体であり、そのtrkBアンタゴニストは抗trkBアンタゴニスト抗体であり、そのtrkBアンタゴニストはtrkB−Fc融合タンパク質であり、その哺乳動物はヒトである。
【0018】
本発明は、trkBアンタゴニストまたはその薬学的に許容できる塩が、抗肥満剤である第2の薬剤と組み合わせて投与される上記の方法もまた提供する。
【0019】
本発明は、哺乳動物における肥満もしくは過体重状態を治療するための、または哺乳動物における体重増加を阻害、摂食を低減、もしくはカロリー摂取を低減するための医薬の製造へのtrkBアンタゴニストの使用もまた提供する。好ましい実施形態では、そのtrkBアンタゴニストは、抗BDNF抗体、trkBアンタゴニスト抗体、またはtrkB−Fc融合タンパク質であり、その哺乳動物はヒトである。
【0020】
trkBアンタゴニストは末梢投与される。例えば、trkBアンタゴニストは、以下の手段、すなわち静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、腸管外、吸入経由、動脈内、心臓内、脳室内、および経皮的のうちの1つにより投与することができる。
【0021】
本明細書に記載する方法に使用することができるtrkBアンタゴニストの例には、非限定的に、抗BDNF抗体、抗NT−4/5抗体、抗trkB抗体、およびtrkBイムノアドヘシンが含まれる。
【0022】
別の態様では、本発明は、有効量のtrkBアンタゴニストと、薬学的に許容できる賦形剤とを含む医薬組成物を提供する。医薬組成物は、本明細書に記載する任意の疾患を治療または予防するために使用することができる。
【0023】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載する任意の方法に使用するためのtrkBアンタゴニストを含むキットを提供する。いくつかの実施形態では、キットは、容器と、薬学的に許容できる賦形剤と組み合わせた有効量のtrkBアンタゴニストを含む組成物と、本明細書に記載する任意の方法にその組成物を使用するための説明書とを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
I.一般的な技術
本発明の実施は、特に示さない限り、当技術分野の技術の範囲内に入る分子生物学(組換え技術を含める)、微生物学、細胞生物学、生化学、および免疫学の従来技術を使用する。そのような技術は、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版(Sambrookら、1989)Cold Spring Harbor Press;Oligonucleotide Synthesis(M.J.Gait編、1984);Methods in Molecular Biology、Humana Press;Cell Biology:A Laboratory Notebook(J.E.Cellis編、1998)Academic Press;Animal Cell Culture(R.I.Freshney編、1987);Introduction to Cell and Tissue Culture(J.P.MatherおよびP.E.Roberts、1998)Plenum Press;Cell and Tissue Culture:Laboratory Procedures(A.Doyle、J.B.Griffiths、およびD.G.Newell編、1993〜8)J.Wiley and Sons;Methods in Enzymology(Academic Press,Inc.);Handbook of Experimental Immunology(D.M.WeirおよびC.C.Blackwell編);Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells(J.M.MillerおよびM.P.Calos編、1987);Current Protocols in Molecular Biology(F.M.Ausubelら編、1987);PCR:The Polymerase Chain Reaction、(Mullisら編、1994);Current Protocols in Immunology(J.E.Coliganら編、1991);Short Protocols in Molecular Biology(Wiley and Sons、1999);Immunobiology(C.A.JanewayおよびP.Travers、1997);Antibodies(P.Finch、1997);Antibodies:a practical approach(D.Catty編、IRL Press、1988〜1989);Monoclonal antibodies:a practical approach(P.ShepherdおよびC.Dean編、Oxford University Press、2000);Using antibodies:a laboratory manual(E.HarlowおよびD.Lane(Cold Spring Harbor Laboratory Press、1999);The Antibodies(M.ZanettiおよびJ.D.Capra編、Harwood Academic Publishers、1995)などの文献に十分に説明されている。
【0025】
II.定義
本明細書に使用する「肥満」は、対象における体脂肪が過剰な状態である。肥満は、遺伝的にせよ環境的にせよ任意の原因によることがある。肥満の操作的定義は、メートル単位の身長の二乗あたりの体重(kg/m)として計算されるボディーマスインデックス(BMI)に基づく。一般に、「肥満」は、他の点では健康な対象が30.0kg/m以上のボディーマスインデックス(BMI)を有する状態、または少なくとも1つの共存罹患を有する対象が、27.0kg/m以上のBMIを有する状態を表す。「肥満の対象」は、30.0kg/m以上のボディーマスインデックス(BMI)を有する他の点では健康な対象、または27.0kg/m以上のBMIを有する少なくとも1つの共存罹患を有する対象である。肥満の対象は、少なくとも約31.0、約32.0、約33.0、約34.0、約35.0、約36.0、約37.0、約38.0、約39.0、および約40.0のいずれかのBMIを有することがある。「過体重の対象」は、25.0から29.9kg/mのBMIを有する対象である。
【0026】
異なる国では、異なるBMIで肥満および過体重を定義することがある。用語「肥満」は、すべての国での定義を包含することを意図する。例えば、肥満に関連するリスク増加は、アジアでは比較的低いボディーマスインデックス(BMI)で起こる。日本を含めたアジアの国々では、「肥満」は、体重低減を必要とするか、体重低減により改善するであろう少なくとも1つの肥満誘導性または肥満関連性共存罹患を有する対象が、25.0kg/m以上のBMIを有する状態を表す。日本を含めたアジアの国々では、「肥満の対象」は、体重低減を必要とするか、体重低減により改善するであろう少なくとも1つの肥満誘導性または肥満関連性共存罹患を有する対象であって、25.0kg/m以上のBMIを有する対象を表す。
【0027】
肥満誘導性または肥満関連性共存罹患には、非限定的に、糖尿病、インスリン非依存性糖尿病II型、耐糖能障害、空腹時血糖障害、インスリン抵抗性症候群、異脂肪血症、高血圧、高尿酸血症、痛風、冠状動脈疾患、心筋梗塞、狭心症、睡眠時無呼吸症候群、ピックウィック症候群、脂肪肝、脳梗塞、脳血栓、一過性脳虚血発作、整形外科的障害、変形性関節症、腰痛(lumbodynia)、月経異常、および不妊症が含まれる。特に、共存罹患には、高血圧、高脂血症、異脂肪血症、血糖能異常、心血管疾患、睡眠時無呼吸症、糖尿病、および他の肥満関連状態が含まれる。
【0028】
肥満の「リスクがある」個体は、検出可能な疾患を有することがあるし、有さないこともあり、本明細書に記載する治療法の前に検出可能な疾患を表出していることもあるし、表出していないこともある。「リスクがある」は、個体が1つまたは複数のいわゆるリスク因子を有することを意味し、そのリスク因子は、肥満の発生と相関する測定可能なパラメータである。1つまたは複数のこれらのリスク因子を有する個体は、これらのリスク因子を有さない個体よりも肥満である高い確率を有する。これらのリスク因子には、非限定的に、年齢、食事、身体活動不足、代謝症候群、肥満の家族歴、民族性、遺伝性症候群、前病歴(例えば摂食障害、代謝症候群、および肥満)、前駆疾患(例えば過体重)の存在が含まれる。例えば、BMIが25.0から30.0kg/m未満の、他の点では健康な個体、またはBMIが25.0kg/mから27.0kg/m未満の、少なくとも1つの共存罹患を有する個体に肥満のリスクがある。
【0029】
本明細書に使用する「治療」は、有益な、または所望の臨床的結果を得るためのアプローチである。本発明の目的のために、有益な、または所望の臨床的結果には、非限定的に、以下、すなわち疾患に関連する1つまたは複数の症状の改善、重症度の軽減、緩和のうちの1つまたは複数が含まれる。肥満について、有益な、または所望の臨床的結果には、以下、すなわち体重の低減もしくは維持、摂食もしくはカロリー摂取の制御(低減を含める)、代謝率の増加もしくは代謝率の低減阻害、ならびに肥満に関連する任意の障害(糖尿病、インスリン非依存性糖尿病、高血糖、低グルコース耐性、インスリン抵抗性、脂質障害、異脂肪血症、高脂血症、高トリグリセリド血症、高コレステロール血症、腹部肥満、摂食障害、代謝症候群、高血圧、変形性関節症、心筋梗塞、脳卒中、および他の関連疾患など)の改善、重症度の軽減、および/もしくは緩和、肥満を患う者の生活の質の増加、ならびに/または寿命の延長のうち任意の1つまたは複数が含まれる。
【0030】
本明細書に使用する、肥満の発生を「遅延させること」は、この疾患の進行を、延期、妨害、減速、遅滞、安定化、および/または繰り延べすることを意味する。この遅延は、その疾患の履歴および/または治療されている個体に応じて様々な時間でありうる。当業者に明らかなように、十分または有意な遅延は、その個体が疾患を発生しない点で事実上予防を包含することがある。例えば、発生を遅延させる1つの成り行きは、肥満のリスクがある対象の体重を、本明細書に記載する組成物の投与直前での対象の体重に比べて低減することでありうる。発生を遅延させる別の成り行きは、ダイエット、運動、または薬物療法の結果として以前に失われた体重の再増加を予防することでありうる。発生を遅延させる別の成り行きは、肥満のリスクがある対象に肥満が発症する前に治療が行われた場合に、肥満が発生するのを予防することでありうる。発生を遅延させる別の成り行きは、肥満のリスクがある対象に肥満が発症する前に治療が行われた場合に、肥満関連障害の出現および/または重症度を減少させることでありうる。
【0031】
肥満の「発生」は、個体の疾患の発症および/または進行を意味する(これは、本発明の異なる実施形態でありうる)。肥満の発生は、本明細書に記載する標準的な臨床技術を使用して検出可能でありうる。しかし、発生は、最初は検出不能でありうる疾患の進行もまた表す。本発明のために、進行は、病状(この場合は、BMIを推定するための身長および体重の評定、腰囲の測定、共存罹患の評定、ならびに動脈硬化症、II型糖尿病、多嚢胞性卵巣疾患、心血管疾患、変形性関節症、皮膚障害、高血圧、インスリン抵抗性、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、および胆石症などの肥満合併症の発症および/または悪化の評定により決定される)の生物学的経過を表す。様々なこれらの診断検査は、当技術分野で公知である。「発生」には、出現、再発、および発症が含まれる。本明細書に使用する、肥満の「発症」または「出現」には、最初の発症および/または再発が含まれる。
【0032】
本明細書に使用する、薬物、化合物、または医薬組成物の「有効投与量」または「有効量」は、有益な、または所望の結果をもたらすために十分な量である。予防的使用に関して、有益な、または所望の結果には、疾患の生化学的、組織学的、および/または行動的症状、その合併症、ならびに疾患の発生時に現れる中間の病理学的表現型を含めた疾患のリスクを排除もしくは低減すること、重症度を軽減すること、または始まりを遅延させることなどの結果が含まれる。治療的使用に関して、有益な、または所望の結果には、疾患の攻撃の強度、期間、もしくは回数を低減すること、ならびに疾患の合併症および疾患の発生時に現れる中間の病理学的表現型を含めた(生化学的、組織学的、および/または行動的)疾患に起因する1つもしくは複数の症状を減少させること、その疾患を患っている者の生活の質を上げること、その疾患を治療するために必要な他の薬物療法の用量を減少させること、別の薬物療法の効果を高めること、および/または患者の疾患の進行を遅延させることなどの臨床結果が含まれる。有効投与量は、1回または複数回の投与で施すことができる。本発明の目的のために、薬物、化合物、または医薬組成物の有効投与量は、直接的または間接的のいずれかで予防または治療的処置を達成するために十分な量である。臨床的状況で理解されているように、有効投与量の薬物、化合物、または医薬組成物は、別の薬物、化合物、または医薬組成物と共に達成されることもあるし、達成されないこともある。したがって、「有効投与量」は、1つまたは複数の治療剤を投与する状況で考慮することができ、1種または複数の他の薬剤と共に、所望の結果が達成できるか、または達成されるならば、単一の薬剤を、有効量で与えることを考慮することができる。例えば、肥満を治療するためのtrkBアンタゴニストの有効量は、肥満に関連する1つまたは複数の症状を治療または回復させるために十分な量である。「有効量」は、以下、すなわち体重の低減もしくは制御、摂食の制御、代謝率の増加、肥満に関連する疾患に起因する1つもしくは複数の症状の減少、肥満を患う者の生活の質の増加、および/または寿命を延長することのうち1つまたは複数を招くために十分な量である(これは、本発明の様々な実施形態にもまた対応することがある)。
【0033】
本明細書に使用する「体重の制御」または「体重の改善」は、個体における体重を(治療前のレベルに比べて)低減または維持することを表す。いくつかの実施形態では、体重は概して正常範囲に維持される。体重は、カロリー摂取を低減することおよび/または体脂肪の蓄積を低減することにより、低減することができる。いくつかの実施形態では、体重は、治療前のレベルに比べて、個体において少なくとも約5%、約10%、約20%、約30%、約40%、または約50%のいずれかだけ低減する。
【0034】
本明細書に使用する「摂食の制御」は、(治療前のレベルに比べて)個体における摂食を低減または維持することを表す。いくつかの実施形態では、摂食は、概して正常範囲に維持される。いくつかの実施形態では、摂食は、治療前のレベルに比べて、個体において約5%、約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、または約60%のいずれかだけ低減する。
【0035】
「個体」または「対象」は、哺乳動物、さらに好ましくはヒトである。哺乳動物には、非限定的に、農用動物、スポーツ用の動物、ペット、霊長類(ヒトを含める)、ウマ、イヌ、ネコ、マウス、およびラットもまた含まれる。
【0036】
「trkBアンタゴニスト」は、trkBシグナル伝達により仲介される下流の経路(BDNFもしくはNT−4/5へのtrkBの結合および/またはBDNFもしくはNT−4/5への細胞応答の誘発など)を含めた、trkBの生物学的活性を(有意にを含めて)ブロック、抑制、または低減することができる薬剤を表す。用語「アンタゴニスト」は、いかなる生物学的作用の特異的メカニズムも意味せず、直接的であろうと間接的であろうと、BDNF、NT−4/5、trkBまたは別のメカニズムを介して相互作用しようと、trkBとのすべての可能な薬理学的、生理学的、および生化学的相互作用、ならびに多様な異なる、化学的に多岐にわたる組成物によって達成することができるその結果を特に含み、かつ包含するとみなされる。trkBアンタゴニストの例には、非限定的に、抗BDNF抗体、抗NT−4/5抗体、BDNF阻害化合物もしくはNT−4/5阻害化合物、BDNF構造アナログもしくはNT−4/5構造アナログ、BDNFおよび/もしくはNT−4/5と結合するtrkB受容体のドミナントネガティブ突然変異、trkBイムノアドヘシン、抗trkB抗体、ならびにtrkB阻害化合物が含まれる。本発明のために、用語「アンタゴニスト」が、以前に同定された用語、表題、ならびに機能的状態および特徴を包含することが明確に理解されているものであり、ここで、trkB受容体自体、trkBの生物学的活性(非限定的にtrkBが体重および摂食の任意の局面を仲介する能力を含める)、または生物学的活性の成り行きは、任意の意味ある程度で実質的に無効化、減少、または中和される。
【0037】
trkB受容体の「生物学的活性」は、概してBDNFおよびNT−4/5と結合し、かつ/またはtrkB受容体シグナル伝達経路を活性化する能力を表す。非限定的に、生物学的活性には、以下の1つまたは複数が含まれる。trkBのリガンドであるBDNFおよび/またはNT−4/5と結合する能力、リガンドの結合後に二量体化および/または自己リン酸化する能力、trkBシグナル伝達経路を活性化する能力、細胞生理学における細胞の分化、増殖、生存、生育、および((末梢神経細胞および中枢神経細胞を含めた神経細胞の場合には)神経細胞の形態、シナプス形成、シナプスの機能、神経伝達物質および/または神経ペプチドの放出、ならびに損傷後の再生における変化を含めた)他の変化を促進する能力、ならびに体重および/または摂食を仲介する能力。
【0038】
「抗BDNF抗体」(「抗BDNFアンタゴニスト抗体」と相互交換可能に称される)は、BDNFに結合することができる抗体であって、BDNFによるtrkBの活性化および/またはtrkBシグナル伝達機能により仲介される下流の経路を阻害する抗体を表す。
【0039】
「抗NT−4/5抗体」(「抗NT−4/5アンタゴニスト抗体」と相互交換可能に称される)は、NT−4/5に結合することができる抗体であって、NT−4/5によるtrkBの活性化および/またはtrkBシグナル伝達機能により仲介される下流の経路を阻害する抗体を表す。
【0040】
「抗trkB抗体」(「抗trkBアンタゴニスト抗体」と相互交換可能に称される)は、trkBに結合することができる抗体であって、BDNFおよび/もしくはNT−4/5によるtrkBの活性化ならびに/またはtrkBシグナル伝達機能により仲介される下流の経路を阻害する抗体を表す。
【0041】
「trkBイムノアドヘシン」は、trkB受容体の断片、例えばtrkB受容体の細胞外ドメインと、免疫グロブリン配列との可溶性キメラ分子であって、trkB受容体の結合特異性を保持しているキメラ分子を表す。
【0042】
本明細書に使用する「末梢投与」または「末梢に投与される」は、中枢神経系または血液脳関門の外側から対象に薬剤を導入することを表す。末梢投与は、脊椎または脳への直接投与以外の任意の投与経路を包含する。末梢投与は局所または全身性でありうる。
【0043】
「抗体」は、免疫グロブリン分子の可変領域に局在する少なくとも1つの抗原認識部位を介して、糖質、ポリヌクレオチド、脂質、ポリペプチドなどの標的に特異的に結合することができる免疫グロブリン分子である。本明細書に使用するとき、この用語は、無傷のポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を包含するだけでなく、その断片(Fab、Fab’、F(ab’)、Fvなど)、単鎖(ScFv)、その突然変異体、抗体の部分を含む融合タンパク質(ドメイン抗体など)、および抗原認識部位を含む、免疫グロブリン分子の他の任意の修正された立体配置もまた包含する。抗体には、IgG、IgA、またはIgM(またはそのサブクラス)などの任意のクラスの抗体が含まれ、その抗体は任意の特定のクラスである必要はない。抗体重鎖の定常ドメインの抗体アミノ酸配列に応じて、免疫グロブリンは異なるクラスに割り付けることができる。5つの主要なクラスの免疫グロブリン、すなわちIgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMがあり、これらのいくつかはサブクラス(アイソタイプ)、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2にさらに分けることができる。これらの異なるクラスの免疫グロブリンに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれα、δ、ε、γ、およびμと呼ばれる。異なるクラスの免疫グロブリンのサブユニットの構造および三次元立体配置は、十分に公知である。
【0044】
本明細書に使用する「モノクローナル抗体」は、実質的に相同な抗体集団から得られた抗体を表し、すなわち、その集団を構成する個別の抗体は、少量存在しうる、可能な、天然に存在する突然変異を除いて同一である。モノクローナル抗体は、単一の抗原部位に対しており、高度に特異的である。さらに、異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体が典型的には含まれるポリクローナル抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対する。修飾語「ポリクローナル」は、実質的に均一な抗体集団から得られるという抗体の特徴を示し、任意の特定の方法により抗体を産生することを必要とするとみなしてはならない。例えば、本発明により使用されるモノクローナル抗体は、KohlerおよびMilstein、1975、Nature、256:495により最初に記載されたハイブリドーマ法により作ることができるし、米国特許第4,816,567号に記載されたような組換えDNA法により作ることもできる。モノクローナル抗体は、例えば、McCaffertyら、1990、Nature、348:552〜554に記載された技術を使用して作製されたファージライブラリーから単離することもまたできる。
【0045】
本明細書に使用する「ヒト化」抗体は、特異的キメラ免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖、または非ヒト免疫グロブリンから誘導された最小の配列を含有するその断片(Fv、Fab、Fab’、F(ab’)、または抗体の他の抗原結合サブ配列など)である非ヒト(例えばマウス)抗体の形態を表す。通例、ヒト化抗体は、レシピエントの相補性決定領域(CDR)由来の残基が、所望の特異性、親和性、および生物学的活性を有する、マウス、ラット、またはウサギなどの非ヒト種(ドナー抗体)のCDR由来の残基に置き換えられたヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。場合によっては、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)の残基は、対応する非ヒト残基に置き換えられる。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にも、移入されたCDRもしくはフレームワーク配列にもみられないが、抗体の性能をさらに洗練および最適化するために含められた残基を含むことがある。一般に、ヒト化抗体は、CDR領域のすべてまたは実質的にすべてが非ヒト免疫グロブリンのCDR領域に対応し、FR領域のすべてまたは実質的にすべてがヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のFR領域である、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインのうちの実質的にすべてを含むものである。ヒト化抗体は、最適には免疫グロブリンの定常領域または定常ドメイン(Fc)の、典型的にはヒト免疫グロブリンの定常領域または定常ドメイン(Fc)の少なくとも部分もまた含むものである。抗体は、WO99/58572に記載されているように修飾されたFc領域を有することがある。他の形態のヒト化抗体は、本来の抗体に関して変更されている1つまたは複数(1、2、3、4、5、および6つ)のCDRを有し、そのCDRは、本来の抗体由来の1つまたは複数のCDR「から誘導された」1つまたは複数のCDRとも称される。
【0046】
本明細書に使用する、「ヒト抗体」は、ヒトにより産生された抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を有し、かつ/または当技術分野で公知であるか、もしくは本明細書に開示するヒト抗体を作るための任意の技術を使用して作られた抗体を意味する。このヒト抗体の定義には、少なくとも1つのヒト重鎖ポリペプチドまたは少なくとも1つのヒト軽鎖ポリペプチドを含む抗体が含まれる。そのような一例は、マウス軽鎖ポリペプチドおよびヒト重鎖ポリペプチドを含む抗体である。ヒト抗体は、当技術分野で公知の様々な技術を使用して産生することができる。一実施形態では、ヒト抗体は、ファージライブラリーがヒト抗体を発現する場合には、そのファージライブラリーから選択される(Vaughanら、1996、Nature Biotechnology、14:309〜314;Sheetsら、1998、PNAS、(USA)95:6157〜6162;HoogenboomおよびWinter、1991、J.Mol.Biol.、227:381;Marksら、1991、J.Mol.Biol.、222:581)。ヒト抗体は、トランスジェニック動物に、例えば内因性免疫グロブリン遺伝子が部分的または完全に不活性化されたマウスに、ヒト免疫グロブリン遺伝子座を導入することによってもまた作ることができる。このアプローチは、米国特許第5,545,807号、第5,545,806号、第5,569,825号、第5,625,126号、第5,633,425号、および第5,661,016号に記載されている。あるいは、ヒト抗体は、標的抗原に対する抗体を産生する不死化ヒトBリンパ球により調製することができる(そのようなBリンパ球は、個体から回収することもできるし、in vitroで免疫処置されていることもある)。例えば、Coleら、Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy、Alan R.Liss、77頁(1985);Boernerら、1991、J.Immunol.、147(1):86〜95;および米国特許第5,750,373号を参照されたい。
【0047】
抗体の「可変領域」は、抗体軽鎖の可変領域または抗体重鎖の可変領域を、単独または組合せのいずれかで表す。重鎖および軽鎖の可変領域は、超可変領域としても公知の3つの相補性決定領域(CDR)により接続された4つのフレームワーク領域(FR)からそれぞれなる。各鎖のCDRは、FRによって近接して繋がり合って、もう一方の鎖由来のCDRと共に抗体の抗原結合部位の形成に寄与する。CDRを決定するために、(1)種相互の配列変動性に基づくアプローチ(すなわち、Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、(第5版、1991、National Institutes of Health、メリーランド州ベセスダ))、および(2)抗原抗体複合体の結晶学的研究に基づくアプローチ(Al−lazikaniら(1997)J.Molec.Biol.273:927〜948))の少なくとも2つの技術がある。本明細書に使用するCDRは、一方のアプローチまたは両方のアプローチの組合せのいずれかによって規定されるCDRを表すことがある。
【0048】
抗体の「定常領域」は、抗体軽鎖の定常領域または抗体重鎖の定常領域を、単独または組合せのいずれかで表す。
【0049】
抗体またはポリペプチドに「優先的に結合する」か、または「特異的に結合する」(本明細書において相互交換可能に使用される)エピトープは、当技術分野で十分に理解された用語であり、そのような特異的または優先的結合を決定する方法もまた、当技術分野で十分に公知である。分子が代替の細胞または物質と反応または関連するよりも、高頻度に、迅速に、長い継続時間で、かつ/または大きな親和性で、その分子が特定の細胞または物質と反応または関連するならば、その分子は、「特異的結合」または「優先的結合」を示すと言われる。抗体が他の物質に結合するよりも、大きな親和性、アビディティーで、より容易に、かつ/またはより長い継続時間で、その抗体が結合するならば、その抗体は、標的に「特異的結合」または「優先的結合」する。例えば、trkBエピトープに特異的または優先的に結合する抗体は、それが他のtrkBエピトープまたは非trkBエピトープに結合するよりも、大きな親和性、アビディティーで、より容易に、かつ/またはより長い継続時間で、このエピトープと結合する抗体である。この定義を読むことによって、例えば、第1の標的に特異的または優先的に結合する抗体(または部分もしくはエピトープ)は、第2の標的に特異的または優先的に結合することもあるし、結合しないこともあることもまた理解されている。それとして、「特異的結合」または「優先的結合」は、必ずしも排他的結合を必要としない(がそれを含むこともある)。必然的ではなく概して、結合の言及は、優先的結合を意味する。
【0050】
用語「Fc領域」は、免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために使用される。「Fc領域」は、天然由来配列のFc領域または変異Fc領域のことがある。免疫グロブリン重鎖のFc領域の境界は変動するおそれがあるが、ヒトIgG重鎖Fc領域は、通常は位置Cys226のアミノ酸残基またはPro230からそのカルボキシル末端まで伸びると定義される。Fc領域の残基の付番は、KabatにおけるようなEUインデックスの付番である。Kabatら、Sequences of Proteins of Imunological Interest、第5版、Public Health Service、National Institutes of Health、メリーランド州ベセスダ、1991。免疫グロブリンのFc領域は、一般に2つの定常ドメインであるCH2およびCH3を含む。
【0051】
本明細書に使用する「Fc受容体」および「FcR」は、抗体のFc領域に結合する受容体を記述するものである。好ましいFcRは、天然由来配列のヒトFcRである。さらに、好ましいFcRは、IgG抗体と結合するFcR(γ受容体)であり、それには、FcγRI、FcγRII、FcγRIII、およびFcγRIVサブクラスの受容体が、これらの受容体の対立遺伝子変異体および選択的スプライシングされた形態を含めて含まれる。FcγRII受容体には、FcγRIIA(「活性化受容体」)およびFcγRIIB(「抑制受容体」)が含まれ、これらの受容体は、その細胞質ドメインが主に異なる類似のアミノ酸配列を有する。FcRは、RavetchおよびKinet、1991、Ann.Rev.Immunol.、9:457〜92;Capelら、1994、Immunomethods、4:25〜34;de Haasら、1995、J.Lab.Clin.Med.、126:330〜41;Nimmerjahnら、2005、Immunity 23:2〜4に総説されている。「FcR」には、胎児への母体IgGの輸送を担う新生児型受容体であるFcRnもまた含まれる。(Guyerら、1976、J.Immunol.、117:587;およびKimら、1994、J.Immunol.、24:249)。
【0052】
「補体依存性細胞傷害作用」および「CDC」は、補体の存在下で標的を溶解することを表す。補体活性化経路は、コグネイト抗原と複合体を形成した分子(例えば抗体)に補体系第1成分(C1q)が結合することによって開始する。補体活性化を評定するために、例えばGazzano−Santoroら、J.Immunol.Methods、202:163(1996)に記載されているCDCアッセイを行うことができる。
【0053】
「機能的Fc領域」は、天然由来配列のFc領域の少なくとも1つのエフェクター機能をもつ。「エフェクター機能」の例には、C1qの結合、補体依存性細胞傷害作用(CDC)、Fc受容体の結合、抗体依存性細胞性細胞傷害作用(ADCC)、食作用、細胞表面受容体(例えばB細胞受容体(BCR))のダウンレギュレーションなどが含まれる。そのようなエフェクター機能は、一般にFc領域が結合ドメイン(例えば抗体可変ドメイン)と結合していることが必要であり、そのような抗体エフェクター機能を評価するために当技術分野で公知の様々なアッセイを使用して評定することができる。
【0054】
「天然由来配列のFc領域」は、自然界でみられるFc領域のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を含む。「変異Fc領域」は、少なくとも1つのアミノ酸修飾により天然由来配列のFc領域のアミノ酸配列と異なるアミノ酸配列を含むが、天然由来配列のFc領域の少なくとも1つのエフェクター機能をなお保持する。好ましくは、変異Fc領域は、天然由来配列のFc領域または親ポリペプチドのFc領域に比べて、天然由来配列のFc領域または親ポリペプチドのFc領域に少なくとも1つのアミノ酸置換、例えば約1個から約10個のアミノ酸置換、および好ましくは約1個から約5個のアミノ酸置換を有する。本明細書における変異Fc領域は、天然由来配列のFc領域および/または親ポリペプチドのFc領域と好ましくは少なくとも約80%の配列同一性、最も好ましくはそれと少なくとも約90%の配列同一性、より好ましくはそれと少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%の配列同一性をもつ。
【0055】
本明細書に使用する「抗体依存性細胞性細胞傷害作用」および「ADCC」は、Fc受容体(FcR)を発現している非特異的細胞傷害性細胞(例えばナチュラルキラー(NK)細胞、好中球、およびマクロファージ)が標的細胞上に結合した抗体を認識し、続いて標的細胞の溶解を引き起こす細胞介在性反応を表す。関心対象の分子のADCC活性は、米国特許第5,500,362号または第5,821,337号に記載されているアッセイのようなin vitro ADCCアッセイを用いて評定することができる。そのようなアッセイに有用なエフェクター細胞には、末梢血単核細胞(PBMC)およびNK細胞が含まれる。あるいはまたは追加的に、関心対象の分子のADCC活性は、例えばClynesら、1998、PNAS(USA)、95:652〜656に開示されているモデルのような動物モデルでin vivo評定することができる。
【0056】
本明細書に使用する「薬学的に許容できる担体」または「薬学的に許容できる賦形剤」には、活性成分と組み合わせた場合に、その成分に生物学的活性を保持させ、対象の免疫系と反応しない任意の物質が含まれる。例には、非限定的に、リン酸緩衝溶液、水、油/水型乳剤などの乳剤、および様々な種類の湿潤剤などの任意の標準的な医薬担体が含まれる。エアロゾルまたは腸管外投与用の好ましい希釈剤は、リン酸緩衝溶液または普通の(0.9%)生理食塩水である。そのような担体を含む組成物は、十分に公知の従来法により製剤される(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences、第18版、A.Gennaro編、Mack Publishing Co.、ペンシルベニア州イーストン、1990;およびRemington、The Science and Practice of Pharmacy、第20版、Mack Publishing、2000参照)。
【0057】
用語「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」は、本明細書において相互交換可能に使用され、任意の長さのアミノ酸ポリマーを表す。このポリマーは、直鎖または分岐であってよく、修飾アミノ酸を含んでよく、非アミノ酸により分断されてもよい。この用語は、天然に修飾された、または介入により、例えばジスルフィド結合の形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化、または標識構成要素とのコンジュゲーションなどの任意の他の操作もしくは修飾により修飾されたアミノ酸ポリマーもまた包含する。同様にこの定義に含まれるのは、例えば、アミノ酸の1つまたは複数のアナログ(例えば非天然アミノ酸などを含める)を含有するポリペプチド、および当技術分野で公知の他の修飾である。本発明のポリペプチドが抗体に基づくことから、そのポリペプチドは、一本鎖または関連した鎖として存在することがあることが理解されている。
【0058】
本明細書において相互交換可能に使用される「ポリヌクレオチド」または「核酸」は、任意の長さのヌクレオチドのポリマーを表し、これには、DNAおよびRNAが含まれる。ヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、修飾ヌクレオチドもしくは塩基、および/またはそれらのアナログ、あるいはDNAポリメラーゼまたはRNAポリメラーゼによりポリマーに組み込むことができる任意の基質でありうる。ポリヌクレオチドは、メチル化ヌクレオチドおよびそのアナログなどの修飾ヌクレオチドを含んでいてもよい。存在するならば、ヌクレオチド構造への修飾は、ポリマーの集合前または集合後に加えられてよい。ヌクレオチドの配列は、非ヌクレオチド構成要素により分断されていてもよい。ポリヌクレオチドは、標識化構成要素とのコンジュゲーションによるなどのポリマー化後にさらに修飾することができる。他の種類の修飾には、例えば、「キャップ」、1つまたは複数の天然に存在するヌクレオチドのアナログへの置換、ヌクレオチド間修飾、例えば非荷電連結を有するもの(例えばメチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホアミデート、カルバメートなど)および荷電連結を有するものなど(例えばホスホロチオエート、ホスホロジチオエートなど)、ペンダント部分を含有するもの、例えばタンパク質(例えばヌクレアーゼ、毒素、抗体、シグナルペプチド、ポリ−L−リシンなど)など、介入物を有するもの(例えばアクリジン、ソラーレンなど)、キレート剤を含有するもの(例えば金属、放射性金属、ホウ素、酸化的金属など)、アルキル化剤を含有するもの、修飾された連結を有するものなど(例えばα−アノマー核酸など)、および未修飾形態のポリヌクレオチドが含まれる。さらに、糖に通例存在する任意のヒドロキシル基は、例えばホスホネート基、ホスフェート基に置き換えるか、標準的な保護基により保護するか、または活性化して追加のヌクレオチドへの追加の連結を調製することができるし、固体支持体にコンジュゲートすることもできる。5’および3’末端のOHは、リン酸化することもできるし、アミンまたは1から20個の炭素原子の有機キャップ基部分と置換することができる。他のヒドロキシルもまた標準的な保護基に誘導体化することができる。ポリヌクレオチドは、例えば2’−O−メチル−、2’−O−アリル、2’−フルオロ−、または2’−アジド−リボース、炭素環式糖アナログ、□−アノマー糖、アラビノース、キシロース、またはリキソースなどのエピマー糖、ピラノース糖、フラノース糖、セドヘプツロース、非環式アナログ、およびメチルリボシドなどの脱塩基ヌクレオシドアナログを含めた、当技術分野で一般に公知の、アナログ形態のリボースまたはデオキシリボース糖もまた含有することがある。1つまたは複数のホスホジエステル連結は、代替連結基に置き換えることができる。これらの代替連結基には、非限定的に、ホスフェートがP(O)S(「チオエート」)、P(S)S(「ジチオエート」)、(O)NR(「アミデート」)、P(O)R、P(O)OR’、CO、またはCH(「ホルムアセタール」)に置き換えられる実施形態が含まれ、式中、各RまたはR’は、独立してHであるか、またはエーテル(−O−)連結、アリール、アルケニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、もしくはアラルジルを含有してもよい置換または未置換アルキル(1〜20C)である。ポリヌクレオチド中のすべての結合が同一である必要はない。前述の説明は、RNAおよびDNAを含めた本明細書に言及するすべてのポリヌクレオチドにあてはまる。
【0059】
本明細書に使用する「実質的に純粋な」は、少なくとも50%純粋な(すなわち混入物を有さない)、さらに好ましくは少なくとも90%純粋な、さらに好ましくは少なくとも95%純粋な、さらに好ましくは少なくとも98%純粋な、さらに好ましくは少なくとも99%純粋な物質を表す。
【0060】
「宿主細胞」には、ポリヌクレオチド挿入物の組み込み用のベクターについてのレシピエントでありうるか、またはレシピエントであった個別の細胞または細胞培養物が含まれる。宿主細胞には、単一宿主細胞の子孫が含まれ、その子孫は、自然突然変異、偶発的突然変異、または計画的突然変異が原因で、本来の親細胞と(形態またはゲノムDNA相補体が)必ずしも完全には同一ではないことがある。宿主細胞には、本発明のポリヌクレオチドをin vivoでトランスフェクトされた細胞が含まれる。
【0061】
本明細書に使用する「ベクター」は、宿主細胞に関心対象の1つまたは複数の遺伝子または配列を送達し、好ましくは発現させることができる構築物を意味する。ベクターの例には、非限定的に、ウイルスベクター、裸のDNA発現ベクターまたはRNA発現ベクター、プラスミド、コスミドまたはファージベクター、陽イオン凝縮剤と関連したDNA発現ベクターまたはRNA発現ベクター、リポソームに封入されたDNA発現ベクターまたはRNA発現ベクター、および産生細胞などのある種の真核細胞が含まれる。
【0062】
本明細書に使用する「発現制御配列」は、核酸の転写を指令する核酸配列を意味する。発現制御配列は、構成性もしくは誘導性プロモーターなどのプロモーター、またはエンハンサーでありうる。発現制御配列は、転写される核酸配列に作動可能に連結している。
【0063】
本明細書に使用する用語「kon」は、抗原への抗体の会合についての速度定数を表すことを意図する。
【0064】
本明細書に使用する用語「koff」は、抗体/抗原複合体からの抗体の解離についての速度定数を表すことを意図する。
【0065】
本明細書に使用する用語「K」は、抗体−抗原相互作用の平衡解離定数を表すことを意図する。
【0066】
本明細書に使用する単数形「a」、「an」、および「the」には、別に示さない限り複数の参照が含まれる。
【0067】
III.本発明の方法
本発明は、trkBアンタゴニストの末梢投与により体重および/または摂食を制御する方法を包含する。これらの方法は、哺乳動物における肥満または過食(食べ過ぎ)障害を治療または予防するために用いることができる。その方法は、有効量の1つまたは複数のtrkBアンタゴニストを、それを必要とする個体に末梢投与することを伴う(様々な表示および態様は本明細書に記載する)。
【0068】
本明細書に記載するすべての方法に関して、trkBアンタゴニストの参照には、1つまたは複数のこれらの薬剤を含む組成物もまた含まれる。これらの組成物は、当技術分野で十分に公知の緩衝液を含めた、薬学的に許容できる賦形剤などの適切な賦形剤をさらに含むことがある。本発明は、単独で、または他の従来の治療方法と組み合わせて使用することができる。
【0069】
trkBアンタゴニストは末梢投与される。たとえ薬剤が末梢投与されても、わずかな率の薬剤は血液脳関門を通過して、薬剤の性質に応じて中枢神経系への送達を招くおそれがあることが理解されている。いくつかの実施形態では、末梢投与されたtrkBアンタゴニスト(例えばtrkBアンタゴニスト抗体)の約1%、約0.5%、約0.25%、および約0.1%のいずれか未満が、CNSにアクセスする。
【0070】
trkBアンタゴニストは、任意の適切な末梢経路により個体に投与することができる。本明細書に記載する実施例が、利用できる技術の限定ではなく例示を意図することは、当業者に明らかなはずである。したがって、いくつかの実施形態では、trkBアンタゴニストは、例えばボーラスまたは一定時間にわたる連続点滴のような静脈内投与、筋肉内、腹腔内、皮下、関節内、舌下、滑膜内、吹入経由、経口、吸入、または局所経路によるものなどの公知の方法により個体に投与される。投与は、全身的(例えば静脈内投与)または局所的でありうる。ジェットネブライザーおよび超音波ネブライザーを含めた、液体製剤用の市販のネブライザーが投与に有用である。液体製剤を直接噴霧することもできるし、凍結乾燥粉末を再構成後に噴霧することもできる。あるいは、trkBアンタゴニストは、フッ化炭素製剤および定量吸入器を使用してエアロゾル化することができるし、凍結乾燥して粉砕した粉末として吸入することができる。
【0071】
trkBアンタゴニストは、CNSの外側に部位特異的または標的化局所送達技術により投与することができる。部位特異的または標的化局所送達技術の例には、trkBアンタゴニストの様々な植込み可能なデポー供給源、または点滴カテーテル、留置カテーテル、もしくはニードルカテーテルなどの局所送達カテーテル、合成移植片、外膜ラップ(adventitial wraps)、シャントおよびステントもしくは他の埋込み可能な装置、部位特異的担体、直接注射、または直接適用が含まれる。例えば、PCT公開WO00/53211および米国特許第5,981,568号を参照されたい。
【0072】
trkBアンタゴニストの様々な製剤は、投与のために使用することができる。いくつかの実施形態では、trkBアンタゴニストは、混ぜ物なしに(neat)投与することができる。他の実施形態では、trkBアンタゴニストおよび薬学的に許容できる賦形剤が投与され、それらは様々な製剤のことがある。薬学的に許容できる賦形剤は、当技術分野において公知であり、薬理学的に有効な物質の投与を容易にする相対的に不活性な物質である。例えば、賦形剤は、形態またはコンシステンシーを与えることができるし、希釈剤として作用することもできる。適切な賦形剤には、非限定的に、安定化剤、湿潤剤および乳化剤、モル浸透圧濃度を変動させるための塩、封入剤、緩衝剤、ならびに皮膚透過促進剤が含まれる。腸管外および非腸管外薬物送達のための賦形剤および製剤は、Remington、The Science and Practice of Pharmacy、第20版、Mack Publishing(2000)に述べられている。概して、これらの薬剤は、注射による投与(例えば腹腔内、静脈内、皮下、筋肉内など)のために製剤されるが、他の形態(例えば経口、粘膜、経皮、吸入など)の投与を使用することもまたできる。
【0073】
特定の投薬方式、すなわち用量、タイミング、および繰り返しは、特定の個体ならびにその個体の病歴、治療する疾患(例えば肥満)の特定の段階、および特定のtrkBアンタゴニストに依存するものである。概して、以下の任意の用量のtrkBアンタゴニスト(例えば、抗BDNF、抗NT−4/5、および抗trkBアンタゴニスト抗体)を使用することができ、少なくとも約50mg/kg体重、少なくとも約20mg/kg体重、少なくとも約10mg/kg体重、少なくとも約5mg/kg体重、少なくとも約3mg/kg体重、少なくとも約2mg/kg体重、少なくとも約1mg/kg体重、少なくとも約750μg/kg体重、少なくとも約500μg/kg体重、少なくとも約250ug/kg体重、少なくとも約100μg/kg体重、少なくとも約50μg/kg体重、少なくとも約10ug/kg体重、少なくとも約1μg/kg体重、またはそれを超える用量が投与される。半減期などの経験的考察は、一般に投与量の決定に寄与するものである。数日間以上にわたる繰り返し投与について、治療は、疾患の症状の所望の抑制が起こるか、または十分な治療レベルが達成されるまで、状態に応じて継続される。例えば、1週間に1から5回の投薬が考えられている。他の投薬方式には、1日に最大1回、1週間に1から5回、またはそれよりも回数の少ない方式が含まれる。いくつかの実施形態では、trkBアンタゴニストは、1週間に約1回、1カ月に約1から4回投与される。段階投与量を用いた、2日から最大7日、または14日までもの間隔の間欠投薬方式を用いることができる。いくつかの実施形態では、治療は、毎日投薬で開始して、その後毎週または毎月までもの投薬に変えることができる。この治療法の進行は、従来の技術およびアッセイにより容易にモニターされる。
【0074】
一部の個体では、1回を超える投与が必要なことがある。投与回数は、治療クールにわたり決定および調整することができる。例えば、投与回数は、治療する疾患の種類および重症度、その薬剤が予防目的それとも治療目的で投与されるか、以前の治療法、患者の臨床歴およびその薬剤に対する応答、ならびに担当医師の判断に基づき決定または調整することができる。典型的には、臨床家は、所望の結果を達成する投与量に達するまでtrkBアンタゴニストを投与するものである。場合によっては、trkBアンタゴニストの持続性連続放出製剤が適切なことがある。持続性放出を達成するための様々な製剤および装置が、当技術分野で公知である。例えば、trkBアンタゴニストは、機械的ポンプにより投与することができるし、持続放出または低速放出用のマトリックス床に包埋することができる。
【0075】
一実施形態では、1回または複数回の投与を与えられた個体におけるtrkBアンタゴニストについての投与量は、経験的に決定することができる。個体に漸増する投与量のtrkBアンタゴニストを与える。trkBアンタゴニストの有効性を評定するために、病状のマーカーをモニターすることができる。個体、疾患の段階(例えば肥満の段階)、ならびに過去の治療および使用中の同時治療に応じて投与量が変動するものであることは、当業者に明らかなものである。
【0076】
本発明の方法によるtrkBアンタゴニストの投与は、例えばレシピエントの生理的状態、投与の目的が治療であるかそれとも予防であるか、および当業者に公知の他の要因に応じて連続的または間欠的でありうる。trkBアンタゴニストの投与は、予め選択された期間にわたり本質的に連続的なこともあるし、間隔を空けた一連の投与のこともある。
【0077】
他の製剤には、非限定的にリポソームなどの担体を含めた、当技術分野で公知の適切な送達形態が含まれる。例えば、Mahatoら(1997)Pharm.Res.14:853〜859を参照されたい。リポソーム製剤には、非限定的に、サイトフェクチン、多重膜小胞、および単膜小胞が含まれる。
【0078】
疾患の評価は、当技術分野で公知の標準法を用いて、例えば、適切なマーカーをモニターすることによって行われる。例えば肥満については、以下のマーカー、すなわち体重、ボディーマスインデックス(BMI)、体組成実験、摂食またはカロリー摂取、空腹および飽食の行動測定、代謝率、および肥満関連共存罹患(高脂血症および高血圧など)をモニターすることができる。
【0079】
IV.組成物および組成物を作る方法
本発明の方法はtrkBアンタゴニストを使用し、trkBアンタゴニストは、trkBシグナル伝達により仲介される下流の経路を含めたtrkBの生物学的活性(trkBのリガンドであるBDNFもしくはNT−4/5へのtrkBの結合および/またはBDNFもしくはNT−4/5への細胞応答の誘発など)を(有意に含めて)抑制または低減する任意の分子を表す。trkBアンタゴニストの例には、非限定的に、抗BDNF抗体、抗NT−4/5抗体、BDNFとNT−4/5とのヘテロ二量体と結合および阻害する抗体、BDNF阻害化合物またはNT−4/5阻害化合物(例えば、競合的またはアロステリックにtrkB−リガンド相互作用を妨害または弱める化合物)、アゴニスト活性を欠くBDNF構造アナログまたはNT−4/5構造アナログ、BDNFおよび/またはNT−4/5と結合するtrkB受容体のドミナントネガティブ突然変異、trkBイムノアドヘシン、抗trkB抗体、ならびにtrkB阻害化合物が含まれる。
【0080】
いくつかの実施形態では、trkBアンタゴニスト(例えば抗体)は、BDNFまたはNT−4/5と結合(物理的に相互作用)し、下流のtrkB受容体シグナル伝達を低減(妨害および/またはブロック)する。いくつかの実施形態では、trkBアンタゴニスト(例えば抗体)は、trkB受容体と結合(物理的に相互作用)し、下流のtrkB受容体シグナル伝達を低減(妨害および/またはブロック)する。いくつかの実施形態では、trkBアンタゴニストは、下流のtrkB受容体シグナル伝達を低減(妨害および/またはブロック)する(例えばキナーゼシグナル伝達阻害剤)。他の実施形態では、trkBアンタゴニストは、BDNFおよび/もしくはNT−4/5の合成ならびに/または循環への放出を阻害(低減)する。いくつかの実施形態では、trkBアンタゴニストはtrkBイムノアドヘシンである。いくつかの実施形態では、trkBアンタゴニストはBDNF(hBDNFなど)と結合し、NT−3、NT−4/5、および/またはNGFなどの関連ニューロトロフィンとは有意には結合しない。いくつかの実施形態では、trkBアンタゴニストは、NT−4/5(hNT−4/5など)と結合し、NT−3、BDNF、および/またはNGFなどの関連ニューロトロフィンとは有意には結合しない。いくつかの実施形態では、trkBアンタゴニストは、NT−4/5(hNT−4/5など)およびBDNF(hBDNFなど)の両方と結合するが、NT−3および/またはNGFなどの関連ニューロトロフィンとは有意には結合しない。いくつかの実施形態では、trkBアンタゴニストは、単量体性NT−4/5と単量体性BDNFとのヘテロ二量体と結合するが、NT−3および/またはNGFなどの関連ニューロトロフィンとは有意には結合しない。いくつかの実施形態では、trkBアンタゴニストは、有害免疫応答に関連しない。いくつかの実施形態では、この抗体性アンタゴニストはエフェクター機能障害を有する。いくつかの実施形態では、この小分子trkBアンタゴニストは、末梢投与した場合に血液脳関門を有意には通過しない。
【0081】
trkBアンタゴニストは、本明細書に記載する任意の方法に使用するための組成物の形態でありうる。本発明の方法に使用する組成物は、有効量のtrkBアンタゴニストを含む。組成物は、凍結乾燥製剤または水溶液の形態で、薬学的に許容できる担体、賦形剤、または安定化剤をさらに含むことがある(Remington:The Science and practice of Pharmacy、第20版(2000)Lippincott Williams and Wilkins、K.E.Hoover編)。許容できる担体、賦形剤、または安定化剤は、その投与量および濃度でレシピエントに無毒であり、リン酸、クエン酸、および他の有機酸などの緩衝液;アスコルビン酸およびメチオニンを含めた抗酸化剤;保存料(オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、塩化ヘキサメトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、フェノール、ブチルアルコール、またはベンジルアルコール、メチルパラベンまたはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン、カテコール、レゾルシノール、シクロヘキサノール、3−ペンタノール、およびm−クレゾールなど);低分子量(約10残基未満の)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、もしくは免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、もしくはリシンなどのアミノ酸;グルコース、マンノース、もしくはデキストランを含めた単糖、二糖、および他の糖質;EDTAなどのキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロース、もしくはソルビトールなどの糖;ナトリウムなどの塩形成性対イオン;金属錯体(例えばZn−タンパク質複合体);ならびに/またはTWEEN(商標)、PLURONICS(商標)、もしくはポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン系界面活性剤を含むことがある。薬学的に許容できる賦形剤を本明細書にさらに記載する。
【0082】
本明細書に記載するtrkBアンタゴニストは、持続放出用に製剤することができる。持続放出調製物の適切な例には、trkBアンタゴニストを含有する固体疎水性ポリマーの半透過性マトリックスが含まれ、そのマトリックスは、造型品の形態、例えばフィルムまたはマイクロカプセルである。持続放出マトリックスの例には、ポリエステル、ヒドロゲル(例えばポリ(2−ヒドロキシエチル−メタクリレート)またはポリビニルアルコール)、ポリラクチド(米国特許第3,773,919号)、L−グルタミン酸および7 エチル−L−グルタミン酸のコポリマー、非分解性エチレン−ビニル酢酸、LUPRON DEPOT(商標)(乳酸−グリコール酸コポリマーおよび酢酸ロイプロリドから構成される注射用ミクロスフェア)などの分解性乳酸−グリコール酸コポリマー、スクロースアセテートイソブチレート、およびポリ−D−(−)−3−ヒドロキシ酪酸が含まれる。使用することができる持続放出薬物送達システムの別の例は、Atrix Laboratoriesが作るATRIGEL(登録商標)である。例えば、米国特許第6,565,874号を参照されたい。ATRIGEL(登録商標)薬物送達システムは、生物分解性縫合糸に使用されるポリマーに類似した生物分解性ポリマーを生物適合性担体に溶解したものからなる。trkBアンタゴニストは、製造時にこの液体送達系に混合することができるし、製品に応じて、後で使用時に医師が添加することもできる。液体製品をゲージの小さい針を通して皮下または筋肉内に注射するか、またはカニューレを通してアクセス可能な組織部位に置く場合には、担体と組織液中の水との置き換えにより、ポリマーが沈殿し、固体フィルムまたは植込剤が形成する。その植込剤に封入されたtrkBアンタゴニストは、次にポリマーマトリックスが経時的に生物分解するときに制御された方式で放出される。患者の医学的必要性に応じて、Atrigelシステムは、数日から数カ月までの期間にわたりタンパク質を送達することができる。Alkermesが製造するProLease(登録商標)、Medisorb(登録商標)などの注射用持続放出システムもまた使用することができる。
【0083】
いくつかの実施形態では、本発明は、医薬としての使用の状況であろうと、かつ/または医薬の製造のための使用の状況であろうと、本明細書に記載する任意の方法に使用するための組成物(本明細書に記載)を提供する。
【0084】
本発明のtrkBアンタゴニストは、本明細書に記載する病状または状態の治療のための他の薬学的薬剤と共に使用することができる。したがって、本発明の化合物を、他の薬学的薬剤と組み合わせて投与することを含む治療方法もまた、本発明により提供される。
【0085】
本発明のtrkBアンタゴニストと組み合わせて使用することができる適切な薬学的薬剤には、PYY、PYYアナログ、およびPYY誘導体(PEG化誘導体など)を含めたNPYY2アゴニスト、カンナビノイド1(CB−1)アンタゴニスト(リモナバンなど)、11β−ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ1(11β−HSD1型)阻害剤、MCR−4アゴニスト、コレシストキニンA(CCK−A)アゴニスト、モノアミン再取り込み阻害剤(シブトラミンなど)、交感神経刺激剤、βアドレナリン受容体アゴニスト、ドーパミン受容体アゴニスト(ブロモクリプチンなど)、メラニン細胞刺激ホルモン受容体アナログ、5HT2c受容体アゴニスト、メラニン凝集ホルモンアンタゴニスト、レプチン、レプチンアナログ、レプチン受容体アゴニスト、ガラニンアンタゴニスト、リパーゼ阻害剤(テトラヒドロリプスタチン、すなわちオルリスタットなど)、食欲低下剤(ボンベシンアゴニストなど)、神経ペプチドY受容体アンタゴニスト(例えばNPY Y5受容体アンタゴニスト)、甲状腺ホルモン様(thyromimetic)薬剤、デヒドロエピアンドロステロンまたはそのアナログ、グルココルチコイド受容体アゴニストまたはアンタゴニスト、オレキシン受容体アンタゴニスト、グルカゴン様ペプチド1受容体アゴニスト、毛様体神経栄養因子(Regeneron Pharmaceuticals,Inc.(ニューヨーク州タリータウン)およびProcter & Gamble Company(オハイオ州シンシナティ)から入手できるAxokine(商標)など)、ヒトのアグーチ関連タンパク質(AGRP)阻害剤、グレリン受容体アンタゴニスト、ヒスタミン3受容体アンタゴニストまたは逆アゴニスト、ニューロメジンU受容体アゴニスト、MTP/ApoB阻害剤(例えば、ジルロタピドなどの腸管選択的MTP阻害剤)等の他の抗肥満剤が含まれる。
【0086】
本発明のtrkBアンタゴニストと組み合わせて使用するために好ましい抗肥満剤には、CB−1受容体アンタゴニスト、腸管選択的MTP阻害剤、CCKaアゴニスト、5HT2c受容体アゴニスト、NPY Y5受容体アンタゴニスト、オルリスタット、およびシブトラミンが含まれる。本発明の方法に使用するために好ましいCB−1受容体アンタゴニストには、リモナバン(SR141716A、Acomplia(商標)の商標でも公知である)が、Sanofi−Synthelaboから入手できるし、米国特許第5,624,941号に記載されているように調製することができる;N−(ピペリジン−1−イル)−1−(2,4−ジクロロフェニル)−5−(4−ヨードフェニル)−4−メチル−1H−ピラゾール−3−カルボキサミド(AM251)が、Tocris(商標)(ミズーリ州エリスヴィル)から入手できる、米国特許第6,645,985号に記載されているように調製することができる[5−(4−ブロモフェニル)−1−(2,4−ジクロロ−フェニル)−4−エチル−N−(1−ピペリジニル)−1H−ピラゾール−3−カルボキサミド](SR147778);PCT特許出願公開WO03/075660に記載されているように調製することができるN−(ピペリジン−1−イル)−4,5−ジフェニル−1−メチルイミダゾール−2−カルボキサミド、N−(ピペリジン−1−イル)−4−(2,4−ジクロロフェニル)−5−(4−クロロフェニル)−1−メチルイミダゾール−2−カルボキサミド、N−(ピペリジン−1−イル)−4,5−ジ−(4−メチルフェニル)−1−メチルイミダゾール−2−カルボキサミド、N−シクロヘキシル−4,5−ジ−(4−メチルフェニル)−1−メチルイミダゾール−2−カルボキサミド、N−(シクロヘキシル)−4−(2,4−ジクロロフェニル)−5−(4−クロロフェニル)−1−メチルイミダゾール−2−カルボキサミド、およびN−(フェニル)−4−(2,4−ジクロロフェニル)−5−(4−クロロフェニル)−1−メチルイミダゾール−2−カルボキサミド;米国特許出願公開第2004/0092520号に記載されているように調製することができる1−[9−(4−クロロ−フェニル)−8−(2−クロロ−フェニル)−9H−プリン−6−イル]−4−エチルアミノ−ピペリジン−4−カルボン酸アミドの塩酸塩、メシル酸塩、およびベシル酸塩;米国特許出願公開第2004/0157839号に記載されているように調製することができる1−[7−(2−クロロ−フェニル)−8−(4−クロロ−フェニル)−2−メチル−ピラゾロ[1,5−a][1,3,5]トリアジン−4−イル]−3−エチルアミノ−アゼチジン−3−カルボン酸アミドおよび1−[7−(2−クロロ−フェニル)−8−(4−クロロ−フェニル)−2−メチル−ピラゾロ[1,5−a][1,3,5]トリアジン−4−イル]−3−メチルアミノ−アゼチジン−3−カルボン酸アミド;米国特許出願公開第2004/0214855号に記載されているように調製することができる3−(4−クロロ−フェニル)−2−(2−クロロ−フェニル)−6−(2,2−ジフルオロ−プロピル)−2,4,5,6−テトラヒドロ−ピラゾロ[3,4−c]ピリジン−7−オン;米国特許出願公開第2005/0101592号に記載されているように調製することができる3−(4−クロロ−フェニル)−2−(2−クロロ−フェニル)−7−(2,2−ジフルオロ−プロピル)−6,7−ジヒドロ−2H,5H−4−オキサ−1,2,7−トリアザ−アズレン−8−オン;米国特許出願公開第2004/0214838号に記載されているように調製することができる2−(2−クロロ−フェニル)−6−(2,2,2−トリフルオロ−エチル)−3−(4−トリフルオロメチル−フェニル)−2,6−ジヒドロ−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン−7−オン;PCT特許出願公開WO02/076949に記載されているように調製することができる(S)−4−クロロ−N−{[3−(4−クロロ−フェニル)−4−フェニル−4,5−ジヒドロ−ピラゾール−1−イル]−メチルアミノ−メチレン}−ベンゼンスルホンアミド(SLV−319)および(S)−N−{[3−(4−クロロ−フェニル)−4−フェニル−4,5−ジヒドロ−ピラゾール−1−イル]−メチルアミノ−メチレン}−4−トリフルオロメチル−ベンゼンスルホンアミド(SLV−326);米国特許第6,432,984号に記載されているように調製することができるN−ピペリジノ−5−(4−ブロモフェニル)−1−(2,4−ジクロロフェニル)−4−エチルピラゾール−3−カルボキサミド;米国特許第6,518,264号に記載されているように調製することができる1−[ビス−(4−クロロ−フェニル)−メチル]−3−[(3,5−ジフルオロ−フェニル)−メタンスルホニル−メチレン]−アゼチジン;PCT特許出願公開WO04/048317に記載されているように調製することができる2−(5−(トリフルオロメチル)ピリジン−2−イルオキシ)−N−(4−(4−クロロフェニル)−3−(3−シアノフェニル)ブタン−2−イル)−2−メチルプロパンアミド;米国特許第5,747,524号に記載されているように調製することができる4−{[6−メトキシ−2−(4−メトキシフェニル)−1−ベンゾフラン−3−イル]カルボニル}ベンゾニトリル(LY−320135);WO04/013120に記載されているように調製することができる1−[2−(2,4−ジクロロフェニル)−2−(4−フルオロフェニル)−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−スルホニル]−ピペリジン;ならびにPCT特許出願公開第WO04/012671号に記載されているように調製することができる[3−アミノ−5−(4−クロロフェニル)−6−(2,4−ジクロロフェニル)−フロ[2,3−b]ピリジン−2−イル]−フェニル−メタノンがある。
【0087】
本発明の組合せ、医薬組成物、および方法に使用するために好ましい胃腸作用性MTP阻害剤には、共に米国特許第6,720,351号に記載されている方法を用いて調製することができるジルロタピド((S)−N−{2−[ベンジル(メチル)アミノ]−2−オキソ−1−フェニルエチル}−1−メチル−5−[4’−(トリフルオロメチル)[1,1’−ビフェニル]−2−カルボキサミド]−1H−インドール−2−カルボキサミド)および1−メチル−5−[(4’−トリフルオロメチル−ビフェニル−2−カルボニル)−アミノ]−1H−インドール−2−カルボン酸(カルバモイル−フェニル−メチル)−アミド;すべて米国特許出願公開第2005/0234099A1号に記載されているように調製することができる(S)−2−[(4’−トリフルオロメチル−ビフェニル−2−カルボニル)−アミノ]−キノリン−6−カルボン酸(ペンチルカルバモイル−フェニル−メチル)−アミド、(S)−2−[(4’−tert−ブチル−ビフェニル−2−カルボニル)−アミノ]−キノリン−6−カルボン酸{[(4−フルオロ−ベンジル)−メチル−カルバモイル]−フェニル−メチル}−アミド、および(S)−2−[(4’−tert−ブチル−ビフェニル−2−カルボニル)−アミノ]−キノリン−6−カルボン酸[(4−フルオロ−ベンジルカルバモイル)−フェニル−メチル]−アミド;米国特許第5,521,186号および第5,929,075号に記載されているように調製することができる(−)−4−[4−[4−[4−[[(2S,4R)−2−(4−クロロフェニル)−2−[[(4−メチル−4H−1,2,4−トリアゾール−3−イル)スルファニル]メチル−1,3−ジオキソラン−4−イル]メトキシ]フェニル]ピペラジン−1−イル]フェニル]−2−(1R)−1−メチルプロピル]−2,4−ジヒドロ−3H−1,2,4−トリアゾール−3−オン(ミトラタピドまたはR103757としても知られている);ならびに米国特許第6,265,431号に記載されているように調製することができるインプリタピド(BAY13−9952)が含まれる。最も好ましくは、ジルロタピド、ミトラプリド、(S)−2−[(4’−トリフルオロメチル−ビフェニル−2−カルボニル)−アミノ]−キノリン−6−カルボン酸(ペンチルカルバモイル−フェニル−メチル)−アミド、(S)−2−[(4’−tert−ブチル−ビフェニル−2−カルボニル)−アミノ]−キノリン−6−カルボン酸{[(4−フルオロ−ベンジル)−メチル−カルバモイル]−フェニル−メチル}−アミド、または(S)−2−[(4’−tert−ブチル−ビフェニル−2−カルボニル)−アミノ]−キノリン−6−カルボン酸[(4−フルオロ−ベンジルカルバモイル)−フェニル−メチル]−アミドである。好ましいNPY Y5受容体アンタゴニストには:米国特許出願公開第2002/0151456号に記載されているように調製することができる2−オキソ−N−(5−フェニルピラジニル)スピロ[イソベンゾフラン−1(3H),4’−ピペリジン]−1’−カルボキサミド;ならびにすべてがPCT特許出願公開WO03/082190に記載されているように調製することができる3−オキソ−N−(5−フェニル−2−ピラジニル)−スピロ[イソベンゾフラン−1(3H),4’−ピペリジン]−1’−カルボキサミド;3−オキソ−N−(7−トリフルオロメチルピリド[3,2−b]ピリジン−2−イル)−スピロ−[イソベンゾフラン−1(3H),4’−ピペリジン]−1’−カルボキサミド;N−[5−(3−フルオロフェニル)−2−ピリミジニル]−3−オキソスピロ−[イソベンゾフラン−1(3H),[4’−ピペリジン]−1’−カルボキサミド;トランス−3’−オキソ−N−(5−フェニル−2−ピリミジニル)]スピロ[シクロヘキサン−1,1’(3’H)−イソベンゾフラン]−4−カルボキサミド;トランス−3’−オキソ−N−[1−(3−キノリル)−4−イミダゾリル]スピロ[シクロヘキサン−1,1’(3’H)−イソベンゾフラン]−4−カルボキサミド;トランス−3−オキソ−N−(5−フェニル−2−ピラジニル)スピロ[4−アザイソ−ベンゾフラン−1(3H),1’−シクロヘキサン]−4’−カルボキサミド;トランス−N−[5−(3−フルオロフェニル)−2−ピリミジニル]−3−オキソスピロ[5−アザイソベンゾフラン−1(3H),1’−シクロヘキサン]−4’−カルボキサミド;トランス−N−[5−(2−フルオロフェニル)−2−ピリミジニル]−3−オキソスピロ[5−アザイソベンゾフラン−1(3H),1’−シクロヘキサン]−4’−カルボキサミド;トランス−N−[1−(3,5−ジフルオロフェニル)−4−イミダゾリル]−3−オキソスピロ[7−アザイソベンゾフラン−1(3H),1’−シクロヘキサン]−4’−カルボキサミド;トランス−3−オキソ−N−(1−フェニル−4−ピラゾリル)スピロ[4−アザイソベンゾフラン−1(3H),1’−シクロヘキサン]−4’−カルボキサミド;トランス−N−[1−(2−フルオロフェニル)−3−ピラゾリル]−3−オキソスピロ[6−アザイソベンゾフラン−1(3H),1’−シクロヘキサン]−4’−カルボキサミド;トランス−3−オキソ−N−(1−フェニル−3−ピラゾリル)スピロ[6−アザイソベンゾフラン−1(3H),1’−シクロヘキサン]−4’−カルボキサミド;およびトランス−3−オキソ−N−(2−フェニル−1,2,3−トリアゾール−4−イル)スピロ[6−アザイソベンゾフラン−1(3H),1’−シクロヘキサン]−4’−カルボキサミド;ならびにその薬学的に許容できる塩およびエステルが含まれる。上に引用した米国特許および公報のすべては、参照により本明細書に組み込まれている。
【0088】
アンタゴニスト抗体
本発明のいくつかの実施形態では、trkBアンタゴニストは抗BDNF抗体を含む。抗BDNF抗体は、以下の特徴の任意の1つまたは複数を示すはずである。(a)BDNFに結合する、(b)BDNFの生物学的活性またはBDNFシグナル伝達機能により仲介される下流の経路を阻害する、(c)肥満の任意の局面を予防、回復、または治療する、(d)trkB受容体の活性化(trkB受容体の二量体化および/または自己リン酸化を含める)をブロックまたは減少させる、(e)循環中のBDNFのクリアランスを増加させる、および(f)BDNFの合成、産生、または放出を阻害(低減)する。
【0089】
本発明のいくつかの実施形態では、trkBアンタゴニストは、抗NT−4/5抗体を含む。抗NT−4/5抗体は、以下の特徴の任意の1つまたは複数を示すはずである。(a)NT−4/5に結合する、(b)NT−4/5の生物学的活性またはNT−4/5シグナル伝達機能により仲介される下流の経路を阻害する、(c)肥満の任意の局面を予防、回復、または治療する、(d)trkB受容体の活性化(trkB受容体の二量体化および/または自己リン酸化を含める)をブロックまたは減少させる、(e)循環中のNT−4/5のクリアランスを増加させる、および(f)BDNFの合成、産生、または放出を阻害(低減)する。
【0090】
本発明のいくつかの実施形態では、trkBアンタゴニストは、抗trkB抗体を含む。抗trkB抗体は、以下の特徴の任意の1つまたは複数を示すはずである。(a)trkB受容体に結合する、(b)trkB受容体へのBDNFおよび/またはNT−4/5の結合をブロックまたは阻害する、(c)trkBの生物学的活性またはtrkBシグナル伝達機能により仲介される下流の経路を阻害する、(d)肥満の任意の局面を予防、回復、または治療する、(e)trkB受容体の活性化(trkB受容体の二量体化および/または自己リン酸化を含める)をブロックまたは減少させる。
【0091】
本発明に有用な抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、抗体断片(例えば、Fab、Fab’、F(ab’)、Fv、Fcなど)、キメラ抗体、単鎖(ScFv)、その突然変異体、抗体の部分を含む融合タンパク質、および必要な特異性の抗原認識部位を含む免疫グロブリン分子の任意の他の修飾された立体配置を包含しうる。抗体は、マウス、ラット、ヒト、または(キメラ抗体もしくはヒト化抗体を含めて)他の任意の起源でありうる。
【0092】
抗体のその抗原に対する(例えば抗BDNF抗体のBDNFに対する)結合親和性は、約500nM、約400nM、約300nM、約200nM、約100nM、約50nM、約10nM、約1nM、約500pM、約100pM、または約50pMのいずれかから、約2pM、約5pM、約10pM、約15pM、約20pM、または約40pMのいずれかまででありうる。いくつかの実施形態では、結合親和性は、約100nM、約50nM、約10nM、約1nM、約500pM、約100pM、もしくは約50pM、または約50pM未満のいずれかである。いくつかの実施形態では、結合親和性は、約100nM、約50nM、約10nM、約1nM、約500pM、約100pM、または約50pMのいずれか未満である。なお他の実施形態では、結合親和性は、約2pM、約5pM、約10pM、約15pM、約20pM、約40pM、または約40pM超である。当技術分野で十分に公知のように、結合親和性は、K、すなわち解離定数として表現することができ、結合親和性の増加はKの減少に対応する。
【0093】
抗体のその抗原への結合親和性を決定する一方法は、抗体の単官能性Fab断片の結合親和性を測定することによる。単官能性Fab断片を得るために、抗体(例えばIgG)をパパインで切断するか、組換え発現させることができる。抗体のFab断片の親和性は、表面プラズモン共鳴(BIAcore3000(商標)表面プラズモン共鳴(SPR)システム、BIAcore,INC、ニュージャージー州ピスカタウェイ)により決定することができる。CM5チップは、供給業者の説明書にしたがってN−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩(EDC)およびN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)を用いて活性化することができる。抗原(BDNFなど)は、10mM酢酸ナトリウム(pH5.0)中で希釈し、活性化したチップの上に0.0005mg/mL濃度でインジェクトすることができる。個別のチップチャンネルを通過する可変流動時間を使用して、2つの範囲の抗原密度、すなわち詳細な動力学的研究には200〜400応答単位(RU)およびスクリーニングアッセイには500〜1000RUを達成することができる。チップは、エタノールアミンでブロックすることができる。再生の研究から、200回を超えるインジェクションの間、Pierce溶出緩衝液(製品番号21004、Pierce Biotechnology、イリノイ州ロックフォード)および4M NaCl(2:1)の混合物は、結合したFabを効果的に除去するが、チップ上の抗原の活性を保つことが示された。HBS−EP緩衝液(0.01M HEPES(pH7.4)、0.15NaCl、3mM EDTA、0.005%Surfactant P29)は、BIAcoreアッセイのための運転緩衝液として使用する。精製Fab試料の系列希釈(0.1〜10×推定K)は、100XL/minで1分間インジェクトし、最長2時間の解離時間を見込む。Fabタンパク質の濃度は、標準として(アミノ酸分析により決定した)公知の濃度のFabを使用したELISAおよび/またはSDS−PAGE電気泳動により決定する。動力学的会合速度(kon)および解離速度(koff)(一般に25℃で測定される)は、BIAevaluationプログラムを用いて1:1ラングミュア結合モデルにデータをあてはめることによって同時に得られる(Karlsson,R.、Roos,H.、Fagerstam,L.、Petersson,B.(1994)Methods Enzymology 6:99〜110)。平衡解離定数(K)の値は、koff/konとして計算する。
【0094】
いくつかの実施形態では、抗体は、エフェクター機能障害を有する。本明細書に使用する「エフェクター機能障害」(用語「免疫学的に不活性」と相互交換可能に使用される)を有する抗体またはポリペプチドは、エフェクター機能をまったく有さないか、または(未修飾または天然に存在する定常領域を有する抗体またはポリペプチドに比べて)低減した活性のエフェクター機能を有する抗体またはポリペプチドを表し、その抗体またはポリペプチドは、例えば、以下の任意の1つまたは複数に活性を有さないか、または低減した活性を有する:a)補体介在性溶解をトリガーすること、b)抗体依存性細胞性細胞傷害作用(ADCC)を刺激すること、およびc)ミクログリアを活性化すること。エフェクター機能の活性は、約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%、約99%、および約100%のいずれかだけ低減していることがある。いくつかの実施形態では、抗体は、有意な補体依存性溶解または標的の細胞介在性破壊をトリガーせずにtrkB受容体、BDNFまたはNT−4/5に結合する。例えば、定常領域上のFc受容体結合部位は、修飾または突然変異させて、FcγRI、FcγRII、FcγRIII、および/またはFcγRIVなどのある種のFc受容体に対する結合親和性を除去または低減することができる。簡潔にするために、実施形態がポリペプチドにもまたあてはまることを理解して、抗体を参照する。EU付番システム(Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest;第5版、Public Health Service、National Institutes of Healthy、メリーランド州ベセスダ、1991)を使用して、(例えばIgG抗体の)定常領域のどのアミノ酸残基が変更または突然変異されたかを表示することができる。類似の変化を複数の種類の抗体および種にわたり加えることができることを理解して、この付番を特定の種類の抗体(例えばIgG1)または種(例えばヒト)に使用することができる。
【0095】
いくつかの実施形態では、抗体は、エフェクター機能障害を有する重鎖定常領域を含む。この重鎖定常領域は、天然に存在する配列を有することがあるか、または変異体である。いくつかの実施形態では、天然に存在する重鎖定常領域のアミノ酸配列は、例えばアミノ酸の置換、挿入、および/または欠失により突然変異させることによって、定常領域のエフェクター機能に障害が起こる。いくつかの実施形態では、重鎖定常領域のFc領域のN−グリコシル化もまた変化させることができ、例えば完全または部分的に除去することができ、それによって定常領域のエフェクター機能に障害が起こる。
【0096】
いくつかの実施形態では、(例えばIgGのCH2ドメイン中の)Fc領域のN−グリコシル化を除去することにより、エフェクター機能に障害が起こる。いくつかの実施形態では、グリコシル化アミノ酸残基または定常領域中のグリコシル化認識配列の部分である隣接残基を突然変異させることにより、Fc領域のN−グリコシル化を除去する。トリペプチド配列であるアスパラギン−X−セリン(N−X−S)、アスパラギン−X−スレオニン(N−X−T)、およびアスパラギン−X−システイン(N−X−C)(式中、Xは、プロリン以外の任意のアミノ酸である)は、N−グリコシル化のためのアスパラギン側鎖に糖質部分が酵素的に付着するための認識配列である。定常領域のトリペプチド配列中の任意のアミノ酸を突然変異させることにより、無グリコシル化IgGを得る。例えば、ヒトIgG1およびIgG3のN−グリコシル化部位N297は、A、D、Q、K、またはHに突然変異させることができる。Taoら、J.Immunology 143:2595〜2601(1989)およびJefferisら、Immunological Reviews 163:59〜76(1998)を参照されたい。Asn−297のGln、His、またはLysへの置換を有するヒトIgG1およびIgG3は、ヒトFcγRIに結合せず、補体を活性化せず、IgG1に対するC1q結合能が完全に失われ、IgG3に対しては劇的に減少することが報告された。いくつかの実施形態では、トリペプチド配列中のアミノ酸Nは、アミノ酸A、C、D、E、F、G、H、I、K、L、M、P、Q、R、S、T、V、W、Yのいずれか1つに突然変異される。いくつかの実施形態では、トリペプチド配列中のアミノ酸Nは、保存的置換残基に突然変異される。いくつかの実施形態では、トリペプチド配列中のアミノ酸Xは、プロリンに突然変異される。いくつかの実施形態では、トリペプチド配列中のアミノ酸Sは、A、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、V、W、Yに突然変異される。いくつかの実施形態では、トリペプチド配列中のアミノ酸Tは、A、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、V、W、Yに突然変異される。いくつかの実施形態では、トリペプチド配列中のアミノ酸Cは、A、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、V、W、Yに突然変異される。いくつかの実施形態では、トリペプチドに続くアミノ酸は、Pに突然変異される。いくつかの実施形態では、定常領域でのN−グリコシル化は、酵素的に(N−グリコシダーゼF、エンドグリコシダーゼF1、エンドグリコシダーゼF2、エンドグリコシダーゼF3、およびエングリコシダーゼH(englycosidase H)などで)除去される。N−グリコシル化の除去は、N−グリコシル化に欠損を有する細胞系で抗体を産生することによってもまた達成することができる。Wrightら、J Immunol.160(7):3393〜402(1998)。
【0097】
いくつかの実施形態では、定常領域のN−グリコシル化部位に付着したオリゴ糖と相互作用しているアミノ酸残基を突然変異させて、FcγRIに対する結合親和性を低減する。例えば、ヒトIgG3のF241、V264、D265を突然変異させることができる。Lundら、J.Immunology 157:4963〜4969(1996)を参照されたい。
【0098】
いくつかの実施形態では、PCT WO99/58572およびArmourら、Molecular Immunology 40:585〜593(2003);Reddyら、J.Immunology 164:1925〜1933(2000)に記載されているように、エフェクター機能は、ヒトIgGの233〜236、297、および/または327〜331などの領域を修飾することにより障害を起こす。PCT WO99/58572およびArmourらに記載されている抗体は、標的分子に対する結合ドメインに加えて、ヒト免疫グロブリン重鎖の定常領域のすべてまたは一部に実質的に相同なアミノ酸配列を有するエフェクタードメインを含む。これらの抗体は、有意な補体依存性溶解または標的の細胞介在性破壊をトリガーせずに標的分子と結合することができる。いくつかの実施形態では、エフェクタードメインは、FcγRI、FcγRIIa、およびFcγRIIIに対して低減した親和性を有する。いくつかの実施形態では、エフェクタードメインは、FcRnおよび/またはFcγRIIbと特異的に結合することができる。これらは、典型的には2つ以上のヒト免疫グロブリン重鎖C2ドメインから誘導されたキメラドメインに基づく。このように修飾された抗体は、従来の抗体療法に対する炎症反応および他の有害反応を回避するための慢性抗体療法への使用に特に適する。いくつかの実施形態では、抗体の重鎖定常領域は、以下の任意の突然変異を有するヒト重鎖IgG1である:1)A327A330P331からG327S330S331;2)E233L234L235G236からP233V234A235、G236欠失;3)E233L234L235からP233V234A235;4)E233L234L235G236A327A330P331からP233V234A235G327S330S331、G236欠失;5)E233L234L235A327A330P331からP233V234A235G327S330S331;および6)N297からA297またはN以外の任意の他のアミノ酸。いくつかの実施形態では、抗体の重鎖定常領域は、以下の突然変異を有するヒト重鎖IgG2である:A330P331からS330S331。いくつかの実施形態では、抗体の重鎖定常領域は、以下の任意の突然変異を有するヒト重鎖IgG4である:E233F234L235G236からP233V234A235、G236欠失;E233F234L235からP233V234A235;およびS228L235からP228E235。
【0099】
抗体の定常領域もまた修飾して、補体活性化に障害を起こすことができる。例えば、補体C1成分の結合後のIgG抗体の補体活性化は、C1結合モチーフ(例えばC1q結合モチーフ)中の定常領域のアミノ酸残基を突然変異させることにより低減することができる。ヒトIgG1のD270、K322、P329、P331のそれぞれに関するAla突然変異は、抗体がC1qに結合して補体を活性化する能力を有意に低減することが報告された。マウスIgG2bについては、残基E318、K320、およびK322がC1q結合モチーフを構成する。Idusogieら、J.Immunology 164:4178〜4184(2000);Duncanら、Nature 322:738〜740(1988)。
【0100】
マウスIgG2bについて同定されたC1q結合モチーフE318、K320、およびK322は、他の抗体アイソタイプと共通すると考えられる。Duncanら、Nature 322:738〜740(1988)。IgG2bについてのC1q結合活性は、3つの特定の残基の任意の1つを、その側鎖に不適切な官能基を有する残基と置き換えることによって撤廃することができる。C1qの結合を撤廃するために、イオン系残基のみをAlaに置き換えることは不必要である。C1qの結合を撤廃するために3つの残基のうちの任意の1つの代わりにGly、Ile、Leu、もしくはValなどの他のアルキル置換非イオン系残基、またはPhe、Tyr、Trp、およびProなどの芳香族無極性残基を使用することもまた可能である。加えて、C1qの結合活性を撤廃するために、残基318ではなく320および322の代わりにSer、Thr、Cys、およびMetなどの極性非イオン系残基を使用することもまた可能である。
【0101】
本発明は、エフェクター機能障害を有する抗体もまた提供し、ここで、その抗体は修飾されたヒンジ領域を有する。ヒトIgGのFc受容体に対するヒトIgGの結合親和性は、ヒンジ領域を修飾することにより調節することができる。Canfieldら、J.Exp.Med.173:1483〜1491(1991);Hezarehら、J.Virol.75:12161〜12168(2001);Redpathら、Human Immunology 59:720〜727(1998)。特異的アミノ酸残基は、突然変異または欠失させることができる。修飾されたヒンジ領域は、CH1ドメインとは異なる抗体クラスまたはサブクラスの抗体から誘導された完全なヒンジ領域を含むことがある。例えば、IgGクラスの抗体の定常ドメイン(CH1)は、IgG4クラスの抗体のヒンジ領域に付着していることがある。あるいは、新しいヒンジ領域は、天然ヒンジの一部、または繰り返しの中の各ユニットが天然ヒンジ領域から誘導された繰り返しユニットの一部を含むことがある。いくつかの実施形態では、天然ヒンジ領域は、1つもしくは複数のシステイン残基を、アラニンなどの中性残基に変換することによって、または適切に配置された残基をシステイン残基に変換することによって変更される。米国特許第5,677,425号を参照されたい。そのような改変は、当技術分野で認識されているタンパク質化学および好ましくは遺伝子工学技術を用いて、ならびに本明細書に記載するように実施される。
【0102】
BDNF、NT−4/5、またはtrkB受容体に特異的に結合するポリペプチドであって、エフェクター機能障害を有する重鎖定常領域に融合したポリペプチドもまた本明細書に記載する方法に使用することができる。
【0103】
当技術分野で公知の、エフェクター機能障害を有する抗体を製造する他の方法もまた用いることができる。
【0104】
修飾された定常領域を有する抗体およびポリペプチドは、1つまたは複数のアッセイで試験して、生物学的活性におけるエフェクター機能低減のレベルを出発抗体に比べて評価することができる。例えば、変更されたFc領域または変更されたヒンジ領域を有する抗体またはポリペプチドが補体またはFc受容体(例えばミクログリア上のFc受容体)と結合する能力は、本明細書に開示するアッセイおよび当技術分野で認められている任意のアッセイを使用して評定することができる。PCT WO99/58572;Armourら、Molecular Immunology 40:585〜593(2003);Reddyら、J.Immunology 164:1925〜1933(2000);Songら、Infection and Immunity 70:5177〜5184(2002)。
【0105】
抗体は、抗BDNF抗体を作製するためのBDNFおよび抗NT−4/5抗体を作製するためのNT−4/5などの免疫原を使用することによって作ることができる。抗trkB抗体を作製するための免疫原の一例は、trkBを高く発現する細胞であり、その細胞は、本明細書に記載するように得ることができる。抗trkB抗体を作製するための免疫原の別の例は、trkB受容体の細胞外ドメインまたは細胞外ドメインの部分を含有する可溶性タンパク質(trkBイムノアドヘシンなど)である。
【0106】
宿主動物の免疫処置の経路およびスケジュールは、概して、本明細書にさらに記載する抗体の刺激および産生のための確立された技術および従来技術に沿う。ヒトおよびマウス抗体を産生するための一般技術は、当技術分野で公知であり、本明細書に記載されている。
【0107】
ヒトを含めた任意の哺乳動物対象またはそれに由来する抗体産生細胞は、ヒトを含めた哺乳動物のハイブリドーマ細胞系の産生のための基礎として役立つように操作することができることが考えられている。典型的には、宿主動物は、本明細書に記載するものを含めたある量の免疫原を腹腔内接種される。
【0108】
ハイブリドーマは、Kohler,B.およびMilstein,C.(1975)Nature 256:495〜497の、またはBuck,D.W.ら(1982)In Vitro、18:377〜381により修正された一般体細胞ハイブリダイゼーション技術を用いて、リンパ球および不死化骨髄腫細胞から調製することができる。非限定的にX63−Ag8.653およびSalk Institute、Cell Distribution Center、米国カリフォルニア州サンディエゴからの骨髄腫細胞系を含めた入手できる骨髄腫細胞系を、ハイブリダイゼーションに使用することができる。一般に、その技術は、ポリエチレングリコールなどの融合源を使用して、または当業者に十分に公知の電気的手段により、骨髄腫細胞およびリンパ系細胞を融合させることを伴う。融合後に、融合用培地から細胞を分離し、ヒポキサンチン−アミノプテリン−チミジン(HAT)培地などの選択生育培地中で生育させ、ハイブリダイズしてない親細胞を排除する。本明細書に記載する、血清を補充されたか、または補充されていない任意の培地は、モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマを培養するために使用することができる。細胞融合技術の別の代替として、EBVで不死化したB細胞を使用して、主題発明のモノクローナル抗体を産生させることができる。ハイブリドーマを所望により増大させてサブクローニングし、従来のイムノアッセイ(例えばラジオイムノアッセイ、エンザイムイムノアッセイ、または蛍光イムノアッセイ)の手順により、抗免疫源活性について上清がアッセイされる。
【0109】
抗体の起源として使用することができるハイブリドーマは、抗原に特異的なモノクローナル抗体またはその部分を産生する親ハイブリドーマのすべての誘導体、子孫細胞を包含する。
【0110】
そのような抗体を産生するハイブリドーマは、公知の手順を用いてin vitroまたはin vivoで生育させることができる。モノクローナル抗体は、所望により硫酸アンモニウム沈殿、ゲル電気泳動、透析、クロマトグラフィー、および限外濾過などの従来の免疫グロブリン精製手順によって培地または体液から単離することができる。望まれない活性がもしも存在すれば、固相に付着した免疫原からできた吸着剤の上に調製物を流し、その免疫原から所望の抗体を溶出または放出させることによってそれを除去することができる。ヒトもしくは他の種の免疫原(BDNF、NT−4/5、およびtrkB受容体など)、またはヒトもしくは他の種の免疫原の断片、または二官能性薬剤もしくは誘導化剤(例えばマレイミドベンゾイルスルホスクシンイミドエステル(システイン残基を介したコンジュゲーション)、N−ヒドロキシスクシンイミド(リシン残基を介する)、グルタルアルデヒド、無水コハク酸、SOCl2、またはR1N=C=NR(式中、RおよびR1は異なるアルキル基である))を使用し、免疫処置される種に免疫原性のタンパク質(例えばキーホールリンペットヘモシアニン、血清アルブミン、ウシチログロブリン、または大豆トリプシン阻害剤)にコンジュゲートした標的アミノ酸配列を含有するヒトもしくは他の種の免疫原もしくは断片を用いた宿主動物の免疫処置は、抗体(例えばモノクローナル抗体)集団を得ることができる。抗trkB抗体を作製するための免疫原の別の例は、trkBを高く発現する細胞であり、その細胞は、組換え手段により、または天然起源から高レベルのtrkBを発現する細胞を単離もしくは富化することにより得ることができる。これらの細胞は、ヒトのものでも、他の動物起源であってもよく、直接単離された免疫原として使用することもできるし、免疫原性が増加または(trkBの断片の)trkBの発現が増加もしくは富化するように加工することもできる。そのような加工には、非限定的に、例えばホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、エタノール、アセトン、および/または様々な酸などの、細胞またはその断片の安定性または免疫原性を増加するように設計された薬剤を用いて、その細胞またはその断片を処理することが含まれる。さらに、そのような処理の前または後のいずれかで、細胞は、所望の免疫原について、この場合はtrkBまたはその断片について富化するために、加工することができる。これらの加工ステップには、当技術分野で十分に公知の膜分画技術が含まれることがある。
【0111】
所望であれば、関心対象の抗体(モノクローナルまたはポリクローナル)は配列決定することができ、次に、ポリヌクレオチド配列は、発現または伝播のために、ベクターにクローニングすることができる。関心対象の抗体をコードしている配列は、宿主細胞のベクター中に維持することができ、次に、宿主細胞は、将来に使用するために規模拡大および凍結することができる。その代わりとして、ポリヌクレオチド配列は、抗体を「ヒト化」するために、または抗体の親和性もしくは他の性質を改善するために、遺伝子操作に使用することができる。例えば、その抗体をヒトにおける臨床試験および治療に使用するならば、定常領域をヒト定常領域にさらに類似するように操作して、免疫応答を回避することができる。抗体配列を遺伝子操作して、抗原に対してさらに大きな親和性を得ることが理想的なことがある。1つまたは複数のポリヌクレオチド変化を抗体に加えても、その抗原結合能をなお維持することができることは、当業者に明らかであろう。
【0112】
モノクローナル抗体をヒト化するためには4つの一般的ステップがある。これらは、(1)出発抗体の軽鎖可変ドメインおよび重鎖可変ドメインのヌクレオチド配列および推定されるアミノ酸配列を決定するステップ、(2)ヒト化抗体を設計するステップ、すなわちヒト化工程の間にどの抗体のフレームワーク領域を使用すべきかを判断するステップ、(3)実際のヒト化方法論/技術、ならびに(4)ヒト化抗体のトランスフェクションおよび発現である。例えば、米国特許第4,816,567号;第5,807,715号;第5,866,692号;第6,331,415号;第5,530,101号;第5,693,761号;第5,693,762号;第5,585,089号;第6,180,370号;および第6,548,640号を参照されたい。例えば、その抗体をヒトにおける臨床試験および治療に使用するならば、定常領域をヒト定常領域にさらに類似するように操作して、免疫応答を回避することができる。例えば、米国特許第5,997,867号および第5,866,692号を参照されたい。
【0113】
げっ歯動物V領域または修飾げっ歯動物V領域、およびそれらに関連する相補性決定領域(CDR)がヒト定常ドメインに融合したものを有するキメラ抗体を含めた、非ヒト免疫グロブリンから誘導された抗原結合部位を含むいくつかの「ヒト化」抗体分子が記載されている。例えば、Winterら、Nature 349:293〜299(1991)、Lobuglioら、Proc.Nat.Acad.Sci.USA 86:4220〜4224(1989)、Shawら、J Immunol.138:4534〜4538(1987)、およびBrownら、Cancer Res.47:3577〜3583(1987)を参照されたい。他の参考文献は、ヒト支持性フレームワーク領域(FR)にげっ歯動物CDRをグラフト化してから、適切なヒト抗体定常ドメインと融合させることを記載している。例えば、Riechmannら、Nature 332:323〜327(1988)、Verhoeyenら、Science 239:1534〜1536(1988)、およびJonesら、Nature 321:522〜525(1986)を参照されたい。別の参考文献は、組換え上張り(veneered)げっ歯動物フレームワーク領域により支持されるげっ歯動物CDRについて記載している。例えば、欧州特許公報第519,596号を参照されたい。これらの「ヒト化」分子は、げっ歯動物抗ヒト抗体分子に対する望まれない免疫応答であって、ヒトレシピエントにおけるそれらの部分の治療適用の期間および有効性を制限する免疫応答を最小化するように設計される。抗体定常領域は、それが免疫学的に不活性なように、例えばそれが補体介在性溶解をトリガーせず、抗体依存性細胞性細胞傷害作用(ADCC)を刺激しないように、操作することができる。他の実施形態では、定常領域は、Eur.J.Immunol.(1999)29:2613〜2624;PCT出願PCT/GB99/01441;および/またはUK特許出願第9809951.8号に記載されているように修飾される。同様に利用することができる、抗体をヒト化する他の方法は、Daughertyら、Nucl.Acids Res.19:2471〜2476(1991)および米国特許第6,180,377号;第6,054,297号;第5,997,867号;第5,866,692号;第6,210,671号;第6,350,861号;およびPCT出願WO01/27160に開示されている。適切なヒト化またはヒト抗BDNF抗体を設計するための起源として使用することができるポリクローナル抗体(例えば、Abcam(マサチューセッツ州ケンブリッジ)カタログ番号ab6200、Abcamカタログ番号ab27932、Biosensis(オーストラリア、フラッグスタッフヒル)カタログ番号R−017−500)。
【0114】
なお別の代替では、完全ヒト抗体は、特異的ヒト免疫グロブリンタンパク質を発現するように操作された市販のマウスを使用することにより得ることができる。より理想的な(例えば完全ヒト抗体の)免疫応答またはより強い免疫応答を産生するように設計されたトランスジェニック動物もまた、ヒト化またはヒト抗体の作製に使用することができる。そのような技術の例は、Abgenix,Inc.(カリフォルニア州フリーモント)からのXenomouse(商標)ならびにMedarex,Inc.(ニュージャージー州プリンストン)からのHuMAb−Mouse(登録商標)およびTC Mouse(商標)である。
【0115】
代替では、抗体は、当技術分野で公知の任意の方法を使用して組換え製造および発現させることができる。別の代替では、抗体は、ファージディスプレイ技術により組換え製造することができる。例えば、米国特許第5,565,332号、第5,580,717号、第5,733,743号、および第6,265,150号、ならびにWinterら、Annu.Rev.Immunol.12:433〜455(1994)を参照されたい。あるいは、ファージディスプレイ技術(McCaffertyら、Nature 348:552〜553(1990))を用いて、非免疫処置ドナー由来の免疫グロブリン可変(V)ドメイン遺伝子レパートリーからヒト抗体および抗体断片をin vitroで産生させることができる。この技術によると、抗体Vドメイン遺伝子を、M13またはfdなどの、繊維状バクテリオファージの主または副コートタンパク質遺伝子のいずれかにフレーム内でクローニングして、ファージ粒子表面に機能的抗体断片として表出させる。繊維状粒子がファージゲノムの一本鎖DNAコピーを含有することから、抗体の機能的性質に基づく選択は、それらの性質を示す抗体をコードしている遺伝子の選択もまた招く。したがって、ファージは、B細胞の性質の一部を模倣する。ファージディスプレイは、様々な形式で行うことができ、総説については、例えば、Johnson,Kevin S.およびChiswell,David J.、Current Opinion in Structural Biology 3、564〜571(1993)を参照されたい。いくつかの起源のV遺伝子セグメントは、ファージディスプレイのために使用することができる。Clacksonら(Nature 352:624〜628(1991))は、免疫処置されたマウスの脾臓から誘導されたV遺伝子の小規模ランダムコンビナトリアルライブラリーから抗オキサゾロン抗体の多様なアレイを単離した。本質的にMarkら、J.Mol.Biol.222:581〜597(1991)またはGriffithら、EMBO J.12:725〜734(1993)に記載されている技法通りに、免疫処置されていないヒトドナー由来のV遺伝子レパートリーを構築することができ、多様なアレイの抗原(自己抗原を含める)に対する抗体を単離することができる。自然免疫応答では、抗体遺伝子は、高い率で突然変異を蓄積する(体細胞超変異)。導入される変化の一部は、高い親和性を付与するものであり、その後の抗原攻撃の間に、高親和性表面免疫グロブリンを表出しているB細胞が優先的に複製および分化する。この自然工程は、「鎖シャフリング」として公知の技術を使用することにより模倣することができる。Marksら、Bio/Technol.10:779〜783(1992))。この方法では、ファージディスプレイにより得られた「一次」ヒト抗体の親和性は、重鎖および軽鎖V領域遺伝子を、免疫処置されていないドナーから得られたVドメイン遺伝子の天然に存在する変異体のレパートリー(レパートリー)に連続的に置き換えることによって改善することができる。この技術は、pM〜nM範囲の親和性を有する抗体および抗体断片を産生させる。非常に大規模なファージ抗体レパートリー(「究極の(mother−of−all)ライブラリー」としても公知である)を作るための戦略は、Waterhouseら、Nucl.Acids Res.21:2265〜2266(1993)に記載されている。遺伝子シャフリングを用いて、げっ歯動物抗体からヒト抗体を誘導することもまたでき、ここで、そのヒト抗体は、出発げっ歯動物抗体と類似の親和性および特異性を有する。「エピトープインプリンティング」とも呼ばれるこの方法によると、ファージディスプレイ技術により得られるげっ歯動物抗体の重鎖または軽鎖Vドメイン遺伝子は、ヒトVドメイン遺伝子のレパートリーと置き換えられ、げっ歯動物−ヒトキメラを創出する。抗原上での選択は、機能的抗原結合部位を復旧することができるヒト可変領域の単離を招く、すなわちエピトープがパートナーの選択を支配する(インプリントする)。残りのげっ歯動物Vドメインを置き換えるためにこの工程を繰り返すと、ヒト抗体が得られる(1993年4月1日に公開されたPCT公開WO93/06213参照)。CDRグラフト化によるげっ歯動物抗体の伝統的ヒト化とは異なり、この技術は、げっ歯動物起源のフレームワークもCDR残基も有さない完全なヒト抗体を提供する。上記論考はヒト化抗体に関するが、論じた一般原理は、例えばイヌ、ネコ、霊長類、ウマ、およびウシに使用するための抗体をあつらえるために適用できることは明らかである。
【0116】
抗体は、少なくとも2つの異なる抗原に結合特異性を有するモノクローナル抗体である二重特異性抗体のことがあり、それは、本明細書に開示する抗体を使用して調製することができる。二重特異性抗体を作るための方法は、当技術分野で公知である(例えば、Sureshら、1986、Methods in Enzymology 121:210参照)。伝統的に、二重特異性抗体の組換え産生は、2つの免疫グロブリン重鎖−軽鎖対と、異なる特異性を有する2つの重鎖との同時発現に基づいた(MillsteinおよびCuello、1983、Nature 305、537〜539)。
【0117】
二重特異性抗体を作る一アプローチによると、所望の結合特異性(抗体−抗原組合せ部位)を有する抗体可変ドメインは、免疫グロブリン定常ドメイン配列に融合される。融合は、好ましくは、ヒンジ、CH2、およびCH3領域の少なくとも一部を含む免疫グロブリン重鎖定常ドメインとのものである。軽鎖の結合に必要な部位を含有する第1重鎖定常領域(CH1)が融合体の少なくとも1つに存在することが好ましい。免疫グロブリン重鎖融合体と、所望により免疫グロブリン軽鎖とをコードしているDNAは、別々の発現ベクターに挿入され、適切な宿主生物に共トランスフェクトされる。これは、構築物に使用される等しくない比の3つのポリペプチド鎖が最適の収率をもたらす実施形態において、この3つのポリペプチド断片の相互比率の調整に大きな柔軟性を与える。しかし、等しい比の少なくとも2つのポリペプチド鎖の発現が高い収率を招く場合またはその比が特に重要ではない場合には、2つまたは3つすべてのポリペプチド鎖に関するコード配列を、1つの発現ベクターに挿入することが可能である。
【0118】
一アプローチでは、二重特異性抗体は、一方のアームにおける第1の結合特異性を有するハイブリッド免疫グロブリン重鎖と、もう一方のアームにおけるハイブリッド免疫グロブリン重鎖−軽鎖対(第2の結合特異性を与える)とから構成される。二重特異性分子の半分だけに免疫グロブリン軽鎖を有するこの非対称構造は、望まれない免疫グロブリン鎖の組合せからの所望の二重特異性化合物を分離することを容易にする。このアプローチは、1994年3月3日に公開されたPCT公開WO94/04690に記載されている。
【0119】
2つの共有結合した抗体を含むヘテロコンジュゲート抗体もまた、本発明の範囲内に属する。そのような抗体は、望まれない細胞に免疫系細胞を標的化するために(米国特許第4,676,980号)、およびHIV感染の治療のために(PCT公開WO91/00360およびWO92/200373、ならびにEP03089)使用されてきた。ヘテロコンジュゲート抗体は、任意の好都合な架橋法を使用して作ることができる。適切な架橋剤および技術は、当技術分野で十分に公知であり、米国特許第4,676,980号に記載されている。
【0120】
抗体は、宿主動物から作った抗体を最初に単離し、遺伝子配列を得、その遺伝子配列を使用して宿主細胞(例えばCHO細胞)に抗体を組換え発現させることにより、組換え的に作ることができる。使用することができる別の方法は、植物(例えばタバコ)、トランスジェニック乳、または他の生物に抗体配列を発現させることである。植物または乳に抗体を組換え発現させる方法が開示されている。例えば、Peetersら(2001)Vaccine 19:2756;Lonberg,N.およびD.Huszar(1995)Int.Rev.lmmunol 13:65;ならびにPollockら(1999)J Immunol Methods 231:147を参照されたい。例えばヒト化抗体、単鎖抗体などの抗体誘導体を作る方法は、当技術分野で公知である。
【0121】
キメラまたはハイブリッド抗体は、架橋剤を伴う方法を含めた合成タンパク質化学の公知の方法を用いてin vitroで調製することもまたできる。例えば、ジスルフィド交換反応を用いて、またはチオエーテル結合を形成させることによって、免疫毒素を構築することができる。この目的に適した試薬の例には、イミノチオレートおよびメチル−4−メルカプトブチルイミデート(methyl−4−mercaptobutyrimidate)が含まれる。
【0122】
Iliadesら、1997、FEBS Letters、409:437〜441に記載されているような単鎖Fv断片もまた産生させることができる。様々なリンカーを使用したそのような単鎖断片の結合形成は、Korttら、1997、Protein Engineering、10:423〜433に記載されている。抗体の組換え産生および操作のための様々な技術は、当技術分野で十分に公知である。
【0123】
抗体は、1999年11月18日に公開されたPCT公開WO99/58572に記載されているように修飾することができる。これらの抗体は、標的分子に対する結合ドメインに加えて、ヒト免疫グロブリン重鎖の定常ドメインのすべてまたは一部に実質的に相同なアミノ酸配列を有するエフェクタードメインを含む。これらの抗体は、標的の有意な補体依存性溶解も細胞介在性破壊もトリガーせずに、標的分子と結合することができる。好ましくは、エフェクタードメインは、FcRnおよび/またはFcγRIIbと特異的に結合することができる。これらは、典型的には2つ以上のヒト免疫グロブリン重鎖C2ドメインから誘導されたキメラドメインに基づく。このように修飾された抗体は、従来の抗体療法に対する炎症および他の有害反応を回避するための慢性抗体療法に使用するために好ましい。
【0124】
宿主動物の免疫処置または組換えのいずれかで作られた抗体は、本明細書に記載する任意の1つまたは複数のtrkBアンタゴニスト活性を示すはずである。
【0125】
イムノアッセイおよび蛍光標識細胞選別(FACS)などのフローサイトメトリー選別技術を使用して、抗原(BDNF、NT−4/5、およびtrkB受容体など)に特異的な抗体を単離することもまたできる。
【0126】
抗体は、多数の異なる担体に結合させることができる。担体は、活性および/または不活性でありうる。十分に公知の担体の例には、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレン、デキストラン、ナイロン、アミラーゼ、ガラス、天然および修飾セルロース、ポリアクリルアミド、アガロース、および磁鉄鉱が含まれる。担体の本質は、本発明の目的のために可溶性または不溶性のいずれかでありうる。当業者は、抗体を結合させるための他の適切な担体を知っているものであるし、日常的な実験を用いてそれを確かめることができるものである。
【0127】
アンタゴニスト抗体をコードしているDNAは、当技術分野で公知のように配列決定することができる。一般に、モノクローナル抗体は、容易に単離され、従来の手順を用いて(例えば、モノクローナル抗体の重鎖および軽鎖をコードしている遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを使用することによって)配列決定される。ハイブリドーマ細胞は、そのようなcDNAの好ましい入手源として役立つ。いったん単離したDNAは、発現ベクター(PCT公開WO87/04462に開示されている発現ベクターなど)に配置することができ、その発現ベクターは、次に大腸菌細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、または別の方法では免疫グロブリンタンパク質を産生しない骨髄腫細胞などの宿主細胞にトランスフェクトされ、組換え宿主細胞にモノクローナル抗体の合成を得る。例えば、PCT公開WO87/04462を参照されたい。DNAは、例えば相同マウス配列の代わりにヒト重鎖および軽鎖定常ドメインについてのコード配列に置換することによって(Morrisonら、Proc.Nat.Acad.Sci.81:6851(1984))、または非免疫グロブリンポリペプチドについてのコード配列のすべてもしくは一部を、免疫グロブリンコード配列に共有結合形成させることによってもまた修飾することができる。そのようにして、抗原の結合特異性を有する「キメラ」または「ハイブリッド」抗体を調製する。アンタゴニスト抗体(その抗原結合断片など)をコードしているDNAもまた、所望の細胞に抗体を送達および発現させるために使用することができる。DNA送達技術は、当技術分野で公知である。
【0128】
TrkBイムノアドヘシン
いくつかの実施形態では、trkBアンタゴニストは、少なくとも1つのtrkBイムノアドヘシンを含む。本明細書に使用されるTrkBイムノアドヘシンは、trkB受容体の細胞外ドメインと、免疫グロブリン配列とを含む可溶性キメラ分子を表し、そのキメラ分子は、trkB受容体の結合特異性を保持(trkB受容体の結合特異性を実質的に保持)し、BDNFおよび/またはNT−4/5に結合することができる(例えばR&D Systems、ミネソタ州ミネアポリス、カタログ番号688−TK参照)。
【0129】
TrkBイムノアドヘシンは、当技術分野で公知であり、trkB受容体へのBDNFおよびNT−4/5の結合をブロックすることが見出された。例えば、米国特許第6,153,189号参照。一実施形態では、trkBイムノアドヘシンは、BDNFおよび/またはNT−4/5に結合することができるtrkB細胞外ドメイン由来のtrkB受容体アミノ酸配列(またはその部分)(いくつかの実施形態では、trkB受容体の結合特異性を実質的に保持するアミノ酸配列)と、免疫グロブリン配列との融合体を含む。いくつかの実施形態では、trkB受容体はヒトtrkB受容体配列であり、この融合体は、免疫グロブリン定常ドメイン配列を有する。他の実施形態では、免疫グロブリン定常ドメイン配列は、免疫グロブリン重鎖定常ドメイン配列である。他の実施形態では、(例えば、ジスルフィド結合による共有結合的連結による)2つのtrkB受容体−免疫グロブリン重鎖融合体の関連は、ホモ二量体型免疫グロブリン様構造を生じる。ジスルフィド結合した二量体中のtrkB受容体−免疫グロブリンキメラの一方または両方に、免疫グロブリン軽鎖をさらに関連させて、ホモ三量体またはホモ四量体構造を得ることができる。適切なtrkBイムノアドヘシンの例には、米国特許第6,153,189号に記載されているものが含まれる。
【0130】
trkBアンタゴニストの同定
TrkBアンタゴニストは、当技術分野で公知の方法を用いて同定または特徴付けすることができ、ここで、trkBの生物学的活性の低減、回復、または中和が検出および/または測定される。例えば、米国特許第5,766,863号および第5,891,650号、ならびに実施例1に記載されているキナーゼ受容体活性化(KIRA)アッセイを用いて、trkBアンタゴニストを同定することができる。このELISA型アッセイは、例えばtrkB受容体である受容体型タンパク質チロシンキナーゼ(以後「rPTK」)のキナーゼドメインの自己リン酸化を測定することによるキナーゼ活性化の定性または定量測定に、ならびに選択されたrPTK、例えばtrkBの潜在的アンタゴニストの同定および特徴付けに適する。アッセイの第1の段階は、キナーゼ受容体、例えばtrkB受容体のキナーゼドメインのリン酸化を伴い、ここで、その受容体は、真核細胞の細胞膜に存在する。受容体は、内因性受容体であってもよいし、受容体をコードしている核酸すなわち受容体構築物を細胞に形質転換してもよい。典型的には、第1の固相(例えば第1のアッセイプレートのウェル)にそのような細胞(通常は哺乳動物細胞系)の実質的に均一な集団を被覆することにより、細胞を固相に接着させる。多くの場合、細胞は接着性であり、その結果、第1の固相に自然に接着する。「受容体構築物」が使用されるならば、それは、通常はキナーゼ受容体とflagポリペプチドとの融合体を含む。flagポリペプチドは、アッセイのELISA部分で、捕捉剤により、多くの場合、捕捉抗体により認識される。次に、接着した細胞を有するウェルに候補BDNF抗体または他のtrkBアンタゴニストなどの分析物をBDNFと共に(抗NT−4/5抗体を同定するためならばNT−4/5と共に)加えることにより、チロシンキナーゼ受容体(trkB受容体)をBDNFおよび分析物に曝露(または接触)させる。このアッセイは、trkBの活性化を阻害する抗体(または他のtrkBアンタゴニスト)の同定を、そのリガンドであるBDNFにより可能にする。BDNFおよび分析物に曝露後に、接着細胞は、溶解緩衝液(可溶化洗剤を中に有する)および穏やかな撹拌を使用して可溶化することによって、アッセイのELISA部分に直接供することができる細胞溶解物を放出し、その細胞溶解物は、濃縮する必要も、清澄化する必要もない。
【0131】
このように調製された細胞溶解物は、次に、アッセイのELISA段階に供する準備ができている。ELISA段階の第1ステップとして、第2の固相(通常はELISAマイクロタイタープレートのウェル)に、チロシンキナーゼ受容体または受容体構築物の場合にはflagポリペプチドに特異的に結合する捕捉剤(多くの場合、捕捉抗体)を被覆する。第2の固相の被覆は、捕捉剤が第2の固相に接着するように実施する。捕捉剤は、概してモノクローナル抗体であるが、本明細書の実施例に記載するように、ポリクローナル抗体もまた使用することができる。得られた細胞溶解物は、次に接着性捕捉剤に曝露するか、またはそれと接触させることにより、その受容体または受容体構築物が第2の固相に接着する(または捕捉される)ようにする。次に、未結合の細胞溶解物を除去し、捕捉された受容体または受容体構築物を残す洗浄ステップを実施する。次に、接着または捕捉された受容体または受容体構築物は、チロシンキナーゼ受容体におけるリン酸化されたチロシン残基を同定する抗ホスホチロシン抗体に曝露するか、またはそれと接触させる。一実施形態では、抗ホスホチロシン抗体は、非放射性呈色試薬の色変化を触媒する酵素に(直接的または間接的に)コンジュゲートされる。したがって、受容体のリン酸化は、試薬のその後の色変化により測定することができる。酵素は、抗ホスホチロシン抗体に直接結合することもできるし、コンジュゲート分子(例えばビオチン)が抗ホスホチロシン抗体にコンジュゲートすることができ、その酵素は、そのコンジュゲート分子を介して続いて抗ホスホチロシン抗体に結合することができる。最終的に、捕捉された受容体または受容体構築物への抗ホスホチロシン抗体の結合は、例えば呈色試薬の色変化により測定する。
【0132】
trkBアンタゴニストは、候補薬剤をBDNFまたはNT−4/5と共にインキュベートし、以下の特徴の任意の1つまたは複数をモニターすることによってもまた同定することができる。(a)BDNFおよび/またはNT−4/5に結合する、(b)trkB受容体に結合する、(c)trkBの生物学的活性またはtrkBシグナル伝達機能により仲介される下流の経路を阻害する、(d)trkB受容体の活性化(trkB受容体の二量体化および/または自己リン酸化を含める)を阻害、ブロック、または減少させる、(e)循環中のBDNFおよび/またはNT−4/5のクリアランスを増加させる、(f)肥満の任意の局面を治療または予防する、ならびに(g)BDNFおよび/またはNT−4/5の合成、産生、または放出を阻害(低減)する。いくつかの実施形態では、trkBアンタゴニストは、候補薬剤をBDNFまたはNT−4/5と共にインキュベートし、結合およびそれに付随するtrkBの生物学的活性の低減または中和をモニターすることによって同定される。結合アッセイは、精製BDNFもしくはNT−4/5ポリペプチドを用いて、またはBDNFもしくはNT−4/5ポリペプチドを自然に発現しているか、もしくは発現するようにトランスフェクトされた細胞を用いて行うことができる。一実施形態では、結合アッセイは競合結合アッセイであり、候補抗体がBDNFまたはNT−4/5の結合を公知のtrkBアンタゴニストと競合する能力が評価される。アッセイは、ELISA形式を含めた様々な形式で行うことができる。他の実施形態では、trkBアンタゴニストは、候補薬剤をBDNFまたはNT−4/5と共にインキュベートし、それに付随する、trkB受容体の二量体化および/または自己リン酸化の阻害をモニターすることによって同定される。
【0133】
最初の同定に続いて、候補trkBアンタゴニストの活性は、標的の生物学的活性を試験することが公知であるバイオアッセイによりさらに確認および洗練することができる。あるいは、バイオアッセイは、候補を直接スクリーニングするために用いることができる。例えば、BDNFおよびNT−4/5は、応答細胞における形態的に認識可能ないくつかの変化を促進する。したがって、trkBの生物学的活性の阻害についてのアッセイは、BDNFまたはNT−4/5、ならびに候補抗BDNF抗体、候補抗NT−4/5抗体、および候補trkBアンタゴニストなどの分析物と共にBDNFおよび/またはNT−4/5応答細胞を培養することを伴う。適切な時間の後で、細胞応答(細胞分化、神経突起の成長、または細胞生存)をアッセイする。例えば、候補アンタゴニストは、完全長trkBをトランスフェクトされたP12細胞を使用したP12神経突起成長アッセイで試験することができる。Jianら、Cell Signal.8:365〜70、1996。
【0134】
候補trkBアンタゴニストがtrkBの生物学的活性をブロックまたは中和する能力は、Buchmanら、Development 118:989〜1001、1993に記載されているような胚性マウス下神経節神経細胞の生存バイオアッセイにおいて、候補薬剤がBDNFまたはNT−4/5介在性生存を阻害する能力をモニターすることによってもまた評定することができる。
【0135】
V.キット
本発明は、本方法に使用するためのキットもまた提供する。本発明のキットは、精製されたtrkBアンタゴニスト(例えば、抗BDNFアンタゴニスト抗体、抗NT−4/5アンタゴニスト抗体、および抗trkBアンタゴニスト抗体)を含む1つまたは複数の容器および本明細書に記載する本発明の任意の方法にしたがって使用するための説明書を包含する。概して、これらの説明書は、本明細書に記載する任意の方法により、肥満などの疾患を治療するためのtrkBアンタゴニストの投与の説明を含む。このキットは、治療に適した個体を、その個体が疾患および疾患の段階を有するかどうかを同定することに基づいて選択する説明をさらに含むことがある。
【0136】
trkBアンタゴニストの使用に関係する説明書は、概して意図される治療のための投与量、投薬スケジュール、および投与経路に関する情報を包含する。容器は、単位用量、バルクパッケージ(例えば多回量パッケージ)、または亜単位用量のことがある。本発明のキットに供給される説明書は、典型的にはラベルまたは添付文書(例えばキットに包含される紙片)に書かれた説明書であるが、機械可読の説明書(例えば、磁気または光保存ディスクに収容される説明書)もまた許容できる。
【0137】
ラベルまたは添付文書は、組成物が、本明細書に記載する疾患(肥満など)を治療するために使用されることを表示する。説明書は、本明細書に記載する任意の方法を実施するために提供することができる。
【0138】
本発明のキットは、適切なパッケージの中にある。適切なパッケージには、非限定的に、バイアル、ボトル、広口瓶、フレキシブルパッケージ(例えば密封マイラーまたはポリ袋)などが含まれる。吸入器、経鼻投与装置(例えばアトマイザー)、またはミニポンプなどの点滴装置などの特定の装置と組み合わせて使用するためのパッケージもまた考えられている。キットは、滅菌アクセスポートを有することがある(例えば、容器は、静脈用溶液バッグまたは皮下注射針で穿刺することができるストッパーを有するバイアルのことがある)。容器もまた、滅菌アクセスポートを有することがある(例えば、容器は、静脈用溶液バッグまたは皮下注射針で穿刺することができるストッパーを有するバイアルのことがある)。組成物中の少なくとも1つの活性薬剤はtrkBアンタゴニストである。容器は、第2の薬学的に活性な薬剤をさらに含むことがある。
【0139】
キットは、緩衝液および解釈上の情報などの追加の構成要素を場合により提供することがある。通常は、キットは、容器と、容器の上もしくは容器に関連したラベルまたは添付文書とを含む。
【0140】
以下の実施例は、非限定的に本発明を例示するために提供される。
【実施例】
【0141】
(実施例1)
抗BDNF抗体の作製およびスクリーニング
モノクローナル抗BDNMアンタゴニスト抗体を作製するための免疫処置:Balb/Cマウス1匹に、抗原としてヒトBDNF25ugを定期的なスケジュールで5回注射した。ヒトBDNFは、Prepro Tech Inc.(ニュージャージー州ロッキーヒル)から得た。最初の4回の注射については、ヒトBDNFをRIBIアジュバントシステムおよびミョウバンと混合することによって抗原を調製した。首筋、足底、およびIPにおよそ3日毎に11日間のクールで注射することにより、合計25ugの抗原を与えた。13日目にマウスを安楽死させ、脾臓を取り出した。リンパ球を8653細胞と融合させ、ハイブリドーマクローンを作った。クローンを生育させ、次に、ヒトBDNF ELISAを用いたELISAスクリーニングにより、抗BDNF陽性クローンとして選択した。
【0142】
抗BDNF抗体のELISAスクリーニング:クローンがヒトBDNFと結合する能力について、生育中のハイブリドーマクローンからの上清をスクリーニングした。アッセイは、0.5ug/mlのヒトBDNF100ulを一晩被覆した96ウェルプレートを用いて行った。各ステップの間に、0.05%Tween−20を含有するPBSを用いて、過剰の試薬をウェルから洗浄する。次に、0.5%BSAを含有するリン酸緩衝溶液(PBS)でプレートをブロックした。上清をプレートに添加し、室温で2時間インキュベートした。ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)とコンジュゲートしたヤギ抗マウスFcを添加して、ヒトBDNFに結合したマウス抗体に結合させた。次に、テトラメチルベンジジンをHRPについての基質として添加し、上清に存在するマウス抗体の量を検出した。反応を停止させ、450nmで吸光度を読み取ることにより抗体の相対量を定量した。1つの抗体1B5がヒトBDNFに結合すると同定され、KIRAアッセイでのアンタゴニスト活性についてそれをさらに試験した。
【0143】
ヒトTrkBブロッキングKIRAアッセイ:このアッセイは、ヒトtrkBに関する受容体型チロシンキナーゼ活性化をブロックする能力について、ELISAで陽性と見出された抗体をスクリーニングするために使用した。Sadickら、1997、Experimental Cell Research、234(2):354〜61参照。gDタグ付きヒトtrkBをトランスフェクトされた安定細胞系を利用して、ハイブリドーマクローンからの精製マウス抗体が、BDNF存在下で細胞表面のtrkB受容体の活性化をブロックする能力について、それらの抗体を試験した。効率的なブロッキング抗体は、trkBのチロシンリン酸化低減を示し、用量依存的に行うことができる。天然リガンドは、trkB受容体のキナーゼドメインの自己リン酸化を誘導した。20%ハイブリドーマ上清の形の所定の濃度のBDNFおよび抗体の混合物(すなわち、この混合物は20%(vol/vol)ハイブリドーマ上清を含有する)に細胞を曝露した後で、それらの細胞を溶解させ、ELISAを行ってtrkB受容体のリン酸化を検出した。このアッセイを使用して、抗体1B5は、BDNFによるtrkB活性化をブロックすることが示された(図1)。図1に、1B5抗BDNF抗体の存在下または不在下でのtrkBチロシンリン酸化の用量反応をBDNFに対して示す。このデータは、BDNFにより誘導されるtrkBチロシンリン酸化が、1B5抗体上清の存在により有意に低減したことを示した。
【0144】
E18節状神経細胞生存アッセイ:E18の胚から得た下神経節神経細胞はBDNFにより支援されていたため、飽和濃度の神経栄養因子で、生存率は培養48時間まで100%に近かった(すなわち200〜250神経細胞)。BDNFの不在下では、約40〜50%の神経細胞(すなわち90〜100神経細胞)が48時間まで生存した。したがって、E18結節性神経細胞の生存数は、抗BDNF抗体のブロック活性を評価するための高感度アッセイであり、すなわち、ブロッキング抗体は、一定の飽和レベルのBDNFの存在下でE18結節性神経細胞の生存数を低減するであろう。
【0145】
定時交配させた妊娠CD−1雌性マウスをCO吸入により安楽死させた。子宮角を取り出し、胚期E18の胚を抽出した。下神経節を解剖し、次にトリプシン処理し、機械的に解離させ、ポリ−L−オルニチンおよびラミニンで被覆した96ウェルプレートに入れた所定の無血清培地中で、ウェル1個あたり200〜300細胞の密度で平板培養した。抗BDNF抗体のブロック活性は、3回の繰り返しで一定レベルのBDNF(0.5ng/mL)の存在下で用量反応的に評価した。培養48時間後に、Biomek FX液体取扱いワークステーション(Beckman Coulter)で行った自動免疫細胞化学プロトコールに細胞を供した。プロトコールには、固定(4%ホルムアルデヒド、5%スクロース、PBS)、透過処理(PBS中の0.3%トリトンX−100)、非特異的結合部位のブロッキング(5%正常ヤギ血清、0.1%BSA、PBS)、ならびに神経細胞を検出するための一次および二次抗体を用いた連続インキュベーションが含まれた。タンパク質遺伝子産物9.5(PGP9.5、Chemicon)に対するウサギポリクローナル抗体は、樹立された神経細胞表現型マーカーであったが、その抗体を一次抗体として使用した。Alexa Fluor488ヤギ抗ウサギ(Molecular Probes)は、培養物に存在するすべての細胞の核を標識するために、核色素Hoechst33342(Molecular Probes)と一緒に二次試薬として使用した。画像取得および画像解析は、Discovery−1/GenII Imager(Universal Imaging Corporation)で行った。画像は、Alexa Fluor488およびHoechst33342に関する2波長で自動的に取得し、核染色がすべてのウェルに存在することから、画像装置の画像に基づくオートフォーカスシステムに関する基準点として核染色を使用した。適切な目標およびウェル毎に画像化する部位の数は、各ウェルの表面全体に及ぶように選択した。自動化画像解析は、抗PGP9.5抗体を用いた神経細胞の特異的染色に基づいて、培養48時間後に各ウェルに存在する神経細胞数を計数するために設定した。画像の慎重な閾値設定ならびに形態および蛍光強度に基づく選択性フィルターの適用は、ウェル毎に神経細胞の正確な計数を招いた。
【0146】
図2Aは、BDNF単独に対する節状神経細胞の生存用量反応のグラフである。データは、1.0〜0.5ng/mlのBDNFで最大の神経細胞の生存数が得られたことを示した。図2Bは、飽和濃度(0.5ng/mL)のBDNFおよび漸増する濃度の1B5抗BDNF抗体の存在下での節状神経細胞の生存数のグラフである。このデータは、極めて高濃度の1B5抗体で、節状神経細胞の生存レベルは、BDNF不在下での生存レベル(48時間で生存している、ほぼ100神経細胞)に近づいたことを示した。この条件における1B5抗体の50%有効ブロック濃度(EC50)は、約0.4〜1nMであった。
【0147】
(実施例2)
抗BDNF抗体(1B5)の末梢注射は高脂肪食誘導性肥満(DIO)マウスにおける体重および摂食を低減した
被験動物:Jackson Laboratoryからの、食事誘導性肥満(DIO)を有するC57BL/6雄性マウスをこの実験に使用した。El−Haschimi、J.Clin.Invest.105:1827〜1832(2000);Steppan、Nature 409:307〜312(2001)。雄性C57BL/6Jマウス24匹を4週齢で離乳させた。離乳の直後から、実験全体にわたりマウスに約60%高脂肪食(D12331i、Research Diet)を与えた。13週齢で28〜40gの範囲の体重のDIOマウスをこの実験に使用した。実験全体にわたり温度(19.5〜24.5℃)および相対湿度(45〜65%)の制御室の中で、12時間の明暗サイクルで、濾過した水道水および60%高脂肪食(D12331i、Research Diet)を自由摂取させてこれらのマウスを飼育した。動物施設から受け取ると、フィルター付きキャップで覆ったケージ1台にこれらのマウスを1匹ずつ飼育し、少なくとも5日の順応期間を観察した。
【0148】
抗BDNF 1B5およびNT4/5の投与:マウスを体重の等しい3群に分けた(各群n=8)。1日目に各群にそれぞれビヒクル、5mg/kgのヒトNT−4/5、または5mg/kgの抗BDNF抗体1B5のいずれかの皮下投与を受けさせた。(処置前に測定した)体重および摂食を1日目および2日目に測定した。
【0149】
図3Aおよび図3Bに示すように、NT−4/5および抗BDNFは共に体重(図3A)および摂食(図3B)を有意に低減した。二元配置ANOVAおよびBonferroni事後検定を統計解析に用いた。「**」は、ビヒクル対照群に比べて処置群に関してP<0.01を示し「***」はP<0.001を示す。
【0150】
(実施例3)
アンタゴニストtrkB−Fc融合タンパク質の末梢投与はカニクイザルにおける体重および摂食を低減した
この実験に参入する前に、雄性および雌性カニクイザル(ベースライン体重4〜5kg)を60日間サル用高脂肪食に順応させた。動物3匹(雌2匹および雄1匹)に、1日目から35日目まで1週間に2回組換えヒトtrkB−Fc融合タンパク質の静脈内注射を受けさせ、他の3匹の動物(雌2匹および雄1匹)にビヒクルの投与を受けさせた。摂食を毎日モニターした。体重および身長を毎週モニターし、式BMI=体重(kg)/(身長(m))によりBMIを計算した。PRISM(GraphPad Software Inc.、カリフォルニア州サンディエゴ)を用いて統計解析を行った。すべてのデータおよびグラフは、平均±平均の標準誤差(SEM)で表現した。
【0151】
5mg/kgのtrkB−Fcタンパク質のIV注射で1週間に2回処置したサルは、処置2週間以内に摂食の減少傾向を示し(図1A)、処置の開始から30日後までにボディーマスインデックスBMIの有意な減少を示した(図1B)(P=0.0083、F=8.285、2元配置ANOVA)。これらのデータは、可溶性trkB−Fc融合タンパク質などのtrkBアンタゴニストを使用することが、摂食および体重の低減を招くことを示している。
【0152】
本明細書に記載する実施例および実施形態は、単に例示目的であり、それに照らして当業者に様々な修飾または変化が示唆されるものであり、本出願の精神および範囲内に含まれるものとすることは、理解されている。本明細書に引用するすべての刊行物、特許、および特許出願は、各個別の刊行物、特許、または特許出願が、具体的かつ個別に、すべての目的に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれていることが示されたかの如く、それと同程度に、そのようにこれによって参照により組み込まれている。
【図面の簡単な説明】
【0153】

【特許請求の範囲】
【請求項1】
肥満または過体重状態を、そのような治療を必要とする哺乳動物において治療する方法であって、前記哺乳動物に治療有効量のtrkBアンタゴニストまたはその薬学的に許容できる塩を末梢投与することを含む方法。
【請求項2】
前記trkBアンタゴニストが抗BDNF抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記trkBアンタゴニストが抗trkBアンタゴニスト抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記trkBアンタゴニストがtrkB−Fc融合タンパク質である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記哺乳動物がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
体重増加を阻害、摂食を低減、またはカロリー摂取を低減する、そのような治療を必要とする哺乳動物における方法であって、前記哺乳動物に治療有効量のtrkBアンタゴニストまたはその薬学的に許容できる塩を末梢投与することを含む方法。
【請求項7】
前記trkBアンタゴニストが抗BDNF抗体である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記trkBアンタゴニストが抗trkBアンタゴニスト抗体である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記trkBアンタゴニストがtrkB−Fc融合タンパク質である、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記哺乳動物がヒトである、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記trkBアンタゴニストまたはその薬学的に許容できる塩が、抗肥満剤である第2の薬剤と組み合わせて投与される、請求項1から10に記載の方法。
【請求項12】
哺乳動物における肥満もしくは過体重状態を治療するための、または哺乳動物において体重増加を阻害、摂食を低減、もしくはカロリー摂取を低減するための医薬の製造へのtrkBアンタゴニストの使用。
【請求項13】
前記trkBアンタゴニストが抗BDNF抗体である、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
前記trkBアンタゴニストがtrkBアンタゴニスト抗体である、請求項12に記載の使用。
【請求項15】
前記trkBアンタゴニストがtrkB−Fc融合タンパク質である、請求項12に記載の使用。
【請求項16】
前記哺乳動物がヒトである、請求項12に記載の使用。

【図1】1B5抗BDNF抗体の存在下または不在下でのBDNFに対するtrkBチロシンリン酸化の用量反応を示すグラフである。X軸は、trkBを発現しているチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞の培養物に加えた種々の濃度のBDNFを表す。Y軸は、ELISAにより検出されたtrkBチロシンリン酸化レベルを表す。データは、BDNFにより誘導されたtrkBチロシンリン酸化が1B5抗体上清の存在により有意に低減したことを示した。
【図2A】BDNF単独に対する節状神経細胞生存数の用量反応のグラフである。X軸は、CD−1マウスから得られた胚期18日(E18)の節状神経細胞培養物に加えた種々の濃度のBDNFを表す。Y軸は、平板培養48時間後の生存神経細胞数を表す。データは、0.1〜0.5ng/mlのBDNFで最大の神経細胞生存数が達成されたことを示した。
【図2B】飽和濃度(0.5ng/mL)のBDNFおよび漸増する濃度の1B5抗BDNF抗体の存在下での節状神経細胞生存数のグラフである。X軸は、CD−1マウスから得られた胚期18日(E18)の節状神経細胞培養物に加えた種々の濃度の1B5抗BDNF抗体を表す。Y軸は、平板培養48時間後の生存神経細胞数を表す。データは、この条件における1B5抗体の50%有効ブロック濃度(EC50)が約0.4〜1nMであったことを示した。
【図3】高脂肪食誘導性肥満(DIO)マウスにおいて抗BDNF抗体(クローン1B5)の末梢注射が体重(図3A)および摂食(図3B)に及ぼす効果を示すグラフである。図3Aでは、X軸は、体重を測定した日に対応し、Y軸は、ベースライン(任意の処置前の体重)に対する率として測定した体重に対応する。データは、抗BDNF抗体処置群およびNT−4/5処置群両方の体重が、注射の1日後のビヒクル群と有意に異なったことを示した(Bonferroni事後検定と共の二元配置ANOVA、ビヒクル群に比べて抗BDNF抗体処置群についてP<0.001、ビヒクル群に比べてNT−4/5処置群についてP<0.01)。図1Bでは、X軸は、摂食を測定した日に対応し、Y軸はマウスが1日に接種した食物に対応する。データは、抗BDNF抗体処置群およびNT−4/5処置群両方の摂食が、ビヒクル群と有意に異なったことを示した(ビヒクル群に比べて抗BDNF抗体処置群についてP<0.001、ビヒクル群に比べてNT−4/5処置群についてP<0.001)。
【図4】組換えヒトtrkB−Fc融合タンパク質の末梢注射が、それぞれ平均1日摂食およびボディーマスインデックス(BMI)に及ぼす効果を示すグラフである。処置の30日後に、摂食減少の傾向およびBMIの有意な減少があった(P=0.0083、F=8.285、2元配置ANOVA)。
【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−525319(P2009−525319A)
【公表日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−552919(P2008−552919)
【出願日】平成19年1月29日(2007.1.29)
【国際出願番号】PCT/IB2007/000264
【国際公開番号】WO2007/088479
【国際公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【出願人】(505129415)ライナット ニューロサイエンス コーポレイション (33)
【Fターム(参考)】