説明

卵黄タンパク質の製造法

【課題】食品、医薬品及び化粧品素材として実用的に利用可能な卵黄タンパク質の簡便・安価・安全な工業的製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 (1)卵黄と水と特定の分子量を有するデキストリンを添加し混合する工程、(2)一定時間静置することにより上層と下層に分離する工程、(3)卵黄タンパク質を含むが脂質をほとんど含まない下層水溶液層を回収する工程、(4)回収した下層水溶液層を乾燥することで長期間保存可能な特異的卵黄抗体、及びそれらを含む卵黄水溶性タンパク質を製造する工程、(5)回収した下層水溶液層からデキストリンを除去する工程、(6)デキストリンを除去した下層水溶液層を乾燥することにより長期間保存可能な精製度の高い特異的卵黄抗体、及びそれらを含む卵黄水溶性タンパク質を製造する工程を提供する。また、分離後に副生する卵黄層はダメージを受けておらず、そのまま再利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、純度の高い卵黄タンパク質の製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
卵黄は水分48%、脂質32%、タンパク質18%、灰分2%で構成されている。卵黄は50%もの固形分を有しているが、そのうち40%はタンパク質と脂質が結合しているリポタンパク質である。水溶性タンパク質はリベチン、ホスビチン、リボフラビン結合タンパク質があり、固形分中約7%である。リベチンは血清アルブミンであるα―リベチン、血清グルコプロテインであるβ―リベチン、そしてγ―グロブリン(特異的卵黄抗体)であるγ―リベチンがある。
【0003】
産卵鶏は体内に侵入してきた異物(細菌、ウイルス、異種タンパク質)を抗原として認識した時、それら抗原に特異的に結合し(抗原抗体反応)、不活化させる免疫タンパク質(特異的卵黄抗体:γ―リベチン)を血液中に産生する。この特異的卵黄抗体即ちγ―リベチンは卵黄中へ移行し、濃縮される(D.T.Fraserら、J.Immunology、26(1962)347−)。
【0004】
γ―リベチン即ち特異的卵黄抗体は免疫タンパク質として、動物医療及びヒト医療への応用、研究用試薬、食品素材、及び化粧品等への有効利用が期待されている。
【0005】
特異的卵黄抗体をこれら用途で実用的に利用するためには、高純度、かつ高回収率に、しかも大量に製造しなければならない。そのためにはまず、卵黄より、不純物としての脂質を除去することが好ましく、幾つかの分離精製方法が開発されている。超遠心分離法(L.F.Mcbeeら、J.Food Science、44(1979)656−)、有機溶剤による脱脂法(H.Badeら、J.Immunology Methods、72(1984)421−)、ポリエチレングリコール(A.Polsonら、Immunology Commun.J、9(1980)475―)あるいはデキストラン硫酸ナトリウム(J.C.Jenseniusら、J.Immunology Methods、46(1981)63−)を利用する卵黄リポタンパク質分離方法、カラギーナン等の天然多糖類を利用する方法(特開昭64−38098)、遠心操作と炭素数1〜4の第1級アルコールと塩水溶液、緩衝液を用いる方法(特開平3−145500)、超臨界ガス抽出による方法(特開平6−128298)及び第2級アルコールを用いて脱脂する方法(特開平6−329700)等が挙げられる。
【0006】
しかし、特異的卵黄抗体を含む卵黄水溶性タンパク質の製造を工業化する場合、これら従来の方法では種々の問題点を有する。例えば、超遠心分離法は設備的に大量調製が不可能であり、有機溶剤による脱脂法は多量の有機溶剤を要するとともに、有機溶剤による抗体活性の失活が問題である。ポリエチレングリコールやデキストラン硫酸ナトリウムを用いる方法は、これらリポタンパク質沈殿剤が高価であり、また、化学合成品であるために、得られた特異的卵黄抗体の食品への利用が好まれない。遠心分離と第1級アルコールを用いる方法は連続的な遠心分離が困難であることから、工業的に不利である。超臨界ガス抽出では、超臨界ガス抽出の前に乾燥粉末化のプロセスを要するために工業化では不利である。第2級アルコールを用いて脱脂する方法では、沈殿物の除去のための遠心または濾過工程を数回繰り返さないと脱脂できない。カラギーナン等の天然多糖類を利用する方法は比較的精製操作も簡便である。しかしこの方法ではリポタンパク質を天然多糖類で沈殿させたのち、固液分離を行うことにより卵黄水溶性タンパク質を回収しているが、この固液分離工程に遠心分離機などの装置が必要であること、膨大な沈殿が発生してしまうこと、その沈殿はペレット化されており卵黄として再利用できないこと、などの問題点を有している。
【0007】
以上のように、特異的卵黄抗体は動物医療及びヒト医療への応用、研究用試薬、食品素材、及び化粧品等への有効利用が期待されているが、抗体活性を損なわず、工業的に、つまり簡便に且つ安価に大量製造する方法の開発が強く望まれている
【特許文献1】特開昭64−38098号公報
【特許文献2】特開平3−145500号公報
【特許文献3】特開平6−128298号公報
【特許文献4】特開平6−329700号公報
【非特許文献1】D.T.Fraserら、J.Immunology、26(1962)347−
【非特許文献2】L.F.Mcbeeら、J.Food Science、44(1979)656−
【非特許文献3】H.Badeら、J.Immunology Methods、72(1984)421−
【非特許文献4】A.Polsonら、Immunology Commun.J、9(1980)475―
【非特許文献5】J.C.Jenseniusら、J.Immunology Methods、46(1981)63−
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
食品、医薬品及び化粧品素材として、実用的に利用可能な特異的卵黄抗体、及びそれらを含む水溶性タンパク質を卵黄から製造する際に、抗体活性を損なうことなく、特殊な装置を使用することなく、且つ卵黄水溶性タンパク質はもとより卵黄水溶性タンパク質以外の卵黄成分の品質を低下させることなく、簡便・安価・安全な工業的製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者は、食品、医薬品、化粧品素材として安全に、簡便でかつ安価に特異的卵黄抗体を得ることを目標として、鋭意研究した結果、卵黄液と水と特定の分子量を有するデキストリンを加え、攪拌後、放置すると、すみやかに卵黄相(上層)と水相(下層)の2層に分離させることが可能であり、特異的卵黄抗体を含む卵黄水溶性タンパク質が効果的に水相に回収されることを見出し、本発明を完成させた。さらに、この方法では、回収する水相が下層に位置するため、遠心分離などの特殊な装置を利用することなく水層を回収可能であること、残る上層には卵黄成分がダメージを受けずに残るため、副生する卵黄成分は、そのまま別目的に利用可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0010】
特異的卵黄抗体、及びそれらを含む卵黄水溶性タンパク質の工業的な製造が可能になる。用いるデキストリン、または高度分技環状デキストリンは食品原料であり、特異的卵黄抗体、及びそれらを含む卵黄水溶性タンパク質はそのまま食品原料として使用できる。また、副生する卵黄成分はダメージを受けておらず、そのまま再利用可能である。さらに、使用した特定分子量のデキストリンは粉末化基材として機能するため、回収した水層をそのまま噴霧乾燥し、長期間保存可能な卵黄抗体粉末を製造することができる。より精製度の高い特異的卵黄抗体、及びそれらを含む卵黄水溶性タンパク質は、回収した水層からデキストリンを除去することによって製造可能であり、乾燥することで長期間保存可能な精製卵黄抗体粉末を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において、卵黄液とは、割卵後に卵白液と分離した生卵黄液あるいは冷凍卵黄を解凍して得られる卵黄液、あるいは卵黄粉末に加水し調製された卵黄液をいう。卵黄には、鶏、七面鳥、アヒル等の鳥類の卵、あるいは細菌、ウイルス、タンパク質、ホルモン等の特異的抗原により人工的に免疫されたそれら鳥類の卵から調製されたもののいずれであってもよい。
【0012】
本発明において、デキストリンとは、デンプンを酵素的に、もしくは化学的に部分加水分解したものをいう。デキストリンは、その部分加水分解の程度により、さまざまな分子量を有するデキストリンを製造することが出来る。分解の程度が高い場合、低分子量のデキストリンとなり、分解の程度が低い場合には、高分子量のデキストリンとなる。デンプンの部分分解の程度(つまりデキストリンの分子量分布)を理解する指標に、DEという値が一般的に用いられている。DEの数字が高いことは、分解程度が高いことを意味し、DE値が低いことは分解程度が低いことを意味する。DEは0−100までの値をとり、DE0は未分解であることを、DE100はグルコースまでの完全分解を意味する。
【0013】
本発明において、「DE」とは、「[(直接還元糖(ブドウ糖としての表示)の質量)/(固形分の質量)]×100」の式で表される値で、ウイルシュテッターシューデル法による分析値である。また、「DE」は、異なる「DE」を持つデキストリンを、任意の割合で混ぜた時に導かれる見かけ上の「DE」でもよいものとする。
【0014】
一方、デキストリンには加水分解により製造したものではなく、酵素による環状化反応により製造されたものが存在する。これらデキストリンは分子内部に環状構造を有することが特徴であり、環状構造を有するデキストリンと呼ばれている。環状構造を有するデキストリンには、シクロデキストリングルカノトランスフェラーゼにより製造されるシクロデキストリン、アミロマルターゼにより製造されるシクロアミロース、及びブランチングエンザイムにより製造される高度分岐環状デキストリン(特願平7−195674号)がある。
【0015】
本発明に利用可能なデキストリンは、どんなデキストリンでもよいのではなく、特定の分子量を有している必要がある。本発明に効果的に利用できるデキストリンは、好ましくはDEが3〜12のデキストリンであり、より好ましくはDE3〜8のデキストリンであり、より好ましくはDE3のデキストリンである。
【0016】
異なる実施様態においては、本発明に利用可能なデキストリンは、環状構造を有する高度分岐環状デキストリンである。高度分岐環状デキストリンとしては、江碕グリコ株式会社製、もしくは日本食品加工株式会社製の高度分岐環状デキストリン(商品名:クラスターデキストリン)が好適に利用できる。
【0017】
本発明において、クラスターデキストリンとは枝作り酵素であるブランチングエンザイムをアミロペクチンに作用させて生産した分子内環状構造を有するデキストリンをいう。(特願平7−195674号)
【0018】
卵黄に加える水の量は卵黄の容積の半倍量以上であればよいが、好ましくは卵黄の容積の半倍量〜10倍量、より好ましくは等倍量〜7倍量であり、さらに好ましくは等倍量〜5倍量である。
【0019】
卵黄に加えるデキストリンの量は、添加した水の重量の10〜30%であり、より好ましくは10〜25%であり、さらに好ましくは10〜20%である。
【0020】
卵黄と水とデキストリンを混合する方法は、予め水にデキストリンを完全に溶解させておき、そのデキストリン水溶液を卵黄に加える方法が好ましい。
【0021】
卵黄と水とデキストリンを混合する際の操作温度は4℃〜40℃であり,好ましくは卵黄及び卵黄タンパク質がダメージを受けにくい温度である4℃〜30℃、より好ましくは4℃〜25℃である。
【0022】
本発明において、上層と下層に分離する工程とは、卵黄層を上層に、特異的鶏卵抗体を含む水層を下層に分離する工程を意味する。特異的鶏卵抗体を含む水層を上層とすることは、その後の工程が煩雑となるため好ましくない。
【0023】
上層と下層への分離は、卵黄にデキストリン水溶液を混合しながら加えた後、混合を停止し、放置することにより進行する。放置する時間は通常1分〜20時間であり、より好ましくは5分〜120分であり、さらに好ましくは10分〜4時間である。
【0024】
本発明において、卵黄タンパク質を含む下層を回収する工程は、混合に利用していた容器の下部の抜き出し口を開けることにより実施できる。液の抜き出しは、重力のみの利用でも、送液ポンプを利用してもよい。このような方法を用いた場合、遠心分離装置や濾過装置など、特殊な装置を使用せず、安価に卵黄タンパク質を含む下層水溶液層を回収できる。
【0025】
異なる実施様態においては、卵黄タンパク質を含む水層を回収する工程は、機械を利用して行うことが出来る。利用可能な装置としては、遠心分離機、濾過装置等がある。
【0026】
乾燥卵黄タンパク質を製造する際には、上記工程で得られた卵黄タンパク質を含む水層を、そのまま、あるいは膜濃縮等により濃縮したのち、乾燥工程に進むことで製造できる。卵黄タンパク質を含む下層に含まれているデキストリンは優れた粉末化基材であるため、卵黄タンパク質から除去する必要はない。凍結乾燥、噴霧乾燥、熱風乾燥、真空乾燥等の公知の乾燥方法で粉末乾燥可能であるが、乾燥条件は含有される卵黄タンパク質が不活化しない条件が好ましい。例えば、噴霧乾燥の場合、入口熱風温度130〜150℃、排風温度70〜80℃の条件が好ましい。
【0027】
異なる実施様態においては、上記工程で得られた卵黄タンパク質を含む下層水溶液層から、デキストリンを除去し、精製卵黄タンパク質水溶液を製造することが出来る。デキストリンを除去する方法としては、アミラーゼを作用させる方法、イオン交換樹脂を用いる方法、疎水吸着樹脂を用いる方法、膜分画を利用する方法、塩析を利用する方法、ゲル濾過を利用する方法等を単独で、あるいは組み合わせて利用できる。
【0028】
乾燥精製卵黄タンパク質を製造する際には、上記工程で得られた精製卵黄タンパク質水溶液を、そのまま、あるいは濃縮したのち、乾燥工程に進むことができる。凍結乾燥、噴霧乾燥、熱風乾燥、真空乾燥等、公知の乾燥方法で粉末乾燥可能であるが、乾燥条件は含有される卵黄タンパク質が不活化しない条件が好ましい。例えば、高純度の精製卵黄タンパク質の失活を防ぐための乾燥方法としては凍結乾燥が好ましい。
【0029】
本発明においては、水溶液層と卵黄層との分離、水溶液層の回収により、卵黄特有の風味、臭い及び色の原因となる卵黄脂質成分が、卵黄タンパク質を含む水溶液層から効率的に除去される。従って、本発明により得られる卵黄タンパク質を含む水溶液、及び乾燥卵黄タンパク質は卵黄特有の風味、臭い、色がほとんどなく、且つ特異的卵黄抗体活性を失うことなく製造されるため、食品、飼料、研究用試薬、臨床検査薬、動物薬、医薬品素材、並びに化粧品等として有効利用される。
【0030】
本発明においては、食品とは、人が食用にする品物の総称であり、直接料理の材料としたり、そのまま食べたりすることができる食用の品、飲食品全般である。
【0031】
本発明においては、飼料とは、家畜、動物に与える餌全般である。
【0032】
請求項8記載の卵黄タンパク質を原料とする食品は、含まれる抗体の量に起因するが、食品中に抗体を含有することにより、卵黄タンパク質を原料とする本食品を食することによる免疫賦活作用を期待することができる。
【0033】
請求項9記載の卵黄タンパク質を原料とする飼料は、含まれる抗体の量に起因するが、飼料中に抗体を含有することにより、卵黄タンパク質を原料とする本飼料を食することによる免疫賦活作用を期待することができる。
【0034】
本発明においては、水溶液層と卵黄層との分離、水溶液層の回収、及びデキストリンの除去により、卵黄特有の風味、臭い、色がほとんどなく、かつ特異的卵黄抗体の活性を充分量保持する高純度の精製卵黄タンパク質水溶液、及び乾燥卵黄タンパク質が製造される。従って、本発明により得られる精製卵黄タンパク質水溶液、及び乾燥精製卵黄タンパク質は卵黄特有の風味、臭い、色がほとんどなく、かつ特異的卵黄抗体活性を失うことなく高純度で精製されるため、一般的に抗体を用いて生産される食品、飼料、研究用試薬、臨床検査薬、動物薬、医薬品素材、並びに化粧品等への有効利用が期待される。
【実施例】
【0035】
以下、比較例、試験例、及び実施例をもとに本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等によりなんら限定されるものではない。
【0036】
(比較例1:水における卵黄層と水層の分離)
卵黄液に10mlに対して半倍量、等倍量、2倍量、5倍量、7倍量、10倍量の水を添加し、攪拌、静置した結果、5倍量、7倍量、10倍量の水を添加したもので、速やかに卵黄成分の沈殿による分離が見られた。しかし、この時の卵黄成分は、水を添加する前に比べ、白く変色しており、明らかな変化が観られた(図1、図2)。
【0037】
(実施例1:各種デキストリン水溶液、高度分技環状デキストリン(クラスターデキストリン)水溶液の等量添加による卵黄層と水溶液層の分離)
卵黄液10mlにグルコース(日本食品加工株式会社)、マルトース(和光純薬工業株式会社)、テトラップ(株式会社林原生物化学研究所)、TK16(松谷化学工業株式会社)、PDX#2(松谷化学工業株式会社)、Max1000(松谷化学工業株式会社)、PDX#100(松谷化学工業株式会社)、及びクラスターデキストリン(江崎グリコ株式会社)の0、5、10、15、20、25、30%水溶液を等量の10ml加えて攪拌し室温で静置し、経時的に分離を観察した。表1に示すように、DE12以上のグルコース(DE100)、マルトース(DE50)、テトラップ(DE39)、およびTK16(DE17)の水溶液を添加したものでは分離は見られなかったが、PDX#2(DE12)、Max1000(DE8)、PDX#100(DE3)、およびクラスターデキストリン(DE3)では、ある特定の濃度以上で脂質及びリポタンパク質を含む卵黄層が上層に、卵黄タンパク質を含む水溶液層が下層に移ることが確認された。このような、卵黄層が上層に、水溶液層が下層になる分離状態は水における分離(比較例1、図1、図2)では確認されず、さらに上層の卵黄層は水における分離(比較例1、図2)に比べ、変色もなく、分離前の卵黄と相違なかった(図3、4)。これら結果を表1にまとめた。それぞれのデキストリンの濃度について、分離が起こらなかったものは×、分離が確認できたものについては○で示し、さらに、その下に分離に要した時間を示す(表1)。また各種デキストリンのDE値についても同表1に示す。


【0038】
(実施例2:水を用いての卵黄層と水層の分離、水層の回収)
卵黄液100mlに対して500mlの水を添加し、混合、4時間静置後に上層450mlを吸い取った。
【0039】
(実施例3:20%PDX#100を用いての卵黄層と水層の分離、水溶液層の回収)
卵黄液100mlに20%PDX#100水溶液100mlを添加し、混合、4時間静置後に下層水溶液層100mlを抜き取った。
【0040】
(実施例4:20%クラスターデキストリンを用いての卵黄層と水層の分離、水溶液層の回収)
卵黄液100mlに20%クラスターデキストリン水溶液100mlを添加し、混合、4時間静置後に下層水溶液層100mを抜き取った。
【0041】
(実施例5:卵黄タンパク質回収率と脂質残存率の比較)
実施例2−4の水溶液、及び卵黄原液100mlのタンパク質量をケルダール法にて、脂質量を酸分解法にてそれぞれ測定し、回収率を比較した。タンパク質量とその回収率、脂質量とその残存率を表2に示す。表2より明らかなように本発明による上層卵黄層と下層水溶液層の分離では、タンパク質が選択的に下層水溶液層に回収され、その時の脂質の残存率は0.5%未満であり、下層水溶液層への脂質の残存はほとんどない、実用的に有効な成績であった。またこの時の下層水溶液層中へのタンパク質の回収率は約10%であった。この下層水溶液層に回収されたタンパク質は卵黄液中の脂質と結合していないタンパク質、すなわち卵黄水溶性タンパク質である。


【0042】
(実施例6:20%PDX#100水溶液による卵黄層と水溶液層の分離、及び卵黄タンパク質水溶液である下層水溶液層の回収)
攪拌装置と下部抜き出し口が付いた30リットル容量タンク中で、卵黄液10リットルと20%PDX#100水溶液10リットルを攪拌により混合させた。4時間静置後、上層に卵黄層、下層に水溶液層が分離していることを確認し、下部抜き出し口より卵黄タンパク質水溶液である下層水溶液層のみ約10リットルを回収した。
【0043】
(実施例7:20%PDX#100水溶液を用いて得られた卵黄タンパク質水溶液の噴霧乾燥による粉末卵黄タンパク質の製造)
実施例6で得られた卵黄タンパク質水溶液10リットルをそのまま噴霧乾燥することにより、PDX#100を含む約2kgの粉末卵黄タンパク質を得た。
【0044】
(実施例8:20%PDX#100水溶液を用いて得られた卵黄タンパク質水溶液のデキストリン除去による精製卵黄タンパク質水溶液の製造)
実施例6で得られた卵黄タンパク質水溶液10リットルを、市販の澱粉分解酵素アミラーゼを用いて分解し、UF膜(分子量10,000カット)を用いて濃縮、加水、濃縮、加水、濃縮の工程を行うことにより、澱粉分解物を除去し、澱粉分解物を含まない精製卵黄タンパク質水溶液1リットルを得た。
【0045】
(実施例9:20%PDX#100水溶液を用いて得られた精製卵黄タンパク質水溶液の凍結乾燥による粉末精製卵黄タンパク質の製造)
実施例8で得られた精製卵黄タンパク質水溶液1リットルを凍結乾燥することにより約150gの粉末精製卵黄タンパク質を得た。
【0046】
(実施例10:乾燥卵黄タンパク質を原料として含む食品の製造)
砂糖15g、濃縮紅茶エキス3g、寒天3gに水を加え全量100gとし、よく混合した。沸騰水中で15分間加熱後、放冷し、60℃到達時点で、実施例7の粉末卵黄タンパク質10gを加えよく攪拌し、型に流し4℃で1晩保存し試験ゼリーを作製した。比較ゼリーとして、実施例7の粉末卵黄タンパク質10gの替わりに実施例2の液体を噴霧乾燥した粉末卵黄タンパク質10gをくわえたゼリーも同様に作製した。試験ゼリーと比較ゼリーの味質、匂いを、熟練した10人の官能評価パネラーによって判定した。その結果、10名のパネラー全員が、本発明の、脂質成分をほとんど含まない粉末卵黄タンパク質を加えた試験ゼリーは、脂質成分が残存する比較ゼリーと比較して、卵臭さ、雑味が軽減し、風味の良い卵黄タンパク質含有ゼリーであると評価した。
【0047】
(実施例11:20%クラスターデキストリン水溶液による卵黄層と水溶液層の分離、及び卵黄タンパク質水溶液である下層水溶液層の回収)
攪拌装置と下部抜き出し口が付いた30リットル容量タンク中で、卵黄液10リットルと20%クラスターデキストリン水溶液10リットルを攪拌により混合させた。3時間静置後、上層に卵黄層、下層に水溶液層が分離していることを確認し、下部抜き出し口より卵黄タンパク質水溶液である下層水溶液層のみ約10リットルを回収した。
【0048】
(実施例12:20%クラスターデキストリン水溶液を用いて得られた卵黄タンパク質水溶液の噴霧乾燥による粉末卵黄タンパク質の製造)
実施例10で得られた卵黄タンパク質水溶液10リットルをそのまま噴霧乾燥することにより、クラスターデキストリンを含む約2kgの粉末卵黄タンパク質を得た。
【0049】
(実施例13:20%クラスターデキストリン水溶液を用いて得られた卵黄タンパク質水溶液のデキストリン除去による精製卵黄タンパク質水溶液の製造)
実施例10で得られた卵黄タンパク質水溶液10リットルを、市販の澱粉分解酵素アミラーゼを用いて分解し、UF膜(分子量10,000カット)を用いて濃縮、加水、濃縮、加水、濃縮の工程を行うことにより、澱粉分解物を除去し、澱粉分解物を含まない精製卵黄タンパク質水溶液1リットルを得た。
【0050】
(実施例14:20%クラスターデキストリン水溶液を用いて得られた精製卵黄タンパク質水溶液の凍結乾燥による粉末精製卵黄タンパク質の製造)
実施例12で得られた精製卵黄タンパク質水溶液1リットルを凍結乾燥することにより約150gの粉末精製卵黄タンパク質を得た。
【0051】
(実施例15:乾燥卵黄タンパク質を用いた食品の製造)
砂糖15g、濃縮紅茶エキス3g、寒天3gに水を加え全量100gとし、よく混合した。沸騰水中で15分間加熱後、放冷し、60℃到達時点で、実施例12の粉末卵黄タンパク質10gを加えよく攪拌し、型に流し4℃で1晩保存し試験ゼリーを作製した。比較ゼリーとして、実施例12の粉末卵黄タンパク質10gの替わりに実施例2の液体を噴霧乾燥した粉末卵黄タンパク質10gをくわえたゼリーも同様に作製した。試験ゼリーと比較ゼリーの味質、匂いを、熟練した10人の官能評価パネラーによって判定した。その結果、10名のパネラー全員が、本発明の、脂質成分をほとんど含まない粉末卵黄タンパク質を加えた試験ゼリーは、脂質成分が残存する比較ゼリーと比較して、卵臭さ、雑味が軽減し、風味の良い卵黄タンパク質含有ゼリーであると評価した。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は特異的卵黄抗体、及びそれらを含む卵黄水溶性タンパク質の工業的な製造に利用できる。脂質をほとんど含まない、卵黄タンパク質水溶液が下層に分離されることで、煩雑な操作を行うことなく、特異的卵黄抗体、及びそれらを含む卵黄水溶性タンパク質を含む水溶液を簡便に回収することができる。使用した特定分子量のデキストリンは粉末化基材として機能するため、回収した水層をそのまま噴霧乾燥し、長期間保存可能な卵黄抗体粉末を製造することができる。本発明で用いるデキストリンまたは高度分技環状デキストリンは食品原料であり、本発明により製造される卵黄タンパク質水溶液、及び乾燥卵黄タンパク質は、そのまま食品原料として使用できる。より精製度の高い特異的卵黄抗体、及びそれらを含む卵黄水溶性タンパク質はデキストリンを除去することにより製造可能である。また、副生する卵黄成分はダメージを受けておらず、そのまま再利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】水の添加量を変化させた時の水による卵黄層と水層の分離、0時間。(比較例1)
【図2】水の添加量を変化させた時の水による卵黄層と水層の分離20時間後(比較例1)
【図3】クラスターデキストリン水溶液の濃度を変化させた時のクラスターデキストリンによる卵黄層と水層の分離、0時間(実施例1)
【図4】クラスターデキストリン水溶液の濃度を変化させた時のクラスターデキストリンによる卵黄層と水層の分離、20時間後(実施例1)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
卵黄タンパク質の製造方法であって、該工程は
(1)卵黄と水とDE12以下のデキストリンを混合する工程、
(2)上層と下層に分離する工程、
(3) 卵黄タンパク質を含む下層を回収する工程、
からなる卵黄タンパク質の製造方法。
【請求項2】
さらに、回収された下層を乾燥する工程を含む、請求項1記載の卵黄タンパク質の製造方法。
【請求項3】
さらに、デキストリンを除去する工程を含む、請求項1または請求項2記載の卵黄タンパク質の製造方法。
【請求項4】
デキストリンが、DE3〜12の範囲である、請求項1〜3に記載の卵黄タンパク質の製造方法。
【請求項5】
デキストリンが、DE3〜8の範囲である、請求項1〜3に記載の卵黄タンパク質の製造方法。
【請求項6】
デキストリンが高度分岐環状デキストリンである、請求項1〜3に記載の卵黄タンパク質の製造方法。
【請求項7】
デキストリンが、DE3〜12であるデキストリンと、高度分岐環状デキストリンとの混合物である、請求項1〜3に記載の卵黄タンパク質の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7記載の製造方法により得られた卵黄タンパク質を原料とする食品。
【請求項9】
請求項1〜7記載の製造方法により得られた卵黄タンパク質を原料とする飼料。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−183219(P2009−183219A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−27269(P2008−27269)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(000000228)江崎グリコ株式会社 (187)
【Fターム(参考)】