説明

ヒト核酸感染症(CJD等)等の診断法および治療法

【課題】クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、アルツハイマー病、パーキンソン病等の病巣細胞内に特定の蛋白質(若しくはmRNA)が蓄積する事を特徴とする疾病の診断法、および治療法を開発する技術の提供。
【解決手段】(1)クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、アルツハイマー病、パーキンソン病等で見られる病巣細胞内に特定の蛋白質(若しくはmRNA)を蓄積する患者の病巣(脳、骨髄、筋肉等)細胞から各々、活性型ヒト・レトロトランスポゾンを単離し、そのゲノム構造を健常者のそれと比較解析する事によって、各疾病に特徴的な活性型ヒト・レトロトランスポゾンを特定する。次に得られた活性型ヒト・レトロトランスポゾンを再度、培養細胞もしくは実験動物に対して接種(形質転換)し、同様の蛋白質(若しくはmRNA)の蓄積を示すかどうかを確認する。得られた転写因子結合配列を用いる「おとり型核酸医薬(デコイ)」。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、アルツハイマー病、パーキンソン病等の病巣細胞内に特定の蛋白質(若しくはmRNA)を蓄積する事を特徴とする疾病の診断法、治療法を開発する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
2001年ヒトの全ゲノム配列が相次いで発表され、ヒト全ゲノムの約50%が繰り返し配列(レトロトランスポゾン)から成る事が明らかにされた。これらは従来、ジャンクDNA、すなわち「意味の無い」「機能していない」配列と考えられていたが、一定割合(例えばLINEの一種のL1のヒトゲノム中での活性率は0.01%)で機能している活性型レトロトランスポゾンの存在が、近年、明らかにされ、これら活性型ヒト・レトロトランスポゾンが、福山型先天性筋ジストロフィー(FCMD)、ヒトChediak−Higashi症(CHS)を含む各種遺伝病や癌等の多様な疾病に関係している可能性が示唆されている。活性型ヒト・レトロトランスポゾンは、FCMDやCHSで見られるように10kb前後もの長さを持つケースもあり、多様な疾病の病巣組織において何らかの蛋白質、若しくはmRNAを集積させる事によって細胞や組織の機能に障害を及ぼし、難治疾病を引き起こしているものと考えられる。またこの傾向は脳の高次機能を考えると「脳」において特に顕著である可能性も考える必要性があろう。
【0003】
これらヒト・レトロトランスポゾンはFCMDやCHSで見られるように生殖細胞ゲノムに組み込まれる事によって遺伝(垂直感染)するケースが知られている。しかしながら、それだけでなく臓器移植、角膜移植、及び広義でのカニバリズム等を通して、外部から取り込まれた他のヒト個体のDNAがその個体内で他組織へ転移を始める可能性(水平感染)も同時に考える必要性があるが、現在この後者に関する概念が十分に検討されていない。
【0004】
より具体的に説明すると、例えば従来、医薬(肝臓病・更年期障害用の注射薬、経口薬、埋没療法剤)、化粧品、健康食品等にヒト胎盤抽出エキス(プラセンタ)等が含まれているケースがある事が広く知られている(http://www.mhlw.go.jp/houdou/2004/09/hO902−3.htm1 、http://wanonaka.jp/placenta.htm)が、そういった場合、当該医薬・食品等を摂取したヒト組織が消化器系で消化(加水分解)を受けた結果、ヒト細胞から漏出するであろうヒトDNA断片(若しくはRNA体のレトロトランスポゾン)に腸管細胞等が暴露された場合、当然、一定の確度でヒト腸管細胞等の形質転換が起こると考えられる。実際、遺伝子治療分野においてはプラスミドを筋肉細胞等に塗布するだけで形質転換が起こる事実がよく知られている事を踏まえると、腸管細胞の形質転換が起こらない方がむしろ不自然と考えられる。
【0005】
形質転換された「他個体のヒトDNA断片」が腸管細胞内でヒトゲノムの一定割合を占める活性型レトロトランスポゾンの内部に挿入された場合、当然、その医薬や食品由来の多様なヒトDNA断片を含んだキメラDNAが活性型レトロトランスポゾンとして腸管細胞内で機能し始める可能性が出てくる。また、それだけでなくヒト組織を含む医薬・食品等の摂取を通して腸菅細胞等に暴露されるヒトDNA内に含まれる活性型レトロトランスポゾンそのもの(RNA体、DNA体の双方)も当然、腸管細胞等を形質転換させるものと考えられる。その上で腸管細胞から血液細胞を通して移行した活性型レトロトランスポゾンが、脳、骨髄、筋肉等の他組織に転移後、多様な蛋白やmRNAを蓄積し始める可能性は十分に考えられるが、現在、この視点では国内外で研究が進められていない。なお、ヒトゲノム中のレトロトランスポゾンの大半は非活性型であるが、例えばLINEの一種のL1のヒトゲノム中での活性率は0.01%であるとされており、ヒトゲノムの巨大性を踏まえると、これら0.01%の活性型レトロトランスポゾンが腸管細胞等へ形質転換する事によって医薬や食品由来の核酸が摂取者に感染する可能性を否定する事はできないのは明らかである。
【0006】
以上の背景を踏まえて現在、知られている各種疾患を眺めた場合、以下に示すように、人間の生体細胞内で特定の蛋白質やmRNAを集積させる事を特徴とする疾病(コンフォメーション病等)が少なからず報告されており、それらの多くは原因不明の難治疾患とされている。
▲1▼アルツハイマー病・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Aβ蓄積
▲2▼パーキンソン病,Lewy小体型痴呆症、多系統萎縮症・・α−Synuclein蓄積
▲3▼Creutzfeldt−Jakob病、Gerstmann−Straussler症候群、狂牛病・・・・・・・・プリオン蛋白質蓄積
▲4▼球脊髄性筋萎縮症,ハンチントン病,脊髄小脳失調症(SCA),歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)・・・・・・ポリグルタミン蓄積
▲5▼家族性筋萎縮性側索硬化症・・・・・・・・・・・・・・・SOD1蓄積
▲6▼アルツハイマー病、FTDP−17、進行性核上性麻痺、皮質基底核変性症,Pick病・・・・・・・・・Tau蓄積
▲7▼familial British dementia・・・・・・・・・・・・・・・・・ABri蓄積
▲8▼neuroserpin封入体を伴う家族性痴呆症・・・・・・・・neuroserpin蓄積
▲9▼全身性アミロイドーシス、アミロイド肝・・・・・・・・・アミロイド蓄積
▲10▼筋萎縮性側索硬化症(ALS,Gehrig病)・・・・・・・・神経細繊維蛋白蓄積
▲11▼筋強直性ジストロフィー症・・・・・・・・・・・・・特定のmRNA蓄積
【0007】
これらの疾病研究では現在、別々の疾病原因が考えられているため、各々全く別のアプローチで診断システム、治療システムの開発が進められており、統一した疾病誘発メカニズムは想定されていない。例えば、肉骨粉等を通したカニバリズムが原因で脳や骨髄に異常プリオン蛋白質が蓄積する結果、脳機能障害・神経障害を来たす事が特徴であるクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)では、この蓄積蛋白そのものが感染体であると考えられており、カリフォルニア大学のスタンリー・B・プルシナー博士は当該研究で1997年にノーベル医学生理学賞を受賞している。その結果、現在、国内外で大規模に行われているBSE検査においては、当該蛋白に対する抗体を用いたELISA法およびウェスタンブロッティング法が採用されており、多くの国で多大な試薬経費・人件費が使われてきている。しかしながら、この蛋白質感染体説(プリオン説)は、以下の15点において不自然であり、蛋白質(プルシナーのプリオン説)やウイルス(ガイジュセックのスローウイルス説)ではなく、ヒトDNA断片(若しくはヒトRNA断片)そのものが感染体である可能性の方が高いとする当該特許願での説明の方がむしろ矛盾が少ない。
【0008】
1.CJDはパプアニューギニアのカニバリズムからガイジュセックにより発見(クールー病)されているだけでなく、BSEに関しても肉骨粉を通した同種間でのカニバリズムが原因とされているが、同じ生物種のゲノム中にあるプロモーター・転写因子等の転写系・翻訳系は(異種生物のDNAと比較すると)当然ながら遥かに機能しやすい。この当然の事実は、CJDが主にカニバリズム、若しくはヒト脳硬膜移植・ヒト角膜移植等に限定された現象である事を説明しやすい。
2.ヒトゲノムDNAの約50%もがレトロトランスポゾンとされている(L1の場合、活性型はそのうちの0.01%程度)だけでなく、遺伝子治療分野においては、ヒトの筋肉細胞や喉頭細胞等に(DNA断片に過ぎない)プラスミドを塗布するだけで形質転換が成立している。従ってクールー病で見られるようなカニバリズムによって、ヒトの消化器官内で消化を受けたヒト組織からヒトゲノムDNA(若しくはRNA)が漏出した結果、摂取者の消化器官細胞(腸管細胞など)を形質転換し、その一部のDNA断片(若しくはRNA断片)が増殖し始める可能性は十分に考えられる。
3.活性型レトロトランスポゾンはL1の場合、0.01%程度とされている事実を踏まえると、ヒト組織摂取者の消化器官細胞を形質転換するであろう「摂取されたヒト組織から漏出したヒトDNA断片(若しくはRNA断片)」に関してレトロトランスポゾンの水平感染が長い時間をかけて起こっても不自然ではない。そして、この考え方はヒトCJD感染体が増殖し数年以上の長い潜伏期間の後で発症する現象と矛盾しない。
4.トランスポゾンや形質転換されたDNAは一般に蛋白を産生する。これはCJD感染において特定のタンパク質(異常プリオン蛋白)が蓄積する現象と矛盾しない。
5.ヒトDNA断片(若しくはヒトRNA断片)が感染体の場合、加熱、殺菌剤、放射線照射に当然、強い耐性を示すだけでなく、細菌やウイルスが通らないフィルターを通り抜けるが、これはCJD感染体の特徴と一致する。
6.メチル化等の化学修飾を受けたDNA断片や、ヒストン等の蛋白が結合しているDNAの場合は、DNA分解酵素処理を受けないケースも知られている以上、DNA分解酵素処理で「プリオン」の感染性が影響を受けないからといって感染体がDNAではないと言えない。
7.英国における経済効率向上のためのレンダリング(動物遺体処理)工程の大規模簡略化が多大なBSE症例の拡大につながったと福岡伸一氏は著書『プリオン説は本当か』(講談社、2005)において述べているが、その工程変換の最大のポイントは、加熱処理の時間で以前は2時間だった工程が大幅に短縮された事にあるとされている。DNA断片がBSEの感染体の場合、短時間の熱処理ならばDNAも蛋白も熱変性は起こりにくいが、長時間の加熱処理では、その分だけは2重螺旋の解離が起こりやすくなりDNAとしては機能しにくくなるだけでなく、(形質転換において一定の役割を果たしているであろう)ヒストンのようなDNA結合蛋白も失活しやすい点も矛盾しない。
8.DNA断片(若しくはヒトRNA断片)がCJDの感染体の場合、病巣を調べてもウイルス粒子や細菌が見つからない一方で、タンパク質(異常プリオン蛋白質)の蓄積が確認できるのは当然である。
9.感染蛋白質因子(異常プリオン蛋白質)を病巣から精製する際に、感染DNA因子の混入が避けられない可能性がある。というのは酵素会社でTaqDNAポリメラーゼ等の高純度精製酵素を購入しても、宿主生物のDNAが混入されているケースが多く、その混入がPCRで確認可能であるからである。その場合、異常プリオン蛋白質の感染試験において感染を示したのは実際は蛋白質ではなくDNAである可能性が否定できない。また、この考え方の場合、異常プリオンのプロテアーゼK処理と感染性のカイネティックスが一致しない点も矛盾なく説明できる。
10.CJDでは免疫反応が起こらない事が特徴の1つであるが、ヒトDNA断片(若しくはヒトRNA断片)が感染体の場合、そのヒトDNA断片は異種ではなく、そのDNA断片から産生される蛋白質も異種ではないので、やはり免疫反応は起こらない。
11.CJDにおいては特に「人間の内臓の摂取」が原因の一つとされているが、当該仮説の場合、確かに(摂取したヒト組織に由来するヒトDNA・RNAの暴露に最初に晒される)腸管細胞が最も形質転換状況が激しいと推察できる点と矛盾しない。
12.ヒトDNA断片が感染体の場合、疾病マウスの遺伝子を改変してプリオン蛋白質を作れなくしたマウス株が発病しなくなるのは当然となる。また当該DNA断片がプリオン蛋白質の転写活性因子をコードしている場合、プリオン蛋白の構造遺伝子をノックダウンしたマウス株が感染しなくなるのも矛盾しない。
13.プリオン説の場合、セントラルドグマ(DNA→RNA→蛋白質)を説明できないが、DNA断片(若しくはRNA断片)が感染体の場合は、セントラルドグマ内で説明可能である。
14.以上、述べてきた核酸感染説が正しい場合、カニバリズムが特に激しい民族のゲノムの中には、農耕民族と比較して高い頻度で不自然なDNA断片の挿入が確認できるはずである。何故なら、生殖細胞にまで形質転換されたDNA断片の転移が発生した場合、その転移は遺伝する事が予測されるからである。そして、実際、ロンドン大学によると、特にカニバリズムが激しい系譜の民族はDNA多型が激しい事が報告されている(なおロンドン大学はこれを自然淘汰にて説明しようとしていたが、この考え方の場合、多型は自然淘汰の結果ではない)。
15.蛋白分解酵素や蛋白変性剤で異常プリオン蛋白質の感染性が失活するとされているのは、ヒトの染色体DNAにはヒストン等の蛋白が結合しており、このDNA結合蛋白群がDNA断片群の形質転換に影響を与えていると考えれば矛盾しない。
【0009】
以上、示してきた15点を踏まえて仮説演繹的に考察した場合、CJDの感染体は蛋白質(異常プリオン)でもウイルスでもなく、「臓器移植、角膜移植、広義でのカニバリズム等を通して外部から取り込まれた他のヒト個体のDNA(若しくはRNA)そのものである可能性が最も高いと結論付けられる。この点、今後、コッホの3原則を確認する試験が当然求められるが、1997年のノーベル医学生理学賞がコッホの3原則の確認なしに授与された経緯を踏まえると当該理論のみで一定水準の科学的推察が既にできているものと考えられる。すなわち当該発明における「同種の動物の核酸感染説」はノーベル賞の対象となったプリオン説やスローウイルス説よりも矛盾が少ない。
【0010】
なお、これと同様な事は近年、急激に患者数を増加させているというアルツハイマー病やパーキンソン病の一部に関してもいえる。老年期の痴呆を特徴とするアルツハイマー病やパーキンソン病とされている症状を来たす原因としては
1.アルミニウム系胃腸薬や(ミョウバンを用いた)漬物等の摂取を通したアルミニウム脳症
2.大麻、覚せい剤、リタリンなどの薬物乱用の結果としての脳機能障害
3.交通事故やスポーツ(サッカー、ボクシング等)等における脳への物理的衝撃蓄積による脳機能障害
4.臓器移植や食文化を通したヒト核酸感染による脳機能障害の少なくとも4つが考えられるが、この4つ原因のうち最後の4の場合はCJDと同様に何らかの特定蛋白やmRNAを脳細胞に蓄積させている可能性が予測できる。そして実際、アルツハイマー病やパーキンソン病の一部では、ベータアミロイド蛋白質やα−Synucleinと呼ばれる特定のタンパク質が脳に蓄積する事が知られており、上で考察したCJDと同様のメカニズムでアルツハイマー病やパーキンソン病の一部が発生している可能性がやはり否定できない。なお、この考え方の場合、現在、アルツハイマー病やパーキンソン病とされている疾病は、実は複数の原因で同様な症状を示す脳障害が誤って同じ病気として扱われている可能性がある(この点、統合失調症という概念における問題点と一部は共通している)。その場合、上であげた4つの可能性のうち前者3つは直接的には遺伝しないので、アルツハイマー病が従来、感染しないとされていた矛盾に関しても説明可能となる。特定の蛋白質が組織に蓄積する事が報告されている他のコンフォメーション病や、(mRNAの蓄積が確認できる)筋強直性ジストロフィー症等は、本発明後は、同様な視点で全て洗いなおした方がよいと考えられる。
【0011】
なお活性型レトロトランスポゾンを不活化させるための有効な手段として現在、(目的RNAとハイブリダイズ可能な)一本鎖RNA、若しくはRNA制限酵素を用いた「RNA干渉」の概念が考えられている。当該概念による遺伝子発現抑制機能の研究で2006年のノーベル医学生理学賞がスタンフォード大学のアンドルー・ファイアー博士と、マサチューセッツ大学のクレイグ・メロー博士に授与されているが、当該研究もプリオン研究と同じく、少なくとも以下の5点で不自然であり、捏造の可能性が考えられる。
1.RNA干渉におけるRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)、ダイサー、スライサーの概念が、DNAポリメラーゼのDNA/RNAハイブリッド中の2本鎖特異的5′→3′エキソヌクレアーゼ活性と類似しており、RNA調整時におけるDNAフラグメントの混入が疑われる点。
2.ジャンクDNAの中に200〜255個のマイクロRNA遺伝子があると予測されているが、それらのマイクロRNAが特定の遺伝子の発現抑制を標的にする原理がダーウィン以来の進化論(自然淘汰)に合致しない点。
3.生きた細胞内ではハイブリダイゼーション実験におけるハイブリ後の洗浄ステップを導入できず、その結果,発生しうる非特異的ハイブリダイゼーションを除く術がない。そのため交差反応による非特異的な発現抑制は、致命的な結果になりうる。
4.RNA干渉を専門にしていた東京大学工学部研究室の再現性が確保できず捏造であるという判断を東大は内部委員会を通して下し公表した点。
5.アンチセンスDNA医薬業界が10年以上前から医薬化を試みながら医薬としては結果がほとんど出ていない点。
【0012】
一方、大阪大学医学部は転写因子のDNA結合能に着目した「おとり型核酸医薬(デコイ)」という革新的な概念を提唱している。デコイ型核酸医薬とは,目的の遺伝子とハイブリする核酸配列をもった遺伝子か核酸を導入する方法で,特定の転写因子の結合部位への結合を競合的に阻害することにより、遺伝子発現抑制を行うものである(http://www.cgt.med.osaka−u.ac.jp/cont/c_cont02−b.htm1)。阪大では現在、E2Fデコイ、NFkBデコイ、STAT6デコイ等の開発を進めており、このうちSTAT6デコイはアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患の治療において有意な臨床効果を示している。従って、阪大による当該方法をレトロトランスポゾンゲノムの遺伝子発現抑制に用いれば、CJD等の核酸感染症に対して有効な治療薬が開発できる事が期待されるが、現在のところ、こういった治療戦略は報告されていない。
【0013】
以上、当該戦略(発明)は1997年と2006年の2つのノーベル医学生理学賞(プリオン説、RNA干渉説)を否定する発想から生まれたものであり独創性は高い。当該戦略により、従来にない視点でのCJD、アルツハイマー病、パーキンソン病等の診断薬、治療薬の開発が期待できる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明はクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、アルツハイマー病、パーキンソン病等の病巣細胞内に特定の蛋白質(若しくはmRNA)を蓄積する事を特徴とする疾病の診断法、治療法を開発する技術を提供する事を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、(1)クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、アルツハイマー病、パーキンソン病等で見られるように病巣細胞内に特定の蛋白質(若しくはmRNA)を蓄積する事を特徴とする疾病における患者の病巣(脳、骨髄、筋肉等)細胞から各々、活性型ヒト・レトロトランスポゾンを単離し、そのゲノム構造を健常者のそれと比較解析する事によって、各疾病に特徴的な活性型ヒト・レトロトランスポゾンを特定する。次に得られた活性型ヒト・レトロトランスポゾンを再度、培養細胞もしくは実験動物に対して接種(形質転換)し、同様の蛋白質(若しくはmRNA)の蓄積を示すかどうかを確認する事を特徴とする(上記疾病の原因となる)活性型ヒト・レトロトランスポゾン分離方法、及び当該レトロトランスポゾンゲノム(若しくはその一部)をDNAプローブ、若しくはPCR(若しくはRT−PCR)対象領域として用いる関連疾病の診断方法、(2)1においてCJD、アルツハイマー病等の各々の病巣に特徴的に蓄積する蛋白質(若しくはmRNA)をまず分離し、その一次構造からデザインされたオリゴヌクレオチドをDNAプローブ、若しくはPCRプライマーとして用いて病巣組織cDNAライブラリーから活性型ヒト・レトロトランスポゾンを分離する方法、(3)1においてCJD、アルツハイマー病等の病巣から抽出したmRNAを逆転写する事によって作成したプリメイドcDNAを鋳型として、(ヒト・レトロトランスポゾンのコンセンサス配列をPCRプライマーとした)RT−PCRを行い、健常者での結果と比較する事によってCJD、アルツハイマー病等に特徴的な活性型ヒト・レトロトランスポゾンを分離する方法、(4)1においてディファレンシャル・ハイブリダイゼーション法等を用いてCJD、アルツハイマー病等に特徴的な活性型ヒト・レトロトランスポゾンを分離する方法、(5)ヒト病巣細胞の核抽出液から、レトロトランスポゾンDNAのプロモーター周辺のDNA配列(LTR型レトロトランスポゾンの場合はLTR)に結合する蛋白質を精製し転写因子を同定後、メチル化干渉法、ゲルシフト法、DNaseIフットプリント法、PCR産物を固定化したdsDNAアレイを用いたSPR(表面プラズモン共鳴)イメージング法等を用いて転写因子結合配列を更に正確に判定した後、得られた転写因子結合配列を用いる「おとり型核酸医薬(デコイ)」、(6)1〜5で用いた方法を用いてHIV等のレトロウイルスの診断及び治療を行う方法、(7)1〜6を畜産・ペット動物での同様の疾病に適用する方法,の計7技術のうちの1つ以上を適用すればよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によって従来にない視点でのCJD、アルツハイマー病、パーキンソン病等の診断薬、治療薬の開発が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。まず、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、アルツハイマー病、パーキンソン病等で見られるように病巣細胞内に特定の蛋白質(若しくはmRNA)を蓄積する事を特徴とする疾病における患者の病巣(脳、骨髄、筋肉等)細胞から各々、活性型ヒト・レトロトランスポゾンを単離し、そのゲノム構造を健常者のそれと比較解析する事によって、各疾病に特徴的な活性型ヒト・レトロトランスポゾンを特定する。次に得られた活性型ヒト・レトロトランスポゾンを再度、培養細胞もしくは実験動物に対して接種(形質転換)し、同様の蛋白質(若しくはmRNA)の蓄積を示すかどうかを確認する事によって(上記疾病の原因となる)活性型ヒト・レトロトランスポゾンを分離する事が可能となる。
【0018】
各疾病の病巣からの活性型ヒト・レトロトランスポゾン単離法は少なくとも3つ考えられる。一つは、各々の病巣に特徴的に蓄積する蛋白質(若しくはmRNA)をまず分離し、その一次構造を決定後、そこからデザインされたオリゴヌクレオチドをDNAプローブ、若しくはPCRプライマーとして用いて、病巣組織から抽出したmRNAから作成したcDNAライブラリーに対してハイブリダイズ、若しくはPCR処理を行う事によって目的の活性型ヒト・レトロトランスポゾンを分離する方法である。二つ目の方法は病巣から抽出したmRNAを逆転写する事によって作成したプリメイドcDNAを鋳型として、(ヒト・レトロトランスポゾンのコンセンサス配列をPCRプライマーとした)RT−PCRを行い、健常者での結果と比較する事によってCJD、アルツハイマー病等に特徴的な活性型ヒト・レトロトランスポゾンを分離する方法である。後者の場合、GeneRacerTM RACE−Ready cDNA Kit(インビトロゲン社)の利用が有効であると考えられるが、この場合でも蓄積蛋白質(若しくはmRNA)の一次構造との比較が最終的には求められるものと考えられる。次に三つ目の方法として病巣および健常者の双方から抽出したRNAに対してディファレンシャル・ハイブリダイゼーション法を適用する方法であるが、これは一般的な方法なので特に説明は必要ないと考えられる。なお一つの疾病の病巣から必ずしも一つの活性型レトロトランスポゾンが分離されるとは限らず、複数のレトロトランスポゾンによって複合的な影響が出ている可能性も考える必要性があるだろう。
【0019】
上で述べた手法で分離した各疾病に特異的な活性型レトロトランスポゾンのゲノム解析を行い、その配列データから当該ゲノムに特異的なDNAプローブ、若しくはPCR(若しくはRT−PCR)プライマーをデザインすれば、それらは各疾病に対する遺伝子診断技術として利用可能である。また必要ならば蓄積蛋白質から抗体を作成し、ELISA,ウェスタンブロッティング法等の免疫学的診断法を組み合わせてもよい。当該手法を用いれば、輸血や臓器移植時、更には食品・化粧品検査等におけるリスクコントロールを正確に行う事が可能であり、二次感染者の数が激減する事が期待される。この点、現在の輸血や臓器移植では考慮されていないので、薬害エイズ事件と同様な扱いに将来なりかねない可能性が否定できない。
【0020】
なお最も感染しやすい活性型レトロトランスポゾン感染は同種の生物を摂取(もしくは輸血を含む臓器移植)する事によって起こるものと推察できるが、豚や牛といったヒトとは遺伝的に離れた動物ゲノムにおいても人畜共通感染型レトロトランスポゾンが含まれていないとは言えないので、この点、注意を要する。実際、(血栓溶解剤として利用されている)ストレプトキナーゼといったバクテリア由来の蛋白でもヒトへの注射薬として作用している事実を踏まえれば、バクテリアから家畜に至る幅広い生物のゲノムに含まれている多様な蛋白質の構造遺伝子が摂取者腸管細胞のヒトゲノムに含まれる活性型レトロトランスポゾンの内部に形質転換で入り込む可能性もゼロではない。
【0021】
更には、疾病に由来する活性型レトロトランスポゾンだけでなく健常者を含むヒトや畜産動物等の全組織(脳、大腸、骨髄等)から活性型ヒト・レトロトランスポゾンを分離し、トランスポゾンバンクや、それらの配列データベースを構築する事は、基礎科学的に重要であるだけでなく、多様な疾病に対する遺伝子診断用DNAプローブ、遺伝子診断用PCRプライマー更には以下に述べるワクチン(デコイ)を設計する上でも重要であると考えられる。
【0022】
次に、活性型レトロトランスポゾンを原因とすると見られる各疾病の治療法であるが、有効な戦略の一つは当該遺伝子の発現抑制を行なう事であり、そのためにはレトロトランスポゾンの転写因子に対する「おとり型核酸医薬(デコイ)」を開発するのが最も有効と考えられるが、現在、この戦略的組み合わせは考えられていない。この方法論をとるためには、まず、ヒト病巣細胞の核抽出液から、レトロトランスポゾンDNAのプロモーター周辺のDNA配列(LTR型レトロトランスポゾンの場合はLTR)に結合する蛋白質を精製し転写因子を同定後、メチル化干渉法、ゲルシフト法、DNaseIフットプリント法、PCR産物を固定化したdsDNAアレイを用いたSPR(表面プラズモン共鳴)イメージング法等を用いて転写因子結合配列を更に正確に判定した後、得られた転写因子結合配列を用いる「おとり型核酸医薬(デコイ)」を生産すればよい。
【0023】
当該戦略を用いると、例えば近年、患者数が激増しているとされているアルツハイマー病に対する治療薬として、アルツハイマー病病巣細胞に特徴的に蓄積するとされているベータアミロイド蛋白質のmRNAの転写因子と特異的に結合な核酸(主にDNA)を、頭表皮に対する塗り薬やパッチに「アルツハイマー病ワクチン」として加えるだけで、アルツハイマー病の進行を遅らせる事が可能な治療薬になる効果が期待される。なお前述したように病巣細胞に複数の蛋白質やmRNAが蓄積している場合もありえるが、其の場合は治療薬に複数のデコイを添加すればよいものと考えられる。当該戦略を採用すれば、低コストで各関連疾病に対する「ワクチン」が生産可能になると考えられる。
【0024】
また、このレトロトランスポゾンの転写因子に対するデコイを用いた遺伝子発現制御は、CJD、アルツハイマー病等のレトロトランスポゾン感染症に対する治療薬に限定する必要はなく、レトロトランスポゾンと共通した構造及び機能を持つ、エイズやヒトT細胞白血病ウイルス等のレトロウイルスの治療薬開発にも適用可能と推察できる事は言うまでもない。また当該方法を用いてヒトだけではなく畜産動物やペット動物に対する同様の疾病に対する診断や治療も可能になるものと推察できる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
当該戦略を採用する事によって、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋ジストロフィー等の新たな診断剤及び治療剤の開発が期待でき、この中でも特にアルツハイマー病やパーキンソン病は世界全体にわたって患者数が多いので、膨大な市場性を持つ事が期待される。なおアルツハイマー病による痴呆問題は現在、社会問題に発展しているが当該発明で介護必要者数を軽減できれば、介護経費も大幅に節減できる効果が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、アルツハイマー病、パーキンソン病等で見られるように病巣細胞内に特定の蛋白質(若しくはmRNA)を蓄積する事を特徴とする疾病における患者の病巣(脳、骨髄、筋肉等)細胞から各々、活性型ヒト・レトロトランスポゾンを単離し、そのゲノム構造を健常者のそれと比較解析する事によって、各疾病に特徴的な活性型ヒト・レトロトランスポゾンを特定する。次に得られた活性型ヒト・レトロトランスポゾンを再度、培養細胞もしくは実験動物に対して接種(形質転換)し、同様の蛋白質(若しくはmRNA)の蓄積を示すかどうかを確認する事を特徴とする(上記疾病の原因となる)活性型ヒト・レトロトランスポゾン分離方法、及び当該レトロトランスポゾンゲノム(若しくはその一部)をDNAプローブ、若しくはPCR(若しくはRT−PCR)対象領域として用いる関連疾病の診断方法。
【請求項2】
請求項1においてCJD、アルツハイマー病等の各々の病巣に特徴的に蓄積する蛋白質(若しくはmRNA)を二次元電気泳動等でまず分離し、その一次構造からデザインされたオリゴヌクレオチドをDNAプローブ、若しくはPCRプライマーとして用いて病巣組織cDNAライブラリーから活性型ヒト・レトロトランスポゾンを分離する方法
【請求項3】
請求項1においてCJD、アルツハイマー病等の病巣から抽出したmRNAを逆転写する事によって作成したプリメイドcDNAを鋳型として、(ヒト・レトロトランスポゾンのコンセンサス配列をPCRプライマーとした)RT−PCRを行い、健常者での結果と比較する事によってCJD、アルツハイマー病等に特徴的な活性型ヒト・レトロトランスポゾンを分離する方法。
【請求項4】
請求項1においてディファレンシャル・ハイブリダイゼーション法等を用いてCJD、アルツハイマー病等に特徴的な活性型ヒト・レトロトランスポゾンを分離する方法。
【請求項5】
ヒト病巣細胞の核抽出液から、レトロトランスポゾンDNAのプロモーター周辺のDNA配列(LTR型レトロトランスポゾンの場合はLTR)に結合する蛋白質を精製し転写因子を同定後、メチル化干渉法、ゲルシフト法、DNaseIフットプリント法、PCR産物を固定化したdsDNAアレイを用いたSPR(表面プラズモン共鳴)イメージング法等を用いて転写因子結合配列を更に正確に判定した後、得られた転写因子結合配列を用いる「おとり型核酸医薬(デコイ)」。
【請求項6】
請求項1〜5で用いた方法を用いてHIV等のレトロウイルスの診断及び治療を行う方法。
【請求項7】
請求項1〜6を畜産・ペット動物での同様の疾病に適用する方法。

【公開番号】特開2008−188003(P2008−188003A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−59187(P2007−59187)
【出願日】平成19年2月7日(2007.2.7)
【出願人】(500412183)
【Fターム(参考)】