説明

改変されたニトリラーゼおよびカルボン酸の製造方法におけるその使用

本発明は、改変された基質許容性を有する新規のニトリラーゼ、それらを得る方法、および前記ニトリラーゼの使用に関する。前記ニトリラーゼは、野生型Alcaligenes faecalis中の296番目の位置に相当する位置において、チロシンでないアミノ酸を含むポリペプチド配列によりコードされる。本発明はさらに、前記ニトリラーゼをコードする核酸配列およびアミノ酸配列、前記核酸配列を含む発現構築物、前記核酸配列または発現構築物を含むベクター、前記核酸配列、発現構築物またはベクターを含む生物(好ましくは微生物)に関する。本発明はまた、カルボン酸、好ましくはラセミ体ニトリルから生成される置換キラルカルボン酸を調製する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改変された基質許容性を有する新規のニトリラーゼ、それらを得る方法、および前記ニトリラーゼの使用に関する。前記ニトリラーゼは、野生型Alcaligenes faecalis中の296番目の位置に相当する位置において、チロシンでないアミノ酸を含むポリペプチド配列によりコードされる。本発明はさらに、前記ニトリラーゼをコードする核酸配列およびアミノ酸配列、前記核酸配列を含む発現構築物、前記核酸配列または発現構築物を含むベクター、前記核酸配列、発現構築物またはベクターを含む生物(好ましくは微生物)に関する。本発明はまた、カルボン酸、好ましくは置換キラルカルボン酸をラセミ体ニトリルから調製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キラルおよび光学活性カルボン酸は、多くの製薬または作物保護活性成分の出発物質として、有機化学合成における需要がある。キラルカルボン酸は、ジアステレオマー塩による古典的ラセミ分割に用いることができる。特に関心が持たれているのは、置換または非置換R-(-)-またはS-(+)-マンデル酸である。前記化合物の酵素的合成はニトリラーゼに基づいている。
【0003】
ニトリラーゼは、ニトリルの、対応するカルボン酸およびアンモニウムイオンへの加水分解を触媒する酵素である(Faber, Biotransformations in Organic Chemistry, Springer Verlag, Berlin/Heidelberg, 1992, ISBN 3-540-55762-8)。ニトリラーゼは、当初、植物において発見され(Thimann and Mahadevan (1964) Arch Biochem Biophys 105:133-141)、その後多くの微生物、例えば以下の属:Pseudomonas、Nocardia、Arthrobacter、Fusarium、Rhodoccocus、Klebsiella、Aureobacterium、Alcaligenes、Rhodopseudomonas、Corynebacterium sp. strain KO-2-4、Acinetobacter、Bacillus、Variovorax、Brevibacterium、Caseobacter、MycobacteriumおよびCandidaから単離された(Kobayashi and Shimizu (1994) FEMS Microbiology Letters 120:217-224)。ニトリラーゼは多様な基質特異性を有するが、それらの特異性にしたがって大まかに以下の3つのグループに分けられる:脂肪族ニトリルに特異的なニトリラーゼ、芳香族ニトリルに特異的なニトリラーゼ、およびアリールアセトニトリルに特異的なニトリラーゼ(Kobayashiら(1993) Proc Natl Acad Sci USA 90:247-251;Kobayashi and Shimizu (1994)前掲;Levy-Schilら(1995) Gene 161:15-20;Layhら(1998) J Mol Catal B: Enzymatic 5:467-474)。
【0004】
キラルおよびアキラルカルボン酸およびα-ヒドロキシカルボン酸の、ニトリラーゼを用いた酵素的合成は、当該技術分野において記述されている(例えば、Yamamotoら(1991) Appl Environ Microb 57:3028-3032;Faber, Biotransformations in Organic Chemistry, 第2版, Springer-Verlag, Berlin, 1995;Levy-Schilら(1995) Gene 161:15-20;Cowanら(1998) Extremophiles 2: 207-216;WO 03/000840;WO 96/09403;WO 92/05275、EP-B 0 348 901;US 5,283,193;EP-A-0 449 648、EP-B-0 473 328、EP-B-0 527 553、EP-B-0 332 379、US 5,296,373、EP-A-0 610 048、EP-A-0 610 049、EP-A 0 666 320、WO97/32030)。これらの方法の欠点は、それらが多くの場合光学的純度の低い生成物しかもたらさないこと、および/または、それらが低い空時収率においてのみ進行することである。WO 01/34786は、162番目の位置のシステイン残基の1アミノ酸改変を有する改変されたニトリラーゼを記載している。該ニトリラーゼは、2-ヒドロキシ-4-(メチルチオ)ブチロニトリルを加水分解するのに用いられる。WO 01/34786中の「選択性」(selectivity)は、結果として得られる生成物、2-ヒドロキシ-4-(メチルチオ)ブチルアミドと、2-ヒドロキシ-4-(メチルチオ)ブタン酸の比として定義されている。異なる基質に関するニトリラーゼの選択性については、何も述べられていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
大部分のニトリラーゼは、非常に狭い基質許容性を有し、このことにより、それらニトリラーゼは、許容できる効率では、1つか少数のニトリルの変換にのみ好適となっている。このことが、新規の生成物についての生体触媒による処理の開発の障害であり、かかる方法を経済的に魅力のない方法にしている。従って、改変された、好ましくはより広い基質許容性を有するニトリラーゼを提供することが1つの目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
従って、本発明の最初の実施形態は、ニトリラーゼをコードする単離されたポリペプチドに関し、前記ポリペプチドは、
a) (K/R/H)XXDXXGX(X*)、
b) i) KAINDPVGH(X*)
ii) GH(X*)SRPDV
を含む配列の群から選択されたニトリラーゼ共通配列に対して、少なくとも50%の相
同性を有する配列、
c) i) DP(A/V)GH(X*)SRPDV(L/T)(S/R)L
ii) DPAGH(X*)SRPDVLSLLV
を含む配列の群から選択されたニトリラーゼ共通配列に対して、少なくとも35%の相
同性を有する配列、
を含む配列の群から選択された、少なくとも1つの配列を含み、
前記単離されたポリペプチドに含まれる前記配列において、X*はチロシンでない1個のアミノ酸残基を表し、ここで、X*は配列番号2に記載されている野生型Alcaligenes faecalisニトリラーゼ中の296番目の位置に相当する位置に存在するものである。好ましくは、前記ニトリラーゼ共通配列との相同性が少なくとも40%、さらに好ましくは少なくとも60%または80%、最も好ましくは少なくとも90%または95%である。
【0007】
さらに好ましくは、該ニトリラーゼ共通配列は、DP(A/V)GH(X*)SRPDV(L/T)(S/R)Lであり、最も好ましくは、該ニトリラーゼ共通配列は、DPAGH(X*)SRPDVLSLLVである。
【0008】
特に好ましくは、本発明のニトリラーゼは、
a) (K/R)XXXDXXG(H/Y/S)(X*)、
b) KXXXDXXGX(X*)、
c) KAINDPVGH(X*)、
d) GH(X*)SRPDV、
e) DP(A/V)GH(X*)SRPDV(L/T)(S/R)L、
f) DPAGH(X*)SRPDVLSLLV、
よりなる群から選択された1つの配列を含み、
ここでXはあらゆるアミノ酸を表し、本発明の前記ニトリラーゼに含まれる前記配列において、X*はチロシンでない1個のアミノ酸残基を表し、X*は配列番号2に記載されている野生型Alcaligenes faecalisニトリラーゼ中の296番目の位置に相当する位置に存在するものである。好ましくは本発明のニトリラーゼは、
a) KAINDPVGH(X*)、
b) DP(A/V)GH(X*)SRPDV(L/T)(S/R)L、または、最も好ましくは、
DPAGH(X*)SRPDVLSLLV、
よりなる群から選択された1つの配列を含む。
【0009】
好ましくは、配列番号2に記載されている野生型Alcaligenes faecalisニトリラーゼ中の296番目の位置に相当する位置のアミノ酸残基X*は、システイン、アラニン、アスパラギン、グリシン、セリン、フェニルアラニンおよびトレオニンよりなる群から選択される。さらに好ましくは、アミノ酸残基X*は、アラニン、システイン、アスパラギンおよびセリンよりなる群から選択される。最も好ましくは、アミノ酸残基X*は、アラニン、およびシステインよりなる群から選択される。
【0010】
好ましくは、本発明のニトリラーゼは、配列番号2に記載されている野生型Alcaligenes faecalisニトリラーゼ中の296番目の位置に相当する位置のアミノ酸残基を除いて、該ニトリラーゼと同一のニトリラーゼと比較して、モジュレートされた、さらに好ましくはより広い、基質許容性を示す。
【0011】
本発明の別の実施形態は、本発明のニトリラーゼをコードする核酸配列に関する。
【0012】
本発明のさらに別の実施形態は、本発明のニトリラーゼをコードする少なくとも1つの核酸を含む組換え発現構築物に関する。
【0013】
本発明のさらに別の実施形態は、少なくとも1つの本発明の組換え発現構築物および/または本発明のニトリラーゼをコードする少なくとも1つの核酸を含む組換え発現ベクターに関する。
【0014】
本発明の別の実施形態は、好ましくはモジュレートされた基質許容性を有する、ニトリラーゼの作製方法に関し、該方法は、所与のニトリラーゼ中の、少なくとも配列番号2に記載されている野生型Alcaligenes faecalisニトリラーゼ中の296番目の位置に相当する位置のチロシンを、他のアミノ酸に置換するステップを少なくとも含む。好ましくは、前記置換は、該ニトリラーゼをコードする核酸の変異により実現される。
【0015】
本発明の別の実施形態は、ニトリラーゼの基質許容性をモジュレートする方法に関し、該方法は、該ニトリラーゼ中の、少なくとも配列番号2に記載されている野生型Alcaligenes faecalisニトリラーゼ中の296番目の位置に相当する位置のチロシンを他のアミノ酸に置換することによる。好ましくは該置換は、該ニトリラーゼをコードする核酸の変異により実現される。
【0016】
本発明の別の実施形態は、カルボン酸の製造方法に関し、該方法においては、ニトリルが、1つ以上の本発明のニトリラーゼのうちの1つの作用によって対応するカルボン酸に変換される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図面の簡単な説明
図1:ラセミ体2-クロロマンデロニトリルの変換についての、種々のY296変異体と、対照(control)/標準としてのY296野生型との相対的比活性(RSA)の比較(実施例2参照)。Y軸は相対的比活性(RSA)を表している。比活性は、以下に記載のように測定した。相対的比活性は、野生型(Y296)酵素の活性を1.0に設定して計算した。X軸は、以下の様々な変異体を表している:A(Y296A)、F(Y296F)、C(Y296C)、G(Y296G)、N(Y296N)、T(Y296T)、S(Y296S)。テストした変異体のいずれもが、野生型Y296ニトリラーゼに比べて高い活性を示している。
【0018】
図2:種々のアリールアセトニトリルの変換についての、変異型ニトリラーゼY296Cと野生型ニトリラーゼY296との比較。Y軸は相対的比活性(RSA)を表している。比活性は、以下に記載のように測定した。相対的比活性は、非置換マンデロニトリルに対する活性を100%に設定して計算した。X軸は、以下の様々なテストされた基質を表している:MN(マンデロニトリル)、2-CMN(2-クロロマンデロニトリル)、3-CMN(3-クロロマンデロニトリル)、4-CMN(4-R-クロロマンデロニトリル)、4-BMN(4-ブロモマンデロニトリル)、および4-MeMN(4-メチルマンデロニトリル)。変異体は、非置換マンデロニトリルに対する活性はそのまま保って、テストした置換マンデロニトリルのいずれに対しても顕著に高い活性を示した。
【0019】
図3:2-クロロマンデロニトリルの変換についての、種々の変異型ニトリラーゼの比較。Y軸は相対的比活性(RSA)を表し、これはマンデロニトリルを100%の対照として、以下に記載のように測定し、計算した。X軸は、以下のテストした種々のニトリラーゼを表している。1650:配列番号2に記載されたAlcaligenes faecalis種に由来するニトリラーゼ(野生型)。1650 Y296C:Y296C変異を有する配列番号2に記載されたAlcaligenes faecalis種に由来するニトリラーゼ。1650 Y296A:Y296A変異を有する配列番号2に記載されたAlcaligenes faecalis種に由来するニトリラーゼ。8750:配列番号4に記載されたAlcaligenes faecalis種に由来するニトリラーゼ(野生型)。8750 Y296A:Y296A変異を有する配列番号4に記載されたAlcaligenes faecalis種に由来するニトリラーゼ。338:配列番号6のPseudomonas sp.に由来するニトリラーゼ(野生型)。338 Y297A:Y297A変異を有する配列番号6のPseudomonas sp.に由来するニトリラーゼ。2-クロロマンデロニトリルに対して、テストしたニトリラーゼの全てが、対応する野生型酵素に比べて顕著に高い活性を示している。
【0020】
図4a〜f:全長ニトリラーゼアミノ酸配列のアライメント。以下の配列のアライメントを表している:
表1:図4でアライメントされている配列の起源および参照(文献)
【表1】

【0021】

【0022】
*GenBankもしくはSwissProt登録番号、または特許/特許出願番号のいずれかを示してある。
【0023】
配列番号2に記載された野生型Alcaligenes faecalisニトリラーゼ中の296番目の位置に対応する保存されたチロシン残基は、図4eにおいて矢印で示してある。
【0024】
図5a〜e:全長ニトリラーゼアミノ酸配列のアライメント。WO 03/000840において開示され、R-2-クロロマンデロニトリル変換活性を示すとして記載されている配列を、以下の配列とアライメントした:Alcaligenes faecalisに由来するニトリラーゼNit1650_(DE19848129-A1)、Alcaligenes faecalisに由来するニトリラーゼNitJM3_(P20960;EP0527553)、Alcaligenes faecalisに由来するニトリラーゼNit8750(WO9964607)、およびPseudomonas specに由来するニトリラーゼ。WO 03/000840に由来する配列は特許出願番号の後にその配列番号を示してある、(例えばWO2003000840.332は、WO 03/000840の配列番号332を表している)。配列番号2に記載された野生型Alcaligenes faecalisニトリラーゼ中の296番目の位置に対応する保存されたチロシン残基は、図5dにおいて矢印で示してある。
【0025】
野生型Alcaligenes faecalis中の296番目の位置に相当するチロシン残基の置換は、ニトリラーゼの基質許容性の改変をもたらす。結果として得られるニトリラーゼは、改変されていないニトリラーゼによっては変換することができなかったか、わずかしか変換できなかったニトリル基質を変換しうることが観察された。このことは、経済的に満足できる効率での広範なニトリルの変換を可能にするものであり、これは当該技術分野において公知のニトリラーゼによってはなし得ないことである。この効果は、前記ニトリル基質に対する酵素の触媒活性の増加を伴う。
【0026】
従って、本発明の最初の実施形態は、ニトリラーゼ活性を有するタンパク質をコードする単離されたポリペプチド配列に関し、該ポリペプチドは、配列番号2に記載されている野生型Alcaligenes faecalisニトリラーゼ中の296番目の位置に相当する位置に、チロシン以外の1つのアミノ酸を含む。
【0027】
当該技術分野において記載されているほぼ全てのニトリラーゼ中で、配列番号2に記載されている野生型Alcaligenes faecalis中の296番目の位置に相当するチロシン残基は保存されている。(例えば、WO 03/000840に記載されている)ニトリラーゼであるとの注釈がつけられているポリペプチドのうち少数が、酵素のこの部分に、異なるアミノ酸配列(コンピュータ上で、対応するDNAから推定)を含んでいる。しかしながら、これらの酵素のいくつかは、公知のニトリラーゼの全てに特徴的な、触媒活性に必要な三つ組(catalytic triad)を含んでいないため(Pace & Brenner (2001) Genome Biology 2(1):1-9参照)、それらの差異は、配列決定エラーの結果であるか(例えば、フレームシフトの結果起こった)、それらの配列がニトリラーゼスーパーファミリーの酵素の型に属するものではない可能性が高い。いずれにせよ、これらの酵素は、配列番号2に記載されている野生型Alcaligenes faecalis中の296番目の位置の周辺領域に対して、顕著な相同性をほとんど、または全く有しておらず、上記の配列タグを含まない。
【0028】
「配列番号2に記載されている野生型Alcaligenes faecalis中の296番目の位置に相当する」という語句は、本明細書中で用いられるときには、好ましくはニトリラーゼをコードするポリペプチド配列中の位置を意味するものであって、該ポリペプチド配列について、配列番号2に記載されている配列に対するアライメントを行ったときに、配列番号2に記載されている野生型Alcaligenes faecalis中の296番目の位置の残基に合う(fit)またはそろう(align)位置を意味する。そのようなアライメントは、例えばFASTA(例えば、version 3.3t09 May 18, 2001;スコア行列(scoring matrix):blosum62;Henikoff & Henikoff (1992) Proc Natl Acad Sci USA 89:10915-10919;Pearson WR & Lipman DJ (1988) Proc Natl Acad Sci USA 85:2444-2448)、GAP、またはGAP -ENDWeight(「-ENDWeight」は、終末ギャップに対して他のギャップと同様にペナルティーを課す;スコア行列:blosum62 Henikoff & Henikoff (1992) Proc Natl Acad Sci USA 89:10915-10919;Needleman & Wunsch (1970) J Mol Biol 48:443-453)のようなコンピュータソフトウェアツールを用いて行うことができる。他のニトリラーゼ酵素における、配列番号2に記載されている野生型Alcaligenes faecalis中の296番目の位置に相当する位置はまた、マルチプルアライメント(例えば図4および5に表されているような)によっても同定することができる。以下の表(表2)は、配列番号2に記載されている野生型Alcaligenes faecalis中の296番目の位置に相当する残基を含む領域のアライメントを表している。配列は、GenBank/SwissProtおよび他の供給源(例えば特許出願WO 03/000840)に由来するものである。アライメント(例えば、図4および5に表されているような)は、ClustalWアルゴリズム(Version 1.7、Vector NTI Suite 7 ソフトウェアパッケージのAlignX編に含まれる;Informax;重み付け行列(Weight Matrix):Blosum for proteins;Thompson JDら(1994) Nucl Acids Res 22:4673-4680;Higgins DGら(1996) Methods Enzymol 266:383-402)を用い、以下のパラメータ設定により行った:Gap opening penalty:10;Gap extension penalty:0.05;Gap separation penalty range:8;% identity for alignment delay:40。
【0029】
表2:配列番号2に記載されている野生型Alcaligenes faecalis中の296番目の位置(矢印で指示)を含む領域を表すニトリラーゼの部分配列。「ニトリラーゼ」(2列目)は、アライメントされた配列の供給源を表す。定義は、図(図4および5)に与えられた定義と対応している。「開始(1)」は、対応するニトリラーゼの配列中での、4列目に表されている配列タグの最初のアミノ酸残基の位置を示している。この位置は、配列番号2に記載されている野生型Alcaligenes faecalis中の296番目の位置に相当する実際の位置を計算するのに容易に用いることができる。類似性(similarity)と同一性(identity)は、スコア行列:blosum62と、以下に規定するパラメータを用いて、GAP -ENDWeightアルゴリズムにより算出した。
【表2】

【0030】

【0031】

【0032】

【0033】

【0034】

【0035】

【0036】

【0037】
「約」という語は、本明細書中では、大体、ざっと、おおよそ、またはその領域に、ということを意味する。「約」という語が数値範囲と関連して用いられているときには、説明されている数値の上下の境界を広げることによって範囲を修正する。一般に、「約」という語は、本明細書中では、大小(上下)20%の変動幅で、提示された値の上下の数値を修正するために用いられる。
【0038】
本明細書中で用いられるときには、「または」という語は、個々のリストの構成要員のどれか1つを意味し、ならびにまた、当該リストの構成要員の任意の組み合わせを含む。
【0039】
「核酸」という語は、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドおよびそれらのポリマーまたはハイブリッドを指し、一本鎖または二本鎖、センスまたはアンチセンス型である。この語は、公知のヌクレオチドのアナログまたは修飾されたバックボーン残基またはバックボーン鎖を含む核酸を包含し、それら核酸は合成された、天然に存在する、および非天然に存在するものであり、対照の核酸と同様の結合特性を有し、対照のヌクレオチドと同様に代謝されるものである。そのようなアナログの例は以下のようなものであるが、これに限定されない:ホスホロチオエート、ホスホルアミデート、メチルホスホネート、キラルメチルホスホネート、2-O-メチルリボヌクレオチド、ペプチド核酸(PNA)、および同様のもの。
【0040】
別に示されている場合を除いて、個々の核酸配列はまた、暗黙のうちに、保存的に改変されたそれらの変異体(例:縮重コドン置換)および相補配列を、明示されている配列と同様に包含する。「核酸」という語は、本明細書中においては、「遺伝子」、「cDNA」、「mRNA」、「オリゴヌクレオチド」および「ポリヌクレオチド」と相互に交換できるように用いられる。
【0041】
本明細書中で用いられるときには、「核酸配列」という句は、ヌクレオチドを表す略語、文字(letter)、符号(character)および語の連続した並びを指す。1つの実施形態においては、核酸は「プローブ」であってもよく、これは比較的短い核酸、通常100ヌクレオチド長未満である。多くの場合、核酸プローブは約50ヌクレオチド長から約10ヌクレオチド長である。核酸の「標的領域」は、目的のものであると同定された核酸の一部分である。核酸の「コード領域(coding region)」は、適当な調節配列の制御下に置かれたときに、配列特異的に転写、翻訳され、特定のポリペプチドまたはタンパク質を産生する、核酸の一部分である。該コード領域は、そのようなポリペプチドまたはタンパク質をコードするという言い方をされる。
【0042】
「遺伝子」という語句は、ある方法でポリペプチドの発現を制御できるような適当な調節配列に機能しうる様に連結されたコード領域を指す。遺伝子は、コード領域(オープンリーディングフレーム、ORF)に先行する(上流の)および後に続く(下流の)、DNAの翻訳されない調節領域を含み(例えば、プロモーター、エンハンサー、リプレッサーなど)、同様に、適当ならば、個々のコード領域(すなわちエキソン)の間の介在配列(すなわちイントロン)も含む。
【0043】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、「オリゴペプチド」、「ポリペプチド」、「遺伝子産物」、「発現産物」および「タンパク質」という語句は、本明細書では、相互に交換できるように、連続したアミノ酸残基のポリマーまたはオリゴマーを指すために使用される。これらの語句は、天然に存在するアミノ酸のポリマーに適用されるのと同様に、その中の1つかそれ以上のアミノ酸残基が、天然に存在するアミノ酸に対応するアナログまたはミメティックであるようなアミノ酸ポリマーに適用される。さらに、本明細書で用いられるときには、「ポリペプチド」という語句は、ペプチド結合または修飾ペプチド結合で互いに結合されているアミノ酸を指し、遺伝子をコードする20のアミノ酸以外の修飾アミノ酸を含んでもよい。ポリペプチドは、自然の過程、例えば翻訳後プロセッシングによって、または当該技術分野において公知の化学修飾技術によって修飾されうる。
【0044】
修飾は、ペプチド主鎖、アミノ酸側鎖およびアミノ末端またはカルボキシ末端を含む、ポリペプチド中のいかなる部位においても起こりうる。同じ種類の修飾が、所与のポリペプチドの数ヶ所に、同じ程度あるいは異なる程度で存在しうることはよく理解されるであろう。所与のポリペプチドはまた、多種類の修飾を有することも可能である。修飾とは以下のものを含むが、これによって限定されない:アセチル化、アシル化、ADP-リボシル化、アミド化、共有架橋結合もしくは環状化、フラビンまたはヘム基の共有結合、ヌクレオチドもしくはヌクレオチド誘導体の共有結合、脂質もしくは脂質誘導体の共有結合、ホスファチジルイノシトールの共有結合、ジスルフィド結合形成、脱メチル化、システインもしくはピログルタミン酸形成、ホルミル化、γ-カルボキシル化、グリコシル化、GPIアンカー形成、ヒドロキシル化、ヨウ素化、メチル化、ミリストイル化、酸化、ペグ化(pergylation)、タンパク質分解、リン酸化、プレニル化、ラセミ化、セレノイル化、硫酸化、およびトランスファーRNAを介したタンパク質へのアミノ酸の付加(例えばアルギニル化)(Proteins-Structure and Molecular Properties 第2版, Creighton TE, Freeman WH and Company, New York (1993);Posttranslational Covalent Modification of Proteins, Johnson BC編, Academic Press, New York, pp. 1-12 (1983)参照)。修飾は、短いペプチド(「タグ」、例えば6xHISタグのような)またはより大きなドメイン(例:マルトース結合タンパク質、GST-タンパク質、チオレドキシン)へのN末端またはC末端融合も含む。
【0045】
「アミノ酸」という語句は、天然に存在するアミノ酸および合成アミノ酸を指し、同様に、天然に存在するアミノ酸と同様に機能するアミノ酸アナログおよびアミノ酸ミメティックを指す。天然に存在するアミノ酸は、遺伝子コードによりコードされるもの、同様に、後に修飾されたそれらのアミノ酸、例えばヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタミン酸、およびO-ホスホセリンである。アミノ酸アナログとは、天然に存在するアミノ酸と同じ基本化学構造、すなわち、水素に結合した炭素、カルボキシル基、アミノ基およびR基を有する化合物である(例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウム)。
【0046】
本明細書中で用いられるときには、「アミノ酸配列」という語句は、アミノ酸残基を表す略語、文字(letter)、符号(character)および語の連続した並びを指す。アミノ酸は、本明細書においては、一般に知られている3文字の記号、またはIUPAC-IUB生化学命名法委員会(IUPAC-IUB Biochemical Nomenclature Commission)により推奨されている1文字の記号のいずれによって表されてもよい。ヌクレオチドは同様に、一般に受け入れられている1文字コードによって表され得る。本明細書で用いている略記は一般的なアミノ酸の1文字コードである:A、アラニン;B、アスパラギンもしくはアスパラギン酸;C、システイン;D、アスパラギン酸;E、グルタミン酸;F、フェニルアラニン;G、グリシン;H、ヒスチジン;I、イソロイシン;K、リジン;L、ロイシン;M、メチオニン;N、アスパラギン;P、プロリン;Q、グルタミン;R、アルギニン;S、セリン;T、トレオニン;V、バリン;W、トリプトファン;Y、チロシン;Z、グルタミンもしくはグルタミン酸(L. Stryer, Biochemistry, 1988, W. H. Freeman and Company, New Yorkを参照)。「X」の文字は、本明細書においてアミノ酸配列中に用いられているときには、いかなるアミノ酸残基でもよいことを表す。
【0047】
「単離された」という語句は、本明細書中で用いられるときには、ある物質が、その元いた環境から取り去られたことを意味する。例えば、生きた動物中にある、天然に存在するポリヌクレオチドまたはポリペプチドは単離されていないが、同じポリヌクレオチドまたはポリペプチドが、天然の系で共存している物質の一部または全部から分離されていれば、それは単離されている。そのようなポリヌクレオチドはベクターの一部となることができ、および/またはそのようなポリヌクレオチドまたはポリペプチドはある組成物の一部となることができ、そのようなベクターまたは組成物がその元いた環境の一部ではないという意味で、それらは単離されている。
【0048】
「天然」または「天然由来(起源)」という語句は、本明細書の文脈においては、少なくとも1種の生物内に存在する利用可能な生物、ポリペプチドまたは核酸配列であって、変化も変異もしておらず、また他の方法による人為的な操作を加えられていないものを意味する。
【0049】
「組換え」という語句は、例えば、核酸配列(または該核酸配列を含む生物、発現カセットもしくはベクター)に関して、組換え法により起こる全ての構築物を指し、該構築物においては、
a) 前記核酸配列、または
b) 前記核酸配列a)に機能しうる様に連結された遺伝的調節配列、例えばプロモーター、または
c) (a)および(b)
のいずれかが、その元来の遺伝的環境に位置していないか、組換え法により改変されている、例えば1個以上のヌクレオチド残基の置換、付加、欠失、転移または挿入などの改変がされている構築物を指す。元来の遺伝的環境とは、元の生物においての元来の染色体上遺伝子座を指すか、またはゲノムライブラリー中に存在することを指す。ゲノムライブラリーの場合には、核酸配列の元来の遺伝的環境が、少なくとも部分的には保持されているのが好ましい。該環境は、少なくとも一方の側に核酸配列をつなげており、少なくとも50bp長、好ましくは少なくとも500bp長、特に好ましくは少なくとも1000bp長、非常に好ましくは少なくとも5000bp長の配列を有している。天然に存在する発現カセット(例えば天然に存在する、プロモーターとそれに対応する遺伝子の連結)は、天然でない、合成的な「人工的」方法(例えば変異導入)により改変されれば、組換え発現カセットになる。そのような方法は既に記載されている(US 5,565,350;WO 00/15815;上記も参照のこと)。好ましくは、「組換え」という語句は、本明細書中で用いられるときには、核酸に関して、核酸がその元来の環境において隣接していなかった核酸と共有結合により連結され、隣接していることを意味する。
【0050】
「組換え」ポリペプチドもしくはタンパク質は、組換えDNA技術により産生された、すなわち、所望のポリペプチドもしくはタンパク質をコードする外来性組換えDNA構築物により形質転換された細胞から産生されるポリペプチドもしくはタンパク質を指す。
【0051】
組換え核酸およびポリペプチドはまた、天然に存在せず、改変、変化、変異または他の方法で人為的に操作された分子を含んでいてもよい。「組換えポリペプチド」は、天然には存在しないポリペプチドで、配列において少なくとも1個のアミノ酸残基が、天然に存在するポリペプチドと異なっているものである。前記組換えポリペプチドおよび/または核酸を作製する好ましい方法は、部位特異的もしくは非部位特異的突然変異導入、DNAシャッフリングまたは他の帰納的(recursive)組換えの方法を含んでいてもよい。かかる組換え分子を得る特に好ましい方法は、遺伝子シャッフリングを含む。シャッフリング法は当該技術分野において公知であり、例えばWO 01/12817およびその中で引用されている参照文献に記載されている。「シャッフリング」という語句は、本明細書中においては同一でない配列間の組換えを指し、いくつかの実施形態においては、シャッフリングは相同組換えまたは非相同組換え(例えばcre/loxおよび/またはflp/frt系のような)を介した交差を含む。シャッフリングは、例えば以下の方法を含む種々の異なる形式を採用して行うことができる:in vitroおよびin vivoシャッフリング形式、in silicoシャッフリング形式、二本鎖もしくは一本鎖鋳型のいずれかを用いたシャッフリング形式、プライマーに基づくシャッフリング形式、核酸断片化に基づくシャッフリング方式、オリゴヌクレオチドを介したシャッフリング形式(これらは全て、非同一配列間の組換え事象に基づいており、本明細書において以下により詳細に記載する、もしくは参照する)、ならびに組換えに基づく他の類似の形式。
【0052】
「合成」ポリペプチドもしくはタンパク質は、化学合成(例えば、固層ペプチド合成)により生成されたペプチドである。化学的ペプチド合成は、当該技術分野において公知であり(例えば、Merrifield (1963), Am. Chem. Soc. 85: 2149-2154;Geysenら(1984) Proc Natl Acad Sci USA 81:3998を参照)、合成キットおよび自動ペプチド合成機が市販されている(例えば、Cambridge Research Biochemicals, Cleveland, United Kingdom;Model 431A synthesizer, Applied Biosystems, Inc., Foster City, CA)。そのような装置は、直接合成または他の公知の技術により連結することができる一連の断片の合成によって、本発明のペプチドを容易に得ることを可能にする。
【0053】
「同一性(identity)」という語句は、2つの核酸配列に関して本明細書中で用いられるときには、プログラムアルゴリズムGAP(Wisconsin Package Version 10.0, University of Wisconsin, Genetics Computer Group (GCG), Madison, USA; Altschulら(1997) Nucleic Acids Res. 25:3389 以下を参照)を用いて、以下のパラメータを設定することで算出される同一性を意味するものと解される:
Gap weight: 50
Length weight: 3
Average match: 10
Average mismatch: 0。
【0054】
例えば核酸レベルで配列番号1の配列との少なくとも60%の相同性を有する配列は、上記のプログラムアルゴリズムにより、上記のパラメータセットを用いて行った、配列番号1の配列との比較において、少なくとも60%の同一性を有する配列を意味するものと解される。必要に応じて、スコア行列blosum62を用いた。
【0055】
「同一性」という語句は、2つのポリペプチドに関して本明細書中で用いられるときには、プログラムアルゴリズムGAP(Wisconsin Package Version 10.0, University of Wisconsin, Genetics Computer Group (GCG), Madison, USA)を用いて、以下のパラメータを設定することで算出される同一性を意味するものと解される:
Gap weight: 8
Length weight: 2
Average match: 2,912
Average mismatch: -2,003。
【0056】
例えばタンパク質レベルで配列番号2の配列との少なくとも60%の相同性を有する配列は、上記のプログラムアルゴリズムにより、上記のパラメータセットを用いて行った、配列番号2の配列との比較において、少なくとも60%の同一性を有する配列を意味するものと解される。
【0057】
本明細書中で用いられるときには、ヌクレオチド配列に関して、「相同性(homology)」は「同一性」と同じ意味を有する。しかしながら、アミノ酸配列に関しては、「相同性」は同一かつ保存的な(conservative)アミノ酸置換のパーセンテージを含む。相同性のパーセンテージは、以下のアルゴリズムによって、スコア行列blosum62を用いて算出することができる:Smith and Waterman (1981) Adv Appl Math 2:482、およびNeedleman & Wunsch (1970) J Mol Biol 48:443-453。
【0058】
本明細書中で2以上のヌクレオチド配列に関して用いられるときには、比較され、最大対応(maximum correspondence)についてアライメントされたときに、上述の公知の配列比較アルゴリズムを用いて測定して、少なくとも99.5%のヌクレオチド同一性を有する場合には、2つの配列は「実質的に同一」である。さらに、配列同士が実質的に同一かどうか決定する目的では、コード領域の同義語コドンは、遺伝的コードの縮重のために同一であるとして扱ってもよい。典型的には、実質的な同一性を決定するべき領域は、少なくとも約20残基にわたっていなければならず、配列が少なくとも25〜200残基にわたって実質的に同一であるのが最も一般的である。
【0059】
本明細書中で2以上のアミノ酸配列に関して用いられるときには、最大対応(maximum correspondence)について比較し、アライメントされたときに、上述の公知の配列比較アルゴリズムを用いて測定して、少なくとも99.5%の同一性を有する場合には、2つの配列は「実質的に同一」である。さらに、配列同士が実質的に同一かどうか決定する目的では、保存的なアミノ酸置換は、ポリペプチドがその生物学的機能を実質的に保っていれば、同一であるとして扱ってもよい。
【0060】
「ハイブリダイゼーション」は、核酸鎖が相補鎖と、相補塩基同士における水素結合を介して結合する過程を指す。ハイブリダイゼーションアッセイは、所望の特定配列がサンプル中に低濃度でしか存在しなくても、その配列を同定することができるほど感度がよく選択的でありうる。ストリンジェントな条件とは、プレハイブリダイゼーションおよびハイブリダイゼーション溶液中の塩濃度またはホルムアミド濃度、および/またはハイブリダイゼーション温度により規定され、当該技術分野においてはよく知られている。ストリンジェンシーは、塩濃度の低下、ホルムアミド濃度の上昇、またはハイブリダイゼーション温度の上昇により高くすることができる。「標準条件」という語句は、本明細書中で用いられるときには、例えば当該核酸に応じて、以下の条件を意味する:42〜58℃の温度、0.1〜5x SSC(1x SSC=0.15M NaCl、15mMクエン酸ナトリウム、pH7.2)の間の濃度の水性緩衝溶液、またはさらに50%ホルムアミド存在下、例えば、5x SSC中で42℃、50%ホルムアミド。DNA:DNAハイブリッドのハイブリダイゼーション条件は、好ましくは0.1x SSC、約20℃〜45℃の間、好ましくは約30℃〜45℃の間の温度を含む。DNA:RNAハイブリッドのハイブリダイゼーション条件は、好ましくは0.1x SSC、約30℃〜55℃の間、好ましくは約45℃〜55℃の間の温度を含む。ハイブリダイゼーションについて提示されるこれらの温度は、一例として、ホルムアミド非存在下において、約100ヌクレオチド長でG+C含量が50%の核酸について計算された融解温度である。DNAハイブリダイゼーションの実験条件は、適当な遺伝学の教科書、例えばSambrookら, “Molecular Cloning”, Cold Spring Harbor Laboratory, 1989に記載されており、当業者に公知の公式によって、例えば核酸の長さ、ハイブリッドの性質またはG+C含量から計算することができる。当業者は、ハイブリダイゼーションについてのさらなる情報を以下の教科書中に見出すことができる:Ausubelら編, 1985, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New
York;Hames and Higgins編, 1985, Nucleic Acids Hybridization: A Practical Approach, IRL Press at Oxford University Press, Oxford;Brown編, 1991, Essential Molecular Biology: A Practical Approach, IRL Press at Oxford University Press, Oxford。特に、本明細書中で用いられるときには、「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」は、42℃、50%ホルムアミド中、5x SSPE、0.3%SDS、および200ng/ml剪断変性サケ精子DNA、およびそれと同等の条件を含む。上記の範囲および条件についての変動は、当該技術分野においては公知である。
【0061】
「変異体(variant)」という語句は、本明細書中で用いられるときには、1個以上のヌクレオチドまたはアミノ酸残基が改変された本発明のポリヌクレオチドまたはポリペプチドを(それぞれ)指し、コードされたポリペプチドまたはポリペプチドは、ニトリラーゼ活性を保持している。変異体は例えば以下のものを含めた多数の方法のいずれによっても作成することができる:変異性(error-prone)PCR、シャッフリング、オリゴヌクレオチドを介した部位特異的突然変異導入、アッセンブリーPCR、セクシャルPCR突然変異導入、in vivo突然変異導入、カセット突然変異導入、帰納的集合(recursive ensemble)突然変異導入、指数集合突然変異導入、部位特異的突然変異導入、遺伝子再アッセンブリー、遺伝子部位飽和突然変異導入またはそれらの組み合わせのいずれか。
【0062】
「保存的に改変された変異体」は、アミノ酸および核酸配列の両者に適用される。特定の核酸配列に関して、保存的に改変された変異体とは、同一か、本質的に同一なアミノ酸配列をコードする核酸を指し、または、核酸がアミノ酸配列をコードしていない場合には、本質的に同一の配列を指す。具体的には、縮重コドン置換は、1つかそれ以上の選択された(もしくは全ての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基によって置換された配列を作製することにより行われうる(Batzerら(1991) Nucleic Acid Res 19:5081;Ohtsukaら(1985) J Biol Chem 260:2605-2608;Rossoliniら(1994) Mol Cell Probes 8:91-98)。遺伝的コードの縮重により、機能的に同一の多くの核酸が所与のタンパク質をコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCGおよびGCUは全てアミノ酸アラニンをコードする。従って、コドンによってアラニンが規定されている全ての位置において、コドンは、コードされたポリペプチドを変えることなく、上記の対応するコドンのいずれにでも代えることができる。そのような核酸の変異は「サイレント変異」であり、保存的に改変された変異の一種である。本明細書において列挙されている、ポリペプチドをコードする全ての核酸配列は、全ての可能な核酸のサイレント変異をも表している。当業者は、核酸のそれぞれのコドン(AUGを除く:これはいくつかの生物においてのGUGと同様に、通常メチオニンに対する唯一のコドンである、およびTGGを除く:これは通常トリプトファンに対する唯一のコドンである)を改変して機能的に同一の分子を得ることが可能であることを認識するものと思われる。さらに、ポリペプチドをコードする核酸のそれぞれのサイレント変異は、記載されたそれぞれの配列に潜在的に包含されている。
【0063】
アミノ酸配列については、当業者は、コードされた配列中の1個のアミノ酸または小さな割合の複数のアミノ酸を変化、付加または欠失させるような核酸、ペプチド、ポリペプチドもしくはタンパク質配列の個々の置換、欠失または付加は、当該変化が化学的に類似のアミノ酸とのアミノ酸置換をもたらすものである場合には、「保存的に改変された変異体」であると認識するものと思われる。機能的に類似のアミノ酸を提供する保存的置換表は、当該技術分野においてよく知られている。そのような保存的に改変された変異体は、本発明の多型変異体、種間相同体、および対立遺伝子(allele)に加わり、除外されるものではない。
【0064】
「ニトリラーゼ」という語句は、本明細書中で用いられるときには、ニトリラーゼ活性を示す全てのポリペプチドを含む。
【0065】
「ニトリラーゼ活性」という語句は、一般的にはニトリルを対応するカルボン酸とアンモニアに加水分解する能力を意味する。好ましくは「ニトリラーゼ活性」は、対応するカルボン酸の形成をもたらす、ニトリル基への2モル当量の水の付加:
R-CN + 2 H2O →" R-COOH + NH3
を触媒する性質を意味する。
【0066】
好ましくは、「ニトリラーゼ」という語句は、EC分類3.5.5.1(ニトリラーゼ)、3.5.5.2(リシニンニトリラーゼ)、3.5.5.4(シアノアラニンニトリラーゼ)、3.5.5.5(アリールアセトニトリラーゼ)、3.5.5.6(ブロモキシニルニトリラーゼ)、および3.5.5.7(脂肪族ニトリラーゼ)を含む。アリールアセトニトリラーゼ(EC 3.5.5.5)がより好ましい。
【0067】
ニトリラーゼは、ニトリラーゼ活性を有する酵素の間で特徴的に保存されている、保存されたアミノ酸残基もしくはモチーフを含みうる。これらの保存された残基は、例えばいくつかのニトリラーゼの配列のアライメントによって同定することができる。保存された残基は例えば、配列番号2に記載されている野生型Alcaligenes faecalisニトリラーゼの配列の163番目の位置のシステイン残基を含み、該残基はニトリラーゼの反応メカニズムに関与している(Kobayashiら(1993) Proc Natl Acad Sci USA 90:247-251)。保存されたモチーフの3つの領域が、ニトリラーゼポリペプチド中に同定された。それらは、ニトリラーゼ酵素に存在する触媒活性に必要な三つ組(E-K-C)に対応する(Pace & Brenner (2001) Genome Biology 2(1):1-9):
1. fPEaf
2. hRKl.pT
3. l.CWEn..p
(大文字はニトリラーゼ間での90%かそれ以上の共通性を表し、小文字は50%かそれ以上の共通性を表している。配列中のピリオドは保存されていない残基を表している。好ましくは、以下の残基(下線が引かれているもの)は同定されたニトリラーゼ全ての間で完全に保存されている:最初のモチーフもしくは領域の3番目のアミノ酸(E、グルタミン酸);2番目のモチーフの2番目の残基(R、アルギニン);2番目のモチーフの3番目の残基(K、リジン);3番目のモチーフの3番目の残基(C、システイン);および3番目のモチーフの5番目の残基(E、グルタミン酸)。
【0068】
本発明で、基準配列は配列番号2に記載されている野生型Alcaligenes faecalisニトリラーゼに由来するニトリラーゼである。特定のアミノ酸もしくは核酸の位置についての全ての定義、表示、および記載は、前記配列の一次配列との比較に基づくものであり、当業者によって、例えば図4または5に描かれているような配列アライメントを用いて、他のニトリラーゼに移すことができる。
【0069】
ニトリラーゼは、天然、合成または組換えに由来するものでありうる。天然にニトリラーゼを発現する多くの生物が当該技術分野において知られている。好ましくは、本発明に従って改変されるニトリラーゼは、細菌、酵母、真菌、植物または動物由来のニトリラーゼから選択される。さらに好ましくは、ニトリラーゼは微生物に由来するものであり、最も好ましくは細菌に由来するものである。ニトリラーゼはまた、例えば土壌もしくは海洋材料のような環境供給源から、生物を詳細に同定することなく単離することもできる。
【0070】
多数のニトリラーゼおよびその配列が、当該技術分野において公知である。これらのニトリラーゼは、以下のものに由来するニトリラーゼを含むが、これによって限定されない:Acidovorax facilis 72W (Gavagan JEら(1999) Appl Microbiol Biotechnol 52:654-659)、Acinetobacter sp. AK 226 (Yamamoto K and Komatsu K (1991) Agric Biol Chem 55(6):1459-1466)、Acinetobacter sp. RFB1 (Finnegan Iら(1991) Appl Microbiol Biotechnol 36:142-144)、Alcaligenes faecalis ATCC 8750 (Yamamoto Kら(1991) Appl Environ Microbiol 57(10):3028-3032)、Alcaligenes faecalis JM3 (Nagasawa Tら(1990) Eur J Biochem 194:765-772)、Arabidopsis thaliana (NIT1/NIT2/NIT3;Vorwerk Sら(2001) Planta 212:508-516)、Arthrobacter sp. J-1 (Bandyopadhyay AKら(1986) Appl Environ Microbiol 51(2):302-306)、Bacillus pallidus Dac521 (Cramp Rら(1997) Microbiology 143:2313-2320)、Comamonas sp. NI1 (Cerbelaud Eら(1996) Ind Chem Libr 8:189-200)、Comamonas testosteroni sp. (Levy-Schil Sら(1995) Gene 161:15-20)、Fusarium oxysporum f. sp. melonis (Goldlust A and Bohak Z (1989) Biotechnol Appl Biochem 11:581-601)、Fusarium solani (Harper BH (1977) Biochem J 167:685-692)、Klebsiella ozaenae (McBride KEら(1986) Appl Environ Microbiol 52(2):325-330)、Pseudomonas fluoreszenz DSM 7155 (Layh Nら(1998) J Mol Catal B: Enzym 5:467-474)、Pseudomonas sp. (Layh Nら(1992) Arch Mircobiol 158:405-411)、Pseudomonas sp. (S1) (Dhillon Jら(1999) Can J Microbiol 45: 811-815)、Pseudomonas sp. 13 (Yanase Hら(1982) Agric Biol Chem 46:2925)、Rhodococcus rhodochrous J1 (Kobayashi Mら(1989) Eur J Biochem 182:349-356)、Rhodococcus rhodochrous K22 (Kobayashi Mら(1990) J Bacteriol 172(9):4807-4815)、Rhodococcus rhodochrous NCIB 11215 (Harper BH (1985) Int J Biochem 17(6):677-683)、Rhodococcus rhodochrous NCIB 11216 (Harper BH (1977) Biochem J 165:309-319)、Rhodococcus rhodochrous PA34 (Bhalla TCら(1992) Appl Microbiol Biotechnol 37:184-190)、Rhodococcus sp. ATCC 39484 (Stevenson DEら(1992) Biotechnol Appl Biochem 15:283-302)、および環境供給源から単離され、例えばWO 03/000840、WO 01/48175、およびWO 02/279079に記載されたニトリラーゼ。
【0071】
本発明の単離されたポリペプチドは、ニトリラーゼ活性を有する酵素をコードし
a) (K/R/H)XXDXXGX(X*)、
b) i) KAINDPVGH(X*)
ii) GH(X*)SRPDV
を含む配列の群から選択されたニトリラーゼ共通配列に対して、少なくとも50%、好
ましくは少なくとも60%、さらに好ましくは少なくとも70%または80%、最も好ま
しくは少なくとも90%または95%の相同性を有する配列、
c) i) DP(A/V)GH(X*)SRPDV(L/T)(S/R)L
ii) DPAGH(X*)SRPDVLSLLV
を含む配列の群から選択されたニトリラーゼ共通配列に対して、少なくとも35%、好
ましくは少なくとも40%、さらに好ましくは少なくとも60%または80%、最も好ま
しくは少なくとも90%または95%の相同性を有する配列、
を含む配列の群から選択された、少なくとも1つの配列を含み、
前記ニトリラーゼ活性を有する酵素に含まれる前記配列において、X*はチロシンでない1個のアミノ酸残基を表し、X*は配列番号2に記載されている野生型Alcaligenes faecalisニトリラーゼ中の296番目の位置に相当する位置に存在するものである。
【0072】
特に好ましくは、本発明のニトリラーゼは、
a) (K/R)XXXDXXG(H/Y/S)(X*)、
b) KXXXDXXGX(X*)、
c) KAINDPVGH(X*)、
d) GH(X*)SRPDV、
e) DP(A/V)GH(X*)SRPDV(L/T)(S/R)L、
f) DPAGH(X*)SRPDVLSLLV、
よりなる群から選択された1つの配列を含み、
ここでXはあらゆるアミノ酸を表し、本発明の前記ニトリラーゼに含まれる前記配列において、X*はチロシンでない1個のアミノ酸残基を表し、X*は配列番号2に記載されている野生型Alcaligenes faecalisニトリラーゼ中の296番目の位置に相当する位置に存在するものである。好ましくは本発明のニトリラーゼは、
a) KAINDPVGH(X*)、
b) DP(A/V)GH(X*)SRPDV(L/T)(S/R)L、または、最も好ましくは、
DPAGH(X*)SRPDVLSLLV、
よりなる群から選択された1つの配列を含む。
【0073】
好ましい実施形態においては、残基X*は、システイン、アラニン、アスパラギン、グリシン、セリン、フェニルアラニンおよびトレオニンよりなる群から選択される。さらに好ましくは、残基X*は、アラニン、システイン、アスパラギンおよびセリンよりなる群から選択される。最も好ましくは、残基X*は、アラニン、およびシステインよりなる群から選択される。
【0074】
好ましい実施形態においては、本発明のニトリラーゼはさらに、
a) 配列番号2、4、6、または8のアミノ酸配列と少なくとも60%、好ましくは80%、
さらに好ましくは90%、最も好ましくは95%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプ
チド分子;
b) 配列番号2、4、6、または8に記載された配列のうち、少なくとも1つの、少なく
とも20の連続したアミノ酸、好ましくは50の連続したアミノ酸の断片を含むポリペ
プチド分子、
よりなる群から選択された1つのポリペプチド配列により表されることを特徴とする。
【0075】
当該技術分野において公知のニトリラーゼは当業者に公知の多数の方法によって、本発明のニトリラーゼに変異または変換することができる。突然変異導入法はランダムなものまたは部位特異的なものであってもよく、例えば以下の方法を含んでいてもよい:W0 98/42727に記載されているもの;部位特異的突然変異導入(Lingら(1997) Anal Biochem. 254(2):157-78;Daleら(1996) Methods Mol Biol 57:369-74;Smith (1985) Ann Rev Genet 19:423-462;Botstein & Shortle (1985) Science 229:1193-1201;Carter (1986) Biochem J 237 :1-7;Kunkel (1987)「オリゴヌクレオチドを介した部位特異的突然変異導入の効率」("The efficiency of oligonucleotide directed mutagenesis") Nucleic Acids & Molecular Biology, Eckstein F and Lilley DMJ編, Springer Verlag, Berlin);ウラシル含有鋳型を用いた突然変異導入(Kunkel (1985) Proc Natl Acad Sci USA 82:488-492;Kunkel TAら(1987) Methods in Enzymol 154, 367-382;Bass SVら(1988) Science 242:240-245);オリゴヌクレオチドを介した部位特異的突然変異導入(総説として以下を参照:Smith (1985) Ann Rev Genet 19:423-462;Botstein & Shortle (1985) Science 229:1193-1201;Carter (1986) Biochem J 237:1-7、Zoller & Smith (1982) Nucleic Acids Res 10:6487-6500、Zoller & Smith (1983) Methods in Enzymol 100,468-500、Zoller & Smith (1987) Methods in Enzymol. 154,329-350);ホスホチオエート修飾DNA突然変異導入(Taylorら(1985) Nucl Acids Res 13: 8749-8764;Taylorら(1985) Nucl Acids Res 13:8765-8787 (1985);Nakamaye and Eckstein (1986) Nucl Acids Res 14:9679-9698;Sayersら(1988) Nucl Acids Res 16:791-802;Sayersら(1988) Nucl Acids Res 16:803-814);ギャップを有する二本鎖DNAを用いた突然変異導入(Kramerら(1984) Nucl Acids Res 12:9441-9456;Kramer and Fritz (1987) Methods in Enzymol 154:350-367;Kramerら(1988) Nucl Acids Res. 16:7207;Fritzら(1988) Nucl Acids Res 16:6987-6999)。
【0076】
ニトリラーゼ配列の改変は、例えば天然由来の酵素をコードする配列に対する突然変異導入により行われてもよい(Skandalisら(1997) Chemistry & Biology 4:8889-898;Crameriら(1998) Nature 391:288-291)。突然変異導入は、以下のものを含む:変異原性化学物質(Singer and Fraenkel-Conrat (1969) Prog Nucl Acid Res Mol Biol 9:1-29)、変異性(error-prone)PCRによる突然変異導入(Leungら(1989) Technique 1:11-15)、結合性PCR(combinative PCR)によるもの(Crameriら(1998)前掲;Shaoら(1998) Nucleic Acids Res 26:681-683)、または部位特異的突然変異導入によるもの(Directed Mutagenesis: A Practical Approach (1991) McPherson MJ編IRL PRESS)、など。さらに、本発明で使用されるニトリラーゼは、DNAバンクのスクリーニングによって得られてもよく、DNAバンクは、特に多様な供給源からのcDNAもしくはゲノムDNAバンク、特にニトリラーゼの組換えおよびランダム変異、指向性分子進化または土壌もしくは他のビオトープのDNAライブラリーのスクリーニングにより得られたDNAのバンクである。
【0077】
さらなる好適な方法は、以下のものを含む:点ミスマッチ修復(point mismatch repair)(Kramerら(1984) Cell 38: 879-887)、修復欠損宿主系統を用いた突然変異導入(Carterら(1985)Nucl Acids Res 13: 4431-4443 (1985);Carter (1987) Methods in Enzymol. 154:382-403)、欠失突然変異導入(deletion mutagenesis)(Eghtedarzadeh & Henikoff (1986) Nucl Acids Res 14:5115)、制限選択(restriction-selection)および制限純化(restriction-purification)(Wellsら(1986) Phil Trans R Soc Lond A317: 415-423)、全遺伝子合成による突然変異導入(Nambiarら(1984) Science 223:1299-1301;Sakamar & Khorana (1988) Nucl Acids Res 14:6361-6372;Wellsら(1985) Gene 34: 315-323 (1985);Grundstromら(1985) Nucl Acids Res. 13:3305-3316)、二本鎖崩壊修復(double-strand break repair)(Mandecki (1986) Proc Natl Acad Sci. USA 83:7177-7181)。上記の方法の多くについてのさらなる詳細は、Methods in Enzymology、Vol. 154の中に見出すことができ、この文献はまた、種々の突然変異導入法におけるトラブルシューティング問題の有用な管理についても記載している。さらに、他のランダム突然変異導入(例えば、変異原性細菌系統を通過させること、および同様のもの)の適用によっても変異を導入することが可能である。
【0078】
突然変異導入のキットは市販されている。例えば、Stratagene 、Bio-Rad、Roche、Clontech Laboratories、Life Technologies (Gibco BRL)、New England Biolabs、Pharmacia BiotechおよびPromega Corp.から、キットが入手可能である。
【0079】
配列番号2に記載されている野生型Alcaligenes faecalisニトリラーゼ中の296番目の位置に相当する位置における他のアミノ酸による変異に加えて、ニトリラーゼに新規の、もしくは改変された性質をもたらすために、さらなる変異を行うことが可能である。このことは、当該技術分野において「指向性進化(directed evolution)」として知られている工程により実現されうる。この方法では、改良された性質を示す変異体を反復的な方法により選択しつつ、酵素を物質的に変異させる方法を組み合わせる(Arnold & Volkov (1999) Current Opin Chem Biol 3:54-59;Kuchner and Arnold (1997) Tibtech 15:523-530)。例えば、WO 01/12817に記載されている方法およびそこで引用されている方法のような方法を用いることができる。改変されたニトリラーゼを得るための好ましい方法は、部位特異的または非部位特異的突然変異導入、DNAシャッフリングまたは他の帰納的組換えの方法を含んでもよい。好ましい実施形態においては、核酸の「ファミリー」(例えば、異なる種に由来するニトリラーゼをコードする核酸配列)のシャッフリングが、組換えポリヌクレオチドのライブラリーを作製するのに用いられる。核酸のファミリーをシャッフリングするときには、異なる系統、種、または遺伝子ファミリーもしくはその一部に由来する相同なポリペプチドをコードする核酸が、核酸の異なる型として用いられる。
【0080】
本発明は、ニトリラーゼをコードするポチヌクレオチドの組換えライブラリーを作製することを含んでもよく、該ライブラリーは、その後以下のような所望の性質を示すニトリラーゼをコードするライブラリーのメンバーを同定するためにスクリーニングされる:例えば、増大した酵素活性、立体特異性(stereospecificity)、部位特異性(regiospecificity)および鏡像異性体特異性(enantiospecificity)、阻害剤への低下した感受性、処理安定性(例えば、溶媒安定性、pH安定性、温度安定性、など)、および同様のもの。組換えライブラリーは、種々の方法のいかなるものを用いても作製することができ、これらの方法には例えばWO 01/12817およびそこで引用されている参照文献に記載されているシャッフリングプロトコルを含むが、これに限定されない。
【0081】
「基質許容性」という語句は、本明細書中で用いられるときには、特定のニトリル基質を変換するニトリラーゼの能力を意味する。好ましくは、基質許容性は酵素のニトリラーゼ活性により測定される。
【0082】
本発明の特定のニトリラーゼに関して、「より広範な基質許容性」という語句は、該特定のニトリラーゼが、配列番号2に記載されている野生型Alcaligenes faecalisニトリラーゼ中の296番目の位置に相当する位置にチロシンを含むこと以外は該特定のニトリラーゼと同じアミノ酸配列によりコードされるニトリラーゼと比較して、少なくとも1つのニトリラーゼ基質についてより高いニトリラーゼ活性を示すことを意味する。好ましくは該活性は、少なくとも10%、好ましくは20%、さらに好ましくは50%、最も好ましくは100%かそれ以上増大する。
【0083】
好ましくは本発明のニトリラーゼは、アリールアセトニトリルに対して、さらに好ましくは置換マンデロニトリルに対して、増大した活性を示す。マンデロニトリルのアリール基は1つ以上の置換基を有していてもよい。好ましい置換基は、アルキル(好ましくはメチル)、アルコキシ(好ましくはメトキシ)、ハロゲンまたはニトロである。置換マンデロニトリルは、以下のものよりなる群から選択されてもよいが、これによって限定されない:o-フルオロマンデロニトリル、p-フルオロマンデロニトリル、m-フルオロマンデロニトリル、o-クロロマンデロニトリル、p-クロロマンデロニトリル、m-クロロマンデロニトリル、o-ブロモマンデロニトリル、p-ブロモマンデロニトリル、m-ブロモマンデロニトリル、o-ニトロマンデロニトリル、p-ニトロマンデロニトリル、m-ニトロマンデロニトリル、o-メチルマンデロニトリル、p-メチルマンデロニトリル、m-メチルマンデロニトリル、o-メトキシマンデロニトリル、p-メトキシマンデロニトリルまたはm-メトキシマンデロニトリル。o-クロロマンデロニトリルがより好ましい。
【0084】
好ましくは、本発明の方法を用いて光学活性カルボン酸が製造され、該カルボン酸は、以下のものよりなる群から選択される、少なくとも1つの化合物を含む:R-マンデル酸、S-マンデル酸、R-p-クロロマンデル酸、S-p-クロロマンデル酸、R-m-クロロマンデル酸、S-m-クロロマンデル酸、R-o-クロロマンデル酸、S-o-クロロマンデル酸、S-o-ブロモマンデル酸、S-p-ブロモマンデル酸、S-m-ブロモマンデル酸、S-o-メチルマンデル酸、S-p-メチルマンデル酸、S-m-メチルマンデル酸、R-o-ブロモマンデル酸、R-p-ブロモマンデル酸、R-m-ブロモマンデル酸、R-o-メチルマンデル酸、R-p-メチルマンデル酸またはR-m-メチルマンデル酸。R-o-クロロマンデル酸がより好ましい。
【0085】
また本発明の別の実施形態は、本発明のニトリラーゼをコードする核酸配列を含む。好ましくは該核酸配列は、ニトリラーゼ活性を有する酵素をコードしており、該酵素は、
a) (K/R/H)XXDXXGX(X*)、
b) i) KAINDPVGH(X*)
ii) GH(X*)SRPDV
を含む配列の群から選択されたニトリラーゼ共通配列に対して、少なくとも50%、好
ましくは少なくとも60%、さらに好ましくは少なくとも70%または80%、最も好ま
しくは少なくとも90%または95%の相同性を有する配列、
c) i) DP(A/V)GH(X*)SRPDV(L/T)(S/R)L
ii) DPAGH(X*)SRPDVLSLLV
を含む配列の群から選択されたニトリラーゼ共通配列に対して、少なくとも35%、好
ましくは少なくとも40%、さらに好ましくは少なくとも60%または80%、最も好ま
しくは少なくとも90%または95%の相同性を有する配列、
を含む配列の群から選択された、少なくとも1つの配列を含み、
前記ニトリラーゼ活性を有する酵素に含まれる前記配列において、X*はチロシンでない1個のアミノ酸残基を表し、X*は配列番号2に記載されている野生型Alcaligenes faecalisニトリラーゼ中の296番目の位置に相当する位置に存在するものである。
【0086】
さらに好ましくは、本発明の核酸は、
a) (K/R)XXXDXXG(H/Y/S)(X*)、
b) KXXXDXXGX(X*)、
c) KAINDPVGH(X*)、
d) GH(X*)SRPDV、
e) DP(A/V)GH(X*)SRPDV(L/T)(S/R)L、
f) DPAGH(X*)SRPDVLSLLV、
よりなる群から選択された1つの配列を含むニトリラーゼをコードし、
ここでXはあらゆるアミノ酸を表し、本発明の前記ニトリラーゼに含まれる前記配列において、X*はチロシンでない1個のアミノ酸残基を表し、X*は配列番号2に記載されている野生型Alcaligenes faecalisニトリラーゼ中の296番目の位置に相当する位置に存在するものである。
【0087】
より一層好ましくは、本発明の核酸は、
a) KAINDPVGH(X*)、
b) DP(A/V)GH(X*)SRPDV(L/T)(S/R)L、または、最も好ましくは、
DPAGH(X*)SRPDVLSLLV、
よりなる群から選択された1つの配列を含む、ニトリラーゼ活性を有する酵素をコードしている。
【0088】
好ましい実施形態においては、残基X*は、システイン、アラニン、アスパラギン、グリシン、セリン、フェニルアラニンおよびトレオニンよりなる群から選択される。さらに好ましくは、残基X*は、アラニン、システイン、アスパラギンおよびセリンよりなる群から選択される。最も好ましくは、残基X*は、アラニン、およびシステインよりなる群から選択される。
【0089】
最も好ましくは、本発明の核酸配列はさらに、
a) 配列番号1、3、5、または7の核酸配列と少なくとも60%、好ましくは80%、
さらに好ましくは90%、最も好ましくは95%同一である核酸配列;
b) 配列番号1、3、5、または7に記載された配列のうち、少なくとも1つの、少なく
とも20の連続した塩基、好ましくは50の連続した塩基、さらに好ましくは100の連
続した塩基の、少なくとも1つの断片を含む核酸配列、
よりなる群から選択された1つの配列により表されることを特徴とする。
【0090】
本発明のニトリラーゼの組換え発現のためには、該ニトリラーゼをコードする核酸配列は、発現構築物に組み込まれていてもよい。
【0091】
「発現構築物(expression construct)」という語句は、一般的には、その発現(転写および、必要に応じて、翻訳)がニトリラーゼを産生するものである核酸分子が、好ましくは少なくとも1つの遺伝的調節エレメントと機能しうる形で連結されている、いずれかの核酸構築物を意味する。「遺伝的調節配列」という語句は、広い意味で理解されるべきものであり、本発明の発現カセットもしくは組換え微生物の実現、増殖または機能に対して影響を及ぼす全ての配列を指す。これらの遺伝的調節エレメントは、例えば、誘導因子もしくは抑制因子が結合する配列であり、従って核酸の発現を調節する。遺伝的調節配列は、原核生物もしくは真核生物中での転写および/または翻訳を、増強し、調節し、確実にし、または修飾しうる。遺伝的調節配列は、例えば以下の文献に記載されている:「Goeddel; Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, CA (1990)」、「Gruber and Crosby, in: Methods in Plant Molecular Biology and Biotechnolgy, CRC Press, Boca Raton, Florida, Glick and Thompson編, Chapter 7, 89-108」、およびそれらによって引用されている参照文献。
【0092】
これらの新規な調節配列に加えて、実際の構造遺伝子の上流に(前方に)存在することがこれらの配列の自然な調節のために可能であり、および、必要であれば、自然な調節が停止され、遺伝子の発現が増加するように遺伝的に改変されていることが可能である。核酸構築物は、しかしながら、より簡素な構造を有していてもよく、つまり、本発明の核酸配列の上流にいかなる追加の調節シグナルも挿入されておらず、調節作用を持った生来のプロモーターが欠失していない。その代わり、生来の調節配列は、調節作用が働かず、遺伝子発現が増加するように変異させられている。核酸構築物はさらに、1つ以上のエンハンサー配列を含んでいることも都合がよく、該配列は核酸配列の発現の増加を可能にするものであり、プロモーターと機能的に連結している。当該DNA配列の3’末端に、例えば他の調節エレメントやターミネーターのようなさらなる有利な配列を挿入することもまた可能である。本発明の核酸は、該構築物中で、1コピーまたはそれ以上で存在しうる。該構築物はまた、適宜、構築物の選別のための抗生物質耐性または栄養要求補完遺伝子のようなマーカーをさらに含んでもよい。
【0093】
好ましい実施形態においては、本発明のニトリラーゼをコードする核酸配列は、生物(例えば、微生物または植物)中でのその発現を確かにする少なくとも1つのプロモーター配列と、機能しうる形で連結している。
【0094】
機能しうる形での連結(operable linkage)は、当該核酸配列が組換えによって発現されるときに、それぞれの調節エレメントがその機能を遂行できるように、例えば、プロモーターと、発現される核酸配列(例えばニトリラーゼ)および、適宜、例えばターミネーターのようなさらなる調節エレメントが、連続して配置されることを意味するものと解される。化学的な意味での直接的結合は、必ずしも要求されるものではない。例えばエンハンサー配列のような遺伝的調節配列は、さらに離れた位置から標的配列に対してその機能を発揮することも可能であり、実際別のDNA分子からでも可能である。好ましい配置は、組換えにより発現される核酸配列が、プロモーターとして働く配列の後ろに位置しており、2つの配列はお互いに共有結合している。プロモーター配列と、組換えにより発現される核酸配列の距離は、好ましくは500塩基対未満であり、特に好ましくは200塩基対未満、非常に好ましくは100塩基対未満である。
【0095】
機能しうる形での連結、および発現カセットは、例えば以下の文献に記載されている通常の組換えおよびクローニング技術を用いて作製することができる:Maniatis T, Fritsch EF and Sambrook J (1989) Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor (NY)、Silhavy TJ, Berman ML and Enquist LW (1984) Experiments with Gene Fusions, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor (NY)、Ausubel FMら(1987) Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Assoc. and Wiley InterscienceおよびGelvinら(1990) In: Plant Molecular Biology Manual。しかしながら、例えば制限酵素の特定の切断サイトを有するリンカーとして、またはシグナルペプチドとして働く別の配列が、前記の2つの配列の間に位置していてもよい。配列の挿入により、融合タンパク質を発現させることもできる。
【0096】
本発明の発現カセットは、さらなる遺伝的調節配列として、組換えにより発現される当該核酸配列の5’上流のそれぞれの宿主生物におけるプロモーター機能と、3’下流におけるターミネーター配列と、必要に応じて、別の通常の調節エレメントを包含し、いずれも組換えにより発現される核酸配列と、機能しうる形で連結している。
【0097】
本発明の発現カセットまたはベクターで形質転換される宿主生物に応じて、好ましい遺伝的調節配列が異なる。
【0098】
微生物において本発明を実施するための有利な調節配列は、以下のようなプロモーター中に存在する:cos、tac、trp、tet、trp-tet、lpp、lac、lpp-lac、lacIq、T7、T5、T3、gal、trc、rhaP (rhaPBAD)、ara、SP6、λ-PRまたはλ-PLプロモーター、これらはグラム陰性細菌において有利に用いられる。別の有利な調節配列は、例えば、グラム陽性プロモーターamyおよびSPO2、真菌または酵母プロモーターADC1、MFα、AC、P-60、CYC1、GAPDH、TEF、rp28、ADH中のものである。ピルビン酸デカルボキシラーゼのプロモーターおよび、例えばHansenula pr Pichiaに由来するメタノールオキシダーゼのプロモーター(例えばAOXプロモーター)もこれに関して有利である。調節に人工プロモーターを用いることもまた可能である。
【0099】
植物生物でのニトリラーゼの発現に好適な植物特異的プロモーターは、構成(constitutive)プロモーターを含んでもよい(例えば、CaMV 35Sプロモーター(Franckら(1980) Cell 21:285-294)、OCSプロモーター、ユビキチンプロモーター(Holtorf Sら(1995) Plant Mol Biol 29:637-649)、Arabidopsis thalianaニトリラーゼ1遺伝子プロモーター(GenBank登録番号:U38846、ヌクレオチド3862-5325または-5342)、組織特異的プロモーター(例えばファセオリン(phaseolin)プロモーター;US 5,504,200)または化学的に誘導可能なプロモーター(総説:Gatzら(1997) Annu Rev Plant Physiol Plant Mol Biol 48:89-108))。
【0100】
原則的には、上述したような、調節配列を有するすべての天然のプロモーターを、本発明の方法に用いることができる。さらに、合成プロモーターも有効に用いることができる。
【0101】
本発明の発現カセットまたはベクターは、さらなる機能的エレメントを含んでもよい。機能的エレメントという語句は、広い意味で理解されるべきものであり、本発明の発現カセット、ベクターもしくは組換え生物の作製、増幅または機能に対して影響を及ぼす全てのエレメントを指す。以下のものに一例として言及するが、これによって限定されない:
a) 選択マーカー
選択マーカーは、形質転換または相同組換えに成功した細胞を選別し、分離するのに有用であり、時間が経つ間に染色体外のDNA構築物が失われるのを防ぐのに有用である。選択マーカーは、代謝阻害剤(例えば2-デオキシグルコース-6-リン酸、WO 98/45456)、抗生物質(例えば、アンピシリン、テトラサイクリン、カナマイシン、G 418、ブレオマイシンまたはハイグロマイシン)または除草剤(例えば、ホスフィノトリシンまたはグリホサート)のような殺生性化合物に対する耐性を与える。
【0102】
原核生物についての好適な選択マーカーは、以下のものを含んでもよいが、これによって限定されない:Amp(アンピシリン耐性;β-ラクタマーゼ)、Cab(カルベニシリン耐性)、Cam(クロラムフェニコール耐性)、Kan(カナマイシン耐性)、Rif(リファンピシン耐性)、Tet(テトラサイクリン耐性)、Zeo(ゼオシン耐性)、またはSpec(スペクチノマイシン耐性)。選択圧は、培地中の一定レベルの抗生物質により保たれる(例えば、アンピシリン100mg/l、カルベニシリン100mg/l、クロラムフェニコール35mg/l、カナマイシン30mg/l、リファンピシン200mg/l、テトラサイクリン12.5mg/l、スペクチノマイシン50mg/l)。
【0103】
植物での使用には、特に好ましい選択マーカーは、除草剤に対する耐性を与えるものである。例としては、ホスフィノトリシンアセチルトランスフェラーゼ(PAT;de Blockら(1987) EMBO J 6: 2513-2518)、5-エノールピルビルシキミ酸-3-リン酸合成酵素(EPSPS)、スルホニルウレア-およびイミダゾリノン不活性化アセト乳酸合成酵素、ブロモキシニル(Bromoxynil(登録商標))分解ニトリラーゼ(bxn)がある。他の真核生物においては、カナマイシン-またはG418-耐性遺伝子(NPTII;NPTI)を用いることができる。
【0104】
選択マーカーはさらに、宿主生物における遺伝的欠陥、例えばアミノ酸合成欠損の補完に好適な配列を含む。補完は、宿主細胞が当該アミノ酸を欠損した培地中で生育することを可能にする。例えばトリプトファン合成欠損(例えばtrpC)、ロイシン合成欠損(例えばleuB)、またはヒスチジン合成欠損(例えばhisB)が好適である。対応する微生物の系統は市販されており(例えばClontech Inc.から)、それぞれTRP1、Leu2、またはHIS3のような選択マーカーによって補完することができる。
【0105】
b) 転写終結配列:転写終結配列は、意図しない転写(例えばリードスルー(読み飛ばし;read-through))を防ぎ、プラスミドおよび/またはmRNAの安定性および/または量を増やす。
【0106】
c) シャイン-ダルガノ配列(Shine-Dalgarno sequences;SD)は翻訳の開始に有用である。大腸菌での発現における好適な共通配列は、例えば:5'-TAAGGAGG-3'である。該配列は、ATG開始コドンの4〜14ヌクレオチド上流に位置することができ、最適なのは8ヌクレオチドである。RNAの二次構造(これは翻訳効率を低下させることがある)を防ぐために、好ましくは当該領域はA/T-リッチであるべきである。
【0107】
d) 開始コドン:開始コドンは翻訳の開始点である。大腸菌およびさらに高等な真核生物においては、ATGは最もよく用いられる開始コドンである。大腸菌では、GTGを代わりに用いることもできる。
【0108】
e) タグおよび融合タンパク質:組換えタンパク質と、比較的短いペプチド(「タグ」)または他のタンパク質(「融合タンパク質」)とのNまたはC末端融合は、発現、可溶性、検出、または精製を改善させるのに用いることができる。好ましくは、融合部分はプロテアーゼ(例えば、トロンビンもしくはX因子)切断サイトを含む:これにより、発現および精製後の融合部分の除去が可能になる。
【0109】
f) マルチクローニングサイト(MCS)は1つ以上の核酸配列の挿入を可能にし、容易にする。
【0110】
g) 終止コドン/翻訳ターミネーター:3つの可能な終止コドンのうち、TAAが好ましい(TAGおよびTGAは、ある状況においてはリードスルー翻訳を許すことがあるため)。複数の終止コドンを、翻訳の終結を確かにするために用いることもできる。
【0111】
h) レポーター遺伝子:レポーター遺伝子は、容易に定量可能なタンパク質をコードし、それらの色や酵素活性を介して、形質転換効率、発現部位または発現時期の評価を可能にする。これに関して特に好ましいのは、レポータータンパク質をコードする遺伝子であり(Schenborn E & Groskreutz D (1999) Mol Biotechnol 13(1):29-44)、レポータータンパク質は例えば緑色蛍光タンパク質(green fluorescent protein;GFP)、クロラムフェニコールトランスフェラーゼ、ルシフェラーゼ(Owら(1986) Science 234:856-859)、またはβ-ガラクトシダーゼである。
【0112】
i) 複製起点、これは例えば大腸菌内での本発明の発現カセットまたはベクターの増幅を確かにするものである。言及すべき例は、ORI(DNA複製起点)、pBR322 oriもしくはP15A oriである(Sambrookら: Molecular Cloning. A Laboratory Manual,第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989)。
【0113】
j) アグロバクテリウムを介した植物形質転換に必要なエレメント、例えばT-DNAの右もしくは左の境界またはvir領域。
【0114】
k) シャペロンタンパク質(例えば、GroELS、dnaKJ、grpE、またはclpB)の発現を仲介する発現カセット。このタンパク質は、特に組換え発現システムにおいて、正しく折りたたまれたタンパク質レベルを上げることが知られている(US 5,635,391)。
【0115】
l) 宿主での増幅中に、プラスミドの分離および分配を促進するエレメント(例えば、cerサイト;Wilms Bら(2001) Biotechnol Bioeng 73(2):95-103)。
【0116】
本発明の発現カセットの、生物やその細胞、組織、器官、断片または種子への導入は、発現カセットを含むベクターを用いて有利に達成できる。発現カセットは、適当な制限切断サイトを介してベクター(例えばプラスミド)に導入することができる。作製されたプラスミドはまず、大腸菌に導入される。正しく形質転換された大腸菌は、選別され、生育させられて、当業者に公知の方法により、該組換えプラスミドが得られる。制限解析および配列決定は、クローニング段階を確認するのに役立つことがある。ベクターの例は、プラスミド、コスミド、ファージ、ウイルスまたはアグロバクテリウムである。有利効な実施形態においては、発現カセットはプラスミドベクターを用いて導入される。
【0117】
大腸菌での好適なプラスミドの例は、pUC18、pUC19、pBlueScriptシリーズ、pKK223-3、pJOE2702、pBAD、pLG338、pACYC184、pBR322、pUC18、pUC19、pKC30、pRep4、pHS1、pHS2、pPLc236、pMBL24、pLG200、pUR290、pIN-III113-B1、λgt11またはpBdCIであり、StreptomycesではpIJ101、pIJ364、pIJ702またはpIJ361、BacillusではpUB110、pC194またはpBD214、CorynebacteriumではpSA77またはpAJ667、真菌ではpALS1、pIL2またはpBB116、酵母では2μM、pAG-1、YEp6、YEp13またはpEMBLYe23、植物ではpLGV23、pGHlac+、pBIN19、pAK2004またはpDH51である。より高等な真核生物(例えば哺乳類)細胞での発現のためのベクターは、SV40、パピローマウイルス、アデノウイルス、またはポリオーマウイルスに基づくウイルス配列を含むものである(Rodriquez RL & Denhardt DT編; Vectors : A survey of molecular cloning vectors and their uses, Butterworths (1988), Lenstraら(1990) Arch Virol 110:1-24)。前記プラスミドは、使用可能なプラスミドのうちのわずかな選択対象を示したものである。別のプラスミドが、当業者に公知であり、例えばCloning Vectors (Pouwels PHら編 Elsevier, Amsterdam-New York-Oxford, 1985, ISBN 0 444 904018)という本の中に見出すことができる。本発明のニトリラーゼの発現が可能なように、調節配列の制御下に該核酸配列を含む全ての組換え核酸分子は、本発明の一部であるとみなされる。
【0118】
本発明はさらに、組換え生物またはその組織、器官、断片、細胞または繁殖材料に関し、それらは本発明のニトリラーゼ、該ニトリラーゼをコードする核酸配列、該核酸配列を含む組換え発現カセット、または該発現カセットを含む組換えベクターを含むものである。
【0119】
そのような組換え生物は、例えば対応するタンパク質もしくは核酸を用いた形質転換またはトランスフェクションによって作製される。形質転換された生物(または形質転換された細胞もしくは組織)の作製は、当該DNA(例えば発現ベクター)、RNAもしくはタンパク質の、当該宿主細胞への導入を必要とする。多様な方法が、この工程に利用可能であり、形質転換(transformation)(または形質導入(transduction)またはトランスフェクション(transfection))と呼ばれている(Keownら(1990) Methods in Enzymology 185:527-537)。例えば、DNAもしくはRNAは、微小注入(microinjection)またはDNAでコートされた微小粒子を撃ち込むことにより、直接的に導入されうる。さらに、細胞を、例えばポリエチレングリコールを用いて透過性にすることが可能であり、これによりDNAは拡散により細胞内に進入しうるようになる。DNAはまた、リン酸カルシウムを介して、またはミニセル(minicell)、リソソームまたはリポソームのようなDNA含有単位との融合により導入することができる。DNA導入の他の好適な方法はエレクトロポレーションであり、この方法では電気的パルスにより細胞を可逆的に透過性にする。一般的な好ましい方法は、以下のものを含むが、これによって限定されない:リン酸カルシウムを介した形質転換、DEAE-デキストランを介した形質転換、カチオン性脂質を介した形質転換、エレクトロポレーション、形質導入および感染。これらの方法は、当業者によく知られている(Davisら(1986) Basic Methods In Molecular Biology;Sambrook Jら(1989) Molecular cloning: A laboratory manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press;Ausubel FMら(1994) Current protocols in molecular biology, John Wiley and Sons;Glover DMら(1995) DNA Cloning Vol.1, IRL Press ISBN 019-963476-9)。
【0120】
植物においては、これらの「直接的」形質転換技術に加えて、形質転換をAgrobacterium tumefaciensまたはAgrobacterium rhizogenesを用いた細菌感染によっても行うことができる。アグロバクテリウムを介した形質転換は双子葉植物細胞に最も適している。該方法は文献に記載され、当該技術分野において公知である(Horsch RBら(1985) Science 225: 1229f.;EP 120 516;Hoekema, In: The Binary Plant Vector System, Offsetdrukkerij Kanters B.V., Alblasserdam, Chapter V;Anら(1985) EMBO J 4:277-287)。アグロバクテリウムを用いるときには、発現カセットは特定のプラスミド、シャトルベクターもしくは仲介ベクターのいずれか、またはバイナリーベクター(binary vector)に組み込まれる。バイナリーベクターを用いることが好ましい(Holstersら(1978) Mol Gen Genet 163:181-187)。種々のバイナリーベクターが公知であり、その一部、例えばpBI101.2またはpBIN19(Clontech Laboratories, Inc. USA)は市販されている。
【0121】
形質転換された細胞は、選択マーカーが導入されたDNAに含まれている場合には、形質転換されていない細胞から選別することができる。マーカーとして働くことができる遺伝子の例は、抗生物質もしくは除草剤への耐性を与えることができる全ての遺伝子であり、上述されている。植物に関して、当業者は植物細胞または植物断片から完全な植物を再生する方法についてよく知っている。そのような方法は、例えばFennellら(1992) Plant Cell Rep. 11: 567-570;Stoegerら(1995) Plant Cell Rep. 14:273-278; Jahneら(1994) Theor Appl Genet 89:525-533に記載されている。
【0122】
本発明はまた、本発明の核酸配列、本発明の発現カセットもしくは本発明のベクターのうち少なくとも1つを用いて形質転換された組換え生物に関し、細胞、細胞培養、組織、断片(例えば植物の場合には、葉、根および同様のもの)またはそれらの生物に由来する繁殖材料に関する。生物という語句は、広い意味で理解されるべきであり、原核生物または真核生物を指し、好ましくは細菌、酵母(例えば、Saccharomyces、KluyveromycesまたはPichia)、真菌(例えば、AspergillusまたはPenicilium)、ヒト以外の動物および植物生物を指す。好ましい植物生物は、上記に示してある。
【0123】
「微生物」または「細菌」という語句は、グラム陽性およびグラム陰性細菌を含む。好ましいものは、Enterobacteriaceaeの全ての属および種、およびActinomycetalesの全ての目および種である。特に好ましいものは、Enterobacteriaceaeの種Escherichia、Serratia、Proteus、Enterobacter、Klebsiella、Salmonella、Shigella、Edwardsielle、Citrobacter、Morganella、Providencia、およびYersiniaである。別の好ましいものは、以下の全ての種である:Agrobacterium、Pseudomonas、Burkholderia、Nocardia、Acetobacter、Gluconobacter、Corynebacterium、Brevibacterium、Bacillus、Clostridium、Cyanobacter、Staphylococcus、Aerobacter、Alcaligenes、RhodococcusおよびStreptomyces。組換えニトリラーゼの発現のためには、Escherichia属が最も好ましく、特に大腸菌(Escherichia coli)が好ましい。
【0124】
「植物」または「植物生物」という語句は、本明細書中で用いられるときには、光合成を行うことができる全ての生物を意味する。好ましくは、該生物は、分化した、多細胞の有機体である。この語句は、植物界の高等および下等な植物の全ての属および種を含む。さらに、成熟した植物、種子、芽および若木、および断片、それに由来する繁殖材料および培養物、例えば細胞培養物が含まれる。特に好ましいものは、単子葉植物および双子葉植物であり、さらに好ましいものは、動物もしくはヒトの食物または食品用、または工業利用のための培養植物であり、以下のようなものである:トウモロコシ、コムギ、オオムギ、カノラ、大豆、コメ、サトウキビ、サトウダイコン、ジャガイモ、ビート、タバコ、綿、など。
【0125】
組換え生物は、生物の形質転換もしくはトランスフェクションについての上述の方法を用いて作製することができる。
【0126】
本発明の微生物は、該微生物が生育できるような培地中で生育および繁殖させることができる。該培地は、合成または天然由来でありうる。当該微生物に応じて種々の培地が利用可能であり、それらの培地は当業者に公知である。微生物の生育のために、培地は炭素源、窒素源、無機塩および任意に少々のビタミンおよび/または微量元素を含む。
【0127】
好ましい炭素源は、例えばグリセロール、糖類のようなポリオールであり、糖類としては例えば以下のものがある:単糖、二糖または多糖(例えばグルコース、フルクトース、マンノース、キシロース、ガラクトース、リボース、ソルボース、リブロース、ラクトース、マルトース、スクロース、ラフィノース、でんぷんまたはセルロース)、複合糖源(例えば糖液)、糖リン酸(例えばフルクトース-1,6-ビスリン酸)、糖アルコール(例えばマンニット)、アルコール(例えばメタノールまたはエタノール)、カルボン酸(例えばクエン酸、乳酸または酢酸)、油および脂質(例えば大豆油または菜種油)、アミノ酸またはアミノ酸混合物(例えばカザミノ酸;Difco)または個々のアミノ酸(例えばグリシン、アスパラギン)またはアミノ糖、最後のものは窒素源としても利用できる。より好ましいものはグルコースおよびポリオール、特にグリセロールである。
【0128】
好ましい窒素源は有機もしくは無機窒素化合物または該化合物を含む物質である。例としては以下のものがある:アンモニア塩(例えばNH4Clまたは(NH4)2SO4)、ニトレート、尿素、および複合窒素源(例えば、ビール酵母自己分解物、大豆粉末、コムギグルテン、酵母抽出物、ペプトン、食肉抽出物、カゼイン加水分解物、酵母またはジャガイモタンパク質(これは頻繁に炭素源としての役割をする)。
【0129】
無機塩の例は、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、コバルト、モリブデン、マンガン、カリウム、亜鉛、銅および鉄の塩を含む。対応する陽イオンの塩化物、硫酸塩、硫化物、およびリン酸イオンが特に好ましい。生産性の増強において重要な点は、培地中のFe2+もしくはFe3+イオン濃度の調節である。
【0130】
任意に、培地はさらなる生育因子を含んでもよく、そのような因子としては例えば以下のようなものがある:ビタミンまたは生育促進剤(例えばビオチン、2-ケト-L-グルコン酸、アスコルビン酸、サイアミン、葉酸、ニコチン酸、パントテネートまたはピリドキシン)、アミノ酸(例えばアラニン、システイン、プロリン、アスパラギン、グルタミン、セリン、フェニルアラニン、オルニチンまたはバリン)、カルボン酸(例えばクエン酸、ギ酸、乳酸)またはジチオトレイトールのような物質。
【0131】
個々の栄養素のバランスは、発酵の方法に依存し、それぞれの条件に適応させられる。培地成分は、必要ならば事前に滅菌した後に、発酵の開始時に与えられていてもよく、または発酵工程中の培養条件に従って、連続的、もしくは断続的に加えられてもよい。
【0132】
発酵および生育条件は、生成物の最適収量(例えばニトリラーゼ活性の最適収量)を保証するように選択される。好ましい発酵条件は、15℃〜40℃の間、好ましくは25℃〜37℃である。pHは好ましくはpH3〜9の範囲に保たれ、好ましくはpH5〜8である。一般的には発酵時間は数時間から数日間を要し、好ましくは8時間から21日間、より好ましくは4時間から14日間である。培地および発酵条件の最適化の方法は、当該技術分野において公知である(Applied Microbiol Physiology, “A Practical Approach” PM Rhodes, PF Stanbury編, IRL-Press, 1997, S.53-73, ISBN 0 19 963577 3)。
【0133】
本発明はさらに、光学的に活性な、キラル、もしくはアキラルカルボン酸を調製する方法に関し、該方法は、本発明の核酸によってコードされるアミノ酸配列、または生育中、休眠中または破壊された上述の微生物(=宿主生物)であって、本発明の核酸、1以上の調節シグナルと連結された本発明の核酸を含む本発明の核酸構築物、または本発明のベクターのいずれかを含むものの存在下に、ニトリルを、光学的に活性な、キラル、もしくはアキラルカルボン酸に変換することを含む。
【0134】
この方法の有利な実施形態は、光学的に活性な、キラル、もしくはアキラル脂肪族ニトリルの、対応するカルボン酸への変換である。
【0135】
「ニトリル」(nitrile)という語句は、本明細書中で用いるときには、好ましくは少なくとも1つのニトリル基(nitrile grouping)を有するいかなる有機化合物をも意味する。「ニトリル」という語句はまた、アルデヒドもしくはケトンとシアン化物の混合物を含み、該混合物は少なくとも1種のニトリルの形成につながるものである。「シアン化物」という語句は、本明細書中で用いられるときには、シアン化物イオン(CN-)を含むか、これを放出するに至る化合物を意味する。好ましくは、「シアン化物」という語句は、青酸および/または例えば、より好ましくはシアン化ナトリウムもしくはシアン化カリウムのような青酸塩を含む。「混合物」という語句は、この関係において用いられるときには、ニトリルの形成に至るアルデヒド/ケトンとシアン化物の全ての定量的な組み合わせを意味する。好ましくは、該混合物は、等モルもしくは等モルに近い量のアルデヒド/ケトンとシアン化物よりなる。
【0136】
本発明の他の好ましい実施形態は、光学的に活性な、キラル、もしくはアキラルカルボン酸を調製する方法であり、一般式Iのニトリルは、本発明のニトリラーゼ、または生育中、休眠中もしくは破壊された上述の微生物であって、本発明のニトリラーゼをコードする核酸配列、本発明の発現カセット、または本発明のベクターのいずれかを含むものの存在下で、一般式IIのカルボン酸に変換される:
【化1】

【0137】
ここで、式Iおよび式IIの置換基および変数は、以下の意味を有する:
R1、R2、R3は互いに独立に、水素、置換または非置換の、分岐または非分岐のC1-C10-アルキルまたはC1-C10-アルコキシ、置換または非置換のアリールまたはヘテロアリール、ヒドロキシル、ハロゲン(例えばフッ素、塩素または臭素)、C1-C10-アルキルアミノおよびアミノよりなる群から選択されてもよく、置換基R1、R2およびR3のうち、少なくとも2つ、好ましくは全てが異なっている。
【0138】
式IおよびIIのR1、R2またはR3置換基の1つがフェニルのようなアリールであるのが有利である。式IおよびIIのR1、R2またはR3置換基の1つがヒドロキシル基であり、1つが水素またはメチル基であることがさらに好ましい。
【0139】
前記R1、R2またはR3基に対する好適な置換基は、例えば、以下のような1つ以上の置換基である:フッ素、塩素もしくは臭素のようなハロゲン、メルカプト、ニトロ、アミノ、ヒドロキシル、アルキル、アルコキシ、アルケニル、アルケニルオキシ、アルキニルまたは他の芳香族または他の飽和もしくは不飽和の非芳香族環もしくは環系。好ましいものは、メチル、エチル、プロピルまたはブチルのようなC1-C6-アルキルのようなアルキル基、フェニル、チオフェニルのようなアリール、塩素、フッ素または臭素のようなハロゲン、ヒドロキシルまたはアミノである。
【0140】
好ましい実施形態においては、光学的に活性な、キラル、もしくはアキラルカルボン酸を調製する方法は、一般式IIIのニトリルの、一般式IVのカルボン酸への変換を含む:
【化2】

【0141】
ここで、式IIIおよび式IVの置換基および変数は、以下の意味を有する:
n=0または1
m=0、1、2または3、ここでm>2のとき、2つの隣接する炭素原子間には二重結合が
1つ存在するか、存在せず、
p=0または1
A、B、DおよびEは互いに独立にCH、NまたはCR7
H=O、S、NR4、CHまたはCR7(n=0のとき)、またはCH、NまたはCR7(n=1のとき)、
ここで、2つの隣接する可変部A、B、D、EまたはHは、他の置換または非置換芳香族、飽和または部分飽和環であって、環中に5〜8個の原子を有し、O、NまたはSのような1つ以上のヘテロ原子を含み、可変部A、B、D、EまたはHのうち3つ以上がヘテロ原子でないような環を共同して形成することが可能であり、
R4は、水素、置換または非置換の、分岐または非分岐のC1-C10-アルキルよりなる群から選択され、
R5、R6、R7は独立に、水素、置換または非置換の、分岐または非分岐のC1-C10-アルキルまたはC1-C10-アルコキシ、置換または非置換のアリールまたはヘテロアリール、ヒドロキシル、ハロゲン(例えばフッ素、塩素または臭素)、C1-C10-アルキルアミノまたはアミノよりなる群から選択されてもよい。
【0142】
前記R4、R5またはR6基に対する好適な置換基は、例えば以下のような1つ以上の置換基である:フッ素、塩素もしくは臭素のようなハロゲン、メルカプト、ニトロ、アミノ、ヒドロキシル、アルキル、アルコキシ、アルケニル、アルケニルオキシ、アルキニルまたは他の芳香族または他の飽和もしくは不飽和の非芳香族環もしくは環系。好ましいものは、メチル、エチル、プロピルまたはブチルのようなC1-C6-アルキルのようなアルキル基、フェニル、チオフェニルのようなアリール、塩素、フッ素または臭素のようなハロゲン、ヒドロキシルまたはアミノである。
【0143】
上記のアルキル基は、例えば以下のような置換または非置換の、分岐または非分岐のC1-C10-アルキル鎖を含んでもよい:メチル、エチル、n-プロピル、1-メチルエチル、n-ブチル、1-メチルプロピル、2-メチルプロピル、1,1-ジメチルエチル、n-ペンチル、1-メチルブチル、2-メチルブチル、3-メチルブチル、2,2-ジメチルプロピル、1-エチルプロピル、n-ヘキシル、1,1-ジメチルプロピル、1,2-ジメチルプロピル、1-メチルペンチル、2-メチルペンチル、3-メチルペンチル、4-メチルペンチル、1,1-ジメチルブチル、1,2-ジメチルブチル、1,3-ジメチルブチル、2,2-ジメチルブチル、2,3-ジメチルブチル、3,3-ジメチルブチル、1-エチルブチル、2-エチルブチル、1,1,2-トリメチルプロピル、1,2,2-トリメチルプロピル、1-エチル-1-メチルプロピル、1-エチル-2-メチルプロピル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニルまたはn-デシル。メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、i-プロピルまたはi-ブチルが好ましい。
【0144】
上記のアルケニル基は、例えば以下のような分岐または非分岐C2-C10-アルケニル鎖を含んでもよい:エテニル、プロペニル、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテニル、2-メチルプロペニル、1-ペンテニル、2-ペンテニル、3-ペンテニル、4-ペンテニル、1-メチル-1-ブテニル、2-メチル-1-ブテニル、3-メチル-1-ブテニル、1-メチル-2-ブテニル、2-メチル-2-ブテニル、3-メチル-2-ブテニル、1-メチル-3-ブテニル、2-メチル-3-ブテニル、3-メチル-3-ブテニル、1,1-ジメチル-2-プロペニル、1,2-ジメチル-1-プロペニル、1,2-ジメチル-2-プロペニル、1-エチル-1-プロペニル、1-エチル-2-プロペニル、1-ヘキセニル、2-ヘキセニル、3-ヘキセニル、4-ヘキセニル、5-ヘキセニル、1-メチル-1-ペンテニル、2-メチル-1-ペンテニル、3-メチル-1-ペンテニル、4-メチル-1-ペンテニル、1-メチル-2-ペンテニル、2-メチル-2-ペンテニル、3-メチル-2-ペンテニル、4-メチル-2-ペンテニル、1-メチル-3-ペンテニル、2-メチル-3-ペンテニル、3-メチル-3-ペンテニル、4-メチル-3-ペンテニル、1-メチル-4-ペンテニル、2-メチル-4-ペンテニル、3-メチル-4-ペンテニル、4-メチル-4-ペンテニル、1,1-ジメチル-2-ブテニル、1,1-ジメチル-3-ブテニル、1,2-ジメチル-1-ブテニル、1,2-ジメチル-2-ブテニル、1,2-ジメチル-3-ブテニル、1,3-ジメチル-1-ブテニル、1,3-ジメチル-2-ブテニル、1,3-ジメチル-3-ブテニル、2,2-ジメチル-3-ブテニル、2,3-ジメチル-1-ブテニル、2,3-ジメチル-2-ブテニル、2,3-ジメチル-3-ブテニル、3,3-ジメチル-1-ブテニル、3,3-ジメチル-2-ブテニル、1-エチル-1-ブテニル、1-エチル-2-ブテニル、1-エチル-3-ブテニル、2-エチル-1-ブテニル、2-エチル-2-ブテニル、2-エチル-3-ブテニル、1,1,2-トリメチル-2-プロペニル、1-エチル-1-メチル-2-プロペニル、1-エチル-2-メチル-1-プロペニル、1-エチル-2-メチル-2-プロペニル、1-ヘプテニル、2-ヘプテニル、3-ヘプテニル、4-ヘプテニル、5-ヘプテニル、6-ヘプテニル、1-オクテニル、2-オクテニル、3-オクテニル、4-オクテニル、5-オクテニル、6-オクテニル、7-オクテニル、ノネニルまたはデセニル。エテニル、プロペニル、ブテニルまたはペンテニルが好ましい。
【0145】
上記のアルコキシ基は、例えば以下のような置換または非置換の、分岐または非分岐のC1-C10-アルコキシ鎖であってもよい:メトキシ、エトキシ、プロポキシ、1-メチルエトキシ、ブトキシ、1-メチルプロポキシ、2-メチルプロポキシ、1,1-ジメチルエトキシ、ペントキシ、1-メチルブトキシ、2-メチルブトキシ、3-メチルブトキシ、1,1-ジメチルプロポキシ、1,2-ジメチルプロポキシ、2,2-ジメチルプロポキシ、1-エチルプロポキシ、ヘキソキシ、1-メチルペントキシ、2-メチルペントキシ、3-メチルペントキシ、4-メチルペントキシ、1,1-ジメチルブトキシ、1,2-ジメチルブトキシ、1,3-ジメチルブトキシ、2,2-ジメチルブトキシ、2,3-ジメチルブトキシ、3,3-ジメチルブトキシ、1-エチルブトキシ、2-エチルブトキシ、1,1,2-トリメチルポロポキシ、1,2,2-トリメチルポロポキシ、1-エチル-1-メチルプロポキシ、1-エチル-2-メチルプロポキシ、ヘキシルオキシ、ヘプチルオキシ、オクチルオキシ、ノニルオキシまたはデシルオキシおよびそれらの分岐鎖類似体。
【0146】
上記のアルキルカルボニル基は、例えば以下のような置換または非置換の、分岐または非分岐のC1-C10-アルキルカルボニル鎖であってもよい:メチルカルボニル、エチルカルボニル、n-プロピルカルボニル、1-メチルエチルカルボニル、n-ブチルカルボニル、1-メチルプロピルカルボニル、2-メチルプロピルカルボニル、1,1-ジメチルエチルカルボニル、n-ペンチルカルボニル、1-メチルブチルカルボニル、2-メチルブチルカルボニル、3-メチルブチルカルボニル、2,2-ジメチルプロピルカルボニル、1-エチルプロピルカルボニル、n-ヘキシルカルボニル、1,1-ジメチルプロピルカルボニル、1,2-ジメチルプロピルカルボニル、1-メチルペンチルカルボニル、2-メチルペンチルカルボニル、3-メチルペンチルカルボニル、4-メチルペンチルカルボニル、1,1-ジメチルブチルカルボニル、1,2-ジメチルブチルカルボニル、1,3-ジメチルブチルカルボニル、2,2-ジメチルブチルカルボニル、2,3-ジメチルブチルカルボニル、3,3-ジメチルブチルカルボニル、1-エチルブチルカルボニル、2-エチルブチルカルボニル、1,1,2-triメチルプロピルカルボニル、1,2,2-triメチルプロピルカルボニル、1-エチル-1-メチルプロピルカルボニル、1-エチル-2-メチルプロピルカルボニル、n-ヘプチルカルボニル、n-オクチルカルボニル、n-ノニルカルボニルまたはn-デシルカルボニル。メチルカルボニル、エチルカルボニル、n-プロピルカルボニル、n-ブチルカルボニル、i-プロピルカルボニルまたはi-ブチルカルボニルが好ましい。
【0147】
上記のアルケニルカルボニル基は、例えば以下のような分岐または非分岐のC2-C10-アルケニルカルボニル鎖であってもよい:エテニルカルボニル、プロペニルカルボニル、1-ブテニルカルボニル、2-ブテニルカルボニル、3-ブテニルカルボニル、2-メチルプロペニルカルボニル、1-ペンテニルカルボニル、2-ペンテニルカルボニル、3-ペンテニルカルボニル、4-ペンテニルカルボニル、1-メチル-1-ブテニルカルボニル、2-メチル-1-ブテニルカルボニル、3-メチル-1-ブテニルカルボニル、1-メチル-2-ブテニルカルボニル、2-メチル-2-ブテニルカルボニル、3-メチル-2-ブテニルカルボニル、1-メチル-3-ブテニルカルボニル、2-メチル-3-ブテニルカルボニル、3-メチル-3-ブテニルカルボニル、1,1-ジメチル-2-プロペニルカルボニル、1,2-ジメチル-1-プロペニルカルボニル、1,2-ジメチル-2-プロペニルカルボニル、1-エチル-1-プロペニルカルボニル、1-エチル-2-プロペニルカルボニル、1-ヘキセニルカルボニル、2-ヘキセニルカルボニル、3-ヘキセニルカルボニル、4-ヘキセニルカルボニル、5-ヘキセニルカルボニル、1-メチル-1-ペンテニルカルボニル、2-メチル-1-ペンテニルカルボニル、3-メチル-1-ペンテニルカルボニル、4-メチル-1-ペンテニルカルボニル、1-メチル-2-ペンテニルカルボニル、2-メチル-2-ペンテニルカルボニル、3-メチル-2-ペンテニルカルボニル、4-メチル-2-ペンテニルカルボニル、1-メチル-3-ペンテニルカルボニル、2-メチル-3-ペンテニルカルボニル、3-メチル-3-ペンテニルカルボニル、4-メチル-3-ペンテニルカルボニル、1-メチル-4-ペンテニルカルボニル、2-メチル-4-ペンテニルカルボニル、3-メチル-4-ペンテニルカルボニル、4-メチル-4-ペンテニルカルボニル、1,1-ジメチル-2-ブテニルカルボニル、1,1-ジメチル-3-ブテニルカルボニル、1,2-ジメチル-1-ブテニルカルボニル、1,2-ジメチル-2-ブテニルカルボニル、1,2-ジメチル-3-ブテニルカルボニル、1,3-ジメチル-1-ブテニルカルボニル、1,3-ジメチル-2-ブテニルカルボニル、1,3-ジメチル-3-ブテニルカルボニル、2,2-ジメチル-3-
ブテニルカルボニル、2,3-ジメチル-1-ブテニルカルボニル、2,3-ジメチル-2-ブテニルカルボニル、2,3-ジメチル-3-ブテニルカルボニル、3,3-ジメチル-1-ブテニルカルボニル、3,3-ジメチル-2-ブテニルカルボニル、1-エチル-1-ブテニルカルボニル、1-エチル-2-ブテニルカルボニル、1-エチル-3-ブテニルカルボニル、2-エチル-1-ブテニルカルボニル、2-エチル-2-ブテニルカルボニル、2-エチル-3-ブテニルカルボニル、1,1,2-トリメチル-2-プロペニルカルボニル、1-エチル-1-メチル-2-プロペニルカルボニル、1-エチル-2-メチル-1-プロペニルカルボニル、1-エチル-2-メチル-2-プロペニルカルボニル、1-ヘプテニルカルボニル、2-ヘプテニルカルボニル、3-ヘプテニルカルボニル、4-ヘプテニルカルボニル、5-ヘプテニルカルボニル、6-ヘプテニルカルボニル、1-オクテニルカルボニル、2-オクテニルカルボニル、3-オクテニルカルボニル、4-オクテニルカルボニル、5-オクテニルカルボニル、6-オクテニルカルボニル、7-オクテニルカルボニル、ノネニルカルボニルまたはデセニルカルボニル。エテニルカルボニル、プロペニルカルボニル、ブテニルカルボニルまたはペンテニルカルボニルが好ましい。
【0148】
上記のアリール基は環または環系中に6〜20個の炭素原子を含む置換または非置換のアリール基でもよい。これらは、互いに縮合した複数の芳香環またはアルキル、アルキルカルボニル、アルケニルもしくはアルケニルカルボニル鎖、カルボニル、酸素もしくは窒素により結合した複数の芳香環を含んでもよい。アリール基は、必要に応じて、C1-C10-アルキル、C3-C8-アルケニル、C3-C6-アルキニルまたはC3-C8-シクロアルキル鎖を介して基本構造に結合されていてもよい。フェニルまたはナフチルが好ましい。
【0149】
上記のアリールカルボニル基は、環または環系中に6〜20個の炭素原子を含む置換または非置換のアリールカルボニル基でもよい。環系は、互いに縮合した複数の芳香環またはアルキル、アルキルカルボニル、アルケニルもしくはアルケニルカルボニル鎖、カルボニル、酸素もしくは窒素を介して連結した複数の芳香環を含んでもよい。フェニルカルボニルまたはナフチルカルボニルが好ましい。
【0150】
上記のヘテロアリール系は、置換または非置換の、1つ以上の複素芳香族3〜7員環を有する単環もしくは縮合多環芳香族環系であってもよく、該環系は1以上のN、OまたはSのようなヘテロ原子を含有してもよく、必要に応じて、C1-C10-アルキル、C3-C8-アルケニルまたはC3-C8-シクロアルキル鎖を介して基本構造に結合されていてもよい。このようなヘテロアリール基の例は、ピラゾール、イミダゾール、オキサゾール、イソキサゾール、チアゾール、トリアゾール、ピリジン、キノリン、イソキノリン、アクリジン、ピリミジン、ピリダジン、ピラジン、フェナジン、プリンまたはプテリジンである。該ヘテロアリール基は環もしくは環式中のヘテロ原子または個々の炭素原子を介して、または置換基を介して基本構造に結合されていてもよい。ピリジン、イミダゾール、ピリミジン、プリン、ピラジンまたはキノリンが好ましい。
【0151】
上記のアルキルアミノ基は、例えば以下のような置換または非置換の、分岐または非分岐のC1-C10-アルキルアミノ鎖であってもよい:メチルアミノ、エチルアミノ、n-プロピルアミノ、1-メチルエチルアミノ、n-ブチルアミノ、1-メチルプロピルアミノ、2-メチルプロピルアミノ、1,1-ジメチルエチルアミノ、n-ペンチルアミノ、1-メチルブチルアミノ、2-メチルブチルアミノ、3-メチルブチルアミノ、2,2-ジメチルプロピルアミノ、1-エチルプロピルアミノ、n-ヘキシルアミノ、1,1-ジメチルプロピルアミノ、1,2-ジメチルプロピルアミノ、1-メチルペンチルアミノ、2-メチルペンチルアミノ、3-メチルペンチルアミノ、4-メチルペンチルアミノ、1,1-ジメチルブチルアミノ、1,2-ジメチルブチルアミノ、1,3-ジメチルブチルアミノ、2,2-ジメチルブチルアミノ、2,3-ジメチルブチルアミノ、3,3-ジメチルブチルアミノ、1-エチルブチルアミノ、2-エチルブチルアミノ、1,1,2-トリメチルプロピルアミノ、1,2,2-トリメチルプロピルアミノ、1-エチル-1-メチルプロピルアミノ、1-エチル-2-メチルプロピルアミノ、n-ヘプチルアミノ、n-オクチルアミノ、n-ノニルアミノまたはn-デシルアミノ。メチルアミノ、エチルアミノ、n-プロピルアミノ、n-ブチルアミノ、i-プロピルアミノまたはi-ブチルアミノが好ましい。
【0152】
好ましいニトリルは、以下のような芳香族または複素芳香族ニトリルを含む:2-フェニルプロピオニトリル、2-ヒドロキシ-2-フェニルアセトニトリル、2-アミノ-2-フェニルアセトニトリル、2-クロロフェニルプロピオニトリル、2-ヒドロキシフェニルプロピオニトリル、ベンゾニトリル、フェニルアセトニトリル、trans-シンナモニトリル、2-ヒドロキシ-4-フェニル-ブチロニトリル、3-シアノチオフェンまたは3-シアノメチルチオフェン。好ましいものはアリールアセトニトリルであり、さらに好ましいものは置換マンデロニトリルである。マンデロニトリルアリール基は、1つ以上の置換基を有していてもよい。好ましい置換基は、アルキル(好ましくはメチル)、アルコキシ(好ましくはメトキシ)、ハロゲンまたはニトロである。置換マンデロニトリルは、以下のものよりなる群から選択されてもよいが、これによって限定されない:o-フルオロマンデロニトリル、p-フルオロマンデロニトリル、m-フルオロマンデロニトリル、o-クロロマンデロニトリル、p-クロロマンデロニトリル、m-クロロマンデロニトリル、o-ブロモマンデロニトリル、p-ブロモマンデロニトリル、m-ブロモマンデロニトリル、o-ニトロマンデロニトリル、p-ニトロマンデロニトリル、m-ニトロマンデロニトリル、o-メチルマンデロニトリル、p-メチルマンデロニトリル、m-メチルマンデロニトリル、o-メトキシマンデロニトリル、p-メトキシマンデロニトリルまたはm-メトキシマンデロニトリル。o-クロロマンデロニトリルがより好ましい。
【0153】
本発明の方法におけるラセミ体ニトリルとは、2つの鏡像異性体の50:50の混合物または混合物中の2つの鏡像異性体のうち一方が豊富であるような他の混合物よりなるニトリル、またはアルデヒド/ケトン化合物とシアン化物の混合物を意味する。
【0154】
本発明の方法における「光学的に活性な」カルボン酸とは、一方の鏡像異性体が豊富であるようなものを意味する。該方法においては、好ましくは鏡像異性体純度が少なくとも70%ee、好ましくは最低90%ee、特に好ましくは最低98%ee、非常に好ましくは最低99%eeとなる。本発明の好ましい実施形態においては、配列番号2に記載されている野生型Alcaligenes faecalisニトリラーゼ中の296番目の位置に相当するアミノ酸残基を、チロシンでないアミノ酸と交換しても、結果として生じる生成物の鏡像異性体純度は大きく低下することがなく、さらに好ましくは該交換により鏡像異性体純度が変わらないか、または改善される。
【0155】
本発明の方法は、0℃〜80℃の間、好ましくは10℃〜60℃の間、特に好ましくは15℃〜55℃の間の温度において有利に行われる。
【0156】
本発明の方法は、pH4〜11、好ましくは4〜9において有利に行われる。
【0157】
該方法において、0.01〜30重量%のニトリルまたは0.01〜30重量%の対応するアルデヒドもしくはケトンと0.01〜30重量%のシアン化物(例えば青酸)を用いることはさらに有利である。該方法は、過剰なシアン化物を用いて行ってもよい。ある状況においては、このことにより、シアン化物含量が提示されているよりも高くなる。当該ニトリルに応じて、様々な量のニトリルを反応に用いることができる。最少量(=0.01〜5重量%の量)のニトリルが、対応するアルデヒドおよびシアン化物と平衡状態にあるニトリル(シアノヒドリン)について有利に用いられ、これは一般にアルデヒドが微生物または酵素に対して毒性を有するためである。揮発性のニトリルは、同様に0.01〜10重量%の量で有利に用いられる。それより多量のシアノヒドリンまたはニトリルを用いると、反応が遅くなる。溶解性が低いかほとんどないニトリル、または水性媒質に非常にわずかしか溶けないニトリルの場合は、上記よりも多量を用いることが可能であり、有利である。変換および収量を増やすためには、ラセミ体ニトリルの添加を調節して反応を有利に行う。生成物は、反応終了後に単離されるか、または側管(bypass)から継続的に取り出されることが可能である。本発明の方法は、バッチ工程の形で行われることが可能であり、このとき原料(educt)は工程の初めに一定濃度で加えられ、続いて対応する生成物に変換される。代わりに、例えば原料濃度を一定またはほとんど一定に保つように、原料を継続的に反応混合物に加えることも可能である。
【0158】
上述の適当なアルデヒドまたはケトンとは、該アルデヒドまたはケトンとシアン化物(例えば青酸)の間の反応(適宜塩基触媒を伴う)後にニトリルが形成されるような化合物を意味する。アルデヒドとシアン化物の間の反応は、シアノヒドリンを生じ、該物質は、アルデヒドおよびシアン化物と平衡状態にあるという利点を有する。シアノヒドリンとの平衡状態を設けることは、ニトリルの一方の鏡像異性体のみを変換する酵素を用いても、理論上100%の収率を実現することが可能であることを意味し、これは、ラセミ体ニトリルが継続的に補充されるためである。他の全てのニトリルについて、酵素によって変換されないニトリル(=「誤った」または他の鏡像異性体)は、都合よく、化学反応によってラセミ化され、反応に戻され、それにより100%の理論的収率に達することができるか、または廃棄されるか、精製され、立体中心(stereocenter)を保ったまま化学的に加水分解される。
【0159】
酵素的なニトリル加水分解の方法は、好ましくは水溶液中で行われる。
【0160】
本発明の方法は、多数のラセミ体ニトリルを光学的に活性なカルボン酸に変換することを可能にする。該方法においては、少なくともニトリル25mmol/h×mgタンパク質または少なくともニトリル25mmol/h×g微生物乾燥重量、好ましくは少なくともニトリル30mmol/h×mgタンパク質または少なくともニトリル30mmol/h×g乾燥重量、特に好ましくは少なくともニトリル40mmol/h×mgタンパク質または少なくともニトリル40mmol/h×g乾燥重量、非常に好ましくは少なくともニトリル50mmol/h×mgタンパク質または少なくともニトリル50mmol/h×g乾燥重量を変換することが可能である。
【0161】
本発明の核酸、核酸構築物またはベクターを含む生育中の細胞を本発明の方法に用いることが可能である。休眠中の、固定化された、透過性にされた、または破壊された細胞も用いることができる。例えば、破壊された細胞とは、例えば溶剤による処理によって透過性にされた細胞、または酵素処理、機械的処理(例えばフレンチプレス(加圧型細胞破壊装置)、超音波)または他の方法により崩壊された細胞を意味する。このようにして得られた粗抽出物は、本発明の方法に好適であり、有利である。精製されたか、または部分的に精製された酵素も、該工程に用いることができる。固定化された微生物または酵素も同様に好適であり、該反応に有利に用いることができる。
【0162】
本発明の方法で調製された光学的に活性なカルボン酸は、抽出または結晶化により、または抽出および結晶化により、水性反応溶液から有利に単離することができる。この目的には、水性反応溶液は濃縮されてもよく(例えば蒸発、凍結乾燥により)、無機酸(例えばHClまたはH2SO4)または有機酸のような酸により、有利にはpH3まで、またはpH値が3より低くなるまで酸性化され、その後有機溶媒により抽出される。収率を上げるために抽出を数回繰り返すことができる。使用可能な有機溶媒は、適宜塩を加えた後に、水との間に界面を作るものであれば原則的にいかなる溶媒でもよい。有効な溶媒は、トルエン、ベンゼン、ヘキサン、メチルtert-ブチルエーテルまたは酢酸エチルのような溶媒である。
【0163】
有機相の濃縮後、生成物は通常化学的純度よく、つまり化学的純度90%超で単離されうる。抽出後、生成物を含んだ有機相は部分的にしか濃縮することができないが、生成物を結晶化することは可能である。このためには、溶液を0℃〜25℃(室温)まで冷却するのが有利である。結晶化はまた、有機溶液から直接行うことも可能である。結晶化された生成物は、再度の結晶化のために、同じかまたは異なる溶媒に再び加えられ、もう一度結晶化することが可能である。少なくとも1回再度の結晶化を行うことは、共晶組成の割合によるが、生成物の鏡像異性体純度をさらに高めることがある。
【0164】
光学的に活性なカルボン酸はまた、酸により、有利にはpHが3より低く酸性化させた後に、水性反応溶液から直接結晶化させることも可能である。これは、有利には水溶液を加熱により濃縮させ、容積を10〜90%に、好ましくは20〜80%に、特に好ましくは30〜70%に減少させることを必要とする。結晶化は好ましくは冷却により行う。0℃〜15℃の間の温度が結晶化に好ましい。抽出および、適当であれば、続く結晶化により光学的に活性なカルボン酸を精製することは同様に好ましい。
【0165】
これらの好ましいタイプの精製により、本発明の方法の生成物は、反応に用いたニトリルに基づく収率が60〜100%、好ましくは80〜100%、特に好ましくは90〜100%で単離することができる。単離された生成物は、>90%、好ましくは>95%、特に好ましくは>98%の高い化学的純度を有する。さらに、生成物は高い鏡像異性体純度を有し、これは結晶化によりさらに高められうる。このようにして得られた生成物は、薬品もしくは農薬を調製するための有機合成、またはラセミ化合物の分割のための出発物質として好適である。
【0166】
本発明のまた別の実施形態は、植物生物において除草剤耐性を実現する方法であると考えられ、該方法においては、該植物生物はニトリラーゼをコードする核酸配列を含む発現カセットを用いて形質転換され、該ニトリラーゼは、配列番号2に記載されている野生型Alcaligenes faecalisニトリラーゼ中の296番目の位置に相当する位置に、チロシンでない1個のアミノ酸を含み、前記核酸配列は当該植物生物におけるプロモーター機能の制御化におかれるものである。好ましくは該除草剤は、ニトリル除草剤、さらに好ましくは3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシベンゾニトリル(ブロモキシニル(Bromoxynil)(登録商標))である。
【0167】
本明細書中に記載されている例および実施形態は、説明的な目的のみにおけるものであり、それらに照らして種々の修正または変更が当業者に示唆されているし、本出願の趣旨および範囲、および特許請求の範囲に含まれるものと解される。本明細書中で引用した全ての刊行物、特許、および特許出願は、あらゆる目的において参照によって本明細書に組み込まれる。
【0168】
配列
配列番号1 Alcaligenes faecalis種に由来するニトリラーゼをコードする核酸配列
(DE19848129-A1)
配列番号2 Alcaligenes faecalis種に由来するニトリラーゼをコードするアミノ酸配列
(DE19848129-A1)
配列番号3 Alcaligenes faecalis種に由来するニトリラーゼをコードする核酸配列
(WO 99/64607)
配列番号4 Alcaligenes faecalis種に由来するニトリラーゼをコードするアミノ酸配列
(WO 99/64607)
配列番号5 Pseudomonas種に由来するニトリラーゼをコードする核酸配列
配列番号6 Pseudomonas種に由来するニトリラーゼをコードするアミノ酸配列
配列番号7 Rhodococcus rhodochrousに由来するニトリラーゼをコードする核酸配列
(DE10010149)
配列番号8 Rhodococcus rhodochrousに由来するニトリラーゼをコードするアミノ酸配
列(DE10010149)
【実施例】
【0169】
実施例1:他のアミノ酸へのY296の置換による改変されたニトリラーゼの作製
配列番号2に記載されている野生型Alcaligenes faecalisニトリラーゼ中の296番目の位置のチロシンの置換は、重複伸長PCR(overlap-extension PCR)を用いた部位特異的突然変異誘発により実現した。以下のアプローチをとった:
【表3】

【0170】
以下のプライマーを用いた:
【表4】

【0171】
上記プライマー中のNNNは、あらゆる塩基を表す(A;T;C;G;ウォッブルプライマー(wobble primer))。
【0172】
PCRは、Pfu-ポリメラーゼ(Stratagene)を用い、以下の温度プログラムを用いて行った:95℃3分間;95℃45秒間、55℃45秒間、および72℃2分50秒間、25サイクル;72℃10分間;後の使用まで4℃にて保管。全てのPCR産物は、アガロースゲル電気泳動(E-Gel、Invitrogen)およびカラムクロマトグラフィー(GFXキット、Pharmacia)によって精製した。PCR番号3の産物を、続いてNdeIおよびHindIIIを用いて消化し、対応するように消化したpDHEベクターにクローニングした(DE19848129-A1)。
【0173】
実施例2:2-クロロマンデロニトリルについての酵素活性のアッセイ
実施例1に記載のように作製したプラスミドを、大腸菌TG1にトランスフォームし、100μg/mlのアンピシリンを含むLB固形培地上で平板培養した。得られたクローンを0.2mlの液体LB-Amp培地に移し、37℃で一晩生育した。この培養物の一部を、発現を誘導するために2g/lのL-ラムノースを含んだ0.2mlの液体LB-Amp培地に接種するのに用いた。培養物を一晩生育させ、回収し、2-クロロマンデロニトリルに対するそれらの酵素活性を解析した。このために、90μlの細胞懸濁液(10mM Pipes、pH7.2中)を85μlの10mM Pipes、pH7.2および25μlの2-クロロマンデロニトリル(2-CMN)(48mM、メタノール中)に添加した。50℃にて40分間インキュベートした後、HClを加えることで反応を停止した。上清を、2-クロロマンデル酸について、HPLCを用いて解析した。最大活性を有するクローンを単離し、そこからプラスミドDNAを調製し、配列決定を行い、pAgro、pHSG575を含むTG10にトランスフォームした(大腸菌TG10は、大腸菌TG1の派生型であり、ラムノースイソメラーゼrhaAの欠損を含む;pAgro(pBB541;Toshifumi Tomoyasuら(2001) Mol Microbiol 40(2):397-413)およびpHSG575(Takeshita Sら(1987) Gene 61:63-74)は、シャペロンGroELSの共発現のためのプラスミドである)。
【0174】
スペクチノマイシン(50μg/ml)、クロラムフェニコール(10μg/ml)および、酵素の誘導に必要ならば、L-ラムノース(0.5g/l)およびIPTG(0.1mM)をさらに含む液体LB-Amp中4mlスケールで生育させた後、上記で選択されたクローンの活性を確認した。図1はいくつかのクローンの活性および改変されていない対照のTG10 pDHE1650 pAgro pHSG575との比較におけるそれらの順序を表している。
【0175】
活性は、カルボン酸の生産量を決定することにより計算した([μmol/(l*分)])。比活性は、600nmで測定した光学密度(OD600)により表される、アッセイに用いた微生物の生物量について標準化することにより得た([mmol/(l*分*OD600)]。「相対的比活性(relative specific activity)」は、所与の標準基質(例えば野生型ニトリラーゼ)について得られた比活性を1.0に設定し、他のニトリラーゼについての比活性を、3の法則(rule of three)を用いて変換することにより計算した。
【0176】
実施例3:ニトリラーゼ(配列番号2)とそのY296C変異体との基質許容性の比較
配列番号2に記載されたニトリラーゼ(pDHE1650)およびそのY296C変異体についての発現カセットを含むpDHEベクター(上記のように作製)で形質転換された大腸菌TG10の前培養は、アンピシリン(100μg/ml)、スペクチノマイシン(50μg/ml)、クロラムフェニコール(10μg/ml)を含む25mlの液体LB培地中で、継続的な振盪(200rpm)の下、37℃にて23時間生育した。結果として得られた培養物の10mlを、アンピシリン(100μg/ml)、スペクチノマイシン(50μg/ml)、クロラムフェニコール(10μg/ml)、0.1mM IPTG、および0.5g/l ラムノースを含む400mLのLB培地に接種するのに用い、継続的な振盪(200rpm)の下、37℃にて18時間生育した。生じた生物集団を回収し、10mM Tris/HCl、pH7.0を用いて洗浄した。
【0177】
基質許容性試験は、6mMの指示されたニトリルを含む10mMPIPES、pH7.0/10%MeOH1mlあたり25μlの細胞懸濁液を用いて、40℃にてそれぞれ0.5時間および2時間行った。1M HClを添加することにより反応を停止し、上清をHPLCを用いて解析した。結果は図2に示してある。Y296の位置における変異は、置換アリールアセトニトリルについてより広範な基質許容性をもたらすことが明らかになった。改変されていない酵素が置換ニトリルを低い活性でしか変換できない一方で、該改変は、非置換の基質に対する活性をそのまま保って、テストされた置換基質のいずれに対する活性をも増大させるに至っている。
【0178】
活性は、カルボン酸の生産量を決定することにより計算した([μmol/(l*分)])。比活性は、600nmで測定した光学密度(OD600)により表される、アッセイに用いた微生物の生物量について標準化することにより得た([mmol/(l*分*OD600)]。「相対的比活性」は、所与の標準基質(例えば非置換マンデロニトリル)について得られた比活性を100%に設定し、他のニトリラーゼについての比活性を、3の法則(rule of three)を用いて変換することにより計算した。
【0179】
実施例4:他のアミノ酸とのY296の置換による改変されたニトリラーゼの作製
4.1 Alcaligenes faecalis ATCC8750に由来するニトリラーゼ(配列番号4、「Nit8750_ALCFA」と呼ぶ)のチロシンY296のアラニンとの置換は、重複伸長PCR(overlap-extension PCR)を用いた部位特異的突然変異誘発により実現した。以下のアプローチをとった:
【表5】

【0180】
プライマー:
【表6】

【0181】
PCR反応およびクローニングは、実施例1に記載したように行った。得られたクローンのプラスミドDNAは、配列決定によって示すと、改変されたニトリラーゼNit8750_ALCFA-Y296Aをコードする所望の変異を有していた。
【0182】
4.2 Pseudomonas sp.に由来するニトリラーゼ(配列番号6、「Nit338_PSESP」と呼ぶ;Y297残基は、ニトリラーゼNit1650_ALCFAおよびNit8750_ALCFAのY296に対応する)のチロシンY297のアラニンとの置換は、重複伸長PCR(overlap-extension PCR)を用いた部位特異的突然変異誘発により実現した。以下のアプローチをとった:
【表7】

【0183】
プライマー:
【表8】

【0184】
PCR反応およびクローニングは、実施例1に記載したように行った。得られたクローンのプラスミドDNAは、配列決定によって示すと、改変されたニトリラーゼNit338_PSESP-Y297Aをコードする所望の変異を有していた。
【0185】
実施例5:ニトリラーゼNit8750_ALCFAとそのY296A変異体、Nit338_PSESPとそのY297A変異体との基質許容性の比較
配列番号4に記載されたニトリラーゼおよびそのY296A変異体、配列番号6に記載されたニトリラーゼおよびそのY297A変異体についての発現カセットをそれぞれ含むpDHEベクター(上記のように作製)で形質転換された大腸菌TG10の個々の前培養は、アンピシリン(100μg/ml)、スペクチノマイシン(50μg/ml)、クロラムフェニコール(10μg/ml)を含む25mlの液体LB培地中で、継続的な振盪(200rpm)の下、37℃にて23時間生育した。結果として得られた培養物のそれぞれ10mlを、アンピシリン(100μg/ml)、スペクチノマイシン(50μg/ml)、クロラムフェニコール(10μg/ml)、0.1mM IPTG、および0.5g/L ラムノースを含む400mLのLB培地のそれぞれのバッチに接種するのに用い、継続的な振盪(200rpm)の下、37℃にて18時間生育した。生じた生物集団を別々に回収し、10mM Tris/HCl、pH7.0を用いて洗浄した。
【0186】
基質許容性試験は、それぞれ10mMのマンデロニトリルおよび2-クロロマンデロニトリルを含む10mMPIPES、pH7.0/10%MeOH1mlあたり25μlの個々の細胞懸濁液を用いて、40℃にてそれぞれ0.5時間および2時間行った。1M HClを添加することにより反応を停止し、上清をHPLCを用いて解析した。結果は図3に、マンデロニトリルに対する2-クロロマンデロニトリルについての比活性の比率として示してある。計算は、それぞれの野生型ニトリラーゼのマンデロニトリルについての比活性を100%に設定し、他のニトリラーゼおよび2-クロロマンデロニトリルについての比活性を、3の法則(rule of three)を用いて変換することにより行った。
【0187】
Y296/Y297(それぞれ、配列番号2に記載されたAlcaligenes faecalisに由来するニトリラーゼ中のY296に対応する)の位置における変異は、野生型ニトリラーゼとは独立の、置換アリールアセトニトリルに対するより広範な基質許容性をもたらす。改変されていない酵素が置換ニトリルを低い活性でしか変換できない一方で、該改変は、テストされた置換基質のいずれに対する活性をも増大させるに至っている。
【図面の簡単な説明】
【0188】
【図1】ラセミ体2-クロロマンデロニトリルの変換についての、種々のY296変異体と、対照(control)/標準としてのY296野生型との相対的比活性(RSA)の比較(実施例2参照)。
【図2】種々のアリールアセトニトリルの変換についての、変異型ニトリラーゼY296Cと野生型ニトリラーゼY296との比較。
【図3】2-クロロマンデロニトリルについての、種々の変異型ニトリラーゼの比較。
【図4a】全長ニトリラーゼアミノ酸配列のアライメント。
【図4b】全長ニトリラーゼアミノ酸配列のアライメント。
【図4c】全長ニトリラーゼアミノ酸配列のアライメント。
【図4d】全長ニトリラーゼアミノ酸配列のアライメント。
【図4e】全長ニトリラーゼアミノ酸配列のアライメント。
【図4f】全長ニトリラーゼアミノ酸配列のアライメント。
【図5a】全長ニトリラーゼアミノ酸配列のアライメント。
【図5b】全長ニトリラーゼアミノ酸配列のアライメント。
【図5c】全長ニトリラーゼアミノ酸配列のアライメント。
【図5d】全長ニトリラーゼアミノ酸配列のアライメント。
【図5e】全長ニトリラーゼアミノ酸配列のアライメント。
【配列表】














【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトリラーゼをコードする単離されたポリペプチドであって、該ポリペプチドが、
a) (K/R/H)XXDXXGX(X*)、
b) i) KAINDPVGH(X*)
ii) GH(X*)SRPDV
を含む配列の群から選択されたニトリラーゼ共通配列に対して、少なくとも50%の相
同性を有する配列、
c) i) DP(A/V)GH(X*)SRPDV(L/T)(S/R)L
ii) DPAGH(X*)SRPDVLSLLV
を含む配列の群から選択されたニトリラーゼ共通配列に対して、少なくとも35%の相
同性を有する配列、
を含む配列の群から選択された、少なくとも1つの配列を含み、
前記単離されたポリペプチドに含まれる前記配列において、X*はチロシンでないアミノ酸残基を表し、ここで、X*は配列番号2に記載されている野生型Alcaligenes faecalisニトリラーゼ中の296番目の位置に相当する位置に存在するものである、
上記ポリペプチド。
【請求項2】
請求項1に記載の単離されたポリペプチドであって、該ポリペプチドが、
a) (K/R)XXXDXXG(H/Y/S)(X*)、
b) KXXXDXXGX(X*)、
c) KAINDPVGH(X*)、
d) GH(X*)SRPDV、
e) DP(A/V)GH(X*)SRPDV(L/T)(S/R)L、
f) DPAGH(X*)SRPDVLSLLV、
よりなる群から選択された少なくとも1つの配列を含み、
ここでXは任意のアミノ酸を表し、本発明の前記ニトリラーゼに含まれる前記配列において、X*はチロシンでないアミノ酸残基を表し、ここで、X*は配列番号2に記載されている野生型Alcaligenes faecalisニトリラーゼ中の296番目の位置に相当する位置に存在するものである、
上記ポリペプチド。
【請求項3】
X*が、システイン、アラニン、アスパラギン、グリシン、セリン、フェニルアラニンおよびトレオニンよりなる群から選択される、請求項1または2に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の単離されたポリペプチドであって、該ポリペプチドが、配列番号2に記載されている野生型Alcaligenes faecalisニトリラーゼ中の296番目の位置に相当する位置のアミノ酸残基を除いて該ニトリラーゼと同一のニトリラーゼと比較して、モジュレートされた許容性を示すニトリラーゼをコードする、上記ポリペプチド。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の単離されたポリペプチドであって、該ポリペプチドが、
a) 配列番号2、4、6または8のアミノ酸配列と、少なくとも60%、好ましくは80%、さらに好ましくは90%、最も好ましくは95%同一なアミノ酸配列を含むポリペプチド分子;
b) 配列番号2、4、6または8に記載の配列のうちの少なくとも1つの、少なくとも20の連続したアミノ酸、好ましくは50の連続したアミノ酸の断片を含むポリペプチド分子、
よりなる群から選択されたポリペプチド配列によりさらに記載される、上記ポリペプチド。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリペプチドをコードする配列を含む、単離された核酸分子。
【請求項7】
請求項6に記載の核酸を少なくとも1つ含む、組換え発現構築物。
【請求項8】
少なくとも1つの請求項5に記載の組換え発現構築物および/または少なくとも1つの請求項6に記載の核酸を含む、組換え発現ベクター。
【請求項9】
少なくとも1つの請求項8に記載の組換え発現ベクター、少なくとも1つの請求項7に記載の組換え発現構築物および/または少なくとも1つの請求項6に記載の核酸を含む、組換え生物。
【請求項10】
前記生物が、細菌、真菌、藻または植物生物よりなる群から選択される、請求項9に記載の組換え生物。
【請求項11】
微生物が、Escherichia、Rhodococcus、Nocardia、StreptomycesまたはMycobacterium属の細菌である、請求項9または10に記載の組換え生物。
【請求項12】
モジュレートされた基質許容性を有するニトリラーゼの作製方法であって、該ニトリラーゼ中の、少なくとも配列番号2に記載されている野生型Alcaligenes faecalisニトリラーゼ中の296番目の位置に相当する位置のチロシンを、他のアミノ酸に置換するステップを少なくとも含む、上記方法。
【請求項13】
ニトリラーゼの基質許容性をモジュレートする方法であって、該ニトリラーゼ中の、少なくとも配列番号2に記載されている野生型Alcaligenes faecalisニトリラーゼ中の296番目の位置に相当する位置のチロシンを、他のアミノ酸に置換するステップを少なくとも含む、上記方法。
【請求項14】
カルボン酸を製造する方法であって、1つ以上の請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリペプチドのうち1つ、または生長中の、休眠状態の、もしくは破壊された請求項9〜11のいずれか1項に記載の1種以上の組換え生物のうち1つの作用によって、ニトリル、またはアルデヒドもしくはケトンおよびシアン化物の混合物を、対応するカルボン酸に変換するステップを含む、上記方法。
【請求項15】
少なくとも1つの一般式Iのニトリルを、一般式IIのカルボン酸に変換する、
【化1】

(置換基R1、R2、R3は互いに独立に、水素、置換または非置換の、分岐または非分岐のC1-C10-アルキルまたはC1-C10-アルコキシ、置換または非置換のアリールまたはヘテロアリール、ヒドロキシル、ハロゲン、C1-C10-アルキルアミノおよびアミノよりなる群から選択されていてもよく、基R1、R2およびR3のうち少なくとも2つは異なる)
請求項14に記載の方法。
【請求項16】
請求項14または15に記載の方法であって、ニトリルが、ラセミ体o-クロロマンデロニトリル、p-クロロマンデロニトリル、m-クロロマンデロニトリル、o-ブロモマンデロニトリル、p-ブロモマンデロニトリル、m-ブロモマンデロニトリル、o-メチルマンデロニトリル、p-メチルマンデロニトリルおよびm-メチルマンデロニトリル、ならびに本請求項のニトリルに対応するアルデヒドおよびシアン化物の混合物よりなる群から選択される、上記方法。
【請求項17】
請求項14〜16のいずれか1項に記載の方法であって、製造される光学活性カルボン酸が、R-マンデル酸、S-マンデル酸、R-p-クロロマンデル酸、S-p-クロロマンデル酸、R-m-クロロマンデル酸、S-m-クロロマンデル酸、R-o-クロロマンデル酸、S-o-クロロマンデル酸、S-o-ブロモマンデル酸、S-p-ブロモマンデル酸、S-m-ブロモマンデル酸、S-o-メチルマンデル酸、S-p-メチルマンデル酸、S-m-メチルマンデル酸、R-o-ブロモマンデル酸、R-p-ブロモマンデル酸、R-m-ブロモマンデル酸、R-o-メチルマンデル酸、R-p-メチルマンデル酸およびR-m-メチルマンデル酸よりなる群から選択される、上記方法。
【請求項18】
植物生物中の除草剤耐性を実現する方法であって、該植物生物が、配列番号2に記載されている野生型Alcaligenes faecalisニトリラーゼ中の296番目の位置に相当する位置において、チロシンでないアミノ酸を含むニトリラーゼをコードする核酸配列を含む発現カセットを用いてトランスフォームされており、前記核酸配列は前記植物生物におけるプロモーター機能の制御下にある、上記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図4c】
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【図4d】
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【図4e】
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【図4f】
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【図5a】
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【図5b】
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【図5c】
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【図5d】
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【図5e】
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【公表番号】特表2006−519002(P2006−519002A)
【公表日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−501937(P2006−501937)
【出願日】平成16年2月24日(2004.2.24)
【国際出願番号】PCT/EP2004/001804
【国際公開番号】WO2004/076655
【国際公開日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【出願人】(595123069)ビーエーエスエフ アクチェンゲゼルシャフト (847)
【氏名又は名称原語表記】BASF Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】