説明

イットリウムアルミニウムガーネットタイプの蛍光体とこれを用いた発光装置

【課題】希少かつ高価な原料を必要とする組成物にすることなく、黄色から赤色に亘る暖色系の蛍光を放つ、発光装置用として好ましい新規なYAG系蛍光体、特に、YAG:Ce系蛍光体を提供し、高演色性かつ低製造コスト性の白色LED照明光源や広色域表示可能なLED−LCDなどを提供する。
【解決手段】蛍光を放つイオンを含むイットリウムアルミニウムガーネットのタイプに属する化合物であり、化合物を構成する骨格を、AB’(B”Xの化学式で表した時に、前記Aは、少なくともイットリウムを含み、前記B’は、少なくともマグネシウムを含み、前記B”は、少なくともアルミニウムとシリコンとを含み、前記Xは少なくとも酸素を含むことを特徴とするイットリウムアルミニウムガーネットタイプの蛍光体とこれを利用した発光装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、固体発光素子(発光ダイオード(以後、LEDと略記する。)や半導体レーザー(以後、LDと略記する。))と蛍光体を利用するプロジェクターや白色LED照明光源など、表示装置用や照明装置用の蛍光体として幅広く利用できるイットリウムアルミニウムガーネットのタイプに属する新規な蛍光体(以後、イットリウムアルミニウムガーネットタイプの蛍光体またはYAG系蛍光体と略記する。)と、前記YAG系蛍光体を利用する電子デバイスに関する。
【0002】
なお、本発明は、従来から広く知られ、表示装置や照明装置などに幅広く利用される、イットリウムアルミニウムガーネットのタイプに属するCe3+付活蛍光体(以後、YAG:Ce系蛍光体と略記する。)の蛍光波長の制御方法に関するものでもある。
【背景技術】
【0003】
従来から、「ガーネット構造」と呼ばれる結晶構造を持つ化合物が数多く知られている(例えば、非特許文献1参照)。その中の一つが、YAl12の化学式で表される化合物である。前記YAl12は、イットリウムアルミニウムガーネットの呼称で広く知られ、固体レーザー、透光性セラミックス、そして、蛍光体などで利用されている。また、Yの格子位置を他の金属元素、特に希土類で置換した化合物や、Alの格子位置を他の金属、特にGaで置換した化合物が存在することも知られている(例えば、非特許文献2参照)。
【0004】
本明細書では、これらYAl12の化学式で表される化合物をベースにしてなる化合物に、発光中心として機能するイオン(例えば、Ce3+、Tb3+、Eu3+、Mn2+、Mn4+、Fe3+、Cr3+に代表される希土類イオンや遷移金属イオンなど)を添加してなる無機蛍光物質をYAG系蛍光体と定義している。
【0005】
つまり、前記YAG系蛍光体(=イットリウムアルミニウムガーネットのタイプに属する蛍光体)は、ガーネットタイプの結晶構造を有し、かつ、結晶格子を構成する元素として、少なくともイットリウムとアルミニウムと酸素とを含む無機化合物に前記発光中心として機能するイオンを添加してなる蛍光体であり、例えば、以下の化学式で表される化合物の蛍光体である。
【0006】
・ (Y,Ce)Al12 (例えば、特許文献1、2参照)
・ (Y,Gd,Ce)Al12 (例えば、特許文献1、2参照)
・ (Y,Eu)Al12 (例えば、特許文献1、2参照)
・ (Y,Tb)(Al,Ga)12 (例えば、非特許文献2参照)
・ (Y,Tb)Al12 (例えば、非特許文献2参照)
・ (Y,Ce,Pr)Al12 (例えば、特許文献3参照)
・ (Y,Lu,Ce,Pr)Al12 (例えば、特許文献4参照)
・ (Y,Ce)(Al,Si)(O,N)12(例えば、特許文献5参照)
・ (Y,Ba,Ce)(Al,Si)12 (例えば、特許文献6参照)
YAG系蛍光体のなかでも、前記YAG:Ce系蛍光体は、電子線、真空紫外線、そして青色光などの、粒子線または電磁波を照射すると、励起されて、黄〜緑色の可視光を放つことが知られている。また、その1/10残光は数ns以下と極めて短いことも知られている。このために、数多くの発光装置に幅広く利用される(例えば、非特許文献2、特許文献1〜7参照)。
【0007】
なお、本明細書では、蛍光体を利用する電子デバイスとこれを用いて構成した電子機器を広く発光装置と定義している。
【0008】
そして、前記発光装置の代表例としては、フライングスポット電子管、立体画像表示機能付きプラズマディスプレイパネル(以後、3D−PDPと略記する。)、半導体発光装置としての白色LED、LEDまたはLDと蛍光体とを利用するプロジェクター、および、白色LEDを利用した照明光源やLEDバックライト付きLCD、蛍光体を利用するセンサーや増感器などが挙げられる。
【0009】
組成の面で単純な前記(Y,Ce)Al12蛍光体(一般には、YAl12Ce3+蛍光体と表記される。)が放つ光の光色は黄緑色である。これに対して、YAl12Ce3+を構成する元素の一部または全部を同属の元素(例えば、Yに対するLuまたはGd、あるいは、Alに対するGa)で置換すると、緑(Ga置換またはLu置換)、または、黄〜橙(Gd置換)の光色になる。従来の前記発光装置では、このような手段で光色制御したYAG:Ce系蛍光体が多用されている(例えば、非特許文献2、3参照)。
【0010】
一方、YAG:Ce系以外の、ガーネット構造を持ついくつかの蛍光体も知られている。例えば、CaScSi12:Ce3+(略称:CSS)緑色蛍光体(特許文献8参照)やTbAl12:Ce3+(略称:TAG)黄緑色蛍光体(特許文献9参照)がそれである。前記CSSやTAGは、YAG:Ce系蛍光体を代替し得るものであり、白色LEDの技術分野で利用または利用検討されている。
【0011】
従来、ガーネット構造を持つ蛍光体が放つ光の色調の制御は、一般には、YAG:Ce系蛍光体の結晶格子の構成元素の一部または全部を、イオン半径等が異なる他の元素で置換することによってなされている。そして、所望とする色調の黄または橙色光を得る目的では、希少元素とされる、Gdの利用が必須となっており、少なくともGdを結晶格子に含む組成物とする方法によって色調制御している。
【0012】
従来の発光装置では、このようなYAG系蛍光体を多用しており、前記YAG系蛍光体が放つ光を表示または照明の用途などで利用している。
【0013】
その一方で、近年、発光装置の技術分野では、発光ダイオード(LED)や半導体レーザー(LD)などの固体発光素子を利用する新しい装置などの開発が活発化する傾向にある(例えば、特許文献1、2、10参照)。
【0014】
こうした中、表示装置や照明光源において、広い表示色域や良好な照明光を得るために、青色光励起が可能な高効率の赤色蛍光体が求められ、SrSi:Eu2+、CaAlSiN:Eu2+、SrAlSi:Eu2+に代表される窒化物系の赤色蛍光体が注目されている(特許文献11〜13参照)。
【0015】
なお、発明者の知る限りにおいて、これまで、室温下で強い赤色光を放つCe3+付活されたYAG系蛍光体の報告例は無いし、室温の青色光励起下で強い赤色光を放つ酸化物系の蛍光体の報告例も無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特許第3503139号公報
【特許文献2】米国特許第6812500号明細書
【特許文献3】特開2001−192655号公報
【特許文献4】特表2006−520836号公報
【特許文献5】特表2007−515527号公報
【特許文献6】特許第4263453号公報
【特許文献7】特開2009−185276号公報
【特許文献8】特許第4032682号公報
【特許文献9】特表2003−505582号公報
【特許文献10】特開2011−13320号公報
【特許文献11】米国特許第6682663号明細書
【特許文献12】特許第3837588号公報
【特許文献13】米国特許第7892453号明細書
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】ファインセラミックスの結晶化学、F.S.ガラッソー著、加藤誠軌・植松敬三訳、アグネ技術センター、277〜284頁
【非特許文献2】蛍光体ハンドブック、蛍光体同学会編、オーム社、12頁、237〜238頁、268〜278頁、332頁
【非特許文献3】Conference Material of Siemens AG Corporate Technology, Phosphor Global Summit 2003, Scottsdale,Arizona USA, p.11
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
従来のYAG系蛍光体は、例えば、YAG:Ce系蛍光体として、放つ黄緑色系光の長波長化を図る場合に、例えば、Gdなどの希少かつ高価な原料が必要となる組成物にせざるを得ない課題があった。このため、発光装置の低コスト化を前提として、前記発光装置の性能改善(例えば、赤色表示光の色調改善や照明光の演色性の改善)が求められる中で、発光装置へのYAG系蛍光体の応用が、年々困難になる課題があった。
【0019】
また、従来のYAG:Ce系蛍光体の発光色の制御方法では、Gdなどの希少元素を利用することなく、565nmよりも長い波長領域、特に600nmを超える橙〜赤色の波長領域に発光ピークを持つ高効率蛍光体を提供することが困難な課題もあった。
【0020】
一方で、従来、青色光励起が可能な酸化物の高効率赤色蛍光体が無い課題もあった。青色光励起が可能な高効率の赤色蛍光体として、Eu2+で付活された硫化物蛍光体とEu2+で付活された窒化物系蛍光体があるものの、硫化物蛍光体は化学的に不安定であり発光装置の信頼性の面で劣る課題を抱えていたし、窒化物系蛍光体は、希土類の中でも高価なユーロピウムを必須とするだけでなく、合成に際して特殊な装置や材料を要するために、製造コストが高くなる課題を抱えていた。
【0021】
従来の発光装置では、このような従来のYAG:Ce系蛍光体や高価な窒化物系赤色蛍光体等を利用していたために、例えば、白色LED照明光源では、製造コストを上げることなく、高演色性の照明光を得ることが困難という課題があった。また、例えば、前記LEDまたはLDと蛍光体とを利用するプロジェクターやLEDバックライト付きLCDなどでは、良好な色純度の赤色光を放ち、低製造コスト性をも兼ね備える赤色出力光を得ることが困難という課題もあった。
【0022】
本発明は、これら課題を解決するためになされたものであり、希少かつ高価な原料を必要とする組成物にすることなく、オーソドックスな設備を利用して合成し得る酸化物系の蛍光体であって、少なくとも、黄、橙または赤色蛍光体として機能し得る新規なYAG系蛍光体、特に、従来無かったCe3+付活YAG系赤色蛍光体を提供することを目的とする。
【0023】
また、本発明は、Gd化合物などの、希少かつ高価な原料を使用することなく、YAG:Ce系蛍光体が放つ光の光色を赤色にするまで、発光ピーク波長を長波長化し得るYAG:Ce系蛍光体の発光色の制御方法を提供することを目的とする。
【0024】
さらに本発明は、高演色性かつ低製造コスト性の白色LED照明光源や、広色域表示が可能で低製造コスト性の、レーザープロジェクターや、LEDバックライト付きLCDなど、特に、窒化物系の赤色蛍光体を利用することなく赤色光成分の発揮性能に優れる、低製造コスト性の各種発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記課題を解決するために、本発明のイットリウムアルミニウムガーネットタイプの蛍光体は、蛍光を放つイオンを含むイットリウムアルミニウムガーネットのタイプに属する化合物であり、前記化合物を構成する骨格を、AB’(B”Xの化学式で表した時に、前記Aは、少なくともイットリウムを含み、前記B’は、少なくともマグネシウムを含み、前記B”は、少なくともアルミニウムとシリコンとを含み、前記Xは少なくとも酸素を含むことを特徴とする。
【0026】
本発明のCe3+付活イットリウムアルミニウムガーネットのタイプに属する蛍光体の蛍光波長の制御方法は、 蛍光体を構成するアルミニウムの一部を、少なくともマグネシウムとシリコンの元素組み合わせで置換することによって、発光のピーク波長を565nmよりも長波長側に移動させることを特徴とする。
【0027】
本発明の発光装置は、前記本発明のイットリウムアルミニウムガーネットタイプの蛍光体、特に、Ce3+付活蛍光体を用いて構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、希少かつ高価な原料を必要とする組成物にすることなく、特に黄橙色光または赤色光を放つ蛍光体として機能し得る新規なYAG系蛍光体を提供することができる。
【0029】
また、本発明によれば、希少かつ高価な原料を使用することなく、YAG:Ce系蛍光体が放つ光の光色を赤色にするまで、発光ピーク波長を長波長化することができる。
【0030】
さらに本発明によれば、特に、黄橙色、橙色または赤色光成分の発揮性能に優れる、低製造コスト性の各種発光装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の発光装置の技術思想を示す図。
【図2】本発明の半導体発光装置の一例を示す模式断面図。
【図3】本発明の半導体発光装置が放つ出力光の分光分布を示す図。
【図4】本発明の半導体発光装置が放つ出力光の分光分布を示す図。
【図5】本発明の半導体発光装置が放つ出力光の分光分布を示す図。
【図6】本発明の表示装置の表示色域の概要図。
【図7】実施例のYAG:Ce系蛍光体のXRDパターンを示す図。
【図8】実施例のYAG:Ce系蛍光体の(420)面のd値とMg−Siの置換量との関係を示す図。
【図9】実施例のYAG:Ce系蛍光体の励起スペクトルと発光スペクトルを示す図。
【図10】実施例のYAG系蛍光体の励起スペクトルと発光スペクトルを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
(実施形態1)
以下、本発明のイットリウムアルミニウムガーネットタイプの蛍光体(YAG系蛍光体)を説明する。
【0033】
本発明のYAG系蛍光体は、蛍光を放つイオンを含むイットリウムアルミニウムガーネットのタイプに属する化合物であり、前記化合物を構成する骨格を、AB’(B”Xの化学式で表した時に、前記Aは、少なくともイットリウムを含み、前記B’は、少なくともマグネシウムを含み、前記B”は、少なくともアルミニウムとシリコンとを含み、前記Xは少なくとも酸素を含むことを特徴とする。
【0034】
なお、前記Aの一部はアルカリ土類金属とすることもできるが、前記Aは、少なくともイットリウムを含み、全てが希土類であることが好ましい。
【0035】
前記B’は、少なくともマグネシウムを含み、Al、Ga、In、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Cr、Fe、Mn、Ni、Co、Cu、Zn、Sc、Teのいずれかを含むものとして構成することができるが、前記B’は、マグネシウムとアルミニウムの組み合わせか、または、全てがマグネシウムであることが好ましい。
【0036】
前記B”は、少なくともアルミニウムとシリコンを含み、Ge、Sn、Ga、As、V、Fe、Znを含むものとして構成することができるが、前記B”は、アルミニウムとシリコンの組み合わせであることが好ましい。
【0037】
また、前記Xは、全てが酸素であることが好ましいが、窒素を含むものとして構成することもできる。
【0038】
本発明のYAG系蛍光体では、マグネシウムの総原子数およびシリコンの総原子数は、いずれも、前記化合物を構成する陰イオン12個に対して、0.1個を越え2.0個以下であることが好ましく、前記マグネシウムと前記シリコンとは、前記化合物中で、互いに電荷補償するように添加されていることが好ましい。
【0039】
本発明のYAG系蛍光体のより好ましい形態は、蛍光を放つイオンを含むLn(Al2−xMg)(AlO3−x(SiO)の化学式で表される化合物であり、前記Lnは、Yを少なくとも含む希土類であり、前記xは、0<x≦2を満足する数値、特に、0.1≦x≦2を満足する数値である。
【0040】
なお、前記Lnは全てがイットリウムであることが好ましい。
【0041】
このようにすると、ガーネットの結晶構造を持つ新規な化合物となり、新規なYAG系蛍光体を提供できることになる。特に、少なくともGdを利用することなく、従来のYAG:Ce系蛍光体の発光波長を長波長側に移動して、黄、橙、または赤色のいずれかの発光を放つYAG:Ce系蛍光体を得ることができるようになるので、少なくともGdの使用量を抑制した新規な組成の黄〜赤色光を放つYAG系蛍光体を提供するものになる。このようにして、希土類や希少金属の使用を多少なりとも控えた新規な化合物としてのYAG系蛍光体になり、従来と同等、あるいは、従来に無い新規な機能を持つYAG系蛍光体、特に、YAG:Ce系蛍光体を提供するものになる。
【0042】
より具体的に説明すると、AB’(B”Xの化学式で表され、前記Aは、少なくともイットリウムを含み、前記Xは、少なくとも酸素を含む化合物において、前記B’は、少なくともマグネシウムを含み、前記B”は、少なくともアルミニウムとシリコンとを含むようにすると、少なくとも前記YAG:Ce系蛍光体において、発光の長波長側へのシフトが認められる。この傾向は、前記B’におけるマグネシウムが占める割合と、前記B”におけるシリコンが占める割合を共に増すと顕著になり、前記Xの主体(90原子%以上)を酸素にして、前記B’の全てをマグネシウムにし、前記B”の2/3をシリコンにし、前記B”の1/3をアルミニウムにするとより顕著になる。このため、従来、室温下で強い発光ものが無かった橙色や赤色の蛍光を放つYAG:Ce系蛍光体を得る上で好ましいものになる。
【0043】
なお、前記Ln(Al2−xMg)(AlO3−x(SiO)の化学式で表される化合物において、前記Lnは、部分的に、アルカリ土類金属で置換することもできる。この場合、前記A、B’、B”、Xのいずれかを構成する元素で電荷補償することになる。
【0044】
また、前記Al2−xMgは、部分的に、Ga、In、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Cr、Fe、Mn、Ni、Co、Cu、Zn、Scなどで置換したものとして構成することもできる。この場合、必要に応じて、前記A、B’、B”、Xのいずれかを構成する元素で電荷補償することになる。
【0045】
さらに、前記(AlO3−x(SiO)は、部分的に、GeO、SnO、GaO、SiONなどで置換したものとして構成することもできる。この場合も、必要に応じて、前記A、B’、B”、Xのいずれかを構成する元素で電荷補償することになる。
【0046】
このため、本発明のYAG系蛍光体は、前記ガーネット構造を損ねず、かつ、少なくともYとAlとMgとSiとOを含む組成範囲で、様々な変形例をとり得るものとなる。この具体例は、発光中心イオンを含む、例えば、以下の化合物である。
【0047】
Al1.5Mg0.5(AlO2.5(SiO0.5、YAlMg(AlO(SiO)、YMg(AlO)(SiO、(Y,La)Mg(AlO)(SiO、(Y,Gd)Mg(AlO)(SiO、(Y,Mg)(Al,Zr)Mg(AlO(SiO)、(Y,Ca)(Al,Zr)Mg(AlO(SiO)、(Y,Ca)(Al,Hf)Mg(AlO(SiO)、Y(Al,Ga)Mg(AlO(SiO)、YAlMg(AlO)(SiON)(SiO)。
【0048】
本発明のYAG系蛍光体は、例えば、Ga、Lu、Sc、およびGdなどのレアアース/レアメタルを含めて構成することもできるが、好ましい本発明のYAG系蛍光体は、人為的に加えられたGa、Lu、ScまたはGdを含まないものとする。このような元素を含む化合物は、希少で高価であるだけでなく、少なくとも、黄色〜赤色蛍光体としての機能を持たせる場合の、対コストメリットが相対的に小さい。このため、このようにすると、Ga化合物、Lu化合物、Sc化合物、あるいは、Gd化合物の使用を控えた低製造コストの新規なYAG系蛍光体になる。
【0049】
また、本発明のYAG系蛍光体は、Mg以外のアルカリ土類金属(Ca、Sr、Ba)を含まないことも好ましいし、前記Lnの原子数は、前記Xの原子数の12個に対して3個であることも好ましい。このようにすると、従来知られるYAG系蛍光体に対して、組成の面で十分な差別化を図った無機化合物になる。
【0050】
前記発光中心イオンは、蛍光体母体として機能する化合物(本発明では、前記YAG系化合物である)の結晶中で、電子エネルギー遷移によって蛍光を放ち得るイオンであり、例えば、ns形イオン発光中心と呼ばれるイオン(Sn2+、Sb3+、Tl、Pb2+、Bi3+など)、遷移金属イオン発光中心と呼ばれるイオン(Cr3+、Mn4+、Mn2+、Fe3+など)、希土類イオン発光中心と呼ばれるイオン(Ce3+、Pr3+、Nd3+、Sm3+、Eu3+、Gd3+、Tb3+、Dy3+、Ho3+、Er3+、Tm3+、Yb3+、Sm2+、Eu2+、Yb2+など)から選ばれる少なくとも一つのイオンである。
【0051】
本発明のYAG系蛍光体は、前記YAG系化合物に、これら発光中心イオンを、少なくとも一つ含むようにして構成する。このようにすると、前記YAG系化合物は、外部刺激(例えば、粒子線(α線、β線、電子線)や電磁波(γ線、X線、真空紫外線、紫外線、可視光他)の照射など)によって励起され、蛍光を放つものになる。
【0052】
前記蛍光は、紫外線、可視光、赤外線から選ばれるいずれかの電磁波であれは発光装置用として足りるが、実用面で好ましい前記蛍光は可視光である。このような蛍光にすると、表示装置や照明装置用として利用できるものになる。
【0053】
なお、前記発光中心イオンを、Mn4+、Mn2+、Ce3+、Pr3+、Eu3+、およびTb3+から選ばれる少なくとも一つのイオンにすると、利用用途が多い可視光成分(青、青緑、緑、黄、橙、赤、白)のいずれかを放つ蛍光体になる。特に、前記発光中心イオンを、Ce3+、Pr3+、Eu3+、およびTb3+から選ばれる少なくとも一つの希土類イオン、または、Mn2+の遷移金属イオンとすると、表示装置や照明装置用としての利用用途がいっそう多い、緑色光、橙色光、赤色光を放つYAG系蛍光体になるので好ましい。
【0054】
本発明のYAG系蛍光体にあっては、YAG系蛍光体が放つ蛍光は、Ce3+が放つ光を少なくとも含むことが好ましく、特に好ましい前記蛍光を放つイオンは、Ce3+である。
【0055】
このようにすると、従来から前記発光装置用として広く利用または利用検討されているCe3+付活黄色または橙色蛍光体((Y,Gd)Al12:Ce3+である。)を代替し、かつ、希少で高価なGd化合物を、蛍光体の製造工程で用いる必要性が少ない低製造コスト性の黄色または橙色蛍光体、あるいは、Eu2+付活窒化物系赤色蛍光体(例えば、SrSi:Eu2+、CaAlSiN:Eu2+、あるいはSrAlSi:Eu2+である。)を代替し、かつ、大気中での取り扱いが困難な蛍光体原料(アルカリ土類金属窒化物など)や技術的に高度で特殊かつ高価な製造設備を、蛍光体の製造工程で用いる必要性が少ない低製造コスト性の赤色蛍光体になる。このため、比較的高価な上記従来の黄色または橙色蛍光体や、極めて高価な従来の窒化物系赤色蛍光体を代替して、黄色光、橙色光または赤色光の特性を損ねることなく、発光装置の低製造コスト化を図ることができる。また、従来、前記(Y,Gd)Al12:Ce3+蛍光体や窒化物系赤色蛍光体の導入に伴う製造コストの上昇を理由として見送られてきた発光装置の性能改善も推進可能となる。このため、橙色〜赤色の出力光の色調が改善された表示装置や、出力光の演色性が改善された照明光源/照明装置などの開発を促し、これら発光装置の上市が可能になる。
【0056】
なお、本発明のYAG:Ce系蛍光体においては、前記Ce3+が放つ光の分光分布のピークは、565nmを超え650nm以下、特に、590nmを超え630nm以下の波長範囲内に位置するものにできる。
【0057】
このため、黄色光や橙色光はもちろんのこと、従来のYAG系蛍光体では実現が困難であった赤色光も、希少な化合物を蛍光体原料として使用することなく、オーソドックスな原料だけを利用して提供できる蛍光体になる。
【0058】
一方で、Ce3+の発光は、パリティー許容となる5d→4fの電子エネルギー遷移に基づくことが知られている。これに起因して、Ce3+の光吸収と発光のエネルギー差は小さく、Ce3+の発光準位の寿命は、10−8〜10−7s(10〜100ns)と極めて短い。事実、励起スペクトルのピークは、従来のYAG:Ce系蛍光体よりも僅かに長波長域の、450nmを超え500nm未満、特に、450nmを越え480nm未満の青色から緑青色に亘る波長範囲内に位置するものであり、1/10残光は1.0msec以下の超短残光性である。
【0059】
このため、本発明のYAG:Ce系蛍光体は、短波長可視光(青〜緑青色光)を吸収して黄緑〜赤色の光を放ち得る、超短残光性の蛍光体として機能するものになる。これらの特長は、例えば、青色LEDを利用する白色LEDの出力光の演色性や、青色LDと蛍光体とを利用するレーザープロジェクターおよびLED−LCDなどの表示色域を改善するものとなる。
【0060】
このようにして、本発明のYAG:Ce系蛍光体は、特に、近年、開発が活発化している、固体発光素子(LED、LDなど)を利用する発光装置の性能改善を促し、性能改善が図られた発光装置を提供できるものとなる。
【0061】
本発明のYAG系蛍光体は新規物質ではあるが、従来のYAG系蛍光体と同様のオーソドックスな固相反応を用いて合成することができる。つまり、オーソドックスなセラミックス原料粉末(例えば、Y、CeO、Al、MgOまたは塩基性炭酸マグネシウム(basic−MgCO)、SiOなど)を用い、化学量論的組成かこれに近い組成となるように原料粉末を調合し、自動乳鉢などを利用して原料粉末を混合し、アルミナるつぼなどの焼成容器に混合原料を仕込んだ後、箱型電気炉などを用いて、1500〜1700℃の焼成温度で原料同士を数時間加熱反応させると少なくとも合成できる。
【0062】
なお、新規物質となる本発明のYAG系蛍光体は、その性状を限定されるものではない。単結晶、薄膜状、厚膜状、塊状、粒状、粉末状、ナノ粒子状、セラミックス状、透光性セラミックス状など、様々な性状のものを形成でき、様々な性状で実用できることは、当業者であれば容易に類推できる。本発明のYAG系蛍光体は、例えば、溶媒(水、有機溶剤、樹脂)や水ガラスなどと適宜混合して、スラリー状、ペースト状、ゾル状、ゲル状としたものにして利用することもできる。
【0063】
(実施形態2)
以下、本発明のYAG:Ce系蛍光体の蛍光波長の制御方法を説明する。
【0064】
本発明のYAG:Ce系蛍光体の蛍光波長の制御方法は、YAG:Ce系の蛍光体を構成するアルミニウムの一部を、少なくともマグネシウムとシリコンの元素組み合わせで置換することによって、発光のピーク波長を、565nmよりも長波長側に、好ましくは580nm、より好ましくは600nmよりも長波長側に移動させることを特徴とする。
【0065】
なお、本発明のYAG:Ce系蛍光体の蛍光波長の制御方法は、YAG:Ce系蛍光体を構成する骨格を、LnAl’(Al”Oの化学式で表し、前記Lnを、少なくともイットリウムとセリウムとを含む希土類とし、前記Al’を、第一のアルミニウムとし、前記A”を、第二のアルミニウムとした場合に、前記第一のアルミニウムの一部を少なくともマグネシウムで置換し、前記第二のアルミニウムの一部を少なくともシリコンで置換することによって、発光のピーク波長を、565nmよりも長波長側に、好ましくは580nm、より好ましくは600nmよりも長波長側に移動させることを特徴とするものとして表現することもできる。
【0066】
なお、前記第一のアルミニウムの全てをマグネシウムで置換した場合が、前記第一のアルミニウムの一部を少なくともマグネシウムで置換する場合の、マグネシウム置換量の上限である。
【0067】
また、前記第二のアルミニウムの2/3をシリコンで置換した場合が、前記第二のアルミニウムの一部を少なくともシリコンで置換する場合の、シリコン置換量の上限である。
【0068】
つまり、マグネシウムの総原子数およびシリコンの総原子数は、いずれも、前記化合物を構成する陰イオン12個に対して、2.0個以下であることが好ましく、前記マグネシウムと前記シリコンとは、前記化合物中で、互いに電荷補償するように添加されていることが好ましい。
【0069】
このようにすると、Mgと、Siの置換量が増加するにつれて、YAG:Ce系蛍光体の蛍光のピーク波長は約560nmから630nm付近にまで長波長移動し、黄緑、黄、橙、および赤の色調の蛍光を得ることができるようになる。
【0070】
なお、YAG:Ce系蛍光体を、例えば、Ln(Al2−xMg)(AlO3−x(SiO)の化学式で表される化合物であり、前記Lnは、YとCeとを少なくとも含む希土類として、YAG:Ce系蛍光体が放つ蛍光の光色を、発光ピークが600nm以上650nm未満の波長範囲内にある赤色光に制御するには、Ce3+の付活量によって多少変動するものの、前記xの数値を1≦x≦2を満足する数値となるようにする。また、橙色光に光色制御するには、前記xの数値を0<x≦1を満足する数値となるようにする。
【0071】
本発明のYAG:Ce系蛍光体の蛍光波長の制御方法は、Ga、Lu、ScまたはGdを蛍光体が含まないようにすることも好ましい。このようにすると、希少で高価な、Ga化合物、Lu化合物、Sc化合物あるいはGd化合物を、使用することなく、YAG:Ce系蛍光体の色調を黄緑〜赤まで制御できる前記蛍光波長の制御方法になる。このため、コストの面で有利なYAG:Ce系蛍光体の蛍光波長の制御方法になる。また、従来の前記蛍光波長の制御方法との差別化も十分図ることができ、これを代替するものになる。
【0072】
なお、本発明は、前記本発明のYAG:Ce系蛍光体の蛍光波長の制御方法によって製造したYAG:Ce系蛍光体と、当該製造したYAG:Ce系蛍光体を用いて構成した発光装置に関するものともなる。
【0073】
(実施形態3)
以下、本発明の発光装置を説明する。
【0074】
本発明の発光装置は、先に説明した本発明のYAG系蛍光体を用いて構成したことを特徴とする。
【0075】
そして、好ましい形態では、前記本発明のYAG系蛍光体が放つ光を、表示または照明のいずれかの目的に利用する。
【0076】
なお、前記本発明の発光装置としては、例えば、LEDまたはレーザーダイオードと蛍光体とを利用する各種発光装置が挙げられる。また、前記、LEDまたはレーザーダイオードと蛍光体とを利用する各種発光装置の具体例は、半導体発光装置としての白色LED、光源装置やプロジェクター、LEDバックライトを含むLED照明光源や照明装置、およびLEDバックライト付きLCDなどの表示装置や照明装置の他、センサーや増感器などである。
【0077】
前記実施形態1のYAG系蛍光体は新規物質であり、特に本発明のYAG:Ce系蛍光体は、実施形態1で説明したように、従来のYAG:Ce系蛍光体に無い特徴を有するので、これによって、希少元素を過剰に用いることなく、従来の希少元素を用いて構成したガーネット型の結晶構造を持つ黄色〜橙色蛍光体、または、従来の前記Eu2+付活窒化物系赤色蛍光体と同等の特性を持つ発光装置を提供することになる。
【0078】
特に、好ましい発光装置は、実施形態1で説明した本発明のYAG:Ce系蛍光体を用いて構成した前記発光装置である。
【0079】
前記本発明のYAG:Ce系蛍光体は、実施形態1で説明したように、従来の発光装置に広く用いられてきたオーソドックスなCe3+付活黄〜橙色蛍光体((Y,Gd)Al12:Ce3+などである。)には無い、希少金属元素(Gd他)を使用する必要性が薄いという特長を有し、前記Ce3+付活黄〜橙色蛍光体において希少金属元素を削減するか、前記Ce3+付活黄〜橙色蛍光体を代替し得る。また、従来の前記Eu2+付活窒化物系赤色蛍光体には無い、特殊な設備等を必要とせず、オーソドックスなセラミックス材料と製造技術とを用いて製造できるという特長を有し、前記Eu2+付活窒化物系赤色蛍光体を代替し得る。
【0080】
これによって、低製造コスト化が図られた、黄、橙または赤色の出力光の色調や残光性能が改善され、低製造コスト化が図られた表示装置としての発光装置や、照明光の演色性が改善され、低製造コスト化が図られた照明光源や照明装置としての発光装置等になる。
図1Aと図1Bは、いずれも本発明の発光装置の技術思想を示す図である。
【0081】
図1Aおよび図1Bにおいて、励起源1は、実施形態1で説明した前記本発明のYAG系蛍光体2aを励起するための励起線または励起光3を放つ励起源であり、例えば、粒子線(α線、β線、電子線)や電磁波(γ線、X線、真空紫外線、紫外線、可視光(特に短波長可視光(紫色光や青色光など))を放つ粒子線.あるいは電磁波の放射装置などである。各種の、放射線発生装置、電子ビーム放射装置、放電光発生装置、固体発光素子や固体発光装置などがこれに相当し、代表的なものとしては、電子銃、X線管球、希ガス放電装置、水銀放電装置、発光ダイオード、半導体レーザーを含むレーザー光発生装置、無機あるいは有機のエレクトロルミネッセンス素子などが挙げられる。
【0082】
また、図1Aおよび図1Bにおいて、出力光4は、前記励起源1が放つ励起線または励起光3によって励起された前記本発明のYAG系蛍光体2aが放つ蛍光であり、発光装置において照明光や表示光として利用するものである。
【0083】
図1Aは、本発明のYAG系蛍光体2aが放つ出力光4が、励起線または励起光3が本発明のYAG系蛍光体2aを照射する方向に、少なくとも放たれる構造の発光装置を示す概念図である。なお、図1Aに示す技術思想を有する発光装置としては、白色LED光源や、蛍光ランプ、電子管などが挙げられる。
【0084】
一方、図1Bは、本発明のYAG系蛍光体2aが放つ出力光4が、励起線または励起光3が本発明のYAG系蛍光体2aを照射する方向とは逆の方向に、少なくとも放たれる構造の発光装置を示す概念図である。なお、図1Bに示す技術思想を有する発光装置としては、プラズマディスプレイ装置や、反射板付き蛍光体ホイールを利用する光源装置およびプロジェクターなどが挙げられる。
【0085】
本発明の好ましい発光装置は、蛍光体を利用して構成した、半導体発光装置、照明光源、照明装置、LEDバックライト付き液晶パネル、LEDプロジェクター、または、レーザープロジェクターのいずれかである。以下、具体例として、半導体発光装置を取り上げて、本発明の発光装置の実施形態を詳説する。
【0086】
(半導体発光装置)
図2は、本発明の実施形態の第一番目の具体例となる半導体発光装置を示す模式断面図である。図2は断面図であるが、図面の見易さを考慮して透光性樹脂10の断面を示すハッチングは省略している。また、図3〜5は、本発明の半導体発光装置が放つ出力光の分光分布の一例を示す図である。
【0087】
図2において、基板5は、固体発光素子6を固定するための基台となるものであり、例えば、セラミックス(Al、AlNなど)、金属(Al、Cuなど)、ガラス、樹脂(シリコーン樹脂、フィラー入りシリコーン樹脂など)などから構成される。
【0088】
また、基板5上には配線導体7が設けられ、固体発光素子6の給電電極8と配線導体7とを金線などを用いて電気的に接続することによって、固体発光素子6に給電している。
【0089】
固体発光素子6は、直流、交流、又はパルスの中から選ばれる少なくともいずれかの電圧を印加する電力供給によって、電気エネルギーを光エネルギー(例えば、青色光)に変換する電光変換素子であり、例えば、LED、レーザーダイオード(LD)、無機エレクトロルミネッセンス(EL)素子、有機EL素子などである。また、高出力かつ狭スペクトル半値幅の一次光を得る目的で好ましい固体発光素子6は、LED又はLDである。なお、図2は、固体発光素子6を、InGaN系化合物を発光層とするLEDとした場合を意識したものである。
【0090】
波長変換層9は、蛍光物質からなる蛍光体2を含み、固体発光素子6が放つ一次光を、当該一次光よりも相対的に長波長側に移動した光に波長変換するためのものであり、実施形態1で説明した本発明のYAG系蛍光体2aを少なくとも含んでなる構造物である。波長変換層9は、例えば、樹脂蛍光膜、透光性蛍光セラミックス、蛍光ガラスなどから構成されるが、本実施形態では、透光性樹脂10中に、前記本発明のYAG系蛍光体2aを少なくとも含んでなる構造物である蛍光体2を分散させた樹脂蛍光膜で構成した場合とした。
【0091】
前記本発明の実施形態1のYAG:Ce系蛍光体2bは単独で使用することもできるが、前記波長変換層9には、必要に応じて、前記本発明の実施形態1のYAG:Ce系蛍光体2bとは異なる蛍光体2cを含むようにしてもよい。また、発光色または組成のいずれかの面で異なる前記本発明の実施形態1のYAG:Ce系蛍光体2bを複種類組み合わせて用いるようにしてもよい。
【0092】
前記本発明の実施形態1のYAG:Ce系蛍光体2bとは異なる蛍光体2cとしては、固体発光素子6が放つ一次光を吸収して、当該一次光よりも相対的に長波長側に移動した光に波長変換するものであれば、特に限定されるものではない。青色光、緑青光、青緑色光、緑色光、黄色光、橙色光、赤色光を放つ蛍光体から適宜選択して、半導体発光装置が、所望の出力光を放つようにするか、所望の照明状態が得られるようにする。
【0093】
なお、固体発光素子6を、青色光を放つLEDまたはLDとした場合の半導体発光装置用として好ましい高効率蛍光体として、Eu2+またはCe3+の少なくともいずれかで付活した酸化物系(酸化物や酸ハロゲン化物など)、窒化物系(窒化物や酸窒化物など)または硫化物系(硫化物や酸硫化物など)の蛍光体(例えば下記、ならびに、下記と同じ結晶構造を有するEu2+付活蛍光体またはCe3+の付活蛍光体)があり、これらのいずれかを利用することが好ましい。
【0094】
(緑色蛍光体)
(1)(Ba,Sr)SiO:Eu2+
(2)YAl12:Ce3+
(3)CaScSi12:Ce3+
(4)CaSc:Ce3+
(5)β−Si:Eu2+
(6)SrSi:Eu2+
(7)BaSi12:Eu2+
(8)SrSi13Al21:Eu2+
(9)YTbSiC:Ce3+
(10)SrGa:Eu2+
(黄または橙色蛍光体)
(1)(Sr,Ba)SiO:Eu2+
(2)(Y,Gd)Al12:Ce3+
(3)α−Ca−SiAlON:Eu2+
(4)YSiC:Ce3+
(赤色蛍光体)
(1)SrSi:Eu2+
(2)CaAlSiN:Eu2+
(3)SrAlSi:Eu2+
(4)CaS:Eu2+
本発明の実施形態1のYAG:Ce系蛍光体2bは、440nm以上480nm未満の波長領域内に励起スペクトルのピークを持つので、本実施形態の発光装置は、440nm以上480nm未満の波長領域内に発光ピークを持つ青色光を発する固体発光素子6と、565nmを超え650nm以下、好ましくは580nmを越え640nm以下の波長領域内に発光ピークを持つ黄色、橙色、または赤色光のいずれかを発する本発明の実施形態1のYAG:Ce系蛍光体2bを少なくとも含む波長変換層9とを少なくとも備えることを特徴とする。
【0095】
なお、固体発光素子と蛍光体の好ましい組み合わせとして、例えば下記があり、下記いずれかの組み合わせとして半導体発光装置を構成するか、または、下記の組み合わせに基づく出力光を最終的に放つようにすることが好ましい。
【0096】
(1)青色固体発光素子と、緑色蛍光体と、黄色蛍光体(または橙色蛍光体)との組み合わせ。
【0097】
(2)青色固体発光素子と、緑色蛍光体と、赤色蛍光体との組み合わせ。
【0098】
(3)青色固体発光素子と、黄色蛍光体(または橙色蛍光体)と、赤色蛍光体との組み合わせ。
【0099】
(4)青色固体発光素子と、赤色蛍光体との組み合わせ。
【0100】
本発明の実施形態では、半導体発光装置を構成する上記黄色蛍光体(または橙色蛍光体)あるいは赤色蛍光体として、本発明の実施形態1のYAG:Ce系蛍光体を少なくとも用いる。
【0101】
これら半導体発光装置の製造について簡単に説明すると、例えば、配線導体7を形成した基板5上に実装技術を用いて固体発光素子6を固定し、ワイヤーボンディング技術等を用いて、固体発光素子6の給電電極8と配線導体7とを電気的に接続する。一方で、シリコーン樹脂などの透光性樹脂10と蛍光体2などを十分混合し、所定の粘度となるように調整した蛍光体ペースト(蛍光体ペースト中の蛍光体の重量割合は数%〜数10%程度)を作製する。その後、例えば、固体発光素子6上に蛍光体ペーストを滴下するなどして、固体発光素子6の光取り出し面を蛍光体ペーストで覆うようにする。蛍光体ペーストを乾燥させるなどして固化することによって前記波長変換層9を形成し、半導体発光装置とする。なお、詳細は、背景技術で説明した特許文献等に記載されている通りである。
【0102】
以下、本実施例の半導体発光装置の動作を簡単に説明する。
【0103】
固体発光素子6に通電して所定の電力を供給すると固体発光素子6が一次光を放出する。なお、本実施形態の好ましい形態では、一次光は、440nm以上480nm未満の波長範囲内に発光ピークを有する青色光である。このような一次光は、実施形態1のYAG:Ce系蛍光体2によって、高い波長変換効率で黄色、橙色、または赤色の光に波長変換される。
【0104】
前記一次光は、波長変換層9に含まれた蛍光体2を照射し、一部が蛍光体2に吸収される。蛍光体2に吸収された前記一次光は、蛍光体2によって波長変換され、固体発光素子6が放つ一次光を、相対的に長波長側(低エネルギー側)に移動した光に波長変換する。そして、蛍光体2によって波長変換された波長変換光も透光性樹脂10を通り抜けて半導体発光装置から出射する。一方、蛍光体2に吸収されなかった前記一次光も、一般には、透光性樹脂10を通り抜けて半導体発光装置から出射する。この結果、半導体発光装置からは、蛍光体2による波長変換光と、通常、蛍光体2に吸収されなかった一次光の両方が出射することになり、これら双方が加色混合された光成分が半導体発光装置から出力される。波長変換層9の厚みや光透過率、波長変換層9に含まれる蛍光体2の種類や混合割合、固体発光素子が放つ前記一次光の波長などは適宜調整できるものであるので、所望とする光源色や照明光(特に白色系光)が得られるように光源設計すればよい。
【0105】
なお、前記一次光は青緑色光として発光装置を構成してもよい。Ce3+で付活された蛍光体は、一般に、最も長波長側に位置する前記励起ピークの長波長側の光を、高い光子変換効率(内部量子効率)で吸収した光よりも長波長の光に波長変換し得ることが知られているので、このようにしても、高光束の光を放つ半導体発光装置を提供できることになる。
【0106】
本発明の半導体発光装置は、例えば、図3〜5にその出力光の分光分布の一例を示すように、440nm以上480nm未満の波長領域内に発光ピークを有する青色の光成分12と、565nmを越え650nm以下の波長領域内に発光ピークを有する黄色、橙色、または赤色の暖色系の光成分13とを少なくとも放つものとすることができる。
【0107】
図3(a)は、青色光を放つInGaN系化合物を発光層とするLED(以後、InGaN青色LEDと略記する。)と、580nm付近に発光ピークを持つ暖色系の光成分13を放つ本発明の実施形態1のYAG:Ce系蛍光体とを少なくとも用いて、昼光色相当となる相関色温度6700Kの擬似白色の出力光を放つようにした場合をシミュレーションした分光分布の一例である。参考のため、図3(b)に、InGaN青色LEDと、575nm付近に発光ピークを持つ黄色光成分を放つ従来のYAG:Ce系蛍光体としての(Y,Gd)Al12:Ce3+とを用いて、相関色温度6700Kの擬似白色の出力光を放つようにした場合をシミュレーションした分光分布の一例も示した。
【0108】
図3(a)と図3(b)を対比して判るように、本発明によれば、Gdを用いて色調を制御した従来のYAG:Ce系蛍光体を利用した場合とほぼ同等の発光スペクトル形状の白色系光を、Gdを用いることなく得ることができる。なお、図3(a)に示す本発明による出力光と、図3(b)に示す従来の出力光の平均演色評価数Raは、各々、84.8と80.9であり、本発明の方が自然光に近い光である。
【0109】
図4(a)は、青色光を放つInGaN青色LEDと、530nm付近に発光ピークを持つ緑色蛍光体としての従来のYAG:Ce系蛍光体(YGaAl12:Ce3+)と、625nm付近に発光ピークを持つ赤色の光成分13を放つ、本発明の実施形態1のYAG:Ce系蛍光体とを用いて、電球色相当となる相関色温度2800Kの三波長形の白色系出力光を放つようにした場合をシミュレーションした分光分布の一例である。参考のため、図4(b)には、InGaN青色LEDと、緑色蛍光体としての従来のYAG:Ce系蛍光体(YGaAl12:Ce3+)と、650nm付近に発光ピークを持つ赤色光成分を放つCaAlSiN:Eu2+赤色蛍光体とを用いて、相関色温度2800Kの三波長形の白色系出力光を放つようにした場合をシミュレーションした分光分布の一例も示した。さらに、図4(c)には、InGaN青色LEDと、575nm付近に発光ピークを持つ黄色光成分を放つ従来のYAG:Ce系蛍光体としての(Y,Gd)Al12:Ce3+とを用いて相関色温度2800Kの擬似白色の出力光を放つようにした場合をシミュレーションした分光分布の一例を示した。
【0110】
図4(a)の白色系出力光は、平均演色評価数Raが83.1であり、図4(c)に示した擬似白色の出力光(Ra=54.5)よりも大幅に大きく、図4(b)に示した窒化物系の赤色蛍光体を利用する三波長形の白色系出力光(Ra=81.2)に対しても同等以上のRaの数値が得られる。このことは、本発明にかかる図4(a)の白色系出力光が自然光に近い照明光として利用できることを示している。また、本発明の実施形態1のYAG:Ce系蛍光体が、CaAlSiN:Eu2+赤色蛍光体等の窒化物系赤色蛍光体を代替し得ることを示すものともなる。
【0111】
図5(a)は、450nm付近に発光ピークを持つInGaN青色LEDと、530nm付近に発光ピークを持つ緑色蛍光体としての従来のYAG:Ce系蛍光体(YGaAl12:Ce3+)と、625nm付近に発光ピークを持つ実施形態1のYAG:Ce系の赤色蛍光体とを用いて、相関色温度が12000Kの三波長形の白色系出力光を放つようにした場合をシミュレーションした分光分布の一例である。参考のため、図5(b)に、InGaN青色LEDと、555nm付近に発光ピークを持つ黄緑色光成分を放つ従来のYAG:Ce系蛍光体(YAl12:Ce3+)とを用いて、相関色温度12000Kの擬似白色の出力光を放つようにした場合をシミュレーションした分光分布の一例も示した。
【0112】
図5(a)の白色系出力光は、図5(b)に分光分布を示す擬似白色とは異なり、相対的に、540〜600nmの黄緑〜橙色の光成分の出力が小さく、510〜525nmの色純度の良好な緑色の光成分の出力と、620〜650nmの色純度の良好な赤色の光成分の出力とが強いので、赤緑青の比較的強い光成分を利用して、広色域で高光出力の多色表示用として利用できる。
【0113】
図6は、図5(a)に分光分布の一例を示す半導体発光装置を用いて構成した表示装置の表示色域の概要を、CIE色度図を用いて示す図である。図6において、(a)と(b)は、各々、擬似白色と三波長形の出力光を放つ半導体発光装置を用いて表示装置を構成した場合の表示色域である。三波長形とすることによって、赤緑青のいずれの光成分強度も強くなるので、図6(a)に示すような広色域であっても高輝度表示ができることとなる。本発明では、このような広色域の高輝度表示を、希少金属元素の使用を控えて実現する表示装置を提供できることとなる。
【0114】
本発明の実施形態1のYAG:Ce系蛍光体は、青色の光を吸収して、黄色や橙色、さらには、赤色の光に波長変換する蛍光体である。また、本発明の半導体発光装置は、実施形態1のYAG:Ce系蛍光体を少なくとも含んで構成することを特徴としている。
【0115】
このため、本発明の半導体発光装置は、565nmを越え650nm以下の波長領域内に発光ピークを有する、黄色、橙色、あるいは赤色の暖色系の光成分を少なくとも放つものになる。これら暖色系光成分は、照明光源が放つ光の分光分布を自然光の分光分布に近づける作用を有するため、図4(a)に一例を示したように、照明光の演色性を高める効果がある。一方、比較的強い赤色光成分は、図5(a)に分光分布の一例を示して触れたように、表示装置の広色域化を可能にする効果がある。
【0116】
実施形態1のYAG:Ce系蛍光体は、実施形態1で説明したように、青色光励起が可能な従来の黄色蛍光体、橙蛍光体、および、赤色蛍光体とは異なり、GdやEuなどの希少元素を必要とせず、かつ、オーソドックスなセラミックス技術を用いて製造できる酸化物系の蛍光体であるため、低コスト化の面で有利なことを最大の特徴とする。このため、これを用いて構成した本実施形態の半導体発光装置は、照明光の演色性の改善や表示装置の広色域化に対する高コスト化因子を持たないので、特性改善がなされた半導体発光装置の上市は容易なものとなる。また、従来、コストアップを理由として、上市が見送られてきた半導体発光装置の実用も促すものとなる。
【0117】
発光装置の図示については省略するものの、本実施形態の半導体発光装置は、照明光源用や液晶ディスプレイのバックライト用、さらに表示装置用などとして広く利用可能である。また、これら照明光源等の発光装置は、本実施形態の半導体発光装置と同様、GdやEuなどの希少元素や特殊な設備を用いる必要性のない実施形態1のYAG系蛍光体を用いて、高演色性の照明光源や広色域表示可能な表示装置を提供できるという利点を有するものとなる。
【0118】
つまり、本発明は、照明光源や表示装置などの発光装置を幅広く網羅するものでもあり、前記発光装置に関するものともなる。例えば、前記発光装置は、本実施形態の半導体発光装置を用いて構成したことを特徴とするものとすることができる。例えば、本発明の照明光源は、少なくとも一つの前記本実施形態の半導体発光装置と、前記半導体発光装置を動作させる点灯回路と、照明器具との電気的な接続部品(口金など)と照明器具を少なくとも組み合わせて構成すれば足りるものになる。必要に応じて、さらに照明器具を組み合わせれば、照明装置や照明システムを構成することにもなる。例えば、本発明の表示装置は、本実施形態の半導体発光装置をマトリックス状に配置し、マトリックス状に配置した前記半導体発光装置をON−OFFする信号回路を少なくとも組み合わせて構成すれば足りるものになる。別の形態の、本発明の表示装置は、例えば、LEDバックライト機能付き液晶パネルである。当該表示装置は、例えば、本実施形態の半導体発光装置をライン状またはマトリックス状に配置しバックライトとして利用する。前記バックライトと、前記バックライトを点灯する点灯回路、または、前記バックライトをON−OFF制御する制御回路の少なくともいずれかと、液晶パネルとを少なくとも組み合わせて構成すれば足りるものになる。
【0119】
詳しい説明は省略するが、前記発光装置は、実施形態1のYAG:Ce系蛍光体と青色光を発する固体発光素子(例えば、青色LD)を利用した光源装置や固体発光素子を利用するプロジェクター(LEDプロジェクターやレーザープロジェクター)などとすることもできる。例えば、前記プロジェクターは、少なくとも実施形態1のYAG:Ce系蛍光体と青色光を発する固体発光素子(例えば、青色LD)を利用した光源装置と、前記光源装置を動作させる駆動回路と、前記光変調素子と、光変調素子を制御する制御回路とを少なくとも組み合わせて構成すれば足りる。必要に応じて、さらにスクリーンを組み合わせて表示装置を構成することもできる。これら表示装置の表示色域の一例は、図6中の(a)であり、ここでの説明は省略する。
【0120】
これら光源装置やプロジェクター等も、前記した実施形態の半導体発光装置と同様、GdやEuなどの希少元素や特殊な設備を用いる必要性のないYAG系蛍光体を用いて、広色域表示可能な表示装置を提供できるという利点を有するものとなる。
【0121】
なお、本発明は、上記説明した、半導体発光装置や光源装置およびこれを利用した発光装置以外の他の発光装置にも広く利用可能であり、特に前記暖色系の光成分を少なくとも放つ低製造コスト性の発光装置を提供し得ることは当業者にとって明らかである。
【0122】
〔実施例〕
以下、本発明のYAG系蛍光体の実施例を説明する。
固相反応を利用するオーソドックスなセラミックス技術を用いて本発明のYAG系蛍光体を合成し、その特性を評価した。
なお、実施例で使用した原料は、以下の化合物粉末とした。
酸化イットリウム(Y): 純度3N、信越化学工業(株)
酸化セリウム(CeO): 純度4N、信越化学工業(株)
酸化ユーロピウム(Eu): 純度3N、信越化学工業(株)
酸化アルミニウム(θ−Al): 純度>4N5、住友化学(株)
酸化マグネシウム(MgO): 純度4N、(株)高純度化学研究所
二酸化珪素(SiO): 純度>3N、日本アエロジル(株)
なお、原料同士の反応性を高める目的で、酸化アルミニウムについては、住友化学(株)製のAKP−G008を使用した。
また、実施例で使用した反応促進剤は、以下の化合物粉末とした。
弗化アルミニウム(AlF): 純度3N、(株)高純度化学研究所
炭酸カリウム(KCO): 純度2N5、関東化学(株)
(実施例1〜3)
実施例1〜3のYAG系蛍光体は、0.98(Y(Al2−xMg)(AlO3−x(SiO)・0.02CeAl12の組成式で表される化合物、つまり、(Y1−yCe(Al2−(1−y)xMg(1−y)x)(AlO3−(1−y)x(SiO(1−y)x)の化学式で表される化合物(但し、0<x≦2、y=0.02)としてのYAG:Ce系蛍光体とした。なお、比較例として、従来のYAG:Ce蛍光体(0.98YAl(AlO・0.02CeAl12)も同様に作製した。
反応によって化学量論的組成の化合物(Y0.98Ce0.02(Al2−0.98xMg0.98x)(AlO3−0.98x(SiO0.98xとなるように、前記原料を秤量し、さらに微量の反応促進剤を用いた。
【0123】
実施例1〜3および比較例の原料と反応促進剤の、具体的な秤量割合は表1に示す通りとした。
【0124】
【表1】

【0125】
ボールミルを用いて、これら原料および反応促進剤を、適量の水(純水)とともに十分湿式混合した。
【0126】
混合後の混合原料を容器に移し、乾燥機を用いて、120℃で一晩乾燥させた。乾燥後の混合原料を乳鉢と乳棒を用いて混合し、焼成原料とした。
【0127】
前記焼成原料を蓋付きの小型アルミナるつぼに移し、箱型電気炉を用いて、1600℃の大気中で4時間焼成した後、焼成物を軽く解砕した。解砕後の焼成物を、再度、小型アルミナるつぼに仕込み、炭素を仕込んだ一回り大きなアルミナるつぼに、前記小型アルミナるつぼとともに仕込み、るつぼ蓋をして、箱型電気炉を用いて、1400℃で2時間焼成した。1400℃の焼成によって発生するCOガスによって、前記蛍光体(1600℃焼成後の焼成物)に還元処理を施し、実施例1〜3および比較例のサンプルとした。この時、前記還元処理によって、前記蛍光体の体色は淡い黄、橙、または赤色から濃い黄、橙、または赤色へと変化した。なお、実験の都合上、後処理については省略した。
【0128】
以下、実施例1〜3のYAG:Ce系蛍光体の特性を評価した結果を説明する。
【0129】
まず、実施例1〜3のYAG:Ce系蛍光体の結晶構造を、X線回折装置(X‘Pert PRO:スペクトリス(株)、PANalytical)を用いて評価した。
【0130】
図7(a)、(b)および(c)は、各々、実施例3、実施例2および実施例1のXRDパターンである。参考のため、図7(d)には、比較例のXRDパターンを示し、図7(e)には、PDF(Power Diffraction Files)に登録されている、Al12のパターン(PDF No.33−0040)を示した。
【0131】
図7(a)〜(c)と、図7(d)および図7(e)とを比較して判るように、実施例1〜3のYAG:Ce系蛍光体のXRDパターンは、比較例とした従来のYAG:Ce系蛍光体のXRDパターン、および、PDFに登録されているAl12のパターンと概ね一致した。このことは、少なくとも実施例1〜3のYAG:Ce系蛍光体が、化合物YAl12と同じガーネット構造を有する化合物を主体にしてなることを示している。
【0132】
また、図7(a)〜(c)と、図7(d)を対比して判るように、実施例1〜3のYAG:Ce系蛍光体のXRDパターンのピークは、全体的に、Mg−Si(またはMg−SiO)の置換量)(すなわち前記xである。)の増加とともに低角度側へとシフトした。
【0133】
図8は、XRDパターンの33°付近の主ピーク((420)面の回折線である。)のXRD回折角(2θ)をもとに、実施例1〜3のYAG:Ce系蛍光体の(420)面のd値を算出して、Mg−Siの置換量(前記x)と前記d値の関係をまとめた図である。図8に示すように、前記d値は、Mg−Siの置換量(前記x)にほぼ比例して増加した。このことは、Mg−Siの置換量を増すにつれて実施例1〜3のYAG:Ce系蛍光体の前記(420)面の面間隔が伸びていることを示している。
【0134】
また、図7と図8とは、従来のYAG:Ce系蛍光体中で、化合物(Y,Ce)Al(AlOと、化合物(Y,Ce)Mg(AlO)(SiOまたは化合物Mg(Y,Ce)Mg(SiOとが、両者の固溶体を形成するようにして、(Y,Ce)Al(AlOの結晶中にMgとSiとが固溶している証拠となるデータである。
【0135】
つまり、先に触れた(Y1−yCe(Al2−(1−y)xMg(1−y)x)(AlO3−(1−y)x(SiO(1−y)xの化学式で表される化合物(つまり、(Y,Ce)(Al,Mg)((AlO),(SiO))である。)が実在し、これが合成されたことを示す根拠となるものである。
【0136】
なお、イットリウムアルミニウムガーネットのタイプに属する化合物を構成する骨格を、AB’(B”Xの化学式で表した時に、実際に、前記B’の格子位置をMgが置換し、B”の格子位置をSiが置換するのか、それとも、B’の格子位置をSiが置換し、B”の格子位置をMgが置換するのか、あるいは、前記Aの格子位置をMgが置換し、B’の格子位置をYが置換するのかなどについては、今後の学術的な精査が望まれる。合成された化合物は、(Y1−yCe(Al2−(1−y)xSi(1−y)x)(AlO3−(1−y)x(MgO(1−y)xの化学式で表される化合物(つまり、(Y,Ce)(Al,Si)((AlO),(MgOである。)、あるいは、((Y,Mg)1−yCe(Al2−(1−y)x(1−y)x)(AlO3−(1−y)x(SiO(1−y)xの化学式で表される化合物(つまり、(Y,Mg,Ce)(Al,Y)((AlO),(SiO))である。)などである可能性も否定しきれないが、組成の面で同じものになるので、ここでは、便宜上、これらをまとめて、前記(Y1−yCe(Al2−(1−y)xMg(1−y)x)(AlO3−(1−y)x(SiO(1−y)xの化学式で表される化合物と表記した。
【0137】
このようにして、実施例1〜3のYAG:Ce系蛍光体が、化合物としての(Y,Ce)(Al,Mg)((AlO),(SiO))であることを確認できた。
次に、実施例1〜3のYAG:Ce系蛍光体の励起特性と発光特性を、分光蛍光光度計(FP−6500:日本分光(株))を用いて評価した。
【0138】
図9は、実施例1の発光スペクトル24aと励起スペクトル25a、実施例2の発光スペクトル24bと励起スペクトル25b、実施例3の発光スペクトル24cと励起スペクトル25c、および、比較例の発光スペクトル24dと励起スペクトル25dをまとめた図である。
【0139】
なお、発光スペクトル測定時の励起波長は450nmとし、励起スペクトル測定時のモニタ波長は発光ピーク波長とした。また、図9では、発光スペクトルと励起スペクトルは、いずれもピークを100として規格化して示している。
【0140】
図9から判るように、Mg−Siの置換によって、発光スペクトルと励起スペクトルは、両者とも、相対的に長波長側へとシフトし、Mg−Siの置換量の増加とともに、前記シフトの程度は大きくなった。とりわけ、発光ピークの長波長シフトが顕著に認められた。
【0141】
発光スペクトルと励起スペクトルのピークは、例えば、前記xの数値が0の比較例では、各々、565nmと450nmであったが、前記xの数値が0.5の実施例1では、各々、579nmと458nmにまでシフトし、前記xの数値が1.0の実施例2では、各々、599nmと458nmにまでシフトした。さらに、前記xの数値が2.0の実施例3では、各々、625nmと473nmシフトした。そして、Mg−Siの置換量の増加に伴う発光スペクトルの長波長シフトに伴って、YAG:Ce系蛍光体が放つ光色は、黄色から橙色、そして赤色へと変化した。
【0142】
このことは、実施例1〜3のYAG:Ce系蛍光体が、波長450〜480nm付近の青色光を効率良く吸収して、黄〜橙〜赤色光へと波長変換できることを示すものである。
【0143】
なお、YAG:Ce系蛍光体では、励起スペクトルの最長波側の励起ピークよりも長波長側の光は、たとえ励起ピークからずれていても、90%程度を超える高い光子変換効率(内部量子効率)で波長変換されることが知られている。このため、本実施例のYAG:Ce系蛍光体は、青色から緑色に至るまでの光を高い光子変換効率で黄〜橙〜赤色光に波長変換する、青色または緑色の光励起可能な高効率蛍光体であるといえる。
【0144】
一方で、YAG:Ce系蛍光体の発光スペクトルのピーク波長は、Ce3+の付活量に依存して10〜20nm程度前後し、Ce3+の付活量を減らすと短波長側に、Ce3+の付活量を増すと長波長側にシフトすることが広く知られている。これに伴って、励起スペクトルのピーク波長が若干変化することも知られている。このことを考慮すると、実施例1〜3のYAG:Ce系蛍光体は、Ce3+付活量に依存して、発光スペクトルのピーク波長を、565nmを超え650nm以下、特に、590nmを超え630nm以下の波長範囲内に位置するものに制御できることは明らかである。同様に、励起スペクトルのピーク波長も、430nmを超え500nm以下、特に、440nmを越え480nm以下の波長範囲内に位置するものに制御できるといえる。
【0145】
なお、従来のYAG:Ce系蛍光体では、橙色の光色は、希少元素のGdを利用し、Yの一部をGdで置換した場合でのみ認められていたが、本発明では、Gdなどの希少元素を利用することなく、橙色の光を放つYAG:Ce系蛍光体を製造できた。また、本発明では、室温下でも、十分強い赤色光を放つYAG:Ce系蛍光体を製造できた。
【0146】
(実施例4)
実施例4のYAG系蛍光体は、(Y1−yEu(Al2−xMg)(AlO3−x(SiOの組成式で表される化合物(但し、x=2、y=0.08)としてのEu3+付活YAG系蛍光体とした。
【0147】
実施例1〜3と同様に、固相反応によって化学量論的組成の化合物(Y0.92Eu0.08Mg(AlO)(SiOとなるように、前記原料を秤量し、さらに微量の反応促進剤を用いた。
【0148】
実施例4の具体的な秤量割合は表2に示す通りとした。
【0149】
【表2】

【0150】
実施例1〜3と同様にして、実施例4のサンプルを作製した。但し、焼成は、1600℃の大気中での焼成のみとし、還元処理は施さなかった。
【0151】
実施例4のYAG系蛍光体のXRDパターンは、図7(a)に示した前記実施例3と同様なので省略するが、実施例4のYAG系蛍光体は、(Y1−yEu(Al2−xMg)(AlO3−x(SiOの化学式で表され、ガーネットの結晶構造を有する化合物(Y,Eu)Mg((AlO),(SiO))であることを確認した。
【0152】
図10は、実施例4のYAG系蛍光体の発光スペクトル24と励起スペクトル25を、実施例1〜3と同様にして評価した結果をまとめた図である。なお、図10において、発光スペクトル測定時の励起波長と励起スペクトル測定時のモニタ波長は、各々、250nmと発光ピーク波長(611nm)とし、発光スペクトルと励起スペクトルのピークを100として規格化している。
【0153】
図10から判るように、実施例4のEu3+付活YAG系蛍光体の発光スペクトル24は、橙〜赤色の波長領域内の590〜710nm付近に複数のピークを持つ形状であり、実施例4の励起スペクトル25は240nm付近にピークを持った。このことは、実施例4の蛍光体が、紫外線で励起されて、赤色の光成分を放つYAG系赤色蛍光体であることを示している。
【0154】
なお、Eu3+で付活した蛍光体の先行技術文献の記載内容などから、590〜710nm付近の複数の発光ピークはEu3+の発光であることは明らかである。
【0155】
本発明では、このようにして、赤色光を放つEu3+付活YAG系赤色蛍光体を得ることもできた。
【0156】
なお、説明は省略するが、同様にして、緑色光を放つTb3+付活YAG系緑色蛍光体など、Ce3+やEu3+以外の発光中心イオンを添加したYAG系蛍光体も得ることもできた。
【産業上の利用可能性】
【0157】
以上説明したように、本発明によれば、希少かつ高価な原料を必要とする組成物にすることなく、前記発光装置用として好ましい、特に黄から赤の暖色系の蛍光を放つ新規なYAG系蛍光体、特に、YAG:Ce系蛍光体を提供できて、高演色性かつ低製造コスト性の白色LED照明光源や広色域表示可能なLED−LCDなどに有用である。
【符号の説明】
【0158】
1 励起源
2 蛍光体
2a 本発明のYAG系蛍光体
2b 本発明のYAG:Ce系蛍光体
2c 本発明のYAG:Ce系蛍光体以外の蛍光体
3 励起線または励起光
4 出力光
5 基板
6 固体発光素子
7 配線導体
8 給電電極
9 波長変換層
10 透光性樹脂
11 筐体
12 青色の光成分
13 暖色系の光成分
24、24a〜d 発光スペクトル
25、25a〜d 励起スペクトル


【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光を放つイオンを含むイットリウムアルミニウムガーネットのタイプに属する化合物であり、
前記化合物を構成する骨格を、AB’(B”Xの化学式で表した時に、
前記Aは、少なくともイットリウムを含み、前記B’は、少なくともマグネシウムを含み、前記B”は、少なくともアルミニウムとシリコンとを含み、前記Xは少なくとも酸素を含むことを特徴とするイットリウムアルミニウムガーネットタイプの蛍光体。
【請求項2】
前記Aは、全てが希土類である請求項1に記載のイットリウムアルミニウムガーネットタイプの蛍光体。
【請求項3】
マグネシウムの総原子数およびシリコンの総原子数は、いずれも、前記化合物を構成する陰イオン12個に対して、0.1個を越え2.0個以下である請求項1に記載のイットリウムアルミニウムガーネットタイプの蛍光体。
【請求項4】
前記マグネシウムと前記シリコンとは、前記化合物中で、互いに電荷補償するように添加されている請求項1に記載のイットリウムアルミニウムガーネットタイプの蛍光体。
【請求項5】
蛍光を放つイオンを含むLn(Al2−xMg)(AlO3−x(SiO)の化学式で表される化合物であり、前記Lnは、Yを少なくとも含む希土類であり、前記xは、0<x≦2を満足する数値である請求項1に記載のイットリウムアルミニウムガーネットタイプの蛍光体。
【請求項6】
前記Lnは全てがイットリウムである請求項5に記載のイットリウムアルミニウムガーネットタイプの蛍光体。
【請求項7】
人為的に加えられたGa、Lu、ScまたはGdを含まない請求項1〜6のいずれかに記載のイットリウムアルミニウムガーネットタイプの蛍光体。
【請求項8】
前記蛍光を放つイオンは、Ce3+である請求項1〜6のいずれかに記載のイットリウムアルミニウムガーネットタイプの蛍光体。
【請求項9】
前記Ce3+が放つ光の分光分布のピークは、565nmを超え650nm以下の波長範囲内に位置する請求項8に記載のイットリウムアルミニウムガーネットタイプの蛍光体。
【請求項10】
前記Ce3+が放つ光の分光分布のピークは、590nmを超え630nm以下の波長範囲内に位置する請求項8に記載のイットリウムアルミニウムガーネットタイプの蛍光体。
【請求項11】
蛍光体を構成するアルミニウムの一部を、少なくともマグネシウムとシリコンの元素組み合わせで置換することによって、発光のピーク波長を565nmよりも長波長側に移動させることを特徴とする、Ce3+付活イットリウムアルミニウムガーネットのタイプに属する蛍光体の蛍光波長の制御方法。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれかに記載のイットリウムアルミニウムガーネットタイプの蛍光体を用いて構成したことを特徴とする発光装置。
【請求項13】
請求項9に記載のイットリウムアルミニウムガーネットタイプの蛍光体が放つ光を、表示または照明のいずれかの目的に利用する請求項12に記載の発光装置。
【請求項14】
蛍光体を利用して構成した、半導体発光装置、照明光源、照明装置、LEDバックライト付き液晶パネル、LEDプロジェクター、または、レーザープロジェクターのいずれかである請求項13に記載の発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−28667(P2013−28667A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163986(P2011−163986)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】