説明

写真要素及び画像の現像方法

【目的】 写真画像の鮮鋭度を低下させることなく粒状度を改善するためにスミアリングカプラーを使用するカプラー、写真要素及び写真処理を提供する。
【構成】 本発明の写真要素は、支持体と、ハロゲン化銀乳剤と、そしてカルバミン酸基へ転化されることができるカルバミン酸前駆体を含有するカプラーとを含んで成る。該写真要素は、現像工程中には前記前駆体がカルバミン酸基へ転化してカプラーを拡散せしめ、そして現像工程完結後には該カルバミン酸基がアミンと二酸化炭素に分解する結果、実質的に非拡散性のカプラーを生ぜしめる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ハロゲン化銀写真材料に、とりわけ、新規カルバミン酸可溶化スミアリング(smearing)カプラーを写真材料中に導入することによって実現した低減された粒状度を示すカラー写真材料に関する。
【0002】
【従来の技術】カラーカプラーと感光性ハロゲン化銀乳剤を含有する写真コーティングは多年にわたり知られている。一般に、このようなカプラーは、現像工程中の酸化済発色現像剤との反応時にカプラーから生成した色素とカプラーとの両方を固定化するのに十分な大きさのバラスト基を含む。その後、対応して形成された銀画像を定着浴によって漂白除去し、色素のみから成る着色画像を残す。写真スピードが高い材料ほど、より大きなハロゲン化銀粒子を使用することが必要となり、その結果より大きな色素雲から形成されたカラー画像がもたらされる。このことは、多くの場合、望ましくない粒状の外観の原因となっている。こうした粒状性を物理的に測定したものを粒状度という。粒状度は、酸化済現像剤が生成する銀粒子の最も近い領域にのみ色素付着物が生成し、こうして高濃度及び低濃度のミクロ領域をつくり出すことによる。
【0003】Boomesらの米国特許第 4,420,556号明細書は、生成部位から少しの距離を拡散する能力、すなわちスミア(またはぼかし)を示し、よってカバリングパワーを増大し且つ粒状度を低減する写真用色素の有用性について記載している。カバリングパワーとは、単位面積当たり固定量の色素によって生じる濃度である。記載されているカプラーは2当量カプラーであって、そのカプラーの酸化済現像剤との反応時に色素を生成しない部分に、1次バラスト基が結合されている。該バラスト基は、現像前には拡散を妨害または防止するが、現像時に該バラスト基が脱離し、そして生じた色素はフィルム中を自由に拡散する。このことは、拡散が微小濃度変化をならし去る傾向があるので、良好な粒状度をもたらす。しかしながら、バラスト基が失われると、拡散は、色素自体に残された置換基の性質によってのみ制御されることになる。Booms らは、現像工程中の色素移動量を少なくするために、カプラーに2次バラスト基を結合させている。しかしながら、色素が移動性のままであるために現像後でさえも拡散、またはスミアリング、が継続するならば、望ましくないことに、時間とともに画像の鮮鋭度が失われていく。これは、鮮鋭度が、近くに間隔をあけて配置された2ヶ所の高濃度及び低濃度領域間のグラジエント、すなわちエッジ、の関数となっているためである。処理後の色素拡散は、色素を高濃度領域から低濃度領域へ移動させてしまうので、グラジエントを低減させ、また時間とともに画像構造が全体的に損失することになる。
【0004】Booms らの特許の第二の態様は、拡散性色素を生成するカプラーを導入する工程と、この色素をそれがあまり長い距離を拡散する前に近くの媒染体に固定化することによってスミアリングを制御する工程とを含んでいる。スミアリングの程度は、カラーカプラーから一定距離のところに媒染体を配置することによって制御される。その距離が長いほど、画像のスミアリングの程度が大きくなる。
【0005】色素スミアリングの使用によって粒状性を低減することに関する別の文献には英国特許出願第 2,141,250号明細書が含まれる。該文献は、平均粒径が約 1.5マイクロメートルよりも大きなハロゲン化銀乳剤にスミアリングカプラーを使用することで、粒状度の改善と感度の向上を実現している。米国特許第 4,840,884号明細書は、酸化済現像剤との反応時にカルバミン酸誘導体として移動したアゾアニリン色素を放出するカプラーについて開示している。カルバミン酸基は安定ではなく、そして処理ののちほどに分解して二酸化炭素と移動しなかったアゾアニリン色素とを与える。米国特許第 4,489,155号明細書は、酸化済現像剤を掃去する競争剤を含むことによって色素雲の大きさを制限する、いくらかは拡散する色素を生成するカプラーの使用について記載している。米国特許第 4,567,135号明細書に開示されているように、固定化性色素を生成する高活性カプラーと拡散性色素を生成するカプラーとの組合せを使用して、同様の結果が得られている。欧州特許第96,837号明細書は、DIR カプラーと制御されたスミアリング色素を生成するカプラーとの調和された活性混合物を使用することによって、改善された粒状度及び鮮鋭度を得ようとしている。米国特許第 4,536,472号;同第 4,705,743号及び同第 4,729,944号並びに欧州特許出願第 135,883号及び同第 230,975号は、制御されたスミアリング色素カプラーと各種のハロゲン化銀乳剤との組合せについて評価している。米国特許第 5,051,343号明細書は、酸化済現像剤と反応しなかった場合にフィルム要素から除去されるカプラーに関する。
【0006】カルボン酸やスルホンアミドのような現像剤中で少なくとも部分的にイオン化可能な可溶化性置換基は、現像工程中の良好な拡散を可能にするが、処理が完結した後に継続するスミアリングを防止しない。代わりに、色素がイオン化性基をもたない場合には、処理後のスミアリング速度は許容できるものでありうるが、現像工程中のスミアリング量もまた低下してしまう。これは、この種のカプラーを使用することから利用できる粒状度の改善量を制限する。従って、良好な拡散性を付与するために現像剤中で十分に可溶化する基を含有するが、処理後の拡散を防止するために処理が完結した後には可溶化性をまったく示さない材料があれば非常に望ましい。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】解決すべき問題は、現像前にはカプラーの拡散が防止または制限され、現像中には生じた色素が自由に拡散して、すなわちぼやけて粒状度を低減させ、しかし処理が完結した後には、画像鮮鋭度を望ましくないほどに低減しないように画像のさらなるスミアリングが大幅に低減される、そのようなカプラーと、それらを含有する写真要素を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段及び作用】本発明によると、支持体と、ハロゲン化銀乳剤と、そしてカルバミン酸基へ転化されることができるカルバミン酸前駆体を含有するカプラーとを含んで成る写真要素において、現像工程中に前記前駆体がカルバミン酸基へ転化して該カプラーを拡散せしめ、そして現像工程完結後には該カルバミン酸基がアミンと二酸化炭素に分解する結果、実質的に非拡散性のカプラーを生ぜしめる、そのような写真要素を提供することによって上記問題が解決される。
【0009】一般に、本発明は、以下の式:
【0010】
【化2】


【0011】(上式中、COUPはカプラー部分を表し、Lは結合または間隔基を表し、Rは水素、置換もしくは未置換アルキル基、置換もしくは未置換アリール基、または窒素をカプラーに結合させる、好ましくは5〜7員の、環系を形成するのに必要な原子、から選択され、T1 及びT2 は時限基であり、m及びnは0〜2の整数であり、SLは、現像工程中に開裂される開裂可能な結合基であり、BALLAST は少なくとも1種のバラスト基であり、そしてp、q及びrは独立に0または1であるが、スミアリングカプラー中には少なくとも1個のバラスト基が存在し、但し、Lまたはカルバメート基(N(R)COO )はどちらも、カップリング部分におけるCOUPには結合しておらず、また酸化済現像剤との反応時に色素を生成しない分子の部分にも結合していない)で示されるカルバミン酸可溶化スミアリングカプラーを提供する。
【0012】実施態様COUP部分は、当該技術分野に知られている任意のカプラーから誘導することができる。シアン、マゼンタ及びイエロー色素生成カプラー部分が好ましいが、その他のカプラー部分、例えば現像時に無色生成物またはブラック色素を生成するもの、を使用することは可能である。有用なカプラー部分を選択することができる特許及び刊行物を以下に記載する。
【0013】酸化済発色現像剤との反応時にシアン色素を生成するカプラーが、以下のような代表的な特許公報及び刊行物に記載されている:米国特許第 2.367,531号;同第 2,423,730号;同第 2,474,293号;同第 2,772,162号;同第 2,801,171号;同第 2,895,826号;同第 3,002,836号;同第 3,034,892号;同第 3,041,236号;同第 3,419,390号;同第 3,476,563号;同第 3,772,002号;同第 3,779,763号;同第 3,996,253号;同第 4,124,396号;同第 4,254,212号;同第 4,296,200号;同第 4,333,999号;同第 4,443,536号;同第 4,457,559号;同第 4,500,635号;同第 4,526,864号;同第 4,690,889号;同第 4,775,616号;及びAgfa Mitteilungen 刊の「Farbkuppler - ein Literaturu bersicht 」、Band III, pp. 156-175(1961)。このようなカプラーは典型的にはフェノール及びナフトール類である。
【0014】酸化済発色現像剤との反応時にマゼンタ色素を生成するカプラーが、以下のような代表的な特許公報及び刊行物に記載されている:米国特許第 1,269,479号;同第 2,311,082号;同第 2,343,703号;同第 2,369,489号;同第 2,600,788号;同第 2,908,573号;同第 3,061,432号;同第 3,062,653号;同第 3,152,896号;同第 3,519,429号;同第 3,725,067号;同第 3,935,015号;同第 4,120,723号;同第 4,443,536号;同第 4,500,630号;同第 4,540,654号;同第 4,581,326号;同第 4,774,172号;欧州特許出願公報第 170,164号;同第 177,765号;同第 240,852号;同第 284,239号;同第 284,240号;及びAgfa Mitteilungen 刊の「Farbkuppler - ein Literaturu bersicht 」、Band III, pp. 126-156 (1961)。典型的には、このようなカプラーはピラゾロン、ピラゾロトリアゾール、ピラゾロベンズイミダゾールまたはインダゾール類である。
【0015】酸化済発色現像剤との反応時にイエロー色素を生成するカプラーが、以下のような代表的な特許文献及び刊行物に記載されている:米国特許第 2,298,443号;同第 2,407,210号;同第 2,875,057号;同第 3,048,194号;同第 3,265,506号;同第 3,384,657号;同第 3,415,652号;同第 3,447,928号;同第 3,542,840号;同第 3,894,875号;同第 3,933,501号;同第 4,022,620号;同第 4,046,575号;同第 4,095,983号;同第 4,182,630号;同第 4,203,768号;同第 4,221,860号;同第 4,326,024号;同第 4,401,752号;同第 4,443,536号;同第 4,529,691号;同第 4,587,205号;同第 4,587,207号;同第 4,617,256号;欧州特許出願公報第296,793号;及びAgfa Mitteilungen 刊の「Farbkuppler - ein Literaturu bersicht 」、Band III, pp. 112-126 (1961)。典型的には、このようなイエロー色素生成カプラーはアシルアセトアニリド類、例えばベンゾイルアセトアニリド及びピバリルアセトアニリドである。
【0016】酸化済発色現像剤との反応時に無色の生成物を生成するカプラーが、英国特許第 861,138号;米国特許第 3,632,345号;同第 3,928,041号;同第 3,958,993号;及び同第 3,961,959号のような代表的な特許文献に記載されている。
【0017】酸化済発色現像剤との反応時にブラック色素を生成するカプラーが、米国特許第 1,939,231号;同第 2,181,944号;同第 2,333,106号;及び同第 4,126,461号;ドイツOLS第 2,644,194号及び同第 2,650,764号のような特許文献に記載されている。
【0018】ユニバーサルまたはナフトール系カプラーを使用することが特に好ましい。ユニバーサルカプラーは、酸化済発色現像剤と反応して無色生成物を生じる材料、または酸化済発色現像剤と反応して、現像溶液中で可溶性であり且つ写真処理工程中にフィルムから洗い除かれる着色化合物を生じる材料である。
【0019】好ましいユニバーサルカプラー部分は、以下の一般式を有する:
【0020】
【化3】


【0021】上式中、R5 は水素原子、またはアルキルもしくはアリールもしくは複素環式基を表す。好ましいR5 には以下の基が含まれる:
【0022】
【化4】


【0023】好ましいユニバーサルカプラーの例が、米国特許第 4,482,629号明細書に開示されている。
【0024】酸化済発色現像剤とCOUPとのカップリングによって生成した色素が所望の移動性を示すような配置や大きさのものである1個以上の2次バラストを、COUPの非カップリング部位に結合させることができる。使用する特定の2次バラスト基は、使用する特定のカプラー部分、それに結合している他の置換基の性質、そのカプラーと結合して色素を生成する特定の発色現像剤並びにそれに結合している置換基の性質、に依存する。使用する特定の2次バラスト基は、色素に所望の移動度を付与する限り、重要ではない。特に有用な2次バラスト基には、炭素原子数2〜20個のアルキル基及び炭素原子数6〜20個のアリール基が含まれる。これらの基は置換されていてもいなくてもよい。米国特許第 4,420,556号明細書が、本発明に有用な2次バラスト基について記載しており、これを参照として本明細書に取り入れる。
【0025】COUP部分にカップリング離脱基を結合させることも可能である。この基は、処理前にはバラストとして作用することができる。また、COUPは、当該技術分野において色相や活性といった様々な特徴を制御することが知られている各種置換基を有することもできる。
【0026】Lは、それがCOUPのカップリング位置に、または酸化済現像剤との反応時に色素を生成しない位置に結合していない限り、単結合または任意の間隔基であることができる。すなわち、生じる色素は間隔基を含有する。有用な間隔基の例には以下のものが含まれる:
【0027】
【化5】


【0028】Rは、水素、置換もしくは未置換アルキル、置換もしくは未置換アリール、または窒素をCOUP部分に結合する好ましくは5〜7員の環系を形成するのに必要な原子、から選択される。Rは色素の一部となるので、拡散を防止してしまうほど大きいものであってはならない。また、R基は、その大きさを調節することによって拡散を制御するのに使用することができる。一般に、Rは1〜20個の炭素原子、好ましくは1〜10個の炭素原子を含有することができる。炭素原子数2〜20個のアルキル基や炭素原子数6〜20個のアリール基が有用である。Rに適した置換基には、1個以上のクロロ、スルホンアミド、カルバモイル、カルボキシレート、カルボキシ、エーテル(例、メトキシ及びエトキシ)、チオエーテル及び二置換アミノが含まれる。
【0029】また、1個以上の前記2次バラスト基をRに結合させることもできる。
【0030】有用なR基の例として、以下のものが含まれる:
【0031】
【化6】


【0032】カルバメート基の窒素原子は、生じる色素の一部となるCOUPの非カップリング部分に、または間隔基に、直接に結合している。詳細には、カルバメート基は、二酸化炭素の損失前には、生じる色素の一部である。
【0033】時限基Tには、写真技術分野で知られているいずれの時限基でも有用である。時限基Tの例が、米国特許第 4,248,962号、同第 4,772,537号及び同第 5,019,492号、並びに欧州特許出願第 255,085号に開示されている。本発明によると、2個までの時限基を連続して結合させることができる(すなわち、m及びnは独立に0〜2である)。好ましくは、m及びnは独立して0または1である。時限基は、バラスト化されていてもいなくてもよく、また可溶化性基を含有することができる。
【0034】BALLAST は、分子の残部とともに、処理前のフィルム要素中で未反応カプラーを固定性または非拡散性とするのに十分な大きさ及びかさ高さをもつ任意の基であることができる。それは、分子の残部が比較的かさ高い場合には、比較的小さな基であることができる。好ましくは、バラスト基は約8〜30個の炭素原子を含有するアルキルまたはアリール基である。これらの基は、例えば現像前のカプラーの非拡散性を増強する基で、置換されていてもいなくてもよい。バラスト基は、時限基またはSL基に、どのように結合していてもよい。また、バラスト基は、カルボン酸またはスルホンアミドのような別の可溶化性基を含有することも可能である。適当なバラスト基が、例えば米国特許第 4,420,556号及び同第 4,923,789号明細書に記載されており、これらを参照して取り入れる。バラスト基は、時限基またはSL基のどちらかに結合させることができ、あるいはバラスト基はこれらの基の一つ以上に結合させることができる。さらに、バラスト基は、時限基を介してSL基に結合させることができる。重要な要件は、バラスト基が、処理前には未反応カプラーを実質的に固定性とし、且つ現像中には、バラスト基が、SL基と共に、また存在する場合には時限基と共に開裂し、その結果生成した色素にバラスト基が残存しないということである。従って、色素の拡散はCOUP部分に結合した置換基によって決まる。
【0035】用語「非拡散性」は、写真分野の用語に通常適用される意味をもち、すべての実用目的で、写真要素中のゼラチンのような有機コロイド層を通って移動しない材料を意味する。用語「拡散性」は、その反対の意味をもち、写真要素のコロイド層を通って有効に拡散する特性を有する材料を意味する。用語「移動性」は、拡散能力を意味する。
【0036】SLは現像工程中に開裂する開裂性の結合基である。開裂は、像に従うように起こることも像には従わないで起こることも可能である。SL基の像に従う開裂は、ハロゲン化銀乳剤の露光から生成するDox との反応によりSLが除去される過程をいう。像に従わない開裂は、化学結合を開裂させることができるその他のすべての種類の反応をいう。酸化済現像剤と反応して色素を生成する過程は、SL基の開裂前、開裂と同時、あるいは開裂後に起こることができる。SL基(及び、存在する場合には、時限基T1 )が開裂すると、生じたカルバミン酸置換色素は自由に拡散する。色素沈着物のスミアリングが粒状度を低減する。処理が完結した後、カルバミン酸が分解して、可溶化性基を含まない色素を残す。その結果、画像のさらなるスミアリングが大幅に低減される。詳細には、現像後に、反応系のpHを低下させる。カルバミン酸基は低pH領域では不安定で、分解して二酸化炭素とアミン基になる。色素は、カルバミン酸基ほどは可溶化性ではないアミン基のみを有したまま残る。従って、処理後のさらなる拡散が最小限に抑えられ、同様に処理後の拡散が原因の画像構造の損失も抑えられる。
【0037】上記のpHの切替えを以下の化学式で例示する。
【0038】
【化7】


【0039】SL基は、カルバミン酸基が生成するように現像工程中に開裂するいずれの基であってもよい。この開裂性結合基は、カルボン酸やスルホンアミドのような可溶化性基を任意に含有することができる。それはまた、COUPを参照しながら上述した別の色素生成カプラーを含有することもできる。
【0040】SLとカルバメート基の間の開裂は、適当な任意の反応によって実現することができる。例えば、該結合基の開裂は、処理溶液のうちの一つの中のある成分、例えば酸または塩基、によって開始される加水分解反応によって起こすことができる。この反応は、カプラー部分上の基、1個以上のバラスト基及び/または結合基によって、あるいは処理組成物のうちの一つの別の成分である基、例えば求核試薬、によって促進されることができる。適当な反応が、例えば米国特許第 5,051,343号明細書に記載されており、本明細書ではこれを参照する。
【0041】一つの反応例は、エステルの加水分解である。例えば、イミドメチルエステルまたはベータ−もしくはガンマ−ケトエステルを塩基存在下で加水分解することができ、またこの反応はヒドロキシルアミンのような求核試薬を存在させることによって促進することができる。同様に、アセタール及びケタール保護基を、酸の存在において加水分解することができる。その他の場合では、ヒドラジド基の酸化またはスルホンアミドフェノールの酸化といった別の酸化または還元反応によって、加水分解が先導される。該反応は隣接基関与効果を示すことができる。
【0042】その他の適当な開裂反応には、脱離反応、分子間もしくは分子内求核置換反応または酸化還元反応が含まれ、これらは開裂のためにさらなる次の反応を必要としうる。例えば、本明細書で参照する米国特許第 4,684,604号明細書を参照されたい。これらの種類の反応に関する一般的な記述は、J. MarchによるAdvanced Organic Chemistry: Reactions, Mechanisms and Structure (McGraw Hill BookCompany, NY (1986)) に見ることができる。好ましい開裂反応はヒドロキシルアミン系の開裂反応である。ヒドロキシルアミン開裂に感受性の好ましい開裂性結合基が、米国特許第 5,019,492号明細書に記載されており、本明細書ではこれを参照する。
【0043】本発明の有用なスミアリングカプラーの例を以下に挙げる:
【0044】
【化8】


【0045】
【化9】


【0046】
【化10】


【0047】
【化11】


【0048】
【化12】


【0049】
【化13】


【0050】
【化14】


【0051】
【化15】


【0052】
【化16】


【0053】
【化17】


【0054】
【化18】


【0055】
【化19】


【0056】
【化20】


【0057】
【化21】


【0058】
【化22】


【0059】
【化23】


【0060】
【化24】


【0061】
【化25】


【0062】ここでカプラー1の調製について記載する。以下の化26〜化35に記載した調製経路を参照する。
【0063】化学式中の THFはテトラヒドロフランであり、 DMFはN,N-ジメチルホルムアミドであり、 R3NはN,N-ジイソプロピルエチルアミンである。
【0064】機械的スターラーを取り付けた容量500 mlの三口丸底フラスコ中の、200 mlのTHFと100 mlのMeOHに、ビスエステルI(50.0 g、0.115 モル)を入れた。NaOH(11.5 g、0.288 モル)を 30 mlの H2Oに溶解し、その全部を攪はんされているIの溶液に一度に加えた。5分後、メチルエステルの選択的な鹸化が達成された。その混合物を250 mlの酢酸エチルで希釈し、150 mlの2N HClで洗浄し、次いで H2Oで洗浄した。その有機層を MgSO4で乾燥し、濃縮すると、シロップ状のカルボン酸II(46.0 g、95%)が得られた。
【0065】機械的スターラーと添加漏斗を取り付けた三口丸底フラスコ中の250 ml THFの混合物に、カルボン酸II(100.8 g 、0.24モル)を溶解した。氷浴中で冷却した後、その混合物を R3N(42 ml 、0.24モル)で処理し、そして50 ml THF 中のイソブチルクロロホルメート(31.2 ml 、0.24モル)の溶液を5分間にわたり滴下した。その反応混合物を30分間攪はんし、そして無水物の化合物 IIIの生成を確かめるためにアリコートをアニリンで処理することによってチェックした。化合物 IIIを添加漏斗に移し、そして200 mlのピリジン中のジアルコールアミンIV(41.6 g、0.15モル)の激しく拡散されている冷溶液中に5分間にわたり滴下した。30分後、その混合物を300 mlの酢酸エチルで希釈し、240 mlの2N HClで洗浄し、次いで H2Oで洗浄した。その有機層を MgSO4で乾燥し、濃縮すると130 g の粗生成物が得られ、そして溶離液としてジクロロメタン/ヘプタン/酢酸エチル(5/3/2)を用いたシリカゲルのクロマトグラフィーにかけた。アミドV(70.0 g)がシロップ状で得られた。
【0066】アミドアルコールV(53.7 g、0.1 モル)、酸塩化物VI(22.5 g、0.1 モル)及び THF(200 ml)を混合して、氷浴中で冷却した。激しく攪はんしながら、トリエチルアミン(28.0 ml 、0.2 モル)を20分間にわたり滴下した。その混合物を室温になるまで置いた後、酢酸エチルで希釈し、過剰量の1N HClで洗浄し、次いで H2Oで洗浄した。乾燥し、濃縮し、そして前記Vと同じ溶離液を用いたクロマトグラフィー精製した後、ベンジリックアルコールVII(35 g)が得られた。
【0067】ベンジリックアルコールVII(2.0 g、0.003 モル)とルチジン(0.5 g 、0.0045モル)の20 ml THF 中の溶液に、ホスゲン(トルエン中2M溶液 1.5 ml 、0.003 モル)を添加した。その混合物を周囲温度で15分間攪はんした後、濃縮して油状 にした。その油状物を25 ml THF 及び25 ml リグロイン中で吸収して濃縮し、2.2 g のクロロホルメートの化合物VIIIとした。
【0068】機械的スターラーと添加漏斗を取り付けた三口の丸底フラスコ中で、15 ml のTHF と10 ml のDMF にアミノピラゾロンIX(1.2 g 、0.003 モル)を溶解し、そして氷/ドライアイス浴中で冷却した。ルチジン(0.5 g 、0.0045モル)を加え、次いで激しく攪はんしながら、10 ml THF 中のクロロホルメート化合物VIII(2.2 g 、0.003 モル)を3分間にわたり滴下した。その反応混合物を30分間攪はんし、酢酸エチルで希釈し、過剰量の1N HClで洗浄し、次いで H2Oで洗浄した。その有機層を MgSO4で乾燥し、濃縮して3.0 g の粗生成物とし、そして溶離液としてジクロロメタン/ヘプタン/酢酸エチル(5/3/2)を使用したシリカゲルのクロマトグラフィーで精製した。フォーム状の化合物X(1.3 g )が得られた。
【0069】カプラーX(1.3 g 、0.0012モル)を10 ml のジクロロメタンに溶解した。トリフルオロ酢酸(7.7 g 、5 ml、0.067 モル)を加えて、その反応混合物を15分間攪はんした。次いで、その反応混合物を50 ml の酢酸エチルで希釈し、順に過剰量の1N NaHCO3 、次いで H2O、1N HCl、最後に H2Oで洗浄した。その有機層をMgSO4で乾燥して濃縮するとフォーム(1.2 g )のカプラー1が得られた。
【0070】カプラー1の調製経路を以下に示す。
【0071】
【化26】


【0072】
【化27】


【0073】
【化28】


【0074】
【化29】


【0075】
【化30】


【0076】
【化31】


【0077】
【化32】


【0078】ここで以下の化33〜化35の調製経路を参照してカプラー2の調製について記載する。
【0079】ジスルフィドXII (1.2 g 、0.00138モル)を20 ml の塩化メチレンに溶解した。気体塩素を30秒間バブリングし、そしてその混合物をさらに5分間攪はんした。その混合物をロータリーエバポレーター内に配置し、100 mlの塩化メチレンを3回別々に蒸発させて、塩化スルフェニルの化合物XIII(0.00138 モル)を得た。
【0080】化合物XIII(0.00138 モル)を DMFに溶解し、そしてカプラー1の調製で調製した固体カプラーX(3.0 g 、0.027 モル)を一度に全部加えた。その混合物を60℃で45分間加熱した後、一晩攪はんしておいた。その反応混合物を、200 mlの氷水に注ぎ込むことによって沈澱させた。沈澱物を集め、そして焼結ガラス漏斗内で乾燥させた。乾燥後、その粗生成物を、溶離液としてジクロロメタン/ヘプタン/酢酸エチルを、(5/3/2) で始めて、不純物が溶出した時点で(5/1/4) で終わるように用いたシリカゲルのクロマトグラフィーにかけた。化合物XIV (2.3g 、0.0015モル)がフォーム状で得られた。
【0081】カプラーXIV (2.3 g 、0.0015モル)を25 ml のジクロロメタンに溶解した。トリフルオロ酢酸(10.3 g、0.09モル、6.7 ml)を加えて、その反応混合物を10分間攪はんした。その後、反応混合物を100 mlの酢酸エチルで希釈し、順に過剰量の1N NaHCO3 、H2O 、1N HCl及び H2Oで洗浄した。その有機層を MgSO4で乾燥し、そして濃縮してフォーム状(2.2 g )のカプラー2とした。
【0082】
【化33】


【0083】
【化34】


【0084】
【化35】


【0085】本発明のカプラーはハロゲン化銀乳剤中に導入することができ、またその乳剤を支持体表面に塗布して写真要素を形成することができる。代わりに、カプラーを、写真要素においてハロゲン化銀乳剤に隣接させて導入し、現像の際に、カプラーと、酸化形発色現像剤のような現像生成物とを反応的に協同させる(または組み合わせる)ことができる。
【0086】本発明のカプラーが用いられる写真要素は、単色要素または多色要素のどちらであってもよい。多色要素は、スペクトルの三つの主領域のそれぞれに感光性の色素画像形成単位を含有する。各単位は、スペクトルの特定領域に感光性の多重乳剤層または単一乳剤層を含んで成ることができる。画像形成単位の層を含む要素の層は、当該技術分野で知られているように様々な順序で配置することができる。
【0087】典型的な多色写真要素は、少なくとも1種のシアン色素生成カプラーを組み合わせて有する少なくとも1種の赤感性ハロゲン化銀乳剤層を含んで成るシアン色素画像形成単位と、少なくとも1種のマゼンタ色素生成カプラーを組み合わせて有する少なくとも1種の緑感性ハロゲン化銀乳剤層を含んで成るマゼンタ色素画像形成単位と、少なくとも1種のイエロー色素生成カプラーを組み合わせて有する少なくとも1種の青感性ハロゲン化銀乳剤層を含んで成るイエロー色素画像形成単位とを有する支持体を含んで成る。この要素は、別の新たな層、例えばフィルター層、中間層、オーバーコート層、下塗層、等を含有することができる。
【0088】本発明による乳剤や要素に使用するのに適した材料についての以下の議論では、Kenneth Mason Publications, Ltd.(Emsworth, Hampshire PO10 7DQ, U.K.)発行のResearch Disclosure, December 1978, Item 17643及びDecember 1989, Item 308119を参照する。本明細書に参照として取り入れるこの刊行物を、以降「Research Disclosure」として識別する。本発明の要素は、これらの刊行物及びそれらの中に参照されている刊行物に記載されている乳剤や添加剤を含んで成ることができる。
【0089】本発明による要素に用いられるハロゲン化銀乳剤は、臭化銀、塩化銀、ヨウ化銀、塩臭化銀、塩ヨウ化銀、臭ヨウ化銀、塩臭ヨウ化銀またはそれらの混合物を含んで成ることができる。該乳剤は、従来のいずれの形状または寸法のハロゲン化銀粒子でも含むことができる。詳細には、該乳剤は、粗粒子、中粒子または微粒子のハロゲン化銀粒子を含むことができる。高アスペクト比の平板状粒子乳剤が特に意図され、例えば、Mignotの米国特許第 4,386,156号;Wey の同第 4,399,215号;Maskaskyの同第 4,400,463号;Wey らの同第 4,414,306号;Maskaskyの同第 4,414,966号;Daubendiekらの同第 4,424,310号;Solberg らの同第 4,433,048号;Wilgusらの同第 4,434,226;Maskaskyの同第 4,435,501号;Evans らの同第 4,504,570号;並びにDaubendiekらの同第 4,672,027号及び同第 4,693,964号明細書に開示されている。粒子の周辺部よりも粒子の中心部において高いモル比のヨウ化物を有する臭ヨウ化銀粒子も特に意図され、例えば、英国特許第 1,027,146号;特願昭54-48521号;米国特許第 4,379,837号;同第 4,444,877号;同第 4,565,778号;同第 4,636,461号;同第 4,665,012号;同第 4,668,614号;同第 4,686,178号及び同第 4,728,602号;並びに欧州特許第 264,954号明細書に記載されている。該ハロゲン化銀乳剤は、単分散形であっても、または沈澱生成したままの多分散形であってもよい。乳剤の粒径分布を、ハロゲン化銀粒子分離技法によって、あるいは異なる粒径のハロゲン化銀乳剤を配合することによって、制御することができる。
【0090】増感性化合物、例えば銅、タリウム、鉛、ビスマス、カドミウム及び第VIII族貴金属元素の化合物を、ハロゲン化銀乳剤の沈澱生成の際に存在させることができる。
【0091】該乳剤は、表面感光性乳剤、すなわち、ハロゲン化銀粒子の主に表面で潜像を形成する乳剤、または内部潜像形成性乳剤、すなわち、ハロゲン化銀粒子の主に内部で潜像を形成する乳剤であることができる。該乳剤は、ネガ作用乳剤、例えば、表面感光性乳剤、または現像を均一露光で、もしくは核生成剤の存在下で行ったときにポジ作用する、カブリのない内部潜像形成型の直接ポジ乳剤であることができる。
【0092】ハロゲン化銀乳剤を表面増感することができる。個別にまたは組合せで用いられる、貴金属元素(例、金)、ミドルカルコゲン(例、硫黄、セレンまたはテルル)、及び還元増感剤が特に意図される。典型的な化学増感剤が、先に引用したResearch Disclosure Item 17643 Section IIIに記載されている。
【0093】ハロゲン化銀乳剤を、ポリメチン系色素の部類を含む各種の色素で分光増感することができる。該色素には、シアニン、メロシアニン、錯体シアニン及びメロシアニン(すなわち、3核型、4核型、及び多核型シアニン及びメロシアニン)、オキソノール、ヘミオキソノール、スチリル、メロスチリル、並びにストレプトシアニンが含まれる。代表的な分光増感色素が、Research Disclosure Item 17643 Section IV とその中に引用されている刊行物に記載されている。
【0094】本発明による要素の乳剤層及びその他の層に適したベヒクルは、Research Disclosure Item 17643 Section IX とその中に引用されている刊行物に記載されている。
【0095】本明細書に記載したスミアリングカプラーの他に、本発明による要素は、Research Disclosure, Section VIIのパラグラフD〜Gとそこに引用されている刊行物に記載されているような別のカプラーを含むことができる。これらの別のカプラーは、Research Disclosure, Section VIIのパラグラフCとそこに引用されている刊行物に記載されているように導入することができる。本発明によるカプラー混合物は、米国特許第 4,883,746号明細書に記載されているような着色マスキングカプラーと共に、米国特許第 3,148,062号;同第 3,227,554号;同第 3,733,201号;同第 4,409,323号及び同第 4,248,962号明細書に記載されているような画像改質性カプラーと共に、そして欧州特許出願第 193,389号明細書に記載されているような漂白促進剤を放出するカプラーと共に使用することができる。
【0096】本発明による写真要素は、またはその個別の層は、その他のよく知られているいくつかの添加剤や層を任意に含むこともできる。これらには、例えば蛍光増白剤(Research Disclosure Section V) 、カブリ防止剤及び画像安定剤(ResearchDisclosure Section VI)、粒子間吸収体のフィルター層のような光吸収材料及び光散乱材料(Research Disclosure Section VIII)、ゼラチン硬膜剤(Research Disclosure Section X) 、酸化済現像剤掃去剤、塗布助剤及び各種界面活性剤、オーバーコート層、中間層、バリヤ層及びハレーション防止層(Research Disclosure Section VII, Paragraph K)、帯電防止剤(Research Disclosure Section XIII)、可塑剤及び滑剤(Research Disclosure Section XII) 、艶消剤(Research Disclosure Section XVI) 、ステイン防止剤及び画像色素安定剤(Research Disclosure Section VII, paragraph I and J)、現像抑制剤放出型カプラー及び漂白促進剤放出型カプラー(Research Disclosure Section VII, Paragraph F)、現像改質剤(Research Disclosure Section XXI) 並びに当該技術分野に知られているその他の添加剤及び層を含有することができる。
【0097】本発明による写真要素は、Research Disclosure Section XVIIとそこに引用されている参考文献に記載されているように、各種の支持体上に塗布することができる。これらの支持体には、ポリマーフィルム、例えばセルロースエステル(例、セルローストリアセテート及びセルロースジアセテート)及び二塩基性芳香族カルボン酸と二価アルコールとのポリエステル(例、ポリエチレンテレフタレート)、紙並びにポリマー被覆紙が含まれる。
【0098】Research Disclosure Section XVIII に記載されているように、本発明による写真要素を、典型的にはスペクトルの可視領域における化学線に露光して潜像を形成させ、その後Research Disclosure Section XIX に記載されているように処理して可視色素画像を形成することができる。可視色素画像を形成するための処理は、該要素を発色現像剤と接触させて、現像可能なハロゲン化銀を還元し且つ発色現像剤を酸化する工程を含む。酸化された発色現像剤が、順に、カプラーと反応して色素を生成する。
【0099】好ましい発色現像剤はp−フェニレンジアミンである。特に好ましいものは、4−アミノ−3−メチル−N,N−ジエチルアニリン塩酸塩、硫酸4−アミノ−3−メチル−N−エチル−N−(メタンスルホンアミド)−エチルアニリン水和物、硫酸4−アミノ−3−メチル−N−エチル−N−ヒドロキシエチルアニリン、4−アミノ−3−(メタンスルホンアミド)エチル−N,N−ジエチルアニリン塩酸塩及び4−アミノ−N−エチル−N−(2−メトキシエチル)−m−トルイジン−ジ−p−トルエンスルホン酸である。
【0100】ネガ作用ハロゲン化銀を用いると、上述の処理工程はネガ画像をもたらす。記載した要素は、例えば1988年のBritish Journal of Photography Annual 第196-198 頁に記載されている周知のC−41発色工程で処理することが好ましい。ポジ(または反転)画像を得るためには、この発色工程の前に非発色現像剤で現像して露光済ハロゲン化銀を現像し、しかし色素を生成させず、その後要素を均一にカブらせて未露光ハロゲン化銀を現像可能にし、次いで発色現像剤で現像することができる。代わりに、直接ポジ乳剤を使用してポジ画像を得ることができる。
【0101】現像後には、慣例の、銀及びハロゲン化銀を除去するため漂白、定着または漂白−定着工程、水洗工程及び乾燥工程が続く。漂白及び定着は、その目的で用いられることが知られているいずれの材料で行うこともできる。一般に漂白浴は、酸化剤、例えば鉄(III) の水溶性塩及び錯体(例、フェリシアン化カリウム、塩化第二鉄、鉄エチレンジアミン四酢酸のアンモニウムまたはカリウム塩)、水溶性二クロム酸塩(例、二クロム酸カリウム、ナトリウム及びリチウム)、等の水溶液を含んで成る。一般に定着浴は、銀イオンと可溶性塩を形成する化合物、例えばチオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸アンモニウム、チオシアン酸カリウム、チオシアン酸ナトリウム、チオ尿素、等の水溶液を含んで成る。
【0102】本発明のカプラーは、低粒状度が非常に重要であるような状況において特に有用である。一例は、3−DまたはT−粒子形態の大粒径乳剤(典型的には、直径が 1.5マイクロメートルよりも大きいものとみなされている)との組合せであろう。別の例は、低付着量の銀乳剤(典型的には、単色記録において100 mg/ft2未満)との組合せであろう。
【0103】
【実施例】本発明を以下の実施例によってさらに説明するが、これらによって本発明が限定されることはない。実施例では、以下のカプラーを用いた比較例も実施した。
【0104】
【化36】


【0105】これらの比較用のカプラーは、開裂性結合基を含有しないので、現像工程中にカルバミン酸が生じることがない。
【0106】実施例1表1は、本発明を例示するカプラー1〜3の写真性能を、非開裂性バラスト基を有する類似の材料C1及びC2に対して比較するものである。
【0107】カプラー1及び2はどちらも、米国特許第 5,019,492号明細書に記載されている開裂性結合基を含有する。この基は、ヒドロキシルアミンに対して感受性であり、また現像工程中に像に従わない様式で開裂する。開裂性部位とカルバメートの酸素との間には、別の可溶化/バラスト化キノンメチド系時限基が存在する。
【0108】カプラー3は、同じカルバミン酸可溶化色素を、像に従う様式で放出する。このカプラーでは、分子(「ユニバーサル」または非永久色素生成カプラー)の未バラスト化ナフトール部分とDox(酸化形現像剤)との反応が、バラスト化キノンメチド時限基により所望のスミア性カプラーまたは色素を放出する。カルバミン酸基を出現させるために、ピラゾロン核とのカップリングが開裂前に、開裂と同時に、または開裂後に起こるのかはわかっていない。
【0109】実施例では、以下に示したフォーマットで酢酪酸セルロース支持体を塗布することによって、単層の写真要素を製作した。
【0110】塗布フォーマット総ゲル量に対して1.75重量%及び5.4 g/m2のビス−ビニルスルホニルメチルエーテル硬膜剤;カプラー重量の半分量のジブチルフタレートに分散させた0.65 mol/m2 のカプラー;3.8 g/m2のゼラチン;1.1 g/m2の臭化銀乳剤:
【0111】各要素の試料を、段階化された濃度の試験物体により像に従い露光し、以下の発色処理液を用いて 100o F(37.8℃) で処理し、そして乾燥して段階化された着色画像を得た。
【0112】発色処理液発色現像剤溶液(3'15")K2CO3Na2SO3 4.25 gKI 0.02 gNaBr 1.30 g硫酸ヒドロキシルアミン(8610-9には存在しない)
硫酸4-アミノ-3- メチル-N- エチル-N-B'-ヒドロキシエチルアニリン全体を1リットルにする水、pH 10.0漂白液(4'):臭化アンモニウム 150.00 gアンモニウム鉄EDTA(1.56 M)酢酸硝酸ナトリウム全体を1リットルにする水、pH 6.0水洗(1')定着液(4'):チオ硫酸アンモニウム(58%)
(エチレンジニトリロ)四酢酸二ナトリウム塩メタ重亜硫酸ナトリウムNaOH (50%) 4.70 g全体を1リットルにする水、pH 6.5水洗(4')
【0113】中規模露光において、本発明のカプラーはどれも比較用カプラーよりも低い粒状度を示した。しかしながら、カプラー間の濃度差のためこれは公正な比較とはいえない。このような濃度差は、酸化済現像剤との反応速度の違いや、この単純なフォーマットではバラスト化されていない可溶化色素の一部が現像剤溶液中に損失するために生じる。
【0114】単純な粒状度の理論("The Theory of the Photographic Process", T. James, Ed, Macmillan Publishing, NY, Chapter 21を参照されたい)では、粒状度は、現像中心の数の平方根で割った濃度に比例することになっている。従って、同じ乳剤且つ同じ露光量に対しては、現像中心の数がすべてのコーティングについて同じにならなければならない。こうして、RMS 粒状度/濃度の比率はすべてのコーティングについて一定のままでなければならない。この比率を比較すると、粒状度の根本的な改善がなされたか否かが示される。比率が小さくなることは、粒状度の改善を意味している。表1でわかるように、これらのカルバミン酸置換基スミアリングカプラーは、粒状度を改善し、また現像工程完結後にぼやけることがない。
【0115】また表1は、現像剤中にヒドロキシルアミンが存在しない場合のカプラー1及び2についての粒状度をも比較している。ヒドロキシルアミンがないと、バラスト基が開裂しないのでカルバミン酸基が生成せず、そしてカプラーは完全にバラスト化されたままで残る。こうした条件下では、これらのカプラーはC1またはC2といった従来のバラスト化カプラーと同じように挙動する。現像工程中のカルバミン酸の生成が、酸化済現像剤との反応によって生成した色素の拡散を増大させることによって粒状度を改善しうることが明白である。現像剤からヒドロキシルアミンを除去すると、銀現像及びカップリング速度に影響を及ぼし、またカプラーの写真性能が有意に変化しうるまたは変化しえないことに注意しなければならない。
【0116】
【表1】


【0117】上記表中、F=初期値;I= 120o F(48.9℃)/50% R.H.で5日間インキュベーションした後の値;C41=標準C41処理及び溶液;8610-9はC41と同じであるが、但し現像剤は硫酸ヒドロキシルアミンを含有しない;DNG=露光段階における緑色濃度(D)で割ったRMS粒状度である濃度正規化粒状度;データはすべて緑色記録における中規模露光のものである。
【0118】実施例2実施例1に示したように、ヒドロキシルアミンを含有しない現像剤(表1にある8610-9)でカプラー1及び2を処理すると、開裂性結合基は影響を受けず、そしてカルバミン酸基は決して生成しない。Doxの存在において通常のカップリングが起こり、カルバミン酸前駆体基をそのまま保持している色素が生成する。C41現像(ヒドロキシルアミンを含有)の条件下では、開裂性結合基が除去され、カルバミン酸可溶化種が出現し、それが結果的に分解して対応するアミン置換色素を残す。
【0119】これらの処理済みのコーティングを使用して、記述した原理をさらに説明することができる。カプラー1及び2について、8610-9で現像済みのコーティング(カルバミン酸前駆体基をそのまま有する色素を含有している)をC41中で再処理すると、開裂性結合基を除去して、自由に拡散するカルバミン酸可溶化色素を生成する(以下の反応経路を参照のこと)。この状況では、粒状度の改善は色素の移動からしか生じない。というのは、カップリング/銀現像が含まれないからである(銀は最初の8610-9現像の際に除去されている)。最初にC41で処理しておいた(カルバミン酸の脱カルボキシル化から生じたアミン置換色素を含有する)コーティングを再処理しても、色素の可溶化が不十分なためほとんど影響を与えない。
【0120】ヒドロキシルアミン感受性の結合基を含有しないその他のカプラー、例えばC1、C2及び3は、これらの再処理によって影響されることは比較的ない。カプラーが重厚にバラスト化されていない場合には、いくらかの色素拡散(スミア)が起こりうる。というのは、約10という現像剤のpHは、カプラー部位をイオン化してある程度の可溶化性を生み出すのに十分に高いpHだからである。表2に示したように、カプラー1及び2は共に、8610-9処理済コーティングを続いてC41条件にさらした場合に、DNGが有意に改善したことを示している。この改善は、厳密にカルバミン酸置換色素の生成によるものであり、また銀現像の効果からは完全に独立している。C41処理済ストリップを再処理しても、カルバミン酸置換基が再生成しえないために、ほとんど効果がない。また、対照試料はどちらのシナリオにおいてもほとんど効果を示していない。
【0121】
【化37】


【0122】
【表2】


【0123】上記表中、Initial =表記の処理後の粒状度;Reprocess =C41(ヒドロキシルアミン含有)で再処理した後の同じコーティングの値;C41=標準C41処理及び溶液;8610-9はC41と同じであるが、但し現像剤は硫酸ヒドロキシルアミンを含有しない。
【0124】本発明を、その好ましい実施態様を特に参照して詳細に説明したが、本発明の精神及び範囲の中で変型や改質を行えることを理解されたい。
【0125】以下に、本発明のさらなる実施態様を請求項形式で記載する。
【0126】SLが、加水分解反応、酸化反応、還元反応、触媒反応またはこれらの組合せによって開裂可能である、特許請求項に記載の写真要素。
【0127】SLの開裂が、エステル、ケタールまたはアセタールの加水分解を含む、特許請求項に記載の写真要素。
【0128】前記カプラーが以下の式、
【0129】
【化38】


【0130】
【化39】


【0131】
【化40】


【0132】で示されるカプラーである、特許請求項に記載の写真要素。
【0133】二次バラスト基がCOUP部分の非カップリング部位に結合している、特許請求項に記載の写真要素。
【0134】Lが間隔基である、特許請求項に記載の写真要素。
【0135】mが少なくとも1である、特許請求項に記載の写真要素。
【0136】nが少なくとも1である、特許請求項に記載の写真要素。
【0137】前記ハロゲン化銀乳剤が、直径が約 1.5マイクロメートルよりも大きな粒子を有する大粒径乳剤である、特許請求項に記載の写真要素。
【0138】
【発明の効果】本発明は、写真画像の鮮鋭度を低下させることなく粒状度を改善するためにスミアリングカプラーを使用するカプラー、写真要素及び写真処理を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 支持体と、ハロゲン化銀乳剤と、そしてカルバミン酸基へ転化されることができるカルバミン酸前駆体を含有するカプラーとを含んで成る写真要素において、現像工程中に前記前駆体がカルバミン酸基へ転化して該カプラーを拡散せしめ、そして現像工程完結後には該カルバミン酸基がアミンと二酸化炭素に分解する結果、実質的に非拡散性のカプラーを生ぜしめる前記写真要素。
【請求項2】 カプラーが以下の構造:
【化1】


(上式中、COUPはカプラー部分を表し、Lは結合または間隔基を表し、Rは水素、置換もしくは未置換アルキル基、置換もしくは未置換アリール基、または窒素をカプラーに結合し戻す環系を形成するのに必要な原子、から選択され、T1 及びT2 は時限基であり、m及びnは0〜2の整数であり、SLは、現像工程中に開裂される開裂可能な結合基であり、BALLAST は少なくとも1種のバラスト基であり、そしてp、q及びrは独立に0または1であるが、スミアリングカプラー中には少なくとも1個のバラスト基が存在し、但し、存在する場合のLまたはカルバメート基はどちらも、カップリング部分におけるCOUPには結合しておらず、また酸化済現像剤との反応時に色素を生成しない分子の部分にも結合していない)で示される、請求項1記載の写真要素。
【請求項3】 像に従い分布している現像可能なハロゲン化銀粒子を含有するハロゲン化銀乳剤と支持体とを含んで成る写真要素中の画像を現像する方法において、前記方法は、カルバミン酸基を生成することができるカルバミン酸前駆体を含んで成る色素生成カプラーの存在においてハロゲン化銀発色現像剤で前記要素を現像する工程を含んで成り、現像工程中に前記前駆体がカルバミン酸基に転化してカプラーを拡散せしめ、そして現像工程後には該カルバミン酸基がアミンと二酸化炭素に分解する結果、実質的に非拡散性のカプラーを生ぜしめる前記方法。