説明

ナイシン安定化剤

【課題】ランチオビオティック、特にナイシンを安定化する方法及び殺菌用組成物を提供する。
【解決手段】抗菌上有効量のランチオビオティックを含む組成物であって、ランチオビオティック1重量部に対して、10〜100,000重量部(好ましくは50〜50,000重量部、より好ましくは100〜10,000重量部)のチオクト酸又はその医療又は食品衛生上許容される塩を含む、殺菌用組成物。チオクト酸を用いることにより、油性基剤中や界面活性剤共存下においても、ランチオビオティックを安定に保つことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナイシンに代表されるランチオビオティックを安定化する方法に関する。本発明は、除菌/殺菌用組成物、洗浄剤組成物等に含まれるランチオビオティックの安定化のために用いることができる。本発明は、食品及び医療における衛生管理や洗浄において有用である。
【背景技術】
【0002】
特定の細菌株によって生産され,他の細菌株に活性を示すタンパク質性の抗菌性物質であるバクテリオシンは、抗生物質のようには耐性菌を誘導せず、かつヒトの体内で分解される。したがって、耐性菌対策が重要な課題である医療、養鶏、水産養殖等の分野、並びに消費者の健康、天然・安全志向が高まっている食品分野において、バクテリオシンの利用に関する期待は大きい。
【0003】
ナイシンは、乳酸菌が産生するバクテリオシンであり(非特許文献1)、不飽和アミノ酸、ランチオニン等の異常アミノ酸を含む、34個アミノ酸残基からなる抗菌性ペプチドである。ナイシンは食品に配合されるほか、医療・衛生分野において、効果的な形態での利用が検討されてきた(例えば、特許文献1、特許文献2)。
【0004】
ナイシンを除菌、制菌の目的で使用する場合には、その抗菌活性の高さから、比較的濃度が低くても所望の効果を発揮する。しかしながら、一般に、タンパク質やペプチドを室温で、特に希薄溶液中で長期間安定に保つことは困難である。この点、チオエーテル化合物、特にメチオニンを含有させることにより、ナイシンなどのランチオニン含有バクテリオシンを含む組成物の安定化を図ろうとした試みがある(特許文献1)。
【0005】
また、最近の研究では、酸性条件下、過酸化水素により処理したナイシンにおいては、ランチオニン、メチオニン及びヒスチジンが酸化されていること、またナイシン作用部位であるリピッドII結合部位(N末部位)の酸化が、抗菌活性に影響を与えることが報告されている(非特許文献2)。
【0006】
一方、チオクト酸(α−リポ酸)に関しては、食用油脂、不飽和脂肪酸、カロテノイド、リン脂質及び油溶性ビタミンのような油性物質に対して、抗酸化性を付与するために用いることが検討されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−99809号公報
【特許文献2】WO94/39842(特表11−507363号公報)
【特許文献3】WO94/13143(特表8−51716号公報、特許3692385号公報)
【特許文献4】特開2008−13630号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】指原紀宏ら; 乳酸菌の生産するバクテリオシンとその応用; Japanese Journal of Lactic Acid Bacteria, Vol.10, No.1, p2-18(1999)
【非特許文献2】Appl. Environ. Microbiol. 75(5), p.1381-1387(2009)
【発明の概要】
【0009】
上述のメチオニン自体には酸化を防止する作用があるとはいえない。また、本発明者らの検討によると、ある種の酸化防止剤は、ナイシンへ配合した場合に安定化効果が十分認められなかったり、逆にナイシン活性を著しく低下させるなどの問題があった。そして、有機溶媒には溶解しないメチオニンは、油性処方中では安定化効果を充分には発揮できない可能性があった。
【0010】
本発明者らは、ナイシンの安定化のための剤を種々検討してきた。そして、この目的のためには、チオクト酸が特に有効であることを見いだした。また、チオクト酸は油性処方中でも、界面活性剤を溶液中でも有効であることを見いだし、本発明を完成した。
【0011】
本発明は、以下を提供する。
1)抗菌上有効量のランチオビオティックを含む組成物であって、ランチオビオティック1重量部に対して、10〜100,000重量部(好ましくは50〜50,000重量部、より好ましくは100〜10,000重量部)のチオクト酸又はその医療又は食品衛生上許容される塩を含む、殺菌用組成物。
2)ランチオビオティック、及びチオクト酸又はその医療又は食品衛生上許容される塩を含み、ランチオビオティックの濃度が、25〜200,000IU/ml、(好ましくは100〜100,000IU/ml、より好ましくは500〜50,000IU/ml)であり、チオクト酸の濃度が0.001〜10重量%(好ましくは0.005〜2重量%、より好ましくは0.01〜1重量%)
である、液状又は半固形状組成物。
3)さらに界面活性剤を含む、1)又は2)に記載の組成物。
4)さらにアルコールを含み、アルコールの濃度が、1〜80重量%(好ましくは10〜60重量%、より好ましくは20〜40重量%)である、1)又は2)に記載の組成物。
5)ランチオビオティック及びチオクト酸が、油性の基剤中に溶解した形態である、1)又は2)に記載の組成物
6)チオクト酸を含む、ランチオビオティックの安定化剤。
7)ランチオビオティックの安定化する方法であって、チオクト酸を用いることを含む、方法。
8)ランチオビオティック及びチオクト酸を用いる、対象の殺菌方法。
【0012】
本発明の組成物は、ランチビオティックを含み、またランチビオティック安定化のための成分として、チオクト酸又はその医療又は食品衛生上許容される塩を含む。
【0013】
本発明で、ランチビオティックというときは、特に示した場合を除き、乳酸菌が産生するバクテリオシンであって、不飽和アミノ酸、ランチオニン、3-メチルランチオニン等の異常アミノ酸を含む、5kDa以下の低分子の抗菌性のペプチドをいう。ランチビオティックには、ナイシン、ラクティシン、シトリシン、ラクトシンが含まれる。本発明で「ナイシン」というときは、特に示した場合を除き、ナイシンA、ナイシンZ、ナイシンQを含む。本発明の組成物には、ランチビオティックのうち、好ましくはナイシン、より好ましくはナイシンA又はZ、さらに好ましくはナイシンAを用いる。
【0014】
ナイシンAは乳酸菌Lactococcus lactisにより産生され、欧米など50カ国以上ですでに食品添加物として認可使用されている。ナイシンZは、ナイシンAに類似のバクテリオシンで、ナイシンAを構成する34個のアミノ酸残基のうち、N 末端から27番目が、ナイシンAがヒスチジン残基であるのに対し、ナイシンZがアスパラギン残基である点でのみ異なる。
【0015】
なお、本明細書ではランチビオティックのうち、特にナイシンやナイシンAを例に説明することがあるが、特に示した場合を除き、その説明は他のランチオビオティックにも当てはまる。
【0016】
チオクト酸(別名:α-リポ酸、リポ酸、IUPAC名:5-[(3R)-ジチオラン-3-イル]ペンタン酸)は、2種の光学異性体が存在し、天然物由来のものは、下記の構造を有する。
【0017】
【化1】

【0018】
本発明で「チオクト酸」というときは、2種の光学異性体のいずれか一方でもよく、その適当な比率の混合物でもよい。チオクト酸は、ほうれん草、赤味肉、ブロッコリー、レバー、トマト等の多くの食品に含まれており、また肝臓疾患、極度な疲労(糖尿病性抹消神経障害等)の処置のために医薬として使用されている。
【0019】
医療又は食品衛生上許容される塩は、例えば、チオクト酸と、アルカリ金属、アルカリ土類金属、水酸化アンモニウム、塩基性アミノ酸(例えばアルギニン、リジン、メチオニン、シスチン、オルニチン)等から選択される塩基との塩である。医薬又は食品として許容される塩は、医療又は食品衛生上許容される塩の好ましい例である。
【0020】
なお、本明細書では、チオクト酸又はその医療又は食品衛生上許容される塩のうち、特にチオクト酸を例に説明することがあるが、特に示した場合を除き、その説明はチオクト酸の医療又は食品衛生上許容される塩にも当てはまる。
【0021】
本発明者らの検討によると、チオクト酸を添加したナイシン配合アルコール製剤とチオクト酸無添加の製剤とを45℃で6日間保存した結果、チオクト酸無添加の製剤のナイシン活性は大きく低下しているのに対し、添加した製剤ではナイシン活性が保持されていることが分かった。
【0022】
エタノール中でのナイシンの酸化は、ナイシンを構成するメチオニン残基の硫黄部分が酸化されて、メチオニンスルフィド(一酸化物)、メチオニンスルホン(二酸化物)になることによる。メチオニン残基の酸化が抗菌活性に及ぼす影響は明確ではないが、ナイシン酸化の指標になりうる。一方で、上述のチオクト酸を添加したアルコール製剤について、HPLCチャートをみると、一定期間後経過後では、ナイシン酸化物のピークあたりに、チオクト酸の分解物又は副生成物が重なり、チオクト酸によるナイシン酸化物の生成抑制の程度を確認することはできなかった(本願明細書の実施例2参照)。
【0023】
チオクト酸がナイシンを安定化する機序は明らかではなく、また本発明者らが試験に供した多くの酸化防止剤は、配合効果が認められなかった。
【0024】
本発明者らは、メチオニンについてもナイシンを安定化する効果が高いことを確認したが、メチオニン自体には抗酸化作用は認められない。メチオニンを添加することによって、ナイシンに存在するメチオニン残基の酸化が抑制されるのではないかと推定される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、ナイシンに対する安定化剤添加効果をHPLCにより解析した結果を示したグラフである。安定化剤として用いたのは、和光純薬工業株式会社製 DL−メチオニン 98+%(Ti)である。
【図2A】図2Aは、ナイシン安定化剤のスクリーニングのための実験結果を示したグラフである。
【図2B】図2Bは、ナイシン安定化剤のスクリーニングのための実験結果を示したグラフである。
【図3】図3は、ナイシンに対する安定化剤添加効果をHPLCにより解析した結果を示したグラフである。
【図4】図4は、油性軟膏中でのナイシンに対する安定化剤添加効果を示したグラフである。
【図5】図5は、エマルジョン中でのナイシンに対する安定化剤添加効果を示したグラフである。
【図6】図6は、界面活性剤溶液中でのナイシンに対する安定化剤添加効果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の組成物において、ランチオビオティックとしてナイシンを用いる場合、ナイシンは、乳酸菌を公知の方法により培養し、精製することによって得ることができる。例えば、乳酸菌をエムアールエス培地(MRS培地、Oxoid社製)で培養後、培養上清をアンバーライト(Amberlite XAD−16、シグマ社製)処理してナイシンを吸着させる。アンバーライトを蒸留水および40%エタノールで洗浄後、0.1%のトリフルオロ酢酸を含む70%イソプロパノールでナイシンを溶出させ、溶出画分を陽イオン交換カラム(SP-Sepharose FF、GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社製)に供することによって、ナイシンの精製品を得ることができる。必要な場合、逆相クロマトグラフィーに供することによって、さらに精製度を高めることができる(Biosci. Biotechnol. Biochem.,67(7),p1616−1619,2003を参照)。また、市販品、例えば、ナイサプリン(Nisaplin、商標、ダニスコ株式会社製)を購入することも可能である。ナイサプリンは、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactococcus lactis subsp. lactis)由来のナイシンと塩化ナトリウムとの混合物であり、無脂肪乳または糖培地由来の成分を含む。必要な場合、上記精製方法により精製度を高めることができる。
【0027】
本発明で、ランチビオティックに関して「殺菌上有効(量)」というときは、特に示した場合を除き、ランチビオティックがその殺菌活性を発揮することができる量又は濃度をいう。本発明でいう「殺菌」とは、微生物を死滅させることのみでなく、微生物の成長を停止、阻害又は遅延させることも含む。
【0028】
本発明におけるランチビオティックの「殺菌上有効量」は、通常は約25 IU/ml以上の濃度を指すが、適切な界面活性剤を併用し(前掲特許文献1)、ランチビオティックの活性が増強される場合には、それより低いこともある。抗菌上有効であるランチオビオティックの濃度は、例えば、25〜200,000IU/ml、であり、好ましくは100〜100,000IU/ml、より好ましくは500〜50,000IU/mlである。
【0029】
ランチビオティックの量又は活性は、標準品を基準として、HPLCの面積比により、活性値(IU)又は重量で表すことができ、また最小阻止円濃度検定法によっても測定することができる。ナイシンについては、特開2002-369672に記載されているように、Sigma製のナイシンAや、ICN Biomedical Inc.製のナイシンZ(1μg=40IU)を標準品として、HPLCのピーク面積の比較によって活性を算出することができ、また、食品中の食品添加物分析法(厚生労働省)に記載されているように、日本公定書協会から頒布されるナイシン標準品を用い、HPLCのピーク面積の比較か、最小阻止円濃度検定法によって測定することができる。ナイシンの力価1単位は、ナシインAを含む抗菌性ポリペプチド0.025μgに対応する。本明細書の実施例では、オーム乳業株式会社製のナイシンAを用いているが、このナイシン精製品(水溶液)の活性は50〜100 kIU/mLである。より詳しい手法は、本明細書の実施例にも記載されている。
【0030】
本発明の組成物は、ランチオビオティック1重量部に対して、ランチオビオティックを安定化するために充分な量の、チオクト酸を含む。
【0031】
本発明で、チオクト酸の量が充分かどうかは、一定期間保存した後の組成物におけるランチオビオティックの量又は活性の残存度により判断することができる。チオクト酸は、高濃度を配合することによって硫黄臭が強くなることが考えられるので、チオクト酸含量の上限量はこのような観点から定めてもよい。具体的な量を例示すると、上述した殺菌上有効であるランチオビオティックの1重量部に対して、チオクト酸の濃度は、10〜100,000重量部、好ましくは50〜50,000重量部、より好ましくは100〜10,000重量部である。本発明の組成物が液状又は半固形状組成物である場合、チオクト酸の濃度は、0.001〜10重量%、好ましくは0.005〜2重量%、より好ましくは0.01〜1重量%とすることができる。チオクト酸の代わりにチオクト酸の塩を用いる場合は、チオクト酸相当量が、この範囲となるようにする。
【0032】
本発明の組成物は、ランチオビオティックの安定化のために、チオクト酸以外の成分、例えばメチオニンを含んでもよい。メチオニンとチオクト酸とを用いる場合は、それらの濃度は、合わせて10〜100,000重量部、好ましくは50〜50,000重量部、より好ましくは100〜10,000重量部となるようにすることができる。本発明の組成物が液状又は半固形状組成物である場合、合計の濃度は、0.001〜10重量%、好ましくは0.005〜2重量%、より好ましくは0.01〜1重量%とすることができる。
【0033】
チオクト酸とメチオニンとの併用により、それぞれ単独では達成し得ない相乗的な安定化効果を発揮することができる。
【0034】
本発明の組成物の、殺菌上の性能は、例えば、抗菌性評価(MBC変法)による評価結果に基づいて判断することができる。MBC法とは最小殺菌濃度を測定する方法であり、MBC変法では、MBC法を基本としつつ培養条件、殺菌剤濃度、接触時間、接触温度、供試菌濃度等の諸条件を任意に設定し、その条件下での生残菌数を測定する。例えば、供試菌(例えば、大腸菌)をSCDブイヨン培地(日水製薬株式会社製)中、37℃で24時間培養後、培養液を滅菌精製水で希釈し、菌数を調整する(107cfu/mL)。該希釈した培養液(100μL)を、試験液(ナイシン含有組成物、10mL)に添加し、混合させることにより、試験液と供試菌を室温で接触(30秒)させた後、該液(100μL)を分取し、不活化剤を含む培地(SCDLP培地、10mL)で希釈する。当該不活化剤を含む培地中に生残する菌数を混釈板法により培養(37℃、24時間)し、出現したコロニーを計数し、以下の計算式:
殺菌率(%)=[1−(試験液中での生残菌数/供試菌数)]×100
により、殺菌率を算出する。
【0035】
MBC変法は、菌剤濃度、接触時間、接触温度、供試菌濃度などの諸条件は、試験目的により適宜変更することができ、培地、培養条件は、供試菌の種類により適宜変更することができる。また、不活化剤を含む培地を培養し、培養後の培地の濁度に基づいて、当該培地中に生残する菌の有無及び生育の程度を定性的に判定することも可能である。
【0036】
上記MBC変法において、微生物の殺菌率が90%以上であれば、組成物は殺菌効果があると判断することができる。求められる殺菌率は使用分野・用途・使用方法により異なるが、組成物による殺菌率は、例えば、好ましくは90〜100%、より好ましくは99〜100%、さらに好ましくは99.9〜100%である。一般的な殺菌剤としての用途及び環境殺菌用途であれば、99.9%の殺菌率で十分であるが、食品が接触する無菌設備の殺菌用途では、99.999%以上の殺菌率が要求されることもある。
【0037】
本発明の組成物は、ランチオビオティック及びチオクト酸以外の成分を配合してもよい。例えば、界面活性剤(乳化剤、分散剤(再付着防止剤))、湿潤剤、着香剤、芳香剤、研磨剤、潤滑剤、キレート剤、溶剤、保湿剤、殺菌剤(抗菌剤)、安定化剤、洗浄用酵素、粘度調整剤、防腐剤、防黴剤、着色料、香料などを配合してもよい。
【0038】
界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤:例えば、ポリエトキシル化ソルビトールエステル、酸化エチレンと酸化プロピレンとのポリ縮合物(ポロキサマー)、プロピレングリコール縮合物、ポリエトキシル化水素添加ヒマシ油、ソルビタン脂肪族エステル; 両性界面活性剤:例えば、長鎖イミダゾリン誘導体、長鎖アルキルベタイン、長鎖アルキルアミドアルキルベタイン;カチオン界面活性剤:例えば、N−ココイル−L−アルギン酸エチルのD,L−2−ピロリドン−5−カルボン酸塩、コカミドプロピルPGジモニウムクロライドホスフェート、ラウラミドプロピルPGジモニウムクロライドホスフェートが挙げられる。
【0039】
界面活性剤を配合する場合、有効成分の殺菌効力を低下させないものがよい。また、医療又は食品衛生上許容されるものが好ましく、この例として、食品添加物として許可されている界面活性剤を挙げることができる。具体的には、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリンエステル(ジグリセリンモノカプレート、ジグリセリンモノラウレート、ジグリセリンモノステアレート、ジグリセリンモノオレート、デカグリセリンモノラウレート、デカグリセリンモノステアレート、ヘキサグリセリン縮合リシノレート)、有機酸モノグリセライド(酢酸モノグリセライド、クエン酸モノグリセライド、クエン酸モノグリセライド、ジアセチル酒石酸モノグリセライド、コハク酸モノグリセライド)、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン(レシチン、酵素分解レシチン)、ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ミリスチン酸エステル、ショ糖オレイン酸エステル、ショ糖ラウリン酸エステル、ショ糖ベヘニン酸エステル、ショ糖エルカ酸エステルショ糖混合脂肪酸(オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸)エステルである。
【0040】
界面活性剤の配合量は、当業者であれば適宜設計することができるが、例えば、本発明の組成物が液状又は半固形状組成物である場合、1〜50重量%、好ましくは、1〜30重量%、より好ましくは、5〜25重量%である。
【0041】
キレート剤としては、EDTA、クエン酸、クエン酸水素二ナトリウムなどがあげられる。キレート剤の配合量は、当業者であれば適宜設計することができるが、例えば、本発明の組成物が液状又は半固形状組成物である場合、0.1〜10重量%、好ましくは、
0.1〜5重量%、より好ましくは、0.5〜2重量%で本発明の組成物に配合してもよい。
【0042】
ランチオビオティックとしてナイシンを用いる場合、単独でグラム陰性菌を殺菌できるため、組成物にキレート剤を含まなくても幅広い殺菌活性を発揮することができるが、一方で、特定のキレート剤を特定の量で添加することにより、大腸菌のようなグラム陰性菌に対する殺菌性を強化することができる。キレート剤の代わりに、クエン酸のような細菌膜透過性亢進剤の添加が好ましい場合もある。
【0043】
湿潤剤としては、例えば、グリセリン、ソルビトール、プロピレングリコール又はポリエチレングリコールがあげられる。湿潤剤の配合量は、当業者であれば適宜設計することができるが、例えば、本発明の組成物が液状又は半固形状組成物である場合、0.5〜50重量%、好ましくは、1〜10重量%、より好ましくは、2〜5重量%で本発明の組成物に配合してもよい。
【0044】
研磨剤としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、ピロリン酸カルシウム、不溶性メタリン酸ナトリウム、アルミノケイ酸ナトリウム、アルミナ、水素化アルミナ、オルトリン酸亜鉛、プラスチック粒子、シリカがあげられる。研磨剤の配合量は、当業者であれば適宜設計することができるが、例えば、本発明の組成物が液状又は半固形状組成物である場合、0.1〜70重量%、好ましくは、10〜50重量%、より好ましくは、20〜50重量%で本発明の組成物に配合してもよい。
【0045】
殺菌剤としては、カチオン抗微生物剤:第4級アンモニウム化合物、例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ドデシルトリメチルアンモニウム、塩化ベンジルジメチルステアリルアンモニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム、塩ベンゼトニウム、塩化メチルベンゼトニウム; 抗微生物剤:クロルヘキシジン、アレキシジン、クロルヘキシジン・二グルコン酸塩及びクロルヘキシジン・酢酸塩、塩化セチルピリジニウム、ヘキセチジン・クエン酸塩、トリクロサン、サリチル酸フェニル、グラミジシン、チロスリシン、クロルヘキシジン・二グルコン酸塩、トリクロサン、塩化セチルピリジニウム; 抗真菌剤:ミコナゾール、トリコナゾール;などがあげられる。殺菌剤の配合量は、当業者であれば適宜設計することができるが、例えば、本発明の組成物が液状又は半固形状組成物である場合、1〜15重量%、好ましくは、5〜15重量%、より好ましくは、5〜10重量%で本発明の組成物に配合してもよい。
【0046】
粘度調整剤としては、例えば、増粘剤:メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースがあげられる。粘度調整剤の配合量は、当業者であれば適宜設計することができるが、例えば、本発明の組成物が液状又は半固形状組成物である場合、0.05〜5重量%、好ましくは、0.1〜2重量%、より好ましくは、0.5〜2重量%で本発明の組成物に配合してもよい。
【0047】
本発明の組成物は、親水性の基剤(溶剤)を用いて構成することもでき、また油性の基剤を用いて構成することもできる
本発明の組成物は、溶剤として、また殺菌性能を補助する目的で、エタノール又は他のアルコール類を含んでもよい。アルコールの濃度は、0.1〜99重量%とすることができ、好ましくは1〜50重量%とすることができる。
【0048】
油性の基剤の例として、植物性の油脂食品、例えば、オリーブ油、大豆油、菜種油、ひまわり油、パーム油、やし油、コーン油、落花生油;動物性の油脂食品、例えば、豚脂(ラード)、牛脂(ヘット);植物加工油脂;食用硬化油;ミツロウ;ワセリン等がある。なお、前掲特許文献3で、ナイシンなどのランチオニン含有バクテリオシンを含む組成物の安定化のために用いることが提案されているメチオニンは、水には可溶(3 g/100 g、 H2O(0℃)、5.6 g/100 g H2O(30℃))だが、有機溶媒にはほとんど溶解しない。したがって、基剤が油性である処方では、使用が困難な場合がある。一方、チオクト酸にはそのような欠点はない。なお、チオクト酸は、水に不溶(希アルカリ水に可溶)だが、エタノール、メタノールには容易に溶解する。
【0049】
本発明の組成物は、液状もしくは半固形状、又は固形状とすることができ、また液剤、乳剤(エマルジョン)、懸濁剤、ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤、それらを含浸させた種々の剤形とすることができる。
【0050】
本発明の組成物の各成分濃度及びpHは、殺菌に適した範囲に調整されているとよいが、そのような濃度やpHが、運搬保管等の取り扱い上又は保存安定性上、適切でないと考えられる場合は、使用に適した濃度及びpHの組成物を使用時に調製するようなキットを構成してもよい。キットは、例えば、保存上有効な形態で各成分を単独又は組み合わせて含む一又は複数のプレミックス、溶剤等を含んでもよい。プレミックスは、使用時に溶解、希釈、及び/又は混合して用いるための、特定の量又は配合比の、単体又は組成物を指す。
【0051】
本発明の組成物が液状である場合、pHは、皮膚刺激性が少ないという観点からは、好ましくは弱酸性、すなわち約3.0〜6.0であり、ナイシンの保存安定性の観点からは、好ましくは約5.5以下、より好ましくは約4.5以下とすることができる。界面活性剤の安定性も考慮すれば、総じて、液体である本発明の組成物のpHは約4.0〜6.0、好ましくは約4.5〜5.8、より好ましくは約5.0〜5.6(例えば約5.5)とすることができる。グラム陽性菌に対する殺菌効果という観点からは、pHは、例えば、約4.0〜10.0、好ましくは約4.5〜8.0、より好ましくは約5.0〜7.5とすることができ、グラム陰性菌に対する殺菌効果という観点からは、pHは約4.0〜8.0、好ましくは約4.5〜7.0、より好ましくは約5.0〜6.5とすることができる。本発明の組成物は、特定のpH範囲で、微生物に対する優れた殺菌活性を示す。特定のpH範囲としては、例えば、pH4.0〜7.0、好ましくはpH5.0〜6.5である。このpH範囲において、本発明の組成物を微生物と接触させると、グラム陽性菌およびグラム陰性菌の両方を殺菌することができる。
【0052】
本発明の組成物が、液状である場合には、より具体的な形態としては、噴霧用容器入り、プッシュ式容器入り(液で出るタイプ、泡で出るタイプ)、詰替用ボトル入りとすることができる。他の具体的な形態としては、口腔内洗浄・リンス剤、歯磨き剤、ディッピング剤、乳房注入剤、清拭綿、ペーパタオル、ウエットティシュー等が挙げられる。
【0053】
本発明の組成物は、微生物の殺菌が必要な、あらゆる対象に使用することができる。たとえば、ヒトを含む動物の身体の一部(口腔、歯及び歯周、鼻腔、手指、顔、足等)、器具・機械(医療器具、調理器具、衛生器具、介護用品、ベビー用品、おもちゃ、食品製造機、医療機器、食卓、机、椅子、家具備品等)、場所(家庭用・業務用の厨房、食品加工工場、食品素材製造工場、家屋、ホテル、レストランなどの室内、医療施設、病室、床、作業台、等)を微生物学的に清浄にするために使用することができる。
【0054】
本発明の組成物は、グラム陽性菌、例えば、スタフィロコッカス属(Staphylococcus)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、ラクトバチルス属(Lactobacillus)、好ましくは、スタフィロコッカス・オーレウス(Staphylococcus aureus)、スタフィロコッカス・エピデルミス(Staphylococcus epidermis)、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)に属する微生物の殺菌に使用することができる。本発明の組成物は、グラム陰性菌、例えば、エッシェリヒア属(Escherichia)、バチルス属(Bacillus)、好ましくは、エッシェリヒア・コリ(Escherichia coli)、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)に属する微生物の殺菌に使用することができる。また、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(VRSA)、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)、多剤耐性緑膿菌(MDRP)、カルバペネム耐性緑膿菌、カルバペネム耐性セラチア、第三世代セファロスポリン耐性大腸菌、第三世代セファロスポリン耐性肺炎桿菌、多剤耐性アシネトバクターなどの抗生物質耐性菌の殺菌に使用することができる。
【実施例1】
【0055】
(1)実験方法及び実験条件
[安定化剤のスクリーニング]
25%(w/w)濃度に調整したエチルアルコールに、オーム乳業株式会社より提供されたナイシンA精製品 (Lot.070601)、超純水及びスクリーニング対象物質を配合した製剤を作成した。ナイシンAは、4,000 IU/mL含有するように調製した。スクリーニング対象物質の配合量は、0.1%(w/w)濃度を基本とし、対象物質の溶解度等を考慮し調整した。保存安定性は、加速試験条件(45℃)において6〜10日間保存し、試験サンプル中のナイシン安定性をHPLCにより定量した。
【0056】
[ナイシン定量]
試験サンプル中のナイシンは、HPLC (日立EZ Chrom Elite HPLC L-2000)により解析を行った。解析は、カラム(Shodex Asahipak ODP-50 6E)、ガードカラム(Shodex Asahipak ODP-50G 6A)を用いた逆相HPLCにより、カラム温度は、25℃に設定し、溶媒系にアセトニトリル及び0.05%TFAの混合系を用い、流速1.0 mL/minで展開した。
【0057】
[アルコール製剤の調製]
25%(w/w)濃度に調製したエチルアルコールに、オーム乳業株式会社より提供されたナイシン精製品ナイシンA精製品(Lot.070601)、精製水及びスクリーニングにより選定した安定化剤を配合した製剤を作成した。アルコール製剤は、ナイシンAを4,000 IU/mL含有するように調製した。保存安定性は、加速試験条件(45℃)において0〜30日間保存し、試験サンプル中のナイシン安定性をHPLCにより定量評価した。
【0058】
[殺菌力試験]
殺菌力試験は、生残菌数を定量する方法により測定した。供試菌は、Escherichia coli NBRC3972、Staphylococcus aureus NBRC 12732を使用した。試験サンプルに菌液を添加し、一定時間反応させ、このサンプルを2倍濃度のSCDLPブイヨン培地に添加した。このサンプルについて混釈平板法により菌数測定を行い、試作品の殺菌効果を確認した。
【0059】
[抗菌力持続性試験]
製剤噴霧後の硬表面に形成される皮膜の抗菌力を測定することにより、本製剤の特長として期待される抗菌力の持続性を検証した。先ず試作品を室温減圧条件下で乾固させ抗菌皮膜を形成させた。次に、菌液を滴下し、抗菌皮膜と菌液を所定間接触させた。このサンプルについて混釈平板法により菌数測定を行い、抗菌力を評価した。供試菌は、Escherichia coliNBRC3972、Staphylococcus aureusNBRC 12732、Bacillus subtillis ATCC6633を使用した。
【0060】
(2)結果
[安定化剤の添加効果]
HPLCによるナイシン定量法を導入し、アルコール配合系におけるナイシン安定性及び安定化剤の添加効果をHPLCにより解析した。アルコール製剤中でのナイシンAの状態を解析したところ、ナイシンA活性の低下が引き起こされることを確認した。
【0061】
アルコール製剤プロトタイプを試作し、保存試験を加速度条件(40℃)にて実施した。図1では、例として、保存開始11日目のナイシンの状態を比較している。安定化剤未添加の配合系では、ナイシンAが減少し、ナイシン酸化物が増加していたが、安定化剤の添加によりナイシンAの安定性が向上することが分かった。
【0062】
[安定化剤のスクリーニング]
前項における安定化剤の添加効果は、ナイシン配合に関する既往技術の応用可能性を示唆するものであった。そこで、次検討項目において、ナイシンと併用可能であり、なおかつアルコール配合系で有効な安定化剤のスクリーニングを実施した。
【0063】
アルコール配合系におけるナイシン安定化剤のスクリーニングは、表1に示したモデル処方により、モデル処方に配合可能(可溶化)であった21種類について実施した。表中の数値は、全て重量%を示している。試験は、4回に分けて実施したが、試験毎に安定化剤を配合していない対照試験区(Cont)を設定し、安定化剤の添加効果を判定する基準とした。すなわち対照試験区と比較し、ナイシン安定性が向上し、活性残存率が80%以上の安定化剤を優(◎)の評価、対照試験区と比較してナイシンの活性残存率が10%以上向上した安定化剤を良(○)の評価、ナイシンの活性残存活性が0〜10%未満向上した安定化剤を可(△)の評価、ナイシン活性が対照試験区を下回った安定化剤を不可(×)の評価とした。表1に判定結果を示した。
【0064】
図2(A)、図2(B)に、スクリーニングにおけるナイシン活性、及びナイシン残存活性を示した。保存安定性は、苛酷条件(45℃)による加速試験において、試験サンプル中のナイシン安定性を定量評価した。図2には、保存開始0、7又は10日目のナイシンの活性を比較して示した。
【0065】
スクリーニング結果から、優評価(◎)の安定化剤として、メチオニン(Ao01)、チオクト酸(Ao02)を得た。これらは、保存後(D+6)におけるナイシン残存活性が92%、83.5%を示していた。良評価(○)の安定化剤として、EDTA-2Na(Ao13)、BHA(Ao15)を得た。これらは、保存後(D+7)ではナイシン活性が低下していたが、対照区との比較では、10%以上残存活性が上回っていた。また可評価(△)の安定化剤として、トコフェロール(Ao03)、酢酸トコフェロール(Ao04)、クルクミン(Ao08)、乳酸(Ao21)を得た。
【0066】
良評価また可評価の安定化剤は、ナイシン安定化の効果は不十分であるが、ナイシンとの相互安定性には悪影響は少ないことが推測される。このためナイシン配合系における成分として使用可能であると考えられる。一方で、その他の安定化剤(13種類)については、対照区と比較して、保存試験後に明らかな活性低下が認められ、ナイシン配合系における成分として使用不適であると考えられる。例えば、システイン塩酸塩(Ao05)、アスコルビン酸Na(Ao12)、グルタチオン(Ao17)等は、保存試験後のナイシン活性が著しく、ナイシン配合系での使用は適当でないと考えられる。
【0067】
【表1】

【実施例2】
【0068】
(1)実験方法及び実験条件
[ナイシン定量]
試験サンプル中のナイシンAは、HPLC (日立EZ Chrom Elite HPLC L-2000)により解析を行った。解析は、カラム(Shodex Asahipak ODP-50 6E)、ガードカラム(Shodex Asahipak ODP-50G 6A)を用いた逆相HPLCにより、カラム温度は、25℃に設定し、溶媒系にアセトニトリル及び0.05%TFAの混合系を用い、流速1.0 mL/minで展開した。
【0069】
[チオクト酸配合アルコール製剤の調製]
25%(w/w)濃度に調製したエチルアルコールに、オーム乳業株式会社より提供されたナイシンA精製品 (Lot.070601)、精製水及びチオクト酸を配合した製剤を作成した。ナイシンAは、4,000 IU/mL、チオクト酸の配合量は、0.1%(w/w)含有するように調製した。保存安定性は、加速試験条件(45℃)において6日間保存し、試験サンプル中のナイシンA安定性をHPLCにより定量評価した。
【0070】
(2)結果
[チオクト酸の添加効果]
HPLCによるナイシン定量法を導入し、アルコール配合系におけるナイシン安定性及びチオクト酸の添加効果をHPLCにより解析した。アルコール製剤中でのナイシンAの状態を解析したところ、ナイシンA活性の低下が引き起こされることを確認した。
【0071】
アルコール製剤プロトタイプを試作し、保存試験を加速度条件(40℃)にて実施した。図3では、例として、保存開始6日目のナイシンの状態を比較している。チオクト酸無添加の配合系では、ナイシンAが減少し、ナイシン酸化物が増加していたが、チオクト酸の添加によりナイシンAの安定性が向上することが分かった。また、保存開始0日目を基準とし、ナイシンA残存活性を算出した結果、チオクト酸配合系で、91.2%、無添加の配合系で、55.7%となった。これより、チオクト酸の配合により、ナイシンAの活性が保持されることが確認された。
【実施例3】
【0072】
油性軟膏中での安定化効果を調べるため、軟膏にナイシン、安定化剤を配合し、保存試験を行った。45℃、4日間保存後にバイオアッセイを行い、ナイシンの抗菌活性を測定した。
【0073】
(1)実験方法
i)軟膏の作成
安定化剤を添加して調製した親水ワセリンに精製ナイシンA(オーム乳業(株)製)を、7:3で混合し、45℃にて保存試験を行った。安定化剤は、(1)無添加、(2)チオクト酸(和光純薬(株)製)、(3)メチオニン(アルプス薬品工業(株)製)、(4)トコフェロール(和光純薬(株)製)、(5)チオクト酸及びメチオニンとし、ナイシンを含む全体量の0.1%となるように添加した。ただし、試験サンプル(5)は、各々0.1%ずつ添加した。
【0074】
ii)抗菌活性試験
軟膏を0.1% Tween80(和光純薬(株)製)に添加して攪拌し、ナイシンを溶出させ、溶出液について、バイオアッセイを行った。供試菌は、Lactobacillus plantarumATCC14917Tを用いた。
【0075】
(2)結果及び考察
安定化剤の有無では、無添加と比べ、すべての試験サンプルで効果が認められた。特にチオクト酸を添加した試験サンプル(2)は、他の安定化剤に比べて優れた安定性を示した。また、チオクト酸及びメチオニンを添加した試験サンプル(5)は、チオクト酸単体を添加するよりもナイシンの安定性が向上した(下表及び図4)。
【0076】
【表2】

【実施例4】
【0077】
油中での安定化効果を調べるため、油中にナイシン、安定化剤を添加したエマルジョンを作成し、エマルジョン中のナイシンの定量を行った。
【0078】
(1)実験方法
i)エマルジョンの作成
エマルジョンは、大豆油(和光純薬(株)製)に等量の精製ナイシン(オーム乳業(株)製)を配合し、全体量に対して1%の(1)チオクト酸(和光純薬(株)製))、(2)メチオニン(アルプス薬品工業(株)製)を添加したもの、(3)チオクト酸及びメチオニンを0.5%添加したもの、(4)無添加のものを攪拌して作成した。
【0079】
ii)ナイシンの定量
エマルジョンを遠心分離により破砕し、ナイシンのみを採取、ナイシンの状態(酸化・活性)をHPLCにて定量した。
【0080】
試験サンプル中のナイシンは、HPLC (日立EZ Chrom Elite HPLC L-2000)により解析を行った。解析は、カラム(Shodex Asahipak ODP-50 6E)、ガードカラム(Shodex Asahipak ODP-50G 6A)を用いた逆相HPLCにより、カラム温度は、25℃に設定し、溶媒系にアセトニトリル及び0.05%TFAの混合系を用い、流速1.0 mL/minで展開した。
【0081】
(2)結果及び考察
安定化剤無添加の試験サンプル(4)中のナイシン残存活性は79.0%であった。チオクト酸を添加した試験サンプル(1)は93.3%、メチオニンを添加した試験サンプル(2)は93.7%、両方添加した試験サンプル(3)は94.3%となり、優れた安定化効果が得られた。また、試験サンプル(1)及び(2)の安定化効果は同等であったが、両方組み合わせた試験サンプル(3)は、より酸化が抑えられる結果となった(下表及び図5)。
【0082】
【表3】

【実施例5】
【0083】
界面活性剤溶液(終濃度10%)中での安定化効果を調べるため、界面活性剤溶液中にナイシン、安定化剤を添加し、試験サンプル中のナイシンの抗菌活性測定及び定量を行った。
【0084】
(1)実験方法
i)試験サンプルの作成
界面活性剤溶液に、安定化剤、精製ナイシン(オーム乳業(株)製)を添加し、45℃にて保存試験を行った。安定化剤は、(1)無添加、(2)チオクト酸(和光純薬(株)製)、(3)メチオニン(アルプス薬品工業(株)製)、(4)チオクト酸及びメチオニンとし、ナイシンを含む全体量の0.1%となるように添加した。ただし、試験サンプル(4)は、各々0.05%ずつ添加した。
【0085】
ii)抗菌活性試験
試験サンプルを用いて、バイオアッセイを行った。供試菌は、Lactobacillus plantarum ATCC14917Tを用いた。対照として、試験サンプルを作成した際に用いた精製ナイシンについても同時に試験を行った。
【0086】
iii)ナイシンの定量
試験サンプル中のナイシンは、HPLC (日立EZ Chrom Elite HPLC L-2000)により解析を行った。解析は、カラム(Shodex Asahipak ODP-50 6E)、ガードカラム(Shodex Asahipak ODP-50G 6A)を用いた逆相HPLCにより、カラム温度は、25℃に設定し、溶媒系にアセトニトリル及び0.05%TFAの混合系を用い、流速1.0 mL/minで展開した。
【0087】
(2)結果及び考察
i)抗菌活性試験
界面活性剤として、安定化剤を使用しない場合にはナイシンの安定性が悪いことが分かっているニューポールPE-64(三洋化成工業製)を用いた。主成分は、非イオン界面活性剤ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーである。試験サンプルの処方及び評価結果を下表に示した。
【0088】
【表4】

【0089】
安定化剤無添加の試験サンプル(1)はナイシンの活性が低下していることがわかった。チオクト酸を添加した試験サンプル(2)のMIC値は8.7 IU/mL、メチオニンを添加した試験サンプル(3)は12 IU/mLとなり、わずかな差であるが、チオクト酸の添加効果が優れている結果となった。また、両方を添加した試験サンプル(4)のMIC値は4.9 IU/mLとなり、チオクト酸とメチオニンの相乗効果が得られたと推測できる。
【0090】
ii)ナイシンの定量
安定化剤無添加の試験サンプル(1)中のナイシン(非酸化型)は検出限界値以下まで低下しており、定量できなかった。チオクト酸を添加した試験サンプル(2)の残存率は71.5%、メチオニンを添加した試験サンプル(3)は59.4%となり、界面活性剤溶液中では、チオクト酸の添加効果がメチオニンより優れていることが確認された。また、両方添加した試験サンプル(4)の残存率は82.0%となり、チオクト酸添加のみより、さらにナイシンを安定化できることがわかった。両安定化剤の相乗効果が得られたと考えられる。この結果は、抗菌活性試験の結果と一致する(図6)。
【実施例6】
【0091】
下記の処方で、ナイシン含有殺菌剤を調製。
【0092】
アルコール製剤:
エタノール 25%(w/w)
ナイシン 4000IU/mL
チオクト酸 0.1%(w/w)
軟膏:
親水ワセリン
ナイシン 15000IU/mL(親水ワセリンに対して30%)
チオクト酸1%(w/w)
界面活性剤入り殺菌剤:
ニューポールPE-64 10% (w/w)
ナイシン 5000IU/mL
チオクト酸0.1%(w/w)
【実施例7】
【0093】
下記の処方で、ナイシン含有殺菌剤を調製できる。
【0094】
手指用洗浄剤:
食品添加物及び化粧品原料で構成された安全な手指用洗浄剤。
用途:皮膚の清浄・殺菌・消毒
使用濃度:原液
使用方法:フォームポンプを使用してもよい。
原液(泡)の定量を手に取り、よく洗ってから、すすぐ。
【0095】
【表5】

【0096】
食品・食器用洗浄剤組成物:
すべての成分が食品添加物で構成された、非常に安全な食品・食器用洗浄剤組成物。
用途:野菜等の除菌、食器の洗浄
使用濃度:原液〜200倍
使用方法:用途に合わせ、希釈して使用する。
【0097】
【表6】

【0098】
環境用洗浄抗菌剤組成物:
すべての成分が食品添加物で構成された、非常に安全な環境用洗浄抗菌剤。
用途:床、壁、手すり等の洗浄・除菌
使用濃度:原液
使用方法:布等に染込ませ、被洗物を拭き取ることで洗浄する。すすぎ不要。
【0099】
【表7】

【0100】
調製手順(使用直前に調製するとよい。)
1) クレワットN以外の活性剤溶液成分を精製水に加熱溶解し、室温まで冷却する。クレワットNを添加して溶解し、活性剤溶液を調製する。
2) 40,000IU/mlのナイシン溶液を調製する。
3) 界面活性剤液とナイシン液とを混合し、NaOHでpHを5.0に調整する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗菌上有効量のランチオビオティックを含む組成物であって、ランチオビオティック1重量部に対して、10〜100,000重量部(好ましくは50〜50,000重量部、より好ましくは100〜10,000重量部)のチオクト酸又はその医療又は食品衛生上許容される塩を含む、殺菌用組成物。
【請求項2】
ランチオビオティック、及びチオクト酸又はその医療又は食品衛生上許容される塩を含み、
ランチオビオティックの濃度が、25〜200,000IU/ml、(好ましくは100〜100,000IU/ml、より好ましくは500〜50,000IU/ml)であり、
チオクト酸の濃度が0.001〜10重量%(好ましくは0.005〜2重量%、より好ましくは0.01〜1重量%)
である、液状又は半固形状組成物。
【請求項3】
さらに界面活性剤を含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
さらにアルコールを含み、アルコールの濃度が、1〜80重量%(好ましくは10〜60重量%、より好ましくは20〜40重量%)である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項5】
ランチオビオティック及びチオクト酸が、油性の基剤中に溶解した形態である、請求項1又は2に記載の組成物
【請求項6】
チオクト酸を含む、ランチオビオティックの安定化剤。
【請求項7】
ランチオビオティックの安定化する方法であって、チオクト酸を用いることを含む、方法。
【請求項8】
ランチオビオティック及びチオクト酸を用いる、対象の殺菌方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−270014(P2010−270014A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−121153(P2009−121153)
【出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人 日本農芸化学会発行、日本農芸化学会2009年度(平成21年度)大会講演要旨集、平成21年3月5日発行 平成21年3月29日開催、社団法人 日本農芸化学会主催、平成21年度日本農芸化学会大会[福岡]において発表
【出願人】(593085808)ADEKAクリーンエイド株式会社 (25)
【出願人】(509140559)
【出願人】(502347906)
【出願人】(509140560)
【Fターム(参考)】