説明

塗工紙及び撥水性紙

【課題】表面への撥水剤の塗工の際の被膜形成性に優れ、かつ、表面の強度が高い自家撥水処理用の塗工紙及びこのような塗工紙から得られる撥水性紙を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、基紙の表面に塗工液が塗工されてなる自家撥水処理用の塗工紙であって、上記基紙が、ロジン系サイズ剤が内添された酸性紙であり、上記塗工液が、カチオン性スチレン系樹脂、アクリルアミド系樹脂及びビニルアルコール系重合体を含むことを特徴とする。上記ビニルアルコール系重合体の重合度が1,200以上2,200以下であり、けん化度が97%以上であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自家撥水処理用の塗工紙及び撥水性紙に関する。
【背景技術】
【0002】
包装用の紙(板紙を含む)などには、水の付着を考慮して撥水性が要求されるものも多く、このような場合、表面に撥水剤が塗工された撥水性紙が使用される。この撥水剤の塗工は、製紙工場において抄紙等と共に一貫してされる場合もあるが、いわゆる自家撥水処理と言われる、製紙工場とは別の場所で行われる場合もある。この自家撥水処理としては、具体的には、例えば、段ボールシート加工工場でのコルゲーターによる貼合の際に、この貼合等と一貫して行われるものなどがある。
【0003】
抄紙等と共に一貫して撥水加工を施すことで得られた撥水加工品は、抄紙段階の乾燥工程等による加熱や、段ボール加工会社でのコルゲート加工時の過熱により撥水性の低下が生じる場合があるため、撥水性能の低下を見越した過剰な撥水性を予め付与する必要がある。このため、撥水加工品は、過剰な撥水性の付与により生産性の低下やコルゲーター加工時の加工不良を招く問題を招くため、最適な撥水性を段ボール加工時に付与する方策として上述の自家撥水処理が根強く利用されている。
【0004】
上記自家撥水処理に用いられる紙には、撥水剤の塗工の際に表面への撥水剤の表面定着性がよく、撥水剤からなる被膜の形成性に優れることと共に、この表面がコルゲーターによる加工などに耐え得る強度を有することが要求される。自家撥水性用途に表面処理を施されていない基紙を用いた場合、自家撥水剤が基紙表面で過剰に含侵し、撥水効果の発現が劣るとともに、撥水性を醸し出すために多量の撥水剤を基紙表面に設けなければならない等の不都合が生じる。また、紙の表面の強度が十分ではない場合、コルゲーター加工を行った際に、表面のひび割れや熱劣化等が生じるという不都合を有する。
【0005】
ここで、撥水性を向上させることを目的とした紙にかかる技術としては、特定の樹脂や撥水剤を表面に塗工するものが提案されている(特開平9−310297号公報、特開平7−26495号公報、及び特開2005−200772号公報参照)。しかし、これらは、単に紙の撥水性を高める技術であって、上述の自家撥水処理に用いられる紙に要求される上記特性を満足するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−310297号公報
【特許文献2】特開平7−26495号公報
【特許文献3】特開2005−200772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、表面への撥水剤の塗工の際の被膜形成性に優れ、かつ、表面の強度が高い自家撥水処理用の塗工紙、及びこのような塗工紙から得られる撥水性紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた発明は、
基紙の表面に塗工液が塗工されてなる自家撥水処理用の塗工紙であって、
上記基紙が、ロジン系サイズ剤が内添された酸性紙であり、
上記塗工液が、カチオン性スチレン系樹脂、アクリルアミド系樹脂及びビニルアルコール系重合体を含むことを特徴とする。
【0009】
当該塗工紙に用いられる塗工液は、カチオン性スチレン系樹脂を含むため、当該塗工紙の表面はこの塗工液の塗工によりカチオン性となっている。また、自家撥水処理の際に塗工される撥水剤はアニオン性を有する。従って、当該塗工紙によれば、電気的な親和性により、表面への撥水剤の定着性が高く、撥水剤からなる被膜の形成性に優れる。また、当該塗工紙に用いられる塗工紙には、アクリルアミド樹脂及びビニルアルコール系重合体を含むため、当該塗工紙の表面強度が高い。さらには、当該塗工紙の基紙がロジン系サイズ剤が内添された酸性紙であるため、上記塗工液が基紙内部まで染み込みにくく、表面に上記各成分が残存しやすい。この理由は定かではないが、サイズ剤の効果に加え、基紙が酸性であることが触媒的に機能し、塗工液に含まれる各樹脂の架橋反応等が進行しやすくなることで、基紙内部への染み込みが低減されることなどが考えられる。従って、当該塗工紙によれば、自家撥水処理により、撥水性の高い紙を得ることができる。
【0010】
上記ビニルアルコール系重合体の平均重合度が1,200以上2,200以下であり、けん化度が97%以上であることが好ましい。当該塗工紙によれば、上記範囲の重合度及びけん化度を有するビニルアルコール系重合体を用いることで、被膜形成性や表面強度を更に高めることができる。
【0011】
上記基紙が2層以上のパルプ繊維層を備え、表面に位置する第1パルプ繊維層(以下、「表層」ということもある。)の坪量が15g/m以上35g/m以下であるとよい。当該塗工紙がこのように薄い表層を有することで、基紙内部まで染み込みにくく設定した上記塗工液の一部を表層の内側に積層される第2パルプ繊維層まで染み込ますことができる。従って、当該塗工紙によれば、塗工液に含まれる樹脂等のアンカー効果により、第1パルプ繊維層と第2パルプ繊維層との間の強度を高め、結果として表面強度をさらに高めることができる。
【0012】
当該塗工紙が、上記第1パルプ繊維層と、この第1パルプ繊維層の内側に積層される第2パルプ繊維層との間に形成される澱粉層をさらに備えるとよい。この澱粉層により、上記第1パルプ繊維層と第2パルプ繊維層とが密着し、さらに、この澱粉層へ上記塗工液に含まれる樹脂等が浸透することによるアンカー効果により、第1パルプ繊維層と第2パルプ繊維層との間の強度を更に高めることができる。また、塗工液の浸透をこの澱粉層付近で留めることができるため、塗工液成分が表面近傍へより残存し、その結果、撥水剤の被膜形成性を高めることができる。
【0013】
上記第1パルプ繊維層が、ロジン系サイズ剤を固形分濃度で6質量%以上12質量%以下含むパルプスラリーの抄紙により形成されているとよい。このようにすることで、表層のサイズ性を高めることができ、塗工液の塗工の際、塗工液中の樹脂等の成分の第2パルプ繊維層以降への染み込みを適当な量に制御できる。従って、当該塗工液によれば、自家撥水処理の際の被膜形成性及び強度をより高めることができる。
【0014】
本発明の撥水性紙は、当該塗工紙の表面に、アニオン性の撥水剤が塗工されてなるものである。当該撥水性紙は、表面への撥水剤の定着性が高いため、優れた撥水性を発揮することができる。
【0015】
ここで、自家撥水処理とは、製紙工場で得られた紙に対し、上記製紙工場とは別の場所で、この紙の表面に撥水性を付与する処理をいう。平均重合度とは、JIS−K6726に準じて測定される粘度平均重合度をいう。けん化度とは、JIS−K6726に準じて測定される値をいう。表層の坪量とは、層毎に剥離した表層に対してJIS−P8124に準じて測定される値をいう。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明の塗工紙は、表面への撥水剤の塗工による被膜形成性に優れ、かつ、この表面の強度が高いため、自家撥水処理により撥水性の高い撥水性紙を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の塗工紙及び撥水性紙の実施の形態を詳説する。
【0018】
<塗工紙>
本発明の塗工紙は、基紙の表面に特定の樹脂成分を含む塗工液が塗工されてなる自家撥水処理用の塗工紙である。
【0019】
(基紙)
上記基紙は、酸性紙である。このような基紙を用いることで、後に詳述する塗工液が基紙内部にまで染み込みにくく、表面に上記塗工液中の各成分が残存しやすい。この理由は定かではないが、基紙が酸性であることが触媒的に機能し、塗工液に含まれる各樹脂の架橋反応等が進行しやすくなることで、基紙内部への染み込みが低減されることなどが考えられる。
【0020】
なお、酸性紙とは、紙面pHが7未満の紙をいう。また、上記基紙の紙面pHとしては、例えば5以上7未満が好ましい。なお、紙面pHは、J.TAPPI紙パルプ試験方法No.6−75で規定される方法により測定された値である。
【0021】
上記基紙は、パルプを原料とするパルプ繊維を主成分とするパルプスラリーを抄紙することで形成されている。上記基紙は、1層のパルプ繊維層からなる単層構造であってもよいし、2層以上のパルプ繊維層を有する多層構造であってもよいが、塗工液の浸透制御性等の点から多層構造であることが好ましい。なお、多層構造である場合の層数としては、3層以上7層以下が好ましく、5層であることが特に好ましい。ここで、パルプ繊維層とは、パルプ繊維を主成分とするパルプスラリーを抄紙することで形成される層をいう。
【0022】
上記パルプとしては、特に限定されず、例えば、古紙パルプ(DIP)、化学パルプ(例えば広葉樹クラフトパルプ:LBKP、針葉樹クラフトパルプ:NBKPなど)、機械パルプ(例えばサーモメカニカルパルプ:TMP、プレッシャライズトドクラフトパルプ:PGW、リファイナーグランドパルプ:RGP、グランドパルプ等)やケナフ、バガス、麻、コットンなどの非木材パルプなどを挙げることができる。これらの中でも、古紙パルプを用いることが好ましい。
【0023】
上記基紙が2層以上のパルプ繊維層を有する場合、表層(第1パルプ繊維層)を形成するパルプとして、古紙パルプを60質量%以上含むことが好ましい。このように、表層における古紙パルプの含有割合を高めることで、表層において塗工液の成分を浸透し易くし、塗工液成分のアンカー効果を高め、強固な表面を形成することができる。
【0024】
上記基紙が2層以上のパルプ繊維層を有する場合、上記基紙が、上記表層と、この表層の内側に積層される第2パルプ繊維層との間に形成される澱粉層をさらに備えるとよい。この澱粉層により、上記表層と第2パルプ繊維層とが密着し、さらに、この澱粉層へ上記塗工液に含まれる樹脂等が浸透することによるアンカー効果により、表層と第2パルプ繊維層との間の強度を更に高めることができる。また、このような澱粉層を設けることで、塗工液の浸透をこの澱粉層付近で留めることができるため、塗工液成分が表面近傍へより残存し、その結果、撥水剤の被膜形成性を高めることができる。さらに、この効果を高めるためには、第2パルプ繊維層と、この第2パルプ繊維層の内側に積層される第3パルプ繊維層との間にも澱粉層が形成されていることが好ましい。
【0025】
第3パルプ繊維層の内側や更なる内側の繊維層間にも澱粉層を設けることができるが、過剰な澱粉層の形成は得られる段ボールシートが固くなり箱成型に支障が生じたり、貼合用の糊の繊維層への含侵が抑制され貼合不良を招く場合があるため、表層と第2パルプ繊維層間及び第2パルプ繊維層の内側に澱粉層を設けることが好ましい。
【0026】
上記基紙には、内添サイズ剤として、ロジン系サイズ剤が内添されている。ロジン系サイズ剤を用いることで、塗工液中に含まれる各成分の内部への染み込みを効果的に制御することができる。上記ロジン系サイズ剤におけるロジン系物質としては、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等のロジン類をフマール酸、マレイン酸、アクリル酸等のα,β−不飽和カルボン酸あるいはその無水物で変性した強化ロジンや、上記ロジン類をグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジグリセリン等の多価アルコールを反応させて得られるロジンエステルを挙げることができ、これらの単独又はその混合物をエマルジョン化したものや、単独でエマルジョン化した後に混合したものを使用可能である。さらに、上記ロジンエマルジョン中に、サイズ発現性をより向上させるために各種ポリマーを添加したものも使用できる。
【0027】
上記表層の坪量(付け量)としては、15g/m以上35g/m以下が好ましく、20g/m以上30g/m以下がさらに好ましい。当該塗工紙がこのように薄い表層を有することで、基紙内部まで染み込みにくく設定した上記塗工液の一部を第2パルプ繊維層まで染み込ますことができる。従って、当該塗工紙によれば、塗工液に含まれる樹脂等のアンカー効果により、表層と第2パルプ繊維層との間の強度を高め、結果として表面強度をさらに高めることができる。
【0028】
上記表層は、ロジン系サイズ剤を固形分濃度6質量%以上12質量%以下含むパルプスラリーの抄紙により形成されているとよい。このようにすることで、表層のサイズ性を高めることができ、塗工液の塗工の際、塗工液中の樹脂等の成分の2番目の層以降への染み込みを適当な量に制御できる。従って、当該塗工液によれば、自家撥水処理の際の被膜形成性及び強度をより高めることができる。
【0029】
上記基紙には、上記パルプ繊維及び内添サイズ剤であるロジン系サイズ剤以外の他の成分が含まれていてもよい。この他の成分としては、硫酸バンド、ロジン系サイズ剤以外の内添サイズ剤(例えば、合成高分子系のサイズ剤等)や、紙力増強剤、填料等を挙げることができる。
【0030】
上記基紙は、例えば、公知の方法で各層に対応する原料パルプスラリーを多層抄きすることで得ることができる。また、澱粉層を設ける場合は、澱粉を含む液のスプレー噴射により形成することができる。
【0031】
(塗工液)
上記塗工液は、カチオン性スチレン系樹脂、アクリルアミド系樹脂及びビニルアルコール系重合体を含む。このように当該塗工紙に用いられる塗工液は、カチオン性スチレン系樹脂を含むため、当該塗工紙の表面はこの塗工液の塗工によりカチオン性となっている。また、自家撥水処理の際に塗工される撥水剤はアニオン性を有する。従って、当該塗工紙によれば、電気的な親和性により、表面への撥水剤塗工の際の撥水剤による被膜形成性に優れる。また、当該塗工紙に用いられる塗工紙には、アクリルアミド樹脂及びビニルアルコール系重合体を含むため、当該塗工紙の表面強度が高い。従って、当該塗工紙によれば、自家撥水処理により、撥水性の高い紙を得ることができる。
【0032】
上記カチオン性スチレン系樹脂としては、スチレンを単量体として含むカチオン性の樹脂であれば特に限定されず、公知のものを用いることができる。カチオン性スチレン系樹脂の市販品としては、例えば、荒川化学工業社製サイズパインW−360、ポリマロン360などを挙げることができる。
【0033】
上記アクリルアミド系樹脂としては、アクリルアミドの重合体、メタアクリルアミドの重合体、アクリルアミドとメタアクリルアミドの共重合体等があげられる。上記アクリルアミド系樹脂としては、カチオン性であるものが好ましい。カチオン性のアクリルアミド系樹脂を用いることで、得られる塗工紙の表面のカチオン性がより高まり、表面への撥水剤塗工の際の撥水剤による被膜形成性が更に高まる。また、カチオン性のアクリルアミド系樹脂を用いることで、カチオン性スチレン系樹脂との相溶性も高まり、表面強度が高まると共に、撥水剤の浸透抑制効果も高めることができる。
【0034】
上記カチオン性のアクリルアミド系樹脂としては、アクリルアミド等とカチオン性ビニルモノマー類とを重合して得られる樹脂等を挙げることができる。カチオン性ビニルモノマー類としては、1級アミノ基を有するビニルモノマー(2−プロペニルアミン等)、2級アミノ基を有するビニルモノマー(ジ(2−プロペニル)アミン等)、3級アミノ基を有するビニルモノマー(N,N−ジメチル−2−プロペロイロキシエチルアミン等)、及び4級アンモニウム塩類を有するビニルモノマー(N,N−ジメチル−N,N−ジ(2−プロペニル)アンモニウムクロライド等)等を挙げることができる。
【0035】
上記ビニルアルコール系重合体は、ビニルアルコール単位(−CH−CHOH−)を主の構造単位として有する重合体である。なお、上記ビニルアルコール系重合体は、ビニルアルコール単位以外の構造体単位を含有していてもよい。
【0036】
上記ビニルアルコール系重合体の平均重合度としては、1,200以上2,200以下が好ましく、1,500以上1,900以下がさらに好ましい。このような重合度を有するビニルアルコール系重合体を用いることで、当該塗工紙の表面強度を更に高めることができる。重合度が上記下限未満の場合は、当該紙の表面強度が低下しやすくなる。逆に、重合度が上記上限を超えると、粘性が高まったり溶解性が低下する結果、塗工性が低下し、表面強度が低下しやすくなる。また、このような重合度を有するビニルアルコール系重合体を用いることで、カチオン性スチレン系樹脂、アクリルアミド系樹脂及びビニルアルコール系重合体の3成分を含む塗膜(塗工層)自体の強度を高め、撥水剤の浸透抑制効果等を高めることができる。
【0037】
上記ビニルアルコール系重合体のけん化度としては、97%以上が好ましく、97.5%以上がさらに好ましい。このようなけん化度を有するビニルアルコール系重合体を用いることで、当該塗工紙の表面強度を更に高めることができる。なお、上記ビニルアルコール系重合体のけん化度の上限としては、特に制限されないが、例えば99.9%である。
【0038】
また、上記塗工液に含まれる成分として、上記重合度及びけん化度を有するビニルアルコール系重合体を、カチオン性スチレン系樹脂及びアクリルアミド樹脂とともに用いることで、三成分が均一に溶解し、塗工紙の表面をむら無く強度を高めることができる。
【0039】
上記塗工液における、カチオン性スチレン系樹脂、アクリルアミド系樹脂及びビニルアルコール系重合体の含有割合としては、固形分換算10:8〜10:15〜25が好ましい。三成分をこのような比とすることで、塗工紙表面における被膜形成性及び強度をバランスよく高めることなどができる。
【0040】
上記塗工液には、上記三成分以外に他の成分が含有されていてもよい。上記他の成分としては、例えば、その他の表面サイズ剤、紙力増強剤、水溶性高分子、顔料、その他の添加剤等を挙げることができる。
【0041】
上記塗工液を上記基紙表面に塗工する方法としては特に限定されず、製紙分野で一般に使用されている塗布装置、例えばサイズプレス、ブレードメタリングサイズプレス、ロッドメタリングサイズプレス、ブレードコータ、バーコータ、ゲートロールコータ、ロッドコータ、エアナイフコータ等を用いることで行うことができる。
【0042】
上記塗工液の塗工量としては、基紙の表面に乾燥質量で0.1〜1.0g/m、さらには0.2〜0.8g/mの量で塗布されていることが好ましい。0.1g/mを下回ると充分な被膜を得ることが困難となり、充分な紙の表面強度や自家撥水処理した際に撥水性が得られない場合などがある。一方、1.0g/mを上回ると、周辺機器を汚損するとともに、コストが上昇したり、乾燥性が低下するなど操業性に支障をきたす場合がある。
【0043】
上記塗工液を塗工し、乾燥した後には、カレンダに通紙して加圧仕上げが施される。この場合のカレンダ装置としては、例えばスーパーカレンダ、グロスカレンダ、ソフトコンパクトカレンダなどの金属またはドラムと弾性ロールの組み合わせになる各種カレンダが、オンマシン又はオフマシン仕様で適宜使用できる。
【0044】
(品質等)
当該塗工紙の坪量としては、特に限定されないが、100g/m以上300g/m以下が好ましく、150g/m以上260g/m以下がより好ましい。このような範囲の坪量とすることで、当該塗工紙が十分な強度等を発揮することができる。ここで、坪量は、JIS−P8124に準じて測定される値をいう。
【0045】
当該塗工紙の表面強度としては、10A以上が好ましく、12A以上20A以下がより好ましい。このような表面強度を有することで、当該塗工紙は、例えばコルゲーター加工を行った際の、表面のひび割れ等の発生を抑えることができる。なお、上記表面強度は、JAPAN TAPPI No.1にて規定された方法にて測定された値をいう。
【0046】
当該塗工紙は、このように表面への撥水剤の塗工による被膜形成性に優れ、かつ、この表面の強度が高いため、自家撥水処理により撥水性の高い撥水性紙を得ることができる。当該塗工紙は、具体的には、表ライナー等として好適に用いられる。表ライナーとして用いられる場合、自家撥水処理として、例えばコルゲーターによる貼合工程において、表面に撥水剤が塗工される。
【0047】
<撥水性紙>
本発明の撥水性紙は、自家撥水処理により、当該塗工紙の表面に、アニオン性の撥水剤が塗工されてなるものである。当該撥水性紙は、優れた撥水性を発揮することができる。
【0048】
上記撥水剤としては、アニオン性化合物を含むものであれば、制限なく用いることができる。このような撥水剤としては、例えば、ワックス、合成樹脂、及びこれらの混合物が挙げられる。上記撥水剤の市販品としては、例えば、近代化学工業社製のリパックスA−240等を挙げることができる。
【0049】
上記撥水剤の塗工量としては、特に制限されないが、好ましくは0.03〜1.0g/mであり、更に好ましくは、0.05〜0.8g/mである。撥水剤の塗工量が0.03g/m未満であると、撥水度が向上しない場合があり、一方、1.0g/mを超えると、滑り角度が低下する場合などがある。
【実施例】
【0050】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、各種薬品の添加量は固形分換算の値である。
【0051】
[実施例1]
(基紙の製造)
第1パルプ繊維層用の原料パルプとして、古紙パルプを68質量%含むパルプを用いた。古紙パルプ以外のパルプとしては、NBKPとLBKPとを7:3の質量比で用いた。この原料パルプには、弱酸性系内添サイズ剤(ハリマ化成社製 ハーサイズNES−680 エマルション型のロジン系内添サイズ剤)を(7kg/t)、硫酸バンドを(32kg/t)、紙力剤(ハリマ化成社製 ハーマイドTA−238 カチオン系ポリアクリルアマイド)を(7kg/t)配合した。
第2パルプ繊維層用の原料パルプとして、古紙パルプ100%を用いた。この原料パルプには、弱酸性系内添サイズ剤(ハリマ化成社製 ハーサイズNES−680 エマルション型のロジン系内添サイズ剤)を(5kg/t)、硫酸バンドを(21kg/t)、紙力剤(ハリマ化成社製 ハーマイドTA−238 カチオン系ポリアクリルアマイド)を(4kg/t)配合した。
第3パルプ繊維層用の原料パルプとして、古紙パルプ100%を用いた。この原料パルプには、弱酸性系内添サイズ剤(ハリマ化成社製 ハーサイズNES−680 エマルション型のロジン系内添サイズ剤)を(4kg/t)、硫酸バンドを(12kg/t)、紙力剤(ハリマ化成社製 ハーマイドTA−238 カチオン系ポリアクリルアマイド)を(4kg/t)配合した。
第4パルプ繊維層用の原料パルプとして、古紙パルプ100%を用いた。この原料パルプには、弱酸性系内添サイズ剤(ハリマ化成社製 ハーサイズNES−680 エマルション型のロジン系内添サイズ剤)を(4kg/t)、硫酸バンドを(12kg/t)、紙力剤(ハリマ化成社製 ハーマイドTA−238 カチオン系ポリアクリルアマイド)を(2kg/t)配合した。
第5パルプ繊維層用の原料パルプとして、古紙パルプ100%を用いた。この原料パルプには、弱酸性系内添サイズ剤(ハリマ化成社製 ハーサイズNES−680 エマルション型のロジン系内添サイズ剤)を(7kg/t)、硫酸バンドを(24kg/t)、紙力剤(ハリマ化成社製 ハーマイドTA−238 カチオン系ポリアクリルアマイド)を(3kg/t)配合した。
上記各原料パルプを用いて、表面側から順に、第1〜第5パルプ繊維層を備える5層構造の基紙を得た。第1パルプ繊維層の付け量は25g/m、第2パルプ繊維層の付け量は38g/m、第3パルプ繊維層の付け量は47g/m、第4パルプ繊維層の付け量は48g/m、第5パルプ繊維層の付け量は47g/mとした。
また、第1パルプ繊維層と第2パルプ繊維層との間、及び第2パルプ繊維層と第3パルプ繊維層との間には、スプレー塗布により澱粉層を形成した。なお、得られた基紙のJ.TAPPI紙パルプ試験方法No.6−75で規定される方法により測定された紙面pHは、6.5であった。
(塗工液の調製)
(A)カチオン性スチレン系樹脂(荒川化学工業社製 ポリマロン360)、(B)カチオン性のアクリルアミド系樹脂(星光PMC社製 HG5304)及び(C)ビニルアルコール系重合体(日本酢ビ・ポバール社製 JF−17 平均重合度1,700、けん化度98.0〜99.0%)を固形分換算で10:9:20で配合し、塗工液を得た。
上記塗工液を上記基紙の表面に乾燥質量で0.3g/m塗工し、カレンダー処理することで、実施例1の塗工紙を得た。
【0052】
[実施例2〜13、比較例1]
塗工液における(A)〜(C)成分の種類、表層(第1パルプ繊維層)の付け量(坪量)、表層のロジン系サイズ剤の含有量を表1に示すとおりにしたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜11、及び比較例1の塗工紙を得た。
なお、表層の付け量(坪量)は、塗工紙を得た後、層毎に剥離した表層に対してJIS−P8124に準じて測定した。
【0053】
[比較例2]
表層の原料パルプにおいて、硫酸バンドの添加量を低減し紙面pHが7.0の基紙としたこと以外は実施例1と同様にして、比較例2の塗工紙を得た。
【0054】
なお、表1中の各成分は、以下のとおりである。
・カチオン性スチレン系樹脂:荒川化学工業社製 ポリマロン360
・アニオン性スチレン系樹脂:荒川化学工業社製 ポリマロン351S
・カチオン性アクリルアミド系樹脂:星光PMC社製 HG5304
・アニオン性アクリルアミド系樹脂:星光PMC社製 ST−5000
・PVA1:日本酢ビ・ポバール社製 JF−17 平均重合度1,700、けん化度98.0〜99.0%
・PVA2:日本酢ビ・ポバール社製 JF−10 平均重合度1,000、けん化度98.0〜99.0%
・PVA3:日本酢ビ・ポバール社製 JC−25 平均重合度2,500、けん化度99%以上
・PVA4:日本酢ビ・ポバール社製 JM−17 平均重合度1,700、けん化度95.5〜97.5%
【0055】
[実施例14〜21]
塗工液における(A)カチオン性スチレン系樹脂、(B)カチオン性のアクリルアミド系樹脂及び(C)ビニルアルコール系重合体の配合比を表2記載の通りとしたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例14〜21の塗工紙を得た。
【0056】
[評価]
得られた各塗工紙について、以下の項目を評価した。評価結果を表1及び表2に示す。
【0057】
[表面強度]
得られた塗工紙の表面強度をJAPAN TAPPI No.1の記載に準じて測定した。
【0058】
[撥水度]
得られた塗工紙の表面に、アニオン性の撥水剤(近代科学工業社製 リパックスA−240)を0.6g/mの塗工量で塗工して、撥水性紙を得た。得られた撥水性紙の撥水度をJIS−P8137で規定される方法に従って測定した。具体的には、得られた撥水性紙を、幅200mm、長さ300mmに切断して試料とし、45度の傾斜を有する試験片取付面に固定する。ビュレットより蒸留水を1滴滴下し、流下の跡を観察して撥水度を決定した。撥水度は以下の基準に従って決定した。なお、この撥水度(撥水性)の高さが、塗工紙の被膜形成性として評価することができる。
:連続した跡であって、一様な幅を示した。
:連続した跡であって、水滴よりわずかに狭い幅を示した。
:連続した跡であるが、ところどころ切れていて、明らかに水滴より狭い幅を示した。
:跡の半分がぬれていた。
:跡の1/4以上は長く伸びた水滴によってぬれていた。
:跡の1/4以上は、球形の小滴が散在していた。
:ところどころに球形の小水滴が散らばっていた。
10:完全に水滴が転がり落ちた。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
[実施例22〜27及び比較例3]
塗工液の基紙表面への塗工量を表3に示すとおりにしたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例22〜27及び比較例3の塗工紙を得た。
【0062】
実施例1、実施例22〜27及び比較例3の塗工紙について、上記撥水度及び以下の基準による操業性の評価を行った。評価結果をあわせて、表3に示す。
【0063】
[操業性]
◎:操業上問題なし。
○:乾燥性が劣るが、汚れ等の問題なし。
△:乾燥性が劣り、汚れも生じやすいが操業可能。
×:乾燥に問題が生じ、汚れも生じる。
【0064】
【表3】

【0065】
上記表1及び表2に示されるように、実施例の各塗工紙は表面強度に優れる。また、これらの塗工紙から得られる撥水性紙は、撥水剤による被膜形成性に優れるため、撥水度が高いことがわかる。また、表3に示されるように、塗工量を調整することで、撥水度及び操業性をともに高めることができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
以上説明したように、本発明の塗工紙は、自家撥水処理用の塗工紙として好適であり、具体的には、段ボール紙のライナー等として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基紙の表面に塗工液が塗工されてなる自家撥水処理用の塗工紙であって、
上記基紙が、ロジン系サイズ剤が内添された酸性紙であり、
上記塗工液が、カチオン性スチレン系樹脂、アクリルアミド系樹脂及びビニルアルコール系重合体を含むことを特徴とする塗工紙。
【請求項2】
上記ビニルアルコール系重合体の平均重合度が1,200以上2,200以下であり、けん化度が97%以上である請求項1に記載の塗工紙。
【請求項3】
上記基紙が2層以上のパルプ繊維層を備え、表面に位置する第1パルプ繊維層の坪量が15g/m以上35g/m以下である請求項1又は請求項2に記載の塗工紙。
【請求項4】
上記第1パルプ繊維層と、この第1パルプ繊維層の内側に積層される第2パルプ繊維層との間に形成される澱粉層をさらに備える請求項3に記載の塗工紙。
【請求項5】
上記第1パルプ繊維層が、ロジン系サイズ剤を固形分濃度で6質量%以上12質量%以下含むパルプスラリーの抄紙により形成されている請求項3又は請求項4に記載の塗工紙。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の塗工紙の表面に、アニオン性の撥水剤が塗工されてなる撥水性紙。


【公開番号】特開2013−72153(P2013−72153A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212212(P2011−212212)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】