説明

α型チタニルフタロシアニンの製造方法およびα型チタニルフタロシアニンを用いる電子写真感光体

【課題】α型結晶変態を有する粗合成チタニルフタロシアニンを原料として用いて、α型チタニルフタロシアニンを簡便に製造すること、及びα型チタニルフタロシアニンを用いて優れた感光特性を有する電子写真感光体を提供する。
【解決手段】α型チタニルフタロシアニンの製造方法であって、(I)α型結晶変態を有する粗合成チタニルフタロシアニンをアシッドペースティング処理し、濾過水洗して含水ウェットケーキを得て、その含水ウェットケーキを乾燥・粉砕し、低結晶性チタニルフタロシアニンを得る工程; (II)前工程で得られた低結晶性チタニルフタロシアニンに分散助剤を加え、DMF中、室温分散にて結晶変態を調製する工程;および (III)濾過洗浄し、減圧乾燥する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α型チタニルフタロシアニンの製造方法および電荷発生材料としてα型チタニルフタロシアニンを用いる電子写真感光体に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真技術を応用した複写機やプリンター等の画像形成装置においては、当該装置の光源の波長領域に感度を有する有機感光体が多く使用されている。有機感光体としては、適当な結着樹脂からなる薄膜中に電荷発生材料と電荷輸送材料とを分散した単層型の感光層を備えた単層型感光体や、上記電荷発生材料を含む電荷発生層と、電荷輸送材料を含む電荷輸送層とを積層した積層型感光体が知られている。
【0003】
一般に、フタロシアニン化合物は、長波長域までの分光感度を有し、電荷発生効率もよく、堅牢性にすぐれ、高感度、高耐久性である。このため、種々のフタロシアニン化合物が電荷発生材料として用いられている。特に、チタニルフタロシアニンは、帯電レベルが高く、感度もよいこと、蒸着または分散により薄膜(例えば、電荷発生層)を形成し易い等の理由で電子写真感光体に使用され得る。
【0004】
フタロシアニン化合物は、同じ分子構造のものであっても、そのスタッキング状態の違いによって電気特性が大きく変化する。有機化合物の分子のスタッキング状態は化合物の結晶変態で決まるので、結晶変態は、スタッキング状態、つまりπ電子系の摂動を変え、有機感光体等の電子材料としての特性を有効に変える要因となる。
【0005】
チタニルフタロシアニンにおいては、一般に、尿素法(ワイラー法)やフタロニトリル法によって製造される。しかしながら、合成された直後、すなわち、粗合成チタニルフタロシアニンは、種々の結晶変態(例えば、「β型」、「α型」及びその他準安定結晶変態)を含む多形混合物であることが多い。多形混合物は、異なる電気特性を有する結晶の混合物であるので、電子写真感光体等の電荷発生材料として使用するのに適していない。
【0006】
このように、従来では、各種粗合成チタニルフタロシアニンを電荷発生材料の原料として使用し、電荷発生材料に適した単一の結晶変態を有するチタニルフタロシアニンの開発が行われてきた。そのような試みとしては、下記のものが挙げられる。
【0007】
特開昭61−239248号公報(特許文献1)には、フタロニトリル法によりα型のチタニルフタロシアニンを合成し、その粗合成品はアセトンによりソックスレー抽出器で洗浄し、それをアルミナビーズで乾式ミリングすることにより、CuKα線のX線回折スペクトルにおいてブラッグ角(2θ±0.2°)の7.5°、12.3°、16.3°、25.3°、28.7°にピークを有するα型のチタニルフタロシアニンを製造する方法が開示されている。この方法ではソックスレー抽出を用いているため、装置が複雑になり、また、溶剤による熱懸洗のような煩雑な操作を用いているため、この方法は、簡便にα型チタニルフタロシアニンを製造する方法ではない。
【0008】
また、特開平8−209023号公報(特許文献2)には、アシッドペースティング処理により得られた低結晶性チタニルフタロシアニンを、ジクロロトルエン、食塩、水の混合物をジルコニアビーズでミリングし、CuKα線のX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.2°)の7.22°、9.60°、11.60°、13.40°、14.88°、18.34°、23.62°、24.14°、27.32°にピークを有する結晶に変換する方法が開示されている。しかし、この方法ではジクロロトルエンを除去するために煩雑な水蒸気蒸留を行っており、また、食塩のような無機塩がチタニルフタロシアニンに混入すると、その感光特性が低下する恐れがあり、水洗を何度も行う必要があり、煩雑である。
【特許文献1】特開昭61−239248号公報
【特許文献2】特開平8−209023号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記従来技術の問題点に鑑み、鋭意検討されたものであり、その目的とするところは、α型結晶変態を有する粗合成チタニルフタロシアニンを原料として用いて、CuKα線によるX線回折スペクトルにおいてブラッグ角(2θ±0.2°)の7.5°、10.2°、12.6°、13.2°、15.1°、16.3°、17.3°、18.3°、22.5°、24.2°、25.3°、28.6°にピークを有するα型チタニルフタロシアニンを簡便に製造すること(第1の目的)、並びに、電荷発生材料としてα型チタニルフタロシアニンを用いて優れた感光特性を有する電子写真感光体を提供すること(第2の目的)である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上述の課題を鑑み鋭意研究した結果、α型結晶変態を有する粗合成チタニルフタロシアニンをアシッドペースティング処理に付し、濾過水洗し、更に乾燥・粉砕することにより、低結晶性チタニルフタロシアニンを得、これを温和な条件下で室温分散することによって簡便にα型チタニルフタロシアニンが得られることを見出した。従って、本発明は以下を提供する。
【0011】
CuKα線によるX線回折スペクトルにおいてブラッグ角(2θ±0.2°)の7.5°、10.2°、12.6°、13.2°、15.1°、16.3°、17.3°、18.3°、22.5°、24.2°、25.3°、28.6°にピークを有するα型チタニルフタロシアニンの製造方法であって、
(I)α型結晶変態を有する粗合成チタニルフタロシアニンをアシッドペースティング処理し、濾過水洗して含水ウェットケーキを得て、その含水ウェットケーキを乾燥・粉砕し、低結晶性チタニルフタロシアニンを得る工程;
(II)前工程で得られた低結晶性チタニルフタロシアニンに分散助剤を加え、DMF(ジメチルホルムアミド)中、室温分散にて結晶変態を調製する工程;および
(III)濾過洗浄し、減圧乾燥する工程;
を少なくとも包含する下記式(1)で表されるα型チタニルフタロシアニンの製造方法。
【0012】
【化1】

【0013】
本発明のα型チタニルフタロシアニンの製造方法において、前記低結晶性チタニルフタロシアニンは、好ましくは、CuKα線によるX線回折スペクトルにおいてブラッグ角(2θ±0.2°)の7.0°、15.6°、23.5°、28.4°にピークを有する。
【0014】
また、本発明は、上記製造方法で得られるα型チタニルフタロシアニンを電荷発生材料として用いる電子写真感光体を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によって、α型結晶変態を有する粗合成チタニルフタロシアニンを原料として用いて、CuKα線によるX線回折スペクトルにおいてブラッグ角(2θ±0.2°)の7.5°、10.2°、12.6°、13.2°、15.1°、16.3°、17.3°、18.3°、22.5°、24.2°、25.3°、28.6°にピークを有するα型チタニルフタロシアニンを穏和な条件下で簡便に製造することにより、結晶化を調整することができ、並びに、前記チタニルフタロシアニンを電荷発生材料として用いることにより、優れた感光特性を有する電子写真感光体を提供することができる。本発明の方法で得られるα型結晶変態を有するチタニルフタロシアニンは、従来の方法で得られたチタニルフタロシアニンよりも結晶化度が低いため、感光体としての一次特性(例えば、帯電性において、初期帯電量が高く、暗減衰率が小さくなり、電荷保持特性が向上する等)が優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、CuKα線によるX線回折スペクトルにおいてブラッグ角(2θ±0.2°)の7.5°、10.2°、12.6°、13.2°、15.1°、16.3°、17.3°、18.3°、22.5°、24.2°、25.3°、28.6°にピークを有するα型チタニルフタロシアニンの製造方法であって、
(I)α型結晶変態を有する粗合成チタニルフタロシアニンをアシッドペースティング処理し、濾過水洗して含水ウェットケーキを得て、その含水ウェットケーキを乾燥・粉砕し、低結晶性チタニルフタロシアニンを得る工程;
(II)前工程で得られた低結晶性チタニルフタロシアニンに分散助剤を加え、DMF中、室温分散にて結晶変態を調製する工程;および
(III)濾過洗浄し、減圧乾燥する工程;
を少なくとも包含する下記式(1)で表されるα型チタニルフタロシアニンの製造方法に関する。
【0017】
【化2】

【0018】
以下、本発明のα型結晶変態を有するチタニルフタロシアニンの製造方法について、詳細に説明する。
【0019】
本発明のα型の結晶変態を有するチタニルフタロシアニンの製造方法において、原料として用いるα型の結晶変態を有するチタニルフタロシアニン(但し、本願明細書中、粗合成チタニルフタロシアニンと称する)には特に制限はなく、例えば、尿素法、フタロニトリル法等の従来公知の何れの方法によって合成(製造)されたものであってもよい。更に好ましい原料チタニルフタロシアニンの製造方法としては、フタロニトリル法が挙げられる。フタロニトリル法では、尿素法等の他の方法と比較して、一般に、高収率、高純度で原料チタニルフタロシアニンが得られるからである。
【0020】
原料チタニルフタロシアニンとして好適に使用できるα型結晶変態を有する粗合成チタニルフタロシアニンは、一般に、キノリン、α−又はβ−クロロナフタレン、α−メチルナフタレン、ニトロベンゼン等の芳香族系高沸点溶媒中で、フタロニトリルを四塩化チタン等の金属化合物と縮合させ、チタニルフタロシアニンを得て、それをDMF(ジメチルホルムアミド)等で洗浄する公知の方法により得ることができる。
【0021】
本発明のα型チタニルフタロシアニンの製造方法は、α型結晶変態を有する粗合成チタニルフタロシアニンをアシッドペースティング処理し、濾過水洗して含水ウェットケーキを得て、その含水ウェットケーキを乾燥・粉砕し、低結晶性チタニルフタロシアニンを得る工程[工程(I)]を包含する。
【0022】
工程(I)において、原料チタニルフタロシアニンを常法に従いアシッドペースティング処理(AP処理)に付す。アシッドペースティング処理は、原料である粗合成チタニルフタロシアニンを精製、微細化するための常套手段であり、一般に、チタニルフタロシアニンを濃硫酸等の酸に溶解し、それを大量の水中に投入し、チタニルフタロシアニンを再沈殿させる操作を包含する。
【0023】
より具体的には、粗合成チタニルフタロシアニンを濃硫酸等に溶解し、必要に応じて不溶物をろ過等の手段で除去し、得られた液を十分に冷却された大量の水または大量の氷水に発熱に注意しながら滴下し、チタニルフタロシアニンを析出させる。
【0024】
アシッドペースティング処理に使用する酸の量は、精製、微細化に適する良好なペーストが得られる程度であれば、特に限定されない。
【0025】
アシッドペースティング処理に使用する酸としては、濃硫酸が好ましく、酸として濃硫酸を用いる場合、濃硫酸の濃度は、通常80〜100%、好ましくは95〜100%である。濃硫酸の量は精製、微細化に適する良好なペーストが得られる程度であれば特に限定されない。アシッドペースティング処理は、酸および水のみを使用するだけで達成することができるので、簡便である。
【0026】
次いで、析出したチタニルフタロシアニンを濾過水洗し、好ましくは濾液が中性になるまで濾過水洗を繰り返し、含水率が50〜95%の含水ウェットケーキを得る。この濾過水洗において、洗浄液として、水、蒸留水、イオン交換水等水のみを用いる場合、濾過工程が簡便となる。
【0027】
次いで、アシッドペースティング処理によって得られる含水ウェットケーキを乾燥および/または粉砕して低結晶性チタニルフタロシアニンを得る。この乾燥に用いる装置は、特に限定されないが、公知の乾燥装置を用いることができる。また、粉砕に用いる装置は、特に限定されないが、公知の粉砕機を用いることができる。例えば、フラシュミル、フェザーミル、ボールミル、サンドミル、アトライター等が挙げられる。また、少量の場合は乳鉢等で粉砕してもよい。
【0028】
アシッドペースティング処理後、濾過水洗、乾燥および/または粉砕して得られる低結晶性チタニルフタロシアニンは、新規中間体であり、例えば、図2に示すように、CuKα線によるX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.2°)の7.0°、15.6°、23.5°、28.4°にピークを有し、従来の製造方法とは異なる中間体を経由することが分かった。このような工程(I)のアシッドペースティング処理、濾過水洗、乾燥および/または粉砕工程を経ることにより、次工程(II)でのDMFを用いる結晶変換が容易となる。
【0029】
本発明のα型チタニルフタロシアニンの製造方法は、更に、低結晶性チタニルフタロシアニンに分散助剤を加え、DMF中、室温分散にて結晶変態を調製する工程[結晶変換工程(II)]を包含する。すなわち、結晶変換工程においてDMFを使用することによって、チタニルフタロシアニンの結晶性と粒径を良好に調節できる。
【0030】
結晶変換工程において使用する分散助剤としては、例えば、ガラスビーズ、スチールビーズ、ジルコニアビーズ、アルミナビーズ等が挙げられるが、これらに限定されない。結晶変換工程において使用する分散助剤としてはガラスビーズが好ましい。分散助剤の粒径は、通常0.1〜10mm、好ましくは0.2〜5mmである。分散助剤の使用量は、特に限定はなく、DMFの容量に対して、50〜150%、好ましくは80〜120%である。
【0031】
本発明の結晶変換に用いることのできる装置としては、通常の合成反応に用いる反応容器または反応釜であれば特に限定はなく、公知のものを使用することができる。また、公知の分散装置、例えば、サンドミル、ボールミル、アトライター、ペイントシェイカー等を使用してもよい。
【0032】
結晶変換は、室温(通常、20〜35℃)で10〜80時間、好ましくは30〜70時間行われる。変換工程が10時間を下回ると結晶変態の形成が不十分となり、80時間を上回って行っても一般に有意な効果が得られない。この結晶変換操作により、結晶変態の成長が促進され、感光特性に優れるα型結晶変態のチタニルフタロシアニンを得ることができる。なお、本明細書中、上記結晶変換操作を室温分散と称する場合もある。
【0033】
結晶変換終了後、分散助剤を除去する。これには分散助剤のみを除去できるものであれば特に限定されないが、孔径が100〜200μmのふるいを用いることが好ましい。孔径が100μmより小さいと除去に時間がかかり歩溜が悪い。また、200μmより大きいものを用いると分散助剤の破片がチタニルフタロシアニンに混入する恐れがあり、感光特性を悪化させる原因となる。
【0034】
更に、本発明のα型チタニルフタロシアニンの製造方法は、濾過洗浄し、減圧乾燥する工程[工程(III)]を包含する。分散助剤を除去した後の懸濁液を濾過および洗浄することにより、本発明のα型の結晶変態を有するチタニルフタロシアニンが得られる。濾過には特に限定はなく、洗浄にはDMF、THF及びメタノール等の有機溶剤、イオン交換水、蒸留水等を適宜用いる。また、本発明のチタニルフタロシアニンを電子写真感光体に適用するためには、チタニルフタロシアニンとして高純度のものであることが好ましい。従って、本発明の製造方法においては各種の精製方法を用いることができる。
【0035】
濾過洗浄終了後、チタニルフタロシアニンを減圧下にて乾燥することが好ましい。乾燥条件としては、例えば、乾燥温度は、通常40〜100℃、好ましくは50〜70℃である。乾燥時間は15〜30時間である。乾燥終了後、粉砕し、本発明の製造方法で得られたα型チタニルフタロシアニンを電荷発生材料として電子写真感光体に用いることができる。
【0036】
本発明の製造方法では、前記に示すように、溶剤による熱懸洗、熱処理等の煩雑な工程を包含しないため、簡便に目的のチタニルフタロシアニンを得ることができる。
【0037】
次に本発明の電子写真感光体について説明する。本発明の電子写真感光体は、電荷発生材料として、本発明の製造方法で得られるα型チタニルフタロシアニンを含有することを特徴とする。本発明の製造方法で得られるα型チタニルフタロシアニンを電荷発生材料とする電子写真感光体は帯電性が良好で、高感度及び高耐久性であり、デジタル感光特性に優れる。
【0038】
本発明の製造方法で得られるα型の結晶変態を有するチタニルフタロシアニンを含有する電子写真感光体は、感光層が電荷発生層と電荷輸送層とに分離した二層構造のものであってもよく、単層構造のものであってもよい。しかし、チタニルフタロシアニンの結晶変態の感光特性を有効に発揮させるためには、発生した電荷が捕獲される可能性が小さく、各層がそれぞれの機能を阻害することなく効率よく感光体表面に輸送される二層構造又はマルチ構造の機能分離型感光体にチタニルフタロシアニンを適用することが好ましい。
【0039】
このような機能分離型感光体は、例えば、導電性支持体上に電荷発生層と電荷輸送層とを薄膜状に積層して形成される。導電性支持体の基材としては、アルミニウム、ニッケル等の金属、金属蒸着フィルム等を用いることができ、これらはドラム状、シート状又はベルト状の形態で作製される。
【0040】
電子写真感光体への適用は、まず本発明の製造方法で得られるα型チタニルフタロシアニンを電荷発生材料[CG材料(CGM)]として含む電荷発生層を導電性支持体上に薄膜状に形成する。この際の電荷発生層は、チタニルフタロシアニンを導電性支持体上に蒸着させるか、結着樹脂を溶剤に溶解した溶液に電荷発生材料を分散させた塗布液を調製して、それを支持体上に塗布することによって形成する。
【0041】
チタニルフタロシアニンを分散させて塗布液を得る方法としては、ボールミル、サンドミル、ペイントシェイカー等を用いる通常の分散法を採用することができる。
【0042】
電荷発生層の塗布手段としては、特に限定されることはなく、例えば、バーコーター、ディップコーター、スピンコーター、ローラーコーター等を適宜使用することができる。塗布された層の乾燥には、例えば、30〜200℃の温度で5分〜5時間、静止又は送風下で行うことができる。
【0043】
塗布液用の溶剤としては、チタニルフタロシアニンを溶解することなく、均一に分散させ、必要に応じて用いられる結着樹脂を溶解するものであれば特に限定されることはなく、公知の有機溶媒を用いることができる。例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール系溶剤;トルエン、キシレン、テトラリン等の芳香族系溶剤;ジクロロメタン、クロロホルム、トリクロロエチレン、四塩化炭素等のハロゲン系溶剤;酢酸エチル、酢酸プロピル等のエステル系溶剤;エチレングリコールモノエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤;シクロヘキサノン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0044】
結着樹脂は、広範な絶縁性樹脂から選択することができる。好ましい樹脂としては、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリエステル、ポリアミド等の縮合系樹脂;ポリスチレン、スチレン−アクリル共重合体、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコール、ポリアクリルニトリル、ポリアクリル−ブタジエン共重合体、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体等の付加重合体;ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリビニルアントラセン等の絶縁性樹脂;ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。これらは適宜混合して用いることができる。なお、本発明に用いることができる結着樹脂は上記に限定されるものではない。
【0045】
上記結着樹脂の使用量は、電荷発生材料に対して、0.1〜3重量比であり、3重量比よりも大であると、電荷発生層における電荷発生材料濃度が小さくなり感度が悪くなる。電荷発生層の膜厚は、10μm以下であり、実用的に、0.05〜5.0μmである。
【0046】
次に電荷発生層の上部に、電荷輸送材料[CT材料(CTM)]を含む電荷輸送層を薄膜状に形成する。この薄膜形成法としては、電荷発生層と同様な塗布法が用いられ、電荷輸送材料を、必要に応じて結着樹脂と共に溶剤に溶解し、電荷発生層の上部に均一に塗布し、その後乾燥させればよい。
【0047】
電荷輸送材料としては、オキサジアゾール系、ピラゾリン系、ピラゾール系、ヒドラゾン系、トリアジン系、キナゾリン系、トリアリールアミン系、メタフェニレンジアミン系、カルバゾール系、インドール系、イミダゾール系、スチリル系、スチリルトリアリールアミン系、ブタジエン系等の公知の化合物が使用できる。
【0048】
電荷輸送層を形成する結着樹脂及び溶剤としては、前記電荷発生層に使用されるものと同様なものが使用できる。
【0049】
上記結着樹脂の使用量は、電荷輸送材料に対して、0.1〜5重量比であり、5重量比よりも大であると、電荷輸送層における電荷輸送材料濃度が小さくなり感度が悪くなる。電荷輸送層の膜厚は、一般に、5〜100μmであり、100μmより大きくなると電荷の輸送により多くの時間を要するようになり、又、電荷が捕獲される確率が大きくなり、感度の低下の原因となるため好ましくない。
【実施例】
【0050】
以下本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0051】
実施例1
(1−A)原料α型チタニルフタロシアニン(α型結晶変態を有する粗合成チタニルフタロシアニン)の合成工程
o−フタロニトリル100g(0.780mol)、キノリン1Lを2Lセパラブルフラスコに仕込み、窒素雰囲気下で撹拌し、四塩化チタン84.98g(0.448mol)を加えた。その後、180℃に昇温し、その温度で6時間加熱撹拌した。反応終了後、系内の温度が150℃に低下すると、熱時ろ過を行い、熱DMF(110℃)1Lで振り掛け洗浄した。
得られたウェットケーキをDMF640mLに加え、130℃で2時間分散し、この温度のまま熱時ろ過後、DMF1Lで振り掛け洗浄した。この操作を4回繰り返した後、メタノール1Lで振り掛け洗浄した。得られたウェットケーキを40℃で減圧乾燥し、青色固体を得た。収量:86.3g、収率:76.8%。
この粗合成チタニルフタロシアニンのX線回折チャートを図1に示す。
【0052】
(1−B)アシッドペースティング処理工程
濃硫酸900gを氷−メタノール浴で3℃以下に冷却し、上記で得られた青色固体30g(52mmol)を5℃以下に保ちながら投入した。5℃以下で1時間撹拌後、水9000mL、氷1000mLに5℃を超えないように反応混合物を滴下した。室温で2時間分散後、静置、ろ過を行った。得られたケーキを水6000mL中に加え、室温で1時間分散後、静置し、ろ過した。前操作を3回繰り返した。得られたケーキを水5000mL中に投入し、室温で1時間分散後、静置し、ろ過した。前操作を2回繰り返した後、イオン交換水2000mLで振り掛け洗浄し、pH>6.0、電導度<20μSを満たしたところでウェットケーキを回収した。このウェットケーキを乾燥・粉砕し、青色固体を得た。この青色固体は、CuKα線によるX線回折スペクトルにおいてブラッグ角(2θ±0.2°)の7.0°、15.6°、23.5°、28.4°にピークを有する低結晶性チタニルフタロシアニンであった。収量:26.0g。
低結晶性チタニルフタロシアニンのX線回折チャートを図2に示す。
【0053】
(1−C)結晶変換工程
(1−B)で得た低結晶性チタニルフタロシアニンの青色粉体12.0gをDMF200mL、0.5mmφガラスビーズ200mLを500mLビーカーに仕込み、39時間室温分散(25℃)した。ビーズを分離し、分散体を減圧ろ過した。ケーキをDMF200mL、メタノール200mLで振りかけ洗浄後、得られたケーキを減圧下、70℃で24時間乾燥した。得られた固体を150μm孔径ふるいで粉砕し、CuKα線によるX線回折スペクトルにおいてブラッグ角(2θ±0.2°)の7.5°、10.2°、12.6°、13.2°、15.1°、16.3°、17.3°、18.3°、22.5°、24.2°、25.3°、28.6°にピークを有するα型結晶変態のチタニルフタロシアニンを得た。収量11.0g。
実施例1で得られたチタニルフタロシアニンのX線回折チャートを図3に示す。
【0054】
実施例2
(2−A)原料α型チタニルフタロシアニンの合成工程
実施例1の(1−A)と同様の操作を40倍の仕込み量で行い、青色固体を得た。収量:2850g
【0055】
(2−B)アシッドペースティング処理工程
実施例1の(1−B)と同様の操作を40倍の仕込み量でアシッドペースティング処理を行い、同様に乾燥・粉砕を行い、低結晶性チタニルフタロシアニンを得た。
【0056】
(2−C)結晶変換工程
(2−B)で得た低結晶性チタニルフタロシアニンの青色粉体448.0gをDMF7.5L、0.5mmφガラスビーズ8.2Lを20Lホーロー釜に仕込み、66時間室温分散(25℃)した。ビーズを分離し、得られた分散体を減圧ろ過した。ケーキをDMF4.0L、メタノール4.0Lで振りかけ洗浄後、得られたケーキを減圧下、70℃で24時間乾燥した。固体を150μm孔径ふるいで粉砕し、α型結晶変態のチタニルフタロシアニンを得た。収量429.3g。
実施例2で得られたチタニルフタロシアニンのX線回折チャートは図3と同等であった。
【0057】
比較例1
比較例1では、実施例1に従い、実施例1の(1―C)の条件にて室温分散を120℃加熱分散に変更したこと以外は実施例1と同様に操作を行った。この結果、結晶性の高いα型チタニルフタロシアニンを得た。収量:10.8g。
比較例1で得られたチタニルフタロシアニンのX線回折チャートを図4に示す。
【0058】
比較例2
比較例2では、実施例1に従い、実施例1の(1−C)における条件で0.5mmφガラスビーズを加えないこと以外は、実施例1と同様に操作を行った。この結果、α型および一部C型との混晶であるチタニルフタロシアニンを得た。収量:11.7g。
比較例2で得られたチタニルフタロシアニンのX線回折スペクトルを図5に示す。
【0059】
比較例3
比較例3では、実施例1に従い、実施例1の(1−C)における条件で0.5mmφガラスビーズを加えず、120℃で分散したこと以外は実施例1と同様に操作を行った。この結果、C型および一部α型との混晶であるチタニルフタロシアニンを得た。収量:11.4g。
比較例3で得られたチタニルフタロシアニンのX線回折スペクトルを図6に示す。
【0060】
比較例4
比較例4では、実施例1に従い、実施例1の(1−C)における条件で(1−B)で得られた低結晶性チタニルフタロシアニンの含水ケーキを乾燥させなかったこと以外は実施例1と同様に操作を行った。この結果、C型および一部α型との混晶であるチタニルフタロシアニンを得た。収量:12.2g。
比較例4で得られたチタニルフタロシアニンのX線回折スペクトルを図7に示す。
【0061】
比較例5
比較例5では、実施例1に従い、実施例1の(1−C)における条件で0.5mmφガラスビーズを加えず、更に(1−B)で得られた低結晶性チタニルフタロシアニンの含水ケーキを乾燥させなかったこと以外は実施例1と同様に操作を行った。この結果、CuKα線によるX線回折スペクトルにおいてブラッグ角(2θ±0.2°)の6.9°、15.6°、23.5°、25.4°、28.6°にピークを有するC型チタニルフタロシアニンを得た。収量:11.8g。
比較例5で得られたチタニルフタロシアニンのX線回折スペクトルを図8に示す。
【0062】
比較例6
比較例6では、実施例1に従い、実施例1の(1−C)における条件で0.5mmφガラスビーズを加えず、(1−B)で得られた低結晶性チタニルフタロシアニンの含水ケーキを乾燥させず、また、120℃で分散を行った。変換後の後処理は実施例1と同様の操作を行った。この結果、CuKα線によるX線回折スペクトルにおいてブラッグ角(2θ±0.2°)の6.9°、15.6°、23.5°、25.4°、28.6°にピークを有するC型チタニルフタロシアニンを得た。収量:11.8g。
比較例6で得られたチタニルフタロシアニンのX線回折スペクトルを図9に示す。
【0063】
以下の表1に実施例1〜2および比較例1〜6の結晶変換条件並びにそれにより得られたチタニルフタロシアニンの結晶型(結晶変態)を示す。
【表1】

【0064】
上記の表から明らかなように、α型チタニルフタロシアニンを得ることができる条件は、実施例1および2並びに比較例1であるが、結晶化度(結晶性)の点で実施例1および2と、比較例1との間に相違があった。また、比較例2〜4の条件ではα型チタニルフタロシアニンは単独で得られず、C型結晶との混晶であった。更に、比較例5および6ではα型チタニルフタロシアニンは得られずに、C型結晶が単独で得られた。
【0065】
次に、本発明の製造方法により得られたα型チタニルフタロシアニンを用いた電子写真感光体の製造方法について具体例を挙げて説明する。なお、本発明の電子写真感光体がこれらの実施例に限定されることはない。
【0066】
実施例3
実施例1で得たチタニルフタロシアニン結晶0.2gとポリビニルブチラール樹脂(商品名:エスレックBH−3、積水化学工業社製)0.2g、3mmφガラスビーズ50g、シクロヘキサノン59.6gを広口瓶に入れ、ペイントシェイカーで3時間ミリングし、感光層形成用塗布液を調整した。これをアルミニウム板上に膜厚が0.5μmになるようバーコーターを用いて製膜し、風乾させて電荷発生層を形成した。
【0067】
次に電荷輸送材料としてp−(N,N'−ジフェニルアミノ)ベンズアルデヒド−N'−メチル−N'−フェニルヒドラジン(富士写真フィルム社製、CT−501)4.5g、ポリカーボネート樹脂(帝人社製、パンライトL−1250)4.5g及び塩化メチレン51gを広口瓶に入れ、超音波分散により均一な溶液を調整した。これを電荷発生層の上にバーコーターを用いて塗布し、80℃で3時間乾燥して、膜厚60μmの電荷輸送層を形成した有機感光体(片)を作成した。
【0068】
実施例4
実施例3で用いた実施例1で得たチタニルフタロシアニン結晶を実施例2で得たチタニルフタロシアニン結晶に変えた以外は実施例3と同様に有機感光体を作成した。
【0069】
比較例8
実施例3で用いた実施例1で得たチタニルフタロシアニン結晶を比較例1で得たチタニルフタロシアニン結晶に変えた以外は実施例3と同様に有機感光体を作成した。
【0070】
上記実施例3および4、比較例8において作成した感光体につき、感光特性の測定を行った。測定は静電気試験測定装置ペーパーアナライザーEPA−8200(川口電気社製)を用い、まず、−0.8kVでSTAT3モードにて帯電し、2秒間暗所放置後、5.0luxの白色光を10秒間照射して、帯電電位(Vmax)(V)、暗減衰率(DDR)(%)、残留電位(Vre.)(V)、半減露光量感度E1/2(lux・s)を測定し、評価した。以上の測定結果を表2にまとめた。
【0071】
暗減衰率(DDR)(%)の測定は、帯電直後の表面電位(V=Vmax)及び2秒間暗所放置後の表面電位(V)を測定し、下記式:
暗減衰率(%)=100×(V−V)/V
より求めた。
【0072】
評価
表2において、帯電性評価については帯電電位(Vmax)の絶対値が600V以上で、且つ暗減衰率が一桁である良好な値を示した場合を○とし、それ以外の悪いものを×とした。また、感度評価については、半減露光量感度E1/2(lux・s)が2未満である良好な値を示したものを○、2以上の悪いものを×とした。
【0073】
【表2】

【0074】
表2から、本発明の方法により製造されたα型チタニルフタロシアニンを電荷発生材料として用いた電子写真感光体における感光特性は、実施例1および2のいずれのスケールで製造されたチタニルフタロシアニンを用いても初期帯電量Vmaxの絶対値が大きく、暗減衰率DDRも良好であり、感度E1/2も良好であった。一方、比較例8の電子写真感光体は、実施例3および4の電子写真感光体と比べて、Vmaxの絶対値が小さく、DDRは約2倍であり、半減露光量感度E1/2も1.5倍以上であった。以上より、本発明の方法で製造されたα型チタニルフタロシアニンは、従来の熱処理を行って製造されたチタニルフタロシアニン(比較例1)と比較して、格段に優れた感光特性を有していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、α型チタニルフタロシアニンを温和な条件下で簡便に製造する方法を提供することができる。また、本発明の製造方法は、工業的なスケールでも安定して実施することができる。更に、本発明の方法により製造されたα型チタニルフタロシアニンは、従来の熱処理を行って製造されたα型チタニルフタロシアニンと比較して、感光特性が格段に優れているので、電荷発生材料として有用であり、優れた感光特性を有する電子写真感光体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】α型結晶変態を有する粗合成チタニルフタロシアニンのX線回折スペクトルである。
【図2】アシッドペースティング処理後の低結晶性チタニルフタロシアニンのX線回折スペクトルである。
【図3】本発明の方法により製造されたα型チタニルフタロシアニン(実施例1)のX線回折スペクトルである。
【図4】比較例1で得られたチタニルフタロシアニンのX線回折スペクトルである(α型)。
【図5】比較例2で得られたチタニルフタロシアニンのX線回折スペクトルである(α型とC型の混晶)。
【図6】比較例3で得られたチタニルフタロシアニンのX線回折スペクトルである(α型とC型の混晶)。
【図7】比較例4で得られたチタニルフタロシアニンのX線回折スペクトルである(α型とC型の混晶)。
【図8】比較例5で得られたチタニルフタロシアニンのX線回折スペクトルである(C型)。
【図9】比較例6で得られたチタニルフタロシアニンのX線回折スペクトルである(C型)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CuKα線によるX線回折スペクトルにおいてブラッグ角(2θ±0.2°)の7.5°、10.2°、12.6°、13.2°、15.1°、16.3°、17.3°、18.3°、22.5°、24.2°、25.3°、28.6°にピークを有するα型チタニルフタロシアニンの製造方法であって、
(I)α型結晶変態を有する粗合成チタニルフタロシアニンをアシッドペースティング処理し、濾過水洗して含水ウェットケーキを得て、その含水ウェットケーキを乾燥・粉砕し、低結晶性チタニルフタロシアニンを得る工程;
(II)前工程で得られた低結晶性チタニルフタロシアニンに分散助剤を加え、DMF中、室温分散にて結晶変態を調製する工程;および
(III)濾過洗浄し、減圧乾燥する工程;
を少なくとも包含する下記式(1)で表されるα型チタニルフタロシアニンの製造方法。
【化1】

【請求項2】
前記低結晶性チタニルフタロシアニンがCuKα線によるX線回折スペクトルにおいてブラッグ角(2θ±0.2°)の7.0°、15.6°、23.5°、28.4°にピークを有する、請求項1記載のα型チタニルフタロシアニンの製造方法。
【請求項3】
電荷発生材料として請求項1または2記載の製造方法で得られるα型チタニルフタロシアニンを用いる電子写真感光体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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