説明

いびき/環境騒音の軽減、ハンズフリー通信、ならびに非侵襲的な監視および記録のための電子まくら

コントローラユニットに電気的に接続された少なくとも1つのエラーマイクロホンおよび少なくとも1つのスピーカを内蔵しており、さらに電源も備えているまくらユニットと、前記コントローラユニットに電気的に接続された少なくとも1つの基準マイクロホンを備えている基準検出ユニットとを備えており、前記コントローラユニットが、前記エラーマイクロホン、スピーカ、および基準マイクロホンの間の相互作用を制御するためのアルゴリズムを含んでいる電子まくら。不要な騒音を基準マイクロホンで検出し、不要な騒音を分析し、まくらにおいて不要な騒音に対応する逆騒音を生成し、不要な騒音を低減することによって、不要な騒音を低減する方法。ハンズフリー通信、睡眠障害の記録および監視、緊急事態へのリアルタイム応答の提供、およびオーディオサウンドの再生の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願である国際特許出願は、2008年12月7日付の米国特許出願第11/952,250号の優先権を主張し、その内容は本願の一部を構成する。
【0002】
本発明は、電子まくらに関する。とくには、本発明は、能動騒音制御、反響音の打ち消し、ならびに記録および監視の装置を備える電子まくらに関する。
【背景技術】
【0003】
いびきは、睡眠時に上気道の閉塞に起因して組織構造が振動することによって生じる音響現象であり、現代社会における重要な問題である。U.S. National Commission on Sleep Disorders Researchは、7,400万人の米国人が、毎日いびきをかいており、いびきに妨げられる米国人の38%が、昼間の疲労に悩まされていると推定している。気に障る間欠的といういびきの性質が、いびきをかく者の隣で眠る者の睡眠を妨げ、ストレスおよび社会的迷惑を引き起こす。睡眠の妨げは、いびきをかく者および隣で眠る者の過度の昼間の眠気に結び付いている。これは、仕事環境において生産性の損失をもたらす可能性があり、職業上の事故につながる可能性があり、あるいは自動車を安全に運転する能力を損なう可能性すらある。
【0004】
航空および地上の交通の騒音公害がますます増え続けるにつれて、騒音の低減が、生活の質の維持および向上のために、社会にとっての課題であり続けている。高密度での居住が進むにつれて、交通騒音源に曝される人口が増加し、コストの制約が、自動車および建物により軽量な材料を使用する傾向につながっており、このことが環境騒音の増加につながっている。都市地域において屋内の騒音公害を軽減するための効果的な設計のための技術が欠けている。
【0005】
低周波のいびき/環境騒音については、耳覆いまたは耳栓などといった受動的な方法は、効果的でなく、あるいは睡眠時の着用が不快である。いくつかの騒音打ち消し方法が、能動騒音制御(ACN)を使用していびきの騒音を低減するために開発されている。そのようなANCシステムは、低周波の一次騒音(不要な騒音)を減衰させるために、大きさが同じであるが位相が反対である二次逆騒音を使用する重ね合わせの原理にもとづいている。ANCによって、逆騒音および不要な騒音の両者が打ち消される。騒音源および環境の特性が時間変化するため、大部分の実用的なANCシステムは、必然的に適応型である。音響ANCは、室内の既存の設備および構成を変更することがない低周波の騒音の低減に大いに応用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5,844,996号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Sen M. Kuo and Dennis R. Morgan, "Active Noise Control: A Tutorial Review,"Proceedings of The IEEE, vol. 87, no. 6, pp. 943-973, June 1999.
【非特許文献2】Sen M. Kuo and Rakesh Gireddy, "Real-Time Experiment of Snore Active Noise Control," in proceeding of IEEE Int. Conf. On Control Applications, Oct. 2007, pp.1342-1346.
【非特許文献3】Sreeram Chakravarthy and Sen M. Kuo, "Application of Active Noise Control for Reducing Snore," in Proc. IEEE ICASSP, May 2006, pp. V. 305-308.
【非特許文献4】Sen M. Kuo, Bob H. Lee and Wenshun Tian, Real-Time Digital Signal Processing, 2nd-Ed., Section 10.6, "Acoustic Echo Cancellers," Wiley 2006.
【0008】
特許文献1(Enzmannらの米国特許第5,844,996号)が、いびきなど、人間の気道からの無意識の騒音を打ち消すためのシステムを開示している。スピーカが、騒音の打ち消しをもたらすためにベッドのヘッドボードに取り付けられ、マイクロホンが、いびきをかく者からの騒音を検出するために、いびきをかく者の頭部の付近に取り付けられる。いびきをかかずに眠る者は、自身の耳の付近にパッチの形態のエラーマイクロホンを装着しなければならない。睡眠時にそのようなマイクロホンを着用することは、いびきをかかずに眠る者にとって、不快かつ不便である。さらに、この設計では、ベッドがヘッドボードを有する必要があり、ユーザにとって追加の出費である。また、いびきをかかずに眠る者からのスピーカの距離ゆえに、より大量の騒音の打ち消しが必要であり、すなわちスピーカによって生成される騒音が、ベッドで眠る者へと達するために充分に大きくなければならない。その結果、スピーカから基準マイクロホンへの音響フィードバックの音量も大きくなる。スピーカをいびきをかかずに眠る者の近くに配置することによって、必要とされる打ち消し用騒音の音量を小さくすることが好都合であると考えられる。
【0009】
非特許文献2(KuoらのIEEE Int. Conf. on Control Applications、2007年10月、1342〜1346頁)および非特許文献3(ChakravarthyらのProc. IEEE ICASSP、2006年5月、305〜308頁)の文献が、ANC技法にもとづいていびきをかく者の隣で眠る者の頭部におけるいびきの騒音レベルを低減するためのシステムを開示している。スピーカおよびエラーマイクロホンが、ベッドのヘッドボードに取り付けられ、睡眠者がマイクロホンを着用する必要をなくしている。しかしながら、やはりこのシステムにおいても、ベッドがヘッドボードを有する必要があり、このシステムは、追加の設置コストを伴うヘッドボードの実際の変更を必要とする。これは、すべてのヘッドボードが容易に変更可能というわけではないという理由でも、不都合となりうる。また、ひとたび取り付けられると、システムが審美的に喜ばしい見た目とはいえず、すべての設備に囲まれて眠ろうとする者の一部にとって、恐ろしいと感じられる可能性すらある。さらに、やはりスピーカから基準マイクロホンへの音響フィードバックの音量が大きくなる。
【0010】
したがって、いびきの騒音を低減するためのシステムであって、審美的に心地良く、ユーザにとって便利かつ移動可能であり、騒音の軽減を達成するために過度の騒音を必要としないシステムについて、ニーズが存在している。
【0011】
スピーカホンおよびハンズフリーホンは、とくには電話機を操作することや、電話機を耳へと保持することができない可能性がある障害者または入院患者にとって、ハンズフリー通信の利便性を提供するための重要な設備となっている。したがって、ベッドに横たわっているときや、椅子に座っているときに使用するためのハンズフリーの通信装置を有することが、好都合であると考えられる。
【0012】
睡眠障害を抱える多数の人々が、特定の障害を突き止めて治療を求めることができるよう、睡眠検査室に出向いている。多くの場合に、自身の自宅とは異なる環境に身を置くことで、睡眠が乱れる可能性がある。自宅で行うことができる睡眠障害の非侵襲的検出を提供することが、好都合であると考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、まくらユニット、コントローラユニット、および検出ユニットを備える電子まくらを提供する。まくらユニットが、コントローラユニットに電気的に接続された少なくとも1つのエラーマイクロホンおよび少なくとも1つのスピーカを内蔵しており、基準検出ユニットが、コントローラユニットに電気的に接続された少なくとも1つの基準マイクロホンを備えている。コントローラユニットが、電源と、エラーマイクロホン、スピーカ、および基準マイクロホンの間の相互作用を制御するためのアルゴリズムとを備えている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、不要な騒音の能動騒音制御のためのまくら機構も含む。
【0015】
さらに本発明は、不要な騒音を基準マイクロホンで検出し、不要な騒音を分析し、まくらにおいて不要な騒音に対応する逆騒音を生成し、不要な騒音を低減することによって、不要な騒音を低減する方法を含む。
【0016】
本発明は、電話インターフェイスに接続されたまくらを介して音波を送信および受信することによるハンズフリー通信の方法を含む。
【0017】
本発明は、まくらに内蔵されたマイクロホンで睡眠者が発する音を記録することによって睡眠障害を記録および監視する方法を含む。
【0018】
本発明は、緊急事態に対してリアルタイムの応答をもたらす方法であって、まくらの基準マイクロホンで騒音を検出するステップ、騒音を分析するステップ、および分析された騒音によって示される緊急事態へのリアルタイムの応答をもたらすステップを含んでいる方法も含む。
【0019】
さらに本発明は、上述のまくらにおいてオーディオサウンドを再生する方法であって、まくらユニットのスピーカによってオーディオサウンドを再生するステップを含んでいる方法を含む。
【図面の簡単な説明】
【0020】
本発明の他の利点が、添付の図面に関連して検討される以下の詳細な説明を参照することによってよりよく理解されることで、容易に理解されるであろう。
【0021】
【図1】まくらユニット、コントローラユニット、および基準検出ユニットを備えている電子まくらのブロック図である。
【図2】電子まくらおよびまくらユニットの写真である。
【図3】コントローラユニットのブロック図である。
【図4】基準検出ユニットを備える電子まくらの図である。
【図5】1×2×2のFXLMSアルゴリズムを有する適応FIRフィルタを使用するマルチチャネルフィードフォワードANCシステムの図である。
【図6】部屋のスピーカホンによって生成される反響音の図である。
【図7】反響音打ち消し装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
一般に、本発明は、図面に10で示されている電子まくらである。電子まくら10は、図1に大まかに示されている3つの主たるユニットを備えており、すなわち、コントローラユニット14に電気的に接続されたまくらユニット12と、基準検出ユニット16とを備えている。電子まくら10を、本明細書において詳述されるさまざまな用途に使用することができ、好ましくはいびきの低減などのANCの用途に使用することができる。電子まくら10は、可搬であってよく、従来技術のANC装置と異なり、さまざまな寝室で使用することができ、ベッドのさまざまな側で使用することができ、ユーザが旅行時にもまくらの利益を受けることができる。
【0023】
まくらユニット12は、より一般的には、さまざまなサイズのまくらカバーに適合するために望まれる任意のサイズであってよいまくら18であり、したがってまくら18は、任意のベッドに適合することができる。あるいは、まくら18は、電子まくら10の用途に応じて、椅子のヘッドレストの形態であってよい。例えば、まくら18は、ハンズフリー通信に使用されるときの家庭の椅子(肘掛け椅子)、航空機の座席、列車の座席、または自動車の座席のヘッドレストであってよい。まくら18は、上述のように可搬であってよく、椅子へと取り付けられるように設計でき、あるいはヘッドレストとして椅子へと直接的に作り付けられてもよい。好ましくは、まくら18は、メモリ発泡体で製作されるが、別の充てん材も使用可能である。さらに、まくら18は、図2に示されるとおり、コントローラユニット14に電気的に接続される少なくとも1つのエラーマイクロホン20および少なくとも1つのスピーカ22を内蔵している。
【0024】
好ましくは、2つのエラーマイクロホン20が、まくら18に内蔵されて存在し、図2に示されるとおり、各々がユーザ30の耳28の近くになるように配置されている。エラーマイクロホン20は、ユーザ30が生成する種々の信号または騒音を検出し、それらの信号を、処理のためのコントローラユニット14へと中継する。例えば、エラーマイクロホン20は、電子まくら10がハンズフリーの通信装置として使用される場合に、ユーザからのスピーチ音を検出することができる。また、エラーマイクロホン20は、電子まくら10がANC用に使用される場合には、いびきまたは他の環境騒音など、ユーザ30の耳に入る騒音を検出することができる。ANCによって生み出される静穏領域は、エラーマイクロホン20に中心を有する。エラーマイクロホン20を、おおむねまくら18の中部3分の1の辺りのユーザ30の耳28の下方のまくら18の内部に配置することで、ユーザ30が、従来技術よりも騒音軽減の程度が大きい静穏領域の中心に近く位置することが保証される。
【0025】
好ましくは、2つのスピーカ22が、まくら18に内蔵されて存在し、図2に示されるとおり、各々がユーザ30の耳28に比較的近く、まくら18の上部裏側の角26に位置している。電子まくら10の所望の機能に応じて、より多数またはより少数のスピーカ22を使用することができる。スピーカ22は、種々の音を生成するように機能する。例えば、スピーカ22は、電子まくら10がハンズフリーの通信装置として機能する場合に、スピーチ音を生成することができ、スピーカ22は、電子まくら10が医療用の監視装置として機能する場合に、警報音を生成することができ、スピーカ22は、不要な騒音を軽減するために逆騒音を生成することができ、あるいはスピーカ22は、娯楽または残余の騒音の遮蔽のために、オーディオ信号を生成することができる。好ましくは、スピーカ22は、ユーザ30がまくら18にて休む場合に知覚できないように充分に小さい。
【0026】
スピーカ22をまくら18の内部でユーザの耳28に比較的近く配置することには、いくつかの利点が存在する。スピーカ22によって生成される音および逆騒音のレベルが、スピーカがベッドのヘッドボードにおいてユーザの上方に配置される従来技術の装置に比べて、低減される。より低い騒音レベルは、電力の消費も少なくし、スピーカ22から基準検出ユニット16への不要な音響フィードバックも少なくする。
【0027】
コントローラユニット14は、図3に示されるとおり、信号の送信および受信ならびに信号の処理および分析のための信号処理ユニットである。コントローラユニット14は、これらに限られるわけではないが、電源、増幅器、メモリを有するコンピュータプロセッサ、および入力/出力チャネルなど、種々の処理コンポーネントを備えている。コントローラユニット14を、随意により、まくら18に内蔵することができ、あるいはまくら18の外部に配置することができる。
【0028】
コントローラユニット14は、電源24をさらに備えている。電源24は、壁のコンセントへと差し込まれるコードなどのACや、充電式の電池パックなどの電池電力であってよい。
【0029】
少なくとも1つの入力チャネル32が存在する。入力チャネル32の数は、まくらユニット12のエラーマイクロホン20および基準検出ユニット16の基準マイクロホン52の総数に等しい。入力チャネル32は、アナログであり、信号調整回路、適切な利得を有するプリアンプ34、アンチエイリアス低域通過フィルタ36、およびアナログ−デジタル変換器(ADC)38を備えている。入力チャネル32は、エラーマイクロホン20および基準マイクロホン52から信号(または、騒音)を受信する。
【0030】
少なくとも1つの出力チャネル40が存在する。出力チャネル40の数は、まくらユニット12のスピーカ22の数に等しい。出力チャネル40は、アナログであり、デジタル−アナログ変換器(DAC)42、平滑化(再生)低域通過フィルタ44、およびスピーカ22を駆動するためのパワーアンプ46を備えている。出力チャネル40は、音を生じさせるためにスピーカ22へと信号を送信する。
【0031】
デジタル信号処理ユニット(DSP)48が、通常は、メモリを有するプロセッサを備えている。DSPは、入力チャネル32から信号を受信し、出力チャネル40へと信号を送信する。また、DSPは、これらに限られるわけではないが、娯楽用のオーディオプレーヤ、音を記録するためのデジタル記憶装置、およびハンズフリー通信のための電話インターフェイスなど、他のデジタルシステム50とのやり取り(すなわち、入力および出力)を行うこともできる。
【0032】
また、DSPは、電子まくら10を動作させるためのアルゴリズムを含んでいる。一般に、アルゴリズムが、エラーマイクロホン20、スピーカ22、および基準マイクロホン52の間の相互作用を制御する。好ましくは、アルゴリズムは、(a)騒音低減のためのマルチチャンネル広帯域フィードフォワード能動騒音制御、(b)ハンズフリー通信のための適応型の反響音打ち消し、(c)無音期間の録音を避けるための信号検出および非侵襲的検出のための音認識、あるいは(d)能動騒音制御および反響音打ち消しの統合のうちの1つである。これらのアルゴリズムの各々を、実施例においてさらに詳しく後述する。また、DSPは、マイクロホン信号を使用した非侵襲の監視ならびにユーザ30を眠りから起こすためのアラームまたは非常の状況における介護人の呼び出しなど、他の機能を備えることもできる。
【0033】
基準検出ユニット16が、少なくとも1つの基準マイクロホン52を備えている。好ましくは、基準マイクロホン52は、配置を容易にするために無線であるが、有線であってもよい。基準マイクロホン52は、低減が所望される特定の騒音を検出するために使用され、したがって、そのような音の近くに配置される。例えば、電子まくら10のユーザ30が、寝室の扉54を介して聞き取ることができる他の部屋からの騒音を軽減したいと望む場合、基準マイクロホン52を、図4に示されるように、直接的に寝室の扉54に配置することができる。基準マイクロホン52を、いびきの騒音を軽減するために、いびきをかく者のまくら、いびきをかく者の毛布、いびきをかく者の上方の壁、または任意の他の適切な場所など、いびきをかく者の近くに配置することができる。まくら18がヘッドレストである場合、基準マイクロホン52を、任意の騒音源の近くに配置することができ、あるいは航空機または自動車の天井など、ユーザ30のおおむね周囲に配置することができる。
【0034】
電子まくら10を、アルゴリズムと連動してさまざまな方法に使用することができる。例えば、電子まくらを、基準マイクロホンで不要な騒音を検出し、不要な騒音を分析し、不要な騒音に対応する逆騒音をまくらにおいて生成して、不要な損音を軽減することによる不要な騒音の軽減方法において使用することができる。やはり、基準マイクロホン52は、軽減すべき騒音が位置する任意の場所に配置される。これらの基準マイクロホン52が、不要な騒音を検出し、エラーマイクロホン20が、ユーザ30の位置における不要な騒音のレベルを検出し、両方のマイクロホン52および20が、コントローラユニット14の入力チャネル32へと信号を送信し、信号がDSPのアルゴリズムによって分析され、信号が出力チャネル40からスピーカ22へと送信される。その結果、スピーカ22が、不要な騒音を軽減する逆騒音を生成する。この方法においては、実施例1に記載されるように、騒音を低減するためのマルチチャンネル広帯域フィードフォワード能動騒音制御のアルゴリズムが、電子まくら10を制御するために使用される。
【0035】
また、電子まくら10を、電話インターフェイスに関連してまくらを介して音波を送信および受信することによって、ハンズフリーの通信方法において使用することもできる。この方法は、基本的には上述のとおりに動作するが、エラーマイクロホン20が、スピーチを検出するために使用され、スピーカが、ユーザ30の通話相手のスピーチを伝えるために使用される。この方法においては、実施例2に記載されるように、ハンズフリー通信のための適応型の反響音打ち消しアルゴリズムが、電子まくら10を制御するために使用され、このアルゴリズムを、実施例4に記載されるように能動騒音制御に組み合わせることができる。
【0036】
電子まくらを、まくらに内蔵されたマイクロホンによって睡眠者の発する騒音を記録することによって、睡眠障害を記録および監視する方法に使用することができる。やはり、この方法も、基本的には上述のように機能するが、エラーマイクロホン20が、睡眠障害を診断すべくユーザ30の音を記録するために使用される。この方法においては、実施例3に記載されるように、無音期間の録音を避けるための信号検出および非侵襲的検出のための音認識のアルゴリズムが、電子まくら10を制御するために使用される。
【0037】
さらに電子まくらを、まくらの基準マイクロホンによって騒音を検出し、騒音を分析し、分析した騒音によって示される緊急事態に対してリアルタイムの応答をもたらすことによって、緊急事態に対してリアルタイムの応答をもたらす方法に使用することができる。この方法は、基本的には、上述のとおりに実行される。検出される特定の騒音が、これらに限られるわけではないが、呼吸の停止、極度に荒い呼吸、閉塞音、および助けを求める叫びなど、考えられる非常の状態として分類される。そのような騒音の検出が、スピーカ22によって騒音を発生させてユーザ30を起こし、あるいは介護人または緊急要員に緊急事態を通知するなど、リアルタイムの応答作用の実行を生じさせる。通知は、電子まくら10のハンズフリー通信の特徴と協力して行うことができ、すなわち電話回線を介してメッセージを送信することによって行うことができ、あるいは介護人へと送信される任意の他の警報信号によって行うことができる。
【0038】
電子まくらを、まくらユニット12のスピーカ22によってオーディオサウンドを再生することによって、オーディオサウンドの再生方法に使用することができる。オーディオサウンドは、癒しの音楽または自然の音など、ユーザ30が聴きたいと思う任意の音であってよい。また、オーディオサウンドは、テレビ、ステレオ、娯楽システム、またはコンピュータからの音であってもよい。この方法を、オーディオサウンドがいびきおよび環境騒音を遮蔽するため、不要な騒音を軽減するために使用することも可能である。また、スピーカ22をまくらユニット12の内部に埋め込むことによって、オーディオサウンドを再生するために、より小さい音量を使用することができ、したがって隣で眠る別の者との干渉を少なくできる。
【0039】
さらに、本発明を、以下の実験による実施例を参照することによって詳しく説明する。これらの実施例は、あくまでも例示を目的として提示され、とくに記載されない限りは、本発明を限定しようとするものではない。すなわち、本発明を、決して以下の実施例に限られると解釈してはならず、むしろ本明細書に提示の教示の結果として明らかになるあらゆるすべての変種を包含すると理解しなければならない。
【実施例1】
【0040】
マルチチャンネル広帯域フィードフォワード能動騒音制御
マルチチャンネルフィードフォワードANCシステムは、1つの基準マイクロホン、2つのスピーカ、および2つのエラーマイクロホンを別個独立に使用する。1×2×2のFXLMSアルゴリズム[非特許文献1]を有する適応FIRフィルタを使用するマルチチャネルANCシステムが、図5に示されている。基準信号x(n)が、基準検出ユニットの基準マイクロホンによって検出される。2つのエラーマイクロホン(まくらユニットに配置)が、エラー信号e(n)およびe(n)を取得し、したがってシステムが、睡眠者の耳の近くに位置するエラーマイクロホンを中心とする2つの別個の静穏領域を形成することができる。ANCアルゴリズムが、2つの適応フィルタW(z)およびW(z)を使用し、2つの別個独立のスピーカ(やはり、まくらユニットの内部に埋め込まれている)を駆動するための2つの逆いびきy(n)およびy(n)を生成する。図5において、



および

が、[非特許文献1]に記載のオンラインまたはオフラインの両方の二次経路モデル化技法を使用する二次経路の伝達関数の推定である。
【0041】
1×2×2のFXLMSアルゴリズムは、以下のように要約され[非特許文献1]、

ここで、w(n)およびw(n)は、係数ベクトルであり、μおよびμは、それぞれ適応フィルタW(z)およびW(z)のステップサイズであり、



および

は、それぞれ二次経路の推定



および

のインパルス応答である。
【0042】
いびきのANCに1×2×2のFXLMSアルゴリズムを適用することは、[非特許文献2]および[非特許文献3]にて公開されている。しかしながら、これらの施策においては、2つのマイクロホンおよび2つのスピーカがヘッドボードに配置されており、その欠点は上述したとおりである。
【実施例2】
【0043】
適応型の反響音打ち消し
スピーカホンまたはハンズフリーホンが、とくには障害者および病院のベッドの患者のためにハンズフリーの会話の利便性を提供するため、重要な設備となっている。説明の目的のために、スピーカホンを使用する者を、近端側通話者60とし、他端に位置する者を、遠端側通話者62とする。図6において、遠端側でのスピーチが、まくらユニットの内部の1つまたは2つのスピーカによって伝えられる。残念ながら、スピーカによって再生される遠端側のスピーチは、まくらの内部のマイクロホンによっても検出され、この反響音が遠端側へと返され、遠端側の通話者を悩ませる。適応型の反響音の打ち消しの機構が、この不要な反響を軽減する。
【0044】
反響音打ち消し装置のブロック図が、図7に示されている[非特許文献4]。反響音の経路S(z)は、A/DおよびD/A変換器、平滑化およびアンチエイリアス低域通過フィルタ、スピーカのパワーアンプ、スピーカ、マイクロホン、およびマイクロホンのプリアンプの伝達関数、ならびにスピーカからマイクロホンまでの部屋の伝達関数を含んでいる。適応フィルタW(z)が、反響音の経路S(z)をモデル化し、d(n)のうちの反響音成分を打ち消すための反響の複製y(n)をもたらす。この音響経路S(z)が、まくらの内部の1つのスピーカおよび1つのマイクロホンだけが使用される場合に、能動騒音制御において二次経路と呼ばれることに、注意すべきである。これは、反響音の打ち消しを先のくだりで提示した能動騒音制御と統合するという革新を提供する。
【0045】
適応フィルタW(z)は、反響の複製を

として生成する。次いで、この複製が、マイクロホン信号d(n)から引き算され、e(n)が生成される。W(z)フィルタの係数は、正規化LMSアルゴリズムによって

として更新され、ここでμ(n)は、x(n)というパワーの推定によって正規化されたステップサイズである。
【実施例3】
【0046】
効率的な記録および非侵襲的監視のための信号処理技術
効率的な記録および非侵襲的な監視における最も重要な構成要素は、信号活性検出器(SAD)である。SADは、所望の信号の正確な分析および記録を行うことができるよう、背景騒音のみの期間を特定する。基本的な法則は、背景騒音の統計を評価することであり、背景騒音を含んでいない可能性が高い信号サンプルのみを処理および記録することが常に望まれる。これを実現するために、騒音サンプルと騒音にまみれた所望の信号サンプルとの間に存在するであろう境界を示す適応型のエネルギーしきい値が、エネルギーをサンプルごとのやり方で監視することによって確立される。
【0047】
窓長技法が、きわめて長い窓、中間的な窓、および短い窓など、さまざまなサイズの窓を使用して、信号活性、すなわち信号電力、騒音レベル、および検出しきい値(thres)を検出する。これらの変数は、sf、nf、およびthresによって表わされる。sf>thresである場合、信号サンプルが検出される。sf<thresである場合、背景騒音サンプルが検出される。スピーチなどの信号の開始または消失のいずれであるかに応じて、きわめて長い窓および中間的な窓が、騒音レベルを得るためにそれぞれ使用される。
【0048】
(1)信号電力が先行の騒音レベルよりも大きい場合、現在の状態は信号の発生である(nf<sf)。信号が発生している間、騒音レベルnfは、きわめて長い窓を使用することによって

とゆっくりと増加し、ここで、α=1/32000である。
【0049】
(2)信号電力が先行の騒音レベルよりも低い場合、現在の状態は信号の消失である(nf>sf)。信号の消失においては、騒音レベルnfは、中間的な窓

を使用することによって速く現在の騒音レベルへと更新され、ここで、α=1/256である。
【0050】
しきい値は、騒音レベルに比例する。安全な検出を得るために、安全マージンと呼ばれる追加のマージン値も存在する。しきい値は、

として計算される。現在の入力信号強度がしきい値よりも大きい場合、システムは信号が存在すると判断し、したがって短い窓が、騒音にまみれた信号レベルを推定するために使用される。信号が存在しない場合、騒音にまみれた信号レベルおよび騒音レベルを推定するために、長い窓が使用される。
【実施例4】
【0051】
能動騒音制御の反響音打ち消しとの革新的な統合
この実施例は、ハンズフリーの音声通信のための静穏環境をもたらすために、反響音打ち消し(AEC)を能動騒音制御(ANC)に統合するアルゴリズムの開発を取り扱う。AECのANCシステムへの統合においては、2つの主たる問題が存在する。(i)スピーチがANCシステムに対する干渉として機能して、適切な適応を妨げる可能性があり、(ii)ANCシステムが、意図されるスピーチ音を打ち消してしまう可能性がある。これら2つの問題が、両方の機能を組み合わせかつ費用対効果に優れる統合システムの開発を必要とする。これは、エラー信号をANCのための適応フィルタの係数を更新するために使用する前に、エラー信号からスピーチを引き算することができる方法を開発することによって行われる。
【0052】
このアルゴリズムは、いくつかの利点を有することが明らかになっている。重要な態様は、二次経路をオンラインでモデル化できる能力にある。これは、ANCシステムの動作と並列に二次経路を推定することを含む。S(z)フィルタが、システム認識の仕組みによってモデル化される。これは、スピーチを基準信号として使用し、二次経路を未知のシステムとして取り扱う。これは、アルゴリズムを時間変化する二次経路に敏感にする。
【0053】
実施例1〜4において上述されたこれらのアルゴリズムの各々を、さまざまな方法のために電子まくら10を制御するために使用することができる。したがって、電子まくら10は、能動騒音制御、ハンズフリーの通信、睡眠の監視および非常の状態への応答、および睡眠分析のための記録のために有効でありうる。
【0054】
本出願の全体において、米国特許を含む種々の刊行物が、著者名および年によって引用され、特許番号によって引用されている。それらの刊行物についての完全な引用が、以下に列挙される。これらの刊行物および特許の開示は、その全体が、本発明が属する技術分野の水準をより詳しく説明するために、ここでの言及によって本出願へと援用されて組み込まれる。
【0055】
本発明を、例示のやり方で説明したが、使用されている専門用語が、限定ではなくて説明という用語の性質であるように意図されていることを、理解すべきである。
【0056】
当然ながら、本発明の多数の変更および変種が、以上の教示に照らして可能である。したがって、添付の特許請求の技術的範囲において、本発明を具体的に記載されたやり方とは異なるやり方でも実施できることを、理解すべきである。
【符号の説明】
【0057】
12:まくらユニット
14:コントローラユニット
16:基準検出ユニット
32:入力チャネル
34:増幅器
36:アンチエイリアスフィルタ
40:出力チャネル
44:復元フィルタ
46:増幅器
48:DSPハードウェア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コントローラユニットに電気的に接続された少なくとも1つのエラーマイクロホンおよび少なくとも1つのスピーカを内蔵しているまくらユニット、および
前記コントローラユニットに電気的に接続された少なくとも1つの基準マイクロホンを備えている基準検出ユニット
を備えており、
前記コントローラユニットが、前記エラーマイクロホン、前記スピーカ、および前記基準マイクロホンの間の相互作用を制御するためのアルゴリズム手段を含んでおり、前記コントローラユニットが、さらに電源を備えている電子まくら。
【請求項2】
前記まくらが、肘掛け椅子、自動車の座席、航空機の座席、および列車の座席で構成される群から選択される椅子の一部分であるヘッドレストの形態である請求項1に記載の電子まくら。
【請求項3】
前記スピーカが、前記まくらユニットの裏側の角に内蔵されている請求項1に記載の電子まくら。
【請求項4】
前記エラーマイクロホンが、前記まくらユニットの中部3分の1に内蔵されている請求項3に記載の電子まくら。
【請求項5】
前記スピーカが、スピーチ、警報音、オーディオサウンド、および逆騒音で構成される群から選択される音を生成するための音手段を備えている請求項4に記載の電子まくら。
【請求項6】
前記まくらユニットが、メモリ発泡体で製作されている請求項1に記載の電子まくら。
【請求項7】
前記コントローラユニットが、エラーマイクロホンおよび基準マイクロホンの数に等しい入力チャネルと、スピーカの数に等しい出力チャネルとをさらに備えている請求項1に記載の電子まくら。
【請求項8】
前記コントローラユニットが、デジタル信号処理ユニットをさらに備えている請求項7に記載の電子まくら。
【請求項9】
前記デジタル信号処理ユニットが、電話インターフェイスとやり取りする請求項8に記載の電子まくら。
【請求項10】
前記アルゴリズム手段が、騒音低減のためのマルチチャンネル広帯域フィードフォワード能動騒音制御、ハンズフリー通信のための適応型の反響音打ち消し、無音期間の録音を避けるための信号検出および非侵襲的検出のための音認識、ならびに能動騒音制御および反響音打ち消しの統合で構成される群から選択される請求項1に記載の電子まくら。
【請求項11】
不要な騒音の能動騒音制御のための騒音打ち消し手段を備えているまくら。
【請求項12】
不要な騒音を低減する方法であって、
不要な騒音を基準マイクロホンで検出するステップ、
不要な騒音を分析するステップ、
まくらにおいて不要な騒音に対応する逆騒音を生成するステップ、および
不要な騒音を低減するステップ
を含んでいる方法。
【請求項13】
前記検出するステップが、基準マイクロホンをいびきをかく者の近くに配置するステップをさらに含んでおり、不要な騒音が、いびきである請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記検出するステップが、基準マイクロホンを騒音源の近くに配置するステップをさらに含んでおり、不要な騒音が、環境騒音である請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記分析するステップが、騒音を低減するためのマルチチャンネル広帯域フィードフォワード能動騒音制御のアルゴリズムの実行としてさらに定められる請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記生成するステップが、請求項1に記載の電子まくらにおける不要な騒音に対応する逆騒音の生成としてさらに定められる請求項12に記載の方法。
【請求項17】
不要な騒音を低減するためにオーディオサウンドを生成するステップ
をさらに含んでいる請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記オーディオサウンドを生成するステップが、癒しの音楽の生成としてさらに定められる請求項17に記載の方法。
【請求項19】
ハンズフリー通信の方法であって、
電話インターフェイスに接続されたまくらを介して音波を送信および受信するステップ
を含んでいる方法。
【請求項20】
前記送信および受信するステップが、ハンズフリー通信のための適応型の反響音打ち消しのアルゴリズムによって実行される請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記送信および受信するステップが、電話インターフェイスに接続された請求項1に記載の電子まくらを介する音波の送信および受信としてさらに定められる請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記送信および受信するステップが、電話インターフェイスに接続されたまくらを介する音波の能動騒音制御による送信および受信としてさらに定められる請求項20に記載の方法。
【請求項23】
睡眠障害を記録および監視する方法であって、
まくらに内蔵されたマイクロホンで睡眠者によって生成される騒音を記録するステップ
を含んでいる方法。
【請求項24】
無音期間の録音を避けるための信号検出および非侵襲的検出のための音認識のアルゴリズムを実行することによって、背景騒音だけの期間を特定するステップ
をさらに含んでいる請求項23に記載の方法。
【請求項25】
請求項1に記載の電子まくらにおいて実行される請求項23に記載の方法。
【請求項26】
緊急事態に対してリアルタイムの応答をもたらす方法であって、
まくらの基準マイクロホンで騒音を検出するステップ、
騒音を分析するステップ、および
分析された騒音によって示される緊急事態へのリアルタイムの応答をもたらすステップ
を含んでいる方法。
【請求項27】
前記リアルタイムの応答をもたらすステップが、まくらにおいて騒音を生成することによってまくらのユーザを起こすこと、および介護人に緊急事態を通知すること、で構成される群から選択される動作の実行としてさらに定められる請求項26に記載の方法。
【請求項28】
請求項1に記載のまくらにおいてオーディオサウンドを再生する方法であって、
まくらユニットのスピーカによってオーディオサウンドを再生するステップ
を含んでいる方法。
【請求項29】
前記再生するステップが、癒しの音楽および自然の音で構成される群から選択されるオーディオサウンドの再生としてさらに定められる請求項28に記載の方法。
【請求項30】
不要な騒音を軽減するステップ
をさらに含んでいる請求項28に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2011−505912(P2011−505912A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−537019(P2010−537019)
【出願日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【国際出願番号】PCT/US2008/085293
【国際公開番号】WO2009/073671
【国際公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(510158934)ノーザン・イリノイ・ユニバーシティ (1)
【氏名又は名称原語表記】NORTHERN ILLINOIS UNIVERSITY
【Fターム(参考)】