説明

かぶり音除去装置

【課題】 複数の音源からの音をそれぞれマイクで入力する場合に、1の音源音を入力するマイクに他の音源音が入力するかぶり音を除去する技術を提供することを目的とする。
【解決手段】 n個のマイクで収音されたn個の音源音を入力し、それらの各音源音を、それぞれ、所定のスレショルドと比較することにより、それらの各音源音が鳴っているか否かを判定し、何れか1の音源音が鳴っており、他の音源が鳴っていないと判定されたとき、その1の音源に関する測定指示を発生し、前記1の音源音に関する測定指示が発生したとき、その時点の各マイクからの入力に基づいて、該1の音源音により他の音源音に対して生じるかぶり音を生成する伝達特性パラメータを生成し、前記伝達特性パラメータに基づき、前記1の音源音から他の音源音によるかぶり音を除去して、かぶり音の除去された音源音を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数の音源から発生した音をそれぞれマイクで入力する場合に、それぞれの音源のために立てたマイクに別の音源の音がかぶった(回り込んでくる)とき、そのかぶり音を除去する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、複数トラック同時録音可能なマルチトラックレコーダが知られている。マルチトラックレコーダを利用した録音方法として、一括レコーディングとパート別レコーディングがある。
【0003】
一括レコーディングは、例えば、演奏者が演奏する各パートの楽器毎にマイクを立てて、同時に演奏した演奏音をそれら複数のマイクから入力し、入力した複数パートの音響信号を同時にマルチトラックレコーディングする方法である。一括レコーディングは、ライブ会場で録音する場合もあるし、スタジオで録音する場合もある。パート別レコーディングは、複数のパートについて、パート毎に、演奏者が別々に演奏したものを録音していく方法である。
【0004】
また、下記特許文献1には、複数種類の楽器等により合奏された演奏を録音した音楽信号から特定の楽器の楽音を分離、除去する音楽装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−188971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、例えば、舞台上に、ギター、ベース、ドラム、およびボーカルなどの複数の音源があり、それらの音源音をそれぞれの音源のために立てたマイクで入力して一括レコーディングを行う場合、それぞれの音源のために立てたマイクに別の音源からの音がかぶってくる(回り込んでくる)ことがある。特に、ボーカル音に関しては、他の音のかぶりが少なくきれいなボーカル音を録音したいという要求があるが、ボーカルのマイクに他の楽器からの音(特にドラムの音は大きい)がかぶってしまい、きれいなボーカル音が録音できないことがある。
【0007】
さらに、ボーカル音にエフェクトをかける際に、他の音のかぶりがあると、そのかぶっている音にまで同じエフェクトがかかってしまうという不都合や、エフェクト処理を行う際に、ボーカルからのピッチ抽出がうまくいかず、ピッチ補正等の処理に影響するという不都合がある。
【0008】
上記特許文献1に記載の技術によれば、左信号と右信号からなるステレオ2チャンネルの音楽信号を複数の周波数帯域に分割し、それぞれ左信号と右信号のパワー比に基づいて、その周波数帯域における音源の存在方向に関する情報である定位情報を算出し、該定位情報と重み付け関数に基づいて各周波数帯域の左信号および右信号に乗じる重み係数を決定し、各周波数帯域のそれぞれにおいて重み係数を乗ずることで特定音源からの信号を除去、分離することができるが、上述したようなボーカル音から他の楽器のかぶり音を除去したい場合には適用できない。特に、特許文献1に記載の技術は、ステレオ2チャンネルの音楽信号から分離する技術であるので、音源毎のマイクで入力して録音するような場合には適用できないし、処理が複雑であるという問題点がある。
【0009】
本発明は、複数の音源からの音をそれぞれマイクで入力する場合に、比較的簡単な処理で、1の音源音を入力するマイクに他の音源音が入力するかぶり音を除去する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、請求項1に係る発明は、n個のマイクで収音されたn個の音源音を入力し、それらの各音源音を、それぞれ、所定のスレショルドと比較することにより、それらの各音源音が鳴っているか否かを判定し、何れか1の音源音が鳴っており、他の音源が鳴っていないと判定されたとき、その1の音源に関する測定指示を発生し、前記1の音源音に関する測定指示が発生したとき、その時点の各マイクからの入力に基づいて、該1の音源音により他の音源音に対して生じるかぶり音を生成する伝達特性パラメータを生成し、前記伝達特性パラメータに基づき、前記1の音源音から他の音源音によるかぶり音を除去して、かぶり音の除去された音源音を生成することを特徴とする。
【0011】
前記伝達特性パラメータは、例えば、前記1の音源音を収音するための1のマイクで入力した第1の音響信号とその1のマイク以外のマイクで入力した第2の音響信号とを比較することにより、前記第1の音響信号を基準として求めた前記第2の音響信号の遅延特性とレベル減衰特性と周波数特性を表すパラメータである。前記スレショルドは、ユーザによる手動設定で、または自動設定で、音源音毎に独立して設定されるようにするとよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、複数の音源からの音をそれぞれマイクで入力する場合に、比較的簡単な構成で、1の音源音を入力するマイクに他の音源音が入力するかぶり音を除去することができる。これにより、例えば一括レコーディングの際にかぶり音を除去した音で録音でき、エフェクトを付与する場合もかぶり音を除去した音に対してエフェクトを付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態のかぶり音除去装置を適用したミキサを用いて音響処理を行う全体図
【図2】分析部の詳細な構成図
【図3】分離部の詳細な構成図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態であるかぶり音除去装置を適用したミキサを用いて音響処理を行う全体図を示す。101はベースギターの音源、102はドラムの音源、103はギターの音源、104はボーカルの音源を、それぞれ示す。なお、ここでは模式的な絵で図示したが、実際は、音源101は演奏者とベースギターとギターアンプとスピーカに相当し、音源102は演奏者とドラムに相当し、音源103は演奏者とエレキギターとギターアンプとスピーカに相当し、音源104は歌を歌うボーカルに相当するものである。マイクA〜Dは、音源101〜104からのそれぞれの音を入力するためのマイクである。ただし、マイクAには音源102〜104の音が入力してかぶり音となり、マイクBには音源101,103,104の音が入力してかぶり音となり、マイクCには音源101,102,104の音が入力してかぶり音となり、マイクDには音源101〜103の音が入力してかぶり音となる。モニタA〜Dは、音源101〜104のそれぞれの演奏者のためのモニタ音出力装置であり、ここでは各演奏者が耳に装着するヘッドフォンとする。なお、図1はレコーディングスタジオで一括レコーディングを行っている様子を示すものであり、そのためにヘッドフォンを用いている。レコーディングスタジオ以外でライブ録音する場合は、インイヤーモニタやモニタ用スピーカを用いるが、その場合でも本発明は適用可能である。
【0016】
マイクA〜Dで入力したベース、ドラム、ギター、およびボーカルの各アナログ音響信号(かぶり音を含んでいる信号)は、それぞれ、ミキサ110内のアナログデジタル(A/D)変換器111〜114においてデジタル音響信号に変換される。それらのデジタル音響信号は、分析部115と分離部116に入力する。
【0017】
分析部115は、各A/D変換器111〜114からのデジタル音響信号を分析し、かぶり音を除去するためのパラメータであるデータセット131〜134(DSa〜DSd)を生成して分離部116に出力する。分離部116は、このデータセット131〜134(DSa〜DSd)を利用して、各A/D変換器111〜114から入力した音からそれぞれかぶり音を除去し、各音源のピュアな楽音信号を出力する。分析部115と分離部116で実行する処理の原理については、後に詳述する。
【0018】
分離部116から出力された各音源のピュアな楽音信号は、利用機器118や混合部119に入力する。利用機器118は、例えばデジタルレコーダやエフェクタなどである。利用機器118がデジタルレコーダであれば、入力した各音源101〜104のピュアな楽音信号を一括レコーディングすることができる。
【0019】
利用機器118がエフェクタであれば、入力した各音源101〜104のピュアな楽音信号に、各種の効果を付与することができる。例えば、カラオケなどで使うボーカルハーモニーではボーカル音のピッチを採ってその音高を基準にピッチチェンジするが、そのためにはボーカル音のピッチが正確に検出されることが必要である。本実施形態のシステムによれば、かぶり音を除去したボーカル音のピッチを検出でき、該ピッチに基づいたピッチチェンジを行える。効果付与後の楽音信号は、点線120の経路で、混合部119に入力する。
【0020】
混合部119は、分離部116や利用機器(エフェクタ)118から入力した楽音信号に対するミキシング処理を行う。また,混合部119は、各音源101〜104の演奏者へのモニタ音をそれぞれ生成する。それらのモニタ音は、デジタルアナログ(D/A)変換器121〜124でアナログ音響信号に変換され、モニタA〜D(ヘッドフォン)に出力される。
【0021】
次に、かぶり音除去の原理について説明する。図1のケースで特に問題となるかぶり音は、ボーカル音を収音するマイクDで収音されるボーカル以外の音(ベース、ドラム、ギター)である。いま、ベース音源101から出てマイクDで収音されるパスを Bass->D と表現する。同様に、ドラム音源102から出てマイクDで収音されるバスを Drum->D、ギター音源103から出てマイクDで収音されるパスを Guitar->D と、それぞれ表現する。また、ベース音源101から放音される音を b(t) とする。ベース音源101から出てマイクDで収音される音は Fbd(b(t)) と表すことができる。Fbdは、Bass->D空間の伝達特性を表す。
【0022】
同様に、ドラムおよびギターについても、それぞれの音源102,103から放音される音を d(t), g(t) と表現する。ドラム音源102から出てマイクDで収音される音は Fdd(d(t))、ギター音源103から出てマイクDで収音される音は Fgd(g(t))と、それぞれ表すことができる。FddはDrum->D空間の伝達特性を、FgdはGuitar->D空間の伝達特性を、それぞれ表す。
【0023】
マイクDで収音される音を micD(t) とする。ボーカルの発声する音を v(t) とすると、micD(t) は、下記式(1)のようにボーカルの発声する音 v(t) と前記かぶり音との和で表すことができる。
【0024】
micD(t) = Fbd(b(t)) + Fdd(d(t)) + Fgd(g(t)) + v(t) … (1)
【0025】
同様にして、b(t), d(t), g(t) はそれぞれマイクA,B,Cで収音されるが、それらのマイクA,B,Cにもそれぞれ他の音源からの音がかぶってくる。従って、マイクA,B,Cでそれぞれ収音される音 micA(t), micB(t), micC(t)は、下記の式(2)〜(4)で表すことができる。
【0026】
micA(t) = b(t) + Fda(d(t)) + Fga(g(t)) + Fva(v(t)) … (2)
micB(t) = Fbb(b(t)) + d(t) + Fgb(g(t)) + Fvb(v(t)) … (3)
micC(t) = Fbc(b(t)) + Fdc(d(t)) + g(t) + Fvc(v(t)) … (4)
【0027】
上記式(1),(2),(3),(4)をZ変換し、マトリックス型に書き直すと下記式(5)となる。
【0028】
【数1】

【0029】
B(z), D(z), G(z), V(z) はそれぞれベース、ドラム、ギター、ボーカルの音のZ変換であり、micA(z), micB(z), micC(z), micD(z)も同様に各マイクの収音した音のZ変換である。簡単のために、式(5)内の行列をMと書き、状態行列と呼ぶことにする。式(5)は下記式(6)のように書き替えられる。
【0030】
【数2】

【0031】
何らかの方法で状態行列Mの各項目を決定することができれば、その逆行列と、各マイクの音のZ変換とから、各楽器それぞれのピュアな音のZ変換、すなわちかぶり音を除去したピュアな音を下記式(7)の計算で求めることができる。
【0032】
【数3】

【0033】
ただし、全部の楽器が鳴っている状態では、状態行列Mの各要素を求めることはできない。そこで、分析部115内部に、それぞれのマイクの出力レベルと所定のスレショルドとを比較する判定部を設ける。この判定部により、あるマイクの出力レベルがそのスレショルド(しきい値)以下であれば、そのマイクに一番近い楽器は鳴っていないものと判定できる。もし、ボーカルのみが歌っていて他の楽器が音を出していなければ、micD(z) = V(z) で、B(z) = D(z) = G(z) = 0であるから、
micA(z) = Fva(z) V(z)---> Fva(z) = micA(z)/micD(z) … (8)
micB(z) = Fvb(z) V(z)---> Fvb(z) = micB(z)/micD(z) … (9)
micC(z) = Fvc(z) V(z)---> Fvc(z) = micC(z)/micD(z) … (10)
により各項を計算できる。
【0034】
同様にして、ベースのみが演奏されている状態においてFbb(z),Fbc(z),Fbd(z)が計算でき、ドラムのみが演奏されている状態においてFda(z),Fdc(z),Fdd(z)が計算でき、ギターのみが演奏されている状態においてFga(z),Fgb(z),Fgd(z)が計算できる。以上により、状態行列Mの全ての要素を計算することができ、その状態行列Mから逆行列M−1を求めることができる。
【0035】
図1の分析部115は、上述したように、判定部により各マイクA〜Dからの入力レベルを所定のスレショルドと比較し、何れか1つの音源のみが鳴っていると判定されるときに分析を行って、上記状態行列Mの全ての要素を求める。さらに、該状態行列Mの逆行列M−1を求め、該逆行列に基づくパラメータ131〜134(データセットDSa〜DSd)を分離部116に出力する。分離部116は、該逆行列に基づくパラメータを用いて、上記数3の式(7)に示す演算を行うことにより、各音源音から、かぶり音を除去したピュアな楽音信号を生成して出力する。
【0036】
なお、状態行列Mの各要素は、例えば、会場の温度や湿度、演奏者の位置、あるいはマイクの位置などで常に変動する。従って、分析部115と分離部116の演算は、常に最新の状態となるように逐次的に計算されなければならない。逆に言えば、状態行列Mができるだけ変動しないようにするためには、上記の変動要因ができるだけ変化しないようにすることが必要になる。例えば、会場の温度や湿度は一定とし、各楽器の音の発生位置とマイクの位置との位置関係は一定とするのが良い。
【0037】
なお、ここでは1つの音源音を入力するマイクに他の音源音が直接入力したかぶり音を除去する場合を説明したが、原理的には、伝達特性を表現する上記状態行列Mを正確に求めることができれば間接音(例えば、会場の壁面で反射した残響音など)を除去することもできる。
【0038】
上記原理の説明では、状態行列Mを求め、その逆行列M−1を求め、上記式(7)の演算でかぶり音を除去したピュアな楽音信号を取得すると説明したが、実際には逐次的に精密に伝達特性を求める計算を行うのは難しい。一方、伝達特性は、具体的には、音源とマイクとの距離による音の遅延(時間差)と音量レベルの減衰および周波数特性の変化に関する特性と言えるから、これらの特性に注目してかぶり音除去を行うことができる。以下では、そのようなかぶり音除去を行うための分析部115と分離部116の詳細な構成と動作について説明する。
【0039】
図2は、分析部115の詳細な構成を示す。A入力、B入力、C入力、およびD入力は、それぞれマイクA,B,C,DからA/D変換器111〜114を介して入力した音響信号micA(t), micB(t), micC(t), micD(t)を示す。これらの音響信号は、それぞれL(レベル)検出部201〜204に入力する。L(レベル)検出部201は、A入力のレベルを所定のスレショルドと比較し、該レベルがスレショルド以上のとき「1」、そうでないとき「0」を出力する判定部である。L(レベル)検出部201の出力が「1」のとき、ベース音が鳴っていることを示す。L(レベル)検出部202〜204も同様の判定部であり、各検出部202〜204の出力が「1」のとき、ドラム音、ギター音、ボーカル音がそれぞれ鳴っていることを示す。
【0040】
211は、L検出部201の出力を正論理で入力し、L検出部202〜204の出力をそれぞれ負論理で入力して、AND演算するAND回路である。結果として、AND回路211の出力は、ベース音のみが鳴っており他の楽器が鳴っていないときに「1」となる。AND回路211の出力は、トリガ信号Aとしてパラメータ算出部220に入力する。同様に、AND回路212の出力はドラム音のみが鳴っており他の楽器が鳴っていないときに「1」となるトリガ信号Bとして、AND回路213の出力はギター音のみが鳴っており他の楽器が鳴っていないときに「1」となるトリガ信号Cとして、AND回路214の出力はボーカル音のみが鳴っており他の楽器が鳴っていないときに「1」となるトリガ信号Dとして、それぞれ、パラメータ算出部220に入力する。
【0041】
パラメータ算出部220は、A入力、B入力、C入力、およびD入力をそのまま入力するとともに、トリガ信号A〜Dを入力する。
【0042】
トリガ信号Aが「1」のときは、ベース音のみが鳴っており、他の楽器は鳴っていない状態である。このとき、マイクAにはベース音が入力しているが、マイクB,C,Dにはそれぞれそのベース音が直接これらのマイクB,C,Dに回り込んだかぶり音が入力している。そこで、パラメータ算出部220は、A入力の音響信号(ベース音源の原音)とB入力の音響信号(ベース音源からマイクBへのかぶり音)とを比較し、A入力のベース音源の原音を基準としてB入力へのかぶり音が、どれだけ遅延し、どれだけレベルが減衰し、周波数特性がどのように変化したかを、分析結果として求める。パラメータ算出部220は、上記求めた分析結果に基づいて、ベース音(A入力の音響信号)からマイクBへのかぶり音(B入力の音響信号)を生成するパラメータを求める。どれだけ遅延したかを示す分析結果からは遅延のパラメータを求め、どれだけレベルが減衰したかを示す分析結果からは減衰レベルのパラメータを求め、周波数特性がどのように変化したかを示す分析結果からは周波数特性のパラメータを求める。これらのパラメータは、Base->B空間の伝達特性を表すパラメータであり、まとめてBase->B空間伝達特性パラメータと呼ぶ(以下では、同様にして求めた楽器XからマイクYへの伝達特性を表すパラメータをX->Y空間伝達特性パラメータと呼ぶ)。同様にして、パラメータ算出部220は、A入力の音響信号(ベース音源の原音)とC入力の音響信号(ベース音源からマイクCへのかぶり音)とを比較分析することによりBase->C空間伝達特性パラメータを求め、A入力の音響信号(ベース音源の原音)とD入力の音響信号(ベース音源からマイクDへのかぶり音)とを比較分析することによりBase->D空間伝達特性パラメータを求める。上記Base->B空間伝達特性パラメータ、Base->C空間伝達特性パラメータ、およびBase->D空間伝達特性パラメータは、データセットDSa131として、分離部116に向けて出力される。
【0043】
同様にして、トリガ信号Bが「1」のとき(ドラム音のみが鳴っており、他の楽器は鳴っていない状態)、パラメータ算出部220は、B入力の音響信号(ドラム音源の原音)とA,C,D入力の各音響信号(ドラム音源からマイクA,C,Dへのかぶり音)とをそれぞれ比較分析することにより、Drum->A空間伝達特性パラメータ、Drum->C空間伝達特性パラメータ、およびDrum->D空間伝達特性パラメータを求める。これらのパラメータは、データセットDSb132として、分離部116に向けて出力される。
【0044】
トリガ信号Cが「1」のとき(ギター音のみが鳴っており、他の楽器は鳴っていない状態)、パラメータ算出部220は、C入力の音響信号(ギター音源の原音)とA,B,D入力の各音響信号(ギター音源からマイクA,B,Dへのかぶり音)とをそれぞれ比較分析することにより、Guitar->A空間伝達特性パラメータ、Guitar->B空間伝達特性パラメータ、およびGuitar->D空間伝達特性パラメータを求める。これらのパラメータは、データセットDSc133として、分離部116に向けて出力される。
【0045】
トリガ信号Dが「1」のとき(ボーカル音のみが鳴っており、他の楽器は鳴っていない状態)、パラメータ算出部220は、D入力の音響信号(ボーカル音源の原音)とA,B,C入力の各音響信号(ボーカル音源からマイクA,B,Cへのかぶり音)とをそれぞれ比較分析することにより、Vocal->A空間伝達特性パラメータ、Vocal->B空間伝達特性パラメータ、およびVocal->C空間伝達特性パラメータを求める。これらのパラメータは、データセットDSd134として、分離部116に向けて出力される。
【0046】
図3は、分離部116の詳細な構成を示す。A入力〜D入力は、図2と同じマイクA〜DからA/D変換器112〜114を介して入力したそれぞれの音響信号を示す。A入力〜D入力は、それぞれ混合器301〜304に入力する。
【0047】
点線で囲んだ311は、A入力の音響信号を入力し、分析部115から渡されたデータセットDSa131に基づいて、B入力向けかぶり音信号、C入力向けかぶり音信号、およびD入力向けかぶり音信号を生成するかぶり音信号生成部を示す。該かぶり音信号生成部311の上段のイコライザ(EQ)321B、レベル制御部322B、および遅延制御部323Bは、データセットDSa131のうちのBase->B空間伝達特性パラメータに基づいて、A入力の音響信号に対して周波数特性制御とレベル制御と遅延制御を施してB入力向けかぶり音信号を生成する。具体的には、上述したとおりBase->B空間伝達特性パラメータは遅延のパラメータと減衰レベルのパラメータと周波数特性のパラメータからなるが、イコライザ(EQ)321Bは当該周波数特性のパラメータに基づいて周波数特性制御を施し、レベル制御部322Bは当該減衰レベルのパラメータに基づいてレベル制御を施し、遅延制御部323Bは当該遅延のパラメータに基づいて遅延制御を施す。該B入力向けかぶり音信号は、ライン361Bを介してB出力を生成する混合器302に入力する。
【0048】
同様に、かぶり音信号生成部311の中段のEQ321C、レベル制御部322C、および遅延制御部323Cは、データセットDSa131のうちのBase->C空間伝達特性パラメータに基づいて、A入力の音響信号に対して周波数特性制御とレベル制御と遅延制御を施してC入力向けかぶり音信号を生成する。該C入力向けかぶり音信号は、ライン361Cを介してC出力を生成する混合器303に入力する。かぶり音信号生成部311の下段のEQ321D、レベル制御部322D、および遅延制御部323Dは、データセットDSa131のうちのBase->D空間伝達特性パラメータに基づいて、A入力の音響信号に対して周波数特性制御とレベル制御と遅延制御を施しD入力向けかぶり音信号を生成する。該D入力向けかぶり音信号は、ライン361Dを介してD出力を生成する混合器304に入力する。
【0049】
上記B入力向けかぶり音信号は、要するに、ベース音源の音がマイクBに入力したかぶり音に相当するから、混合器302でB入力の音響信号から該B入力向けかぶり音信号を減算することにより、マイクBに入力した音響信号からベース音のかぶり音を除去することができる。同様に、混合器303でC入力の音響信号からC入力向けかぶり音信号を減算することにより、マイクCに入力した音響信号から当該ベース音のかぶり音を除去することができ、混合器304でD入力の音響信号からD入力向けかぶり音信号を減算することにより、マイクDに入力した音響信号から当該ベース音のかぶり音を除去することができる。
【0050】
B入力、C入力、およびD入力のかぶり音信号生成部312,313,314についても同様である。
【0051】
かぶり音信号生成部312は、B入力の音響信号を入力し、分析部115から渡されたデータセットDSb132に基づいて、A入力向けかぶり音信号、C入力向けかぶり音信号、およびD入力向けかぶり音信号を生成する。混合器301で、A入力の音響信号から、かぶり音信号生成部312から出力されたA入力向けかぶり音信号を減算することにより、マイクAに入力した音響信号からドラム音のかぶり音を除去する。混合器303で、C入力の音響信号から、かぶり音信号生成部312から出力されたC入力向けかぶり音信号を減算することにより、マイクCに入力した音響信号からドラム音のかぶり音を除去する。混合器304で、D入力の音響信号から、かぶり音信号生成部312から出力されたD入力向けかぶり音信号を減算することにより、マイクDに入力した音響信号からドラム音のかぶり音を除去する。
【0052】
かぶり音信号生成部313は、C入力の音響信号を入力し、分析部115から渡されたデータセットDSc133に基づいて、A入力向けかぶり音信号、B入力向けかぶり音信号、およびD入力向けかぶり音信号を生成する。混合器301で、A入力の音響信号から、かぶり音信号生成部313から出力されたA入力向けかぶり音信号を減算することにより、マイクAに入力した音響信号からギター音のかぶり音を除去する。混合器302で、B入力の音響信号から、かぶり音信号生成部313から出力されたC入力向けかぶり音信号を減算することにより、マイクCに入力した音響信号からギター音のかぶり音を除去する。混合器304で、D入力の音響信号から、かぶり音信号生成部313から出力されたD入力向けかぶり音信号を減算することにより、マイクDに入力した音響信号からギター音のかぶり音を除去する。
【0053】
かぶり音信号生成部314は、D入力の音響信号を入力し、分析部115から渡されたデータセットDSd134に基づいて、A入力向けかぶり音信号、B入力向けかぶり音信号、およびC入力向けかぶり音信号を生成する。混合器301で、A入力の音響信号から、かぶり音信号生成部314から出力されたA入力向けかぶり音信号を減算することにより、マイクAに入力した音響信号からボーカル音のかぶり音を除去する。混合器302で、B入力の音響信号から、かぶり音信号生成部314から出力されたC入力向けかぶり音信号を減算することにより、マイクCに入力した音響信号からボーカル音のかぶり音を除去する。混合器303で、C入力の音響信号から、かぶり音信号生成部314から出力されたC入力向けかぶり音信号を減算することにより、マイクCに入力した音響信号からボーカル音のかぶり音を除去する。
【0054】
なお、上記実施形態では、4つの音源からの音が4つの全てのマイクで収音されるケースを考慮したが、所望の音源、例えばボーカルだけに対してかぶり音除去を行う場合は、図3の分離部116は、太線で示したかぶり音信号生成部311,312,313のそれぞれの下段のEQとレベル制御部と遅延制御部、および混合器304があればよい。また図2の分析部115も、上記図3の太線部が動作するためのパラメータであるBase->D空間伝達特性パラメータ、Drum->D空間伝達特性パラメータ、およびGuitar->D空間伝達特性パラメータを生成するための構成があればよい。同様にして、例えばボーカルとギターだけに対してかぶり音除去を行うような構成を採ることもできる。
【0055】
上記実施形態においては、音源101〜104における演奏者の演奏で入力した音響信号を分析することでデータセットDSa131〜DSd134を生成する場合を例として説明したが、予めパラメータを求めるための測定を行うことができるのであれば、各音源の音の出所の部分でインパルス的な音を発生させ、各マイクにかぶって入力した音と比較分析することにより上記のパラメータを求めることもできる。インパルス的な音の代わりにホワイトノイズなどを利用しても良い。
【0056】
上記実施形態において、各音源の音が鳴っているか否かを判定するためのスレショルドの値は、各音源毎に異ならせても良い。例えば、ボーカルとドラムでは、鳴っているか否かを判定する基準値は異なるものとする方が妥当である。スレショルドの値は、ユーザに設定させても良いし自動設定でも良い。
【符号の説明】
【0057】
101…ベース音源、102…ドラム音源、103…ギター音源、104…ボーカル音源、110…ミキサ、111〜114…A/D変換器、115…分析部、116…分離部、118…利用機器、119…混合部、121〜124…D/A変換器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
n個のマイクで収音されたn個の音源音を入力する入力部と、
前記入力部により入力した各音源音を、それぞれ、所定のスレショルドと比較することにより、それらの各音源音が鳴っているか否かを判定するレベル判定部と、
何れか1の音源音が鳴っており、他の音源が鳴っていないと判定されたとき、その1の音源に関する測定指示を発生する測定指示発生部と、
前記1の音源音に関する測定指示が発生したとき、その時点の各マイクからの入力に基づいて、該1の音源音により他の音源音に対して生じるかぶり音を生成する伝達特性パラメータを生成するパラメータ生成部と、
前記伝達特性パラメータに基づき、前記1の音源音から他の音源音によるかぶり音を除去して、かぶり音の除去された音源音を生成するかぶり除去部と
を備えることを特徴とするかぶり音除去装置。
【請求項2】
請求項1に記載のかぶり音除去装置において、
前記伝達特性パラメータは、前記1の音源音を収音するための1のマイクで入力した第1の音響信号とその1のマイク以外のマイクで入力した第2の音響信号とを比較することにより、前記第1の音響信号を基準として求めた前記第2の音響信号の遅延特性とレベル減衰特性と周波数特性を表すパラメータであることを特徴とするかぶり音除去装置。
【請求項3】
請求項1に記載のかぶり音除去装置において、
前記スレショルドは、ユーザによる手動設定で、または自動設定で、音源音毎に独立して設定されることを特徴とするかぶり音除去装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−66079(P2013−66079A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203901(P2011−203901)
【出願日】平成23年9月17日(2011.9.17)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】