説明

し尿固化剤及び簡易トイレ

【課題】簡易トイレ等に排泄された、し尿から発せられる臭いに対し高い消臭効果を有するし尿固化剤を提供する。
【解決手段】ポリマーとしてカラギーナン、ペクチン、キサンタンガム、カロブビーンガム、タラガム、アラビアガム等の高分子多糖類;アルキルアリルスルホン酸塩;アルキルアンモニウム塩;ペルフルオロアルキル基誘導体;カルボキシメチルセルロースナトリウム;アクリル酸系ポリマー等と多価カルボン酸を含むし尿固化剤により高い消臭効果を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、し尿固化剤及びこれを用いた簡易トイレに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、災害用、建設現場、介護の現場等、トイレ設備がない場所では、ビニール製や紙パックに汚物を入れて処理するなどの方法がとられている。かかる場合、ポリマー等を用いてし尿が流れ出さないような工夫はされているものの、水洗できないことから、し尿から発せられる悪臭が問題となる。
【0003】
特許文献1には、ケイ酸ソーダ及び吸水粉粒状産業廃棄材を添加し、これと共に、消石灰、硫酸アルミニウム及び炭酸ナトリウムが配合された固化用セメント混合物を添加する方法が記載されているが、かかる方法では、十分な消臭効果を得ることができない。
【0004】
従って、このような簡易トイレに排泄されるし尿の悪臭を抑える方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許出願平5−160407
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決すべき課題は、簡易トイレ等に排泄された、し尿から発せられる臭いに対し高い消臭効果を有するし尿固化剤及び簡易トイレを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、従来、し尿の固化に使用されてきたポリマーに、多価カルボン酸を組み合わせることにより、し尿の臭いを顕著に抑えることができることを見出した。本発明は、上記の新規知見に基づくものである。
【0008】
従って、本発明は、以下の項を提供する。
【0009】
項1.ポリマー及び多価カルボン酸を含む、し尿固化剤。
【0010】
項2.ポリマーがアクリル酸系ポリマーである、項1に記載のし尿固化剤。
【0011】
項3.ポリマーと多価カルボン酸との使用割合が、前者1重量部に対し後者が0.5〜3重量部である、項1又は2に記載のし尿固化剤。
【0012】
項4.ポリマー及び多価カルボン酸を含む、し尿消臭剤。
【0013】
項5.ポリマーがアクリル酸系ポリマーである、項4に記載のし尿消臭剤。
【0014】
項6.ポリマーと多価カルボン酸との使用割合が、前者1重量部に対し後者が0.5〜3重量部である、項1又は2に記載のし尿消臭剤。
【0015】
項7.第1の開口部を有する支持台と
前記第1の開口部から吊り下げられる収容袋と前記収容袋内に収容された項1〜3のいずれか一項に記載のし尿固化剤又は項4〜6のいずれか一項に記載のし尿消臭剤とを備えた簡易トイレ。
【0016】
項8.第2の開口部を有し、前記第2の開口部が前記第1の開口部と重なるように前記支持台に設置されている設置部材をさらに備え、
前記収容袋は、前記第2の開口部から吊り下げられるように前記設置部材に設置されている、請求項7に記載の簡易トイレ。
【0017】
項9.前記設置部材が、折り畳み可能である、項7又は8に記載の簡易トイレ。
【0018】
項10 前記設置部材が、折り畳まれたときに当該折り畳み状態を保持する保持手段をさらに備えた、項7〜9のいずれか一項に記載の簡易トイレ。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、簡易トイレ等に排泄された、し尿から発せられる臭いに対し高い消臭効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明の好ましい実施形態における、簡易トイレを示す。
【図2】図2は、本発明の好ましい実施形態における、簡易トイレに備えられる収納袋2、し尿固化剤又は消臭剤3及び設置部材4を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
し尿固化剤
本発明は、ポリマー及び多価カルボン酸を含む、し尿固化剤を提供する。
【0022】
ポリマー
本発明のし尿固化剤に含まれるポリマーとしては、例えば、カラギーナン、ペクチン、キサンタンガム、カロブビーンガム、タラガム、アラビアガム等の高分子多糖類;アルキルアリルスルホン酸塩;アルキルアンモニウム塩;ペルフルオロアルキル基誘導体;カルボキシメチルセルロースナトリウム;アクリル酸系ポリマー等が挙げられる。
【0023】
これらのポリマーは、一種単独で用いても、二種類以上を混合して用いてもよい。例えば、アルキルアリルスルホン酸塩及びアルキルアンモニウム塩の混合物であるビスコトップ(登録商標)を用いることができる。これらのポリマーは、公知であるか、または公知の方法に準じて適宜製造することができる。
【0024】
本発明において、アクリル酸系ポリマーとは、主なモノマー成分として、(メタ)アクリル酸を含むポリマーを示す。本明細書中において、「(メタ)アクリル酸」は、「アクリル酸又はメタクリル酸」を意味する。本明細書中において、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート又はメタクリレート」を意味する。
【0025】
本発明において、アクリル酸系ポリマーの原料としては、(メタ)アクリル酸以外にも、重合性不飽和基を有するモノマーを用いることができる。かかる重合性不飽和基を有するモノマーとしては、例えば、アルキル(メタ)アクリレート、スチレン、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、マレイン酸、フマル酸等が挙げられる。
【0026】
アクリル酸系ポリマーとしては、例えば、ポリアクリル酸又はその塩が好ましい。塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩及びカルシウム塩が挙げられる。
【0027】
当該アクリル酸系ポリマーは、上記モノマーを定法に従い重合することにより、製造することができる。
【0028】
本発明のし尿固化剤におけるポリマーの含有量は、十分なし尿の吸収効果が得られるかぎり特に限定されないが、し尿固化剤の全重量100重量部に対し、通常、30〜60重量部、好ましくは40〜50重量部の範囲で設定することができる。
【0029】
多価カルボン酸
本発明のし尿固化剤は、多価カルボン酸を含有する。尿中固形物のうち、半分は尿素であるため、排泄直後の尿はそれほど臭いが強くない。しかし、尿の特有の臭いは、成分である尿素が空気中の細菌によりアンモニアに分解されることで発生する。
【0030】
本発明においては、し尿固化剤に多価カルボン酸を配合することにより、し尿のPHを下げることによって容易に微生物の活動を抑制し、かつ微生物活動により発生したアンモニアを酸により中和して塩となし蒸発を抑えて消臭効果をもたらすことができる。
【0031】
本発明のし尿固化剤に含まれる多価カルボン酸としては、し尿のpHを下げ、かつし尿中のアンモニアと塩を形成するようなものであれば特に限定されないが、例えば、2個以上、好ましくは2〜3個のカルボン酸を有する低分子化合物が挙げられる。より具体的には、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、マロン酸、グルタル酸等が含まれる。これらの多価カルボン酸のうち、クエン酸が好ましい。
【0032】
本発明のし尿固化剤における多価カルボン酸の含有量は、十分なし尿の消臭効果が得られるかぎり特に限定されないが、し尿固化剤100重量部に対し、通常、40〜70重量部、好ましくは40〜65重量部の範囲で設定することができる。
【0033】
また、ポリマーと多価カルボン酸との使用割合は、前者1重量部に対し後者が、通常、0.5〜3重量部、好ましくは、1〜1.4重量部の範囲で設定することができる。
【0034】
その他成分
本発明のし尿固化剤は、上記成分に加え、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、金属塩化物等の成分をさらに配合してもよい。これらの成分を配合する場合、その配合量は特に限定されないが、例えば、ポリマー5g〜10g及び多価カルボン酸8g〜15gに対して食塩を2g配合することができる。
【0035】
本発明のし尿固化剤は、上記各成分を混合することにより調製することができる。また、本発明のし尿固化剤は、これらの各成分を別々に包装し、使用直前に混合する形態をとってもよい。
【0036】
本発明のし尿固化剤は、通常、10〜25g、好ましくは15〜20g簡易トイレ等の便器に入れて使用する。通常、成人で1日に平均して100〜250 g程の大便を排出する。尿については、成人で一日に1000ml〜1500ml程度を排泄するとされている。上記量を用いることによって、し尿のpHを、微生物の活性が抑制される2.5以下に保つことができる。
【0037】
し尿消臭剤
本発明のし尿固化剤は、単にし尿の消臭剤として用いることもできる。かかる場合、例えば、し尿固化剤20gに対し、あらかじめ50〜70ml、80〜100mlの水を添加しておく実施形態等が挙げられる。
【0038】
本発明のし尿消臭剤における、各成分の種類及び配合割合等は前記と同様に設定できる。
【0039】
簡易トイレ
本発明は、第1の開口部を有する支持台1と
前記第1の開口部から吊り下げられる収容袋2と
前記収容袋内に収容された前述のし尿固化剤又はし尿消臭剤3と
を備えた簡易トイレを提供する。
【0040】
以下、本発明に係る簡易トイレの実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の一つの実施形態における簡易トイレの概略図を示す。図2は、本発明の簡易トイレに備えられる収容袋2、し尿固化剤又はし尿消臭剤3及び設置部材4の概略図を示す。
【0041】
支持台1は、地面から一定の高さに保持される。その態様としては、図1に記載のように枠体により地面から一定の高さに保持しても、板材等により保持してもよい。
【0042】
収容袋2が支持台1の第1の開口部から吊り下げられる方法は、特に限定されず、例えば、針金等により吊り下げられてもよく、また後述の設置部材4を介して吊り下げられていてもよい。
【0043】
本発明の好ましい実施形態において、第2の開口部を有し、前記第2の開口部が前記第1の開口部と重なるように前記支持台1に設置されている設置部材4をさらに備えていてもよい。ここで、収納袋と設置部材とは接着されている。当該実施形態において、前記収容袋は、前記第2の開口部から吊り下げられるような態様で、前記設置部材に設置される。
【0044】
前記設置部材は、折り畳み可能であってもよい。また、前記設置部材は、折り畳まれたときに当該折り畳み状態を保持する保持手段をさらに備えていてもよい。掘りたたまれた状態で保持されることにより、袋に収納されたし尿の臭いが袋から漏れることを抑制することができる。
【0045】
保持手段としては、両面テープ、接着剤、面ファスナー等が挙げられる。
【0046】
また、本発明の簡易トイレは、図1に示すような幌で覆ってもよい。
【実施例】
【0047】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。しかし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0048】
実施例1
ポリアクリル酸ポリマー(分子量500万〜1000万)7g及びクエン酸10gを混合して、し尿固化剤を調製した。
【0049】
試験区として、一回の試験当たり、平均300mlの尿及び平均200gの大便を用いた。このし尿に、し尿固化剤17gを添加した後、保温庫としてサンヨー製 インキュベーター MIR-153 126l を用い、温度30℃±0.5℃で庫内設置時間48時間、放置した。
【0050】
48時間後、アンモニア及び硫化水素を匂い指標として測定した。ガス濃度の測定には、ガステック製のアンモニア臭気測定キット(目盛範囲0.05〜1.6%)及び硫化水素測定キット(目盛範囲0.1〜2%)を用いた。試験は同様の条件で、3回繰り返した。
【0051】
対照区として、し尿固化剤を添加せず、上記試験と同様に、し尿を30℃±0.5℃で保温した後、ガスの測定を行った。
【0052】
下記の表1に各試験区及び対照区の測定結果を示す。
【0053】
【表1】

【0054】
実施例2
ポリアクリル酸ポリマー(分子量500万〜1000万)7g及びクエン酸10gを混合して、し尿固化剤を調製した。
【0055】
し尿300gに、当該し尿固化剤を添加した(以下、消臭固化剤混合し尿と示す)。対照として、し尿300gにし尿固化剤を添加せず用いた(以下、消臭固化剤なしし尿と示す)。
【0056】
実施例1と同様の保温庫を用いて30℃で48時間放置しそれぞれについて健康な20代から50代の男女36人のモニターに官能検査をしてもらいアンケートを行って評価を得た:
判定基準
0:無臭
1:やっと感知できる臭い(検知閾値濃度)
2:何のにおいであるかわかる弱いにおい(認知閾値濃度)
3:楽に感知できるにおい
4:強いにおい
5:強烈なにおい
評価結果を以下の表2に示す。
【0057】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のし尿固化剤及びし尿消臭剤は、非常に高いし尿の消臭効果を奏することができる。従って、本発明のし尿固化剤、し尿消臭剤及び簡易トイレは、介護現場、建設現場、災害現場、イベント会場等でのし尿の消臭に非常に有用である。
【符号の説明】
【0059】
1 支持台、 2 収容袋、 3 し尿固化剤又はし尿消臭剤、 4 設置部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー及び多価カルボン酸を含む、し尿固化剤。
【請求項2】
ポリマーがアクリル酸系ポリマーである、請求項1に記載のし尿固化剤。
【請求項3】
ポリマーと多価カルボン酸との使用割合が、前者1重量部に対し後者が0.5〜3重量部である、項1又は2に記載のし尿固化剤。
【請求項4】
ポリマー及び多価カルボン酸を含む、し尿消臭剤。

【図1】
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【図2】
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