説明

せん断粘稠性を有するコロイド状流体

【課題】せん断粘稠性を有する流体、該流体の製造方法、該流体を用いた力制御装置の提供。
【解決手段】せん断粘稠性を発現する物質がウイスカ粒子のみから本質的になる、せん断粘稠性を有するコロイド状流体により、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、せん断粘稠性を有するコロイド状流体に関する。特に、本発明は、せん断粘稠性を発現する物質がウイスカ粒子のみから本質的になる、せん断粘稠性を有するコロイド状流体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、応力が加えられたときに粘度が上昇し、加えられる応力が大きいほど粘度が高くなる特性、即ちダイラタンシー性を有する流体が開示されている(特許文献1〜特許文献3)。
例えば、特許文献1及び3は、真球に近い微粒子を用いてダイラタンシー性を有する流体を提供することを開示している。また、特許文献2は、ダイラタンシー性を有する流体、即ちシリコーン化合物を用いる、複写機の紙搬送部用ダンパを開示している。
【特許文献1】特開平10−330627号公報。
【特許文献2】特開2000−16636号公報。
【特許文献3】特開2004−231768号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、これらの文献に開示されるダイラタンシー性を有する流体は、粘性にのみ着目している。一方、ダンパなどの緩衝器;制振・防振装置;トルクコンバータ等の伝達器;などの力制御装置においては、粘性のみに着目するだけではなく、外力に抗する反発力を発現する弾性をも有する流体特性が強く求められている。これらの力制御装置に用いられる流体が、粘性と共に、弾性を有することにより、力制御装置自体をコンパクトに且つ高性能に設計することができる。
【0004】
そこで、本発明の目的は、せん断粘稠性を有する流体を提供することにある。
また、本発明の目的は、上記目的以外に、又は上記目的に加えて、せん断粘稠性を有する流体を用いた力制御装置を提供することにある。
さらに、本発明の目的は、上記目的以外に、又は上記目的に加えて、せん断粘稠性を有する流体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、次の発明を見出した。
【0006】
<1> せん断粘稠性を発現する物質がウイスカ粒子のみから本質的になる、せん断粘稠性を有するコロイド状流体。
<2> 上記<1>において、ウイスカ粒子の短軸aと長軸bとの長さの比b/aが、7以上200以下であるのがよい。
<3> 上記<1>又は<2>において、ウイスカ粒子の短軸aと長軸bとの長さの比b/aが、10以上150以下であるのがよい。
【0007】
<4> 上記<1>〜<3>のいずれかにおいて、ウイスカ粒子が、炭素繊維、カーボンファイバ、カーボンナノファイバ、カーボンナノチューブ、炭酸カルシウム、ホウ酸アルミニウム及びチタン酸カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有するのがよい。
<5> 上記<1>〜<4>のいずれかにおいて、ウイスカ粒子のコロイド状流体における容積濃度が、該ウイスカ粒子の嵩容積の0.5〜12倍であるのがよい。
<6> 上記<1>〜<5>のいずれかにおいて、ウイスカ粒子のコロイド状流体における容積濃度が、該ウイスカ粒子の嵩容積の0.8〜10倍であるのがよい。
【0008】
<7> 上記<1>〜<6>のいずれかにおいて、せん断粘稠性は、負荷するせん断応力と該せん断応力に対する複素弾性率の絶対値との関係において、該絶対値が2倍以上、例えば5倍以上、例えば10倍以上に上昇するせん断応力範囲が存在し、且つ該せん断応力範囲がせん断応力始点値Aからせん断応力終点値10Aまでの範囲、例えばA〜5Aまでの範囲、例えばA〜2Aまでの範囲であるのがよい。
<8> 上記<1>〜<7>のいずれかに記載されるコロイド状流体を有する力制御装置。
<9> 上記<8>において、力制御装置は、緩衝器;制振・防振装置;力伝達器;及び制御器からなる群から選ばれるのがよい。緩衝器として、ダンパ、ショックアブソーバ、サスペンション、ブレーキなどを挙げることができるがこれに限定されない。力伝達器として、トルクコンバータ及びクラッチなどを挙げることができるが、これに限定されない。制御器として、ブレーキなどを挙げることができるが、これに限定されない。
【0009】
<10> 上記<1>〜<7>のいずれかに記載されるコロイド状流体の製造方法であって、該方法は、
ウイスカ粒子を分散媒に分散し分散前駆体を得る工程;及び
該分散前駆体を遠心力又は自然沈降により得られる下層沈降部をコロイド状流体として得る工程;を有する、上記方法。
<11> 上記<10>において、下層沈降部を、分散媒と同じであっても異なってもよい分散媒で希釈して該希釈物をコロイド状流体として得る工程をさらに有するのがよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、せん断粘稠性を有する流体を提供することができる。
また、本発明により、上記効果以外に、又は上記効果に加えて、せん断粘稠性を有する流体を用いた力制御装置を提供することができる。
さらに、本発明により、上記効果以外に、又は上記効果に加えて、せん断粘稠性を有する流体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、せん断粘稠性を有するコロイド状流体を提供する。特に、本発明は、せん断粘稠性を発現する物質がウイスカ粒子のみから本質的になる、せん断粘稠性を有するコロイド状流体を提供する。本願において、「のみから本質的になる」とは、せん断粘稠性を発現する物質がウイスカ粒子のみであることを意味し、せん断粘稠性に影響を及ぼさない物質がコロイド状流体に含まれていてもよいことを意味する。
【0012】
本願において、せん断粘稠性とは、せん断応力の増大下において複素弾性率の絶対値(|G|)が上昇変化する特性をいう。ここで、複素弾性率とは、容器中の流体が、せん断応力によって往復運動及び/又は振動運動するときの抵抗力を示し、損失弾性率(粘性項:G”)と貯蔵弾性率(弾性項:G’)との間において、以下の関係を有する。
【0013】
【数1】

【0014】
上述の式からわかるように、複素弾性率の絶対値(|G|)は、流体の弾性的性質も加味されており、流動が一方向の抵抗力を表現する粘度よりも、流体デバイス設計、特にダンパ、ショックアブソーバ等の後述する力制御装置への応用に関して有用である。即ち、せん断応力の増大下に複素弾性率の絶対値|G|が増加することは、振動外力の増大に対して、ある外力値で急に大きな抵抗力が発現することを意味する。このため、上述のように、ダンパやショックアブソーバなどの力制御装置への応用に有用である。
【0015】
本発明において、特に次のような特性を有するせん断粘稠性であるのがよい。即ち、負荷するせん断応力と該せん断応力に対する複素弾性率の絶対値との関係において、該絶対値が2倍以上、例えば5倍以上、例えば10倍以上に上昇するせん断応力範囲が存在し、且つ該せん断応力範囲はせん断応力始点値Aからせん断応力終点値10Aまでの範囲であるのがよい。なお、せん断応力始点値A及びせん断応力終点値10Aにおける「A」の値は、流体によって異なる。
【0016】
せん断応力範囲は、本発明のコロイド状流体を用いる装置に依存して、即ち用いる装置の特性と目的に対応して、より狭い範囲とすることができる。例えば、目的とするせん断応力値を境として、その前後で複素弾性率の絶対値が大きく変化する流体は、クラッチ機構などに用いることができる。この場合、目的せん断応力値の前後で力伝達をOn−Offすることが可能となる。また、せん断応力範囲を比較的広範囲とすることもできる。即ち、徐々に増加するせん断応力に対応して、複素弾性率の絶対値が徐々に上昇変化する流体は、ショックアブソーバ機構などに用いることができる。この場合、付加されるせん断応力に対応して、自らダンピング性能を可変とする、インテリジェントなショックアブソーバ機構などを提供することができる。
したがって、せん断応力範囲を、本発明のコロイド状流体を用いる装置に依存して、例えばせん断応力始点値A〜せん断応力終点値5Aとすることができる。また、せん断応力範囲を、例えばせん断応力始点値A〜せん断応力終点値2Aとすることができる。なお、10A、5A、2Aとは、せん断応力始点値を「A」とした場合、その値のそれぞれ10倍、5倍、2倍の値を意味する。
このように、複素弾性率が、上述の狭いせん断応力範囲で、上述のように増加方向に大きく変化することにより、後述する力制御装置に有用となる。
【0017】
本発明における「せん断粘稠性」について、図を用いて、より詳細に説明する。上述のように、せん断粘稠性とは、せん断応力の増大下において複素弾性率の絶対値(|G|)が上昇変化する特性をいう。したがって、せん断応力が増大する状況下で、|G|が上昇するのであれば、せん断応力の増大の範囲は限定されない。例えば、図1は、後述の実施例におけるコロイド状流体Bについてのせん断粘稠性を示す図であるが、この図1のように、せん断応力の広い範囲において、複素弾性率が上昇し続けるものも、「せん断粘稠性」を有する。また、図2は、後述の実施例におけるコロイド状流体Nについてのせん断粘稠性を示す図であるが、この図2のように、せん断応力の狭い範囲において、複素弾性率が上昇変化するものも、「せん断粘稠性」を有する。
【0018】
また、本発明のコロイド状流体は、本発明のコロイド状流体を用いる装置に依存して、複素弾性率の絶対値(|G|)の上昇変化が2倍以上、例えば5倍以上、例えば10倍以上であるのが好ましい場合がある。また、複素弾性率の絶対値(|G|)の上昇変化は、あるせん断応力範囲に存在するのがよく、例えばせん断応力始点値Aからせん断応力終点値10Aまでの範囲、せん断応力始点値Aからせん断応力終点値5Aまでの範囲、せん断応力始点値Aからせん断応力終点値2Aまでの範囲にあるのがよい。
【0019】
このことを上述の図1及び図2を用いて説明する。図1において、せん断応力始点値A(せん断応力:約10Pa)において、流体Bは、複素弾性率の絶対値が約1Paである。流体Bは、Aの10倍のせん断応力:100Paにおいて、複素弾性率の絶対値が約6Paである。始点値A(せん断応力:約10Pa)〜終点値A、即ち10A(せん断応力:100Pa)において、複素弾性率の絶対値(|G|)が約6倍上昇変化している。したがって、流体Bは、複素弾性率の絶対値(|G|)の上昇変化が6倍であり、該変化が生じるせん断応力範囲が始点値A(せん断応力:約10Pa)〜終点値10A(せん断応力:100Pa)とすることができる。
【0020】
また、図2において、せん断応力始点値A(せん断応力:約420Pa)において、流体Nは、複素弾性率の絶対値が約12Paである。流体Nは、Aの1.8倍のせん断応力:750Pa(A)において、複素弾性率の絶対値が約50Paである。始点値A(せん断応力:約420Pa)〜終点値A、即ち1.8A(せん断応力:750Pa)において、複素弾性率の絶対値(|G|)が約4.2倍上昇変化している。したがって、流体Nは、複素弾性率の絶対値(|G|)の上昇変化が約4.2倍であり、該変化が生じるせん断応力範囲が始点値A(せん断応力:約420Pa)〜終点値1.8A(せん断応力:750Pa)とすることができる。
【0021】
本発明において、ウイスカ粒子は、針状粒子であり、その短軸aと長軸bとの長さの比b/aが、7以上200以下、好ましくはで10以上150以下あるのがよい。
【0022】
ウイスカ粒子として、炭素繊維、カーボンファイバ、カーボンナノファイバ、カーボンナノチューブ、炭酸カルシウム、ホウ酸アルミニウム及びチタン酸カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を挙げることができるが、これに限定されない。
【0023】
本発明において、ウイスカ粒子のコロイド状流体における容積濃度が、該ウイスカ粒子の嵩容積の0.5〜12倍、好ましくは0.8〜10倍であるのがよい。ここで、容積濃度とは、コロイド状流体全容積中のウイスカ粒子の容積をいう。また、ウイスカ粒子の嵩容積とは、粒子の空気中の嵩密度を該粒子の真密度で除したものをいう。なお、容積濃度の単位は、(cm/cm)などで表すことができる。また、嵩容積の単位も、(cm/cm)等で表すことができる。
コロイド状流体におけるウイスカ粒子の容積濃度が、上述の範囲にあることにより、該流体はせん断粘稠性を示す。
【0024】
本発明のコロイド状流体は、ウイスカ粒子を分散し得る分散媒を有する。分散媒として、用いるウイスカ粒子を分散しうるものであれば、特に限定されない。例えば、分散媒として、水、各種有機溶媒、油、シリコーンオイルなどを挙げることができるが、特に限定されない。また、分散媒は、上述の混合物であってもよい。
【0025】
本発明のコロイド状流体は、「コロイド状流体」であることを要する。即ち、2液に分離するもの、上澄層を有するような不均一な流体は、「コロイド状流体」に含まれない。
【0026】
本発明のコロイド状流体は、ウイスカ粒子及び分散媒の他、せん断粘稠性を損なわない範囲で、各種の添加剤を有してもよい。例えば、本発明のコロイド状流体は、分散剤、分散安定剤、界面活性剤、分散助剤、再凝集防止剤、粘度調整剤、着色剤、防腐・防黴剤などを有してもよい。
【0027】
上述の本発明のコロイド状流体は、例えば次のように製造することができる。但し、これに限定されない。
即ち、本発明のコロイド状流体の製法は、
ウイスカ粒子を分散媒に分散し分散前駆体を得る工程;及び
該分散前駆体を遠心力又は自然沈降により得られる下層沈降部をコロイド状流体として得る工程;を有する。
【0028】
また、得られた下層沈降部は、上述のように、そのままコロイド状流体として用いることができるが、さらに、分散媒と同じであっても異なってもよい分散媒で該下層沈降部を希釈して該希釈物をコロイド状流体として得る工程を有してもよい。
なお、上記方法において、ウイスカ粒子、分散媒などは、上述と同様のものを用いることができる。また、上述のように、各種の添加剤を有してもよい。各種の添加剤は、分散前駆体を得る工程と同時に、又はその後、又はコロイド状流体を得る工程と同時に、又はその後、添加することができる。
【0029】
上述する本発明のコロイド状流体は、力制御装置に応用することができる。即ち、本発明は、上述のコロイド状流体を有する力制御装置を提供する。
力制御装置として、ダンパ、ショックアブソーバ、サスペンション、ブレーキなどの緩衝器;制振・防振装置;トルクコンバータ及びクラッチなどの力伝達器;ブレーキなどの制御器;を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0030】
本発明の装置は、コロイド状流体のせん断粘稠性により、次のように用いることができる。
<ダンパやショックアブソーバ、サスペンション、ブレーキ等の緩衝器>
小さな外部力の場合には、緩衝器中のせん断粘稠性流体は通常液体と同様に、外部応力に応じた流動抵抗を示す。外部力が、せん断粘稠性を示すように設計された応力値となると、せん断粘稠性流体の流動抵抗は著しく増加し、優れた緩衝性を示す。即ち、設計値よりも小さな外部力の場合にはスムーズに駆動するが、外部力が設計値となるとせん断粘稠性流体は大きな流動抵抗となって、優れた緩衝機能を発揮する。
【0031】
<制振・防振装置>
建物の耐震性を高める方法として、建物の柱と柱の間に斜めに渡す補強材である「筋交い」を用い、建物の剛性を向上させる場合がある。しかし、大地震等による大きな振動の場合、剛性を上げたことで振動エネルギーの吸収ができず、梁や柱など構造物の破壊に繋がることがある。この問題を解決するため、「筋交い」などに制震(制振)装置を配置し、大きな振動エネルギーを、制震装置中のせん断粘稠化流体の流動抵抗が著しく増加することで吸収する。これによって建物の振動を制限し、且つ梁や柱など構造物へのダメージを抑える。
【0032】
<トルクコンバータやクラッチのような力伝達器>
近接して相対移動する2個の物体間に配置され、高いずり速度のもとでは高いトルクを伝達し、低いずり速度のもとでは空回り状態となり伝達しない。
【0033】
<ブレーキ等のような制御器>
外力の大小により、制動制御が可能となる。人力式車椅子の場合、下り坂では下り方向に働く重力による車輪の回転力にブレーキをかけながら下るのが普通である。しかし、手腕力に劣る老人や障害者には、ブレーキを操作することは困難な場合が多い。大きな外力には抵抗となり、小さな場合にはスムーズに駆動するブレーキがあれば、この問題は解決する。即ち、大きな外力=重力の場合には、せん断粘稠性流体は大きな抵抗となってブレーキ機能を発揮し、重力に抗して人力が加えられ下り方向への車輪が回転制御されるときには、せん断粘稠性は小さく、ブレーキ機能とはならずに、スムーズに車輪は回転可能となる。よって、外力の大小に感応してブレーキ機能が調整可能な制御器が可能となる。
【0034】
以下、実施例に基づいて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0035】
表1記載のウイスカ状ホウ酸アルミニウム粒子を、少量の分散剤(カルボキシメチルセルロース(CMC))とともに良く撹拌・分散した後、15分間超音波撹拌を行った。その後、3000Gで4時間遠心分離した後、上澄み液をデカンタし、表2記載のコロイド状流体Aを、0.342体積濃度(34.2vol%)を得た。
このコロイド状流体Aを水で希釈して、0.218体積濃度(21.8vol%)のコロイド状流体Bを得た。また、これらコロイド流体の体積濃度と、用いたウイスカ状粒子の嵩容積の比も表2に示す。
【0036】
また、得られたコロイド状流体A及びBの、せん断応力下での複素弾性率の絶対値を測定した。測定温度は25℃であり、測定には外筒半径11mm、内筒半径10mm、高さ30mmの二重円筒センサー部を有するレオメータ(独Haake社製 RheoStress 75)を用いた。センサー部に測定するコロイド状流体を充填し、0.5Hzの一定周波数下で、せん断応力(振動応力)を1Paから300Paまで増加させながら、動的粘弾性測定モードで、複素弾性率の絶対値を測定した。コロイド状流体A及びBの測定結果を、それぞれ図3及び図4に示す。
【0037】
図3から、コロイド状流体Aは、せん断応力が約30Pa近辺において、複素弾性率の絶対値が大きく変化していることがわかる。
また、図4から、コロイド状流体Bは、せん断応力10Pa〜100Paにおいて、複素弾性率の絶対値が2倍以上(約1Paから約6Paへと)変化していることがわかる。
図3及び図4から、コロイド状流体A及びBは、せん断粘稠性を有することがわかる。
【実施例2】
【0038】
実施例1で用いたウイスカ状ホウ酸アルミニウム粒子の代わりに、表1記載のウイスカ状炭酸カルシウム粒子を用いた以外、実施例1と同様に、0.351体積濃度(35.1vol%)のコロイド状流体Cを得た。
このコロイド状流体Cを水で希釈して、0.180体積濃度(18.0vol%)のコロイド状流体Dを得た。
コロイド流体C及びDについての体積濃度と、用いたウイスカ状粒子の嵩容積の比も表2に示す。また、得られたコロイド状流体C及びDの、せん断応力下での複素弾性率の絶対値の測定を実施例1と同様に行った。その結果を図5及び図6に示す。
【0039】
図5から、コロイド状流体Cは、せん断応力が約70Pa近辺において、複素弾性率の絶対値が大きく変化していることがわかる。
また、図6から、コロイド状流体Dも、せん断応力約70〜80Pa近辺において、複素弾性率の絶対値が大きく変化していることがわかる。
図5及び図6から、コロイド状流体C及びDは、せん断粘稠性を有することがわかる。
【実施例3】
【0040】
少量の分散安定剤(ポリビニルアルコール溶液)を、少量の分散剤とともに、分散媒である水へ混合した以外、実施例1と同様に、0.290体積濃度(29.0vol%)のコロイド状流体Eを得た。
コロイド流体E及びFについての体積濃度と、用いたウイスカ状粒子の嵩容積の比も表2に示す。また、得られたコロイド状流体E及びFの、せん断応力下での複素弾性率の絶対値の測定を実施例1と同様に行った。その結果を図7及び図8に示す。
【0041】
図7から、コロイド状流体Eは、せん断応力10Pa〜100Paにおいて、複素弾性率の絶対値が2倍以上(約1Paから約10Paへと)変化していることがわかる。
また、図8から、コロイド状流体Fは、せん断応力約50〜100Pa近辺において、複素弾性率の絶対値が大きく変化していること(約0.08Paから約0.5Pa)がわかる。
図7及び図8から、コロイド状流体E及びFは、せん断粘稠性を有することがわかる。
【実施例4】
【0042】
実施例3のウイスカ状ホウ酸アルミニウム粒子の代わりに、実施例2で用いたウイスカ状炭酸カルシウム粒子を用いた以外、実施例3と同様に、0.268体積濃度(26.8vol%)のコロイド状流体Gを得た。
このコロイド状流体Gを水で希釈して、0.205体積濃度(20.5vol%)のコロイド状流体Hを得た。
コロイド流体G及びHについての体積濃度と、用いたウイスカ状粒子の嵩容積の比を表2に示す。また、得られたコロイド状流体G及びHの、せん断応力下での複素弾性率の絶対値の測定を実施例1と同様に行った。その結果を図9及び図10に示す。
【0043】
図9から、コロイド状流体Gは、せん断応力10Pa〜100Paにおいて、複素弾性率の絶対値が2倍以上(約2Paから約10Paへと)変化していることがわかる。
また、図10から、コロイド状流体Hは、せん断応力約10Pa〜100Paにおいて、複素弾性率の絶対値が2倍以上(約1Paから約10Paへと)変化していることがわかる。
図9及び図10から、コロイド状流体G及びHは、せん断粘稠性を有することがわかる。
【実施例5】
【0044】
実施例3で用いたウイスカ状ホウ酸アルミニウム粒子の代わりに、表1記載の気相法炭素繊維2を用い、少量の分散剤としてCMCの代わりに高分子型活性剤(花王株式会社製、商品名:デモールP)を用いた以外、実施例1と同様に、15分間超音波撹拌を行った。その後、室温で1週間自然放置後、上澄み液をデカンタし、0.150体積濃度(15.0vol%)のコロイド状流体Iを得た。
このコロイド状流体Iを水で希釈して、0.095体積濃度(9.5vol%)のコロイド状流体Jを得た。
コロイド流体I及びJについての体積濃度と、用いたウイスカ状粒子の嵩容積の比を表2に示す。また、得られたコロイド状流体I及びJの、せん断応力下での複素弾性率の絶対値の測定を実施例1と同様に行った。その結果を図11及び図12に示す。
【0045】
図11から、コロイド状流体Iは、せん断応力約50Pa〜約200Paにおいて、複素弾性率の絶対値が2倍以上(約29Paから約70Paへと)変化していることがわかる。
また、図12から、コロイド状流体Jは、せん断応力約2Pa〜20Paにおいて、複素弾性率の絶対値が2倍以上(約1.9Paから約4.1Paへと)変化していることがわかる。
図11及び図12から、コロイド状流体I及びJは、せん断粘稠性を有することがわかる。
【実施例6】
【0046】
実施例5で用いた気相法炭素繊維2の代わりに、表1記載の気相法炭素繊維1を用いた以外、実施例5と同様に、0.084体積濃度(8.4vol%)のコロイド状流体Kを得た。
このコロイド状流体Kを水で希釈して、0.042体積濃度(4.2vol%)のコロイド状流体Lを調製した。
コロイド流体K及びLについての体積濃度と、用いたウイスカ状粒子の嵩容積の比を表2に示す。また、得られたコロイド状流体K及びLの、せん断応力下での複素弾性率の絶対値の測定を実施例1と同様に行った。その結果を図13及び図14に示す。
【0047】
図13から、コロイド状流体Kは、せん断応力約1Pa〜2.5Paにおいて、複素弾性率の絶対値が大きく変化していること(1500Paから45000Pa)がわかる。
また、図14から、コロイド状流体Lは、せん断応力約10Pa〜100Paにおいて、複素弾性率の絶対値が2倍以上(約8Paから約40Pa)変化していることがわかる。
図13及び図14から、コロイド状流体K及びLは、せん断粘稠性を有することがわかる。
【実施例7】
【0048】
実施例5で用いた気相法炭素繊維2を、100cpsのジメチルシリコン油とともに良く撹拌・分散した後、15分間超音波撹拌を行った。その後、3000Gで4時間遠心分離した後、上澄み液をデカンタし、0.063体積濃度(6.3vol%)のコロイド状流体Mを得た。
このコロイド状流体Mを、100cpsのジメチルシリコン油で希釈して、0.040体積濃度(4.0vol%)のコロイド状流体Nを得た。
コロイド流体M及びNについての体積濃度と、用いたウイスカ状粒子の嵩容積の比を表2に示す。また、得られたコロイド状流体M及びNの、せん断応力下での複素弾性率の絶対値の測定を実施例1と同様に行った。その結果を図15及び図16に示す。
【0049】
図15から、コロイド状流体Mは、せん断応力約2.4Pa〜4.2Paにおいて、複素弾性率の絶対値が大きく変化していること(約98,000Paから1,200,000Pa)がわかる。
また、図16から、コロイド状流体Nは、せん断応力約420Pa〜750Paにおいて、複素弾性率の絶対値が2倍以上(約12Paから約50Pa)変化していることがわかる。
図15及び図16から、コロイド状流体M及びNは、せん断粘稠性を有することがわかる。
【0050】
(比較例1)
実施例1で用いたウイスカ状ホウ酸アルミニウム粒子の代わりに、表1記載の球状コロイダルシリカ粒子を用いた以外、実施例1と同様に、0.290体積濃度(29.0vol%)のコロイド状流体Oを得た。
このコロイド状流体Oを水で希釈して、0.05体積濃度(5.0vol%)のコロイド状流体Pを得た。
また、実施例7で用いた気相法炭素繊維2を球状コロイダルシリカ粒子に代えた以外、実施例7と同様に、0.200体積濃度(20.0vol%)のコロイド状流体Qを得た。
コロイド流体O、P及びQについての体積濃度と、用いたウイスカ状粒子の嵩容積の比を表2に示す。また、得られたコロイド状流体O、P及びQの、せん断応力下での複素弾性率の絶対値の測定を実施例1と同様に行った。その結果を図17及び図18に示す。なお、コロイド流体Pの複素弾性率の絶対値は、用いたレオメータの測定限界0.01Pa以下であり、測定不能であったため、図示しない。
【0051】
図17から、コロイド状流体Oは、せん断応力の値が増加すると共に複素弾性率の絶対値が漸減することがわかる。
また、図18から、コロイド状流体Qも、せん断応力の値が増加すると共に複素弾性率の絶対値が漸減することがわかる。なお、コロイド状流体Qは、せん断応力約10Pa〜20Paにおいて、複素弾性率の絶対値が大きく減少することがわかる。
図17及び図18から、コロイド状流体O及びQは、せん断粘稠性を有しないことがわかる。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】コロイド状流体Bのせん断粘稠性を示すグラフであり、本発明における「せん断粘稠性」について説明する図である。
【図2】コロイド状流体Nのせん断粘稠性を示すグラフであり、本発明における「せん断粘稠性」について説明する図である。
【図3】コロイド状流体Aのせん断粘稠性を示すグラフである。
【図4】コロイド状流体Bのせん断粘稠性を示すグラフである。
【図5】コロイド状流体Cのせん断粘稠性を示すグラフである。
【図6】コロイド状流体Dのせん断粘稠性を示すグラフである。
【図7】コロイド状流体Eのせん断粘稠性を示すグラフである。
【図8】コロイド状流体Fのせん断粘稠性を示すグラフである。
【図9】コロイド状流体Gのせん断粘稠性を示すグラフである。
【図10】コロイド状流体Hのせん断粘稠性を示すグラフである。
【図11】コロイド状流体Iのせん断粘稠性を示すグラフである。
【図12】コロイド状流体Jのせん断粘稠性を示すグラフである。
【図13】コロイド状流体Kのせん断粘稠性を示すグラフである。
【図14】コロイド状流体Lのせん断粘稠性を示すグラフである。
【図15】コロイド状流体Mのせん断粘稠性を示すグラフである。
【図16】コロイド状流体Nのせん断粘稠性を示すグラフである。
【図17】コロイド状流体Oのせん断応力と複素弾性率の絶対値との関係を示すグラフである。
【図18】コロイド状流体Qのせん断応力と複素弾性率の絶対値との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
せん断粘稠性を発現する物質がウイスカ粒子のみから本質的になる、せん断粘稠性を有するコロイド状流体。
【請求項2】
前記ウイスカ粒子の短軸aと長軸bとの長さの比b/aが、7以上200以下である請求項1記載のコロイド状流体。
【請求項3】
前記ウイスカ粒子の短軸aと長軸bとの長さの比b/aが、10以上150以下である請求項1又は2記載のコロイド状流体。
【請求項4】
前記ウイスカ粒子が、炭素繊維、カーボンファイバ、カーボンナノファイバ、カーボンナノチューブ、炭酸カルシウム、ホウ酸アルミニウム及びチタン酸カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する請求項1〜3のいずれか1項記載のコロイド状流体。
【請求項5】
前記ウイスカ粒子の前記コロイド状流体における容積濃度が、該ウイスカ粒子の嵩容積の0.5〜12倍である請求項1〜4のいずれか1項記載のコロイド状流体。
【請求項6】
前記ウイスカ粒子の前記コロイド状流体における容積濃度が、該ウイスカ粒子の嵩容積の0.8〜10倍である請求項1〜5のいずれか1項記載のコロイド状流体。
【請求項7】
前記せん断粘稠性は、負荷するせん断応力と該せん断応力に対する複素弾性率の絶対値との関係において、該絶対値が2倍以上に上昇するせん断応力範囲が存在し、且つ該せん断応力範囲がせん断応力始点値Aからせん断応力終点値10Aまでの範囲である請求項1〜6のいずれか1項記載のコロイド状流体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項記載のコロイド状流体を有する力制御装置。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項記載のコロイド状流体の製造方法であって、該方法は、
ウイスカ粒子を分散媒に分散し分散前駆体を得る工程;及び
該分散前駆体を遠心力又は自然沈降により得られる下層沈降部をコロイド状流体として得る工程;を有する、上記方法。
【請求項10】
前記下層沈降部を、前記分散媒と同じであっても異なってもよい分散媒で希釈して該希釈物をコロイド状流体として得る工程をさらに有する請求項9記載の方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2007−117929(P2007−117929A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−315751(P2005−315751)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(000231589)ニスカ株式会社 (568)
【出願人】(395016615)有限会社新技術マネイジメント (2)
【Fターム(参考)】