説明

ねじの締結方法

【課題】締結部材への雄ねじのねじ込みに加熱を利用する締結方法により、簡単な方法で、ワンタッチで容易に締結することができ、しかも緩み止めを確実に行うことができる。
【解決手段】合成樹脂よりなる締結部材を加熱し、締結部材に頭部を有する雄ねじのねじ部をねじ込み、締結部材に雌ねじが形成される際、加熱にて軟化した合成樹脂を雄ねじと雌ねじのフランク面間に流入させるようにし、しかも、締結部材の合成樹脂を加熱する温度を雄ねじの頭部に作用する軸力に応じて制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、部材間の締め付け固定に用いられ、締付固定後のねじが緩むことがないようにしたねじの締結方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ねじは、強力な結合部を作り出すために多くの分野で使用される。例えばアルミダイキャスト、亜鉛ダイキャスト、更には合成樹脂材等の比較的軟質な各種部材に形成した下穴にねじ込むことにより、ワークの下穴内面に雄ねじに対応した雌ねじを形成し、この雄ねじと雌ねじの結合による締付力によって前記各種部材に締結することが広く行われている。
【0003】
このようなねじにおいては、部材に予め形成した下穴に対して、この下穴よりも幾分大きな最大外径を有するねじ山を備えた雄ねじをねじ込むことによって、下穴の内周面に雌ねじを形成することとなるが、このようなタッピングねじにおいては、例えば特開平10−103321号公報に示される様に、雄ねじの外周の一部に切り欠きを設け、雄ねじを下穴内にねじ込むとき、切り欠きの端部によって下穴の内周面を削ることによってタッピング作用を行い、雌ねじを形成することが行われている。このようなタッピングねじにおいては、最終的にねじ込まれた状態では、この切り欠き部にワークの素材の弾性変形の戻りによって素材の一部が入り込み、ねじの戻り防止作用を生じさせることも考慮されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−103321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような雄ねじに形成した切り欠きによるタッピング作用によって雌ねじを形成するものは、雄ねじの構造が複雑で、しかも雄ねじを回転させてねじ込む際、抵抗が大きくなり作業時間を要する。また、タッピング時にワークの下穴の内周面を削ることによって微細な切り粉としての雌ねじ成形屑が飛び散り電子部品等に付着することがある。
【0006】
この発明は、かかる点に鑑みなされたもので、簡単な方法で、ワンタッチで容易に締結することができ、しかもタッピング作用で雌ねじを形成する締結方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決し、かつ目的を達成するために、この発明は、以下のように構成されている。
【0008】
請求項1に記載の発明は、合成樹脂よりなる締結部材を加熱し、頭部を有する雄ねじのねじ山をねじ込み、前記締結部材に雌ねじが形成される際、加熱にて軟化した前記合成樹脂を前記雄ねじと前記雌ねじのフランク面間に流入させたことを特徴とする締結方法である。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の締結方法であって、
前記雄ねじの前記頭部に作用する軸力に応じて、前記締結部材の合成樹脂を加熱する温度を制御するようにしたことを特徴とする締結方法。
【発明の効果】
【0010】
前記構成により、この発明は、以下のような効果を有する。
【0011】
請求項1に記載の発明では、合成樹脂よりなる締結部材を加熱し、頭部を有する雄ねじのねじ山をねじ込み、前記締結部材に雌ねじが形成される際、加熱にて軟化した前記合成樹脂が前記雄ねじと前記雌ねじのフランク面間に流入し、ねじ込みの終了後、流れ込んだ部分の温度が下がって固定される。このように、簡単な方法で、ワンタッチで容易に、しかもタッピング作用で雌ねじを形成することがないため、内周面を削ることによって生じる微細な切り粉としての雌ねじ成形屑の発生をなくすことができる。
【0012】
請求項2に記載の発明では、前記雄ねじの前記頭部に作用する軸力に応じて、前記締結部材の合成樹脂を加熱する温度を制御するようにしたことで、締結部材の締付時には、前記雄ねじのねじ込みの軸力を小さくできるとともに、ねじ込み速度が通常より速くなり、前記雄ねじと前記雌ねじのフランク面間の隙間が生じなく、確実に固着させることができ、緩み止めを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施の形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明の締付方法の実施の形態について説明する。この発明の実施の形態は、発明の最も好ましい形態を示すものであり、この発明はこれに限定されない。
【0015】
[実施の形態]
この発明の実施の形態を、図1のねじの締結状態を示す断面図に基づいて説明する。
【0016】
この実施の形態の雄ねじ1においては、上端面にねじ回転工具5と係合して雄ねじ1にねじ込み力、或いは戻し力を伝達する前記ねじ回転工具5の係合部31を有する頭部3と、この頭部3と一体に連なるねじ部2とからなっており、このねじ部2にはねじ山21とねじ谷22が所定ピッチで螺旋状に形成されている。このねじ山21とねじ谷22のピッチは、例えば0.25mm〜0.45mmに設定されるが、これに限定されず任意設定可能である。
このねじ部2のねじ山21の外周形状は円形で、加熱可能な金属材料、例えばステンレスにより成形され、ねじ山21の径は頭部3の径より小径である。
【0017】
前記雄ねじ1がねじ込まれる締結部材10は、合成樹脂で成形される。この合成樹脂としては、熱によって軟化する熱可塑性樹脂が用いられ、例えばオレフィン、ポリオレフィンなどがあり、この合成樹脂は発熱素子71を有する加熱装置7により加熱されている。なお、前記加熱装置7は前記合成樹脂を軟化させることができる温度を発生することができる装置であればよい。
【0018】
前記加熱装置7の前記発熱素子71からの熱が前記雄ねじ1に伝わるように接続され、前記雄ねじ1を介して前記締結部材10を加熱することにより前記合成樹脂が軟化し、前記締結部材10に前記雄ねじ1の前記ねじ部2がねじ込まれ、前記締結部材10の内部に雌ねじ4が形成される。この雌ねじ4が形成される際、軟化した合成樹脂が前記ねじ谷22に流れ込む。
【0019】
なお、前記締結部材10に取付孔を設けて前記雄ねじ1をねじ込んでもよく、この場合の前記ねじ部2の前記ねじ山21の径より前記取付孔の径を小径にしておくことが好ましい。
【0020】
前記ねじ回転工具5には圧電素子51を内蔵し、この圧電素子51が前記雄ねじ1の前記頭部3に作用する軸力を検出し、この検出値が入力される制御部8より前記加熱装置7の前記発熱素子71を制御して、前記雄ねじ1の前記頭部3に作用する軸力に応じた軟化状態が得られるように前記締結部材10の合成樹脂が加熱される。
【0021】
なお、前記加熱装置7を前記ねじ回転工具5に接続してもよいし、また前記締結部材10を直接加熱して、合成樹脂を軟化させて前記ねじ部2の前記ねじ谷22に流れ込ませてもよい。
【0022】
前記雄ねじ1のねじ込みの終了後、前記締結部材10が軟化して前記ねじ谷22に入り込んだ部分の温度が下がって固定される。このように、前記雄ねじ1のねじ込みで、軟化した合成樹脂が流動して、前記ねじ谷22に流れ込むことによって固定されるから、前記締結部材10に形成される前記雌ねじ4への反力が少なくなり、したがって前記締結部材10の合成樹脂の疲労を少なくすることができ、例えば前記雄ねじ1の取付けボス部の肉厚を薄くすることで装置の小型化が可能である。
【0023】
このように、簡単な方法で、ワンタッチで容易に、前記雄ねじ1を前記締結部材10に締結することができ、しかもタッピング作用で前記雌ねじ4を形成することがなく、内周面を削ることによって生じる微細な切り粉としての前記雌ねじ成形屑の発生を軽減することができる。
【0024】
また、戻り側フランク面のフランク角、即ちねじ込む際の圧力を受ける側のフランク角度を小さく設定すると、ねじ込み時における軟化した合成樹脂が戻り側フランク面を円滑に流動し、それによってもねじ込みトルクを低下させることができる。
【0025】
この実施の形態では、図1に示すように、前記加熱装置7により前記雄ねじ1を介して前記締結部材10を局部的に加熱して軟化させ、前記雄ねじ1を被固定部材6に形成した貫通孔61に挿通し、加熱した前記締結部材10にねじ込んで締め付けることにより、前記被固定部材6を前記締結部材10と前記雄ねじ1の前記頭部3との間に挟んで固定する。
【0026】
したがって、このときのねじ込みには、前記雄ねじ1と加熱した前記締結部材10に特に大きな摩擦を発生することなくねじ込まれていき、加熱した前記締結部材10の内部構造を切断・破壊したりしないようにして容易にねじ込むことができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
この発明は、締結部材への雄ねじのねじ込みに加熱を利用する締結方法により、簡単な方法で、ワンタッチで容易に締結することができ、しかも緩み止めを確実に行うことができる。
【符号の説明】
【0028】
1 雄ねじ
2 ねじ部
3 頭部
4 雌ねじ
5 ねじ回転工具
7 加熱装置
8 制御部
10 締結部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂よりなる締結部材を加熱し、前記締結部材に頭部を有する雄ねじのねじ部をねじ込み、前記締結部材に雌ねじが形成される際、加熱にて軟化した前記合成樹脂を前記雄ねじと前記雌ねじのフランク面間に流入させることを特徴とする締結方法。
【請求項2】
前記雄ねじの前記頭部に作用する軸力に応じて、前記締結部材の合成樹脂を加熱する温度を制御するようにしたことを特徴とする請求項1記載の締結方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−172842(P2012−172842A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−49579(P2011−49579)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(511059678)