説明

ねじ部品自動締結機における動力伝達装置

【課題】ねじ部品締結完了後のドライバビットの強制逆転を可能にするねじ部品自動締結機における動力伝達装置を得る。
【解決手段】駆動軸2の周囲に配置された回転連結体22と固定部材7とのいずれか一方に、一端が突出したピン部材8を固定し、これが固定されていない他方の固定部材7あるいは回転連結体22に円周方向に沿う円形長溝形状の駆動伝達溝23を形成し、駆動伝達溝23にピン部材8を嵌め、駆動軸2と伝達軸6とは所定角度の範囲で回転が遮断される構成とし、一方、低速高トルク回転を強制的に接続あるいは遮断する電磁クラッチ33を回転接続部材31と伝達軸6との間に介在させ、高速低トルク駆動時には電磁クラッチ33が回転遮断状態となる構成であるので、最終ねじ締め完了時に、直ちにドライバビットは所定角度だけ僅か逆転し、ねじとドライバビットとの噛み込みが解消される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ねじ、ボルトあるいはナット等のねじ部品を最初は高速低トルク回転でねじ込み、続いてあらかじめ設定した最終締結トルクまで低速高トルクでワークにねじ部品を締結するねじ部品自動締結機であって、ねじ部品締結完了時に生じるねじ部品の駆動部へのドライバビットの噛み込みを解消する動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から一般的に良く知られているボルト、ナット、ねじ等のねじ部品締結機は、これらねじ部品を作業サイクル毎に自動供給し、ワークにねじ込むようにした機械がよく知られている。その一例としてのねじ締め機は、ねじの頭部に形成された十字あるいは六角穴のような矩形形状の駆動穴に係合可能なドライバビットを用い、このドライバビットを駆動軸を介して電動ドライバに連結した構成である。このねじ締め機でワークにねじをねじ込む場合、ねじの駆動穴にドライバビットを係合させた状態で電動ドライバを駆動する。これにより、ドライバビットからねじに回転力が伝達され、ねじはワークに締結されるようになっている。
【0003】
このようなねじ締め機は、高いねじ締め精度(バラツキの少ない締結トルク)を要求される所へのねじ締め作業にはあまり採用されていない。そこで、締結トルクの安定した部品締結機として最近使用されつつあるねじ部品締結機としては、図8に示すような締結機がある。これは特許文献1に示されているように、低速高トルクドライバ102及び高速低トルクドライバ103の二本を配置したねじ締め機であり、チャックユニット(図示せず)にねじが保持されてから低速高トルクドライバ102及び高速低トルクドライバ103を同時に駆動する。このとき、一方向クラッチ120により外輪121が内輪122に対してスリップするため、ドライバビット(図示せず)は駆動軸104を介して高速低トルクドライバ103のみの回転を受けて回転し、ねじを高速でねじ込むようになっている。この動作において、ねじがねじ込まれるにつれて高速低トルクドライバ103の回転数が低下して低速高トルクドライバ102の回転数よりも低下すると、一方向クラッチ120の作用により低速高トルクドライバ102の回転をギア連結されている駆動軸104に伝達し、低速で最終締結トルクに達するまでねじ込まれるようになっている。
【0004】
また、最近になって、図7に示すようなねじ締め機も開発されている。これは、後方に配置した駆動モータ204によりモータ軸の延長中心線上に位置しているドライブ軸205に直結状態の第1回転伝達経路220からねじ締め初期において回転を伝達してドライブ軸205を高速低トルク回転させ、ねじ部品を仮締めし、このねじ部品の座面がワーク(図示せず)に着座すると同時にモータ軸の回転方向を切り換え、回転動力の伝達経路が変更されて前記モータ軸の延長中心線の周囲に配置されている第2回転伝達経路230から低速高トルク回転が伝達されるように構成されたねじ締め機である(特許文献2参照)。このねじ締め機においては、ねじ締めのための駆動モータ204の回転方向が変更されたときに回転の伝達を通断するための一方向クラッチ211、221、231が三ヶ所に設けられており、これにより回転伝達経路の変更を滑らかに行うようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60−52268号公報
【特許文献2】特開2008−114303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これら部品締結機はいずれも所定締結トルクが適正に得られるようになっているが、最終ねじ締め完了時においてはいずれもねじの駆動穴にドライバビットが噛み込んだままであり、そのため、ねじ締め完了後に機械が上昇しようとすると、ワークがともに上昇することもあり、製品不良を招いている。また、これら機械にはいずれにも一方向クラッチが使用されていることからねじ締め完了時におけるドライバビットの捻れによる反力によってドライブ軸を逆転させようとすると、これらクラッチによりこの逆回転が阻止され、ねじ締め状態の解除が難しくなっている。更に、このような問題を抱えていることから最近のようにワークが比較的薄い場合において、部品の取り付けを自動化した場合にワークに損傷を生じることが多くなり、自動化が進展し難い等の課題を生じている。
【0007】
本発明の目的は、このような課題を解消するとともにねじ部品のねじ込み初期には高速低トルクで、ねじ込み完了時には低速高トルクでねじ部品を締結し且つ締結完了後のドライバビットの捻りにより生じる反力での僅かな逆転とドライバビットの強制逆転とを同時に可能にするねじ部品自動締結機における動力伝達装置を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的は、正逆回転可能な一つの駆動モータ4で回転される駆動軸2に正転時にはこれの周囲に配置された回転連結体22を一体回転可能に接続し、逆転時には回転を遮断する一方向クラッチ21を設け、この回転連結体22の回転が伝達される伝達軸6にドライブ軸5を連結して高速低トルク駆動する構成とし、前記駆動軸2の周囲にこれの回転を減速するとともに回転方向が駆動軸2の回転方向とは反対に回転する出力減速手段を配置し、この出力減速手段からの回転が伝達される回転接続部材31を介してドライブ軸5を低速高トルク駆動するようにしたねじ部品自動締結機において、前記回転連結体22と伝達軸6に固定された固定部材7とのいずれか一方に、一端が突出したピン部材8を固定し、ピン部材8が固定されていない他方の前記固定部材7あるいは回転連結体22に回転連結体22と同一中心を有して円周方向に沿う円形長溝形状の駆動伝達溝23を形成し、この駆動伝達溝23に前記ピン部材8を嵌め、前記駆動軸2と伝達軸6とは所定角度の範囲で回転の伝達が遮断される構成とし、一方、前記回転接続部材31からの低速高トルク回転を強制的に接続あるいは遮断する電磁クラッチ33を回転接続部材31と伝達軸6との間に介在させ、高速低トルク駆動時には電磁クラッチ33が回転遮断状態となる構成の動力伝達装置を提供することで達成される。
【0009】
また、この目的を達成するために前記動力伝達装置において、駆動伝達溝はピン部材8の旋回軌跡上にあって、このピン部材8が旋回軌跡上を直立した状態で前後に旋回移動可能な長さを有して形成されているので、ねじ締め時のドライブ軸及びドライバビットに生じている反力を締結完了後に直ちに除くことができるとともに強制逆転も可能になる。更に、これら動力伝達装置における電磁クラッチは低速高トルク駆動時及びねじ締め完了後のドライバビット逆転時には接続され、高速低トルク駆動時には遮断状態となっているので、適正トルクでのねじ締め完了時にドライバビットは僅かの角度だけ強制逆転されるので、駆動部とドライバビットとの噛み込みが確実に解消される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、駆動軸が正転時にのみ連結される一方向クラッチに固定された回転連結体とこれからの回転が伝達される伝達軸の固定部材との間にこれら部材の一方にはピン部材を、他方の部材にはピン部材が嵌る駆動伝達溝を設けてこれらを嵌め合わせて回転を伝達する構成とともに、ねじ締め完了後直ちにドライバビットを僅かの角度だけ強制的に逆転させる構成となっているので、最終ねじ締め完了時において駆動モータを逆転させると、直ちにドライバビットは所定角度だけ僅か逆転するので、ねじの駆動部とドライバビットとの噛み込みが解消され、その後に機械が上昇してもワークがドライバビットに着いて上がることがない。これにより製品不良の発生が皆無になる。また、回転伝達系に一方向クラッチを設けたねじ締め機において、ねじ締め完了後のドライブ軸の逆転が必ず発生するので、ねじ締め状態の解除が確実になる。更に、このようにドライブ軸の強制逆転が所定範囲内で可能になることから、ドライバビットの反力のみで噛み込みを解除するものに比べて信頼性が向上する。しかも、最近のようにワークが比較的薄い場合において、部品の取り付けを自動化した場合にワークに損傷を生じることが解消され、自動化が進展する等の特有の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の要部を示す拡大断面図である。
【図2】本発明に係る全体構成を示す一部断面正面図である。
【図3】本発明に用いる電磁クラッチの動作状態を示す要部拡大断面図で、(a)は電磁クラッチの遮断状態を示し、(b)は電磁クラッチの接続状態を示している。
【図4】本発明の要部の分解構成を示す拡大概略斜視図である。
【図5】本発明の要部の回転伝達状態を組合せ直前の状態に分解して示した概略斜視図で、(a)は高速低トルク回転伝達状態を示し、(b)、(c)は低速高トルク回転伝達状態を示し、(d)は締結完了後の強制逆転状態を示している。
【図6】本発明に係る回転伝達系の動作状態を示す動作フロー図で、(a)は高速低トルク回転伝達状態を示し、(b)は低速高トルク回転伝達状態を示している。
【図7】本発明の従来例の構成を示す要部断面図である。
【図8】本発明のもう一つの従来例を示す要部断面を含む構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明の実施の形態を図1乃至図6に基づき説明する。図2において、1は、昇降台(図示せず)に載置されて上昇あるいは下降動作するねじ部品自動締結機である。このねじ部品自動締結機1は駆動軸2に固定されている駆動プーリ3をベルト駆動するとともに正逆回転可能な1つの駆動モータ4と内部にこの駆動モータ4からの回転を伝達する回転伝達系を内蔵したケーシング10と回転伝達系からの回転を受けるドライブ軸5とから構成されている。前記駆動プーリ3が固定されている駆動軸2の中心延長線上にはドライバビット(図示せず)を固定するドライブ軸5が配置してあり、この駆動軸2とドライブ軸5との間には二系統の回転伝達系が構成されている。この回転伝達系の1つはドライブ軸5を高速低トルクで回転させる第1の回転伝達系20であり、もう一つはドライブ軸5を低速高トルクで回転させる第2の回転伝達系30である。
【0013】
これら第1、第2の回転伝達系20、30は図1に示すように、前記駆動モータ4の正逆回転時に夫々作用する構造となっており、この第1の回転伝達系20はドライブ軸5を高速低トルク回転させるべく駆動軸2の先端にはこの駆動軸2が正転方向(時計方向)に回転したときに連結して回転伝達し、逆転方向(反時計方向)に回転したときは連結が外れて回転伝達を遮断する一方向クラッチ21の一方が固定してあり、この一方向クラッチ21の他方は駆動軸2と同一中心を有する円筒形状の回転連結体22に固定されている。この回転連結体22はこれの周囲に回転自在にケーシング10に支持されている第2の回転伝達系30を構成する中空形状の回転接続部材31に回転自在に支持されており、この回転連結体22は前記駆動軸2の中心延長線上に配置された伝達軸6と一体となるよう固定された固定部材7と同心となっている。
【0014】
この固定部材7には前記回転連結体22に対向する側に一端が突出するピン部材8が固定部材7の中心廻りを旋回するように固定してあり、一方、回転連結体22の固定部材7に対向する側にはこのピン部材8の突出端が嵌る駆動伝達溝23が形成されている。この駆動伝達溝23は回転連結体22と同一中心を有して円周方向に沿うて円形長溝形状に形成され、前記駆動軸2からの回転を受けて回転する回転連結体22はこのピン部材8を介してドライブ軸5に回転を伝達する伝達軸6に回転を伝達する構成となっている。この駆動伝達溝23の円周方向の長さは図4に示すように、前記ピン部材8を一体的に固定する伝達軸6が回転連結体22に対して所定回転角だけ自由に旋回できる程度でよく、この実施例では、ドライブ軸5が僅かの角度だけ逆転した際に後記の出力減速手段により駆動軸2が大きな角度回転することから回転連結体22の中心を中心として比較的大きい角度範囲に設定されている。そのため、前記駆動軸2と伝達軸6とはこの角度の範囲内で回転伝達が遮断され、これ以上の角度回転することで回転が伝達軸6に伝達される構成となっている。また、この角度は出力減速手段の減速比の大小によりその範囲を任意に設定することも可能である。
【0015】
言い換えれば、前記駆動伝達溝23は、図4に示すようにピン部材8の旋回軌跡上にあって、このピン部材8が旋回軌跡上を直立した状態で旋回軌跡を前後に移動可能な長さを有して形成されている。尚、この実施例では、ピン部材8は固定部材7に固定されて、これが嵌る駆動伝達溝23を回転連結体22に形成したが、これらの構成を逆に、すなわち、ピン部材8を回転連結体22に固定し、駆動伝達溝23を固定部材7に形成しても同様の作用が得られることになる。
【0016】
そして、これら前記駆動軸2、一方向クラッチ21、回転連結体22及び伝達軸6は前記第1の回転伝達系20を構成しており、この第1の回転伝達系20からの回転は伝達軸6に一体回転可能に連結されているドライブ軸5を高速低トルク回転伝達するようになっている。
【0017】
一方、図2において、前記駆動軸2の中間位置における周囲には、この駆動軸2の高速低トルクの回転を大きな減速比で減速し、これの回転を低速高トルクに変換する出力減速手段としての減速機40が配置されている。この減速機40はハーモニックドライブ(登録商標)減速機構と呼ばれる構造を有しており、これは前記駆動モータ4から駆動プーリ3を介して伝達される駆動軸2の回転を駆動軸2の回転方向とは逆方向の低速高トルクの回転に変換して出力するようにした構成である。この構成は例えば、特開昭58−196349号あるいは特開昭59−113342号公報に開示されており、本発明出願以前に既に公知となっているので、これの説明は省略する。
【0018】
前記駆動軸2にはこの減速機40の入力側となるジェネレータ41を動作させるようになっており、このジェネレータ41の動作により減速機40の出力側となるフレキシブルギア42に減速回転を出力するようになっている。この減速機40の出力側は前記ケーシング10に回転自在に支持されている円筒形状の回転接続部材31に接続してあり、この回転接続部材31にはこれからの低速高トルク回転を接続あるいは遮断するよう出力側が前記伝達軸6に固定されている電磁クラッチ33の入力側に回転を伝達する環状体32が固定されている。図1に示すように、この環状体32の外周にはセレーション状の外歯32aが形成されている。一方、前記回転接続部材31からの低速高トルク回転を強制的に接続あるいは遮断する前記電磁クラッチ33は回転接続部材31と伝達軸6との間に介在しており、高速低トルク駆動時には図3(a)に示すように、電磁クラッチ33の回転が遮断状態となるように構成されている。すなわち、前記環状体32の周囲には前記外歯32aに噛み合って軸方向に摺動自在な環状の内歯32bが形成されているとともに、環状体32とは反対面の外周側に前記伝達軸6に固定されたクラッチ本体33aのクラッチ歯33bに噛み合い可能なクラッチ歯33bを有する可動クラッチ部材33cが配置されている。この可動クラッチ部材33cはクラッチ本体33aとの間に配置されているばね部材(図示せず)により常時は互いのクラッチ歯33bが離れた状態となっており、電気信号が入ると、可動クラッチ部材33cは前記ばね部材に抗してクラッチ本体側に移動して、クラッチ本体33aに接し、互いのクラッチ歯33bが噛み合うようになっている。
【0019】
具体的には、このクラッチ歯33bの噛み合いは、低速高トルク駆動時及びねじ締め完了後のドライバビット逆転時には図3(b)に示すように接続され、高速低トルク駆動時には回転が遮断状態(図3(a)参照)となるように設定されており、この動作制御は高速低トルクでのねじ締め、低速高トルクでのねじ締め、ねじ締め完了時のドライバビットの逆転動作開始時において、制御部60から夫々電気信号が出力され動作するようになっている。そして、これら駆動軸2、減速機40、回転接続部材31、電磁クラッチ33及び伝達軸6は前記第2の回転伝達系30を構成しており、この第2の回転伝達系30からの回転はドライブ軸5を低速高トルク回転伝達するようになっている。
【0020】
また、高速低トルク回転時におけるこれら第1の回転伝達系20から回転が出力伝達されている状態、すなわち、駆動軸2が正転している状態においては、第2の回転伝達系30にも出力減速手段としての減速機40から逆転方向の低速回転が伝達されているが、電磁クラッチ33により回転の伝達が遮断されているので、伝達軸6への低速回転は遮断された状態となっている。一方、第2の回転伝達系30から回転が出力伝達されている状態、すなわち、駆動軸2が逆転している状態においては、第2の回転伝達系30の減速機40からの出力が正転低速回転となり、この回転は回転接続部材31を介して電磁クラッチ33に伝達されている。このとき第1の回転伝達系20の一方向クラッチ21は駆動軸2からの逆回転を遮断した状態となっているので、第2の回転伝達系30からの低速高トルク回転が伝達軸6に伝達されることになることから、駆動軸2の正逆回転の切り換えにより高速低トルク回転から低速高トルク回転へ変換することになる。しかも、これら第1、第2の回転伝達系20、30は前記ケーシング10に内蔵されており、回転接続部材31はこのケーシング10に回転自在に支持され、この回転接続部材31には回転連結体22が回転自在に夫々支持された構成となっている。
【0021】
更に、前記ドライブ軸5の先端にはねじ部品(図示せず)の頭部に係合するボックスビットあるいは十字ビット等のドライバビット(図示せず)が連結してあり、このドライバビットは前記第1、第2の回転伝達系20、30から伝達される回転を受けてねじ部品のねじ込み初期には高速低トルクで、ねじ込み完了時には低速高トルクで回転されるようになっている。
【0022】
その上、図2に示すように、前記ドライブ軸5の周囲にはこれを覆う筒状の起歪管50が前記ケーシング10の下端に固定されたスペーサ11に固定配置してあり、この起歪管50はワーク(図示せず)にねじ部品が着座し、高トルクで締結されるときに発生する前記ドライブ軸5の反力を受けるようになっており、この起歪管50にはこれが捻れ、この捻れに応じた歪みを電気信号として検出する歪みゲージ51が取り付けられている。これら起歪管50、歪みゲージ51によりトルクセンサが構成され、歪みゲージ51の信号から制御部60において締結トルクが判定され、所定締結トルクが得られるとともに、高速低トルク駆動から低速高トルク駆動に切り換える際に電磁クラッチ33の操作信号が出力されるようになっている。
【0023】
また、前記駆動モータ4はその回転状態の信号を出力するようになっており、この信号は前記制御部60に入り、前記センサからの信号とともに処理されるようになっている。しかも、この制御部60は前記駆動モータ4を正逆回転させるための信号を出力するようにもなっており、これは駆動モータ4のストール状態(ストールとは、駆動モータ4のモータ軸が回転不可により回転できなくなる現象を指す。)における信号を出力するものであり、このストール状態になると、駆動モータ4の正転による高速低トルクの駆動が前記信号を受けて切り換えられて駆動軸2が逆転し、ドライブ軸5には低速高トルク駆動が伝達されることになる。しかも、この制御部60は、ねじ部品の種類に応じて設定されている最終締結トルクに対して、駆動モータ4の正転によりねじ部品が高速回転でねじ込まれて、ねじ部品がワークに着座してストール状態になると、発生する衝撃トルクが前記最終締結トルクを超えないよう駆動モータ4の最高回転数を決定する構成ともなっている。
【0024】
次に、本発明の作用を説明すると、ねじ部品を係合保持した状態のドライバビットを有するねじ部品自動締結機において、ワークの締結位置にねじ部品を位置させた状態で、スタート信号が入ると、図6(a)に示すように、駆動モータ4により駆動軸2が正方向、すなわち、ねじ込み方向である時計方向へ高速回転する(図5(a)の矢印(イ)方向)。このとき、前記ドライブ軸5は一方向クラッチ21が連結して駆動軸2、回転連結体22、伝達軸6及びドライブ軸5は一体になって回転する。この回転において、回転連結体22の駆動伝達溝23に嵌っているピン部材8は図5(a)に示すように、駆動伝達溝23に係合されて伝達軸6に回転を伝達している。一方、この回転により図6(a)の右に示すように、減速機40も回転され逆転方向、すなわち、反時計方向の低速回転(図5(a)の矢印(ロ)方向)が減速機40で減速されて出力されるが、電磁クラッチ33の噛み合いが外れているので、伝達軸6への低速回転伝達が遮断されている。これにより、ドライブ軸5は何らの抵抗も受けることなく高速低トルク回転し、ドライバビットにこの回転が伝達され、ねじ部品は高速低トルクでワーク(図示せず)にねじ込まれる。
【0025】
このようにして、ねじ部品が高速回転でねじ込まれてワークにねじ部品が着座すると、駆動モータ4はストール状態となり、この駆動モータ4には逆転開始の信号が制御部60から入り、図6(b)に示すように、駆動モータ4のモータ軸の逆転により駆動軸2が逆方向、すなわち、反時計方向に高速回転する。このため、一方向クラッチ21は空転状態となって回転が遮断され、伝達軸6は高速逆回転が遮断された状態になる。一方、駆動軸2には減速機40が連結されているので、前記駆動軸2の逆回転が減速機40の出力側から減速された正転、すなわち、時計方向の低速回転となって出力され、回転接続部材31から電磁クラッチ33の可動クラッチ部材33cに伝達される。また、電磁クラッチ33は前記制御部60からの信号により互いのクラッチ歯33bが噛み合い状態となるから、回転接続部材31からの回転は伝達軸6から低速高トルクの正回転がドライブ軸5に伝達される。この回転では、図5(b)及び(c)に示すように、駆動伝達溝23に係合されている前記ピン部材8は回転連結体22からの回転が伝達されず、回転接続部材31からの低速回転が電磁クラッチ33を介して伝達軸6に伝達されている。
【0026】
そして、この低速高トルクの回転中に、トルクセンサにより締結トルクがあらかじめ所定値に設定されている最終締結トルクに達すると、図5(d)に示すように、締結完了状態となり、駆動モータ4の回転を受ける駆動軸2が矢印(イ)方向に回転する(時計方向の回転)。これと同時に、ドライバビットやドライブ軸5に生じている捻れによってもドライバビットは僅かに逆転(反時計方向の回転)する。このような駆動モータ4の時計方向の回転と捻れの反力とを合わせて生じるドライバビットの逆転が可能になっているのは、前記ピン部材8が嵌っている駆動伝達溝23にドライブ軸5の逆転方向に溝23の壁がない状態、すなわち、遊びが生じているためであり、ドライブ軸5はこの遊びの分だけ逆転するので、例えば、減速機40の減速比が1:50であると、円周方向に形成されている駆動伝達溝23の形成角度範囲の1/50だけ逆転することになり、ねじ部品の駆動穴へのドライバビットの噛み込みが確実に解消される。このように、減速比の大きさに応じてこの逆転範囲は設定可能である。
【0027】
このねじ部品の締結作業において、駆動モータ4によるストール状態は最終締結トルクより低い衝撃トルクで発生するように制御部60により駆動制御されているので、この駆動モータ4での慣性は小さいものとなり、最終締結トルクが駆動モータ4の逆転駆動により正確に得られることになる。このことから駆動モータ4の正転でのねじ込み開始からワークに着座するまでの締結作業は高速回転で行うことができる。
【0028】
一方、制御部60は駆動モータ4での高速低トルクねじ込み作業によりねじ部品がワークに着座してストール状態になると、駆動モータ4が逆転し、最終締結トルクに達するまでドライブ軸5を低速高トルクで回転駆動するよう制御を行うようになっており、このストール状態を検出して駆動モータ4を制御するとともに、ねじ部品が着座して最終締結トルクに達したか否かを判定している。このように駆動モータ4、トルクセンサ等の信号を制御部60との間で送受信することによって締結作業を総合的に制御することができ、ねじ部品の締結を効率よく行うことになる。この後、ねじ部品の締結作業サイクルが完了すると、次の作業サイクルまでの待機状態となって、再び次のスタート信号が入ると、以上の締結動作が繰り返される。
【0029】
尚、この実施の形態では、正方向を時計方向、逆方向を反時計方向として示しているが、正方向を反時計方向、逆方向を時計方向として捉えてもよく、通常一般的に使用されているねじは右ねじであって、これの上方から見てねじ込む方向を正方向と捉えていることから示したもので、左ねじの場合は反対になることは容易に理解されることである。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、ねじ部品の締結において、あらかじめ設定した締結トルクでのねじ込み作業をねじ浮きが生じることなく正確に得られるようにするとともにねじ部品の駆動部へのドライバビットの噛み込みを解除するのに好適である。
【符号の説明】
【0031】
1 ねじ部品自動締結機
2 駆動軸
3 駆動プーリ
4 駆動モータ
5 ドライブ軸
6 伝達軸
7 固定部材
8 ピン部材
10 ケーシング
11 スペーサ
20 第1の回転伝達系
21 一方向クラッチ
22 回転連結体
23 駆動伝達溝
30 第2の回転伝達系
31 回転接続部材
32 環状体
32a 外歯
32b 内歯
33 電磁クラッチ
33a クラッチ本体
33b クラッチ歯
33c 可動クラッチ部材
40 減速機
41 ジェネレータ
42 フレキシブルギア
50 起歪管
51 歪みゲージ
60 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正逆回転可能な一つの駆動モータ4で回転される駆動軸2に正転時にはこれの周囲に配置された回転連結体22を一体回転可能に接続し、逆転時には回転を遮断する一方向クラッチ21を設け、この回転連結体22の回転が伝達される伝達軸6にドライブ軸5を連結して高速低トルク駆動する構成とし、前記駆動軸2の周囲にこれの回転を減速するとともに回転方向が駆動軸2の回転方向とは反対に回転する出力減速手段を配置し、この出力減速手段からの回転が伝達される回転接続部材31を介してドライブ軸を低速高トルク駆動するようにしたねじ部品自動締結機において、
前記回転連結体と伝達軸に固定された固定部材7とのいずれか一方に、一端が突出したピン部材8を固定し、ピン部材が固定されていない他方の前記固定部材あるいは回転連結体に回転連結体と同一中心を有して円周方向に沿う円形長溝形状の駆動伝達溝23を形成し、この駆動伝達溝に前記ピン部材を嵌め、前記駆動軸と伝達軸とは所定角度の範囲で回転の伝達が遮断される構成とし、一方、前記回転接続部材からの低速高トルク回転を強制的に接続あるいは遮断する電磁クラッチ33を回転接続部材と伝達軸との間に介在させ、高速低トルク駆動時には電磁クラッチが回転遮断状態となる構成としたことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
駆動伝達溝はピン部材の旋回軌跡上にあって、このピン部材が旋回軌跡上を直立した状態で前後に旋回移動可能な長さを有して形成されていることを特徴とする請求項1記載の動力伝達装置。
【請求項3】
電磁クラッチは低速高トルク駆動時及びねじ締め完了後のドライバビット逆転時には接続され、高速低トルク駆動時には遮断状態となる構成であることを特徴とする請求項1又は2記載の動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−284739(P2010−284739A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139183(P2009−139183)
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【出願人】(000227467)日東精工株式会社 (263)