説明

はす歯タイミングベルト

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、コピー機、プリンタのキャリッジの移送等に使用されるはす歯ベルトに関するものである。
【0002】
【従来の技術】出力部を取り付けたタイミングベルトを回転駆動する形式のシステムとしては例えばプリンタキャリッジの駆動システムがある。わが社では、このシステムにおいて印刷部の色ムラや濃淡の原因となるプリンタ部の振動を抑制するため、実験等を繰り返し行いはす歯タイミングベルトを使用するに至っている(このシステムについては特願平8−116348号に開示)。
【0003】しかしながら、従来のはす歯ベルトの構成をそのまま使用した場合、ベルト歯のねじれの影響を大きく受けてベルトにスラスト力が作用し、ベルトの側面と鍔付きプーリの鍔内面との擦れによりすぐ歯タイミングベルトでは発生しにくい別の振動が発生するという問題がある。
【0004】よって、高精度の要求がある近年では、上記振動を大きく抑制させることができるはす歯タイミングベルトの開発が望まれている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】そこで、この発明では、鍔付きの歯付きプーリに架け渡して回転駆動させた場合において、歯付きプーリの鍔部との擦れが起因となって生じる振動を大きく抑制できるはす歯タイミングベルトを提供することを課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】この発明は、ベルト主体1に芯線2を埋設すると共に前記ベルト主体1の歯面側に帆布3を貼設して成るはす歯タイミングベルトにおいて、ベルト走行方向を基準として芯線2の傾き及び帆布3の布目の傾きをベルト歯10の歯すじの傾きと逆方向に設定し、ベルト走行方向を縦基準としてベルト歯10の傾きが、右上がり左下がりの場合はS撚りの芯線2を、左上がり右下がりの場合はZ撚りの芯線2を、それぞれ使用している。
【0007】なお、上記はす歯タイミングベルトに関し、帆布3の布目の傾きとベルト歯10の歯すじの傾きとが直角となるように配置してあることが好ましい。
【0008】この発明のはす歯タイミングベルトでは、ベルト歯10の歯すじの傾斜により発生するスラスト力は芯線2及び帆布3から発生するスラスト力により打ち消され、ベルト全体としてのスラスト力は低減される。なお、帆布3の布目の傾きとベルト歯の歯すじの傾きとが直角となるように配置してある場合、スラスト力の相殺機能は更に優れたものとなる。したがって、スラスト力がほとんど発生しないはす歯タイミングベルトを提供することが可能である。
【0009】
【発明の実施の形態】以下、この発明の実施の形態を図面に従って説明する。
【0010】図1は、はす歯タイミングベルトの外観斜視図であり、当該タイミングベルトは基本的にはベルト主体1と、前記ベルト主体1に埋設された芯線2と、前記ベルト主体1の歯面側に貼設された帆布3とから構成されている。
【0011】主体1は、図1に示すように、背面1aや歯面1bを形成するゴム弾性体であり、前記ゴム弾性体はクロロプレンゴム(ネオプレン)、スチレンブタジエンゴム、エピクロロヒドリンゴム、ポリウレタンゴム等から成りベルトの使用目的に適した公知のゴム配合物で形成される。ここで、この実施形態ではベルト歯10の形成線(以下、ベルト歯すじ10aという)は図2に示すように、ベルト走行方向の基準線L1と直角の基準線L2に対してα°(10°)だけ右上がり左下がりに傾斜したものに設定してある。
【0012】芯線2は、S撚りの繊維糸が使用され、例えばケブラーコードが使用できる。ここで、この実施形態では、芯線2は図2に示すように、基準線L1に対してベルト歯すじ10aと反対方向にβ°(7°)だけ左上がり右下がりになるべく傾斜させた態様で埋設してある。
【0013】帆布3は、綾織布等の織物により構成され、用途に応じて例えば6ナイロン、66ナイロン、テトロン、綿、レーヨン、テフロン系の材質の糸若しくは混合糸を単独または組合わせたものを使用できる。ここで、この実施形態では帆布3の布目30aの傾きは図2に示すように、ベルト歯すじ10aと反対方向にγ°(10°)だけ左上がり右下がりになるべく傾斜させた態様としてある。
【0014】このはす歯タイミングベルトは上記の如く構成してあるから、ベルト歯すじ10aの傾斜により発生するスラスト力は芯線2及び帆布3から発生するスラスト力により打ち消され、このため、鍔付きの歯付きプーリに架け渡して回転駆動させた場合においても歯付きプーリの鍔部との擦れが起因となって生じる振動を大きく抑制できることになる。
【0015】よって、このはす歯タイミングベルトをプリンタキャリッジの駆動システムに採用した場合、印刷部の色ムラや濃淡がほとんどない(特願平8−116348号に開示したものよりも更に優れた)ものとなり、近年の高精度の要求を満たすことが可能になる。
【0016】また、このはす歯タイミングベルトを切削工具の切削刃の送り機構システムに採用した場合、振動による切削模様ができることを回避できる。すなわち、高精度の切削加工が可能となる。
【0017】なお、上記実施形態において、ベルト歯すじ10aと布目30aとが直角となるように配置されていると、スラスト力の相殺機能は更に優れたものとなる。
【0018】また、上記実施形態では、α,β,λの角度を限定しているが、要するに、ベルト走行方向を基準として芯線2の傾き及び帆布3の布目30aの傾きをベルト歯すじ10aの傾きと逆方向に設定していればよい。
【0019】さらに、上記実施形態にかえて、基準線L1を基準としてベルト歯すじ10aの傾きが、左上がり右下がりの場合はZ撚りの芯線2を使用すればよい。
【0020】そして、上述した芯線2の傾き、帆布3の布目の傾き、芯線2のS撚り・Z撚りの選択うち、一つの手段によってもスラスト力の相殺機能を有するものとすることが可能である。
【0021】
【発明の効果】この発明は上記のような構成であるから、次の効果を有する。
【0022】課題を解決するための手段から明らかなように、鍔付きの歯付きプーリに架け渡して回転駆動させた場合において、歯付きプーリの鍔部との擦れが起因となって生じる振動を大きく抑制できるはす歯タイミングベルトを提供できた。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施形態であるはす歯タイミングベルトの外観斜視図。
【図2】前記はす歯タイミングベルトにおける、ベルト歯の歯すじの傾き方向、芯線の傾き方向、帆布の布目の傾き方向、撚りの方向を示す図。
【符号の説明】
1 主体
2 芯線
3 帆布
10 ベルト歯

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ベルト主体(1)に芯線(2)を埋設すると共に前記ベルト主体(1)の歯面側に帆布(3)を貼設して成るはす歯タイミングベルトにおいて、ベルト走行方向を基準として芯線(2)の傾き及び帆布(3)の布目の傾きをベルト歯(10)の歯すじの傾きと逆方向に設定し、ベルト走行方向を縦基準としてベルト歯(10)の傾きが、右上がり左下がりの場合はS撚りの芯線(2)を、左上がり右下がりの場合はZ撚りの芯線(2)を、それぞれ使用していることを特徴とするはす歯タイミングベルト。
【請求項2】 帆布(3)の布目の傾きとベルト歯(10)の歯すじの傾きとが直角となるように配置してあることを特徴とする請求項1記載のはす歯タイミングベルト。

【図1】
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【図2】
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【特許番号】特許第3513788号(P3513788)
【登録日】平成16年1月23日(2004.1.23)
【発行日】平成16年3月31日(2004.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−345022
【出願日】平成8年12月25日(1996.12.25)
【公開番号】特開平10−184808
【公開日】平成10年7月14日(1998.7.14)
【審査請求日】平成13年5月2日(2001.5.2)
【出願人】(000115245)ゲイツ・ユニッタ・アジア株式会社 (101)
【参考文献】
【文献】特開 昭56−159143(JP,A)
【文献】特開 昭64−26048(JP,A)
【文献】特開 平6−123333(JP,A)
【文献】実開 昭64−32949(JP,U)
【文献】実開 昭56−120455(JP,U)
【文献】実開 昭64−6447(JP,U)
【文献】実開 昭54−64861(JP,U)
【文献】特公 昭62−11222(JP,B1)