説明

めっき装置

【課題】浴槽の大型化をすることなく、高品質なめっき層を短時間で形成することのできるめっき装置を提供する。
【解決手段】被めっき線材Wを送り方向に送る少なくとも一対の回転体20,20と、被めっき線材Wが挿通可能なスリット11a,12aを有し、めっき液を貯留する浴槽10と、を備えためっき装置であって、回転体20は、被めっき線材Wがスリット11a,12aを通過して浴槽10内を少なくとも一往復するように、その回転軸Axが送り方向と略直交する状態で、浴槽10の外側に配置されているめっき装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチールワイヤーやソーワイヤー等、線状の被めっき線材にめっきを施すめっき装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料の表面に、酸化防止や表面保護のために、めっき層を形成することが一般的に行われている。このめっき層を形成するために、特許文献1,2等で様々なめっき装置が提案されている。このようなめっき装置においては、線状の被めっき線材を、浴槽中のめっき液に浸漬させながらローラー等を用いて搬送し、浴槽中で被めっき線材にめっき層を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7―48695号公報
【特許文献2】特開2004−82253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなめっき装置において、所定厚のめっき層を形成するためには、被めっき線材をめっき液へ十分な時間浸漬させるために、被めっき線材の送り速度と浴槽の大きさのバランスを考慮する必要があった。つまり、めっき処理速度を高速化するために被めっき線材の送り速度を高速化しようとすれば、浴槽を大型化して被めっき線材のめっき液への十分な浸漬時間を確保する必要があり、一方、めっき装置のコストの低減を目的に浴槽を小型化すると、被めっき線材の送り速度を高速化できない、という問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明は送り速度の低下や浴槽の大型化をすることなく、高品質なめっき層を短時間で形成することのできるめっき装置を提供することを目的とする。
【0006】
上記目的を達成するために、本発明によれば以下が提供される。
(1) 被めっき線材を送り方向に送る少なくとも一対の回転体と、
被めっき線材が挿通可能なスリットを有し、めっき液を貯留する浴槽と、を備えためっき装置であって、
前記回転体は、被めっき線材が前記スリットを通過して前記浴槽内を少なくとも一往復するように、その回転軸が前記送り方向と略直交する状態で、前記浴槽の外側に配置されていることを特徴とするめっき装置。
(2) 前記スリットから流出するめっき液を受けるオーバーフロー槽と、
前記オーバーフロー槽に流出しためっき液を前記浴槽に戻す戻し配管と、備えたことを特徴とする(1)に記載のめっき装置。
(3) 前記スリットは前記浴槽の被めっき線材の挿通面の上端に開放するように形成されていることを特徴とする(1)または(2)に記載のめっき装置。
(4) 前記回転体は、その回転軸が鉛直方向を向くように配置されていることを特徴とする(1)から(3)のいずれか一項に記載のめっき装置。
(5) 前記回転体の被めっき線材との接触面には、被めっき線材が所定位置から軸方向にずれることを防止する周方向に延びる周方向リブが形成されていることを特徴とする(1)から(4)のいずれか一項に記載のめっき装置。
(6) 前記回転体の被めっき線材との接触面に、周方向に沿って複数の凹凸が形成されていることを特徴とする(1)から(5)のいずれか一項に記載のめっき装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るめっき装置によれば、被めっき線材が浴槽内を複数回通過するので、被めっき線材を十分な時間、めっき液に浸漬することができる。したがって、めっき装置を大型化することなく、高品質なめっき層を短時間で形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施形態に係るめっき装置の正面図である。
【図2】図1に示すめっき装置の上面図である。
【図3】図1に示すめっき装置の側面図である。
【図4】図1に示すめっき装置のローラーを示す図である。
【図5】図1に示すめっき装置のローラーの変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態に係るめっき装置を図面を参照して説明する。
図1に示すめっき装置1は、スチールワイヤーやソーワイヤー等の線状の被めっき線材(以下、ワイヤーと呼ぶ)Wに、めっき層を形成するための装置である。
【0010】
めっき装置1は、めっき液を貯留する浴槽10と、ワイヤーWを送り方向F(図1の左から右側)に送る上流側及び下流側ガイドローラー(回転体)20を備えている。なお、以下の説明では図1でいう左側を上流、右側を下流と呼ぶ。
【0011】
浴槽10は、被めっき線材に形成するめっき層の原料となるめっき液が入れられている。ガイドローラー20により送られながらワイヤーWが浴槽10中を通過することにより、ワイヤーWの外周面にめっき層が形成される。
【0012】
また、浴槽10の上流側側壁11及び下流側側壁12には、鉛直方向に延びるスリット11a,12aが形成されている。このスリット11a,12aは、ワイヤーWが挿通される大きさに形成されている。
【0013】
浴槽10内に貯留されるめっき液の水位は、めっき処理中、常にスリット11a,12aの下端よりも上に位置する必要がある。しかし、めっき液の水位がスリット11a,12aの下端より上に位置する場合は、スリット11a,12aからめっき液が外部に流出することになる。そこで、スリット11a,12aに対応する位置に、流出するめっき液を受けるオーバーフロー槽30が設けられている。本実施形態において、オーバーフロー槽30は浴槽10の外周を囲むように設けられている。
【0014】
また、浴槽10とオーバーフロー槽30との間には戻し配管40が設けられている。戻し配管40は、オーバーフロー槽30に流出しためっき液を有効利用すべく、図示せぬポンプ等でくみ上げ、浴槽10に戻している。
【0015】
なお、このように本実施形態に係るめっき装置1において、めっき処理中はスリット11a,12aからめっき液が流出し続けるので、流出するめっき液の量がなるべく少なくなるように、スリット11a,12aの大きさは、ワイヤーWが挿通できる大きさで、なるべく小さく形成する。
【0016】
一対のガイドローラー20は、浴槽10を挟むように浴槽10の外側に配置されている。また、ガイドローラー20の回転軸Axは、ワイヤーWの送り方向Fと略直交するように配置されている。このガイドローラー20は、めっき処理中にワイヤーWがスリット11a,12aを通過して浴槽10を貫通するように、浴槽10に対して位置決めされる。また、ワイヤーWは、スリット11a,12aを通過して浴槽10を少なくとも一往復するようにガイドローラー20に掛け渡されている。
【0017】
図4(a)は本実施形態のめっき装置1に用いるガイドローラー20の側面図であり、図4(b)はその横断面図である。ガイドローラー20は全体が円筒形状に形成され、その外周面がワイヤーWとの接触面とされている。ガイドローラー20はその外周面でワイヤーWを保持して下流側へ送る。また、ガイドローラー20は外部電源と接続されており、外周面はワイヤーWとの電気的接点としても機能する。
【0018】
図4(a)に示すように、ガイドローラー20の外周面には、周方向に延びる周方向リブ23が軸方向に所定間隔を開けて複数形成されている。周方向リブ23の軸方向の隙間は凹部24とされており、この凹部24内でワイヤーWが保持されることにより、ワイヤーWの軸方向位置がずれることなくワイヤーWを送ることができる。
【0019】
また、ガイドローラー20のワイヤーWとの接触面である凹部24には、周方向に沿って凹凸を形成してもよい。図示の例では、凹部24内に周方向に所定間隔を開けて、軸方向に延びる複数の軸方向リブ25が設けられ、軸方向リブ25の周方向の隙間は凹部26とされている。このように、ガイドローラー20の外周面の周方向に凹凸が形成されていると、表面に砥粒が付着しているソーワイヤーにも、軸方向リブ25のいずれかがワイヤーWと接触してワイヤーWと導通を図ることができる。
【0020】
以上のように構成されるめっき装置1において、一対のガイドローラー20を回転させてワイヤーWを送ると、ワイヤーWは浴槽10内を2往復半通過することになる。したがって、従来の如くワイヤーWを浴槽内に一回通過させるだけの構成と比べて、ワイヤーWの浴槽10への浸漬時間を十分に確保することができる。したがって、ワイヤーWの送り速度を高速化し、めっき処理速度を高速化しても安定的に高品質なめっき層を形成することができる。
【0021】
なお、上述の説明では、ガイドローラー20の回転軸Axが送り方向Fと直交するように、ガイドローラー20が配置されるとして説明した。この中でも、特に図1に示すように、ガイドローラー20の回転軸Axが鉛直方向を向くように配置することが好ましい。
【0022】
ガイドローラー20の回転軸Axが鉛直方向を向くように配置されていると、ワイヤーWが浴槽10内を複数回往復するようにワイヤーWをガイドローラー20に掛け渡した際、ワイヤーWは図3に最もよく示されるように、ガイドローラー20に沿って鉛直方向に2列に配列することになる。したがって、ワイヤーWの浴槽10内の往復回数にかかわらず、2条のスリット11a,12aを鉛直方向に浴槽10の側壁11,12に形成すればよいことになる。例えば、ワイヤーWの往復回数を増加させてめっき層の厚みを増加させたい場合などにも、スリット11a,12aの数を増加させることなく対応することができるので好ましい。
【0023】
また、ガイドローラー20を上下方向に移動可能に構成し、更に図3に示すように、スリット11a,12aを浴槽10の側壁11,12のワイヤーWの挿通面の上端が開放された切欠きとして形成することが好ましい。このような構成によれば、予めガイドローラー20を浴槽10から上方に引き上げた状態においてワイヤーWをガイドローラー20に掛け渡し、その後ワイヤーWがスリット11a,12aを挿通するようにガイドローラー20を下降させると、ワイヤーWのめっき装置1への取付けが容易である。なお、図示の例ではスリット11a,12aを直線状の切欠として示したが、上端が開放された曲線形状に形成してもよい。
【0024】
また、ガイドローラー20の形状は図4(a),4(b)に示した形状に限られない。例えば、図5(a),5(b)に示すように、複数の金属ピン121と、これら金属ピン121を固定する固定プレート122とを備えるガイドローラー120としてもよい。固定プレート122には、金属ピン121が挿通される複数の小孔が円状に形成されており、金属ピン121はこれら小孔に挿通されて固定される。
【0025】
このようなガイドローラー120は、隣接する固定プレート122の軸方向の隙間124にワイヤーWを保持することで、ワイヤーWの軸方向の所定位置からずれることなくワイヤーWを送ることができる。また、砥粒が付着したソーワイヤーを送る際には、隣接する金属ピン121の周方向の隙間126にソーワイヤーの砥粒を入り込ませることにより、金属ピン121の外周面を確実にワイヤーWに接触させて電気的に接続した状態を保ったままワイヤーWを送ることができる。
【0026】
なお、図示の例ではワイヤーWが浴槽10内を2往復半通過する例を挙げて説明したが、ワイヤーWが浴槽10内を通過する回数は特に限定されず、1往復以上通過するように構成すれば、従来のめっき装置よりも小型のめっき装置で効率的にめっき層を形成することができる。
【0027】
また、上述の説明では被めっき線材をワイヤーとして説明したが、被めっき線材は帯状の素材でもよく、長手方向に長いめっき材であれば本発明に係るめっき装置によりめっきを施せることはいうまでもない。
【0028】
また、オーバーフロー槽は上流側と下流側とが接続された槽を図示したが、上流側と下流側それぞれ別体に設けても良い。
【0029】
更に、上述の説明では、1本のワイヤーWがめっき装置1内でめっき処理される例を挙げて説明したが、複数対のガイドローラー20にそれぞれワイヤーWを掛け渡し、複数本のワイヤーWが同時にめっき装置1内でめっき処理されるように構成してもよいことはもちろんである。
【0030】
本発明のめっき装置で使用されるめっきの種類は、ニッケルめっき、銅めっき、錫めっき、亜鉛めっき、貴金属めっき、各種合金めっきなどであり特に限定されない。また、無電解めっき、化学置換めっきのほか、めっき槽内にアノード(陽極)を追加することにより電気めっきにも好適に使用できる。電気めっきの場合、めっき電源装置からガイドローラー20にをカソードを接続し、めっき槽内に被めっき線材に平行になるような任意の位置にアノードを配置することが好ましい。被めっき線とアノードとの間の好ましい極間距離は概ね5〜100mmである。
【0031】
また、本発明のめっき槽、オーバーフロー槽の材質は特に限定されないが、耐食性、絶縁性に優れた樹脂が好ましく、ポリ塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、フッ素樹脂などがより好ましい。ガイドローラーの材質は、導電性、耐食性に優れた金属が好ましく、ステンレス鋼、ニッケル合金、コバルト合金、クロム合金、炭素鋼、アルミニウム合金などが使用できる。これらに高耐食性、高導電性めっきを施したものはさらに耐久性に優れるため好ましい。
【符号の説明】
【0032】
1:めっき装置
10:めっき槽
11:上流側側壁
12:下流側側壁
11a,12a:スリット
20:ガイドローラー
23:周方向リブ
24:周方向凹部
25:軸方向リブ
26:軸方向凹部
30:オーバーフロー槽
40:戻し配管
Ax:回転軸
W:ワイヤー(被めっき線材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被めっき線材を送り方向に送る少なくとも一対の回転体と、
被めっき線材が挿通可能なスリットを有し、めっき液を貯留する浴槽と、を備えためっき装置であって、
前記回転体は、被めっき線材が前記スリットを通過して前記浴槽内を少なくとも一往復するように、その回転軸が前記送り方向と略直交する状態で、前記浴槽の外側に配置されていることを特徴とするめっき装置。
【請求項2】
前記スリットから流出するめっき液を受けるオーバーフロー槽と、
前記オーバーフロー槽に流出しためっき液を前記浴槽に戻す戻し配管と、備えたことを特徴とする請求項1に記載のめっき装置。
【請求項3】
前記スリットは前記浴槽の被めっき線材の挿通面の上端に開放するように形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のめっき装置。
【請求項4】
前記回転体は、その回転軸が鉛直方向を向くように配置されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のめっき装置。
【請求項5】
前記回転体の被めっき線材との接触面には、被めっき線材が所定位置から軸方向にずれることを防止する周方向に延びる周方向リブが形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のめっき装置。
【請求項6】
前記回転体の被めっき線材との接触面に、周方向に沿って複数の凹凸が形成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のめっき装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−241242(P2012−241242A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113555(P2011−113555)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【出願人】(504211429)栃木住友電工株式会社 (50)