説明

めっき部材

【課題】 従来技術では困難であった水垢などの汚れ付着を長期間防止できる性能と、汚
れが付着したとしても容易に除去できる優れた清掃除去性能をあわせ持つ防汚性めっき皮
膜を形成する方法を提供する。
【解決手段】 水濡れ性の良い無機粒子をめっき表面に分散し、かつ無機粒子により表面
に微細凹凸形状を形成させて、めっき表面の水濡れ性を向上させ、水垢が付着しにくい防
汚性めっき表面を形成する。さらに、等電点が高い無機粒子を表面に露出させることで、
めっき表面電荷をプラス側に大きくし、水濡れ性を悪化させるプラス電荷汚れのリンス等
の付着を抑制するとともに付着しても容易に清掃除去できるようにして、長期間良好な防
汚性を維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水垢など水起因の汚れ付着を防止し、また付着しても容易に清掃除去できるめっき皮膜を形成しためっき部材に関する。
【背景技術】
【0002】
めっきは、大面積の膜形成が可能であり、製膜速度も速く、複雑形状にも対応できるなど、工業的に非常に優れた特徴を有しており、また比較的硬質で、金属種によっては優れた耐食性を有し、さらには条件により光沢、半光沢、無光沢など外観を変えることもできるため、耐磨耗性や耐食性付与、装飾を目的に様々な部材に利用されている。
【0003】
しかし、めっき表面は何も手入れしないと次第に汚れて行き、付着した汚れは時間とともに強固に固着した清掃除去困難な汚れとなる。そのため、装飾目的を兼ねためっきでは、美観を保つために定期的な手入れが必要であった。特にキッチン、洗面、浴室などの水まわりでは、水垢などの汚れ付着が激しく、初期の外観を保つためには頻繁な清掃が必要であり、労力を要していた。
【0004】
ここで言う汚れとは、水中成分起因のシリカやカルシウム化合物、またタンパク質や皮脂、カビ、微生物、石鹸カス(金属石鹸)である。中でもシリカやカルシウム化合物は洗剤で除去困難な頑固な汚れ成分であり、水道水だけでなく地下水、河川など、ケイ酸やカルシウムイオンを含む水であれば容易に生成、付着する。
ケイ酸やカルシウムイオンを含む水が水滴としてめっき表面に付着すると、乾燥とともにこれら成分が濃縮され、最終的に水垢となる。このサイクルを繰り返すことで水垢は堆積して行き、また時間とともに付着力も強固となる。
【0005】
上記した水垢を含む種々の汚れを防ぐ一つの方法として、水滴を形成させないことが有効である。水滴を形成させない方法としてはめっき表面を撥水性表面もしくは親水性表面とすることが考えられる。めっき表面を撥水性表面とする方法としては、PTFE(polytetrafluoroethylene)などの撥水性粒子をめっき皮膜中に分散させる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
一方、めっき表面を親水性表面とする方法としては、TiOなどの光触媒親水性粒子をめっき皮膜中に分散させる方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
しかし、従来の以上述べた防汚性めっきには次のような問題がある。
PTFEなどの撥水性粒子を分散させた撥水めっき表面では、微小な汚れでも容易に撥水性能が低下する。特に浴室や洗髪可能な洗面などでは、撥水性粒子がマイナス電荷を有するため、プラス電荷を持つリンスが付着しやすく、早急に撥水性能が低下する。また、撥水めっき表面は、初期表面でも得られる水接触角は130°程度が限界であるため、傾斜の小さい面や平坦部においては水滴残留が避けられない。さらには撥水性粒子を分散させためっきを行った後は、後工程として熱処理が必要となるため、めっき部材の製造コストが高くなる。
一方、TiOなどの光触媒作用のある親水性粒子を分散させた親水めっき表面は、屋内では光触媒性能を発揮させるための紫外線が乏しいため、汚れの分解力や親水性能の持続性に欠け、防汚性を長期間維持することは困難である。
【0007】
【特許文献1】特開2002−317298号公報
【特許文献2】特開平11−158694号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、本発明の目的は、長期間水垢など水起因の汚れ付着を防止し、また付着しても容易に清掃除去できる防汚性を持っためっき皮膜を形成しためっき部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記問題を解決すべく、本発明は無機粒子を利用してめっき表面の濡れ性を向上させるとともに、めっき表面の表面電荷も制御し、長期間水垢など水起因の汚れ付着を防止するだけでなく、付着しても容易に清掃除去できるめっき部材を提供するものである。
【0010】
すなわち、本願発明は、無機粒子を混入させためっき浴でベース材の表面に前記無機粒子を含んだめっき皮膜を形成しためっき部材において、前記無機粒子はイオン結合性が30%以上、かつ等電点が7以上である平均粒径0.1〜10μmの粒子であり、前記めっき皮膜は前記無機粒子を10〜50vol%含み、かつ含有されている無機粒子の少なくとも一部の粒子が前記めっき皮膜表面に均一に分散して露出していることを特徴とする。
【0011】
イオン結合性が高く水濡れ性の良い無機粒子をめっき表面に均一に分散して露出させて微細な無機粒子によりめっき表面に微細な凹凸形状を形成させることで、めっき表面の水濡れ性が向上する。そのため、水滴が形成されにくくなり、水滴による水垢が付着しにくいめっき表面を形成できるようなる。また、めっき皮膜中の無機粒子の量を制御することで表面に露出する無機粒子の量を管理することが可能であり、その結果めっき皮膜の表面の凹凸が適度な状態となり、水垢が付着した場合でもこれを清掃除去し易くなる。
【0012】
また、本願発明は、前記無機粒子は、Al、Zr、Mg、Zn、Cuの酸化物のうち少なくとも一つ以上を含むものであることを特徴とする。
何れも高い等電点を満足するこれら酸化物粒子をめっき表面に分散させることで、めっき表面電荷をプラス側に大きくすることができるため、通常の水よりも水濡れ性を悪化させる度合いの大きい、プラス電荷のリンス等の付着をも抑制し、長期間良好な水濡れ性を維持することが可能となる。
【0013】
また本願発明は、無機粒子を混入させためっき浴でベース材の表面に前記無機粒子を含んだめっき皮膜を形成しためっき部材において、前記無機粒子はイオン結合性が30%以上、かつ等電点が7以上の平均粒径0.1〜10μmである第1の無機粒子と、イオン結合性が30%以上、かつ等電点が4以上7未満の平均粒径0.1〜10μmである第2の無機粒子とで構成され、前記めっき皮膜は前記第1と第2の無機粒子を併せて10〜50vol%含み、かつ含有されている前記第1と第2の無機粒子の各々の少なくとも一部の粒子が前記めっき皮膜表面に各々均一に分散して露出していることを特徴とする。
【0014】
通常使用される水に対する等電点が正負に異なる無機粒子をめっき表面に各々均一に分散させることにより、めっき表面にプラス電荷を持つ領域とマイナス電荷を持つ領域を微細に形成することができる。これにより、プラス電荷をもつ汚れやマイナス電荷を持つ汚れの両方に対する防汚性を持つめっき皮膜を形成できる。
【0015】
前記第1の無機粒子として、Al、Zr、Mg、Zn、Cuの酸化物のうちの少なくとも一つ以上を含み、前記第2の無機粒子として、Ti、Sn、Siの酸化物のうちの少なくとも一つ以上を含むものであることを特徴とする。
これらの無機粒子の中から使用されるめっき浴や要求されるめっき部材の品質に応じて適宜な組み合わせを選択することが出来る。
【0016】
また、本願発明は、前記めっき皮膜の皮膜母相はNiめっき、もしくはNi合金めっきであることを特徴とする。
Niめっき、もしくはNi合金めっきは通常の水周りに使用されるめっき部材の使用環境においては耐食性のある美観を有しためっき部材とすることが出来る。
ここで、Ni及びNi合金めっき浴は使用する無機粒子の等電点にあわせた酸性浴からアルカリ性浴まで種々のタイプを選択できる。
【0017】
また、本願発明は、前記めっき浴が主成分であるNiイオンを0.5〜2.2mol/l含み、かつ無機粒子を5〜500g/l混入させたものであることを特徴とする。
このようなめっき浴とすることで、加工されためっき部材に無機粒子を10〜50vol%分散させためっき皮膜を容易に形成できる。
【0018】
また、本願発明は、前記めっき浴は、添加剤である光沢剤、梨地形成剤を含有しないことを特徴とする。
添加剤はめっき皮膜の耐食性を大きく低下させるが、本発明のめっき部材の製造においては、めっき浴への添加剤の有無に関わらず、無機粒子の粒径、分散共析量、Niめっき浴の種類によって、めっき皮膜外観を半光沢から無光沢まで制御することができる。したがって、より高度の耐蝕性を要求される場合は添加剤の使用をやめることができ、防汚性のみならずより優れた耐食性もあわせ持つめっき皮膜を形成できる。
【0019】
また、本願発明は、前記めっき皮膜を第1めっき皮膜とし、前記第1めっき皮膜を下地としてさらに、前記皮膜中の無機粒子の平均粒径の1/2以下の厚みで最上面を成す疎水性の第2めっき皮膜を施し、最上面の前記第2めっき皮膜表面に前記無機粒子が均一に分散して露出した2層からなるめっき皮膜を形成させたことを特徴とする。
【0020】
濡れ性に優れた無機粒子を表面に均一に分散しためっき皮膜の上に、無機粒子の露出を妨げない厚みで他の疎水性のめっき皮膜を施すことで、めっき皮膜表面の防汚性をさらに高めることができる。すなわち、疎水性の高いめっき皮膜を最上面に施せば、めっき表面は第2めっき皮膜の疎水性部分と第2めっき皮膜から露出した無機粒子の親水性部分から構成されることとなる。このような互いに水に対する親和性が異なる複合構造としためっき皮膜では親水性付着物も疎水性付着物もめっき表面に固着できなくなるため、高い防汚性を有するめっき部材を形成することができる。
【0021】
また、前記最上面を成すめっき皮膜はCrめっき皮膜であることを特徴とする。
最上面のめっきを疎水性の強いCrめっきとすることで防汚性をより効果的に高めることができる。
【0022】
また、前記めっき皮膜は、レーザー顕微鏡によって測定された断面曲線が示すRSm(平均山間隔)が0.5μm≦RSm≦7μmであり、かつ、レーザー顕微鏡によって測定された任意の100μm四方におけるRz(十点平均粗さ)が1.0μm≦Rz≦3.5μm、好ましくは2.0μm≦Rz≦3.0μmであることを特徴とする。
Rsm及びRzについては、JISB0601(2001)の定義に従って規定される。
めっき表面に分散させた無機粒子によって形成されるめっき表面凹凸形状を上記範囲とすることで、汚れの付着防止性及び汚れの清掃除去性ともに効果的に高めることができる。
【0023】
また、前記めっき皮膜は、つや消し調で光沢度が20〜80%であることを特徴とする防汚性めっき皮膜形成方法とした。
無機粒子を均一分散させためっき表面において、無機粒子の分散共析量が高まるにつれ汚れの付着防止性と汚れの清掃除去性は向上するが、無機粒子の分散共析量が多くなりすぎると、汚れの付着防止性は高まる反面、汚れの清掃除去性は表面粗さが大きくなることにより低下する。
めっき皮膜の光沢度を20〜80%となるように調整すれば、汚れの付着防止性と汚れの除去性を両立した防汚めっき皮膜を得ることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、無機粒子を利用してめっき表面の濡れ性を向上させるとともに、めっき表面の表面電荷も制御することにより、従来技術では困難であった水垢などの汚れ付着を長期間防止できる性能と、汚れが付着しても容易に除去できる優れた清掃除去性能をあわせ持つめっき皮膜を形成することができる。そのため、装飾めっき物品の美観を保つための清掃負荷を大きく低減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明は、無機粒子を利用してめっき表面の濡れ性を向上させるとともに、めっき表面の表面電荷を制御することで、従来技術では困難であった長期間の汚れ付着防止性、汚れの清掃除去性をめっき皮膜に付与するものである。
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0026】
水道水や井戸水のようにケイ酸やカルシウムイオンを含む水がめっき表面に水滴として付着した後、乾燥すると、それら成分が乾燥とともに濃縮して最終的にシリカやカルシウム化合物から成る水垢となり、水滴痕として残る。このサイクルを繰り返すことで水垢は堆積して行き、また時間とともに付着力も強固となる。水滴付着と乾燥により生成する水垢(水滴痕)は白色や茶褐色であり、付着するとめっき表面の美観を損ねる。
このような水垢を含む種々の汚れを防ぐ一つの方法として、めっき部材表面に水滴を形成させないことが有効である。水滴を形成させないようにするには、めっき表面の濡れ性を向上させればよい。
【0027】
ただし、水に対する濡れ性を向上させるだけでは、浴室や洗髪可能な洗面などの場合、リンス等が付着して早期にめっき表面の濡れ性が低下し、水滴が容易に形成される状態となるため汚れ付着防止性が損われる。従って、濡れ性を維持し長期間にわたって水垢などの汚れ付着を防止するには、リンスのような濡れ性を低下させる物質の付着も防止する必要がある。
また、このように水垢などの汚れ付着を防止する配慮を施していても、さらに長期間にわたる使用によってはわずかづつではあるが、汚れが付着する場合がある。そのため、汚れた際に汚れを清掃除去しやすいことも重要となる。すなわち、防汚性めっきには汚れが付着しにくい性能と、付着しても除去しやすい性能の両方が求められる。
【0028】
本発明者は、上記課題を低コストで解決するために、無機粒子に着目して様々な無機粒子を混入させためっき浴で行なっためっき皮膜について鋭意研究を進めた結果、無機粒子のイオン結合性、等電点、平均粒径、混入率等がめっき部材表面の汚れ付着状態に寄与し、これらを適切な値に制御することで長期間水垢などの汚れ付着防止性を維持でき、また汚れが付着しても容易に清掃除去可能な防汚性めっき皮膜を形成できることを究明した。これらの最良の形態はイオン結合性が30%以上であり、かつ等電点が7以上である平均粒径が0.1〜10μmの無機粒子を混入させためっき浴でめっきを行なって、めっき皮膜に10〜50vol%の無機粒子を含む構成としたものである。
【0029】
無機粒子はイオン結合や共有結合などにより物質が構成されているが、このうちイオン結合性が強いほど、水との親和性が強く、親水性を示すと言われている。本願発明は、めっき表面に親水性の無機粒子を分散させることでその無機粒子を核としてめっき表面の水濡れ性を向上するものであり、その場合、イオン結合性が結合の30%以上の無機粒子を使用すると、めっき表面に水滴が形成されにくくなり、外観を損ねる水滴痕の水垢を防止できるようになることが判った。無機粒子のイオン結合性がより高い程、めっき表面の水濡れ性は向上する。
【0030】
また、無機粒子をめっき表面に分散させると、分散された無機粒子の一部の粒子はめっき表面からその一部分が露出するため、めっき表面に微細凹凸形状が形成される。濡れ性に及ぼす表面形状の効果は、一般的にWenzelの式で表され、表面形状を凹凸にすると、撥水表面はより撥水になり、親水表面はより親水になる。本願発明は、めっき表面形状が水濡れ性に大きく影響することに着目し、平滑なめっき表面に濡れ性の良い無機粒子を分散させて微細かつ均一な凹凸形状を形成することで、めっき表面の水濡れ性をさらに高めることができることが判った。その場合、平均粒径0.1〜10μmの粒子を利用することにより、効果的に濡れ性を向上させることができる。
【0031】
ここで、めっき表面に無限に無機粒子を分散できるならば、平均粒径がより小さい方がめっき表面から露出する無機粒子の表面積を大きくすることができるため、より濡れ性向上に寄与できる。しかし、めっき表面に分散できる無機粒子の量には限界があるため、無機粒子の平均粒径を極端に小さくすることは逆効果となりえる。すなわち、平均粒径0.1μm未満であると、めっき表面を占める凹凸部分が少なくなるため、形状効果が得られにくくなり、濡れ性向上は期待できない。
一方、10μm以上では、凹凸部分の領域が大きくなり、かつ凹凸形状(凹凸高さ)も大きくなるため濡れ性が向上する。しかしその反面、凹凸形状の谷部の汚れが除去し難くなり、汚れの清掃除去性が低下する。
【0032】
さらに、無機粒子は等電点が7以上のものを使用することで、汚れ付着防止性ならびに汚れの清掃除去性を飛躍的に高めることができる。
無機粒子は水中において表面電荷が変化するが、等電点が7以上の無機粒子の場合は水道水や井戸水などのpHが7の中性水中においては、表面電荷がプラスとなる。すなわち、等電点が7以上の無機粒子をめっき表面に分散させると、めっき表面の電荷をプラス側に大きくすることができ、同じプラス電荷のリンスを付着し難くする。これより、表面の濡れ性を低下させるリンス付着を防止できるため、長期間めっき表面の濡れ性を維持でき、長期間汚れの付着を防止できる。
また、もしリンスなどがめっき表面に付着した場合においても、表面と付着物がプラス同士であるため、表面への付着力が非常に弱く、簡単な清掃で容易に除去することができる。
無機粒子の表面電荷を利用し、対象とする汚れに応じてめっき表面の電荷を制御することにより、長期間汚れの付着防止性を維持でき、また優れた汚れ清掃除去性も付与することが可能である。
【0033】
これらの無機粒子の種類としては、図2に示すようにAl、Zr、Mg、Zn、Cuの酸化物が利用できる。特に、Al、Zr、Mgは粉末も安価であるため、防汚性めっきを低コストで形成することが可能となる。
【0034】
また、めっき表面に分散させる無機粒子は2種類以上であってもよく、特に等電点が通常の水に対して正負に異なる2種類の無機粒子を組み合わせることで、さらに防汚性を向上させることも可能である。すなわち、等電点が4以上〜7未満の無機粒子と7以上の無機粒子をめっき表面に分散させればよい。
等電点が4以上〜7未満の無機粒子は、水道水や井戸水のような中性水中において、表面電荷はマイナスとなり、一方、等電点7以上の無機粒子はプラスとなる。これら、両無機粒子をめっき表面に均一に分散させると、めっき表面にプラス電荷を持つ領域とマイナス電荷を持つ領域を微細に形成することができる。これにより、プラス電荷をもつ汚れとマイナス電荷を持つ汚れとの両方の汚れに対する防汚性を持つめっき皮膜を形成することができる。
【0035】
めっき表面に分散させる無機粒子の量としては、10〜50vol%とするとよい。10vol%未満であると、十分な防汚性が得られない。一方、50vol%を越えると、汚れ付着防止性が向上する反面、めっき表面を粒子が占める割合が大きくなりすぎて、美観を損い、装飾用途に不向きとなる。また、表面の凹凸部が多くなりすぎることにより、汚れの清掃除去性に悪影響を及ぼす場合もある。さらに、50%越える無機粒子をめっき皮膜に取り込むには、めっき条件や粒子の粒径、形状、粒度分布などを厳密に管理する必要があり、コスト上昇にもつながる。
さらに、汚れの付着防止性及び汚れの清掃除去性の両方を効果的に高めるには、無機粒子の分散量は20〜40vol%が最も好適である。
【0036】
本願発明の防汚性めっきに使用するめっき浴は特に限定されるものではないが、NiもしくはNi合金めっき浴を用いれば、容易に防汚性を持っためっき皮膜を形成できる。
無機粒子をめっき皮膜に取り込むめっき方法においては、無機粒子の表面電荷がめっき皮膜への無機粒子分散量に大きく影響する。すなわち、めっきは陰極に形成されるが、このとき、無機粒子の表面電荷がプラスであれば、陰極に無機粒子が吸着してめっき皮膜の形成と同時にめっき皮膜中へ取り込まれていく。このとき、表面電荷がよりプラス側に大きい程、陰極に引き付けられる粒子の数は多くなり、結果的にめっき表面に分散させることができる無機粒子の量も多くなる。このことより、無機粒子の等電点に応じて、めっき浴のpHを選べば、めっき浴中での無機粒子の表面電荷を変化させることができるため、めっき皮膜への無機粒子分散量を制御することが可能である。さらに、無機粒子を2種類以上分散させる場合においては、めっき浴への無機粒子の添加量及びめっき浴のpHをコントロールすることによって、各無機粒子の分散量の比率を変化させることも可能である。
【0037】
Niめっき浴には、無光沢Ni浴、ワット浴、スルファミン酸Ni浴、硫酸Ni浴、塩化Ni浴、無電解Niめっき浴などがあり、さらにこれらを基本浴としたNi合金めっき浴があり多種多様である。これらNiめっき及びNi合金めっきを利用すれば、めっき浴の種類によって、めっき浴のpHを酸性からアルカリ性まで変えることができる。
使用する無機粒子の等電点にあわせたNiまたはNi合金めっき浴を選定すれば、無機粒子の分散共析量を制御することができ、目標とする無機粒子の量を分散させためっき皮膜を容易に形成することが可能である。
【0038】
上記NiまたはNi合金めっき浴を用いて、防汚性めっきを形成させる場合は、主成分であるNiイオンを0.5〜2.2mol/l含み、かつ無機粒子を5〜500g/l混入させためっき浴とすることで、無機粒子を10〜50vol%分散させためっき皮膜をさらに容易に形成することができる。
めっき浴への無機粒子の添加量は、5g/l未満でも、めっき表面に10vol%以上無機粒子が分散しためっき皮膜を形成させることは可能であるが、Niめっきの電析速度を極端に遅くする必要があるめ、生産性が低下する。そのため、めっき浴への無機粒子の添加量は、5g/l以上とすることが望ましい。また、500g/l以上ではめっき皮膜中に取り込まれる無機粒子の量は飽和状態に達するため、それ以上混入させてもめっき皮膜に取り込まれる無機粒子の分散量は向上しない。
【0039】
電解Niまたは電解Ni合金めっきの場合においては、電流密度はより低い方が多くの無機粒子を取り込むことが可能である。
電流密度が2mA/cm未満であると、Ni電析速度が極端に遅くなり製膜に時間がかかるため生産性が低下する。従って、電流密度は2mA/cm以上とすることが望ましい。一方、電流密度が60mA/cmを越えると、Niの電析速度は速くなり、短時間で厚いめっき皮膜を得ることができるが、無機粒子がめっき皮膜に取り込まれる時間的余裕がなく、めっき表面に無機粒子が10vol%以上分散しためっき皮膜を形成させることが難しくなる。
【0040】
Ni及びNi合金めっきは、通常、添加剤を使用して無光沢、半光沢、光沢など目的に応じて様々な外観とすることができる。ただし、添加剤を使用すると、添加剤成分がめっき皮膜中に取り込まれ、耐食性が大きく低下する問題がある。
本願発明の無機粒子を分散させた防汚性めっき皮膜の外観はつや消し調となるが、無機粒子の粒径、分散量、めっき浴の種類により無光沢から半光沢まで外観を制御することが可能である。すなわち、防汚性めっきの外観は、粒子径をより小さくするほど、または無機粒子分散量を少なくするほど半光沢に近づき、粒子径を大きくするほど、または無機粒子分散量を増やすほど無光沢化する。従って梨地形成剤といった添加剤の必要性が無く、耐食性をさらに高める場合は使用を止めることができる。
【0041】
また、図4に示すように親水性の無機粒子を表面に分散させた第1めっき皮膜2aの上に、さらに無機粒子の表面露出を妨げない厚みで疎水性の高い第2めっき皮膜2bを施すと、さらに防汚性を高めることができる。
すなわち、疎水性の高いめっき皮膜を最上面に施せば、めっき表面は微視的に疎水性部分と無機粒子の親水性部分から構成されることとなる。このような構造では親水性付着物も疎水性付着物もめっき表面の各々疎水性部分と親水性部分に固着できなくなるため、高い防汚性を有するめっき皮膜を形成することができる。この時、最上面に施すめっき厚みは、分散させた無機粒子の平均粒径の1/2以下とすれば、最上面のめっき表面に無機粒子を十分露出させることができる。
最上面に施すめっきとしては、Crめっきが効果的である。Crめっきは耐食性及び皮膜硬度に優れ、機械部品や装飾品などに広く使われるめっきであるとともに、水濡れ性が悪く、撥水傾向を示すため、上記最上面めっきとして好適である。
【0042】
本発明の無機粒子を分散させた防汚性めっき皮膜では、めっき表面から分散された無機粒子の一部が露出するため、めっき表面に微細凹凸形状が形成されるが、表面凹凸形状を適正に制御にすることで、汚れの付着防止性及び汚れの清掃除去性の両方を効果的に高めることができる。
表面凹凸形状は、めっき表面に分散させる親水性無機粒子の分散量及び粒径によって制御することができ、表面凹凸形状はJISB601で定義されるRSm(平均山間隔)とRz(十点平均粗さ)で表すことができる。RSmには分散させた無機粒子の間隔、Rzには粒子径の値が大きく反映される。
汚れの付着防止性向上のためには、表面を微細凹凸形状にしてめっき表面から露出する無機粒子の表面積を高める方がよりめっき表面の濡れ性が向上するため有利である。また、汚れの清掃除去性のためには、めっき表面をなるべく平滑にする方が望ましい。以上のことから、防汚性のための理想の表面形状は、めっき表面により微細な無機粒子を緻密に分散させた、RSm、Rzともに小さい表面形状ということになる。
ただし、実際にはめっき表面に分散できる無機粒子の量には限界があることから、Rzを小さくするために粒子径を小さくし過ぎると、逆にRSmが大きくなってしまうなどの問題が生じる。本発明のめっき皮膜において、汚れの付着防止性及び汚れの清掃除去性の両方を効果的に高めるには、RSm、Rzを適正値にすることが重要であり、そのためには、レーザー顕微鏡によって測定された断面曲線が示すRSm(平均山間隔)を0.5μm≦RSm≦7μm、かつ、レーザー顕微鏡によって測定された任意の100μm四方におけるRz(十点平均粗さ)を1.0μm≦Rz≦3.5μm、好ましくは2.0μm≦Rz≦3.0μmとすればよい。
【0043】
汚れの付着性と汚れの清掃除去性を両立した防汚性めっきを得るには、めっき表面の光沢度が一つの指標となる。
無機粒子を均一分散させためっき表面において、無機粒子の分散量が少ないと十分な防汚性を得ることができないが、この時、めっき表面の光沢度は比較的高い値を示す。一方、無機粒子の分散共析量が高まるにつれ汚れの付着防止性と汚れの清掃除去性は向上するが、無機粒子の分散共析量が多くなりすぎると、汚れの付着防止性はさらに高まる反面、汚れの清掃除去性は表面の凹凸が多くなることにより低下する。この時、めっき表面の光沢度は比較的低い値を示す。
本発明において、めっき皮膜の光沢度を20〜80%、好ましくは40〜60%となるように調整すれば、汚れの付着防止性と汚れの除去性をバランス良く両立した防汚性めっき皮膜を得ることができる。
【実施例】
【0044】
以下種々の実験例を示し、図1に模式的に示す構造を持つ本願発明による第1の実施形態によるめっき部材の防汚性めっき皮膜の形成方法及び評価試験の結果を具体的に説明する。
めっき浴組成を硫酸Ni0.3〜2.2mol/l、塩化Ni0〜0.5mol/l、ホウ酸0.3〜1mol/lとし、炭酸Niと10%硫酸水溶液でpH4.0または4.5に調整して、浴温度を50℃とした電気Niめっき浴、及びメルテックス(株)製エンプレートNC−4732の無電解Ni−Co−P合金めっき浴(浴温度83℃、pH8.2)を基本浴とした。前者の電気Niめっき浴においては、めっき浴中のNiイオン総和が0.5〜2.2mol/lとなるように硫酸Niと塩化Niの量を調整した。これら基本浴に図2に示した各無機粒子を5〜500g/l混入させて、めっき浴とした。めっき皮膜を形成させる電極材には金属Cu板または金属Fe板を用い、電極は垂直または45°傾斜させてめっき浴内に設置した。なお、電気Niめっき浴の場合は、対極にNi板を用いた。めっき浴の撹拌には、スターラーを使用した。
【0045】
上記条件のめっき浴でベース部材に形成しためっき皮膜は、表面の観察を行った。観察で得ためっき表面の写真画像は、画像処理を行い、めっき部分と露出している無機粒子部分それぞれの面積比率を求めて、得られた無機粒子の面積比率を無機粒子の分散量(vol%)とした。
さらに、レーザー顕微鏡(オリンパス(株)、ols1100)で表面形状を測定し、断面曲線からRSm(平均山間隔)、任意の100μm四方からRz(十点平均粗さ)を求めた。RSmはn=25の平均値、Rzはn=5の平均値とした。
【0046】
また、得られためっき皮膜は、汚れ付着防止性を評価するため、実使用の浴室及び洗面の水栓金具の位置に、清掃無しの条件で2週間設置し、汚れ付着具合を評価した。評価において、汚れが殆ど目立たない場合を◎、汚れが多少付着している場合を○、汚れは付着しているが、通常のめっきに比べると明らかに少ない場合を△、汚れが付着し、通常のめっきと大差が無い場合を×とした。また、汚れ付着性の評価の後に、ラビングテスターを用いて、汚れの清掃除去性も評価した。摺動子には、蒸留水で濡らした後、中性洗剤を1ml含ませた軟質の食器洗い用スポンジを用い、押し付け荷重を人が清掃する際の力の入れ具合に相当する200g/cm、摺動回数を20回として評価を行った。なお、清掃除去試験後、汚れが除去でき、初期表面に回復した場合を◎とし、若干汚れはあるが、ほぼ初期に近い状態まで回復した場合を○とし、水垢は残っているが、明らかに通常のめっきよりも汚れを除去できている場合を△、水垢があまり除去できず、通常めっきと大差が無い場合を×とした。
【0047】
図3は上記方法により得られた種々のめっき部材のめっき皮膜の実験結果を示す。
実験例1から6は、無機粒子の粒径や比表面積はほぼ同じであるが、無機粒子の種類が異なる場合の結果を示している。めっき浴への無機粒子添加量が各実験例で違う値となっているが、これはめっき浴へ添加する粒子の体積を揃えるためである。各粒子は比重が違うため、添加重量(g/l)が異なっている。
めっき皮膜への無機粒子の分散量は実験例1から6で大きく変わらないが、汚れ付着防止性及び汚れの清掃除去性には大きな差が見られる。無機粒子のイオン結合性が高く水濡れ性が良い程、また等電点が高い程、汚れ付着防止性や汚れの清掃除去性に優れる結果となった。
【0048】
実験例1,2では、水濡れ性が良い無機粒子がめっき表面に分散されているため、めっき表面に水滴が形成されにくくなり、水滴痕のような水垢が殆ど見られなくなった。ただし、水濡れ性が比較的良いはずの実験例3,4,6においては、評価途中に表面に撥水化部分が生じて、水滴が形成されやすくなり、水垢が多少付着した。これは、中性の水道水中では無機粒子の表面電荷がマイナスとなっているため、プラス電荷のリンスなどが付着しやすく、リンス付着によって濡れ性が失われ、汚れが付着しやすくなったと考えられる。比較のために行なった実験例6では特に等電点が低く、無機粒子の表面電荷が大きくマイナスとなっていると考えられるため、防汚性の効果は認められず、通常のめっきと同レベルであった。
【0049】
また、イオン結合性が小さくて水濡れ性が特に優れているわけではない実験例5が良好な汚れ付着防止性を示したのは、CuOの等電点が非常に高く、粒子表面が強いプラスとなっているため、撥水化原因物質の付着を防止でき、長期間濡れ性を維持できたものと考えられる。
【0050】
汚れの清掃除去性においても、無機粒子のイオン結合性が高く水濡れ性が良い程、また等電点が高い程、良好な結果が得られた。
これは、プラスの表面電荷を持つ無機粒子が表面に存在すると、同じプラス電荷を持つリンスが付着したとしても付着力が弱く、容易に除去できると考えられる。また、一般に撥水表面は洗浄の際、水がはじかれるため洗浄しにくく、一方、親水性表面は水濡れ性が良く洗浄しやすいと言われていることを裏付けている。
【0051】
以上のことより、汚れの付着防止性と汚れの清掃除去性を同時に満足するレベルの防汚性が求められる場合は、水濡れ性、表面電荷のどちらか一方が良いだけでなく、実験例1,2のように両者を同時に満足する必要があることがわかる。
また、それ程の防汚性を求められない場合には実験例3,4,5も適用できることがわかる。
【0052】
実験例7及び8はめっき皮膜への無機粒子分散量は実験例1とほぼ同じであるが、無機粒子の粒径が異なる場合の結果を示す。実験例7は、粒子径を小さくしたものであるが、汚れの付着防止性は低下傾向となったが、逆に汚れの清掃除去性については向上が見られた。実験例8は、汚れ付着防止性を高めるために、粒子径を大きくしたものであるが、汚れの清掃除去性については逆に低下傾向となった。
【0053】
以上のことより、汚れ付着防止性ならびに汚れの清掃除去性をともに満足する防汚性めっき膜を得るためには、適切な粒子径の無機粒子を選択する必要があり、0.1〜10μmの無機粒子を使用することが望ましいことがわかる。
【0054】
実験例9及び10は実験例1と同じ無機粒子であるが、めっき皮膜への無機粒子分散量が異なる場合の結果を示す。
実験例1に比べて、めっき皮膜への無機粒子分散量が少ない実験例9は汚れ付着防止性、汚れの清掃除去性ともに低下傾向にある。逆に、実験例10のように無機粒子の分散量を増やした場合でも、汚れの清掃除去性については低下傾向となった。分散量が少ない場合は、無機粒子の効果があまり得られないため、防汚性が低下したと考えられるが、逆に分散量を増やした場合に汚れの清掃除去性が低下した原因は、粒子により形成される表面凹凸が多く、凹凸の隙間に付着した汚れが除去し難くなったことが考えられる。以上のことより、めっき皮膜中に分散させる無機粒子の量としては、10〜50vol%、好ましくは20〜40vol%が適当であることがわかる。
【0055】
実験例12は、2種類の無機粒子を分散させた場合の結果を示す。
実験例2及び3を組み合わせた実験例12は、実験例2や実験例3以上の防汚性を示した。特に汚れの清掃除去性において、顕著な性能向上が見られた。
実験例2のZrO粒子は中性領域では表面電荷はプラスとなる。一方、実験例3のZrO(天然ルチル)はマイナスとなる。従って、中性の水道水にさらされる状況においては、めっき表面にプラスの部分とマイナスの部分の両方が微細に構成された表面構造となる。そのため、プラス電荷の汚れ、マイナス電荷の汚れのどちらの汚れも表面に固着し難くなり、容易に清掃除去できるようになったと考えられる。無機粒子の表面電荷の違いを上手く利用してめっき表面の電荷の分布を微小な正負の領域が混合された状態にすれば、めっき表面の防汚性を効果的に高めることが可能であることがわかる。
【0056】
実験例11は、無機粒子の条件は同じであるが、めっき浴のpHが実験例1とは異なる場合の結果を示す。
めっき皮膜は陰極に形成されるため、無機粒子の表面電荷がプラスに大きい程、陰極に引き付けられる粒子の量が多くなり、結果的にめっき皮膜に取り込まれる無機粒子の量が増加する。すなわち、めっき浴が同じpHである場合には等電点が大きい粒子であるほど、また無機粒子が同じものである場合には、めっき浴のpHが低いほど、めっき皮膜への無機粒子分散量が増加することとなる。
実験例1及び11は同じ無機粒子であるため、めっき浴のpHが低い実験例1の方が、実験例11よりも無機粒子分散量が高くなった。
以上のことより、無機粒子の等電点、めっき浴のpHの組合せを変えることで、めっき皮膜中の無機粒子分散量を制御することができる。もし、2種類以上の無機粒子をめっき皮膜に分散させる場合は、各粒子の分散量比率をコントロールすることも可能である。
【0057】
さらに本願発明による第2の実施形態の構成を図4に模式的に示す。無機粒子3を分散させた第1めっき皮膜2aの上に、さらに別の第2めっき皮膜2bを形成させている。図5は、その実験例13の結果を示す。実験例13はNiめっき皮膜(第1めっき皮膜2a)に平均粒径1.0しμmのZrO粒子(無機粒子3)を分散させた前述の実験例2の最表面に、さらにZrO粒子の表面露出を妨げないように厚み0.3μmの疎水性を示すCrめっき皮膜(第2めっき皮膜2b)を形成させたものである。その結果、特に汚れの清掃除去性において、性能向上が見られた。
上記めっき皮膜の表面は、疎水性部分(Crめっき)と無機粒子の親水性部分から構成されている。このような構造では親水性付着物も疎水性付着物もめっき表面に固着できなくなるため、これら付着物を容易に清掃除去できるようになったと考えられる。
高い防汚性を有するめっき皮膜を形成するには、水濡れ性に非常に優れた無機粒子と疎水性の強いめっき皮膜を組み合わせることも効果的であることがわかる。
【0058】
図6の実験例1及び実験例14から19は、無機粒子の分散量や粒径を変えてRSm(平均山間隔)やRz(十点平均粗さ)といった表面形状要因を変化させた場合の結果を示す。
実験例1及び実験例14から17より、Rzがほぼ一定でRSmのみ変化させた場合ではRSmがより小さいほど、汚れ付着防止性、汚れの清掃除去性が向上することが分かる。すなわち、無機粒子の分散量が多い方が防汚性に優れる。ただし、RSmが小さくなりすぎると、汚れの清掃除去性は悪くなる傾向が見られる。これは表面凹凸が多くなり過ぎて凹凸の隙間に付着した汚れが除去し難くなるためと考えられる。
【0059】
一方、実験例1及び実験例18、19より、RSmがほぼ一定で、Rzのみ変化させた場合では、Rzが小さすぎても大きすぎても防汚性が低下する傾向が見られた。すなわち、分散させた無機粒子の間隔が一定の場合は、無機粒子が小さすぎても大きすぎても防汚性は悪くなる。Rzが小さくなると無機粒子の効果だけでなく、表面凹凸の形状効果もあまり得られなくなるため、濡れ性が低下し、汚れの付着防止性が悪くなったと考えられる。一方、Rzが大きくなると、凹凸部に付着した汚れが除去し難くなり汚れの清掃除去性が悪くなったと考えられる。
【0060】
以上のことより、汚れの付着防止性と清掃除去性の両方を効果的に高めるには、RSm、Rzともに、適正値とすることが重要であることが分かる。即ち、RSm(平均山間隔)は0.5μm≦RSm≦7μm、Rz(十点平均粗さ)は1.0μm≦Rz≦3.5μm、好ましくは2.0μm≦Rz≦3.0μmとすれば優れた防汚性が得られる。
【0061】
以上述べたように本発明は無機粒子を利用してめっき表面の濡れ性を向上させるとともに、めっき表面の表面電荷を制御することで、従来技術では困難であった水垢などの汚れ付着を長期間防止できる性能と、汚れが付着しても容易に除去できる優れた清掃除去性能をあわせ持つ防汚性めっき皮膜を形成することができた。
上記実験例に挙げた防汚性めっき皮膜の例は、あくまで一例に過ぎず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本願発明の1実施形態であるめっき部材の構造を示す断面模式図
【図2】各無機粒子のイオン結合性と等電点の一覧。
【図3】各実験例の無機粒子の種類、めっき条件、及び得られためっき皮膜の無機粒子分散量と防汚特性試験結果の一覧。
【図4】本願発明の第2実施形態であるめっき部材の構造を示す断面模式図
【図5】無機粒子を分散させた防汚性めっき皮膜上へCrめっきを施した際の防汚特性。
【図6】各実験例のめっき条件、及び得られためっき皮膜の無機粒子分散量と表面形状と防汚特性試験結果の一覧。
【符号の説明】
【0063】
1 ベース材
2a 第1めっき皮膜
2b 第2めっき皮膜
3 無機粒子


【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粒子を混入させためっき浴でベース材の表面に前記無機粒子を含んだめっき皮膜を形成しためっき部材において、前記無機粒子はイオン結合性が30%以上、かつ等電点が7以上である平均粒径0.1〜10μmの粒子であり、前記めっき皮膜は前記無機粒子を10〜50vol%含み、かつ含有されている無機粒子の少なくとも一部の粒子が前記めっき皮膜表面に均一に分散して露出していることを特徴とするめっき部材。
【請求項2】
前記無機粒子は、Al、Zr、Mg、Zn、Cuの酸化物のうち少なくとも一つ以上を含むものであることを特徴とする請求項1記載のめっき部材。
【請求項3】
無機粒子を混入させためっき浴でベース材の表面に前記無機粒子を含んだめっき皮膜を形成しためっき部材において、前記無機粒子はイオン結合性が30%以上、かつ等電点が7以上の平均粒径0.1〜10μmである第1の無機粒子と、イオン結合性が30%以上、かつ等電点が4以上7未満の平均粒径0.1〜10μmである第2の無機粒子とで構成され、前記めっき皮膜は前記第1と第2の無機粒子を併せて10〜50vol%含み、かつ含有されている前記第1と第2の無機粒子の各々の少なくとも一部の粒子が前記めっき皮膜表面に各々均一に分散して露出していることを特徴とするめっき部材。
【請求項4】
前記第1の無機粒子として、Al、Zr、Mg、Zn、Cuの酸化物のうちの少なくとも一つ以上を含み、前記第2の無機粒子として、Ti、Sn、Siの酸化物のうちの少なくとも一つ以上を含むものであることを特徴とする請求項3記載のめっき部材。
【請求項5】
前記めっき皮膜の皮膜母相はNiめっき、もしくはNi合金めっきであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のめっき部材。
【請求項6】
前記めっき浴は主成分であるNiイオンを0.5〜2.2mol/l含み、かつ無機粒子を5〜500g/l混入させためっき浴であることを特徴とする請求項5記載のめっき部材。
【請求項7】
前記めっき浴は、添加剤である光沢剤、梨地形成剤を含有しないことを特徴とする請求項6記載のめっき部材。
【請求項8】
前記めっき皮膜を第1めっき皮膜とし、前記第1めっき皮膜を下地としてさらに、前記皮膜中の無機粒子の平均粒径の1/2以下の厚みで最上面を成す疎水性の第2めっき皮膜を施し、最上面の前記第2めっき皮膜表面に前記無機粒子が均一に分散して露出した2層からなるめっき皮膜を形成させたことを特徴とする請求項5から請求項7のいずれかに記載のめっき部材。
【請求項9】
前記第2めっき皮膜はCrめっき皮膜であることを特徴とする請求項8の記載のめっき部材。
【請求項10】
前記めっき皮膜は、レーザー顕微鏡によって測定された断面曲線が示すRSm(平均山間隔)が0.5μm≦RSm≦7μmであり、かつ、レーザー顕微鏡によって測定された任意の100μm四方におけるRz(十点平均粗さ)が1.0μm≦Rz≦3.5μm、好ましくは2.0μm≦Rz≦3.0μmであることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれかに記載のめっき部材。
【請求項11】
前記めっき皮膜は、つや消し調で光沢度が20〜80%であることを特徴とする請求項5から請求項10のいずれかに記載のめっき部材。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−188758(P2006−188758A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−353049(P2005−353049)
【出願日】平成17年12月7日(2005.12.7)
【出願人】(000010087)東陶機器株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】