説明

やすり

【課題】
手持ち式のやすりにおいて、刃物の凹弧面を正確に研磨することができるとともに、鋸の目立てなどの細かな研磨作業を行うことができるようにする。
【解決手段】
やすり本体1の表面にダイヤモンド粒子などの砥材を付着させたやすりにおいて、偏平なやすり本体1の表裏両面を円弧状の突弧面で形成するとともに、左右両側縁に、鋭角に尖ったエッジ3を形成する。鎌の刃部のような凹弧面に対してやすり本体1を斜めに当接させると、凹弧面の曲面に沿ってやすり本体1を接触させ、研磨をすることができる。エッジ3では、角張った隅などを研磨することができる。やすり本体1の先方部分に、表裏両面の突弧面を平面に切除した薄板部分4を形成することによって、この部分を平やすりとして機能させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、やすり本体の表面に、微細なダイヤモンド粒子などの砥材を付着させた手持ち式のやすりに関する発明である。
【背景技術】
【0002】
やすり本体の表面にダイヤモンド粒子を電着などの手段によって付着させる、手持ち式のやすり(通称ダイヤモンドやすり)が知られている。従来のダイヤモンドやすりには、円形断面や方形断面のものが知られている。やすり本体の表面に研磨材を付着させた手持ち式のやすりとして、特許文献1にはやすり本体の断面形状が円形、楕円形、菱形のものが開示されている。特許文献2には、棒状の研磨部を陶磁器とし、その断面形状を楕円形とするもの、特許文献3にはやすり本体に紙やすりを貼着する手持ち式のやすりであって、その断面形状を円形や円弧状のほか、三角形とするものが開示されている。
【0003】
【特許文献1】実開昭52−150888
【特許文献2】実開平52−59058
【特許文献3】実開平54−126287
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の手持ち式のやすりは、その断面形状が円形や方形、あるいは楕円形であるため、その使用範囲が、例えば円形断面のやすりでは貫通孔の内面、方形断面のやすりでは平面というように限定されていた。また、凹弧面のような曲面の研磨を行う場合に、研磨面の曲面に一致させて正確に研磨、研削を行うようなことはできなかった。特に、鎌などの刃物には、切れ刃の逃げ面が凹弧面で形成されているものがある。このような刃物の凹弧面は、従来のやすりでは凹弧面形状を維持する状態に、正確に研磨するようなことは出来なかった。
【0005】
さらに、鋸歯の研磨は、専用の目立て用のやすりを用いて工場で行うのが普通で、作業者が携行する汎用のやすりを用いて、例えば山仕事の途中で、鋸歯の目立てを気軽に行うようなことはできなかった。
上記従来技術の欠点に鑑み、本発明は、刃物の凹弧面を正確に研磨することができるとともに、鋸歯の目立てなどの細かな研磨作業を行うことができるやすりを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため請求項1記載の発明は、やすり本体1の表面にダイヤモンド粒子などの砥材を付着させたやすりにおいて、偏平なやすり本体1の表裏両面を円弧状の突弧面で形成する。そして、左右両側縁に、鋭角に尖ったエッジ3を形成する。
【0007】
請求項2記載の発明は、円弧状の突弧面で形成するやすり本体1の先方部分に、表裏両面の突弧面を平面に切除した薄板部分4を形成することである。薄板部分4の断面形状は、全体が薄板であって左右両側縁が鋭角に尖ったエッジ3,3を備えた形状となる。
請求項3記載の発明は、やすり本体1の表裏いずれか一方の面に粒子の粗いダイヤモンド粒子2を、表裏いずれか他方の面に粒子の細かいダイヤモンド粒子2を付着させたダイヤモンドやすりとしたことである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1記載の本発明のやすりによれば、突弧面であるやすり本体1の表面を、凹弧面である研磨面に当接させて研磨する際、凹弧面5の曲率中心方向に対して、やすり本体1を斜め方向に傾けることによって、やすり本体1表面の曲率と凹弧面5の曲率を一致させ、凹弧面5の全長にやすり本体1の表面が接触した状態で、凹弧面5を無理なく研磨することができる。研磨しようとする凹弧面5の曲率半径は、その都度異なるが、凹弧面に対するやすり本体の傾斜角度を異ならせることによって対応することができる。
さらに、やすり本体1の両側縁に形成されるエッジ3によって、奥まった隅の部分、例えば角孔の隅の研磨を行うことができる。
【0009】
請求項2記載の発明によれば、表面が平面である薄板部分4によって平面の研磨を行うことができるとともに、やすり本体1のエッジ3によって、奥まった部分の研磨を行うことができる。この際、薄板部分4ではやすり本体1の突弧面の膨らみがなく、膨らみが邪魔にならないため、鋭角的で細かい隅の部分を研磨することができる。これにより、例えば鋸歯の目立て作業などが可能となる。
【0010】
請求項3記載の発明によれば、一つの研磨面を、やすり本体1の粗いダイヤモンド粒子の表面で能率的に研磨し、細かいダイヤモンド粒子の面で滑らかな仕上げ面に研磨することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係るやすりの好ましい実施形態を添付の図面に基づいて説明する。
図1は、手持ち式の本発明に係るやすり全体の斜視図、図2は正面図、図3は、図2のIII−III線拡大断面図、図4は図2のIV−IV線拡大断面図である。
【0012】
図1、図2に示すやすりは、やすり本体1の基部に鍔7を備えた把手6が固定してある。やすり本体1の表面には、砥材としてダイヤモンド粒子2を付着させ、該ダイヤモンド粒子によって研磨作業を行うことができる。研磨しようとする被加工物の材質などを考慮して、砥材の種類を変更することができるが、砥材としてダイヤモンド粒子を採用することによって、超硬チップなどの研磨が可能となる。
【0013】
棒状であるやすり本体1の基本的な断面形状は、図3に示すように表裏両面を比較的大きな曲率半径の円弧である突弧面とし、左右両側縁にエッジ3,3を形成し、略笹の葉形状とする。突弧面であるやすり本体1の表裏1一方の曲率半径R1とR2は、異なるものであってもよいが、図示実施形態では同じ曲率半径R1とR2の突弧面としている。
【0014】
農作業や山仕事を行う場合に使用する鎌は、切れ刃の逃げ面が凹弧面で形成されているのが普通である。この鎌の刃面を、やすりを使用して研磨する状況を図5及び図6に基づいて説明する。鎌8の断面は、図6の(a)に示すように刃板9の片面に刃物材10を鍛造などによって接合し、刃板9の刃付け部分を凹弧面5で形成することによって、鋭利な切り刃11を形成している。
【0015】
鎌8の凹弧面5を研磨する場合、図5に示すように凹弧面5に対してやすり本体1を斜め方向に当接させる。凹弧面5は比較的大きな曲率半径の凹弧面であるため、やすり本体1を図5に示すように斜め方向に当接させることによって、図6の(b)に示すようにやすり本体1の突弧面と鎌8の凹弧面5の曲率半径が一致する状態に当接させることができ、矢印Aで示すようにやすり本体1を長手方向に往復駆動しながら、矢印Bで示す刃線方向に移動させることによって、鎌の刃の研磨を完成することができる。やすり本体の断面形状が楕円では、凹弧面の全長にわたって接触させることはできない。
【0016】
図1、図2に示す実施形態のやすりは、やすり本体1の表裏両面の先方部分において、突弧面を切除して平面的な薄板部分4を形成している。薄板部分4の厚みは、例えば3mm程度とし、左右両側縁に鋭角的に尖ったエッジ3が形成される。薄板部分4では、その表裏両面が平坦であるため、平やすりとして機能し、平面的な研磨を行うことができる。そして、左右両側縁のエッジ3を利用して角張った隅の部分を研磨する場合などに利用することができる。
【0017】
特に、薄板部分4では突弧面を切除していることから、突弧面が邪魔にならない。したがって、図7に示すように鋸歯12あるいは鋸歯状の凹凸部分などを正確に研磨することができる。薄板部分4を利用する研磨作業は、鋸歯の目立て以外に細かな部分の研磨に利用することができる。すなわち、表裏両面が突弧面で形成されるやすり本体1の表面やエッジ3と、やすり本体1の一部に形成された薄板部分4を組み合わせて利用することによって、従来公知のやすりに比較して、研磨作業を行うことができる対象物、対象部分が格段に多くなる。
【0018】
やすり本体1の表面に付着させる砥材は、表面と裏面で異ならせることができる他、同じ砥材であっても粒子を異ならせることができる。例えば、表面に粗い粒子のダイヤモンド粒子2を、裏面に細かい粒子のダイヤモンド粒子2を付着させたることができる。これにより、やすり本体の表面で大きな量の研磨を行い、やすり本体の裏面で仕上げ研磨を行うような使い分けを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明に係るやすり全体の斜視図、
【図2】図2はやすり全体の正面図、
【図3】図3は、図2のIII−III線拡大断面図、
【図4】図4は、図2のIV−IV線拡大断面図、
【図5】図5は、本発明に係るやすりを用いて鎌の刃を研磨する状態の正面図、
【図6】図6は、図5のVI−VI線断面図、
【図7】図7は、本発明に係るやすりを用いて鋸歯状部分を研磨する状態の断面図。
【符号の説明】
【0020】
1…やすり本体、 2…ダイヤモンド粒子、 3…エッジ、 4…薄板部分、 5…凹弧面、 6…把手、 7…鍔、 8…鎌、 9…刃板、 10…刃物材、 11…切り刃、 12…鋸歯。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
やすり本体の表面にダイヤモンド粒子などの砥材を付着させたやすりにおいて、偏平なやすり本体の表裏両面を円弧状の突弧面で形成し、左右両側縁を鋭角に尖らせたエッジとしたことを特徴とするやすり。
【請求項2】
やすり本体の先方部分は、表裏両面の円弧状の突弧面を平面に切除し、該部分の断面形状を左右両側縁が鋭角に尖ったエッジを備えた薄板部分としたことを特徴とする請求項1記載のやすり。
【請求項3】
やすり本体の表裏いずれか一方の面に粒子の粗いダイヤモンド粒子を、表裏いずれか他方の面に粒子の細かいダイヤモンド粒子を付着させたことを特徴とする請求項1又は2記載のやすり。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−61991(P2007−61991A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−254668(P2005−254668)
【出願日】平成17年9月2日(2005.9.2)
【出願人】(592232971)有限会社高芝ギムネ製作所 (4)
【Fターム(参考)】