説明

アガラーゼを用いた微生物の取得方法

【課題】ゲルマイクロドロップ法とフローサイトメトリー法を利用して、VBNC状微生物だけでなく、ストレス耐性微生物にも適用でき、かつ、微生物を効率良く取得できる技術を提供する。
【解決手段】自然界に存在し生きているが培養困難な状態の微生物、或いはストレス耐性微生物を取得するにあたり、試料中に存在する微生物を、アガロースを用いてゲルマイクロドロップ中に包括し、当該微生物含有ゲルマイクロドロップを培養し、当該ゲル内で微生物が増殖しない、或いは微生物が増殖する微生物含有ゲルマイクロドロップをフローサイトメトリー法にて分離し、分離された微生物含有ゲルマイクロドロップにアガラーゼを添加してゲルを溶解せしめることを特徴とする微生物の取得方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自然界から産業上有用な微生物を取得するためのスクリーニング技術に関し、更に詳細には、自然界に多く存在し、生存するが培養が困難な微生物群又はストレス耐性微生物を、ゲルマイクロドロップ法とフローサイトメトリー法を利用して効率良く取得する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物を分離し、培養し、新たな微生物を得るための手段としては、平板培養法が古くから知られている。これは、1876年にコッホが発明した方法であり、多種多様の微生物が混在する試料を平板培地(プレート)にまき、一定時間培養後、プレート上に形成されたコロニーを単離する微生物の単一コロニー又は単一細胞を分離する方法である。通常、単離されたコロニーの中から、目的にかなう微生物が検索される。
この平板培養法をベースとして様々な微生物の取得方法が開発されると共に、産業上有用な微生物が数多く分離され利用されてきた。
【0003】
また、1970年代の後半には、蛍光顕微鏡を用いた分離源中の全菌数計数法が確立され、その後、多種多様な微生物を計数する技術が開発された。
一方で、自然界分離源中の微生物に起因する生物活性を蛍光色素染色法で検出する技術が開発され、これらの技術開発によって従来の平板培養法では培養できない微生物が自然界に多く存在することが解明されてきた。
【0004】
土壌、河川、汚泥等の自然界には多種多様な微生物が存在するが、その中には、上述の平板培養法に従い、通常の栄養培地で培養可能な微生物群と、生物活性を示すが培養困難な微生物群が存在し、後者の生物活性を示すが培養困難な微生物は、VBNC状態の微生物(自然界に存在し、生きているが培養困難な状態の微生物)として知られるようになった。
【0005】
通常の微生物とVBNC状微生物が混在する微生物資源から、VBNC状微生物のみを分離する方法としては、例えば、(1)試料液中の微生物細胞を、アガロースゲル微小粒子中に包括してアガロースゲル微小粒子集団を得て、(2)上記アガロースゲル微小粒子集団から、上記試料中に含まれている微生物のうち平板培養法にてコロニーを形成する微生物が増殖できるような増殖環境下に置き、(3)増殖環境におかれたアガロースゲル微小粒子集団から1個の微生物細胞を有する微小粒子をセルソーターにより識別して分離する方法が開発され、活性汚泥から新規微生物を取得する方法として有効であることが示されている(特許文献1:特開2000−197479号公報)。
【0006】
前記(1)は、いわゆるゲルマイクロドロップ(gel microdroplet)法に基づくものである。ゲルマイクロドロップ(gel microdroplet)法とは、試料液中の微生物細胞をアガロースなどのゲル微小粒子(ゲルマイクロドロップ)中に包括させ、1個のゲルマイクロドロップが1個の微生物細胞を有するゲルマイクロドロップ集団を得る方法である。
一方、(3)は、フローサイトメトリー(flow cytometry)法に基づくものである。フローサイトメトリー(flow cytometry)法とは、粒子をその物理的または化学的差異をパラメーターとして、セルソーター等を用いて分離する方法である。
【0007】
このような上記特許文献1(特開2000−197479号公報)記載の方法によれば、VBNC状微生物の単一細胞をアガロースゲルに包括した形で分離できる。
このような方法により分離されたVBNC状微生物は、いわば仮死状態にあることから、実際に利用するためには、該微生物を培養可能な状態あるいは平板培養でコロニー形成可能な状態、すなわち通常の微生物に蘇生させる必要がある。
このようなVBNC状微生物の蘇生に用いられる技術としては、例えばカタラーゼを含む栄養培地を利用する方法が有効であることが知られている(特許文献2:特開2004−089106号公報)。
【0008】
【特許文献1】特開2000−197479号公報
【特許文献2】特開2004−089106号公報
【非特許文献1】Appl.Environ.Microbiol.56,3861−3866,(1990)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1(特開2000−197479号公報)記載のゲルマイクロドロップ法とフローサイトメトリー法を利用した微生物の分離方法は、微生物のコロニー形成が十分になされず微生物の有効利用を図ることができないという問題があった。
【0010】
また、上述のようなゲルマイクロドロップ法とフローサイトメトリー法を用いた微生物分離法は、通常の微生物とVBNC状微生物が混在する微生物資源から、通常の生育が良好な菌を分離するための方法(非特許文献1:Appl.Environ.Microbiol.56,3861−3866,1990)、或いはVBNC状微生物のみを分離するための方法として考えられているが、ゲル内という特殊な環境下、且つ、高温、高浸透圧、高過酸化水素など、微生物にとりストレスのかかる環境下で生育する微生物、いわゆるストレス耐性微生物の分離にも応用できる可能性があるとも考えられる。すなわち、上記特許文献1記載の分離方法のうち、前記(2)の系における培養条件を、通常の微生物が増殖できないようなストレスのかかる条件とし、さらに、(3)の系にて1個のゲルマイクロドロップ内に複数の微生物が存在するものを分離・採取するようにすれば、ストレス耐性微生物の分離に利用できる可能性があるとも考えられる。
【0011】
しかし、特許文献1記載の方法をストレス耐性微生物に適用すると、上述のVBNC状微生物の場合と同様、微生物の利用効率の点で問題が生じるものと推測される。
また、特許文献1記載には、アガロースとしてゲル化温度の低いもの、すなわち融解温度の低いアガロースを利用することが好ましいとされており、ストレス耐性微生物、特に高温(例えば、50〜60℃)での生育能を有する微生物に、このような中温で生育する微生物を想定したゲル化温度の低いアガロース(例えば、Sigma社製:カタログ番号A2576)を適用すると、培養の際の高温(例えば、50〜60℃)で融解してしまい、微生物の取得が事実上困難となるという問題があった。そこで、融解温度の高いアガロースを使用すると、ゲル強度が高いため、ゲル化温度が低くゲル強度も低いアガロースを使用した場合と比較して物理的な力によるアガロースゲルの破壊が困難となり、アガロースゲルから、微生物を取り出す工夫が一層必要になる。
【0012】
この発明の主要な課題は、ゲルマイクロドロップ法とフローサイトメトリー法を利用して、VBNC状微生物だけでなく、ストレス耐性微生物にも適用でき、かつ、微生物を効率良く取得できる技術を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の課題についての研究において、ゲルマイクロドロップ法およびフローサイトメトリー法を利用してVBNC状微生物やストレス耐性微生物を効率良く取得するための条件について、鋭意検討を重ねた。
その結果、ゲルマイクロドロップ法およびフローサイトメトリー法を経て分離されたVBNC状性微生物あるいは各ストレス耐性微生物を含有するゲルマイクロドロップに、アガラーゼを添加してアガロースゲルを溶解することにより、内包する微生物を効率よく取得できることを見出した。アガラーゼによってアガロースゲルを溶解した場合、溶解しなかった場合と比較し、コロニー形成数が5〜7倍に向上することが明らかとなり、主要課題を解決することができた。
【0014】
次に、堆肥中微生物をアガロースゲルで内包した後、通常の栄養培地で培養し、ゲルマイクロドロップに包括したVBNC状微生物をフローサイトメトリー法で分離した後、アガラーゼによってアガロースゲルを溶解して、カタラーゼを添加して培養すると、アガラーゼを添加しなかった場合と比較し、コロニー形成数が5倍に向上することが明らかとなった。
【0015】
さらに、堆肥中微生物をアガロースゲルで内包した後、各ストレス条件での栄養培地で培養し、ゲルマイクロドロップに包括した各ストレス耐性微生物をフローサイトメトリー法で分離した。その後、アガラーゼによってアガロースゲルを溶解して、寒天平板培地で培養すると、アガラーゼを添加しなかった場合と比較し、コロニー形成数が5〜6倍、或いはそれ以上に向上することが明らかとなり、主要課題を解決した。
【0016】
アガラーゼに関しては、アガロース製ゲルマイクロドロップ内の遺伝子を効率良く取得・解析する方法としては報告例があるが(特表2002−531056号公報参照)、DNAと比較するとサイズが大きく、かつ、現に生きている状態での取得が望まれる、VBNC状微生物あるいはストレス耐性能を有する微生物の取得に応用した例は未だない。
【0017】
即ち、本発明によれば、自然界に存在し生きているが培養困難な状態の微生物を取得するにあたり、試料中に存在する微生物を、アガロースを用いてゲルマイクロドロップ中に包括し、当該微生物含有ゲルマイクロドロップを培養し、当該ゲル内で微生物が増殖せずかつ1個の微生物を含有するゲルマイクロドロップをフローサイトメトリー法にて分離し、分離された微生物含有ゲルマイクロドロップにアガラーゼを添加してゲルを溶解せしめることを特徴とする微生物の取得方法が提供される。
また、本発明によれば、ストレス耐性微生物を取得するにあたり、試料中に存在する微生物を、アガロースを用いてゲルマイクロドロップ中に包括し、当該微生物含有ゲルマイクロドロップをストレスのかかる培養条件下で培養し、ゲル内で微生物が増殖し複数の微生物を含有するゲルマイクロドロップをフローサイトメトリー法にて分離し、分離された微生物含有ゲルマイクロドロップにアガラーゼを添加してゲルを溶解せしめることを特徴とする微生物の取得方法が提供される。
更に、本発明によれば、アガロースとして、融解温度50〜60℃のアガロースを用い、さらに微生物含有ゲルマイクロドロップの培養を、50℃〜60℃で行うことにより、高温耐性微生物を取得することを特徴とする前記方法が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明の微生物の取得方法によれば、従来のゲルマイクロドロップ法とフローサイトメトリー法を組み合わせた微生物の取得方法において、アガラーゼを用いることにより、VBNC状微生物やストレス耐性微生物の取得効率を大幅に向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。
本発明は、微生物の取得、特に、自然界に存在し、生きているが培養困難な状態の微生物(VBNC状微生物)、及びストレス耐性微生物の取得に関するものである。これらの微生物は、平板培養法等の従来の培養方法で培養可能な通常の微生物とは区別できる特殊な性質を持つ点で共通する。
【0020】
本発明において、自然界に存在し、生きているが培養困難な状態の微生物とは、通常自然界から微生物を分離する際に用いられる方法、例えば、土壌等の特定の分離源から試料を採取し、採取した試料を段階的に希釈後、平板培地に塗布し、一定時間平板培養後、プレート上に形成されるコロニーを分取する方法によっては、培養・取得が困難な微生物群を言う。
このような、自然界に存在し生きているが培養困難な状態の微生物を、本明細書において、VBNC状微生物と称する場合がある。
【0021】
本発明でいう自然界とは、従来の培養方法では分離できない微生物が存在し得るすべての環境を意味し、例えば、土壌、泥、湖水、河水、沼水、植物および動物等の温和な環境、或いは深海、深地下、高温多湿地、極寒地、火山地、強酸性地、強アルカリ性地、高塩地、乾燥地、腐敗などにより少数の微生物種が大量に存在する天然環境等の極端な環境が含まれる。また、病院、食品工場における空気および活性汚泥、風味付け汁、果汁等の食品加工産業原料、更に金属表面等の人工的環境も、自然界に含める。
【0022】
本発明において、ストレス耐性微生物とは、微生物にとりストレスのかかるような条件下、すなわち、特殊環境下で成育可能な微生物を意味する。
特殊環境とは、自然界における一般的な微生物の生育条件以外の条件を意味する。自然界においては、通常の温度(30℃程度)、中性付近(pH7程度)等一般的な微生物が生育可能な条件以外の条件下にも、多くの微生物が存在しており(今中忠行監修 エヌ・ティー・エス社 微生物利用の大展開 100−105頁)、掘越らによれば、かかる一般的な微生物が生育可能な条件以外の条件が、特殊環境と定義される(掘越弘毅、極限微生物−新しい遺伝子資源−、講談社サイエンティフィク(1988))。具体的には、温度は60℃以上あるいは10℃以下、pHは9以上あるいは3以下、塩濃度(浸透圧)15%以上、圧力400気圧以上などが、特殊環境の定義に該当する。更に、自然界以外にも人工的に作り出される湿度0%の乾燥状態、有機溶媒が10%以上含有される状態、放射線の照射した条件、あるいは真空なども特殊環境条件に含まれる。なお、これら一連の特殊環境は、単一の要素だけでなく、2つ以上の要素の組み合わせ、例えば高温かつ高浸透圧なども、特殊環境に含まれる。特に、高温耐性微生物の中には、通常の高温による集積培養では取得し難い場合が多い。
本発明では、このような特殊環境で生育可能な微生物をストレス耐性微生物(特殊環境微生物)と称する。
【0023】
本発明において、試料とは、上記VBNC状微生物、ストレス耐性微生物が存在する可能性のある試料を意味し、上記微生物以外の微生物、例えば、通常の平板培養で培養可能な微生物が含まれていても良い。
堆肥等侠雑物を多く含む試料を用いる場合には、ゲルマイクロドロップ化する前に前処理を行い侠雑物を除去しておくことが望ましい。以下、堆肥の場合を例に取り、前処理法を説明する。
【0024】
堆肥試料を一定量採取し、純水に懸濁してホモゲナイズして微粒子化する。これを遠心分離して侠雑物(比較的大きなサイズの微粒子)を除去する。この際、微生物を沈降させない程度の緩やかな条件(例えば1000rpm、10分)で行う。次に、40μm程度のナイロンメッシュおよび5〜10μmの膜を用いて順次濾過して侠雑物を除去する。得られた濾過液を段階的に希釈し、希釈液中の菌数が1X107/mlになる程度に希釈するのが好ましい。
【0025】
本発明の方法において、アガロースを用いてゲルマイクロドロップ中に包含する(ゲルマイクロドロップ化する)とは、試料中の微生物細胞をゲル微小粒子中に包括せしめることを意味する。
ゲルマイクロドロップ化は、いわゆるゲルマイクロドロップ法に従って行うことができる。ここで、ゲルマイクロドロップ(gel microdroplet)法とは、試料液中の微生物細胞をアガロースなどのゲル微小粒子(ゲルマイクロドロップ)中に包括させ、1個のゲルマイクロドロップが1個の微生物細胞を有するゲルマイクロドロップ集団を得る方法である。
【0026】
ゲルマイクロドロップを作製するためのゲルとしては、ゲル化する性質を有し微生物細胞に害を与えないアガロースを使用する。使用するアガロースについては、目的に応じたゲル化温度を有するものを使用する。例えば、VBNC状微生物を取得する場合ゲル化温度が低いものが望ましく、例示すればSigma社のType VII(Low Gelling Temperature:カタログ番号A4018)、TypeIX−A(Gelpoint<17、Sigma:カタログ番号A2576)等が好ましい。
一方、ストレス耐性微生物を取得する場合には、後述するように、ゲル化した後ゲルマイクロドロップをストレス環境におく必要があるため、各ストレス条件下でも壊れない強度を有していることが必要になる。例えば、高温耐性の微生物を取得する場合には、該微生物の生育する高温度条件下で壊れないアガロース、すなわち、融点の高いアガロースが望ましい。
【0027】
アガロースのゲル化温度、融解温度と強度の関係を明らかにすべく、表1にSigma社製アガロース(Sigma製カタログ93頁)の性質を示した。
ゲル化温度の低いアガロースは、ゲルの強度が弱く、中の微生物を取り出しやすいという長所があるが、一方で高温では融解してしまうという短所がある。逆に、ゲル化温度の高いアガロースは、融解温度も高くなるが、強度も上昇し、物理的力による破壊によって中の微生物が取り出しにくくなるといった性質を有している。
【0028】
【表1】

【0029】
アガロースを用いてゲルマイクロドロップ中に包含してアガロースゲルマイクロドロップを作製するための手順、条件を、一例を挙げて説明する。
先ず、上記試料溶液とアガロース溶液とを、アガロースのゲル化温度より高い温度下にて、混合し、試料/アガロース混合液を得る。溶液中のアガロースの濃度は、使用するアガロースの性質、特にそのゲル化温度と、分離する微生物の性質等に依存しているが、通常2%前後、好ましくは1〜3%とすることが好ましい。
【0030】
次に、上記試料/アガロース混合液を乳化する。乳化は、どのような方法によってもよく、例えば、内圧式超小型膜乳化モジュール(例えばSPGテクノ株式会社製)を用いて行うことができる。
内圧式乳化モジュールによる乳化は、次のようにして行う。アガロースがゲル化しない温度に予め調整した油分(例えばミネラルオイル(Sigma社のLight White Oil等))を入れた容器を適当な微細孔を有する膜にて二室に分割し、一方の部屋は加圧できるようにし(加圧室)、他方の部屋(加圧されていない)は攪拌できるようにする(非加圧室)。アガロースがゲル化しない温度(ゲル化温度を超える温度)に調整しておいた試料/アガロース混合液を加圧室に滴下し、加圧すると、加圧室から非加圧室に膜の微細孔を通って液が通過し、攪拌されている非加圧室にて乳化液が生成される。
【0031】
得られた乳化液をアガロースのゲル化温度以下に冷却すると、アガロースゲルマイクロドロップが形成される。必要により、ゲルマイクロドロップを例えば70ミクロンナイロンメッシュに通し大きな粒子を除くことが望ましい。
【0032】
このようなゲルマイクロドロップ化の結果、微生物細胞を包括したゲルマイクロドロップを得ることができる。通常は、1個のゲルマイクロドロップあたり1個または複数の微生物細胞を包括したゲルマイクロドロップの集団が得られるが、本発明においては、1個のゲルマイクロドロップあたり1個の微生物細胞を包括するゲルマイクロドロップが多いほど好ましく、このような1個の微生物細胞を包括するゲルマイクロドロップのみを作製することが、より好ましい。
上記例示したゲルマイクロドロップ化の方法に従うと、集団中の大部分のゲルマイクロドロップが1個の微生物細胞しか有しないゲルマイクロドロップ集団が得られる。
【0033】
続いて、本発明の方法においては、上記のようにして取得された微生物含有ゲルマイクロドロップを培養する。VBNC状微生物及びストレス耐性微生物のいずれを取得したい場合にも、以下の各条件下で培養した後には、微生物細胞を1個含んだゲルマイクロドロップと複数の微生物細胞を有するゲルマイクロドロップとを含んだゲルマイクロドロップの混合溶液が得られ、取得対象外の微生物を含むゲルマイクロドロップから区別することができる。
【0034】
まず、VBNC状微生物を取得する場合の培養条件について説明すると、上記微生物細胞を包みこんでいるアガロースゲルマイクロドロップ集団を、通常用いられる栄養培地を使用した液体培養法で培養する。すなわち、通常の微生物が増殖できるような増殖環境下におけば良い。例えば、通常完全培地を使用する等、大多数の微生物にとって望ましい環境で行うことができる。
なお、古生物や極端な環境から採取された試料を取り扱う場合には、古生物やその試料中に含まれていることが予想される微生物にとって望ましいと考えられる環境を配慮して培養条件を設定することが望ましい。
【0035】
所定期間培養することにより、通常の微生物はゲルマイクロドロップ中においても増殖してゲルマイクロドロップ中に複数の細胞が存在するようになる。一方、VBNC状微生物は増殖することが困難なため、ゲルマイクロドロップ中のVBNC状微生物の細胞数は、増殖前の1個に止まっている。
【0036】
本発明で使用することのできる栄養培地は、微生物の分離に使用される通常の栄養培地であり、温和な環境から採取された試料については、完全培地を使用することができる。
このような培地として具体的には、NUTRIENT BROTH(DIFCO社)、LB−BROTH(Luria−Bartani−broth:カゼイン加水分解物 1.0%、酵母エキス 0.5%、食塩 1.0%、DIFCO社)、TORYPTIC SOY BROTH(DIFCO社)、YG培地(グルコース 0.1%、酵母エキス 0.1%、K2HPO4 0.03%、KH2PO4 0.02%、MgSO4・7H2O 0.02%、pH6.8)等を例示することができる。
【0037】
特定の微生物群、例えば乳酸菌の分離を目指す場合には、GYP−S培地(グルコース 1%、酵母エキス 1.0%、ペプトン 0.5%、酢酸ナトリウム 0.2%、Tween80 0.5%、塩溶液 0.5%、pH6.8)を用いることができる。一方、酵母、酢酸菌、乳酸菌等を取得したい場合には、GYMP培地(グルコース 1%、酵母エキス 0.5%、麦芽エキス 0.3%、ペプトン 0.5%、pH6.0)等を用いることができる。
一方、古生物や極端な環境から採取した試料の場合には、上述の通り、採取した試料の存在する環境を考慮し、その環境に適合した培地を使用することが望ましい。例えば、活性汚泥から採取した試料の場合には、活性汚泥を培地の構成成分として加えることが望ましく、海洋微生物を分離する際には、海水または人工海水を培地成分として使用することが望ましい。
【0038】
一方、ストレス耐性微生物を取得する場合の培養条件について説明すると、前記の方法で得た微生物を包括するゲルマイクロドロップ集団を、目的とする微生物が生育するストレス環境下(特殊環境下)におく。例えば、浸透圧、過酸化水素などの各ストレスに対する耐性菌の分離には、浸透圧のストレスがかかった条件としてはソルビトールを35%含有した高浸透圧YG培地を用いることができ、また、過酸化水素のストレスがかかった条件としては30%の過酸化水素溶液を用い、過酸化水素を0.002%含有したYG培地を使用することができる。更に、高温度(例えば、50〜60℃)に対する耐性菌(高温耐性微生物)の場合は、高温度条件、例えば50〜60℃の温度条件で培養することができるが、この場合は、ゲルマイクロドロップ形成の際に用いるアガロースとして、融解温度50〜60℃のアガロースを用いることが望ましい。
【0039】
ストレスのかかる培養条件で、アガロースゲルマイクロドロップに包括された微生物を培養すると、ストレス耐性能を有する微生物は、アガロースゲルマイクロドロップ内で増殖しゲルマイクロドロップは複数の細胞を含むことになる。一方、各ストレス耐性能を有していない微生物は、アガロースゲルマイクロドロップ内で1個の微生物細胞のままである。
【0040】
本発明の方法においては、培養に引き続いて、取得したい微生物を含有するゲルマイクロドロップを他のゲルマイクロドロップから分別・採取する。
VBNC状微生物を取得したい場合には、ゲル内で微生物の増殖が見られないゲルマイクロドロップ、好ましくは、ゲル内で微生物の増殖が見られずかつ微生物細胞を1個だけ含むゲルマイクロドロップにVBNC状微生物が含まれているので、これを複数の微生物細胞を含むゲルマイクロドロップから分離すれば良い。一方、ストレス耐性微生物を取得したい場合には、ゲル内で微生物が増殖しかつ複数の微生物を含有するゲルマイクロドロップを、これをゲル内での微生物が増殖しない微生物含有ゲルマイクロドロップから分離すればよい。
【0041】
ゲルマイクロドロップの混合溶液から目的とするゲルマイクロドロップ群を分別・採取するには、フローサイトメトリー法を利用する。
フローサイトメトリー(FC:flow cytometry)法とは、粒子をその物理的または化学的差異をパラメーターとして、セルソーター等を用いて分離する方法である。具体的には、1つの分析因子(セル)を、直径80μmの水流上に1列に流し、レーザーを照射してその散乱光、蛍光を解析し、解析した特定の因子(セル)のみを取得するため、電気パルスを流し目的の因子を取得する方法をいう。電気パルスを流し目的の因子を取得するには、セルソーター(CS)と呼ばれる装置が使用される。フローサイトメトリーの他にセルソーターを備えたシステムは、FC/CSシステム(Flow cytometry and cell sorting system)と呼ばれる。後述の実施例においては、15mWの空冷アルゴンイオンレーザーを搭載したEPICS(Coulter社)を使用したが、これに限定されず、同様な機能を有するものであればどのようなものを使用しても良い。
【0042】
フローサイトメトリー法は、特開2000−197479号公報に記載された条件で行うことができる。
ゲルマイクロドロップに包括された微生物(粒子)の分別・識別は、大きさを表すレーザー光の前方散乱光強度(Forward scatter(FS))、粒子の内部構造の複雑性を表すレーザー光の側方散乱光強度(Side Scatter(SS))、および微生物が特定の蛍光染料により染色されることにより生ずる蛍光強度(FL)の三個のパラメーターの内、二個(二次元)または三個(三次元)の組み合わせにより行うことができる。
【0043】
すなわち、1個しか微生物細胞を含まないゲルマイクロドロップと複数個の微生物細胞を含むゲルマイクロドロップとは、FSとSSとを用いて識別することができる。
また、必要があれば、生きている細胞と死滅した細胞とを識別することもでき、例えば、CFDA(carboxyfluorescein diacetate)やCFDA−AM(carboxyfuoresceindiacetate acetoxymethyl ester)等、生菌を死滅させることなく蛍光染色できる色素を用いて識別(FLシグナル)することもできる。
【0044】
FSシグナルは、2°ないし20°の散乱光をフォトダイオードで検出し、SSおよびFLシグナルはレーザー光に対して90°で集光し、488nm二色長経路フィルター(dichroic long−pass filter)によってスプリットした光をフォトマルチプライヤーチューブで検出できる。また、488nmレーザーブロックフィルター(laser blocking filter)を用いることによって、自家蛍光から散乱光フラクションを除くことが望ましい。
【0045】
蛍光は550nm二色長経路フィルターで分離し、525nmパスフィルター(pass filter)を通過したものをFL1シグナル(520−530nm)として測定し、600nm二色長経路フィルターおよび575バンドパスフィルター(band pass filter)を通過したものをFL2(570−580nm)として測定し、675nmバンドパスフィルターを通過したものをFL3(665−685nm)として測定する方法が採用される。
かくしてVBNC状微生物の単一細胞、またはストレス耐性微生物の複数細胞をゲルマイクロドロップの形で単離することができる。
【0046】
本発明においては、続いて、上記フローサイトメトリー法により分離された微生物含有ゲルマイクロドロップに、アガラーゼ(アガロースを分解する酵素)を添加してアガロース性ゲルを溶解せしめる。
本発明で使用できるアガラーゼは、起源、種類を問わずアガロースを溶解せしめる作用を有するものであればよい。例えば、Sigma社製のカタログ番号A6306などが使用され得る。
アガラーゼの使用に際しては、製品をそのまま利用することもできるが、アガラーゼの酵素活性単位が100U/mlになるよう生理食塩水に溶解し、0.22μmのフィルターで濾過滅菌後、使用するとよい。
【0047】
アガラーゼを作用させるとゲルマイクロドロップは溶解し、包含されていた微生物細胞が溶液中に出てくる。取り出された微生物を含む溶液を、通常の微生物の採取方法と同様に、供試試料としてプレートに塗布し、平板培養法で培養し、プレート上に生成されるコロニーを分離することによりVBNC状微生物またはストレス耐性微生物を効率よく採取できる。アガラーゼを作用させると採取されるコロニーの数がアガラーゼを使用しない場合に比べて5〜6倍或いはそれ以上に増加させることができる。尚、上記平板培養法でVBNC状微生物を採取する場合には、カタラーゼ、システイン化合物(特願2005−113067の方法も引用しました。)などのVBNC状微生物を蘇生させる効果のある物質をプレートに添加して培養することが望ましい。
【0048】
本発明の方法は、VBNC状微生物またはストレス耐性微生物を取得対象とするものであるが、ストレス耐性を有し且つVBNC状の微生物の取得に利用することも可能である。
この場合、例えば高温耐性のVBNC状微生物を取得するには、上記の通りゲルマイクロドロップ化した後、高温下というストレス環境でゲルマイクロドロップを培養し、ゲル内で増殖するもの、すなわち高温耐性ではあるがVBNC状を呈しない微生物を含むゲルマイクロドロップをフローサイトメトリー法により除去する。残った微生物含有ゲルマイクロドロップからアガラーゼにより微生物を取り出して、カタラーゼを含有するプレートを高温で平板培養し、プレート上に成育するものを採取すれば高温耐性のVBNC状微生物を得ることができる。
【0049】
以上説明したような本発明の微生物の取得方法によれば、VBNC状微生物やストレス耐性微生物の取得効率を大幅に向上することができる。特に、融点の高いアガロースを用いてゲルマイクロドロップ化を行い、微生物含有ゲルマイクロドロップの培養温度を高温度(50〜60℃)に設定することにより、高温耐性微生物、特に、通常の高温による集積培養では取得困難な微生物を取得することが可能である。
【実施例】
【0050】
本発明を以下の実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら代表例に限定されるものではない。
【0051】
実施例1(高温で生育するVBNC状微生物の取得)
以下の手順により、堆肥からの高温(50℃)で生育するVBNC状微生物の取得を試みた。
熊本県の堆肥場より取得した堆肥1gを試料とし、これに生理食塩水10mlを添加し、ポリトロンでホモジナイズ(5秒間、3回)した。次に、遠心分離(1,000rpmX10分)して未分解有機物等の侠雑物を沈降・除去した。得られた上清を40μmのナイロンメッシュで濾過して侠雑物を除去し、濾過液を調製した。
【0052】
得られた濾過液を、生理食塩水にて細胞数が1x107/mlとなるように希釈し、微生物含有希釈液を得た。細胞数の確認は、松下エコシステム社製バイオプローラーを用いて実施した。
一方、Sigma社製アガロースType VII(Low Gelling Temperature:カタログ番号A4018)の2%水溶液を、電子レンジにて30秒間処理し、溶解させて50℃に保温してアガロース溶液を調製した。
【0053】
上記微生物含有希釈液1mlと上記アガロース溶液1mlとを混合し、50℃にてボルテックスミキサーを用いてよく攪拌・混合した。次に、ミネラルオイル(Sigma社、Light white oil)を満たしたSPG膜(膜乳化モジュール、SPGテクノ社)中に、上記混合液をシリンジを用いて、加圧下に同じミネラルオイル中に押し出して、乳化させた。得られた乳化物を氷冷下に5分置いてアガロースをゲル化させ、ゲルマイクロドロップを得た。これに生理食塩水を加えて洗浄し、遠心によってゲルマイクロドロップを回収した。この操作を二回実施し、ミネラルオイルを洗い落とし、更にこれを60μmのナイロンメンブレンに通した。
【0054】
ナイロンメンブレンを通過したゲルマイクロドロップ画分を、YG液体培地で、50℃、20時間通気・攪拌(100rpm)培養した(増殖環境下に置いた)。培養終了後のゲルマイクロドロップはTritonX−100水溶液(最終濃度0.05%)中でよく攪拌し、20μmナイロンメンブレンで濾過し、生理食塩水で十分に洗浄し、次にCFDAにより蛍光染色した。CFDA染色後、アガロースゲル微小粒子を含む試料を、以下の条件・手順に従いフローサイトメトリーにて解析した。
【0055】
フローサイトメトリーとして、15mWの空冷アルゴンイオンレーザーを搭載したEPICS ELITE ESP(Coulter社)を用いた(フローセルのノズル部分は直径100μmであった)。FSシグナルは、2°ないし20°の散乱光をフォトダイオードを用いて検出した。FLシグナルは、レーザー光に対して90°で集光し、488nm二色長経路フィルターによってスプリットした517nmの光をフォトマルチプライヤーチューブで検出した。また、488nmレーザーブロックフィルターを用いて自家蛍光から散乱光部分を除いた。
【0056】
フローサイトメトリーを操作して、セルソーターサイトグラムでFLシグナルの大きい集団と小さい集団に分離した。すなわち、525nmパスフィルター(pass filter)を通過したものをFL1シグナル(520−530nm)として測定し、600nm二色長経路フィルターおよび575バンドパスフィルター(band pass filter)を通過したものをFL2(570−580nm)として測定し、675nmバンドパスフィルターを通過したものをFL3(665−685nm)として測定した。
FLシグナルの小さい集団のゲルマイクロドロップを顕微鏡観察したところ、一つのゲルマイクロドロップ中に1個の細胞が存在していることが観察された。また、この一つの細胞を含むアガロースゲル微小粒子中の細胞は、CFDA染色により生きている細胞であることが分かった。
一方、FLシグナルの大きい集団は、顕微鏡観察の結果、1つのゲルマイクロドロップ中に複数の細胞を含んでいた。尚、顕微鏡観察は、顕微鏡として倒立顕微鏡(オリンパス U−TBIU−TBI90)を使用し、倍率は1000倍で、位相差条件で行った。
【0057】
このように、フローサイトメトリー解析とソーティングを行い、ゲルマイクロドロップ内で増殖しコロニーを形成したゲルマイクロドロップをフローサイトメーターにより除去し、残りのゲルマイクロドロップ(増殖が確認されなかった生細胞を含有するもの)を取得した。
【0058】
このようにして選択されたアガロース製ゲルマイクロドロップに、アガラーゼ(Sigma社製:A6306)を100U/ml加え、37℃で1時間酵素作用させた。酵素作用によりゲルは溶解し、ゲルから取り出された微生物の溶液が得られた。
【0059】
このようにして取得した微生物溶液を、カタラーゼ(2000units/plate)を添加したYG寒天培地に塗抹し、50℃で48週間培養後、プレート上に生育したコロニー数を計測した(試験区)。一方、アガラーゼを添加しないままのゲルマイクロドロップについても、そのまま同様の培養を行い、アガラーゼ無添加対照区とした。
試験区とアガラーゼ無添加の対照区とを比較した結果、アガラーゼを添加した場合、アガラーゼ無添加の対照区と比較して、コロニー形成数は約10倍増加し、アガラーゼ添加の顕著な効果が認められた。
【0060】
実施例2(高温且つ高浸透圧下で生育可能な微生物の分離)
以下の手順により、堆肥からの高温(50℃)かつ高浸透圧下で生育可能な微生物の取得を試みた。
熊本県の堆肥場より取得した堆肥1gを試料とし、これに生理食塩水10mlを添加し、ポリトロンでホモジナイズ(5秒間、3回)した。次に、遠心分離(1,000rpmX10分)して未分解有機物等の侠雑物を沈降・除去した。得られた上清を40μmのナイロンメッシュで濾過して侠雑物を除去し、濾過液を調製した。
【0061】
得られた濾過液を、生理食塩水にて細胞数が1x107/mlとなるように希釈し、微生物含有希釈液を得た。細胞数の確認は、松下エコシステム社製バイオプローラーを用いて実施した。
一方、Sigma社製アガロースType VII(Low Gelling Temperature:カタログ番号A4018)の2%水溶液を、電子レンジにて30秒間処理し、溶解させて50℃に保温してアガロース溶液を調製した。
【0062】
上記微生物含有希釈液1mlと上記アガロース溶液1mlとを混合し、50℃にてボルテックスミキサーを用いてよく攪拌・混合した。次に、ミネラルオイル(Sigma社、Light white oil)を満たしたSPG膜(膜乳化モジュール、SPGテクノ社)中に、上記混合液をシリンジを用いて、加圧下に同じミネラルオイル中に押し出して乳化させた。得られた乳化物を氷冷下に5分おきアガロースをゲル化させゲルマイクロドロップを得た。これに生理食塩水を加えて洗浄し、遠心によってゲルマイクロドロップを回収した。この操作を二回実施し、ミネラルオイルを洗い落とし、更にこれを60μmのナイロンメンブレンに通した。
【0063】
ナイロンメンブレンを通過したゲルマイクロドロップ画分を、35%量のソルビトールを含有し、浸透圧を約5Mpa(塩濃度(NaCl)3.5%の海水の浸透圧が2.4Mpaとの知見から算出した。)上昇させたYG液体培地で、50℃、20時間通気・攪拌(100rpm)培養した(増殖環境下に置いた)。培養終了後のゲルマイクロドロップはTritonX−100水溶液(最終濃度:0.05%)中でよく攪拌し、20μmナイロンメンブレンで濾過し、生理食塩水で十分に洗浄し、次にCFDAにより蛍光染色した。CFDA染色後、アガロースゲル微小粒子を含む試料を、以下の条件・手順に従い、フローサイトメトリーにて解析した。
【0064】
フローサイトメトリーとして、15mWの空冷アルゴンイオンレーザーを搭載したEPICS ELITE ESP(Coulter社)を用いた(フローセルのノズル部分は直径100μmであった)。FSシグナルとして2°ないし20°の散乱光をフォトダイオードを用いて検出した。FLシグナルはレーザー光に対して90°で集光し、488nm二色長経路フィルターによってスプリットした517nmの光をフォトマルチプライヤーチューブで検出した。また、488nmレーザーブロックフィルターを用いて自家蛍光から散乱光部分を除いた。
【0065】
フローサイトメトリーを操作して、セルソーターサイトグラムでFLシグナルの大きい集団と小さい集団に分離した。すなわち、525nmパスフィルター(pass filter)を通過したものをFL1シグナル(520−530nm)として測定し、600nm二色長経路フィルターおよび575バンドパスフィルター(band pass filter)を通過したものをFL2(570−580nm)として測定し、675nmバンドパスフィルターを通過したものをFL3(665−685nm)として測定した。
FLシグナルの小さい集団のゲルマイクロドロップを顕微鏡観察したところ、一つのゲルマイクロドロップ中に1個の細胞が存在していることが観察された。この一つの細胞を含むアガロースゲル微小粒子中の細胞は、CFDA染色により生きている細胞であることがわかった。
一方、FLシグナルの大きい集団は、顕微鏡観察の結果、1つのゲルマイクロドロップ中に複数の細胞を含んでいた。尚、顕微鏡観察は、実施例1と同様にして行った。
【0066】
このように、フローサイトメトリーでの解析とソーティングを行い、ゲルマイクロドロップ内で増殖し、コロニーを形成したゲルマイクロドロップを取得した。
【0067】
この取得したアガロース製ゲルマイクロドロップにアガラーゼ(Sigma社製:A6306)を100U/ml加え、37℃で1時間酵素を作用させた。酵素作用によりゲルは溶解し、ゲル内の微生物の溶液が得られた。
【0068】
このようにして取得した微生物溶液をYG寒天培地に塗抹し、50℃で48週間培養後、プレート上に生育したコロニー数を計測した(試験区)。一方、アガラーゼを添加しないままのゲルマイクロドロップについても、そのまま同様の培養を行い、アガラーゼ無添加対照区とした。
試験区とアガラーゼ無添加の対照区とを比較した結果、アガラーゼを添加した場合、アガラーゼ無添加の対照区と比較して、コロニー形成数は約10倍増加し、アガラーゼ添加の顕著な効果が認められた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
自然界に存在し生きているが培養困難な状態の微生物を取得するにあたり、
試料中に存在する微生物を、アガロースを用いてゲルマイクロドロップ中に包括し、
当該微生物含有ゲルマイクロドロップを培養し、当該ゲル内で微生物が増殖せずかつ1個の微生物を含有するゲルマイクロドロップをフローサイトメトリー法にて分離し、
分離された微生物含有ゲルマイクロドロップにアガラーゼを添加してゲルを溶解せしめることを特徴とする微生物の取得方法。
【請求項2】
ストレス耐性微生物を取得するにあたり、
試料中に存在する微生物を、アガロースを用いてゲルマイクロドロップ中に包括し、
当該微生物含有ゲルマイクロドロップをストレスのかかる培養条件下で培養し、ゲル内で微生物が増殖し複数の微生物を含有するゲルマイクロドロップをフローサイトメトリー法にて分離し、
分離された微生物含有ゲルマイクロドロップにアガラーゼを添加してゲルを溶解せしめることを特徴とする微生物の取得方法。
【請求項3】
アガロースとして、融解温度50〜60℃のアガロースを用い、さらに微生物含有ゲルマイクロドロップの培養を、50℃〜60℃で行うことにより、高温耐性微生物を取得することを特徴とする請求項2記載の微生物の取得方法。

【公開番号】特開2007−111023(P2007−111023A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−308888(P2005−308888)
【出願日】平成17年10月24日(2005.10.24)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【出願人】(301037213)独立行政法人製品評価技術基盤機構 (25)
【Fターム(参考)】