アクチュエータ及びその製造方法
【課題】安定性を向上させた圧電駆動式のアクチュエータ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】アクチュエータ1は、ベース部2と、ベース部2に支持されたアクチュエータ本体3と、アクチュエータ本体3を傾動させる圧電素子4と、アクチュエータ本体3のうちベース部2に支持された端部に対向して設けられた対向電極5とを備えている。アクチュエータ1の製造方法においては、SOI基板200の第1シリコン層210のうちアクチュエータ本体3となる部分と第2シリコン層230のうち対向電極5となる部分との間の酸化膜層220を犠牲層エッチングにより部分的に予め除去し、その際に、対向電極5となる部分231のうち後の工程で除去される部分232と隣接する端部51に設けられた酸化膜層220を除去せずに残しておく。
【解決手段】アクチュエータ1は、ベース部2と、ベース部2に支持されたアクチュエータ本体3と、アクチュエータ本体3を傾動させる圧電素子4と、アクチュエータ本体3のうちベース部2に支持された端部に対向して設けられた対向電極5とを備えている。アクチュエータ1の製造方法においては、SOI基板200の第1シリコン層210のうちアクチュエータ本体3となる部分と第2シリコン層230のうち対向電極5となる部分との間の酸化膜層220を犠牲層エッチングにより部分的に予め除去し、その際に、対向電極5となる部分231のうち後の工程で除去される部分232と隣接する端部51に設けられた酸化膜層220を除去せずに残しておく。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータ本体と、該アクチュエータ本体を傾動させる圧電素子とを備えたアクチュエータ、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、圧電駆動式のアクチュエータが知られている。例えば、特許文献1には、反射板を駆動するアクチュエータが開示されている。このアクチュエータは、枠状のベース部と、該ベース部に一端が支持されたアクチュエータ本体と、該アクチュエータ本体を傾動させる圧電素子とを備えている。アクチュエータ本体の他端は、反射板の弾性支持部に連結されている。このアクチュエータは、アクチュエータ本体を傾動させることによって反射板を傾動させる。
【0003】
このように構成されたアクチュエータは、SOI基板を用いて製造されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−257226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、圧電素子はクリープ(ドリフト)特性を有するため、前述のような圧電駆動式のアクチュエータは安定性の観点からは不利である。
【0006】
ここに開示された技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、安定性を向上させた圧電駆動式のアクチュエータ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここに開示されたアクチュエータは、ベース部と、前記ベース部に支持されたアクチュエータ本体と、前記アクチュエータ本体を傾動させる圧電素子と、前記アクチュエータ本体のうち該ベース部に支持された端部に対向して設けられた対向電極とを備え、前記アクチュエータ本体は、第1シリコン層と酸化膜層と第2シリコン層とを積層させたSOI基板の該第1シリコン層で形成され、前記対向電極は、前記SOI基板の前記第2シリコン層で形成され、前記アクチュエータ本体と前記対向電極との間には、前記SOI基板の前記酸化膜層を除去することによって形成された間隙が設けられており、前記アクチュエータ本体と前記対向電極との静電容量に基づいて前記アクチュエータ本体の傾動を制御するものである。
【0008】
前記の構成によれば、前記アクチュエータ本体に対向して前記対向電極を設けることによって、該アクチュエータ本体と該対向電極との静電容量に基づいて該アクチュエータ本体の変位を検出することができる。すなわち、該静電容量に基づいてアクチュエータ本体の傾動を制御することができる。こうすることで、アクチュエータの安定性を向上させることができる。
【0009】
また、このような構成においては、対向電極をアクチュエータ本体との間に微小な間隙を有した状態で該アクチュエータ本体に対向させて設ける必要がある。しかし、アクチュエータ本体と対向電極とを別々の基板で形成して、両者を貼り合わせる構成では、対向電極とアクチュエータ本体との間の間隙のばらつきが大きくなってしまう。
【0010】
それに対し、前記の構成によれば、SOI基板を用いてアクチュエータを形成する、詳しくは、第1シリコン層でアクチュエータ本体を形成し、第2シリコン層で対向電極を形成し、酸化膜層を除去することによってアクチュエータ本体と対向電極との間の間隙を形成する。これにより、アクチュエータ本体と対向電極とを対向させ、両者の間に高精度の間隙を設けることができる。
【0011】
さらに、ここに開示されたアクチュエータの製造方法は、ベース部と、該ベース部に支持されたアクチュエータ本体と、該アクチュエータ本体を傾動させる圧電素子と、該アクチュエータ本体のうち該ベース部に支持された端部に対向して設けられた対向電極とを備えたアクチュエータを、第1シリコン層と酸化膜層と第2シリコン層とを積層させたSOI基板から製造する、アクチュエータの製造方法であって、前記第1シリコン層のうち前記アクチュエータ本体となる部分と前記第2シリコン層のうち前記対向電極となる部分との間の前記酸化膜層をエッチングにより部分的に除去する第1酸化膜除去工程と、前記第1シリコン層の表面に圧電素子を形成する圧電素子形成工程と、前記第1シリコン層から前記アクチュエータ本体を形成する本体形成工程と、前記第2シリコン層のうち前記アクチュエータ本体と対向する部分をエッチングにより除去して前記対向電極を形成する電極形成工程と、前記電極形成工程後に前記アクチュエータ本体に残っている前記酸化膜層をエッチングにより除去する第2酸化膜除去工程とを含み、前記第1酸化膜層除去工程では、前記対向電極となる部分のうち前記電極形成工程で除去される部分と隣接する端部に設けられた前記酸化膜層を除去せずに残すものとする。
【0012】
前記の構成によれば、SOI基板からアクチュエータが製造される。SOI基板の第1シリコン層からアクチュエータ本体が形成され、SOI基板の第2シリコン層から対向電極が形成される。そして、SOI基板の酸化膜層を除去することによって、アクチュエータ本体と対向電極との間に間隙が形成される。前記の製造方法においては、第1シリコン層のアクチュエータ本体となる部分と第2シリコン層の対向電極となる部分との間の酸化膜層を犠牲層エッチングすることによって間隙を形成した後、第2シリコン層をエッチングすることによって対向電極を形成する。このような製造方法においては、第2シリコン層をエッチングする際に、前記間隙を有する第2シリコン層のうち対向電極として残る部分と第1シリコン層のアクチュエータ本体となる部分とまでエッチングされる虞がある。
【0013】
それに対し、前記の製造方法においては、酸化膜層を犠牲層エッチングする第1酸化膜除去工程では、第2シリコン層の対向電極となる部分のうち電極形成工程で除去される部分と隣接する端部に設けられた酸化膜層を除去せずに残すようになっている。つまり、電極形成工程において最終的に対向電極が形成されたときには、除去された部分と隣接する対向電極の端部には、酸化膜層が残っているため、エッチングガス又はエッチング液がアクチュエータ本体と対向電極と間の間隙に侵入しない。これにより、アクチュエータ本体及び対向電極が不要にエッチングされることを防止することができ、アクチュエータ本体と対向電極との間の間隙を高精度に維持することができる。
【発明の効果】
【0014】
前記アクチュエータによれば、アクチュエータ本体と対向電極との間の静電容量によりアクチュエータ本体の変位を検出することができるので、アクチュエータ本体を安定的に制御することができる。
【0015】
前記アクチュエータの製造方法によれば、アクチュエータ本体と対向電極との間に高精度の間隙を形成することができるので、前述の安定的なアクチュエータを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態に係るミラーアレイの平面図である。
【図2】ミラーアレイの下面図である。
【図3】ミラーアレイの、図1のIII−III線における断面図である。
【図4】貫通孔形成工程におけるSOI基板を示す図であって、(A)はB図のA−A線における断面図を、(B)は平面図を示す。
【図5】部分除去工程におけるSOI基板の、図4(A)に相当する断面図を示す。
【図6】成膜工程におけるSOI基板を示す図であって、(A)は図4(A)に相当する断面図を、(B)は貫通孔の部分拡大断面図を示す。
【図7】形成工程におけるSOI基板を示す図であって、(A)はB図のA−A線における断面図を、(B)は平面図を示す。
【図8】本体形成工程におけるSOI基板を示す図であって、(A)はB図のA−A線における断面図を、(B)は平面図を示す。
【図9】電極形成工程におけるSOI基板の、図4(A)に相当する断面図を示す。
【図10】第2酸化膜除去工程におけるSOI基板の、図4(A)に相当する断面図を示す。
【図11】電極成膜工程におけるSOI基板の、図4(A)に相当する断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、例示的な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0018】
図1は、ミラーアレイ100の平面図を、図2は、ミラーアレイ100の下面図を、図3はミラーアレイ100の、図1のIII−III線における断面図を示す。
【0019】
ミラーアレイ100は、枠状のベース部2と、4つのアクチュエータ1,1,…と、2つのミラー110,110と、各アクチュエータ1とミラー110とを連結する第1ヒンジ6と、各ミラー110とベース部2とを連結する第2ヒンジ7と、アクチュエータ1,1,…を制御する制御部120とを備えている。各ミラー110は、2つのアクチュエータ1,1により駆動される。その結果、ミラー110は、互いに直交する主軸X及び副軸Y回りに回動する。例えば、ミラーアレイ100は、波長選択スイッチとして使用される。
【0020】
このミラーアレイ100は、SOI(Silicon on Insulator)基板200を用いて製造されている。SOI基板200は、単結晶シリコンで形成された第1シリコン層210と、SiO2で形成された酸化膜層220と、単結晶シリコンで形成された第2シリコン層230とがこの順で積層されて構成されている。
【0021】
ベース部2は、概略長方形の枠状に形成されている。ベース部2の大部分は、第1シリコン層210、酸化膜層220及び第2シリコン層230で形成されている。
【0022】
ミラー110は、概略長方形状をした板状に形成されている。ミラー110は、第1シリコン層210で形成されている。
【0023】
第1ヒンジ6は、一端がアクチュエータ1の先端に連結され、他端がミラー110の端縁に連結されている。第1ヒンジ6は、アクチュエータ1の先端とミラー110の端縁との間を蛇行するように延びている。これにより、第1ヒンジ6は、容易に変形できるように構成されている。ミラー110には、2つの第1ヒンジ6,6が連結されている。つまり、ミラー110には、2つのアクチュエータ1,1が第1ヒンジ6,6を介して連結されている。2つの第1ヒンジ6,6は、ミラー110の端縁の中点に対して対称な位置に連結されている。第1ヒンジ6は、第1シリコン層210で形成されている。
【0024】
第2ヒンジ7の一端は、ミラー110の、第1ヒンジ6が連結された端縁と対向する端縁に連結されている。一方、第2ヒンジ7の他端は、ベース部2に連結されている。第2ヒンジ7は、ミラー110の端縁とベース部2との間を蛇行するように延びている。これにより、第2ヒンジ7は、容易に変形できるように構成されている。第2ヒンジ7は、ミラー110の端縁の中点に連結されている。第2ヒンジ7は、第1シリコン層210で形成されている。
【0025】
各アクチュエータ1は、前記ベース部2と、該ベース部2に連結されたアクチュエータ本体3と、アクチュエータ本体3の表面に形成された圧電素子4と、アクチュエータ本体3に対向して設けられた対向電極5とを備えている。
【0026】
アクチュエータ本体3は、その基端がベース部2に連結されている。アクチュエータ本体3は、ベース部2に片持ち状に支持されている。また、アクチュエータ本体3の先端には、第1ヒンジ6が連結されている。アクチュエータ本体3は、第1シリコン層210で形成されている。アクチュエータ本体3は、ベース部2のうち第1シリコン層210で形成された部分と一体に形成されている。
【0027】
圧電素子4は、アクチュエータ本体3の表面31(対向電極と対向する面32とは反対側の面)に形成されている。圧電素子4は、下部電極41と、上部電極43と、これらに挟持された圧電体層42とを有する。下部電極41、圧電体層42、上部電極43は、アクチュエータ本体3の表面31にこの順で積層されている。圧電素子4は、SOI基板200とは別の部材で形成されている。詳しくは、下部電極41は、Pt/Ti膜で形成されている。圧電体層42は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)で形成されている。上部電極43は、Au/Ti膜で形成されている。
【0028】
圧電体層42は、アクチュエータ本体3の長手方向の全域に亘って設けられている。圧電体層42は、アクチュエータ本体3の基端部からベース部2側にも延びている。そして、圧電体層42は、ベース部2上において、隣接する別のアクチュエータの圧電体層42と連結されている。つまり、4つのアクチュエータ1,1,…の圧電体層42,42,…は、1つに連結されている。
【0029】
上部電極43は、圧電体層42のうちアクチュエータ本体3上の部分に設けられた本体43aと、圧電体層42のうちベース部2上の部分に設けられた端子(以下、「上部端子」ともいう)43bと、該本体43aと端子43bとを連結する連結部43cとを有している。連結部43cは、本体43aや端子43bよりも細い形状となっている。
【0030】
下部電極41は、圧電体層42と概ね同様の形状をしており、圧電体層42の下方に位置している。そのため、下部電極41は、基本的には、外部に露出していない。ただし、下部電極41の端子(以下、「下部端子」ともいう)41aだけが、外部に露出している。下部電極41の下部端子41aは、4つのアクチュエータ1,1,…の下部電極41,41,…で共通である。
【0031】
対向電極5は、ベース部2と一体的に構成されている。対向電極5は、アクチュエータ本体3の基端部33と対向して設けられている。対向電極5とアクチュエータ本体3の基端部33との間には、間隙G1が設けられている。対向電極5は、アクチュエータ本体3ごとに設けられている。すなわち、本実施形態では、アクチュエータ本体3が4つなので、対向電極5も4つ設けられている。対向電極5は、第2シリコン層230で形成されている。対向電極5は、ベース部2のうち第2シリコン層230で形成された部分と一体に形成されている。ただし、ベース部2の第2シリコン層230においては、4つの対向電極5,5,…のそれぞれを分離させるための溝234,234,…が形成されている。該溝234は、酸化膜層220まで達している。こうして、4つの対向電極5,5,…は、それぞれ電気的に絶縁されている。間隙G1は、酸化膜層220を除去することによって形成されている。
【0032】
ベース部2には、詳しくは後述するが、アクチュエータ本体3と対向電極5との間の静電容量を検出するための第1及び第2検出端子81,82が設けられている。詳しくは、第1検出端子81は、ベース部2における第1シリコン層210に設けられている。第1検出端子81は、第1シリコン層210に設けられているので、アクチュエータ本体3と電気的に接続されていることになる。また、ベース部2には、第2シリコン層230を第1シリコン層210側に露出させるための概略長方形状の開口21が形成されている。この開口21は、第1シリコン層210及び酸化膜層220を貫通している。第2検出端子82は、開口21において露出する第2シリコン層230に設けられている。第2検出端子82は、第2シリコン層230に設けられているので、対向電極5と電気的に接続されていることになる。
【0033】
さらに、ベース部2の第1シリコン層210には、開口21を挟んで、第1検出端子81とを反対側に、参照端子83が設けられている。この参照端子83は、詳しくは後述するが、参照静電容量を検出するための端子である。
【0034】
また、ベース部2のうち、開口21に隣接し且つ開口21よりも参照端子83側の部分には、第1シリコン層210と第2シリコン層230との間に間隙G2が設けられている。間隙G2は、酸化膜層220を除去することによって形成されている。
【0035】
次に、このように構成されたミラーアレイ100の動作について説明する。ミラーアレイ100の制御部120は、上部電極43の端子43bと下部電極41の下部端子41aとに駆動電圧を印加する。この駆動電圧に応じて、圧電体層42が伸張又は収縮する。その結果、アクチュエータ本体3の表面31側の部分が、裏面32に対して伸張又は収縮し、アクチュエータ本体3が上方(表面31側)又は下方(裏面32側)に傾動する。さらに詳しくは、ミラー110に連結された2つのアクチュエータ本体3,3を同じ方向に傾動させることによって、ミラー110を主軸X回りに回動させることができる。このとき、2つのアクチュエータ本体3,3を上方に傾動させるか、下方に傾動させるかによって、ミラー110の主軸X回りの回動方向を切り替えることができる。一方、2つのアクチュエータ本体3,3をそれぞれ逆方向に傾動させることによって、ミラー110を副軸Y回りに回動させることができる。このとき、上方に傾動させるアクチュエータ本体3と下方に傾動させるアクチュエータ本体3とを入れ替えることによって、ミラー110の副軸Y回りの回動方向を切り替えることができる。
【0036】
また、制御部120は、ベース部2に設けられた第1及び第2検出端子81,82を介して、アクチュエータ本体3と対向電極5との間の静電容量を検出することによって、アクチュエータ本体3の変位、即ち、傾動量を検出する。つまり、アクチュエータ本体3が傾動すると、アクチュエータ本体3と対向電極5との間の間隙G1の大きさが変化する。それにより、アクチュエータ本体3と対向電極5との間の静電容量が変化するので、該静電容量を検出することによって、アクチュエータ本体3の傾動量を検出することができる。そして、制御部120は、第1及び第2検出端子81,82間の電圧に基づいて、アクチュエータ本体3の傾動量が所望の値となるように駆動電圧を調整する。こうすることで、圧電素子4にクリープが生じたとしても、アクチュエータ本体3の傾動量を安定的に制御することができる。
【0037】
尚、静電容量を検出する際には、制御部120は、参照端子83と第2検出端子82とを介して、ベース部2における間隙G2を挟んだ第1シリコン層210と第2シリコン層230との間の静電容量を検出している。間隙G2は、アクチュエータ本体3を作動させても変化しないはずなので、間隙G2の静電容量を検出することによって静電容量の誤差変動を検出することができる。すなわち、間隙G1の静電容量から当該誤差変動分を減算することによって、アクチュエータ本体3の作動による正確な静電容量の変化を求めることができる。
【0038】
続いて、ミラーアレイ100の製造方法について説明する。図3〜10に、ミラーアレイ100の製造工程を説明するためのSOI基板200を示す。
【0039】
まず、SOI基板200を用意する。
【0040】
続いて、図4に示すように、SOI基板200の第1シリコン層210をドライエッチングして、複数の貫通孔211,211,…を形成する(貫通孔形成工程)。貫通孔211は、第1シリコン層210を貫通して、酸化膜層220に達している。複数の貫通孔211,211,…は、第1グループと第2グループとに分けられる。詳しくは、第1グループの貫通孔211a,211a,…は、アクチュエータ1の間隙G1に対応する部分に形成されており、第2グループの貫通孔211b,211b,…は、アクチュエータ1の間隙G2に対応する部分に形成されている(以下、グループを区別しないときには、単に「貫通孔211」と称する)。また、各貫通孔211は、テーパ形状をしている(図6(B)参照)。詳しくは、貫通孔211は、断面円形であり、酸化膜層220に近づくほど内径が小さくなっている。
【0041】
続いて、図5に示すように、貫通孔211,211,…を介した犠牲層エッチングにより酸化膜層220をエッチングする(部分除去工程)。この工程と前の貫通孔形成工程とが第1酸化膜除去工程に相当する。エッチングにはHFガスが用いられる。貫通孔211,211,…を通って酸化膜層220へ到達したHFガスは、酸化膜層220を等方的にエッチングする。すなわち、酸化膜層220は、厚み方向だけでなく、厚み方向と直交する方向へもエッチングされる。こうして、第1シリコン層210のうち第1グループの貫通孔211a,211a,…が形成された部分と第2グループの貫通孔211b,211b,…が形成された部分との裏側では、酸化膜層220が除去され、第1シリコン層210と第2シリコン層230とで挟まれた間隙G1と間隙G2が形成される。
【0042】
ただし、この工程においては、第1シリコン層210のうちアクチュエータ本体3の基端部となる部分と第2シリコン層230のうち対向電極5となる部分とに挟持された酸化膜層220を、全て除去するわけではない。詳しくは、図4に示すように、第2シリコン層230では、対向電極5となる部分231と、後の工程で除去される部分(アクチュエータ本体3のうち基端部を除く部分の裏側に位置する部分)232とが隣接している。そして、対向電極5のうち、除去される部分232と隣接する側の端部(アクチュエータ本体3の支持端とは反対側の端部、即ち、アクチュエータ本体3の先端側の端部)には酸化膜層220が除去されずに残っている。すなわち、除去される部分232とアクチュエータ本体3とに挟持された酸化膜層220が、アクチュエータ本体3の基端部と対向電極5との間に少しだけ侵入した状態となっている。
【0043】
次に、図6に示すように、第1シリコン層210の表面にSiO2膜240、Pt/Ti膜250、PZT膜260及びAu/Ti膜270を順に成膜する(成膜工程)。詳しくは、まず、絶縁膜としてのSiO2膜をSOI基板200の全面に減圧CVDによって成膜する。その後、SiO2膜240が成膜された第1シリコン層210の表面に、Pt/Ti膜250、PZT膜260及びAu/Ti膜270を順にスパッタリングにより成膜する。尚、Au/Ti膜270を成膜する前に、PZT膜260のうち下部電極41の下部端子41aが設けられる部分をウェットエッチングにより除去しておく。これにより、当該除去した部分においては、Pt/Ti膜250上にAu/Ti膜270が積層され、両者が電気的に接続される。
【0044】
また、このとき、貫通孔211,211,…の内周面にもSiO2膜240、Pt/Ti膜250、PZT膜260及びAu/Ti膜270が成膜される。ここで、貫通孔211は、図6(B)に示すように、前述の如くテーパ形状となっているため、貫通孔211は、SiO2膜240、Pt/Ti膜250、PZT膜260及びAu/Ti膜270を順に成膜していく過程で完全に塞がれる。こうして、貫通孔211は、SiO2膜240、Pt/Ti膜250、PZT膜260及びAu/Ti膜270により埋められる。
【0045】
次に、図7に示すように、Au/Ti膜270、PZT膜260及びPt/Ti膜250を順にエッチングして、圧電素子4を形成する(形成工程)。この工程と前の成膜工程とが圧電素子形成工程に相当する。詳しくは、まず、Au/Ti膜270をドライエッチングして、下部電極41の下部端子41a及び上部電極43を形成する。次に、PZT膜260をウェットエッチングして、圧電体層42を形成する。最後に、Pt/Ti膜250をドライエッチングして、下部電極41を形成する。
【0046】
次に、図8に示すように、SiO2膜240及び第1シリコン層210をエッチングする。この工程が本体形成工程に相当する。まず、SiO2膜240を所定の形状にエッチングする。このとき、SiO2膜240は二段階でエッチングされる。まず始めに、4つのアクチュエータ本体3,3,…、下部電極41の下部端子41a及び上部電極43,43,…の上部端子43b,43b,…を含む領域のSiO2膜240は残し、ミラー110や第1及び第2ヒンジ6,7に対応する部分のSiO2膜240をウェットエッチングにより除去する。次に、残ったSiO2膜240をドライエッチングにより、アクチュエータ本体3の1つ1つに対応した形状に形成する。1段目をウェットエッチングにより行うことによって、ミラー110や第1及び第2ヒンジ6,7を不要にエッチングしてしまうことを防止することができる。
【0047】
こうして、SiO2膜240をエッチングした後、第1シリコン層210をドライエッチングにより所定の形状に形成する。詳しくは、第1シリコン層210をエッチングして、ベース部2、アクチュエータ本体3,3,…、ミラー110,110、第1ヒンジ6,6,…、及び第2ヒンジ7,7を形成する。ベース部2には、枠状の第1溝212と、該第1溝212を囲む、さらに大きな枠状の第2溝213が形成される。第1及び第2溝212,213はそれぞれ、長方形状をしている。これら第1及び第2溝212,213により、ベース部2の第1シリコン層210は、アクチュエータ本体3,3,…、ミラー110,110、第1ヒンジ6,6,…、及び第2ヒンジ7,7を囲む枠状の第1フレーム部214と、第1フレーム部214を囲む枠状の第2フレーム部215と、第2フレーム部215を囲む枠状の第3フレーム部216に分割される。第1フレーム部214は、アクチュエータ本体3,3,…が直接連結されて該アクチュエータ本体3,3,…を支持すると共に、第2ヒンジ7,7を介してミラー110,110を支持している。また、第1フレーム部214には、上部端子43b,43b,…、下部端子41aが設けられている。第2フレーム部215には、第2グループの貫通孔211b,211b,…が形成されている。貫通孔211b,211b,…が形成された部分の裏側には、第2シリコン層230との間に間隙G2が形成されている。間隙G2は、第1溝212に隣接している。第1溝212のうち、間隙G2と隣接する部分は、それ以外の部分よりも幅が広くなっており、前記開口21を構成する。開口21と間隙G2とは連通している。第3フレーム部216は、ミラーアレイ100の最外周に位置している。
【0048】
こうして、SiO2膜240及び第1シリコン層210をエッチングした後、第1溝212の一部で構成される開口21において露出する酸化膜層220をドライエッチングにより除去する。その結果、第2シリコン層230が開口21を介して露出するようになる。
【0049】
次に、図9に示すように、第2シリコン層230をエッチングして対向電極5を形成する。この工程が電極形成工程に相当する。詳しくは、アクチュエータ本体3,3,…、ミラー110,110、第1ヒンジ6,6,…及び第2ヒンジ7,7の裏側に位置する第2シリコン層230を除去する。まず、第1シリコン層210の表面側には、図示を省略するが、熱可塑性樹脂で構成されたワックスを介してダミー基板が貼り合わされる。このとき、ワックスは、アクチュエータ本体3,3,…やミラー110,110等を表面側から全体的に覆うように設けられている。アクチュエータ本体3の基端部においては、先の犠牲層エッチングにより酸化膜層220が除去されており、間隙G1はアクチュエータ本体3の短手方向、即ち、側方に開口している。前記ワックスは、アクチュエータ本体3の側端縁にも設けられており、間隙G1の側方への開口を塞いでいる。次に、第2シリコン層230のうち除去される部分232(図5参照)の表面に成膜されたSiO2膜240をドライエッチングにより除去する。続いて、第2シリコン層230の除去される部分232をドライエッチングにより除去する。その結果、第2シリコン層230のうち、アクチュエータ本体3の基端部33と対向する部分231は、除去されずに、対向電極5として残る。対向電極5は、1つのアクチュエータ本体3につき1つ設けられ、合計4つ設けられている。対向電極5は、第2シリコン層230のうちベース部2を構成する部分と一体に形成されている。4つの対向電極5,5,…は、互いに絶縁されている。詳しくは、この工程において、第2シリコン層230のうちベース部2を構成する部分には、エッチングにより溝234(図2参照)が形成される。この溝234により、第2シリコン層230のうちベース部2を構成する部分は、対向電極5ごとに独立した4つの部分に分割されている。
【0050】
この工程により、第2シリコン層230には、除去される部分232に相当する開口233が形成される。開口233内において、アクチュエータ本体3,3,…、ミラー110,110、第1ヒンジ6,6,…及び第2ヒンジ7,7の裏側には、酸化膜層220が残っている。ここで、間隙G1を形成する工程において、対向電極5のうち、除去される部分232と隣接する側の端部51に酸化膜層220を残しておいたので、アクチュエータ本体3,3,…等の裏側に位置する酸化膜層220は、間隙G1内に少しだけ侵入した状態となっている。その結果、開口233と間隙G1とが酸化膜層220により遮断されている。そのため、除去される部分232をエッチングする際のエッチングガスが間隙G1内へ流入することが防止される。それにより、間隙G1を形成する第1及び第2シリコン層210,230が不必要に加工されることが防止される。
【0051】
尚、対向電極5の側端部(アクチュエータ本体3の長手方向に延びる端部)には酸化膜層220は残留していないため、間隙G1はアクチュエータ本体3の短手方向に開口している。しかし、前述の如く、間隙G1の側方への開口は、ワックスにより塞がれているため、エッチングガスが該側方の開口から間隙G1内へ流入することが防止される。
【0052】
次に、図10に示すように、酸化膜層220を除去する。この工程が第2酸化膜除去工程に相当する。詳しくは、第2シリコン層230に形成された開口233を介して、酸化膜層220を、HFを含む混合液からなるエッチング液を用いてウェットエッチングにより除去する。こうすることで、アクチュエータ本体3,3,…、ミラー110,110、第1ヒンジ6,6,…及び第2ヒンジ7,7がそれぞれ独立した状態となる。また、酸化膜層220のうち、間隙G1内に入り込んでいる部分も、サイドエッチにより除去される。これにより、アクチュエータ本体3の基端部33と対向電極5との間の酸化膜層220は完全に除去される。その後、SOI基板200から、ミラーアレイ100となる部分がダイシングされる。
【0053】
次に、図11に示すように、Au/Ti膜280を所定の部分に成膜する(電極成膜工程)。詳しくは、ミラー110の表面及び裏面にAu/Ti膜280a,280bを成膜する。Au/Ti膜280aは、ミラー110の鏡面を構成する。Au/Ti膜280bは、Au/Ti膜280aに対するバランスウェイトの機能を有する。また、ベース部2の第1フレーム部214上であってSiO2膜240が設けられていない部分にAu/Ti膜280cを成膜する。このAu/Ti膜280cは、第1検出端子81となる。また、ベース部2の、開口21において露出する第2シリコン層230にAu/Ti膜280dを成膜する。このAu/Ti膜280dは、第2検出端子82となる。また、ベース部2の第2フレーム部215上であって間隙G2と重なっていない部分にAu/Ti膜280eを成膜する。このAu/Ti膜280eは、参照端子83となる。
【0054】
こうして、ミラーアレイ100が製造される。
【0055】
したがって、本実施形態によれば、アクチュエータ1は、ベース部2と、ベース部2に支持されたアクチュエータ本体3と、アクチュエータ本体3を傾動させる圧電素子4と、アクチュエータ本体3のうちベース部2に支持された端部33に対向して設けられた対向電極5とを備え、アクチュエータ本体3は、第1シリコン層210と酸化膜層220と第2シリコン層230とを積層させたSOI基板200の第1シリコン層210で形成され、対向電極5は、SOI基板200の第2シリコン層230で形成され、アクチュエータ本体3と対向電極5との間には、SOI基板200の酸化膜層220を除去することによって形成された間隙G1が設けられており、アクチュエータ本体3と対向電極5との静電容量に基づいてアクチュエータ本体3の傾動を制御するように構成されている。このアクチュエータ1は、圧電駆動式なので、静電駆動式のようにアクチュエータ本体3に対向する駆動用電極を設ける必要がないため、アクチュエータ本体3の傾動量が駆動用電極によって制限されるということがない。すなわち、アクチュエータ本体3の傾動量を大きくすることができる。また、圧電素子4は伸張と収縮の両方を行うため、アクチュエータ本体3の片面だけに圧電素子4を設ける構成であっても、アクチュエータ本体3を表面側及び裏面側の両方に傾動させることができる。
【0056】
ただし、圧電素子4はクリープ特性を有するが、アクチュエータ本体3に対向する対向電極5を設け、アクチュエータ本体3と対向電極5との間の静電容量に基づいてアクチュエータ本体3の傾動量をフィードバック制御することによって、アクチュエータ本体3の傾動量を安定的に制御することができる。このとき、対向電極5を、アクチュエータ本体3のうち、傾動量が相対的に小さい基端部33に対向させることによって、対向電極5によりアクチュエータ本体3の傾動が制限されることを防止することができる。
【0057】
そして、このようなアクチュエータ1を製造方法は、前記第1シリコン層210のうち前記アクチュエータ本体3となる部分と前記第2シリコン層230のうち前記対向電極5となる部分との間の前記酸化膜層220を犠牲層エッチングにより部分的に除去する第1酸化膜除去工程と、前記第1シリコン層210の表面に圧電素子4を形成する圧電素子形成工程と、前記第1シリコン層210から前記アクチュエータ本体3を形成する本体形成工程と、前記第2シリコン層230のうち前記アクチュエータ本体3と対向する部分をエッチングにより除去して前記対向電極5を形成する電極形成工程と、前記電極形成工程後に前記アクチュエータ本体3に残っている前記酸化膜層220をエッチングにより除去する第2酸化膜除去工程とを含み、前記第1酸化膜層除去工程では、前記対向電極5となる部分のうち前記電極形成工程で除去される部分と隣接する端部に設けられた前記酸化膜層220を除去せずに残すようにしている。
【0058】
前記のアクチュエータを製造するためには、アクチュエータ本体3の裏側に位置する第2シリコン層230を除去することと、アクチュエータ本体3の裏側に位置する酸化膜層220を、対向電極5と挟持する部分も含めて除去することとが少なくとも必要である。
【0059】
これらを実現する方法としては、まず、アクチュエータ本体3の裏側の第2シリコン層230を除去し、続いて、かかる工程により露出した酸化膜層220を除去し、その際に、サイドエッチによりアクチュエータ本体3と対向電極5との間の酸化膜層220も除去することが考えられる。しかし、この方法では、サイドエッチによる酸化膜層220の除去に時間を要すること、及び、そのためにアクチュエータ本体3と対向電極5とが不必要にエッチングされてしまうことが問題となる。
【0060】
そこで、アクチュエータ本体3と対向電極5との間の酸化膜層220を予め犠牲層エッチングにより除去しておくことが考えられる。しかしながら、アクチュエータ本体3と対向電極5との間の酸化膜層220を完全に除去してしまうと、第2シリコン層230をエッチングする際に、エッチングが酸化膜層220まで達すると、エッチングガス(液)がアクチュエータ本体3と対向電極5との間隙G1に侵入する虞がある。該間隙G1にエッチングガス(液)が侵入すると、アクチュエータ本体3と対向電極5とが不必要にエッチングされると共に、該間隙G1の精度が悪化してしまう。また、犠牲層エッチングを行うためには、第1シリコン層210にエッチングホール(貫通孔)が形成される場合がある。アクチュエータ本体3と対向電極5との間隙G1にエッチングガス(液)が侵入すると、貫通孔を介してエッチングガス(液)が第1シリコン層210の表面に形成された圧電素子4に到達し、圧電素子4を損傷させる虞がある。圧電素子4を損傷させないとしても、後に洗浄工程が必要になってしまう場合がある。
【0061】
それに対して、本実施形態の製造方法によれば、アクチュエータ本体3と対向電極5との間の酸化膜層220犠牲層エッチングにより部分的に除去し、第2シリコン層230のうち対向電極5となる部分231の、後の工程で除去される部分232と隣接する端部51に設けられた酸化膜層220を除去せずに残すようにしている。こうすることで、第2シリコン層230の除去される部分232をエッチングにより除去する際に、エッチングが進行して酸化膜層220まで達しても、対向電極5の端部とアクチュエータ本体3との間には酸化膜層220が残留しているので、エッチングガス(液)がアクチュエータ本体3と対向電極5との間隙G1に侵入することを防止することができる。その結果、アクチュエータ本体3及び対向電極5の不必要なエッチングを防止して、間隙G1の形状精度を向上させることができる。さらには、圧電素子4の損傷を防止することができると共に、洗浄工程も不要とすることができる。
【0062】
さらに、前記製造方法においては、第1シリコン層210に貫通孔211,211,…を形成し、該貫通孔211,211,…を介して酸化膜層220の犠牲層エッチングを行う。そして、最終的に酸化膜層220を除去する第2酸化膜除去工程よりも前に、該貫通孔211,211,…を埋めている。これにより、第2酸化膜除去工程において酸化膜層220を除去する際に、エッチング液(ガス)が貫通孔211,211,…を介して圧電素子4に達することを防止することができる。その結果、圧電素子4の損傷をより一層、防止することができる。
【0063】
また、貫通孔211,211,…を埋める作業は、第1シリコン層210の表面に圧電素子4を形成する工程で同時に行われるため、貫通孔211,211,…を埋めるためだけの工程を設ける必要がなく、製造方法が煩雑になることを防止することができる。ここで、貫通孔211,211,…を酸化膜層220に向かって先細のテーパ形状とすることによって、貫通孔211,211,…を容易に塞ぐことができる。
【0064】
《その他の実施形態》
本発明は、前記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0065】
前記実施形態では、アクチュエータ1をミラーアレイ100に適用した例を説明したが、これに限られるものではない。アクチュエータ1は様々なアプリケーションに組み込むことができる。
【0066】
また、アクチュエータ1は、アクチュエータ本体3が片持ち状に支持されているが、これに限られるものではない。例えば、アクチュエータ本体3が膜状の部材であって、その周縁部がベース部2に支持されて、中央部が揺動する構成であってもよい。
【0067】
さらに、前記実施形態で説明した、アクチュエータ本体3に間隙G1を介して対向電極5を設ける構成及びその構成を製造する方法は、圧電駆動以外の駆動方式のアクチュエータにも適用することができる。例えば、対向電極との間の静電力によりアクチュエータ本体を傾動させる静電駆動式のアクチュエータに適用してもよい。また、アクチュエータ本体に設けたコイルによる磁力と外部磁場との関係でアクチュエータ本体を傾動させる電磁駆動式のアクチュエータに適用してもよい。さらに、線膨張係数が異なる部材でアクチュエータ本体を構成し、両者の熱ひずみの差によりアクチュエータ本体を傾動させるアクチュエータに適用してもよい。
【0068】
また、前記製造方法では、ドライエッチング、ウェットエッチング、減圧CVD等が特定されているが、これらに限られるものではない。つまり、前記アクチュエータを製造できる限り、エッチングの種類が特に限定されるわけではなく、成膜の方法が限定されるわけではない。例えば、減圧CVDの代わりに、プラズマCVDやスパッタリングであってもよい。
【0069】
さらに、前記実施形態で説明した材質及び形状は、一例に過ぎず、これらに限定されるものではない。
【0070】
また、前記製造方法では、貫通孔211をテーパ形状としているが、これに限られるものではない。例えば、貫通孔211は、円筒形状等、その他の形状であってもよい。
【0071】
また、前記製造方法では、第1酸化膜除去工程において、第2シリコン層230の対向電極5となる部分231のうちアクチュエータ本体3の支持端とは反対側の端部51にのみ酸化膜層220を残しているが、これに限られるものではない。例えば、対向電極5となる部分231のうち、アクチュエータ本体3の長手方向と平行に延びる端部(側端部)にも酸化膜層220を残してもよい。前記製造方法では、第2シリコン層230をエッチングする際にアクチュエータ本体3及び対向電極5の側端縁にワックスを設けて、対向電極5の側端縁から間隙G1へエッチングガスが侵入しないようにされているが、対向電極5の側端部にも酸化膜層220を残留させておけば、ワックスを設ける工程を不要とすることができる。
【0072】
さらに、第2シリコン層230をエッチングする際にアクチュエータ本体3と対向電極5の側端縁との間を塞ぐワックスは、これに限られるものではない。ドライエッチング耐性(フッ酸耐性)を有する材質であれば、任意の材質を保護部材として設けることができる。
【0073】
尚、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0074】
以上説明したように、本発明は、アクチュエータ本体と、該アクチュエータ本体を傾動させる圧電素子とを備えたアクチュエータ、及びその製造方法について有用である。
【符号の説明】
【0075】
100 ミラーアレイ
200 SOI基板
210 第1シリコン層
211a 貫通孔
220 酸化膜層
230 第2シリコン層
231 対向電極となる部分
232 除去される部分
1 アクチュエータ
2 ベース部
3 アクチュエータ本体
4 圧電素子
5 対向電極
G1 間隙
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータ本体と、該アクチュエータ本体を傾動させる圧電素子とを備えたアクチュエータ、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、圧電駆動式のアクチュエータが知られている。例えば、特許文献1には、反射板を駆動するアクチュエータが開示されている。このアクチュエータは、枠状のベース部と、該ベース部に一端が支持されたアクチュエータ本体と、該アクチュエータ本体を傾動させる圧電素子とを備えている。アクチュエータ本体の他端は、反射板の弾性支持部に連結されている。このアクチュエータは、アクチュエータ本体を傾動させることによって反射板を傾動させる。
【0003】
このように構成されたアクチュエータは、SOI基板を用いて製造されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−257226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、圧電素子はクリープ(ドリフト)特性を有するため、前述のような圧電駆動式のアクチュエータは安定性の観点からは不利である。
【0006】
ここに開示された技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、安定性を向上させた圧電駆動式のアクチュエータ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここに開示されたアクチュエータは、ベース部と、前記ベース部に支持されたアクチュエータ本体と、前記アクチュエータ本体を傾動させる圧電素子と、前記アクチュエータ本体のうち該ベース部に支持された端部に対向して設けられた対向電極とを備え、前記アクチュエータ本体は、第1シリコン層と酸化膜層と第2シリコン層とを積層させたSOI基板の該第1シリコン層で形成され、前記対向電極は、前記SOI基板の前記第2シリコン層で形成され、前記アクチュエータ本体と前記対向電極との間には、前記SOI基板の前記酸化膜層を除去することによって形成された間隙が設けられており、前記アクチュエータ本体と前記対向電極との静電容量に基づいて前記アクチュエータ本体の傾動を制御するものである。
【0008】
前記の構成によれば、前記アクチュエータ本体に対向して前記対向電極を設けることによって、該アクチュエータ本体と該対向電極との静電容量に基づいて該アクチュエータ本体の変位を検出することができる。すなわち、該静電容量に基づいてアクチュエータ本体の傾動を制御することができる。こうすることで、アクチュエータの安定性を向上させることができる。
【0009】
また、このような構成においては、対向電極をアクチュエータ本体との間に微小な間隙を有した状態で該アクチュエータ本体に対向させて設ける必要がある。しかし、アクチュエータ本体と対向電極とを別々の基板で形成して、両者を貼り合わせる構成では、対向電極とアクチュエータ本体との間の間隙のばらつきが大きくなってしまう。
【0010】
それに対し、前記の構成によれば、SOI基板を用いてアクチュエータを形成する、詳しくは、第1シリコン層でアクチュエータ本体を形成し、第2シリコン層で対向電極を形成し、酸化膜層を除去することによってアクチュエータ本体と対向電極との間の間隙を形成する。これにより、アクチュエータ本体と対向電極とを対向させ、両者の間に高精度の間隙を設けることができる。
【0011】
さらに、ここに開示されたアクチュエータの製造方法は、ベース部と、該ベース部に支持されたアクチュエータ本体と、該アクチュエータ本体を傾動させる圧電素子と、該アクチュエータ本体のうち該ベース部に支持された端部に対向して設けられた対向電極とを備えたアクチュエータを、第1シリコン層と酸化膜層と第2シリコン層とを積層させたSOI基板から製造する、アクチュエータの製造方法であって、前記第1シリコン層のうち前記アクチュエータ本体となる部分と前記第2シリコン層のうち前記対向電極となる部分との間の前記酸化膜層をエッチングにより部分的に除去する第1酸化膜除去工程と、前記第1シリコン層の表面に圧電素子を形成する圧電素子形成工程と、前記第1シリコン層から前記アクチュエータ本体を形成する本体形成工程と、前記第2シリコン層のうち前記アクチュエータ本体と対向する部分をエッチングにより除去して前記対向電極を形成する電極形成工程と、前記電極形成工程後に前記アクチュエータ本体に残っている前記酸化膜層をエッチングにより除去する第2酸化膜除去工程とを含み、前記第1酸化膜層除去工程では、前記対向電極となる部分のうち前記電極形成工程で除去される部分と隣接する端部に設けられた前記酸化膜層を除去せずに残すものとする。
【0012】
前記の構成によれば、SOI基板からアクチュエータが製造される。SOI基板の第1シリコン層からアクチュエータ本体が形成され、SOI基板の第2シリコン層から対向電極が形成される。そして、SOI基板の酸化膜層を除去することによって、アクチュエータ本体と対向電極との間に間隙が形成される。前記の製造方法においては、第1シリコン層のアクチュエータ本体となる部分と第2シリコン層の対向電極となる部分との間の酸化膜層を犠牲層エッチングすることによって間隙を形成した後、第2シリコン層をエッチングすることによって対向電極を形成する。このような製造方法においては、第2シリコン層をエッチングする際に、前記間隙を有する第2シリコン層のうち対向電極として残る部分と第1シリコン層のアクチュエータ本体となる部分とまでエッチングされる虞がある。
【0013】
それに対し、前記の製造方法においては、酸化膜層を犠牲層エッチングする第1酸化膜除去工程では、第2シリコン層の対向電極となる部分のうち電極形成工程で除去される部分と隣接する端部に設けられた酸化膜層を除去せずに残すようになっている。つまり、電極形成工程において最終的に対向電極が形成されたときには、除去された部分と隣接する対向電極の端部には、酸化膜層が残っているため、エッチングガス又はエッチング液がアクチュエータ本体と対向電極と間の間隙に侵入しない。これにより、アクチュエータ本体及び対向電極が不要にエッチングされることを防止することができ、アクチュエータ本体と対向電極との間の間隙を高精度に維持することができる。
【発明の効果】
【0014】
前記アクチュエータによれば、アクチュエータ本体と対向電極との間の静電容量によりアクチュエータ本体の変位を検出することができるので、アクチュエータ本体を安定的に制御することができる。
【0015】
前記アクチュエータの製造方法によれば、アクチュエータ本体と対向電極との間に高精度の間隙を形成することができるので、前述の安定的なアクチュエータを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態に係るミラーアレイの平面図である。
【図2】ミラーアレイの下面図である。
【図3】ミラーアレイの、図1のIII−III線における断面図である。
【図4】貫通孔形成工程におけるSOI基板を示す図であって、(A)はB図のA−A線における断面図を、(B)は平面図を示す。
【図5】部分除去工程におけるSOI基板の、図4(A)に相当する断面図を示す。
【図6】成膜工程におけるSOI基板を示す図であって、(A)は図4(A)に相当する断面図を、(B)は貫通孔の部分拡大断面図を示す。
【図7】形成工程におけるSOI基板を示す図であって、(A)はB図のA−A線における断面図を、(B)は平面図を示す。
【図8】本体形成工程におけるSOI基板を示す図であって、(A)はB図のA−A線における断面図を、(B)は平面図を示す。
【図9】電極形成工程におけるSOI基板の、図4(A)に相当する断面図を示す。
【図10】第2酸化膜除去工程におけるSOI基板の、図4(A)に相当する断面図を示す。
【図11】電極成膜工程におけるSOI基板の、図4(A)に相当する断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、例示的な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0018】
図1は、ミラーアレイ100の平面図を、図2は、ミラーアレイ100の下面図を、図3はミラーアレイ100の、図1のIII−III線における断面図を示す。
【0019】
ミラーアレイ100は、枠状のベース部2と、4つのアクチュエータ1,1,…と、2つのミラー110,110と、各アクチュエータ1とミラー110とを連結する第1ヒンジ6と、各ミラー110とベース部2とを連結する第2ヒンジ7と、アクチュエータ1,1,…を制御する制御部120とを備えている。各ミラー110は、2つのアクチュエータ1,1により駆動される。その結果、ミラー110は、互いに直交する主軸X及び副軸Y回りに回動する。例えば、ミラーアレイ100は、波長選択スイッチとして使用される。
【0020】
このミラーアレイ100は、SOI(Silicon on Insulator)基板200を用いて製造されている。SOI基板200は、単結晶シリコンで形成された第1シリコン層210と、SiO2で形成された酸化膜層220と、単結晶シリコンで形成された第2シリコン層230とがこの順で積層されて構成されている。
【0021】
ベース部2は、概略長方形の枠状に形成されている。ベース部2の大部分は、第1シリコン層210、酸化膜層220及び第2シリコン層230で形成されている。
【0022】
ミラー110は、概略長方形状をした板状に形成されている。ミラー110は、第1シリコン層210で形成されている。
【0023】
第1ヒンジ6は、一端がアクチュエータ1の先端に連結され、他端がミラー110の端縁に連結されている。第1ヒンジ6は、アクチュエータ1の先端とミラー110の端縁との間を蛇行するように延びている。これにより、第1ヒンジ6は、容易に変形できるように構成されている。ミラー110には、2つの第1ヒンジ6,6が連結されている。つまり、ミラー110には、2つのアクチュエータ1,1が第1ヒンジ6,6を介して連結されている。2つの第1ヒンジ6,6は、ミラー110の端縁の中点に対して対称な位置に連結されている。第1ヒンジ6は、第1シリコン層210で形成されている。
【0024】
第2ヒンジ7の一端は、ミラー110の、第1ヒンジ6が連結された端縁と対向する端縁に連結されている。一方、第2ヒンジ7の他端は、ベース部2に連結されている。第2ヒンジ7は、ミラー110の端縁とベース部2との間を蛇行するように延びている。これにより、第2ヒンジ7は、容易に変形できるように構成されている。第2ヒンジ7は、ミラー110の端縁の中点に連結されている。第2ヒンジ7は、第1シリコン層210で形成されている。
【0025】
各アクチュエータ1は、前記ベース部2と、該ベース部2に連結されたアクチュエータ本体3と、アクチュエータ本体3の表面に形成された圧電素子4と、アクチュエータ本体3に対向して設けられた対向電極5とを備えている。
【0026】
アクチュエータ本体3は、その基端がベース部2に連結されている。アクチュエータ本体3は、ベース部2に片持ち状に支持されている。また、アクチュエータ本体3の先端には、第1ヒンジ6が連結されている。アクチュエータ本体3は、第1シリコン層210で形成されている。アクチュエータ本体3は、ベース部2のうち第1シリコン層210で形成された部分と一体に形成されている。
【0027】
圧電素子4は、アクチュエータ本体3の表面31(対向電極と対向する面32とは反対側の面)に形成されている。圧電素子4は、下部電極41と、上部電極43と、これらに挟持された圧電体層42とを有する。下部電極41、圧電体層42、上部電極43は、アクチュエータ本体3の表面31にこの順で積層されている。圧電素子4は、SOI基板200とは別の部材で形成されている。詳しくは、下部電極41は、Pt/Ti膜で形成されている。圧電体層42は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)で形成されている。上部電極43は、Au/Ti膜で形成されている。
【0028】
圧電体層42は、アクチュエータ本体3の長手方向の全域に亘って設けられている。圧電体層42は、アクチュエータ本体3の基端部からベース部2側にも延びている。そして、圧電体層42は、ベース部2上において、隣接する別のアクチュエータの圧電体層42と連結されている。つまり、4つのアクチュエータ1,1,…の圧電体層42,42,…は、1つに連結されている。
【0029】
上部電極43は、圧電体層42のうちアクチュエータ本体3上の部分に設けられた本体43aと、圧電体層42のうちベース部2上の部分に設けられた端子(以下、「上部端子」ともいう)43bと、該本体43aと端子43bとを連結する連結部43cとを有している。連結部43cは、本体43aや端子43bよりも細い形状となっている。
【0030】
下部電極41は、圧電体層42と概ね同様の形状をしており、圧電体層42の下方に位置している。そのため、下部電極41は、基本的には、外部に露出していない。ただし、下部電極41の端子(以下、「下部端子」ともいう)41aだけが、外部に露出している。下部電極41の下部端子41aは、4つのアクチュエータ1,1,…の下部電極41,41,…で共通である。
【0031】
対向電極5は、ベース部2と一体的に構成されている。対向電極5は、アクチュエータ本体3の基端部33と対向して設けられている。対向電極5とアクチュエータ本体3の基端部33との間には、間隙G1が設けられている。対向電極5は、アクチュエータ本体3ごとに設けられている。すなわち、本実施形態では、アクチュエータ本体3が4つなので、対向電極5も4つ設けられている。対向電極5は、第2シリコン層230で形成されている。対向電極5は、ベース部2のうち第2シリコン層230で形成された部分と一体に形成されている。ただし、ベース部2の第2シリコン層230においては、4つの対向電極5,5,…のそれぞれを分離させるための溝234,234,…が形成されている。該溝234は、酸化膜層220まで達している。こうして、4つの対向電極5,5,…は、それぞれ電気的に絶縁されている。間隙G1は、酸化膜層220を除去することによって形成されている。
【0032】
ベース部2には、詳しくは後述するが、アクチュエータ本体3と対向電極5との間の静電容量を検出するための第1及び第2検出端子81,82が設けられている。詳しくは、第1検出端子81は、ベース部2における第1シリコン層210に設けられている。第1検出端子81は、第1シリコン層210に設けられているので、アクチュエータ本体3と電気的に接続されていることになる。また、ベース部2には、第2シリコン層230を第1シリコン層210側に露出させるための概略長方形状の開口21が形成されている。この開口21は、第1シリコン層210及び酸化膜層220を貫通している。第2検出端子82は、開口21において露出する第2シリコン層230に設けられている。第2検出端子82は、第2シリコン層230に設けられているので、対向電極5と電気的に接続されていることになる。
【0033】
さらに、ベース部2の第1シリコン層210には、開口21を挟んで、第1検出端子81とを反対側に、参照端子83が設けられている。この参照端子83は、詳しくは後述するが、参照静電容量を検出するための端子である。
【0034】
また、ベース部2のうち、開口21に隣接し且つ開口21よりも参照端子83側の部分には、第1シリコン層210と第2シリコン層230との間に間隙G2が設けられている。間隙G2は、酸化膜層220を除去することによって形成されている。
【0035】
次に、このように構成されたミラーアレイ100の動作について説明する。ミラーアレイ100の制御部120は、上部電極43の端子43bと下部電極41の下部端子41aとに駆動電圧を印加する。この駆動電圧に応じて、圧電体層42が伸張又は収縮する。その結果、アクチュエータ本体3の表面31側の部分が、裏面32に対して伸張又は収縮し、アクチュエータ本体3が上方(表面31側)又は下方(裏面32側)に傾動する。さらに詳しくは、ミラー110に連結された2つのアクチュエータ本体3,3を同じ方向に傾動させることによって、ミラー110を主軸X回りに回動させることができる。このとき、2つのアクチュエータ本体3,3を上方に傾動させるか、下方に傾動させるかによって、ミラー110の主軸X回りの回動方向を切り替えることができる。一方、2つのアクチュエータ本体3,3をそれぞれ逆方向に傾動させることによって、ミラー110を副軸Y回りに回動させることができる。このとき、上方に傾動させるアクチュエータ本体3と下方に傾動させるアクチュエータ本体3とを入れ替えることによって、ミラー110の副軸Y回りの回動方向を切り替えることができる。
【0036】
また、制御部120は、ベース部2に設けられた第1及び第2検出端子81,82を介して、アクチュエータ本体3と対向電極5との間の静電容量を検出することによって、アクチュエータ本体3の変位、即ち、傾動量を検出する。つまり、アクチュエータ本体3が傾動すると、アクチュエータ本体3と対向電極5との間の間隙G1の大きさが変化する。それにより、アクチュエータ本体3と対向電極5との間の静電容量が変化するので、該静電容量を検出することによって、アクチュエータ本体3の傾動量を検出することができる。そして、制御部120は、第1及び第2検出端子81,82間の電圧に基づいて、アクチュエータ本体3の傾動量が所望の値となるように駆動電圧を調整する。こうすることで、圧電素子4にクリープが生じたとしても、アクチュエータ本体3の傾動量を安定的に制御することができる。
【0037】
尚、静電容量を検出する際には、制御部120は、参照端子83と第2検出端子82とを介して、ベース部2における間隙G2を挟んだ第1シリコン層210と第2シリコン層230との間の静電容量を検出している。間隙G2は、アクチュエータ本体3を作動させても変化しないはずなので、間隙G2の静電容量を検出することによって静電容量の誤差変動を検出することができる。すなわち、間隙G1の静電容量から当該誤差変動分を減算することによって、アクチュエータ本体3の作動による正確な静電容量の変化を求めることができる。
【0038】
続いて、ミラーアレイ100の製造方法について説明する。図3〜10に、ミラーアレイ100の製造工程を説明するためのSOI基板200を示す。
【0039】
まず、SOI基板200を用意する。
【0040】
続いて、図4に示すように、SOI基板200の第1シリコン層210をドライエッチングして、複数の貫通孔211,211,…を形成する(貫通孔形成工程)。貫通孔211は、第1シリコン層210を貫通して、酸化膜層220に達している。複数の貫通孔211,211,…は、第1グループと第2グループとに分けられる。詳しくは、第1グループの貫通孔211a,211a,…は、アクチュエータ1の間隙G1に対応する部分に形成されており、第2グループの貫通孔211b,211b,…は、アクチュエータ1の間隙G2に対応する部分に形成されている(以下、グループを区別しないときには、単に「貫通孔211」と称する)。また、各貫通孔211は、テーパ形状をしている(図6(B)参照)。詳しくは、貫通孔211は、断面円形であり、酸化膜層220に近づくほど内径が小さくなっている。
【0041】
続いて、図5に示すように、貫通孔211,211,…を介した犠牲層エッチングにより酸化膜層220をエッチングする(部分除去工程)。この工程と前の貫通孔形成工程とが第1酸化膜除去工程に相当する。エッチングにはHFガスが用いられる。貫通孔211,211,…を通って酸化膜層220へ到達したHFガスは、酸化膜層220を等方的にエッチングする。すなわち、酸化膜層220は、厚み方向だけでなく、厚み方向と直交する方向へもエッチングされる。こうして、第1シリコン層210のうち第1グループの貫通孔211a,211a,…が形成された部分と第2グループの貫通孔211b,211b,…が形成された部分との裏側では、酸化膜層220が除去され、第1シリコン層210と第2シリコン層230とで挟まれた間隙G1と間隙G2が形成される。
【0042】
ただし、この工程においては、第1シリコン層210のうちアクチュエータ本体3の基端部となる部分と第2シリコン層230のうち対向電極5となる部分とに挟持された酸化膜層220を、全て除去するわけではない。詳しくは、図4に示すように、第2シリコン層230では、対向電極5となる部分231と、後の工程で除去される部分(アクチュエータ本体3のうち基端部を除く部分の裏側に位置する部分)232とが隣接している。そして、対向電極5のうち、除去される部分232と隣接する側の端部(アクチュエータ本体3の支持端とは反対側の端部、即ち、アクチュエータ本体3の先端側の端部)には酸化膜層220が除去されずに残っている。すなわち、除去される部分232とアクチュエータ本体3とに挟持された酸化膜層220が、アクチュエータ本体3の基端部と対向電極5との間に少しだけ侵入した状態となっている。
【0043】
次に、図6に示すように、第1シリコン層210の表面にSiO2膜240、Pt/Ti膜250、PZT膜260及びAu/Ti膜270を順に成膜する(成膜工程)。詳しくは、まず、絶縁膜としてのSiO2膜をSOI基板200の全面に減圧CVDによって成膜する。その後、SiO2膜240が成膜された第1シリコン層210の表面に、Pt/Ti膜250、PZT膜260及びAu/Ti膜270を順にスパッタリングにより成膜する。尚、Au/Ti膜270を成膜する前に、PZT膜260のうち下部電極41の下部端子41aが設けられる部分をウェットエッチングにより除去しておく。これにより、当該除去した部分においては、Pt/Ti膜250上にAu/Ti膜270が積層され、両者が電気的に接続される。
【0044】
また、このとき、貫通孔211,211,…の内周面にもSiO2膜240、Pt/Ti膜250、PZT膜260及びAu/Ti膜270が成膜される。ここで、貫通孔211は、図6(B)に示すように、前述の如くテーパ形状となっているため、貫通孔211は、SiO2膜240、Pt/Ti膜250、PZT膜260及びAu/Ti膜270を順に成膜していく過程で完全に塞がれる。こうして、貫通孔211は、SiO2膜240、Pt/Ti膜250、PZT膜260及びAu/Ti膜270により埋められる。
【0045】
次に、図7に示すように、Au/Ti膜270、PZT膜260及びPt/Ti膜250を順にエッチングして、圧電素子4を形成する(形成工程)。この工程と前の成膜工程とが圧電素子形成工程に相当する。詳しくは、まず、Au/Ti膜270をドライエッチングして、下部電極41の下部端子41a及び上部電極43を形成する。次に、PZT膜260をウェットエッチングして、圧電体層42を形成する。最後に、Pt/Ti膜250をドライエッチングして、下部電極41を形成する。
【0046】
次に、図8に示すように、SiO2膜240及び第1シリコン層210をエッチングする。この工程が本体形成工程に相当する。まず、SiO2膜240を所定の形状にエッチングする。このとき、SiO2膜240は二段階でエッチングされる。まず始めに、4つのアクチュエータ本体3,3,…、下部電極41の下部端子41a及び上部電極43,43,…の上部端子43b,43b,…を含む領域のSiO2膜240は残し、ミラー110や第1及び第2ヒンジ6,7に対応する部分のSiO2膜240をウェットエッチングにより除去する。次に、残ったSiO2膜240をドライエッチングにより、アクチュエータ本体3の1つ1つに対応した形状に形成する。1段目をウェットエッチングにより行うことによって、ミラー110や第1及び第2ヒンジ6,7を不要にエッチングしてしまうことを防止することができる。
【0047】
こうして、SiO2膜240をエッチングした後、第1シリコン層210をドライエッチングにより所定の形状に形成する。詳しくは、第1シリコン層210をエッチングして、ベース部2、アクチュエータ本体3,3,…、ミラー110,110、第1ヒンジ6,6,…、及び第2ヒンジ7,7を形成する。ベース部2には、枠状の第1溝212と、該第1溝212を囲む、さらに大きな枠状の第2溝213が形成される。第1及び第2溝212,213はそれぞれ、長方形状をしている。これら第1及び第2溝212,213により、ベース部2の第1シリコン層210は、アクチュエータ本体3,3,…、ミラー110,110、第1ヒンジ6,6,…、及び第2ヒンジ7,7を囲む枠状の第1フレーム部214と、第1フレーム部214を囲む枠状の第2フレーム部215と、第2フレーム部215を囲む枠状の第3フレーム部216に分割される。第1フレーム部214は、アクチュエータ本体3,3,…が直接連結されて該アクチュエータ本体3,3,…を支持すると共に、第2ヒンジ7,7を介してミラー110,110を支持している。また、第1フレーム部214には、上部端子43b,43b,…、下部端子41aが設けられている。第2フレーム部215には、第2グループの貫通孔211b,211b,…が形成されている。貫通孔211b,211b,…が形成された部分の裏側には、第2シリコン層230との間に間隙G2が形成されている。間隙G2は、第1溝212に隣接している。第1溝212のうち、間隙G2と隣接する部分は、それ以外の部分よりも幅が広くなっており、前記開口21を構成する。開口21と間隙G2とは連通している。第3フレーム部216は、ミラーアレイ100の最外周に位置している。
【0048】
こうして、SiO2膜240及び第1シリコン層210をエッチングした後、第1溝212の一部で構成される開口21において露出する酸化膜層220をドライエッチングにより除去する。その結果、第2シリコン層230が開口21を介して露出するようになる。
【0049】
次に、図9に示すように、第2シリコン層230をエッチングして対向電極5を形成する。この工程が電極形成工程に相当する。詳しくは、アクチュエータ本体3,3,…、ミラー110,110、第1ヒンジ6,6,…及び第2ヒンジ7,7の裏側に位置する第2シリコン層230を除去する。まず、第1シリコン層210の表面側には、図示を省略するが、熱可塑性樹脂で構成されたワックスを介してダミー基板が貼り合わされる。このとき、ワックスは、アクチュエータ本体3,3,…やミラー110,110等を表面側から全体的に覆うように設けられている。アクチュエータ本体3の基端部においては、先の犠牲層エッチングにより酸化膜層220が除去されており、間隙G1はアクチュエータ本体3の短手方向、即ち、側方に開口している。前記ワックスは、アクチュエータ本体3の側端縁にも設けられており、間隙G1の側方への開口を塞いでいる。次に、第2シリコン層230のうち除去される部分232(図5参照)の表面に成膜されたSiO2膜240をドライエッチングにより除去する。続いて、第2シリコン層230の除去される部分232をドライエッチングにより除去する。その結果、第2シリコン層230のうち、アクチュエータ本体3の基端部33と対向する部分231は、除去されずに、対向電極5として残る。対向電極5は、1つのアクチュエータ本体3につき1つ設けられ、合計4つ設けられている。対向電極5は、第2シリコン層230のうちベース部2を構成する部分と一体に形成されている。4つの対向電極5,5,…は、互いに絶縁されている。詳しくは、この工程において、第2シリコン層230のうちベース部2を構成する部分には、エッチングにより溝234(図2参照)が形成される。この溝234により、第2シリコン層230のうちベース部2を構成する部分は、対向電極5ごとに独立した4つの部分に分割されている。
【0050】
この工程により、第2シリコン層230には、除去される部分232に相当する開口233が形成される。開口233内において、アクチュエータ本体3,3,…、ミラー110,110、第1ヒンジ6,6,…及び第2ヒンジ7,7の裏側には、酸化膜層220が残っている。ここで、間隙G1を形成する工程において、対向電極5のうち、除去される部分232と隣接する側の端部51に酸化膜層220を残しておいたので、アクチュエータ本体3,3,…等の裏側に位置する酸化膜層220は、間隙G1内に少しだけ侵入した状態となっている。その結果、開口233と間隙G1とが酸化膜層220により遮断されている。そのため、除去される部分232をエッチングする際のエッチングガスが間隙G1内へ流入することが防止される。それにより、間隙G1を形成する第1及び第2シリコン層210,230が不必要に加工されることが防止される。
【0051】
尚、対向電極5の側端部(アクチュエータ本体3の長手方向に延びる端部)には酸化膜層220は残留していないため、間隙G1はアクチュエータ本体3の短手方向に開口している。しかし、前述の如く、間隙G1の側方への開口は、ワックスにより塞がれているため、エッチングガスが該側方の開口から間隙G1内へ流入することが防止される。
【0052】
次に、図10に示すように、酸化膜層220を除去する。この工程が第2酸化膜除去工程に相当する。詳しくは、第2シリコン層230に形成された開口233を介して、酸化膜層220を、HFを含む混合液からなるエッチング液を用いてウェットエッチングにより除去する。こうすることで、アクチュエータ本体3,3,…、ミラー110,110、第1ヒンジ6,6,…及び第2ヒンジ7,7がそれぞれ独立した状態となる。また、酸化膜層220のうち、間隙G1内に入り込んでいる部分も、サイドエッチにより除去される。これにより、アクチュエータ本体3の基端部33と対向電極5との間の酸化膜層220は完全に除去される。その後、SOI基板200から、ミラーアレイ100となる部分がダイシングされる。
【0053】
次に、図11に示すように、Au/Ti膜280を所定の部分に成膜する(電極成膜工程)。詳しくは、ミラー110の表面及び裏面にAu/Ti膜280a,280bを成膜する。Au/Ti膜280aは、ミラー110の鏡面を構成する。Au/Ti膜280bは、Au/Ti膜280aに対するバランスウェイトの機能を有する。また、ベース部2の第1フレーム部214上であってSiO2膜240が設けられていない部分にAu/Ti膜280cを成膜する。このAu/Ti膜280cは、第1検出端子81となる。また、ベース部2の、開口21において露出する第2シリコン層230にAu/Ti膜280dを成膜する。このAu/Ti膜280dは、第2検出端子82となる。また、ベース部2の第2フレーム部215上であって間隙G2と重なっていない部分にAu/Ti膜280eを成膜する。このAu/Ti膜280eは、参照端子83となる。
【0054】
こうして、ミラーアレイ100が製造される。
【0055】
したがって、本実施形態によれば、アクチュエータ1は、ベース部2と、ベース部2に支持されたアクチュエータ本体3と、アクチュエータ本体3を傾動させる圧電素子4と、アクチュエータ本体3のうちベース部2に支持された端部33に対向して設けられた対向電極5とを備え、アクチュエータ本体3は、第1シリコン層210と酸化膜層220と第2シリコン層230とを積層させたSOI基板200の第1シリコン層210で形成され、対向電極5は、SOI基板200の第2シリコン層230で形成され、アクチュエータ本体3と対向電極5との間には、SOI基板200の酸化膜層220を除去することによって形成された間隙G1が設けられており、アクチュエータ本体3と対向電極5との静電容量に基づいてアクチュエータ本体3の傾動を制御するように構成されている。このアクチュエータ1は、圧電駆動式なので、静電駆動式のようにアクチュエータ本体3に対向する駆動用電極を設ける必要がないため、アクチュエータ本体3の傾動量が駆動用電極によって制限されるということがない。すなわち、アクチュエータ本体3の傾動量を大きくすることができる。また、圧電素子4は伸張と収縮の両方を行うため、アクチュエータ本体3の片面だけに圧電素子4を設ける構成であっても、アクチュエータ本体3を表面側及び裏面側の両方に傾動させることができる。
【0056】
ただし、圧電素子4はクリープ特性を有するが、アクチュエータ本体3に対向する対向電極5を設け、アクチュエータ本体3と対向電極5との間の静電容量に基づいてアクチュエータ本体3の傾動量をフィードバック制御することによって、アクチュエータ本体3の傾動量を安定的に制御することができる。このとき、対向電極5を、アクチュエータ本体3のうち、傾動量が相対的に小さい基端部33に対向させることによって、対向電極5によりアクチュエータ本体3の傾動が制限されることを防止することができる。
【0057】
そして、このようなアクチュエータ1を製造方法は、前記第1シリコン層210のうち前記アクチュエータ本体3となる部分と前記第2シリコン層230のうち前記対向電極5となる部分との間の前記酸化膜層220を犠牲層エッチングにより部分的に除去する第1酸化膜除去工程と、前記第1シリコン層210の表面に圧電素子4を形成する圧電素子形成工程と、前記第1シリコン層210から前記アクチュエータ本体3を形成する本体形成工程と、前記第2シリコン層230のうち前記アクチュエータ本体3と対向する部分をエッチングにより除去して前記対向電極5を形成する電極形成工程と、前記電極形成工程後に前記アクチュエータ本体3に残っている前記酸化膜層220をエッチングにより除去する第2酸化膜除去工程とを含み、前記第1酸化膜層除去工程では、前記対向電極5となる部分のうち前記電極形成工程で除去される部分と隣接する端部に設けられた前記酸化膜層220を除去せずに残すようにしている。
【0058】
前記のアクチュエータを製造するためには、アクチュエータ本体3の裏側に位置する第2シリコン層230を除去することと、アクチュエータ本体3の裏側に位置する酸化膜層220を、対向電極5と挟持する部分も含めて除去することとが少なくとも必要である。
【0059】
これらを実現する方法としては、まず、アクチュエータ本体3の裏側の第2シリコン層230を除去し、続いて、かかる工程により露出した酸化膜層220を除去し、その際に、サイドエッチによりアクチュエータ本体3と対向電極5との間の酸化膜層220も除去することが考えられる。しかし、この方法では、サイドエッチによる酸化膜層220の除去に時間を要すること、及び、そのためにアクチュエータ本体3と対向電極5とが不必要にエッチングされてしまうことが問題となる。
【0060】
そこで、アクチュエータ本体3と対向電極5との間の酸化膜層220を予め犠牲層エッチングにより除去しておくことが考えられる。しかしながら、アクチュエータ本体3と対向電極5との間の酸化膜層220を完全に除去してしまうと、第2シリコン層230をエッチングする際に、エッチングが酸化膜層220まで達すると、エッチングガス(液)がアクチュエータ本体3と対向電極5との間隙G1に侵入する虞がある。該間隙G1にエッチングガス(液)が侵入すると、アクチュエータ本体3と対向電極5とが不必要にエッチングされると共に、該間隙G1の精度が悪化してしまう。また、犠牲層エッチングを行うためには、第1シリコン層210にエッチングホール(貫通孔)が形成される場合がある。アクチュエータ本体3と対向電極5との間隙G1にエッチングガス(液)が侵入すると、貫通孔を介してエッチングガス(液)が第1シリコン層210の表面に形成された圧電素子4に到達し、圧電素子4を損傷させる虞がある。圧電素子4を損傷させないとしても、後に洗浄工程が必要になってしまう場合がある。
【0061】
それに対して、本実施形態の製造方法によれば、アクチュエータ本体3と対向電極5との間の酸化膜層220犠牲層エッチングにより部分的に除去し、第2シリコン層230のうち対向電極5となる部分231の、後の工程で除去される部分232と隣接する端部51に設けられた酸化膜層220を除去せずに残すようにしている。こうすることで、第2シリコン層230の除去される部分232をエッチングにより除去する際に、エッチングが進行して酸化膜層220まで達しても、対向電極5の端部とアクチュエータ本体3との間には酸化膜層220が残留しているので、エッチングガス(液)がアクチュエータ本体3と対向電極5との間隙G1に侵入することを防止することができる。その結果、アクチュエータ本体3及び対向電極5の不必要なエッチングを防止して、間隙G1の形状精度を向上させることができる。さらには、圧電素子4の損傷を防止することができると共に、洗浄工程も不要とすることができる。
【0062】
さらに、前記製造方法においては、第1シリコン層210に貫通孔211,211,…を形成し、該貫通孔211,211,…を介して酸化膜層220の犠牲層エッチングを行う。そして、最終的に酸化膜層220を除去する第2酸化膜除去工程よりも前に、該貫通孔211,211,…を埋めている。これにより、第2酸化膜除去工程において酸化膜層220を除去する際に、エッチング液(ガス)が貫通孔211,211,…を介して圧電素子4に達することを防止することができる。その結果、圧電素子4の損傷をより一層、防止することができる。
【0063】
また、貫通孔211,211,…を埋める作業は、第1シリコン層210の表面に圧電素子4を形成する工程で同時に行われるため、貫通孔211,211,…を埋めるためだけの工程を設ける必要がなく、製造方法が煩雑になることを防止することができる。ここで、貫通孔211,211,…を酸化膜層220に向かって先細のテーパ形状とすることによって、貫通孔211,211,…を容易に塞ぐことができる。
【0064】
《その他の実施形態》
本発明は、前記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0065】
前記実施形態では、アクチュエータ1をミラーアレイ100に適用した例を説明したが、これに限られるものではない。アクチュエータ1は様々なアプリケーションに組み込むことができる。
【0066】
また、アクチュエータ1は、アクチュエータ本体3が片持ち状に支持されているが、これに限られるものではない。例えば、アクチュエータ本体3が膜状の部材であって、その周縁部がベース部2に支持されて、中央部が揺動する構成であってもよい。
【0067】
さらに、前記実施形態で説明した、アクチュエータ本体3に間隙G1を介して対向電極5を設ける構成及びその構成を製造する方法は、圧電駆動以外の駆動方式のアクチュエータにも適用することができる。例えば、対向電極との間の静電力によりアクチュエータ本体を傾動させる静電駆動式のアクチュエータに適用してもよい。また、アクチュエータ本体に設けたコイルによる磁力と外部磁場との関係でアクチュエータ本体を傾動させる電磁駆動式のアクチュエータに適用してもよい。さらに、線膨張係数が異なる部材でアクチュエータ本体を構成し、両者の熱ひずみの差によりアクチュエータ本体を傾動させるアクチュエータに適用してもよい。
【0068】
また、前記製造方法では、ドライエッチング、ウェットエッチング、減圧CVD等が特定されているが、これらに限られるものではない。つまり、前記アクチュエータを製造できる限り、エッチングの種類が特に限定されるわけではなく、成膜の方法が限定されるわけではない。例えば、減圧CVDの代わりに、プラズマCVDやスパッタリングであってもよい。
【0069】
さらに、前記実施形態で説明した材質及び形状は、一例に過ぎず、これらに限定されるものではない。
【0070】
また、前記製造方法では、貫通孔211をテーパ形状としているが、これに限られるものではない。例えば、貫通孔211は、円筒形状等、その他の形状であってもよい。
【0071】
また、前記製造方法では、第1酸化膜除去工程において、第2シリコン層230の対向電極5となる部分231のうちアクチュエータ本体3の支持端とは反対側の端部51にのみ酸化膜層220を残しているが、これに限られるものではない。例えば、対向電極5となる部分231のうち、アクチュエータ本体3の長手方向と平行に延びる端部(側端部)にも酸化膜層220を残してもよい。前記製造方法では、第2シリコン層230をエッチングする際にアクチュエータ本体3及び対向電極5の側端縁にワックスを設けて、対向電極5の側端縁から間隙G1へエッチングガスが侵入しないようにされているが、対向電極5の側端部にも酸化膜層220を残留させておけば、ワックスを設ける工程を不要とすることができる。
【0072】
さらに、第2シリコン層230をエッチングする際にアクチュエータ本体3と対向電極5の側端縁との間を塞ぐワックスは、これに限られるものではない。ドライエッチング耐性(フッ酸耐性)を有する材質であれば、任意の材質を保護部材として設けることができる。
【0073】
尚、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0074】
以上説明したように、本発明は、アクチュエータ本体と、該アクチュエータ本体を傾動させる圧電素子とを備えたアクチュエータ、及びその製造方法について有用である。
【符号の説明】
【0075】
100 ミラーアレイ
200 SOI基板
210 第1シリコン層
211a 貫通孔
220 酸化膜層
230 第2シリコン層
231 対向電極となる部分
232 除去される部分
1 アクチュエータ
2 ベース部
3 アクチュエータ本体
4 圧電素子
5 対向電極
G1 間隙
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース部と、該ベース部に支持されたアクチュエータ本体と、該アクチュエータ本体を傾動させる圧電素子と、該アクチュエータ本体のうち該ベース部に支持された端部に対向して設けられた対向電極とを備えたアクチュエータを、第1シリコン層と酸化膜層と第2シリコン層とを積層させたSOI基板から製造する、アクチュエータの製造方法であって、
前記第1シリコン層のうち前記アクチュエータ本体となる部分と前記第2シリコン層のうち前記対向電極となる部分との間の前記酸化膜層をエッチングにより部分的に除去する第1酸化膜除去工程と、
前記第1シリコン層の表面に圧電素子を形成する圧電素子形成工程と、
前記第1シリコン層から前記アクチュエータ本体を形成する本体形成工程と、
前記第2シリコン層のうち前記アクチュエータ本体と対向する部分をエッチングにより除去して前記対向電極を形成する電極形成工程と、
前記電極形成工程後に前記アクチュエータ本体に残っている前記酸化膜層をエッチングにより除去する第2酸化膜除去工程とを含み、
前記第1酸化膜層除去工程では、前記対向電極となる部分のうち前記電極形成工程で除去される部分と隣接する端部に設けられた前記酸化膜層を除去せずに残す、アクチュエータの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のアクチュエータの製造方法において、
前記第1酸化膜除去工程では、前記第1シリコン層に前記酸化膜層まで達する貫通孔を形成し、該貫通孔を介した犠牲層エッチングにより該酸化膜層を除去する、アクチュエータの製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載のアクチュエータの製造方法において、
前記圧電素子形成工程では、前記第1酸化膜除去工程で形成された貫通孔を埋める、アクチュエータの製造方法。
【請求項4】
ベース部と、
前記ベース部に支持されたアクチュエータ本体と、
前記アクチュエータ本体を傾動させる圧電素子と、
前記アクチュエータ本体のうち該ベース部に支持された端部に対向して設けられた対向電極とを備え、
前記アクチュエータ本体は、第1シリコン層と酸化膜層と第2シリコン層とを積層させたSOI基板の該第1シリコン層で形成され、
前記対向電極は、前記SOI基板の前記第2シリコン層で形成され、
前記アクチュエータ本体と前記対向電極との間には、前記SOI基板の前記酸化膜層を除去することによって形成された間隙が設けられており、
前記アクチュエータ本体と前記対向電極との静電容量に基づいて前記アクチュエータ本体の傾動を制御するアクチュエータ。
【請求項5】
前記間隙は、前記酸化膜層を部分的に除去して、前記対向電極となる部分のうち、前記アクチュエータ本体の前記ベース部への支持端とは反対側に位置する端部に該酸化膜層を残しておき、前記第2シリコン層で前記対向電極を形成した後に、該端部に残しておいた該酸化膜層を除去することによって形成されているアクチュエータ。
【請求項1】
ベース部と、該ベース部に支持されたアクチュエータ本体と、該アクチュエータ本体を傾動させる圧電素子と、該アクチュエータ本体のうち該ベース部に支持された端部に対向して設けられた対向電極とを備えたアクチュエータを、第1シリコン層と酸化膜層と第2シリコン層とを積層させたSOI基板から製造する、アクチュエータの製造方法であって、
前記第1シリコン層のうち前記アクチュエータ本体となる部分と前記第2シリコン層のうち前記対向電極となる部分との間の前記酸化膜層をエッチングにより部分的に除去する第1酸化膜除去工程と、
前記第1シリコン層の表面に圧電素子を形成する圧電素子形成工程と、
前記第1シリコン層から前記アクチュエータ本体を形成する本体形成工程と、
前記第2シリコン層のうち前記アクチュエータ本体と対向する部分をエッチングにより除去して前記対向電極を形成する電極形成工程と、
前記電極形成工程後に前記アクチュエータ本体に残っている前記酸化膜層をエッチングにより除去する第2酸化膜除去工程とを含み、
前記第1酸化膜層除去工程では、前記対向電極となる部分のうち前記電極形成工程で除去される部分と隣接する端部に設けられた前記酸化膜層を除去せずに残す、アクチュエータの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のアクチュエータの製造方法において、
前記第1酸化膜除去工程では、前記第1シリコン層に前記酸化膜層まで達する貫通孔を形成し、該貫通孔を介した犠牲層エッチングにより該酸化膜層を除去する、アクチュエータの製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載のアクチュエータの製造方法において、
前記圧電素子形成工程では、前記第1酸化膜除去工程で形成された貫通孔を埋める、アクチュエータの製造方法。
【請求項4】
ベース部と、
前記ベース部に支持されたアクチュエータ本体と、
前記アクチュエータ本体を傾動させる圧電素子と、
前記アクチュエータ本体のうち該ベース部に支持された端部に対向して設けられた対向電極とを備え、
前記アクチュエータ本体は、第1シリコン層と酸化膜層と第2シリコン層とを積層させたSOI基板の該第1シリコン層で形成され、
前記対向電極は、前記SOI基板の前記第2シリコン層で形成され、
前記アクチュエータ本体と前記対向電極との間には、前記SOI基板の前記酸化膜層を除去することによって形成された間隙が設けられており、
前記アクチュエータ本体と前記対向電極との静電容量に基づいて前記アクチュエータ本体の傾動を制御するアクチュエータ。
【請求項5】
前記間隙は、前記酸化膜層を部分的に除去して、前記対向電極となる部分のうち、前記アクチュエータ本体の前記ベース部への支持端とは反対側に位置する端部に該酸化膜層を残しておき、前記第2シリコン層で前記対向電極を形成した後に、該端部に残しておいた該酸化膜層を除去することによって形成されているアクチュエータ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−90498(P2013−90498A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230616(P2011−230616)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(000183369)住友精密工業株式会社 (336)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(000183369)住友精密工業株式会社 (336)
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