説明

アクチュエータ駆動波形改良型連続式プリンタ

大体積液滴及び小体積液滴を生成するため、ノズル開口及び可調な励起器を有する液滴生成器を準備しその液滴生成器を作動させる。その際、そのノズルから直径Dの液体流が放出されるようその液滴生成器に液体を供給し、その液体流に周期xの第1種擾乱が生じその擾乱でその液体流から小体積液滴(26)が発生するようその励起器を作動させ、その液体流に周期Nxの第2種擾乱が生じその体積が小体積液滴に比しN倍の大体積液滴(28)がその擾乱で液体流断片から発生するようその励起器を随時調整し、そして第3種擾乱がその液体流に生じるよう周期Nxの間に更にその励起器を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はディジタル制御印刷機、特に液体インク流を液滴へと破断させそれらを適宜偏向させる連続式インクジェットプリンタに関する。
【背景技術】
【0002】
ディジタル制御カラー印刷方式としては従来から二種類の方式が採用されている。どちらの方式でも、印刷に使用するインクの色毎にインク源を設け、そのインクをプリントヘッド上のチャネル経由でノズルに送り、それらのノズルのうち必要なものからインクの液滴(インク滴)を吐出させて印刷媒体に付着させる、という仕組みを採っている。また、どちらの方式でも印刷用インク色毎にインク供給系を分けるのが普通である。その印刷用インクの色は、通常はシアン、イエロー及びマゼンタの三基本色である。この三色を使用するのは、合計で数百万色もの色彩乃至中間色をそれらの減法混色で発現させうるからである。
【0003】
従来方式のうち第1のものはドロップオンデマンドインクジェット印刷方式と通称されている。この方式では、熱、圧電等による加圧用のアクチュエータを使用し、必要なインク滴のみを発生させ印刷媒体の記録面上に射突させる。必要なインク滴はアクチュエータのうち対応するもののみを駆動することで生成、吐出させることができる。そのインク滴はプリントヘッド・印刷媒体間空間を飛翔し印刷媒体に射突する。従って、インク滴生成動作を制御し画像発現に必要なインク滴のみを選別的に生成することで、印刷したい画像を発現させることができる。各チャネル内の圧力は、不要なインクが出てノズルが汚れることを防ぐため、ノズルにおけるインク面が微かに凹状メニスカスを呈するよう若干負圧にするのが普通である。
【0004】
例えば既存のドロップオンデマンドインクジェットプリンタでは、そのプリントヘッドのオリフィス(ノズル開口)でインク滴を発生させるのに熱アクチュエータか圧電アクチュエータが使用されている。熱アクチュエータは、相応の場所に配置しておいたヒータでその周辺にある幾ばくかのインクを加熱して相変化させ、それにより発生するインク気泡でチャネル内圧を十分に高めてインク滴を吐出させるアクチュエータである。他方の圧電アクチュエータは機械力の印加でインク滴を吐出させるアクチュエータである。
【0005】
第2の従来方式は連続流式又は単に連続式インクジェット印刷方式と通称されている。古くは、複数個のインク滴が陸続と続くインク滴流を加圧インク源で発生させ、そのインク滴のうち必要なものを帯電させ、帯電させたインク滴を偏向電極で偏向させる仕組みが採られていた。偏向を受けた帯電インク滴は非帯電インク滴と異なる経路で飛翔していくので、それら帯電インク滴及び非帯電インク滴のうち一方で印刷媒体上への印刷を行うことができる。他方のインク滴は、キャッチャ、インタセプタ、ガター等と呼ばれるインク捕獲機構に導き再循環や廃棄に回せばよい。例えば特許文献1(発明者:Hansell、発行日:1933年12月26日)及び特許文献2(発明者:Sweet et al.、発行日:1968年3月12日)に記載の連続式インクジェット印刷用ノズルアレイでは、インク滴のうち印刷に使用したいものを選んで帯電させ、印刷媒体に達するようそのインク滴を偏向させている。
【0006】
特許文献3(発明者:Robertson、発行日:1973年1月9日)に記載の方法及び装置では、作用流体フィラメントを生成してそれを破断させ複数個のインク滴を均等間隔に生成する動作を、何個かのトランスデューサを使用し実行する。その際、破断してインク滴になる前のフィラメントの長さを、トランスデューサに供給される励起エネルギを制御して調節する。例えば大振幅励起なら短尺フィラメントになり、小振幅励起なら長尺フィラメントになる。生成された長尺,短尺各フィラメントは、空気流を過ぎりつつ作用流体経路沿いに飛翔していく。その空気流は長尺,短尺各フィラメントの先端から後端にかけて諸点で作用するので、それら未破断でインク滴になっていないフィラメントに対しその空気流が及ぼす作用は破断で生じるインク滴に及ぼす作用よりも強い。従って、フィラメントの長さを制御してインク滴弾道を変化させること、例えばある経路から別の経路へと切り替えることができる。これにより、インク滴のうちのあるものをキャッチャに導く一方、他のものを印刷媒体に付着させることができる。
【0007】
特許文献4(発明者:Chwalek et al.、発行日:2000年6月27日)に記載の連続式インクジェットプリンタでは、非対称ヒータを作動させることで、作用流体フィラメントから個々のインク滴を生成しそのインク滴を偏向させている。即ち、そのプリントヘッドに付随する加圧インク源及び非対称ヒータを作動させて印刷用,非印刷用の各インク滴を生成し、印刷用インク滴は印刷用インク滴経路経由で印刷媒体に、非印刷用インク滴は非印刷用インク滴経路経由でキャッチャの表面にそれぞれ射突させるようにしている。キャッチャの表面に射突した非印刷用インク滴はそのキャッチャ内のインク除去チャネルを通り再循環又は廃棄に回される。ただ、この文献に記載のインクジェットプリンタでは、目的とする処理を非常に好適に実行できるものの、インク滴の生成及び偏向に非対称ヒータを使用しているため多量のエネルギ及び電力が装置内で費やされることとなる。
【0008】
特許文献5(発行日:2005年2月8日)に記載のインク滴生成機構では、その体積が異なる複数種類のインク滴が混ざったインク滴流を発生させ、そのインク滴流をある単一の経路上に通し、その経路を横切るように空気を供給する。すると、その空気流がそのインク滴流に作用し個々のインク滴が偏向されていく。このとき、その体積が比較的小さなインク滴(小体積液滴)は、その体積が比較的大きなインク滴(大体積液滴)に比べて大きく偏向されるので、インク滴はその体積別に仕分けられることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第1941001号明細書
【特許文献2】米国特許第3373437号明細書
【特許文献3】米国特許第3709432号明細書
【特許文献4】米国特許第6079821号明細書
【特許文献5】米国特許第6851796号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Lord Rayleigh, "On the Instability of Jets," Proc. London Math. Soc. X (1878)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ただ、上掲のように液滴サイズに基づきインク滴を仕分ける機構では、偏向用の空気流に曝される前に大体積液滴を生成しきる必要がある。他方、例えば小体積液滴4個分の体積に等しい体積を有する大体積液滴が生成されるよう、インク流の本体から所望体積の断片を何個か分離させ、それら断片同士を合体させることで大体積液滴に成長させるやり方がしばしば採られている。このやり方を採る場合、液滴偏向用の空気流に通される前に合体が終わらないと、大体積液滴形成用に分離させた断片が残り、狙いとする大体積液滴とはその偏向量が異なる液滴になってしまう。同様に、偏向用の空気流を通る前に小体積液滴同士が空気中で不要に合体することを防がないと、狙いとする小体積液滴よりも偏向量が小さな液滴が生じてしまう。
【0012】
また、合体で生じた大体積液滴と同様の大体積液滴とに挟まれた小体積液滴同士の間隔が、かなり不均等になりうることも判明している。ときとして、大体積液滴へと成長しきれないままで偏向用の空気流を脱してしまう液滴が残り、その前方直近にある小体積液滴と合体させて大体積液滴にするのが難しいことともある。更に、オリフィスからある程度離れたところで小体積液滴と大体積液滴が不必要に合体してしまうこともままある。そのため、小体積液滴が大体積液滴や隣の小体積液滴と合体することがないよう、破断後可及的速やかに液滴を合体させられるようにすることが求められている。
【0013】
この点に鑑み、本発明は、小体積液滴と大体積液滴や隣の小体積液滴が合体しないよう破断後の可及的速やかな合体で大体積液滴を生成することを目的とする。また、本発明は、小体積液滴の速度を均等化して不要な小体積液滴間合体を遅らせることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上掲の目的を含む幾つかの目的を達成するため、本発明では、主に、装置内の抵抗性ヒータに特殊な波形の電圧/電流パルスを印加し液滴速度や破断動作を操作する、という手法を使用する。即ち、本発明の一実施形態では、液滴生成器を作動させて大体積液滴及び小体積液滴を随時生成するため、ノズル開口及びそれに連携する可調な励起器を有する液滴生成器を準備し、加圧された液体を液滴生成器に供給して所定直径Dの液体流をノズル開口から放出させ、液体流の直径に周期xの第1種擾乱が生じるよう励起器を作動させることで小体積液滴をその液体流から発生させ、液体流の直径に周期Nxの第2種擾乱が生じるよう励起器を随時調整することで小体積液滴に比しその体積がN倍の大体積液滴をその液体流の断片から発生させ、そして生成途上の大体積液滴が破断しない程度に短い周期τの第3種擾乱が液体流の直径に生じるよう周期Nxの間に更にその励起器を調整する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の好適な実施形態に係るプリントヘッドの構成を示す模式図である。
【図2】従来におけるヒータ周波数制御動作を示す図である。
【図3】インク滴流と交差する方向からそのインク滴流に空気流を作用させることでその体積に違いがあるインク滴を離隔させる方法を示すインクジェットプリントヘッド断面図である。
【図4】その体積別液滴仕分けの効果を示すインクジェットプリンタ模式図である。
【図5】大体積液滴1個とそれに続く小体積液滴8個の生成に従来から使用されている波形を示すグラフである。
【図6】図5に示した波形についてのデータを表により示す図である。
【図7】図5に示した波形で生成される液滴のイメージを示す図である。
【図8】図5に示した波形による液滴生成結果を表により示す図である。
【図9】本発明の一実施形態で大体積液滴1個とそれに続く小体積液滴8個の生成に使用される波形を示すグラフである。
【図10】図9に示した波形についてのデータを表により示す図である。
【図11】図9に示した波形で生成される液滴のイメージを示す図である。
【図12】図9に示した波形による液滴生成結果を表により示す図である。
【図13】本発明の他の実施形態で大体積液滴1個とそれに続く小体積液滴8個の生成に使用される波形を示すグラフである。
【図14】図13に示した波形についてのデータを表により示す図である。
【図15】図13に示した波形で生成される液滴のイメージを示す図である。
【図16】図13に示した波形による液滴生成結果を表により示す図である。
【図17】本発明の更に他の実施形態の波形で生成される液滴のイメージを示す図である。
【図18】本発明の更に他の実施形態で大体積液滴1個とそれに続く小体積液滴8個の生成に使用される波形を示すグラフである。
【図19】本発明の更なる実施形態で大体積液滴1個とそれに続く小体積液滴8個の生成に使用される波形を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上記以外のものを含め本発明の構成及び効果を明らかにするため、以下、別紙図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態に関し説明する。なお、本願では、本発明に係る装置を構成する部材や本発明に係る装置と比較的密接に関連する部材を中心にして説明を行っている。ご理解頂ける通り、本願中に具体的な図示乃至説明がない部材は、本件技術分野で習熟を積まれた方々(いわゆる当業者)にとり周知の様々な形態で実現することができる。
【0017】
まず、図1に示す印刷装置10はプリントヘッド12、1個又は複数個のインク源14及びコントローラ16を備えている。本発明を実施するには、プリントヘッド12の素材としてシリコン等の半導体素材を使用し、その製造技術としてCMOS回路製造技術、MEMS(微細電子機械構造)製造技術等の既知半導体製造技術を使用するのが望ましいが、プリントヘッド12の形成に相応しい素材、相応しい製造技術であれば、従来既知のどのようなものでも使用することができる。
【0018】
プリントヘッド12上にはノズル18が1個又は複数個形成されている。ヘッド12上には更にノズル18に通ずるインク流路19も設けられている。ノズル18はその流路19を介しインク源14に連通している。ヘッド12にインク源及びそれに対応するノズルを追加することで、多液滴グレースケール印刷、多インク色カラー印刷等も行うことができる。
【0019】
ノズル18の近傍には液滴生成用励起器21が位置している。この励起器21は圧電アクチュエータ、熱アクチュエータ等として構成可能であり、図示例ではヒータ20が励起器21として用いられている。そのヒータ20は、少なくとも部分的にプリントヘッド12上に形成又は配置されており、対応するノズル18の周辺に位置している。そのノズル18の縁から径方向に沿ってやや離れた場所に配置することも可能だが、図示の通りノズル18に対し同心円をなすようそのノズル18の十分近くに配置するのが望ましい。その形状は略円環状(リンク状)にするのが望ましいが、弧状、方形等にすることもできる。図示例では、導体24を介し電極パッド22に導電接続された電気抵抗性発熱素子によって、そのヒータ20が好適に実現されている。
【0020】
導体24及び電極パッド22は少なくとも部分的にプリントヘッド12上に形成又は配置されている。これらはコントローラ16・ヒータ20間の電気的接続に使用されている。但し、これ以外の種々の周知手法でその電気的接続を実現することもできる。コントローラ16は例えばヒータ20用の電源といったデバイスである。そうした比較的単純な構成のデバイスに代え、より複雑な構成のデバイス、例えば論理コントローラ、プログラマブルマイクロプロセッサ等をコントローラ16として使用し、ヒータ20乃至励起器21を含む多数の部材を相応の形態で制御するようにしてもよい。
【0021】
図2(a)及び(b)に、コントローラ16からヒータ20に印加される駆動用電気信号波形の従来例を示す。一般に、ヒータ20を高周波駆動すると小体積液滴26が生じ低周波駆動すると大体積液滴28が生じる。印刷にはそれらの液滴26,28のうち一方を使用する。他方は捕獲してインク回収乃至廃棄に回す。液滴26,28のどちらを印刷用にするかはその印刷装置の用途次第である。
【0022】
印刷用液滴生成に当たりヒータ20に印加される電気信号は、例えば図2(a)に模式的に示す如き波形である。ノズル18からインクを吐出させる際、この信号でヒータ20を駆動すると、そのインクで図2(b)に模式的に示す如き大体積液滴28が形成される。即ち、その持続時間が0.1〜5μsec例えば1.0μsecで、その時間間隔34が例えば42μsecのヒータ駆動パルス32で駆動すると液滴28が発生する。また、非印刷用液滴生成に当たりヒータ20に印加される電気信号は、例えば図2(c)に模式的に示す如き波形である。この場合、パルス32としては例えばその持続時間が1.0μsec、時間間隔34が6.0μsecのパルスを使用する。これを含む非印刷用波形でヒータ20を駆動すると、図2(d)に模式的に示す如き小体積液滴26が発生する。なお、パルス32の持続時間を周期長=駆動パルスの持続時間+時間間隔で除した値は、従来からデューティ比として知られている。
【0023】
実際の画像データはこれらの混成であるので、画像データに基づきヒータ20を駆動する際そのヒータ20に印加される電気信号は、例えば図2(e)に模式的に示す如き波形となる。この波形には、印刷状態から非印刷状態への遷移や、非印刷状態から印刷状態への逆遷移が現れている。図2(f)に示したのはその結果生成されるインク滴流である。自明な通り、個々のヒータ20の動作は、ノズル18から吐出させるべきインクの色、印刷媒体Wに対するプリントヘッド12の動かし方、並びに印刷すべき画像に基づき個別に制御することができる。加えて、小体積液滴26及び大体積液滴28の体積は、インク種別、媒体種別、画像フォーマット、画像サイズ等の具体的印刷条件に応じ調整することができる。
【0024】
このように画像データに応じ液滴の体積が変調されるようプリントヘッド12を作動させるに当たっては、図3に示すように、液滴をその体積に応じて印刷用経路と非印刷用経路に仕分けるシステム39を併用する。まず、ヘッド12上のノズルから吐出されたインクは作用流体フィラメント55となり、ヘッド12に対しほぼ直交するX軸沿いに移動していく。そのフィラメント55は、暫くの間はその状態を保ち続ける。図中のr1はその物理的区間を表している。ヒータ20(液滴生成用励起器21)を駆動する信号の周波数が画像データに応じ随時切り替わるので、フィラメント55は破断して小体積液滴26の流れとなる。それらの液滴26同士の合体による大体積液滴28の形成も始まる。図中のr2はそうしたフィラメント破断及びインク滴間合体が生じる区間を示している。液滴生成はこの区間r2の次の区間r3で完了する。この区間r3はそれに足る程度ヘッド12から離れた場所にあり、二種類のサイズ違い液滴即ち小体積液滴26及び大体積液滴28はここで概ねできあがる。システム39はそこに作用する。例えば、X軸に略直交する方向からその軸上にガス流を送り、区間r3の差し渡しと同等かそれ以下の差し渡しLを有する区間にてそのガス流による力46をインク滴流に及ぼす。大体積液滴28は小体積液滴26より質量及び慣性が大きいので、ガス力46が作用すると各液滴26,28はその体積及び質量に応じ互いに離隔していく。従って、ガス流の流速を適宜調整することで、液滴26が辿る経路Sを液滴28が辿る経路から十分な程度Dに隔たらせること、ひいては液滴28を印刷媒体Wに射突させつつ液滴26を前掲のインク捕獲機構で捉えることができる。インク捕獲機構の位置を少しずらせば、逆に、液滴26を媒体Wに射突させつつ液滴28を回収することもできる。
【0025】
例えば図4に示す構成では、大体積液滴28及び小体積液滴26を生み出すインク流をプリントヘッド12から吐出させ、形成されるインク滴流を概ね吐出経路X沿いに液滴偏向器40へと送り込んでいる。この偏向器40は上流室42及び下流室44を有しており、それらを用いその内部でガスの層流を発生させている。ポンプ60は、上流室42に加圧空気を送り込むことで、その下流にある下流室44へとガス流を流し込む。このガス流で、経路Xに沿ったインク滴流を外部空気による攪乱から守ることができる。真空ポンプ68は下流室44に通じており、そのガス流を引き込む役目を有している。偏向器40の中央は経路Xの近くにあり、ガス流による力46をそこでインク滴に作用させることで、小体積液滴経路Sと大体積液滴経路Kを離隔させることができる。
【0026】
大体積液滴28はその後大体積液滴経路K沿いに移動し続け、プリントドラム58によって担持されている印刷媒体Wに向かっていく。他方、下流室44の片側壁のうち経路X近傍の部分には、小体積液滴経路Sを遮るようにインク回収機構48が配置されている。経路S沿いに移動中の小体積液滴26は機構48内の多孔質素子50、例えばワイヤスクリーン、メッシュ、焼成ステンレス鋼、セラミクス様素材等で形成された素子に射突する。その液滴26は、この素子50の窪みに毛細管力で引き込まれるので素子50の表面に大体積液滴が生じることはない。その素子50の背面には更にインク回収路52が通じており、その内部は下流室44内に比べ低いガス圧になっている。回収路52におけるこの減圧分は、素子50上の窪みからインクを吸い込むことができるよう、但し素子50を通る顕著な空気流は生じないよう設定されている。後者は、回収されるインクの発泡を抑えるためである。回収路52は更にインク回収室54に通じており、印刷に使用されなかったインク滴はここに回収される。回収されたインクはインク還流路56経由で回送され後に再利用される。このとき回収室54の内部にオープンセルスポンジ/フォーム64を入れておくと、プリントヘッド12で高速スキャンが行われる用途でも、インクの跳ねを防ぐことができる。また、この回収室54に真空吸引路62経由で負圧源を連結し、その負圧源で回収路52内に負圧を発生させることにより、上述したインク滴分離及びインク滴除去をより好適に行うことができる。
【0027】
そのインク回収機構48の近傍におけるプリントヘッドアセンブリ内ガス圧は、室42,44を相応の構成にすると共に液滴偏向器40内のガス圧を調整することで、プリントドラム58近傍の外気圧に比し正寄りの圧力にすることができる。そうすることで、環境性塵埃や紙繊維が機構48に接近、付着することや、それらが下流室44に入ることを、妨げることができる。
【0028】
そして、装置稼働時には、既知手法に従い且つプリントドラム58を用い、印刷媒体WをX軸と交差する方向沿いに移送する。この移送は印刷装置10の動きやプリントヘッド12の動きと協調させる。これは既知手法に従いコントローラ16の許に実行される。媒体Wとしては様々な素材のもの、例えば紙、ビニール、布、他種繊維性素材等の素材によるものを使用することができる。
【0029】
このように空気流偏向型のプリントヘッドを使用する連続式インクジェット印刷装置では、その体積比が所定の2の倍数になるよう液滴を生成する必要がある。例えば小体積液滴の体積をx相当値とし、その体積がNx相当値の大体積液滴を生成することが求められる(Nは2以上)。この構成では、破断によって生成される1x相当体積の小体積液滴をN個合体させるとNx相当体積の大体積液滴が1個発生する。以下の説明では、便宜上Nの値を=4とする。即ち大体積液滴の体積が4x相当値であると仮定して説明を行うこととする。
【0030】
そうした液滴を生成する際には、従来から、液滴生成器に供給されたインクをオリフィスプレート上のノズルに通し、そのノズルの直径とほぼ等しい直径Dの流体柱を発生させる、という手法が採られている。この流体柱即ち流体ジェットは速度Vjetで移動していく。駆動パルスを励起器、例えばノズル周囲のヒータ20に印加すると、そのノズルにて流体ジェットの直径Dに擾乱が発生する。この擾乱も、そのジェットの移動につれ速度Vjetで移動していく。その励起器にパルスを更に印加すると、そのノズルにてその流体ジェットの直径Dに更なる擾乱が発生する。その擾乱もそのジェットの移動につれ速度Vjetで移動していく。周知の通り、流体ジェット上での擾乱同士の間隔がレイリー限界=約π*Dより広いと、その擾乱の振幅が大きくなっていき(その仕組みについては非特許文献1を参照されたい)、ある点まで大きくなるとその流体ジェットの一部が液滴となって分離していく。これに対し、擾乱同士の間隔がレイリー限界より狭いと擾乱振幅が小さくなっていくので、流体ジェットの破断による液滴生成は起こらない。
【0031】
このプロセスで4x相当体積の大体積液滴を1個生成した後1x相当体積の小体積液滴を8個生成する場合、駆動パルスの波形は例えば図5に示す波形とする。使用する駆動パルスの振幅、周期及びデューティ比は使用するインクの種類、そのインクに加える圧力、ノズルのサイズ並びに必要な液滴生成速度によって違い、例えば使用時インク温度が室温、インク圧力が52〜53psiで(1psi=約6.9kPa)使用する液滴生成器がオリフィス直径=15μm、基板厚=4μmの3.2インチアレイ長300jpi液滴生成器である場合(jpi=1インチ当たりジェット個数、1インチ=約2.54cm)、小体積液滴生成用の駆動パルスとしては、特に指定がない限り周波数=360kHz、振幅=直流3V(一定値)のパルスを使用するのが普通である。なお、図5に示したパルス波形の詳細については図6の表に示した波形データを参照されたい。キャリア周波数(繰返し周波数)Fcは30kHzにしてある。
【0032】
前述の通り、励起器に駆動パルスを印加すると流体ジェットに擾乱が生じる。例えば、図5に示した波形では、流体ジェット上に擾乱をもたらす2個目〜8個目の駆動パルスと、その次の駆動パルスまでに時間xが空いている。擾乱同士の時間間隔がxであるので、この第1種擾乱は大きくなって流体ジェットから破断し小体積液滴をもたらすこととなる。また、1個目の駆動パルスから2個目の駆動パルスまでの時間間隔は2個目〜8個目の駆動パルスからその次の駆動パルスまでの時間間隔のN倍(図示例ではN=4)であるので、1個目の駆動パルスによって流体ジェットの直径に引き起こされる擾乱即ち第2種擾乱の到来周期はNxとなる。この擾乱で発生する流体ジェット断片は、小体積液滴に比しN倍の体積を有する大体積液滴をもたらす。
【0033】
図6に示した波形データ中、第1列に列記されているのは各パルスの相対振幅であり、図示例ではどのパルスについても1値となっている。第2列に列記されているのはパルス毎のデューティ比(%)、第3列に列記されているのは各パルスの相対周期である。当該相対周期は波形生成器によるパルス記述に使用されるデータの点数で表現されている。その値から、表中の1個目のパルスがそれに続く8個のパルスのそれに比し4倍の周期であることを読み取ることができる。個々のパルスの実周期は、そのパルスの相対周期、波形全体の周期並びにキャリア周波数から求めることができる。例えば、1x相当体積、相対周期1000の小体積液滴が2.78μsecの周期を有しているのであれば、4x相当体積の大体積液滴の周期は11.11μsecとなる。前述した吐出条件の液滴生成器にこうした波形を印加すると、図7に示すパターンで液滴が発生する。
【0034】
図7から読み取れるように、大体積液滴に成長しきれていない液滴同士の間では、小体積液滴同士の間隔が非常に不均等になる。また、大体積液滴になりきれていない3x相当体積の液滴は、この図から大きく右側にはみ出た個所に達しないと、その前方にある1x相当体積の小体積液滴のうち最も近いものと合体し、4x相当体積の大体積液滴に成長することができない。図8の表は、この液滴生成結果から算出した破断距離(BOL)、大体積液滴生成距離(LDFL)及び(不要)小体積液滴対小体積液滴合体距離(SD−SD)を表したものである。この他には、オリフィスからある程度離れた位置で小体積液滴と4x相当体積の大体積液滴が合体することもある。この不要な大体積液滴対小体積液滴合体距離(LD−SD)は、通常、中途体積液滴生成距離(PDFL)よりかなり長くなる。
【0035】
そのため、液滴同士の合体を破断後可及的速やかに実行すること、特に1x相当体積の小体積液滴とNx相当体積の大体積液滴又は他の隣接小体積液滴との合体を伴わないようそれを実現することが望まれている。本発明では、特殊な波形の電圧/電流パルスを装置内の抵抗性ヒータに供給して液滴速度及び破断時点を操作することにより、連続式インクジェット印刷装置における小体積液滴及び大体積液滴の生成を次のように制御している。
【0036】
その際には、まず、液滴生成器に供給されたインクを従来と同様にオリフィスプレート上のノズルに通し、それによってノズル直径とほぼ等しい直径Dの流体柱を発生させる。この流体柱即ち流体ジェットは速度Vjetで移動していく。駆動パルスを励起器、例えばノズル周囲のヒータに印加すると、そのノズルにて流体ジェットの直径Dに擾乱が発生する。この擾乱も、そのジェットの移動につれ速度Vjetで移動していく。その励起器にパルスを更に印加すると、そのノズルにてその流体ジェットの直径Dに更なる擾乱が発生する。その擾乱もそのジェットの移動につれ速度Vjetで移動していく。周知の通り、流体ジェット上での擾乱同士の間隔がレイリー限界=約π*Dより広いと、その擾乱の振幅が大きくなっていき(その仕組みについては非特許文献1を参照されたい)、ある点まで大きくなるとその流体ジェットの一部が液滴となって分離する。これに対し、擾乱同士の間隔がレイリー限界より狭いと、その擾乱の振幅は小さくなっていくので、流体ジェットの破断による液滴生成は起こらない。
【0037】
本発明では、それらの液滴の合体による大体積液滴の生成をより好適に行えるよう、また小体積液滴同士の間隔が安定的に均等になるよう、大体積液滴が生成されつつある期間に更に高周波の駆動パルス群たる駆動パルスバーストを差し挟む、という策を採っている。例えば、図5と図9の対比から明らかな通り、図5では1個目のパルスと2個目のパルスに挟まれた隙間になっていた期間に、図9では幅狭なパルスが複数個差し挟まれている。こうしてパルスを差し挟むと、流体ジェットの直径にまた別の擾乱即ち第3種擾乱がもたらされる。更に、その駆動パルスバーストを組成する個々のパルス(バーストモードパルス)は、先行するパルスに対し十分短い時間間隔で印加されているので、このパルスによって液滴の破断乃至損壊が生じることはない。即ち、流体ジェット上での第3種擾乱同士の間隔がπ*D未満になるような時間間隔で印加されているので、そのパルスで引き起こされる第3種擾乱は大きな振幅にならずに消滅していき、流体ジェットの破断ひいては小体積液滴の生成にはつながらない。このように、液滴生成の引き金にならないバーストモードパルスを挿入することで、合体プロセスを促進して大体積液滴をより好適に形成させることができる。
【0038】
図9に示したのは本発明の一実施形態におけるパルス配置の例である。これは、1x相当体積の小体積液滴を8個、4x相当体積の大体積液滴を1個生成し、空気流による偏向に供する例である。本願では、大体積液滴生成期間中に印加される波形のことを大体積液滴バースト波形と呼んでいる。また、いわゆる当業者には自明な通り、小体積液滴や大体積液滴の発生個数は任意に設定することができる。波形データは図10たる表に列記した通りである。多くの場合、相応の周波数Fcを有するキャリアにこの波形を載せることとなろう。
【0039】
その大体積液滴バースト波形中の個々のバーストモードパルス、即ち図9に示すパルスのうち短い間隔で複数個並んでいる方のパルスは、他のパルスと同じデューティ比だがその持続時間は他のパルスの1/2になっている。即ち、バーストモードパルスの周波数の周波数は他のパルスの周波数の2倍になっている。これは、他のパルスのλ/D値が2π未満ならバーストモードパルスのλ/D値がπ未満になるということである。従って、バーストモードパルスの印加で流体ジェットがレイリー破断して液滴が生成されることはないが、生成される液滴に対しては図11中のバーストモードパルスも影響するので、図6に示した従来の波形で生成される液滴と図9に示したバースト波形で生成される液滴との間には幾つか特記すべき相違点が生じる。当該バースト波形でもたらされる変化としては、
1.大体積液滴に挟まれた小体積液滴同士の間隔がかなり均等になること
2.図12たる表に列記した如くLDFLが改善されかなり短くなること
3.SD−SDが計測対象域外にはみ出るほど改善されること
4.LD−SDが改善され従来波形によるLD−SDよりかなり長くなること
5.大体積液滴と後続の小体積液滴との間に液滴間隔異常が生じること
等がある。
【0040】
図13に示したのは、本発明の他の実施形態におけるパルス配置の例である。この例では、図9〜図11に示した例で生じていた液滴間隔異常を正すため大体積液滴バースト波形に修正が施されている。即ち、差し挟まれる駆動パルスバースト中の最後尾パルスが、そのバースト中の他のパルスより大きなデューティ比を有するパルスに修正されている。この大体積液滴バースト波形に係る波形データは図14たる表に、またそのデューティ比修正が小体積液滴間隔に及ぼす作用は図15に、それぞれ示す通りである。
【0041】
見ての通り、図9に示した未修整の大体積液滴バースト波形ではなく、図13に示した修正版のそれを使用することで、小体積液滴間隔の異常を大きく抑圧し又は解消することができる。即ち、大体積液滴バースト波形中の最後尾パルスのデューティ比を35%から80%へと高めると、大体積液滴バースト波形中の最後尾パルスと小体積液滴生成用パルスのうち先頭のパルスとの間にある“オフ”時間の長さが、小体積液滴生成用パルス間にある“オフ”時間の長さにより近くなるため、小体積液滴間隔の異常が正されることになる。更に、図16たる表に示す通り、修正版の大体積液滴バースト波形を使用すると液滴生成能力が全体として高くなる。また、大体積液滴バースト波形の修正によりその最後尾パルスのデューティ比を35%から高める際に高める先を80%にしたのは、パルスのデューティ比をシステマティックに変化させながら液滴間隔及び液滴生成能力に及ぶ影響を観察した結果、80%という値が好成績であったからである。大体積液滴バースト波形中の最後尾パルスのデューティ比を10%から90%まで10%刻みで変化させていき、小体積液滴位置異常に対する影響を記録した結果を図17に示す。
【0042】
なお、上掲の例では大体積液滴形成中に使用する駆動パルスバーストの周波数を小体積液滴形成用駆動パルスの周波数の2倍とすることで、小体積液滴生成時に生じる擾乱の周期に比し2倍の周期で均等間隔な擾乱が流体ジェット上に生じるようにしているが、本発明はこれ以外の周波数比でも実施することができる。
【0043】
また、第3種擾乱の形態を要請に応じ設定乃至調整することで、実装先の連続式インクジェットシステムに独特の機能(他では要求されない機能)を必要に応じ提供することができる。例えば、図13に示した実施形態を拡張し、第3種擾乱をもたらすパルスのデューティ比を随時変化させるようにしてもよい。図18に示すようにデューティ比を漸増させた場合は合体距離がかなり短くなる。また、図19に示すように所要PDFL乃至LDFLに応じ個々のデューティ比を独立に設定及び調整するという非システマティックなやり方を採ることもできる。
【0044】
更に、第3種擾乱の周期に変調を施し、擾乱毎にその周期を伸縮させるようにしてもよい。周期を個別に伸縮することでデューティ比も変調されることとなる。但し、そうした変調を実行する際には、Nx倍条件に違背しないよう第3種擾乱の個数を連動して変化させる必要がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴生成器を作動させて大体積液滴及び小体積液滴を随時生成する方法であって、
ノズル開口及び可調な励起器を有する液滴生成器を準備するステップと、
加圧された液体を液滴生成器に供給して所定直径Dの液体流をノズル開口から放出させるステップと、
液体流の直径に周期xの第1種擾乱が生じるよう励起器を作動させることで小体積液滴をその液体流から発生させるステップと、
液体流の直径に周期Nxの第2種擾乱が生じるよう励起器を随時作動させることで小体積液滴に比しその体積がN倍の大体積液滴をその液体流の断片から発生させるステップと、
生成途上の大体積液滴が破断しない程度に短い周期の第3種擾乱が液体流の直径に生じるよう周期Nxの間に更にその励起器を作動させるステップと、
を有する方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法であって、励起器を作動させるに当たりその励起器に駆動パルスを印加する方法。
【請求項3】
請求項1記載の方法であって、第3種擾乱同士の間隔がπ*D未満である方法。
【請求項4】
請求項1記載の方法であって、その励起器に対し大体積液滴生成中に駆動パルスバーストを印加することで第3種擾乱を発生させる方法。
【請求項5】
請求項1記載の方法であって、N=4である方法。
【請求項6】
請求項1記載の方法であって、第3種擾乱同士が等間隔である方法。
【請求項7】
請求項1記載の方法であって、第3種擾乱同士が不等間隔である方法。
【請求項8】
請求項1記載の方法であって、更に、力を加えて小体積液滴及び大体積液滴を偏向させることで小体積液滴を大体積液滴から離隔させるステップを有する方法。
【請求項9】
請求項8記載の方法であって、液滴に向け連続的にガス流を供給することでその力を加える方法。
【請求項10】
請求項4記載の方法であって、大体積液滴生成中に印加される駆動パルスバーストを組成する駆動パルス同士でそのデューティ比が同一でない方法。
【請求項11】
請求項10記載の方法であって、大体積液滴生成中に印加される駆動パルスバースト中で最後尾に位置する駆動パルスが先行するパルスより大きなデューティ比を有する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公表番号】特表2010−527300(P2010−527300A)
【公表日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−508379(P2010−508379)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【国際出願番号】PCT/US2008/006006
【国際公開番号】WO2008/143810
【国際公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(590000846)イーストマン コダック カンパニー (1,594)
【Fターム(参考)】