説明

アジピン酸の製造方法

本発明は、合成媒体の腐食に対して耐性がある材料から作られたデバイス中で実施されるアジピン酸の製造方法に関する。より詳細には、本発明は、硝酸による腐食に対して耐性がある材料から作られた部分を有するデバイス中で実施されるアジピン酸の製造方法に関する。この耐腐食性材料は、欧州式の命名に従ってX2 CrNiN 23-4 (1.4362)タイプの「二相」オーステノフェライト系ステンレス鋼である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成媒体の腐食に対して耐性がある材料から作られたデバイス(dispositif)中で実施されるアジピン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アジピン酸は、多くの物質の製造における出発原料として及び多くの用途において用いられる重要な化合物である。例えばアジピン酸は、ポリアミド、より特定的にはPA6/6、ポリエステル又はポリウレタン等の高分子化合物の合成における中間体として用いられる。この物質はまた、可塑剤の製造において又は添加剤としても、用いられる。
【0003】
アジピン酸を製造するための方法はいくつか知られており、工業的に利用されている。現在工業的に利用されている主要な方法は、シクロヘキサンを酸素によって酸化して中間体化合物のシクロヘキサノール及びシクロヘキサノン(一般的にこれらの2種の化合物の混合物)を得て、次の工程で中間体化合物のシクロヘキサノール/シクロヘキサノンを触媒の存在下で硝酸によって酸化してアジピン酸を得ることから成るものである。
【0004】
回収されたアジピン酸は、標準的な技術、好ましくは結晶化によって精製される。
【0005】
硝酸による中間体化合物の酸化反応は、硝酸による腐食反応に対して耐性があるデバイス及び反応器中で実施しなければならない。一般的に、これらのデバイス及び反応器は、硝酸による腐食に対して耐性があるために販売されている特殊鋼から成る。
【0006】
しかしながら、その温度条件下では、アジピン酸の製造のための方法の酸化媒体中に存在する化合物の性状によっては、これらの特殊鋼の無視できない腐食現象が観察される。
【0007】
この腐食現象は、材料の信頼性にとって不都合を示し、しかも特に製造されるアジピン酸中に金属不純物を導入する。そのため、これらの不純物を取り除くためにアジピン酸の精製プロセスを設けなければならない。
【0008】
加えて、アジピン酸は、シクロヘキサノン及びシクロヘキサノールの硝酸による酸化工程の後に、特にアジピン酸結晶を得るための結晶化工程の際に、精製される。アジピン酸の結晶化は、硝酸によるシクロヘキサノン/シクロヘキサノール混合物の酸化の際に得られる溶液から出発して実施される。これらの溶液は酸性であり、多量の硝酸及び/又は硝酸イオンを含む。
【0009】
ステンレス鋼材料については、装置(appareillage)の壁上に結晶性アジピン酸が付着することによる結晶化デバイスのファウリング(汚れ付着)現象が観察される。この「ファウリング」と称される現象は、壁の表面状態及び材料の性状に依存する。
【0010】
このファウリングのせいで、プロセスを定期的に停止して熱交換器の壁や晶析機の壁上のアジピン酸付着物を取り除くことが必要である。
【0011】
表面状態は特に、例えばNF EN ISO 3274及びNF EN ISO 4288規格によって規定される方法に従う材料の表面粗度によって、測定される。粗度値が大きいほどファウリング現象が増す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の1つの目的は、アジピン酸の製造工程、即ち硝酸によるシクロヘキサノン及びシクロヘキサノールの酸化を、腐食現象を抑制して製造されるアジピン酸中の不純物の存在を減らす材料から成るデバイス及び反応器中で実施することによって、上記の欠点を解消することにある。別の目的は、結晶化デバイスの壁のアジピン酸によるファウリング現象を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的で、本発明は、少なくとも1つの反応器及びデバイス又は装置を含むプラント(installation)中で実施される硝酸によるシクロヘキサノール/シクロヘキサノン化合物の酸化工程を含むアジピン酸の製造方法であって、
硝酸酸化のための反応媒体と接触する反応器の少なくとも一部並びに随意に前記デバイス及び/又は装置の一部が、欧州式の命名に従ってX2 CrNiN 23-4 (1.4362)の「二相(duplex)」オーステノフェライト系(austeno-ferritique)ステンレス鋼材料で作られたものであることを特徴とする、前記方法を提供する。これらのステンレス鋼はUranus 35N又はSAF 2304の商品名で販売されているものであることができる。
【0014】
「反応媒体と接触する壁の少なくとも一部」とは、デバイス又は反応器が全体的にX2 CrNiN 23-4タイプの「二相」オーステノフェライト系ステンレス鋼で作られていることができること又は一部だけがX2 CrNiN 23-4タイプの「二相」オーステノフェライト系ステンレス鋼で作られていることができることを意味するものと理解されたい。一部だけの場合、X2 CrNiN 23-4タイプの「二相」オーステノフェライト系ステンレス鋼から成る部分は、反応媒体又はこの反応媒体から生じる蒸気及び気体と接触する部分である。
【発明の効果】
【0015】
X2 CrNiN 23-4タイプの「二相」オーステノフェライト系ステンレス鋼から作られた壁又は部分の腐食現象は、例えばAISI 304Lタイプのオーステナイト系ステンレス鋼のような硝酸による腐食に対して耐性があるものとして市販されている他のステンレス鋼について観察される現象と比較して、存在しないか又は非常に抑制されるということがわかった。
【発明を実施するための形態】
【0016】
X2 CrNiN 23-4タイプの「二相」オーステノフェライト系ステンレス鋼は、NF EN 10088-1(以前のNFA35-574)及びNF EN 10028-7標準(最新改訂版で適用可能)に規定された組成を有する材料である。
【0017】
硝酸によるシクロヘキサノール及び/又はシクロヘキサノンの酸化の媒体は、金属化合物を含む。硝酸によるシクロヘキサノール及び/又はシクロヘキサノンの酸化のための媒体は、有利には20〜35重量%の範囲の濃度の硝酸、硝酸酸化触媒を構成する金属化合物、並びにシクロヘキサノール及び/又はシクロヘキサノン中に存在し且つ酸素によるシクロヘキサンの酸化において又はヒドロキシシクロヘキシルペルオキシドの分解において用いられる触媒に相当する金属化合物を含む。
【0018】
硝酸酸化反応は、70〜120℃の範囲、有利には70〜100℃の範囲の温度において、一般的に1バール〜5バールの範囲の絶対圧下で、実施される。
【0019】
本発明に従えば、硝酸酸化を実施するために用いられる反応器は、X2 CrNiN 23-4タイプの「二相」オーステノフェライト系ステンレス鋼から作られたものである。また、このX2 CrNiN 23-4タイプの「二相」オーステノフェライト系ステンレス鋼材料を用いてプラントのその他の装置及びデバイスを作ることも有利である。
【0020】
有利には、本発明に従う方法は、アジピン酸の結晶化工程を含み、デバイス又は装置は、撹拌手段及びアジピン酸溶液を冷却し且つ/又は濃縮するための手段を備えた結晶化容器を含み、結晶化容器の壁並びに/又はアジピン酸溶液と接触する冷却及び/若しくは濃縮用手段の壁の少なくとも一部は、欧州式の命名に従ってX2 CrNiN 23-4 (1.4362)タイプの「二相」オーステノフェライト系ステンレス鋼材料から作られている。
【0021】
例として、有利にはX2 CrNiN 23-4タイプの「二相」オーステノフェライト系ステンレス鋼から作られた他のデバイス及び装置として、反応器、仕上げ機、硝酸濃縮カラム等の全部又は一部を挙げることができる。このリストは限定的な性格を持つものではなく、単に指標として与えたものである。実際、硝酸を含む媒体と接触するアジピン酸製造用プラントのすべてのデバイスが、X2 CrNiN 23-4タイプの「二相」オーステノフェライト系ステンレス鋼から作られたものであることができる。
【実施例】
【0022】
以下、単に指標として与える実施例に鑑みて本発明をさらに例示する。
【0023】
以下に単に例示として与える腐食試験は、硝酸でシクロヘキサノール及び/又はシクロヘキサノンを酸化することによるアジピン酸の製造方法にX2 CrNiN 23-4タイプの「二相」オーステノフェライト系ステンレス鋼を用いることによってもたらされる利点をはっきり示している。
【0024】
様々なグレードのステンレス鋼から作られた物品の表面の状態の変化及び耐腐食性を測定するための試験を、下記の手順に従って実施した。
【0025】
0.1μm未満の初期粗度Raを有するように表面を研磨した50×30mmの寸法を有する平行六面体形状の試験片を、硝酸によるシクロヘキサノン/シクロヘキサノール混合物の酸化から得られた24%のアジピン酸重量濃度及び約28%の硝酸含有率を有する媒体中に、浸漬した。
【0026】
前記溶液を大気圧下において90℃の温度に保ち、浸漬期間を通じて撹拌する。400時間浸漬した後に、試験片の表面状態及び厚み損失を測定する。これらの試験片を再び同じ媒体中にさらに400時間浸漬する。但し、それぞれのさらなる浸漬の前に溶液を取り替える。
【0027】
試験した試験片は、2つのグレードのステンレス鋼から作ったものだった:
・試験片1:AISI 304Lタイプの鉄鋼
・試験片2:X2 CrNiN 23-4タイプの鉄鋼(Uranus 35N又はSAF2304と同じもの)
【0028】
これらのグレードの鉄鋼の組成を、下記の表Iに与える。
【表1】

(残部とは、100%に対する残りを意味する)
【0029】
観察された結果を下記の表IIにまとめる。
【表2】

【0030】
上記の結果から、本発明に相当する試験片2については、AISI 304Lタイプについて測定した試験片(試験片1)と比較して、粗度の経時変化が僅かであることがわかる。この特徴は、本発明に従うX2 CrNiN 23-4タイプの鉄鋼を使用することにより、懸案の反応について経時的に良好な表面状態を維持することが可能となり、従ってファウリング現象を大幅に抑制することが可能になるということを示す。
【0031】
さらに、上記の結果は、硝酸によるシクロヘキサノン/シクロヘキサノール混合物の酸化の結果として得られた媒体中におけるX2 CrNiN 23-4タイプの鉄鋼(本発明)の耐腐食性が高いことを示している(厚み損失)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの反応器及びデバイス又は装置を含むプラント中で実施される硝酸によるシクロヘキサノール及び/又はシクロヘキサノンの酸化によるアジピン酸の製造方法であって、
硝酸酸化のための反応媒体と接触する反応器の少なくとも一部並びに随意に前記デバイス及び/又は装置の一部が、欧州式の命名に従ってX2 CrNiN 23-4 (1.4362)タイプの「二相」オーステノフェライト系ステンレス鋼材料で作られたものであることを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
前記反応器がX2 CrNiN 23-4 (1.4362)タイプの「二相」オーステノフェライト系ステンレス鋼から作られたものであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記の硝酸酸化のための反応媒体が金属化合物を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記硝酸酸化反応を70〜120℃の範囲の温度において実施することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記の硝酸酸化のための反応媒体と接触するプラントのデバイスがX2 CrNiN 23-4 (1.4362)タイプの「二相」オーステノフェライト系ステンレス鋼から作られたものであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
アジピン酸の結晶化工程を含むこと、前記デバイス又は装置が撹拌手段及びアジピン酸溶液を冷却し且つ/又は濃縮するための手段を備えた結晶化容器を含むこと、並びに前記結晶化容器の壁及び/又はアジピン酸溶液と接触する前記の冷却し且つ/若しくは濃縮するための手段の壁の少なくとも一部が欧州式の命名に従ってX2 CrNiN 23-4 (1.4362)タイプの「二相」オーステノフェライト系ステンレス鋼材料から作られたものであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。

【公表番号】特表2012−510491(P2012−510491A)
【公表日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−538970(P2011−538970)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【国際出願番号】PCT/EP2009/065995
【国際公開番号】WO2010/063655
【国際公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(508076598)ロディア オペレーションズ (98)
【氏名又は名称原語表記】RHODIA OPERATIONS
【住所又は居所原語表記】40 rue de la Haie Coq F−93306 Aubervilliers FRANCE
【Fターム(参考)】