説明

アジピン酸を結晶化させるためのプラント

本発明は、アジピン酸の結晶化のための装置に関する。より詳細には、本発明は、一部が耐腐食性材料から作られたアジピン酸の結晶化のための装置に関する。この材料は、AISI(米国式)の命名に従えばAISI 310Lタイプ、欧州式の命名に従えばX1 CrNi 25-21(1.4335)タイプのオーステナイト系ステンレス鋼である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アジピン酸を結晶化させるためのプラント(installation)(装置、設備とも言う)に関する。
【背景技術】
【0002】
アジピン酸は、多くの化合物の合成における出発原料として用いられる重要な化合物である。例えばアジピン酸は、ポリアミド、より特定的にはPA6.6の合成、及びポリエステル又はポリウレタンの製造における重要な中間体化合物である。アジピン酸はまた、多くの他の用途(例えば可塑剤の製造等)における添加剤としても用いられている。
【0003】
アジピン酸は一般的に、シクロヘキサンを酸化してシクロヘキサノン/シクロヘキサノール混合物を得て、次いでこの混合物を硝酸で酸化してアジピン酸を得ることによって合成される。
【0004】
シクロヘキサンを酸化してシクロヘキサノン/シクロヘキサノールを得るためのいくつかの方法は、様々な触媒を用いて実施される。
【0005】
硝酸によるシクロヘキサノール/シクロヘキサノン混合物の酸化は金属触媒の存在下で実施され、一般的にアジピン酸が回収され、その後の結晶化によって精製される。
【0006】
また、金属触媒及び溶媒(例えば酢酸等)の存在下で酸素又は空気によってシクロヘキサンを直接酸化してアジピン酸を得るための方法も提供されている。この方法では、アジピン酸は一般的に水溶液の形で回収される。
【0007】
特に上記の用途に適合した化合物を得るためには、どの合成方法においても、アジピン酸を精製することが必要である。一般的に用いられる精製方法は結晶化工程を採用したものであり、この結晶化工程は従来、アジピン酸溶液を濃縮し且つ/又は冷却して純粋なアジピン酸の結晶を形成させることから成るものだった。
【0008】
これらの結晶化は一般的に、大型の晶析機(結晶化用装置)(cristallisoir)を用いて実施される。結晶化プラント(installation de cristallisation)は、直列に配置された複数の晶析機、又は連続的な精製を実施することを可能にする複数の区画若しくはバッチ式プロセスに従って運転される複数の晶析機を含むデバイス(appareil)を含むことができる。
【0009】
晶析機は一般的に、撹拌手段及び溶液を冷却し且つ/又は濃縮するための手段を具備する。後者の手段は、熱交換流体を循環させたデバイスであって溶液と接触せしめられる前記デバイス、又は溶液を(特に減圧下に置くことによって)蒸発させることができる手段、から成ることができる。
【0010】
溶液を冷却し且つ/又は濃縮するための手段は、単独で又は組合せとして用いられる数種のデバイス、例えば晶析機の壁におけるジャケット、溶液中に配置される熱交換流体循環手段又は熱交換器を含む溶液循環用外部循環路を含むことができる。溶液を冷却し且つ/又は濃縮するための手段のこのリストは、単に指標として与えたものに過ぎず、限定的な性格を持つものではない。
【0011】
晶析機を正しく運転させ且つその生産量を維持するためには、所定の運転パラメーター、より特定的には装置(appareillage)の壁上にアジピン酸の結晶が付着することによる晶析機のファウリング(汚れ付着)現象を支配するパラメーターをコントロールすることが必要である。この「ファウリング」と称される現象は、壁の表面状態及び材料の性状に依存する。より特定的には、この現象は、溶液とこの溶液が接触する壁との間の温度差によって促進される。実際、この温度差がある臨界値より大きい場合には、壁へのアジピン酸の付着が起こり、この臨界値は、溶液の温度及び濃度、晶析機中の溶液の循環流量、並びに壁の表面状態及び材料の性状に応じて変化する。
【0012】
また、表面状態が劣化した壁上では、前記の温度差とは無関係に、特に晶析機を減圧下に置くことによって達成される溶液の濃縮による結晶化の場合に、アジピン酸の付着が観察される。
【0013】
晶析機について許容できる運転条件を得るためには、プロセスを定期的に停止して熱交換器の壁や晶析機の壁上のアジピン酸付着物を取り除くことが必要である。
【0014】
さらに、アジピン酸製造のための運転の間のこの付着物の時宜を得ない剥離が機械的損害をもたらすことがあり、実際、アジピン酸の生産量の変動をもたらすことさえある。
【0015】
このファウリング現象を抑えるためには、晶析機の内壁及び溶液を冷却し且つ/又は濃縮するためのデバイスの壁を磨いて、最低粗度の表面状態を得る。これらの磨かれた表面はまた、金属表面の処理の分野において用いられる慣用のクリーニング技術によって浄化・洗浄することもできる。
【0016】
しかしながら、壁の表面状態は、化学的腐食の作用下で、特にシクロヘキサノン/シクロヘキサノール混合物を硝酸によって酸化する際に得られる溶液から出発してアジピン酸の結晶化を実施する時に、迅速に劣化することがある。と言うのも、これらの溶液は酸性であり、硝酸及び/又は硝酸イオンを多量に含むからである。
【0017】
ファウリング現象及び場合によって起こる表面状態の劣化を抑えるために、晶析機及び交換デバイスの壁はAISI 304Lタイプのオーステナイト系ステンレス鋼から作られることが多い。しかしながら、これらのファウリング及び腐食現象は依然として見られる。このタイプの材料を使用しても、ファウリングを排除するためにプラントを停止するということをなくすこと又は減らすことはできない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
従って、このファウリング現象を減らし/なくすために正常な表面状態を維持すること及び腐食作用を抑制することができる材料又はデバイスに対する要望が依然として存在する。
【0019】
本発明は、この問題を解決するために、アジピン酸溶液と接触する壁の製造に当たって、特定グレードのステンレス鋼から選択される材料の使用を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
この目的で、本発明は、容器又は晶析機、撹拌手段及びアジピン酸溶液を冷却し且つ/又は濃縮するための手段を含む、アジピン酸を結晶化させるためのプラント又は晶析機であって、前記容器若しくは晶析機を構成してアジピン酸溶液と接触する壁及び/又は前記溶液を濃縮し且つ/若しくは冷却するための手段を構成する壁の少なくとも一部がAISI(米国式)の命名に従ってAISI 310Lタイプのオーステナイト系ステンレス鋼から作られたことを特徴とする、前記プラント又は晶析機を提供する。
【0021】
AISI 310Lタイプのオーステナイト系ステンレス鋼は、欧州式の命名に従ってX1 CrNi 25-21 (1.4335)とも示される。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の1つの特徴に従えば、前記のアジピン酸溶液を冷却し且つ/又は濃縮するための手段は、溶液と接触するデバイスから成る。より特定的には、溶液を冷却するためには、熱交換流体の循環を含むデバイスを有利に用いることができる。本発明に従えば、アジピン酸溶液と接触するこれらの冷却用デバイスの壁は、AISI 310Lタイプのオーステナイト系ステンレス鋼から作られたものである。別の実施態様において、プラントを減圧下に置くことによって達成される蒸発によって溶液を濃縮することを伴うアジピン酸結晶化方法では、プラントの一部、例えば晶析機の内壁が、AISI 310Lタイプのオーステナイト系ステンレス鋼から作られたものである。
【0023】
本発明の別の特徴に従えば、AISI 310Lタイプのオーステナイト系ステンレス鋼から作られた表面又は壁は、晶析機中に設置される前に研磨操作に付される。この研磨は、表面の粗度を小さくするために物理的及び/又は化学的プロセスを採用する任意の既知の手段によって実施することができる。
【0024】
限定的な性格のない指標として、NF EN ISO 3274及びNF EN ISO 4288規格に規定される方法に従って測定して、表面の粗度が0.3μm未満であるのが有利である。
【0025】
アジピン酸溶液を冷却し且つ/又は濃縮するための手段は、様々な形状のもの、例えばコイル、流体の循環を含む二重壁プレート他であることができる。
【0026】
本発明の晶析機は、シクロヘキサノン/シクロヘキサノール混合を硝酸によって酸化する工程の出口において得られる溶液から出発するアジピン酸の結晶化に特に好適である。
【実施例】
【0027】
以下、単に指標として与える実施例に鑑みて本発明をさらに例示する。
【0028】
様々なグレードのステンレス鋼から作られた物品の表面の状態の変化及び耐腐食性を測定するための試験を、下記の手順に従って実施した。
【0029】
0.1μm未満の初期粗度Raを有するように表面を研磨した50×30mmの寸法を有する平行六面体形状の試験片を、硝酸によるシクロヘキサノン/シクロヘキサノール混合物の酸化から得られた24%のアジピン酸重量濃度及び約28重量%の硝酸含有率を有する媒体中に、浸漬した。
【0030】
前記溶液を大気圧下において90℃の温度に保ち、浸漬期間を通じて撹拌する。400時間浸漬した後に、試験片の表面状態及び厚み損失を測定する。これらの試験片を再び同じ媒体中にさらに400時間浸漬する。但し、それぞれのさらなる浸漬の前に溶液を取り替える。
【0031】
試験した試験片は、2つのグレードのステンレス鋼から作ったものだった:
・試験片1:AISI 304Lタイプの鉄鋼
・試験片2:AISI 310Lタイプの鉄鋼
【0032】
これらのグレードの鉄鋼の組成を、下記の表Iに与える。
【表1】

(残部とは、100%に対する残りを意味する)
【0033】
観察された結果を下記の表IIにまとめる。
【表2】

【0034】
上記の結果から、本発明に相当する試験片2については、AISI 304Lタイプについて測定した試験片(試験片1)と比較して、粗度の経時変化が僅かであることがわかる。この特徴は、本発明に従うAISI 310Lタイプの鉄鋼を使用することにより、懸案の反応について経時的に良好な表面状態を維持することが可能となり、従ってファウリング現象を大幅に抑制することが可能になるということを示す。
【0035】
さらに、上記の結果は、硝酸によるシクロヘキサノン/シクロヘキサノール混合物の酸化の結果として得られた媒体中におけるAISI 310Lタイプの鉄鋼(本発明)の耐腐食性が高いことを示している(厚み損失)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撹拌手段及びアジピン酸溶液を冷却し且つ/又は濃縮するための手段を備えた結晶化容器を含む、アジピン酸を結晶化させるための装置であって、
前記結晶化容器の壁及び/又はアジピン酸溶液と接触する前記の冷却し且つ/若しくは濃縮するための手段の壁の少なくとも一部がAISI(米国式)の命名に従ってAISI 310Lタイプ又は欧州式の命名に従ってX1 CrNi 25-21 (1.4335)タイプのオーステナイト系ステンレス鋼から選択される材料から作られたことを特徴とする、前記結晶化装置。
【請求項2】
前記アジピン酸溶液が硝酸によるシクロヘキサノン/シクロヘキサノール混合物の酸化によって得られた溶液であることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
熱交換流体の循環を含む溶液冷却用デバイスを含み、該デバイスがAISI 310Lタイプのオーステナイト系ステンレス鋼から作られたものであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記結晶化容器の内壁の少なくとも一部がAISI 310Lタイプのオーステナイト系ステンレス鋼から作られたものであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の装置。
【請求項5】
前記溶液の濃縮が結晶化装置を減圧下に置くことによって達成されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の装置。
【請求項6】
前記のAISI 310Lタイプのオーステナイト系ステンレス鋼から作られたデバイスの壁の表面が研磨されたことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の装置。
【請求項7】
前記のAISI 310Lタイプのオーステナイト系ステンレス鋼から作られた研磨された表面が、NF EN ISO 3274及びNF EN ISO 4288規格によって規定される方法に従って測定して0.3μm未満の粗度を示すことを特徴とする、請求項6に記載の装置。

【公表番号】特表2012−510488(P2012−510488A)
【公表日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−538955(P2011−538955)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【国際出願番号】PCT/EP2009/065758
【国際公開番号】WO2010/063619
【国際公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(508076598)ロディア オペレーションズ (98)
【氏名又は名称原語表記】RHODIA OPERATIONS
【住所又は居所原語表記】40 rue de la Haie Coq F−93306 Aubervilliers FRANCE
【Fターム(参考)】