説明

アスファルト合材付着防止剤

【課題】アスファルト合材の付着防止効果および剥離効果が高く、噴霧時にノズルに詰まり難いアスファルト合材付着防止剤の提供。
【解決手段】式(1)で示される化合物からなるアスファルト合材付着防止剤。
O−[(EO)(AO)]−R・・・(1)
(式中R、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜4の炭化水素基、EOはオキシエチレン基、AOは炭素数3〜4のオキシアルキレン基、mはオキシエチレン基の平均付加モル数、nは炭素数3〜4のオキシアルキレン基の平均付加モル数であり、mは1〜5、nは1〜5、m+nは2〜10である。EOとAOの各含有量の合計に対するAO含有量の割合は20〜75質量%である。EOとAOはブロック状に付加していてもランダム状に付加していてもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスファルト合材に対する付着防止効果および剥離効果が高く、噴霧時にノズルに詰まり難いアスファルト合材付着防止剤に関する。
【背景技術】
【0002】
道路舗装で用いられているアスファルト合材は、合材工場でアスファルトと骨材を150〜180℃で混合して製造されている。アスファルト合材が冷えて固まると、ホッパー、スキップエレベータ等の合材工場設備に付着することがある。付着物が多くなると、製造を止めて清掃を行う必要があるので、合材工場ではアスファルト合材の付着防止は生産性の面から非常に重要である。また、アスファルト合材の付着は、アスファルト合材運搬用のダンプトラックの荷台にも生じることがあり、道路舗装に際してアスファルト合材に接触するローラー等の舗装機器にも生じることがあるので、施工に係わるこれら機器等への付着を防止することは、施工効率の面からも非常に重要である。
【0003】
そのため従来は、軽油、重油等の鉱物油をホッパー、スキップエレベータ等の合材工場設備に噴霧してアスファルト合材の付着を防止していた。しかし軽油、重油を使用すると、噴霧した油が製造設備外に流出して環境上の問題が生じていた。そのため、軽油、重油と付着防止性能が同等以上で環境上の問題が生じ難いアスファルト合材付着防止剤が望まれている。
【0004】
一方、アスファルト合材付着防止剤は水で希釈し噴霧して使用するのが一般的である。噴霧の状態が悪くなると、薬剤の性能が発揮できなくなるので、噴霧するノズルに希釈液が詰まらないことが重要となる。
【0005】
特許文献1には動植物油脂とポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル類を組み合わせた潤滑油組成物が開示されている。しかし特許文献1の組成物では、水希釈した後の薬液の成分を均一に保つために撹拌混合設備が必要であるので、新たな設備投資を必要とするという問題があり、また噴霧装置のノズルに詰まりやすく定期的な分解洗浄が必要であるので、生産性が劣るという問題もある。
【0006】
噴霧装置のノズルに詰まり難いアスファルト合材付着防止剤としては以下のものが挙げられる。特許文献2にはポリビニルアルコールを用いたアスファルト合材付着防止剤、特許文献3にはポリオキシアルキレングリコールを用いたアスファルト合材付着防止剤、特許文献4には3価および6価の多価アルコールポリオキシアルキレン付加物を用いたアスファルト合材付着防止剤がそれぞれ開示されている。油性成分を用いないこれらのアスファルト合材付着防止剤は、ノズルの詰まりが生じ難いものの、付着防止効果は不十分であり、また一度付着したアスファルトを剥離するという性能も十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2003/035809号
【特許文献2】米国特許第6486249号明細書
【特許文献3】特開平8−127761号公報
【特許文献4】特開2000−160002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、その目的は、アスファルト合材の付着防止効果および剥離効果が高く、噴霧時にノズルに詰まり難いアスファルト合材付着防止剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、特定のアルキレンオキシド誘導体からなるアスファルト合材付着防止剤が、付着防止効果および剥離効果が高く、噴霧時にノズルに詰まり難いことを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、式(1)で示される化合物からなるアスファルト合材付着防止剤である。
【0010】
O−[(EO)(AO)]−R・・・(1)
【0011】
(式中R、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜4の炭化水素基、EOはオキシエチレン基、AOは炭素数3〜4のオキシアルキレン基、mはオキシエチレン基の平均付加モル数、nは炭素数3〜4のオキシアルキレン基の平均付加モル数であり、mは1〜5、nは1〜5、m+nは2〜10である。EOとAOの各含有量の合計に対するAO含有量の割合は20〜75質量%である。EOとAOはブロック状に付加していてもランダム状に付加していてもよい。)
【発明の効果】
【0012】
本発明のアスファルト合材付着防止剤は、アスファルト合材の付着防止効果および剥離効果が高く、噴霧時にノズルに詰まり難いので、アスファルト合材の生産性や施工の面で有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明のアスファルト合材付着防止剤は、下記の式(1)で示される化合物からなる。
【0014】
O−[(EO)(AO)]−R・・・(1)
【0015】
式(1)で示される化合物において、R、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜4の炭化水素基であり、好ましくは炭素数1〜2の炭化水素基である。R、Rは具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、アリル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基であり、好ましくはメチル基である。
【0016】
EOはオキシエチレン基、AOは炭素数3〜4のオキシアルキレン基である。AOとしては、例えば、オキシプロピレン基、1,2−オキシブチレン基が挙げられる。好ましくはオキシプロピレン基である。mはEOの平均付加モル数であり、1≦m≦5、好ましくは2≦m≦3である。mが1未満であると付着防止効果が低下し、mが5を超えると剥離性が悪くなる。nはAOの平均付加モル数であり、1≦n≦5、好ましくは1≦n≦2である。nが1未満であると剥離性が悪くなり、nが5を超えると付着防止性効果が低下する。また、m+nは2〜10であり、好ましくは3〜5である。m+nが10を超えると剥離性が悪くなる。
【0017】
EOとAOの各含有量の合計に対するAO含有量の割合は、20〜75質量%、好ましくは40〜60質量%である。20質量%未満では親水性が高くなるため剥離性が悪くなり、75質量%を超えると親油性が高くなり水への溶解性が低くなるため噴霧時のノズルに詰まりやすくなる。
【0018】
式(1)におけるEOとAOの付加する順序は特に限定はなく、EOとAOがブロック状に付加していてもランダム状に付加していてもよい。好ましい順序はランダム状である。
【0019】
式(1)で示される化合物は、両親媒性化合物であるので、油の代替となり、油を使用しなくても一液型で付着防止効果、剥離効果を発現することができる。また、式(1)で示される化合物は、親水性をも有するので、水に希釈して使用することができる。
【0020】
式(1)で示される化合物は、公知の方法で製造することができる。例えば、炭素数1〜4のアルコールにエチレンオキシドおよび炭素数3〜4のアルキレンオキシドを付加重合した後、ハロゲン化アルキルをアルカリ触媒の存在下にエーテル反応させることによって得られる。
【0021】
なお、水酸基を有する化合物にエチレンオキシド(EO)および炭素数3〜4のアルキレンオキシド(AO)を付加重合する段階においては、EOとAOとをランダム重合しても良く、ブロック重合しても良い。また、オキシエチレン基(EO)や炭素数3〜4のオキシアルキレン基(AO)の各平均付加モル数、EOとAOの各含有量の合計に対するAO含有量の割合は、エチレンオキシドおよび炭素数3〜4のアルキレンオキシドの各使用量を調整することによって、調整することができる。
【0022】
本発明のアスファルト合材付着防止剤は、アスファルト合材に接触する工場設備や機材にアスファルト合材が付着するのを防止する目的で、あるいは付着したアスファルト合材を剥離する目的で用いられる。アスファルト合材は、アスファルトを結合材として、骨材(砂利や砂、一部融解スラグ等)やフィラーを混合した混合材料であり、道路等の舗装に使用される。
【0023】
本発明のアスファルト合材付着防止剤は、希釈せずに原液で使用しても良いが、通常は水で希釈して使用する。希釈倍率は原液に対して水で3〜100質量倍、好ましくは5〜50質量倍である。本発明のアスファルト合材付着防止剤は、ホッパー、スキップエレベータ等の合材工場設備で主に使用されるが、運搬に使用されるダンプトラックの荷台、舗装機器であるフィニッシャー、マカダムローラー、タイヤローラー等に使用しても良い。本発明のアスファルト合材付着防止剤は、刷毛等により塗布して使用しても良く、あるいはスプレイ等により噴霧して使用しても良い。ただし、本発明のアスファルト合材付着防止剤は、噴霧装置のノズルに詰まり難いという利点があるので、噴霧して使用する方が本発明の有利性がより顕著なものとなる。
【0024】
本発明のアスファルト合材付着防止剤は、本発明の効果を阻害しない範囲内で、添加剤とともに組成物として使用することができる。かかる添加剤としては、例えば、低級アルコール、多価アルコール、陰イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、水溶性高分子、有機または無機塩類、pH調整剤、殺菌剤、キレート剤、色素、香料などが挙げられる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、表1中の化合物1〜11は、式(1)で示される化合物における各種パラメーターを表1に示す数値等にしたものである。また、表1中のEOはオキシエチレン基、AOはオキシアルキレン基、POはオキシプロピレン基、BOはオキシブチレン基であり、化合物1〜11はいずれもEOとAOがランダム状に付加したものである。さらに、[(EO)/(PO)]はEOとPOのランダム状結合を表す。
【0026】
(合成例1)
ポリオキシエチレン(3モル)ポリオキシプロピレン(2モル)ジメチルエーテル〔化合物1〕
CHO[(EO)/(PO)]CH
【0027】
プロピレングリコール76gと、触媒として水酸化カリウム3.1gをオートクレーブ中に仕込み、オートクレーブ中の空気を乾燥窒素で置換した後、攪拌しながら140℃で触媒を完全に溶解した。次に、滴下装置によりエチレンオキシド132gとプロピレンオキシド58gの混合物を滴下させ、2時間攪拌した。次に、水酸化カリウム224gを仕込み、系内を乾燥窒素で置換した後、塩化メチル188gを温度80〜130℃で圧入し5時間反応させた。その後、オートクレーブより反応組成物を取り出し、塩酸で中和してpH6〜7とし、含有する水分を除去するため減圧−0.095MPa(50mmHg)、100℃で1時間処理した。さらに処理後生成した塩を除去するため濾過を行い、化合物1を得た。
【0028】
塩化メチルを反応させる前にサンプリングし、精製したものの水酸基価が106であるのに対して、化合物1の水酸基価が0.5、末端メチル基数に対する水素原子数の割合が0.005であることから、化合物1はほぼ完全に水素原子がメチル基に変換されている。
【0029】
(合成例2〜11)
合成例1と同様に表1に示す化合物2〜11の合成を行った。
【0030】
(実施例および比較例)
化合物1〜11および表1の比較例6〜9に示す化合物をアスファルト合材付着防止剤として用いて、下記の評価テストを行なった。その結果を表1に併せて示す。なお、全てのテストにおいて「◎」および「○」の評価の化合物を合格と判定した。
【0031】
(1)付着防止テスト
各アスファルト合材付着防止剤を水で10倍に希釈した液を20cm×15cmのSS400鋼材に1g噴霧した後、150℃に加熱したストレートアスファルト合材(密粒度アスファルト合材 ストレートアスファルト 6% ストレートアスファルト針入度60〜80:JISK2207)を1.0kg乗せて1分間常温で放置した。その後、鋼材を70度の角度に傾斜させ、ストレートアスファルト合材を落とした。このストレートアスファルト合材を乗せて放置し、傾斜させてストレートアスファルト合材を落とす一連の操作を計5回繰り返し行った。鋼材に付着しているアスファルト合材を計量し、下記の基準に従い評価を行なった。
【0032】
(評価基準)
◎:付着量が5g未満である。
○:付着量が5g以上10g未満である。
△:付着量が10g以上100g未満である。
×:付着量が100g以上である。
【0033】
(2)剥離性テスト
150℃に加熱したストレートアスファルト合材(密粒度アスファルト合材 ストレートアスファルト 6% ストレートアスファルト針入度60〜80:JISK2207)を20cm×15cmのSS400鋼材に1.0kg乗せて10分間常温で放置し、アスファルト合材が1.0kg付着した鋼材を作成した。その後、アスファルト合材が付着した鋼材を、各アスファルト合材付着防止剤を水で10倍に希釈した液に、10分間70℃にて浸漬した。液から鋼材を取り出し、鋼材を70度の角度に傾斜させ、ストレートアスファルト合材を落とした。鋼材に付着しているアスファルト合材を計量し、下記の基準に従い評価を行なった。
【0034】
(評価基準)
◎:付着量が5g未満である。
○:付着量が5g以上10g未満である。
△:付着量が10g以上100g未満である。
×:付着量が100g以上である。
【0035】
(3)ノズルの詰まりテスト
各アスファルト合材付着防止剤を水で10倍に希釈した液を、噴霧器(アイリスオーヤマ株式会社製IR−N3000、噴霧能力250ml/分)を用いて、噴霧した。噴霧初期の吐出量を100%とし、噴霧10分後の吐出量と噴霧状態を確認し、次の4段階の基準でノズルの詰まりを評価した。
【0036】
(評価基準)
◎:吐出量が噴霧1回目の98%以上であり、噴霧状態が均一で細かい。
○:吐出量が噴霧1回目の95%以上98%未満であり、噴霧状態が細かいが、やや偏りがある。
△:吐出量が噴霧1回目の80%以上95%未満であり、噴霧状態に偏りがあり、不均一である。
×:吐出量が噴霧1回目の80%未満であり、噴霧状態が細かくならず、噴霧不良である。
【0037】
【表1】

【0038】
表1に示す結果より、本発明に係る実施例1〜6のアスファルト合材付着防止剤は、アスファルト合材に対する付着防止効果および剥離効果が高く、噴霧時にノズルに詰まり難いことが分かる。
【0039】
一方、比較例1(化合物7)は式(1)中のmが0であり、AO/(EO+AO)=10であるので、ノズルがやや詰まり易い。比較例2(化合物8)は式(1)中のnが0であり、AO/(EO+AO)=0であるので、剥離効果が低い。比較例3(化合物9)は式(1)中のmが5を超えており、AO/(EO+AO)が20質量%未満であるので、剥離効果が低い。比較例4(化合物10)は式(1)中のRが水素原子なので付着防止効果および剥離効果が低い。比較例5(化合物11)はRが水酸基、Rが水素原子であり、m+nが10を超えているので付着防止効果および剥離効果が低い。比較例6はポリビニルアルコールなので付着防止効果および剥離効果が低い。比較例7はポリオキシプロピレングリセリンなので付着防止効果および剥離効果が低い。比較例8のポリオキシプロピレンソルビトールなので付着防止効果および剥離効果が低い。なお、これはポリオキシプロピレンソルビトールの末端がすべて水酸基であることによると推測される。比較例9は油性成分を含む配合なのでノズルが詰まり易く、剥離効果が低い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で示される化合物からなるアスファルト合材付着防止剤。
O−[(EO)(AO)]−R・・・(1)
(式中R、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜4の炭化水素基、EOはオキシエチレン基、AOは炭素数3〜4のオキシアルキレン基、mはオキシエチレン基の平均付加モル数、nは炭素数3〜4のオキシアルキレン基の平均付加モル数であり、mは1〜5、nは1〜5、m+nは2〜10である。EOとAOの各含有量の合計に対するAO含有量の割合は20〜75質量%である。EOとAOはブロック状に付加していてもランダム状に付加していてもよい。)

【公開番号】特開2013−79298(P2013−79298A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218810(P2011−218810)
【出願日】平成23年10月1日(2011.10.1)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)