説明

アスファルト混合物の剥離促進方法

【課題】従来の剥離促進方法よりも時間が短くて済む剥離促進方法を提案する。
【解決手段】密閉容器1内の水中にアスファルト混合物の供試体5を浸し、密閉容器内圧力を大気圧よりも高くして密閉容器内水温を100℃以上に保ち、当該温度及び圧力条件下で少なくとも30分の養生時間、供試体5を養生する、剥離促進方法を提案する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
舗装材料の分析に関する技術が以下に開示される。
【背景技術】
【0002】
近年普及している排水性舗装は、不透水性の基層の上に、開粒度(ポーラス)アスファルト混合物による透水性の表層を形成することにより敷設される。なお、基層も開粒度アスファルト混合物による透水性であれば、路盤へ水分を浸透させる透水性舗装になる。また、最近では、既設舗装を基層としてその上に透水性の表層を新たに敷設することもある。
【0003】
これら排水性、透水性舗装において、舗設後の側方流動が比較的早期に発生することが知見され、その主な原因が、基層のアスファルト混合物の剥離現象にあることが分かってきている。さらに、不透水性の密粒系舗装においても、舗装後に生じたクラックから基層に水が浸透して劣化に至る場合がある。そこで、事前に、基層のアスファルト混合物について剥離評価試験が実施される。例えば特許文献1に開示されるように剥離評価試験は、基層アスファルト混合物の供試体を用意し、30℃〜70℃の温水により透水圧を繰り返しかけて剥離を促進させた透水供試体を生成し、何もしていない標準供試体と比較することにより実施される。その指標として、標準供試体の圧裂強度(標準圧裂強度)に対する透水供試体の圧裂強度(透水圧裂強度)の比を示す圧裂強度比([透水圧裂強度/標準圧裂強度]×100)、透水供試体の剥離面積率(目視)が使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−128009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
剥離評価試験に際し実施される供試体の剥離促進方法は、特許文献1にもあるように、温水で繰り返し透水圧をかける方式で実施される。すなわち、水温30℃〜70℃、透水圧50KPa〜600KPa、供試体側方からの水漏れ防止の封止圧(側圧)100KPa〜700KPaとして、前記透水圧を周期的に所定の時間、供試体に与えることで実施される。現在実施されている当該方式の剥離促進方法では、開始から終了までおおよそ4時間以上を要し、1つの供試体の剥離促進を終えるのに一日がかりとなる。剥離評価試験は、基層の複数箇所の供試体に対して実施しなくてはならないので、多数の供試体の剥離促進に非常に時間がかかるというのが現状である。
【0006】
この背景に鑑みると、より時間が短くて済む剥離促進方法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に対して提案する、アスファルト混合物の剥離を促進させる剥離促進方法は、密閉容器内の液体中にアスファルト混合物の供試体を浸し、前記密閉容器内圧力を大気圧よりも高くして前記密閉容器内液体温度を大気圧での沸点以上に保ち、当該温度及び圧力条件下で少なくとも30分の養生時間、前記供試体を養生する、剥離促進方法である。
【発明の効果】
【0008】
上記提案に係る剥離促進方法によれば、大気圧を超える圧力下で沸点を超える加圧熱液体の中に供試体を浸して浸透圧をかけることにより、強制的に供試体内部まで浸液させるので、剥離を促進させる養生時間が最短で30分でよい。すなわち、上記従来の剥離促進方法に比べて試験時間の短縮が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る剥離促進方法に使用する密閉容器の実施形態を示した図。
【図2】図1の密閉容器を蓋側から見た図(A)及び底側から見た図(B)。
【図3】図1の密閉容器を断面で示した図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1〜図3は、剥離評価試験を行うためにアスファルト混合物の剥離を促進させる剥離促進方法に使用する、密閉容器の実施形態を示す。
本実施形態の密閉容器は、有底の金属製(熱伝導材料)円筒容器1と、この円筒容器1の口部を密閉して容器内部を気密封止する金属製円板形状の蓋2と、を有する。円筒容器1は、口部にフランジ1aを有すると共に底部に掃除等のためのドレン口1b(図3参照)を有する。また、円筒容器1の胴部には、その周面に、帯状のバンドヒータ3が巻き付けられ、コントローラCntにより制御される。蓋2は、直径が円筒容器1のフランジ1aと同径で、蓋2の周縁部がフランジ1aに当接し、該周縁部が複数のボルト2aによりフランジ1aに固定される。ボルト2aは、蓋2の周縁部に等間隔で設けられた貫通孔2bを通り、フランジ1aのネジ孔1cに螺合する(図3参照)。
【0011】
円筒容器1の底部中央に設けられたドレン口1bは、金属製のドレン栓4によって密閉される。ドレン口1bに栓をするドレン栓4は、円形のフランジ4aを頭部に有し、このフランジ4aの四箇所がボルト4bで締め込まれ、円筒容器1の底部中央に固定される。ボルト4bは、フランジ4aの貫通孔4cを通り、円筒容器1底部のネジ穴1dに螺合する(図3参照)。
【0012】
蓋2及びドレン栓4と円筒容器1との間は、パッキング材P1,P2により気密封止が保たれる。フランジ1aと当接する蓋2周縁部の当接面には凸条2cが円形に周設され、そして、フランジ1aの当接面には、蓋2の凸条2cに相応する凹条1eが周設される。蓋2をフランジ1aに固定すると、凸条2cが凹条1eに収容され、且つこれら凸条2c及び凹条1eの間にパッキング材P1が挟持される。また、円筒容器1の底部外面においては、ドレン口1bを囲むように凹条1fが円形に周設され、この凹条1f内にパッキング材P2が収容される。パッキング材P2は、ドレン栓4のフランジ4aにより押圧され、凹条1f内に押し込まれて密着する。
【0013】
蓋2には、異常圧力を逃がすための通気孔2dが設けられ(図3参照)、この通気孔2dに、密閉容器内圧力が異常に上昇したときに開く安全弁SVが取り付けられる。蓋2にはさらに、温度計TM、圧力計PG、水抜き用のドレンコックDCも取り付けられる。温度計TMは、蓋2から水中へ垂下し、水温を測ってコントローラCntへ計測信号を出力する。圧力計PGは、密閉容器内圧力を測定する。ドレンコックDCは、蓋2から水中へ管が垂下しており、剥離促進の終了後にコックを開くことで液体(その蒸気)を外へ逃がし、容器内圧力を大気圧へ減圧する。
【0014】
以上の構造をもつ密閉容器は、水又は剥離促進に適したその他の液体を円筒容器1内に収容し、蓋2を閉めてバンドヒータ3から熱を加えることにより、容器内が大気圧を超える圧力となって、大気圧下での沸点を超える温度に中の液体を維持することができる。例えば水を使用した場合、バンドヒータ3による加熱で容器内圧力を大気圧+600kPa程度(あるいはこれ以上)に上げることができ、容器内の水温を100℃以上に上げることができる。この容器内加圧熱水の中にアスファルト混合物の供試体5を浸して剥離促進を実行する。供試体5は、円筒容器1内において台6上に載置される。台6は、例えば天板を4本脚で支える机形のもので、天板は網目状等である。促進実行中、容器内水温は温度計Tmにより計測されてコントローラCntへ伝えられ、計測値に従ってコントローラCntがバンドヒータ3を制御する。また、促進実行中の容器内圧力は、圧力計PGにより計測され、監視される。
【0015】
剥離促進の開始に際し、まず、蓋2を開けて円筒容器1内に、台6に載せて供試体5をセットし、八分目程度まで水を入れた後に蓋2を閉め、すべてのボルト2aを締め込んで密閉する。そして、バンドヒータ3に通電して加熱を開始する。加熱により容器内圧力が上昇して大気圧を超えると、容器内の水は気化することなく、大気圧での沸点である100℃を超えた温度の加圧熱水となる。コントローラCntが水温を監視し、水温が100℃以上、好適には120℃を維持するように、バンドヒータ3を制御する。
【0016】
バンドヒータ3によって水温が120℃に保たれるように制御を行いつつ、当該密閉容器内で30分以上、最長でも120分の養生時間、供試体5を養生する。供試体5に対し加圧熱水中で浸透圧がかかることにより、強制的に供試体内部まで浸水し、養生時間中に剥離が促進される。30分〜120分の養生時間は、従来の剥離促進方法に比べて十分に短い。上述のように従来の剥離促進方法では、剥離促進に最短でも4時間程度を要していたので、1日あたり1回しか剥離促進を実施することができなかった。これに比べ、本実施形態の剥離促進方法によれば、60分ほどで剥離促進を実施することができるので、1日あたり3回は剥離促進を実施できる。また、特許文献1に開示されるような従来の装置に比べて、装置の構造も簡素化されている。
【0017】
養生時間経過後、密閉容器を冷却し、ドレンコックDCから水(水蒸気)を排出する。冷却は、自然冷却、強制冷却のいずれでもよい。水を抜いて減圧した後は、蓋2を開けて供試体5を取り出す。
【0018】
アスファルト混合物の供試体を用い、何も手を加えないで空気中で養生した標準供試体と、従来の剥離促進方法により剥離促進させた透水供試体と、を用意して剥離評価試験を行い、圧裂強度比及び剥離面積率を測定した。標準供試体の圧裂強度を標準圧裂強度、透水供試体の圧裂強度を透水圧裂強度とすると、圧裂強度比は、[透水圧裂強度/標準圧裂強度]×100で得ることができる。
【0019】
一方、静的剥離率の異なる粗骨材を用いたアスファルト混合物の供試体を用い、本実施形態の剥離促進方法により剥離促進させた水浸供試体を用意して剥離評価試験を行い、上記標準供試体との比較から、圧裂強度比及び剥離面積率を測定した。水浸供試体の圧裂強度を浸水圧裂強度とすると、圧裂強度比は、[水浸圧裂強度/標準圧裂強度]×100で得ることができる。本実施形態の剥離促進方法は、別々の供試体を使用して、水温100℃・110℃・120℃・130℃・140℃・150℃で実施し、且つ、それぞれの温度において、0分・30分・60分・90分・120分の養生時間を実施した。水温が200℃を超えるまで高くなると供試体のアスファルトと骨材がおおよそ分離してしまい、剥離の状態を超えてしまうので除外する。また、養生時間が120分を超えるのは従来同様に時間がかかり過ぎることになるので、除外した。
【0020】
上記従来の剥離促進方法による剥離評価試験で得られた圧裂強度比に対し、上記各条件で実施した本実施形態の剥離促進方法による剥離評価試験で得られた圧裂強度比の相関関係(R)を検討した。その結果、水温100℃〜150℃の間の各温度で養生時間を30分〜120分とした供試体において、比較的良好な相関関係が得られた。相関R≧0.7と高い相関関係を示す供試体を抽出すると、少なくとも、養生時間30分の水温110℃・120℃・130℃、養生時間60分の水温110℃・120℃・130℃、養生時間90分の水温110℃・120℃とした供試体が抽出されたので、隣り合う条件がすべて高い相関関係を示す水温120℃且つ養生時間60分が最適条件と判断した。なお、剥離面積率については、従来よりもレンジが広く見られ、より明確に判断できるようになった。
【符号の説明】
【0021】
1 円筒容器
2 蓋
3 ヒータ
4 ドレン栓
5 供試体
DC ドレンコック
PG 圧力計
SV 安全弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスファルト混合物の剥離を促進させる剥離促進方法であって、
密閉容器内の液体中にアスファルト混合物の供試体を浸し、
前記密閉容器内圧力を大気圧よりも高くして前記密閉容器内液体温度を大気圧での沸点以上に保ち、
当該温度及び圧力条件下で少なくとも30分の養生時間、前記供試体を養生する、
剥離促進方法。
【請求項2】
前記密閉容器内の液体が水で、当該密閉容器内水温を120℃に保つよう制御し、前記養生時間を60分とする、請求項1記載の剥離促進方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の剥離促進方法に使用する密閉容器であって、
口部周囲にフランジを有する有底の円筒容器と、
前記フランジに周縁部が固定されて前記口部を密閉する蓋と、
前記円筒容器の胴部周面に設置されたヒータと、
前記円筒容器内の液体温度を計測する温度計と、
前記温度計の計測信号に従って前記ヒータを制御するコントローラと、
剥離促進の終了後に前記円筒容器内液体を外へ排出するドレンコックと、
を少なくとも含んで構成される密閉容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−47450(P2012−47450A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−186712(P2010−186712)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【出願人】(000189800)常盤工業株式会社 (9)