説明

アゾ色素

【課題】無彩色で、高い二色性、高い分子配向度を示湿式成膜法で形成される異方性色素膜用のアゾ色素の提供。
【解決手段】下式で表されるアゾ色素。


[式中、Aは、キノリル基、フタルイミドイル基などを表す。該基は置換基を有していてもよい。Bは、置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基またはヘテロ原子として窒素原子を含む2価の芳香族複素環基を表す。R15およびR16は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基または置換基を有していてもよいアシル基を表す。mは0または1を表し、nは1または2を表す。なお、nが2の場合、1分子中に含まれる複数のBは、同一であっても異なっていてもよい。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式成膜法により形成される異方性色素膜、特に、調光素子や液晶素子(LCD)、有機エレクトロルミネッセンス素子(OLED)の表示素子に具備される偏光板等に有用な高い二色性を示すアゾ色素に関するものである。
【背景技術】
【0002】
LCDでは表示における旋光性や複屈折性を制御するために直線偏光板や円偏光板が用いられている。OLEDにおいても外光の反射防止のために円偏光板が使用されている。従来、これらの偏光板(偏光素子)にはヨウ素が二色性物質として広く使用されてきた。しかしながら、ヨウ素は昇華性が大きいために偏光素子に使用した場合、その耐熱性や耐光性が十分ではなかった。また、その消光色が深い青になり、全可視スペクトル領域にわたって理想的な無彩色偏光素子とは言えなかった。
【0003】
そのため、有機系の色素を二色性物質に使用する偏光素子が検討されている。しかし、これら有機系の色素においてはヨウ素に比べると二色性がかなり劣る程度の偏光素子しか得られないなどの問題点があった。
特に、光の旋光性や複屈折性を表示原理に用いているLCDにおいて偏光素子は重要な構成要素であり、近年、表示性能などの向上を目的に新たな偏光素子の開発が進められている。
【0004】
その一つの方法として、ヨウ素を含む偏光素子と同様に、二色性を有する有機色素(二色性色素)をポリビニルアルコールのような高分子材料に溶解または吸着させ、その膜を一方向にフィルム状に延伸して二色性色素を配向させる方法が挙げられている。しかしながら、該方法では延伸処理等のプロセスに手間がかかる等の問題点があった。
そこで、最近では他の方法が着目されるようになってきた。この方法として、非特許文献1では、ガラスや透明フィルムなどの基板上に有機色素分子の分子間相互作用などを利用して二色性色素を配向させ、偏光膜(異方性色素膜)を形成している。しかしながら、該文献に記載の方法では、耐熱性の問題があることが知られていた。
【0005】
また、上記ガラスや透明フィルムなどの基板上に有機色素分子の分子間相互作用などを利用して二色性色素を配向させることは湿式成膜法により達成される。このような湿式成膜法で異方性色素膜が作製される場合、この色素膜に使用される色素には、色素分子の高い二色性の他に、湿式成膜法のプロセスに適した色素であることが要求される。湿式成膜法におけるプロセスとしては、色素を基板上に堆積、配向させる方法やその配向を制御する方法などが挙げられる。従って、従来の上記延伸処理を経る偏光素子に使用され得る色素であっても、湿式成膜法には適していないことが多くある。
【0006】
特許文献1〜3では、上記プロセスに適した材料が提案されているが、これらの材料では該プロセスに適してはいても、高い二色性を示すことができないという問題点があった。
また、該プロセスに適した材料として、特許文献4では、(クロモゲン)(SO3M)nで表される色素が提案されている。しかしながら、該文献では、数種類の二色性色素を組み合わせて無彩色を表しているが、この様に数種類の二色性色素を組み合わせて異方性色素膜を得た場合、異なる分子を混合するため分子配向が乱れてしまい、高い二色性を得ることは困難であるという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−180052号公報
【特許文献2】特表2002−528758号公報
【特許文献3】特開2002−338838号公報
【特許文献4】特表平8−511109号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Dreyer,J.F., Journal de Physique, 1969, 4, 114., "Light Polarization FromFilms of Lyotropic NematicLiquid Crystals"
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、湿式成膜法で形成される異方性色素膜において、該膜が無彩色で、高い二色性、高い分子配向度を示す異方性色素膜であり、この異方性色素膜を用いて有用な偏光素子を得ることができるための色素を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、遊離酸の形が下記式(I)で表される色素を用いることにより、湿式成膜法で形成される異方性色素膜において無彩色で、高い二色性、高い分子配向度を示す異方性色素膜となすことができ、その異方性色素膜を用いて偏光素子を得ることができることを見出し本発明に到達した。
すなわち、本発明の要旨は、遊離酸の形が下記式(6)で表されることを特徴とするアゾ色素に存する。
【0011】
【化1】

・・・・・(6)
[式(6)中、Aは、下記式(6−a)、(6−b)または(6−c)のいずれかの基を表す。該基は置換基を有していてもよい。
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、R35は、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基を表す。)
【0014】
は、置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基またはヘテロ原子として窒素原子を含む2価の芳香族複素環基を表す。
15およびR16は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基または置換基を有していてもよいアシル基を表す。
は0または1を表し、nは1または2を表す。
【0015】
なお、nが2の場合、1分子中に含まれる複数のBは、同一であっても異なっていてもよい。]
【発明の効果】
【0016】
本発明の色素を用いることにより、湿式成膜法で形成される異方性色素膜においても、無彩色で、高い二色性、高い分子配向度を示す異方性色素膜を提供できる。また、このような特性を有する異方性色素膜を用いた偏光素子は、調光素子、液晶素子、有機エレクトロルミネッセンス素子等の表示素子などの多方面に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】色素濃度とモル吸光係数(ε)の関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定されるものではない。
尚、本発明でいう異方性色素膜とは、色素膜の厚み方向及び任意の直交する面内2方向の立体座標系における合計3方向から選ばれる任意の2方向における電磁気学的性質に異方性を有する色素膜である。電磁気学的性質としては、吸収、屈折などの光学的性質、抵抗、容量などの電気的性質などが挙げられる。吸収、屈折などの光学的異方性を有する膜としては、例えば、直線偏光膜、円偏光膜、位相差膜、導電異方性膜などがある。
【0019】
本発明の異方性色素膜は、偏光膜、位相差膜、導電異方性膜に用いられることが好ましく、偏光膜に用いられることがより好ましい。
本発明は、遊離酸の形が下記式(I)で表されることを特徴とする、湿式成膜法により形成される異方性色素膜用色素に関する。
【0020】
【化3】

・・・・(I)
【0021】
式(I)中、R11及びR22は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基または置換基を有していてもよい
アシル基を表す。
11は、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよいナフチル基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。
11は、置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基または2価の芳香族複素環基を表す。
mは0または1を表す。n’は1または2を表す。
ただし、n’が1の場合、A11はビニル基を有するフェニル基であることは無く、又、n’が2の場合、A11は、下記式(I−a)若しくは(I−b)、または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。
【0022】
【化4】

【0023】
(上記式中、R33は、水素原子、水酸基または置換基を有していてもよいアルコキシ基を表す。)
【0024】
尚、n’が2の場合、1分子中に含まれる複数のB11は、同一であっても異なっていてもよい。
本発明において置換基を有していてもよいとは、置換基を1以上有していてもよいことを意味する。
<A11
11は、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよいナフチル基、または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。
該フェニル基または該ナフチル基が有していてもよい置換基としては、アゾ化合物の溶解性を高めるために導入される親水性基や色素としての色調を調節するために導入される電子供与性や電子吸引性を有する基が好ましく、具体的には、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアシルアミノ基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいカルバモイル基、ニトロ基、カルボキシ基、スルホ基、水酸基、シアノ基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0025】
該アルキル基は炭素数が通常1以上、通常6以下、好ましくは4以下である。該アルキル基に置換していてもよい基としては、アルコキシ基、水酸基、ハロゲン原子、スルホ基及びカルボキシ基などが挙げられる。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、ヒドロキシエチル基、1,2−ジヒドロキシプロピル基等の置換基を有していてもよい低級アルキル基が挙げられる。
【0026】
該アルコキシ基は炭素数が通常1以上、通常6以下、好ましくは3以下である。該アルコキシ基に置換していてもよい基としては、アルコキシ基、水酸基、ハロゲン原子、スルホ基及びカルボキシ基などが挙げられる。アルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、n−ブトキシ基、ヒドロキシエトキシ基、1,2−ジヒドロキシプロポキシ基等の置換基を有していてもよい低級アルコキシ基が挙げられる。
【0027】
該アシルアミノ基は、−NH−COR51で表され、R51は、置換基を有していてもよいアルキル基又は置換基を有していてもよいフェニル基を表す。該アルキル基は、炭素数が通常1以上、通常4以下、好ましくは2以下である。該アルキル基及び該フェニル基に置換していてもよい基としては、アルコキシ基、水酸基、スルホ基、カルボキシ基及びハロゲン原子などが挙げられる。アシルアミノ基の具体例としては、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等が挙げられる。
【0028】
該アミノ基は、通常、−NH、−NHR42、−NR4344で表され、R42〜R44はそれぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基又は置換基を有していてもよいフェニル基を表す。該アルキル基は、炭素数が通常1以上、通常4以下、好ましくは2以下である。該アルキル基及び該フェニル基に置換していてもよい基としては、アルコキシ基、水酸基、スルホ基、カルボキシ基及びハロゲン原子などが挙げられる。アミノ基の具体例としては、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、ジメチルアミノ基、フェニルアミノ基等が挙げられる。
【0029】
該カルバモイル基は、無置換、または置換されていてもよいアルキルカルバモイル基、フェニルカルバモイル基およびナフチルカルバモイル基を表す。該置換基のアルキル基、フェニル基またはナフチル基は置換基を有していてもよく、該アルキル基、該フェニル基及びナフチル基に置換していてもよい基としては、アルコキシ基、水酸基、スルホ基、カルボキシ基及びハロゲン原子などが挙げられる。カルバモイル基の具体例としては、カルバモイル基、フェニルカルバモイル基、ナフチルカルバモイル基等が挙げられる。
【0030】
該フェニル基または該ナフチル基は、これら置換基を1〜5個有していてもよく、好ましくは1〜2個有していることである。
芳香族複素環基としては 、単環または二環性の複素環由来の基が好ましい。芳香族複素環基を構成する炭素以外の原子としては、窒素原子、硫黄原子及び酸素原子が挙げられる。芳香族複素環基が炭素以外の環を構成する原子を複数有する場合、これらは同一であっても異なっていてもよい。芳香族複素環基として具体的には、ピリジル基、キノリル基、チアゾリル基、ベンゾチアゾリル基、キノロニル基、ナフタルイミドイル基、下式の基などが挙げられる。
【0031】
【化5】

【0032】
(式中R41は、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基を表す。該置換基としては、メチル基、エチル基等のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、水酸基、ニトロ基、スルホ基、カルボキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、メチルアミノ基等のアミノ基、アミド基及びシアノ基等が挙げられる)
【0033】
中でもピリジル基、キノリル基或いはフタルイミドイル基が好ましい。
該芳香族複素環基が有していてもよい置換基としては、メチル基、エチル基等のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、水酸基、ニトロ基、スルホ基、カルボキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、メチルアミノ基等のアミノ基、アミド基及びシアノ基等が挙げられる。中でも、無置換、水酸基、スルホ基、カルボキシ基が好ましい。
【0034】
式(I)で表される色素において、A11が芳香族複素環基であると色素の会合性が向上するため好ましく、湿式成膜法で形成される異方性色素膜用にも、乾式成膜法(延伸法)で形成される異方性色素膜用にも好適である。
【0035】
<B11
11は、置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基、または2価の芳香族複素環基を表す。
該芳香族炭化水素基としては、フェニレン基、ナフチレン基が好ましい。該芳香族炭化水素基が有していてもよい置換基としては、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、水酸基、ニトロ基、スルホ基、カルボキシ基、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいアシルアミノ基及びシアノ基等が挙げられる。尚、該置換基を有していてもよいアルキル基、該置換基を有していてもよいアルコキシ基、該置換基を有していてもよいアミノ基及び該置換基を有していてもよいアシルアミノ基の好ましい炭素数、有していてもよい置換基の例、その具体例は、前記A11がフェニル基またはナフチル基の場合に記載したものと同様である。中でも、アルキル基、アルコキシ基、水酸基、ハロゲン原子などの極性の小さい基或いは水素結合性を有する基がリオトロピック液晶を形成する上での相互作用による会合性向上の点で好ましく、水溶化の観点からは、スルホ基が好ましい。
該芳香族炭化水素基は、無置換でも、これら置換基を1〜5個有していてもよく、好ましくは置換基を1〜2個有していることである。
【0036】
該芳香族複素環基としては、単環または二環性の複素環由来の基が好ましい。芳香族複素環基を構成する炭素以外の原子としては、窒素原子、硫黄原子及び酸素原子が挙げられるが、窒素原子が特に好ましい。芳香族複素環基が炭素以外の環を構成する原子を複数有する場合、これらは同一であっても異なっていてもよい。芳香族複素環基として具体的には、ピリジンジイル基、キノリンジイル基、イソキノリンジイル基、ベンゾチアジアゾールジイル基、フタルイミドジイル基等が挙げられる。中でも、キノリンジイル基、イソキノリンジイル基が好ましい。
【0037】
該芳香族複素環基が有していてもよい置換基としては、メチル基、エチル基等のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、無置換あるいはメチルアミノ基等のアミノ基、アセチルアミノ基、アシルアミノ基、ニトロ基、カルボキシ基、スルホ基、水酸基、シアノ基、ハロゲン原子等が挙げられる。中でも、水酸基、スルホ基、カルボキシ基が好ましい。該芳香族複素環基は、無置換または、これら置換基を1〜5個有していてもよく、好ましくは無置換、または1〜2個有していることである。
【0038】
<R11及びR22
11及びR22は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよいアシル基を表す。
該アルキル基、該フェニル基及び該アシル基の有していてもよい置換基としては、水酸基、カルボキシ基、スルホ基が挙げられる。
【0039】
該アシル基は、置換されていてもよいアルキルアシル、置換されていてもよいフェニルアシルが挙げられ、該アルキル基及び該フェニル基の有していてもよい置換基としては、水酸基、カルボキシ基、スルホ基が挙げられる。
好ましくは、R11及びR22のいずれもが水素原子であることが挙げられる。
式(I)で表される色素の遊離酸の形としての具体例は、後記式(1)〜(5)に記載の色素の具体例が挙げられるが、その他にも以下のような色素が挙げられる。
【0040】
【化6】

【0041】
【化7】

【0042】
本発明の色素は、湿式成膜法により形成される異方性色素膜用色素であって、遊離酸の形が前記式(I)で示されるアゾ色素であるが、より具体的な例として、下記式(1)または式(2)で表される水溶性の黒色の二色性アゾ色素が挙げられる。
【0043】
【化8】

・・・・・(1)
[式(1)中、
Aは、置換基を有していてもよいフェニレン基または置換基を有していてもよいナフチレン基を表す。
1は、水素原子、水酸基または置換基を有していてもよいアルコキシ基を表す。
およびRは、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基または置換基を有していてもよいアシル基を表す。
は、0または1を表す。
Xは、1または2を表す。
なお、Xが2の場合、1分子中に含まれる複数のAは、同一であっても異なっていてもよ
い。]
【0044】
【化9】

・・・・・(2)
【0045】
[式(2)中、
Bは、置換基を有していてもよいフェニレン基または置換基を有していてもよいナフチレン基を表す。
4は、水素原子、水酸基または置換基を有していてもよいアルコキシ基を表す。
およびRは、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基または置換基を有していてもよいアシル基を表す。
は、0または1を表す。Yは、1または2を表す。
なお、Yが2の場合、1分子中に含まれる複数のBは、同一であっても異なっていても
よい。]
【0046】
式(1)及び式(2)で表されるアゾ色素は、その分子構造から明らかなように、分子長軸の両端がナフタレン環から構成され、且つそのナフタレン環の特定位置に他の分子に強い引力を与える置換基が配された構造となっているため、互いの分子同士が平面性による相互作用を有し、分子同士が会合状態を作りやすい性質を有している。
【0047】
本発明の該色素がこのような分子同士の会合状態を形成しやすいのは、例えば以下の理由によると考えられる。
(i)それぞれの色素分子が分子長軸の両端に他の分子に強い引力を与える置換基を有しているために、互いに引き合い会合状態を作りやすくなっていると考えられる。
(ii)それぞれの分子が、両端にナフタレン環を有しているため、平面性の高い分子同士が引き合い、会合状態を作りやすくなっていると考えられる。
(iii)分子長軸の両端に他の分子に強い引力を与える置換基が特定位置にあるため(一端に7位または5位にスルホ基等を有するナフチル基および一端に7位に(置換)アミノ基を有するナフチル基)、造塩の際、前記7位または5位のスルホ基等と7位のアミノ基が、その位置関係から良く接近できるため、強く引き合うなどして、安定的に会合状態を作りやすくなっていると考えられる。
【0048】
本発明色素は、この(i)〜(iii)の構成により会合状態を作り易く、これによって高いリオトロピック液晶状態を形成し得るものと考えられる。
また、本発明の式(1)及び(2)で表される色素は、黒色であるということだけでなく、この色素を含有した組成物は、湿式成膜法特有のプロセス、すなわち、基材表面に塗布などの積層プロセスを経ることによっても、高次の分子配向状態を示すことができる。それは、すなわち、高い異方性を有する無彩色の色素膜を形成することが可能であることを意味する。
【0049】
これまで、一種類の二色性色素を用いて無彩色な異方性色素膜を得ようとすると、色素分子に導入された置換基の立体反発により分子配向が乱れやすく、高い二色性を得ることが困難であった。そのため、従来の湿式成膜法により形成される異方性色素膜は、複数種の色素の組合せにより無彩色な異方性色素膜を得ていることが多くあった。しかしながら、本発明の該色素は上記のように特定の色素分子構造を有するため、高いリオトロピック液晶状態を形成し、高次の分子配向状態を示すことができ、かつ1種類の色素でも黒色を示すことが可能である。従って、本発明の色素を含有した異方性色素膜は、高い二色性を示す異方性色素膜として機能することができる。
【0050】
以下、本発明の前記式(1)または(2)で表されるアゾ色素について説明する。
<A及びB>
前記式(1)または(2)において、AおよびBは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいフェニレン基或いはナフチレン基を表す。
前記式(1)において、Xが2の場合、一分子中に含まれる2つのAは同一であっても異なっていてもよい。又、前記式(2)において、Yが2の場合、一分子中に含まれる2つのBは同一であっても異なっていてもよい。
【0051】
フェニレン基としては1,4−フェニレン基であることが好ましく、ナフチレン基としては1,4−ナフチレン基であることが、前記相互作用を示すために好ましい。
該フェニレン基が有していてもよい置換基としては、置換基を有していてもよいアルキル基(好ましくは炭素数1〜4のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、ヒドロキシエチル基、1,2−ジヒドロキシプロピル基等))、置換基を有していてもよいアルコキシ基(好ましくは炭素数1〜4のアルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、n−ブトキシ基、ヒドロキシエトキシ基、1,2−ジヒドロキシプロポキシ基等))及び置換基を有していてもよいアシルアミノ基(好ましくは炭素数2〜7のアシルアミノ基(例えばアセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等))等の極性の小さい基或いは水素結合性を有する基がリオトロピック液晶を形成する上での相互作用による会合性向上の点で好ましい。
【0052】
前記フェニレン基の置換基は更に置換基を有していてもよく、具体的には該フェニレン基の置換基として例示したものや、水酸基、ハロゲン原子等が挙げられる。
該ナフチレン基が有していてもよい置換基としては、水酸基、スルホ基、置換基を有していてもよいアルコキシ基(好ましくは炭素数1〜4のアルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基等、ヒドロキシエトキシ基、1,2−ジヒドロキシプロポキシ基等))がリオトロピック液晶を形成する上での相互作用による会合性向上の点で好ましい。該アルコキシ基の有し得る置換基としては、水酸基及びアルコキシ基が挙げられる。
【0053】
<R及びR
前記式(1)及び(2)におけるRおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、置換基を有していてもよいアルコキシ基(好ましくは、炭素数1〜3のアルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、ヒドロキシエトキシ基、1,2−ジヒドロキシプロポキシ基))である。
【0054】
<R、R、R及びR
前記式(1)及び(2)におけるR、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基(好ましくは炭素数1〜4のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、等))、置換基を有していてもよいフェニル基または置換基を有していてもよいアシル基(アセチル基、ベンゾイル基等)である。前記アルキル基、フェニル基及びアシル基の有し得る置換基としては、水酸基、カルボキシ基、スルホ基が挙げられる。
特に好ましくは、式(1)において、R及びRのいずれかが水素原子であること、式(2)において、R及びRのいずれかが水素原子であることが挙げられる。
【0055】
<XおよびY>
XおよびYは、それぞれ独立に1又は2を表す。
<mおよびm
およびmは、それぞれ独立に0又は1を表す。
【0056】
<分子量>
前記式(1)または(2)で表される色素の分子量としては、遊離酸の形で、通常650以上、通常1500以下、好ましくは1100以下である。
前記式(1)又は(2)で表される色素は、色素構造中、分子長軸の両端がナフチル基を有すること、両端ナフチル基の置換基および置換位置(7または5位に置換基を有するナフチル基および7位にアミノ基を有するナフチル基)が特定されていることで、前記のように会合性が向上し、高いリオトロピック液晶状態を形成することができる。従って、前記式(1)または(2)で表される本発明の色素は、湿式成膜法により形成される異方性色素膜用の色素として適しており、またその二色比も高いので、該色素を用いた色素組成物を異方性色素膜に使用すれば、二色性の高い異方性色素膜を得ることが出来る。
本発明の色素の具体例としては、遊離酸の形として、例えば以下の(1−1)〜(1−20)、(1−23)、(1−25)〜(1−27)に示す構造の色素が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0057】
【化10】

【0058】
【化11】

【0059】
【化12】

【0060】
【化13】

【0061】
【化14】

【0062】
上記式(1)及び(2)で表されるアゾ色素は、それ自体周知の方法に従って製造することができる。例えばNo.(1−1)で示される色素は、下記(a1)(b1)の工程で製造できる。
(a1) 7−アミノ−2−ナフタレンスルフォン酸(Delta酸)と8−アミノ−2−ナフタレンスルフォン酸(1,7−Cleves 酸)とから常法[例えば、細田豊著「新染料化学」(昭和48年12月21日、技報堂発行)第396頁−第409頁参照]に従って、ジアゾ化、カップリング工程を経てモノアゾ化合物を製造する。
(b1) 得られたモノアゾ化合物を同様に、常法によりジアゾ化し、7−アミノ−1−ナフトール−3,6−ジスルホン酸(RR酸)とカップリング反応を行い塩化ナトリウムで塩析することにより目的の色素No.(1−1)が得られる。
【0063】
特に、前示構造式(1−1)で示される本発明の色素は、水溶液中でリオトロピック液晶を形成するため、高い二色性を示す異方性色素膜を作製可能であり、特に湿式成膜法に適した有用な色素である。
本発明の遊離酸の形が前記式(I)で示される異方性色素膜用色素であるアゾ色素として、他の具体的な例は、下記式(3)で表される水溶性の黒色の二色性アゾ色素である。
【0064】
【化15】

・・・・・(3)
【0065】
(式中、Dは、ビニル基以外の置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよいナフチル基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。
は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表す。
およびRは、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基または置換基を有していてもよいアシル基を表す。
は、0または1を表す。)
【0066】
本発明の上記式(3)で表される色素は、分子中の親水性基の数にもよるが、通常水溶性の色素であり、また、通常、二色性色素である。
<D
式(3)において、Dは、ビニル基以外の置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよいナフチル基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。これらの中、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよいナフチル基であることが好ましく、置換基を有していてもよいフェニル基であることが液晶性と溶解性の両者の面で特に好ましい。
【0067】
特にDの置換基としては、極性を有する基であることが好ましい。極性を有する基としては、カルボキシ基、スルホ基等のイオン性置換基、水酸基、アミノ基、ヒドロキシエチル基、1,2−ジヒドロキシプロピル基、アシルアミノ基、カルバモイル基等の水素結合性プロトンを有する置換基、アルコキシ基、シアノ基、ジアルキルアミノ基等の電気陰性度の高い原子(例えば、窒素原子、酸素原子、硫黄原子のような)を含み分極の大きい置換基が挙げられる。
【0068】
が、フェニル基である場合には、該フェニル基はビニル基以外の置換基を有することができる。ここで、ビニル基とは、ビニル基、及びビニレン基、ビニリデン基等の置換ビニル基をも包含する基を意味する。
フェニル基が有していてもよい置換基としては、色素の溶解性を高めるために導入される親水性基や色調を調節するために導入される電子供与性基や電子吸引性を有する基が好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、ヒドロキシエチル基、1,2−ジヒドロキシプロピル基等の置換されていてもよいアルキル基(好ましくは、炭素数1〜4のアルキル基);メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、n−ブトキシ基、ヒドロキシエトキシ基、1,2−ジヒドロキシプロポキシ基等の置換されていてもよいアルコキシ基(好ましくは、炭素数1〜4のアルコキシ基)が挙げられる。
【0069】
また、メチルアミノ基、エチルアミノ基、・BR>Vロピルアミノ基、ジメチルアミノ基等のアルキルアミノ基(好ましくは炭素数1〜4のアルキル基で置換されたアミノ基);フェニルアミノ基;アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等のアシルアミノ基(好ましくは炭素数2〜7のアシル基で置換されたアミノ基)等の置換されていてもよいアミノ基;フェニルアミノカルボニル基、ナフチルアミノカルボニル基等の置換されていてもよいカルバモイル基;カルボキシ基;スルホ基;水酸基;フェニル基;ベンゾチアゾリル基、キノリル基、フタルイミド基などの芳香族複素環基;フッ素、塩素、臭素などのハロゲン原子;ニトロ基及びシアノ基等が挙げられる。これらの置換基のうち、好ましくはスルホ基、水酸基、カルボキシ基、シアノ基、カルバモイル基、メチル基、メトキシ基、塩素原子である。
【0070】
上記置換基は、更に置換基を有していてもよく、置換基としては水酸基、スルホ基、アルコキシ基、アルキル基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子などが挙げられる。
該フェニル基は、これら置換基を1〜5個有していてもよく、好ましくは1〜2個有していることである。
が、ナフチル基である場合には、該ナフチル基は置換基を有していてもよい。ナフチル基が有していてもよい置換基としては、溶解性を高めるために導入される親水性基や色調を調節するために導入される電子供与性基や電子吸引性を有する基が好ましい。具体的には、上記フェニル基が有し得る置換基と同種の基が挙げられ、置換されていてもよいアルキル基(好ましくは、炭素数1〜4のアルキル基)、置換されていてもよいアルコキシ基(好ましくは、炭素数1〜4のアルコキシ基)、置換されていてもよいアミノ基(好ましくは、炭素数1〜7のアルキル基若しくはアルコキシ基、炭素数2〜7のアシル基で置換されていてもよいアミノ基)、カルボキシ基、スルホ基、水酸基及びシアノ基が挙げられる。該アルキル基、該アルコキシ基、該アミノ基の置換基としては、該ナフチル基の置換基として例示したものが挙げられる。
【0071】
該ナフチル基は、これら置換基を1〜4個有していてもよく、好ましくは1〜2個有していることである。また、上記例示した置換基のうち、好ましくはスルホ基、水酸基、カルボキシ基である。
が、ナフチル基である場合には、1−ナフチル基、2−ナフチル基或いは3−ナフチル基が挙げられるが、2−ナフチル基または3−ナフチル基であることが液晶性発現濃度低下のため更に好ましい。
【0072】
が、1−ナフチル基である場合には、ナフチル基の3位、4位、6位或いは8位に置換基を有していることが液晶性発現のため好ましく、特にスルホ基、カルボキシ基、シアノ基を有していることが好ましい。なお、式(3)において、Dが、3,6−ジスルホ−8−ヒドロキシナフチル基の場合、R及びRが水素原子で、m=0であることはない。
【0073】
が、2−ナフチル基である場合には、ナフチル基の1、4、5、6、7、8位に置換基を有していることが液晶性発現のため好ましく、特に5位或いは7位に置換基を有していることが好ましい。また、特にスルホ基を有していることが好ましい。
が、3−ナフチル基である場合には、ナフチル基の6位に置換基を有していることが液晶性発現のため好ましく、特にスルホ基を有していることが好ましい。
【0074】
が、芳香族複素環基である場合、該芳香族複素環基は置換基を有していてもよい。芳香族複素環基のヘテロ原子としては、窒素原子、硫黄原子等が挙げられるが、窒素原子を有する芳香族複素環基が液晶性発現濃度低下のため好ましい。芳香族複素環基として具体的には、ピリジル基、キノリル基、チアゾリル基、ベンゾチアゾリル基などが挙げられ、好ましくは、ピリジル基である。
【0075】
芳香族複素環基が有していてもよい置換基としては、溶解性を高めるために導入される親水性基や色調を調節するために導入される電子供与性基や電子吸引性を有する基が好ましい。具体的には、スルホ基、カルボキシ基、置換基を有していてもよいアルキル基(好ましくは、炭素数1〜4のアルキル基)、置換基を有していてもよいアルコキシ基(好ましくは、炭素数1〜4のアルコキシ基)、置換されていてもよいアミノ基(好ましくは炭素数1〜7のアルキル基若しくはアルコキシ基等で置換されていても良いアミノ基)、シアノ基などが挙げられる。該アルキル基、該アルコキシ基、該アミノ基の置換基としては、該芳香族複素環基の置換基として例示したものが挙げられる。
【0076】
該芳香族複素環基は、これら置換基を1〜4個有していてもよく、好ましくは1〜2個有していることである。また、上記例示した置換基のうち、好ましくはスルホ基、カルボキシ基である。
【0077】
<A
前記式(3)において、Aは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表す。芳香族炭化水素基としては、具体的にはフェニレン基或いはナフチレン基が挙げられる。
【0078】
フェニレン基としては1,4−フェニレン基であることが好ましく、ナフチレン基としては1,4−ナフチレン基であることが、前記相互作用を示すために好ましい。
がフェニレン基の場合、該フェニレン基が有し得る置換基としては、極性の小さい基、或いは、水素結合性を有する基がリオトロピック液晶を形成する上での相互作用による会合性向上の点で好ましい。
【0079】
具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、ヒドロキシエチル基、1,2−ジヒドロキシプロピル基等の置換されていてもよいアルキル基(好ましくは、炭素数1〜4のアルキル基);メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、n−ブトキシ基、ヒドロキシエトキシ基、1,2−ジヒドロキシプロポキシ基等の置換されていてもよいアルコキシ基(好ましくは、炭素数1〜4のアルコキシ基)、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等のアシルアミノ基(好ましくは炭素数2〜7のアシル基で置換されたアミノ基)等の置換されていてもよいアミノ基等が挙げられる。
【0080】
該フェニレン基は、これら置換基を1〜4個有していてもよく、好ましくは1〜2個有していることである。
前記フェニレン基の置換基は更に置換基を有していてもよく、具体的には該フェニレン基の置換基として例示したものや、水酸基等が挙げられる。
がナフチレン基の場合、該ナフチレン基が有し得る置換基としては、水酸基、スルホ基、置換基を有していてもよいアルコキシ基(好ましくは炭素数1〜4のアルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基等、ヒドロキシエトキシ基、1,2−ジヒドロキシプロポキシ基等))がリオトロピック液晶を形成する上での相互作用による会合性向上の点で好ましい。
【0081】
前記ナフチレン基の置換基は更に置換基を有していてもよく、具体的には該ナフチレン基の置換基として例示したものや、水酸基等が挙げられる。
該ナフチレン基は、これら置換基を1〜4個有していてもよく、好ましくは1〜2個有していることである。
【0082】
<R及びR
前記式(3)において、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基または置換基を有していてもよいアシル基を表す。具体的には、メチル基、エチル基等のアルキル基(好ましくは炭素数1〜4のアルキル基)、フェニル基、アセチル基、ベンゾイル基等のアシル基であり、これらのアルキル基、フェニル基及びアシル基の有し得る置換基としては、水酸基、カルボキシ基、スルホ基等が挙げられる。
【0083】
特に好ましくは、式(3)において、R及びRの少なくともいずれかが水素原子であることが挙げられる。
前記式(3)において、mは0又は1を表す。
本発明の前記式(3)で表される色素の分子量としては、遊離酸の形で、通常450以上、通常1500以下、好ましくは1100以下である。
【0084】
前記式(3)で表される色素は、通常、色調が黒色で高いリオトロピック液晶状態を形成することができる。従って、前記式(3)で表される本発明の色素は、湿式成膜法により形成される異方性色素膜用の色素として適しており、また波長分散性が低く、その二色比も高いので、該色素を用いて高い分子配向度を示す異方性色素膜を得ることができる。従って、該色素を用いた色素組成物を異方性色素膜に使用すれば、偏光特性の高い異方性色素膜を得ることが出来る。
【0085】
本発明の式(3)で表される色素の遊離酸の形での具体例としては、例えば以下の(3−1)〜(3−33)、(3−35)〜(3−59)に示す構造の色素が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0086】
【化16】

【0087】
【化17】

【0088】
【化18】

【0089】
【化19】

【0090】
【化20】

【0091】
【化21】

【0092】
【化22】

【0093】
【化23】

【0094】
【化24】

【0095】
【化25】

【0096】
【化26】

【0097】
【化27】

【0098】
【化28】

【0099】
上記式(3)で表されるアゾ色素は、それ自体周知の方法に従って製造することができる。例えば上記色素No.(3−1)で示される色素は、下記(a3)、(b3)の工程で製造できる。
(a3)3−アミノベンゼンスルホン酸(メタニル酸)と8−アミノ−2−ナフタレンスルホン酸(1,7−Cleves 酸)とから常法[例えば、細田豊著「新染料化学」(昭和48年12月21日、技報堂発行)第396頁第409頁参照]に従って、ジアゾ化、カップリング工程を経てモノアゾ化合物を製造する。
(b3)得られたモノアゾ化合物を同様に、常法によりジアゾ化し、7−アミノ−1−ナフトール−3,6−ジスルホン酸(RR酸)とカップリング反応を行い塩化ナトリウムで塩析することにより目的の色素No.(3−1)が得られる。
得られた色素は、必要に応じ精製処理を行ってもよい。
【0100】
本発明の遊離酸の形が前記式(I)で示される異方性色素膜用色素であるアゾ色素として、更なる他の具体的な例は、下記式(4)で表される水溶性の黒色の二色性アゾ色素である。
【0101】
【化29】

・・・・(4)
【0102】
[式(4)中、Aは、 下記式(4−a)、(4−b)または(4−c)のいずれかの基を表す。該基は置換基を有していてもよい。
【0103】
【化30】

【0104】
(式中、R34は、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基を表す。)
は、置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基またはヘテロ原子として窒素原子を含む2価の芳香族複素環基を表す。
およびR10は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基または置換基を有していてもよいアシル基を表す。
は0または1を表し、nは1または2を表す。
なお、nが2の場合、1分子中に含まれる複数のBは、同一であっても異なっていてもよい。)]
【0105】
該アゾ色素は、式(4)のAから明らかなように、分子末端に水素結合性等を有する特殊な構造から構成され、分子同士が会合状態を作りやすい性質を有している。これによって高いリオトロピック液晶状態を形成し得るものと考えられる。
【0106】
また、該アゾ色素の多くは黒色であり、また、この色素を含有した組成物は、湿式成膜法特有のプロセス、すなわち、基材表面に塗布などの積層プロセスを経ることによっても、高次の分子配向状態を示すことができる。それは、すなわち、高い異方性を有する無彩色の色素膜を形成することが可能であることを意味する。
従来の湿式成膜法により形成される異方性色素膜は、複数種の色素の組合せにより無彩色な異方性色素膜を得ていることが多くあったが、本発明の該アゾ色素は上記のように特定の色素分子構造を有するため、高いリオトロピック液晶状態を形成し、高次の分子配向状態を示すことができ、かつ1種類の色素でも通常黒色を示すことが可能である。従って、該アゾ色素を含有した異方性色素膜は、高い二色性を示す異方性色素膜として機能することができる。
【0107】
以下、本発明の前記式(4)で表されるアゾ色素について説明する。
<A
式(4)中、Aは、前記の(4−a)、(4−b)または(4−c)のいずれかの基を表す。 式中のR34は、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基を表すが、置換基を有していてもよいアルキル基(好ましくは炭素数1〜4のアルキル基)の具体例としては、メチル基、エチル基,n−プロピル基、1−ヒドロキシエチル基等が挙げられる。該アルキル基及び該フェニル基の置換基としては、メチル基、エチル基等のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、水酸基、ニトロ基、スルホ基、カルボキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、メチルアミノ基等のアミノ基、アミド基及びシアノ基等が挙げられる。
【0108】
また、(4−a)、(4−b)または(4−c)で表される基は、それぞれ更に置換基を有していてもよく、置換基としては、水酸基、スルホ基、カルボキシ基、メチル基などが挙げられる。好ましくは無置換またはスルホ基が置換していることであるが、最も好ましくは無置換である。
は、特に、以下の(4−a1)、(4−b1)、(4−c1)または(4−c2)のいずれかの基であることが、より良好な二色性を示すため好ましい。
【0109】
【化31】

【0110】
式中、R34は式(4)におけると同義である。(4−a1)、(4−b1)、(4−c1)または(4−c2)は、(4−a)、(4−b)または(4−c)と同様に更に置換基を有していてもよく、置換基としては、水酸基、スルホ基、カルボキシ基、メチル基などが挙げられる。好ましくは無置換またはスルホ基が置換していることであるが、最も好ましくは無置換である。
【0111】
<B
は、置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基またはヘテロ原子として窒素原子を含む2価の芳香族複素環基を表す。mが2の場合、一分子内に複数存在するBは、同一であっても異なっていてもよい。
芳香族炭化水素基として、具体的には、フェニレン基、ナフチレン基などの2価基が好ましい。
また、ヘテロ原子として窒素原子を含む2価の芳香族複素環基として、具体的には、キノリンジイル基、イソキノリンジイル基などの2価基が好ましい。特に、フェニレン基、ナフチレン基、キノリンジイル基が好ましい。
【0112】
該フェニレン基としては1,4−フェニレン基、該ナフチレン基としては1,4−ナフチレン基、該キノリンジイル基としては5,8−キノリンジイル基、該イソキノリンジイル基としては5,8−イソキノリンジイル基が色素どうしが相互作用を示すために好ましい。
該芳香族炭化水素基及び該芳香族複素環基が有していてもよい置換基としては、置換基を有していてもよいアルキル基(好ましくは炭素数1〜4のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、ヒドロキシエチル基、1,2−ジヒドロキシプロピル基等))、置換基を有していてもよいアルコキシ基(好ましくは炭素数1〜4のアルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、n−ブトキシ基、ヒドロキシエトキシ基、1,2−ジヒドロキシプロポキシ基等))、置換基を有していてもよいアシルアミノ基(好ましくは炭素数2〜7のアシルアミノ基(例えばアセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等))、水酸基、及びスルホ基などが挙げられる。
【0113】
また、これら置換基はさらに置換基を有していてもよく、上記置換基として例示した基が挙げられる。
特に、Bがフェニレン基である場合には、置換基としては、アルキル基、アルコキシ基またはアシルアミノ基等の極性の小さい基或いは水素結合性を有する基がリオトロピック液晶を形成する上での相互作用による会合性向上の点で好ましい。アルキル基、アルコキシ基またはアシルアミノ基の具体例や好ましい例は、上記芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基の置換基として記載したものと同様である。また、該アルキル基、アルコキシ基またはアシルアミノ基はそれぞれさらに置換基を有していてもよく、具体的には、上記芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基の置換基として例示した基が挙げられる。
【0114】
また、Bがナフチレン基である場合には、置換基としては、水酸基、スルホ基、またはアルコキシ基がリオトロピック液晶を形成する上での相互作用による会合性向上の点で好ましい。アルコキシ基の具体例や好ましい例は、上記芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基の置換基として記載したものと同様である。また、該アルコキシ基はさらに置換基を有していてもよく、具体的には、上記芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基の置換基として例示した基が挙げられ、特に好ましくは水酸基またはアルコキシ基である。
【0115】
また、Bがキノリンジイル基あるいはイソキノリンジイル基である場合には、置換基としてはナフチレン基と同様であり、特に好ましくは無置換またはカルボキシ基が置換していることである。
【0116】
<R及びR10
式(4)においてR及びR10は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基(好ましくは炭素数1〜4のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基等))、置換基を有していてもよいフェニル基または置換基を有していてもよいアシル基(例えば、アセチル基、ベンゾイル基)である。
【0117】
特に、R及びR10が水素原子であるアミノ基、Rが水素原子及びR10がアルキル基であるアルキルアミノ基、Rが水素原子及びR10がフェニル基であるアリールアミノ基などが好ましい。
特に好ましくは、R及びR10のいずれもが水素原子であることが挙げられる。
該アルキル基、該フェニル基及び該アシル基の有していてもよい置換基としては、水酸基、カルボキシ基、スルホ基が挙げられる。
【0118】
<nおよびm
は0または1を表し、nは、1または2を表す。本発明のアゾ色素は、通常ジスアゾ色素またはトリスアゾ色素である。
<式(4−A)>
本発明の式(4)で表される色素は、特に下記式(4−A)で表される色素であることが好ましい。
【0119】
【化32】

・・・・(4−A)
【0120】
式(4−A)中、Aは式(4)と同義である。
【0121】
<分子量>
式(4)で表される色素の分子量としては、遊離酸の形で、650以上が好ましく、1500以下が好ましく、1100以下がさらに好ましい。
式(4)で表される色素は、色素構造中、分子末端に水素結合性等を有する構造が特定されていることで、前記のように会合性が向上し、高いリオトロピック液晶状態を形成することができる。従って、式(4)で表される本発明の色素は、湿式成膜法により形成される異方性色素膜用の色素として適しており、またその二色比も高いので、該色素を含有する組成物を異方性色素膜に使用すれば、二色性の高い異方性色素膜を得ることが出来る

【0122】
また、式(4)で表される色素は、通常水溶性の色素である。
本発明は、遊離酸の形が下記式(6)で表されるアゾ色素を包含する。
【0123】
【化33】

・・・・・(6)
【0124】
[式(6)中、Aは、下記式(6−a)、(6−b)または(6−c)のいずれかの基を表す。該基は、置換基を有していてもよい。
【0125】
【化34】

【0126】
(式中、R35は、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基を表す。)
は、置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基またはヘテロ原子として窒素原子を含む2価の芳香族複素環基を表す。
15およびR16は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基または置換基を有していてもよいアシル基を表す。
は0または1を表し、nは1または2を表す。
なお、nが2の場合、1分子中に含まれる複数のBは、同一であっても異なっていてもよい。]
【0127】
上記式(6)において、Aは、下記式(6a−1)、(6−b1),(6−c1)または(6−c2)のいずれかの基であることが更に好ましい。該基は置換基を有していてもよい。
【0128】
【化35】

【0129】
(式中、R35は式(6)におけると同義である。)
式(6)におけるA、B、R15及びR16は、それぞれ上記式(4)におけるA、B、R及びR10と同義である。また、R35は、上記式(4)におけるR34と同義である。
本発明の上記式(4)及び(6)で表される色素の具体例としては、遊離酸の形として、例えば以下の(4−1)〜(4−23)、(4−26)、(4−29)〜(4−33)に示す構造の色素が挙げられるが、これに限定されるものではない。尚、(4−15)におけるC−nは、n−プロピル基を表す。
【0130】
【化36】

【0131】
【化37】

【0132】
【化38】

【0133】
【化39】

【0134】
【化40】

【0135】
【化41】

【0136】
式(4)で表されるアゾ色素は、それ自体周知の方法に従って製造することができる。例えばNo.(4−1)で示される色素は、下記(a4)、(b4)の工程で製造できる。
(a4)4−アミノフタルイミドと8−アミノ−2−ナフタレンスルフォン酸(1,7−Cleves 酸)とから常法[例えば、細田豊著「新染料化学」(昭和48年12月21日、技報堂発行)第396頁第409頁参照]に従って、ジアゾ化、カップリング工程を経てモノアゾ化合物を製造する。
(b4)得られたモノアゾ化合物を同様に、常法によりジアゾ化し、7−アミノ−1−ナフトール−3,6−ジスルホン酸(RR酸)とカップリング反応を行い塩化ナトリウムで塩析することにより目的の色素No.(4−1)が得られる。
【0137】
特に、前示構造式(4−A)で示される本発明の色素は、水溶液中でリオトロピック液晶を形成するため、高い二色性を示す異方性色素膜を作製可能であり、特に湿式成膜法に適した有用な色素である。
【0138】
<刺激純度>
前記式(I)、具体的には式(1)〜(5)で表される本発明の色素は、湿式成膜法により形成される異方性色素膜用の色素であり、黒色を示すものが好ましいが、中でも異方性色素膜用として刺激純度0%〜18%、好ましくは0〜12%の色素であることが特に好ましい。すなわち、刺激純度0%〜18%の色素を使用すれば、特に、異なる色素分子を混合することによる分子配向の乱れがなく、高い二色性を示すことができる。本発明においては、刺激純度0%以上、18%以下の色素であれば好ましいが、より好ましくは12%以下、更に好ましくは9%以下、最も好ましくは6%以下である。また、異方性色素膜も刺激純度が0%以上、18%以下であることが好ましく、より好ましくは12%以下、更に好ましくは9%以下、最も好ましくは6%以下である。
【0139】
ここで、刺激純度とは、色度図より標準の光の色度座標Nと求めた色素の色度座標Cを直線で結び、その延長のスペクトル軌跡との交点に対応する波長を主波長とし、各点の比率から算出する。色度座標Cは、水に色素を加えて色素水溶液とし、この水溶液の可視光透過率を分光光度計で測定し、CIE1964 XYZ表色系、D65標準光源下での色度xyを算出して得ることが出来る。
【0140】
本発明でいう色素の刺激純度とは、色素を水に加えて色素水溶液として測定、算出されたものをいい、異方性色素膜の刺激純度とは、異方性色素膜用組成物を基材に塗布して膜を形成させ、測定、算出されたものをいう。
また、その算出法としては、日本色彩学会編「新編 色彩科学ハンドブック」財団法人東京大学出版会、1989年11月25日(第2回改訂)発行、104頁〜105頁などに記載の公知の方法により求めることができる。
【0141】
本発明で使用される色素は前記式(I)、具体的には式(1)〜(4)並びに式(5)で示されるような遊離酸型のまま使用してもよく、酸基の一部が塩型を取っているものであってもよい。また、塩型の色素と遊離酸型の色素が混在していてもよい。また、製造時に塩型で得られた場合はそのまま使用してもよいし、所望の塩型に変換してもよい。塩型の交換方法としては、公知の方法を任意に用いることができ、例えば以下の方法が挙げられる。
【0142】
1) 塩型で得られた色素の水溶液に塩酸等の強酸を添加し、色素を遊離酸の形で酸析せしめたのち、所望の対イオンを有するアルカリ溶液(例えば水酸化リチウム水溶液)で色素酸性基を中和し塩交換する方法。
2) 塩型で得られた色素の水溶液に、所望の対イオンを有する大過剰の中性塩(例えば、塩化リチウム)を添加し、塩析ケーキの形で塩交換を行う方法。
3) 塩型で得られた色素の水溶液を、強酸性陽イオン交換樹脂で処理し、色素を遊離酸の形で酸析せしめたのち、所望の対イオンを有するアルカリ溶液(例えば水酸化リチウム水溶液)で色素酸性基を中和し塩交換する方法。
4) 予め所望の対イオンを有するアルカリ溶液(例えば水酸化リチウム水溶液)で処理した強酸性陽イオン交換樹脂に、塩型で得られた色素の水溶液を作用させ、塩交換を行う方法。
【0143】
また、本発明で使用される色素は、ここで、酸性基が遊離酸型をとるか、塩型を取るかは、色素のpKaと色素水溶液のpHに依存する。
上記の塩型の例としては、Na、Li、K等のアルカリ金属の塩、アルキル基もしくはヒドロキシアルキル基で置換されていてもよいアンモニウムの塩、又は有機アミンの塩が挙げられる。
【0144】
有機アミンの例として、炭素数1〜6の低級アルキルアミン、ヒドロキシ置換された炭素数1〜6の低級アルキルアミン、カルボキシ置換された炭素数1〜6の低級アルキルアミン等が挙げられる。これらの塩型の場合、その種類は1種類に限られず複数種混在していてもよい。
本発明の異方性色素膜用組成物は、式(I)、具体的には式(1)〜(4)、並びに式(5)で表される色素及び溶剤を含有する。組成物中において、これらの各式で表される色素を単独で使用できるが、各式に記載の色素同士、或いは異なった式で表される色素同士、更には配向を低下させない程度に他の色素と混合して用いることができる。これにより、各種の色相を有する異方性色素膜を製造することができる。
【0145】
配合用として好ましい色素の例としては、例えばC.I.Direct Yellow 12、C.I.Direct Yellow 34、C.I.Direct Yell
ow 86、C.I.Direct Yellow 142、C.I.Direct Yellow 132、C.I.Acid Yellow 25、C.I.Direct Orange 39、C.I.Direct Orange 72、C.I.Direct Orange 79、C.I.Acid Orange 28、C.I.Direct Red 39、C.I.Direct Red 79、C.I.Direct Re
d 81、C.I.Direct Red 83、C.I.Direct Red 89、C.I.Acid Red 37、C.I.Direct Violet 9、C.I.Direct Violet 35、C.I.Direct Violet 48、C.I.Direct Violet 57、C.I.Direct Blue 1、C.I.Direct Blue 67、C.I.Direct Blue 83、C.I.Direct Blue 90、C.I.Direct Green 42、C.I.Direct Green 51、C.I.Direct Green 59等が挙げられる。
【0146】
本発明の異方性色素膜用組成物に使用される溶剤としては、水、水混和性のある有機溶剤、或いはこれらの混合物が適している。有機溶剤の具体例としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のセロソルブ類等の単独又は二種以上の混合溶剤が挙げられる。
【0147】
色素を溶解する場合の濃度としては、色素の溶解性やリオトロピック液晶状態などの会合状態の形成濃度にも依存するが、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上、好ましくは30重量%以下、より好ましくは25重量%以下、特に好ましくは20重量%以下である。
また、本発明の異方性色素膜用組成物は、基材への濡れ性、塗布性を向上させるため、必要に応じて界面活性剤等の添加剤を加えることができる。界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系のいずれも使用可能である。その添加濃度は通常0.05重量%以上、0.5重量%以下が好ましい。
【0148】
本発明の異方性色素膜は、前記式(I)、具体的には式(1)〜(4)、並びに式(5)で表される本発明の色素を含有する、湿式製膜法で形成された異方性色素膜である。通常、本発明の異方性色素膜は、前記本発明の異方性色素膜用組成物を用い基板上に湿式製膜法により形成することにより得られる。
上記説明した様に、前記式(I)、式(1)〜(5)で表されるアゾ色素は、特定の色素構造を有するため高いリオトロピック液晶状態を形成し、高次の分子配向状態を示すことができ、高い二色性を示すことができる。従って、本発明の異方性色素膜は、高い二色性を示す有用な色素膜である。
【0149】
本発明の異方性色素膜は高い二色比を示すが、二色比は9以上のものが好ましく、より好ましくは12以上、特に好ましくは15以上のものが使用される。
本発明の異方性色素膜として、遊離酸の形が下記式(5)で表される色素を含有する、湿式成膜法で形成される異方性色素膜であって、二色比が40以上である異方性色素膜を挙げることができる。
【0150】
【化42】

・・・・・(5)
【0151】
[式中、A12は、置換基を有していても芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。
12は、置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい2価の芳香族複素環基を表す。
13及びR14は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよいフェニル基を表す。
は0または1を表す。n1は1または2を表す。
なお、n1が2の場合、1分子中に含まれる複数のB12は、同一であっても異なっていてもよい。]
【0152】
<A12
式(5)中、A12は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表すが、該芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられ、芳香族複素環基としては、ヘテロ原子として窒素原子、硫黄原子を含有する芳香族複素環基、例えばピリジル基、キノリル基、チアゾリル基、ベンゾチアゾリル基、フタルイミドイル基、キノロニル基などが挙げられる。
【0153】
これらの基が有し得る置換基としては、色素の溶解性を高めるために導入される親水性基や色調を調節するために導入される電子供与性基や電子吸引性を有する基が好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、ヒドロキシエチル基、1,2−ジヒドロキシプロピル基等の置換されていてもよいアルキル基(好ましくは、炭素数1〜4のアルキル基);メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、n−ブトキシ基、ヒドロキシエトキシ基、1,2−ジヒドロキシプロポキシ基等の置換されていてもよいアルコキシ基(好ましくは、炭素数1〜4のアルコキシ基)が挙げられる。
【0154】
また、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、ジメチルアミノ基等のアルキルアミノ基(好ましくは炭素数1〜4のアルキル基で置換されたアミノ基);フェニルアミノ基;アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等のアシルアミノ基(好ましくは炭素数2〜7のアシル基で置換されたアミノ基)等の置換されていてもよいアミノ基;フェニルアミノカルボニル基、ナフチルアミノカルボニル基等の置換カルバモイル基;カルボキシ基、スルホ基、水酸基、シアノ基及びハロゲン原子等が挙げられる。これらの置換基のうち、好ましくはスルホ基、水酸基、カルボキシ基、シアノ基、カルバモイル基、メトキシ基、メチル基、塩素原子である。
上記アルキル基、アルコキシ基、フェニル基及びナフチル基は、更に置換基を有していてもよく、置換基としては水酸基、スルホ基、アルコキシ基などが挙げられる。
【0155】
<B12
12は、置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい2価の芳香族複素環基を表すが、該2価の芳香族炭化水素基としては、フェニレン基、ナフチレン基等が挙げられ、また2価の芳香族複素環基としては、ヘテロ原子として窒素原子を含む芳香族複素環基、例えばキノリンジイル基、イソキノリンジイル基などが挙げられる。これらの基が有し得る置換基としては、上記A12で表される基が有し得る置換基と同種の基が挙げられる。
【0156】
<R13及びR14
13及びR14は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基(好ましくは炭素数1〜4のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基等))、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよいアシル基(例えば、アセチル基、ベンゾイル基等)である。
【0157】
特に、R13及びR14が水素原子であるアミノ基、R13が水素原子及びR14がアルキル基であるアルキルアミノ基、R13が水素原子及びR14がフェニル基であるアリールアミノ基などが好ましい。該アルキル基及び該フェニル基の有していてもよい置換基としては、水酸基、カルボキシ基、スルホ基が挙げられる。
また、式(5)で表される色素の具体例としては、上記式(1)〜(4)の具体例として例示したものが挙げられる。
【0158】
本発明における湿式成膜法による異方性色素膜の作製には、前記異方性色素膜用組成物を調製後、ガラス板などの各種基材に塗布し、色素を配向、積層して得る方法など公知の方法が採用される。
具体的に、湿式成膜法としては、原崎勇次著 「コーティング工学」 株式会社朝倉書店、1971年3月20日発行、253頁から277頁や市村國宏監修「分子協調材料の創製と応用」株式会社シーエムシー出版、1998年3月3日発行、118頁から149頁などに記載の公知の方法や、例えば、あらかじめ配向処理を施した基材上に、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ロールコート法、ブレードコート法、フリースパンコート法、ダイコート法などで塗布することが挙げられる。
【0159】
塗布時の温度は、好ましくは0℃以上、80℃以下、湿度は好ましくは10%RH以上、80%RH以下程度である。乾燥時の温度は好ましくは0℃以上、120℃以下、湿度は好ましくは10%RH以上、80%RH以下程度である。
本発明に使用される基材として、ガラスやトリアセテート、アクリル、ポリエステル、トリアセチルセルロース又はウレタン系のフィルム等が挙げられる。また、この基材表面には、二色性色素の配向方向を制御するために、「液晶便覧」 丸善株式会社、平成12年10月30日発行、226頁から239頁などに記載の公知の方法により、配向処理層を施していてもよい。
【0160】
このような方法で製造された異方性色素膜は機械的強度が低い場合もあるので、必要に応じ、保護層を設けて使用する。この保護層は、例えば、トリアセテート、アクリル、ポリエステル、ポリイミド、トリアセチルセルロース又はウレタン系のフィルム等の透明な高分子膜によりラミネーションして形成され、実用に供する。
また、本発明の異方性色素膜をLCDやOLEDなどの各種の表示素子に偏光フィルター等として用いる場合には、これらの表示素子を構成する電極基板などに直接色素膜を形成したり、色素膜を形成した基材をこれら表示素子の構成部材に用いることができる。
【0161】
前記の方法等で基材上に異方性色素膜を形成する場合、通常乾燥後の膜厚で、好ましくは50nm以上、更に好ましくは100nm以上、好ましくは50μm以下、更に好ましくは1μm以下である。
本発明の異方性色素膜は、光吸収の異方性を利用し直線偏光、円偏光、楕円偏光等を得る偏光膜として機能する他、膜形成プロセスと基材や色素を含有する組成物の選択により、屈折異方性や伝導異方性などの各種異方性膜として機能化が可能となり、様々な種類の、多様な用途に使用可能な偏光素子とすることができる。
【0162】
本発明の異方性色素膜を基材上に形成し偏光素子として使用する場合、形成された異方性色素膜そのものを使用してもよく、また上記の様な保護層のほか、粘着層或いは反射防止層、配向膜、位相差フィルムとしての機能、輝度向上フィルムとしての機能、反射フィルムとしての機能、半透過反射フィルムとしての機能、拡散フィルムとしての機能、光学補償フィルムとしての機能などの光学機能をもつ層など、様々な機能をもつ層を湿式成膜法などにより積層形成し、積層体として使用してもよい。
【0163】
これら光学機能を有する層は、例えば以下の様な方法により形成することが出来る。
位相差フィルムとしての機能を有する層は、例えば、特許第2841377号公報、特許第3094113号公報などに記載の延伸処理を施したり、特許第3168850号公報などに記載された処理を施したりすることによって形成することができる。
また、輝度向上フィルムとしての機能を有する層は、例えば特開2002−169025号公報や特開2003−29030号公報に記載されているような方法で微細孔を形成すること、或いは、選択反射の中心波長が異なる2層以上のコレステリック液晶層を重畳することにより形成することができる。
【0164】
反射フィルム又は半透過反射フィルムとしての機能を有する層は、蒸着やスパッタリングなどで得られた金属薄膜を用いて形成することができる。
拡散フィルムとしての機能を有する層は、上記の保護層に微粒子を含む樹脂溶液をコーティングすることにより、形成することができる。
また、位相差フィルムや光学補償フィルムとしての機能を有する層は、ディスコティック液晶性化合物などの液晶性化合物をコーティングして配向させることにより形成することができる。
【実施例】
【0165】
次に、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
尚、以下の実施例中、異方性色素膜の光学特性に関する測定は下記の通り実施した。
<二色比>
二色比は、ヨウ素系偏光素子を入射光学系に配した分光光度計で異方性色素膜の透過率を測定した後、次式により計算した。
二色比(D)=Az/Ay
Az=−log(Tz)
Ay=−log(Ty)
Tz:色素膜の吸収軸方向の偏光に対する透過率
Ty:色素膜の偏光軸方向の偏光に対する透過率
【0166】
<色度>
異方性色素膜の色度xy(CIE1964 XYZ表色系、D65標準光源下)は、無偏光の入射光学系における透過率(単体透過率:Ts)を分光光度計で測定した後、JIS−Z−8701の方法に導入して計算した。
【0167】
<消光性>
異方性色素膜の消光性は、異方性色素膜2枚を直交配置(各々の偏光軸が90度となるよう重ね合わせた)時の透過率(T直交)を分光光度計で測定した後、JIS−Z−8701−1995(CIE1964 XYZ表色系、D65標準光源下)に測定結果を導入して、明度(Y値)として算出した。
【0168】
(実施例1)
水74部に色素No.(1−1)のリチウム塩を26部加え、撹拌溶解後濾過してpH7の色素水溶液(異方性色素膜用組成物)を得た。
一方、基材としてガラス基板上にスピンコート法によりポリイミドの配向膜が形成されたガラス製基板(75mm×25mm、厚さ1.1mm、ポリイミド膜厚約800Åのポリイミド配向膜をあらかじめ布でラビング処理を施したもの)を用意しておき、これに前記色素水溶液をギャップ10μmのアプリケーター(井元製作所社製)で塗布した後、自然乾燥することにより異方性色素膜を得た。
【0169】
得られた異方性色素膜における色素膜面内の吸収軸方向に振動面を有する偏光に対する透過光(Tz)、および色素膜面内の偏光軸方向に振動面を有する偏光に対する透過光(Ty)とから求めた二色比(D)、および極大吸収波長(λmax)を表1に示す。偏光膜として充分機能し得る高い二色比(光吸収異方性)を有していた。
【0170】
(実施例2)
水63部に色素No.(1−2)のリチウム塩を37部加え、撹拌溶解後濾過してpH7の色素水溶液(異方性色素膜用色素組成物)を得た。
実施例1と同様の基板に前記色素水溶液をギャップ2μmのアプリケーター(井元製作所社製)で塗布した後、自然乾燥することにより異方性色素膜を得た。
得られた異方性色素膜の極大吸収波長(λmax)、二色比(D)を表1に示す。得られた異方性色素膜は偏光膜として充分機能し得る高い二色比を有する異方性色素膜であった

【0171】
(実施例3)
水82部に色素No.(1−5)のナトリウム塩18部を加え、撹拌溶解後濾過してpH7の異方性色素膜用組成物を得た。このものを実施例1と同様の条件で塗布した後、自然乾燥することにより異方性色素膜を得た。得られた異方性色素膜の極大吸収波長(λmax)、二色比(D)を表1に示す。得られた異方性色素膜は偏光膜として充分機能し得る高い二色比を有する異方性色素膜であった。
【0172】
(実施例4)
水80部に色素No.(1−18)のナトリウム塩を20部加え、撹拌溶解後濾過してpH7の異方性色素膜用組成物を得た。このものを実施例1と同様の条件で塗布した後、自然乾燥することにより異方性色素膜を得た。得られた異方性色素膜の色度xy(XYZ表色系)、極大吸収波長(λmax)、二色比(D)を表1に示す。得られた異方性色素膜は偏光膜として充分機能し得る高い二色比を有する異方性色素膜であった。
【0173】
(実施例5)
水83部に色素No.(1−4)のナトリウム塩を17部加え、撹拌溶解後濾過してpH7の異方性色素膜用組成物を得た。実施例1と同様の条件で塗布する事により異方性色素膜を得た。得られた異方性色素膜の極大吸収波長(λmax)、二色比(D)を表1に示す。得られた異方性色素膜は偏光膜として充分機能し得る高い二色比を有する異方性色素膜であった。
【0174】
(実施例6)
水99.9部に色素No.(1−1)のナトリウム塩を0.1部加え、攪拌溶解後濾過して色素水溶液を得た。この水溶液を光路長0.1mmの石英製角セル(キュベット)に注入した。このキュベットに注入した色素水溶液および実施例1で得られた異方性色素膜の可視光透過率(単体透過率:Ts)を各々分光光度計で測定し、CIE1964 XYZ表色系、D65標準光源下での色度xyを算出した。
さらに、色度図よりD65標準光源の色度座標Nと求めた色素水溶液の色度座標C1および異方性色素膜の色度座標C2を各々直線で結び、その延長のスペクトル軌跡との交点に対応する波長を主波長とし、各点の比率から色素水溶液の刺激純度(pe1)および異方性色素膜の刺激純度(pe2)を算出した。色素水溶液の刺激純度および異方性色素膜の刺激純度を表2に示す。
【0175】
本実施例の色素(色素水溶液)の刺激純度は12%以下であった。また、この色素を用いて作成された異方性色素膜の刺激純度もまた12%以下であり、低彩度無彩色の異方性色素膜として有用であった。
【0176】
(実施例7)
実施例2から実施例5において用いた色素および実施例2から実施例5で得られた異方性色素膜の刺激純度を実施例6と同様な方法により測定、算出した。各々の色素水溶液の刺激純度および異方性色素膜の刺激純度を表2に示す。
本実施例の色素(色素水溶液)の刺激純度は12%以下であった。また、この色素を用いて作成された異方性色素膜の刺激純度もまた12%以下であり、低彩度無彩色の異方性色素膜として有用であった。
【0177】
【表1】

【0178】
【表2】

【0179】
(比較例1)
水57部に下記(II−1)のナトリウム塩43部を加え、撹拌溶解後濾過してpH7の異方性色素膜用組成物を得た。このものを実施例2と同様の方法で塗布した後、自然乾燥することにより異方性色素膜を得た。得られた色素膜について、実施例1と同様にして各種試験を行った。結果を表3に示す。得られた色素膜の二色比(吸収異方性)は4であり、充分な異方性を示さなかった。
【0180】
【化43】

【0181】
(比較例2)
比較例1における色素(II−1)の代わりに、色素(II−2)のナトリウム塩を使用した以外は同様にして異方性色素膜用組成物を作成し、同様の基板に同様の条件で塗布を行い色素膜を得た。
得られた色素膜について、実施例1と同様にして各種試験を行った。その結果を表3に示す。得られた色素膜の二色比(吸収異方性)は2以下であり、充分な異方性を示さなかった。
【0182】
【化44】

【0183】
(比較例3)
水90部に、色素(II−3)のナトリウム塩を10部加え、撹拌溶解後濾過してpH7の異方性色素膜用組成物を得た。実施例1同様の基板にNo.3のバーコーター(テスター産業社製)で塗布を行い色素膜を得た。
得られた色素膜について、実施例1と同様にして各種試験を行った。結果を表3に示す。得られた色素膜の二色比(吸収異方性)は2であり、充分な異方性を示さなかった。
【0184】
【化45】

【0185】
【表3】

【0186】
(実施例7)
水82部に色素No.3−30(例示化合物(3−30))のリチウム塩を18部加え、撹拌溶解後濾過してpH7の色素水溶液(異方性色素膜用組成物)を得た。
一方、実施例1と同様の基板を用意しておき、これに前記色素水溶液をギャップ10μmのアプリケーター(井元製作所社製)で塗布した後、自然乾燥することにより異方性色素膜を得た。
【0187】
得られた異方性色素膜における色素膜面内の吸収軸方向に振動面を有する偏光に対する透過光(Tz)および色素膜面内の偏光軸方向に振動面を有する偏光に対する透過光(Ty)を測定し、それから二色比(D)を計算した。本実施例1の異方性色素膜の二色比は18.2(705nm)と偏光膜として充分機能し得る高い二色比(光吸収異方性)を有していた。
【0188】
さらに、上記と同様にして得た異方性色素膜付き基材を2枚用意し、直交配置となるように重ね合わせて直交透過率(T直交)を測定したのち、明度(Y値)を算出した。直交配置時の明度は0.086と非常に小さく、遮光性に富んでおり消光性の高い偏光膜として機能することが確認された。
(実施例8)
水80部に色素No.(3−27)(例示化合物(3−27))のリチウム塩を20部加え、撹拌溶解後濾過してpH7の色素水溶液(異方性色素膜用組成物)を得た。
【0189】
実施例1と同様の基板に前記色素水溶液を同様な方法で塗布した後、自然乾燥することにより異方性色素膜を得た。
得られた異方性色素膜の透過光(Tz)及び(Ty)の測定値から算出した、二色比(D)は51.6(695nm)であり、偏光膜として充分機能し得る高い二色比を有する異方性色素膜であった。
【0190】
さらに、実施例7と同様な方法により直交透過率(T直交)を測定した後、直交配置時の明度を算出した結果、0.296と非常に小さく、遮光性に富んでおり消光性の高い偏光膜として機能することが確認された。
(実施例9)
水90部に上記色素No.(3−30)のナトリウム塩を10部加え、攪拌溶解後濾過して色素水溶液を得た。この水溶液を光路長0.01mmの石英製角セル(キュベット)に注入した。このキュベットに注入した色素水溶液の可視光透過率を分光光度計で測定し、色素濃度10重量%時の最大吸収波長におけるモル吸光係数(ε)を算出した。また、上記色素No.3−27のナトリウム塩についても同様な方法により、色素濃度10重量%時のモル吸光係数(ε)を算出した。
【0191】
次に、水99.9部に色素No.(3−30)のナトリウム塩を0.1部加え、攪拌溶解後濾過して色素水溶液を得た。この水溶液を光路長0.1mmのキュベットに注入した。このキュベットに注入した色素水溶液の可視光透過率を分光光度計で測定し、色素濃度1000ppm時のモル吸光係数(ε)を算出し、色素No.3−27のナトリウム塩についても同様な方法により1000ppm時のモル吸光係数(ε)を算出した。
【0192】
さらに、水99.999部に色素No.(3−30)のナトリウム塩を0.001部加え、攪拌溶解後濾過して色素水溶液を得た。この水溶液を光路長10mmのキュベットに注入した。このキュベットに注入した色素水溶液の可視光透過率を分光光度計で測定し、色素濃度10ppm時のモル吸光係数(ε)を算出し、色素No.3−27のナトリウム塩についても同様な方法により10ppm時のモル吸光係数(ε)を算出した。
【0193】
以上の結果から、溶液中の色素濃度とモル吸光係数との関係を表4及び図1に示す。本発明の異方性色素膜用色素は、溶液(組成物)中における色素濃度の上昇に伴う淡色化(モル吸光係数の低下)が小さく、塗布乾燥により得られた色素膜の遮光性も高いことが確認された。
【0194】
【表4】

【0195】
(実施例10)
水99.9部に上記色素No.(3−30)のリチウム塩を0.1部加え、攪拌溶解後濾過して色素水溶液を得た。この水溶液を光路長0.1mmの石英製角セル(キュベット)に注入した。このキュベットに注入した色素水溶液および実施例7で得られた異方性色素膜の可視光透過率(単体透過率:Ts)を各々分光光度計で測定し、CIE1964 XYZ表色系、D65標準光源下での色度xyを算出した。
【0196】
さらに、色度図よりD65標準光源の色度座標Nと求めた色素水溶液の色度座標C1および異方性色素膜の色度座標C2を各々直線で結び、その延長のスペクトル軌跡との交点に対応する波長を主波長とし、各点の比率から色素水溶液の刺激純度(pe1)および異方性色素膜の刺激純度(pe2)を算出した。色素水溶液の刺激純度および異方性色素膜の刺激純度を表5に示す。
【0197】
本実施例の色素(色素水溶液)の刺激純度は12%以下であった。また、この色素を用いて作成された異方性色素膜の刺激純度もまた12%以下であり、低彩度無彩色の異方性色素膜として有用であった。
【0198】
(実施例11)
実施例8において用いた色素および実施例8で得られた異方性色素膜の刺激純度を実施例10と同様な方法により測定、算出した。色素水溶液の刺激純度および異方性色素膜の刺激純度を表5に示す。本実施例の色素(色素水溶液)の刺激純度は12%以下であった。また、この色素を用いて作成された異方性色素膜の刺激純度は16%であり、低彩度無彩色の異方性色素膜として有用であった。また、この異方性色素膜は、偏光膜として充分機能し得る高い二色比を有していた。
【0199】
【表5】

【0200】
(実施例12)
水82部に色素No.(4−1)のリチウム塩を18部加え、撹拌溶解後濾過してpH7の色素水溶液(異方性色素膜用組成物)を得た。
一方、実施例1と同様の基板を用意しておき、これに前記色素水溶液をギャップ10μmのアプリケーター(井元製作所社製)で塗布した後、自然乾燥することにより異方性色素膜を得た。
得られた異方性色素膜における色素膜面内の吸収軸方向に振動面を有する偏光に対する透過光(Tz)、および色素膜面内の偏光軸方向に振動面を有する偏光に対する透過光(Ty)とから求めたその二色比(D)、および極大吸収波長(λmax)を表6に示す。偏 光膜として充分機能し得る高い二色比(光吸収異方性)を有していた。
【0201】
(実施例13)
水86部に色素No.(4−2)のリチウム塩を14部加え、撹拌溶解後濾過してpH7の色素水溶液(異方性色素膜用組成物)を得た。
このものを実施例12と同様の条件で塗布した後、自然乾燥することにより異方性色素膜を得た。
得られた異方性色素膜の極大吸収波長(λmax)、及び二色比(D)を表6に示す。得られた異方性色素膜は偏光膜として充分機能し得る高い二色比を有する異方性色素膜であった。
【0202】
(実施例14)
水90部に色素No.(4−3)のリチウム塩10部を加え、撹拌溶解後濾過してpH7の異方性色素膜用組成物を得た。
【0203】
実施例1と同様の基板に該色素水溶液をギャップ20μmのアプリケーター(井元製作所社製)で塗布した後、自然乾燥することにより異方性色素膜を得た。得られた異方性色素膜の極大吸収波長(λmax)、および二色比(D)を表6に示す。得られた異方性色素膜は偏光膜として充分機能し得る高い二色比を有する異方性色素膜であった。
【0204】
(実施例15)
水88部に色素No.(4−5)のリチウム塩12部を加え、撹拌溶解後濾過してpH7の異方性色素膜用組成物を得た。
このものを実施例12と同様の条件で塗布した後、自然乾燥することにより異方性色素膜を得た。得られた異方性色素膜の極大吸収波長(λmax)、および二色比(D)を表6に示す。得られた異方性色素膜は偏光膜として充分機能し得る高い二色比を有する異方性色素膜であった。
【0205】
(実施例16)
水80部に上記色素No.(4−1)のリチウム塩を10部と上記色素No.(4−2)のリチウム塩を10部加え、撹拌溶解後濾過してpH7の異方性色素膜用組成物を得た。
実施例1と同様の基板に前記色素水溶液をギャップ20μmのアプリケーター(井元製作所社製)で塗布した後、自然乾燥することにより異方性色素膜を得た。得られた異方性色素膜の極大吸収波長(λmax)、および二色比(D)を表6に示す。得られた異方性色素膜は偏光膜として充分機能し得る高い二色比を有する異方性色素膜であった。
【0206】
(実施例17)
水99.9部に上記色素No.(4−1)のリチウム塩を0.1部加え、攪拌溶解後濾過して色素水溶液を得た。この水溶液を光路長0.1mmの石英製角セル(キュベット)に注入した。このキュベットに注入した色素水溶液および実施例12で得られた異方性色素膜の可視光透過率(単体透過率:Ts)を各々分光光度計で測定し、CIE1964 XYZ表色系、D65標準光源下での色度xyを算出した。
さらに、色度図よりD65標準光源の色度座標Nと求めた色素水溶液の色度座標C1および異方性色素膜の色度座標C2を各々直線で結び、その延長のスペクトル軌跡との交点に対応する波長を主波長とし、各点の比率から色素水溶液の刺激純度(pe1)および異方性色素膜の刺激純度(pe2)を算出した。色素水溶液の刺激純度および異方性色素膜の刺激純度を表7に示す。
【0207】
本実施例の色素(色素水溶液)の刺激純度は12%以下であった。また、この色素を用いて作成された異方性色素膜の刺激純度もまた12%以下であり、低彩度無彩色の異方性色素膜として有用であった。
【0208】
(実施例18)
実施例13において用いた色素および実施例13で得られた異方性色素膜の刺激純度を実施例17と同様な方法により測定、算出した。色素水溶液の刺激純度および異方性色素膜の刺激純度を表7に示す。
【0209】
(実施例19)
実施例14において用いた色素および実施例14で得られた異方性色素膜の刺激純度を実施例17と同様な方法により測定、算出した。色素水溶液の刺激純度および異方性色素膜の刺激純度を表7に示す。
【0210】
(実施例20)
実施例15において用いた色素および実施例15で得られた異方性色素膜の刺激純度を実施例17と同様な方法により測定、算出した。色素水溶液の刺激純度および異方性色素膜の刺激純度を表7に示す。
【0211】
(実施例21)
実施例16で得られた異方性色素膜の刺激純度を実施例17と同様な方法により測定、算出した。異方性色素膜の刺激純度を表7に示す。
実施例18〜20の色素(色素水溶液)の刺激純度は12%以下であった。また、この色素を用いて作成された異方性色素膜の刺激純度及び実施例16で得られた異方性色素膜の刺激純度もまた12%以下であり、いずれも低彩度無彩色の異方性色素膜として有用であることがわかった。
【0212】
【表6】

【0213】
【表7】

【0214】
(実施例22)
水94部に色素No.(4−22)のリチウム塩を6部加え、撹拌溶解後濾過してpH7の色素水溶液(異方性色素膜用組成物)を得た。
一方、実施例1と同様の基板を用意しておき、これに前記色素水溶液をギャップ30μmのアプリケーター(井元製作所社製)で塗布した後、自然乾燥することにより異方性色素膜を得た。
得られた異方性色素膜における色素膜面内の吸収軸方向に振動面を有する偏光に対する透過光(Tz)、および色素膜面内の偏光軸方向に振動面を有する偏光に対する透過光(Ty)とから求めたその二色比(D)、および極大吸収波長(λmax)を表8に示す。偏光膜として充分機能し得る高い二色比(光吸収異方性)を有していた。
【0215】
(実施例23)
水75部に色素No.(3−45)のリチウム塩を25部加え、撹拌溶解後濾過してpH7の色素水溶液(異方性色素膜用組成物)を得た。
一方、実施例1と同様の基板を用意しておき、これに前記色素水溶液をギャップ5μmのアプリケーター(井元製作所社製)で塗布した後、自然乾燥することにより異方性色素膜を得た。
得られた異方性色素膜の極大吸収波長(λmax)、及び二色比(D)を表8に示す。得られた異方性色素膜は偏光膜として充分機能し得る高い二色比を有する異方性色素膜であった。
【0216】
(実施例24)
水84部に色素No.(3−35)のリチウム塩を16部加え、撹拌溶解後濾過してpH7の色素水溶液(異方性色素膜用組成物)を得た。
【0217】
一方、実施例1と同様の基板に前記色素水溶液をギャップ10μmのアプリケーター(井元製作所社製)で塗布した後、自然乾燥することにより異方性色素膜を得た。
得られた異方性色素膜の極大吸収波長(λmax)、及び二色比(D)を表8に示す。得られた異方性色素膜は偏光膜として充分機能し得る高い二色比を有する異方性色素膜であった。
【0218】
(実施例25)
水87部に色素No.(3−32)のリチウム塩を13部加え、撹拌溶解後濾過してpH7の色素水溶液(異方性色素膜用組成物)を得た。
実施例1と同様の基板に前記色素水溶液をバーコーター(テスター産業(株)製 No.2)で塗布した後、自然乾燥することにより異方性色素膜を得た。
得られた異方性色素膜の極大吸収波長(λmax)、及び二色比(D)を表8に示す。得られた異方性色素膜は偏光膜として充分機能し得る高い二色比を有する異方性色素膜であった。
【0219】
(実施例26)
水86部に色素No.(1−22)のリチウム塩を14部加え、撹拌溶解後濾過してpH7の色素水溶液(異方性色素膜用組成物)を得た。
実施例1と同様の基板にこれに前記色素水溶液をギャップ10μmのアプリケーター(井元製作所社製)で塗布した後、自然乾燥することにより異方性色素膜を得た。
得られた異方性色素膜の極大吸収波長(λmax)、及び二色比(D)を表8に示す。得られた異方性色素膜は偏光膜として充分機能し得る高い二色比を有する異方性色素膜であった。
【0220】
(実施例27)
水78部に色素No.(4−24)のリチウム塩を22部加え、撹拌溶解後濾過してpH7の色素水溶液(異方性色素膜用組成物)を得た。
スライドガラス(松浪硝子工業製 スライドグラス白縁磨フロストNo.1)に、前記色素水溶液をギャップ10μmのアプリケーター(井元製作所社製)で塗布した後、自然乾燥することにより異方性色素膜を得た。
得られた異方性色素膜の極大吸収波長(λmax)、及び二色比(D)を表8に示す。得られた異方性色素膜は偏光膜として充分機能し得る高い二色比を有する異方性色素膜であった。
【0221】
【表8】

【0222】
(実施例28)
水99.9部に上記色素No.(4−22)のリチウム塩を0.1部加え、攪拌溶解後濾過して色素水溶液を得た。この水溶液を光路長0.1mmの石英製角セル(キュベット)に注入した。このキュベットに注入した色素水溶液および実施例22で得られた異方性色素膜の可視光透過率(単体透過率:Ts)を各々分光光度計で測定し、CIE1964 XYZ表色系、D65標準光源下での色度xyを算出した。
【0223】
さらに、色度図よりD65標準光源の色度座標Nと求めた色素水溶液の色度座標C1および異方性色素膜の色度座標C2を各々直線で結び、その延長のスペクトル軌跡との交点に対応する波長を主波長とし、各点の比率から色素水溶液の刺激純度(pe1)および異方性色素膜の刺激純度(pe2)を算出した。色素水溶液の刺激純度および異方性色素膜の刺激純度を表9に示す。
【0224】
本実施例の色素(色素水溶液)の刺激純度は12%以下であった。また、この色素を用いて作成された異方性色素膜の刺激純度もまた12%以下であり、低彩度無彩色の異方性色素膜として有用であった。
【0225】
(実施例29)
実施例23〜27において用いた色素および実施例23〜27で得られた異方性色素膜の刺激純度を実施例28と同様な方法により測定、算出した。色素水溶液の刺激純度および異方性色素膜の刺激純度を表9に示す。本実施例の色素(色素水溶液)の刺激純度は12%以下であった。また、この色素を用いて作成された異方性色素膜の刺激純度もまた12%以下であり、いずれも低彩度無彩色の異方性色素膜として有用であることがわかった。
【0226】
【表9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊離酸の形が下記式(6)で表されることを特徴とするアゾ色素。
【化1】

・・・・・(6)
[式中、Aは、下記式(6−a)、(6−b)または(6−c)のいずれかの基を表す
。該基は置換基を有していてもよい。
【化2】

(式中、R35は、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基を表す。)
は、置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基またはヘテロ原子として窒素原子を含む2価の芳香族複素環基を表す。
15およびR16は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基または置換基を有していてもよいアシル基を表す。
は0または1を表し、nは1または2を表す。
なお、nが2の場合、1分子中に含まれる複数のBは、同一であっても異なっていてもよい。]
【請求項2】
上記式(6)中、Aが下記式(6−a1)、(6−b1)、(6−c1)または(6−c2)のいずれかの基であることを特徴とする、請求項1に記載のアゾ色素。
【化3】

(該基は、置換基を有していてもよい。また、式中、R35は、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基を表す。)
【請求項3】
前記式(6)で表されるアゾ色素が水溶性であることを特徴とする、請求項1または2に記載のアゾ色素。



















【図1】
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【公開番号】特開2012−177122(P2012−177122A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−89848(P2012−89848)
【出願日】平成24年4月11日(2012.4.11)
【分割の表示】特願2006−84605(P2006−84605)の分割
【原出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】