説明

アニオン交換体およびその製造方法

【課題】高性能のアニオン交換体、及びこの高性能のアニオン交換体を効率的に製造する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、MgAl系のアニオン交換体であって、モル比でアルミニウムの割合がマグネシウムの割合より大きいアニオン交換体である。このアニオン交換体は、固体のマグネシウム塩と固体のアルミナ水和物とを、固−固系で反応させることにより製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アニオン交換体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工場又は家庭から排出される排水中のリン酸、硝酸などのアニオンは、河川、湖沼、海水等の富栄養化の原因となり、環境破壊を引き起すことから、これを除去又は回収する技術を開発することが求められている。
【0003】
これまでにアニオン交換体として、マグネシウム−アルミニウム系の層状複水酸化物(Layered double hydroxides; LDH)(特許文献1及び2)が知られている。これは、例えば塩化マグネシウム及び塩化アルミニウムとアルカリ(例えば水酸化ナトリウム)の溶液とを混合し、必要に応じて加熱して製造される。この反応は沈殿反応であるため、pHのコントロールが得られるアニオン交換体の性能に影響する。よって、塩化マグネシウム及び塩化アルミニウムの混合溶液とアルカリ溶液とを徐々に混合してpHを調整しながら製造する必要があった。このように、上記の製造方法は操作が煩雑で時間がかかるため、より簡便な製造法が求められていた。
【0004】
一方、塩基性で固体のマグネシウム含有化合物(例えば、酸化マグネシウム)と酸性で固体または液体のアルミニウム含有化合物(例えば、塩化アルミニウム)を固−固系、または固−液系で混合することによってアニオン交換体を製造する方法が知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭58-214338号公報
【特許文献2】特開2000-290012号公報
【特許文献3】特開2007-253030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高性能のアニオン交換体、及びこの高性能のアニオン交換体を効率的に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に鑑み検討を重ねた結果、固体のマグネシウム塩と、固体のアルミナ水和物を固−固系で反応することで、pHを調整しなくても高性能のアニオン交換体が得られることを見出した。
【0008】
本発明は、以下のアニオン交換体及びその製造方法を提供するものである。
1. MgAl系のアニオン交換体であって、モル比でアルミニウムの割合がマグネシウムの割合より大きいアニオン交換体。
2. MgAl系のアニオン交換体であって、マグネシウムとアルミニウムとの割合が、モル比で、Mg:Al=1:4である、アニオン交換体。
3. 上記項1又は2に記載のMgAl系のアニオン交換体の製造方法であって、固体のマグネシウム塩と固体のアルミナ水和物とを、固−固系で反応させることを特徴とする、アニオン交換体の製造方法。
4. 前記マグネシウム塩が、塩化マグネシウム六水和物であり、前記アルミナ水和物が、ギブサイト(γ−Al(OH))である、上記項3に記載のアニオン交換体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高性能のMgAl系のアニオン交換体を簡便に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】(a)原料(ギブサイト)及び(b)アニオン交換体のX線回折図である。
【図2】(a)原料(ギブサイト)及び(b)アニオン交換体の走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】(a)臭化物イオン(●)、(b)リン酸二水素イオン(■)、(c)臭素酸イオン(▲)、(d)硝酸イオン(△)、及び(e)硫酸イオン(◆)の吸着速度を示す図である。
【図4】(a)炭酸イオン(3日)、(b)臭化物イオン(3日)、(c)リン酸二水素イオン(3日)、(d)硫酸イオン(1h)、(e)硫酸イオン(3日)、(f)硝酸イオン(1h)、(g)硝酸イオン(3日)、(h)臭素酸イオン(1h)、(i)臭素酸イオン(3日)、及び(j)ドデシル硫酸イオン(3日)とイオン交換反応した後のX線回折図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、MgAl系のアニオン交換体の製造方法であって、固体のマグネシウム塩と、固体のアルミナ水和物を、固−固系で反応させることを特徴とする、アニオン交換体の製造方法である。
【0012】
本発明の特徴は、固体のマグネシウム塩と固体のアルミナ水和物を、固−固系で反応させると、アルミナ水和物の界面で徐々に反応が起こり、pHの調整をすることなく、高性能のアニオン交換体が得られる点にある。
【0013】
本発明で使用するマグネシウム塩としては、塩化マグネシウム(融点712℃、溶解度0.3ml/g(at boiling water))、硝酸マグネシウム(融点95℃、溶解度0.8ml/g)、臭化マグネシウム(融点165℃、溶解度0.3ml/g)などが挙げられる。これらのマグネシウム塩は、結晶水を有するものおよび無水物のいずれを使用してもよい。
【0014】
アルミナ水和物としては、結晶系の異なる様々な酸化アルミニウム又は水酸化アルミニウムが挙げられる。好ましくは、層状構造を有するもの、特に結晶性の高いギブサイト(γ−Al(OH))が好ましい。
【0015】
固−固系で反応させる場合、わずかに水が存在している方が、反応が促進される。水は、マグネシウム塩およびアルミナ水和物の結晶水(水和物)に由来してもよく、無水物同士を使用する場合には、反応促進のために溶解しない程度の水を添加し、製造することが好ましい。
【0016】
高温で高分散したマグネシウム塩がアルミナ水和物(例えばギブサイト)と反応することにより、MgAl系のアニオン交換体が形成される。反応終了後、過剰のマグネシウム塩を水洗により除去すると、高性能のアニオン交換体が残る。
【0017】
反応温度は、例えば100〜300℃程度の温度でよいが、好ましくは150〜200℃、さらに好ましくは160℃程度である。反応時間は、反応条件によるが、通常は1日以上であり、2週間程度要する場合もある。一般に、固−固系反応は、固−液系又は液−液系反応に比べ、反応時間が長くなる傾向にある。好ましい条件として、160℃程度で3日間反応させることが挙げられる。また、温度を上げることで反応時間を短くすることが可能であり、180℃程度であれば2日間反応させればよい。
【0018】
マグネシウム塩とアルミナ水和物の配合比率(モル比)は、最終的に得られるMgAl系のアニオン交換体のアルミニウムとマグネシウムとのモル比に大きく影響しない。従来のアニオン交換体は、マグネシウムの割合が高いMgAl系層状複水酸化物(LDH)(Mg/Al=2−4、理論交換容量:4.7−3.0mmol/g)であるが、本発明の方法では、アルミナ水和物に対し、マグネシウム塩を当量以上用いて反応させているにもかかわらず、アルミニウムの割合が高いMgAl系層状複水酸化物(LDH)、即ちモル比がAl/Mg=4(理論交換容量:4.9mmol/g)のMgAl系LDHが得られる。
【0019】
本発明の反応では、固体同士を混合せず、アルミナ水和物の上にマグネシウム塩を載せるだけでもよい。
【0020】
本発明で得られるアニオン交換体は、水洗により得られた固体をそのまま用いることができる。また、水洗により得られた固体を充分乾燥したもの、更に高温(300℃程度)で加熱焼成させたものを用いてもかまわない。
【0021】
本発明のアニオン交換体は、リン酸イオン類、臭化物イオンなどのアニオン交換に好ましく使用される。また、本発明のアニオン交換体は、ドデシル硫酸イオンのような有機アニオンも吸着することができる。本発明のアニオン交換体で臭素酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオンなどをアニオン交換する場合、長時間接触させるとLDH構造が壊れて、ギブサイト構造になることがある。
【0022】
本発明のアニオン交換体は、例えば造粒などの操作を行い成形体とし、カラムなどに充填し、該カラムにリンを含む排水を流すことによりアニオンの吸着又は回収を行うことができる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0024】
実施例1
MgCl6HO(60g)と、ギブサイト(γ−Al(OH))(2g)を100mlのテフロン(登録商標)製耐圧容器に入れて密栓をし、160℃で3日間水熱処理した。冷却後、反応物をビーカーに移し、20−30mlの水で洗浄した。試料をろ過後、脱イオン水200mlで洗浄し、室温で風乾し、アニオン交換体を得た。原料のギブサイトおよび得られたアニオン交換体のX線回折パターン(図1)および走査型電子顕微鏡写真(図2)を示す。なお、図1において、(a)が原料(ギブサイト)のX線回折パターンであり、(b)がアニオン交換体のX線回折パターンである。図2において、(a)が原料(ギブサイト)の走査型電子顕微鏡写真であり、(b)がアニオン交換体の走査型電子顕微鏡写真である。
【0025】
図1(b)によれば、生成物(アニオン交換体)は、図1(a)の原料(ギブサイト)と異なる位置に層状化合物特有のピークが見られる。生成物の層間距離は0.753nmであって、斜方晶系で格子定数は、a=0.4912nm,b=0.9767nm,c=1.5059nmであった。図1(a)及び(b)から、原料及び生成物の粒子形は六角形の板状晶であるが、生成物の方が、端は真っ直ぐ、角ははっきりしていた。生成物の組成分析を行った結果、[Mg0.96Al4.00(OH)12](Cl)1.86(CO0.03・2.4HOとなった。なお、水の含量は、TG−DTAにおける200℃までの重量減少から求めた。
【0026】
実施例2
MgCl6HO(10g)と、ギブサイト(γ−Al(OH))(0.5g)をるつぼに入れ、180℃で2日間加熱処理した。冷却後、実施例1と同様の操作でアニオン交換体を得た。X線回折の結果、LDHの単一相となり、層間距離は0.760nmであった。溶解し、Mg/Al比を測定したところ、Mg:Al=1:4であった。
【0027】
実施例3
MgCl6HO(60g)と、ギブサイト(γ−Al(OH))(2g)を100mlのテフロン(登録商標)製耐圧容器に入れて密栓をし、160℃で1日間水熱処理した。冷却後、反応物をビーカーに移し、20−30mlの水で洗浄した。試料をろ過後、脱イオン水200mlで洗浄し、室温で風乾し、アニオン交換体を得た。
【0028】
実施例4
MgCl6HO(60g)と、ギブサイト(γ−Al(OH))(2g)を100mlのテフロン(登録商標)製耐圧容器に入れて密栓をし、180℃で3日間水熱処理した。冷却後、反応物をビーカーに移し、20−30mlの水で洗浄した。試料をろ過後、脱イオン水200mlで洗浄し、室温で風乾し、アニオン交換体を得た。
【0029】
実施例5
MgCl6HO(10g)と、ギブサイト(γ−Al(OH))(0.5g)を25mlのテフロン(登録商標)製耐圧容器に入れて密栓をし、150℃で反応時間を2日、5日、7日、9日と変えて水熱処理した。生成物のX線回折を測定した結果、いずれの場合もアニオン交換体が得られていることがわかった。
【0030】
実施例6
MgCl6HOの量を5g、10g、15gと変えて、ギブサイト(γ−Al(OH))(0.5g)と25mlのテフロン(登録商標)製耐圧容器に入れて密栓をし、150℃で12日間水熱処理した。生成物のX線回折を測定した結果、いずれの場合もアニオン交換体が得られていることがわかった。5gでは原料のギブサイトのピークがわずかに残ったが、10g、15gの場合は、LDHの単一相となり、どちらの層間距離も0.752nmとなった。溶解し、Mg/Al比を測定したところ、いずれもMg:Al=1:4であった。
【0031】
試験例1
実施例1で得られたアニオン交換体0.1gを使用し、10mmol/L濃度のNaBr水溶液(100ml)(pH=5.6)と室温で攪拌しながら、サンプリングを行い、吸着速度を測定した。臭化物イオンはイオンクロマトグラフィーを用いて定量した。結果を図3(a)に示す。また、NaBrの代わりに、NaHPO、NaBrO、NaNO、またはNaSOを用い、上記と同様にして各アニオンの吸着速度を測定した。それらの結果を図3(b)〜(e)に示す。なお、図3において、(a)臭化物イオンは「●」、(b)リン酸二水素イオンは「■」、(c)臭素酸イオンは「▲」、(d)硝酸イオンは「△」、(e)硫酸イオンは「◆」で示した。また、図3(a)〜(e)において、マグネシウムイオンを「□」で示し、塩化物イオンを「○」で示した。
【0032】
図3の結果から、本発明のアニオン交換体は、短時間でいずれのアニオンも吸着することがわかる。特に、臭化物イオン及びリン酸二水素イオンを長時間にわたって安定して吸着することができる。
【0033】
試験例2
実施例1で得られたアニオン交換体0.1gを使用し、10mmol/L濃度のNaCO水溶液(100ml)の水溶液と室温で攪拌しながら、3日間処理し、イオン交換反応を行った。その後、アニオン交換体のX線回折を測定した。その結果を図4(a)に示す。また、NaCO水溶液の代わりに、NaBr水溶液で3日間、NaHPO水溶液で3日間、NaSO水溶液で1時間、NaSO水溶液で3日間、NaNO水溶液で1時間、NaNO水溶液で3日間、NaBrO水溶液で1時間、NaBrO水溶液で3日間、またはドデシル硫酸ナトリウム水溶液で3日間処理し、上記と同様にしてアニオン交換体のX線回折を測定した。それらの結果を図4(b)〜(j)に示す。
【0034】
図4より、アニオン交換によって、アニオン交換体の層間距離又は構造が変化していることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MgAl系のアニオン交換体であって、モル比でアルミニウムの割合がマグネシウムの割合より大きいアニオン交換体。
【請求項2】
MgAl系のアニオン交換体であって、マグネシウムとアルミニウムとの割合が、モル比で、Mg:Al=1:4である、アニオン交換体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のMgAl系のアニオン交換体の製造方法であって、固体のマグネシウム塩と固体のアルミナ水和物とを、固−固系で反応させることを特徴とする、アニオン交換体の製造方法。
【請求項4】
前記マグネシウム塩が、塩化マグネシウム六水和物であり、前記アルミナ水和物が、ギブサイト(γ−Al(OH))である、請求項3に記載のアニオン交換体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−76053(P2012−76053A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225721(P2010−225721)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】