説明

アニオン吸着性及び磁性をもつ磁性ナノコンプレックス材料及びその製造方法

【課題】溶液から層状複合水酸化物と磁性体とを同時にナノコンプレックスとして生成させることにより得られる、アニオン選択吸着性を有する磁性ナノコンプレックス材料を提供する。
【解決手段】一般式Ni1-xFex(OH)2n-x/n・mH2O(式中のAn-はn価のアニオン、x及びmは、0<x≦0.67、0≦m≦2を満足する数である)で表わされる組成を有する層状複合水酸化物75〜95質量%及びNiFe2425〜5質量%からなり、層状複合水酸化物の褶状構造内に粒径100nm以下の微粒状NiFe24結晶が包摂され分散されているアニオン吸着性及び磁性を併有するナノコンプレックス材料とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アニオン吸着性と磁性とを併有する新規な材料及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
組成式[Mg6Al2(OH)16]・nH2Oを有する天然鉱石のハイドロタルサイトは、層状構造内にアニオンをインターカレートする性質を有するため、アニオンの吸着剤として注目されるとともに、このハイドロタルサイトと類似の組成を有する層状複合水酸化物からなるアニオン吸着剤についての研究が行われており、例えば、一般式
M(II)1-xM(III)x(OH)2n-x/n・mH2
(式中のM(II)は、Mg、Ni、Zn、Feなどの中から選ばれた少なくとも1種の二価金属、M(III)はAl、Fe、Crなどを主体とする三価金属、An-はn価のアニオンである)。
で表わされるアニオン吸着剤や、磁性体にこの層状複合水酸化物を被覆させた構造のアニオン交換性磁性材料が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
上記の磁性材料は、磁性体粉末をアルカリ水溶液中に分散させ、マグネシウムの水溶性塩とアルミニウムの水溶性塩を所定割合で加え、磁性体粉末の表面でハイドロタルサイトを形成させ、被着させる方法で製造されているのみで、最初に加えた磁性体以外の磁性材料の存在、イオンの選択性を考慮したものではない。
【0004】
【特許文献1】特開2006−56829号公報(特許請求の範囲その他)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、溶液から層状複合水酸化物(以下LDHという)と磁性体(NiFe24)とを同時にナノコンプレックスとして生成させることにより得られる、アニオン選択吸着性を有する磁性ナノコンプレックス材料及びその製造方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、アニオン吸着性と磁性とを併有する新規な材料を開発するために鋭意研究を重ねた結果、水溶性ニッケル(II)塩と水溶性鉄(III)塩とを含む水溶液にアルカリを加えて水酸化金属複合体を沈殿させる場合に、水溶液中のニッケル塩と鉄塩とが特定の原子比になるように制御し、沈殿する複合体の飽和磁化を大きくし、かつNO3-イオン及びHPO3-イオンに対する吸着能力がSO42-に対する吸着能力より著しく大きくすることにより、その目的を達成しうることを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、一般式
Ni1-xFex(OH)2n-x/n・mH2
(式中のAn-はn価のアニオン、x及びmは、0<x≦0.67、0≦m≦2を満足する数である)
で表わされる組成を有する層状複合水酸化物(以下LDHと略す)75〜95質量%及びNiFe2425〜5質量%からなり、LDHの褶状構造内に粒径100nm以下の微粒状NiFe24結晶が包摂され分散されていることを特徴とするアニオン吸着性及び磁性を併有するナノコンプレックス材料、及び水溶性ニッケル(II)塩及び水溶性鉄(III)塩を原子比Ni/Feが1〜4になる割合で含む水溶液に、アルカリを加えて液性をpH8以上に調整して沈殿を生成させ、次いでこの沈殿を分別し、水熱することを特徴とする上記ナノコンプレックス材料の製造方法を提供するものである。
【0008】
本発明のアニオン吸着性をもつ磁性ナノコンプレックス材料は、水溶性ニッケル(II)塩と水溶性鉄(III)塩とを原子比Ni/Feが1〜4、好ましくは2〜3の範囲になる割合で含む水溶液に、アルカリを加えて液性をpH8以上に調整して、沈殿を形成させ、この沈殿を分離して水熱処理することにより得られる。
この場合、水溶性ニッケル(II)塩と水溶性鉄(III)とは、LDHを形成するのに必要な量よりも過剰に用い、磁性体NiFe24が形成される量を確保できる割合にすることが必要である。
【0009】
このナノコンプレックス材料は、X線回折により、一般式
Ni1-xFex(OH)2n-x/n・mH2O (1)
(式中のx、An-及びmは前記と同じ意味をもつ)
で表わされる組成を有するLDHとNiFe24の組成を有する磁性体からなることが確認された。
【0010】
本発明のナノコンプレックス材料は、上記のLDH75〜95質量%とNiFe2425〜5質量%の含有割合を有することが必要であり、これよりも層状複合水酸化物が少ないとアニオン吸着性特にNO3-イオンに対する選択吸着性が低下するし、またこれよりも磁性体NiFe24の割合が少ないと磁性が低下する。好ましい含有割合は、LDH79〜93質量%及びNiFe2421〜7質量%の範囲である。
【0011】
上記の一般式(1)中の陰イオンAn-は、イオン交換性を有するものであれば無機陰イオン、有機陰イオンのいずれでも差しつかえないが、溶液中の硝酸イオンとのイオン交換性を考えると、Cl-が好ましい。
【0012】
水溶性ニッケル(II)塩と水溶性鉄(III)塩の原子比Ni/Feは1〜4の範囲にあることが必要であるが、生成物中の原子比は、これと必ずしも一致しない。イオン交換容量、飽和磁化率、硝酸イオンとリン酸イオンの選択性を考慮すれば、原子比は、2〜3の範囲が好ましい。
【0013】
このLDH及びNiFe24は、Ni(II)の水溶性塩及びFe(III)の水溶性塩の混合物を沈殿することによって製造されるが、上記の水溶性塩としては、ハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸水素塩などがあるが、後続処理を考慮すると塩化物が好ましい。
【0014】
本発明のナノコンプレックス材料のSEM写真によると、このものはLDHが折りたたまれて形成された褶状構造内に、粒径100nm以下のNiFe24微粒子結晶が包摂され、分散していることが認められる。
【0015】
沈殿反応は適当なアルカリ、例えば水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸塩、炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸水素塩、アンモニアや、これらの溶液等を用いて行うことができるが、一般には水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物の水溶液が用いられる。反応を均一化させるために、二価金属水溶性塩と三価金属水溶性塩とニッケル及び鉄の水溶性塩の混合水溶液を調製し、この水溶液とアルカリ金属水酸化物の水溶液とを同時滴下するのが好ましい。
【0016】
沈殿反応において、溶液のpHは8〜12、中でも9〜11に保つのが好ましく、特に溶液のpHを一定にするのがよい。また、反応温度は、0〜90℃、好ましくは30〜70℃の範囲で選ぶのが好ましい。
この沈殿をろ過又は遠心分離により分取し、中性になるまで水洗したのち、風乾することにより、LDHとNiFe24からなるナノコンプレックス材料が粉末として得られる。
【0017】
このようにして得られたナノコンプレックスは、そのままでもアニオン吸着剤として用いることができるが、これを水熱処理すると、そのアニオン選択吸着能力はいっそう向上する。
【0018】
この水熱処理は耐圧容器(オートクレーブ)中、通常0.11〜1MPaの範囲の過圧下、100〜250℃の範囲の温度、好ましくは0.15〜0.5MPaの範囲の加圧下、110〜180℃の範囲の温度で行われる。
【0019】
次に、本発明の磁性ナノコンプレックス材料はアニオン吸着剤として好適であるが、これを用いて溶液中のアニオンを除去するには、該吸着剤をアニオン含有溶液に添加し、十分撹拌混合してアニオンを吸着させ、さらにはほぼ吸着平衡に達しめたのち、固液分離すればよい。それにより、溶液中のアニオンは吸着剤に取り込まれ吸着剤ごと固体として液体より分別除去される。このような吸着処理において、溶液のpHは4〜10の範囲に調整するのが好ましい。処理時間は、吸着剤の粒径によっても異なってくるが、粉末の場合、通常30分〜2時間の範囲である。
【0020】
本発明のナノコンプレックス材料からなるアニオン吸着剤は、磁性を有するため、使用後、磁石を用いて容易に分別することができる。そして、このようにして分別された吸着剤からそれに吸着されたアニオンを脱着させるには、例えば、吸着剤を適当な脱着剤、通常アルカリ、例えば水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸塩、炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸水素塩等や、塩化ナトリウムなどのハロゲン化アルカリ等の溶液、好ましくは水溶液で処理すればよい。この処理により脱着されて溶液中に溶出してくる。脱着剤の溶液濃度は、アニオン吸着量によっても異なるが、通常0.1〜5M、好ましくは1〜2Mの範囲で選ばれる。炭酸アルカリ溶液で脱着したときには、層間にアニオンの代りに炭酸イオンが入り込むため、吸着剤を再生する際には脱着後に吸着剤を加熱処理して、層間の炭酸イオンをとり除くようにする。
【0021】
このアニオン吸着剤が吸着しうるアニオンとしては、硝酸イオン、リン酸水素イオン、硫酸イオンなどがあるが、このアニオン吸着剤は、海水中の硝酸イオンを選択的に吸着除去する場合に有利である。
【0022】
この際、吸着剤に吸着された硝酸イオンは、吸着剤を加熱処理することで取り除くことができる。すなわち、硝酸イオンを吸着した吸着剤を100〜500℃、好ましくは200〜350℃で加熱処理すれば、層間の硝酸イオンは分解しガスとして放出されるので、硝酸イオンの脱着と吸着剤の再生を同時に行うことができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の磁性ナノコンプレックス材料は、硝酸イオン含有溶液、中でも他の陰イオンの共存する硝酸イオン含有溶液に対し、吸着容量が、硝酸イオンについての方が他の陰イオンについてよりも大きく、ひいては共存する陰イオン、例えば硫酸イオン、塩化物イオン、など通常硝酸イオンの吸着を妨害すると考えられている陰イオンが共存していても、硝酸イオンを高い効率で吸着することができる。
また、吸着処理に使用済みのアニオン吸着剤は磁石を用いて簡単に分別回収することができ、また簡単な操作で脱着、再生して繰り返し使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
次に、実施例により本発明を実施するための最良の形態を説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0025】
1M塩化ニッケル(II)水溶液と1M塩化鉄(III)水溶液とをそれぞれ別々に調製した。
これらの水溶液を混合し、Ni/Feの原子比が0.6から5となる原料水溶液を調製した。次に蒸留水にこの原料水溶液と1M水酸化ナトリウム水溶液をpHが10に保たれるように留意しながら滴下したのち、1時間撹拌した。次いで120℃で1時間水熱処理し、沈殿の結晶性を高めた。次いで、この沈殿を遠心分離し、中性になるまで水洗いし、室温で1日間乾燥した。この生成物を粉末X線構造解析、組成分析、熱分析することにより、このものが[Ni(II)0.8Fe(III)0.2(OH)2][(Cl)0.2・0.6H2O]の化学組成をもつLDHとNi−Fe系結晶からなるナノコンプレックスと同定された。このもののXRD測定の結果を図1に示す。この図から分るようにNi−Fe LDHのピーク強度は、Ni/Feのモル比率の低下とともに弱くなり、Ni/Feが3以下ではNiFe24のピーク強度が増大している。これらのナノコンプレックス材料の飽和磁化(emu・g-1)を表1に示す。
図2は、このNo.1、図3はNo.4、図4はNo.8のナノコンプレックスのSEM写真であり、図3において、LDHの褶状構造体1の中にNiFe24の結晶2が取り込まれている状態が分る。
【実施例2】
【0026】
実施例1で調製したサンプルNo.1〜8について、以下のようにして、種々のアニオンに対する吸着実験を行った。
すなわち、Na2CO3、NaCl、NaNO3、NaHCO3及びNa2SO4のそれぞれ2mMを含むアニオン混合水溶液10mlに、各サンプル0.1gを加え、27℃で3日間静置したのち、ろ過し、ろ液中のアニオン濃度をイオンクロマトグラフィーを用いて定量し、式
d(cm3・g-1)=固相濃度(g・g-1)/液相濃度(g・cm3
に従ってアニオン分配係数(Kd)を求めた。この結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
この表から分かるように、Ni/Feが2〜3の試料のみ、硫酸イオンに対するKd値に対して、硝酸イオンとリン酸水素イオンのKd値が2倍以上となるイオン選択性及び磁性を併有する。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の磁性ナノコンプレックス材料はアニオン特に硝酸イオン及びリン酸イオンに対し選択的吸着性を示し、かつ磁性を有するので、使用後磁石による分別回収可能なアニオン吸着剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の磁性ナノコンプレックスの結晶構造と磁性との関係を示す図。
【図2】Ni/Fe=0.4のナノコンプレックス材料のSEM写真図。
【図3】Ni/Fe=2のナノコンプレックス材料のSEM写真図。
【図4】Ni/Fe=5のナノコンプレックス材料のSEM写真図。
【符号の説明】
【0031】
1 LDHの褶状構造体
2 NiFe24の結晶

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式
Ni1-xFex(OH)2n-x/n・mH2
(式中のAn-はn価のアニオン、x及びmは、0<x≦0.67、0≦m≦2を満足する数である)
で表わされる組成を有する層状複合水酸化物75〜95質量%及びNiFe2425〜5質量%からなり、層状複合水酸化物の褶状構造内に粒径100nm以下の微粒状NiFe24結晶が包摂され分散されていることを特徴とするアニオン吸着性及び磁性を併有するナノコンプレックス材料。
【請求項2】
水溶性ニッケル(II)塩及び水溶性鉄(III)塩を原子比Ni/Feが1〜4になる割合で含む水溶液に、アルカリを加えて液性をpH8以上に調整して沈殿を生成させ、次いでこの沈殿を分別し、水熱することを特徴とする請求項1記載のナノコンプレックス材料の製造方法。
【請求項3】
Ni/Feが2〜3になる割合である請求項2記載のナノコンプレックス材料の製造方法。
【請求項4】
アルカリが水酸化アルカリ金属である請求項2又は3記載のナノコンプレックス材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−222474(P2008−222474A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−61070(P2007−61070)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】