説明

アニオン吸着材とその製造方法

【課題】強度及び透水性を有し、尚且つ種々のアニオンに対して高い吸着力を有するアニオン吸着材。
【解決手段】水酸化セリウム及び繊維材を含有する組成物を、結合剤を使用せずに一体に多孔質に成型してなるアニオン吸着材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アニオン吸着材とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年成立された土壌汚染対策基本法により、土壌中に法の指定する特定有害物質(揮発性有機化合物、農薬等)が存在しても、工場用地等の敷地外への拡大がない限り、つまり工場排水や地下水中の特定有害物質濃度が環境基準値を満たしていれば問題とならなくなった。
しかしながら、特定有害物質の中でも水中で陰イオンの形態をとるもの(例えば、メタ亜ヒ酸イオン(AsO2-)、フッ素イオン(F-)、メタホウ酸イオン(BO2-)、セレン酸イオン(SeO42-)、亜セレン酸イオン(Se32-)等が挙げられる)は、工場排水中には環境基準値以下の低濃度で含まれていたとしても、その工場排水の土壌への流出が繰り返されれば、その土壌中に高濃度で蓄積して、土壌を汚染してしまう場合がある。その結果、その汚染された土壌を直接摂取したり、あるいはその汚染された土壌から有害物質が溶け出した地下水を飲用すること等によって、人々の健康に重大な影響を及ぼす虞がある。
従って、工場排水や地下水中の有害物質の濃度を、環境基準値以下に抑えることも重要であるが、有害物質で汚染された土壌を浄化することもまた重要な課題であり、こうした汚染水(特定有害物質を環境基準値以上の高濃度で含む工業排水や地下水等)や汚染土壌を処理する技術の一つとして吸着材の研究が進められている。
吸着材を使用して水や土壌を工業的に処理する上で重要となるのは、その吸着力(除去力)と処理効率(透水性)であるが、吸着力については、上述の理由から特にアニオン(例えば、メタ亜ヒ酸イオン(AsO2-)、フッ素イオン(F-)、メタホウ酸イオン(BO2-)、セレン酸イオン(SeO42-)、亜セレン酸イオン(Se32-)、リン酸二水素イオン(H2PO4-)、アンチモン酸イオン(SbO2-)等)に対して高い吸着力を有するものが望まれている。例えば、そのような吸着力を有するものとして、水酸化セリウムが挙げられる。
水酸化セリウムのアニオン吸着は、以下の〔化1〕に示されるような化学反応で行われると考えられている。
【化1】

従って、pHは反応が進むにつれて大きくなる。また化学反応であるので、反応速度論的に反応が進むので、瞬時に吸着が進むのではなく、数時間程度かけて反応が平衡に達する。(白土雅孝 資源環境対策 vol.37.No.14 2001.11、平田建正 環境技術 vol.292002.2、今井秀秋、野村順治、石橋譲、小西徳三 日本化学会誌 1987 No.5)
また、透水性の小さい(例えば粉末状の)吸着材を使用すると汚染水−吸着材顕濁液の濾過処理(固液分離処理)に時間がかかってしまうため、汚染水が大量になると対応できない虞があり、ある程度の透水性(多孔性)を有することが必要となる。
従来、このような吸着力及び透水性を有する吸着材としては、汚染物質吸着材として上述の水酸化セリウム(又は酸化セリウム)等を使用して粒状に成形した土壌改良剤等(特許文献1参照)がある。
【0003】
【特許文献1】国際公開番号WO2004/078374
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の土壌改良剤は、吸水性物質として珪藻土を含有しており、造粒後、土壌中でその多孔性(透水性)を維持し得る強度を確保するために高温(900℃前後)で焼成する必要がある。しかしながらこのとき、水酸化セリウムのアニオンに対する吸着力が大幅に低下してしまうという問題が生じていた。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、強度及び透水性を有し、尚且つ種々のアニオンに対して高い吸着力を有するアニオン吸着材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1特徴構成は、水酸化セリウム及び繊維材を含有する組成物を、結合剤を使用せずに一体に多孔質に成型してなるアニオン吸着材である点にある。
【0007】
〔作用及び効果〕
本発明のアニオン吸着材は、水酸化セリウムを含有しているので、種々のアニオン(例えば、メタ亜ヒ酸イオン(AsO2-)、フッ素イオン(F-)、メタホウ酸イオン(BO2-)、セレン酸イオン(SeO42-)、亜セレン酸イオン(Se32-)、リン酸二水素イオン(H2PO4-)、アンチモン酸イオン(SbO2-)等)を吸着し得、そうした種々のアニオンを含有し得る水(例えば、汚染水等)や土壌(例えば、汚染土壌)を迅速に処理することが可能である。
つまり、アニオン(X-)は、水酸化セリウム(Ce(OH)4)により以下の化学反応に従って吸着され得る。
【化2】

さらに本発明は、水酸化セリウム及び繊維材を含有する組成物を一体に多孔質に成型したものであるため、従来のように900℃という高温で焼成する必要も無く、より低温で簡便に一体成型することが可能であり、水酸化セリウムのアニオン吸着能を低下させる虞もない。従って、本発明のアニオン吸着材は、上述したような種々のアニオンに対して、従来の土壌改良剤に比べて、より優れた吸着力を発揮し得る。その上、本発明のアニオン吸着材は、結合剤を含有していないので、製造コストが安い。尚且つ、本発明のアニオン吸着材は、繊維材を含有しているため、多孔質に成型され易く高い透水性を有すると共に、水や土壌中に混入させてもその水圧や土圧に耐え得る強度を確保することが可能である。
【0008】
本発明の第2特徴構成は、前記繊維材同士が絡み合っており、その隙間に前記水酸化セリウムが補足されている点にある。
【0009】
〔作用及び効果〕
本発明のアニオン吸着材は、繊維材同士が絡み合い、その隙間に水酸化セリウムがしっかりと補足されているため、本発明のアニオン吸着材を水や土壌中に混入させても水酸化セリウムが流出し難く、且つ透水性も確保されるので、上述したような種々のアニオンに対して、さらにより優れた吸着力を発揮し得る。
【0010】
本発明の第3特徴構成は、繊維材を含む布によって水酸化セリウムを包み込んで一体化したアニオン吸着材である点にある。
【0011】
〔作用及び効果〕
本発明のアニオン吸着材は、水酸化セリウムを含有しているので、種々のアニオン(例えば、メタ亜ヒ酸イオン(AsO2-)、フッ素イオン(F-)、メタホウ酸イオン(BO2-)、セレン酸イオン(SeO42-)、亜セレン酸イオン(Se32-)、リン酸二水素イオン(H2PO4-)、アンチモン酸イオン(SbO2-)等)を吸着し得、そうした種々のアニオンを含有し得る水(例えば、汚染水等)や土壌(例えば、汚染土壌)を迅速に処理することが可能である。
つまり、アニオン(X-)は、水酸化セリウム(Ce(OH)4)により以下の化学反応に従って吸着され得る。
【化3】

さらに本発明は、繊維材を含む布によって水酸化セリウムを包み込んで一体化したものであるため、従来のように900℃という高温で焼成する必要も無く、水酸化セリウムのアニオン吸着能を低下させる虞もない。従って、本発明のアニオン吸着材は、上述したような種々のアニオンに対して、従来の土壌改良剤に比べて、より優れた吸着力を発揮し得る。またさらに、本発明は、水酸化セリウムを包み込む布が繊維材を含有しているので、多孔質に成型され易く高い透水性を有すると共に、その補強効果によって、本発明を水や土壌中に混入させた場合でもその水圧や土圧に耐え得る強度を確保することが可能である。
その上、本発明は、繊維材を含む布として、既製の繊維材の織物(例えば、芳香族アラミド繊維、テトラフルオロエチレン繊維、ポリイミド繊維等の有機繊維で作られた既製の不織布、平織り、綾織、朱子織した布等)を用いて、容易に製造することが可能であると共に、製造コストも低減され得る。
【0012】
本発明の第4特徴構成は、前記水酸化セリウムは、4価の水酸化セリウムの水和物である点にある。
〔作用及び効果〕
4価の水酸化セリウムの水和物は、3価の水酸化セリウムの水和物よりも吸着力が強いので、本発明のアニオン吸着材は、3価の水酸化セリウムの水和物を含有するアニオン吸着材よりも高い吸着力を発揮し得る。
【0013】
本発明の第5特徴構成は、請求項1又は2のいずれか1項に記載されるアニオン吸着材の製造方法であって、前記製造方法は以下の工程:1.繊維材と、水酸化セリウム水和物の粉粒体とを水中に分散させる工程;2.前記水中に分散させた繊維材と、水酸化セリウム水和物の粉粒体とを抄造する工程;3.前記抄造工程により成型された成型品を乾燥する工程;を包含するアニオン吸着材の製造方法である点にある。
【0014】
〔作用及び効果〕
本発明によれば、請求項1又は2に記載されるような作用効果を有するアニオン吸着材を容易且つ低コストで製造することができる。
すなわち本発明によれば、水酸化セリウム水和物の粉粒体と繊維材とを水中に分散させて、公知の抄造技術を用いて容易に成型することが可能であると共に、既設の抄造設備を利用して製造すれば、設備コスト等の削減を図ることもできる。
【0015】
本発明の第6特徴構成は、前記繊維材が、無機繊維と有機繊維とから構成される請求項5に記載のアニオン吸着材の製造方法である点にある。
【0016】
〔作用及び効果〕
無機繊維よりも軟らかい有機繊維の存在によって、無機繊維同士がより効果的に絡まり易くなり、その隙間に水酸化セリウム水和物の粉粒体がしっかりと補足されるため、水や土壌中に混入させても水酸化セリウムが流出し難く、且つ透水性も確保される。そのため、本発明によれば、上述したような種々のアニオンに対して、さらに優れた吸着力を発揮し得るアニオン吸着材を製造することができる。
【0017】
本発明の第7特徴構成は、請求項3に記載されるアニオン吸着材の製造方法であって、前記製造方法は以下の工程:1.繊維材を水中に分散させる工程;2.前記水中に分散させた繊維材を抄造する工程;3.前記抄造工程によりシート状に成型された成型品によって水酸化セリウム水和物の粉粒体を包み込んで一体化する工程;を包含するアニオン吸着材の製造方法である点にある。
【0018】
〔作用及び効果〕
本発明によれば、請求項3に記載されるような作用効果を有する種々の形状のアニオン吸着材を容易且つ低コストで製造することができる。
すなわち本発明によれば、繊維材のシート状成型品については、繊維材を水中に分散させて、公知の抄造技術を用いて容易に製造することが可能であると共に、既設の抄造設備を利用して製造すれば、設備コスト等の削減を図ることもできる。
後は、そのシート状成型品によって水酸化セリウム水和物の粉粒体を包み込んで一体化するだけで良いので、種々の形状のアニオン吸着材を容易に製造することが可能である。
例えば、2枚の前記シート状成型品の間に、水酸化セリウムを挟み込み、水酸化セリウムが漏れないように、繊維材の織物の周縁部を封着するなどして一体化すれば、シート状のアニオン吸着材を製造することができる。また、1枚の前記シート状成型品を使用して、その片面に水酸化セリウムを敷いて水酸化セリウム層を形成し、それを内側に巻いていけば、水酸化セリウム層と繊維材の織物層とが交互に何層にも形成された筒状のアニオン吸着材を製造することができる。
【0019】
本発明の第8特徴構成は、前記水酸化セリウム水和物の粉粒体は、その粒径の大きさが、前記抄造工程により成型される成型品の有する平均孔径よりも大きいものを選択使用する点にある。
【0020】
〔作用及び効果〕
水酸化セリウム水和物の粉粒体は、その粒径の大きさが、抄造により成型される成型品の有する平均孔径よりも大きいものを選択使用するので、水酸化セリウム水和物の粉粒体が、前記成型品の有する孔から流出し難くなり、吸着材中にさらにより一層強固に担持され得る。
【0021】
本発明の第9特徴構成は、請求項1又は2のいずれか1項に記載されるアニオン吸着材の製造方法であって、前記製造方法は以下の工程:1.繊維材と、水酸化セリウム水和物の粉粒体とを混合する工程;2.前記繊維材と、水酸化セリウム水和物の粉粒体との混合物を造粒する工程;を包含するアニオン吸着材の製造方法である点にある。
【0022】
〔作用及び効果〕
本発明によれば、請求項1又は2に記載されるような作用効果を有するアニオン吸着材を容易且つ低コストで製造することができる。
すなわち本発明によれば、水酸化セリウム水和物の粉粒体と繊維材とを混合して、公知の造粒技術を用いて容易に成型することが可能であると共に、既設の造粒設備を利用して製造すれば、設備コスト等の削減を図ることもできる。
【0023】
本発明の第10特徴構成は、請求項1又は2のいずれか1項に記載されるアニオン吸着材の製造方法であって、前記製造方法は以下の工程:1.繊維材と、水酸化セリウム水和物の粉粒体とを混合して綿状化する工程;2.前記綿状化した繊維材と、水酸化セリウム水和物の粉粒体との混合物を集綿する工程;を包含するアニオン吸着材の製造方法である点にある。
【0024】
〔作用及び効果〕
本発明によれば、請求項1又は2に記載されるような作用効果を有するアニオン吸着材を容易且つ低コストで製造することができる。
すなわち本発明によれば、繊維材と、水酸化セリウム水和物の粉粒体とを混合して、公知の綿状化技術を用いて容易に成型することが可能であると共に、既設の集綿装置を利用して製造すれば、設備コスト等の削減を図ることもできる。
【0025】
本発明の第11特徴構成は、請求項3に記載されるアニオン吸着材の製造方法であって、繊維材を含む布によって水酸化セリウム水和物の粉粒体を包み込んで一体化する工程を包含するアニオン吸着材の製造方法である点にある。
【0026】
〔作用及び効果〕
本発明によれば、請求項3に記載されるような作用効果を有する種々の形状のアニオン吸着材を容易且つ低コストで製造することができる。
すなわち、繊維材を含む布として、既製の繊維材の織物(例えば、芳香族アラミド繊維、テトラフルオロエチレン繊維、ポリイミド繊維等の有機繊維で作られた既製の不織布、平織り、綾織、朱子織した布等)を用いることもできるので、製造コストが低減され得る。
後は、前記布によって水酸化セリウム水和物の粉粒体を包み込んで一体化するだけで良いので、種々の形状のアニオン吸着材を容易に製造することが可能である。
例えば、2枚の前記布の間に、水酸化セリウムを挟み込み、水酸化セリウムが漏れないように、布の周縁部を封着するなどして一体化すれば、シート状のアニオン吸着材を製造することができる。また、1枚の前記布を使用して、その片面に水酸化セリウムを敷いて水酸化セリウム層を形成し、それを内側に巻いていけば、水酸化セリウム層と布の層とが交互に何層にも形成された筒状のアニオン吸着材を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
〔実施形態〕
本発明のアニオン吸着材は、水酸化セリウム及び繊維材を含有するものであり、その製造方法に関する実施形態を以下に示す。
《第1実施形態》
本発明のアニオン吸着材(シート状成型品)は、以下に記載されるような適当な水酸化セリウムの粉粒体及び繊維材を水中に分散させてスラリーを形成した後(分散工程)、そのスラリーを抄造してシート状物に成型し(抄造工程)、そのシート状物を加熱乾燥(乾燥工程)して製造することができる。
尚、水酸化セリウムの密度としては、0.1g/cm3〜0.8g/cm3が好ましく、さらにより好ましくは、0.2g/cm3〜0.5g/cm3である。繊維材の密度としては、0.1g/cm3〜0.8g/cm3が好ましく、さらにより好ましくは、0.2g/cm3〜0.6g/cm3である。また、乾燥する温度としては、50℃〜250℃が好ましく、さらにより好ましくは、80℃〜220℃である。前記スラリーをシート状に成型する抄造技術は、公知の抄造技術を用いることができる。
また、シート状の成型品からは、カートリッジフィルター状のアニオン吸着材を製造することもできる(例えば、前述のシート状に成型したものを、透水性を有する適当な芯体(例えば、ポリプロピレン製若しくはポリエチレン製)に巻き回して製造する)。
【0028】
(水酸化セリウム)
本発明に適用可能な水酸化セリウムは、3価の水酸化セリウムもしくはその水和物、又は、4価の水酸化セリウムもしくはその水和物であり、これらを単独でか、あるいは任意に組み合わせて使用することも可能であるが、好ましくは、4価の水酸化セリウムの水和物である。尚、水酸化セリウムは、例えば、メタ亜ヒ酸イオン(AsO2-)、フッ素イオン(F-)、メタホウ酸イオン(BO2-)、セレン酸イオン(SeO42-)、亜セレン酸イオン(Se32-)、リン酸二水素イオン(H2PO4-)、アンチモン酸イオン(SbO2-)等といった、水中で陰イオンの形態をとる化合物や元素に対して高く優れた吸着能力を発揮し得る。尚、水酸化セリウムの形状は、球状、破砕状、顆粒状、不定形等である。
また、上記各種の水酸化セリウムは、好ましくは、その粒径が、抄造により成型される成型品の有する平均孔径よりも大きいもの(好ましくは、粒径の大きさが0.1μm〜50μmであるもの、さらにより好ましくは、粒径の大きさが1μm〜25μmであるもの)を選択使用する(尚、上記各種の水酸化セリウムを必要に応じて、公知の造粒技術(例えば、転動造粒方法、噴霧乾燥法、圧片造粒法、押し出し成形法、プレス成形法等)を用いて造粒し、前記平均孔径よりもその粒径を大きくしたものを使用しても良い)。
また、水酸化セリウムは800℃以上の高温で処理されると、酸化して酸化セリウムになるため、できるだけ低温で処理されたものが好ましい。また、150℃付近で結合水が脱離し、吸着性能が低下するため、150℃より低温で処理されたものが好ましい。
【0029】
(水酸化セリウム水和物の製法)
炭酸セリウム(III)を酸で溶解し、次いでアルカリで中和する。この製法において、3
価の水酸化セリウム水和物を主成分とするもの(3価の水酸化セリウム水和物と4価の水酸化セリウム水和物との比がおよそ9:1)を得ることが可能である。
また、炭酸セリウム(III)を塩酸又は硫酸で処理しその後、NaOH等のアルカリで中
和処理しその後、加熱乾燥する。この製法において、4価の水酸化セリウム水和物を主成分とするもの(3価の水酸化セリウム水和物と4価の水酸化セリウム水和物(2次粒径がおよそ15μm)との比がおよそ5:95)を得ることが可能である。
【0030】
(水酸化セリウムのその他の製法)
また安価な水酸化セリウムとして、酸化セリウムの廃研磨剤を、場合により過酸化水素やヒドロキシアミンで還元させ、その後、塩酸、硫酸で処理しその後、NaOH等のアルカリで中和処理する。この製法において、4価の水酸化セリウム(もしくはその水和物)の含有量が、3価の水酸化セリウム(もしくはその水和物)の含有量よりも多い、水酸化セリウムの混合物を得ることが可能である。
【0031】
(繊維材)
本発明に適用可能な繊維材としては、無機繊維(ガラス繊維、ロックウール、カーボン繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、チタン繊維等)、有機繊維(芳香族アラミド繊維、テトラフルオロエチレン繊維、ポリイミド繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、アセテート・トリアセテート繊維等)が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、水酸化セリウムを担持し得、尚且つ吸着材に多孔質性と適度な強度を付与し得るものであるならばその素材については任意である。また、これらの繊維材を単独か、あるいは任意の組み合わせで使用することも可能である。
また特に有機繊維に関しては、無機繊維よりも比較的軟らかいものを使用することが好ましく、例えば、芯部分がポリプロピレン、鞘部分がポリエチレンの2成分から構成される有機繊維が挙げられる。
【0032】
《第2実施形態》
本発明のアニオン吸着材(シート状成型品)は、上述の適当な水酸化セリウムの粉粒体、無機繊維、及び有機繊維を水中に分散させてスラリーを形成した後(分散工程)、そのスラリーを抄造してシート状物に成型(抄造工程)する。この有機繊維の混入により、無機繊維とからみ易く一体化して、繊維間に水酸化セリウムの粉粒体が保持される。
尚、水酸化セリウムの密度としては、0.1g/cm3〜0.8g/cm3が好ましく、さらにより好ましくは、0.2g/cm3〜0.5g/cm3である。無機繊維の密度としては、0.1g/cm3〜0.8g/cm3が好ましく、さらにより好ましくは、0.2g/cm3〜0.6g/cm3である。有機繊維の密度としては、0.1g/cm3〜0.8g/cm3が好ましい。前記スラリーをシート状に成型する抄造技術は、公知の抄造技術を用いることができる。
また、シート状の成型品からは、カートリッジフィルター状のアニオン吸着材を製造することもできる(例えば、前述のシート状に成型したものを、透水性を有する適当な芯体(例えば、ポリプロピレン製若しくはポリエチレン製)に巻き回して製造する)。
【0033】
《第3実施形態》
図1は、本発明の第3実施形態の製造方法により製造される吸着材を示している。
そのスラリーを抄造してシート状物に成型し(抄造工程)、そのシート状の成型品1を加熱乾燥(乾燥工程)する。
次いで、図1(イ)に示されるように、2枚のシート状成型品1を用いて、その間に上述の適当な水酸化セリウムの粉粒体2を挟み込み、水酸化セリウムの粉粒体2が漏れ出さないようにシート状成型品1の周縁部を適当な接着剤を用いて封着すれば、シート状のアニオン吸着材を製造することができる。尚、図1(イ)に示されるシート状吸着材は、内部を接着して仕切りを設けて複数の空間を形成し、その中に水酸化セリウム粉粒体2を挟み込むように構成されている。
また、図1(ロ)に示されるように、1枚のシート状成型品1の片面全体に水酸化セリウムの粉粒体2を敷いて水酸化セリウム層を形成し、そうしたシート状のものを、透水性を有する筒状の多孔性芯体3(例えば、ポリプロピレン製若しくはポリエチレン製)の周りに巻き付けて接着剤等で固定すれば、水酸化セリウム層とシート状成型品1の繊維材層とが交互に何層にも形成されたカートリッジフィルター状(筒状)の吸着材を製造することも可能である。
尚、本実施形態においては、上述の抄紙したシート状成型品1の代わりに、繊維材の織物(例えば、無機繊維(ガラス繊維、ロックウール、カーボン繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、チタン繊維等)や、有機繊維(芳香族アラミド繊維、テトラフルオロエチレン繊維、ポリイミド繊維等)で作られた既製の不織布、平織り、綾織、朱子織した布等)を用いて、上述と同様にして製造することも可能である。
【0034】
《第4実施形態》
本発明のアニオン吸着材は、上述の適当な水酸化セリウムの粉粒体及び繊維材、並びに必要に応じて適量の水を加えて混合し、公知の造粒技術で造粒して製造する。
尚、水酸化セリウムの密度としては、0.1g/cm3〜0.8g/cm3が好ましく、さらにより好ましくは、0.2g/cm3〜0.5g/cm3である。繊維材の密度としては、0.1g/cm3〜0.8g/cm3が好ましく、さらにより好ましくは、0.2g/cm3〜0.6g/cm3である。
公知の造粒技術としては、転動造粒方法、振動造粒機法、噴霧乾燥法、圧片造粒、押し出し成型法、プレス成型法が挙げられる。尚、転動造粒方法は、成型体を適切な硬さにし易く、噴霧乾燥法は、細孔の形成が促進されやすい。
また、特に繊維材として上記無機繊維を使用する場合、無機繊維は、その形状を特に限定するものではないが、無機繊維の平均繊維径約0.3μm〜20μm、平均長さ約0.1mm〜10mmが好ましく、さらには平均繊維径約0.5μm〜13μm、平均長さ約0.5mm〜5mmがより好ましい。無機繊維の平均径が約0.3μm未満の場合は、製造コストが著しく高くなり、また造粒したときに嵩高くなって、その取り扱いが困難となる。
一方、無機繊維の平均径が約20μmを超えると、無機繊維が剛直で絡まり難くなる。また、平均長さが約0.1mm未満の場合は、無機繊維同士の絡みが弱くなるため、造粒物が容易に割れてしまうなどの問題が生じ易い。一方、平均長さが約10mmを越えると、無機繊維を造粒したときに(無機繊維の造粒方法にもよるが)、巨大な粒ができたり、粒そのものがほとんど形成されなかったりと、造粒物の均一性が損なわれ易い。
無機繊維の造粒物の形状は、とくに限定されるものではなく、球形、楕円体形、錐形、立方体または直方体等が例示される。しかし、無機繊維を造粒する場合、生産効率を考慮すれば、後述する無機繊維のスラリーを撹拌する、あるいは回転もしくは振動造粒機の利用が有利であることから、無機繊維の造粒物の形状はこれらの形成方法において無為に収束する形状である球形または楕円体が好ましい。
無機繊維を造粒する手段および無機繊維に水酸化セリウムを付着させる手段は、ともに限定されるものではない。
また、液体混合物からの造粒性を改善するために、液体の粘度を増粘させた後で、造粒させることもできる。増粘材として、合成スメクタイトなどの無機層状物なども使用できる。なお、有機溶剤系でも分散、増粘させるために、無機層状物の表面を処理しても良い。
【0035】
《第5実施形態》
本発明のアニオン吸着材は、上述の適当な水酸化セリウムの粉粒体及び繊維材、並びに必要に応じて上述の適当な結合剤を混合して綿状化し、公知の集綿装置を用いて集綿して製造する。
尚、水酸化セリウムの密度としては、0.1g/cm3〜0.8g/cm3が好ましく、さらにより好ましくは、0.2g/cm3〜0.5g/cm3である。繊維材の密度としては、0.1g/cm3〜0.8g/cm3が好ましく、さらにより好ましくは、0.2g/cm3〜0.6g/cm3である。
【実施例】
【0036】
以下、本発明について、実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
上記第4実施形態の実施例として、マイクロウールCMLF/繊維径2.0−0.6μm(日本板硝子製)と水酸化セリウム(4価)の水和物、適量の水を混ぜ、粒状に成形し、粒状のアニオン吸着材を得た。
マイクロウールCMLF/繊維径0.8μm(日本板硝子製)50重量部
水酸化セリウムの水和物 40重量部
水 20重量部
乾燥:120℃―1時間
【0037】
(実施例2)
上記第2実施形態の実施例として、平均繊維径4μmのCガラス成分(アルカリ珪酸塩ガラス)からなるガラス繊維50%(日本無機株式会社製)と水酸化セリウム(4価)の水和物を40%、平均繊維径15μmのPP−PE有機繊維20%(チッソ株式会社製)とを水中に混合、分散させ、通常の抄紙機を用いて抄紙し、秤量150g/m2、厚み0.8mmの湿式不織布からなるフィルター濾材を得た。これは、最大孔径が80μm、平均孔径が16μmのものである。
【0038】
(実施例3)
上記第1実施形態の実施例として、平均繊維径4μmのCガラス成分からなるガラス繊維60%(日本無機株式会社製)と水酸化セリウム(4価)の水和物を40%とを水中に混合、分散させ、通常の抄紙機を用いて抄紙し、秤量150g/m2、厚み0.8mmの湿式不織布からなるフィルター濾材を得た。これは、最大孔径が80μm、平均孔径が16μmのものである。
【0039】
(実施例4)
上記第3実施形態の実施例として、平均繊維径4μmのCガラス成分からなるガラス繊維100%(日本無機株式会社製)を水中に混合、分散させ、通常の抄紙機を用いて抄紙し、秤量120g/m2、厚み0.8mmの湿式不織布からなるフィルター濾材を得た。このフィルター濾材2枚を用いて、水酸化セリウム(4価)の水和物をはさみこみ、厚み1.7mmからなる吸着性能を有するフィルター濾材を得た。これは、最大孔径が80μm、平均孔径が16μmのものである。
【0040】
(実施例5)
上記第3実施形態の実施例として、芳香族アラミド繊維、テトラフルオロエチレン繊維、ポリイミド繊維で作られた不織布、平織り、綾織、朱子織した布で水酸化セリウム(4価)の水和物を挟みこむことで、吸着機能を有する有機繊維フィルター濾材を得た。単位体積あたりの繊維質と水酸化セリウムの比率は繊維:60%、水酸化セリウム:40%である。
【0041】
(実施例6)
上記第2実施形態の実施例として、平均繊維径4μmのCガラス成分(アルカリ珪酸塩ガラス)からなるガラス繊維50%(日本無機株式会社製)と水酸化セリウム(4価)の水和物を40%、平均繊維径15μmのPP−PE熱可塑性繊維20%(チッソ株式会社製)とを水中に混合、分散させ、通常の抄紙機を用いて抄紙し、秤量150g/m2、厚み0.8mmの湿式不織布からなるフィルター濾材を得た。次に、ポリプロピレン、ポリエチレン製の芯体に下記濾材を巻き回して円筒状のカートリッジフィルターを得た。円筒状のフィルターサイズは、直径が83mm、長さが250mm。
【0042】
(実施例7)
上記第3実施形態の実施例として、平均繊維径4μmのCガラス成分からなるガラス繊維100%(日本無機株式会社製)を水中に混合、分散させ、通常の抄紙機を用いて抄紙し、秤量120g/m2、厚み0.8mmの湿式不織布からなるフィルター濾材を得た。このフィルター濾材2枚を用いて水酸化セリウム(4価)の水和物をはさみこみ、厚み1.7mmからなる吸着性能を有するフィルター濾材を得た。次に、ポリプロピレン、ポリエチレン製の芯体に下記濾材を巻き回して円筒状のカートリッジフィルターを得た。円筒状のフィルターサイズは、直径が83mm、長さが250mm。単位体積あたりの繊維質と水酸化セリウムの比率は繊維:60%、水酸化セリウム:40%である。
【0043】
(参考例)
炭酸セリウム(III)を塩酸、硫酸で処理し、その後、水酸化ナトリウム等のアルカリで中和処理し、その後、加熱乾燥し、水酸化セリウムの水和物の2次粒形が15μmであり、破砕形状、4価及び3価の水酸化セリウムの水和物の比が95:5のアニオン吸着材を得た。
【0044】
(比較例1)
炭酸セリウム(III)を購入し、酸で溶解させ、アルカリで中和し、3価の水酸化セリウムの水和物を得た。3価及び4価の水酸化セリウムの水和物の比が90:10のアニオン吸着材を得た。
【0045】
(比較例2)
50重量%の珪藻土と、50重量%の水酸化セリウムとを混合して、700℃にて焼成したもの。
【0046】
(比較例3)
50重量%の珪藻土と、50重量%の廃硝子研磨剤(水酸化セリウムとして8重量%)とを混合して、80℃にて乾燥したもの。
【0047】
(吸着試験)
1.分析方法
各種金属の分析方法:ICP定量分析
2.使用薬品詳細
・ホウ素 :メタホウ酸
・ヒ素 :Na2HAsO4
・フッ素 :NaF
・セレン(4価): 酸化セレン(IV)・硝酸(0.5mol/l)溶液
・アンチモン :3酸化アンチモン・塩酸(2.5mol/l)溶液
・セレン(6価): セレン(VI)酸ナトリウム(Na2SeO4)を酸で溶解した溶液
3.評価方法
上記試薬を用いて、50mg/L濃度の各水溶液を調製した。各水溶液25gに対し、上記実施例1及び参考例、比較例1〜3で作製した吸着材5gを添加し、1時間振とうさせ、吸着剤添加前後での濃度変化を確認した。
同様に、各水溶液25gを、上記実施例2〜5で作製した吸着フィルター濾材を受け皿とし、5g/分の速度で滴下し、吸着フィルター濾剤を通過した液の濃度変化を確認した。
また、上記試薬を用いて、10mg/L濃度の各水溶液を調製した。各水溶液10Lを、上記実施例6〜7で作製した吸着フィルターを、既存の10インチのフィルターカートリッジに取り付け、流速1L/分の速度で透過させ、吸着フィルターを通過した液の濃度変化を確認した。尚、濃度変化による区分を下記のとおりとした。
<判定区分>
ブランク(吸着材による処理をしていない元の水溶液)に対し0〜20%減少・・・1
ブランクに対し20〜40%減少・・・2
ブランクに対し40〜60%減少・・・3
ブランクに対し60〜80%減少・・・4
ブランクに対し80〜100%減少・・・5
結果を以下の表1に示す。
【0048】
【表1】

(水中での強度)
精製水中に吸着剤を投入し、1時間揺動させ、形状の崩壊状態を確認した。
【0049】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の第3実施形態の製造方法によって製造されるアニオン吸着材を示す斜視図
【符号の説明】
【0051】
1 シート状成型品
2 粉粒体(水酸化セリウム水和物)
3 多孔性芯体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化セリウム及び繊維材を含有する組成物を、結合剤を使用せずに一体に多孔質に成型してなるアニオン吸着材。
【請求項2】
前記繊維材同士が絡み合っており、その隙間に前記水酸化セリウムが補足されている請求項1に記載のアニオン吸着材。
【請求項3】
繊維材を含む布によって水酸化セリウムを包み込んで一体化したアニオン吸着材。
【請求項4】
前記水酸化セリウムは、4価の水酸化セリウムの水和物である請求項1〜3のいずれか1項に記載のアニオン吸着材。
【請求項5】
請求項1又は2のいずれか1項に記載されるアニオン吸着材の製造方法であって、前記製造方法は以下の工程:
1.繊維材と、水酸化セリウム水和物の粉粒体とを水中に分散させる工程;
2.前記水中に分散させた繊維材と、水酸化セリウム水和物の粉粒体とを抄造する工程;
3.前記抄造工程により成型された成型品を乾燥する工程;
を包含するアニオン吸着材の製造方法。
【請求項6】
前記繊維材が、無機繊維と有機繊維とから構成される請求項5に記載のアニオン吸着材の製造方法。
【請求項7】
請求項3に記載されるアニオン吸着材の製造方法であって、前記製造方法は以下の工程:
1.繊維材を水中に分散させる工程;
2.前記水中に分散させた繊維材を抄造する工程;
3.前記抄造工程によりシート状に成型された成型品によって水酸化セリウム水和物の粉粒体を包み込んで一体化する工程;
を包含するアニオン吸着材の製造方法。
【請求項8】
前記水酸化セリウム水和物の粉粒体は、その粒径の大きさが、前記抄造工程により成型される成型品の有する平均孔径よりも大きいものを選択使用する請求項5〜7のいずれか1項に記載のアニオン吸着材の製造方法。
【請求項9】
請求項1又は2のいずれか1項に記載されるアニオン吸着材の製造方法であって、前記製造方法は以下の工程:
1.繊維材と、水酸化セリウム水和物の粉粒体とを混合する工程;
2.前記繊維材と、水酸化セリウム水和物の粉粒体との混合物を造粒する工程;
を包含するアニオン吸着材の製造方法。
【請求項10】
請求項1又は2のいずれか1項に記載されるアニオン吸着材の製造方法であって、前記製造方法は以下の工程:
1.繊維材と、水酸化セリウム水和物の粉粒体とを混合して綿状化する工程;
2.前記綿状化した繊維材と、水酸化セリウム水和物の粉粒体との混合物を集綿する工程;
を包含するアニオン吸着材の製造方法。
【請求項11】
請求項3に記載されるアニオン吸着材の製造方法であって、繊維材を含む布によって水酸化セリウム水和物の粉粒体を包み込んで一体化する工程を包含するアニオン吸着材の製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2007−98365(P2007−98365A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−295653(P2005−295653)
【出願日】平成17年10月7日(2005.10.7)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】