説明

アニオン性薬物封入ナノ粒子の製造方法及びそれを用いた医薬製剤

【課題】 ナノ粒子へのアニオン性薬物の封入率を高めるとともに、簡便且つ低コストで環境負荷も少ない生体適合性ナノ粒子の製造方法及びアニオン性薬物封入ナノ粒子を用いた医薬製剤を提供する。
【解決手段】 ポリビニルアルコールとカチオン性高分子とを溶解させた水溶液と、少なくともアニオン性薬物の溶液と生体適合性高分子とを有機溶媒に混合した溶液とを混合し、アニオン性薬物が生体適合性高分子中に封入されたアニオン性薬物封入ナノ粒子の懸濁液とする。次に、アニオン性薬物封入ナノ粒子の懸濁液から有機溶媒を留去した後、外層封入工程においてアニオン性薬物封入ナノ粒子の外層にさらにアニオン性薬物を封入する。これにより、粒子内部及び外層を合わせたトータルのアニオン性薬物の封入率を高めたDDS用途に好適なナノ粒子となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体適合性の高分子に遺伝子や核酸等のアニオン性薬物を封入した生体適合性ナノ粒子の製造方法及びそれを用いた医薬製剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ヒトゲノムの全塩基配列が解読され、種々の病気が遺伝子疾患を原因として発症することが明らかにされてきており、今後もより多くの病気と遺伝子との関係が解明されると思われる。そして、これらの情報を元に、遺伝子疾患により発症する病気を遺伝子レベルで根本的に治療する、いわゆる遺伝子治療が、難治療性疾患に対する新たな治療戦略として注目されている。
【0003】
この遺伝子治療には、細胞に二本鎖RNA(siRNA)を導入することにより、それと同じ配列を持つ欠陥遺伝子の発現(タンパク質合成)を抑制する方法(RNA干渉)や、染色体DNAとは独立して存在する環状DNA(プラスミドDNA)を患者の体内に導入する方法等が知られているが、遺伝子治療による治療効果は、疾患部位に如何に効率良く且つ安全に遺伝子を導入し、作用させるかによって決まる。
【0004】
現在用いられている遺伝子導入法としては、ウイルスのDNAに導入遺伝子を組み込んで遺伝子組み換えウイルスを作製し、ウイルスの感染機構を利用して遺伝子を導入するウイルスベクター法が挙げられる。しかしながら、ウイルスベクター法では遺伝子の導入効率は高い反面、ウイルスに起因する副作用の問題があり、安全性の面で十分とはいえなかった。
【0005】
そこで、薬物が患部に到達するまで吸収・分解されないようにして、過剰な薬物投与を抑える技術、いわゆるDrug Delivery System(以下、DDSという)を利用して遺伝子を導入する技術が盛んに研究されている。DDSは、薬物を膜(キャリアー)で包むことにより、途中で吸収・分解されることなく、目標とする患部に薬物を効果的かつ集中的に送り込み、患部で薬物を放出させる技術であり、薬物の治療効果を高めるだけでなく、副作用の軽減も期待できるというメリットがある。
【0006】
DDSを利用した遺伝子導入法としては、リポソームを導入遺伝子のキャリアー(ベクター)として用いるリポソーム法が考案され実用化されている。しかし、リポソーム法では、リポソームがリン脂質であるため人体に対する安全性は高い反面、遺伝子の導入効率及び効果の持続性の面で十分ではなかった。
【0007】
DDSにおいてキャリアーの素材となる生体適合性高分子は、生体への刺激・毒性が低く、生体適合性で、投与後分解して代謝される生体内分解性のものが望ましい。また、内包する薬物を持続して徐々に放出する粒子であることが好ましい。このような素材として、例えば特許文献1〜3に開示されているように、ポリ乳酸・グリコール酸共重合体(以下、PLGAという)が好適に用いられている。PLGAは薬物を内包可能であり、当該薬物の効力を保持したまま長期間保存できることが知られている。さらに、PLGAの加水分解・長期半減期の特徴から、数日から1ヶ月単位の徐放ができると考えられる。
【0008】
このようなPLGAナノ粒子は、一般に、良溶媒に溶解させた薬物溶液を、撹拌下、薬物を溶解し難い貧溶媒中に滴下することで、薬物の結晶を析出させる球形晶析法を用いて製造される。球形晶析法では、物理化学的な手法でナノ粒子を形成でき、しかも得られるナノ粒子が略球形であるため、均質なナノ粒子を、触媒や原料化合物の残留といった問題を考慮する必要なく、容易に形成することができる。しかしながら、貧溶媒として水相を用いた場合、一般に水に対する溶解度の高い親水性の薬物は、晶析時に良溶媒の拡散に伴い貧溶媒中へ拡散してしまうため、親水性の遺伝子や核酸を高封入率でナノ粒子内に封入することは困難であった。
【0009】
そこで、ナノ粒子内への薬物の封入率を高める方法が種々提案されており、例えば特許文献1には、ポリマー基質のカプセル内に封入する前に核酸をアルコール沈殿させることにより、カプセル内への核酸の取り込み率を向上させる方法が開示されている。また、特許文献4には、酸性基を有する生理活性物質の封入率を高めるために生体内分解性ポリマーに塩基性基を導入する方法が開示されている。
【0010】
しかし、特許文献1の方法では、核酸をアルコール沈殿させる工程が別途必要となり、製造工程数が増加する。また、特許文献4の方法は、酸性基を有する生理活性物質以外への適用が困難であり、また生体内分解性ポリマーへの塩基性基の導入が必要となるため、製造コスト面でも不利となる。
【0011】
また、特許文献5には、生分解性ポリマーと酸化亜鉛との有機溶媒溶液に生理活性ポリペプチドを分散させた後、有機溶媒を除去することにより、生理活性ポリペプチドの封入率を高めた徐放性薬剤の製造方法が、特許文献6には、生分解性ポリマーの水溶液に水混和性有機溶媒或いは揮発性の塩類を添加して凍結乾燥することにより、生理活性ポリペプチドの封入率を高めた徐放性薬剤の製造方法がそれぞれ開示されており、生分解性ポリマーとしてPLGAを用いることも記載されている。
【0012】
さらに特許文献7には、ポリマー粒子を核酸溶液中に浸漬して粒子表面に核酸を担持させ、粒子の表面から迅速に放出される核酸分子が標的細胞によって取り込まれることにより、細胞中で遺伝子の効果を発現させる方法が、特許文献8には、PLGAナノ粒子の表面を表面改質剤で被覆した表面改質ナノ粒子が開示されている。
【0013】
しかしながら、特許文献5、6の方法では、PLGAに対する生理活性ポリペプチドの封入率は向上できるものの、ポリペプチド以外の親水性薬物に適用可能である旨の記載はなく、遺伝子や核酸等のアニオン性薬物一般の封入率を高める方法としては十分ではなかった。一方、特許文献7の方法では、核酸が粒子表面にのみ担持されているため、効果発現の持続性の点で満足できるものではなかった。また、特許文献8の方法は、ナノ粒子を生体内組織へ結合させ、薬効の持続性を高めるとともにナノ粒子内の薬剤を保護するための技術であり、核酸や遺伝子等のアニオン性薬物の封入率を高める効果については何ら記載されていなかった。
【0014】
一方、非特許文献1には、PLGAナノ粒子の表面をキトサンで修飾し、さらに内部に封入するpDNAを、N-[1-(2,3-Dioleoyloxy)propyl]-N,N,N-trimethylammonium salts(DOTAP)と複合体を形成させることにより、細胞内取り込み量及び遺伝子発現効率を向上させるとともに、pDNAの封入率を高める方法が開示されている。
【0015】
しかし、DOTAPのようなカチオン性脂質は、一般的に遺伝子の細胞内導入及び発現を向上させる反面、細胞毒性を示すことが知られており、ナノ粒子内に封入した場合に安全性の面で問題があった。また、DDS用途に使用する場合、標的部位への遺伝子の送達効率をさらに向上させ、且つ剤型をより小型化するためには、ナノ粒子内への遺伝子の封入率をより一層高める方法が求められていた。
【特許文献1】特表2001−509178号公報
【特許文献2】特表2001−519177号公報
【特許文献3】特開平9−71542号公報
【特許文献4】特開平10−72375号公報
【特許文献5】特開平10−231252号公報
【特許文献6】特開平11−322631号公報
【特許文献7】特開2003−516365号公報
【特許文献8】特表平10−511957号公報
【非特許文献1】坂井剛志、山本浩光、竹内洋文、川島嘉明「第20回製剤と粒子設計シンポジウム講演要旨集」(2004年11月11日)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記問題点に鑑み、ナノ粒子へのアニオン性薬物の封入率を高めるとともに、簡便且つ低コストで環境負荷も少ない生体適合性ナノ粒子の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明の他の目的は、アニオン性薬物を標的部位まで効率良く送達でき、即効性及び持続性を兼ね備えるとともに、安全性も高いDDS用途に好適な医薬製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために本発明の第1の構成は、ポリビニルアルコール及びカチオン性高分子を溶解させた水溶液に、少なくともアニオン性薬物の溶液と生体適合性高分子を有機溶媒に溶解させた溶液との混合液を加えて、前記アニオン性薬物が前記生体適合性高分子中に封入されたアニオン性薬物封入ナノ粒子の懸濁液を生成するナノ粒子形成工程と、前記アニオン性薬物封入ナノ粒子の懸濁液から有機溶媒を留去する溶媒留去工程と、前記アニオン性薬物封入ナノ粒子の外層にさらにアニオン性薬物を封入する外層封入工程と、を有することを特徴とするアニオン性薬物封入ナノ粒子の製造方法である。
【0018】
なお、本明細書中においてアニオン性薬物とは、水溶液中でアニオン分子として存在するような有機薬物を指すものとする。
【0019】
また本発明の第2の構成は、上記構成のナノ粒子の製造方法において、前記外層封入工程が、前記アニオン性薬物封入ナノ粒子を結合剤により複合化するとともに、前記結合剤にアニオン性薬物を添加することにより、前記アニオン性薬物封入ナノ粒子の表面に形成される結合剤層にアニオン性薬物を封入する複合化工程によって構成されることを特徴としている。
【0020】
また本発明の第3の構成は、上記構成のナノ粒子の製造方法において、前記外層封入工程が、前記アニオン性薬物封入ナノ粒子を凍結乾燥するとともに、凍結乾燥前の前記アニオン性薬物封入ナノ粒子の懸濁液にアニオン性薬物を添加することにより、前記カチオン性高分子で被覆された前記アニオン性薬物封入ナノ粒子の表面にアニオン性薬物を静電気的に担持させる凍結乾燥工程によって構成されることを特徴としている。
【0021】
また本発明の第4の構成は、上記構成のナノ粒子の製造方法において、前記外層封入工程で添加する前記アニオン性薬物の前記生体適合性高分子に対する重量比が0.001以上1.0以下であることを特徴としている。
【0022】
また本発明の第5の構成は、上記構成のナノ粒子の製造方法において、前記アニオン性薬物が、核酸化合物であることを特徴としている。
【0023】
また本発明の第6の構成は、上記構成のナノ粒子の製造方法において、前記核酸化合物が、プラスミドDNA、遺伝子、siRNA、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、アプタマーから選ばれた1種以上であることを特徴としている。
【0024】
また本発明の第7の構成は、上記構成のナノ粒子の製造方法において、前記カチオン性高分子が、キトサンであることを特徴としている。
【0025】
また本発明の第8の構成は、上記構成のナノ粒子の製造方法において、前記生体適合性高分子が、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸・グリコール酸共重合体、若しくは乳酸・アスパラギン酸共重合体のいずれかであることを特徴としている。
【0026】
また本発明の第9の構成は、上記構成のナノ粒子の製造方法において、前記生体適合性高分子を有機溶媒に溶解させた溶液に混合する前記アニオン性薬物の前記生体適合性高分子に対する重量比が0.001以上1.0以下であることを特徴としている。
【0027】
また本発明の第10の構成は、上記構成のナノ粒子の製造方法において、前記溶媒留去工程の後に、さらに前記アニオン性薬物封入ナノ粒子の懸濁液からポリビニルアルコールを除去する除去工程を有することを特徴としている。
【0028】
また本発明の第11の構成は、アニオン性薬物を生体適合性ナノ粒子の内部及び外層に封入して成るアニオン性薬物封入ナノ粒子を含む医薬製剤である。
【0029】
また本発明の第12の構成は、上記構成の医薬製剤において、前記生体適合性ナノ粒子は、結合剤によって複合化されており、当該ナノ粒子の表面に形成される結合剤層にアニオン性薬物が封入されていることを特徴としている。
【0030】
また本発明の第13の構成は、上記構成の医薬製剤において、前記生体適合性ナノ粒子は、カチオン性高分子で被覆されることにより正の電位を有しており、当該ナノ粒子の表面にアニオン性薬物が静電気的に担持されていることを特徴としている。
【0031】
また本発明の第14の構成は、上記構成の医薬製剤において、前記カチオン性高分子が、キトサンであることを特徴としている。
【0032】
また本発明の第15の構成は、上記構成の医薬製剤において、前記アニオン性薬物が、核酸化合物であることを特徴としている。
【0033】
また本発明の第16の構成は、上記構成の医薬製剤において、前記核酸化合物が、プラスミドDNA、遺伝子、siRNA、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、アプタマーから選ばれた1種以上であることを特徴としている。
【0034】
また本発明の第17の構成は、上記構成の医薬製剤において、前記生体適合性ナノ粒子を構成する生体適合性高分子が、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸・グリコール酸共重合体、若しくは乳酸・アスパラギン酸共重合体のいずれかであることを特徴としている。
【0035】
また本発明の第18の構成は、上記構成の医薬製剤において、前記アニオン性薬物封入ナノ粒子の平均粒子径が10nm以上1,000nm以下であることを特徴としている。
【0036】
また本発明の第19の構成は、上記構成の医薬製剤において、前記アニオン性薬物封入ナノ粒子の平均粒子径が10nm以上100nm以下であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0037】
本発明の第1の構成によれば、従来の球形晶析法では封入が困難であったアニオン性薬物をナノ粒子内部に高封入率で封入するとともに、外層封入工程においてナノ粒子外層にもさらにアニオン性薬物を封入することができ、粒子内部及び外層を合わせたトータルのアニオン性薬物の封入率を高めた生体適合性ナノ粒子を製造することができる。
【0038】
また、本発明の第2の構成によれば、上記第1の構成のナノ粒子の製造方法において、結合剤によってナノ粒子を複合化するとともに、ナノ粒子表面に形成される結合剤層にアニオン性薬物を封入することにより、簡便な方法でナノ粒子の外層にアニオン性薬物を封入可能となる。さらに、容器への充填時に取り扱いが容易で使用時には再分散可能な凝集粒子となるため、ナノ粒子の取り扱い性も向上する。
【0039】
また、本発明の第3の構成によれば、上記第1の構成のナノ粒子の製造方法において、ナノ粒子を凍結乾燥する際に、凍結乾燥前のアニオン性薬物封入ナノ粒子の懸濁液にさらにアニオン性薬物を添加してナノ粒子の表面にアニオン性薬物を静電気的に担持させることにより、結合剤を用いる場合に比べてナノ粒子の粒子径を増大させることなくナノ粒子の表面にアニオン性薬物を付着可能となる。
【0040】
また、本発明の第4の構成によれば、上記第2又は第3の構成のナノ粒子の製造方法において、外層封入工程で添加するアニオン性薬物の生体適合性高分子に対する重量比を0.001以上1.0以下とすることにより、アニオン性薬物の添加量を、ナノ粒子外層への封入率を低下させず、且つナノ粒子外層へ封入されない余剰薬剤の発生を抑制する適度な添加量とすることができる。
【0041】
また、本発明の第5の構成によれば、上記第1乃至第4のいずれかの構成のナノ粒子の製造方法において、アニオン性薬物として核酸化合物を用いることにより、DDSを利用した安全且つ効率的な遺伝子導入法に利用できる、核酸化合物を高封入率で封入した生体適合性ナノ粒子を低コストで提供可能となる。
【0042】
また、本発明の第6の構成によれば、上記第5の構成のナノ粒子の製造方法において、核酸化合物として、プラスミドDNA、遺伝子、siRNA、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、アプタマーから選ばれた1種以上を用いることにより、遺伝子解析ツールや遺伝子治療薬の原料として特に好適な核酸化合物封入ナノ粒子を容易に且つ低コストで提供可能となる。
【0043】
また、本発明の第7の構成によれば、上記第1乃至第6のいずれかの構成のナノ粒子の製造方法において、カチオン性高分子として生分解性のキトサンを用いることにより、生体への悪影響がなく、安全性の高いアニオン性薬物封入ナノ粒子を製造することができる。
【0044】
また、本発明の第8の構成によれば、上記第1乃至第7のいずれかの構成のナノ粒子の製造方法において、生体適合性高分子として、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸・グリコール酸共重合体、若しくは乳酸・アスパラギン酸共重合体のいずれかを用いることにより、生体への刺激・毒性が低くアニオン性薬物を内包可能であり、且つアニオン性薬物の効力を保持したまま長期間保存できるとともに、生体適合性高分子の分解によりアニオン性薬物の徐放が可能なナノ粒子を製造することができる。
【0045】
また、本発明の第9の構成によれば、上記第1乃至第8のいずれかの構成のナノ粒子の製造方法において、生体適合性高分子を有機溶媒に溶解させた溶液に混合するアニオン性薬物の生体適合性高分子に対する重量比を0.001以上1.0以下とすることにより、アニオン性薬物の添加量を、ナノ粒子内部への封入率及び添加量に対する封入効率を共に向上させる適度な添加量とすることができる。
【0046】
また、本発明の第10の構成によれば、上記第1乃至第9のいずれかの構成のナノ粒子の製造方法において、溶媒留去工程の後に、さらにナノ粒子含有溶液からポリビニルアルコールを除去する除去工程を設けることにより、高濃度のポリビニルアルコール水溶液を用いてナノ粒子を形成した後、余剰のポリビニルアルコールを除去することができ、ナノ粒子中に封入されるアニオン性薬物の封入率を安定させることができる。
【0047】
また、本発明の第11の構成によれば、ナノ粒子の内部に加えて外層にもアニオン性薬物が封入されたナノ粒子を用いるため、製剤中のアニオン性薬物含量を高めて標的部位まで効率良く送達することができ、且つ剤形の小型化も可能な医薬製剤が提供される。また、ナノ粒子の外層に封入されたアニオン性薬物により製剤の即効性を高めることができ、ナノ粒子の内部に封入されたアニオン性薬物を徐々に放出させることにより製剤の持続性を高めることができる。
【0048】
また、本発明の第12の構成によれば、上記第11の構成の医薬製剤において、表面に形成される結合剤層にアニオン性薬物が封入されたナノ粒子を用いるため、製剤中のアニオン性薬物含量が高く、取り扱いも容易な医薬製剤を低コストで提供できる。
【0049】
また、本発明の第13の構成によれば、上記第11の構成の医薬製剤において、カチオン性高分子の被覆により正の電位を有するような生体適合性ナノ粒子の表面へアニオン性薬物を静電気的に付着させたナノ粒子を用いるため、ナノ粒子の粒子径を増大させずに封入率を高めることができ、DDS製剤として用いた場合に細胞内へのナノ粒子の取り込み性が向上する。
【0050】
また、本発明の第14の構成によれば、上記第13の構成の医薬製剤において、カチオン性高分子として生分解性のキトサンを用いることにより、生体への悪影響がなく、安全性の高い医薬製剤が提供できる。
【0051】
また、本発明の第15の構成によれば、上記第11乃至第14のいずれかの構成の医薬製剤において、ナノ粒子内に封入されるアニオン性薬物として核酸化合物を用いることにより、DDSを利用した安全且つ効率的な遺伝子導入法として用いられる医薬製剤となる。
【0052】
また、本発明の第16の構成によれば、上記第15の構成の医薬製剤において、核酸化合物として、プラスミドDNA、遺伝子、siRNA、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、アプタマーから選ばれた1種以上を用いることにより、遺伝子解析ツールや遺伝子治療薬として特に好適な医薬製剤となる。
【0053】
また、本発明の第17の構成によれば、上記第11乃至第16のいずれかの構成の医薬製剤において、生体適合性高分子として、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸・グリコール酸共重合体、若しくは乳酸・アスパラギン酸共重合体のいずれかを用いることにより、生体への刺激・毒性が低くアニオン性薬物を内包可能であり、且つアニオン性薬物の効力を保持したまま長期間保存できるとともに、生体適合性高分子の分解によりアニオン性薬物の徐放が可能な医薬製剤を提供できる。
【0054】
また、本発明の第18の構成によれば、上記第11乃至第17のいずれかの構成の医薬製剤において、平均粒子径が10nm以上1,000nm以下のアニオン性薬物封入ナノ粒子を用いることにより、アニオン性薬物の封入率及び患部への到達効率を共に高めた医薬製剤となる。
【0055】
また、本発明の第19の構成によれば、上記第11乃至第17のいずれかの構成の医薬製剤において、平均粒子径が10nm以上100nm以下のアニオン性薬物封入ナノ粒子を用いることにより、標的部位に送達されたナノ粒子が細胞膜のエンドサイトーシスを受けて細胞内に取り込まれ、高い遺伝子発現率を実現する。また、外用薬剤に用いる場合に皮膚への浸透性が非常に高いナノ粒子となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0056】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。本発明のアニオン性薬物封入ナノ粒子の製造方法は、薬物および生体適合性高分子を1,000nm未満の平均粒径を有するナノ単位の大きさの粒子(ナノスフェア)に加工することができる球形晶析法を用いて、ナノ粒子の内部にアニオン性薬物を封入するとともに、ナノ粒子表面にもアニオン性薬物を付着させるものである。球形晶析法は高剪断力を発生しない粒子調製法であるため、特に、アニオン性薬物が外部応力に弱い核酸化合物である場合にも好適に用いることができる。
【0057】
球形晶析法は、化合物合成の最終プロセスにおける結晶の生成・成長プロセスを制御することで、球状の結晶粒子を設計し、その物性を直接制御して加工することができる方法である。この球形晶析法の一つに、エマルジョン溶媒拡散法(ESD法)がある。
【0058】
ESD法は、次に示すような原理によって、ナノスフェアを製造する技術である。本法には、薬物を封入する基剤ポリマーとなるPLGA等を溶解できる良溶媒と、これとは逆にPLGAを溶解しない貧溶媒の二種類の溶媒が用いられる。この良溶媒には、PLGAを溶解し、且つ貧溶媒へ混和するアセトン等の有機溶媒を用いる。そして、貧溶媒には、通常、ポリビニルアルコール水溶液等を用いる。
【0059】
操作手順としては、まず、良溶媒中にPLGAを溶解後、このPLGAが析出しないように、薬物溶解液を良溶媒中へ添加混合する。このPLGAと薬物の混合液を、貧溶媒中に攪拌下、滴下すると、混合液中の良溶媒(有機溶媒)が貧溶媒中へ急速に拡散移行する。その結果、貧溶媒中で良溶媒の自己乳化が起き、サブミクロンサイズの良溶媒のエマルジョン滴が形成される。さらに、良溶媒と貧溶媒の相互拡散により、エマルジョン内から有機溶媒が貧溶媒へと継続的に拡散していくので、エマルジョン滴内のPLGA並びに薬物の溶解度が低下し、最終的に、薬物を包含した球形結晶粒子のPLGAナノスフェアが生成する。
【0060】
上記球形晶析法では、物理化学的な手法でナノ粒子を形成でき、しかも得られるナノ粒子が略球形であるため、均質なナノ粒子を、触媒や原料化合物の残留といった問題を考慮する必要がなく、容易に形成することができる。その後、良溶媒である有機溶媒を減圧留去し(溶媒留去工程)、薬物含有ナノ粒子粉末を得る。そして、得られた粉末をそのまま、或いは必要に応じて凍結乾燥等により粉末化させる際に再分散可能な凝集粒子に複合化し(複合化工程)、複合粒子とした後、容器内に充填して薬物含有ナノ粒子とする。
【0061】
上記球形晶析法で用いられる良溶媒および貧溶媒の種類は、目的となる薬物の種類等に応じて決定されるものであり特に限定されるものではないが、アニオン性薬物封入ナノ粒子は、人体へ直接投与する医薬製剤の原料として用いられるため、人体に対して安全性が高く、且つ環境負荷の少ないものを用いる必要がある。
【0062】
このような貧溶媒としては、水、或いは界面活性剤を添加した水が挙げられるが、例えば界面活性剤としてポリビニルアルコールを添加したポリビニルアルコール水溶液が好適に用いられる。ポリビニルアルコール以外の界面活性剤としては、レシチン、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。なお、溶媒留去工程の後に、遠心分離等により余剰のポリビニルアルコールを除去する工程(除去工程)を設けても良い。
【0063】
良溶媒としては、低沸点且つ難水溶性の有機溶媒であるハロゲン化アルカン類、アセトン、メタノール、エタノール、エチルアセテート、ジエチルエーテル、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン等が挙げられるが、例えば環境や人体に対する悪影響が少ないアセトンのみ、若しくはアセトンとエタノールの混合液が好適に用いられる。
【0064】
ポリビニルアルコール水溶液の濃度、或いはアセトンとエタノールの混合比や、結晶析出時の条件や機械的剪断力の加え方も特に限定されるものではなく、目的となる薬物の種類や、球形造粒結晶の粒径(本発明の場合ナノオーダー)等に応じて適宜決定すればよいが、ポリビニルアルコール水溶液の濃度が高いほどナノ粒子表面へのポリビニルアルコールの付着が良好となり、乾燥後の水への再分散性が向上する反面、ポリビニルアルコール水溶液の濃度が所定以上になると、貧溶媒の粘度が上昇して良溶媒の拡散性に悪影響を与える。そのため、ポリビニルアルコールの重合度やけん化度によっても異なるが、ナノ粒子形成工程後に除去工程を設ける場合は0.1重量%以上10重量%以下が好ましく、2%程度がより好ましい。なお、除去工程を設けない場合は0.5重量%以下とすることが好ましい。
【0065】
本発明においては、貧溶媒にカチオン性高分子を添加することで、ナノ粒子内部へのアニオン性薬物の封入率を高めるとともに、さらに複合化工程においてナノ粒子表面にアニオン性薬物を付着させることにより、粒子内部及び表面を合わせたトータルのアニオン性薬物の封入率を高めたことを特徴とするものである。
【0066】
従来の球形晶析法を用いてアニオン性薬物を封入したナノ粒子を製造しようとすると、良溶媒中に分散混合した水溶性のアニオン性薬物が貧溶媒中に漏出、溶解してしまい、ナノ粒子を形成する高分子だけが沈積するため、アニオン性薬物がほとんど封入されなかった。これに対し、カチオン性高分子を貧溶媒中に添加した場合は、ナノ粒子表面に吸着したカチオン性高分子がエマルション滴表面に存在するアニオン性薬物と相互作用し、貧溶媒中へのアニオン性薬物の漏出を抑制できるものと考えられる。
【0067】
本発明に用いられるカチオン性高分子としては、キトサン及びキトサン誘導体、セルロースに複数のカチオン基を結合させたカチオン化セルロース、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン等のポリアミノ化合物、ポリオルニチン、ポリリジン等のポリアミノ酸、ポリビニルイミダゾール、ポリビニルピリジニウムクロリド、アルキルアミノメタクリレート4級塩重合物(DAM)、アルキルアミノメタクリレート4級塩・アクリルアミド共重合物(DAA)等が挙げられるが、特にキトサン或いはその誘導体が好適に用いられる。
【0068】
キトサンは、エビやカニ、昆虫の外殻に含まれる、アミノ基を有する糖の1種であるグルコサミンが多数結合したカチオン性の天然高分子であり、乳化安定性、保形性、生分解性、生体適合性、抗菌性等の特徴を有するため、化粧品や食品、衣料品、医薬品等の原料として広く用いられている。このキトサンを貧溶媒中に添加することにより、生体への悪影響がなく、安全性の高いアニオン性薬物封入ナノ粒子を製造することができる。
【0069】
なお、良溶媒中でのアニオン性薬物の親和性及び分散安定性を向上させるため、良溶媒中にDOTAP等のカチオン性脂質を添加し、アニオン性薬物と複合体を形成させても良い。但し、細胞内において放出されたカチオン性脂質により細胞障害性を示すおそれがあるため、添加量には注意が必要である。
【0070】
次に、ナノ粒子表面にアニオン性薬物を付着させる方法について説明する。ここでは、凍結乾燥によりナノ粒子を複合化する際、ナノ粒子表面へアニオン性薬物を静電気的に担持させる方法と、複合化の際に結合剤と共にアニオン性薬物を添加することにより、結合剤により形成される外層にアニオン性薬物を封入する方法とを例に挙げて説明する。
【0071】
(静電気的付着法)
アニオン性薬物をナノ粒子表面へ静電気的に担持させるためには、ナノ粒子表面が正のゼータ電位を有するように帯電させておく必要がある。一般に、液体中に分散された粒子の多くは正又は負に帯電しており、逆の電荷を有するイオンが粒子表面に強く引き寄せられ固定された層(固定層)と、その外側に存在する層(拡散層)とで、いわゆる拡散電気二重層が形成されており、拡散層の内側の一部と固定層とが粒子と共に移動するものと推定される。
【0072】
ゼータ電位は、粒子から十分に離れた電気的に中性な領域の電位を基準とした場合の、上記移動が生じる面(滑り面)の電位である。ゼータ電位の絶対値が増加すれば、粒子間の反発力が強くなって粒子の安定性は高くなり、逆にゼータ電位が0に近づくにつれて粒子は凝集を起こしやすくなる。そのため、ゼータ電位は粒子の分散状態の指標として用いられている。
【0073】
上記ナノ粒子形成工程においてカチオン性高分子を貧溶媒中に添加すると、形成されたナノ粒子の表面がカチオン性高分子により修飾(被覆)され、粒子表面のゼータ電位が正となる。その後、凍結乾燥によりナノ粒子を複合化する際に、アニオン性薬物をさらに添加することにより、水溶液中で負の電荷を持つアニオン分子となったアニオン性薬物が静電気的相互効果により粒子表面に所定量担持される。従って、ナノ粒子内部への封入が極めて困難であった核酸、遺伝子等のアニオン性薬物の、ナノ粒子内部及び表面を合わせたトータルの封入率を高めることができる。
【0074】
アニオン性薬物が粒子表面に静電気的に担持されたナノ粒子の構造を図1に示す。生体適合性ナノ粒子(以下、単にナノ粒子という)1の表面はポリビニルアルコール2で被覆され、さらにその外側をカチオン性高分子3で被覆されており、カチオン性高分子3により正のゼータ電位を有している。アニオン性薬物4は、ナノ粒子1の内部に封入されるとともに粒子表面にも静電気的に担持されている。
【0075】
また、凍結乾燥の前に、遠心分離等により余剰のポリビニルアルコールを除去する除去工程を設ける場合は、ポリビニルアルコールと共に粒子表面のカチオン性高分子も除去されてしまう可能性がある。そのため、除去工程の後に再度ナノ粒子をカチオン性高分子溶液に浸漬する工程を設けることが好ましい。
【0076】
なお、カチオン性高分子の中でもカチオン性のより強いものを用いることにより、ゼータ電位がより大きな正の値となるため、粒子表面により多くのアニオン性薬物を担持可能になるとともに、粒子間の反発力が強くなって粒子の安定性も高くなる。例えば、元来カチオン性であるキトサンの一部を第四級化することで、さらにカチオン性を高めた塩化N−[2−ヒドロキシ−3−(トリメチルアンモニオ)プロピル]キトサン等のキトサン誘導体(カチオニックキトサン)を用いることが好ましい。
【0077】
(結合剤を用いた付着法)
また、ナノ粒子を結合剤と共に再分散可能な凝集粒子(ナノコンポジット)に複合化し、結合剤により形成される外層にアニオン性薬物を封入することにより、ナノ粒子の表面にさらにアニオン性薬物を付着させる方法を用いることもできる。このようなナノコンポジットの構造を図2に示す。ナノコンポジット5は、生体適合性ナノ粒子1を結合剤6により複合化して成り、アニオン性薬物4は、ナノ粒子1の内部のみでなく、結合剤6で形成されたナノ粒子1の外層にも封入されている。
【0078】
結合剤は、複合化の際にナノ粒子の外層を形成するとともに、容器への充填時や使用時にナノ粒子の取り扱い性を高める作用も兼ね備えている。このような結合剤としては、例えばマンニトール、トレハロース、ソルビトール、エリスリトール、マルトース、キシリトース等の糖アルコールやショ糖等が挙げられる。
【0079】
ナノ粒子の複合化方法としては、凍結乾燥法が好適に用いられる。また、流動層乾燥造粒法または乾式機械的粒子複合化法(例えば、メカノフュージョンシステムAMS(ホソカワミクロン(株)製)を使用して圧縮力および剪断力を加えること)により複合化しても良い。特に、流動層乾燥造粒法の中でも粒子化する材料を含む混合物を流動ガス中に噴霧する噴霧乾燥式流動層造粒法を用いた場合、時間と手間のかかる凍結乾燥工程を省略可能となり、複合粒子を容易に且つ短時間で製造できるため工業化にも有利となる。
【0080】
なお、噴霧乾燥式流動層造粒法においては、結合剤として結晶性の弱い糖アルコールを用いると、複合化の際にアモルファス化してしまい良好に粒子化できなくなる。そのため、結晶性の強いマンニトールを用いることが好ましい。
【0081】
以上のようにして得られた複合粒子は、使用前まではナノ粒子が集まった、取り扱いやすい凝集粒子となっており、使用時に水分に触れることで結合剤が溶解し、結合剤層に保持されていたアニオン性薬物と、アニオン性薬物を内包したナノ粒子とに復元できる複合粒子となる。
【0082】
本発明に用いられる生体適合性高分子は、生体への刺激・毒性が低く、生体適合性で、投与後分解して代謝される生体内分解性のものが望ましい。また、内包する薬剤を持続して徐々に放出する粒子であることが好ましい。このような素材としては、特にPLGAを好適に用いることができる。
【0083】
PLGAの分子量は、5,000〜200,000の範囲内であることが好ましく、15,000〜25,000の範囲内であることがより好ましい。乳酸とグリコール酸との組成比は1:99〜99:1であればよいが、乳酸1に対しグリコール酸0.333であることが好ましい。また、乳酸およびグリコール酸の含有量が25重量%〜65重量%の範囲内であるPLGAは、非晶質であり、かつアセトン等の有機溶媒に可溶であるから、好適に使用される。
【0084】
また、アニオン性薬物は水溶性であるため、PLGAの表面をポリエチレングリコール(PEG)で修飾しておくと、アニオン性薬物とPLGAとの親和性が向上し、封入が容易になるため好ましい。生体適合性高分子としては、ほかに、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリアスパラギン酸等が挙げられる。また、これらのコポリマーであるアスパラギン酸・乳酸共重合体(PAL)やアスパラギン酸・乳酸・グリコール酸共重合体(PALG)を用いても良く、アミノ酸のような荷電基あるいは官能基化し得る基を有していてもよい。
【0085】
上記以外の生体適合性高分子としては、ポリエチレン、ポリプロピレンのようなポリアルキレン、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテルおよびポリビニルエステルのようなポリビニル化合物、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレンテレフタレート、アクリル酸とメタクリル酸とのポリマー、セルロースおよび他の多糖類、ならびにペプチドまたはタンパク質、あるいはそれらのコポリマーまたは混合物が挙げられる。
【0086】
また、ナノ粒子内部に封入されるアニオン性薬物と、表面に付着されるアニオン性薬物との割合は、ナノ粒子を用いて製造される医薬製剤の作用機序や、要求される即効性、持続性の程度等により適宜設定することができる。即ち、薬剤投与後から血中等の目標部位へ到達するまでに時間を要する製剤や、投与後長期間に亘る効果の持続性が要求される製剤の場合は、ナノ粒子内部への封入割合を高くすれば良い。一方、短時間で目標部位に到達する製剤や、投与直後より効果の発現が要求される製剤の場合は、ナノ粒子の表面への付着割合を高くすれば良い。
【0087】
ナノ粒子内部へのアニオン性薬物の封入量は、ナノ粒子形成時に添加するアニオン性薬物の量やカチオン性高分子の種類及び添加量の調整、ナノ粒子を形成する生体適合性高分子の種類により変更可能である。ナノ粒子形成時に有機溶媒に混合するアニオン性薬物量としては、生体適合性高分子に対する重量比が0.001以上1.0以下とすることが好ましい。生体適合性高分子に対する重量比が0.001以下の場合、良溶媒中でのアニオン性薬物の濃度が低すぎてナノ粒子内部への封入率が低くなり、1.0以上の場合、良溶媒中でのアニオン性薬物の分散性が低下して添加量に対する封入効率が悪くなる。
【0088】
一方、ナノ粒子表面へのアニオン性薬物の付着量は、ナノ粒子の表面にアニオン性薬物を静電気的に担持させる場合は、カチオン性高分子の種類及び添加量や凍結乾燥時に添加するアニオン性薬物量の調整により変更可能である。静電気的担持法の場合、凍結乾燥時に追加するアニオン性薬物量としては、生体適合性高分子に対する重量比が0.001以上1.0以下とすることが好ましい。生体適合性高分子に対する重量比が0.001以下の場合、アニオン性薬物の濃度が低すぎてナノ粒子表面への付着率が低くなり、1.0以上の場合、静電気的に担持可能な量を大幅に超えてしまい、ナノ粒子表面へ吸着されない余剰のアニオン性薬物が多くなって付着効率が悪くなる。なお、複合化に用いられる結合剤を外層として封入する場合は、結合剤と共に複合化するアニオン性薬物量の調整により付着量を設定すれば良い。
【0089】
本発明で製造されるアニオン性薬物封入ナノ粒子は、1,000nm未満の平均粒子径を有するものであれば特に制限はないが、例えばDDS用途に用いる場合、標的部位に遺伝子を導入するためナノ粒子を細胞内に取り込ませる必要がある。そのため、より平均粒子径の小さいナノ粒子を製造できる静電気的付着法を用いて製造することが好ましい。標的細胞内への浸透効果を高めるためには、平均粒子径を500nm以下とすることが好ましい。
【0090】
特に、アニオン性薬物として核酸化合物を封入し、標的部位に送達されたナノ粒子が細胞膜のエンドサイトーシスを受けて細胞内に取り込まれることにより、高い遺伝子発現率を実現するためには100nm以下がより好ましい。また、外用薬剤に用いる場合、一般に、皮膚細胞の大きさは15,000nm、皮膚細胞間隔は皮膚の浅い所と深い所でバラツキがあるが、70nm程度であると考えられているため、ナノ粒子の平均粒子径を100nm以下とすることで、皮膚への浸透性が非常に高いナノ粒子となる。
【0091】
このようにして製造されたアニオン性薬物封入ナノ粒子を医薬製剤の原料として用いた場合、高濃度のアニオン性薬物を含有するため剤形の小型化が可能となり、皮下及び静脈注射用、経肺投与用、或いは経皮、経口投与用等の種々の用途に使用することができる。また、経口投与用途に用いる場合は、粒子表面に担持されたアニオン性薬物が消化酵素による分解を受けにくくなるように、キトサンや糖アルコール等の賦形剤を用いて錠剤化するか、カプセル内に充填してカプセル剤とすることが好ましい。
【0092】
本発明の生体適合性ナノ粒子に封入されるアニオン性薬物としては、プラスミドDNA、遺伝子、siRNA、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、アプセター、インターロイキン、細胞間情報伝達物質(サイトカイン)等の核酸化合物、塩化ベンザルコニウム、塩化ベタネコール、臭化ピリドスチグミン等の医薬品、リン酸アスコルビルMg、リン酸アスコルビルNa等が挙げられるが、これらの物質に限定されるものではない。なお、上記アニオン性薬物のうち何れか1種のみを封入しても良いが、効能や作用機序の異なる成分を複数種封入しておけば、各成分の相乗効果により薬効の促進が期待できる。
【0093】
特に、核酸化合物が封入されたナノ粒子を原料とした医薬製剤は、DDSを利用した安全且つ効率的な遺伝子導入法に利用できるため、難治療性の遺伝子疾患に対する有効な治療薬となる。核酸化合物としては、プラスミドDNA、遺伝子、siRNA、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、アプセターが特に好ましい。
【0094】
オリゴヌクレオチドは、プリン又はピリミジンが糖にβ−n−グリコシド結合したヌクレオシドのリン酸エステル(ヌクレオチドATP、GTP、UTP、又はdATP、dGTP、dCTP、dTTP)が複数個(2〜99個)結合した分子であり、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、オリゴヌクレオチドにアンチセンス鎖を導入したものである。
【0095】
アンチセンスとは、タンパク質を合成するメッセンジャーRNA(以下、mRNAという)の塩基配列(センス配列)に対して相補的な塩基配列を表すものであり、通常、細胞内ではDNAからmRNAへ、さらにmRNAからタンパク質へと遺伝子情報が伝達される。この遺伝子情報の伝達を人工的に合成したDNAを用いて遮断する方法をアンチセンス法という。
【0096】
即ち、標的遺伝子のmRNAの塩基配列が明らかであれば、mRNAに相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドを投与し、標的遺伝子の発現のみを特異的に阻害することができる。このアンチセンス法は、アンチセンスの遺伝子阻害効果を調べることにより、生合成プロセスにおける遺伝子の作用を特定する遺伝子解析ツールとして用いられる他、遺伝子の異常による疾患を抑制する遺伝子治療法としても用いられる。
【0097】
リボザイムは、例えばRNA鎖を部位特異的に切断するRNA分子を指す。標的遺伝子がリボザイムの基質になるためには、NUX配列(N:任意の塩基、U:ウラシル、X:グアニン以外の塩基)が存在すれば良く、その両端は塩基対を組んでいれば配列は任意である。従って、ウイルス遺伝子や癌原遺伝子のNUX配列の前後の配列と塩基対を組むようなリボザイムを設計することにより、標的遺伝子の発現のみを特異的に抑制可能となるため、アンチセンスオリゴヌクレオチドと同様に遺伝子治療に用いられる。また、機能を調べたい遺伝子を標的にすれば、遺伝子解析ツールにもなる。
【0098】
アプタマーは、標的分子に特異的に結合し、抗体としての機能を有する核酸のことである。アプタマーは容易に大量合成できるとともに、標的分子のアミノ酸配列の保存度に依存せず、改良が容易であるという利点を持ち、癌原遺伝子の機能阻害(癌抑制)や定量測定(癌診断)、或いは生理活性タンパク質を擬態する遺伝子薬剤への利用が期待されている。
【0099】
その他、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。以下、実施例により本発明のナノ粒子の製造方法について具体的に説明する。
【実施例1】
【0100】
[核酸化合物封入PLGAナノスフェアの調製法]
長さ12mer、配列tgcactacaacaである合成オリゴヌクレオチド(DNA Oligomer(12)SetA01、和光純薬工業(株)製、以下オリゴヌクレオチドと略す)50mgを精製水6mLに溶解させた。生体適合性高分子である乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA:和光純薬工業(株)製PLGA7520)1gをその良溶媒であるアセトン43mLに溶解してポリマー溶液とした後、前記オリゴヌクレオチドの水溶液を添加、混合し混合液とした。また、2重量%のポリビニルアルコール(PVA:ポバール403、クラレ社製)水溶液25mL中に2重量%カチオニックキトサン(モイスコートPX、片倉チッカリン製)水溶液5gを混合し貧溶媒とした。この貧溶媒中に前記混合液を40℃、400rpmで攪拌下、一定速度(4mL/分)で滴下し、良溶媒の貧溶媒中への拡散によってオリゴヌクレオチド封入PLGAナノスフェアの懸濁液を得た。
【0101】
続いて、減圧下アセトンを留去した後、得られたナノスフェアの懸濁液にオリゴヌクレオチド30mgをさらに添加し、−45℃で凍結乾燥し粉末化して、水への再分散性の良好なオリゴヌクレオチド封入PLGAナノスフェア粉末を得た。
【実施例2】
【0102】
7NDプラスミド遺伝子50mgを精製水6mLに溶解させた。生体適合性高分子である乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA:和光純薬製PLGA7520)1gをその良溶媒であるアセトン43mLに溶解してポリマー溶液とした後、前記7NDプラスミド遺伝子の水溶液を添加、混合し混合液とした。また、2重量%のポリビニルアルコール(PVA:ポバール403、クラレ社製)水溶液25mL中に2重量%カチオニックキトサン(モイスコートPX、片倉チッカリン製)水溶液5gを混合し貧溶媒とした。この貧溶媒中に前記混合液を40℃、400rpmで攪拌下、一定速度(4mL/分)で滴下し、良溶媒の貧溶媒中への拡散によって7NDプラスミド遺伝子封入PLGAナノスフェアの懸濁液を得た。
【0103】
続いて、減圧下アセトンを留去した後、得られたナノスフェアの懸濁液に7NDプラスミド遺伝子30mgをさらに添加し、−45℃で凍結乾燥し粉末化して、水への再分散性の良好な7NDプラスミド遺伝子封入PLGAナノスフェア粉末を得た。
【実施例3】
【0104】
オリゴヌクレオチド50mgを精製水6mLに溶解させた。生体適合性高分子であるPEG(ポリエチレングリコール鎖)末端基修飾型乳酸・グリコール酸共重合体(75/25 Poly(D,L-lactide-co-glycolide)PEG6000 nominal、(PEG分子量6,000、PLGA分子量16,900)Birmingham Polymer, inc.製、以下PLGA−PEG6000と略す)1gをその良溶媒であるアセトン43mLに溶解してポリマー溶液とした後、前記オリゴヌクレオチドの水溶液を添加、混合し混合液とした。また、0.1重量%のポリビニルアルコール(PVA:ポバール403、クラレ社製)水溶液100mL中に2重量%カチオニックキトサン(モイスコートPX、片倉チッカリン製)水溶液5gを混合し貧溶媒とした。この貧溶媒中に前記混合液を40℃、400rpmで攪拌下、一定速度(4mL/分)で滴下し、良溶媒の貧溶媒中への拡散によってオリゴヌクレオチド封入PLGA−PEG6000ナノスフェアの懸濁液を得た。
【0105】
続いて、減圧下アセトンを留去した後、得られたナノスフェアの懸濁液にオリゴヌクレオチド30mgをさらに添加し、−45℃で凍結乾燥し粉末化して、水への再分散性の良好なオリゴヌクレオチド封入PLGA−PEG6000ナノスフェア粉末を得た。
【比較例1】
【0106】
オリゴヌクレオチド50mgを精製水6mLに溶解させた。生体適合性高分子である乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA:和光純薬工業(株)製PLGA7520)1gをその良溶媒であるアセトン43mLに溶解してポリマー溶液とした後、前記オリゴヌクレオチドの水溶液を添加、混合し混合液とした。次に、この混合液を、貧溶媒として調製した2重量%のポリビニルアルコール(PVA:ポバール403、クラレ社製)水溶液50mL中に40℃、400rpmで攪拌下、一定速度(4mL/分)で滴下し、良溶媒の貧溶媒中への拡散によってPLGAナノスフェアの懸濁液を得た。
【0107】
続いて、減圧下アセトンを留去した後、遠心分離操作により余剰のポリビニルアルコールを除去し、得られたナノスフェアの懸濁液を−45℃で凍結乾燥し粉末化して、水への再分散性の良好なPLGAナノスフェア粉末を得た。
【比較例2】
【0108】
オリゴヌクレオチド50mgを精製水6mLに溶解させた。また、N-[1-(2,3-Dioleoyloxy)propyl]-N,N,N-trimethylammonium salts(DOTAP、シグマ社製)10mgを精製水1mLに分散させた。生体適合性高分子である乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA:和光純薬工業(株)製PLGA7520)1gをその良溶媒であるアセトン43mLに溶解してポリマー溶液とした後、前記オリゴヌクレオチドの水溶液及びDOTAP分散液を添加して混合液とした。次に、この混合液を、貧溶媒として調製した2重量%のポリビニルアルコール(PVA:ポバール403、クラレ社製)水溶液50mL中に40℃、400rpmで攪拌下、一定速度(4mL/分)で滴下し、良溶媒の貧溶媒中への拡散によってPLGAナノスフェアの懸濁液を得た。
【0109】
続いて、減圧下アセトンを留去した後、遠心分離操作により余剰のポリビニルアルコールを除去し、得られたナノスフェアの懸濁液を−45℃で凍結乾燥し粉末化して、水への再分散性の良好なPLGAナノスフェア粉末を得た。
【比較例3】
【0110】
オリゴヌクレオチド50mgを精製水6mLに溶解させた。生体適合性高分子である乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA:和光純薬工業(株)製PLGA7520)1gをその良溶媒であるアセトン50mLに溶解してポリマー溶液とした後、前記オリゴヌクレオチドの水溶液を添加、混合し混合液とした。また、2重量%のポリビニルアルコール(PVA:ポバール403、クラレ社製)水溶液50mL中に2重量%カチオニックキトサン(モイスコートPX、片倉チッカリン製)水溶液5gを混合し貧溶媒とした。この貧溶媒中に前記混合液を40℃、400rpmで攪拌下、一定速度(4mL/分)で滴下し、良溶媒の貧溶媒中への拡散によってPLGAナノスフェアの懸濁液を得た。
【0111】
続いて、減圧下アセトンを留去した後、遠心分離操作により余剰のポリビニルアルコールを除去し、得られたナノスフェアの懸濁液を−45℃で凍結乾燥し粉末化して、水への再分散性の良好なPLGAナノスフェア粉末を得た。
【実施例4】
【0112】
実施例1〜3及び比較例1〜3で得られたPLGAナノスフェア及びPLGA−PEG6000ナノスフェアを水中へ再分散させた際の平均粒子径を動的光散乱法(測定装置:MICROTRAC UPA、HONEYWELL社製)により測定した。また、アセトン留去後、凍結乾燥後の粒子表面のゼータ電位をゼータ電位計(ZETASIZER Nano−z、Malvern Instruments社製)を用いて測定した。なお、比較例1〜3については遠心分離操後のゼータ電位についても測定した。さらに、分光光度計(V−530、日本分光製)を用いて粒子中のオリゴヌクレオチド及び7NDプラスミド遺伝子の封入率(PLGAナノスフェア又はPLGA−PEG6000ナノスフェアに対するオリゴヌクレオチド又は7NDプラスミド遺伝子の重量比)を定量した。測定結果を表1に示す。また、実施例1〜3のナノスフェアにおける薬物追加添加後のゼータ電位の変化を図3〜図5に、比較例1〜3で得られたナノスフェアの構造を図6〜図8に示す。
【0113】
【表1】

※薬剤添加後
※※ 封入率の理論値(%)=核酸化合物の仕込み量/(核酸化合物の仕込み量+PLGA若しくはPLGA−PEG6000の仕込み量)×100
【0114】
表1に示すように、アセトン留去後におけるPLGA及びPLGA−PEG6000ナノスフェアの平均粒子径は、実施例1〜3、比較例1〜3の順に、それぞれ356nm、374nm、46nm、241nm、250nm及び409nm、凍結乾燥後におけるPLGAナノスフェアの平均粒子径は、実施例1〜3、比較例1〜3の順に、それぞれ502nm、498nm、87nm、273nm、257nm及び352nmであり、実施例3を除いてはおおよそ250nm〜500nmの範囲に分布していた。また、実施例3ではおおよそ50nm〜90nmの範囲であった。
【0115】
また、実施例1のナノスフェア表面のゼータ電位は、アセトン留去後で+48.67mVであり、図3に示すように、オリゴヌクレオチドを追加添加するにつれて徐々にゼータ電位が低下し、30mg添加後には+19.07mVとなった。オリゴヌクレオチド添加後のナノスフェア懸濁液を凍結乾燥してナノスフェア粉末とした後のゼータ電位は+19.53mVであった。
【0116】
実施例2のナノスフェア表面のゼータ電位は、アセトン留去後で+45.23mVであり、図4に示すように、7NDプラスミド遺伝子を追加添加するにつれて徐々にゼータ電位が低下し、30mg添加後には+18.11mVとなり、添加後のナノスフェア懸濁液を凍結乾燥してナノスフェア粉末とした後のゼータ電位も+18.11mVであった。
【0117】
実施例3のナノスフェア表面のゼータ電位は、アセトン留去後で+39.19mVであり、図5に示すように、オリゴヌクレオチドを追加添加するにつれて徐々にゼータ電位が低下し、30mg添加後には+11.02mVとなった。オリゴヌクレオチド添加後のナノスフェア懸濁液を凍結乾燥してナノスフェア粉末とした後のゼータ電位は+11.68mVであった。このことから、追加添加したアニオン性のオリゴヌクレオチド又は7NDプラスミド遺伝子が選択的にナノスフェア表面に担持されていることが推認された。
【0118】
また、実施例1〜3と同様に、貧溶媒中にキトサンを添加した比較例3のナノスフェア表面のゼータ電位は、アセトン留去後で+39.29mV、遠心分離操作後で+17.24mV、凍結乾燥後で+8.298mVであり、粒子表面はプラスに帯電されていた。一方、貧溶媒中にキトサンを添加しなかった比較例1及び2のナノスフェア粒子表面のゼータ電位は、アセトン留去後、遠心分離操作後、及び凍結乾燥後のいずれにおいてもマイナスであった。
【0119】
また、貧溶媒中にキトサンを添加しなかった比較例1のナノスフェアは、内部にオリゴヌクレオチドがほとんど封入されなかった。この結果より、比較例1においては水溶性であるオリゴヌクレオチドが外相である貧溶媒中に漏出し、図6に示すようにPLGAのみが沈積してナノスフェアを形成したものと推認された。また、良溶媒中にDOTAPを添加した比較例2のナノスフェアでは封入率が0.79%であり、比較例1に比べて封入率の向上が認められたものの、調製した良溶媒はオリゴヌクレオチドが析出して白濁しており、図7に示すようにオリゴヌクレオチドの一部がナノスフェアの外部に流出して封入率が低下したものと推認された。
【0120】
一方、貧溶媒中にキトサンを添加した比較例3のナノスフェアでは、封入率を3.53%まで向上させることができた。これは、図8に示すように、ナノ粒子1の表面に吸着されたカチオン性高分子(キトサン)3が貧溶媒中へのアニオン性薬物(オリゴヌクレオチド)4の漏出を抑制したためと推認された。さらに、凍結乾燥時にオリゴヌクレオチドを追加した実施例1及び実施例3のナノスフェアでは、封入率がそれぞれ7.0%及び6.9%であり、理論値7.4%に近い封入率が得られ、オリゴヌクレオチドを追加しなかった比較例3に比べて高い値を示した。同様に、凍結乾燥時に7NDプラスミド遺伝子を追加した実施例2のナノスフェアについても、封入率が6.9%であり、理論値7.4%に近い封入率が得られた。これは、ナノスフェア内部への封入に加えて表面にもオリゴヌクレオチド又は7NDプラスミド遺伝子が静電気的に担持されたため(図1参照)であると推認された。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明のナノ粒子の製造方法によれば、従来の球形晶析法では封入が困難であったアニオン性薬物が高封入率で封入された生体適合性ナノ粒子を簡便且つ低コストで製造することができる。特に、ナノ粒子の表面にアニオン性薬物を静電気的に担持させる方法の場合、結合剤を用いる方法に比べてナノ粒子の粒子径を増大させることなくナノ粒子の表面にアニオン性薬物を付着可能となるため、DDS用途に好適なナノ粒子を製造できる。
【0122】
また、アニオン性薬物として核酸化合物を封入することにより、DDSを利用した安全且つ効率的な遺伝子導入法に利用できる、核酸化合物を高封入率で封入した生体適合性ナノ粒子の製造方法となる。さらに、カチオン性高分子としてキトサンを用い、生体適合性高分子としてポリ乳酸、ポリグリコール酸、PLGA、若しくはPALのいずれかを用いることにより、安全性が高く、安定性、徐放性にも優れたナノ粒子を製造することができる。
【0123】
また、アニオン性薬物をナノ粒子の内部及び外層に封入したアニオン性薬物封入ナノ粒子を原料として用いたので、製剤中のアニオン性薬物含量を高めることができ、剤形の小型化が可能な医薬製剤が提供される。また、ナノ粒子の外層に封入されたアニオン性薬物とナノ粒子の内部に封入されたアニオン性薬物により、即効性と持続性とを兼ね備えた医薬製剤となる。
【0124】
また、カチオン性高分子により正のゼータ電位を有するナノ粒子表面へアニオン性薬物を静電気的に付着させることとすれば、ナノ粒子の粒径を増大させずにアニオン性薬物の封入率を高められるため、DDS用医薬製剤とした場合に細胞内へのナノ粒子の取り込み性が向上する。さらに、カチオン性高分子としてキトサンを用い、生体適合性高分子としてポリ乳酸、ポリグリコール酸、PLGA、若しくはPALのいずれかを用いることにより、一層安全性が高く、安定性、徐放性にも優れた医薬製剤となる。
【0125】
また、アニオン性薬物として核酸化合物を用いることにより、DDSを利用して安全且つ効率的に遺伝子を導入できる、難治療性の遺伝子疾患に対する有効な医薬製剤となり、核酸化合物としてプラスミドDNA、遺伝子、siRNA、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、アプタマー等を用いた場合、特に好適な遺伝子解析ツールや遺伝子治療薬となる。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】は、粒子表面に静電気的にアニオン性薬物が担持されたナノスフェアの構造を示す模式図である。
【図2】は、結合剤で形成される外層にアニオン性薬物を封入したナノコンポジットの構造を示す模式図である。
【図3】は、実施例1のナノスフェアにおけるオリゴヌクレオチドの追加添加量とゼータ電位変化との関係を示すグラフである。
【図4】は、実施例2のナノスフェアにおける7NDプラスミド遺伝子の追加添加量とゼータ電位変化との関係を示すグラフである。
【図5】は、実施例3のナノスフェアにおけるオリゴヌクレオチドの追加添加量とゼータ電位変化との関係を示すグラフである。
【図6】は、比較例1で得られたナノスフェアの構造を示す模式図である。
【図7】は、比較例2で得られたナノスフェアの構造を示す模式図である。
【図8】は、比較例3で得られたナノスフェアの構造を示す模式図である。
【符号の説明】
【0127】
1 生体適合性ナノ粒子(ナノスフェア)
2 ポリビニルアルコール
3 カチオン性高分子
4 アニオン性薬物
5 ナノコンポジット
6 結合剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール及びカチオン性高分子を溶解させた水溶液に、少なくともアニオン性薬物の溶液と生体適合性高分子を有機溶媒に溶解させた溶液との混合液を加えて、前記アニオン性薬物が前記生体適合性高分子中に封入されたアニオン性薬物封入ナノ粒子の懸濁液を生成するナノ粒子形成工程と、
前記アニオン性薬物封入ナノ粒子の懸濁液から有機溶媒を留去する溶媒留去工程と、
前記アニオン性薬物封入ナノ粒子の外層にさらにアニオン性薬物を封入する外層封入工程と、を有することを特徴とするアニオン性薬物封入ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記外層封入工程が、前記アニオン性薬物封入ナノ粒子を結合剤により複合化するとともに、前記結合剤にアニオン性薬物を添加することにより、前記アニオン性薬物封入ナノ粒子の表面に形成される結合剤層にアニオン性薬物を封入する複合化工程によって構成されることを特徴とする請求項1に記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記外層封入工程が、前記アニオン性薬物封入ナノ粒子を凍結乾燥するとともに、凍結乾燥前の前記アニオン性薬物封入ナノ粒子の懸濁液にアニオン性薬物を添加することにより、前記カチオン性高分子で被覆された前記アニオン性薬物封入ナノ粒子の表面にアニオン性薬物を静電気的に担持させる凍結乾燥工程によって構成されることを特徴とする請求項1に記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記外層封入工程で添加する前記アニオン性薬物の前記生体適合性高分子に対する重量比が0.001以上1.0以下であることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
前記アニオン性薬物が、核酸化合物であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
前記核酸化合物が、プラスミドDNA、遺伝子、siRNA、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、アプタマーから選ばれた1種以上であることを特徴とする請求項5に記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項7】
前記カチオン性高分子が、キトサンであることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項8】
前記生体適合性高分子が、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸・グリコール酸共重合体、若しくは乳酸・アスパラギン酸共重合体のいずれかであることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項9】
前記生体適合性高分子を有機溶媒に溶解させた溶液に混合する前記アニオン性薬物の前記生体適合性高分子に対する重量比が0.001以上1.0以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項10】
前記溶媒留去工程の後に、さらに前記アニオン性薬物封入ナノ粒子の懸濁液からポリビニルアルコールを除去する除去工程を有することを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項11】
アニオン性薬物を生体適合性ナノ粒子の内部及び外層に封入して成るアニオン性薬物封入ナノ粒子を含む医薬製剤。
【請求項12】
前記生体適合性ナノ粒子は、結合剤によって複合化されており、当該ナノ粒子の表面に形成される結合剤層にアニオン性薬物が封入されていることを特徴とする請求項11に記載の医薬製剤。
【請求項13】
前記生体適合性ナノ粒子は、カチオン性高分子で被覆されることにより正の電位を有しており、当該ナノ粒子の表面にアニオン性薬物が静電気的に担持されていることを特徴とする請求項11に記載の医薬製剤。
【請求項14】
前記カチオン性高分子が、キトサンであることを特徴とする請求項13に記載の医薬製剤。
【請求項15】
前記アニオン性薬物が、核酸化合物であることを特徴とする請求項11乃至請求項14のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項16】
前記核酸化合物が、プラスミドDNA、遺伝子、siRNA、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、アプタマーから選ばれた1種以上であることを特徴とする請求項15に記載の医薬製剤。
【請求項17】
前記生体適合性ナノ粒子を構成する生体適合性高分子が、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸・グリコール酸共重合体、若しくは乳酸・アスパラギン酸共重合体のいずれかであることを特徴とする請求項11乃至請求項16のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項18】
前記アニオン性薬物封入ナノ粒子の平均粒子径が10nm以上1,000nm以下であることを特徴とする請求項11乃至請求項17のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項19】
前記アニオン性薬物封入ナノ粒子の平均粒子径が10nm以上100nm以下であることを特徴とする請求項11乃至請求項17のいずれか1項に記載の医薬製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−99631(P2007−99631A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−288184(P2005−288184)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(502360363)株式会社ホソカワ粉体技術研究所 (59)
【Fターム(参考)】