説明

アミドの製造に用いられる触媒組成物及びアミドの製造方法

【課題】イオン液体の粘度を低減させ、ケトオキシムの転化率とアミドの選択率を高めるアミド製造用触媒組成物およびアミドの製造方法を提供する。
【解決手段】アミドの製造に用いられる触媒組成物は、下記式(I)に示すカチオンと、1種又は多種の無機酸根、有機酸根、又はこれらからなる群のアニオンを含むアミノ酸イオン液体と、ブレンステッド酸とを含有し、アミノ酸イオン液体中、前記カチオンとアニオンの数は前記アミノ酸イオン液体を電気的に中性にするものである。前記触媒組成物の存在下においてアミドを製造する。式(I)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミドの製造に用いられる触媒組成物及びアミドの製造方法に関し、特に、イオン液体及びブレンステッド酸(Bronsted acid)の触媒組成物の存在下で、ケトオキシムよりアミドを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カプロラクタムはナイロン6繊維やフィルムの重要な原材料である。このカプロラクタムを生産する上で最も重要な反応工程として、シクロヘキサノンオキシムのベックマン転位(Beckmann rearrangement)反応が挙げられる。従来の転位反応プロセスでは、触媒として発煙硫酸(Oleum)が利用され、液相中でシクロヘキサノンオキシムのベックマン転位反応を行うことで液相中でカプロラクタム硫酸塩を生成し、更に、アンモニア水を用いて中和することによりカプロラクタムを得ている。一連の反応において、シクロヘキサノンオキシムの転化率はほぼ100%で、カプロラクタムの選択率も99%と高い値を示すが、一連の反応において、価値の低い硫酸アンモニウムが大量に発生するだけでなく、触媒として用いる濃硫酸が生産設備全体の腐蝕を招き、環境を汚染するなど問題となっている。昨今、新規なカプロラクタムに関する生産技術の研究開発においては、専ら副生成物である硫酸アンモニウムの生成を減少させる又は回避することを目指して取り組みが進められている。また、気相反応に比べ、液相転位反応は、反応条件が温和で、設備に対する要求が高くないなどの利点があり、既存設備の改良に有利になる。それ故、液相転位反応の研究に関しては、国内外を問わず多くの成果が挙げられ、相当な進展を遂げている。例えば、日本の住友化学株式会社による特許文献1においては、スルホン酸官能基を有するイオン液体を反応の触媒とすることで、カプロラクタムの選択率が99%に達することが記載されている。又、中国科学院蘭州化学物理研究所による特許文献2においても、塩化スルフリル官能基を有するイオン液体を触媒とすることで、カプロラクタムの選択率が97.2%に達することが記載されている。又、オランダのDSM社による特許文献3においても、硫酸根をアニオンのイオン液体として転位反応を行うことで、アミドの選択率が99%になることが記載されている。
【0003】
しかし、上記の特許においては、酸性イオン液体を用いて転位反応を促進するに過ぎず、転位反応後の生成物であるカプロラクタムとイオン液体とが化学結合する際、生成物を速やかに効率的に分離しなければ、転位反応後のイオン液体の粘度が非常に高くなり、それによってパイプ設備が詰まり、製造工程の商業化を図る上で不利となる問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】中国特許1852898A号公報
【特許文献2】中国特許1919834号公報
【特許文献3】WO2008/145312A1号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の問題に鑑み、イオン液体の粘度を効率的に低減し、且つ、ケトオキシムの高い転化率及びアミドの高い選択率を有する、ケトオキシムよりアミドを製造する際に触媒として用いられる触媒組成物の実用化が強く求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の手段により上記の課題を解決する。
即ち、本発明は、アミドの製造に用いられる触媒組成物を提供するものであり、下記式(I)のカチオンと、一種又は多種の無機酸根、有機酸根又はこれらからなる群のアニオンを含むアミノ酸イオン液体と、ブレンステッド酸とを含有する。
【化1】

【0007】
式(I)の中、R1 は水素基、シクロイミノ基、又はC1-8アルキル基を示し、その中、前記C1-8アルキル基は無置換、又はヒドロキシル基(-OH)、カルボキシル基(-COOH)、グアニジノ基(NH2C(=NH)NH-)、アミノ基(-NH2)、アミド基(-CONH2)、エステル基(-COOR、その中、RはC1-8アルキル基を示す)、スルホン酸基(-SO3H)、塩化スルフィニル基(ClSO-)、ヒドロキシルフェニル基、C1-8アルキルチオ基、メルカプト基(-SH)、C6-10アリール基又は5〜10員環状ヘテロアリール基によって置換されても良い。
【0008】
R2とR3 は、それぞれ独立して水素基、又はC1-8アルキル基を示し、その中、前記C1-8アルキル基は、無置換、又はヒドロキシル基(-OH)、カルボキシル基(-COOH)、グアニジノ基(NH2C(=NH)NH-)、アミノ基(-NH2)、アミド基(-CONH2)、エステル基(-COOR)、スルホン酸基(-SO3H)、塩化スルフィニル基(ClSO-)、オキソ基(=O)、ヒドロキシルフェニル基、C1-8アルキルチオ基、メルカプト基(-SH)、C6-10アリール基、又は5〜10員環状ヘテロアリール基によって置換されても良い。
【0009】
アミノ酸イオン液体中、前記カチオンとアニオンの数は、アミノ酸イオン液体を電気的に中性にするものである。
又、本発明は、下記式(I)に示すカチオンと、一種又は多種の無機酸根、有機酸根、又はこれらからなる群のアニオンを含むアミノ酸イオン液体と、ブレンステッド酸との存在下において、ケトオキシムのベックマン転位反応を促進することでアミドを製造する方法も提供する。
【化2】

【0010】
式(I)の中、R1は水素基、シクロイミノ基、又はC1-8アルキル基を示し、その中、前記C1-8アルキル基は無置換、又はヒドロキシル基(-OH)、カルボキシル基、(-COOH)、グアニジノ基(NH2C(=NH)NH-)、アミノ基(-NH2)、アミド基(-CONH2)、エステル基(-COOR、その中RはC1-8アルキル基を示す)、スルホン酸基(-SO3H)、塩化スルフィニル基(ClSO-)、ヒドロキシルフェニル基、C1-8アルキルチオ基、メルカプト基(-SH)、C6-10アリール基、又は5〜10員環状ヘテロアリール基によって置換されても良い。
【0011】
R2とR3 は、それぞれ独立して水素基、またはC1-8アルキル基を示し、その中、前記C1-8アルキル基は無置換、又はヒドロキシル基(-OH)、カルボキシル基(-COOH)、グアニジノ基(NH2C(=NH)NH-)、アミノ基(-NH2)、アミド基(-CONH2)、エステル基(-COOR)、スルホン酸基(-SO3H)、塩化スルフィニル基(ClSO-)、オキソ基(=O)、ヒドロキシルフェニル基、C1-8アルキルチオ基、メルカプト基(-SH)、C6-10アリール基、又は5〜10員環状ヘテロアリール基によって置換されても良い。アミノ酸イオン液体中、前記カチオンとアニオンの数は、前記アミノ酸イオン液体を電気的に中性にするものである。
【発明の効果】
【0012】
従来の酸性イオン液体のみを反応触媒組成物として用いるアミドの製造方法に比べ、本発明の製造方法は、イオン液体とブレンステッド酸とを触媒組成物としてアミドを製造しているので、イオン液体の粘度を低減し、反応活性を高める利点を有し、更に、ケトオキシムのリアレンジメント転化率とアミド選択率が高いため、大規模な工業的生産に極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下本発明を実施するための最良の形態について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明の技術分野に精通する者は、本発明の明細書に開示された内容により容易に本発明の利点と効果を理解できる。又、本発明はその他の実施方法により実施又は応用されることも可能であり、本明細書中の各細部についても異なる観点と応用に基づき、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、様々な修正と変更を行うことが可能であり、そうして修正や変更も本特許請求の範囲に含まれる。
【0014】
本発明は、下記式(I)に示すカチオンと、1種又は多種の無機酸根、有機酸根、又はこれらからなる群のアニオンを含むアミノ酸イオン液体と、ブレンステッド酸とを含むアミドの製造に用いられる触媒組成物を提供するものである。
【化3】

【0015】
式(I)の中、R1は水素基、シクロイミノ基、又はC1-8アルキル基を示し、その中、前記C1-8アルキル基は無置換、又はヒドロキシル基(-OH)、カルボキシル基、(-COOH)、グアニジノ基(NH2C(=NH)NH-)、アミノ基(-NH2)、アミド基(-CONH2)、エステル基(-COOR、その中RはC1-8アルキル基を示す)、スルホン酸基(-SO3H)、塩化スルフィニル基(ClSO-)、ヒドロキシルフェニル基、C1-8アルキルチオ基、メルカプト基(-SH)、C6-10アリール基、又は5〜10員環状ヘテロアリール基によって置換されても良い。
【0016】
R2とR3 は、それぞれ独立して水素基、又はC1-8アルキル基を示し、その中、前記C1-8アルキル基は無置換、又はヒドロキシル基(-OH)、カルボキシル基(-COOH)、グアニジノ基(NH2C(=NH)NH-)、アミノ基(-NH2)、アミド基(-CONH2)、エステル基(-COOR)、スルホン酸基(-SO3H)、塩化スルフィニル基(ClSO-)、オキソ基(=O)、ヒドロキシルフェニル基、C1-8アルキルチオ基、メルカプト基(-SH)、C6-10アリール基、又は5〜10員環状ヘテロアリール基によって置換されても良い。
【0017】
具体的な実施例において、前記R1はカルボキシル基(-COOH)、グアニジノ基(NH2C(=NH)NH-)、アミノ基(-NH2)、アミド基(-CONH2)、又はヒドロキシルフェニル基により置換されるC1-8アルキル基を示し、前記R2とR3はそれぞれ独立してC1-8アルキル基を示す。
【0018】
本発明中、C1-8アルキル基とは、直鎖状、分枝鎖状、又は環状アルキル基を示し、前記C1-8アルキル基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、S-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。その中、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基とペンチル基がより好ましい。
【0019】
本発明のより好ましい具体的な実施例において、前記アミノ酸イオン液体としては、硫酸グリシン系イオン液体、硫酸イソロイシン系イオン液体、硫酸アルギニン系イオン液体、硫酸グルタミン酸系イオン液体、硫酸チロシン系イオン液体、硫酸アスパラギン酸系イオン液体、硫酸リジン系イオン液体、硫酸スレオニン系イオン液体、硫酸フェニルアラニン系イオン液体、硫酸セリン系イオン液体、又はこれらの群よりなる硫酸アミノ酸系イオン液体があげられる。本発明のアミノ酸系イオン液体としては、N,N-ジメチルグルタミン酸硫酸塩、N,N-ジメチルアスパラギン酸硫酸塩、N-メチルグルタミン酸硫酸塩及びN-メチルアスパラギン酸硫酸塩がより好ましい。この他、本発明の方法においては、1種又は多種のアミノ酸イオン液体を使用することができる。具体例を挙げると、より好ましい実施例において、前記アミノ酸イオン液体としては、N,N-ジメチルアスパラギン酸硫酸塩、N-ジメチルグルタミン酸硫酸塩、N-メチルアスパラギン酸硫酸塩、N,N-ジメチルグルタミン酸硫酸塩、又はこれらよりなる群から、N,N-ジメチルアスパラギン酸硫酸塩とN-ジメチルグルタミン酸硫酸塩の組み合わせ、又はN,N-ジメチルアスパラギン酸硫酸塩、N-メチルグルタミン酸硫酸塩、及びN-メチルアスパラギン酸硫酸塩の組み合わせを選択して使用することができる。
【0020】
本発明の触媒組成物中、前記アニオンは1種又は多種の硫酸根、メチルスルホン酸根、トリフルオル酢酸根、六フルオル燐酸根、フルオル硼酸根、又はこれらの群からなるものである。その中、硫酸根がより好ましい。
【0021】
通常、前記アミノ酸イオン液体とブレンステッド酸とのモル比は1:10〜10:1の範囲内にあり、好ましくは1:5〜5:1の範囲内にあり、更に好ましくは2:1〜1:2の範囲内にある。
【0022】
本発明は、下記式(I)に示すカチオンと、1種又は多種の無機酸根、有機酸根、又はこれらからなる群のアニオンを含むアミノ酸イオン液体と、ブレンステッド酸の存在下において、ケトオキシムのベックマン転位反応を促進することで、アミドを製造する方法も提供する:
【化4】

【0023】
式(I)の中、R1は水素基、シクロイミノ基、又はC1-8アルキル基を示し、その中、前記C1-8アルキル基は無置換、又はヒドロキシル基(-OH)、カルボキシル基(-COOH)、グアニジノ基(NH2C(=NH)NH-)、アミノ基(-NH2)、アミド基(-CONH2)、エステル基(-COOR、その中、RはC1-8アルキル基を示す)、スルホン酸基(-SO3H)、塩化スルフィニル基(ClSO-)、ヒドロキシルフェニル基、C1-8アルキルチオ基、メルカプト基(-SH)、C6-10アリール基、又は5〜10員環状ヘテロアリール基によって置換しても良い。
【0024】
R2とR3 はそれぞれ独立して水素基、又はC1-8アルキル基を示し、その中、前記C1-8アルキル基は無置換、又はヒドロキシル基(-OH)、カルボキシル基(-COOH)、グアニジノ基(NH2C(=NH)NH-)、アミノ基(-NH2)、アミド基(-CONH2)、エステル基(-COOR)、スルホン酸基(-SO3H)、塩化スルフィニル基(ClSO-)、オキソ基(=O) 、ヒドロキシルフェニル基、C1-8アルキルチオ基、メルカプト基(-SH)、C6-10アリール基、又は5〜10員環状へテロアリール基で置換しても良い。アミノ酸イオン液体中、前記カチオンとアニオンの数は、前記アミノ酸イオン液体を電気的に中性にするものである。
【0025】
より好ましい具体的な実施例において、R1はカルボキシル基(-COOH)、グアニジノ基(NH2C(=NH)NH-)、アミノ基(-NH2)、アミド基(-CONH2)、又はヒドロキシルフェニル基などにより置換されたC1-8アルキル基を示し、且つ、前記R2とR3はそれぞれ独立してC1-8アルキル基を示す。
【0026】
本発明のアミドの製造方法において、前記アニオンは1種又は多種の硫酸根、メチルスルホン酸根、トリフルオル酢酸根、六フルオル燐酸根、フルオル硼酸根、又はこれらからなる群を示す。本発明の具体的実施例のひとつにおいて、前記アニオンは硫酸根である。
【0027】
本発明において、ブレンステッド酸は特に限定されず、通常、硫酸、燐酸、酢酸、メチルスルホン酸、トリフルオルメチルスルホン酸、トリフルオル酢酸、六フルオル燐酸又はフルオル硼酸などが使用されるが、これらに限定されるものではない。この他、1種の酸を選び使用しても良く、又はこれらの酸を混合して用いても良い。それ故、本発明においては、ブレンステッド酸として、硫酸、燐酸、酢酸、メチルスルホン酸、トリフルオルメチルスルホン酸、トリフルオル酢酸、六フルオル燐酸、フルオル硼酸、及びこれらからなる群より1種又は多種を選び使用する。本発明のより好ましい具体的実施例のひとつにおいては、硫酸を前記ブレンステッド酸として使用する。
【0028】
本発明の製造方法に係る実施例において、通常、前記アミノ酸イオン液体とブレンステッド酸とのモル比は1:10〜10:1の範囲内にあり、好ましくは1:5〜5:1の範囲内であり、更に好ましくは2:1〜1:2の範囲内である。
【0029】
又、前記アミノ酸イオン液体とブレンステッド酸の合計モル数と前記ケトオキシムのモル数とのモル比は1:10〜10:1の範囲内にあり、より好ましくは1:5〜5:1の範囲内にあり、更に好ましくは3:1〜1:3の範囲内にある。本発明のアミドの製造に係る実施例において、ケトオキシムの転換率はほぼ100%であり、カプロラクタムの選択率も98.8%に達する。それ故、本発明の触媒組成物の存在下、ケトオキシムのベックマン転位反応によるアミドの合成は、極めて優れた反応活性を有することが明らかである。
【0030】
本発明のアミドの製造方法において、反応温度は60〜150℃であり、より好ましくは80〜130℃であり、最も好ましくは90〜120℃である。且つ、反応経過時間は0.1〜10時間であり、より好ましくは0.25〜4時間であり、最も好ましくは0.5〜1時間である。
【0031】
本発明の具体的な実施例のひとつにおいて、前記ケトオキシムはシクロヘキサノンオキシムであるが、本発明のアミドの製造の際に使用するケトオキシムは、アセトンオキシム、ブタノンオキシム、ベンゾフェノンオキシム、アセトフェノンオキシム、シクロペンタノンオキシム、シクロヘキサノンオキシム、シクロヘプタノンオキシム、シクロオクタノンオキシム、又はシクロドデカノンオキシムなどが含まれる。
【0032】
本発明の方法において、前記アミノ酸イオン液体としては、硫酸グリシン系イオン液体、硫酸イソロイシン系イオン液体、硫酸アルギニン系イオン液体、硫酸グルタミン酸系イオン液体、硫酸チロシン系イオン液体、硫酸アスパラギン酸系イオン液体、硫酸リジン系イオン液体、硫酸スレオニン系イオン液体、硫酸フェニルアラニン系イオン液体、硫酸セリン系イオン液体、又はこれらよりなる群などが挙げられる。より好ましい本発明のアミノ酸イオン液体としては、硫酸イソロイシン系イオン液体、N,N-ジメチルグルタミン酸硫酸塩、N,N-ジメチルアスパラギン酸硫酸塩、N-メチルグルタミン酸硫酸塩、N-メチルアスパラギン酸硫酸塩が用いられる。本発明の具体的な実施例のひとつにおいて、硫酸グルタミン酸系イオン液体が前記アミノ酸イオン液体として用いられている。又、1種又は多種のアミノ酸イオン液体を使用しても良い。
【0033】
以下、特定の具体的な実施例により本発明の特長と効果について更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0034】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。ケトオキシムとアミドは、ガスクロマトグラフィにより分析し、ケトオキシムの転換率とアミドの選択率は、下記式により計算される:
転換率(%)=[反応したケトオキシムのモル数/最初のケトオキシムのモル数(%)]×100 %
選択率(%) =[得られたアミドのモル数/反応したケトオキシムのモル数] ×100 %
【0035】
実施例1〜5
実施例1〜5においては、250ml容量の三つ口丸底フラスコ内に、0.01モルのN,N-ジメチルグルタミン酸硫酸系イオン液体と0.01モルの硫酸を反応触媒組成物として加え、次に50mlのトルエンを溶剤として加え、マグネチックスターラーを用いて攪拌し、110℃まで昇温した後、更に指定量のシクロヘキサノンオキシムを加え、イオン液体とブレンステッド酸との合計モル数とケトオキシムのモル数とのモル比を5/1〜5/5の順に調整し、0.5時間反応をした後、ガスクロマトグラフィにより反応物の転化率と生成物の選択率を測定した。その結果を下記表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
実施例6〜10
実施例6〜10においては、250ml容量の三ッ口丸底フラスコ中に、0.01モルの硫酸グルタミン酸系イオン液体と指定量の硫酸を反応触媒組成物として加え、次に、50mlのトルエンを溶剤として加え、マグネチックスターラーを用いて攪拌し、110℃までに昇温した後、更にシクロヘキサノンオキシムを加え、イオン液体とブレンステッド酸との合計モル数とケトオキシムのモル数とのモル比を5/2として、0.5時間反応を行った後、ガスクロマトグラフィにより反応物の転化率と生成物の選択率を測定した。その結果を下記表2に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
比較例1〜5においては、250ml容量の三ッ口丸底フラスコ内に、0.01モルの硫酸グルタミン酸系イオン液体だけを反応触媒組成物として加え、次に50mlのトルエンを溶剤として加え、マグネチックスターラーを用いて攪拌し、110℃まで昇温した後、更に指定量のシクロヘキサノンオキシムを加え、イオン液体とケトオキシムのモル比をそれぞれ5/1〜5/5の順に調整し、0.5時間反応を続けた後、ガスクロマトグラフィにより反応物の転化率と生成物の選択率を測定した。その結果を表3に示す。
【0040】
【表3】

【0041】
上記の結果より、本発明において硫酸グルタミン酸系イオン液体と硫酸とを反応触媒組成物として、シクロヘキサノンオキシムからアミドを製造した場合、高いケトオキシムの転化率とアミドの選択率が得られることが明らかとなった。中でも、特にイオン液体とブレンステッド酸/ケトオキシムのモル比が5/2〜5/3の範囲内の際、より好ましい転化率と選択率を示すことが判る。又、本発明の触媒組成物の存在下において、ケトオキシムの使用量を増やしても、転化率又は選択率が悪くなる問題は無く、収量を増加させる特長がある。
【0042】
実施例3と比較例3における反応前と反応後に用いられた反応触媒組成物をそれぞれ使用し、60℃において粘度計によりその粘度の変化を測定し、その実験結果の記録を下記表4に示す。
【0043】
【表4】

【0044】
上記の結果より、本発明は、イオン液体とブレンステッド酸とを反応触媒組成物として使用し、液相転位反応の条件下において触媒し、ケトオキシムからアミドを製造する際、反応後のイオン液体の粘度を低減し反応触媒活性を向上させることが明らかとなった。又、その際のより好ましい反応温度と反応時間は、それぞれ100〜110℃と0.5〜1時間の範囲内である。
【0045】
本発明の反応触媒システムは簡単であり、その他の触媒助剤の添加を必要とせず、反応後にイオン液体の粘度を低減させることができ、更に反応活性を高め、ケトオキシムのリアレンジメント反応の転化率とアミドの選択率を向上させ、且つ、副生成物も生成されず、環境にやさしく、エネルギーの節約にも役立ち、大規模な工業生産にも適し、工業上将来性に優れたものである。
【0046】
上記の実施例は、本発明の原理と効果を例示的に説明するに過ぎず、本発明を限定するものではない。本発明の技術分野に精通する者は、本発明の主旨と範囲を逸脱しない限りにおいて、上記の実施例について修正又は変更を加えることが可能であり、本発明の権利範囲を、特許請求の範囲に記載する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)に示すカチオンと、1種又は多種の無機酸根、有機酸根、又はこれらからなる群のアニオンを含むアミノ酸イオン液体であって、該アミノ酸イオン液体中、前記カチオンとアニオンの数は、該アミノ酸イオン液体を電気的に中性にするものであるアミノ酸イオン液体と、ブレンステッド酸とを含有することを特徴とするアミドの製造に用いられる触媒組成物;
【化1】

[式(I)の中、R1は水素基、シクロイミノ基、又はC1-8アルキル基を示し、その中、前記C1-8アルキル基は、無置換、又はヒドロキシル基(-OH)、カルボキシル基(-COOH)、グアニジノ基(NH2C(=NH)NH-)、アミノ基(-NH2)、アミド基(-CONH2)、エステル基(-COOR、その中、RはC1-8アルキル基を示す)、スルホン酸基(-SO3H)、塩化スルフィニル基(ClSO-)、ヒドロキシルフェニル基、C1-8アルキルチオ基、メルカプト基(-SH)、C6-10アリール基、又は5〜10員環状へテロアリール基によって置換されても良く、
R2とR3は、それぞれ独立して水素又はC1-8アルキル基を示し、その中、前記C1-8アルキル基は、無置換、又はヒドロキシル基(-OH)、カルボキシル基(-COOH)、グアニジノ基(NH2C(=NH)NH-)、アミノ基(-NH2)、アミド基(-CONH2)、エステル基(-COOR)、スルホン酸基(-SO3H)、塩化スルフィニル基(ClSO-)、オキソ基(=O)、ヒドロキシルフェニル基、C1-8アルキルチオ基、メルカプト基(-SH)、C6-10アリール基、又は5〜10員環状ヘテロアリール基によって置換されても良い]。
【請求項2】
前記アミノ酸イオン液体と前記ブレンステッド酸とのモル比は、1:10〜10:1の範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項3】
前記アミノ酸イオン液体と前記ブレンステッド酸とのモル比は、1:5〜5:1の範囲内にあることを特徴とする請求項2に記載の触媒組成物。
【請求項4】
前記R1は、カルボキシル基(-COOH)、グアニジノ基(NH2C(=NH)NH-)、アミノ基(-NH2)、アミド基(-CONH2)、又はヒドロキシルフェニル基によって置換されたC1-8アルキル基を示し、且つ前記R2とR3はそれぞれ独立してC1-8アルキル基を示すことを特徴とする請求項2に記載の触媒組成物。
【請求項5】
前記アニオンは、1種又は多種の硫酸根、メチルスルホン酸根、トリフルオル酢酸根、六フルオル燐酸根、フルオル硼酸根、又はこれらからなる群であることを特徴とする請求項4に記載の触媒組成物。
【請求項6】
前記アミノ酸イオン液体は、硫酸グリシン酸系イオン液体、硫酸イソロイシン系イオン液体、硫酸アルギニン系イオン液体、硫酸グルタミン酸系イオン液体、硫酸チロシン系イオン液体、硫酸アスパラギン酸系イオン液体、硫酸リジン系イオン液体、硫酸スレオニン系イオン液体、硫酸フェニルアラニン系イオン液体、硫酸セリン系イオン液体、又はこれらからなる群の硫酸アミノ酸系イオン液体であることを特徴とする請求項5に記載の触媒組成物。
【請求項7】
前記アミノ酸イオン液体は、硫酸イソロイシン系イオン液体、N,N-ジメチルアスパラギン酸硫酸塩、N-メチルグルタミン酸硫酸塩、N-メチルアスパラギン酸硫酸塩、N,N-ジメチルグルタミン酸硫酸塩、又はこれらからなる群であることを特徴とする請求項6に記載の触媒組成物。
【請求項8】
前記ブレンステッド酸は、硫酸、燐酸、酢酸、メチルスルホン酸、トリフルオルメチルスルホン酸、トリフルオル酢酸、六フルオル燐酸、フルオル硼酸、及びこれらの組合わせからなる群より1種又は多種選ばれてなることを特徴とする請求項2又は6に記載の触媒組成物。
【請求項9】
下記式(I)に示すカチオンと、1種又は多種の無機酸根、有機酸根、又はこれらからなる群のアニオンを含むアミノ酸イオン液体であって、該アミノ酸イオン液体中、前記カチオンとアニオンの数は、該アミノ酸イオン液体を電気的に中性にするものであるアミノ酸イオン液体と、ブレンステッド酸との存在下において、ケトオキシムのベックマン転位反応を促進することでアミドを製造することを特徴とするアミドの製造方法;
【化2】

[式(I)の中、R1は水素基、シクロイミノ基、又はC1-8アルキル基を示し、その中、前記C1-8アルキル基は、無置換、又はヒドロキシル基(-OH)、カルボキシル基(-COOH)、グアニジノ基(NH2C(=NH)NH-)、アミノ基(-NH2)、アミド基(-CONH2)、エステル基(-COOR、その中、RはC1-8アルキル基を示す)、スルホン酸基(-SO3H)、塩化スルフィニル基(ClSO-)、ヒドロキシルフェニル基、C1-8アルキルチオ基、メルカプト基(-SH)、C6-10アリール基、又は5〜10員環状へテロアリール基によって置換されても良く、
R2とR3は、それぞれ独立して水素基又はC1-8アルキル基を示し、その中、前記C1-8アルキル基は、無置換、又はヒドロキシル基(-OH)、カルボキシル基(-COOH)、グアニジノ基(NH2C(=NH)NH-)、アミノ基(-NH2)、アミド基(-CONH2)、エステル基(-COOR)、スルホン酸基(-SO3H)、塩化スルフィニル基(ClSO-)、オキソ基(=O)、ヒドロキシフェニル基、C1-8アルキルチオ基、メルカプト基(-SH)、C6-10アリール基、又は5〜10員環状へテロアリール基によって置換されても良い]。
【請求項10】
前記R1は、カルボキシル基(-COOH)、グアニジノ基(NH2C(=NH)NH-)、アミノ基(-NH2)、アミド基(-CONH2)、又はヒドロキシルフェニル基によって置換されたC1-8アルキル基を示し、且つ、前記R2とR3は、それぞれ独立してC1-8アルキル基を示すことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記アニオンは、1種又は多種の硫酸根、メチルスルホン酸根、トリフルオル酢酸根、六フルオル燐酸根、フルオル硼酸根、又はこれらからなる群であることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記アミノ酸イオン液体は、硫酸グリシン系イオン液体、硫酸イソロイシン系イオン液体、硫酸アルギニン系イオン液体、硫酸グルタミン酸系イオン液体、硫酸チロシン系イオン液体、硫酸アスパラギン酸系イオン液体、硫酸リジン系イオン液体、硫酸スレオニン系イオン液体、硫酸フェニルアラニン系イオン液体、硫酸セリン系イオン液体、又はこれらからなる群の硫酸アミノ酸系イオン液体であることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記アミノ酸イオン液体は、硫酸イソロイシン系イオン液体、N,N-ジメチルアスパラギン酸硫酸塩、N-メチルグルタミン酸硫酸塩、N-メチルアスパラギン酸硫酸塩、N,N-ジメチルグルタミン酸硫酸塩、又はこれらからなる群であることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ブレンステッド酸は、硫酸、燐酸、酢酸、メチルスルホン酸、トリフルオルメチルスルホン酸、トリフルオル酢酸、六フルオル燐酸、フルオル硼酸、及びこれらの組合わせからなる群より1種又は多種選ばれてなることを特徴とする請求項9又は12に記載の方法。
【請求項15】
前記アミノ酸イオン液体と前記ブレンステッド酸とのモル比は、1:10〜10:1の範囲内にあることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項16】
前記アミノ酸イオン液体と前記ブレンステッド酸とのモル比は、1:5〜5:1の範囲内にあることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記アミノ酸イオン液体と前記ブレンステッド酸との合計モル数と前記ケトオキシムのモル数とのモル比は、1:10〜10:1の範囲内にあることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記アミノ酸イオン液体と前記ブレンステッド酸との合計モル数と前記ケトオキシムのモル数とのモル比は、1:5〜5:1の範囲内にあることを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記ケトオキシムは、アセトンオキシム、ブタノンオキシム、ベンゾフェノンオキシム、アセトフェノンオキシム、シクロペンタノンオキシム、シクロヘキサノンオキシム、シクロヘプタノンオキシム、シクロオクタノンオキシム、又はシクロドデカノンオキシムであることを特徴とする請求項9又は17に記載の方法。
【請求項20】
前記ベックマン転位反応は60〜150℃で行われることを特徴とする請求項9又は17に記載の方法。
【請求項21】
前記ベックマン転位反応は、80〜130℃で行われることを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記ベックマン転位反応の反応時間は、0.1〜10時間であることを特徴とする請求項9に記載の方法。

【公開番号】特開2011−72991(P2011−72991A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−216977(P2010−216977)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(599004841)中國石油化學工業開發股▲分▼有限公司 (7)
【Fターム(参考)】