説明

アミノ酸分析用バイオセンシング装置およびアミノ酸分析用バイオセンサーおよびアミノ酸分析用アミノアシルtRNAシンセターゼ。

【課題】
従来のアミノ酸分析法では、大量の有機溶剤や放射線利用技術が必要であり、大量の試薬と熟練した技術が必要だった。又医療現場や食品工場等の利用現場で簡便に低コストで且つ比較的に短時間で分析できるものでは無く、外部の分析試験所等に依頼して行っていた。医療現場や食品工場等の利用現場で、低コストで且つ熟練した技術を不要として誰にでも使用できる簡便な分析方法が大いに要望されている。
【解決手段】
本発明は、人の体液や食品中に含まれるアミノ酸濃度を計測する為にアミノアシルtRNAシンセターゼを分子認識材料に用いたアミノ酸分析用のバイオセンシング装置やバイオセンサーである。更に微細加工技術によりシリコン基盤又はガラス基板上に微細幅の複数の流路31A〜31Tと、この流路に接続されより広い幅の反応場33A〜33Tを複数個形成し、この反応場に各アミノアシルtRNAシンセターゼを固定化した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ライフサイエンス、バイオテクノロジー、臨床医療・分析、食品品質管理・分析等の臨床医療又は/及び食品管理において簡便に利用可能なアミノ酸分析用バイオセンシング装置およびアミノ酸分析用バイオセンサーおよびアミノ酸分析法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
臨床医療の分野において血液中あるいは尿中の遊離アミノ酸濃度を計測することは、疾患の診断や病態の解析に有効な方法である。また食品の管理プロセスにおいてアミノ酸などの分析値がその品質の指標になることが明らかになっている。しかし現時点ではアミノ酸濃度の計測は高速液体クロマトグラフィー、又は放射線標識アミノ酸を用いる分析法が一般的である。この方法は大量の試薬と熟練した技術が必要とされている。
【0003】
従来のアミノ酸分析法のうち最も一般的な方法は、ニンヒドリンを用いるポストカラム法である。これはアミノ酸溶液とニンヒドリンを高温で反応させてアミノ酸を誘導化し、高速液体クロマトグラフィーにより分離分析するというものである。そしてこの原理に基づいたアミノ酸専用自動分析機器として高速アミノ酸分析計(例えば日立製作所製で約17,000千円程度の装置、例えば特許文献1参照。)やアミノ酸分析システム(例えば島津製作所製で8,000千円程度の装置、例えば特許文献2参照。)等が販売されている。
【特許文献1】特開2002-243715号公報
【特許文献2】特開平11-223625号公報
【0004】
また、キャピラリー電気泳動装置 (CE) と質量分析装置 (MS) とを用いたアミノ酸分析法についても考案されている。(例えば特許文献3参照。)
【特許文献3】特開2002-71660号公報
【0005】
前記のような方法に比べて、バイオセンサーによる計測法は試料の前処理や標識化など煩雑な操作が不要であり、簡便かつ迅速に目的物質の計測が可能である。この種のアミノ酸を計測するためのバイオセンサーの研究としては、L-リジンに選択的結合性を示す酵素であるL-リジン酸化酵素を分子認識材料に用い、L-リジンと酵素との結合により消費される酸素濃度を酸素電極で検知するというバイオセンサーの研究論文が発表されている。(例えば非特許文献1参照) しかしながら、L-アミノ酸の酸化酵素は、20種類全ての天然のアミノ酸に対して存在するわけではなく、非特許文献1において提案するような酸化酵素を認識材料に用いて全アミノ酸を網羅的に計測するバイオセンサーを構築することは不可能であった。
【非特許文献1】韮iosensing of L-Lysine Based on Flow-Injection Calorimetry I. Satoh, T. Mimura, S. Arakawa, A. Okamoto, Proceedings of the 19th Sensor Symposium, pp.201-204, (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記の従来技術の問題点を解決するものである。前述した一般的な従来技術である高速液体クロマトグラフィー、又は放射線標識アミノ酸を用いる分析法によるアミノ酸濃度の計測に於いては、高速液体クロマトグラフィー用の大量の有機溶剤が必要であり、放射線利用技術が必要であつた。すなわち大量の試薬と熟練した技術が必要とされるものであつた。この為、医療現場あるいは食品工場等の利用現場で、簡便に低コストで且つ比較的に短時間で分析できるものでは無く、外部の分析試験所等に依頼して行ってもらう必要があつた。今日、医療現場または食品工場等の利用現場において低コストで且つ熟練した技術を不要とし誰にでも使用できる簡便な分析方法が大いに要望されている。本発明は、現在外部に委託して行われているアミノ酸の計測を、医療現場または食品工場等その利用現場において低コストで容易且つ手軽に分析可能な装置又はセンサーを提供することを目的とするものである。
【0007】
また、従来の主なアミノ酸検出法である高速液体クロマトグラフィー法や放射線標識法に比べて、大量の溶媒を必要とせず、検出のステップおよび検出時間を大幅に短縮することが可能であり、またコストを大幅に削減することが可能であり且つ環境負荷も小さくできるというメリットがあるアミノ酸分析装置およびセンサーを提供することを目的とするものである。
【0008】
更に、非特許文献1に記載されている従来のバイオセンサーによる計測法において使用されているL-アミノ酸の酸化酵素は、20種類全ての天然のアミノ酸に対して存在するわけではないため、全アミノ酸を網羅的に計測することができなかった。本発明は20種類の天然の全アミノ酸を網羅的に計測できるアミノ酸分析装置およびセンサーを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述の課題および目的を解決するため、本発明の請求項1のアミノ酸分析用バイオセンシング装置では、アミノアシルtRNAシンセターゼ(ARS)を分子認識材料に用いるようにしたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項2のアミノ酸分析用バイオセンサーでは、アミノアシルtRNAシンセターゼを分子認識材料に用いるようにしたことを特徴とする。
【0011】
更に、本発明の請求項3では、アミノアシルtRNAシンセターゼをアミノ酸分析検査装置の分子認識材料として使用するようにしたことを特徴とする。
【0012】
更に、本発明の請求項4のアミノ酸分析用バイオセンシング装置又はバイオセンサーでは、請求項1又は2記載のバイオセンシング装置又はバイオセンサーで、血液中や尿中など体液に含まれるアミノ酸濃度を計測するようにしたことを特徴とする。
【0013】
更に、本発明の請求項5のアミノ酸分析用バイオセンシング装置又はバイオセンサーでは、請求項1又は2記載のバイオセンシング装置又はバイオセンサーで、食品中に含まれるアミノ酸濃度を計測するようにしたことを特徴とする。
【0014】
更に、本発明の請求項6のアミノ酸分析用バイオセンサーでは、微細加工技術によりシリコン基盤又はガラス基板上に微細幅の複数の流路と、該流路に接続され該流路より広い幅の反応場を複数個形成し、該反応場に各アミノアシルtRNAシンセターゼを固定化したことを特徴とする。
【0015】
更に、本発明の請求項7のアミノ酸分析用バイオセンサーでは、請求項6のアミノ酸分析用バイオセンサーの流路と反応場の数を天然の全アミノ酸を計測できるように概略20としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るアミノ酸分析用バイオセンシング装置又はバイオセンサーにおいては、
臨床医療及び/又は食品管理において簡便に利用可能なバイオセンシング装置又はバイオセンサーとすることができ、現在これらの分野において外部に委託して行われているアミノ酸の計測を、医療現場または食品工場など利用現場において容易に利用可能なものにすることができる。
【0017】
また、本発明に係るアミノ酸分析用バイオセンシング装置又はバイオセンサーにおいては、微少量のサンプルを水系において高感度に検出することができるため、現在の主なアミノ酸検出法である高速液体クロマトグラフィー法や放射線標識法に比べて大量の溶媒を必要とせず、検出のステップ、検出時間、コストを大幅に短縮及び削減することが可能であり、また環境負荷も小さくなるというメリットもある。
【0018】
また、コストが低減され、容易且つ手軽に分析可能なアミノ酸分析用バイオセンシング装置又はバイオセンサーが可能であるという点より、病院などの医療機関及び/又は食品工場などの利用現場において、複数台導入可能なものであり、しかも熟練した技術を要しないで誰にでも使用できる且つ取り扱いが簡便なアミノ酸分析システムとすることができる。特に本発明の請求項4のバイオセンシング装置又はバイオセンサーでは上記の理由で疾患の早期発見が可能となり、請求項5のバイオセンシング装置又はバイオセンサーでは味やにおいや鮮度等の計測に有効である。
【0019】
更に、本発明で分子認識材料に用いる酵素であるアミノアシルtRNAシンセターゼは、生体内に存在して、たんぱく質の合成に関わっているため目的のアミノ酸に対する選択性が高く、夾雑物質が存在しても、高選択的に各アミノ酸濃度が計測可能になるというメリットがある。更に、20種類全ての天然のアミノ酸に対してアミノ酸濃度を計測することができる。
【0020】
更に、本発明の請求項6および7に記載のアミノ酸分析用バイオセンサーでは、センサーチップの小型化を行うことができ、更にセンサー化することによりアミノ酸を誘導体化する必要もなく迅速且つ簡便に、熟練した技術を要すること無く、より安価な価格で、手軽にアミノ酸の計測を行うことを可能にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に本発明に係るアミノ酸分析用バイオセンシング装置およびバイオセンサーを実施するための最良の形態を図面と共に説明する。本発明者は、20種類の天然のアミノ酸に高い選択性を示す酵素であるアミノアシルtRNAシンセターゼ(ARS)に注目し、研究の結果、これを全く新規に分子認識材料に用いることにより、アミノ酸分析用のバイオセンシング装置およびバイオセンサーを発明するに至った。
【0022】
本発明で使用するアミノアシルtRNAシンセターゼという酵素は、20種類の天然の全アミノ酸に対して20種類存在し、しかも生体内に存在してたんぱく質の合成系に関わっている為、目的のアミノ酸に高い選択的結合性を示し、夾雑物質が存在していても高選択的に各アミノ酸濃度が計測可能であるという特徴を持っている。これまでにアミノアシルtRNAシンセターゼを用いてアミノ酸の検出や計測に応用した研究例は全くない。
アミノアシルtRNAシンセターゼとは生体内においてたんぱく質の合成に関わる酵素であり、20種類のアミノ酸に対してそれぞれ20種類存在する。その生体内における作用機構は、アデノシン三リン酸の存在下、アミノアシルtRNAシンセターゼが対応するアミノ酸に結合した状態で、更にそのアミノ酸に特異的なtRNA(トランスファーリボ核酸)と結合して、アミノアシルtRNAを生成させる。このアミノアシルtRNAのアンチコドンが、遺伝情報をつかさどるmRNA(メッセンジャーリボ核酸)の塩基の3つ組であるコドンと対を形成するため、メッセンジャーリボ核酸の塩基配列に従い、伸長中のポリペプチド鎖に順次アミノ酸が結合していくことによって目的のたんぱく質やペプチドが得られるというものである。
アミノアシルtRNAシンセターゼの生成は、一般的な大腸菌の形質転換・培養法により行った。概略は、まず各アミノ酸に対応するプラスミドは、好熱菌であるThermotoga maritimaのゲノムからその遺伝子をPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)した。その際、上流側のプライマーにNdeIという制限酵素サイト、下流側プライマーにはBam HIという制限酵素サイトを繋いでおいた。これら制限酵素サイトにより、PCR産物を発現ベクターpET-28b(Novagen社)に組み込んだ。大腸菌DH5alpha株 (Takara社)を用いて、発現ベクターをクローニングし、大腸菌Rossetta株 (Takara社)を用いて、たんぱく質を発現させた。各アミノ酸に対する20種類のプラスミドを用いてそれぞれこの操作を行うことにより、20種類のアミノアシルtRNAシンセターゼを得ることができる。
アミノアシルtRNAシンセターゼ(ARS)は以下のような反応式の通り、アデノシン三リン酸(ATP)の存在下でアミノ酸と結合してアミノアシル-AMPとピロリン酸、及び熱量を生じさせ、次の反応が行われる。
アミノ酸 + ATP --- (ARS) --- > アミノアシル-AMP + ピロリン酸
ここでアミノアシル-AMPとはアデニル化アミノ酸のことであり、アデノシン三リン酸の加水分解により生成したアデノシン一リン酸(AMP)にアミノ酸が結合して生成した化合物である。
更に本発明を実現するには、分子認識材料であるアミノアシルtRNAシンセターゼと、アミノ酸との選択的結合に伴って生じる化学的変化あるいは物理的変化を捉える必要がある。
【0023】
本発明者による研究の結果、前述の化学的変化又は物理的変化は次の変化を捉えることにより、次の計測システムを構成できることが分かった。
1・アミノアシルtRNAシンセターゼがアミノ酸と結合することによって生成するアミノアシル-AMPを計測するシステム。
2・アミノアシルtRNAシンセターゼがアミノ酸と結合することによって生成する84 kJ/mol程度の熱量を計測するシステム。
3・アミノアシルtRNAシンセターゼがアミノ酸と結合することによって生成するピロリン酸を計測するシステム。
4・アミノアシルtRNAシンセターゼがアミノ酸と結合することによって消費するアデノシン三リン酸を計測するシステム。
5・これらの計測法を組み合わせ、より信頼性の高い計測システム。
このような計測システムを構築することによってアミノ酸濃度の計測が可能であることが判明した。
【0024】
前記1のシステム(アミノアシルtRNAシンセターゼがアミノ酸と結合することによって生成するアミノアシル-AMPの濃度を計測するシステム)については、以下の実験に基づきアミノ酸の濃度の定量を行った。
(実験方法)
10 μM アミノアシルtRNAシンセターゼ(ARS)、2 mM アデノシン三リン酸(ATP)、5 mM 塩化マグネシウム(MgCl2)、10 mM 塩化カリウム(KCl)を100 mM トリス−塩酸(tris-HCl)バッファー(pH 8.0)中に溶解し、マイクロチューブに加えた。そこに0〜100 μMの濃度になるように各アミノ酸溶液を混合し、37℃で30分間反応させた。それを氷水中に10分間静置して反応を停止させた。
この反応液をキャピラリー電気泳動装置により分析し、反応により生成したアミノアシル-AMPの濃度を計測することによりアミノ酸の濃度の定量を行った。泳動の条件は、キャピラリー: 75 μm i.d.×35 cm、検出:UVディテクター (254 nm)、電圧: 15 kV、温度: 25℃、泳動時間: 15分、泳動バッファー:5 mM 塩化マグネシウム、10 mM 塩化カリウムを100 mM トリス−塩酸バッファー (pH 8.0)に溶解し、30 mM ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)との混合溶液とした。
【0025】
(実験結果)
図1は、アミノ酸の1つであるヒスチジン(His)の濃度を0〜100 μMとして、ヒスチジルtRNAシンセターゼ(HisRS)と反応させた結果を示すグラフである。横軸はヒスチジンの濃度であり、縦軸は反応に加えたアデノシン三リン酸の量を100とした時の、反応により生成したアデニル化アミノ酸とアデノシン一リン酸との和の比率であり、グラフ中の11は0 μMのヒスチジン、つまりヒスチジンを加えない場合におけるヒスチジルtRNAシンセターゼとを反応させた時の測定値の比であり、13は10 μMのヒスチジン、15は50 μMのヒスチジンとヒスチジルtRNAシンセターゼとを反応させた時の測定値の比を表すものである。この結果、図1中、検量線17に示されるように、0〜50 μMのヒスチジンにおいて応答との直線性があり、アミノ酸センシングシステムの検量線17が得られた。すなわち、ヒスチジルtRNAシンセターゼと反応させた結果、本アミノ酸センシングシステムでは0〜50 μMのヒスチジンに対して応答に直線性がみられ、定量可能であることが示されている。
図2は、アミノ酸の選択性の評価の結果を示すグラフであり、横軸は天然に存在する20種類のアミノ酸、つまり本実験において選択性の評価に用いたアミノ酸の略式表記である。すなわちHisはヒスチジン、Argはアルギニン、Trpはトリプトファン、Aspはアスパラギン酸、Pheはフェニルアラニン、Alaはアラニン、Tyrはチロシン、Leuはロイシン、Gluはグルタミン酸、Asnはアスパラギン、Metはメチオニン、Valバリン、Ileイソロイシン、Glnはグルタミン、Lysはリシン、Thrスレオニン、Glyはグリシン、Serセリン、Proはプロリン、Cysはシステインである。縦軸は反応に加えたアデノシン三リン酸の量を100とした時の、反応により生成したアデニル化アミノ酸およびアデノシン一リン酸との和の比率である。図2に明示される如く50 μMの各アミノ酸に対する応答を評価したところ、ヒスチジンに対しては、反応により消費されたアデノシン三リン酸が11.0 %と高い応答を示したのに対し、他のアミノ酸に対しては3〜4 %程度と低い応答しか示さなかった。すなわち、アミノアシルtRNAシンセターゼを分子認識材料に用いるアミノ酸センシングシステムにより、ヒスチジルtRNAシンセターゼはヒスチジンに対しては11.0 %の高い応答を示したのに対し、他のアミノ酸に対しては3〜4 %程度と低い応答しか示さなかった。
同様な結果はアルギニルtRNAシンセターゼ(ArgRS)、チロシルtRNAシンセターゼ(ThyRS)、スレオニルtRNAシンセターゼ(ThrRS)についても得られており、残りの16種類の酵素についても同様な結果が得られると思われる。
【0026】
前述の実験は、第1のシステムすなわちアミノアシルtRNAシンセターゼがアミノ酸と結合することによって生成するアミノアシル-AMPを計測するシステムについてアミノ酸の濃度の定量を行ったが、前述第1のシステム以外にも第2から第5のシステムについても、次に記載する方法により分子認識材料であるアミノアシルtRNAシンセターゼと、アミノ酸との選択的結合に伴って生じる化学的変化あるいは物理的変化を捉えることにより、次の計測システムを構成できることが分かった。
第2のシステムすなわちアミノアシルtRNAシンセターゼがアミノ酸と結合することによって生成する84 kJ/mol程度の熱量を計測するシステムでは、サーミスターをトランスデューサーに用いるセンサーにより、この熱量変化を計測することが可能である。文献では40 kJ/mol程度以上の熱量変化を捉えることができればセンサーの構築が可能であることが報告されている。
第3のシステムすなわちアミノアシルtRNAシンセターゼがアミノ酸と結合することによって生成するピロリン酸を計測するシステムでは、ピロリン酸に結合性を示す抗体や酵素、あるいは人工レセプターを用いることにより計測可能である。また、アデノシン三リン酸が加水分解されてピロリン酸を生成する過程をイオン感応電界効果トランジスタ(ISFET)により計測することによってもアミノ酸の計測が可能である。
第4のシステムすなわちアミノアシルtRNAシンセターゼがアミノ酸と結合することによって消費するアデノシン三リン酸を計測するシステムでは、アデノシン三リン酸の存在下で発光する酵素であるルシフェラーゼを反応系内に固定化することにより、アミノアシルtRNAシンセターゼがアミノ酸と結合することによって消費するアデノシン三リン酸の濃度を計測することが可能である。
第5のシステムすなわち第1から第4のシステムを適宜に組み合わせることにより、前述した如く計測可能であり、より信頼性の高い計測システムを構成することが可能である。
【0027】
以上の如く、本発明者による研究発明の結果から、今回新規に分子認識材料として用いた酵素であるアミノアシルtRNAシンセターゼがアミノ酸のセンシングに有効な分子認識材料であることが発明された。そして今後、この酵素を用いてセンサー化、あるいは検出試薬などに応用することにより、簡便で迅速なアミノ酸の検出法への応用が期待される。
【0028】
次に本発明に係るアミノ酸分析用のバイオセンサーの他の実施例につき図面に基づき説明する。図3に明示される30は、微細加工技術により7×3センチメートル程度のシリコン基板あるいはガラス基板上に幅が数百マイクロメートル程度の20個の流路31Aから31Tと、それより広い幅の20個の反応場33Aから33Tを形成し、その反応場に各アミノアシルtRNAシンセターゼを固定化したバイオセンサーチップである。
反応場33Aから33Tの幅は、400マイクロメートル程度とし、その反応場33Aから33Tに各アミノアシルtRNAシンセターゼを固定化する。固定化の方法については特開平6−43131、特開平5−172777等に開示されているので詳細は省略する。そして天然の20種類のアミノ酸結合性たんぱく質による全アミノ酸対応型センサー素子を調製し、天然の全アミノ酸濃度を同時に検出可能なマルチ検出型センサーとしたものである。
図3に示すバイオセンサーチップの使用例としては、サンプル入口に例えばシリンジポンプやペリスターポンプを接続して一定量の溶離液を流しておき、検体の溶液を注入する。そしてその検体は溶離液と共に流路31Aから31Tへと分岐して進み、さらに各アミノアシルtRNAシンセターゼを固定化されている反応場である33Aから33Tへと進む。ここで、各アミノアシルtRNAシンセターゼはそれぞれ対応するアミノ酸と特異的に結合する。例えばヒスチジルtRNAシンセターゼはヒスチジンに対してのみ結合性を示す。この反応場にイオン感応電界効果トランジスタを接地して、酵素とアミノ酸との反応に伴ってアデノシン三リン酸が加水分解され、ピロリン酸を生成する過程を計測することによりアミノ酸の検出が可能である。あるいはこの反応場にアデノシン三リン酸の存在下で発光する酵素であるルシフェラーゼを固定化して、酵素とアミノ酸が反応することによって消費されるアデノシン三リン酸を例えばフォトダイオードアレイで検出することによりアミノ酸の検出が可能である。
この様にセンサーチップの小型化を行うことにより、価格を安くすることが期待できるとともに、測定試料や試薬類が少なくまた計測に要する時間も大幅に短縮できると期待できる。更に現在は外部の専門機関や専門の技術者が行っているアミノ酸の計測を、各研究機関や病院、食品製造加工工場でも入手可能な価格で、手軽に行うことが可能になる。
更に、色素分子を導入して、アミノ酸とアミノアシルtRNAシンセターゼとの結合により変色する仕組み(アミノ酸検出試薬)をつくることにより、より簡便にアミノ酸濃度の計測を可能にすることが可能となる。
【0029】
次に本発明に係るアミノ酸分析用バイオセンシング装置およびアミノ酸分析用バイオセンサーおよびアミノ酸分析用アミノアシルtRNAシンセターゼの将来展望に付き概略図である図4と共に説明する。
現在は、図4中に41で明示される如く、外部の専門機関や専門の技術者等の分析試験所等41Aが各研究機関41Bや病院41Cや食品製造加工工場41Dからの分析依頼を受けてアミノ酸分析の計測を行っている。
将来は図4中に43で明示される如く、本発明に係るアミノ酸分析センシングシステムを応用し、さらに図3に示すようなバイオセンサーチップの小型化を図ることにより、各研究機関43Bや病院43Cや食品製造加工工場43Dでアミノ酸分析の計測を比較的低価格で、手軽に行うことが可能になる。すなわち外部に依頼していた血中や尿中や食品中のアミノ酸分析がその現場で手軽に分析可能になり、誰にでも取り扱いが可能になり、分析費用の廉価化、迅速性、簡便性の向上等多くのメリットを持つものとなる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明に係るアミノ酸分析用バイオセンシング装置およびアミノ酸分析用バイオセンサーおよびアミノ酸分析用アミノアシルtRNAシンセターゼの産業上の利用可能性(市場)としては、病院などの医療機関、食品工場などが対象になる。これらの一機関において複数台導入可能なコストで、しかも熟練した技術を要しない、誰にでも使用できる、取り扱いが簡便なシステムになりうると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】アミノ酸の1つであるヒスチジン(His)の濃度を0〜100 μMとして、ヒスチジルtRNAシンセターゼ(HisRS)と反応させた結果を示すグラフである。
【図2】アミノ酸の選択性の評価の結果を示すグラフである。
【図3】本発明に係るバイオセンサーの一実施例であるバイオセンサーチップの平面図である。
【図4】本発明に係るアミノ酸分析用バイオセンシング装置およびアミノ酸分析用バイオセンサーおよびアミノ酸分析用アミノアシルtRNAシンセターゼの将来展望を説明する為の概念図である。
【符号の説明】
【0032】
17 検量線
31A〜31T 流路
33A〜33T 反応場
41 現在(従来)のシステム
43 将来(本発明)のシステム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノアシルtRNAシンセターゼ(ARS)を分子認識材料に用いるアミノ酸分析用バイオセンシング装置。
【請求項2】
アミノアシルtRNAシンセターゼ(ARS)を分子認識材料に用いるアミノ酸分析用バイオセンサー。
【請求項3】
アミノ酸分析検査装置の分子認識材料として使用されるアミノ酸分析用たんぱく質であるアミノアシルtRNAシンセターゼ(ARS)。
【請求項4】
血液中や尿中など体液に含まれるアミノ酸濃度を計測するための請求項1又は2記載のバイオセンシング装置又はバイオセンサー。
【請求項5】
食品中に含まれるアミノ酸濃度を計測するための請求項1又は2記載のバイオセンシング装置又はバイオセンサー。
【請求項6】
微細加工技術によりシリコン基盤又はガラス基板上に微細幅の複数の流路と、該流路に接続され該流路より広い幅の反応場を複数個形成し、該反応場に各アミノアシルtRNAシンセターゼ(ARS)を固定化したことを特徴とするアミノ酸分析用バイオセンサー。
【請求項7】
流路と反応場の数を概略20としたことを特徴とする請求項6のアミノ酸分析用バイオセンサー。

【図1】
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【図4】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−166709(P2006−166709A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−359328(P2004−359328)
【出願日】平成16年12月13日(2004.12.13)
【出願人】(304049307)
【Fターム(参考)】