説明

アミノ酸型イオン液体からアミド生成物を分離する方法

【課題】
本発明は、液相ベックマン転位反応系の利点を活用しながら、イオン液体を循環再使用でき、液相ベックマン転位反応系から生成物であるアミドを分離することが実用化できる方法を提供することを課題とする。
【解決手段】
ベックマン転位反応によって生成したアミド生成物をアミノ酸型イオン液体から分離する方法であって、アミド生成物を含む該アミノ酸型イオン液体に極性溶媒と抽出溶媒とを添加した後に、該アミノ酸型イオン液体からアミド生成物を分離することを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアミド生成物を分離する方法に関し、特に、アミノ酸型イオン液体からアミド生成物を分離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カプロラクタムはナイロン6繊維やフィルムの重要な原材料である。このカプロラクタムを生産する上で最も重要な反応工程として、シクロヘキサノンオキシムのベックマン転位反応が挙げられる。現在、従来の転位反応プロセスでは、発煙硫酸(Oleum)を触媒とし、液相中でのシクロヘキサノンオキシムのベックマン転位反応を行うことでカプロラクタム硫酸塩を生成し、さらにアンモニア水を加えて中和することによりカプロラクタムを得ている。一連の反応においてシクロヘキサノンオキシムの転化率はほぼ100%で、カプロラクタムの選択率も99%と高い値を示すが、一連の反応において低価値の硫酸アンモニウムが大量に発生するとともに、触媒である濃硫酸が生産設備全体の腐食を招き、環境を汚染するなど問題となっている。近年、カプロラクタム生産技術の研究開発においては、専ら副生成物である硫酸アンモニウムの生成を減少させる、または回避することを目指して取り組みが進められている。また、液相での転位反応は、気相反応と比較すると、反応条件が温和で、設備に対する要求が高くないなどの利点があり、既存設備の改造に有利になる。したがって、多くの研究者によって、液相の転位反応に関する研究が積み重ねられ、著しい発展や成果を見るに至った。例えば、日本の住友化学株式会社により提出された特許文献1には、スルホン酸官能基を有するイオン液体を反応触媒とすることで、カプロラクタムの選択率が99%になることが記載されており、中国科学院蘭州化学物理研究所により提出された特許文献2には、塩化スルフリル官能基を有するイオン液体を触媒とすることで、カプロラクタムの選択率が97.2%になることが記載されており、オランダのDSM社により提出された特許文献3には、硫酸根をアニオンのイオン液体として転位反応を行うことで、アミドの選択率が99%になることが記載されている。
【0003】
また、発煙硫酸を用いた転位反応の純化段階でまずアルカリで硫酸を中和させ、さらに有機溶媒でカプロラクタムを抽出することを解決手段とする技術的特徴がすでに開示されている。例えば、特許文献4、特許文献5及び特許文献6には、芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素及びアルコール系溶媒を抽出溶媒として用い、アミドを有機溶媒に抽出してから次の純化処理を行うことが記載されている。特許文献7、特許文献8及び特許文献9には、アルキルフェノール溶媒でアミドを抽出することが記載されている。特許文献10には、回収されたナイロン6の廃棄物中において、アルキルフェノールでナイロン6における脱重合体のカプロラクタムを抽出し、該アルキル基の長さがC6〜C25で、最後に蒸留によってカプロラクタムとアルキルフェノールを分離することが記載されている。
【0004】
近年、原子経済や環境経済という観念が提唱され、イオン液体が化学分野において広範な応用範囲を有することが学術領域や産業領域で重視されている。イオン液体は、シクロヘキサノンオキシムの転位反応を触媒する上で良好な発展性が見込まれており、持続的な研究開発を行う価値を有している。例えば、特許文献11には、イオン液体と含リン化合物とを組み合わせる触媒系でベックマン転位反応を行うことが記載されている。しかし、含リン化合物の酸性と転位反応生成物との結合力が強いため、イオン液体/有機溶媒の二相系において転位反応生成物のほとんどがイオン液体相に存在し、溶媒による抽出や真空蒸留の方法で生成物を分離する効率が低くなる。アンモニア水を加えて中和することにより生成物を分離する効果を達成できるが、実際の生産過程では硫酸アンモニウムの生成を避けるため、アンモニア水を用いて中和することができなくなる。従って、こうした方法には更に改善すべき点が存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】中国特許第1852898A号
【特許文献2】中国特許第1919834号
【特許文献3】WO2008/145312/A1
【特許文献4】米国特許第3944543号
【特許文献5】米国特許第4036830号
【特許文献6】米国特許第3694433号
【特許文献7】米国特許第4328154号
【特許文献8】米国特許第4013640号
【特許文献9】米国特許第3912721号
【特許文献10】米国特許第6111099号
【特許文献11】中国特許第1670017号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許に記載されるシクロヘキサノンオキシムの転化率とカプロラクタムの選択率はともに高いが、経済上や技術上の理由で非発煙硫酸による転位反応はまだ実用化されていない。その主な理由の一つとして、転位反応系から生成物であるカプロラクタムを分離することができない点が挙げられる。すなわち、液相ベックマン転位反応系からアミドを分離することは、現在、硫酸アンモニウム副生成物が生じない転位反応を開発する上で主な障壁となっている。
【0007】
したがって、液相ベックマン転位反応系の利点を活用しながら、イオン液体を循環再使用でき、液相ベックマン転位反応系から生成物であるアミドを分離することが実用化できる方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の事情を踏まえ、アミノ酸型イオン液体からベックマン転位反応によるアミド生成物を分離する方法を提供し、当該方法は、アミノ酸型イオン液体に極性溶媒と抽出溶媒とを添加した後に、そのアミノ酸型イオン液体からアミド生成物を分離する方法である。ここで、極性溶媒は、好適には、水、C1〜C6脂肪族アルコール、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、N, N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン及びこれらの組み合わせよりなる群から選ばれる一つである。抽出溶媒は、好適には、ベンゼン、トルエン、キシレン、C4〜C8脂肪族アルコール、アルキルフェノール、ケトン、エステル、エーテル及びこれらの組み合わせよりなる群から選ばれる一つである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法は、アミノ酸型イオン液体でケトオキシムのベックマン転位反応を触媒することで、アミドを生成し、そして、極性溶媒を添加することにより転位生成物とアミノ酸型イオン液体との作用力を破壊し、抽出溶媒でアミノ酸型イオン液体から該アミド生成物を分離する方法である。そのため、従来の方法と比べ、本発明の方法は、揮発物質が生成されず、抽出段階でアンモニア水を加えて中和する必要がなく、副生成物として硫酸アンモニウムが生成されることがなく、アミノ酸型イオン液体の循環再使用が可能で、大規模な工業的生産に適するなどのメリットがあり、しかも、ケトオキシム高転化率と高アミド選択率との両方を兼ね備え、また、共触媒の添加も必要としないという利点がある。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を説明する。当該技術に精通する者は、本明細書の開示内容によって容易に本発明のメリットや効果を把握することができる。本発明は他の異なる実施形態により応用することが可能であり、本明細書における各細部についても、本発明の主旨から逸脱しない範囲において、異なる観点や応用に基づいて様々な修正や変更を行うことが可能であり、そうした修正や変更は本発明の特許請求の範囲に含まれる。
【0011】
本発明は、アミノ酸型イオン液体から、ベックマン転位反応によって生成したアミド生成物を分離する方法を提供し、当該方法は、アミド生成物を含む該アミノ酸型イオン液体に極性溶媒と抽出溶媒とを添加した後に、そのアミノ酸型イオン液体からアミド生成物を分離することを含む。
【0012】
本発明の方法において、ケトオキシムはアミノ酸型イオン液体と有機溶媒と必要に応じてブレンステッド酸とを含む触媒系で反応してアミド生成物を生成し、そのアミノ酸型イオン液体は、例えば、無機酸根または有機酸根から選ばれる一つまたは複数のブレンステッド酸アニオンと下記式(I)の構造を有するアミノ酸カチオンとを含むアミノ酸型イオン液体である。
【化1】

[式中、R1及びR2はそれぞれ独立して水素またはC1〜C8アルキル基を示し、かつ両者が同じまたは異なってもよく、R3は水素、環状イミン基またはC1〜C8アルキル基であり、ここで、R1〜R3におけるC1〜C8アルキル基は未置換、またはヒドロキシ基(-OH)、カルボキシル基(-COOH)、グアニド基(NH2C(=NH)NH-)、アミノ基(-NH2)、アミド基(-CONH2)、エステル基(-COOR、ここでRはC1〜C8アルキル基)、スルホン酸基(-SO3H)、クロロスルフィニル基(ClSO-)、ヒドロキシフェニル基、C1〜C8アルキルチオ基、メルカプト基(-SH)、C6〜C10アリール基及び5ないし10員のヘテロアリール基よりなる群から選ばれる一つの置換基によって置換されてもよい。]具体的には、その触媒系におけるアミノ酸型イオン液体と必要に応じたブレンステッド酸は、式(II)で表されるものである。
【化2】

[式中、HXはブレンステッド酸を示し、Xはそのブレンステッド酸のアニオンを示し且つ硫酸イオン、リン酸イオン、メチルスルホン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン及びフルオロホウ酸イオンとこれらの組み合わせよりなる群から選ばれる一つである。nは0から100の整数を示し、好ましくは、nは0から15の整数である。]
【0013】
一般的には、アミノ酸型イオン液体のカチオンとブレンステッド酸アニオンとのモル比が100:1から1:100にあり、好ましくは、モル比が10:1から1:10の範囲にある。
【0014】
好ましい具体的な実施形態では、アミノ酸型イオン液体におけるブレンステッド酸アニオンは硫酸イオンである。
【0015】
好ましい具体的な実施形態では、R1及びR2はそれぞれ独立してC1〜C8アルキル基を示し、R3はカルボキシル基(-COOH)、グアニド基(NH2C(=NH)NH-)、アミノ基(-NH2)、アミド基(-CONH2)、またはヒドロキシフェニル基により置換されたC1〜C8アルキル基を示す。
【0016】
通常、ブレンステッド酸には、硫酸、リン酸、酢酸、メチルスルホン酸、トリフルオロメチルスルホン酸、トリフルオロ酢酸、ヘキサフルオロリン酸、フルオロホウ酸などが含まれるが、これらに限定されない。また、単一酸や混合酸が選択されてもよい。
【0017】
本明細書において、「C1〜C8アルキル基」とは、直鎖状、分鎖状または環状のアルキル基を意味し、C1〜C8アルキル基の例として、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、s-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、及びシクロヘキシル基などが含まれるが、これらに限定されず、その中、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、及びペンチル基が好ましい。
【0018】
本発明において、アミドの生産に用いられる好適なケトオキシムは、アセトンオキシム、メチルエチルケトンオキシム、ベンゾフェノンオキシム、アセトフェノンオキシム、シクロペンタノンオキシム、シクロヘキサノンオキシム、シクロヘプタノンオキシム、シクロオクタノンオキシム、及びシクロドデカノンオキシムよりなる群から選ばれるものである。本発明の具体的な実施形態の一つでは、ケトオキシムはシクロヘキサノンオキシムである。
【0019】
本発明の好ましい具体的な実施形態では、アミノ酸型イオン液体は、グリシン硫酸系イオン液体、イソロイシン硫酸系イオン液体、アルギニン硫酸系イオン液体、グルタミン酸硫酸系イオン液体、チロシン硫酸系イオン液体、アスパラギン酸硫酸系イオン液体、リシン硫酸系イオン液体、トレオニン硫酸系イオン液体、フェニルアラニン硫酸系イオン液体、セリン硫酸系イオン液体よりなる群から選ばれるアミノ酸硫酸系イオン液体である。好ましくは、本発明のアミノ酸型イオン液体は、グルタミン酸硫酸系イオン液体、イソロイシン硫酸系イオン液体、N,N-ジメチルグルタミン酸硫酸塩、N,N-ジメチルアスパラギン酸硫酸塩、N-メチルグルタミン酸硫酸塩、またはN-メチルアスパラギン酸硫酸塩が好適である。本発明の具体的な実施形態の一つでは、アミノ酸型イオン液体は、硫酸が1倍モル過量のN,N-ジメチルグルタミン酸硫酸系イオン液体またはグルタミン酸硫酸系イオン液体である。また、本発明の方法において、アミノ酸型イオン液体を一種類または複数種類使用してもよい。
【0020】
本発明の方法においては、まず、アミノ酸型イオン液体、有機溶媒及び必要に応じてブレンステッド酸とを混合し、転化反応温度で二相触媒系を形成し、更に、ケトオキシムを有機溶媒に溶解して上記二相触媒系に注入して転化反応を行い、反応終了後、静置して相分離を行い、有機溶媒相を取り除く。次にアミノ酸型イオン液体相に極性溶媒と抽出溶媒とを添加し、攪拌抽出して、アミド生成物を含む抽出相とアミノ酸型イオン液体相とを得る。アミド生成物が次の純化精製段階に入り、アミノ酸型イオン液体相を蒸留することにより極性溶媒を取り除いて、循環再利用に供する。これにより、生成物であるアミドと触媒アミノ酸型イオン液体とが分離されるという目的が達成される。
【0021】
本発明の方法においては、まず、アミノ酸型イオン液体、有機溶媒及び必要に応じてブレンステッド酸とを混合して二相触媒系を形成する。ここで、有機溶媒は、好適には芳香族炭化水素、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、またはこれらの組み合わせから選ばれる。本発明の具体的な実施形態の一つでは、その有機溶媒はトルエンである。
【0022】
本発明で添加される極性溶媒は、好適には、水、C1〜C6脂肪族アルコール、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、N, N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドンまたはこれらの組み合わせから選ばれる極性溶媒である。この極性溶媒は水であることが好ましい。また、本発明で使用される抽出溶媒は、好適には、芳香族炭化水素、アルキルフェノール、C4〜C8脂肪族アルコール、ケトン、エステル、エーテルまたはこれらの組み合わせから選ばれる溶媒である。ここで、芳香族炭化水素は、好適には、ベンゼン、トルエン、またはキシレンである。C4〜C8脂肪族アルコールは、好適には、n−ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ヘキサノール、n-ヘプタノール、n-オクタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、2-メチル-2-ブタノール、またはシクロヘキサノールである。アルキルフェノールは、少なくとも三つの炭素原子を有する置換基による単一置換のフェノール、または少なくとも三つの炭素原子を有する置換基による二重置換のフェノールであって、例えば2-t-ブチルフェノール、2-イソプロピルフェノールである。ケトンは、好適には、2-ペンタノン、2-ヘキサノン、2-ヘプタノン、メチルイソブチルケトンまたは2,4-ペンタンジオンである。エステルは、好適には、エチルアセテート、メチルブチレート、メチルバレレートである。エーテルは、エチルエーテル、n-ブチルエーテルまたはイソプロピルエーテルである。本発明の具体的な実施形態の一つでは、その中の抽出溶媒は、2-t-ブチルフェノールである。通常、極性溶媒と抽出溶媒は、異なる物質を選択する。
【0023】
アミノ酸型イオン液体によりケトオキシムのベックマン転位反応を触媒することでアミドを生成する工程において、一般的には、そのアミノ酸型イオン液体とケトオキシムとのモル比は好適には1:10から10:1の範囲にあり、1:1から5:1の範囲がより好ましい。反応における温度は好適には60ないし150℃であり、80ないし130℃がより好ましく、90ないし120℃がさらにより好ましい。反応時間は好適には0.1ないし10時間であり、0.5ないし3時間がより好ましく、0.5ないし1時間がさらにより好ましい。
【0024】
また、極性溶媒と抽出溶媒を添加することでアミノ酸型イオン液体からアミド生成物を分離する工程では、極性溶媒とアミノ酸型イオン液体との重量比は好適には10:1から1:50の範囲にあり、4:1から1:20の範囲がより好ましく、4:1から1:5の範囲がさらにより好ましい。抽出溶媒とアミノ酸型イオン液体との重量比は好適には10:1から1:2の範囲にあり、6:1から1:1の範囲がより好ましく、3:1から1:1の範囲がさらにより好ましい。
【実施例】
【0025】
本発明の実施例は下記のように表されるが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。ケトオキシムとアミドはガスクロマトグラフィー法により分析され、ケトオキシムの転化率とアミドの選択率は下記の式で計算される。
転化率(%)=[反応したケトオキシムのモル数/初期のケトオキシムのモル数]×100%
選択率(%)=[得られたアミドのモル数/反応したケトオキシムのモル数] ×100%
【0026】
また、抽出溶媒で抽出されたアミドの抽出率は、下記の式で計算される。
抽出率(%)=[抽出溶媒で抽出されたアミドのモル数/アミドの総モル数] ×100%
【0027】
下記実施例におけるケトオキシムの転化率はすべて99.2%以上で、アミドの選択率は85%以上である。特に2-t-ブチルフェノールを抽出溶媒とする場合、シクロヘキサノンオキシムの転化率は99.99%という高い値に達し、カプロラクタムの選択率は97.13%となる。
【0028】
実施例1-9
実施例1ないし9において、250mlの三口丸底フラスコにトルエン溶媒100mlと1倍モル過量の硫酸が含まれるグルタミン酸硫酸系イオン液体0.01モルとを入れ、磁石で攪拌しながら110℃に昇温した後、さらにシクロヘキサノンオキシム0.002モルを加え、イオン液体とケトオキシムとのモル比を5:1とした。反応が0.5時間行われた後、冷却してからトルエン相を取り除き、水15gと下記表1に記載した抽出溶媒7.42gとを添加し、60℃で5分間攪拌し、分液ロートにて静置することで相分離を行い、抽出溶媒相を収集し、上記抽出工程を2回繰り返し、収集された抽出溶媒相をガスクロマトグラフィー装置で分析した。イオン液体相がさらにクロロホルムにより何回も抽出され、毎回30ml、ガスクロマトグラフィー装置で測定した際カプロラクタムがイオン液体にほとんど残らなくなるまで抽出した。抽出溶媒で抽出したカプロラクタムのモル数とクロロホルムで抽出したカプロラクタムのモル数との合計をカプロラクタムの総モル数とした。その結果は下記表1のとおりである。
【0029】
【表1】

【0030】
比較例1-4
実施例1のステップを繰り返し行い、表2に記載した抽出溶媒を使用した。ただし、極性溶媒水は使用していない。その結果は下記表2のとおりである。
【0031】
【表2】

【0032】
表1と表2の比較から、単に抽出溶媒しか添加せず、水のような極性溶媒が含まれない場合、その抽出率ははるかに低くなることがわかる。
【0033】
実施例10-14
実施例10ないし14において、250mlの三口丸底フラスコにトルエン溶媒150mlと1倍モル過量の硫酸が含まれるグルタミン酸硫酸系イオン液体0.05モルとを入れ、磁石で攪拌しながら110℃に昇温した後、さらにシクロヘキサノンオキシム0.03モルを加え、イオン液体とケトオキシムとのモル比を5:3とした。反応が0.5時間行われた後、冷却してからトルエン相を取り除き、それぞれ表3に記載した重量の水と37.10gの2-t-ブチルフェノールとを添加し、60℃で5分間攪拌し、分液ロートにて静置することで相分離を行い、抽出溶媒相を収集し、収集された抽出溶媒相をガスクロマトグラフィー装置で分析した。イオン液体相がさらにクロロホルムにより何回も抽出され、毎回30ml、ガスクロマトグラフィー装置で測定した際カプロラクタムがイオン液体にほとんど残らなくなるまで抽出した。抽出溶媒で抽出したカプロラクタムのモル数とクロロホルムで抽出したカプロラクタムのモル数との合計をカプロラクタムの総モル数とした。その結果は下記表3のとおりである。
【0034】
比較例5
実施例10のステップを繰り返し行ったが、極性溶媒水は使用していない。その結果は下記表3のとおりである。
【0035】
【表3】

【0036】
表3から、極性溶媒が含まれている実施例10-14において、その抽出率は極性溶媒が含まれない比較例5のそれより明らかに高くなることがわかる。
【0037】
実施例15-19
実施例15ないし19において、250mlの三口丸底フラスコにトルエン溶媒150mlと1倍モル過量の硫酸が含まれるグルタミン酸硫酸系イオン液体0.05モルとを入れ、磁石で攪拌しながら110℃に昇温した後、さらにそれぞれシクロヘキサノンオキシム0.01、0.02、0.03、0.04、0.05モルを加え、イオン液体とケトオキシムとのモル比を表4に記載したとおりとした。反応が0.5時間行われた後、冷却してからトルエン相を取り除き、水9.28gと2-t-ブチルフェノール37.10gとを添加し、60℃で5分間攪拌し、分液ロートにて静置することで相分離を行い、抽出溶媒相を収集し、上記抽出工程を2回繰り返し行い、収集された抽出溶媒相をガスクロマトグラフィー装置で分析した。イオン液体相がさらにクロロホルムにより何回も抽出され、毎回30ml、ガスクロマトグラフィー装置で測定した際カプロラクタムがイオン液体にほとんど残らなくなるまで抽出した。抽出溶媒で抽出したカプロラクタムのモル数とクロロホルムで抽出したカプロラクタムのモル数との合計をカプロラクタムの総モル数とした。その結果は下記表4のとおりである。
【0038】
【表4】

【0039】
実施例20-22
実施例20ないし22において、250mlの三口丸底フラスコにトルエン溶媒150mlと1倍モル過量の硫酸が含まれるグルタミン酸硫酸系イオン液体0.05モルとを入れ、磁石で攪拌しながら110℃に昇温した後、さらにシクロヘキサノンオキシム0.03モルを加え、イオン液体とケトオキシムとのモル比を5:3とした。反応が0.5時間行われた後、冷却してからトルエン相を取り除き、水8.58gを添加して2-t-ブチルフェノール抽出溶媒で3回の抽出(3回で抽出した抽出溶媒の総量は表5のとおりである)を行い、60℃で5分間攪拌し、分液ロートにて静置することで相分離を行い、抽出溶媒相を収集し、収集された抽出溶媒相をガスクロマトグラフィー装置で分析した。イオン液体相がさらにクロロホルムにより何回も抽出され、毎回30ml、ガスクロマトグラフィー装置で測定した際カプロラクタムがイオン液体にほとんど残らなくなるまで抽出した。抽出溶媒で抽出したカプロラクタムのモル数とクロロホルムで抽出したカプロラクタムのモル数との合計をカプロラクタムの総モル数とした。その結果は下記表5のとおりである。
【0040】
比較例6
実施例20のステップを繰り返し行ったが、極性溶媒水は使用しておらず、抽出溶媒の総量はイオン液体の総量の2倍とした。その結果を下記表5に示す。
【0041】
【表5】

【0042】
表5に示されたように、比較例6において抽出溶媒の使用量が37.10gという高い値に達しても、極性溶媒が添加されない場合、その抽出率は依然として高くない。
【0043】
実施例23-26
実施例23ないし26において、250mlの三口丸底フラスコにトルエン溶媒150mlと1倍モル過量の硫酸が含まれるグルタミン酸硫酸系イオン液体0.05モルとを入れ、磁石で攪拌しながら110℃に昇温した後、さらにシクロヘキサノンオキシム0.03モルを加え、イオン液体とケトオキシムとのモル比を5:3とした。反応が0.5時間行われた後、冷却してからトルエン相を取り除き、表6の極性溶媒0.86gと2-t-ブチルフェノール8.58gとを添加し、60℃で5分間攪拌し、分液ロートにて静置することで相分離を行い、抽出溶媒相を収集し、上記抽出工程を2回繰り返し行い、抽出溶媒相を収集し、ガスクロマトグラフィー装置で分析した。イオン液体相がさらにクロロホルムにより何回も抽出され、毎回30ml、ガスクロマトグラフィー装置で測定した際カプロラクタムがイオン液体にほとんど残らなくなるまで抽出した。抽出溶媒で抽出したカプロラクタムのモル数とクロロホルムで抽出したカプロラクタムのモル数との合計をカプロラクタムの総モル数とした。その結果は下記表6のとおりである。
【0044】
【表6】

【0045】
以上の結果より、本発明は、アミノ酸型イオン液体と有機溶媒(必要に応じてブレンステッド酸とを含む)で形成された二相触媒系で、ケトオキシムを利用してベックマン転位反応によりアミドを生成することで、確実に高いケトオキシム転化率とアミド選択率を実現できることがわかる。そして、アミノ酸型イオン液体相に極性溶媒と抽出溶媒とを添加し抽出攪拌することで、アミド生成物を含む抽出相とアミノ酸型イオン液体相とを得、更に抽出相からアミド生成物が分離され、このアミド生成物が次の純化精製段階に入り、これによりアミノ酸型イオン液体からアミド生成物を分離するという目的を達成できるようになる。しかも、そのアミノ酸型イオン液体相は蒸留によって極性溶媒が取り除かれた後に循環再利用することが可能である。また、本発明の方法では、揮発物質が生成されず、抽出段階でアンモニア水による中和を行う必要がなく、副生成物として硫酸アンモニウムが生成されることがなく、アミノ酸型イオン液体の循環再使用が可能で、環境汚染をもたらさず省エネを達成し、産業上の応用に幅広い展開が期待される。
【0046】
上記実施例は、本発明の原理とその効果を例示的に説明するに過ぎず、本発明を制限するものではない。当技術に精通する当業者は、本発明の主旨や範囲から逸脱しない範囲内において、上記実施例に対し様々な修正や変更を行うことが可能である。したがって、本発明の権利保護範囲は下記の特許請求の範囲に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベックマン転位反応によって生成したアミド生成物をアミノ酸型イオン液体から分離する方法であって、アミド生成物を含む該アミノ酸型イオン液体に極性溶媒と抽出溶媒とを添加した後に、該アミノ酸型イオン液体からアミド生成物を分離することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記極性溶媒は、水、C1〜C6の脂肪族アルコール、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、N, N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン及びこれらの組み合わせよりなる群から選ばれる一つである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記極性溶媒と前記アミノ酸型イオン液体との重量比は10:1から1:50の範囲にある請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記抽出溶媒は、ベンゼン、トルエン、キシレン、C4〜C8脂肪族アルコール、アルキルフェノール、ケトン、エステル、エーテル及びこれらの組み合わせよりなる群から選ばれる一つである請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記抽出溶媒は、少なくとも三つの炭素原子を有する置換基による単一置換のフェノール、少なくとも三つの炭素原子を有する置換基による二重置換のフェノール、2-ペンタノン、2-ヘキサノン、2-ヘプタノン、メチルイソブチルケトン、2,4-ペンタンジオン、エチルアセテート、メチルブチレート、メチルバレレート、エチルエーテル、n-ブチルエーテル、イソプロピルエーテル、n−ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ヘキサノール、n-ヘプタノール、n-オクタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、2-メチル-2-ブタノール、シクロヘキサノール及びこれらの組み合わせよりなる群から選ばれる一つである請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記抽出溶媒と前記アミノ酸型イオン液体との重量比は10:1から1:2の範囲にある請求項1または3に記載の方法。
【請求項7】
前記アミノ酸型イオン液体は、無機酸根または有機酸根から選ばれる一つまたは複数のブレンステッド酸アニオンと下記式(I)の構造を有するアミノ酸カチオンとを含む請求項1に記載の方法。
【化1】

[式中、R1及びR2はそれぞれ独立して水素またはC1〜C8アルキル基であり、かつ両者は同じでも異なってもよい。R3は水素、環状イミン基またはC1〜C8アルキル基であり、ここで、R1〜R3におけるC1〜C8アルキル基は未置換、またはヒドロキシ基、カルボキシル基、グアニド基、アミノ基、アミド基、エステル基、スルホン酸基、クロロスルフィニル基、ヒドロキシフェニル基、C1〜C8アルキルチオ基、メルカプト基、C6〜C10アリール基及び5ないし10員のヘテロアリール基よりなる群から選ばれる一つの置換基によって置換されていてもよい]
【請求項8】
前記ブレンステッド酸アニオンは、硫酸イオン、リン酸イオン、メチルスルホン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン及びフルオロホウ酸イオンよりなる群から選ばれる一つである請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記アミノ酸型イオン液体は、グリシン硫酸系イオン液体、イソロイシン硫酸系イオン液体、アルギニン硫酸系イオン液体、グルタミン酸硫酸系イオン液体、チロシン硫酸系イオン液体、アスパラギン酸硫酸系イオン液体、リシン硫酸系イオン液体、トレオニン硫酸系イオン液体、フェニルアラニン硫酸系イオン液体、セリン硫酸系イオン液体及びこれらの組み合わせよりなる群から選ばれるアミノ酸硫酸系イオン液体である請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記アミノ酸カチオンとブレンステッド酸アニオンとのモル比は10:1から1:10の範囲にある請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記アミド生成物は、前記アミノ酸型イオン液体と有機溶媒と必要に応じてブレンステッド酸とを含む触媒系のもとで、ケトオキシムからベックマン転位反応によって得られた生成物である請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記アミノ酸型イオン液体と前記ケトオキシムとのモル比は1:10から10:1の範囲にある請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記有機溶媒は芳香族炭化水素である請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記ベックマン転位反応における反応温度は60ないし150℃であり、反応時間は0.1ないし10時間である請求項1に記載の方法。

【公開番号】特開2011−93905(P2011−93905A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241757(P2010−241757)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(599004841)中國石油化學工業開發股▲分▼有限公司 (7)
【Fターム(参考)】