説明

アルカリ電池用ガスケットおよびそれを用いたアルカリ電池

【課題】水素ガスの透過を阻害しにくく、優れた耐アルカリ性を有するアルカリ電池用ガスケットとそれを用いた耐漏液特性に優れたアルカリ電池を提供することを目的とする。
【解決手段】ナイロンを主成分とし、電池ケース1内にアルカリ電解液を含む発電要素を収納して封口するアルカリ電池用ガスケットであって、前記ガスケット5をシリル化剤で表面処理して、その表面に撥水能を有する表面処理層5aを形成させたことを特徴とするアルカリ電池用ガスケット、およびそれを用いたアルカリ電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルカリ電池に関し、さらに詳しくはアルカリ電池を密封するガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ電池は、日用品から玩具、ホビー用品、ゲーム機器、携帯用音楽再生装置、電子機器等の主電源として今日幅広く普及している。使用される環境も様々であり、使用期間が数年に及ぶ場合もある。したがって、高温、多湿の環境下においても長期間に亘って漏液しない高い耐漏液特性の確保が求められている。
【0003】
一般的なアルカリ電池は、アルカリ性の水溶液からなるアルカリ電解液を含む発電要素を内部に収納して、ナイロンに代表される樹脂製のガスケットで密封されていることから、ガスケットには優れた耐アルカリ性が要求されてきている。
【0004】
従来から、ガスケットの表面に被覆材を配して耐アルカリ性を向上させる技術が検討されている。被覆材としてはビチューメンやパラフィンの他に種々の合成樹脂やピッチが開示されている。(特許文献1および2参照)
また、ガスケットの表面にジメチルシリコーンオイル膜を塗布して形成させる技術が開示されている。(特許文献3参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−202844号公報
【特許文献2】特開2004−134168号公報
【特許文献3】特開平7−282788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アルカリ電池はアルカリ性の水溶液を含むので、亜鉛等の電極からの水素ガス発生から逃れることはできない。そして、アルカリ電池内部に蓄積していく水素ガスによって、漏液に至る不具合が知られている。
【0007】
特許文献1および2の発明にあっては、ガスケットの表面を被覆するため、水素ガスの透過を阻害して漏液を促進してしまうリスクがある。ガスケットの表面の全部を被覆すると、そのリスクは最大となってしまう。
【0008】
特許文献3の発明にあっては、フィルム式のカメラ用途を想定して、フィルムの変質を防ぐために、ガスケットを透過する水素ガスを遮蔽している。特定用途とは言え、漏液を促進してしまうリスクが増大している点は見過ごせない。
【0009】
そこで、本発明は上記問題点を解決するものであり、水素ガスの透過を阻害しにくく、優れた耐アルカリ性を有するガスケットとそれを用いた耐漏液特性に優れたアルカリ電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明は、ナイロンを主成分とし、電池ケース内にアルカリ電解液を含む発電要素を収納して封口するアルカリ電池用ガスケットであって、前記ガスケットをシリル化剤で表面処理したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、アルカリ電池用ガスケットをシリル化剤で表面処理することによって、水素ガスの透過を阻害しにくく、優れた耐アルカリ性を有し、このガスケットを用いることによって、アルカリ電池の耐漏液特性を向上できるという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施の形態としてのアルカリ電池の半断面の正面図
【図2】本発明の一実施の形態としてのアルカリ電池の要部の拡大図
【図3】本発明の一実施の形態のシリル化剤による表面処理の説明図
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明によれば、ナイロンを主成分とし、電池ケース内にアルカリ電解液を含む発電要素を収納して封口するアルカリ電池用ガスケットであって、前記ガスケットをシリル化剤で表面処理することによって、ガスケットの化学的耐久性が改善され、長期保存後での優れた耐クラック性を示し、耐漏液性に優れる電池を提供できるという効果を奏するものである。
【0014】
ガスケット表面をシリル化剤で処理して疎水基を配置することで、ガスケットの撥水性を高めることができる。これにより、ガスケットに対して水分が供給されにくくなって加水分解を遅延させることができる。そして、従来の塗布して設けた被膜と比較して疎水基を配置した分子レベルの表面処理層は、極めて薄くガスケットの水素透過性を損なうことはない。
【0015】
具体的には、前記シリル化剤は、炭素数が1〜12の範囲のアルキルアルコキシシランを用いればよい。このようにすると、疎水基であるアルキル基がガスケットの表面側を向いて配置され、ガスケット表面の撥水性が高まる。炭素数が13以上では、水やアルコールの溶液に溶けにくくなって、処理する作業性が低下してしまう。
【0016】
また、前記ガスケットは吸水させてから、シリル化剤で表面処理を施すとよい。このようにすると、一旦吸水したガスケットは、水分を放出しにくくなり、ガスケットの寸法安定性が増すために好ましい。
【0017】
また、ガスケットの表面に予めコロナ処理を施してから、シリル化剤で表面処理を施すことが好ましい。このようにすると、コロナ放電によって酸素等の気体成分が活発なプラズマ状態となり、コロナ放電中の加速電子が樹脂表面に衝突し、樹脂表面の分子鎖切断反応と含酸素官能基付加反応が起こる。その結果、ガスケット表面にヒドロキシル基などの極性基が生成し、ガスケットとシリル化剤との反応点が増加するため好ましい。
【0018】
前記ガスケットは、6,6−ナイロンを主成分とすることが、封止性や耐熱性や経済性が優れるという理由で好ましい。
【0019】
また、前記6,6−ナイロンの数平均分子量は、13000〜16500の範囲であることが好ましい。数平均分子量13000未満では、耐熱性が低下し、電池を短絡させたときに、ガスケットの防爆弁が正常に作動せずに、電池が破裂する恐れがある。数平均分子量16500を超えると、分子鎖の末端部の数が減少し、シリル化剤との反応点が減少し、撥水性の効果が低減する。
【0020】
なお、上述した6,6−ナイロンの分子量は、ゲルパーミネーションクロマトグラフィー(GPC、東ソー株式会社製HLC−802A)によって測定することができる。
【0021】
また、本発明の別の局面として、前述したアルカリ電池用ガスケットを備えたアルカリ電池に関する。
【0022】
以下、本発明の一実施の形態を図1および図2を参照しながら説明する。図1は本発明の一実施の形態としてアルカリ電池の半断面の正面図であり、図2は同要部の拡大図である。
【0023】
正極端子と正極集電体を兼ねた有底円筒形の電池ケース1には、二酸化マンガンを活物質とする中空円筒状の正極2が内接するように収納されている。正極2の中空部には有底円筒形のセパレータ4を介して亜鉛を活物質とする負極3が配置されている。
【0024】
電池ケース1の開口部は、アルカリ電解液(図示せず)、正極2、負極3等の発電要素を収納した後、負極集電体6と、電気的に接続された負極端子板7と、シリル化剤で表面処理したガスケット5とを一体化した封口ユニット9により封口されている。電池ケース1の外表面は、外装ラベル8により被覆されている。
【0025】
ガスケット5は6,6ナイロンを主成分とし、負極集電体6が挿入される貫通孔を有する円筒状のボス部5bと、電池ケース1の開口部を封口する部位となる外周部5dと、ボス部と外周部とを連結する連結部5cとを有している。そして、連結部5cには、電池の異常時に破断して内圧を逃がす安全弁として機能する薄肉部5eを備えている。なお、図1にはシリル化剤による表面処理層5aは図示せず、図2のみに図示した。
【実施例】
【0026】
以下に本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明は以下に示す実施例に限定されない。
【0027】
まずは、数平均分子量で15200を有する6,6−ナイロンを射出成型により、図1に示したものと同様のガスケットを準備した。
【0028】
次に、これらのガスケットを調湿するために、60℃の温水に5時間浸漬させた後、余分な水分を除去し、30℃65%RH(相対湿度)の恒温恒湿槽内で20h保存した。
【0029】
そして、後掲する表1に示すそれぞれの処理を行って、実施例1〜4、比較例、および従来例のガスケットを作製した。
【0030】
図3を参照して実施例1のガスケットの処理について以下に説明する。図3は本発明の一実施の形態のシリル化剤による表面処理の説明図である。
【0031】
イソプロピルアルコール:水=97:3からなる溶液に対し、酢酸1質量%を加え充分攪拌した後、シリル化剤としてn−へキシルトリエトキシシラン1質量%を滴下しながら加え、さらに30分間攪拌した。
【0032】
この溶液中では、図3に示すように、n−へキシルトリエトキシシランが加水分解することによりn−へキシルシラノールが生成し、さらにシラノールの脱水縮合によりオリゴマーが生成していると考えられる。
【0033】
次に、この溶液にガスケットを1分間浸漬させ、溶液から取り出し余分な水分を除去した後、80℃で5分間乾燥させ、さらに30℃65%RHの恒温恒湿槽内で20h保存することで、実施例1のガスケットを得た。このとき、ガスケットの表面には、アルキルシリル化合物が6,6ナイロンの表面に水素結合して、疎水基であるアルキル基を外側に向けた表面処理層5aを形成した。
【0034】
実施例2のガスケットでは、シリル化剤にメチルトリエトキシシランを用いたこと以外は、実施例1と同様の処理を行った。
【0035】
実施例3のガスケットでは、シリル化剤にn−ドデシルトリエトキシシランを用いたこと以外は、実施例1と同様の処理を行った。
【0036】
実施例4のガスケットでは、シリル化剤で処理を行う前に、春日電機株式会社製AGI−033を用いてガスケットにコロナ処理を施した。そして、実施例1と同様の処理を行った。
【0037】
比較例として、シリル化剤で処理しないガスケットを用意した。
【0038】
従来例として、ジメチルシリコーンオイル膜を全表面に塗布したガスケットを用意した。
【0039】
これらのガスケットを用いて、図1に示すものと同様の単3形のアルカリ電池(LR6)を作製した。そして、これらの電池を以下に述べる評価を行い、その評価結果を後掲の表1に示した。
【0040】
評価は、各々30個ずつの電池を80℃恒温槽内にて所定期間保存し、漏液の有無を目視にて検査した。長期的な保存特性を有するか否かの目安として6ヶ月の保存期間を設定し、この期間で漏液しない場合に耐漏液特性が良好であると判断した。
【0041】
また、いじわる試験(過酷な条件)として8ヶ月の保存期間でも検査した。表中の数字は漏液が目視された電池の個数である。
【0042】
【表1】

実施例1〜4の電池では、比較例および従来例の電池と比較して、耐漏液性の改善効果がみられた。これは、ガスケット表面に形成された表面処理層5aによって、ガスケット表面の撥水性が高まり、ガスケットの加水分解が遅延されたためと考えられる。
【0043】
従来例の電池の中で漏液に至った電池を分解したところ、ガスケットの連結部が高い圧力を受けて塑性変形を起こしている様子が確認された。これは、ジメチルシリコーンオイル膜によって水素ガスの透過が妨げられて、ガスケットに強いストレスがかかり続けたものと思われた。
【0044】
これに対し、水素ガスの透過性に優れる本発明の実施例1〜4では、前述したようなガスケットの塑性変形は見られなかった。
【0045】
また、80℃で8ヶ月間保存した過酷な条件下の漏液結果に言及すると、実施例4の電池で漏液に至るものはなかった。これは、コロナ処理により、樹脂表面にヒドロキシル基などの極性基が生成し、ガスケットとシリル化剤との反応点が増加したため、より効果的に表面処理層5aが形成できたためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明のアルカリ電池用ガスケットを用いたアルカリ電池は優れた耐漏液特性を有し、当該電池を電源とするあらゆる機器に安心して好適に用いられる。
【符号の説明】
【0047】
1 電池ケース
2 正極
3 負極
4 セパレータ
5 ガスケット
5a 表面処理層
5b ボス部
5c 連結部
5d 外周部
5e 薄肉部
6 負極集電体
7 負極端子板
8 外装ラベル
9 封口ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナイロンを主成分とし、
電池ケース内にアルカリ電解液を含む発電要素を収納して封口するアルカリ電池用ガスケットであって、
前記ガスケットをシリル化剤で表面処理したことを特徴とするアルカリ電池用ガスケット。
【請求項2】
前記シリル化剤は、炭素鎖数が1〜12の範囲のアルキルアルコキシシランであることを特徴とする請求項1記載のアルカリ電池用ガスケット。
【請求項3】
前記ガスケットに吸水させてから、シリル化剤で表面処理を施すことを特徴とする請求項1記載のアルカリ電池用ガスケット。
【請求項4】
前記ガスケットの表面に予めコロナ処理を施してから、シリル化剤で表面処理を施すことを特徴とする請求項1記載のアルカリ電池用ガスケット。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載のアルカリ電池用ガスケットで、電池ケースの開口部を封口したアルカリ電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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