説明

アルカリ電解水で表面処理した透明フィルム使用した透明マスク

【課題】人体に影響を与えず、且つ処理時間の短い曇り防止手段で両面に曇り止めを施した透明部材を使用した透明マスクを提供する。
【解決手段】pH11以上、望ましくはpH12.6以上のアルカリ電解水で表面を処理して曇りやすさを軽減したトリアセチルセルロースフィルム(TACフィルム)を作成し、このTACフィルムを透明マスク透明部材の少なくとも顔の側の表面に、アルカリ電解水で処理した面が出るように配置した透明マスク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、息や戸外との出入りによる曇りを生じない透明マスクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
マスクは口を隠し、顔の形やその表現をわかりにくくし、見る人に不安感を与えたり、顔の認識を困難にさせたりする。そのために口元の部分が透明のマスクが望まれる。
しかし、マスク内は息により非常に湿度の高い状態に置かれ、透明部分がすぐに曇ってしまう問題があった。
また、冬の戸外から室内に入ると透明部分の外側が曇ってしまう問題もあった。
透明マスクにおける曇りの問題の解決については下記の特許文献に記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
特許文献1 特表2006−525823
特許文献2 特開2009−11475
【0004】
上記いずれの文献も曇り防止剤を塗布するとの記載のみであり、具体的にどのようなものをどのように設けるかの開示はない。いずれも塗布するとされており、何らかの物質を層状に透明フィルムの上に設けることを意図している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、これらの発明ではなんらかの曇り防止作用のある物質を塗布する工程が必要であり、塗布するためには界面活性剤あるいは接着剤などの塗布助剤が必要である。
結果として化学物質が鼻や口に非常に近い所に存在することになって不安感を生じさせ、又実際にアレルギー反応を起こしたり長期微量摂取による影響を人体に与える虞がある。
【0006】
本発明の課題は、このような問題を起こさない曇り防止効果をもった透明マスクを提供することである。
本発明の第二の課題は、曇り防止剤を溶剤に溶かし、その溶液を塗布し、溶剤を蒸発させるという工程を有しないシンプルな曇り防止効果付与方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は下記(発明1)から(発明9)である。
(発明1)
少なくとも部材の一部が透明部材でできている透明マスクにおいて、
透明部材の少なくとも顔の側の表面が、pH11以上のアルカリ電解水で処理されて曇りやすさの軽減されたトリアセチルセルロースフィルム(TACフィルム)の面からなることを特徴とする透明マスク
(発明2)
透明部材が、両面がpH11以上のアルカリ電解水で処理されて曇りやすさの軽減されたトリアセチルセルロースフィルム(TACフィルム)からなる(発明1)に記載の透明マスク
(発明3)
トリアセチルセルロースフィルム(TACフィルム)がアルカリ電解水で処理された後、水洗処理を施されたことを特徴とする(発明1)または(発明2)に記載の透明マスク
(発明4)
アルカリ電解水のpHが12.6以上である(発明1)から(発明3)のいずれかに記載の透明マスク
(発明5)
アルカリ電解水のpHが13.0以上である(発明1)から(発明3)のいずれかに記載の透明マスク
(発明6)
トリアセチルセルロースフィルム(TACフィルム)が、エアー面側で1分以上、バンド面側で3分以上pH13.0以上のアルカリ電解水で処理された厚さ75μm未満のTACフィルムからなる(発明2)又は(発明3)に記載の透明マスク
(発明7)
トリアセチルセルロースフィルム(TACフィルム)が、エアー面側で3分以上、バンド面側で5分以上pH13.0以上のアルカリ電解水で処理された厚さ75μm以上のTACフィルムからなる(発明2)又は(発明3)に記載の透明マスク
(発明8)
トリアセチルセルロースフィルム(TACフィルム)が、エアー面側で3分以上、バンド面側で5分以上pH13.0以上のアルカリ電解水で処理された厚さ75μm未満のTACフィルムからなる(発明2)又は(発明3)に記載の透明マスク
(発明9)
トリアセチルセルロースフィルム(TACフィルム)が、エアー面側で5分以上、バンド面側で8分以上pH13.0以上のアルカリ電解水で処理された厚さ75μm以上のTACフィルムからなる(発明2)又は(発明3)に記載の透明マスク
【0008】
本発明では、TACの処理にpH11以上のアルカリ電解水を短時間使用している点がひとつの特徴である。
本発明ではアルカリ電解水のpHは、実用上12.6以上が好ましく、より好ましくは13.0以上である。
本発明では、アルカリ電解水で処理したTACフィルムの表面が高度の曇り防止性を有しており、この処理された面が透明部材の表面になるようにして配置されているのが特徴である。従って、TACフィルムが透明部材としてそのまま使用されてもよいし、また他のフィルム、例えばPETフィルムにTACフィルムがアルカリ電解水で処理された面が表になるように貼り付けられた複合フィルムでもよい。
本発明では、アルカリ電解水を使用しているので上記のような高pHのものでも作業者に対する影響もほとんどなく、製造工程の作業環境上きわめて有利である。
【0009】
従来からTACフィルムの表面を各種の目的で苛性ソーダを使用して処理する、いわゆる鹸化処理が行われてきている。
しかし、これらの処理は、通常苛性ソーダ溶液使用で1時間は少なくともかかっており、本発明の処理時間に比べると著しく処理時間が長かった。
例えば、特開2004−49106に記載の実施例ではトリアセチルセルロースの表面鹸化に0.1N苛性ソーダで30分かけてやっと50%であり、100%鹸化では2N苛性ソーダで1時間処理している。
本発明では、その処理時間はTACフィルムの厚さが200μまでであれば長くとも10分で防曇効果をえるという点では実用的に十分であり、本発明の処理時間の短さは驚異的である。
また、電解アルカリ水で処理する本発明では、上記のように短時間の処理で十分であるが、このような短時間の処理にかかわらず処理のムラは一切生じず、防曇の程度のムラも一切生じない。TACフィルムへの苛性ソーダによる鹸化処理は、その進み具合が制御しにくく鹸化ムラのないフィルムの歩留まりは50%から70%といわれていることを考慮すると電解アルカリ水処理の特異性は明白である。
【0010】
本発明ではアルカリ電解水での処理後水洗するのが望ましい。TACフィルムはきわめて透明度が高く、アルカリ電解水処理によって発生する透明度のわずかなムラが斑点模様ムラとして気になることがある。アルカリ電解水処理後の水洗で透明フィルム上の透明度の斑点模様ムラを防止できる。水洗温度は高いほど水洗能率がよいが、35℃から60℃であれば1分から2分で十分である。
【0011】
発明の好ましい態様
アルカリ電解水のpHは、11以上であれば防曇効果に有効であり、12.6以上であれば処理時間を短縮できるので好ましく、13.0以上であればなお、好ましい。
アルカリ電解水による処理時間は、pH13.3のアルカリ電解水を使用した場合で、75μまでのTACフィルムでは、エアー面側で3分以上、バンド面側で5分以上、75μ以上の厚みのあるTACフィルムでは、エアー面側5分、バンド面側8分以上あれば、十分に曇り防止効果を発揮する。
【0012】
処理時間は、処理するアルカリ電解水の温度が10℃から25℃の範囲では余り影響を受けないが、これ以上高い温度で処理するときは処理時間を短くすることができる。また、これ以下の温度の水で処理するときは処理時間を長くする。
処理方法は、シャワー方式で噴霧してもよいし、アルカリ電解水液に浸漬させるのが簡単である。浸漬させる場合には処理に長くかかるバンド面側に要求される時間浸漬させればよい。この場合、エアー面側の処理時間をバンド面側の時間に合わせることは全く問題はない。
ここでバンド面とは、TACの製造においてTAC含有溶液を支持バンドの上に流延して溶媒を飛ばしてTACフィルムを作成したときのバンド面側をいい、このバンド面と反対側の面をエアー面という。
【0013】
本発明のマスクにおける透明部材は、使用直前にアルカリ電解水を付与すると防曇効果が更に高まる。したがって透明部材をアルカリ電解水を封入した容器の中に保存しておくのも有効である。アルカリ電解水は人体に影響が少ないので容器から出して直ちに使用できる特徴がある。
この場合は、長時間電解アルカリ水に接触していることになり、pH10以上のアルカリ電解水を使用しても十分に防曇効果を発揮する。
マスクは湿っている状態で使用することが望まれ、透明マスクをアルカリ電解水を封入した容器に封入するのも望ましい。
アルカリ電解水を噴霧器で必要に応じてスプレーすることで応急的防曇効果を発揮する。
【実施例】
【0014】
実施例1
合樹産業製(ローフォー社製)の非多孔性トリアセチルセルロースフィルム(TAC)の50μ厚みのものと100μの厚みのものを用意し、それらをpH13.3温度20℃のアルカリ電解水の溶液の中に下表の時間浸漬して表面処理後乾燥させた。処理した20℃のTACフィルムを湿度100%温度36.5℃の空気の中に1秒通したあとのTACフィルムの曇りの程度を観察した。
結果は下表のとおりである。
【0015】
【表1】


【0016】
上表において、
−:データなし
× :曇りが1分たっても消えない。
△ :未処理品より曇りは軽減されているが、透明マスクの透明フィルムとして実用不可
曇りが消えるまでに30秒以上かかる
○:軽く曇りが出たが、透明マスクの透明フィルムとして実用可
曇りが3秒で消える。
○ + :一部に軽い曇りが出たが、透明マスクの透明フィルムとして実用上問題なし
曇りが1秒程度で消える。
◎ :全く曇りが生じないか、一瞬で消失する。
などを意味する。
なお、24時間の浸漬後のものも同様の実験で全く曇りは生じることはなく、また実用的な強度を保っていた。
また、実用可と判断できるいずれのサンプルでも防曇性においてムラはなかった。
実施例2
【0017】
特開2009−11475に記載の実施例1〜4の透明マスクの透明マスク部分に上記の表面処理したTACフィルムを使用した透明マスクを実際にかけて10℃の室外を歩いても曇りの発生具合は上記表と同じ結果を示した。また室外から23℃湿度90%の部屋に入ったときも曇りは全く発生しなかった。このように両面をアルカリ電解水で処理したTACフィルムは透明マスクの用途に極めて適している性能を有していることがわかった。
【0018】
この際の透明マスクの展開図は図1のとおりである。
図における番号1から5は特開2009−11475の図の番号と同じ意味を持つ。
図1の展開図の手前の面が顔に接する方の面である。少なくとも透明部材1の手前の面がTACフィルムのアルカリ電解水で処理された面になっている必要がある。
本願の図1では、TAC透明部材1はその端部に糊しろ用のタブ6A、6B、6C、6D、6E、6Fおよび6Gが付いている。
これらのタブの部分にTACフィルムとフィルター部材2とを貼り付ける糊が付与される。
この糊の付与されたタブ6A、6Bおよび6Cはそれぞれその点線の部分で谷折りされて、フィルター部材2の端部の5A、5Bおよび5Cの展開図の裏側の領域に糊により貼り付けられる。(図2参照)
本発明に使用されるTACフィルムは、透明性が高くフィルターと透明部材を圧着や熱圧着すると透明フィルムを通して見たときの像にゆがみが生じやすいが、上記に記載の貼り付け方法ではこのような問題が生じない。
また、図2又は図3にあるごとく、TAC透明部材のタブ6Dと6Cとの間、6Bと6Gとの間には切り込みが入っている。
タブ6Eは5Eとの間の点線で谷折されて5Eの上に来ているフィルター部材2の5Dの裏側に貼り付けられる。更に6Eに付いている6Dは6Eと6Dの間の点線で谷折されて透明部材1の5Eの裏側に回されてそこに貼り付けられる。図3参照。
これにより端の部分は強度的に補強される。5E部分にも糊をつけると貼り付け強度の点で有利である。
6Fと6Gタブと5Fについても同じ説明が適用できる。
【0019】
発明の効果
本発明により、息による曇りや冬季寒い戸外から室内に入ったときに生じる曇りが全く問題にならない透明マスクを提供することができる。また、曇り防止剤付与のための工程が省略でき、アルカリ電解水への浸漬という通常の洗浄工程での処理で曇り防止効果を付与できる点で工程簡素化、コスト削減に効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の透明部材が使用された透明マスクの展開図を示す。点線は領域の境を表し、実線は端部または切り込みを表す。
【図2】透明部材に付いている補強用タブ6D、6E、6F、6Gが折りたたまれる様子を表す。透明部材にフィルター部を貼り付ける前の相互の関係を示す。
【図3】フィルター部2が透明部材1のタブに貼り付けられて透明部材1の上に折り倒されつつある状況を示す。
【符号の説明】
【0021】
1、 上部透明マスク部
2、 下部通気フィルター部
3、 粘着テープ
4、 通気フィルター部の下端辺
5、 接合部
6A、6B、6C 糊しろ用タブ
6D、6E、6F、6G 補強用糊しろタブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも部材の一部が透明部材でできている透明マスクにおいて、
透明部材の少なくとも顔の側の表面が、pH11以上のアルカリ電解水で処理されて曇りやすさの軽減されたトリアセチルセルロースフィルム(TACフィルム)の面からなることを特徴とする透明マスク
【請求項2】
透明部材が、両面がpH11以上のアルカリ電解水で処理されて曇りやすさの軽減されたトリアセチルセルロースフィルム(TACフィルム)からなる請求項1に記載の透明マスク
【請求項3】
トリアセチルセルロースフィルム(TACフィルム)がアルカリ電解水で処理された後、水洗処理を施されたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の透明マスク
【請求項4】
アルカリ電解水のpHが12.6以上である請求項1から請求項3のいずれかに記載の透明マスク
【請求項5】
アルカリ電解水のpHが13.0以上である請求項1から請求項3のいずれかに記載の透明マスク
【請求項6】
トリアセチルセルロースフィルム(TACフィルム)が、エアー面側で1分以上、バンド面側で3分以上pH13.0以上のアルカリ電解水で処理された厚さ75μm未満のTACフィルムからなる請求項2または請求項3に記載の透明マスク
【請求項7】
トリアセチルセルロースフィルム(TACフィルム)が、エアー面側で3分以上、バンド面側で5分以上pH13.0以上のアルカリ電解水で処理された厚さ75μm以上のTACフィルムからなる請求項2または請求項3に記載の透明マスク
【請求項8】
トリアセチルセルロースフィルム(TACフィルム)が、エアー面側で3分以上、バンド面側で5分以上pH13.0以上のアルカリ電解水で処理された厚さ75μm未満のTACフィルムからなる請求項2または請求項3に記載の透明マスク
【請求項9】
トリアセチルセルロースフィルム(TACフィルム)が、エアー面側で5分以上、バンド面側で8分以上pH13.0以上のアルカリ電解水で処理された厚さ75μm以上のTACフィルムからなる請求項2または請求項3に記載の透明マスク

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−245213(P2011−245213A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−123991(P2010−123991)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(507225470)ネットメロン有限会社 (4)
【Fターム(参考)】