説明

アルキル芳香族化合物の製造方法

【課題】担体との相互作用を強くして担体から脱離しにくい担持ヘテロポリ酸塩触媒を調製して、アルキル化によるアルキル芳香族化合物および/またはジアルキル芳香族化合物の製造方法に供する。
【解決手段】芳香族化合物をオレフィンでアルキル化してアルキル芳香族化合物および/またはジアルキル芳香族化合物を製造する方法において触媒としてアンモニアおよび/またはアルキルアミンで処理した担体に下式(1)で表したヘテロポリ酸塩を担持した触媒を用いることを特徴とするアルキル芳香族化合物および/またはジアルキル芳香族化合物の製造方法。
nm-nXY1240 (1)
(A:K、Csのいずれか、X:P、Siのいずれか、Y:W、Moのいずれか
m:X=Pの場合はm=3
X=Siの場合はm=4
n:X=Pの場合はnは2.0〜3.0
X=Siの場合はnは2.0〜4.0)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の第一の発明はアルキル化によるアルキル芳香族化合物およびジアルキル芳香族化合物の製造方法に関するものである。更に詳しくは、本発明は芳香族化合物をオレフィンでアルキル化する際に特定の担持ヘテロポリ酸塩を触媒として用いるアルキル芳香族化合物およびジアルキル芳香族化合物の製造方法に関するものである。
【0002】
本発明の第二の発明はトランスアルキル化によるアルキル芳香族化合物および/またはジアルキル芳香族化合物を製造する方法に関するものである。更に詳しくは、本発明は芳香族化合物および/またはアルキル芳香族化合物をアルキル芳香族化合物および/またはポリアルキル芳香族化合物でトランスアルキル化する際に特定の担持ヘテロポリ酸塩を触媒として用いるアルキル芳香族化合物および/またはジアルキル芳香族化合物の製造方法に関するものである。
【0003】
本発明の第三の発明は異性化反応によるアルキル芳香族化合物の製造方法に関するものである。更に詳しくは、アルキル芳香族化合物のアルキル基の置換位置異性化反応において、特定の担持ヘテロポリ酸塩を触媒として用いることを特徴とするアルキル芳香族化合物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0004】
芳香族化合物をオレフィンでアルキル化してアルキル芳香族化合物および/またはジアルキル芳香族化合物を製造する方法は、例えば特許文献1に担持ヘテロポリ酸触媒を用いる方法が開示されているが、通常の担持ヘテロポリ酸触媒では担持したヘテロポリ酸が担体から脱離しやすいという課題があった。
【0005】
また、芳香族化合物および/またはアルキル芳香族化合物をアルキル芳香族化合物および/またはポリアルキル芳香族化合物でトランスアルキル化する方法においても、通常の担持ヘテロポリ酸触媒では担持したヘテロポリ酸が担体から脱離しやすいという課題があった。
さらに、異性化反応によるアルキル芳香族化合物の製造方法においても、通常の担持ヘテロポリ酸触媒では担持したヘテロポリ酸が担体から脱離しやすいという課題があった。
【0006】
【特許文献1】特表平10−508300号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
かかる現状において、本発明が解決しようとする課題は、アルキル化反応で、担持ヘテロポリ酸触媒において担持したヘテロポリ酸が担体から脱離しにくくするために、ヘテロポリ酸を部分塩とし、かつ、担体との相互作用を強くして担体から脱離しにくい担持ヘテロポリ酸塩触媒を調製して、アルキル化によるアルキル芳香族化合物および/またはジアルキル芳香族化合物の製造方法に供することにある。
【0008】
さらに、第二の発明においては、同様に、担体から脱離しにくい担持ヘテロポリ酸塩触媒を調製して、トランスアルキル化によるアルキル芳香族化合物および/またはジアルキル芳香族化合物の製造方法に供することにある。
【0009】
さらに、第三の発明においては、同様に、担体から脱離しにくい担持ヘテロポリ酸塩触媒を調製して、異性化反応によるアルキル芳香族化合物の製造方法に供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明のうち第一の発明は、芳香族化合物をオレフィンでアルキル化してアルキル芳香族化合物および/またはジアルキル芳香族化合物を製造する方法において触媒としてアンモニアおよび/またはアルキルアミンで処理した担体に下式(1)で表したヘテロポリ酸塩を担持した触媒を用いることを特徴とするアルキル芳香族化合物および/またはジアルキル芳香族化合物の製造方法に係わる。
nm-nXY1240 (1)
(A:K、Csのいずれか、X:P、Siのいずれか、Y:W、Moのいずれか
m:X=Pの場合はm=3
X=Siの場合はm=4
n:X=Pの場合はnは2.0〜3.0
X=Siの場合はnは2.0〜4.0)
【0011】
また、本発明のうち第二の発明は、芳香族化合物および/またはアルキル芳香族化合物をアルキル芳香族化合物および/またはポリアルキル芳香族化合物でトランスアルキル化してアルキル芳香族化合物および/またはジアルキル芳香族化合物を製造する方法において触媒としてアンモニアおよび/またはアルキルアミンで処理した担体に式(1)で表したヘテロポリ酸塩を担持した触媒を用いることを特徴とするアルキル芳香族化合物および/またはジアルキル芳香族化合物の製造方法に係わる。
【0012】
さらに、本発明のうち第三の発明は、アルキル芳香族化合物のアルキル基の置換位置異性化反応において、触媒としてアンモニアおよび/またはアルキルアミンで処理した担体に式(1)で表したヘテロポリ酸塩を担持した触媒を用いることを特徴とするアルキル芳香族化合物の製造方法に係わる。
【発明の効果】
【0013】
本発明により担体との相互作用を強くして担体から脱離しにくい担持ヘテロポリ酸塩触媒を調製することができ、アルキル化、トランスアルキル化または異性化によるアルキル芳香族化合物および/またはジアルキル芳香族化合物の製造方法に供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
芳香族化合物をオレフィンでアルキル化してアルキル芳香族化合物および/またはジアルキル芳香族化合物を製造する方法および、芳香族化合物および/またはアルキル芳香族化合物をアルキル芳香族化合物および/またはポリアルキル芳香族化合物でトランスアルキル化する方法さらに、アルキル芳香族化合物のアルキル基の置換位置異性化反応を行う方法としては、種々のヘテロポリ酸およびヘテロポリ酸塩を用いた方法が知られているが、本発明は、アンモニアおよび/またはアルキルアミンで処理した担体にヘテロポリ酸のカリウムまたはセシウム部分塩を担持した触媒を用いる方法である。
【0015】
担持する担体としては、シリカ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、活性炭、アルミナ、酸化ニオブ、酸化マグネシウム、酸化バナジウム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化タンタルなどがあげられるが、好ましくは、シリカ、酸化チタン、酸化ジルコニウムがあげられる。さらに好ましくは、シリカがあげられる。
【0016】
担体の処理に用いられるアンモニアおよび/またはアルキルアミンとしては、アンモニア、下式(2)で表されるアルキルアミン、以下に例示されるシリルアミンの中から選ばれる。
【0017】
アルキルアミンとしては、下式(2)で表されるアルキルアミンが上げられる。
1(R2)(R3)N (2)
(R1、R2、R3:水素または炭素数1〜3のアルキル基)
【0018】
例としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミンなどが上げられるが、好ましくは、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミンが上げられる。
【0019】
シリルアミンとしては、例えば、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシランなどが上げられる。
【0020】
担体をアンモニアおよび/またはアルキルアミンで処理する方法としては、様々な方法があげられ、静置法、流通法などがあげられる。一例として、流通法について説明するが、例えば、担体を石英ガラス管に入れ、加熱下にアンモニアおよび/またはアルキルアミンを含有したガスを流通させる方法がある。アンモニアを代表として例示すると、ガス中のアンモニアの濃度としては、10%〜100%があげられ、アンモニア以外の成分としては、窒素、ヘリウムなどの不活性ガスがあげられる。処理温度としては、500℃〜1000℃があげられる。処理時間は通常5分間から24時間があげられ、好ましくは、2時間から5時間があげられる。担体に対するアンモニアガスの流量については特に制限はない。アンモニア処理圧力は、通常常圧〜1MPaがあげられるが、好ましくは常圧付近があげられる。
【0021】
また、一例として、担体を濃アンモニア水溶液および/またはアルキルアミンの溶液に入れて、テフロン(登録商標)内筒のオートクレーブで加熱する方法があげられる。溶媒としては、水、あるいは、トルエン、芳香族化合物、キシレン、ヘキサン、ヘプタンなどの炭化水素溶媒が上げられる。加熱温度としては、80℃〜200℃があげられる。処理時間は通常1時間から10時間があげられる。圧力は、処理温度での濃アンモニア水溶液および/またはアルキルアミンの溶液の飽和蒸気圧があげられる。
【0022】
また、担体をアミンおよび/またはシリルアミンで処理する方法としては、例えば、窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下、トルエン、芳香族化合物、キシレン、ヘキサン、ヘプタンなどの炭化水素溶媒中で、アミンおよび/またはシリルアミンを、例示した触媒担体と接触させ、好ましくは、0〜80℃の温度で、通常、5分〜24時間、攪拌混合する方法が挙げられる。
【0023】
担体をアンモニアおよび/またはアルキルアミンで処理することによってヘテロポリ酸の塩は担体との相互作用が強くなり、ヘテロポリ酸の塩は強く固定化される。このことによって、担体に担持されたヘテロポリ酸の塩は担体からの脱離が起きにくくなる。
【0024】
アンモニアおよび/またはアルキルアミンで処理された担体に担持するヘテロポリ酸の塩としては、式(1)である。
nm-nXY1240 (1)
(A:K、Csのいずれか、X:P、Siのいずれか、Y:W、Moのいずれか
m:X=Pの場合はm=3
X=Siの場合はm=4
n:X=Pの場合はnは2.0〜3.0
X=Siの場合はnは2.0〜4.0)
【0025】
すなわち、12−タングストリン酸、12−モリブドリン酸、12−タングストケイ酸、12−モリブドケイ酸のカリウムまたはセシウム部分塩である。
【0026】
12−タングストリン酸、12−モリブドリン酸の場合は、カリウムまたはセシウム原子の数は酸1分子に対して2.0から3.0の間の値であるが、好ましくは、2.3〜2.7があげられ、より好ましくは、2.4〜2.6があげられる。
【0027】
12−タングストケイ酸、12−モリブドケイ酸の場合は、カリウムまたはセシウム原子の数は酸1分子に対して2.0から4.0の間の値であるが、好ましくは、3.0〜3.8があげられる。
【0028】
ヘテロポリ酸部分塩とは、上記例示で説明すると、12−タングストリン酸、12−モリブドリン酸、12−タングストケイ酸、12−モリブドケイ酸の場合には、n<mの場合であり、ヘテロポリ酸のプロトンがすべてカリウムまたはセシウムカチオンと交換されていない場合を表現する方法である。
【0029】
ヘテロポリ酸の好ましい例示としては、タングステンを含む化合物の方が、酸として強度が高いので、12−タングストリン酸、12−タングストケイ酸が挙げられる。
【0030】
対カチオンの好ましい例示としては、セシウムの場合に触媒の表面積が高くなるので、セシウムが挙げられる。
【0031】
触媒の調製方法は、ヘテロポリ酸の塩を調製した後に、アンモニアおよび/またはアルキルアミンで処理された担体に担持して調製する方法、ヘテロポリ酸の塩を調製した後に蒸発乾固し、アンモニアおよび/またはアルキルアミンで処理された担体と混合した後に水に懸濁させる方法などがあるが、固体を取り出す方法としては、ろ別、蒸発乾固などの方法があげられる。担持方法の具体的な調製例としては、次の方法があげられる。
【0032】
ヘテロポリ酸の塩の調製方法としては、ヘテロポリ酸の水溶液とカリウムまたはセシウムの塩基性化合物の水溶液を反応させる方法がある。一例として、12−タングストリン酸、12−モリブドリン酸、12−タングストケイ酸、12−モリブドケイ酸のカリウムまたはセシウム部分塩を調製する方法を説明するが、ヘテロポリ酸のカリウムまたはセシウム部分塩を調製することができれば、この例示には限定されない。
【0033】
例えば、市販のヘテロポリ酸を水溶媒を用いて再結晶する。結晶が水分を含有し、結晶が固化する場合がある。乾燥方法としては、固体水酸化ナトリウム、濃硫酸などの乾燥剤を用いて、真空デシケーター中で乾燥を行う方法が挙げられる。あるいは、減圧乾燥法が挙げられる。温度は、室温から100℃が挙げられ、時間としては、1時間から24時間の間が挙げられる。一方、カリウムの塩基性化合物としては、水酸化カリウム、炭酸カリウムなどがあげられるが、カリウムの塩基性化合物であれば、これらに限定されない。セシウムの塩基性化合物としては、水酸化セシウム、炭酸セシウムなどがあげられるが、セシウムの塩基性化合物であれば、これらに限定されない。炭酸セシウムを用いた触媒の調製例を以下にあげると、まず、炭酸セシウムを乾燥窒素気流中で、200℃から500℃の温度下で焼成し、無水物とする方法があげられる。焼成時間としては、通常1時間から10時間があげられ、好ましくは、1.5時間から5時間があげられる。次いで、炭酸セシウムの重量を精秤した後、水溶液とし、メスフラスコにて一定の容量とし、濃度を決定する。炭酸セシウムの水溶液を、重量を正確に秤量したヘテロポリ酸を水に溶解した水溶液に、例えば、室温で、1分から1時間で滴下し、さらに1分から1時間攪拌し、一夜放置してヘテロポリ酸のセシウム部分塩とする方法があげられる。このとき、重量を正確に秤量したヘテロポリ酸に対して、加える炭酸セシウムの量を変化させることにより式(1)のn値を決める。
【0034】
得られたヘテロポリ酸の部分塩は非常に微小な結晶であるため、水中に懸濁しているので、アンモニアおよび/またはアルキルアミンで処理した担体に担持する場合は、ヘテロポリ酸の部分塩の懸濁液に担体を加え、ろ別する方法があげられる。また、例えば、ロータリーエバポレーターで、40℃から60℃の温度で蒸発乾固する方法があげられる。得られた担持触媒の乾燥温度としては、通常60℃から150℃があげられ、好ましくは、70℃〜130℃があげられる。アンモニアおよび/またはアルキルアミンで処理した担体に担持するヘテロポリ酸のカリウムまたはセシウム部分塩の比率は、重量基準で、担体1.0に対して、ヘテロポリ酸のカリウムまたはセシウム部分塩の比率は0.05から20.0があげられ、好ましくは、0.5から15.0があげられ、さらに好ましくは、2.0から8.0が上げられる。
【0035】
得られた、アンモニアおよび/またはアルキルアミンで処理した担体にヘテロポリ酸のカリウムまたはセシウム部分塩を担持した触媒は芳香族化合物のアルキル化反応または、芳香族化合物やアルキル芳香族化合物のトランスアルキル化反応に使用する前に前処理されるのが一般的である。通常は触媒が含有している水分を脱水することが重要である。芳香族化合物のアルキル化反応、芳香族化合物やアルキル芳香族化合物のトランスアルキル化反応はフリーデルクラフツ反応であるため、触媒が多量の水分を含有している場合は反応が進行しない。また、前処理温度が高過ぎる場合、担持したヘテロポリ酸のカリウムまたはセシウム部分塩の構造が破壊されるので、好ましくない。前処理方法としては、触媒をガスの流通下に過熱する方法、触媒を加熱下に減圧乾燥する方法などがあげられるが、その方法は特に限定されない。例えば、触媒をガスの流通下に加熱する方法におけるガスとは、不活性ガスや空気などがあげられるが、重要なのは、ガス中の水分含量であり、含量が低ければ低い方が好ましい。好ましく用いられるのは、窒素ガスがあげられる。加熱する温度は重要であり、通常、150℃から300℃が選ばれる。さらに好ましくは、200℃から290℃があげられる。前処理時間は、通常1時間から10時間があげられ、好ましくは、2時間から5時間があげられる。また、触媒を加熱下に減圧乾燥する方法の場合、加熱温度は、流通法と同様の温度が好ましく用いられる。処理時間は、同様の時間が好ましく採用される。
【0036】
以下、芳香族化合物のアルキル化反応、芳香族化合物および/またはアルキル芳香族化合物のトランスアルキル化反応および、アルキル置換芳香族化合物の異性化反応について説明する。
【0037】
芳香族化合物としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、クメン、ジイソプロピルベンゼンなどアルキル置換ベンゼン類、脂環式芳香族化合物、ナフタレンなど縮合環式芳香族化合物などが上げられる。芳香族化合物は、クロロベンゼン、フェノールなどのヘテロ原子を含む化合物も例として上げられる。異性化反応に用いられる多置換の芳香族化合物も例として上げられる。好ましくは芳香族化合物は芳香族炭化水素であり、製造されるアルキル芳香族化合物はアルキル芳香族炭化水素である。また好ましくは、2〜4アルキル基置換のアルキル芳香族炭化水素が異性化反応に用いられる。さらに好ましくは、ベンゼンおよびアルキル置換ベンゼンが上げられる。
【0038】
アルキル化に用いられるオレフィンとしては例えば、エチレン、プロピレン、n−ブテン、イソブテンやペンテン、ヘキセンなどの直鎖状アルファオレフィンや内部オレフィン、イソペンテン、イソヘキセンなどの分岐状アルファオレフィンや内部オレフィン、シクロヘキセンなどの環状オレフィンなどさまざまなオレフィンが上げられるが、好ましくは、エチレン、プロピレン、n−ブテン、イソブテンやペンテン、ヘキセンなどの直鎖状アルファオレフィンや内部オレフィンが上げられ、さらに好ましくは、エチレン、プロピレン、n−ブテン、イソブテンやペンテン、ヘキセンなどの炭素数6以下の直鎖状アルファオレフィンが上げられる。
【0039】
トランスアルキル化に用いられる原料としては、ベンゼン、エチルベンゼン、クメン、ジエチルベンゼン、ジイソプロピルベンゼン、トリエチルベンゼン、トリイソプロピルベンゼン、テトラエチルベンゼン、テトライソプロピルベンゼン、ポリエチルベンゼン、ポリイソプロピルベンゼンなどが上げられる。ここで、ポリアルキルベンゼンとはベンゼンに2以上のアルキル置換基を有するものの総称とする。
【0040】
例えば、ベンゼンとジエチルベンゼンのトランスアルキル化を行えば、ベンゼン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼンの熱力学的平衡組成物を製造することができる。また、例えば、ベンゼンとジイソプロピルベンゼンのトランスアルキル化を行えば、ベンゼン、クメン、ジイソプロピルベンゼンの熱力学的平衡組成物を製造することができる。他のアルキル基においても同じである。
【0041】
好ましくは、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、クメン、ジイソプロピルベンゼンを製造するトランスアルキル化が好ましく行われる。
【0042】
異性化反応に用いられる原料としては、例えば、o−ジエチルベンゼン、m−ジエチルベンゼン、p−ジエチルベンゼンおよび/または3種の化合物から選ばれる化合物の混合物、o−ジイソプロピルベンゼン、m−ジイソプロピルベンゼン、p−ジイソプロピルベンゼンおよび/または3種の化合物から選ばれる化合物の混合物が上げられる。他の置換位置異性体も上げられるが芳香核にアルキル置換基が置換した芳香族化合物が用いられる。
【0043】
例えば、本発明で用いられる触媒によって、p−ジエチルベンゼンの異性化反応を行うと、o−ジエチルベンゼン、m−ジエチルベンゼンとの混合物が生成するが、同時にトランスアルキル化反応も進行し、ベンゼン、エチルベンゼン、トリエチルベンゼン類の混合物が生成する。同様にp−ジイソプロピルベンゼンの異性化反応を行うと、o−ジイソプロピルベンゼン、m−ジイソプロピルベンゼン、p−ジイソプロピルベンゼン、ベンゼン、クメン、トリイソプロピルベンゼン類の混合物が生成する。
【0044】
本反応には、好ましくは芳香核に2から4のアルキル置換基が置換した芳香族化合物が上げられるが、好ましくは、ベンゼンにアルキル基が2置換した芳香族化合物が上げられる。特にジイソプロピルベンゼンが上げられる。
【0045】
アルキル化、トランスアルキル化および異性化に用いる芳香族化合物、オレフィン、アルキル芳香族化合物およびポリアルキル芳香族化合物はその水分含量によって触媒の活性が失われるので、管理が重要である。芳香族化合物、オレフィンまたはアルキル芳香族化合物に含まれる水分は重量で表すと、100ppm以下が好ましい。さらに好ましくは、20ppm以下があげられる。芳香族化合物中の不純物として、酸触媒でオリゴメリゼーションが起きる成分が含まれていなければ、使用上問題はないと考えられる。オレフィン中の不純物として、同じく、酸触媒でオリゴメリゼーションが起きる成分が含まれていなければ、使用上問題はないと考えられる。芳香族化合物およびオレフィンの純度は高い方が好ましい。
【0046】
反応方法としては、固定床流通型反応、スラリー流通反応、バッチ反応など、種々の反応形式があげられるが、工業的に好ましい反応形式は、固定床流通型反応があげられる。
【0047】
アルキル化、トランスアルキル化および異性化における芳香族化合物、オレフィンまたはアルキル芳香族化合物の反応方法としては、芳香族化合物、オレフィンまたはアルキル芳香族化合物を液体の状態で反応に供する方法、芳香族化合物液中にオレフィンガスやアルキル芳香族化合物を圧入する方法、芳香族化合物、オレフィン、アルキル芳香族化合物を同時にガスで反応させる方法など、様々な反応方法があげられるが、工業的には、芳香族化合物、オレフィンまたはアルキル芳香族化合物を液体の状態で反応に供する方法、芳香族化合物液中にオレフィンガスまたはアルキル芳香族化合物を圧入する方法が好ましい例としてあげられる。
【0048】
触媒に対する芳香族化合物、オレフィンまたはアルキル芳香族化合物の供給量は、芳香族化合物を基準に考えた場合、流通法では、LHSVで表すと0.5から200h-1があげられる。オレフィン/芳香族化合物モル比または、アルキル基/芳香族化合物のモル比は0.5から3.0の間があげられる。モル比が低い場合には、モノアルキル芳香族化合物が多く製造されるが、モル比が高い場合はジアルキル芳香族化合物、トリアルキル芳香族化合物などポリアルキル芳香族化合物が多く製造される。反応温度は50℃から200℃があげられ、好ましくは、50℃から120℃があげられる。さらに好ましくは、80℃から110℃があげられる。反応圧力は、通常、常圧から10MPaがあげられ、好ましくは、0.05MPaから5MPaがあげられる。
【0049】
バッチ反応では、触媒に対する芳香族化合物の仕込み量は、重量比で表した時、1.0から200があげられる。オレフィン/芳香族化合物モル比または、アルキル基/芳香族化合物のモル比は0.5から3.0の間があげられる。反応温度は50℃から200℃があげられ、好ましくは、50℃から120℃があげられる。さらに好ましくは、80℃から110℃があげられる。反応圧力は、通常、常圧から10MPaがあげられ、好ましくは、0.05MPaから5MPaがあげられる。反応時間は、30分から5時間が好ましくあげられる。
【0050】
本発明の第一の発明は、芳香族化合物をオレフィンでアルキル化してアルキル芳香族化合物および/またはジアルキル芳香族化合物を製造する方法であるが、反応条件によっては、並産するアルキル芳香族化合物とジアルキル芳香族化合物の比率が著しくジアルキル芳香族化合物に偏り、アルキル芳香族化合物がほとんど製造されない場合がある。
【0051】
ヘテロポリ酸塩の細孔構造は、対カチオンや、カチオン/ヘテロポリ酸モル比によって特徴がある。例えば、ヘテロポリ酸のセシウム部分塩はメソ孔と呼ばれる細孔径の大きな細孔を有すると言われている。本触媒の特徴は、細孔構造が担体の細孔構造に支配され、ヘテロポリ酸のセシウム部分塩の細孔に加えさらに大きい細孔を持っていることである。このことは、芳香族化合物のアルキル化反応において、アルキル芳香族化合物の製造に通常用いられるゼオライト触媒と比べて、ジアルキル芳香族化合物、トリアルキル芳香族化合物が多く生成されることを示す。本触媒の特徴はジアルキル芳香族化合物を工業的に製造する場合に有利であり、ゼオライト触媒では達成できない比率でジアルキル芳香族化合物を製造することができる。ジアルキル芳香族化合物を工業的に用いる場合には、ゼオライト触媒よりも、本触媒の方が好適である。
【0052】
本発明の第二の発明は、芳香族化合物、アルキル芳香族化合物のトランスアルキル化であるが、アルキル化と同様に、本触媒の特徴は、大きい細孔を持っていることである。このことは、芳香族化合物、アルキル芳香族化合物のトランスアルキル化反応においても、通常用いられるゼオライト触媒と比べて、ジアルキル芳香族化合物、トリアルキル芳香族化合物が多く生成されることを示す。本触媒の特徴はジアルキル芳香族化合物を工業的に製造する場合に有利であり、ゼオライト触媒では達成できない比率でジアルキル芳香族化合物を製造することができる。ジアルキル芳香族化合物を工業的に用いる場合には、ゼオライト触媒よりも、本触媒の方が好適である。
【0053】
本発明の第三の発明は、アルキル芳香族化合物のアルキル基の置換位置異性化反応であるが、アルキル化と同様に、本触媒の特徴は、大きい細孔を持っていることである。このことは、異性化反応においても、通常用いられるゼオライト触媒と比べて、m−体、o−体がp−体と同様に反応することを示す。本触媒の特徴はm−体、o−体を工業的に反応させる場合に有利であり、ゼオライト触媒では達成できない比率でm−体、o−体を反応させることができる。m−、o−ジアルキル芳香族化合物を工業的に反応させる場合には、ゼオライト触媒よりも、本触媒の方が好適である。
【実施例】
【0054】
実施例1
市販の12−タングストリン酸(日本無機化学工業株式会社)1007.2gを水500gに加え溶解した。ロータリーエバポレーターで、50℃に加熱しながら、水溶液を濃縮して、飽和水溶液とし、1夜室温にて放置することにより再結晶した。303.7gの結晶を得た。母液を再度60℃に加熱して、濃縮し、0℃で再結晶した。結晶を吸引ろ過し、343.3gの結晶を得た。この操作を再度繰り返して、165.5gの結晶を得た。合計812.5gの結晶を得た後、粉砕して、風乾し、結晶粉末を得た。この結晶粉末の一部を65℃で4時間、減圧乾燥を行った。
一方、市販の炭酸セシウム5.067gを乾燥空気流通下(200ml/min)450℃に過熱して、1.5時間脱水した。得られた炭酸セシウム5.005gのうち3.20gを水溶液にして、メスフラスコを用いて100mlとした。
12−タングストリン酸の結晶1.488gを7.0mlの水に溶解して、既に調製した炭酸セシウムの水溶液6.344mlを10分で滴下した。続いて、10分間攪拌した。この懸濁液を1夜室温で放置した。以上の方法で12−タングストリン酸セシウム部分塩を調製した。
【0055】
粉状のシリカ(日本アエロジル社、アエロジル300)5.0gを石英ガラスに入れ、窒素気流で置換した後、800℃に加熱した。1時間後、流通ガスを100%アンモニアガスに切り替え、50ml/minで流通させながら、800℃で4時間、アンモニア処理した。その後、室温まで冷却しアンモニア処理シリカ担体を得た。
アンモニア処理したシリカ担体0.4gを、既に調製した12−タングストリン酸セシウム部分塩の懸濁液に加え、30分間攪拌した後、ろ過し、100℃で乾燥した。以上の方法でアンモニア処理シリカ担体担持80wt%Cs2.50.5PW1240触媒を2.0g得た。
次いで、アンモニア処理シリカ担体担持80wt%Cs2.50.5PW1240触媒を用いて、芳香族化合物とプロピレンの反応により、芳香族化合物のイソプロピル化による、クメンとジイソプロピル芳香族化合物の製造を実施した。触媒0.65gを分取し、窒素気流中で、250℃で2時間焼成した。
【0056】
200mlの電磁誘導攪拌機付きオートクレーブを窒素置換し、触媒を窒素中で0.612g仕込んだ。ベンゼンを79.7g仕込んで、内温を83℃に加熱した。次いで、プロピレンガスを0.5MPa(ゲージ圧)でガス状で供給し、反応を開始した。内温が反応熱で上昇したので、冷却および加熱により内温を100℃に調節した。反応開始後、1時間でサンプリングし、FID検出器ガスクロマトグラフィーで分析した。
サンプル液のガスクロ面積百分率法による重量基準組成は以下の通りであった。
ベンゼン29.7%、クメン19.1%、ジイソプロピルベンゼン20.0%、トリイソプロピルベンゼン12.8%であった。
【0057】
比較例1
触媒として、ゼオライトベータを用いた他は、実施例1に準拠して、同様に反応を行った。
市販のゼオライトベータ(N.E.ケムキャット(株)、BEA−30AL5)を250℃で2時間、窒素雰囲気下で焼成した。
触媒を窒素中で0.874g仕込み、芳香族化合物を79.8g仕込み、内温を96℃に加熱し、反応を開始し、内温を103℃に調節した以外は、実施例1と同様にして実施した。
サンプル液のガスクロ面積百分率法による重量基準組成は以下の通りであった。
ベンゼン57.1%、クメン36.2%、ジイソプロピルベンゼン5.8%、トリイソプロピルベンゼン0.2%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族化合物をオレフィンでアルキル化してアルキル芳香族化合物および/またはジアルキル芳香族化合物を製造する方法において触媒としてアンモニアおよび/またはアルキルアミンで処理した担体に下式(1)で表したヘテロポリ酸塩を担持した触媒を用いることを特徴とするアルキル芳香族化合物および/またはジアルキル芳香族化合物の製造方法。
nm-nXY1240 (1)
(A:K、Csのいずれか、X:P、Siのいずれか、Y:W、Moのいずれか
m:X=Pの場合はm=3
X=Siの場合はm=4
n:X=Pの場合はnは2.0〜3.0
X=Siの場合はnは2.0〜4.0)
【請求項2】
芳香族化合物および/またはアルキル芳香族化合物をアルキル芳香族化合物および/またはポリアルキル芳香族化合物でトランスアルキル化してアルキル芳香族化合物および/またはジアルキル芳香族化合物を製造する方法において触媒としてアンモニアおよび/またはアルキルアミンで処理した担体に式(1)で表したヘテロポリ酸塩を担持した触媒を用いることを特徴とするアルキル芳香族化合物および/またはジアルキル芳香族化合物の製造方法。
【請求項3】
アルキル芳香族化合物のアルキル基の置換位置異性化反応において触媒としてアンモニアおよび/またはアルキルアミンで処理した担体に、請求項1の式(1)で表したヘテロポリ酸塩を担持した触媒を用いることを特徴とするアルキル芳香族化合物の製造方法。
【請求項4】
ベンゼンをプロピレンでアルキル化してクメンおよび/またはジイソプロピルベンゼンを製造する方法において触媒としてアンモニアおよび/またはアルキルアミンで処理した担体に式(1)で表したヘテロポリ酸塩を担持した触媒を用いることを特徴とする請求項1のクメンおよび/またはジイソプロピルベンゼンの製造方法。

【公開番号】特開2007−77132(P2007−77132A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−32097(P2006−32097)
【出願日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】