説明

アルケンを調製するプロセス

少なくとも1種の含酸素反応物及び水を含む反応物供給ストリームとヘテロポリ酸担持触媒とを少なくとも170℃の温度で接触させることことを含む、酸素化物からアルケンを調製するプロセスであって、以下のステップ:(i)ヘテロポリ酸担持触媒を少なくとも220℃の温度に加熱するステップ;(ii)ステップ(i)の加熱処理されたヘテロポリ酸担持触媒を少なくとも220℃の温度に、ヘテロポリ酸担持触媒のヘテロポリ酸成分から結合水を除去するのに十分な時間保つステップ;及び(iii)ステップ(ii)のヘテロポリ酸担持触媒を少なくとも220℃の温度に保ちながら、ヘテロポリ酸担持触媒と温度が少なくとも220℃の反応物供給ストリームとを接触させるステップを含む始動手順を使用して開始されるプロセス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘテロポリ酸担持触媒を使用する酸素化物からのアルケンの調製に関する。
【0002】
本発明は、アルケンの酸素化物からの調製に有用なヘテロポリ酸担持触媒処理プロセスにも関する。
【背景技術】
【0003】
エチレン及び他のアルケンは、重要な必需の化学物質であり、且つポリエチレンなどのポリマー製品を含む多数の化学製品のための有用な出発原料である。伝統的に、エチレンなどのアルケンは、原油から誘導される炭化水素のスチーム分解又は接触分解により製造されてきた。しかしながら、原油は、限られた資源であるから、原油から誘導されたものでない供給原料を使用することができる、別の経済的に実現性のある、アルケン特にエチレンを製造する方法を見出すことに関心がある。
【0004】
近年、アルケン製造のための代替原料に対する研究は、例えば、糖類、デンプン及び/又はセルロース系原料の発酵により製造できる、又は別の選択肢として合成ガスにより製造することもできるメタノール及びエタノールなどのアルコールの脱水によるアルケンの製造に到達した。
【0005】
米国特許第5,177,114号には、天然ガスを合成ガスに変換して、合成ガスを粗メタノール及び/又はジメチルエーテルに変換し、さらに粗メタノール/ジメチルエーテルをガソリン及びオレフィン(単数又は複数)に変換することによる、天然ガスのガソリン規格の液体炭化水素及び/又はオレフィン(単数又は複数)への変換プロセスが開示されている。
【0006】
米国特許第5,817,906号には、アルコール及び水を含む粗酸素化物供給原料から軽オレフィン(単数又は複数)を製造するプロセスが開示されている。該プロセスでは2つの反応段階が使用される。最初に、アルコールを、蒸留しながらの反応を使用して、エーテルに変換する。次に、引き続き該エーテルを、金属アルミノシリケート触媒を含有する酸素化物変換帯に通して軽オレフィンストリームを製造する。
【0007】
欧州特許第1792885号には、エタノールを含む供給原料からエチレンを製造するプロセスが開示されている。ヘテロポリ酸を主成分とする触媒が、エタノール供給原料の脱水に適するとして開示されている。
【0008】
国際公開第2008/138775号A1には、1種又は複数種のアルコールを、1種又は複数種のエーテルの存在下に、ヘテロポリ酸担持触媒と接触させることを含む、1種又は複数種のアルコールの脱水プロセスが開示されている。
【0009】
米国特許第4,398,050号には、後で0.05〜0.1MPa、350〜500℃で脱水されるエタノール及びプロパノールの混合物を生ずる、混合アルコールストリームの合成及び精製が記載されている(実施例1)。米国特許第4,398,050号には、Al、SiO、TiO、AlPO及びCa(POが具体的に開示され、適当な脱水触媒の例として、アルカリ化された酸化アルミニウム又はリン酸カルシウムが好ましい触媒として開示されている。
【0010】
アルケンを製造するためのアルコールの脱水、特にエタノールのエチレンへの脱水は、アルカンの形成も生じ得ることが観察されている。高純度のアルケンは、ポリマーの製造などの多くの化学プロセスで使用するために必要とされ、それ故使用に先立って生成物のアルケン組成物からアルカンを除去することが必要なことがある。アルケンからのアルカン除去、例えば生成物のエチレンからのエタン除去は、非常に資源集約的で費用がかかる可能性がある。
【0011】
米国特許第4,232,179号には、エタノールを断熱的反応器で脱水することができる方法が記載されている。シリカ/アルミナ、及びアルミナを用いる例により、エチレン生成物中のエタン含有率が0.09から7.91wt%の範囲内であることが示されており、これは追加的精製をせずにポリエチレンを製造するには受け入れられない。
【0012】
国際公開第2008/062157号A1には、ヘテロポリ酸担持触媒;前記触媒の存在下に酸素化物からアルケンを製造するプロセス;及び、酸素化物からより高い生産性でアルケンを製造する一方でアルカンの形成を減少させるプロセスにおける前記触媒の使用が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第5,177,114号
【特許文献2】米国特許第5,817,906号
【特許文献3】欧州特許第1792885号
【特許文献4】国際公開第2008/138775号A1
【特許文献5】米国特許第4,398,050号
【特許文献6】米国特許第4,232,179号
【特許文献7】国際公開第2008/062157号A1
【発明の概要】
【0014】
本発明により、ヘテロポリ酸触媒の存在において酸素化物からアルケンを製造する改善されたプロセス、特に、アルカン選択性に関して改善された、酸素化物からアルケンを製造するプロセスが提供される。
【0015】
したがって、本発明により、少なくとも1種の酸素化物の反応物及び水を含む反応物供給ストリームとヘテロポリ酸担持触媒とを少なくとも170℃の温度で接触させることを含む、酸素化物からアルケンを調製するプロセスであって、以下のステップ:
(i)ヘテロポリ酸担持触媒を少なくとも220℃の温度に加熱するステップ;
(ii)加熱処理されたステップ(i)のヘテロポリ酸担持触媒を少なくとも220℃の温度に、ヘテロポリ酸担持触媒のヘテロポリ酸成分から結合水を除去するのに十分な時間保つステップ;及び
(iii)ステップ(ii)のヘテロポリ酸担持触媒を少なくとも220℃の温度に保ちながら、ヘテロポリ酸担持触媒と温度が少なくとも220℃の反応物供給ストリームとを接触させるステップ
を含む始動手順を使用して開始されるプロセスが提供される。
【0016】
本発明のプロセスにおいて使用するヘテロポリ酸担持触媒は、新鮮触媒であっても又は効力のなくなった及び/又は以前に使用した触媒であってもよく、触媒が効力のなくなった及び/又は以前に使用した触媒であれば、前記プロセスのステップ(i)に先立って、ヘテロポリ酸担持触媒を、好ましくは、ヘテロポリ酸担持触媒を少なくとも220℃の温度に加熱して、加熱されたヘテロポリ酸担持触媒上にスチームを通し、続いてスチーム処理されたヘテロポリ酸担持触媒を、少なくとも220℃の温度に無水雰囲気下で加熱することにより処理する。
【0017】
本発明により、
(a)ヘテロポリ酸担持触媒を少なくとも220℃の温度に加熱して、前記ヘテロポリ酸担持触媒上にスチームを通すステップ;及び
(b)ステップ(a)により処理されたヘテロポリ酸担持触媒を少なくとも220℃に無水雰囲気中で加熱するステップ
を含む、ヘテロポリ酸担持触媒処理プロセスがさらに提供される。
【0018】
本発明のプロセスにおいて使用するヘテロポリ酸担持触媒は、適当な触媒担体上に担持されたヘテロポリ酸を含む。
【0019】
本明細書において使用する用語「ヘテロポリ酸」は、遊離酸の形態又はアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、嵩高なカチオンの塩、及び/又は金属塩(これらの場合、塩は完全な塩又は部分的な塩のいずれであってもよい)などのヘテロポリ酸塩の形態にある、ヘテロポリ酸化合物を指す。
【0020】
ヘテロポリ酸のアニオンは、典型的には、1種又は複数種の中心原子を対称的様式で取り巻く周辺原子として知られる、12〜18個の酸素が結合した多価金属原子を含む。周辺原子は、モリブデン、タングステン、バナジウム、ニオブ、タンタル、及びそれらの組合せから適当に選択される。中心原子は、好ましくはケイ素又はリンであり;あるいは、中心原子は、元素の周期表中のI〜VIII族の非常に種々の原子の任意の1つ、例えば、銅、ベリリウム、亜鉛、コバルト、ニッケル、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、鉄、セリウム、ヒ素、アンチモン、ビスマス、クロム、ロジウム、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、チタン、ジルコニウム、バナジウム、イオウ、テルル、マンガンニッケル、白金、トリウム、ハフニウム、テルル及びヨウ素などを含むことができる。適当なヘテロポリ酸としては、Keggin、Wells−Dawson及びAnderson−Evans−Perloffヘテロポリ酸が挙げられる。
【0021】
好ましくは、ヘテロポリ酸担持触媒のヘテロポリ酸成分は、ヘテロポリタングステン酸であり、それは、周辺原子がタングステン原子であるヘテロポリ酸である。本発明のプロセスにおいて使用する好ましいヘテロポリタングステン酸は、Keggin又はWells−Dawson構造を主成分とする任意のものである。
【0022】
適当なヘテロポリタングステン酸の例として、18−リンタングステン酸(H[P1862]・xHO);12−リンタングステン酸(H[PW1240]・xHO);12−ケイタングステン酸(H[SiW1240]・xHO);ケイタングステン酸セシウム水素(CsH[SiW1240]・xHO);リンタングステン酸一カリウム(KH[P1862]・xHO);12−ケイタングステン酸一ナトリウム(NaK[SiW1240]・xHO);及びカリウムリンタングステン酸(K[P1862]・xHO)が挙げられる。2種以上の異なるヘテロポリタングステン酸及び塩の混合物も使用することができる。
【0023】
より好ましくは、ヘテロポリ酸担持触媒のヘテロポリ酸成分は、ケイタングステン酸、リンタングステン酸、及びそれらの混合物、例えば、12−ケイタングステン酸(H[SiW1240]・xHO)、12−リンタングステン酸(H[PW1240]・xHO)、及びそれらの混合物から選択され;さらにより好ましくは、ヘテロポリ酸は、ケイタングステン酸であり;最も好ましくはヘテロポリ酸は12−ケイタングステン酸である。
【0024】
好ましくは、本発明において使用するヘテロポリ酸の分子量は、700を超えて8500未満、好ましくは2800を超えて6000未満である。そのようなヘテロポリ酸はそれらの二量化錯体も含む。
【0025】
ヘテロポリ酸の水和状態は、温度などの種々の要因に依存して変化し得て、ヘテロポリ酸についての種々の水和状態が知られている。典型的には、ヘテロポリ酸の水和状態は、温度が上昇すると減少する;すなわち、ヘテロポリ酸に結合した水分子の数は温度が上昇すると減少する。したがって、本発明のプロセスにおいて使用するヘテロポリ酸担持触媒のヘテロポリ酸成分の水和状態は、始動手順を受ける前には、少なくとも1個であり;すなわち、ヘテロポリ酸担持触媒のヘテロポリ酸成分はそれに結合した少なくとも1個の水分子を有すると予想される。
【0026】
本発明のプロセスにおいて使用するヘテロポリ酸担持触媒は、最初にヘテロポリ酸を適当な、典型的には極性の溶媒中に溶解することによりヘテロポリ酸溶液を形成し、次に適当な触媒担体をヘテロポリ酸溶液に浸漬することにより便利に調製することができる。適当な溶媒の例として、水、エーテル、アルコール、カルボン酸、ケトン、アルデヒド及びそれらの水、エタノールとの混合物が挙げられ、それらの混合物が好ましい溶媒である。
【0027】
触媒担体上のヘテロポリ酸の量は、典型的には、ヘテロポリ酸担持触媒の重量に基づいて10wt%から80wt%の範囲内、好ましくは15wt%から60wt%の範囲内、より好ましくは20wt%から50wtの範囲内である。好ましくは、ヘテロポリ酸担持触媒の表面積当たりに負荷される平均のヘテロポリ酸は、少なくとも0.1マイクロモル/mである。
【0028】
ヘテロポリ酸担持触媒で使用する触媒担体は、当技術分野において知られた任意の適当な触媒担体であってよい。触媒担体に適当な原料として、モルデナイト(例えばモンモリロナイト)、粘土、ベントナイト、珪藻土、チタニア、活性炭、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、シリカ−チタニアコゲル、シリカ−ジルコニアコゲル、炭素コートアルミナ、ゼオライト、酸化亜鉛、及び炎熱分解酸化物が含まれる。シリカゲル担体及びSiClの火炎加水分解により製造された担体などのシリカを主成分とする触媒担体が好ましい。
【0029】
触媒担体の形状は、本発明にとって決定的ではなく、例えば触媒担体は、粉末形態、顆粒状形態、ペレット化形態、球状形態、又は押し出された形態であってよい。
【0030】
ヘテロポリ酸担持触媒で使用することができる適当な触媒及び触媒担体原料、並びに前記触媒及び担体の調製の例は、国際公開第2008/062157号A1に記載されている。
【0031】
本発明のプロセスにおいて使用する反応物供給ストリームは、少なくとも1種の含酸素反応物と水を含む。
【0032】
本明細書中で本発明のプロセスにおいて使用する含酸素反応物(単数又は複数)とも称する、反応物供給ストリームの含酸素反応物成分は、好ましくは、アルコール及び/又はアルコール誘導体である。本発明のプロセスにおいて使用することができる好ましいアルコール誘導体は、エーテルである。したがって、本発明のプロセスにおいて使用する含酸素反応物(単数又は複数)は、好ましくはアルコール及び/又はそれらのエーテル誘導体である。
【0033】
好ましくは、本発明のプロセスの含酸素反応物(単数又は複数)中のアルコール(単数又は複数)及び/又はそれらの誘導体(単数又は複数)は、2から6個の炭素原子を有する一価の脂肪族アルコール及び/又はそれらのエーテル誘導体である。より好ましくは、本発明のプロセスの含酸素反応物(単数又は複数)は、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジ−n−ブチルエーテル、ジ−t−ブチルエーテル、エトキシプロパン、エトキシイソプロパン、エトキシ−n−ブタン、エトキシ−t−ブタン、プロポキシイソプロパン、プロポキシ−n−ブタン、プロポキシ−t−ブタン、イソプロポキシ−n−ブタン、イソプロポキシ−t−ブタン、n−ブトキシ−t−ブタン及びそれらの混合物から選択される。さらにより好ましくは、本発明のプロセスの含酸素反応物(単数又は複数)は、エタノール及び/又はそれらの誘導体、特にエタノール及び/又はジエチルエーテルである。最も好ましくは、本発明のプロセスの酸素化反応物は、エタノール及びジエチルエーテルであり、すなわち本発明のプロセスにおいて使用する反応物供給ストリームは、エタノール、ジエチルエーテル及び水を含む。
【0034】
本発明の特定の実施形態において、本発明のプロセスで使用する反応物供給ストリームの含酸素反応物成分は、酸素化物の合計量に基づいて少なくとも95wt%のエタノール及び/又はジエチルエーテル、より好ましくは少なくとも98wt%のエタノール及び/又はジエチルエーテル、最も好ましくは少なくとも99.5wt%のエタノール及び/又はジエチルエーテルを含む酸素化物の組成物である。
【0035】
好ましくは、本発明のプロセスの反応物供給ストリーム中の水の量は、反応物供給ストリーム中の水と酸素化物の合計重量に基づいて最大で50wt%であり、より好ましくは最大で20wt%、最も好ましくは最大で10wt%、又はさらに最大で5wt%である。好ましくは、反応物供給ストリーム中の水の量は、反応物供給ストリーム中の水と酸素化物と合計重量に基づいて少なくとも0.1wt%、より好ましくは少なくとも0.5wt%及び最も好ましくは少なくとも1wt%である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の好ましい実施形態によれば、脱水プロセスが実施される操業条件は、脱水プロセスが常に蒸気相状態で操業されるようなものである。
【0037】
本発明による脱水プロセス(酸素化物からアルケンを調製するプロセス)が実施される温度は、少なくとも170℃、好ましくは180から270℃の範囲内、より好ましくは190から260℃の範囲内、及び最も好ましくは200から250℃の範囲内である。
【0038】
本発明による脱水プロセス(酸素化物からアルケンを調製するプロセス)が実施される圧力は、好ましくは0.1MPaから4.5MPaの範囲内の圧力、より好ましくは1.0MPaから3.5MPaの範囲内の圧力、及び最も好ましくは1.0MPaから2.8MPaの範囲内の圧力である。
【0039】
本発明のプロセスの生成組成物は、典型的には、アルケン、未反応含酸素反応物(単数又は複数)(例えばアルコール)、エーテル、水及びアルカンを含む。通常、アルケンは生成組成物から分離され、未反応含酸素反応物(単数又は複数)(例えばアルコール)及びエーテルは、好ましくは本発明のプロセスに戻して再循環される。通常、生成組成物の水の少なくとも一部も、未反応含酸素反応物(単数又は複数)及びエーテルと一緒に本発明のプロセスに戻して再循環される。
【0040】
アルケンとそれらの対応するアルカンとは、比較的近い沸点を有するので、生成組成物から分離されたアルケン組成物は、生成した対応するアルカンを含有することが多い。それ故、酸素化物からアルケンを調製する最中に生成するアルカンの量を最小化することが非常に望ましい。
【0041】
少なくとも1種の含酸素反応物及び水を含む反応物供給ストリームとヘテロポリ酸担持触媒とを少なくとも170℃の温度で接触させることを含む、酸素化物からアルケンを調製するプロセスの間に生成するアルカンの量は、プロセスが開始される方法に依存して変化することが思いがけなく見出された。それ故、本明細書に記載した始動手順を使用してプロセスを始動することにより、ヘテロポリ酸担持触媒のヘテロポリ酸成分から結合水を除去する処理を受けなかったヘテロポリ酸担持触媒を使用して開始されたプロセスと比較して、生成するアルカンの量が低レベルに制御されるプロセスを提供することが可能である。
【0042】
したがって、本発明は、少なくとも1種の含酸素反応物及び水を含む反応物供給ストリームとヘテロポリ酸担持触媒とを少なくとも170℃の温度で接触させることを含む、酸素化物からアルケンを調製するプロセスであって、以下のステップ:
(i)ヘテロポリ酸担持触媒を少なくとも220℃の温度に加熱するステップ;
(ii)ステップ(i)の加熱処理されたヘテロポリ酸担持触媒を、少なくとも220℃の温度に、結合水をヘテロポリ酸担持触媒のヘテロポリ酸成分から除去するのに十分な時間保つステップ;及び
(iii)ステップ(ii)のヘテロポリ酸担持触媒を少なくとも220℃の温度に保ちながら、ヘテロポリ酸担持触媒を温度が少なくとも220℃の反応物供給ストリームと接触させるステップ
を含む始動手順を使用して開始されるプロセスを提供する。
【0043】
ヘテロポリ酸、ヘテロポリ酸担持触媒を調製するプロセス、及び前記触媒の反応帯への装填の性質により、ヘテロポリ酸成分は、水がヘテロポリ酸成分に結合し得る条件で、殆ど確実に水(雰囲気中の湿気など)に曝され、したがって、始動手順のステップ(i)でヘテロポリ酸担持触媒を加熱する前のヘテロポリ酸担持触媒のヘテロポリ酸成分の水和状態は、ゼロを超えるであろう(すなわち、ヘテロポリ酸担持触媒のヘテロポリ酸成分は、それに化学的に結合した水分子を有する)。したがって、本発明のプロセスにおいては、本発明の始動手順にかける前のヘテロポリ酸担持触媒は、そのヘテロポリ酸成分がゼロを超える水和状態有するヘテロポリ酸担持触媒である。
【0044】
理論にとらわれることは望まないが、上記の始動手順のステップ(i)及び(ii)を実施することにより、ヘテロポリ酸担持触媒のヘテロポリ酸成分に結合した水が除去されて、ヘテロポリ酸担持触媒のヘテロポリ酸成分の少なくとも一部は、ゼロ水和状態(すなわちヘテロポリ酸成分が結合した水分子を有しない)に変わると考えられる。それ故、用語「ヘテロポリ酸担持触媒のヘテロポリ酸成分から結合水を除去する」により、ヘテロポリ酸担持触媒のヘテロポリ酸成分の少なくとも一部がその水和状態をゼロに変えており、より好ましくはヘテロポリ酸担持触媒の少なくとも50wt%がその水和状態をゼロに変えており、最も好ましくはヘテロポリ酸担持触媒の少なくとも75wt%がその水和状態をゼロに変えていることを意味する。したがって、ヘテロポリ酸担持触媒のヘテロポリ酸成分の少なくとも一部は、含酸素反応物又は反応物供給ストリームと接触するときには、ゼロ水和状態(結合した水分子を有しない)を有する。
【0045】
ヘテロポリ酸担持触媒を使用して酸素化物からアルケン調製するプロセスは、ヘテロポリ酸成分の1又は1を超える水和状態(すなわち少なくとも1個の結合した水分子を有するヘテロポリ酸成分)に至る/その状態を保つ条件下で実施することができるが、プロセス開始中に、ゼロ水和状態にないヘテロポリ酸成分の量が増すと、プロセスがアルカンを生成する傾向は上昇すると考えられる。
【0046】
それ故、上記の始動手順を使用して、ヘテロポリ酸担持触媒を使用して酸素化物からアルケンを調製するプロセスが一旦開始されると、生成するアルカン(単数又は複数)の量を大きく増加させずに、反応温度を220℃未満の温度に調節することができる。
【0047】
好ましくは、上記の始動手順のステップ(i)及びステップ(ii)のいずれか又は両方が、不活性ガスストリームの下で実施される。本明細書において使用する用語「不活性ガス」により、本発明のプロセスの反応で消費されず、且つヘテロポリ酸担持触媒により触媒され得る如何なる他のプロセスによっても消費されないガスが意味される。適当な不活性ガスの例は、窒素、アルゴン、ヘリウム、メタン及び二酸化炭素である。好ましくは、不活性ガスは、窒素、アルゴン及びヘリウムから選択され、より好ましくは、不活性ガスは窒素である。本明細書において使用する用語「不活性ガスストリーム」は、その下でステップが行われる雰囲気が一定して除去されて且つ新鮮(又は再循環)不活性ガスで補充される不活性ガス(すなわち、ガス流)を意味する。例えば、「不活性ガスストリーム」は、好ましくは窒素ガスストリームである。
【0048】
それ故、上記の始動手順のステップ(i)及び/又はステップ(ii)は、窒素ガスストリームの下で実施することが好ましい。
【0049】
ヘテロポリ酸担持触媒が、上記の始動手順のステップ(i)で加熱され、ステップ(ii)で保たれる温度は、少なくとも220℃である。
【0050】
温度は高いほど、結合水がヘテロポリ酸担持触媒のヘテロポリ酸成分から除去される速度を上昇させることができるので、使用することができる。
【0051】
したがって、好ましいヘテロポリ酸担持触媒が、上記の始動手順のステップ(i)で加熱され、ステップ(ii)で保たれる温度は、220℃を超えることが好ましく、例えば、少なくとも230℃の温度、少なくとも240℃、又はさらに少なくとも250℃を超える温度を便利に使用することができる。本発明の好ましい実施形態において、ヘテロポリ酸担持触媒が始動手順のステップ(i)で加熱され、ステップ(ii)で保たれる温度は、少なくとも240℃である。好ましくは、ヘテロポリ酸担持触媒が、上記の始動手順のステップ(i)で加熱され、ステップ(ii)で保たれる温度は、最高で450℃、より好ましくは最高で400℃、さらにより好ましくは最高で350℃である。
【0052】
ヘテロポリ酸担持触媒が始動手順のステップ(ii)で少なくとも220℃の温度に保たれる時間の長さは、ヘテロポリ酸担持触媒のヘテロポリ酸成分から結合水の少なくとも一部、好ましくは大部分、より好ましくは全部を除去するのに十分なものである。ヘテロポリ酸担持触媒のヘテロポリ酸成分からの結合水の除去は吸熱的であるから、当業者は、そのようなプロセスが何時起こっているか及び/若しくはヘテロポリ酸担持触媒のヘテロポリ酸成分からの結合水の除去が何時完結するかを、始動手順のステップ(i)及びステップ(ii)の間の熱流及び触媒の重量減少を監視することにより決定することができるであろう;又はステップ(i)及びステップ(ii)が不活性ガスストリームの下で実施されている場合は、出口のガス流中の水の量を監視することにより決定することができるであろう。
【0053】
好ましくは、ステップ(ii)は、ヘテロポリ酸成分からの水の除去を最早検出することができなくなるように十分な時間をかけて実施する。
【0054】
本発明の一実施形態において、ヘテロポリ酸担持触媒が始動手順のステップ(ii)において少なくとも220℃の温度に保たれる時間の長さは、少なくとも1時間、好ましくは少なくとも2時間、より好ましくは少なくとも5時間、さらにより好ましくは少なくとも10時間、最も好ましくは少なくとも20時間である。
【0055】
温度は高いほど、ヘテロポリ酸担持触媒のヘテロポリ酸成分から結合水が除去される速度を上昇させることができるので、ステップ(i)の加熱処理をされたヘテロポリ酸担持触媒を、ステップ(ii)で少なくとも220℃の温度に、より低い温度が使用されたときには、より高い温度が使用されたときに比較してより長い時間保つことが好ましい。したがって、本発明の特定の一実施形態においては、ステップ(i)の加熱処理されたヘテロポリ酸担持触媒は、ステップ(ii)で、好ましくは少なくとも220℃の温度に少なくとも10時間、より好ましくは少なくとも20時間保たれる。本発明の他の特定の実施形態においては、ステップ(i)の加熱処理されたヘテロポリ酸担持触媒は、ステップ(ii)で、好ましくは少なくとも230℃の温度に少なくとも5時間、より好ましくは少なくとも10時間保たれる。本発明のさらに他の特定の実施形態においては、ステップ(i)の加熱処理されたヘテロポリ酸担持触媒は、ステップ(ii)で、好ましくは少なくとも240℃の温度に少なくとも2時間、より好ましくは少なくとも5時間保たれる。本発明のさらに他の特定の実施形態においては、ステップ(i)の加熱処理されたヘテロポリ酸担持触媒は、ステップ(ii)で、好ましくは少なくとも250℃の温度に少なくとも1時間、より好ましくは少なくとも2時間保たれる。
【0056】
理論にとらわれることは望まないが、少なくとも220℃の温度では、ヘテロポリ酸担持触媒が存在する雰囲気中に存在する如何なる水も触媒のヘテロポリ酸成分に結合していなくなり、ヘテロポリ酸成分に既に結合していたかもしれない水が除去されることは妨げられないであろうと考えられる。
【0057】
それ故、始動手順のステップ(i)及びステップ(ii)は両方とも、含水雰囲気でも無水雰囲気でも実施することができる。用語「無水雰囲気」は、当業者により本発明のプロセスに関して本質的に水を含有しないとみなされる雰囲気を意味する。好ましくは、本明細書において使用する用語「無水雰囲気」は、5ppmvを超える水を含有しない雰囲気を意味する。用語「含水雰囲気」は、当業者により本発明のプロセスに関して水を含有するとみなされる雰囲気を意味する。好ましくは、本明細書において使用する用語「含水雰囲気」は、5ppmvを超える水を含有する雰囲気を意味する。
【0058】
酸素化物から、新鮮なヘテロポリ酸担持触媒を使用してアルケンを調製するプロセス中に生成するアルカンの量は、上記の始動手順が無水雰囲気下で実施されたときと比較して、上記の始動手順中の水の存在により大きく変化することはないことが見出されているので、無水雰囲気の使用は必須ではない。
【0059】
本発明の好ましい実施形態において、始動手順のステップ(i)及びステップ(ii)は無水雰囲気下で実施される。
【0060】
しかしながら、水は少なくとも220℃の温度でヘテロポリ酸成分に結合しなくなるであろうと考えられるので、本発明の別の実施形態においては、特に新鮮ヘテロポリ酸担持触媒が使用されるときに、始動手順のステップ(i)及び/又はステップ(ii)を水の存在下に実施して、例えばステップ(i)を無水条件下で実施することができて、且つステップ(ii)を水の存在下で実施することができ、又は逆も成り立つ。
【0061】
用語「新鮮なヘテロポリ酸担持触媒」は、これまで触媒として如何なる反応でも使用されたことがない、すなわち効力がなくなったか又は再生された触媒ではないヘテロポリ酸担持触媒を意味する。ヘテロポリ酸担持触媒に関して使用されたときの用語「再生された」は、本発明のプロセスにおける有効度が所望の有効度より低く、その後本発明のプロセスにおける触媒の有効度を向上させるために後で処理されたヘテロポリ酸担持触媒を意味する。用語「本発明のプロセスにおける有効度」は、1種又は複数種の触媒活性、アルケン選択性、及びアルカン選択性を包含して使用される。高い触媒活性が本発明プロセスにおいて望ましく、それと独立に、高いアルケン選択性が本発明のプロセスにおいて望ましく、且つ、低いアルカン選択性が本発明のプロセスにおいて望ましい。
【0062】
本発明のさらに他の代替的実施形態においては、始動手順のステップ(i)及びステップ(ii)は、最初無水雰囲気下で実施され、続いて始動手順のステップ(iii)の前に水が添加される。
【0063】
始動手順のステップ(iii)における、ヘテロポリ酸担持触媒と反応物供給ストリームとの接触は、場合により段階的様式で、例えば、最初に反応物供給ストリームの水成分とヘテロポリ酸担持触媒とを接触させた後、含酸素反応物(単数又は複数)を水成分に加えることにより実施して反応物供給ストリームを形成することができ、又は逆も成り立つ。
【0064】
本発明の好ましい実施形態において、始動手順のステップ(iii)は2つのステップ:
(iiia)ステップ(ii)のヘテロポリ酸担持触媒を少なくとも220℃の温度に保ちながら、ヘテロポリ酸担持触媒と温度が少なくとも220℃の水とを接触させるステップ;及び
(iiib)ステップ(iiia)のヘテロポリ酸担持触媒を少なくとも220℃の温度に保ちながら、含酸素反応物をステップ(iiia)の水に導入して反応物供給ストリームを形成するステップ
で実施される。
【0065】
本発明の酸素化物からアルケンを調製するプロセスにおいて、ヘテロポリ酸担持触媒を使用するのに先立って、ヘテロポリ酸担持触媒を、場合により少なくとも220℃の温度に加熱して、加熱されたヘテロポリ酸担持触媒上にスチームを通し、続いてスチーム処理したヘテロポリ酸担持触媒を少なくとも220℃の温度に無水雰囲気下で加熱することにより処理することができる。この任意選択の処理においては、好ましくは、ヘテロポリ酸担持触媒を少なくとも220℃の温度に最初に加熱することを無水雰囲気下で実施する。
【0066】
ヘテロポリ酸担持触媒のこの任意選択の処理は、始動手順のステップ(i)に先立って便利に実施することができる。あるいは、ヘテロポリ酸担持触媒の任意選択の処理は、始動手順のステップ(i)及び(ii)中に実施することができる。そのような実施形態においては、ステップ(i)を無水雰囲気下で実施し、ステップ(ii)中に加熱されたヘテロポリ酸担持触媒上にスチームを通し、続いて触媒を少なくとも220℃の温度に無水雰囲気下で保つ。
【0067】
好ましくは、始動手順又はヘテロポリ酸担持触媒の任意選択の処理のための無水雰囲気は、無水の不活性ガス雰囲気、より好ましくは不活性ガスストリームであり、典型的には、無水雰囲気は窒素ガスのストリームである。
【0068】
酸素化物からアルケンを調製する本発明のプロセスにおいて、前記触媒を使用するのに先立つヘテロポリ酸担持触媒のこの任意選択の処理は、新鮮触媒又は酸素化物からアルケンを調製するプロセスで以前に使用されたことがある触媒のいずれでも実施することができる。特に、本発明のプロセスにおいて前記触媒を使用するのに先立つヘテロポリ酸担持触媒のこの任意選択の処理は、本発明のプロセスにおいて使用するべき不均一担持触媒が、酸素化物からアルケンを調製するプロセスにおいて以前に使用されたことがある場合に、特に有益である。特に、酸素化物からアルケンを調製するプロセスにおいて以前に使用されたことがある不均一担持触媒に対するこの任意選択の処理を使用することにより、触媒のアルカン選択性がこの任意選択の処理が実施されなかった場合より低くなることが見出された。
【0069】
したがって、本発明の酸素化物からアルケンを調製するプロセスにおいて前記触媒を使用するのに先立つヘテロポリ酸担持触媒のこの任意選択の処理の使用により、以前に使用されたヘテロポリ酸担持触媒を再生することができる。特に、触媒のアルカン選択性を、上記の任意選択の処理前の触媒のアルカン選択性と比較して低下させることができる。
【0070】
理論にとらわれることは望まないが、ヘテロポリ酸担持触媒のこの任意選択の処理により、窒素ガスを触媒上に通すだけ又はスチームを触媒上に通すだけにより除去されるよりも、ヘテロポリ酸担持触媒から多くの汚染物質が除去されると考えられる。
【0071】
それ故、本発明は、
(a)ヘテロポリ酸担持触媒を少なくとも220℃の温度に加熱して、前記ヘテロポリ酸担持触媒上にスチームを通すステップ;及び
(b)ステップ(a)により処理されたヘテロポリ酸担持触媒を少なくとも220℃に無水雰囲気下で加熱するステップ
を含むヘテロポリ酸担持触媒処理プロセスをさらに提供する。
【0072】
好ましくは、ステップ(a)において、ヘテロポリ酸担持触媒を少なくとも220℃の温度に最初に加熱することは、無水雰囲気下で実施される。
【0073】
好ましくは、ヘテロポリ酸担持触媒を処理するこのプロセスのステップ(b)は、ステップ(a)の直後に実施され、その間、全プロセス中を通して触媒を少なくとも220℃の温度に保つ。それ故、ヘテロポリ酸担持触媒処理プロセスは、好ましくは、
(a’)ヘテロポリ酸担持触媒を少なくとも220℃の温度に無水雰囲気下で加熱するステップ;
(b’)ヘテロポリ酸担持触媒を少なくとも220℃の温度に保ちながら、前記ヘテロポリ酸担持触媒上にスチームを通すステップ;
(c’)ヘテロポリ酸担持触媒を少なくとも220℃の温度に保ちながら、前記ヘテロポリ酸担持触媒上にスチームを通すことを中止するステップ;及び
(d’)ヘテロポリ酸担持触媒を少なくとも220℃の温度に無水雰囲気下で保つステップ
を含む。
【0074】
好ましくは、上のプロセスのステップ(b’)は、少なくとも30分、より好ましくは少なくとも1時間実施する。好ましくは、上のプロセスのステップ(d’)は、少なくとも30分、より好ましくは少なくとも1時間、さらにより好ましくは少なくとも2時間実施する。
【0075】
上のプロセスは、本明細書中に記載した始動手順のステップ(i)に先立って実施することができ、又は別の方法で始動手順のステップ(i)及び(ii)中に実施することができる。
【0076】
したがって、好ましい実施形態において、ヘテロポリ酸担持触媒を処理する上記のプロセスは、ヘテロポリ酸担持触媒を少なくとも220℃の温度に窒素雰囲気下で加熱し、触媒を少なくとも220℃の温度に保ちながら、スチームを触媒上に、好ましくは少なくとも1時間通し、続いて窒素ガスのストリームを触媒上に通すことを含む。
【0077】
ヘテロポリ酸担持触媒が上記のように処理されたら、それは次に触媒を最初に220℃未満の温度に冷やさずに直ちに本発明のプロセスにかけることもでき、又は最初に220℃未満の温度に冷却することもできる。
【0078】
都合のよいことに、上記のプロセスにより処理すべきヘテロポリ酸担持触媒が効力のなくなった触媒であるか、又は以前に酸素化物からアルケンを調製するプロセスで使用されたことがある触媒である場合には、触媒を反応器から取り出す前に及び/又は触媒を廃棄する前に、上記プロセスによるヘテロポリ酸担持触媒の処理を実施することができる。
【0079】
本発明は、少なくとも1種の含酸素反応物及び水を含む反応物供給ストリームとヘテロポリ酸担持触媒とを少なくとも170℃の温度で接触させることを含む酸素化物からアルケンを調製するプロセスであって、ヘテロポリ酸担持触媒が、本明細書中に記載したステップ(a)及び(b)を含むヘテロポリ酸担持触媒処理プロセスにより、好ましくはこの上で記載したステップ(a’)、(b’)、(c’)及び(d’)を含むヘテロポリ酸担持触媒処理プロセスにより処理される、この上で記載したステップ(i)、(ii)及び(iii)を含む始動手順を使用して開始される、アルケンを調製するプロセスをさらにまた提供する。
【0080】
それ故、本発明は、少なくとも1種の含酸素反応物及び水を含む反応物供給ストリームとヘテロポリ酸担持触媒とを少なくとも170℃の温度で接触させることを含む酸素化物からアルケンを調製するプロセスであって、ヘテロポリ酸担持触媒が、酸素化物からアルケンを調製するプロセスで以前に使用されて、この上で記載したヘテロポリ酸担持触媒処理プロセスにより再生される、この上で記載した始動手順により開始される、アルケンを調製するプロセスをさらにまた提供する。
【0081】
本発明は、対応するステップ(i)とステップ(ii)の両方は含まない始動手順を使用して開始されるプロセスと比較して、生成するアルカンの量を減少させる、ヘテロポリ酸担持触媒を使用して酸素化物からアルケンを製造するプロセスのための上記の始動手順の使用をさらに提供する。
【実施例】
【0082】
以下の例は、全て、内径l5mm、長さ69cmで、5mm(外径)のサーモウェルが該反応器中に縦向きに挿入されたマイクロリアクターで実施した。反応器中に挿入されたサーモウェルには、4本の熱電対を入れ、第1のものは液体供給原料が蒸発する余熱帯に、他の3つは触媒床に置いた。プロセスの圧力は、圧力制御バルブ(PCV)により制御し、蒸気は全て反応器を出てPCVの低圧側に行く。出口ガスの一部は生成物のオンライン分析のためにGCに向けた。
【0083】
全ての実施例において、5cmの容積に相当する約2.7gの触媒を、反応器中に装填した。触媒も不活性希釈剤のDavicat(商標)A372(G57としても知られる)シリカ(2.7g、直径は0.25から0.5mmであった)と混合した。触媒粒子間の間隙を満たすために希釈剤を使用して、反応物触媒との相互作用をよくした(すなわちチャンネリングをなくした)。
【0084】
実施例1及び2
実施例1及び2で使用した触媒は、CariAct(商標)Q15シリカペレット(例えばFuji Silysia)にケイタングステン酸275g/kgの濃度で担持されたケイタングステン酸(12−ケイタングステン酸)(例えば、Nippon Inorganic Chemicals)であった。
【0085】
実施例1及び2においては、表1に詳細を示した反応物供給ストリームを使用した。
【0086】
【表1】

【0087】
実施例1において、新鮮触媒を窒素流の下で(20barg:0.115g/min)250℃の温度に加熱して、窒素ストリーム下で250℃に2時間保った。次に温度を220℃に下げた。触媒の温度が220℃になったところで、表1に詳細を示した反応物供給ストリームを反応器に20bargの圧力で導入して、これらの条件を90分間保った。次に温度を240℃に上げ、10分かけて圧力を30bargに上げて、反応器をこれらの条件下に保った。表1に詳細を示した反応物供給ストリームからのエチレンの調製における触媒の性能を、下表2に記録したストリームにおける66時間後の生成物組成により示す。
【0088】
実施例2においては、新鮮触媒を窒素流の下で(20barg:0.115g/min)180℃の温度に加熱し、窒素ストリームの下で180℃に30分間保った。次に、表1に詳細を示した反応物供給ストリームを反応器に20bargの圧力で導入して、これらの条件を2時間間保った。次に温度を240℃に上げ、10分かけて圧力を30bargに上げて、反応器をこれらの条件に保った。表1に詳細を示した反応物供給ストリームからのエチレンの調製における触媒の性能を、下表2に記録した、ストリームにおける85時間後の生成物組成により示す。
【0089】
【表2】

【0090】
表2に提示した結果からわかるように、生成組成物中に存在するエタンの濃度は、本発明のプロセスを使用して開始した場合、プロセスがより低い温度を使用して開始した場合に比較して有意に低い。
【0091】
実施例3及び4
実施例3及び4で使用した触媒は、CariAct(商標)Q15シリカペレット(例えばFuji Silysia)に22.4%w/wタングステン(分析による)に相当するケイタングステン酸濃度で担持されたケイタングステン酸(12−ケイタングステン酸)(例えばNippon Inorganic Chemicals)であった。
【0092】
タングステン分析は:i)触媒を130℃で3時間乾燥し、ii)知られた重量の乾燥した試料を知られた体積の水中で振盪して、水性濾液中のタングステンを誘導結合高周波プラズマ分光分析(ICP)により定量し、iii)残渣を取って、550℃で灰化し、残留固体をフッ化水素酸で処理し、続いてホウ酸リチウム融剤で溶融し、酸性溶液中に溶解して酸性溶液中のタングステンをICPにより定量することにより達成した。(ii)及び(iii)からの個々のタングステン分析の合計は、触媒中のタングステンの合計になる。
【0093】
実施例3及び4には、表3に詳細を示した反応物供給ストリームを使用した。
【0094】
【表3】

【0095】
実施例3においては、新鮮触媒を220℃の温度に窒素流の下で(20barg:0.115g/min)加熱して、窒素ストリーム下で220℃に24時間保った。表3に詳細を示した反応物供給ストリームを反応器に20bargの圧力で導入して、これらの条件を約10分間保った。
【0096】
次に温度240℃に上げて圧力を約10分かけて30bargに上げた。その後温度を250℃に上げて、窒素流を0.0925g/minに下げ、反応器をこれらの条件下に保った。表3に詳細を示した反応物供給ストリームからのエチレンの調製における触媒の性能を、下表4に記録したストリームに対する115時間後の生成物組成により示す。
【0097】
実施例4においては、新鮮触媒を220℃の温度に窒素流の下で(20barg:0.115g/min)加熱して、窒素ストリーム下で220℃に2時間保った。表3に詳細を示した反応物供給ストリームを反応器に20bargの圧力で導入してこれらの条件を約10分保った。
【0098】
次に温度を240℃に上げ、圧力を30bargに約10分かけて上げた。その後温度を250℃に上げて窒素流を0.0925g/minに下げ、反応器をこれらの条件下に保った。表3に詳細を示した反応物供給ストリームからのエチレンの調製における触媒の性能を、下表4に記録したストリームに対する115時間後の生成物組成により示す。
【0099】
【表4】

【0100】
表4に提示した結果からわかるように、生成組成物中に存在するエタン、他の副生物の濃度は、触媒が少なくとも220℃の温度に、より長い時間保たれる場合に減少している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の含酸素反応物及び水を含む反応物供給ストリームとヘテロポリ酸担持触媒とを少なくとも170℃の温度で接触させることを含む、酸素化物からアルケンを調製するプロセスであって、以下のステップ:
(i)ヘテロポリ酸担持触媒を少なくとも220℃の温度に加熱するステップ;
(ii)ステップ(i)の加熱処理されたヘテロポリ酸担持触媒を少なくとも220℃の温度に、ヘテロポリ酸担持触媒のヘテロポリ酸成分から結合水を除去するのに十分な時間保つステップ;及び
(iii)ステップ(ii)のヘテロポリ酸担持触媒を少なくとも220℃の温度に保ちながら、ヘテロポリ酸担持触媒と温度が少なくとも220℃の反応物供給ストリームとを接触させることを含むステップ
を含む始動手順を使用して開始されるプロセス。
【請求項2】
ステップ(ii)において、ステップ(i)の加熱処理されたヘテロポリ酸担持触媒を少なくとも220℃の温度に少なくとも1時間保つ、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
ステップ(iii)が:
(iiia)ステップ(ii)のヘテロポリ酸担持触媒を少なくとも220℃の温度に保ちながら、ヘテロポリ酸担持触媒と温度が少なくとも220℃の水とを接触させるステップ;及び
(iiib)ステップ(iiia)のヘテロポリ酸担持触媒を少なくとも220℃の温度に保ちながら、含酸素反応物をステップ(iiia)の水に導入して反応物供給ストリームを形成するステップ;
の2ステップで実施される、請求項1又は請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
含酸素反応物(単数又は複数)がアルコール及び/又はアルコール誘導体である、請求項1から3までのいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項5】
含酸素反応物(単数又は複数)がエタノール及び/又はエタノールの誘導体である、請求項4に記載のプロセス。
【請求項6】
含酸素反応物がエタノールである、請求項5に記載のプロセス。
【請求項7】
ヘテロポリ酸担持触媒がケイタングステン酸担持触媒である、請求項1から6までのいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項8】
ヘテロポリ酸担持触媒が、12−ケイタングステン酸担持触媒である、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
ヘテロポリ酸担持触媒中のヘテロポリ酸の量が、ヘテロポリ酸担持触媒の合計重量に基づいて10wt%から50wt%の範囲内である、請求項1から8までのいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項10】
酸素化物からアルケンを調製するプロセスが180℃から270℃の範囲内の温度で実施される、請求項1から9までのいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項11】
酸素化物からアルケンを調製するプロセスが0.1MPaから4.5MPaの範囲内の圧力で実施される、請求項1から10までのいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項12】
前記プロセスのステップ(i)に先立って、ヘテロポリ酸担持触媒が、好ましくは、ヘテロポリ酸担持触媒を少なくとも220℃の温度に加熱して、加熱されたヘテロポリ酸担持触媒上にスチームを通し、続いてスチーム処理したヘテロポリ酸担持触媒を少なくとも220℃の温度に無水雰囲気下で加熱することにより処理される、請求項1から11までのいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項13】
ヘテロポリ酸担持触媒が、酸素化物からアルケンを調製するプロセスにおいて以前に使用されたことがある、請求項12に記載のプロセス。
【請求項14】
(a)ヘテロポリ酸担持触媒を少なくとも220℃の温度に加熱して、前記ヘテロポリ酸担持触媒上にスチームを通すステップ;及び
(b)ステップ(a)により処理されたヘテロポリ酸担持触媒を少なくとも220℃に無水雰囲気中で加熱するステップ
を含む、ヘテロポリ酸担持触媒処理プロセス。
【請求項15】
全プロセスを通して触媒を少なくとも220℃の温度に保ちながら、ステップ(b)をステップ(a)の直後に実施する、請求項14に記載のプロセス。

【公表番号】特表2013−520478(P2013−520478A)
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−554402(P2012−554402)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際出願番号】PCT/GB2011/000184
【国際公開番号】WO2011/104494
【国際公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(397035070)
【Fターム(参考)】