説明

アルコール飲料用乳化組成物及びそれを含むアルコール飲料

【課題】アルコール飲料の製造工程における高濃度のアルコール溶液と混合した場合でも安定な乳化状態を保ち、且つ、アルコール飲料に長期間安定な混濁を付与することができるアルコール飲料用乳化組成物の提供。
【解決手段】(a)ケン化価が248〜330であり、且つ、構成脂肪酸の10重量%以上が炭素数12〜20の脂肪酸である中長鎖脂肪酸トリグリセライド、(b)ショ糖酢酸イソ酪酸エステル及び(c)アラビアガム及び/又は化工澱粉を含有するアルコール飲料用乳化組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコール飲料に混濁を付与するためのアルコール飲料用乳化組成物及びそれを含むアルコール飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
飲料に香味を付与する方法として乳化香料が広く使用されている。乳化香料は飲料に香味を付与するのみならず、混濁を付与して嗜好性の高い外観を与えることができる。近年、スポーツ飲料及び果汁飲料などのソフトドリンクに加えて、チューハイ、サワー、カクテル、甘味果実酒、その他の雑酒及び混成酒(リキュールなど)などのアルコール飲料にも乳化香料が使用される機会が増えている。
【0003】
例えば、特開昭63−74457号公報(特許文献1)では、(A)油性の着香料及び中鎖飽和脂肪酸トリグリセライド類などの可食性油性材料、(B)アラビン酸のアルカリ金属塩類ならびに(C)グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル及びプロピレングリコール脂肪酸エステルから選ばれた少なくとも一種の界面活性剤を含有する飲食品用乳化組成物が記載されている。また、特開平11−178551号公報(特許文献2)では、(a)ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、(b)柑橘系香料及び(c)炭素数6〜18の中鎖脂肪酸トリグリセライドを特定の組成比で含有する柑橘系飲料用乳化組成物が記載されている。しかし、これらの乳化組成物は、アルコール飲料に適用することを目的として開発されたものではなく、アルコール飲料中に添加した場合に乳化物を安定に保持しうるか検討されていない。
【0004】
一般に、乳化組成物を用いてアルコール飲料に混濁を付与する場合、アルコール飲料中での乳化安定性は勿論のこと、アルコール飲料の製造工程においてアルコール飲料の数倍の濃度の濃縮シロップ中に乳化組成物を添加する必要があるため、高濃度のアルコール溶液中での乳化安定性も求められる。一般にアルコール飲料中に含まれるエタノールは乳化安定性に悪影響を与えることが知られている。このため、乳化組成物をソフトドリンクに使用した場合に乳化安定性に問題がなかったとしても、高濃度のアルコール溶液中で乳化安定性が十分に得られないことがあり、同じ乳化組成物がアルコール飲料への使用に適さない場合がある。したがって、アルコール飲料用の乳化組成物を得るためには、アルコール飲料の製造工程をも考慮した検討が必要である。
【0005】
アルコール飲料に使用できる乳化組成物として、特開2006−257246号公報(特許文献3)では、油溶性香料と油溶性成分とを特定の割合で混合した油相成分を、乳化剤溶液中で乳化して得られる乳化組成物が記載されている。しかし、特許文献3記載の乳化組成物は、油溶性香料を透明な状態で飲料中に溶解することを目的としており、アルコール飲料に混濁を付与するものではない。
【0006】
また、特開2007−289124号公報(特許文献4)では、脱金属アラビアガム、植物性油脂・ショ糖脂肪酸エステル・油溶性香料などの油性物質及び5〜30質量%のエタノールを含有する乳化組成物が報告されている。特許文献4に記載の乳化組成物は、輸送時等の振動に対しても安定な混濁を付与できることが記載されている。しかし、アルコール飲料の数倍の濃縮シロップ中においても良好な乳化安定性を示しうる乳化組成物についての検討はされていない。
【0007】
特開2002−112748号公報(特許文献5)では、ショ糖酢酸イソ酪酸エステルと特定構造のトリグリセライドとを併用したエマルション用比重調整剤を非アルコール飲料及びアルコール飲料に広く使用できることが記載されている。特許文献5では、この比重調整剤を飲料に添加することで、著しい混濁が得られることが記載されているが、その乳化安定性については具体的に検討されていない。また、好ましい例として挙げられ、実施例でも使用されているトリグリセライドは、炭素数8又は10の脂肪酸で構成されているトリグリセライドである。
【0008】
さらに、特開2009−207384号公報(特許文献6)では、コエンザイムQ10を含有する飲料用乳化組成物が記載されている。特許文献6では、コエンザイムQ10を油脂類、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル(シュークロース・ジアセテート・ヘキサイソブチレート)、脱塩アラビアガム及び多価アルコールを配合することで、これまで固形物の形態でしか摂取することができなかったコエンザイムQ10を飲料中で安定に乳化分散できることが記載されている。特許文献6には、脱塩アラビアガム以外の乳化剤として、化工澱粉を使用できることも記載されている。しかし、特許文献6では、一般のアルコール飲料に混濁を付与する点については着目されていない。また、コエンザイムQ10を含有しない場合については全く検討されていない。
【0009】
上記のとおり、アルコール飲料や高濃度のアルコール溶液中で必要な乳化安定性を満足し、アルコール飲料に安定した混濁を付与できる乳化香料又は乳化組成物の報告はこれまでなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭63−74457号公報
【特許文献2】特開平11−178551号公報
【特許文献3】特開2006−257246号公報
【特許文献4】特開2007−289124号公報
【特許文献5】特開2002−112748号公報
【特許文献6】特開2009−207384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このような状況の下、アルコール飲料だけでなく、アルコール飲料の製造工程においてアルコール飲料の数倍の濃度の濃縮シロップと混合した場合でも安定な乳化状態を保ち、且つ、アルコール飲料に長期間安定な混濁を付与することができるアルコール飲料用乳化組成物の提供が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討を行ったところ、(a)ケン化価が248〜330であり、且つ、中長鎖脂肪酸トリグリセライドを構成する全構成脂肪酸の10重量%以上が炭素数12〜20の脂肪酸である中長鎖脂肪酸トリグリセライド、(b)ショ糖酢酸イソ酪酸エステル及び(c)アラビアガム及び/又は化工澱粉を含有するアルコール飲料用乳化組成物が、アルコール飲料の数倍の濃度の濃縮シロップと混合した場合でも安定な乳化状態を保ち、アルコール飲料に長期間安定した混濁を付与できることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、本発明は、以下に示したアルコール飲料用乳化組成物及びそれを含有してなるアルコール飲料等を提供するものである。
[1](a)ケン化価が248〜330であり、且つ、構成脂肪酸の10重量%以上が炭素数12〜20の脂肪酸である中長鎖脂肪酸トリグリセライド、(b)ショ糖酢酸イソ酪酸エステル及び(c)アラビアガム及び/又は化工澱粉を含有するアルコール飲料用乳化組成物。
[2]前記中長鎖脂肪酸トリグリセライド(a)の構成脂肪酸の30重量%以上が炭素数12〜20の脂肪酸である、[1]記載の乳化組成物。
[3]前記中長鎖脂肪酸トリグリセライド(a)と前記ショ糖酢酸イソ酪酸エステル(b)との配合比率((a):(b))が、重量比で、90:10〜50:50である、[1]又は[2]記載の乳化組成物。
[4]前記中長鎖脂肪酸トリグリセライド(a)及び前記ショ糖酢酸イソ酪酸エステル(b)の合計と前記アラビアガム及び/又は化工澱粉(c)との配合比率((a)+(b):(c))が、重量比で、60:40〜10:90である、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の乳化組成物。
[5]前記アラビアガム(c)が、脱塩処理したアラビアガム、脱塩処理をしていないアラビアガム又はその組み合わせである、[1]〜[4]のいずれか1項に記載の乳化組成物。
[6]前記化工澱粉(c)が、オクテニルコハク酸澱粉ナトリウムである、[1]〜[4]のいずれか1項に記載の乳化組成物。
[7][1]〜[6]のいずれか1項に記載の乳化組成物を含有するアルコール飲料。
[8]アルコール飲料用組成物に[1]〜[6]のいずれか1項に記載の乳化組成物を添加する工程を含む、アルコール飲料の製造方法。
[9]前記アルコール飲料用組成物が、アルコール濃度1容量%以上のアルコール飲料用組成物である、[8]記載の製造方法。
[10](a)ケン化価が248〜330であり、且つ、構成脂肪酸の10重量%以上が炭素数12〜20の脂肪酸である中長鎖脂肪酸トリグリセライド、(b)ショ糖酢酸イソ酪酸エステル及び(c)アラビアガム及び/又は化工澱粉を含有するアルコール飲料用乳化組成物を添加することによりアルコール飲料に混濁を付与する方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明のアルコール飲料用乳化組成物を添加することにより、アルコール飲料に安定な混濁を付与することができる。本発明のアルコール飲料用乳化組成物は、アルコール飲料の製造工程においてアルコール飲料の数倍の濃度の濃縮シロップと混合した場合でも安定な乳化状態を保持することができるので、製造工程の面からも有用である。本発明の好ましい態様によれば、本発明のアルコール飲料用乳化組成物を用いることにより、沈殿、クリーミング又は油浮きを起こさず、長期間安定した混濁を有するアルコール飲料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のアルコール飲料用乳化組成物及びそれを含有するアルコール飲料ならびにその製造方法等について具体的に説明する。
【0016】
本発明のアルコール飲料用乳化組成物は、(a)ケン化価が248〜330であり、且つ、構成脂肪酸の10重量%以上が炭素数12〜20の脂肪酸である中長鎖脂肪酸トリグリセライド、(b)ショ糖酢酸イソ酪酸エステル及び(c)アラビアガム及び/又は化工澱粉を含有する。
【0017】
本発明に用いられる中長鎖脂肪酸トリグリセライドは、炭素数6〜20の中長鎖脂肪酸のトリアシルグリセロールであって、ケン化価が248〜330であり、且つ、構成脂肪酸の10重量%以上が炭素数12〜20の脂肪酸であるものである。
【0018】
背景技術の欄でも述べたとおり、乳化組成物を用いてアルコール飲料に混濁を付与する場合には、製造後のアルコール飲料中での安定性は勿論のこと、アルコール飲料の製造工程において、アルコール飲料の数倍の濃度の濃縮シロップ中での安定性も求められる。中長鎖脂肪酸トリグリセライドのケン化価が330より大きいか、全構成脂肪酸に対して炭素数12以上の脂肪酸の比率が10重量%より少ないと、製造工程において高濃度のアルコールを含む濃縮シロップに添加して保存した際に乳化粒子が崩壊する場合がある。また、ケン化価が248より小さい中長鎖脂肪酸トリグリセライドを使用した場合には、乳化粒子の調製が困難になり、アルコール飲料中においてクリーミング等が起こりやすくなる。このため、本発明では、ケン化価が248〜330であり、且つ、構成脂肪酸の10重量%以上が炭素数12〜20の脂肪酸である中長鎖脂肪酸トリグリセライドを用いる。
【0019】
本発明において中長鎖脂肪酸トリグリセライドの全構成脂肪酸に対する炭素数12以上の脂肪酸の比率は20重量%以上が好ましく、30重量%以上がより好ましい。
また、本発明の好ましい態様では、中長鎖脂肪酸トリグリセライドのケン化価は、295〜330が好ましく、300〜330がより好ましい。
【0020】
中でも、本発明に用いられる中長鎖脂肪酸トリグリセライドとしては、ケン化価が295〜330であり、且つ、構成脂肪酸の10重量%以上が炭素数12〜20の脂肪酸であるものが好ましく、ケン化価が295〜330であり、且つ、構成脂肪酸の20重量%以上が炭素数12〜20の脂肪酸であるものがより好ましく、ケン化価が300〜330であり、且つ、構成脂肪酸の30重量%以上が炭素数12〜20の脂肪酸であるものがさらに好ましい。
【0021】
本発明において中長鎖脂肪酸トリグリセライドを構成する中長鎖脂肪酸は、飽和脂肪酸であってもよいし、不飽和脂肪酸であってもよいが、中長鎖脂肪酸トリグリセライドの酸化安定性の点からは飽和脂肪酸が好ましい。
【0022】
このような中長鎖脂肪酸トリグリセライドとしては、市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、「アクターM−107FR」(商品名、理研ビタミン(株)製)(ケン化価:300〜330、炭素数12〜20の脂肪酸比率:30重量%)、ココナードML(商品名、花王(株)製)(ケン化価:295〜325、炭素数12〜20の脂肪酸比率:26.6重量%)、スコレーML(商品名、日清オイリオグループ(株)製)(ケン化価:295〜325、炭素数12〜20の脂肪酸比率:20〜30重量%)などを挙げることができる。なお、上記市販品のケン化価はメーカー規格である。脂肪酸比率はメーカーによる分析例であるが、参考までに記すこととする。
【0023】
また、中長鎖脂肪酸トリグリセライドとして、ケン化価が248〜330である中長鎖脂肪酸トリグリセライドを含有する植物油脂を使用することもできる。そのような植物油脂としては、例えば、ヤシ油などが挙げられる。また、市販品を用いることもできる。例えば、精製ヤシ油(不二製油(株)製)(ケン化価:248〜264、炭素数12〜20の脂肪酸比率:85重量%)などが挙げられる。なお、上記市販品のケン化価はメーカー規格であり、脂肪酸比率はメーカーによる分析例である。
【0024】
本発明において、中長鎖脂肪酸トリグリセライドは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
本発明に用いられるショ糖酢酸イソ酪酸エステル(Sucrose acetate isobutyrate)は、ショ糖の水酸基2個を酢酸で、6個をイソ酪酸でそれぞれエステル化した化合物である。ショ糖酢酸イソ酪酸エステルは、精油類に対する溶解性が高いことから、比重調整剤として機能することができる。
【0026】
本発明に用いられるアラビアガムは、マメ科アラビアゴムノキ(Acacia Senegal Willdenow)その他同属植物の分泌物を乾燥して得られたもの、又はこれを何らかの方法で脱塩処理したものである。いずれも市販品を用いることができる。
【0027】
アラビアガムを脱塩処理する場合、脱塩処理の方法としては、例えば、アラビアガムを電気透析膜処理する方法が挙げられる。中でもイオン交換樹脂を用いて処理する方法が簡便であり好ましい。脱塩処理は、アラビアガムの製造過程、精製過程又は乳化剤として使用する直前などのいずれの過程で行ってもよい。
【0028】
本発明においてアラビアガムは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明においては、脱塩処理したアラビアガムと脱塩処理をしていないアラビアガムとを併用してもよい。
【0029】
アラビアガムは、水に溶解させて水溶液の状態(以下「アラビアガム水溶液」ということがある。)で用いる。アラビアガム水溶液中のアラビアガムの濃度は10〜50重量%が好ましく、20〜40重量%がより好ましい。
【0030】
本発明に用いられる化工澱粉は、化学的処理を施された澱粉であって食用として供されるものであれば特に制限されない。例えば、澱粉にオクテニルコハク酸無水物を作用させてエステル化して得られるオクテニルコハク酸澱粉又はその塩が挙げられる。中でも、オクテニルコハク酸澱粉ナトリウムが好ましい。オクテニルコハク酸澱粉ナトリウムの市販品としては、例えば、PURITYGUM2000(日本NSC(株)製)が挙げられる。化工澱粉は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
化工澱粉は、水に溶解させて水溶液の状態(以下「化工澱粉水溶液」ということがある。)で用いる。化工澱粉水溶液中の化工澱粉の濃度は10〜50重量%が好ましく、20〜40重量%がより好ましい。
【0032】
本発明では、(C)成分としてアラビアガムと化工澱粉のいずれを用いてもよいし、アラビアガムと化工澱粉を混合して用いてもよい。本発明においては、(c)成分として、アラビアガムを用いることがより好ましい。
【0033】
本発明の乳化組成物において、(a)中長鎖脂肪酸トリグリセライドと(b)ショ糖酢酸イソ酪酸エステルとの配合比率((a):(b))は、重量比で、90:10〜50:50であることが好ましく、70:30〜50:50であることがより好ましい。中長鎖脂肪酸トリグリセライドとショ糖酢酸イソ酪酸エステルとの配合比率は、最終製品であるアルコール飲料の比重に合わせて決定する。
【0034】
また、(a)中長鎖脂肪酸トリグリセライド及び(b)ショ糖酢酸イソ酪酸エステルと、(c)アラビアガム及び/又は化工澱粉との配合比率((a)+(b):(c))は、重量比で、60:40〜10:90であることが好ましく、60:40〜20:80であることがより好ましい。中長鎖脂肪酸トリグリセライド及びショ糖酢酸イソ酪酸エステルと、アラビアガムとの配合比率は、最終製品であるアルコール飲料の用途及び所望の濁度等に応じて決定する。
【0035】
本発明のアルコール飲料用乳化組成物は、油相成分とアラビアガム水溶液及び/又は化工澱粉水溶液とを混合することにより製造することができる。ここで、油相成分は、少なくとも中長鎖脂肪酸トリグリセライド及びショ糖酢酸イソ酪酸エステルを含む。
【0036】
本発明のアルコール飲料用乳化組成物には、本発明の効果を妨げない範囲において他の油溶性成分を添加することもできる。他の油溶性成分としては、例えば、香料、色素、酸化防止剤などが挙げられる。他の油溶性成分を添加する場合、これらの油溶性成分も上記油相成分に含まれる。油相成分は、アラビアガム水溶液や化工澱粉水溶液と混合する前にあらかじめ混合しておくことが好ましい。
【0037】
乳化組成物を得る方法としては、乳化製剤を調製する従来技術を利用することができる。具体的にはホモミキサー、高圧ホモジナイザー等を用いて油相成分とアラビアガム水溶液及び/又は化工澱粉水溶液を攪拌及び混合する方法が挙げられる。攪拌及び混合の際には、任意で冷却又は加温してもよい。
【0038】
アラビアガム水溶液又は化工澱粉水溶液には、粘度調整及び静菌等を目的として、必要に応じて、グリセリン、プロピレングリコール、D−ソルビトール、果糖ブドウ糖液糖などの溶媒を添加してもよい。
【0039】
本発明の乳化組成物は、本発明の効果を妨げない範囲において、カラメル色素等の色素;香料;ビタミンC、ビタミンE等の酸化防止剤;増粘多糖類;グリセリン、プロピレングリコール、D−ソルビトール、果糖ブドウ糖液糖等の溶媒等をさらに含んでいてもよい。
【0040】
本発明の乳化組成物をアルコール飲料に添加した際に生成する乳化物の粒子径が細かすぎるとアルコール飲料に混濁を与えにくくなる場合がある。また逆に、乳化物の粒子径が大きすぎるとアルコール飲料に混濁を付与することは容易となるがクリーミング等が起きやすくなる場合がある。このため、乳化物の粒子径を0.3〜1μm程度に調整することが好ましい。乳化物の粒子径は、ホモミキサー、高圧ホモジナイザー等により調整することができる。
【0041】
本発明のアルコール飲料用乳化組成物をアルコール飲料用組成物に添加することで安定な混濁を付与したアルコール飲料を与えることができる。ここで「アルコール飲料」とは、アルコール濃度が1容量%以上である飲料をいうが、本発明においては、特にアルコール濃度が10容量%未満のものが好ましい。
本発明において「アルコール飲料用組成物」は、アルコール濃度が1容量%以上である飲料用組成物を意味し、本発明のアルコール飲料用乳化組成物を添加することによりアルコール飲料を与えるものであれば特に制限されない。アルコール飲料用組成物は、アルコール濃縮シロップであってもよく、その後、適宜希釈してアルコール飲料を調製してもよい。
【0042】
本発明のアルコール飲料用乳化組成物を添加して得られるアルコール飲料としては、例えば、サワー、酎ハイ、カクテルなどが挙げられる。アルコール飲料は、炭酸を含んでいてもよい。
【0043】
本発明のアルコール飲料用乳化組成物の添加量は、使用目的などを考慮して適宜決定すればよく、特に制限されないが、得られるアルコール飲料の合計量に対して0.01〜0.5重量%が好ましく、0.05〜0.2重量%がより好ましい。
【0044】
本発明では、本発明のアルコール飲料用乳化組成物を直接アルコール飲料に添加してもよいし、アルコール飲料の製造工程において、アルコール飲料を濃縮したアルコール濃縮シロップ中に添加することもできる。本発明のアルコール飲料用乳化組成物をアルコール濃縮シロップ中に添加する場合は、得られたシロップ溶液を水、炭酸水等の水溶性溶媒で薄めることにより、アルコール飲料を調製することができる。
【0045】
以上のようにして、本発明のアルコール飲料用乳化組成物を用いることにより、アルコール飲料に安定な混濁を付与することができる。
【実施例】
【0046】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら制限されるものではない。
【0047】
[実施例1〜4、比較例1〜5]
〔1〕乳化組成物の調製
表1の処方に従い、乳化組成物を調製した。
【表1】

【0048】
表1で使用した成分の詳細は次のとおりである。
(a)油相成分
・アクターM−107FR;中鎖脂肪酸トリグリセリド、理研ビタミン株式会社製。構成脂肪酸の主成分は、炭素数8、10及び12の脂肪酸である。炭素数12以上の脂肪酸は30重量%である。
・アクターM−2;中鎖脂肪酸トリグリセリド、理研ビタミン株式会社製。構成脂肪酸の主成分は、炭素数8の脂肪酸である。炭素数12以上の脂肪酸は含まれていない。
・精製ヤシ油;不二製油株式会社製。構成脂肪酸の主成分は、炭素数12及び14の脂肪酸である。炭素数12以上の脂肪酸は85重量%以上である。
・米サラダ油;築野食品工業株式会社製。構成脂肪酸の主成分は、炭素数16及び18の脂肪酸である。炭素数12以上の脂肪酸は98重量%以上である。
・Miglyol 812;中鎖脂肪酸トリグリセリド、SASOL(サソール)社製(ドイツ)。構成脂肪酸の主成分は、炭素数8及び10の脂肪酸である。炭素数12以上の脂肪酸は2重量%以下である。
(b)乳化剤
・アラビアガム;アラビックコールSS/三栄薬品貿易株式会社製
・脱塩アラビアガム;サンアラビック/三栄薬品貿易株式会社製
・オクテニルコハク酸澱粉Na;PURITYGUM2000/日本NSC株式会社製
・ポリグリセリン脂肪酸エステル;Decaglyn1-SVF(商品名)/日光ケミカルズ株式会社製
(c)その他
・グリセリン;精製グリセリン/花王株式会社
【0049】
〔2〕乳化組成物の調製方法
表1に記載された量の油相成分を加温し均一に混合した後、該混合液を、乳化剤及びグリセリンを水に溶解して調製した溶液に添加し、攪拌混合した。その後、高圧ホモジナイザー処理を行い、乳化組成物を得た。
【0050】
得られた乳化組成物を試験例1及び2に供し、アルコール飲料における乳化状態の安定性を評価した。
【0051】
[試験例1]混濁状態の安定性(その1)
〔1〕5倍濃縮シロップの調製
95%エタノール316ml、異性化液糖250g、クエン酸14g及びクエン酸ナトリウム2gに水を加えて1000mlとし、アルコール飲料の5倍濃縮シロップを調製した。この5倍濃縮シロップに、実施例1〜4及び比較例1〜5で調製した乳化組成物をそれぞれ0.3重量%加えた。
【0052】
〔2〕評価方法
実施例1〜4及び比較例1〜5の乳化組成物をそれぞれ添加した5倍濃縮シロップを、室温にて4日間保管後、乳化物の粒子径及び透過率を測定し、乳化状態の安定性に関する評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
なお、粒子径と透過率は以下の機器で測定した。
粒度分布: SALD-2100
透過率 : UV-1700 (島津製作所)、測定波長600nm
【0055】
表2に示されたように、実施例1〜4の乳化組成物は、5倍濃縮シロップに好適な混濁を与えており、時間が経過しても乳化物の粒子径の変化は少なく、混濁状態が安定しており、乳化安定性に優れていた。一方、比較例1、3〜5の乳化組成物は、粒子径又は濁りの変化が生じた。また、比較例2の乳化組成物は、粒子径及び濁りの変化は生じなかったが、クリーミングが発生した。
【0056】
[試験例2]混濁状態の安定性(その2)
試験例1において、4日後の評価を行った5倍濃縮シロップ(実施例1〜4)を、さらに炭酸水で5倍希釈してアルコール炭酸飲料を調製した。そして、アルコール炭酸飲料を25℃、6ヶ月間保存した後、乳化状態の安定性(沈殿、クリーミング)について目視観察により評価を行った。結果を表3に示す。
【0057】
【表3】

【0058】
実施例1及び3で調製した乳化組成物を使用したアルコール飲料は、沈殿やクリーミングを生じることがなく、乳化状態が安定していた。また、実施例2で調製した乳化組成物を使用したアルコール飲料は、ごく僅かにクリーミングが認められたが、乳化状態の安定性には問題がなかった。実施例4の乳化組成物を使用したアルコール飲料は、ごく僅かに沈殿が認められたが、乳化状態の安定性には問題がなく、クリーミングも生じなかった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のアルコール飲料用乳化組成物は、アルコール飲料に混濁を付与するための乳化組成物として有用である。本発明のアルコール飲料用乳化組成物を用いることにより、アルコール飲料に長期間安定な混濁を付与することができ、アルコール飲料に嗜好性の高い外観を与えることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ケン化価が248〜330であり、且つ、構成脂肪酸の10重量%以上が炭素数12〜20の脂肪酸である中長鎖脂肪酸トリグリセライド、(b)ショ糖酢酸イソ酪酸エステル及び(c)アラビアガム及び/又は化工澱粉を含有するアルコール飲料用乳化組成物。
【請求項2】
前記中長鎖脂肪酸トリグリセライド(a)の構成脂肪酸の30重量%以上が炭素数12〜20の脂肪酸である、請求項1記載の乳化組成物。
【請求項3】
前記中長鎖脂肪酸トリグリセライド(a)と前記ショ糖酢酸イソ酪酸エステル(b)との配合比率((a):(b))が、重量比で、90:10〜50:50である、請求項1又は2記載の乳化組成物。
【請求項4】
前記中長鎖脂肪酸トリグリセライド(a)及び前記ショ糖酢酸イソ酪酸エステル(b)の合計と前記アラビアガム及び/又は化工澱粉(c)との配合比率((a)+(b):(c))が、重量比で、60:40〜10:90である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の乳化組成物。
【請求項5】
前記アラビアガム(c)が、脱塩処理したアラビアガム、脱塩処理をしていないアラビアガム又はその組み合わせである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の乳化組成物。
【請求項6】
前記化工澱粉(c)が、オクテニルコハク酸澱粉ナトリウムである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の乳化組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の乳化組成物を含有するアルコール飲料。
【請求項8】
アルコール飲料用組成物に請求項1〜6のいずれか1項に記載の乳化組成物を添加する工程を含む、アルコール飲料の製造方法。
【請求項9】
前記アルコール飲料用組成物が、アルコール濃度1容量%以上のアルコール飲料用組成物である、請求項8記載の製造方法。
【請求項10】
(a)ケン化価が248〜330であり、且つ、構成脂肪酸の10重量%以上が炭素数12〜20の脂肪酸である中長鎖脂肪酸トリグリセライド、(b)ショ糖酢酸イソ酪酸エステル及び(c)アラビアガム及び/又は化工澱粉を含有するアルコール飲料用乳化組成物を添加することによりアルコール飲料に混濁を付与する方法。

【公開番号】特開2011−193736(P2011−193736A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−60778(P2010−60778)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000169466)高砂香料工業株式会社 (194)
【Fターム(参考)】