説明

アルツハイマー病の処置のための免疫治療組成物

ヒト患者におけるアルツハイマー病の進行を予防、遅延、停止または反転するための安全かつ有効なワクチンを記載している。ワクチンは、油中水型Th2−バイアスアジュバント/送達系中で製剤化された免疫原性担体(例えば、DT)と複合体化しているAβ1−42またはベータアミロイド自己エピトープ(例えば、Aβ1−15またはAβ1−42由来の他の7−merもしくは15−merペプチドエピトープ)を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との関係
本出願は、2008年8月7日に出願された米国仮出願第61,086,938号(この内容は、出典明示により本明細書に包含させる)の利益を主張する。
【0002】
技術分野
本願は、アルツハイマー病(AD)の進行を予防、遅延、停止または反転するための安全かつ効果的なワクチンに関する。ADは脳におけるアミロイドβ(Aβ)沈着により特徴付けられる。Aβ1−42ワクチン接種(AN1792)によるAβのクリアランスは、臨床的に有望であると示されているが、患者の一部は制限的な炎症作用に苦しんでいる。Aβのような自己抗原は免疫原性が乏しく、Th1バイアス(biased)反応を誘導する強力なアジュバント、例えば、AN1792ワクチンにおいて使用されるサポニンQS21を必要とする。承認されているTh2バイアスアジュバントであるアラム(Alum)は、自己抗原とあまり作用しない。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
アルツハイマー病(AD)は、認知機能の進行性喪失により特徴付けられる神経変性障害であり、高齢者における認知症の最も頻度の高い型であり、認知症を有するすべての患者のほぼ半数に影響する。
【0004】
したがって、加齢がADに関する主な危険因子である。65歳の人々において2−3%が該疾患の徴候を示し、85歳の人々の25−50%がADの症状を有し、さらに多数の人々が特徴的症状なく該疾患の病理学的特徴を有する。65歳から5年ごとに、該疾患を有する確率が2倍になる。85歳を越えるADの割合は、米国におけるAD人口において急速に増加しているが、現在、75−84歳の人口は85歳を越える人口とほぼ同じ数の患者を有すると概算されている(Herbert at al., 2003)。アルツハイマー病協会は最近、米国においてAD患者が500万人を越えていることを報告した(Alzheimer’s Association, 2007)。この数は2050年までに3倍になると予測される。
【0005】
ADを有する患者のケアにおける政府機関の現在のコストは相当であり、急速に増加している。2010年には、ADにおけるメディケア費用は493億ドル(2000年のコストの54%増)に増加することが予測され、メディケイド費用は330億ドル(2000年のコストの80%増)に増加するであろう。ADは、アメリカにおける取引が毎年610億ドルかかることが報告されている。このうち、生産性の喪失に起因する毎年のコストおよび労働者がADを有する親類のための介護者となるときの代替コストは、365億ドルと概算される。これらのコストは、家族の介護者に対する直接的財政的コスト(例えば、収入の喪失)も終末期のケアを提供する家族中の鬱病と関連するコストも反映されていない(Prigerson, 2003)。現在、ADの治癒はなく、利用できる薬物治療は、多少の患者に対して比較的小さい対症的効果を提供するが、疾患の進行を遅延しない。
【0006】
ADは、脳アミロイド−β(Aβ)タンパク質の沈着、老人斑、グリア細胞活性化、および過リン酸化タウタンパク質から構成される神経原線維変化により特徴付けられる(Selkoe, 2001)。疫学的、病理学的および遺伝学的証拠は、AβがADの病因において極めて重要な役割を有することを証明する(Golde, 2003)。腹腔内に注射されるフロイントアジュバント中の凝集Aβ1−42ペプチドによるアミロイド前駆体タンパク質(APP)トランスジェニックマウスの免疫化は、脳Aβの低下を引き起こした(Schenk et al., 1999)。Aβ1−40ペプチドによる鼻腔内免疫化後のPDAPP−tgマウスにおける脳Aβレベルの減少も、報告されている(Lemere et al., 2000; Weiner et al., 2000)。その後すぐに、いくつかの報告において、Aβの抗体−介在クリアランスの重要性および認知の改善におけるその役割が証明された(Bard et al., 2000; Janus et al., 2000; Morgan et al., 2000; Dodart et al., 2002)。加えて、抗Aβ抗体が、種々のアジュバントを使用するAβにおける免疫化後に(Lemere et al., 2002; Cribbs et al., 2003; Lemere et a1.,2000, 2002, 2003; Spooner et al., 2002: Maier et al., 2005; Ghochikyan et al., 2006)、およびDNA免疫化により(Ghochikyan et al., 2003, Zhang et al., 2003, Okura et al., 2006, Frazer et al, 2007)誘導されている。能動免疫化戦略に加えて、Aβに対する抗体を用いる受動免疫化も、脳からAβを除去することが示されており、ADのマウスモデルにおける認知機能の改善と関連する(Bard et al., 2000, DeMattos et al., 2001)。加えて、これらの有望な動物データは多施設Aβワクチン(AN1792)臨床試験につながった(Schenk, 2002; Orgogozo et al., 2003; Gilman et al., 2005)。
【0007】
AN1792ワクチンは、2つの点で欠点があった。第1に、AN1792は処置された患者の300人中59人のみ(19.7%)において有効な免疫反応を誘導し、第2に、処置された対象の18人(6%)が髄膜脳炎の症状を経験し、臨床試験を中断しなければならなかった(Schenk, 2002; Orgogozo et al., 2003; Gilman et al., 2005)。AN1792ワクチン接種を受けた対象からの剖検例報告は、対照と比較してプラークの数の劇的な減少を示した領域を証明した(Nicoll et al., 2003; Ferrer et al., 2004; Masliah et al., 2005)。しかしながら、T細胞浸潤物(主にCD4 わずかにCD8細胞)は、2つの場合において軟髄膜、血管周囲腔および脳実質に存在しており、AN1792ワクチン接種に対するT細胞介在免疫反応を示唆した。神経性炎症(neuroinflammation)は前臨床試験において観察されなかったが、最近の報告によって、Aβおよび百日咳毒素にて免疫化されたC57BL/6マウスがAN1792にて免疫化されたヒトにおいて観察されるものと同様の特性を有する自己免疫性髄膜脳炎を誘導することが示されている(Furlan et al., 2003)。AN1792試験における追跡調査によって、Aβプラークに結合した抗体を発現したAD患者が認知機能の減少において顕著に遅い速度を示すことが示された。これらの知見は、能動免疫による抗Aβ抗体の産生がADに対する有望な免疫治療アプローチであることが示唆される(ただし、良好な免疫反応をこれらの高齢患者において誘導することができ、望ましくない神経性炎症を避けるために、過剰な細胞介在免疫反応を最小化する場合である)。Aβ抗体が脳におけるAβ負荷を減少させる正確なメカニズムは知られていないが、仮説として、ミクログリアを介するFc−受容体介在食作用、アミロイド原線維の分解または脳からのAβの正味の流出の増加をもたらす循環Aβの隔離が挙げられる(Vasilevko and Cribbs, 2006)。明らかに、たとえどのようなメカニズムであっても、能動または受動免疫療法は、ADにおけるAβを除去し、認知機能を改善する可能性を有する。
【0008】
能動免疫スケジュールは、Tリンパ球−介在免疫反応を最小にし、抗体産生を最大にするように開発されている。ヒト(Geylis et al., 2005)、サル(Lemere et al., 2004)およびマウス(Lemere et al., 2000; McLaurin, et al., 2002; Agadjanyan et al., 2005)におけるB細胞エピトープはAβ1−15領域内に位置するが、T細胞エピトープはAβ15−42内に位置している(Cribbs et al., 2003; Monsonego et al., 2003)。したがって、T細胞エピトープではなくB細胞エピトープにかかるAβフラグメントは、有害な抗−Aβ細胞性免疫反応を回避する可能性がある安全な免疫原であり得る。これらのさらに短いAβフラグメントの免疫原性を増強するための多数のアプローチ、例えば、ユニバーサル(universal)ヘルパーT細胞エピトープであるPADREへのB細胞エピトープであるAβ1−15の複合体化(Agadjanyan et al., 2005; Ghochikyan et al., 2006)、β−シート量を減少させるためのリジン残基の付加およびグルタミン酸置換の増加(Siguardsson et al., 2001, 2004)または複数コピーの提示(Zhou et al., 2005)が研究されている。最近、UBITh(登録商標)AD免疫治療ワクチンは、Aβ1−42の内因性自己Thエピトープが外来UBITh(登録商標)エピトープと置き換えられることが報告されている(Wang et al., 2007)。マカクザルにおける反復投与毒性試験の結果は、このAβ1−14 UBITh(登録商標)ワクチンでの免疫化後、免疫毒性または全毒性の証拠を示さなかった。
【0009】
T細胞エピトープを欠いているがAβ−特異的B細胞エピトープを含む、分岐リジン核におけるAβ1−15の16コピーから構成されるデンドリマー状Aβ1−15(dAβ1−15)は、有効な免疫原である。変異大腸菌易熱性エンテロトキシン(Dickinson and Clements, 1995)である実験用アジュバントLT(R192G)を使用するdAβ1−15での鼻腔内(i.n.)免疫化は、J20 APP−tgマウスにおいて脳プラーク負荷における有意な減少を伴う良好な体液性免疫反応をもたらした(Seabrook et al., 2006)。マウスdAβ1−15をLT(R192G)アジュバントと共に皮下注射したとき、AD患者由来の脳組織において脳Aβプラークと結合する、低レベルにおいてIgG2aおよびIgG2bであるが主にIgG1アイソタイプの抗−Aβ抗体にて体液性免疫反応が誘導された(Seabrook et al., 2006)。他の試験において、LT(R192G)アジュバントを使用する2つのリジン−連結Aβ1−15配列(2×Aβ1−15)のタンデムリピートでの鼻腔内免疫化は、Aβ−特異的細胞性免疫反応の非存在下でhAPPマウスにおける脳Aβ負荷および学習障害を減少させた(Maier et al., 2006)。
【0010】
低い内因性神経毒性を有する短Aβ誘導体を使用することに加えて、Th2表現型に対する免疫反応を指向することができるアジュバントも、ADに対する安全、免疫原性的に良好かつ効果的なワクチンの設計のために重要であり得る(Cribbs et al., 2003; Ghochikyan et al., 2006)。強いTh1体液性応答を誘導することが知られているアジュバントであるQS21(マウスにおけるIgG2a抗体)はAN1792試験において使用され、その臨床評価中に観察されたT細胞介在炎症に寄与し得た。これまでの動物における多数の試験は、混合Th1/Th2免疫反応を与える強いアジュバント、例えば、CFA/IFAを使用することにより、良好な抗体力価を得ることに集中していた。ユニバーサルヘルパーT細胞エピトープ(PADRE)とタンデムに連結したAβ1−15であるPADRE Aβ1−15−MAPは、Th2バイアスアジュバントであるアラム中で製剤化したとき、主にIgG1抗体アイソタイプを産生するが、主にIgG2aアイソタイプを産生するTh1バイアスアジュバントであるQuil Aにおいて製剤化したときよりあまり強力な免疫反応を引き起こさないことが示されている(Ghochikyan et al., 2006)。皮下または筋肉内経路によるAβに対する良好なTh−2型体液性応答は報告されていないが、LT(R192G)アジュバントを使用するAβペプチドでの鼻腔内ワクチン接種後のAPP/TGマウスにおけるTh2−型体液性応答は、脳Aβプラーク負荷における有意な減少、局所的なミクログリアおよびアストロサイト活性化の減少、および神経炎性ジストロフィーの減少と関連していた(Weiner et al., 2000)。したがって、原則として、AD集団において良好なTh2バイアス免疫反応を誘導する抗−AβワクチンはADの処置に効果的であるはずである。
【発明の概要】
【0011】
発明の概要
強力なTh2バイアス免疫反応を誘導するが、有害な炎症性Th1バイアス細胞性免疫反応を回避する抗−Aβワクチンは、ADの処置に効果的であり得る。適当なアジュバント中のAβ1−42も、この結果を達成し得る。加えて、Th1エピトープを欠いているB細胞−特異的短Aβペプチドエピトープは、起こりうる有害な炎症性細胞性免疫反応を回避することにより、ADに関する有効な免疫療法レジメンのための有望な候補である。しかしながら、このようなペプチド自己エピトープはさらなるT細胞の助けを必要とし、さらにヒトにおいて所望の免疫反応を引き起こし、高い力価の抗−Aβ抗体を産生するように、強いTh2バイアスアジュバントを必要とする。本発明は、Th1バイアス細胞介在炎症を回避するか、または抑制するために、油中水型エマルジョン型Th2バイアスアジュバント/送達系中のAβペプチドエピトープ、例えば、Aβ1−42を提供する。本発明の1つの態様は、Aβ15DT複合体を形成するように免疫原性担体(DT)と複合体化したTh1エピトープを欠く自己エピトープ(Aβ1−15)に関し、次にこれはTh2バイアス免疫反応を誘導するように油中水型エマルジョンアジュバント/送達系中で製剤化される。免疫原性組成物は、一つの例において、皮下または筋肉内注射により患者に投与され得る。
【0012】
記載されている免疫治療組成物は、油中水型エマルジョン型アジュバント中で製剤化された、C−末端ペプチドスペーサーを介して免疫原性担体、例えば、ジフテリアトキソイド(DT−承認されている小児および成人ワクチンの成分)に連結した、Aβ1−42、またはAβのアミノ酸残基1−15を含むそれから誘導されるアミノ酸残基から構成される免疫原に関する。組成物は、Aβに対する中和抗体を誘導するが、Th1に基づく細胞毒性T細胞介在炎症を回避するように設計される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図面の簡単な説明
図1AおよびBは、免疫化後の血漿における抗−Aβ1−42抗体レベルおよびIgアイソタイプを描写している。
【0014】
図2は、CFA/IFA、IFAまたはMAS−1アジュバント中のAβ1−42で免疫化されたマウス由来の血漿の、APP Tgマウス由来の脳の切片におけるAβプラークへの結合を示す。
【0015】
図3は、MAS−1中で製剤化されたそれぞれ7および22のペプチド−対−担体の代替比率におけるAβ15(7)DTおよびAβ15(22)DT複合体のマウスにおける免疫能(immunopotency)を示す。
【0016】
図4は、MAS−1中で製剤化されたそれぞれ7および22のペプチド−対−担体の代替比率におけるAβ15(7)DTおよびAβ15(22)DT複合体のマウスにおける免疫能を示す。
【0017】
図5は、MAS−1中のAβ1−42、Aβ15(7)DTおよびAβ15(22)DTにより誘導されるC57BL/6マウスにおける抗−Aβアイソタイプを描写している。
【0018】
図6は、MAS−1中のAβ1−42、Aβ15(7)DTおよびAβ15(22)DTにより誘導される抗−Aβ特異性のエピトープ位置を示す。
【0019】
図7は、MAS−1中の抗−Aβ1−42、Aβ15(7)DTおよびAβ15(22)DTで免疫化されたDBAマウス由来の血漿によるヒトADプラークに対する比較可能な抗−Aβ免疫反応性を示す。
【0020】
図8は、3×Tg−ADマウスにおける抗−Aβレベルを描写している。
【0021】
図9は、脾細胞刺激アッセイを示す。
【0022】
図10は、Aβプラークに対して染色されたそれぞれの3×Tg−ADマウス由来の脳切片を描写している。
【発明を実施するための形態】
【0023】
詳細な説明
詳細な説明において提供されている実施例および図は、単なる例であり、いかなる特許請求の範囲の説明または解釈においても特許請求の範囲を限定するために使用してはならない。
【0024】
AD治療ワクチン
ペプチドを含む小分子と免疫原性担体、例えば、DTとの複合体化は、免疫原性を増強するための確立された手段である。しかしながら、ヒトにおいて自己抗原複合体を強い免疫原性にするためには、また、適当なアジュバントと製剤化する必要がある。MAS−1は、Mercia Pharma, Incから市販されているマンニドモノオレエート(Mannide monooleate)、スクアレンおよびスクアランを含む油中水型エマルジョンアジュバント系である。MAS−1は、細胞介在細胞毒性を引き起こすことなく、またはワクチンの自己成分に対する免疫自己寛容を破壊することなく、自己抗原に対する持続的中和抗体反応を刺激し、耐容性が良く、全身毒性ではない治療ワクチンを生産するために、自己抗原複合体構築物と共にヒトにおいて使用するために開発された。
【0025】
マンニドモノオレエートベースのアジュバントは、例えば、多くの提供源から市販されているフロイント不完全アジュバント(IFA)、ならびにSEPPIC, Paris, Franceから入手可能なISA51およびISA720である。油中水型エマルジョンアジュバントは、また、多くの提供源から市販されているマンニドモノオレエート(例えば、Combe, Inc.、商品名Arlacelの下)ならびにスクアレンおよびスクアラン(いくつかの市販している提供源から)と共に製剤化され得る。記載されている組成物において使用される油中水型アジュバントは、抗原を有するエマルジョンにおける水球が、1ミクロン未満の中央直径、約100ナノメートルから約1ミクロンの範囲における中央直径、一般的に約300ナノメートルの平均直径を有するように、製剤化され得る。MAS−1の油成分は、周知のフロイントアジュバント(不完全および完全製剤両方)の油相を含む鉱油とは異なって、代謝可能である天然生物的油である。
【0026】
例えば、限定はしないが、ジフテリアトキソイド(DT)、CRM197(Wyeth)−DTの変異型、破傷風菌トキソイド(TT)およびキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)を含む、多くの担体タンパク質は、本発明の組成物において使用され得る。DTは、優れた安全記録で小児および成人ワクチンにおける使用のために承認されており、多くの提供源によりcGMPの量において生産されているため、好ましい担体タンパク質である。
【0027】
アジュバント/送達系の特異性
数十年間、フロイントアジュバントエマルジョン(CFA/IFA)は、他のアジュバントと比較する基準である。CFAは、特にマイコバクテリウム成分により誘導される激しい炎症反応のため、ヒトにおける使用に適当ではないが;IFAは、ヒト適応に対して未だ承認されていないが臨床試験において使用されている。それにもかかわらず、これらの油中水型(W/O)エマルジョンは、強力なアジュバントとして一般的に認識されており、動物試験において幅広く使用されている。
【0028】
アラムは、細胞介在細胞毒性を回避するTh2バイアスを伴う現在米国で承認されている唯一のアジュバントであるが、アラムは、不十分な免疫能のため、自己−エピトープ複合体ワクチンのためのアジュバントとして不適当である。鉱油ベースであるIFA型アジュバント、例えばISA51は、IFAの鉱油沈澱が注射部位にとどまり、嚢胞の形成を引き起こし得るので、慢性疾患状態の処置における反復使用のためのアジュバントとして欠点を有する。
【0029】
MAS−1アジュバント/送達系は、特に、ヒトにおいて弱い免疫原性自己抗原に対する体液性応答を増強するために開発された。MAS−1アジュバントエマルジョンは、免疫原性に関して、アラムよりも有意に強力であり、IFAエマルジョンに匹敵するか、またはそれよりも優れているが、MAS−1は筋肉内または皮下注射後にIFAより有意に耐容性が良く、優れた医薬的物理化学的特性を有する。これらは、有効な抗原提示のための均一の球サイズ分布、低用量を容易にする低粘度、および標準的なコールドチェーン手段を介する分配を容易にする冷蔵温度における拡大された安定性を含む。
【0030】
IFAと異なって、MAS−1は、ワクチンのデポー製剤を提供し、それにより長期的に有効な免疫刺激を促進する、天然かつ代謝可能な成分から構成される。MAS−1は、最終的に注射部位から除去される。MAS−1エマルジョンは、使用時に大量または少量単位で作られても強力、再現可能かつ安定であり、1ミクロン未満の中央直径、一般的に約300ナノメートルを有する抗原を含む水球と共に製剤化され得る。対照的に、IFAエマルジョンは、エマルジョン安定性における変動性と付随して約3から10またはさらに50ミクロンの直径の水球を有する製剤にて投与され、小量の投与および大規模製造を困難にさせる高い粘性である。
【0031】
MAS−1において製剤化されたAβ1−42ペプチドワクチン
Aβ1−42ワクチン(AN1792)は、QS21ベースのアジュバント中で製剤化される。強いTh1バイアスアジュバントであるQS21は、AN1792ワクチンの炎症性副作用に寄与し得る。MAS−1中で製剤化されたAβ1−42を、脳組織におけるアミロイドプラークに対する強力なTh2バイアス抗体反応を促進するが、Th1反応と関連するアミロイドベータ特異的細胞介在免疫の産生を回避する能力に関して評価する。
【0032】
図1AおよびBは、免疫化後の血漿における抗−Aβ1−42抗体レベルおよびIgアイソタイプを描写している。
【0033】
1(A)メスDBAマウスを、0、14、42および84日目に100ugのAβ1−42で皮下免疫化し、抗−Aβ抗体をベースライン、28、56および98日目にELISAにより血漿において測定し、B)Igアイソタイプを98日目に測定する。
【0034】
Aβ1−40およびAβ1−42ペプチド抗原は、標準固相ペプチド合成方法論により合成される。DBA2マウス(n=4)に、0、14、42および84日目に、MAS−1、CFA/IFAまたはIFA中で製剤化された100μgのAβ(75μgのAβ1−40および25μgのAβ1−42)を皮下(s.c.)に注射する。血漿における抗体力価を、0、28、56および98日目に、ELISAにより測定する。結果は、MAS−1中で製剤化された全長Aβが、28、56および98日目に、IFAよりも優れた強力な抗体力価を誘導することを示す(図1A)。
【0035】
Aβ1−40およびAβ1−42ペプチド抗原は、標準固相ペプチド合成方法論により合成される。DBA2マウス(n=4)に、0、14、42および84日目に、MAS−1、CFA/IFAまたはIFA中で製剤化された100μgのAβ(75μgのAβ1−40および25μgのAβ1−42)を皮下(s.c.)に注射する。血漿における抗体力価を、0、28、56および98日目に、ELISAにより測定する。結果は、MAS−1中で製剤化された全長Aβが、28、56および98日目に、IFAよりも優れた強力な抗体力価を誘導することを示す(図1A)。予期されるとおり、CFA/IFA中のAβ1−42(ポシティブ対照)は、MAS−1またはIFA製剤のいずれかよりも、より迅速に、かつ最初に高い抗体レベルをもたらした。MAS−1およびIFA製剤の両方に対する反応は、該試験にわたって増加し、最終血液サンプルを得た98日目に停滞期に到達しなかった。98日目のサンプルのアイソタイプは、CFA/IFAがIgG2aおよびIgG2b抗体それぞれにおいて有意な力価にて混合Th1/Th2免疫反応を引き起こすことを示した。一方で、MAS−1およびIFA製剤は、主なアイソタイプであるIgG1とIgM、低レベルのIgG2bおよびほんのわずかなレベルのTh−1型IgG2a抗体と共に、Th2ドミナント反応を引き起こした(図1B)。CFA/IFA、IFAおよびMAS−1中の全長Aβ1−42で免疫化されたマウス由来の血漿は、APP Tgマウス由来の脳切片におけるヒトAβプラークへの同レベルの結合を示し(図2)、Th−2ドミナント抗体アイソタイプがアミロイドプラークを有効に認識することを証明し、Th−2バイアスワクチンがTh−1介在毒性を回避してアミロイドプラーク負荷を減少させる可能性を有することを示唆する。
【0036】
図2は、CFA/IFA、IFAまたはMAS−1アジュバント中のAβ1−42で免疫化されたマウス由来の血漿の、APP Tgマウス由来の脳の切片におけるAβプラークへの結合を示す。血漿は、CFA/IFA、IFAおよびMAS−1中のAβ1−42で免疫化されたマウスから98日目に採取し、0、14、42および84日目に等しく、APP Tgマウス由来の脳切片における脳Aβプラークと結合した(下部パネル)。免疫前血漿は対照として使用し、脳Aβプラークに結合しなかった(上部パネル)。
【0037】
CFA/IFA、IFAおよびMAS−1中の全長Aβ1−42で免疫化されたマウス由来の血漿は、APP Tgマウス由来の脳切片におけるヒトAβプラークへの同レベルの結合を示し(図2)、Th−2ドミナント抗体アイソタイプがアミロイドプラークを有効に認識することを証明し、Th−2バイアスワクチンがTh−1介在毒性を回避してアミロイドプラーク負荷を減少させる可能性を有することを示唆する。
【0038】
AβDT複合体化ワクチン
ペプチドエピトープ選択:Aβ−特異的T細胞エピトープを回避するAβB細胞エピトープへの標的化は、全長Aβ1−42である原線維でのAN1792臨床試験において見られるいくつかの副作用を回避するために治験担当医により遂行されている戦略である。Aβ1−15配列が関連B細胞エピトープをコードすることが示されている(Geylis et al., 2005; Lemere et al., 2004; Lemere et al., 2000; McLaurin, et al., 2002; Agadjanyan et al., 2005)。この配列は、免疫原性を改善するために、免疫原性担体と複合体化され得る。
【0039】
図1A、1Bおよび2に示されているデータは、Aβ1−40およびAβ1−42がMAS−1アジュバントまたはIFAアジュバント中で製剤化されたとき、これらのAβワクチンがTh2優位の免疫反応を誘導し得ることを示す。一方、CFA中で製剤化されたAβ1−40およびAβ1−42は有意なTh1免疫反応を誘導し、これは、AN1792ワクチンにおけるQS21アジュバント中で製剤化されたAβ1−40およびAβ1−42で報告されているとおり、Th1細胞介在炎症を引き起こす。したがって、これらの結果に基づいて、適当な免疫原性担体と複合体化した場合、Aβアミノ酸残基16から40および16から42由来のAβエピトープ配列を含む複合体化Aβワクチンは、MAS−1またはIFAベースのワクチンとして製剤化された場合に、強力かつ安全なTh2優位の免疫反応を誘導することが予期され得る。同様に、承認されているTh2バイアスアジュバントであるアラムと製剤化した場合、これらの構築物は、また、Th2優位の免疫反応を生じることが予期され得る。これらのエピトープ配列は、一般的に、Aβ配列1−40および1−42由来の7から15の連続したアミノ酸残基を含み得る。
【0040】
免疫原性担体選択:ヘルパーT細胞エピトープを欠いているAβ1−15ペプチドは、Th−2バイアスアラムアジュバント中で製剤化した場合、免疫原性が乏しい(Agadjanyan et al., 2005)。IFA中で製剤化されたAβ1−14は、外因性T細胞の助けがキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)担体タンパク質または外来UBIThエピトープへ連結することにより提供されない限り、モルモットにおいて乏しい免疫原であることが示されているので(Wang et al., 2007)、MAS−1中で製剤化されたAβ1−15ペプチドについても、おそらく同様である。同様に、Aβ1−40およびAβ1−42由来の7から15アミノ酸残基を含むAβペプチドも、IFA、MAS−1またはアラムアジュバント中でそれら自体が製剤化される場合、免疫原性が乏しいことが予測される。
【0041】
短い非免疫原性ペプチドの免疫原性は、一般的に、Thエピトープ、例えば、合成PADRE構築物(Agadjanyan et al., 2005)、または免疫原性担体タンパク質、例えば、変異コレラB毒素(CBT)、KLH、変異ジフテリア毒素(CRM)、またはトキソイド、例えば、破傷風菌トキソイド(TT)もしくはジフテリアトキソイド(DT)(これらすべては、IgG産生および免疫記憶に対するT細胞の助けを提供するためにThエピトープを含む)へ連結することにより増強され得る。小児および成人ワクチンにおける使用のために長く承認されており、GMP対応成分として利用することができるため、DTが該ADワクチンにおける免疫原性担体として選択される。1つの態様において、Aβペプチドエピトープは、二官能性架橋剤を使用して、末端システイン残基を有する7残基スペーサー配列を介し、そのスルフヒドリル部分を介してDTと複合体化する。他の態様において、7残基スペーサー配列を有さないが末端システイン残基で終わるAβエピトープは、そのスルフヒドリル部分を介して該免疫原性担体と複合体化し得る。当分野で周知の他の連結構造、例えば、カルボジイミド構造もまた、Aβエピトープと該免疫原性担体の複合体化を達成するために使用され得る。
【0042】
Aβ15DT複合体の合成:結果は、免疫原性がペプチド−対−担体の代替比率により影響され得ることを示す。Aβ15ペプチド配列および複合体化方法は以下に提供されている。要約すると、22残基Aβ15−merペプチドは固相化学により合成される。Aβ15DT複合体は2つのAβ15ペプチド:DTモル代替比率にて製造される。SDS−PAGEにおける移動度により決定される2つのAβ15DT複合体の代替比率は、7.6(#1)および21.1(#2)である(表1参照)。免疫原性担体1モルあたり約5モルから約30モルのペプチドの複合比率が該組成物に有用である。
【0043】
表1:SDS−PAGEによるAβ15DT複合体の特性化
【表1】

【0044】
MAS−1におけるAβ15DTの免疫能:若年DBA2(6週齢;n=4/グループ)および高齢C57BL/6(12月齢;n=2/グループ)メスマウスの両方を、0、14、42および84日目にs.c.にて、0.1mLのMAS−1中の100μgの用量の複合体で免疫化する。血液サンプルを免疫前および28、56および98日目に採取し、Aβ抗体力価を標的抗原としてAβ1−42ペプチドを使用するELISAによりアッセイする。結果は図4に示されている。
【0045】
図4は、MAS−1中で製剤化された、それぞれ7および22のペプチド−対−担体の代替比率におけるAβ15(7)DTおよびAβ15(22)DT複合体のマウスにおける免疫能を示す。Aβ15DT複合体を、7および22モル/モルのペプチド−対−DTの代替比率にて合成する。複合体およびAβ1−42をMAS−1アジュバント中で製剤化し、6週齢のDBA(n=4/グループ)および12月齢のC57BL/6(n=2/グループ)マウスにおける免疫能に関して、100μg/0.1mLのs.c投与にて0、14、42および84日目に注射して評価する。血漿Aβ抗体をAβ1−40に対するELISAにより測定する。
【0046】
MAS−1中のAβ15(7)DTおよびAβ15(22)DT複合体の両方は、ELISAによる測定されるとおり、Aβに対する迅速かつ強力な抗体反応を誘導した。抗−Aβ力価は、MAS−1中のAβ15(22)DTでのさらなる免疫化後、上がり続けた。抗−Aβ特異的抗体の誘導は、MAS−1中のAβ1−42で見られるものより有意に優れており、それは、図1に示されているとおり、DBA系統マウスにおいて28日目に約50μg/mLである。28日目に、両方のAβ15DT複合体は、DBAマウスにおいてMAS−1中のAβ1−42で生じたものより5倍以上高い抗−Aβ抗体レベルを生じる。これらの結果は、MAS−1中のAβ15DTがAβペプチドに対して一般的に乏しい免疫反応である高齢のC57BL/6マウスにおいてでさえ非常に有効な免疫原であることを確認し、驚くべきことに、エピトープ−対−免疫原性担体のモル代替比率が増加すると免疫反応の効力が増加したことを示す。
【0047】
結果は、免疫原性がペプチド−対−担体の代替比率、用量および投与レジメンにより影響され得ることを示す。MAS−1中の複合体は両方とも主にTh−2抗体アイソタイプを誘導し(図5)、これはAβ1−42のN−末端領域を認識し(図6)、パラフィン−包埋したヒトAD脳組織切片におけるアミロイドプラークに結合する(図7)。
【0048】
図6は、MAS−1中のAβ1−42、Aβ15(7)DTおよびAβ15(22)DTにより誘導される抗−Aβ特異性のエピトープマッピングを示す。エピトープマッピングを、Aβ1−40コーティングAgウェルおよびマウスAb結合のインヒビターとしてAβペプチドフラグメントを使用する阻害ELISAにより実施した。同様のAβアイソタイプおよび特異性結果がDBAマウスにて得られる。
【0049】
図3は、MAS−1中で製剤化されたそれぞれ7および22のペプチド−対−担体の代替比率におけるAβ15(7)DTおよびAβ15(22)DT複合体のマウスにおける免疫能を示す。DA(6週齢;n=4/グループ)および高齢C57BL/6マウス(12月齢;n=2/グループ)メスマウスに0および14日目にs.c.にて、0.1mLのMAS−1中の100μgの各複合体を投与した。血液サンプルを免疫前および28日目に採取し、Aβ抗体力価をELISAによりアッセイする。
【0050】
MAS−1中のおけるAβ15(7)DTおよびAβ15(22)DTの0.4:1 w/w混合物は、14月齢の3×Tg−ADマウスにおいて有意な抗−Aβ Ab反応を誘導した(図8)。これらの動物を0.1mLのMAS−1中の100ugのAβ15DTで0、2、6および12週目に4回s.c.にて免疫化し、16週目(すなわち、18月齢)に安楽死させる。免疫化された動物由来の脾細胞は特異的にAβ15DTに応答したが、全長Aβ1−40/42に応答せず、天然Aβに対する免疫寛容が保存されていたことを証明する(図9)。Aβ15DT処置およびMAS−1プラセボグループのそれぞれの動物由来の脳切片(6/マウス)は、MAS−1プラセボと比較してMAS−1中のAβ15DTのアミロイドプラーク負荷において74%減少(p 0.0543 片側ステューデントt検定)を示した。3×Tg−ADマウスにおける14月齢に海馬におけるアミロイドプラーク沈着が立証される。ワクチン接種したグループにおける有意なアミロイドプラークの実質的な非存在は、MAS−1中のAβ15DTでの免疫化がアミロイドプラークの減少を引き起こし、単にアミロイドプラークのさらなる増大を防止するのではなかったことを証明し、アルツハイマー病を予防および処置するためのAβ15DT/MAS−1免疫化に関する潜在的有用性を示唆する。
【0051】
図8は3×Tg−ADマウス中の抗−Aβレベルを描写している。3×Tg−ADマウスの2つの年齢適合グループ(14月齢;n=4/グループ;3M、1F)を、0、2、6、12および16週目にMAS−1中におけるAβ15(7)DTおよびAβ15(22)DT複合体の0.4:1 w/w 混合物(100μg/0.1mL)またはMAS−1プラセボでs.c.にて免疫化する。17週の免疫療法後、動物を安楽死させる(アクティブ18.5およびプラセボ18.3月齢、各々)。抗−Aβ1−40抗体は、0(免疫前)、4、8および16週目に回収された血液サンプルにおいてELISAにより測定される。
【0052】
これらの動物を0.1mLのMAS−1中の100ugのAβ15DTを0、2、6および12週目に4回s.c.にて免疫化し、16週目(すなわち、18月齢)に安楽死させる。免疫化された動物由来の脾細胞は特異的にAβ15DTに応答したが、全長Aβ1−40/42に応答せず、天然Aβに対する免疫寛容が保存されていることを証明する(図9)。
【0053】
図9は脾細胞刺激アッセイを示す。3×Tg−ADマウスの2つの年齢適合グループ(14月齢;n=4/グループ;3M、1F)を、0、2、6、12および16週目にMAS−1中におけるAβ15(7)DTおよびAβ15(22)DT複合体の0.4:1 w/w 混合物(100μg/0.1mL)またはMAS−1プラセボでs.c.にて免疫化する。17週の免疫療法後、動物を安楽死させる(アクティブ18.5およびプラセボ18.3月齢、各々)。
【0054】
Aβ15DT処置およびMAS−1プラセボグループのそれぞれの動物由来の脳切片(6/マウス)は、MAS−1プラセボと比較してMAS−1中のAβ15DTのアミロイドプラーク負荷において74%減少(p 0.0543 片側ステューデントt検定)を示した。3×Tg−ADマウスにおける14月齢に海馬におけるアミロイドプラーク沈着が立証される。ワクチン接種したグループにおける有意なアミロイドプラークの実質的な非存在は、MAS−1中のAβ15DTでの免疫化がアミロイドプラークの減少を引き起こし、単にアミロイドプラークのさらなる増大を防止するのではなかったことを証明し、アルツハイマー病を予防および処置するためのAβ15DT/MAS−1免疫化に関する潜在的有用性を示唆する。
【0055】
免疫原性および有効性は、種々の因子、例えば、ペプチド−対−担体の代替比率、アジュバント、油中水型エマルジョンの製剤化、用量および投与レジメンにより影響され得る。これは、これらの因子がADワクチン有効性を最適化するために評価されなければならないことを示す。
【0056】
図10は、Aβプラークに対して染色されたそれぞれの3×Tg−ADマウス由来の脳切片が、MAS−1中のAβ15DT複合体で免疫化された動物において海馬プラーク負荷の有意な減少を示すが、MAS−1プラセボで免疫化された動物では示さないことを描写している。
【0057】
発明者らの結果は、免疫原性および有効性が種々の因子、例えば、ペプチド−対−担体の代替比率、アジュバント、油中水型エマルジョンの製剤化、用量および投与レジメンにより影響され得ることを示す。これは、これらの因子がADワクチン有効性を最適化するために評価されなければならないことを示す。
【0058】
油中水型エマルジョンアジュバント/送達系
多数の因子、例えば、抗原、アジュバントおよび送達系は、特異的細胞性および体液性免疫反応を引き起こすために修飾され得る。データは、油中水型アジュバント送達系、例えば、MAS−1中で製剤化されたAβ1−42が、主にTh2バイアス(IgG1およびIgG2bアイソタイプ)にて未処理マウスにおいて有意な体液性抗体反応を誘導することを示す(図1および2)。
【0059】
しかしながら、短Aβフラグメントは、潜在的にAβ−特異的細胞性免疫反応を回避するが、免疫原性が乏しい。ペプチドを包含する小分子と免疫原性担体、例えば、DTの複合体化は、免疫原性を増強する確立された手段であるが、DT複合体化自己エピトープは、治療的に有効であるために、アラムアジュバントよりも優れた効力を有するTh−2バイアスアジュバントを必要とし得る。油中水型アジュバントエマルジョン、例えば、MAS−1は、アルツハイマー病のためのAβ15DTワクチンを開発するための従来の試みの有効性を限定させているTh1バイアス細胞介在炎症性副作用を回避する可能性を有する一方で、Aβ15DT複合体化自己抗原に対する強力なTh2バイアス免疫反応を誘導し得る。
【0060】
1つの例において、該組成物における使用のために適当な油アジュバントビヒクルの成分は、第1の糖エステル乳化剤、例えば、マンニドモノオレエート(MMO)またはソルビタンオレイン酸モノエステル、第2の乳化剤、例えば、水素化ヒマシ油、例えば、ポリオキシル−40−水素化ヒマシ油(POCO)、および天然かつ代謝可能な油、好ましくはスクアレンおよびスクアランを含む。代謝可能な油は、一般的に、該油の約85重量%から約90重量%を構成し、第1の糖エステル乳化剤は該油の約9重量%から約12重量%を構成し、第2の乳化剤は該油の約0.5重量%から約0.7重量%を構成する。1つの例において、代謝可能な油成分は、一般的に、50%スクアレン、50重量%スクアランであるが、これらの成分の濃度は該成分内で変化し得る。該組成物における使用のための適当なアジュバントビヒクルは、植物源由来の天然かつ代謝可能な成分から成り、Mercia Pharma, Inc, Scarsdale, NY(www.merciapharma.com)から市販されている、MAS−1である。
【0061】
出発物質を包含する油ビヒクルの成分は、動物または植物源のいずれか、またはそれらの組合せ由来であってよく、すべて複数の提供元から市販されている。MMOに加えて、第1の乳化剤として適当な糖エステルは、ポリソルベート、特にソルビタンオレイン酸モノエステルを含む。第2の乳化剤としてPOCOに加えて、ソルビタンエステル、例えば、ソルビタンモノパルミテート、ポリソルベート、例えば、乳化剤のTweenファミリーならびにHypermer B239およびB246が有用であり得る。
【0062】
1つの例において、開示されるナノ粒子ワクチンエマルジョンは、一般的に、約65重量%から約75重量%のアジュバント油ビヒクル、および約25重量%から約35重量%のタンパク質抗原を含む水相を含む。該組成物のある特定の態様において、水相はワクチンエマルジョンの約27重量%から約33重量%を構成する。
【0063】
該組成物において使用される油中水型ワクチンエマルジョンは、1つの例において、抗原を含有するエマルジョンにおける水球が、約100ナノメートルから約1ミクロンの範囲における中央直径、および一般的に約300ナノメートルの平均直径で、1ミクロン未満の中央直径を有するように製剤化され得る。1つの例において、アジュバントの油成分は、周知のフロイントアジュバント(不完全および完全製剤両方)の油相を含む鉱油とは異なって、好ましくは代謝可能な天然生物的油である。
【0064】
記載されているワクチンエマルジョンは、高濃度の抗原(少なくとも10mg/mLまで)を許容し得るものであり、一般的に使用されるタンパク質可溶化剤(例えば、4Mのウレア、30%のDMSO)と適合性である。IFAエマルジョンと異なって、1つの例において、それらは広範なpH(3−8)を有する水相と適合性であり、広範な塩濃度にわたって影響されない。IFAエマルジョン(>1,500cP)と異なって、該ワクチンエマルジョンは、1つの例において、流動性エマルジョンとして低粘度(<100cP)を有し、高精度低容量(0.1mL)投与を可能にする。記載されているワクチンエマルジョンの物理化学的特性は、1つの例において、1.0μm以下の球サイズ直径(D(v,0.5))の中央分布を有し、水相中の高濃度のタンパク質により影響されない。
【0065】
免疫原性組成物を評価するための動物モデル
遺伝子標的化トランスジェニックマウスはAD病理学の種々の局面のモデリングのための重要なツールであるが、マウスモデルは神経病理学を完全には再現しない。3×Tg−ADマウスは、空間的かつ文脈的学習および記憶パラダイムの両方における認知表現型における年齢依存性の減少と共に、関連脳領域においてAβペプチドから構成されるプラークおよび過リン酸化タウタンパク質から構成される神経原線維変化の両方を生じる。したがって、それらはAD治療の可能性を評価するための重要なモデルを提供する(Oddo et al., 2003)。
【0066】
ペプチド免疫原Aβ1−42は、前臨床および臨床試験において治療抗−Aβ抗体を誘導することが示されており、MAS−1中のAβ1−42は、脳組織スライスにおいてアミロイドプラークを認識するTh2バイアス抗−Aβ抗体を誘導する。
【0067】
3×Tg−ADトリプルトランスジェニックマウスは、ヒト変異APP、タウおよびプレセニリン1を発現する。これらのマウスはC57BL/6/129Sバックグラウンド起源であったが、C57BL/6マウスにおける多数の産生のために戻し交雑されており、ほんの少し129遺伝子型を維持している。それらはホモ接合体であり、繁殖させることが容易であり、ヒトAD脳における病理学的発達が非常に似ている時間および地域特異的プロファイルを有するAβおよびタウ病理学が革新的に発達している。Aβ沈着は、タウ病理学前にこれらのマウスにおいて発生し、これはアミロイドカスケード仮説と一致し、このことは、Aβが誘導物質であり、タウ病理学がAβ病理学の下流結果であることを規定する(Hardy and Selkoe, 2002)。
【0068】
記載されている免疫治療組成物をさらに評価するために、ペプチド−対−担体代替比率に関して最適化されたAβ1−15:DTにて、投与量決定投与レジメン試験から決定された最適用量にて、s.c.注射により、6月齢(若年/予防)および14月齢(高齢/処置)の3×Tg−ADマウスを免疫化してもよい。マウスは、予防試験において9月間および処置試験において5−6月間、免疫化され得る。予防および処置試験両方において、MAS−1中のAβ1−42をワクチン接種したマウスグループは、ポシティブ対照として包含され、ネガティブ対照グループは、選択されたアジュバントまたはW/Oプラセボアジュバント中のDTで免疫化した。試験の行動的成分における変動性のため、16匹の3×Tg−ADマウスのグループサイズが必要である。
【0069】
1つの例において、Morris Water Mazeを使用する行動的試験は、それぞれの試験の最後に実施すべきである。空間的学習は、プラットフォームへの待ち時間および距離により測定され得、記憶維持は、プローブ試験により測定され得るが、行動遂行とアミロイドプラーク沈着との間の相互関係は3×Tg−ADマウスにおいてよく確立されている。
【0070】
MAS−1中のAβ15DTでの3×Tg−ADマウスの免疫化は、Th−1優位の免疫および脳における細胞介在炎症性変化を誘導する可能性を回避する、強力なTh−2優位の体液性免疫反応を誘導する。本発明の組成物によるAβ特異的制御性T細胞の誘導は、細胞介在炎症性副作用の可能性をさらに減少させる。産生された抗体は、マウスにおける認知機能における改善と相関する脳におけるAβの減少を引き起こす。高齢3×Tg−ADマウスが一般的にあまり強力ではない免疫反応を示すことがよく認識されているので、脳Aβが蓄積された後(14月)に、マウスを免疫化することは、部分的にプラーク負荷を低下させるだけであることが予期されたが、実際には、微小出血に関する証拠なしに、強力なTh−2優位の体液性免疫反応および同時に海馬プラーク負荷における統計的に有意な減少が見られる。
【0071】
AN1792臨床試験由来の3つの剖検例において、実質のAβクリアランスにもかかわらず、広範囲の血管Aβは維持され、これらの1つは多数の脳微小出血を有した(Nicoll et al., 2003; Ferrer et al., 2004; Maliash et al., 2005)。免疫治療組成物の評価において、脳微小出血の発生はAβモノクローナル抗体におけるマウスの受動免疫後にも観察されたので、脳微小出血の発生に細心の注意を払うべきである(Pfeifer et al., 2002, Wilcock et al., 2004, Racke et al., 2005; Lee et al., 2005)。これらの微小出血は、高用量の高親和性mAbによるAβの実質の沈着およびその後の血管沈着の過度に迅速なクリアランスにより、ならびに、おそらく微小血管系におけるAβmAbとAβの結合により引き起こされると考えられている。
【0072】
一般的に、CFA/IFA中で製剤化されたAβ1−42でのAPP+PS1トランスジェニックマウスの能動免疫化が微小出血における増加と関連していたことを示す最近の報告(Wilcock et al., 2007)を除いて、マウスにおける能動免疫化は脳微小出血の発生と関連していない。Asuni et al., (2006)による最近の研究によって、Th2反応に好ましいアジュバントであるアラム中のAβ誘導体でのTg2576マウスのワクチン接種が、微小出血に関する証拠なしにAβ負荷を減少させたことが示された。したがって、QS21ベースアジュバント(AN1792)中のAβ1−42、またはAβに対する強力な免疫反応を促進するために使用される他のTh−1バイアスアジュバント製剤の場合と異なって、本明細書に記載の3×Tg−ADマウスにおいてMAS−1中のAβ1−42またはMAS−1中のAβ15DTにて観察される結果は、これらの組成物がアルツハイマー病の早期の予防および処置のための治療ワクチンとして適当であり、Th−1介在細胞毒性または内因性標的に対する免疫自己寛容の破壊の可能性を回避しつつ、アミロイドプラーク沈着を減少または予防し、過リン酸化タウタンパク質のその後の発生を減少させる可能性を有する、非常に強力なTh−2優位の免疫反応を誘導することが予期されることを予測している。
【0073】
物質および方法
Aβ1−42ペプチド:42残基ペプチドは固相合成を使用して製造され得る。このペプチドの配列を以下に示す:DAEFRHDSGY10EVHHQ15KLVFF20AEDVG25SNKGA30IIGLM35VGGVV40IA42(配列番号:1)。
【0074】
Aβペプチドエピトープ:7アミノ酸残基ペプチドスペーサー(XXXXXXC−C00H)を有する22残基の15−merAβペプチド免疫模倣性ペプチドは、固相合成を使用して製造され得る。15−merAβ1−15、Aβ16−30、Aβ21−35およびAβ31−42の配列を以下に示す:
【0075】
【化1】

【0076】
種々のスペーサーペプチドは当業者に既知であり、これらのおよび他のペプチド配列は本発明において使用され得る。米国特許第5,023,077号、第5,468,494号および第5,688,506号(これらの記載を出典明示により本明細書に包含させる)は、記載されている組成物において使用され得る有用なペプチドスペーサー配列を記載している。
【0077】
AβDT複合体:ペプチドと免疫原性担体タンパク質を複合体化する方法は当業者に周知である。例えば、米国特許第5,468,494号、第5,688,506号および第6,359,116号(これらの記載を出典明示により本明細書に包含させる)を参照のこと。
【0078】
Aβ1−15ペプチド合成およびAβ15DT複合体化:Aβ残基1−15を含む22merペプチドは、マレイミド−NHSエステル二官能性架橋剤を使用してDTへ連結され得る。該ペプチドは、そのC−末端CySH残基を介して、当業者に周知の二官能性架橋剤、例えば、イプシロン−マレイミドカプロン酸N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(eMCS)架橋剤および関連する二官能性アナログ(Sulfo−eMCS)によりDT担体へ連結され得る。高い特異性であるため、該連結メカニズムが選択されている。最初にDTは、DT上の遊離アミノ基に対するリンカーのスクシンイミジル部分の反応を可能にするpH条件下でeMCSで活性化され、マレイミド−活性化DT(MDT)を生産する。完了後、未反応eMCSおよびその分解産物を除去し、活性化バッファーを、該ペプチドの遊離スルフヒドリルとMDTのマレイミド基との反応に最適な連結バッファーと交換して、該ペプチドと該担体を複合体化する。次に該複合体を精製し、分析する。適当なeMCS:DT比および活性化/連結条件の選択は、実験室および製造バッチスケールの両方にて、一貫したペプチド:担体代替比率をもたらす。それぞれの複合体は分析方法により特徴付けられ得る。該ペプチド:担体のモル代替比率は、定量アミノ酸分析および/またはSDS−PAGEにおける移動度により測定され得る。複合体純度は、SEC HPLCおよびSDS PAGEにより評価され得る。複合体同一性は、SDS PAGEのゲルのサンプルをさらに利用するウエスタンブロットおよびアミノ酸分析により試験され得る。
【0079】
Aβ1−15BSA複合体:スペーサー配列を有さないがC−末端Cys残基を有するAβ1−15エピトープは、ペプチド特異的抗体の測定のためのELISAにおいて標的抗原としての使用のために、BSAと複合体化される。あるいは、Aβ1−15ペプチド、またはN末端から出発して、42残基にわたる残基を含むAβのより長いペプチドは、ELISAにおける標的抗原として使用され得る。
【0080】
動物免疫化:マウスに、周知の方法論により、100μlの免疫原を襟首または後肢側面に皮下的に(s.c.)または腹腔内に(i.p.)注射する。
【0081】
血液および組織回収:マウスを免疫化前および免疫中に尾静脈から出血させ、血清を準備し、−20℃で凍結させる。多量の血清の回収のため、最終的にマウスを実験の最後に心穿刺により出血させ、血清を上記の通り準備し、実験のための参照基準として使用する。3×Tg−ADマウスをCO吸入により安楽死させ、塩水で心膜内かん流する。脳を取り出し、中線に沿って半分に分ける。一方の半分の脳を、液体窒素にてスナップ状に凍結させ、生化学的試験(例えば、Aβ ELISA)のために−80℃にて保存する。他方の半分の脳を、RTにて2時間PBS中の4%のパラホルムアルデヒドで滴下固定し、4℃にて10−30%のスクロースにてスクロース保護し(sucrose protected)、そして低温切開片のためにOCT(Tissue Tek)中に包埋するか、または、RTにて2時間10%の中性緩衝ホルマリンで滴下固定し、TBSにて洗浄し、脱水し、脂質を除去し(Histoclear)、そしてパラフィン矢状切片のためにパラフィン中に包埋する。6−10ミクロン矢状低温切開片および12−ミクロンパラフィン連続切片をカットし、染色のために保存する。増殖およびサイトカイン分析のための脾臓組織を無菌条件下で取り出す。
【0082】
マウス脾細胞増殖アッセイ:脾細胞をLympholyte−M(Cederlane, Hornby, ON, Mayada)における単一細胞懸濁液の遠心分離により調製する。2×10/mlの濃度における脾細胞を10%のFBSを補ったRPMI中で培養し、96ウェルプレート中においてAβ1−15、Aβ1−42およびDTおよびAβ15DT(0−50μg/ml)で刺激する。細胞の生存能力を保証するために、Conmayavalin Aをポシティブ対照として使用する。培養上清を48時間でサイトカインELISAのために回収する。培養72時間後、1μCi[H]チミジンをそれぞれのウェルに加え、細胞をさらに18時間培養する。プレートウォッシャーを使用して細胞を回収し、液体シンチレーションカウンターを使用して放射能を測定する。以下の式:ペプチド抗原がある場合のカウント毎分(CPM)/抗原無しにおけるCPMを使用して、刺激指数(SI)を計算する。
【0083】
ELISAによるマウス血清における抗Aβ抗体の測定:プレートを正常マウスIgG(標準曲線)および2μg/mlのAβ1−42ペプチドでコーティングし、一晩4℃でインキュベートする。次にプレートを、2時間RTで5%のヤギ血清、1%のBSAおよび0.005%のTween−20でブロックする。洗浄後、マウス血清の希釈物をウェルに加え、2時間RTでインキュベートする。HRPと複合体化したヤギ抗−マウス(Kirkegaard and Perry Laboratory, Gaithersburg, MD)を二次抗体として使用し、1時間RTでプレート上でインキュベートする。発色基質である3,3’、5.5’−テトラメチルベンジジン(TMB)の添加30分後、反応を0.5MのHClで停止させ、プレートをプレートリーダーにて450nmで読む。アイソタイプ分析:定量アイソタイプ特異的ELISAは、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgAおよびIgMに対するアイソタイプ特異的二次抗体(Zymed, San Francisco, CA)を用いて行い、上記標準ELISAに対して適当なアイソタイプ(Southern Biotechnology, AL)の標準曲線をあてはめる。
【0084】
ヒトおよびマウス脳におけるAβプラークの検出:免疫化および対照マウス由来の血清を1:100から1:10,000に連続希釈し、プラークおよび血管アミロイドの免疫組織化学的検出のために、ヒトADおよびJ20APPトランスジェニックマウス脳切片に適用する。ビオチン化ヤギ抗−マウス二次抗体をABC ELITE HRP標準(AおよびB)と共に使用し、視覚化のためにDABと反応させる。隣接切片をAβ抗体、例えば、R1282(一般的なAβポリクローナル、Selkoe lab)または6E10(モノクローナルAβ1−17、Covance Research Products, Dedham, MA)で標識する。
【0085】
Aβタンパク質ELISA:脳における可溶性および不溶性Aβ40およびAβ42レベルを、製造業者の指示(Covance Research Products, Inc, Berkeley, CA.)にしたがってELISAキット(Signet)により測定する。スナップ状に凍結された全脳半球を、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche, Indianapolis, IN)を含む4容量のPBS中でホモジェナイズする。ホモジネートを30分間4℃で100×gにて回転させる。上清を、ELISAにより、可溶性Aβレベルに関して分析する。PBSペレットを、10容量のグアニジンバッファー(5Mのグアニジン HCL、50mMのTris pH8.0)中で再懸濁する。サンプルを4時間RTで混合する。次に脳ホモジネートをカゼインバッファー(0.25%のカゼイン、5mMのEDTA、PBS中のプロテアーゼ阻害剤カクテル)にて1:10に希釈し、混合し、16,000×gで20分間回転させる。さらなる希釈物を0.1%のBSAを有する0.5Mのグアニジンバッファーにて作り、不溶性AβレベルをELISAにより測定する。
【0086】
免疫組織化学、組織学および画像分析:Vector LaboratoriesのELITE ABC方法(Burlingame, CA)および色素(chromagen)としてDABを使用して、免疫組織化学を行う。簡潔に言えば、パラフィン切片をHistoclear(National Diagnostics, Atlanta, GA)にて脱パラフィン処理し、エタノール−水勾配にて再水和する。低温切開片を解凍し、15分空気乾燥させ、穏やかにTBSで洗浄する。この時点から、染色方法はパラフィン切片および低温切開片両方に関して同じである。内因性メタノールをクエンチし、切片をTBS中の10%の血清にてブロックし、切片を4℃で一晩、一次抗体と共にインキュベートする。
【0087】
次に、切片をTBSで洗浄し、30分間RTでビオチン化二次抗体(Vector Labs)とインキュベートし、TBSで洗浄し、30分間RTでアビジン−HRP複合体(Vector Labs)とインキュベートし、次にDABにて発現させる。
【0088】
切片を、ヘマトキシリン(画像分析のための場合を除いて)で対比染色し、脱水し、洗浄し、Permount(Fisher)でカバースリップ(coverslipped)する。二重免疫蛍光を、2%の血清でブロックし、2つの一次抗体(MoAbおよびPAb)と混合して、一晩4℃で切片に適用し、0.1MのTrisで濯ぎ、Tris中の2%の血清でブロックし、2つの蛍光標識二次抗体と混合し、2時間RTで切片に適用し、Trisで2回濯ぎ、10分間暗下で70%のエタノール中の0.3%のSudan Black B中で切片をインキュベートし、TBSで洗浄し、水で洗浄し、暗下で1時間ホルマリンで固定し、水で洗浄し、Hydromount非蛍光性水性媒体(National Diagnostics, Atlanta)でスライドをカバースリップすることにより行う。
【0089】
乾燥を防ぐために、カバースリップを透明なマニキュア液で密閉する。IHCおよびIFに対するネガティブ対照は、一次抗体の省略または一次抗体としてマウスIgGを使用するものを含んだ。Aβの免疫組織学的検出のための一次抗体および炎症のマーカーを以下に記す。
【0090】
免疫組織化学のための一次抗体:Aβ(R1282, Dr. Selkoe, Brigham and Women’s Hospital, Boston);Aβ40、Aβ42および6E10(BioSource and Covance Research Products)、グリア細胞繊維性酸性タンパク質(GFAP)Mab(Dako, Denmark)、ミクログリア/マクロファージMab[CD45(Serotec)、CD11b/Mac−1(Serotec)、MHC II(PharMingen)、F4/80(Serotec)、FcgR II−CD16およびII−CD32(PharMingen)]、B細胞(CD40, Novacastra Laboratories, UK)、T細胞(CD5, CD3; Serotec)、APP Mab(IG6, Covance Research Products)、ホスホ−タウ(AT8, Innogenetics)、マウスIg(ヤギ抗−マウスIgG)。
【0091】
組織学的染色:脳切片における原線維Aβタンパク質を検出するためのチオフラビンS染色は、スライドを10分間チオフラビンSの1%水溶液とインキュベートし、次に80および95%のエタノール、ならびに蒸留水にて濯ぐことにより行う。微小出血を検出するためのヘモシデリン染色は、水和切片を15分間2%の塩酸中の2%のフェロシアン化物とインキュベートすることにより行う。脳、肺、心臓、肝臓および脾臓切片における単核細胞浸潤を評価するために、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色を使用する。
【0092】
定量画像分析:Aβプラーク負荷およびグリオーシスのコンピューター支援定量化を、以前に記載された(Weiner et al., 2000)とおりに、IP Lab Spectrum 7.1 Image Analyzer(Fairfax, VA)を使用して行う。免疫標識化切片の 4対8 矢状画像を、Leicaモーター駆動ステージおよびSPOTカメラを備えたNikon顕微鏡を使用して、それぞれのマウス脳において等距離レベル(〜100μm離れて)にて撮る。1つの実験に関する全ての画像を、画像分析を通して一定に保持されている閾値で同じ日に撮る。免疫反応により占められるパーセントエリア(上記閾値)を計算する。
【0093】
提供されている例の他の組合せおよび変化は、本記載に基づいて明らかになるであろう。記載されている態様の多数の可能な組合せおよび変化の全てについて具体的な例を提供することは不可能であるが、このような組合せおよび変化は、結局、特許請求の範囲である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Th2バイアス(biased)アジュバントを含む油中水型エマルジョン中で製剤化されたヒトアミロイドベータタンパク質由来のペプチドを含む、アルツハイマー病の処置のための免疫治療組成物であって、油中水型エマルジョンが、ペプチドを有するエマルジョンにおける水球が約100ナノメートルから約1ミクロンの中央直径を有するように製剤化されている、免疫治療組成物。
【請求項2】
平均水球直径が約300ナノメートルである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ペプチドがAβ残基1−42またはAβ残基1−15である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
ペプチドが免疫原性担体タンパク質と複合体化している免疫原性複合体を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
油中水型エマルジョンがMAS−1を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
免疫原性担体タンパク質がDT、TTまたはKLHである、請求項4に記載の組成物。
【請求項7】
免疫原性複合体が免疫原性担体タンパク質DTを含み、そしてAβペプチド1−15残基−対−担体の複合比率が1モルの担体あたり約5から約30モルのペプチドである、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
7:1または22:1の複合比率における組成物を含むか、または約5:1から約25:1の範囲内の複合比率における複合体の組合せである免疫原性複合体を含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
請求項1、2、3、4、5、6、7または8に記載の免疫治療組成物を患者に投与することを含む、ヒト患者におけるアルツハイマー病を処置または予防する方法。

【公表番号】特表2011−530505(P2011−530505A)
【公表日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−522064(P2011−522064)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際出願番号】PCT/US2009/004504
【国際公開番号】WO2010/016912
【国際公開日】平成22年2月11日(2010.2.11)
【出願人】(505444916)マーシア・ファーマ・インコーポレイテッド (3)
【氏名又は名称原語表記】Mercia Pharma, Inc.
【Fターム(参考)】