説明

アルツハイマー病の診断マーカー、アルツハイマー病の予防及び治療薬のスクリーニング方法並びにアルツハイマー病の診断方法

【課題】アルツハイマー病の診断、特に脳内のAβの蓄積が開始される前後の早期段階であっても、その診断を高精度に行うことができ、また、アルツハイマー病の診断を簡便且つ安価に行うことができる新規なアルツハイマー病の診断マーカーを提供する。
【解決手段】アルツハイマー病の診断マーカーは、哺乳類等の動物の血液又は分泌物中のアミノ酸又はアミノ酸代謝物からなるものである。かかる診断マーカーに利用可能な血液又は分泌物としては、血漿、尿等が挙げられ、アミノ酸又はアミノ酸代謝物としては、N,N−ジメチルグリシン、サルコシン、セリン、プロリン、ヒドロキシプロリン、バリン、スレオニン、2−ヒドロキシペンタノエート、2−ヒドロキシ−4−メチルペンタノエート、アラニン、イソロイシン、フェニルアラニン等が挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルツハイマー病の診断マーカー、アルツハイマー病の予防及び治療薬のスクリーニング方法並びにアルツハイマー病の診断方法に関する。詳しくは、アルツハイマー病の診断、特に脳内のAβの蓄積が開始される前後の早期段階であっても、その診断を高精度に行うことができる新規なアルツハイマー病の診断マーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病は、認知機能低下、人格の変化を主な症状とする認知症をきたす神経変性疾患である。アルツハイマー病の臨床症状は、記憶障害、高次脳機能障害(失語、失行、失認、構成失行)等であるが、これらは他の痴呆疾患でも共通して見られることが多く、臨床症状だけでアルツハイマー病と確定診断することは極めて困難である。
【0003】
一方、アルツハイマー病の特徴的な病理組織所見としては、老人斑及び神経原線維変化がある。前者の主構成成分はβシート構造を有するアミロイドβ蛋白(Aβ)であり、後者のそれは過剰リン酸化されたタウ蛋白である。アルツハイマー病においては、上記症状が確認される前から脳内のAβの蓄積等の組織変化が始まることが知られており、脳内のAβをマーカーとして検出することが、アルツハイマー病の診断方法の1つとなる。このような観点から、近年、脳内のAβに選択的に結合する放射性造影剤を用いたポジトロン断層撮影法(PET)若しくはシングルフォトン断層撮影法(SPECT)又は非放射性造影剤を用いた核磁気共鳴イメージング法(MRI)を利用した診断方法(例えば、特許文献1参照)や、Aβ又はその誘導体を認識する複数のモノクローナル抗体を用いたAβの定量方法(例えば、特許文献2参照)等がアルツハイマー病の診断に利用されている。しかしながら、これらはAβがある程度脳内に蓄積してはじめて適用できるものであるので、早期のアルツハイマー病の診断は非常に困難であり、また、高価な装置や試薬を用いて行うものであるので、誰もが気軽にアルツハイマー病の診断を受けることはできなかった。
【0004】
他方、血液中のアミノ酸の濃度を測定し、患者の健康状態、例えば、メタボリックシンドローム、ストレス、肝疾患、癌、大腸癌、内臓脂肪蓄積、乳癌等の状態を評価する方法(例えば、特許文献3〜9参照)が知られているが、アルツハイマー病の診断に関する情報は開示されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−067762号公報
【特許文献2】特開2005−170951号公報
【特許文献3】国際公開第08/015929号パンフレット
【特許文献4】国際公開第08/016101号パンフレット
【特許文献5】国際公開第06/129513号パンフレット
【特許文献6】国際公開第08/075664号パンフレット
【特許文献7】国際公開第08/075663号パンフレット
【特許文献8】国際公開第09/001862号パンフレット
【特許文献9】国際公開第08/075662号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、アルツハイマー病の診断、特に脳内のAβの蓄積が開始される前後の早期段階であっても、その診断を高精度に行うことができる新規なアルツハイマー病の診断マーカーを提供することにある。
【0007】
また、本発明の他の目的は、アルツハイマー病の診断を簡便且つ安価に行うことができるアルツハイマー病の診断マーカーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、下記の手段によって達成される。
【0009】
(1)すなわち、本発明は、動物の血液又は分泌物中のアミノ酸又はアミノ酸代謝物からなる、アルツハイマー病の診断マーカーである。
【0010】
(2)本発明はまた、前記アミノ酸又はアミノ酸代謝物は、N,N−ジメチルグリシン、サルコシン、セリン、プロリン、ヒドロキシプロリン、バリン、スレオニン、2−ヒドロキシペンタノエート、2−ヒドロキシ−4−メチルペンタノエート、アラニン、イソロイシン及びフェニルアラニンからなる群より選択される少なくとも1つである、(1)に記載のアルツハイマー病の診断マーカーである。
【0011】
(3)本発明はまた、前記アミノ酸又はアミノ酸代謝物は、N,N−ジメチルグリシン、サルコシン、セリン、プロリン、ヒドロキシプロリン、バリン、スレオニン、アラニン、イソロイシン及びフェニルアラニンからなる群より選択される少なくとも1つであり、早期アルツハイマー病の診断に用いられることを特徴とする、(1)又は(2)に記載のアルツハイマー病の診断マーカーである。
【0012】
(4)本発明はまた、前記アミノ酸又はアミノ酸代謝物は、2−ヒドロキシペンタノエート又は2−ヒドロキシ−4−メチルペンタノエートであり、後期アルツハイマー病の診断に用いられることを特徴とする、(1)又は(2)に記載のアルツハイマー病の診断マーカーである。
【0013】
(5)本発明はまた、(3)に記載のアルツハイマー病の診断マーカーのうちの少なくとも1つと、(4)に記載のアルツハイマー病の診断マーカーのうちの少なくとも1つと、の組み合わせからなることを特徴とする、(4)に記載のアルツハイマー病の診断マーカーである。
【0014】
(6)本発明はまた、前記血液又は分泌物は、血漿又は尿である、(1)〜(5)の何れか1項に記載のアルツハイマー病の診断マーカーである。
【0015】
(7)本発明はまた、前記動物は、哺乳類である、(1)〜(6)の何れか1項に記載のアルツハイマー病の診断マーカーである。
【0016】
(8)また、本発明は、動物の血液又は分泌物中のアミノ酸又はアミノ酸代謝物の濃度を指標とする、アルツハイマー病の予防及び治療薬のスクリーニング方法である。
【0017】
(9)本発明はまた、前記アミノ酸又はアミノ酸代謝物は、N,N−ジメチルグリシン、サルコシン、セリン、プロリン、ヒドロキシプロリン、バリン、スレオニン、2−ヒドロキシペンタノエート、2−ヒドロキシ−4−メチルペンタノエート、アラニン、イソロイシン及びフェニルアラニンからなる群より選択される少なくとも1つである、(8)に記載のアルツハイマー病の予防及び治療薬のスクリーニング方法である。
【0018】
(10)また、本発明は、動物の血液又は分泌物中のアミノ酸又はアミノ酸代謝物の濃度を指標とする、アルツハイマー病の診断方法である。
【0019】
(11)本発明はまた、前記アミノ酸又はアミノ酸代謝物は、N,N−ジメチルグリシン、サルコシン、セリン、プロリン、ヒドロキシプロリン、バリン、スレオニン、2−ヒドロキシペンタノエート、2−ヒドロキシ−4−メチルペンタノエート、アラニン、イソロイシン及びフェニルアラニンからなる群より選択される少なくとも1つである、(10)に記載のアルツハイマー病の診断方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明のアルツハイマー病の診断マーカーによれば、アルツハイマー病の診断、特に脳内のAβの蓄積が開始される前後の早期段階であっても、その診断を高精度に行うことができる。
【0021】
また、本発明のアルツハイマー病の診断マーカーによれば、アルツハイマー病の診断を簡便且つ安価に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】アルツハイマー病モデルマウスの病理学的性質を示す図である。
【図2】アルツハイマー病モデルマウスの血漿中のアミノ酸及びアミノ酸代謝物を測定した結果を示す図である。
【図3】アルツハイマー病モデルマウスの尿中のアミノ酸及びアミノ酸代謝物を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0024】
本発明のアルツハイマー病の診断マーカーは、動物の血液又は分泌物中のアミノ酸又はアミノ酸代謝物からなるものである。
【0025】
本発明で利用可能な動物としては、トガリネズミ科、モグラ科、ソレノドン科、ニシインドトガリネズミ科等のトガリネズミ目、ハリネズミ科等のハリネズミ目、オオコウモリ科、オナガコウモリ科、サシオコウモリ科、ブタバナコウモリ科、ミゾコウモリ科、アラコウモリ科、キクガシラコウモリ科、カグラコウモリ科、ウオクイコウモリ科、クチビルコウモリ科、チスイコウモリ科、ヘラコウモリ科、アシナガコウモリ科、ツメナシコウモリ科、スイツキコウモリ科、サラモチコウモリ科、ヒナコウモリ科、ツギホコウモリ科、オヒキコウモリ科等のコウモリ目(翼手目)、コビトキツネザル科、イタチキツネザル科、キツネザル科、インドリ科、アイアイ科、ロリス科、ガラゴ科、メガネザル科、オマキザル科、マーモセット科、オナガザル科、テナガザル科、オランウータン科、ヒト科等のサル目(霊長目)、ウサギ科、ナキウサギ科等のウサギ目(兎目、重歯目)、リス科、グンディ科、ヤマネ科、メクラネズミ科、ヨルマウス科、アシナガマウス科、キヌゲネズミ科、ネズミ科、トビネズミ科、ビーバー科、ウロコオリス科、トビウサギ科、ヤマアラシ科、アメリカヤマアラシ科(キノボリヤマアラシ科)、ヨシネズミ科、デバネズミ上科、デバネズミ科、デグー科、アメリカトビネズミ科、カプロミス科、ヌートリア科、アグーチ科(パカ科)、パカラナ科、テンジクネズミ科、カピバラ科、チンチラ科、チンチラネズミ科等のネズミ目(齧歯目)、ネコ科、マングース科、ジャコウネコ科、ハイエナ科、キノボリジャコウネコ科、イヌ科、レッサーパンダ科、アライグマ科、イタチ科、スカンク科、クマ科、アザラシ科、アシカ科等のネコ目(食肉目)、サイ科、ウマ科、バク科等のウマ目(奇蹄目)、ラクダ科、イノシシ科、ペッカリー科、マメジカ科、ジャコウジカ科、シカ科、キリン科、プロングホーン科、ウシ科、カバ科、マッコウクジラ科、コマッコウ科、アカボウクジラ科、インドカワイルカ科、ヨウスコウカワイルカ科、アマゾンカワイルカ科、ラプラタカワイルカ科、マイルカ科、ネズミイルカ科、イッカク科、セミクジラ科、コセミクジラ科、コククジラ科、ナガスクジラ科等のクジラ偶蹄目(鯨偶蹄目)、ジュゴン科、マナティー科等のジュゴン目(海牛目)等の哺乳類等が挙げられる。
【0026】
本発明で利用可能な血液は、血液中に含まれる血漿や血清等の成分も含まれるものであり、本発明で利用可能な分泌物としては、尿、唾液、涙液等が挙げられ、これらの中では、血漿や尿等が好適に利用される。
【0027】
本発明で利用可能なアミノ酸としては、セリン、バリン、スレオニン、アラニン、イソロイシン、フェニルアラニン等が挙げられ、本発明で利用可能なアミノ酸代謝物としては、N,N−ジメチルグリシン、サルコシン、プロリン、ヒドロキシプロリン、2−ヒドロキシペンタノエート、2−ヒドロキシ−4−メチルペンタノエート等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を組み合わせて利用することができる。これらのうち、N,N−ジメチルグリシン、サルコシン、セリン、プロリン、ヒドロキシプロリン、バリン、スレオニン、アラニン、イソロイシン、フェニルアラニン等のアミノ酸又はアミノ酸代謝物は、早期アルツハイマー病の診断マーカー(以下、「早期診断マーカー」という)として利用することができ、これらの中では、特にN,N−ジメチルグリシンが好適に利用される。また、2−ヒドロキシペンタノエート、2−ヒドロキシ−4−メチルペンタノエート等のアミノ酸代謝物は、後期アルツハイマー病の診断マーカー(以下、「後期診断マーカー」という)として利用することができ、これらの中では、特に2−ヒドロキシ−4−メチルペンタノエートが好適に利用される。早期診断マーカー及び後期診断マーカーは、何れか単独で利用してもよいが、アルツハイマー病の罹患の可能性、罹患時期、重篤度等の多くの正確な知見を得ることができ、より精度の高い診断を行うことができるので、両者を組み合わせて利用することが特に好ましい。
【0028】
また、本発明のアルツハイマー病の診断マーカーは、アルツハイマー病の診断に用いることができる。即ち、患者又は患畜の血漿から採取した本発明のアルツハイマー病の診断マーカーを、アルツハイマー病の診断に用いる場合は、次の手順により行う。まず、患者等から血液を採取し、採取した血液に抗凝固剤を添加して撹拌した後、所定条件で遠心して血漿を得る。次に、得られた血漿に内部標準物質溶液を加えて撹拌し、更にクロロホルム及びMilliQ水を加えて撹拌して所定条件で遠心分離を行い、上層を限外濾過フィルターで採取して所定条件で遠心濾過し、得られた濾液を遠心濃縮する。次に、得られた濃縮乾固試料を、キャピラリー電気泳動−質量分析装置(CE−TOFMS)の移動時間補正用溶液中に溶解してCE−TOFMSで測定を行い、添加した内部標準物質に対する相対面積(RelArea)で表されたアミノ酸又はアミノ酸代謝物の血漿中濃度を得る。血漿中のアミノ酸又はアミノ酸代謝物の血漿中濃度は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法やHPLCと質量分析装置を組み合わせたLC−MSにより測定することもできる。最後に、得られたアミノ酸又はアミノ酸代謝物の血漿中濃度について、患者と既知のデータとの間で統計解析を行い、その結果からアルツハイマー病の診断を行う。
【0029】
患者等の血液中の血清から採取した本発明のアルツハイマー病の診断マーカーを、アルツハイマー病の診断に用いる場合は、次の手順により行う。まず、患者等から血液を採取し、室温で所定時間放置し凝固させた後、所定条件で遠心して得られた上清(血清)に内部標準物質を添加し、CE−TOFMOS法で測定する。血清中のアミノ酸又はアミノ酸代謝物の血漿中濃度は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法やHPLCと質量分析装置を組み合わせたLC−MSにより測定することもできる。最後に、得られたアミノ酸等の血清中濃度について、アミノ酸等の血漿中濃度の測定方法と同様にして統計解析を行い、その結果からアルツハイマー病の診断を行う。
【0030】
患者等の尿から採取した本発明のアルツハイマー病の診断マーカーを、アルツハイマー病の診断に用いる場合は、次の手順により行う。まず、患者等から尿を採取し、得られた尿と内部標準物質溶液とを混合して希釈したものを限外濾過フィルターで採取し、所定条件で遠心濾過した後にCE−TOFMSで測定を行い、添加した内部標準物質に対する相対面積(RelArea)を更にクレアチニンで除して表されたアミノ酸又はアミノ酸代謝物の尿中濃度を得る。尿中のアミノ酸又はアミノ酸代謝物の血漿中濃度は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法やHPLCと質量分析装置を組み合わせたLC−MSにより測定することもできる。最後に、得られたアミノ酸等の尿中濃度について、アミノ酸等の血漿中濃度の測定方法と同様にして統計解析を行い、その結果からアルツハイマー病の診断を行う。
【0031】
更に、本発明のアルツハイマー病の診断マーカーは、アルツハイマー病の予防及び治療薬のスクリーニングに用いることができる。まず、Tg2576マウス、ApoE KO(−/−)マウス、ネプリライシン KOマウス等のアルツハイマー病病体モデル動物を用い、被験物質の投与群と非投与群を作成する。次に、投与群及び非投与群から血液、尿、唾液、涙液等をそれぞれ採取する。次に、アルツハイマー病の診断方法と同様にして、採取した血液から血漿、血清等を得、又は採取した尿、唾液、涙液等を用いて、アミノ酸等の血漿中、血清中、尿中、唾液中、涙液中等の濃度をそれぞれ測定する。最後に、得られたアミノ酸等の血漿中、血清中、尿中、唾液中、涙液中等の濃度について、投与群と非投与群とを比較して、被験物質のアルツハイマー病の予防及び治療薬に対する有効性を評価する。
【実施例】
【0032】
次に、本発明のアルツハイマー病の診断マーカー、アルツハイマー病の予防及び治療薬のスクリーニング方法並びにアルツハイマー病の診断方法を、実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0033】
[参考例1]
【0034】
アルツハイマー病脳の病理学的特長で原因物質とされるAβの凝集体が加齢に伴い徐々に蓄積する雄性アルツハイマー病モデルマウスTg2576(Taconic社製(米国)「APP MI B6、SJL Hemi」、病理学的性質については図1参照)及びその正常対照マウス(Taconic社製「APP MI B6、SJL Wild Type」)を2ヶ月齢で購入し、国立長寿医療センター研究所の動物飼育施設でSPF条件下に、室温24±2℃、湿度55±10%、12時間の明暗サイクル(明期:8時〜20時、暗期:20時〜8時)で加齢飼育した。水と一般飼料(日本クレア社製「CE−2」)は自由摂取とした。
【0035】
[参考例2]
【0036】
参考例1で得られた4、7、10及び20ヶ月齢のアルツハイマー病モデルマウス並びにその正常対照マウスの下大静脈からペントバルビタール麻酔下で約1mlを採血し、得られた血液にヘパリンナトリウム(抗凝固剤)を10U/mlになるように添加して攪拌した後、4℃、10000g/rpmで10分間遠心して血漿を得た。得られた血漿は、分析に供するまで−80℃で凍結保存した。
【0037】
[参考例3]
【0038】
参考例1で得られた4、7、10及び20ヶ月齢のアルツハイマー病モデルマウス並びにその正常対照マウスをマウス用のステンレス製代謝ケージ(松浦製作所製)に1匹ずつ入れ、5日間連続して尿を採取した。なお、尿への餌の混入を避けるために、採尿中は水のみを与えた。毎朝8時に尿を採取し、1時間以内に−80℃で凍結保存した。また、分析直前に各動物個体5日分の尿を混合して均一にした後、分析に供した。
【0039】
[実施例1]
【0040】
参考例2で得られた血漿試料50μLに、20μM内部標準物質メタノール溶液450μL(メタノール溶液中の内部標準物質は、メチオニンサルファオン、2−モルフォリンエタンスルフォン酸及びD−カンフォール−10−スルフォン酸)を加えて撹拌し、更にクロロホルム500μL及びMilliQ水200μLを加えて撹拌して4℃、4600g/rpmで5分間遠心分離を行い、次いで、上層の水−メタノール層を限外濾過フィルター(分画分子量5000Da)に取り、4℃、9100g/rpmで2時間遠心濾過した。そして、濾液200μLを更に遠心濃縮した。測定直前に、キャピラリー電気泳動−質量分析装置(CE−TOFMS)の移動時間補正用の3−アミノピロリジン、トリメセート各200μM水溶液25μL中に濃縮乾固した試料を溶解し、CE−TOFMSで測定した。なお、血漿中のアミノ酸及びアミノ酸代謝物の濃度は、添加した内部標準物質に対する相対面積(RelArea)として表示した。アミノ酸及びアミノ酸代謝物の各血漿中濃度に関して、同月齢のアルツハイマー病モデルマウスと対照マウスとの2者間(n=5)でStudent t−testによる統計解析を行い、p<0.05を有意差として判定した結果を図2に示した。
【0041】
図2の結果から明らかな通り、老人斑の蓄積が見られない(早期アルツハイマー病に相当)4ヶ月齢のアルツハイマー病モデルマウスの血漿中では、N,N−ジメチルグリシン、サルコシン、セリン、プロリン、ヒドロキシプロリン、バリン及びスレオニンの有意な増加が確認され、また、老人斑の蓄積が顕著になる(後期アルツハイマー病に相当)10及び20ヶ月齢のアルツハイマー病モデルマウスの血漿中では、2−ヒドロキシペンタノエート及び2−ヒドロキシ−4−メチルペンタノエートの有意な増加が確認された。
【0042】
[実施例2]
【0043】
参考例3で得られた尿試料10μLと、200μM内部標準物質水溶液90μL(水溶液中の内部標準物質は、メチオニンサルファオン、2−モルフォリンエタンスルフォン酸、D−カンフォール−10−スルフォン、3−アミノピロリジン及びトリメセート)とを混合して10倍希釈したものを限外濾過フィルター(分画分子量5000Da)に取り、20℃、9100g/rpmで60分間遠心濾過した後、CE−TOFMSで測定した。なお、アミノ酸及びアミノ酸代謝物の濃度は、添加した内部標準物質に対する相対面積(RelArea)を更にクレアチニンで除して表示した(RelArea/Creatine RelArea)。アミノ酸及びアミノ酸代謝物の各尿中濃度に関して、実施例1と同様にして統計解析及び判定を行った結果を図3に示した。
【0044】
図3の結果から明らかな通り、4ヶ月齢のアルツハイマー病モデルマウス及び老人斑の蓄積が開始される(早期アルツハイマー病に相当)7ヶ月齢のアルツハイマー病モデルマウスの尿中では、バリン、アラニン、イソロイシン及びフェニルアラニンの有意な増加が観察された。
【産業上の利用可能性】
【0045】
上述したように、本発明のアルツハイマー病の診断マーカーは、アルツハイマー病の診断、特に脳内のAβの蓄積が開始される前後の早期段階であっても、その診断を高精度に行うことができ、また、アルツハイマー病の診断を簡便且つ安価に行うことができるので、アルツハイマー病の診断に利用した場合極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物の血液又は分泌物中のアミノ酸又はアミノ酸代謝物からなる、アルツハイマー病の診断マーカー。
【請求項2】
前記アミノ酸又はアミノ酸代謝物は、N,N−ジメチルグリシン、サルコシン、セリン、プロリン、ヒドロキシプロリン、バリン、スレオニン、2−ヒドロキシペンタノエート、2−ヒドロキシ−4−メチルペンタノエート、アラニン、イソロイシン及びフェニルアラニンからなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1に記載のアルツハイマー病の診断マーカー。
【請求項3】
前記アミノ酸又はアミノ酸代謝物は、N,N−ジメチルグリシン、サルコシン、セリン、プロリン、ヒドロキシプロリン、バリン、スレオニン、アラニン、イソロイシン及びフェニルアラニンからなる群より選択される少なくとも1つであり、早期アルツハイマー病の診断に用いられることを特徴とする、請求項1又は2に記載のアルツハイマー病の診断マーカー。
【請求項4】
前記アミノ酸又はアミノ酸代謝物は、2−ヒドロキシペンタノエート又は2−ヒドロキシ−4−メチルペンタノエートであり、後期アルツハイマー病の診断に用いられることを特徴とする、請求項1又は2に記載のアルツハイマー病の診断マーカー。
【請求項5】
請求項3に記載のアルツハイマー病の診断マーカーのうちの少なくとも1つと、
請求項4に記載のアルツハイマー病の診断マーカーのうちの少なくとも1つと、
の組み合わせからなることを特徴とする、請求項4に記載のアルツハイマー病の診断マーカー。
【請求項6】
前記血液又は分泌物は、血漿又は尿である、請求項1〜5の何れか1項に記載のアルツハイマー病の診断マーカー。
【請求項7】
前記動物は、哺乳類である、請求項1〜6の何れか1項に記載のアルツハイマー病の診断マーカー。
【請求項8】
動物の血液又は分泌物中のアミノ酸又はアミノ酸代謝物の濃度を指標とする、アルツハイマー病の予防及び治療薬のスクリーニング方法。
【請求項9】
前記アミノ酸又はアミノ酸代謝物は、N,N−ジメチルグリシン、サルコシン、セリン、プロリン、ヒドロキシプロリン、バリン、スレオニン、2−ヒドロキシペンタノエート、2−ヒドロキシ−4−メチルペンタノエート、アラニン、イソロイシン及びフェニルアラニンからなる群より選択される少なくとも1つである、請求項8に記載のアルツハイマー病の予防及び治療薬のスクリーニング方法。
【請求項10】
動物の血液又は分泌物中のアミノ酸又はアミノ酸代謝物の濃度を指標とする、アルツハイマー病の診断方法。
【請求項11】
前記アミノ酸又はアミノ酸代謝物は、N,N−ジメチルグリシン、サルコシン、セリン、プロリン、ヒドロキシプロリン、バリン、スレオニン、2−ヒドロキシペンタノエート、2−ヒドロキシ−4−メチルペンタノエート、アラニン、イソロイシン及びフェニルアラニンからなる群より選択される少なくとも1つである、請求項10に記載のアルツハイマー病の診断方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate