説明

アルファ巻きコイル

【課題】表皮効果等に起因する高周波損失を低減でき、ある層のコイルから隣接層のコイルへの渡り部分がコイル表面から飛び出すことがなく、更に、耐電圧を向上することが出来るアルファ巻きコイルを提供する。
【解決手段】自己融着絶縁磁性めっき電線を素線とする略円管状編組線を扁平に潰した扁平管状線編組線1を、その長辺の面が隣接するターンで対向するようにアルファ巻きする。
【効果】高周波損失を低減できる。コイル層間の渡り部分がコイル表面から飛び出すことがなくなる。耐電圧を向上することが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルファ巻きコイルに関し、さらに詳しくは、表皮効果等に起因する高周波損失を低減でき、ある層のコイルから隣接層のコイルへの渡り部分がコイル表面から飛び出すことがなく、更に、耐電圧を向上することが出来るアルファ巻きコイルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、平角線(リボン線)、角線、丸線のような単線を使用したアルファ巻きコイルが知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開2004−111625号公報(図2)
【特許文献2】特開2007−305665号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来のアルファ巻きコイルでは、単線を用いているため、高周波で使用する場合に表皮効果等による高周波損失が大きくなる問題点があった。また、扁平率が大きい平角線を用いた場合にコイル内径が小さくなると、ある層のコイルから隣接層のコイルへの渡り部分がコイル表面から飛び出してしまう問題点があった。更に、2層のアルファ巻きコイルの場合、引出線が来るコイル外周側で互いに接している第1層と第2層の電位差が大きくなり、用途によっては耐電圧が不足する問題点があった。
そこで、本発明の目的は、表皮効果等に起因する高周波損失を低減でき、ある層のコイルから隣接層のコイルへの渡り部分がコイル表面から飛び出すことがなく、更に、耐電圧を向上することが出来るアルファ巻きコイルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
第1の観点では、本発明は、絶縁された素線の扁平管状編組線または絶縁された素線の平編線を、その長辺の面が隣接するターンで対向するようにアルファ巻きしたことを特徴とするアルファ巻きコイルを提供する。
上記第1の観点によるアルファ巻きコイルでは、絶縁された素線の編組線または平編線を用いるため、表皮効果等に起因する高周波損失を低減することが出来る。また、編組線または平編線は柔軟性があるため、ある層のコイルから隣接層のコイルへの渡り部分がコイル表面から飛び出さないように容易に変形できる。
【0005】
第2の観点では、本発明は、絶縁された素線の扁平管状編組線または絶縁された素線の平編線を、その短辺の面が隣接するターンで対向するようにアルファ巻きしたことを特徴とするアルファ巻きコイルを提供する。
上記第2の観点によるアルファ巻きコイルでは、絶縁された素線を用いるため、表皮効果等に起因する高周波損失を低減することが出来る。また、編組線または平編線は柔軟性があるため、ある層のコイルから隣接層のコイルへの渡り部分がコイル表面から飛び出さないように容易に変形できる。
【0006】
なお、長辺の面が隣接するターンで対向するようにアルファ巻きするのは、巻数を多くしたい場合に好ましく、短辺の面が隣接するターンで対向するようにアルファ巻きするのは、コイル厚を薄くしたい場合に好ましい。
【0007】
第3の観点では、本発明は、前記第1または前記第2の観点によるアルファ巻きコイルにおいて、前記素線が磁性めっき層を備えることを特徴とするアルファ巻きコイルを提供する。
上記第3の観点によるアルファ巻きコイルでは、素線に流れる電流が作り出す磁界が磁性めっき層で遮断されて周りの素線の銅線部分まで入り難くなるため(入っても小さくなるため)、高周波における近接効果による銅損の増加を抑制することが出来る。
【0008】
第4の観点では、本発明は、前記第1から前記第3のいずれかの観点によるアルファ巻きコイルにおいて、前記素線が最外周に自己融着層を備えることを特徴とするアルファ巻きコイルを提供する。
上記第4の観点によるアルファ巻きコイルでは、アルファ巻きコイルを巻回した後、加熱して又は溶剤を塗布して素線同士を融着させることにより、形状安定性を向上することが出来る。
【0009】
第5の観点では、本発明は、前記第1から前記第4のいずれかの観点によるアルファ巻きコイルにおいて、前記絶縁された素線の扁平管状編組線を用いると共にコイル内周側の巻軸方向線幅よりコイル外周側の巻軸方向線幅を短くしたことを特徴とするアルファ巻きコイルを提供する。
上記第5の観点によるアルファ巻きコイルでは、内周側の巻軸方向線幅よりも外周側の巻軸方向線幅が短くなるように編組線を変形することにより、2層のアルファ巻きコイルの場合でも、引出線が来るコイル外周側で第1層と第2層の間に空隙を形成でき、耐電圧を向上できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明のアルファ巻きコイルによれば、絶縁された素線の編組線または平編線を用いるため、表皮効果等に起因する高周波損失を低減することが出来る。また、編組線または平編線は柔軟性があるため、ある層のコイルから隣接層のコイルへの渡り部分がコイル表面から飛び出さないように容易に変形できる。更に、扁平管状編組線を用い且つ内周側の長辺長よりも外周側の長辺長が短くなるように編組線を変形すれば、2層のアルファ巻きコイルの場合でも、引出線が来るコイル外周側で第1層と第2層の間に空隙を形成でき、耐電圧を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図に示す実施の形態により本発明をさらに詳細に説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0012】
[実施例1]
図1は、実施例1に係るアルファ巻きコイル10を示す斜視図である。図2は、同断面図である。
このアルファ巻きコイル10は、自己融着絶縁磁性めっき電線(図3の5)を素線とする略円管状編組線を扁平に潰した扁平管状線編組線1を、その長辺の面が隣接するターンで対向するようにアルファ巻きした2層のコイルである。
【0013】
扁平管状線編組線1は、コイル内周側の巻軸方向線幅Liよりコイル外周側の巻軸方向線幅Loが短くなるように、扁平に潰す度合いをコイル内周側とコイル外周側とで変えてある。このため、引出線14,15が来るコイル外周側で第1層11と第2層12の間に空隙gが形成されている。
【0014】
第1層11のコイルから第2層12のコイルへの渡り部分13は、コイル表面から飛び出さないように変形させてある。
【0015】
図3は、扁平管状線編組線1の素線である自己融着絶縁磁性めっき電線5を示す断面図である。
自己融着絶縁磁性めっき電線5は、銅線6の外周に磁性めっき層7を形成し、磁性めっき層7の外周に絶縁被覆層8を形成し、絶縁被覆層8の外周に自己融着層9を形成したものである。
【0016】
具体例を示すと、自己融着絶縁磁性めっき電線5は、銅線6が外径約0.1mmであり、磁性めっき層7が厚さ約1μmの鉄層であり、絶縁被覆層8が厚さ約20μmのエナメル層であり、自己融着層9が厚さ約10μmの熱可塑性樹脂層である。
また、扁平管状線編組線1は、168本の自己融着絶縁磁性めっき電線5を編組したものであり、コイル内周側の長辺長Liが約4mm,短辺長が約0.8mmであり、コイル外周側の巻軸方向線幅Loが約3.8mm,短辺長が約1mmである。
また、アルファ巻きコイル10は、内径が約10mmであり、外径が約30mmであり、巻数が約20ターンである。
【0017】
実施例1のアルファ巻きコイル10によれば次の効果が得られる。
(1)自己融着絶縁磁性めっき電線5を素線とする扁平管状線編組線1を用いるため、表皮効果等に起因する高周波損失を低減することが出来る。
(2)扁平管状線編組線1は柔軟性があるため、渡り部分13がコイル表面から飛び出さないように容易に変形できる。
(3)引出線14,15が来るコイル外周側で第1層11と第2層12の間に空隙gを形成でき、耐電圧を向上できる。
【0018】
(4)銅線6に流れる電流が作り出す磁界が磁性めっき層7で遮断されて周りの素線の銅線6まで入り難くなるため(入っても小さくなるため)、この点でも高周波における近接効果による銅損の増加を抑制することが出来る。
(5)自己融着層9により素線同士を融着させることで、形状安定性を向上することが出来る。
【0019】
[実施例2]
図4は、実施例2に係るアルファ巻きコイル20を示す斜視図である。図5は、同断面図である。
このアルファ巻きコイル20は、自己融着絶縁磁性めっき電線5を素線とする略円管状編組線を扁平に潰した扁平管状線編組線2を、その長辺の面が隣接するターンで対向するようにアルファ巻きした2層のコイルである。
【0020】
扁平管状線編組線2は、コイル内周側の巻軸方向線幅Liとコイル外周側の巻軸方向線幅Loが等しい。
【0021】
第1層21のコイルから第2層22のコイルへの渡り部分23は、コイル表面から飛び出さないように変形させてある。
【0022】
具体例を示すと、扁平管状線編組線2は、168本の自己融着絶縁磁性めっき電線5を編組したものであり、コイル内周側の長辺長Liが約4mm,短辺長が約0.8mmであり、コイル外周側の巻軸方向線幅Loが約4mm,短辺長が約0.8mmである。
【0023】
実施例2のアルファ巻きコイル20によれば、実施例1の効果(3)を除いて、実施例1と同等の効果が得られる。
【0024】
[実施例3]
図6は、実施例3に係るアルファ巻きコイル40を示す断面図である。
このアルファ巻きコイル40は、自己融着絶縁磁性めっき電線5を素線とする略円管状編組線を扁平に潰した扁平管状線編組線4を、その短辺の面が隣接するターンで対向するようにアルファ巻きした2層のコイルである。
【0025】
扁平管状線編組線4は、コイル内周側の巻軸方向線幅Liとコイル外周側の巻軸方向線幅Loが等しい。
【0026】
第1層41のコイルから第2層42のコイルへの渡り部分43は、コイル表面から飛び出さないように変形させてある。
【0027】
実施例3のアルファ巻きコイル40によれば、実施例1の効果(3)を除いて、実施例1と同等の効果が得られる。
【0028】
[比較例]
図7の縦軸は直流抵抗値Roに対する実効抵抗値Rsの比であり、横軸は周波数である。
Aは実施例1のアルファ巻きコイル10の抵抗増加率特性図であり、Bは磁性めっき層7を省略したこと以外は実施例1と同じ条件のアルファ巻きコイルの抵抗増加率特性図であり、Cは長辺長約4mm,短辺長約0.3mmの平角線をその長辺の面が隣接するターンで対向するようにアルファ巻きした2層のコイルの抵抗増加率特性図である。
いずれも高周波になると抵抗が増加するが、抵抗増加率はA,B,Cの順に改善されている。
【0029】
[実施例4]
扁平管状編組線1〜4の代わりに、絶縁された素線の平編線を用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明のアルファ巻きコイルは、高周波回路において好適に使用できる。具体例としては、電力伝送電気回路や電源回路における空芯または有磁心のコイルやトランス、インダクター,IHヒーターコイルやモーターなどに利用することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例1に係るアルファ巻きコイルを示す斜視図である。
【図2】図1のA−A’断面図である。
【図3】自己融着絶縁磁性めっき電線の断面図である。
【図4】実施例2に係るアルファ巻きコイルを示す斜視図である。
【図5】図4のA−A’断面図である。
【図6】実施例3に係るアルファ巻きコイルを示す断面図である。
【図7】アルファ巻きコイルの抵抗増加率特性図である。
【符号の説明】
【0032】
1、2,4 扁平管状編組線
5 自己融着絶縁磁性めっき電線
6 銅線
7 磁性めっき層
8 絶縁被覆層
9 自己融着層
10,20,40 アルファ巻きコイル
13,23,43 渡り部分
Li 内周側の巻軸方向線幅
Lo 外周側の巻軸方向線幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁された素線の扁平管状編組線または絶縁された素線の平編線を、その長辺の面が隣接するターンで対向するようにアルファ巻きしたことを特徴とするアルファ巻きコイル。
【請求項2】
絶縁された素線の扁平管状編組線または絶縁された素線の平編線を、その短辺の面が隣接するターンで対向するようにアルファ巻きしたことを特徴とするアルファ巻きコイル。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のアルファ巻きコイルにおいて、前記素線が磁性めっき層を備えることを特徴とするアルファ巻きコイル。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載のアルファ巻きコイルにおいて、前記素線が最外周に自己融着層を備えることを特徴とするアルファ巻きコイル。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載のアルファ巻きコイルにおいて、前記絶縁された素線の扁平管状編組線を用いると共にコイル内周側の巻軸方向線幅よりコイル外周側の巻軸方向線幅を短くしたことを特徴とするアルファ巻きコイル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−93145(P2010−93145A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−263357(P2008−263357)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(000003414)東京特殊電線株式会社 (173)