説明

アルブミン尿症の予防及び治療のための医薬

【課題】例えば糖尿病性腎障害などに起因するアルブミン尿症の予防及び/又は治療のための医薬を提供する。
【解決手段】アルブミン尿症の予防及び/又は治療のための医薬であって、貴金属又は貴金属を含む合金の微粒子を有効成分として含む医薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は白金ナノコロイドを有効成分として含み、アルブミン尿症の予防及び/又は治療のための医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病性腎障害は、疾患である糖尿病の一般的でかつ重症な合併症であり、慢性腎不全(CRF)の原因の3分の1を占めている。腎臓において糖尿病により生じる変化の原因の全てが解明されているわけではないが、糖尿病性腎障害の初期特徴が患者の尿中のタンパク質の存在(蛋白尿)であることが知られている。タンパク質アルブミンは通常血漿に存在するが、糖尿病性腎障害を患う患者では初期病変においても尿中にアルブミンが排出され(微量アルブミン尿症)、糖尿病性腎障害の早期発見に有用な指標となっている。このようにアルブミンの尿中排出率は腎臓機能の指標となるが、アルブミン尿症は糖尿病だけを原因として生じる疾患ではなく、自覚症状のない一見健康な人にも原因不明のアルブミン尿症が認められる場合がある。
【0003】
アルブミン尿症を抑制する薬剤はいくつか知られている。ACE阻害剤として知られている抗高血圧薬は、糖尿病性腎障害におけるアルブミン尿症を低減するが、腎臓における病理変化および腎機能悪化が末期腎疾患(ESRD)へと持続する場合がある。またACE阻害剤は、1型もしくはインシュリン依存性糖尿病(DM1)に認められる効果と比較して、2型糖尿病性腎障害に対して有効性が劣ることが知られている(Salvetti, A. et al., Drugs, 57(5), pp.665-693, 1999)。また、アルブミン尿症に対する他の薬物療法としてARB降圧剤が知られており、糖尿病性腎障害およびアルブミン尿症の治療剤としてグリコサミノグリカンを用いる方法も提案されている(特表2003-535129号公報)。
【0004】
一方、白金ナノコロイドはSOD及びカタラーゼ類似活性を有しており(Kajita, M. et al., Free Radical Research, 41, pp.615-626, 2007)、筋委縮性側策硬化症、アルツハイマー病、神経変性疾患、慢性関節リウマチ、心筋梗塞などの虚血性心疾患、ストレス性潰瘍、皮膚炎、動脈硬化症、高脂血症、口腔内炎症に対して有効であることが知られている(国際公開WO2004/073723、同WO2006/064788)。しかしながら、これらの刊行物には白金ナノコロイドがアルブミン尿症の予防及び/又は治療に有効であるとの示唆ないし教示はない。なお、白金微粒子による糖尿病の治療について特開2002-212102号公報には白金微粒子を含む飲料水の評価が記載されているが、実施例はいずれも主観的体験談であり科学的な裏づけを欠くものである。また、上記刊行物には白金微粒子の蛋白尿やアルブミン尿症に対する効果は記載されていない。
【特許文献1】国際公開WO2004/073723
【特許文献2】国際公開WO2006/064788
【特許文献3】特開2002-212102号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題はアルブミン尿症の予防及び治療のための医薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、白金ナノコロイドを経口投与することにより、20名以上の健常人ボランティアにおいて尿中微量アルブミンが統計的に有意に低下することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明により、アルブミン尿症の予防及び/又は治療のための医薬であって、貴金属又は貴金属を含む合金の微粒子を有効成分として含む医薬が提供される。
上記の発明の好ましい態様によれば、糖尿病性腎障害に起因するアルブミン尿症の予防及び/又は治療のための上記医薬が提供される。
また、上記の発明のさらに好ましい態様によれば、貴金属がルテニウム、ロジウム、パラジウム、及び白金からなる群から選ばれる1種又は2種以上の貴金属である上記の医薬;貴金属が白金である上記の医薬;貴金属の微粒子が平均粒径10 nm以下の白金コロイドである上記の医薬が提供される。
【0008】
別の観点からは、アルブミン尿症の予防及び/又は治療方法であって、貴金属の微粒子をヒトを含む哺乳類動物に投与する工程を含む方法が提供される。また、上記の医薬の製造のための貴金属の微粒子の使用も本発明により提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、アルブミン尿症の予防及び/又は治療に高い有効性を発揮でき、かつ安全性が高く長期にわたって安全に投与可能な医薬が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の医薬はアルブミン尿症の予防及び/又は治療のための医薬であって、貴金属の微粒子を有効成分として含むことを特徴としている。貴金属の種類は特に限定されず、金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジム、又は白金のいずれを用いてもよいが、好ましい貴金属はルテニウム、ロジウム、パラジウム、又は白金である。貴金属の微粒子は2種以上の貴金属を含んでいてもよい。また、少なくとも1種の貴金属を含む合金の微粒子、あるいは1種又は2種以上の貴金属の微粒子と貴金属以外の1種又は2種以上の金属の微粒子を含む混合物を用いることもできる。例えば、金及び白金からなる合金などを用いてもよい。これらのうち好ましいのは白金又は白金を含む合金であり、特に好ましいのは白金である。
【0011】
貴金属の微粒子としては、比表面積が大きく、表面反応性に優れたコロイド状態を形成可能な微粒子が好ましい。微粒子の粒径は特に限定されないが、50 nm以下の平均粒径を有する微粒子を用いることができ、好ましくは平均粒径が20 nm以下、さらに好ましくは平均粒径が10 nm以下、特に好ましくは平均粒径が1〜6 nm程度の微粒子を用いることができる。さらに細かな微粒子を用いることも可能である。
【0012】
貴金属微粒子の製造方法は種々知られており(例えば、特公昭57-43125号公報、特公昭59-120249号公報、及び特開平9-225317号公報、特開平10-176207号公報、特開2001-79382号公報、特開2001-122723号公報など)、当業者はこれらの方法を参照することによって微粒子を容易に調製することができる。例えば、貴金属微粒子の製造方法として、沈殿法又は金属塩還元反応法と呼ばれる化学的方法、あるいは燃焼法と呼ばれる物理的方法などを利用できる。本発明の医薬の有効成分としては、いずれの方法で調製された微粒子を用いてもよいが、製造の容易性と品質面から金属塩還元反応法で調製された微粒子を用いることが好ましい。
【0013】
金属塩還元反応法では、例えば、水溶性若しくは有機溶媒可溶性の貴金属塩又は貴金属錯体の水溶液又は有機溶媒溶液を調製し、この溶液に水溶性高分子を加えた後、溶液のpHを9〜11に調節し、不活性雰囲気下で加熱還流することにより還元して金属微粒子を得ることができる。貴金属の水溶性又は有機溶媒可溶性の塩の種類は特に限定されないが、例えば、酢酸塩、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、スルホン酸塩、又はリン酸塩などを用いることができ、これらの錯体を用いてもよい。
【0014】
金属塩還元反応法に用いる水溶性高分子の種類は特に限定されないが、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、シクロデキストリン、アミノペクチン、又はメチルセルロースなどを用いることができ、これらを2種以上組み合わせて用いてもよい。好ましくはポリビニルピロリドンを用いることができ、より好ましくはポリ(1-ビニル-2-ピロリドン)を用いることができる。また、水溶性高分子に替えて、あるいは水溶性高分子とともに各種の界面活性剤、例えばアニオン性、ノニオン性、又は脂溶性等の界面活性剤を使用することも可能である。還元をアルコールを用いて行う際には、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、n-ブチルアルコール、n-アミルアルコール、又はエチレングリコールなどが用いられる。もっとも、貴金属微粒子の調製方法は上記に説明した方法に限定されることはない。
【0015】
本発明の医薬はアルブミン尿症の予防及び/又は治療のために用いることができる。本明細書においてアルブミン尿症にはアルブミンの尿中排泄が認められる全ての病態が包含され、その原因となる疾患は特に限定されないが、例えば、腎性蛋白尿のうちアルブミンの尿中排泄が認められる病態、より好ましくは糸球体性蛋白尿のうちアルブミンの尿中排泄が認められる病態を本発明の医薬の適用対象として挙げることができる。なかでも糖尿病性腎症に伴うアルブミン尿症、例えば早期の糖尿病性腎症における微量アルブミン尿症は本発明の医薬の特に好ましい適用対象である。一般的には、アルブミン尿症として尿中アルブミン排泄率20μg/min以上、及び/又は尿中アルブミン/クレアチニン比30mg/g.Cr以上の場合に治療対象とすることができるが、これ以下の数値を示す腎症前期においても本発明の医薬を提供することができ、本発明の医薬を予防的に投与してアルブミン尿症の進行を抑制することも可能である。本明細書において、「予防及び/又は治療」の用語はアルブミン尿症の発症の予防、及び発症後の上記疾患の治療のほか、上記疾患の進行の抑制、上記疾患の改善又は軽減、上記疾患の再発予防などを含めて最も広義に解釈しなければならず、いかなる意味においても限定的に解釈してはならない。本明細書において「医薬」の用語には、医薬品のほか、例えば飲料水など食品の形態で効能効果を表示して提供される特定保健用食品等やサプリメント等も包含される。
【0016】
本発明の医薬は経口的に投与することができる。本発明の医薬としては、上記に説明した方法により調製されたコロイド状態の貴金属分散物又は乾燥状態の貴金属微粒子をそのまま用いてもよい。水中又は有機溶媒中、あるいは水と有機溶媒の混合物中に調製された金属微粒子はコロイド状態で存在しているが、このコロイド状態の貴金属分散物を本発明の医薬としてそのまま用いることができる。溶媒を除去することが望ましい場合には、加熱などの操作により溶媒を除去して乾燥状態の微粒子を得ることができるが、その操作により得られた乾燥微粒子を本発明の医薬として用いてもよい。好ましくは、平均粒径が10 nm以下、特に好ましくは平均粒径が1〜6 nm程度の貴金属微粒子、例えば白金微粒子が均一に水中に分散されたナノコロイドを用いることができ、上記ナノコロイドは貴金属微粒子の凝集物を実質的に含まないことがさらに好ましい。
【0017】
また、本発明の医薬は当業者に周知の方法によって製造可能な経口用の医薬組成物として投与することができる。経口投与に適する医薬用組成物としては、例えば、錠剤、カプセル剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、液剤、及びシロップ剤等を挙げることができる。例えば、上記ナノコロイドを液剤の形態の医薬組成物として用いることができる。上記の医薬組成物は有効成分である貴金属微粒子とともに1種又は2種以上の製剤用添加物を用いて製造することができる。製剤用添加物としては、例えば、賦形剤、崩壊剤ないし崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、基剤、溶解剤ないし溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤などを挙げることができるが、これらは医薬用組成物の形態に応じて当業者が適宜選択可能である。
【0018】
本発明の医薬の投与量は特に限定されず、予防又は治療の目的、患者の年齢、体重、症状などに応じて適宜選択可能であるが、例えば、成人一日あたり貴金属微粒子質量として0.001 〜1,000 mg程度の範囲で用いることができ、好ましくは、貴金属微粒子質量として一日あたり12〜3600μg、特に好ましくは一日あたり約30〜40μg程度を用いることができる。
【実施例】
【0019】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例により限定されることはない。
例1
20歳以上65歳未満で、高脂血症(総コレステロール値220mg/dl以上、LDLコレステロール140mg/dl以上、HDL-C 40mg/dl未満、又はTG150mg/dl以上のいずれか1以上)を認める成人25例(男性10例、女性15例)を対象として、白金ナノコロイドを投与した。被験者を2群に分け、グループ1には一日あたり36μg、グループ2には一日あたり18μgを投与した。被験者に白金ナノコロイド(10mlあたり平均粒径6 nm以下の白金粒子を白金として18μg含み、凝集した白金粒子を実質的に含まない白金ナノコロイド水:白金ナノコロイド 0.9560%(白金;0.00019%、クエン酸三ナトリウム 0.0028%)、クエン酸 0.0045%、及び水 99.0395%を含み、白金含有量は17.7±0.15ppm、pHは3.71である)又はプラセボ(上記処方から白金を除いた処方)を一日あたり2回の割合で14日間連続経口投与し(第I期)、2週間の休薬期間を設けて、第II期の試験を同様に行うことにより、対照としてプラセボを用いた単盲検クロスオーバー試験による2群比較を行った。
【0020】
I期摂取前、I期摂取後、II期摂取前、II期摂取後、及び事後検査時に尿検査(蛋白、糖、潜血、及び微量アルブミン(補正値))を行った。尿中微量アルブミン(補正値)は尿中微量アルブミン量及び尿中クレアチニン量を測定し、以下の式により求めた。
尿中微量アルブミン(補正)値=尿中微量アルブミン量/尿中クレアチニン量
この結果、白金ナノコロイド投与群の尿中微量アルブミン(補正値)は2週間摂取後、摂取後2週間、4週間後に有意に低下しており、18μg投与群及び36μg投与群の両群において2週間摂取後、摂取後2週間、及び4週間後に有意な低下を与えた。結果を図1及び図2に示す。図1は総被験者25例を対象としたデータ解析の結果を示し、図2は強度の乳び血清のため、対象から除外された3症例が除かれた被験者22名を対象としたデータ解析の結果を示す。なお、尿検査と同時に行った血液検査において被験者の総コレステロールは2週間の摂取後に有意に低下しており、VLDLのコレステロール値は有意に低下し、LDLのコレステロール値も低下傾向が認められた。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の医薬の尿中微量アルブミン低下作用(総被験者25例)を示した図である。
【図2】本発明の医薬の尿中微量アルブミン低下作用(被験者23例)を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルブミン尿症の予防及び/又は治療のための医薬であって、貴金属又は貴金属を含む合金の微粒子を有効成分として含む医薬。
【請求項2】
糖尿病性腎障害に起因するアルブミン尿症の予防及び/又は治療のための請求項1に記載の医薬。
【請求項3】
貴金属がルテニウム、ロジウム、パラジウム、及び白金からなる群から選ばれる1種又は2種以上の貴金属である請求項1又は2に記載の医薬。
【請求項4】
貴金属が白金である請求項3に記載の医薬。
【請求項5】
貴金属の微粒子が平均粒径10 nm以下の白金コロイドである請求項1ないし4のいずれか1項に記載の医薬。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−73796(P2009−73796A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−246766(P2007−246766)
【出願日】平成19年9月25日(2007.9.25)
【出願人】(506300730)アプト株式会社 (5)
【Fターム(参考)】