説明

アルミナ多孔体及びその製造方法

【課題】 細孔径が制御され、気孔率と比表面積が高く、かつ機械的特性に優れているアルミナ多孔体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 原料粉末は、アルミナ粉末と化学式Al(OH)3 で表される水酸化アルミニウムの異なった比率での混合粉末であり、その混合粉末を加熱して、水酸化アルミニウムを分解し、更に、1000−1600℃の温度範囲で加熱処理することを特徴とするアルミナ多孔体の製造方法、前記の方法で製造されたアルミナ多孔体であって、細孔の気孔率が40体積%を超え、かつその比表面積が、8−40m2 /gであることを特徴とするアルミナ多孔体、このアルミナ多孔質凝集体を用いて成るフィルター、触媒担体。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、アルミナ多孔体及びその製造方法に関するものであり、更に詳しくは、気孔率、比表面積及び機械的特性を両立させたアルミナ多孔体であって、フィルター、触媒担体等に好適に利用することが可能な、微小な気孔を多量に含み、高い比表面積を有し、しかも、高強度なアルミナ多孔体、及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来から、セラミックス多孔体は、耐熱性、耐熱衝撃性、耐薬品性、常温及び高温強度特性、軽量性などに優れているため、各種フィルター(ガス分離、固体分離、除菌、除塵など)、触媒担体、吸音材、断熱材、センサーなどとして、不可欠の工業材料となっている。
【0003】しかし、最近では、フィルターや触媒担体等の用途において、より高い気孔率、より高い強度、より優れた耐熱性が要求され、従来のセラミックス多孔体では、これらの要求を満ことが困難になりつつある。各種フィルターや触媒担体として利用されているアルミナ多孔体は、主にγ−アルミナであるが、γ−アルミナは、1000℃付近で安定相のα−アルミナへ相転移し、比表面積が著しく低下し、触媒担体としての機能を失ってしまう問題点があった。
【0004】このため、高温でも高い比表面積を維持できるような耐熱性に優れた触媒担体の開発が望まれている。なお、これまでにγ−アルミナからα−アルミナへの転移温度は、γ−アルミナに酸化物等を添加することにより著しく変わることが知られており、特に、文献(B.E.Yoldas,“Thermal stabilization of an active alumina and effect of dopants on the surface area”Journal of Materials Science,11,465−470.(1976))に報告されているように、γ−アルミナにシリカを添加すれば、転移温度を著しく上昇させ、高温下でγ−アルミナの高い比表面積を維持し得る。
【0005】アルミナ多孔体については、さまざまな製造方法が検討されている。焼結法では、気孔率及び機械的特性は、焼結条件に影響される。アルミナは、通常、焼結温度が増加すると、気孔率が激しく低下する。このため、高気孔率を維持するためには、焼結を不完全にする必要があるが、これらの不完全焼結法により作製された焼結体では、気孔率を制御することが難しく、また、機械的特性が著しく低く、実用化が困難である。
【0006】上述のように、従来、原料組成、焼結条件等を調整した不完全焼結法によりアルミナ多孔体の作製が試みられているが、気孔率、比表面積及び機械的特性を両立させることは困難であった。特に、フィルターや触媒担体として利用するには、均一な細孔径、高い気孔率と比表面積とともに、優れた機械的特性を有するアルミナ多孔体が必要である。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、高気孔率、高比表面積及び優れた機械的特性を有するアルミナ多孔体を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、原料として、アルミナに水酸化アルミニウムを混合した混合粉末を使用し、これを加熱して水酸化アルミニウムを分解させ、更に高い温度で焼成する構成を採用することにより所期の目的を達成し得ることを見出し、更に研究を重ねて、本発明を完成するに至った。本発明は、細孔径分布が十分狭く、高気孔率及び高比表面積を維持しつつ、機械的特性に優れたアルミナセラミックス多孔体、並びにその製造方法、及びその用途を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)原料粉末は、アルミナ粉末と化学式Al(OH)3 で表される水酸化アルミニウムの異なった比率での混合粉末を用い、その成形体を加熱して、水酸化アルミニウムを分解し、更に、1000−1600℃の温度範囲で焼成処理することを特徴とするアルミナ多孔体の製造方法。
(2)主成分であるアルミナ以外のセラミックス成分として水酸化アルミニウム及び必要によりジルコニアを1−20体積%含有することを特徴とする前記(1)に記載のセラミックス多孔体の製造方法。
(3)前記(1)又は(2)に記載の方法で製造されたアルミナ多孔体であって、細孔の気孔率が40体積%を超え、かつその比表面積が、8−40m2 /gであることを特徴とするアルミナ多孔体。
(4)10−1000nmの範囲に少なくとも一つの細孔分布のピークを持つ細孔構造を有することを特徴とする前記(3)に記載のアルミナ多孔体。
(5)アルミナの相組成はα及びθであり、第二相を添加することによりθ−α相転移を抑制して、高気孔率、高比表面積かつ高強度としたことを特徴とする前記(3)又は(4)に記載のセラミックス多孔体。
(6)前記(1)又は(2)に記載の製造方法で得られるアルミナ多孔質凝集焼結体を用いて成るフィルター。
(7)前記(1)又は(2)に記載の製造方法で得られるアルミナ多孔質凝集焼結体を用いて成る触媒担体。
【0009】
【発明の実施の形態】次に、本発明について更に詳細に説明する。本発明に係るアルミナ多孔体の製造方法は、原料として、アルミナ/水酸化アルミニウムの混合粉末を用い、これを加熱して水酸化アルミニウムを分解させ、更に、より高い温度で焼成させることを特徴としている。また、本発明は、上記の混合粉末からの成形体を作製し、この成形体を1−10℃毎分の速度で800−1000℃の温度まで昇温して水酸化アルミニウムを分解させ、更に、1000−1600℃までの温度で0−2時間、焼成させることを特徴としている。更に、本発明は、上記方法において、ジルコニアを1−20重量%を添加することを好適な態様としている。
【0010】水酸化アルミニウムが分解することにより体積が収縮するため、より多くの気孔が発生する。これにより、アルミナ粉末のみを原料とする場合に比べ、同じ気孔率の多孔体を得るために、高い焼結温度を必要とする。また、ジルコニア粉末を添加することによりアルミナの相転移を抑制することで、更に、高い焼結温度が必要になる。高い焼結温度で焼結する場合は、粒子間の物質移動が促進され、強固なネック成長が形成されるために、高気孔率、高比表面積かつ優れた機械的特性を有するアルミナ多孔体を製造することができる。
【0011】また、本発明者らは、水酸化アルミニウムとジルコニアの添加効果について、その添加量が気孔率、比表面積と粒子径を制御するなど種々の要因について検討した結果、水酸化アルミニウムとジルコニアの添加によって、気孔率、気孔径及び比表面積を制御できることを見出している。このような本発明に係るアルミナ多孔体の製造方法によれば、高い気孔率と比表面積を有し、細孔径分布が狭く、しかも、機械的特性や耐熱性に優れたアルミナ多孔体を得ることができる。
【0012】本発明の方法を更に詳しく説明すると、本発明によるセラミックス多孔体は、基本的には、市販のアルミナ粉末を用い、これと平均粒径2.0μm以下の水酸化アルミニウム粉末及び0−10体積%のジルコニア粉末を混合し、これを成形した後、この成形体を大気中において800−1000℃に加熱して水酸化アルミニウムを分解させ、更に1000℃−1600℃の温度で焼結することにより製造することができる。この場合、より高い比表面積のものを得るためには1000−1300℃の低い温度とするのが好ましい。より高強度のものを得るためには1300℃以上での焼結温度とするのが好ましい。しかし、焼結温度が高くなると、気孔率の低下を招くことになる。アルミナ粉末としては、高純度のものが望ましく、アルミナ粉末の平均粒径は、0.05〜2μm、好適には0.1〜1μmである。また、Al(OH)3 で表される水酸化アルミニウムの添加量は、10〜90%、好適には60〜80%である。また、平均粒径2.0μm以下の水酸化アルミニウム粉末を用いる意味は、気孔の分布を均質にするためである。原料の混合方法は、湿式、乾式何れでもよいが、湿式の方が好ましい。成形方法は、金型成形、鋳込み成形、射出成形、冷間静水圧成形などが用いられる。
【0013】本発明によるアルミナセラミックス多孔体の製造方法において、水酸化アルミニウムを分解することによりγ−アルミナを得、焼結する際にγ→θ→α相転移を行い、高い気孔率、高い比表面積及び高い強度に寄与する。更に、ジルコニアを添加することにより、相転移を抑制させ、より高い比表面積を得ることができる。
【0014】本発明の方法により作製されたアルミナ多孔体の特徴的な性質(従来のアルミナ多孔体にない特性)を以下に示す。
細孔の気孔率:最大65%比表面積:最大40m2 /g細孔分布のピーク:10−1000nmの範囲に少なくとも一つの細孔分布のピークを持つとともに、10nm以下にも万遍なく細孔が存在する。相組成:α相とθ相が共存しているα(+θ)組成である。強度:気孔率50%で50MPa本発明のアルミナ多孔質凝集焼結体は、上記特性を利用して、フィルター触媒担体として有用である。
【0015】
【作用】本発明では、加熱及び焼結する際に、水酸化アルミニウムが分解するため、焼結体の緻密化が抑制されることが特徴である。また、水酸化アルミニウムの分解により細かいγ−アルミナが得られ、これがθ相に転移し、高い比表面積を得ることができる。本発明による多孔体は、気孔径が2μm以下の微細な開気孔を多数有し、比表面積が大きいうえ、気孔率が高いため、気体等の流体の透過量が大きく、フィルターや触媒担体等として優れた機能を備えている。また、曲げ強度が比較的高いため、構造用材料として高い信頼性を備えている。なお、水酸化アルミニウムを分解することにより細かいアルミナ粒子の状態で混合粉末の成形体中に均一に分散させておくのが好ましく、これにより、細かい気孔が均一に分散したアルミナセラミックス多孔体が得られる。
【0016】
【実施例】以下、本発明を実施例について具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
実施例1(1)測定方法1) 成形体密度は、その寸法と重量から算出した。
2) 多孔質焼結体の密度及び気孔率は、アルキメデス法で測定した。
3) 細孔径分布は、水銀圧入法により測定し、比表面積はBET法で測定した。
4) 結晶相は、X線回折法により同定した。
5) 曲げ強度は、JIS R1601に準拠した3点曲げ試験法により測定し、ヤング率は、超音波パルス法で測定した。
6) 各試料の粒子の状態、細孔構造は、走査電子顕微鏡にて観察した。なお、試料には、必要に応じてAu、Ptを蒸着させた。
【0017】(2)方法平均粒径0.2μmのα−アルミナ粉末(商標名TM−DAR、BET比表面積13.6m2 /g)に10−100体積%の水酸化アルミニウムを湿式混合により添加した。この混合粉末を乾燥後、30MPaで成形し、55mm×12mm×5mmの寸法の成形体を得た。成形体の相対密度は53%であった。この成形体を電気炉に入れ、1−10℃毎分で800−1000℃まで加熱して水酸化アルミニウムを分解させ、更に、1000−1600℃で0−2時間焼成した。得られたアルミナ多孔体試料の組成、焼結条件及び各特性の測定結果を表1に示す。また、図1に、試料No.16番の試料の細孔径分布を示す。本発明によるアルミナは200nm付近に細孔径のピークを持つとともに10nm以下にも万遍なく細孔が存在する。
【0018】
【表1】


【0019】実施例2平均粒径0.2μmのα−アルミナ粉末(商標名TM−DAR、BET比表面積13.6m2 /g)に10−100体積%の水酸化アルミニウムと10体積%のジルコニア粉末(商標名TZ−3Y、BET比表面積15.4m2 /g)を湿式混合により添加した。この混合粉末を乾燥後、30MPaで成形し、55mm×12mm×5mmの寸法の成形体を得た。成形体の相対密度は53%であった。この成形体を電気炉に入れ、毎分1−10℃の速度で800−1000℃まで加熱して水酸化アルミニウムを分解させ、更に、1000−1600℃で0−2時間焼成した。得られたアルミナ多孔体試料の組成、焼結条件及び各特性の測定結果を表2に示す。また、図2R>2に、試料No.36番の試料の細孔径分布を示す。本発明によるアルミナ多孔体は、100nm付近に細孔ピークを持つとともに、10nm以下にも万遍なく細孔が存在する。
【0020】
【表2】


【0021】比較例平均粒径0.2μmのα−アルミナ粉末(商標名TM−DAR、BET比表面積13.6m2 /g)を30MPaで成形し、55mm×12mm×5mmの寸法の成形体を得た。成形体の相対密度は53%であった。この成形体を電気炉に入れ、毎分10℃の速度で800−1000℃まで加熱して、更に、1000−1600℃で0−2時間焼成した。得られたアルミナ多孔体試料の組成、焼結条件及び各特性の測定結果を表3に示す。また、図3に、試料No.40番の試料の細孔径分布を示す。得られたアルミナ多孔体は、70nm付近に細孔径のピークを有するのみで、10nm付近の細孔径は殆ど存在しなかった。
【0022】
【表3】


【0023】上記した実施例1及び2の結果から、本発明のアルミナ多孔体は、気孔径10〜100nmの微小な気孔で、65%の高い気孔率を有するものであり、しかも細孔径分布において2つのピークをもつため、40m2 /gの高比表面積を有する。更に、α相を有するために、相対的に高い強度を有する。すなわち、αとθ相が共存することによって、高気孔率、高比表面積と高強度を両立させることができる。
【0024】
【発明の効果】本発明によれば、1)高い比表面積を有し、細孔径分布が狭く、しかも、機械的特性に優れているα(+θ)アルミナ多孔体が得られる、2)このようなアルミナ多孔体は、高気孔率、高比表面積と高強度の両立を実現化できるので、フィルター、触媒担体等としての用途が期待できる、という格別の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1の試料No.16番の試料の細孔径分布を示す。
【図2】実施例2の試料No.36番の試料の細孔径分布を示す。
【図3】比較例の試料No.40番の試料の細孔径分布を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 原料粉末は、アルミナ粉末と化学式Al(OH)3 で表される水酸化アルミニウムの異なった比率での混合粉末を用い、その成形体を加熱して、水酸化アルミニウムを分解し、更に、1000−1600℃の温度範囲で焼成処理することを特徴とするアルミナ多孔体の製造方法。
【請求項2】 主成分であるアルミナ以外のセラミックス成分として水酸化アルミニウム及び必要によりジルコニアを1−20体積%含有することを特徴とする請求項1に記載のセラミックス多孔体の製造方法。
【請求項3】 請求項1又は2に記載の方法で製造されたアルミナ多孔体であって、細孔の気孔率が40体積%を超え、かつその比表面積が、8−40m2/gであることを特徴とするアルミナ多孔体。
【請求項4】 10−1000nmの範囲に少なくとも一つの細孔分布のピークを持つ細孔構造を有することを特徴とする請求項3に記載のアルミナ多孔体。
【請求項5】 アルミナの相組成はα及びθであり、第二相を添加することによりθ−α相転移を抑制して、高気孔率、高比表面積かつ高強度としたことを特徴とする請求項3又は4に記載のセラミックス多孔体。
【請求項6】 請求項1又は2に記載の製造方法で得られるアルミナ多孔質凝集焼結体を用いて成るフィルター。
【請求項7】 請求項1又は2に記載の製造方法で得られるアルミナ多孔質凝集焼結体を用いて成る触媒担体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2002−68854(P2002−68854A)
【公開日】平成14年3月8日(2002.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−261350(P2000−261350)
【出願日】平成12年8月30日(2000.8.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2000年3月21日 社団法人日本セラミックス協会発行の「2000年年会講演予稿集」に発表
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】