説明

アルミナ多層多孔質体およびその製造方法

【課題】優れた熱安定性、電気絶縁性を有するアルミナ多層多孔質体を提供する。
【解決手段】ゾルゲル法で作製されるアスペクト比(平均繊維長/平均繊維幅)が50〜5000の範囲内にあるアルミナナノファイバーの集積体からなる多孔質アルミナ層と、空隙層とが交互に積層してなることを特徴とするアルミナ多層多孔質体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なアルミナ多層多孔質体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゾルゲル法を利用したナノ粒子のコーティングは、容易に均一な薄膜を形成することから、基板表面の改質および機能性付与を目的に幅広く実用化されている。コーティング膜を機能別に分類すると「化学的・機械的保護機能」、「光学機能」、「電磁気機能」、「触媒機能」に分けられる。このようなコーティング効果を最大限発揮させるためには、コーティング剤の組成だけでなく、膜内部の構造が極めて重要になってくる。
【0003】
例えば、遮熱効果を有する膜では内部に空隙を設けた構造体が知られている。しかし熱移動(熱伝導、熱対流、熱放射)の三要素から考えた場合、膜内部の空隙の形状や大きさの制御が必要になる。すなわち、上記三要素のうちの格子振動による伝導を抑制するためには、温度差を持つ2つの基板の間に存在するセラミックスの接触面積を小さくすることにより熱移動を低下させることができる。また、対流を抑制するためには、空隙の大きさを気体の平均自由行程以下にすることが有効である。さらに、輻射を抑制するためには赤外線を吸収する部材を挿入するか、赤外線を反射する構造が必要である。
【0004】
特許文献1には、中空セラミックスバルーンを配合した無機質断熱性塗膜組成物が記載されている。しかし、空隙の大きさは中空粒子のサイズにより決定され、常圧気体の自由行程(60〜100nm)程度の大きさに制御された中空粒子を使用することは困難である。さらに中空セラミックバルーン単独では成膜性がないためバインダーを必要とし、セラミックバルーンの充填密度を上げると膜の強度が低下し、しかも空隙率が低下するという問題があった。
【0005】
特許文献2には、発泡剤を使う多層多孔質セラミックス板が記載されている。この場合、空隙の大きさは発泡する泡の大きさによって決定されるので、空隙のサイズをナノレベルで制御することが困難であり、さらには均一な薄膜の作製も困難である。
【0006】
特許文献3には、高分子空隙形成剤を使用したセラミックス多層回路基板が記載されている。しかし高分子空隙形成と母材との密度差により均一な空隙を形成することが困難である上、空隙サイズを精密に制御することも困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−16488号公報
【特許文献2】特開平6−166141号公報
【特許文献3】特開平2−116196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように、従来技術では熱伝導にかかわるセラミックス部分の接触面積や空隙の形状、大きさをナノレベルで制御することが極めて困難な上に、形状も球状にほぼ限られているので目的に応じたものとはなっていなかった。具体的には、遮熱膜の構造では、熱伝導に関与するセラミックス部分の面積が小さいこと、さらには空隙の大きさが気体の平均自由工程以下であることが重要であることから、空隙の大きさがナノレベルであり上下方向すなわち厚み方向が不連続で熱伝導が遮断された構造体、具体的には厚み方向にセラミックス層と空隙層が交互に積層したセラミックス膜が望まれていた。
そこで本発明は、多孔質のアルミナ層と層状の空隙層が交互に積層してなるもので、コーティング膜および自立膜として使用可能な強度を有するアルミナ多層多孔質体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記従来技術に鑑みて、セラミックス層間の接触面積が小さく、しかも空隙率を高める方法として2次元多孔質膜を積層することを着想した。これにより膜方向にも膜内にも空隙が現れる上に、空隙および積層膜の厚さがナノレベルであることによりセラミックス層間隔が気体自由工程付近となるため、理想的な遮熱膜となる。かかる発想の下、多層多孔質体の開発に鋭意検討を重ねた結果、バインダーを使用せずに特定のアルミナナノファイバーと塩基性化合物を混合し特定の製造条件で成形することにより、アルミナ層及び空隙層が交互に積層したアルミナ多層多孔質体が得られることを見出し、この知見に基づいて本発明に至った。
【0010】
すなわち本発明は、
(1)ゾルゲル法で作製されるアスペクト比(平均繊維長/平均繊維幅)が50〜5000の範囲内にあるアルミナナノファイバーの集積体からなる多孔質アルミナ層と、空隙層とが交互に積層してなることを特徴とするアルミナ多層多孔質体;
(2)前記多孔質アルミナ層の間隔が10〜500nmであることを特徴とする、(1)に記載のアルミナ多層多孔質体;
(3)前記アルミナナノファイバーがベーマイト又は擬ベーマイトを含むことを特徴とする、(1)に記載のアルミナ多層多孔質体;
(4)前記アルミナナノファイバーは、平均繊維幅が2〜20nmであり、かつ、平均繊維長が100〜10,000nmであることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれか1項に記載のアルミナ多層多孔質体;
(5)前記アルミナナノファイバーの結晶系が、擬ベーマイト、ベーマイト、γ-アルミナ、θ-アルミナ又はα-アルミナから選ばれる少なくとも1種である、(1)〜(4)のいずれか1項に記載のアルミナ多層多孔質体;
(6)平均繊維幅が2〜20nmであり、平均繊維長が100〜10000nmであり、かつ、アスペクト比が30〜5000である繊維状もしくは針状のアルミナナノファイバーゾルに塩基性化合物を混合し、得られた混合物を支持体の上に塗布して乾燥することにより得られることを特徴とする、(1)〜(5)のいずれか1項に記載のアルミナ多層多孔質体の製造方法;
(7)前記アルミナナノファイバーは、平均繊維幅が2〜20nmであり、かつ、平均繊維長が100〜10000nmであることを特徴とする、(6)に記載のアルミナ多層多孔質体の製造方法;
(8)前記塩基性物質の添加量がAl原子に対し0.02〜1mol%であることを特徴とする、(6)又は(7)に記載のアルミナ多層多孔質体の製造方法;並びに
(9)前記アルミナナノファイバーゾルは、加水分解性アルミニウム化合物を加水分解し、次いで解膠することにより調製されることを特徴とする、(6)〜(8)のいずれか1項に記載のアルミナ多層多孔質体の製造方法;
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によるアルミナ多層多孔質体は、優れた熱安定性、電気絶縁性などを併せ持ち、遮熱塗膜や光反射膜として、更には光学材料、センサー素子、分離膜、光電気化学膜、イオン伝導膜、触媒担体またはLow-K材料としても利用可能な新しいアルミナ多孔質自立膜である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1で得られた繊維状アルミナ粒子を示す図面に代わる透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図2】実施例3で得られた多層多孔質自立膜の外観を示す図面に代わる写真である。
【図3】実施例3で得られた多層多孔質自立膜の横断面を示す図面に代わる走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図4】実施例及び比較例で得られた多層多孔質自立膜の光反射率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明によるアルミナ多層多孔質体は、ゾルゲル法で作製されるアルミナ構造物であってアスペクト比(平均繊維長/平均繊維幅)が50〜5000の範囲内にあるアルミナナノファイバーの集積からなる層状の多孔質層と層状の空隙が交互に積層してなることを特徴とするものである。
本発明によるアルミナ多層多孔質体の製造方法は、平均繊維幅が2〜20nm、平均繊維長が100〜10,000nmであり、平均アスペクト比が50〜5000であるアルミナナノファイバーが分散しているアルミナゾルに塩基性化合物を混合し、得られた混合物を支持体の上に塗布して乾燥することにより得られることを特徴とするものである。
【0014】
本発明のアルミナ多層多孔質体について説明すると、本発明のアルミナ多層多孔質体は、アスペクト比が50〜5000である繊維状もしくは針状の特定の形状を有するアルミナ水和物粒子又はアルミナ粒子の集積体から構成され多孔質アルミナ層と空隙層が交互に積層した構造からなる。
【0015】
本発明において、アルミナ水和物粒子又はアルミナ粒子の集積体とは、アルミナ水和物粒子又はアルミナ粒子が、膜の平面方向にその長軸方向の全部ないし一部を揃えて積み重なって形成される集積体であることを意味する。この場合、膜の作製条件により、粒子の長軸方向をほぼ揃えて積み重なって形成される集積体と、長軸方向がランダムな形態に積み重なって形成される集積体が得られる。また本発明において多孔質とは、繊維状粒子間に形成される空隙を意味する。
【0016】
また、本発明において、アルミナ多層多孔質体の多層とは、繊維状もしくは針状粒子が集積してなるアルミナ層と空隙層が交互に積層してなる構造を意味し、多孔質とは、繊維状もしくは針状の粒子と粒子との間に形成される空隙により多孔質構造を有していることを意味する。
【0017】
本発明によるアルミナナノファイバーは、平均繊維長の平均繊維幅に対する割合すなわちアスペクト比(平均繊維長/平均繊維幅)が50〜5,000であり100〜3,000であるのが特に好ましい。このアスペクト比が50未満であると層状の空隙が得られないため好ましくなく、一方、このアスペクト比が5,000を超えるとアルミナナノファイバーの合成に多大な時間を要するため好ましくない。
【0018】
本発明によるアルミナ多層多孔質体は、多孔質のアルミナ層と空隙層が交互に積層した構造を有する。すなわち、隣り合うアルミナ多孔質層間の空間が空隙層を構成する。本発明によるアルミナ多層多孔質体においては、アルミナ多孔質層の間隔、すなわち空隙層の厚さが10〜500nmであることが好ましく、更に50〜200nmであることが特に好ましい。この間隔が10nm以下では積層構造が不均一となり、一方、500nm以上では強度が低下するため、いずれも好ましくない。アルミナ多孔質層の厚さは、100〜500000nmであることが好ましく、更に500〜200000nmであることが特に好ましい。空隙層及びアルミナ多孔質層の厚さは、アルミナ多層多孔質体の横断面のSEM観察により測定することができる。
【0019】
このアルミナナノファイバーの結晶系には無定形、ベーマイト、擬ベーマイト、γ-アルミナ、θ-アルミナおよびα-アルミナがあるが、本発明において、アルミナナノファイバーが上記寸法を有し、アルミナ成形体が十分な強度を発揮するためには、アルミナナノファイバーは少なくともベーマイト結晶系のアルミナナノファイバー及び/又は擬ベーマイト結晶系のアルミナナノファイバーを含むことが好ましい。すなわち、その結晶系はベーマイト及び/又は擬ベーマイトを主成分とし、他の結晶形を含む混合物であってもよい。本発明において、アルミナナノファイバーはベーマイト結晶系のアルミナナノファイバー及び/又は擬ベーマイト結晶系のアルミナナノファイバーであることが特に好ましい。ここで、ベーマイトは組成式:Al・nHOで表わされるアルミナ水和物の結晶である。アルミナナノファイバーの結晶系は、例えば、後述する加水分解性アルミニウム化合物の種類、その加水分解条件又は解膠条件によって、調製できる。アルミナナノファイバーの結晶系はX線回折装置(例えば、商品名「Mac.Sci.MXP−18」、マックサイエンス社製)を用いて次の条件で確認することができる。
<条件>管球:Cu、管電圧:40kV、管電流:250mA、ゴニオメーター:広角ゴニオメーター、サンプリング幅:0.020°、走査速度:10°/min、発散スリット:0.5°、散乱スリット:0.5°、受光スリット:0.30mm
本発明によるアルミナ(ベーマイト)多層多孔質膜は、熱処理することにより、多層多孔質構造並びに光物性等、基本的性質を保持したままで熱的および化学的により安定なγ-アルミナ→δ、θ-アルミナ→α-アルミナへと容易に相変化させることができ、また、いずれの場合でも層状構造を保持することができる。
【0020】
母体となる酸化アルミニウムは高純度であることが好ましく、具体的には、含まれる不純物の含有量がそれぞれ2ppm以下であることが好ましい。アルミナ成形体に含まれる不純物として、例えば、ナトリウムイオン(Na)、カリウムイオン(K)、塩素イオン(Cl)及び硫酸イオン(SO2−)等が挙げられる。アルミナ成形体に含まれる各不純物が2ppm以下であると、高純度であるが故に、このアルミナ成形体を触媒担体として使用した場合に触媒性能に影響しないことや、優れた電気絶縁性能を有するという効果が得られる。アルミナ成形体における不純物の含有量は、通常、アルミナ成形体の原料の純度、各処理に用いられる薬剤の種類及び純度等に影響され、これらを適宜選択することによって、高純度のアルミナ成形体を製造できる。ここで、ナトリウムイオン(Na)、カリウムイオン(K)及び硫酸イオン(SO2−)の含有量はそれぞれ、アルミナ成形体約2.0gを精秤して少量の塩酸で加熱分解後に精製水を加えて正確に10mLに調製した測定試料液を、原子吸光光度計(例えば、商品名「Z5300」、(株)日立製作所製)を用いて、波長589.0nmの条件で測定して、決定できる。一方、塩素イオン(Cl)の含有量は、アルミナ成形体約1.0gを精秤して精製水で正確に10mLに調整した測定試料液をイオンクロマトグラフィーによって測定できる。イオンクロマトグラフィーは、例えば、東ソー製のイオンクロマト装置(カラム「TSKgel IC−Anion−PW 4.6×50」を備えている。)を用いて、温度:40℃、溶離液:TSK eluent IC−Anion−A、流量:1.5mL/min、サンプルサイズ:50μL、検出器:CMの条件の下で実施する。
【0021】
本発明によるアルミナ多層多孔質体の製造方法では、まず30〜5,000のアスペクト比(平均繊維長/平均繊維幅)を有するアルミナナノファイバーを含有するゾルである水性アルミナナノファイバーゾルを調製する。この水性アルミナナノファイバーゾルは、アルミナナノファイバーを分散させることができる方法で調製されればよく、その一例として、水中で加水分解性アルミニウム化合物を加水分解し、次いで、解膠して調製する方法(以下、「ゾル調製方法」と称する。)が挙げられる。このゾル調製方法において、加水分解の反応条件及び解膠の処理条件を後述する特定条件とすることにより、アスペクト比(平均繊維長/平均繊維幅)が50〜5,000のアルミナナノファイバー、例えば、アスペクト比(平均繊維長/平均繊維幅)が50〜5,000であり、平均繊維幅が2〜20nmであり、かつ、平均繊維長が100〜10,000nmであるアルミナナノファイバーを含有するゾルを調製することができる。
【0022】
このゾル調製方法に用いられる加水分解性アルミニウム化合物は、各種の無機アルミニウム化合物及び有機基を有するアルミニウム化合物が包含される。無機アルミニウム化合物としては、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム等の無機酸の塩、アルミン酸ナトリウム等のアルミン酸塩、水酸化アルミニウム等が挙げられる。有機基を有するアルミニウム化合物としては、例えば、炭酸アルミニウムアンモニウム塩、酢酸アルミニウム等のカルボン酸塩、アルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムn−ブトキシド、アルミニウムsec−ブトキシド等のアルミニウムアルコキシド、環状アルミニウムオリゴマー、ジイソプロポキシ(エチルアセトアセタト)アルミニウム、トリス(エチルアセトアセタト)アルミニウム等のアルミニウムキレート、アルキルアルミニウム等の有機アルミニウム化合物等が挙げられる。
【0023】
ゾル調製方法における加水分解性アルミニウム化合物は、これらのうち、適度な加水分解性を有し、副生成物の除去が容易であること等から、アルミニウムアルコキシドが好ましく、炭素数2〜5のアルコキシ基を有するものが特に好ましい。
【0024】
このゾル調製方法において、加水分解に使用する酸としては、硝酸、塩酸等の無機酸、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸等の有機酸等の一価の酸が好ましいが、無機酸は焼成後もアルミナ中に残存してしまうため、有機酸が特に好ましい。有機酸として、操作性、経済性の面で酢酸が特に好ましい。酸の使用量は、加水分解性アルミニウム化合物に対して0.2〜2.0モル倍であるのが好ましく、0.3〜1.8モル倍であるのが特に好ましい。酸の使用量が0.2モル未満であると得られるアルミナナノファイバーのアスペクト比が小さくなる場合があり、酸の使用量が2.0モルを超えると水性アルミナナノファイバーゾルの経時安定性が低下し、更に経済性の面で好ましくない。
【0025】
加水分解の条件は、100℃以下で0.1〜3時間が好ましい。加水分解温度が100℃を超えると突沸の恐れがあり、加水分解時間が0.1時間未満であると温度コントロールが困難であり、3時間を超えると工程時間が長くなる。
【0026】
加水分解する加水分解性アルミニウム化合物の酸水溶液の固形分濃度は2〜15質量%が好ましく、3〜10質量%が特に好ましい。この固形分濃度が2質量%未満であると得られるアルミナナノファイバーのアスペクト比が小さくなることがあり、固形分濃度が15質量%を超えると解膠中に反応液の撹拌性が低下することがある。
【0027】
このゾル調製方法においては、このようにして加水分解性アルミニウム化合物を加水分解して生成したアルコールを好ましくは留去した後に、解膠処理を行う。解膠処理は、100℃〜200℃で0.1〜10時間加熱し、更に好ましくは110〜180℃で0.5〜5時間処理する。加熱温度が100℃未満であると反応に長時間必要とし、200℃を超えると高圧の容器等を必要とし、経済的に不利となることがある。加熱時間が0.1時間未満であるとアルミナナノファイバーのサイズが小さく、保存安定性が低くなることがあり、10時間を超えると工程時間が長くなる。
【0028】
本発明によると、上述の解膠処理で得られた繊維状もしくは針状のアルミナナノファイバーゾルに塩基性化合物を混合する。塩基性化合物は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム若しくはアンモニア、又は、エチルアミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、尿素等の有機アミン類等が使用できる。塩基性化合物としては、焼成処理で除去され高純度アルミナ膜が形成されるため、アンモニア又は有機アミン類が好ましい。
【0029】
塩基性化合物の添加量は、母材のアルミニウム原子に対し0.02mol%以上1mol%以下であり0.05〜0.5mol%が特に好ましい。0.02mol%未満では期待する層状構造が得られず、また1mol%を超えると繊維状粒子が析出し成膜性が低下するため好ましくない。
【0030】
このようにして調製された水性アルミナナノファイバーゾルが高粘度である場合には、その中に気泡を含んでいることが多いため脱気処理をしてこれらの気泡を除去するのがよい。気泡を除去する方法としては、例えば、減圧処理、遠心処理等の各種脱気処理方法が挙げられる。必要に応じて脱気処理を施したアルミナナノファイバーゾルを、必要に応じて剥離剤をコーティングした支持体の上に塗布し、その後ゾルを乾燥させることによりアルミナ多層多孔質体が得られる。支持体の種類や乾燥条件に特に制限はなく、塗膜の厚さにもよるが、例えば、送風式オーブン等を用いて、数時間、100度以下で加熱すればよい。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例になんら限定されるものではない。
【0032】
分析装置
TEM観察:FEI−TECNAI−G20(200kV)
SEM観察に際して、多層多孔質体の断面を作製するために下記の処理を行った。
多層多孔質体を5mm以下の切片に切出し、Siウェハー片の上に試料、適量のエポキシ樹脂、カバーガラス片の順に乗せ熱硬化(130℃、1hr)させて固定した。樹脂包埋したサンプル片を、ハンディラップ(日本電子製:HLA-2000)を用いて断面が平滑になるまで予備研磨し、さらにイオンミリング装置(株)日立ハイテクノロジーズ製:E-3500)を用いて断面加工を行った。加工条件は加速電圧3〜6kV、放電電圧4kV、ステージコントロール1〜4、加工時間は3〜6hr処理した。得られた試料片をSEM観察((株)日立ハイテクノロジーズ製:S4800)に使用した。
熱伝導率は下記式より算出した。
熱伝導率=熱拡散率×密度×比熱
熱拡散率測定:周期加熱法熱拡散率測定装置(FTC−19)アルバック理工株式会社製
密度測定:AccuPyc1330(島津製作所社製)
比熱測定:Thermo plus EVO(株式会社リガク)
光反射率測定:CARY5000(Varian社製)
【0033】
実施例1
フラスコに、イオン交換水300g、酢酸6.2g(0.1mol)を取り、撹拌しながら液温を75℃に上昇させた。これに、アルミニウムイソプロポキシド68g(0.34mol)を滴下し、発生するイソプロピルアルコールを留出させたのち、反応液をオートクレーブに移し、120℃で、3時間反応を行った。反応液を、40℃以下に冷却し、反応を終了した。得られたアルミナ粒子を、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した結果、表1の実施例1に示す寸法を有するアルミナナノファイバーが分散してなるアルミナゾルが得られた。実施例1で得られた繊維状アルミナ粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)画像を図1に示す。
【0034】
実施例2〜4並びに比較例1及び2
酢酸量、イソプロピルアルコール留出後の反応温度、及び反応時間を変化させたことを除き、実施例1と同様にして、表1に示す各種寸法を有するアルミナゾルを作製した。
【0035】
実施例1〜4並びに比較例1及び2で調製したアルミナゾル50gと、28%アンモニア水3.4g(0.21mol%)又は0.017g(0.01mol%)をプラスチック製容器に入れ、20分間激しく振とうした。この分散液を、遠心機で脱気することにより、均一な分散液を得た。この分散液を、テフロン(登録商標)コートした容器(300mm×280mm×10mm)に流し込み、送風式オーブン内で、40℃、3時間乾燥した。得られた膜の外観を表1に示し、代表例として、実施例3で得られた膜の外観写真を図2に示し、また実施例3で得られた膜のイオンミリング処理した膜断面のSEM画像を図3に示した。SEM画像から、実施例1〜4で得られた膜は、表1に示す厚さを有する空隙層と、アルミナ多孔質層とが交互に積層した構造を有することを確認することができた。
実施例1〜4と比較例2で作製した自立膜の厚さ方向の熱伝導率を算出した結果を表1に示す。
また、実施例及び比較例で作製した自立膜の光反射率を図4に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
実施例5
実施例4で作製した多層多孔質膜を400℃、1000℃、1200℃で空気中で5時間焼成した。XRDで結晶系を確認した結果、γ-アルミナ(400℃)、θ-アルミナ(1000℃)、α-アルミナ(1200℃)であった。また空隙層の厚さをSEMで測定した結果、400℃処理膜は50−200nm、1000℃処理膜は30−150nm、1200℃処理膜は30−150nmであり、いずれも層状構造を保持していた。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明によるアルミナ多層多孔質体は、優れた熱安定性、電気絶縁性などを併せ持ち、遮熱塗膜や光反射膜として、更には光学材料、センサー素子、分離膜、光電気化学膜、イオン伝導膜、触媒担体またはLow-K材料としても利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゾルゲル法で作製されるアスペクト比(平均繊維長/平均繊維幅)が50〜5000の範囲内にあるアルミナナノファイバーの集積体からなる多孔質アルミナ層と、空隙層とが交互に積層してなることを特徴とするアルミナ多層多孔質体。
【請求項2】
前記多孔質アルミナ層の間隔が10〜500nmであることを特徴とする、請求項1に記載のアルミナ多層多孔質体。
【請求項3】
前記アルミナナノファイバーがベーマイト又は擬ベーマイトを含むことを特徴とする、請求項1に記載のアルミナ多層多孔質体。
【請求項4】
前記アルミナナノファイバーは、平均繊維幅が2〜20nmであり、かつ、平均繊維長が100〜10,000nmであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のアルミナ多層多孔質体。
【請求項5】
前記アルミナナノファイバーの結晶系が、擬ベーマイト、ベーマイト、γ-アルミナ、θ-アルミナ又はα-アルミナから選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のアルミナ多層多孔質体。
【請求項6】
平均繊維幅が2〜20nmであり、平均繊維長が100〜10000nmであり、かつ、アスペクト比が30〜5000である繊維状もしくは針状のアルミナナノファイバーゾルに塩基性化合物を混合し、得られた混合物を支持体の上に塗布して乾燥することにより得られることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のアルミナ多層多孔質体の製造方法。
【請求項7】
前記アルミナナノファイバーは、平均繊維幅が2〜20nmであり、かつ、平均繊維長が100〜10000nmであることを特徴とする、請求項6に記載のアルミナ多層多孔質体の製造方法。
【請求項8】
前記塩基性物質の添加量がAl原子に対し0.02〜1mol%であることを特徴とする、請求項6又は7に記載のアルミナ多層多孔質体の製造方法。
【請求項9】
前記アルミナナノファイバーゾルは、加水分解性アルミニウム化合物を加水分解し、次いで解膠することにより調製されることを特徴とする、請求項6〜8のいずれか1項に記載のアルミナ多層多孔質体の製造方法。

【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−82596(P2013−82596A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225268(P2011−225268)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成21年〜23年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ナノテク・先端部材実用化研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(390003001)川研ファインケミカル株式会社 (48)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】