説明

アルミニウムを含む苛性ソーダ廃液の処理方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、アルミニウム製品を苛性ソーダ処理液で処理した場合などに発生するアルミニウム含有苛性ソーダ廃液を処理して、再利用可能な苛性ソーダを回収する方法に関するものである。従って、本発明は、例えばアルミサッシ工場、アルマイト工場又はアルミニウムの押出し工場のダイスのアルカリ洗浄液より排出されるアルミニウム含有苛性ソーダ廃液処理に好適に適用することができる。
【0002】
【従来の技術】従来、金属アルミニウム又はアルミニウム合金を苛性ソーダ溶液で表面処理したり、溶解した際に排出されるアルミニウム含有苛性ソーダ廃液の処理方法としては、(1)酸を加えて中和処理する方法や、(2)バイヤー法を利用して水酸化アルミニウムと苛性ソーダ溶液を回収する方法があった。(1)の処理方法は、操作が簡単であるが、中和により生成するスラッジは、水酸化アルミニウムを主成分とするものであり、多量の水を含むのでその処理が困難であり、また苛性ソーダを再生して再利用することができなかった。(2)の処理方法では、反応時間に長時間(約24〜48時間)を要するばかりでなく、水酸化アルミニウムと苛性ソーダの分離が悪く、回収された苛性ソーダ溶液中にアルミニウムが、比較的多量に残存するため、回収苛性ソーダ溶液の再使用時に水酸化アルミニウムが析出し、スケールとして器壁に付着し、種々の障害が生じる。このため、グルコン酸ソーダ等のマスキング剤を使用するが、この場合苛性ソーダ溶液と水酸化アルミニウムの分離回収ができなかった。
【0003】そこで本発明者らは、水酸化カルシウムを添加して、カルシウムアルミネートと苛性ソーダ廃溶液を回収する方法(特公昭54−4720公報)を提案した。アルミニウムを含む苛性ソーダ廃液よりアルミニウムを3CaO・Al23 ・6H2 Oとして析出させて分離し、苛性ソーダを再生した。しかしながら、再生処理を繰り返し行うと、空気中の炭酸ガスが苛性ソーダ溶液中に吸収されて混入・蓄積し、炭酸ナトリウムを形成するので、再生溶液のエッチング能力が劣化するという課題があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明者は、アルミニウム含有苛性ソーダ廃液に酸化マグネシウム又は水酸化マグネシウムを特定量で添加して反応させると、苛性ソーダを85%以上の効率で回収できることを見出した。また、その再生処理反応により得られる副産物(反応生成物)は、マグネシウム及びアルミニウムだけでなく、炭酸イオンを含むので、それら不要成分を廃液から同時に除去することができ、更に、その副産物(反応生成物)が難燃剤などとして有用な化合物であることも見出した。従って、本発明の目的は、アルミニウム含有苛性ソーダ廃液の回収・再利用に関する従来技術の課題を解決すると共に、廃液処理によって生成する副産物を有効利用可能な形で提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、アルミニウムを含む苛性ソーダ廃液に、中和処理を実施することなく、アルカリ性の状態で、MgO及びMg(OH)2の少なくとも1つをアルミニウム1モル当たり0.5〜3モル添加して70℃以上で4時間以上反応させ、析出する一般式:MgxAly(OH)2X+3Y-2Z(CO3Z・nH2(式中、x及びyは0.5≦x/y≦10を満足する正の数であり、zは0.1<z<5を満足する数であり、nは0≦n<10を満足する数である)で表されるハイドロタルサイトを分離除去することを特徴とする、アルミニウムを含む苛性ソーダ廃液の処理方法に関する。
【0006】本発明方法によって処理される廃液は、苛性ソーダ溶液によってアルミニウム製品を処理して発生する任意の廃液であるが、本発明方法による処理の前に、苛性ソーダの濃度を、好ましくは300g/リットル以下、特に好ましくは80〜150g/リットルに調整する。苛性ソーダ濃度が300g/リットルを越えると、廃液の粘度が高くなり、処理反応により生じる結晶に付着する苛性ソーダ量が多くなるので、苛性ソーダの回収率が低下する。
【0007】MgO及び/又はMg(OH)2 の添加量は、苛性ソーダ廃液中のアルミニウム1モルに対して0.5〜3.0モルである。添加量が0.5モルよりも少ないと、処理後の回収苛性ソーダ溶液中にアルミニウムが多量に残存し、回収溶液を再利用すると水酸化アルミニウムが析出する。添加量が3.0モルを越えると、析出する結晶中に未反応のマグネシウム塩が多く残るので好ましくない。なお、処理後の回収苛性ソーダ溶液をアルミニウム製品の処理液として再利用する場合には、アルミニウム成分を完全に除去してしまうのはかえって好ましくない。
【0008】本発明方法の反応温度は、常圧下で、一般に70℃以上、好ましくは80〜120℃、特に好ましくは90〜110℃である。70℃よりも低温では、反応速度が遅く長時間を要するばかりでなく未反応のMgOが残存する。また、120℃を越えると加圧が必要になり、装置が複雑になる。本発明方法の反応時間は、4時間以上、好ましくは6時間〜8時間である。4時間以下では、未反応のMgOやMg(OH)2が結晶中に残存する。
【0009】アルミニウム含有苛性ソーダ廃液を前記のとおり本発明方法によって処理すると、マグネシウム・アルミニウム化合物が白色結晶として析出する。このマグネシウム・アルミニウム化合物は、一般式
【化1】
Mgx Aly (OH)2X+3Y-2Z(CO3Z ・nH2 O(式中、x及びyは0.5≦x/y≦10を満足する正の数であり、zは0.1<z<5を満足する数であり、nは0≦n<10を満足する数である)で表されるハイドロタルサイトである。
【0010】本発明方法によって得られた処理液から、前記のマグネシウム・アルミニウム化合物の白色結晶を、通常の分離方法、例えば、吸引濾過、遠心分離、又はフィルタープレスによって、母液から分離することができる。結晶を取り除いて得られた再生苛性ソーダ溶液は、マグネシウム及び炭酸イオンを含有せず、更に調整された量のアルミニウム成分を含有しているので、再びアルミニウム製品の処理液として利用することができる。
【0011】一方、本発明の処理方法によって副生される前記のハイドロタルサイトは、例えば、難燃剤として合成樹脂に充填剤として配合したり、チーグラー触媒の中和剤、又はポリ塩化ビニルの熱安定剤などとして利用することのできる有用な化合物であり、副生物の再処理や廃棄などの問題が生じない。
【0012】また、本発明方法によれば、バイヤー法を利用して水酸化アルミニウムと苛性ソーダ溶液とを回収する従来の方法と比べ、1/10〜1/30の時間で苛性ソーダ溶液を再生することができ、またマグネシウム塩の添加量により回収苛性ソーダ中のアルミニウム濃度を制御することができる。
【0013】
【実施例】以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。以下の各実施例において、苛性ソーダの回収率は、以下の計算式回収液中の総NaOH量/被処理廃液中のNa量を基準としたNaOH量から算出した。従って、酸化マグネシウム(MgO)又は水酸化マグネシウム〔Mg(OH)2 〕の添加量が増加すると、ハイドロタルサイト結晶の生成量が増加し、その結晶への付着水の量が増加するので、苛性ソーダが付着水を伴う結晶と共に系外に排出されるためNaOHの回収率は低下する。
【0014】実施例1アルミニウム表面処理苛性ソーダ廃液(Na=53.3g/リットル;Al=21.0g/リットル;及びCO3 =4.16g/リットル)10リットルに酸化マグネシウム(MgO)157gを添加し、液温100℃で7時間攪拌しながら反応させた。生成した結晶を分離し、得られた回収液(9.41リットル)の組成を分析したところ、Na=54.4g/リットル、Al=16.0g/リットル、及びCO3 =0.76g/リットルであった。また、分離した結晶を洗浄し、乾燥して得た結晶(443g)の組成を分析したところ、Na=0.02重量%、Al=12.0重量%、Mg=21.3重量%、及びCO3 =7.10重量%であった。なお、Naは、結晶に付着した水中に含まれる成分であり、結晶それ自体の構成成分ではない(以下同様)。NaOHの回収率は、96.0%であり、回収液へのMgの混入は0.005%以下であった。
【0015】実施例2酸化マグネシウム(MgO)の添加量を314gにすること以外は、実施例1に記載の処理を繰り返した。得られた回収液(9.12リットル)の組成は、Na=55.9g/リットル、Al=11.4g/リットル、CO3 =0.17g/リットルであった。また、分離し、洗浄及び乾燥した後の結晶(893g)の組成は、Na=0.01重量%、Al=11.4重量%、Mg=21.2重量%、及びCO3 =4.47重量%の組成であった。また回収液へのMgの混入は0.005%以下であり、NaOH回収率は95.6%であった。実施例2で得られた結晶の電子顕微鏡写真(10000倍)を図1R>1に示す。また、その結晶のX線回折チャート及び示差熱重量分析(TG・DTA)チャートを、それぞれ図2及び図3に示す。なお、これらの結果や、元素分析などから解析した結晶の組成は以下のとおりである。
【化2】Mg4.12Al2(OH)13.5(CO30.35・3.66H2
【0016】実施例3酸化マグネシウム(MgO)の添加量を628gにすること以外は、実施例1に記載の処理を繰り返した。得られた回収液(8.49リットル)の組成は、Na=55.6g/リットル、Al=1.51g/リットル、CO3 =0.22g/リットルであった。また、分離し、洗浄及び乾燥した後の結晶(1207g)の組成は、Na=0.02重量%、Al=16.19重量%、Mg=18.2重量%、及びCO3 =3.26重量%の組成であった。また、回収液へのMgの混入は0.001%以下であり、NaOH回収率は88.5%であった。
【0017】実施例4酸化マグネシウム(MgO)の添加量を941gにすること以外は、実施例1に記載の処理を繰り返した。得られた回収液(8.16リットル)の組成は、Na=56.5g/リットル、Al=0.06g/リットル、CO3 =0.21g/リットルであった。また、分離し、洗浄及び乾燥した後の結晶(1711g)の組成は、Na=0.02重量%、Al=12.3重量%、Mg=33.2重量%、及びCO3 =2.31重量%の組成であった。また回収液へのMgの混入は0.005%以下であり、NaOH回収率は86.5%であった。
【0018】実施例5酸化マグネシウム(MgO)157gを添加する代わりに、水酸化マグネシウム〔Mg(OH)2 〕453gを添加すること以外は、実施例1に記載の処理を繰り返した。得られた回収液(9.1リットル)の組成は、Na=55.0g/リットル、Al=14.3g/リットル、及びCO3 =4.56g/リットルであった。また、分離し、洗浄及び乾燥した後の結晶(886g)の組成は、実施例2で得られた結晶の組成とほぼ同じであった。さらに、回収液へのMgの混入は0.005%以下であり、NaOH回収率は93.9%であった。
【0019】
【発明の効果】本発明方法によれば、アルミニウム含有苛性ソーダ廃液から再利用可能な苛性ソーダを回収することができる。また、回収操作を繰り返し実施しても、炭酸イオン成分の累積が起こらないので、苛性ソーダ処理液の劣化を防ぐことができる。更に、副生物が有用な化合物であるので、副生物の再処理や廃棄などの問題が生じない。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例2で得られた結晶の構造を示す図面に代わる電子顕微鏡写真(10000倍)である。
【図2】実施例2で得られた結晶のX線回折チャートを示すグラフである。
【図3】実施例2で得られた結晶の示差熱重量分析(TG・DTA)チャートを示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 アルミニウムを含む苛性ソーダ廃液に、中和処理を実施することなく、アルカリ性の状態で、MgO及びMg(OH)2の少なくとも1つをアルミニウム1モル当たり0.5〜3モル添加して70℃以上で時間以上反応させ、析出する一般式:MgxAly(OH)2X+3Y-2Z(CO3Z・nH2(式中、x及びyは0.5≦x/y≦10を満足する正の数であり、zは0.1<z<5を満足する数であり、nは0≦n<10を満足する数である)で表されるハイドロタルサイトを分離除去することを特徴とする、アルミニウムを含む苛性ソーダ廃液の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【特許番号】特許第3161491号(P3161491)
【登録日】平成13年2月23日(2001.2.23)
【発行日】平成13年4月25日(2001.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−208784
【出願日】平成5年7月30日(1993.7.30)
【公開番号】特開平7−39884
【公開日】平成7年2月10日(1995.2.10)
【審査請求日】平成9年2月7日(1997.2.7)
【前置審査】 前置審査
【出願人】(000227250)日鉄鉱業株式会社 (82)
【参考文献】
【文献】特開 昭57−4289(JP,A)
【文献】特開 昭60−231416(JP,A)
【文献】特公 昭47−30821(JP,B1)