説明

アルミニウム熱交換器

【発明の詳細な説明】
〔産業上の利用分野〕
本発明は,芯材が強く,薄肉のチューブ,コアプレート等を有するアルミニウム熱交換器に関する。
〔従来技術〕
従来,真空ろう付け法で製造されるアルミニウム熱交換器は,ウォータチューブなど冷却水に接触する部分の材料として,下記のろう材と芯材と犠牲陽極層の3層からなるクラッド材が用いられていた。即ち,芯材としては,アルミニウム・マンガン(Al−Mn)合金に強度を高めるためマグネシウム(Mg)を0.3〜1.0%添加した合金を用いている。そして,更に耐食性を向上させるため,その芯材の水側面にアルミニウム・亜鉛(Al−Zn)合金,Al−Zn−Mg合金,若しくは純Alからなる犠牲陽極層がクラッドされている。そして,芯材の大気側はフィン等をろう付けするためAl−Si(シリコン)系合金がクラッドされている。
また,芯材とろう材との間に犠牲陽極層を介在させた3層構造のブレージングシートも提案されている(特公昭63-149号公報)。
また,これらのブレージングシートは,ろう付け処理が容易なフッ化物系フラックスを用いて,ろう付けすることが提案されている。
〔解決しようとする課題〕
しかしながら,フッ化物系フラックスを用いて,窒素(N2)雰囲気中でろう付けする方法においては,前記芯材の強度向上に必要な成分であるMgが,ろう付け時フラックスと反応しチューブ表面にMgの化合物,例えばフッ化マグネシウムカリウム(KMgF3)あるいはフッ化マグネシウム(MgF2)が生成される。
そして,このMg化合物によりAl−Si合金ろうの流動が阻害され,ろう付けが困難となる。そのため,例えばフィンとチューブとのろう付けが不完全となり,熱交換器の製造自体が不可能となるおそれがあった。
また,Mgを含まないAl−Mn合金を芯材として用いる場合には強度が不充分なため,熱交換器材料の薄肉化,軽量化が困難である。
本発明は,かかる従来の問題点に鑑み,ろう付け性に優れ,芯材が強く薄肉のチューブ,コアプレート等を有するアルミニウム熱交換器を提供しようとするものである。
〔課題の解決手段〕
本発明は,ブレージングシートをフッ化物系のフラックスを用いてろう付け組付けしてなるアルミニウム熱交換器において,上記ブレージングシートは,Al−Mg系合金の芯材と,Al−Si系合金のろう材と,上記芯材とろう材との間に設けた拡散防止層と,上記芯材表面に設けたAl−Zn系合金の犠牲陽極層とからなる4層のクラッド材からなり,かつ上記拡散防止層はMn0.2〜2.0%,Zr(ジルコニウム)0.05〜0.35%を含有し残部がAlと不可避不純物からなることを特徴とするアルミニウム熱交換器にある。
本発明において注目すべきことは,芯材とろう材との間にMgの拡散防止層を設けると共に,芯材表面には上記犠牲陽極層を設けた4層構造にしたことにある。しかして,この拡散防止層は,Mn0.2〜2.0%,Zr0.05〜0.35%を含有し,残部がAlと不可避不純物とからなる合金である。Mn及びZrがこれより少ない場合には,ろう付け時に芯材中のMgがフラックス中へ拡散し,充分なろう付けを行うことができない。また,Mn及びZrがこれ以上となると,巨大晶出物の生成などによりブレージングシートの製造が困難になるという問題を生ずる。また,拡散防止層の厚みは10〜100μmとすることが好ましい。10μm以下では,Mgの拡散を防止し難く,100μmを越えるとブレージングシート自体の厚みが増し,またコスト高となる。
また,芯材はAl−Mg系合金を用いる。ここに,Mgは0.3〜1.5%とすることが好ましい。0.3%未満では十分な芯材強度を得難く,1.5%を越えると芯材の加工性が低下するおそれがある。また,芯材は更に強度向上のためMnを0.2〜1.5%,Cu(銅)を0.1〜1.0%,Si,Feを0.1〜0.9%含有することが好ましい。
また,ろう材はAl−Si系合金を用いる。ここに,Siは7〜15%とすることが好ましい。7%未満では,ろう材としての作用が低く,一方15%を越えるとろう付性を害するおそれがある。また,犠牲陽極層はAl−Zn系合金を用いる。ここに,Znは0.3〜2.0%とすることが好ましい。0.3%未満ではろう付け処理後に犠牲陽極層に残留するZn量が少なくなり,芯材に対して電気化学的に卑になり難く耐食性が低下するおそれがある。また,2%を越えると犠牲陽極層が消耗し易く,犠牲陽極効果が長期間持続しないおそれがある。
また,これらは,ろう材,拡散防止層,芯材,犠牲陽極層の順で4層に積層したクラッド材としてブレージングシートを構成する。また,フッ化物系のフラックスとは,KAlF4,K3AlF6等をいう。また,このろう付けは主としてN2ガス雰囲気中において行う。
〔作用及び効果〕
本発明においては,前記拡散防止層が芯材とろう材との間に介在されている。そのため,従来のごとく,ろう付け時にフッ化物系のフラックスと芯材中のMgとが接触することがない。そのため,従来のごとく芯材中のMgがフラックスと反応してろう材の流動性を阻止し,ろう付け不良を生ずるということがない。
また,それ故に芯材中のMgは当初のまま芯材中に残留し,芯材の強度向上に寄与することができる。また,そのため熱交換器を構成するためのブレージングシートは全体として薄肉とすることができる。
したがって,本発明によれば,ろう付け性に優れ,芯材の強度が高く薄肉のチューブ,コアプレート等を有するアルミニウム熱交換器を提供することができる。
また,本発明において上記ブレージングシートは,チューブのみならず,コアプレート,インサートなど熱交換器用材料として用いることができることは勿論である。
〔実施例〕
次に,本例のアルミニウム熱交換器を,第1図及び第2図2図を用いて説明する。
本例の熱交換器の全体構成は,第2図に示すごとく,上下のコアプレート94,94の両側に設けたサイドプレート95,95と,これらの間において上下のタンク92,92の間に配設した多数のチューブ1と,該チューブ1の間に設けたフィン8とよりなる。上記チューブ1,フィン8,コアプレート94,94,サイドプレート95,95は互いにろう付けされている。上記コアプレート94は,ゴムリング(省図示)を介して,上下樹脂タンク92,92と機械的にかしめ結合されている。なお,同図の符号93は入口パイプ,96は出口パイプである。
また,第1図は上記チューブ1とフィン8との接合部の拡大断面図である。同図に示すように,チューブ1は,ろう材11,拡散防止層12,芯材13,犠牲陽極層14を順次積層した4層のクラッド材からなるブレージングシートである。そして,該チューブ1のろう材11側がフィン8とろう付けされ,犠牲陽極層が冷却水側に位置する。
次に,上記ブレージングシートを用いた熱交換器の強度およびろう付性の評価をするため,次のようにして熱交換器を組付けた。
まず,チューブとして次の各種類のものを作製した。即ち,芯材13として表−1,2に示す組成のAl合金を用い,この芯材13の水側面(チューブ内側)にAl−1%Zn合金よりなる犠牲陽極層14をクラッドした。この犠牲陽極層14の厚みは,ブレージングシートの全厚みの10%であった。次に,大気側面(チューブ外側)に下表に示すMn,Zrを含有するAl合金からなる拡散防止層12をブレージングシート全厚みの10%クラッドした。そして,更に該拡散防止層12の表面にAl−10%Si合金からなるろう材11をクラッドした。そして,全厚み0.4mmのブレージングシートとした。
しかして,上記ブレージングシートをロールフォーミングして偏平管形状に成形し,その端部を溶接してチューブ1を作製した。
一方,コアプレート94は,Al−1%Mn合金の芯材の一方側に前記と同様のろう材を,他方側に前記と同様の犠牲陽極層をクラッドしたものを用い,プレスにてクラッド率が10%,板厚が1.2mmとなるように成形した。
また,サイドプレート95は,A3003合金を用い,フィンと熱的接合するためフィン側のみ,ろう材をクラッドしたものである。
そして,上記チューブ1にフィン8およびサイドプレート95を組付けてコア部を形成し,次いでチューブ1の上下両端にコアプレート94,94を挿入する。この様にして熱交換器の構造部材を組付け,その状態をろう付け治具で保持し,3〜5%水溶液のフッ化物系フラックスを塗布,乾燥したのちN2雰囲気ろう付け炉へ搬入した。
ろう付け炉内は露点−40〜−50℃程度にしておき,かつ600℃程度の高温に保持されている。そして,このろう付け炉内で3〜5分程度加熱してチューブ1上の前記ろう材11,及びその他の材料のろう材を溶融し,チューブ1,フィン8,サイドプレート95,コアプレート94のろう付けを行う。そしてOリングを介して,樹脂タンク92,92をコアプレート94に重ね,両者を機械的かしめにより取付ける。
次に,上記のごとく構成した本発明のAl熱交換器(No.1〜No.10)について,引っ張り強度及びろう付け評価を行った。ろう付け評価は,フィンの未接着率を調査することにより行った。
その結果を,表−1,2に示す。なお,同表には拡散防止層を設けていない従来の熱交換器(No.C1〜C3)についても,その評価結果を併示した。




同表より知られるごとく,比較例C1はフィン未着率は0.2%以下と好ましいが,引っ張り強さは14.2kg/mm2と低い。これは,芯材のMg量が少ないためである。また,比較例C2,C3はMg量が多いため引っ張り強さは高いが,未着率が高くろう付け性が極めて悪いことが分る。
これに対して,本発明に係る4層クラッド材よりなるNo.1〜No.10は,引っ張り強さが比較例No.C1の約1.4〜1.7倍の約20〜24kg/mm2に達する。また,そのフィン未接着率は,いずれも0.2%以下と,極めて優れたろう付け性を示している。
このように,本例にかかるアルミニウム熱交換器は,優れたろう付け性及び強度を有することが分る。
以上のごとく,本発明にかかるアルミニウム熱交換器は,フッ化物系フラックスによるろう付けが可能であり,またその芯材強度も高いので,薄肉化によるコストダウンが可能になる。また,上例では本発明を自動車用ラジエータに適用した態様を示したが,本発明熱交換器は自動車用暖房装置の温水放熱器,冷房装置の冷媒凝縮器,蒸発器等としても利用可能である。
【図面の簡単な説明】
第1図は実施例におけるチューブとフィンの接合部分の断面図,第2図は実施例における熱交換器の一部切欠正面図である。
1……チューブ,11……ろう材,12……拡散防止層,13……芯材,14……犠牲陽極層,8……フィン,

【特許請求の範囲】
【請求項1】ブレージングシートをフッ化物系のフラックスを用いてろう付け組付けしてなるアルミニウム熱交換器において,上記ブレージングシートは,Al−Mg系合金の芯材と,Al−Si系合金のろう材と,上記芯材とろう材との間に設けた拡散防止層と,上記芯材表面に設けたAl−Zn系合金の犠牲陽極層とからなる4層のクラッド材からなり,かつ上記拡散防止層はMn0.2〜2.0%(重量比,以下同じ),Zr0.05〜0.35%を含有し残部がAlと不可避不純物からなることを特徴とするアルミニウム熱交換器。

【第1図】
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【第2図】
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【特許番号】第2577962号
【登録日】平成8年(1996)11月7日
【発行日】平成9年(1997)2月5日
【国際特許分類】
【出願番号】特願昭63−161988
【出願日】昭和63年(1988)6月29日
【公開番号】特開平2−11291
【公開日】平成2年(1990)1月16日
【出願人】(999999999)日本電装株式会社
【出願人】(999999999)住友軽金属工業株式会社
【参考文献】
【文献】特開 昭57−5840(JP,A)
【文献】特開 昭57−62858(JP,A)
【文献】特開 昭49−53147(JP,A)
【文献】特開 昭62−212094(JP,A)
【文献】特公 昭60−41696(JP,B2)
【文献】特公 昭62−40412(JP,B2)