説明

アルミニウム電解コンデンサ用電解液、およびそれを用いたアルミニウム電解コンデンサ。

【課題】耐久性、および火花電圧がいずれも高いアルミニウム電解コンデンサ用電解液を提供する。
【解決手段】非プロトン性溶媒(A)、特定の一般式で示されるイミダゾリウム系のカチオン(B)と特定の一般式で示される炭素数7〜10の1価の芳香族カルボン酸アニオン(C)との塩からなる電解質(D)、および炭素数5〜10である1価アルコール(F1)および/または炭素数2〜10である多価アルコール(F2)とホウ酸とが反応してなるホウ酸エステル(E)を含有するアルミニウム電解コンデンサ用電解液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム電解コンデンサ用電解液、およびそれを用いたアルミニウム電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、薄型テレビなどデジタル家電の薄型化・省エネルギー化に伴い、電解液の耐久性および火花電圧の高い電解液が要望されてきている。
従来、耐久性の高いアルミニウム電解コンデンサ用電解液としては、アルキル置換アミジン基を有する化合物の4級化物のカルボン酸塩を電解質とする、いわゆるアミジン系電解液(例えば特許文献1)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−148196
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されている、アルキル置換アミジン基を有する化合物の4級化物のカルボン酸塩を電解質とするアミジン系電解液は、火花電圧が低い課題がある。そこで火花電圧を高めるために酸強度の弱い一価のカルボン酸アニオンなどを用いると、水と反応し、ヒドロキシアニオンが発生するため、アミジン基を有する化合物の4級アンモニウムカチオンが開環し、耐久性が低下するという問題がある。
本発明は、耐久性、および火花電圧がいずれも高いアルミニウム電解コンデンサ用電解液、およびそれを用いたアルミニウム電解コンデンサを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の目的を達成するべく検討を行った結果、本発明に到達した。
すなわち本発明は、非プロトン性溶媒(A)、下記一般式(1)で示されるカチオン(B)と下記一般式(2)で示される炭素数7〜10の1価の芳香族カルボン酸アニオン(C)との塩からなる電解質(D)、および炭素数5〜10である1価アルコール(F1)および/または炭素数2〜10である多価アルコール(F2)とホウ酸とが反応してなるホウ酸エステル(E)を含有するアルミニウム電解コンデンサ用電解液及び、該電解液を使用したアルミニウム電解コンデンサである。
【化1】

[式中R〜Rは炭素数1〜3のアルキル基であり、R、Rは炭素数1〜3のアルキル基または水素原子である。]
【化2】

[式中R〜R10は炭素数1〜3のアルキル基または水素原子である。]
【発明の効果】
【0006】
本発明の電解液は、耐久性および、火花電圧がいずれも高い性能を有する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<電解質(D)>
本発明の電解液を構成する電解質(D)は、上記一般式(1)で示されるカチオン(B)と上記一般式(2)で示される炭素数7〜10の1価の芳香族カルボン酸アニオン(C)との塩からなる。
一般式(2)中、R〜R10の炭素数1〜3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基が挙げられ、それらの中でメチル基、エチル基が好ましく、さらに好ましくはメチル基である。
【0008】
炭素数7〜10の1価の芳香族カルボン酸アニオン(C)に対応する炭素数7〜10の1価の芳香族カルボン酸(C0)としては、安息香酸、2−メチル安息香酸、3−メチル安息香酸、4−メチル安息香酸、2,3−ジメチル安息香酸、2,4−ジメチル安息香酸、2,5−ジメチル安息香酸、2,6−ジメチル安息香酸、2,3,4−トリメチル安息香酸、2,3,5−トリメチル安息香酸、2,3,6−トリメチル安息香酸、2,4,5−トリメチル安息香酸、2,4,6−トリメチル安息香酸、3,4,5−トリメチル安息香酸、2−エチル安息香酸、3−エチル安息香酸、4−エチル安息香酸、2−(n−プロピル)安息香酸、3−(n−プロピル)安息香酸、4−(n−プロピル)安息香酸、2−(iso−プロピル)安息香酸、3−(iso−プロピル)安息香酸、4−(iso−プロピル)安息香酸等が挙げられる。
これらの中で比電導度の観点から、安息香酸、2−メチル安息香酸、3−メチル安息香酸、4−メチル安息香酸、2,3−ジメチル安息香酸、2,4−ジメチル安息香酸、2,5−ジメチル安息香酸、2,6−ジメチル安息香酸が好ましい。
【0009】
1価の芳香族カルボン酸アニオン(C)は一種または二種以上を併用してもよい。
【0010】
カチオン(B)は、上記一般式(1)で示される。
一般式(1)中、R〜Rの炭素数1〜3のアルキル基としてはメチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基が挙げられる。R、Rの炭素数1〜3のアルキル基としてはメチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基が挙げられる。
カチオン(B)の具体例としては、1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリニウム、1,3,4−トリメチル−2−エチルイミダゾリニウム、1,3−ジメチル−2,4−ジエチルイミダゾリニウム、1,2−ジメチル−3,4−ジエチルイミダゾリニウム、1−メチル−2,3,4−トリエチルイミダゾリニウム、1,2,3,4−テトラエチルイミダゾリニウム、1,2,3−トリメチルイミダゾリニウム、1,3−ジメチル−2−エチルイミダゾリニウム、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリニウム、1,2,3−トリエチルイミダゾリニウム、4−シアノ−1,2,3−トリメチルイミダゾリニウム、3−シアノメチル−1,2−ジメチルイミダゾリニウム、2−シアノメチル−1,3−ジメチルイミダゾリニウム、4−アセチル−1,2,3−トリメチルイミダゾリニウム、3−アセチルメチル−1,2−ジメチルイミダゾリニウム、4−メチルカルボオキシメチル−1,2,3−トリメチルイミダゾリニウム、3−メチルカルボオキシメチル−1,2−ジメチルイミダゾリニウム、4−メトキシ−1,2,3−トリメチルイミダゾリニウム、3−メトキシメチル−1,2−ジメチルイミダゾリニウム、4−ホルミル−1,2,3−トリメチルイミダゾリニウム、3−ホルミルメチル−1,2−ジメチルイミダゾリニウム、3−ヒドロキシエチル−1,2−ジメチルイミダゾリニウム、4−ヒドロキシメチル−1,2,3−トリメチルイミダゾリニウム、2−ヒドロキシエチル−1,3−ジメチルイミダゾリニウムなどが挙げられる。
【0011】
上記の中で、さらに好ましくは1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリニウムカチオン、1,3,4−トリメチル−2−エチルイミダゾリニウム、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリニウムカチオンである。
【0012】
電解質(D)中のアニオンとカチオンとのモル比率(アニオン/カチオン)は、コンデンサ部材{アルミニウム電解コンデンサの封口ゴム、および酸化アルミニウム箔等}の腐食の観点から、好ましくは0.8〜1.2、更に好ましくは0.9〜1.1、特に好ましくは0.95〜1.05である。
モル比率が0.8〜1.2であると、電解液の液性がアルカリ性に偏らず、アルミニウム電解コンデンサの封口ゴムであるブチルゴムが劣化しにくく、この結果、電解液がコンデンサから漏れる等の不具合が生じにくい。また、電解液の液性が酸性に偏らず、陽極の酸化アルミニウム箔が腐食されにくく、この結果、ショート等の不具合が生じにくい。
【0013】
電解質(D)の具体例としては、安息香酸1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリニウム、安息香酸1,3,4−トリメチル−2−エチルイミダゾリニウム、安息香酸1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリニウム、2−メチル安息香酸1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリニウム、2−メチル安息香酸1,3,4−トリメチル−2−エチルイミダゾリニウム、2−メチル安息香酸1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリニウム、3−メチル安息香酸1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリニウム、3−メチル安息香酸1,3,4−トリメチル−2−エチルイミダゾリニウム、3−メチル安息香酸1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリニウム、4−メチル安息香酸1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリニウム、4−メチル安息香酸1,3,4−トリメチル−2−エチルイミダゾリニウム、4−メチル安息香酸1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリニウム、2,3−ジメチル安息香酸1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリニウム、2,3−ジメチル安息香酸1,3,4−トリメチル−2−エチルイミダゾリニウム、2,3−ジメチル安息香酸1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリニウム、2,4−ジメチル安息香酸1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリニウム、2,4−ジメチル安息香酸1,3,4−トリメチル−2−エチルイミダゾリニウム、2,4−ジメチル安息香酸1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリニウム、2,5−ジメチル安息香酸1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリニウム、2,5−ジメチル安息香酸1,3,4−トリメチル−2−エチルイミダゾリニウム、2,5−ジメチル安息香酸1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリニウム、2,6−ジメチル安息香酸1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリニウム、2,6−ジメチル安息香酸1,3,4−トリメチル−2−エチルイミダゾリニウム、2,6−ジメチル安息香酸1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリニウムなどが挙げられる。これらの中で安息香酸1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリニウム、安息香酸1,3,4−トリメチル−2−エチルイミダゾリニウム、安息香酸1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリニウムが好ましい。
【0014】
<ホウ酸エステル(E)>
ホウ酸エステル(E)は、炭素数5〜10である1価アルコール(F1)および/または炭素数2〜10である多価アルコール(F2)とホウ酸とを以下の反応条件で反応してなるものである。反応生成物は多種類の化合物の混合物であり、組成で正確に記載することは困難である。
反応条件:ホウ酸と(F1)および/または(F2)を混合し、その混合物を60〜90℃に加熱し除々に減圧して4.0〜6.0kPaにしてエステル化(脱水)を行う。目標の圧力に到達した後、さらに100〜110℃まで加熱してエステル化する。4.0〜6.0kPaで水分と低沸分を留去し終わるまで反応してホウ酸エステル(E)を得ることができる。
【0015】
ホウ酸とアルコールの当量比(ホウ酸/アルコール)は、0.1/0.01〜0.1/0.3、さらに好ましくは0.1/0.02〜0.1/0.15である。
【0016】
ホウ酸エステル(E)中に含まれるホウ素含有量は、好ましくは7〜16重量%、より好ましくは9〜13重量%である。ホウ酸エステル(E)中のホウ素含量が7重量%以上である場合は突発的なショートの発生を抑える効果が大きい。ホウ酸エステル(E)中のホウ素含量が16重量%以下の場合は電解液中への溶解性が良好である。
ホウ酸エステル(E)を添加する効果としては、酸強度の弱い一価の芳香族カルボン酸アニオンのアミジン系電解液にホウ酸エステルを加えることにより、カルボン酸アニオンが安定化されるため、アミジン基を有する化合物の4級アンモニウムカチオンが開環しないので、耐久性が高くなると推定される。
【0017】
ホウ酸エステル(E)中のホウ素含量は、次の方法で測定することができる。
100mLビーカーに試料を秤量(Sg)し、グリセリン溶液(グリセリン:イオン交換水=等容量)50mLを加え、0.1mol/L苛性カリ標準液で電位差滴定を行い、変曲点までに要した0.1mol/L苛性カリ標準液の滴定量(AmL)を求める。
下記式により算出し、2回以上の試験結果の差がホウ素含量として0.2%以内で一致した時の平均値を少数点以下1位まで求める。
ホウ素含量(重量%)={(A×f×1.08)/(S×1000)}×100
ここでfは0.1mol/L苛性カリ標準液の力価を示す。
【0018】
炭素数(以下Cと記載することがある。)5〜10である1価アルコール(F1)としては、アルカノール(芳香環含む)、(ポリ)アルキレングリコール(Cが2〜9)モノアルキル(Cが1〜8)エーテルが挙げられる。
具体例としては以下のものが挙げられる。
(1)1価のアルコール
(a)アルカノール
1−ペンチルアルコール、2−ペンチルアルコール、3−ペンチルアルコール、1−ヘキシルアルコール、2−ヘキシルアルコール、3−ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ベンジルアルコールなど。
(b)アルキレングリコールアルキルエーテル
エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノペンチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノヘプチルエーテル、エチレングリコールモノオクチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルなど。
【0019】
炭素数2〜10である多価アルコール(F2)としては、以下のものが挙げられる。
(2)2価のアルコール
ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、2,3−ブチレングリコール、など。
(3)3価以上のアルコール
グリセリン、1,2,3−ブタントリオール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、1,2,3−シクロヘキサントリオール、1,3,5−シクロヘキサントリオール、1,2,6−シクロヘキサントリオール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、1,2,3,4−ブタンテトラオール、エリトリトール、リビトールなど。
【0020】
炭素数5〜10である1価アルコール(F1)または炭素数2〜10である多価アルコール(F2)であるアルコール(F)は、(F1)と(F2)の一種または二種以上を併用してもよく、ホウ酸エステルになった際の、電解液への溶解性の観点から、アルキレン(Cが2〜10)グリコールまたはアルキレン(Cが2〜9)グリコールモノアルキル(Cが1〜8)エーテルが好ましい。ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールが特に好ましい。
【0021】
1価アルコール(F1)の炭素数が4以下になると、コンデンサの封口ゴムを通過してホウ酸が析出してコンデンサのショートを招くため好ましくない。また、1価のアルコールまたは多価アルコールの炭素数が10を超えるとホウ酸エステルになった際、粘度が高くなるため、取り扱いが困難になり、また、電解液の比電導度を低下させるため好ましくない。
【0022】
<非プロトン性溶媒(A)>
非プロトン性溶媒(A)としては、(1)エーテル、(2)アミド、(3)オキサゾリジノン、(4)ラクトン、(5)ニトリル、(6)カーボネート、(7)スルホン、(8)その他の有機溶媒が含まれる。
【0023】
(1)エーテル
モノエーテル(エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、テトラヒドロフラン、3−メチルテトラヒドロフランなど)、ジエーテル(エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルなど)、トリエーテル(ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルなど)。
【0024】
(2)アミド
ホルムアミド(N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミドなど)、アセトアミド(N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−エチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミドなど)、プロピオンアミド(N,N−ジメチルプロピオンアミドなど)、ピロリドン(N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドンなど)、ヘキサメチルホスホリルアミドなど。
【0025】
(3)オキサゾリジノン
N−メチル−2−オキサゾリジノン、3,5−ジメチル−2−オキサゾリジノンなど。
【0026】
(4)ラクトン
γ−ブチロラクトン(以下、GBLと記す。)、α−アセチル−γ−ブチロラクトン、β−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトンなど。
【0027】
(5)ニトリル
アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、ベンゾニトリルなど。
【0028】
(6)カーボネート
エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなど。
【0029】
(7)スルホン
スルホラン、ジメチルスルホンなど。
【0030】
(8)その他の有機溶媒
1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、芳香族溶媒(トルエン、キシレンなど)パラフィン溶媒(ノルマルパラフィン、イソパラフィンなど)など。
【0031】
非プロトン性溶媒(A)は、一種または二種以上を併用してもよい。これらのうち、ラクトンおよびスルホンが好ましく、さらに好ましくはγ−ブチロラクトン、スルホランであり、特に好ましくはγ−ブチロラクトンである。
【0032】
本発明のアルミニウム電解コンデンサ用電解液は、非プロトン性溶媒(A)と、上記一般式(1)で示されるカチオン(B)と1価の芳香族カルボン酸アニオン(C)との塩を主電解質として含有する。ここで主電解質として含有するとは、本発明の電解コンデンサ用電解液中に含有される電解質の50wt%(wt%は重量%のことであり、以下この表記を使用することがある。)以上は電解質(D)であることを示すものとする。
【0033】
ホウ酸エステル(E)の含有量は、比電導度と火花電圧の両方の観点から、非プロトン性溶媒(A)、電解質(D)およびホウ酸エステル(E)の合計重量に基づいて、好ましくは1〜30wt%、特に好ましくは2〜15wt%である。
電解質(D)の含有量は、比電導度と非プロトン性溶媒への溶解度の観点から、非プロトン性溶媒(A)、電解質(D)およびホウ酸エステル(E)の合計重量に対して、好ましくは5〜60wt%、特に好ましくは10〜50wt%である。
有機溶媒(A)の含有量は、比電導度の観点から、非プロトン性溶媒(A)、電解質(D)およびホウ酸エステル(E)の合計重量に対して、好ましくは30〜90wt%、特に好ましくは50〜90wt%である。
【0034】
本発明の電解液には必要により、電解液に通常用いられる種々の添加剤を添加することができる。該添加剤としては、ニトロ化合物(例えば、o−ニトロ安息香酸、p−ニトロ安息香酸、m−ニトロ安息香酸、o−ニトロフェノール、p−ニトロフェノールなど)などを挙げることができる。その添加量は、比電導度と電解液への溶解度の観点から、非プロトン性溶媒(A)、電解質(D)およびホウ酸エステル(E)の合計重量に対して、好ましくは5wt%以下、特に好ましくは2wt%以下がよい。
【0035】
本発明の電解液は、アルミニウム電解コンデンサ用として好適である。アルミニウム電解コンデンサとしては、特に限定されず、例えば、捲き取り形のアルミニウム電解コンデンサであって、陽極表面に酸化アルミニウムが形成された陽極(酸化アルミニウム箔)と陰極アルミニウム箔との間に、セパレーターを介在させて捲回することにより構成されたコンデンサが挙げられる。本発明の電解液を駆動用電解液としてセパレーターに含浸し、陽陰極と共に、有底筒状のアルミニウムケースに収納した後、アルミニウムケースの開口部を封口ゴムで密閉してアルミニウム電解コンデンサを構成することができる。
【実施例】
【0036】
次に本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
<製造例1>
ジメチルカーボネート(0.2mol)のメタノール溶液(74wt%)に、2,4−ジメチルイミダゾリン(0.1mol)を滴下して、120℃で15時間攪拌することで、1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリニウム・メチルカーボネート塩のメタノール溶液を得た。
【0037】
安息香酸(0.1mol)を、1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリニウム・メチルカーボネート塩(0.1mol)のメタノール溶液に加え、塩交換反応を行い、1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリニウム・安息香酸アニオンのメタノール溶液を得た。上記溶液を1.0kPa以下の減圧度、50℃で、メタノールの留出がなくなるまで加熱してメタノールを蒸留した後、温度を50℃から100℃に上昇させて30分加熱してモノメチルカーボネート(HOCOCH)、メタノール及び二酸化炭素(メタノール及び二酸化炭素は、モノメチルカーボネートの熱分解により僅かに生成する。以下、これらを副生物と略する。)を蒸留することで、電解質(D‐1){1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリニウム・安息香酸アニオン}を得た。収率は99wt%{1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリニウム・メチルカーボネート塩(0.1mol)の重量に基づく収率、以下同様。}であった。
【0038】
<製造例2>
安息香酸の代わりに2−メチル安息香酸を用いた他は、製造例1と同様にして、電解質(D−2){1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリニウム・2−メチル安息香酸アニオン}を得た。収率は99wt%であった。
【0039】
<製造例3>
安息香酸の代わりに3、4−ジメチル安息香酸を用いた他は、製造例1と同様にして、電解質(D−3){1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリニウム・3、4−ジメチル安息香酸アニオン}を得た。収率は99wt%であった。
【0040】
<製造例4>
ジメチルカーボネート(0.2mol)のメタノール溶液(74wt%)に、2−エチル4−メチルイミダゾリン(0.1mol)を滴下して、120℃で15時間攪拌することで、1,3,4−トリメチル―2−エチルイミダゾリニウム・メチルカーボネート塩のメタノール溶液を得た。
【0041】
安息香酸(0.1mol)を、1,3,4−トリメチル―2−エチルイミダゾリニウム・メチルカーボネート塩(0.1mol)のメタノール溶液に加え、塩交換反応を行い、1,3,4−トリメチル―2−エチルイミダゾリニウム・安息香酸アニオンのメタノール溶液を得た。上記溶液を1.0kPa以下の減圧度、50℃で、メタノールの留出がなくなるまで加熱してメタノールを蒸留した後、温度を50℃から100℃に上昇させて30分加熱してモノメチルカーボネート(HOCO2CH3)、副生物を蒸留することで、電解質(D‐4){1,3,4−トリメチル―2−エチルイミダゾリニウム・安息香酸アニオン}を得た。収率は99wt%{1,3,4−トリメチル―2−エチルイミダゾリニウム・メチルカーボネート塩(0.1mol)の重量に基づく収率、以下同様。}であった。
【0042】
<製造例5>
安息香酸の代わりに2−メチル安息香酸を用いた他は、製造例4と同様にして、電解質(D−5){1,3,4−トリメチル―2−エチルイミダゾリニウム・2−メチル安息香酸アニオン}を得た。収率は99wt%であった。
【0043】
<製造例6>
ホウ酸(1.0mol)とジエチレングリコール(0.19mol)とトリエチレングリコールモノメチルエーテル(0.12mol)を混合し、80℃に加熱し、除々に減圧して4.0kPaにしてエステル化を行い、さらに105℃まで加熱することでエステル化と低沸分を留去することでホウ酸エステル(E−1)を得た。ホウ酸エステル(E−1)のホウ素含量は12.0%であった。
【0044】
<製造例7>
ホウ酸(0.56mol)とジエチレングリコール(0.3mol)とトリエチレングリコールモノメチルエーテル(0.2mol)を混合し、80℃に加熱し、除々に減圧して4.0kPaにしてエステル化を行い、さらに105℃まで加熱することでエステル化と低沸分を留去することでホウ酸エステル(E−2)を得た。ホウ酸エステル(E−2)のホウ素含量は7.1%であった。
【0045】
<製造例8>
ホウ酸(0.8mol)とエチレングリコール(0.4mol)とジエチレングリコールモノメチルエーテル(0.2mol)を混合し、80℃に加熱し、除々に減圧して4.0kPaにしてエステル化を行い、さらに105℃まで加熱することでエステル化と低沸分を留去することでホウ酸エステル(E−3)を得た。ホウ酸エステル(E−3)のホウ素含量は10.2%であった。
【0046】
<比較製造例1>
フタル酸(川崎化成工業社製)(0.1mol)を、1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリニウム・メチルカーボネート塩(0.1mol)のメタノール溶液に加え、塩交換反応を行い、1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリニウム・フタル酸モノアニオンのメタノール溶液を得た。上記溶液を1.0kPa以下の減圧度、50℃で、メタノールの留出がなくなるまで加熱してメタノールを蒸留した後、温度を50℃から100℃に上昇させて30分加熱してモノメチルカーボネート(HOCOCH)、副生物を蒸留することで、比較電解質(D’‐1){1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリニウム・フタル酸モノアニオン}を得た。収率は99wt%であった。
【0047】
<比較製造例2>
マレイン酸(0.1mol)を、1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリニウム・メチルカーボネート塩(0.1mol)のメタノール溶液に加え、塩交換反応を行い、1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリニウム・マレイン酸モノアニオンのメタノール溶液を得た。上記溶液を1.0kPa以下の減圧度、50℃で、メタノールの留出がなくなるまで加熱してメタノールを蒸留した後、温度を50℃から100℃に上昇させて30分加熱してモノメチルカーボネート(HOCOCH)、副生物を蒸留することで、比較電解質(D’‐2){1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリニウム・マレイン酸モノアニオン}を得た。収率は99wt%であった。
【0048】
<実施例1>
14.6gの電解質(D−1)を非プロトン性溶媒(A)γ−ブチロラクトン82.5gに溶解させた。そこにホウ酸エステル(E−1)を2.9g添加して混合し、本発明の電解液を得た。
【0049】
<実施例2>
14.2gの電解質(D−1)を非プロトン性溶媒(A)γ−ブチロラクトン80.2gに溶解させた。そこにホウ酸エステル(E−1)を5.6g添加して混合し、本発明の電解液を得た。
【0050】
<実施例3>
13.6gの電解質(D−1)を非プロトン性溶媒(A)γ−ブチロラクトン77.3gに溶解させた。そこにホウ酸エステル(E−1)を9.1g添加して混合し、本発明の電解液を得た。
【0051】
<実施例4>
14.2gの電解質(D−4)を非プロトン性溶媒(A)γ−ブチロラクトン80.2gに溶解させた。そこにホウ酸エステル(E−1)を5.6g添加して混合し、本発明の電解液を得た。
【0052】
<実施例5>
14.2gの電解質(D−2)を非プロトン性溶媒(A)γ−ブチロラクトン80.2gに溶解させた。そこにホウ酸エステル(E−1)を5.6g添加して混合し、本発明の電解液を得た。
【0053】
<実施例6>
14.2gの電解質(D−3)を非プロトン性溶媒(A)γ−ブチロラクトン80.2gに溶解させた。そこにホウ酸エステル(E−1)を5.6g添加して混合し、本発明の電解液を得た。
【0054】
<実施例7>
14.2gの電解質(D−5)を非プロトン性溶媒(A)γ−ブチロラクトン80.2gに溶解させた。そこにホウ酸エステル(E−1)を5.6g添加して混合し、本発明の電解液を得た。
【0055】
<実施例8>
14.2gの電解質(D−1)を非プロトン性溶媒(A)γ−ブチロラクトン80.2gに溶解させた。そこにホウ酸エステル(E−2)を5.6g添加して混合し、本発明の電解液を得た。
【0056】
<実施例9>
14.2gの電解質(D−1)を非プロトン性溶媒(A)γ−ブチロラクトン80.2gに溶解させた。そこにホウ酸エステル(E−3)を5.6g添加して混合し、本発明の電解液を得た。
【0057】
<比較例1>
15.0gの電解質(D−1)を非プロトン性溶媒(A)γ−ブチロラクトン85.0gに溶解させることで、比較例1の電解液を得た。
【0058】
<比較例2>
15.0gの比較電解質(D’‐1)を非プロトン性溶媒(A)γ−ブチロラクトン85.0gに溶解させることで、比較例2の電解液を得た。
【0059】
<比較例3>
14.2gの比較電解質(D’‐1)を非プロトン性溶媒(A)γ−ブチロラクトン80.2gに溶解させた。そこに、ホウ酸エステル(E−1)を5.6g添加したが、溶解せず均一な溶液は得られなかった。
【0060】
<比較例4>
14.2gの比較電解質(D’‐2)を非プロトン性溶媒(A)γ−ブチロラクトン80.2gに溶解させた。そこにホウ酸エステル(E−1)を5.6g添加して混合し、比較例4の電解液を得た。
【0061】
実施例1〜9、比較例1〜4で得た電解液を用い、下記の方法で、125℃で1000時間経過後の比電導度の変化率、火花電圧を評価し、その結果を表1に記載した。125℃で1000時間経過後の比電導度の変化率は耐久性を評価するものである。
【0062】
比電導度の変化率:125℃で1000時間耐熱試験後の電解液について、東亜電波工業株式会社製電導度計CM−40Sを用い、30℃での比電導度を測定した。比電導度の変化率(%)は以下の式により算出した。
初期の比電導度:125℃で1000時間耐熱試験を開始する前の電解液について、30℃での比電導度を測定した。
比電導度の変化率=100×[(初期の比電導度)−(耐熱試験後の比電導度)]/(初期の比電導度)
【0063】
火花電圧:陽極に2cmのプレーンなアルミニウム箔、陰極に2cmのプレーンなアルミニウム箔を用い、25℃において、一定電流(20mA)を負荷したときの電解液の火花電圧を測定した。
【0064】
【表1】

【0065】
表1から明らかなように、本発明(実施例1〜9)の電解液は比較例1〜4の電解液に比べて、火花電圧が高く、比較例1に比べて比電導度の経時変化が少ないことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の電解液を使用することで、耐久性および火花電圧が高いアルミニウム電解コンデンサを実現できる。したがって、市場における使用電源の長寿命化が進むなかで、この発明の電解液の市場価値は非常に大きい。
本発明の電解液は、車載電装用電源用やデジタル家電用のアルミニウム電解コンデンサに特に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非プロトン性溶媒(A)、下記一般式(1)で示されるカチオン(B)と下記一般式(2)で示される炭素数7〜10の1価の芳香族カルボン酸アニオン(C)との塩からなる電解質(D)、および炭素数5〜10である1価アルコール(F1)および/または炭素数2〜10である多価アルコール(F2)とホウ酸とが反応してなるホウ酸エステル(E)を含有するアルミニウム電解コンデンサ用電解液。
【化1】

[式中R〜Rは炭素数1〜3のアルキル基であり、R、Rは炭素数1〜3のアルキル基または水素原子である。]
【化2】

[式中R〜R10は炭素数1〜3のアルキル基または水素原子である。]
【請求項2】
非プロトン性溶媒(A)、電解質(D)およびホウ酸エステル(E)の合計重量に対して、ホウ酸エステル(E)の含有量が、1〜30重量%である請求項1に記載の電解液。
【請求項3】
ホウ酸エステル(E)中に含まれるホウ素含有量が、7〜16重量%である請求項1または2に記載の電解液。
【請求項4】
アルコール(F)が、2価アルコール、および/または2価アルコールのモノアルキルエーテルである請求項1〜3のいずれか1項に記載の電解液。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の電解液を用いてなるアルミニウム電解コンデンサ。

【公開番号】特開2013−51242(P2013−51242A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187091(P2011−187091)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)