説明

アルミノ珪酸カルシウム及び速硬性混和材

【課題】 温度に拘わらず安定して高い早期強度発現性をモルタルやコンクリート等に付与できる高ガラス化率のアルミノ珪酸カルシウムの提供及び温度が上昇しても早期強度発現性の低下が十分抑制され、且つ可使時間と長期強度発現性も確保することも容易な速硬性混和材を提供する。
【解決手段】 化学成分としてのCaOとAl23の合計含有量100質量部に対し、SiO2を6〜14質量部とCaOを除く原子価が2価の金属酸化物0.6〜1.8質量部を含有するガラス化率50%以上のアルミノ珪酸カルシウム。並びに、該アルミノ珪酸カルシウム、石膏類及び凝結促進成分を有効成分とする速硬性混和材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性組成物に速硬性を付与することができるアルミノ珪酸カルシウム及び速硬性混和材に関する。
【背景技術】
【0002】
水和反応活性物質であるアルミノ珪酸カルシウムは、一般にカルシウムアルミネートのような過激な水和反応活性を呈することはない。このため、遅延成分と併用等して所望の可使時間を確保したい場合や、瞬結性までは要しないモルタルやコンクリート等に速硬性を付与させる混和材として用られる。そして、ガラス化が進んだ構造のアルミノ珪酸カルシウムほど、より強い速硬性が得られることが知られている。(例えば、特許文献1参照。)さらに、不純物や異物の如く少量の他の無機成分がアルミノ珪酸カルシウムの構造中に取り込まれて存在するものや、固溶したものでも、水和反応活性を有する限り、速硬性を付与させることが可能である。しかも、含まれる不純物や異物によっては、速硬性に加えて他の特性も併せて付与できる可能性がある。この種の「異物」として原子価が3の金属の酸化物(アルミニウムの酸化物を除く。)が挙げられ、これを含むアルミノ珪酸カルシウムを主成分とする混和材をモルタルやコンクリートに配合すると、速硬性に加え、異物を実質含まないアルミノ珪酸カルシウムでは得ることができないような高い長期強度発現性が得られる。(例えば、特許文献2参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−97932号公報
【特許文献2】特許平5−330875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、原子価が3の金属酸化物(酸化アルミニウムを除く。)を含むアルミノ珪酸カルシウムを主成分とする混和材は、常温近傍及びそれ以下の温度ではモルタルやコンクリート等に概ね安定した速硬性を付与できるが、それより高い温度では、温度上昇に伴いモルタルやコンクリート等の早期強度発現性(速硬性)が急激に弱まるという傾向があった。この傾向は、とりわけガラス化が進んだ構造のものほど顕著である。そこで本発明は、この問題の解決、即ち、温度に拘わらず安定して高い早期強度発現性をモルタルやコンクリート等に付与できる高ガラス化率のアルミノ珪酸カルシウムの提供及び温度が上昇しても早期強度発現性の低下が十分抑制され、且つ長期強度発現性にも優れ、可使時間の確保も行い易い速硬性混和材の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、前記課題解決のため検討した結果、アルミノ珪酸カルシウムを構成する化学成分としてのSiO2の含有量を規定し、これに特定の金属酸化物を含有させた高ガラス化率のアルミノ珪酸カルシウムが温度にかかわりなく概ね安定した速硬性を有するという知見を得、また該アルミノ珪酸カルシウムと石膏類を有効成分とする混和材が温度が上昇してもモルタルやコンクリート等の早期強度発現性が安定して得られ、優れた長期強度発現性も有し、また可使時間も確保し易かったことから本発明を完成させた。
【0006】
即ち、本発明は、次の(1)で表すアルミノ珪酸カルシウム及び(2)〜(3)で表す速硬性混和材である。(1)化学成分としてのCaOとAl23の合計含有量100質量部に対し、SiO2を6〜14質量部とCaOを除く原子価が2の金属酸化物0.6〜1.8質量部を含有するガラス化率50%以上のアルミノ珪酸カルシウム。(2)前記(1)のアルミノ珪酸カルシウム、石膏類及び凝結促進剤を有効成分とする速硬性混和材。(3)さらに凝結遅延成分を含有する前記(2)の速硬性混和材。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、常温よりも高い温度を含む、例えば5〜40℃のような広い温度範囲で、温度上昇による速硬性の顕著な低下を起こさず、概ね安定した早期強度発現性を有するアルミノ珪酸カルシウムが得られる。しかも、高ガラス化率のアルミノ珪酸カルシウムであるため、より高い速硬性を付与することができると共に、石膏や凝結調整成分等との併用で優れた長期強度発現性や所望の可使時間をセメントペースト、モルタル及びコンクリート等に付与できる速硬性混和材が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のアルミノ珪酸カルシウムは、主要化学成分としてCaO、Al23、SiO2、CaOを除く原子価が2価の金属酸化物を含むガラス化率が50%以上の水硬性物質であって、CaOとAl23の合計含有量100質量部に対し、SiO2の含有量が6〜14質量部及びCaOを除く原子価が2価の金属酸化物を0.6〜1.8質量部含有するものである。より好ましくは、CaOとAl23の合計含有量100質量部に対し、SiO2の含有量が10.5〜12.5質量部及びCaOを除く原子価が2価の金属酸化物を0.9〜1.5質量部含有するものである。SiO2の含有量が6質量部未満では可使時間確保に適したアルミノ珪酸カルシウムが得難くなるので好ましくなく、また、CaOを除く原子価が2の金属酸化物を0.6質量部未満では高温での速硬性低下を十分抑制できないので好ましくない。また、SiO2の含有量が14質量部を超えるものやCaOを除く原子価が2価の金属酸化物の含有量が1.8質量部を超えるものでは温度に拘わらず速硬性が低くなるため好ましくない。アルミノ珪酸カルシウムを形成するCaOとAl23の組成は制限されない。好ましくは化学成分としてのCaOとAl23の含有モル比がCaO/Al23で35/50〜45/40とする。この範囲のモル比のものは他の範囲のものよりも高い速硬性が得られる可能性がある。これ以外の成分の含有も本発明の効果を実質的に喪失させるものでない限り、許容される。
【0009】
また、本発明のアルミノ珪酸カルシウムは、モルタルやコンクリート等に十分な早期強度発現性を付与させることができることからガラス化率が50%以上のものとする。ガラス化率が50%未満のものは高い速硬性が得られないので好ましくない。ここでガラス化率は次の方法で導出することができる。即ち、質量;MSのアルミノ珪酸カルシウムに含まれる各鉱物の質量を粉末エックス線回折により内部標準法等で定量し、定量できた含有鉱物相の総和質量;MCを算出し、残部が純ガラス相と見なし、次式でガラス化率を求める。
ガラス化率(%)=(1−MC/MS)×100
【0010】
本発明のアルミノ珪酸カルシウムで使用される、CaO、Al23、SiO2、及びCaOを除く原子価が2価の金属の酸化物の原料は特に限定されるものではない。一例を挙げると、CaO源として、炭酸カルシウム、石灰石又は生石灰等が例示される。また、Al23源として、ボーキサイト、水酸化アルミニウム、バン土頁岩又はコランダム等が例示される。また、SiO2源として、硅砂、白土、珪藻土又は石英(水晶)等が例示される。さらに、CaOを除く原子価が2価の金属酸化物として、他のアルカリ土類金属酸化物(例えばMgO、SrO、BaOなど)や周期律表第4及び第5周期の第3族から第12族の何れかの金属(但し、原子価が2価)の酸化物が挙げられる。好ましくは、MgO又は周期律表第4周期の第3族から第12族の何れかの金属(但し、原子価が2価)の酸化物が挙げられる。最も好ましくはFeOを挙げることができる。FeOを使用する場合の原料源としては、ウスタイトの他、ヘマタイト等を含む鉄鉱石を加熱還元したものが使用できる。
【0011】
本発明のアルミノ珪酸カルシウムは、例えば前記のような原料を用い、所定の配合に混合する。これを、例えば電気炉、反射炉、アーク炉等を用いて約1300〜1850℃で加熱し、当該温度から急冷することで得られる。急冷方法は、水中急冷法以外の方法で行うのが望ましく、その範囲で限定されない。
【0012】
また、本発明の速硬性混和材は、前記本発明のアルミノ珪酸カルシウムと石膏類と凝結促進成分を有効成分とするものである。ここで石膏類は、無水石膏、半水石膏、二水石膏、硫酸カルシウムの何れでも良く、2種以上混在したものでも良い。好ましくは可使時間の確保容易性や強度発現性が高まることから無水石膏、より好ましくはII型無水石膏とする。石膏類を速硬性混和材の有効成分に加えることで、早期強度発現性(速硬性)を減退させずに、強度発現性を長期にわたり十分伸ばすことができる。また、膨張作用があるためモルタルやコンクリートの収縮ひび割れ抑制効果も期待できる。アルミノ珪酸カルシウムと石膏類の混和材中の含有割合は特に制限されない。好ましくは、アルミノ珪酸カルシウム含有量100質量部に対し、石膏類含有量20〜200質量部とする。石膏類含有量20質量部未満では、長期強度発現性が低迷することがあり、石膏類含有量が200質量部を超えると過膨張を起こし、逆にひび割れの原因となることがある。
【0013】
また、本発明の速硬性混和材は、早期強度発現性を殆ど低減させずに所望の可使時間を付与することにも適しており、この場合、可使時間確保のために凝結遅延成分を含有することが望ましい。特に、高温環境で十分な可使時間を確保しようとする場合は凝結遅延成分を配合することが必要である。凝結遅延成分としては、モルタルやコンクリートに凝結遅延剤として使用できるものなら何れのものでも良い。具体例を示すと、クエン酸、酒石酸、グルコン酸又はヘプトン酸等のカルボン酸類又はその塩、ホウ酸塩、リン酸塩等の無機塩を挙げることができる。凝結遅延成分の速硬性混和材中の含有量は特に制限されるものではない。好ましくは、アルミノ珪酸カルシウム含有量100質量部に対し、凝結遅延成分含有量0.1〜10質量部とするが、例えば温度環境や施工量等の使用時の態様に応じて適宜使用量を変更することが推奨される。より好ましくは、高温で施工するモルタルやコンクリートに使用する混和材ほど配合量を高めるのが良い。最も好ましくは、例えば35〜40℃の高温で使用するものでは、常温(約20℃)で使用するものに比べるとおよそ1.5〜2倍程度の遅延成分配合量、概ね5℃以下の低温で使用するものに比べるとおよそ5〜6倍程度の遅延成分配合量を目安とするのが良い。0.1質量部未満だと含有効果が現れないことがあり、10質量部を超えると凝結が遅くなり過ぎることがある。
【0014】
また、本発明の速硬性混和材は凝結促進成分の含有を必須とする。凝結促進成分の含有により、凝結始発時間を所望の時間に調整し易くなる。また、凝結促進成分の使用は凝結始発時間が過度に遅れないようにする上で有効である。加えて、高温下での凝結始発時間の遅れ防止にも有効である。凝結促進成分は、モルタルやコンクリートで使用できるものであれば特に限定されない。具体例を示すと、アルカリ金属の硫酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、硝酸塩、亜硫酸塩及び水酸化物の群から選定される何れか1種以上、アルカリ土類金属酸化物等を挙げることができる。好ましくは炭酸リチウムが挙げられる。凝結促進成分の速硬性混和材中の含有量は特に制限されるものではない。好ましくは、アルミノ珪酸カルシウム含有量100質量部に対し、凝結促進成分含有量0.1〜20質量部とする。0.1質量部未満だと含有効果が現れないことがあり、20質量部を超えると確保できる可使時間が短くなり過ぎることがある。
【0015】
本発明の速硬性混和材は、上記の成分以外にも、本発明の効果を実質喪失させたり、グラウトとして使用するに値しないものにならない限り、任意の成分を含有することができる。このような成分として、例えば、モルタルやコンクリートに使用できる、分散安定成分、気泡調整成分、耐凍結融解成分、流動化促進成分、中性化調整成分等を挙げることができる。また、本発明の速硬性混和材の粒度は用途等に応じて適宜選定すれば良く、特に制限されるものではない。実用的な例を示すと、可使時間の確保が行い易く且つ速硬性を満たすに適当な粒度としては、ブレーン比表面積で約3000〜8000cm2/g、より高い速硬性を求めようとする場合はコスト面も考慮するとブレーン比表面積で4000〜7000cm2/gが挙げられる。
【0016】
本発明の速硬性混和材の使用方法等は限定されるものではない。具体的には例えば各種のポルトランドセメントを始め、何れの水硬性セメントととでも併用でき、また、モルタルやコンクリートに使用できる他の混和材(剤)とも併用することができる。このような他の混和材として、具体的には、各種の減水剤(分散剤)、収縮低減剤、膨張材、繊維、セメント用ポリマー、増粘剤、鉱滓微粉、空気連行剤、消泡剤、ポゾラン反応性物質等を挙げることができる。
【実施例】
【0017】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明は記載された実施例に限定されるものではない。
【0018】
[アルミノ珪酸カルシウムの作製]
何れも市販粉末の、CaCO3、Al23及びSiO2、並びに原子価が2価の金属の酸化物として何れも市販試薬のFeO、MgO、CuO又はZnOを用い、ヘンシェル型混合機を使用し、表1に表す配合量となるよう混合物を作製した。尚、参考のため原子価が3価の金属酸化物として市販試薬のFe23を配合使用したものも同様に作製した。作製した混合物は大気雰囲気の電気炉中で約1800℃に加熱し、当該温度で60分間保持した後、直ちに炉外に取出した。取出した加熱後の混合物は、その表面に冷却用の窒素ガスを流速約30ml/秒で吹き付け、急冷処理を行った。急冷物をボールミル粉砕し、分級処理を行い、ブレーン比表面積約5000〜6000cm2/gのアルミノ珪酸カルシウム粉末を得た。この粉末のガラス化率を、粉末エックス線回折装置を用い、前記の算出方法に基づいて測定した。ガラス化率の結果も表1に記す。
【0019】
【表1】

【0020】
[混和材の作製]
次いで、このアルミノ珪酸カルシウム粉末、市販のII型無水石膏(ブレーン比表面積約8000cm2/g)、クエン酸(市販試薬)、硫酸ナトリウム(市販試薬)及び炭酸リチウム(市販試薬)から選定される材料を表2に表す配合となるようヘンシェル型混合機で乾式混合し、混和材を作製した。ここで、クエン酸は最後に配合され、その配合量も配合時及びその後の使用時の温度環境によって次のように変化させた。即ち、表2の混和材1〜23(混和材17を除く。)において、5℃で混合し、使用する混和材には0.1質量部、20℃で混合し、使用する混和材には0.4質量部、35℃で混合し、使用する混和材には0.6質量部それぞれ配合させる。
【0021】
【表2】

【0022】
[評価]
前記の如く作製した混和材と、普通ポルトランドセメント(太平洋セメント株式会社製)とを表3の配合関係となるようにした上で、さらに該混和材と普通ポルトランドセメントの総量100質量部に対し、水38質量部を加え、ホバート型ミキサーで5℃、20℃及び35℃の温度でそれぞれ混合した。該混合で得られたセメントペーストは、直ちに恒温室内に移され、それぞれ混合時の温度を維持したままJIS R 5201による方法で凝結時間を測定した。その結果を表3に表す。また、該セメントペースト混合作成終了後、セメントペーストがフレッシュな状態のうちに、内径5mm、高さ10mmの円柱形型枠に充填し、混練時と同じ温度のもとで、6時間及び28日間放置した。所定時間放置後は、脱型し、得られた供試体(硬化体)の一軸圧縮強度を測定した。その結果も表3に纏めて表す。
【0023】
【表3】

【0024】
以上の結果から、本発明によるアルミノ珪酸カルシウムは、常温より高い温度でも従来のアルミノ珪酸カルシウムに比べると早期強度発現性の低下が大幅に抑制できていることがわかる。しかも長期強度発現性も目立った低下もなく良好である。また、高い早期強度が得られるにもかかわらず、遅延成分との併用でこのような早期強度発現性を維持したまま長い可使時間を容易に確保できるものであることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学成分としてのCaOとAl23の合計含有量100質量部に対し、SiO2を6〜14質量部とCaOを除く原子価が2価の金属酸化物0.6〜1.8質量部を含有するガラス化率50%以上のアルミノ珪酸カルシウム。
【請求項2】
請求項1記載のアルミノ珪酸カルシウム、石膏類及び凝結促進成分を有効成分とする速硬性混和材。
【請求項3】
さらに凝結遅延成分を含有する請求項2記載の速硬性混和材。

【公開番号】特開2012−246161(P2012−246161A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117943(P2011−117943)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)
【Fターム(参考)】