説明

アレルギー疾患の予防又は治療のための重水素を有する水を含む組成物及びその調製プロセス

本発明はアレルギー疾患の予防又は治療のための医薬及び食品組成物並びにその調製プロセスに関する。本発明のプロセスは、0.01〜135ppmの重水素含量を有する水(好ましくは既知の電気分解又は蒸留により調製される)を通常の添加物と混合し、この混合物を通常の医薬又は食品工業的方法により、好ましくは薬剤、ノンアルコール飲料又はビールの製造において用いられる標準的な調味料、香料及び他の添加物を適用することにより医薬又は食品製品に製剤化することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、アレルギー疾患の予防又は治療のための医薬及び食品工業用組成物並びにその調製プロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多数の科学刊行物(FEBS Lett. 317、1〜4ページ、1993年;Termeszetgyogyaszat 10、29〜32ページ、1996年;Kisallatorvoslas 3、114〜5ページ、1996年;Erfahrungsheilkunde 7、381〜88ページ、1997年;J.R.Heys及びD.G.Melillo(編)、Synthesis and Applications of Isotopically Labelled Compounds、John Wiley and Sons Ltd.、137〜141ページ、1997年)、並びにハンガリー特許(登録番号第208084号、第209787号、第214593号、第214824号)は、自然に存在する重水素は細胞分裂の制御において重要な役割を果たすという認識に基づくものであった。言及された特許に記載された動物実験のほか、重水素枯渇水(「Dd水」と略記され、重水素は以下の部分においてDと略記される)の抗腫瘍効果はヒトでのテスト実験においても証明された。2年間の長期ヒト第II相二重盲験臨床試験(この試験では参加した医師も被験者もどの患者が薬剤を受け、どの患者がプラセボを受けたのか知らなかった)において、前立腺癌患者の治療群と対照群との間で有意差が観察された。この試験は、本発明者らの早期の動物及びヒトでの研究結果を明解に確かめるものであった。
【0003】
治験と独立して、総計で1290名の患者が過去15年間で400トンのDd水を消費した。これらの症例は、腫瘍細胞は重水素枯渇に対して敏感に反応し、症例の圧倒的大部分(70〜80%)において低下した重水素濃度に適応できず、結果として腫瘍塊の部分的又は完全な退縮を生じることをはっきりと示した。
【0004】
多数の興味深い知見が15年間を超える長期の患者追跡中に取得された。アレルギー患者での知見は、Dd水はアレルギー疾患に典型的な愁訴を低減又は除去したという予期しない結果をもたらした(詳細は下で議論される)。
【0005】
本発明は、飲料水としてのDd水の消費はアレルギー疾患の症状を予防し、減少させ又は除去し、それ故に疾患の予防又は治療に適しているという知見に基づく。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様として、本発明は、0.01〜135ppmの重水素含量を有する水を含む医薬組成物及び食品組成物の調製のためのプロセスに関し、これら組成物はアレルギー疾患の予防又は治療に適している。適用される0.01〜135ppmの重水素含量を有するDd水は、好ましくは既知の電気分解及び/又は蒸留により、又は他の方法[Howard K.Rae(編)、水素同位体の分離(Separation of Hydrogen Isotopes)、American Chemical Society Symposium Series 68、Washington D.C.、1978年;Stelio Villani(編)、同位体の分離(Isotope Separation)、American Nuclear Society、1983年]により調製され、得られる水は、通常の添加物(例えば調味料、香料など)を添加し、特に薬剤、ノンアルコール飲料又はビールの製造に用いられる当該分野の通常の方法を適用することにより、医薬組成物又は食品組成物に製剤化される。
【0007】
別の態様として、本発明は、
a)0.01〜135ppmの重水素含量を有する水を医薬工業において適用される通常の添加物と共に含む、アレルギー疾患の予防又は治療のための医薬組成物、及び
b)0.01〜135ppmの重水素含量を有する水を食品工業において適用される通常の添加物と共に含む、アレルギー疾患の予防又は治療のための食品組成物
に関する。
【0008】
上の組成物のいずれにおいても、0.01〜135ppmの重水素含量を有する水は、既知の電気分解及び/又は蒸留、又はDd水を生じさせる任意の他の既知の方法により調製される。
【0009】
好ましい実施形態において、適用されるDd水の重水素濃度は、5〜125ppm、より好ましくは50〜110、さらにより好ましくは75〜90ppmである。しかし、ヒトの消費については、特に治療の最初の2〜3ヶ月の間は好ましいDd含量は105〜130ppmであり、次の2〜3ヶ月の間は80〜105ppmである。
【0010】
Dd水の投与が予防として成功しなかった場合、より低い濃度のDd水が治療段階で適用され得ることに留意されたい。その上、Dd水を用いた治療成功後、Dd水は同一又は異なるD濃度で将来のアレルギー性の発作に対する予防剤として適用され得る。したがってDd水の場合、予防及び治療は結果的に適用され得るもので、互いを完全なものにしている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】HT−29細胞におけるCOX−2発現に対する異なる濃度のDOの効果を示す図である。
【図2】HT−29細胞における異なる濃度でのプロスタグランジン産生に対するDDWの効果を示す図である。
【図3】HT−29細胞におけるMAPキナーゼ(ERK)のFCS誘導性リン酸化に対するDOの効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
水の重水素濃度は赤外分光測光により、波長4μmでのO−D結合の吸収極大に基づいて決定された。水サンプルをキュベットに満たすと、水を通過する赤外光は重水素含量に応じて吸収され、この吸収が装置により検出される。D含量が既知の水を用いた装置較正の後、テストサンプル中のD量が決定され得る(Analytical Biochemistry 98、208〜213、1979年)。
【0013】
下に我々はDd水の生産のための2つの好ましいプロセス、すなわち電気分解及び蒸留について記載するが、これらのプロセスはDd水を大量に比較的低コストで作るのに適している。
【0014】
a)15〜20%のKOH水溶液は電位2〜5Vでの直流電流により互いに分離された陰極及び陽極を用いて電気分解される。陰極上に発生し、減少された濃度の重水素を含有する水素は燃焼されて、形成される蒸気が濃縮され、別個に収集される。得られる水の重水素含量は30〜40ppmである(水素同位体の分離(Separation of Hydrogen Isotopes)、編:Howard K.Rae、American Chemical Society Symposium Series 68、Washington D.C.、1978年;同位体の分離(Isotope Separation)、編:Stelio Villani、American Nuclear Society、1983年)。得られる水の重水素含量はさらなる電気分解により、6〜20ppmさらに減少され得る。
【0015】
b)水は50〜150プレートの分画カラム中で50〜60mbarの圧力下、温度45〜50℃で蒸留される。蒸留過程において還流値は12〜13であり、蒸留中、下部では10倍希釈が適用される。これらのパラメーターを適用すると、先頭の産物の重水素濃度は0.1から30ppmの間である(水素同位体の分離(Separation of Hydrogen Isotopes)、編:Howard K.Rae、American Chemical Society Symposium Series 68、Washington D.C.、1978年;同位体の分離(Isotope Separation)、編:Stelio Villani、American Nuclear Society、1983年)。カラム操作過程でのパラメーターの変更、例えばカラム充填量を顕著に増加させることを通じて、30ppmより高いD濃度のDd水が大量に生産され得る。さらなる可能性は、水のD濃度を減少させてDd水を同様の連結カラム上でさらなる分画蒸留プロセスに供することである。
【0016】
上述の(又は任意の他の)方法により生産されるDd水は出発原料として用いられる。
【0017】
本明細書において用いられる句「医薬組成物」は動物用組成物をも含む。
【0018】
句「アレルギー疾患」に関しては、我々は以下に解釈を示すものとする。
【0019】
アレルギーは、免疫系が環境中の無害の物質に対して反応する時に起こる。免疫系は非常に複雑であるため、物事が悪化する機会が多い。環境中の無害の物質に対して反応し始めた時、この反応はアレルギー反応を導き得るが、これは通常は無害な物質に対する大げさで有害な免疫応答である。
【0020】
アレルギー疾患を持つ人がチリダニ又は草の花粉などの一般的な環境物質に曝露されると、あるタイプの白血球細胞(Bリンパ球)がIgEとして知られるその物質に対する特異的な抗体を産生する。このIgEはその後、別のタイプの白血球細胞(マスト細胞)に付着し、マスト細胞は再びその物質と接触することになると、アレルギーに至る複雑な免疫応答を開始する。
【0021】
アレルギーを持つ異なる人々は異なる物質に対してアレルギーを起こす。人々が一般的にアレルギーを起こす物質のいくつかには、チリダニ、草木からの花粉や、ネコ、イヌ、ウマを含む動物のフケ、カビや、木の実、ピーナッツ、甲殻類、魚、乳、卵、小麦を含む食品その他が挙げられる。
【0022】
アレルギーを持つ異なる人々はまた、アレルギーを起こす物質に曝露された時に異なった反応を示す。いくつかの一般的な反応には、アレルギー性湿疹又はじん麻疹、アレルギー性鼻炎(花粉症)、アレルギー性喘息、アナフィラキシー、くしゃみ、鼻づまり及び目の刺激が挙げられる。同様の症状はいくつかの動物においても起こる。
【0023】
本発明による医薬組成物又は食品組成物の製剤化にあっては、任意の通常の添加物[例えば甘味料、着色料、増粘剤、調味料(調味剤)、pH調整剤、界面活性剤、香料、果実濃縮物、安定剤など]が適用され得るが、これら添加物は医薬工業(動物用組成物を生産する工業をも含む)及び食品工業において既知であり、後者の場合には特にビール及びノンアルコール飲料の製造において適用されるものである。ここで我々は添加物が普通の(天然の)重水素含量を有する水であり得ることを強調したい。
【0024】
本発明による組成物の調製にあっては、医薬工業及び食品工業(動物用組成物を生産する工業をも含む)の任意の標準的な(既知の)製剤化方法が適用され得る。
【0025】
本発明の組成物の調製プロセスにおけるDd水を使用することから、液体の形態が有利な製剤タイプであることがもたらされる。しかし、特に食品工業の適用において、調製される組成物は固体(又は半固体、ゲル、コロイド混合物など)の形態であり得る。この場合、製剤はDd水のみを含有し、すなわちその消費により治療された体の平均重水素含量は増加しない、すなわちこれらの製剤は、液体形態の組成物によりなされる基本的な治癒を補充することができる。
【0026】
本発明の手順の主な利点は以下の通りである。
a)合成の「薬剤」を用いることなくアレルギーの過程への介入を可能にし、疾患の過程に有益に影響する。
b/本手順で用いられるDd水は毒性の副作用を持たない。
c/生産プロセスは有害な廃棄物を生成しない。
d/組成物は容易に製造される。
【0027】
上述したように、アレルギー疾患の治療におけるDd水のいくつかの重要な肯定的効果は我々が実践した中で見出された。最も価値のある結果は以下のように要約される。
【0028】
アレルギー患者の群の1つ(10名の患者)は毎年、主に春季に花粉症に苦しんでいた。彼らは我々のチームにD含量105又は125ppmのDd水の消費後、症状が完全に消失した又は顕著に弱まったことを報告した。
【0029】
別の患者は毎年、より強い症状のくしゃみ、鼻づまり及び目の刺激に苦しんでいたが、症状が定期的に現れる3〜4週間前にDd水(85ppm)の消費を開始した後、全ての症状を予防することができた。
【0030】
重篤なアレルギー反応を持つ患者の1人は症状を軽減するために長い期間服薬していた。Dd水(85ppm)の消費を開始した後、患者は服薬をやめることができた。
【0031】
Dd水の動物用使用の可能性に関して、我々は非常に深刻な鼻づまりに苦しむウマに対するDd水の肯定的な効果を報告することができる。ウマは85ppmのD含量のDd水をおよそ150〜200リットル消費していると、無症状になった。最も驚くべき結果はこの唯一無二のDd水での治癒の後、症状が次の年に現れなかったことであった。
【0032】
上の実践的経験からもたらされるように、本発明によるプロセスで得られる組成物はアレルギー疾患の予防又は治療に適している。この効果において決定的であろう分子メカニズムが試験されている。予備的な結果は、Dd水により誘導される生物中のDレベルの減少がある特定の遺伝子の発現に影響し得ることを示唆する。症状の改善又は除去についての説明は、Dd水により誘導される遺伝子発現の変化がアレルギー症状の引き金となる原因に対して適切に応答するというものであり得る。ヒトにおいてDd水を用いて得られた結果は本発明によるプロセスのアレルギー疾患治療への適合性の証拠となる。
【0033】
詳細な統計的に支持された薬理学的試験はまだ行われていないにも関わらず、見出された医薬的効果の理論的背景を発見するために以下の考察がなされ得る。しかし、我々は下に議論される複雑で、主に未発見のアレルギーの理論的背景に関する理論に縛られない。
【0034】
薬理学的試験及び実験
アレルギー応答は、誰においても通常は無害な又は免疫応答の原因となることのない物質に対する過敏性の免疫反応である。
【0035】
リンパ球は免疫及びアレルギーの両方において中心的な役割を果たす白血球細胞である。リンパ球は2つのタイプ、T及びBリンパ球に分けられる。各タイプは免疫系の特定の部門に関与する。外来物質を攻撃する作用に直接的に転じられるようにしておくことがTリンパ球の役目である(細胞性免疫)。いくつかのTリンパ球は「殺傷」を専門にしている(細胞障害性又はキラーT細胞)一方、他方は免疫応答を補助して「ヘルパー」細胞(TH細胞)と呼ばれる。TH細胞は放出するタンパク質に応じて、さらにTH1(感染症と戦う細胞)及びTH2(アレルギーを促進する細胞)に分けられる。Tリンパ球のパートナーはBリンパ球である。Bリンパ球はTH細胞により、そうするように刺激された時に外来物質の破壊を助ける抗体を産生する、小さな抗体工場である。
【0036】
好塩基球及び好酸球はアレルギーにおいて重要な役割を果たす他の白血球細胞である。T細胞はしばしばこれらの細胞をアレルギー状態において働かせる。好酸球の血中レベルは喘息及び他のアレルギー疾患を持つ人々において一般的に上昇している。
【0037】
サイトカインはリンパ球により放出される小さいタンパク質であり、免疫応答を増加又は低下させることができる。サイトカインの1つであるインターロイキン4(IL4)はIgE産生に不可欠である。インターロイキン5(IL5)等は他の細胞、とりわけ好酸球を誘引するのに重要であり、それで炎症を促進する。この範囲のサイトカインはまたTH2リンパ球によっても放出され、それ故にアレルギー性の炎症をさらに促進する。
【0038】
治療的介入の主なポイント3つがアレルギー疾患の治療について提案される。A)第1の可能性は、免疫応答の開始を阻止し、それにより疾患を促進するTヘルパー2(T2)のアレルゲンに対する応答の発達を予防することである。例えば、若い時の介入によるもの。B)第2の可能性は、直接的又は間接的に抗原提示細胞に対する作用を通じてアレルゲン特異的T2細胞の活性化を阻止することである。例えばグルココルチコイドなどの抗炎症薬を用いた治療によるもの、又はアレルゲン免疫療法によるもの。C)第3の可能性は、アレルギー疾患の臨床症状の原因となるエフェクター分子を阻止することである。例えば抗ヒスタミン薬、ロイコトリエンアンタゴニスト、T2サイトカインに特異的な中和抗体又はIgEに特異的な抗体を用いた治療によるもの。ILはインターロイキン、TCRはT細胞受容体である(Nature Reviews Immunology 5、271〜283ページ(2005年4月)、アレルギー及び喘息におけるインターロイキン10分泌性制御性T細胞の潜在的役割(Potential role of interleukin−10−secreting regulatory T cells in allergy and asthma)、C.M.Hawrylowicz及びA.O’Garra)。
【0039】
他の結果は、チロシンリン酸化はIL−2を介したシグナル伝達に決定的であり、MAPキナーゼはこの経路に関与する細胞内の中間体の1つであることを明らかにした(組換えインターロイキン2による芽細胞中のフィトヘマグルチニンにおけるマイトジェン活性化プロテインキナーゼ/ERK−2の活性化:CD3活性化との特徴の対比(Activation of mitogen−activated protein kinase/ERK−2 in phytohaemagglutin in blasts by recombinant interleukin−2: contrasting features with CD3 activation)、R M Fairhurst、M Daeipour、M C Amaral及びA E Nel、Immunology、1993年5月、79(1)、112〜118ページ)。他の論文もまたIL誘導性のケモカイン放出におけるMAPキナーゼの関与を証明する(ヒト気道平滑筋細胞中のIL−1β誘導性ケモカイン放出におけるp38 MAPK、JNK、p42/p44 ERK及びNF−κBの関与(Involvement of p38 MAPK、JNK、p42/p44 ERK and NF−κB in IL−1β−induced chemokine release in human airway smooth muscle cells)(Wim A.Wuyts、Bart M.Vanaudenaerde、Lieven J.Dupont、Maurits G.Demedts及びGeert M.Verleden、Respiratory Medicine、2003年7月、97(7)、811〜817ページ)。
【0040】
特異的な経路を明らかにするには、重水素枯渇の適用が何を用いてアレルギー反応を軽減又は予防するかに関してさらなる基礎及び臨床研究が必要であるが、利用可能な結果に基づくと、Dd水はアレルギー反応において中心的な役割を有する分子メカニズムに影響するという明確な証拠がある。
【0041】
上述したように、例えば抗炎症薬を用いた治療による、直接的又は間接的に抗原提示細胞に対する作用を通じたアレルゲン特異的T2細胞活性化の阻止はアレルギー疾患を治療する1つの可能性である。
【0042】
非ステロイド性抗炎症薬の主な標的がプロスタグランジン合成に関与するCOX−2遺伝子であることは周知である。実験はヒト結腸起源の腫瘍細胞系(腺癌)を用いて行われた。細胞は10パーセントのウシ胎児血清(FCS)を含有するRPMI培地中で二酸化炭素恒温装置(5パーセントのCO、95パーセントの空気)の中で培養された。細胞が培養皿内のスペースのほとんどを埋めたら(70パーセントのコンフルエンス値)、血清は24時間取り除かれた。血清を欠如させた後、細胞は重水素枯渇水を用いて調製されたRPMI培地を与えられ、24時間後にMTT(小規模培養テトラゾリウム)アッセイが実施されて細胞増殖が決定された。ウエスタンブロット分析を用いて、我々は上述のように処理された細胞のCOX−2含量を測定した。アッセイはDd水(20〜60ppm)がHT−29ヒト結腸癌細胞系のCOX−2遺伝子発現を強く阻害することを示した。細胞増殖実験の結果と同様に、ここでもまた、効果は濃度に依存することが証明された。図1はCOX−2遺伝子発現に対するDO濃度の効果を示す。図2はD濃度と細胞内プロスタグランジン量との間の相関を示し、これはCOX−2遺伝子発現に対するDd水の阻害効果が細胞中のプロスタグランジン濃度低下という結果を生じさせたことを確認するものである(Gabor Somlyai、Let’s defeat cancer、Akademiai Kiado発行、P.O.Box 245. H−1519 Budapest、www.akkrt.hu、ISBN 963 05 7807 6)。
【0043】
これらの結果はアレルギー患者に対するDd水の作用モードの1つがCOX−2遺伝子の阻害効果であり得ることを示唆しうる。一方、COX−2遺伝子の阻害効果は抗アレルギー効果をもたらさないことを理解されたい。この現象はかかる効果がアレルギー治療において役割を果たすものの1つであり得ることを明らかにする。
【0044】
MAPキナーゼ(ERK)のリン酸化はIL−2を介したシグナル伝達に決定的であることもまた上述した。図3は普通の水(150ppm)においてリン酸化されたバンドは誘導から2分後に現れたが、Dd水(20ppm)において、リン酸化は起こらなかったことを示す(未公開の結果)。これはDd水の適用がシグナル伝達経路に介入してILを介したシグナル伝達を阻害しうることを明確に示唆する。一方、リン酸化の阻害効果は抗アレルギー効果をもたらさないことを理解されたい。この現象はかかる効果がアレルギー治療において役割を果たすものの1つであり得ることを明らかにする。
【0045】
上で議論されたようにシグナル伝達系はアレルギー反応に対して効果を発揮するが、その方法は非常に複雑で、主に未発見である。異なるILのレベル変更に対するD濃度の効果についての試験において得られた結果(表1、実験は適格な独立した研究室でなされた)からもたらされるように、Dd水はILレベルに対して複雑な効果を持つといってもよい。しかし、アレルギー疾患の治療に対する見出された肯定的な効果は、得られた実験結果を基礎として予想できないものである(異なるILについて、主には減少した、しかし時折は上昇したレベルが見出された)。Dd水はアレルギーにおいて重要な役割を果たすILレベルに対する影響を有するというただ1つの事実が結果から推論され得る。
【0046】
下の表1〜3はサイトカイン濃度(レベル)に対するDd水の効果を要約する。滅菌水対照より有意に高い値(p≦0.05)は太字で示される。滅菌水対照より有意に低い値(p≦0.05)は太字且つイタリック体で示される。IL−8、IL−6、MCP−1及びG−CSFのレベルは現在の希釈方式では全ての群において定量するには高すぎたことに留意されたい。
【表1】


【表2】


【表3】

【0047】
重水素枯渇水の効果はまた全層の皮膚等価培養において調べられた。24時間の処置後、重水素枯渇水は培養の生存率、プロコラーゲンIcペプチド産生又はヒアルロン酸産生に対して効果を持たず、したがって毒性の作用は見出されなかった。

【実施例】
【0048】
本発明によるプロセスは保護の範囲を限定することなく、以下の実施例により実証される。
【0049】
(例1)
有利なミネラル組成物入り飲料水の生産
Dd水及び既知の塩組成物入りの天然ミネラル水(Hungarian sorts Csillaghegyi、Balfi、Obudai gyemantなど)は以下のような比率で混合される。
a)体積で0.25部の90ppmのD含量を持つ水+体積で0.75部のミネラル水、最終D濃度135ppm
b)体積で0.5部の90ppmのD含量を持つ水+体積で0.5部のミネラル水、最終D濃度120ppm
c)体積で0.75部の90ppmのD含量を持つ水+体積で0.25部のミネラル水、最終D濃度105ppm
d)体積で0.25部の60ppmのD含量を持つ水+体積で0.75部のミネラル水、最終D濃度127.5ppm
e)体積で0.5部の60ppmのD含量を持つ水+体積で0.5部のミネラル水、最終D濃度105ppm
f)体積で0.75部の60ppmのD含量を持つ水+体積で0.25部のミネラル水、最終D濃度82.5ppm
【0050】
(例2)
Dd水のカチオン及びアニオン含量は有利な塩組成物の人工濃縮物により設定される。このストック溶液は以下のような組成を持ってもよい。
KCl 5.7g
MgCl・6HO 199.65g
CaCl・6HO 236.25g
+1000mlになる量のDd水
この方法で作製されたストック溶液はMg2+が23.8mg/L、Ca2+が64.1mg/L、Kが3mg/L、Clが192mg/Lという最終濃度を与える。
【0051】
(例3)
低減されたD含量を持つ果実飲料及び炭酸飲料の生産
30ppmのD含量の蒸留水は水又は果汁濃縮物と以下のような比率で混合される。
a)体積で0.13部の30ppmのD含量を持つ水+体積で0.67部の水+体積で0.20部の果汁濃縮物、最終D濃度約128〜130ppm
b)体積で0.20部の30ppmのD含量を持つ水+体積で0.60部の水+体積で0.20部の果汁濃縮物、最終D濃度約118〜120ppm
c)体積で0.24部の30ppmのD含量を持つ水+体積で0.56部の水+体積で0.20部の果汁濃縮物、最終D濃度約111〜113ppm
【0052】
(例4)
重水素枯渇ビールの生産
ビール醸造用の麦芽の生産に用いられる大麦は最初にDd水の中に浸漬され(D濃度0.01〜135ppm)、次いで5〜15cm厚の層に広げられて、良好な通気のもと低温(5〜15℃)で麦芽にされる。長い麦芽は56から75℃の間でキルン乾燥され、次いで発芽株の残渣が除去され、麦芽は粉砕される。粉砕麦芽は適切な量のDd水(Dレベル0.01〜135ppm)に混合され、50〜75℃に維持され、次いで濾過されてホップと共に煮沸される。ホップを加えられたビール麦汁は濾過され、冷却され、次いで予め増殖されたサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)を接種される。主発酵は5〜6℃で10〜14日間続けられる。最終発酵は気密の樽の中で0℃で数週間行われる。ビールは次いで濾過され、瓶詰めされて、低温殺菌される。生産されるビールの重水素含量は主として用いられた水のD含量により決定されるが、エタノール及び他の成分のD含量にもまた影響される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.01〜135ppmの重水素含量を有する水を医薬工業において適用される通常の添加物と混合し、得られる混合物を医薬組成物に製剤化することを含む、アレルギー疾患の予防又は治療のための医薬組成物の調製のためのプロセス。
【請求項2】
0.01〜135ppmの重水素含量を有する水を食品工業において適用される通常の添加物と混合し、得られる混合物を食品組成物に製剤化することを含む、アレルギー疾患の予防又は治療のための食品組成物の調製のためのプロセス。
【請求項3】
0.01〜135ppmの重水素含量を有する水が電気分解又は蒸留により調製される、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
好ましい重水素含量が105〜130ppm又は80〜105ppmである、請求項1から3までのいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
0.01〜135ppmの重水素含量を有する水を医薬工業において適用される通常の添加物と共に含む、アレルギー疾患の予防又は治療のための医薬組成物。
【請求項6】
0.01〜135ppmの重水素含量を有する水を食品工業において適用される通常の添加物と共に含む、アレルギー疾患の予防又は治療のための食品組成物。
【請求項7】
0.01〜135ppmの重水素含量を有する水が電気分解又は蒸留により調製される、請求項5又は6に記載の組成物。
【請求項8】
重水素含量が105〜130ppm又は80〜105ppmである、請求項5から7までのいずれか一項に記載の組成物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−524057(P2012−524057A)
【公表日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−505243(P2012−505243)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【国際出願番号】PCT/HU2010/000044
【国際公開番号】WO2010/119303
【国際公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(511248308)
【Fターム(参考)】